ノーマルビュー

生命科学研究の現場におけるDXを推進

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2021年12月24日 10:25

2021年度CRESTに本学研究者1名が採択、新たな生命システムの発見を目指す

2021年9月21日、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の2021年度戦略的創造研究推進事業(CREST)の新規研究課題について、本学から1件「ありえた生体高分子ネットワークを創出するBioDOSの構築(木賀大介 理工学術院 教授)」の採択が決定しました。当該研究領域には69件の応募があり、うち6件が採択され、そのうちの1件となります。
木賀教授の提案は、深層学習AIと論理推論AIを組み合わせたBio Discovery OS(BioDOS)を構築することで、人間の認知バイアスを超えた「ありえた生命のかたち」を設計することを目指すものです。さらに、設計した遺伝子ネットワークが、種々の生物や培養条件で動作可能であることを示すことで、これまでの合成生物学と伝統的な生物学の良い関係と同様に、自然界の改めての探索による新たな生命システムの発見につながることが期待されます。

採択課題

【研究代表者】木賀 大介(理工学術院 教授)
【研究領域】データ駆動・AI駆動を中心としたデジタルトランスフォーメーションによる生命科学研究の革新
【研究課題名】ありえた生体高分子ネットワークを創出するBioDOSの構築

 

JST戦略的創造研究推進事業(CREST)とは

国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が所管する事業のひとつで、国が定める戦略目標の達成に向けて、研究総括の運営のもと課題達成型基礎研究を推進し、科学技術イノベーションを生み出す革新的技術シーズを創出するためのチーム型研究です。研究代表者は、自らが立案した研究構想の実現に向けて、産・学・官の研究者からなる複数の共同研究グループで構成される最適な研究チームを編成し、研究課題を実施します。

 

接着剤いらずの超柔軟導電接合

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2021年12月23日 16:08

接着剤いらずの超柔軟導電接合

フレキシブルエレクトロニクスの集積化に貢献

理化学研究所(理研)開拓研究本部染谷薄膜素子研究室の福田憲二郎専任研究員(創発物性科学研究センター創発ソフトシステム研究チーム専任研究員)、染谷隆夫主任研究員(同チームリーダー、東京大学大学院工学系研究科教授)、早稲田大学大学院創造理工学研究科梅津信二郎教授らの共同研究グループは、接着剤を用いずに高分子フィルム上に成膜された金同士を電気的に直接接続する技術の開発に成功しました。

本研究成果は、次世代のウェアラブルデバイスにおける配線技術や、フレキシブルエレクトロニクスの集積化に向けた、フレキシブルな実装技術への応用に貢献すると期待できます。

今回、共同研究グループは、水蒸気プラズマ[1]を用いる新しい接合技術(Water Vapor Plasma-assisted Bonding;WVPAB)を開発しました。この技術を用いると、異なる薄膜基板上の金電極同士を配線する際に、接着剤を介さず、電極同士を直接接合できます。接着剤を一切用いないため、接合部の最小曲げ半径は0.5 mm未満と非常に柔軟です。金属同士の直接接合であるため、WVPAB接合部の抵抗は0.07Ωと極めて低抵抗を達成しました。機械的耐久性も1万回の曲げで電気抵抗の変化が1%未満と優れており、かつ熱安定性にも優れ、100℃で500時間加熱しても酸化による劣化は生じず、むしろ金属結合が促進されることで、電気抵抗が8%改善しました。また、別々の薄膜基板上に作製したフレキシブルな有機太陽電池[2]と有機発光ダイオード(有機LED)[3]を、超薄型配線フィルムを介して相互接続することにも成功し、WVPABが超薄型フレキシブルエレクトロニクスシステムに応用できることを実証しました。

本研究は、科学雑誌『Science Advances』オンライン版(12月22日付:日本時間12月23日)に掲載されました。

1.背景

近年、皮膚や洋服に貼り付けて使用する次世代ウェアラブルデバイスの実用化を目指し、センサーや電源などの高性能化・薄膜化が進んでいます。電子素子を薄膜化することで、人間の皮膚が持つ複雑な曲面に対して隙間なく密着して貼り付く次世代ウェアラブルデバイスが開発できます。このようなデバイスは、身体への装着負荷を減らし、継続的な生体モニタリングが可能です。例えば、この次世代ウェアラブルデバイスとモノのインターネット(IoT)技術を組み合わせることで、自宅療養患者や二次感染の可能性がある患者との遠隔診断が実現し、医療関係者の負担軽減および救急対応の迅速化に貢献できると考えられています。

このような生体継続モニタリングに向けたウェアラブルデバイスの実用化には、個々のセンサーや電源の高性能化とともに、複数の電子素子を集積化できる配線技術・実装技術が重要です。これらの技術には、金属のような導電性とデバイスの柔軟性を損なわない十分に低い剛性の実現、さらに、デバイスの損傷を防ぐために低温のプロセスで配線することが必要です。

しかし、従来の電子素子同士の配線方法は、導電性接着剤層を介する必要があり、その接着層の厚みによって接合部の剛性が増加するという課題がありました。十分な接着力と高導電性を実現するためには、加熱・加圧工程が必要であるため、プラスチックフィルムを用いた電子素子の配線は困難でした。一方で、表面活性化接合[4]など従来の金属の直接接合技術は、接合面の許容表面粗さRMS[5]が1ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)未満と非常に高い平坦性が必須であるため、フレキシブル基板上の金属同士の接合に適応することは不可能でした。

2.研究手法と成果

共同研究グループは、2マイクロメートル(μm、1μm は100万分の1 メートル)厚の高分子材料パリレン[6]基板上に蒸着した金電極(表面粗さRMS = 約7 nm)に対して、水蒸気プラズマを照射し、大気中で金電極同士を接触させることで、金属結合が生じることを発見しました。そして、この新しい接合方法を「水蒸気プラズマ接合(WVPAB: Water Vapor Plasma-assisted Bonding)」と名付けました(図1)。

図2に、WVPABで接合した金電極の断面を走査型透過電子顕微鏡(STEM)[7]で観察した結果を示しています。上下別々の基板上に蒸着された二つの金電極の一部がWVPABによって一体化(境界線が消失)し、強固に接合していることを確認しました。

WVPABを用いて接合した薄膜サンプルと、従来接合手法の異方導電性テープ(ACF)[8]で接合した薄膜サンプルの接合部の柔軟性を比較したところ、ACF接合の最小曲率半径が1 mm以上であるのに対し、WVPABの最小曲率半径は0.5 mm未満でした。つまり、WVPABによって接合した薄膜には接着層がないため、優れた柔軟性を持つことを確認しました(図3)。

また、WVPABによる直接接合は機械的耐久性と、熱安定性にも優れていることを確認しました。曲げ半径2.5 mmで1万回繰り返し曲げた後でも、電気抵抗の変化は1%未満でした(図4(a))。大気中、100℃で500時間加熱しても電気抵抗の上昇は観察されず、むしろ金属同士の結合が促進されることで電気抵抗が8%減少することを確認しました(図4(b))。

さらに、超薄型のフレキシブルエレクトロニクスの集積化デバイスへの応用も実証しました。厚さ約3μmの超薄型有機太陽電池と超薄型有機LED、複数の超薄型配線を、WVPABにより相互接続することに成功しました(図5)。WVPABによって素子や基板に損傷は無く、実際に太陽電池に光を照射し、発電した電力で有機LEDが発光することを確認しました。この集積化デバイスは、配線や接合部を含めた全体が柔軟な超薄型のフレキシブルエレクトロニクスシステムです。

3.今後の期待

本研究によって、薄膜基板上の金電極同士を水蒸気プラズマ処理によって接合する新たな接合技術を開発しました。この技術は、大気中室温で加圧することなく、複数のフレキシブルエレクトロニクスを一つのシステムとして集積することを容易にし、従来研究の分厚い接着剤で接続されたフレキシブルエレクトロニクスシステムの柔軟性を向上させることが可能です。

本研究では金電極とパリレン基板のみを対象としましたが、この技術はプラズマ条件や接合用電極の表面粗さRMSを調整することで、幅広い素材に対応できる汎用的な集積技術となる可能性があります。次世代のウェアラブルデバイスにおけるフレキシブルな接合の実装に大きく貢献すると期待できます。

4.論文情報

タイトル:Direct gold bonding for flexible integrated electronics
著者名:Masahito Takakuwa, Kenjiro Fukuda, Tomoyuki Yokota, Daishi Inoue, Daisuke Hashizume, Shinjiro Umezu, and Takao Someya
雑誌:Science Advances
DOI:10.1126/sciadv.abl6228

5.補足説明

[1] 水蒸気プラズマ

ガス源に水を使用したプラズマ処理方法。水由来のガス雰囲気下でプラズマ処理を行うことで、処理面の還元作用が得られる。

[2] 有機太陽電池

有機半導体を光電変換層として用いた太陽電池のこと。塗布プロセスによる大量生産が適用できると同時に、安価かつ軽量で柔らかいことから次世代の太陽電池として注目を集めている。

[3] 有機発光ダイオード(有機LED)

OLEDや有機ELとも呼ばれる。有機半導体を光電変換層として用いた発光ダイオード。塗布プロセスによる大量生産が適用できると同時に、軽量で柔らかい特徴をもつ。

[4] 表面活性化接合

真空中室温で金属結合を生じさせる直接接合方法。真空中で中性子ビームやアルゴンビームエッチングを用いて接合表面に付着している有機物や酸化膜、吸着した水などを除去し、活性化エネルギーの高い状態で接合面を接触させると、常温で強固な接合を得ることが可能。

[5] 表面粗さRMS

Root-Mean-Squareの略。二乗平均粗さ。凹凸の平均線からのプロファイルの高さの偏差の二乗平均値。

[6] パリレン

高分子材料の一種。化学気層堆積法によって良質の均一薄膜が形成できる。生体適合性に優れているため、さまざまな生体・医療用途に応用されている。

[7] 走査型透過電子顕微鏡(STEM)

透過型電子顕微鏡の一種。試料組成に関するコントラストを強く反映できることから、組成情報を得たい場合、透過型電子顕微鏡よりもSTEMが優れている。また走査型のため透過型電子顕微鏡よりも厚みのある試料の測定にも向いている。STEMはScanning Transmission Electron Microscopyの略。

[8] 異方導電性テープ(ACF)

不導体である熱硬化性樹脂を接着剤として、その中に導体の粒子が分散している構造を持つ。電極と電極の間に挿入し、熱と圧力を加えることで、導体粒子を介した電気的なパスが形成されることで、導通が形成される。ACF はAnisotropic Conductive Filmの略。

共同研究グループ

理化学研究所

開拓研究本部 染谷薄膜素子研究室

専任研究員 福田 憲二郎(ふくだ けんじろう)(創発物性科学研究センター 創発ソフトシステム研究チーム 専任研究員)

主任研究員 染谷 隆夫(そめや たかお)(創発物性科学研究センター 創発ソフトシステム研究チーム チームリーダー、東京大学 大学院工学系研究科 教授)

創発物性科学研究センター

創発ソフトシステム研究チーム

研修生 髙桑 聖仁(たかくわ まさひと)(早稲田大学大学院 創造理工学研究科 総合機械工学専攻 博士課程1年)

物質評価支援チーム

チームリーダー 橋爪 大輔(はしづめ だいすけ)

専門技術員 井ノ上 大嗣(いのうえ だいし)

早稲田大学

大学院 創造理工学研究科 総合機械工学専攻
教授 梅津 信二郎(うめず しんじろう)

東京大学

大学院工学系研究科 電気系工学専攻
准教授 横田 知之(よこた ともゆき)

研究支援

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金新学術領域「ソフトロボット学の創成:機電・物質・生体情報の有機的融合」のうち「弾性グラディエントナノ薄膜を利用した自由変形可能な太陽電池の創成(研究代表者:福田 憲二郎)」、JSPS特別研究員奨励費「水蒸気プラズマを用いた超柔軟な導電接合技術の開発(研究代表者:髙桑聖仁)」、科学技術振興機構(JST)研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)「ウルトラフレキシブル有機太陽電池の開発 (研究代表者:福田憲二郎)」、早稲田大学理工学術院総合研究所若手研究者支援事業(アーリーバードプログラム)「薄膜金電極同士の直接接合によるフレキシブル配線の低接触抵抗化とノイズ増加の抑制(研究代表者:髙桑聖仁)」による支援を受けて行われました。

破壊的イノベーションにつながるシーズの創出に向けて

著者: contributor
2021年12月23日 16:02

2021年度の創発的研究支援事業に5件が採択

国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が募集した2021年度の創発的研究支援事業に、本学から5件の研究課題が採択されました。全国的には、応募総数2,314件に対し、259件が採択されており、採択率は約11%という結果となりました。昨年度採択の2件と合わせて7件の研究課題について、これを推進する研究者の挑戦を支援してまいります。

2021年度 採択者一覧

  • 早水 桃子(理工学術院 基幹理工学部 応用数理学科 講師)
    【研究課題名】離散数学と統計科学の融合による生命科学データ解析の技術革新
  • 柳谷 隆彦(理工学術院 先進理工学部 電気・情報生命工学科 准教授)
    【研究課題名】電池レス無線給電デバイス用の新規3次元配向圧電薄膜の創製
  • 畠山 歓(理工学術院 先進理工学部 応用化学科 講師)
    【研究課題名】プロセスに強いMIの創出と複合材料系での実践
  • 細川 正人(理工学術院 大学院先進理工学研究科 生命医科学専攻 准教授)
    【研究課題名】大規模1細胞ゲノムから設計する微生物叢の戦略的制御
  • 布山 美慕(人間科学学術院 人間科学部 人間情報科学科 講師)
    【研究課題名】量子確率を用いた不定な文章理解とその効果の認知研究

 

JST創発的研究支援事業とは

2020年度に設立され、特定の課題や短期目標を設定せず、多様性と融合によって破壊的イノベーションにつながるシーズの創出を目指す「創発的研究」を推進するため、研究者がその研究に専念できる環境を確保することを含め、原則7年間(途中ステージゲート審査を挟む、最大10年間)にわたり長期的に支援する事業です。創発を促進するため、異分野研究の理解と融合研究を目的とした「創発の場」を設け、将来の発展的な研究構想を描いたり、チーム型研究の発足等に資するネットワーク構築が促されたりすることを目指します。

 

光と原子の位相を分離した測定に成功

著者: contributor
2021年12月2日 11:52

アト秒レーザーで光と原子の位相を分離した測定に成功

発表のポイント

  • アト秒レーザー光を用いた新たな測定法により、光の位相と原子の位相を分けて測定した。
  • 電子の干渉による重なりを分離して、個別の複素数の波動関数イメージを得ることに成功。
  • 極端紫外(EUV)領域のアト秒・超短レーザー分光など光量子技術の発展、新規な量子力学計算法の発展、光によって機能する物質や生体分子の開発に寄与することが期待される。

概要

早稲田大学理工学術院新倉 弘倫(にいくら ひろみち)教授とカナダ国立研究機構の研究者らは、アト秒レーザー光を用いた二次元アト秒測定法により、光のスペクトル位相と原子由来の位相とを分けて測定し、重なり合っていた電子波動関数を分離してイメージングすることに成功しました。この測定方法や解析法は、アト秒領域での固体物理分野などの研究の発展につながり、新しい量子工学技術や光計測技術などの分野での活用も期待されます。

本研究成果は、アメリカ物理学会発行の『Physical Review A』に、“Complete characterization of attosecond photoelectron wave packets” として、2021年11月23日(火)にオンラインで公開されました。

(1)これまでの研究で分かっていたこと

物質に光を照射すると、光の波長や強度に応じて、エネルギーが高い状態(励起状態)や、電子が物質から飛び出す過程(イオン化)が生じます。放出された電子は波としての性質をもつため、振幅と位相の両方の情報からなる複素数の波動関数であらわされます。どれくらいの数の電子が、どのようなエネルギーをもってどの方向に飛び出すのかは光電子分光法により測定され、物質内部の状態などの研究に用いられています。一方、従来の光電子分光法や光吸収スペクトル法などで測定される信号強度は、その自乗(実数)に相当するため、「位相情報」の測定が困難でした。

21世紀に入って発達したアト秒(1アト秒1×10-18秒)科学は、優れた時間分解能だけではなく、電子などの位相を測定する方法を拓きました。アト秒科学には、再衝突電子を用いた方法と、アト秒レーザー光※1を用いる方法との、二つの方法があります。アト秒レーザー光で光電子の位相を測定するためには、複数のイオン化過程により生成した、光電子の波動関数の干渉を利用します。しかし、干渉により得られる光電子の「位相」は、(1)アト秒レーザー光のスペクトル位相(spectral phase)と、原子に由来する位相(atomic phase)とが重なっている、(2)さらに原子位相は、複数のイオン化の過程ごとに異なる角度分布を持つ電子の波動関数(f-波、p-波などの部分波)の位相が重なっている、という問題があり、直接、理論計算と比較可能な位相の値を求めることは困難でした。そこで、これらの絡み合った位相を分離した測定が必要でした。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

アト秒レーザー光のスペクトル位相と原子由来の位相とを分離し、かつそれぞれのイオン化過程で生じた、異なる角度分布を持つ電子の波(波動関数、部分波)ごとの原子位相を決定しました。得られた原子位相と振幅の値から、干渉の結果として重なっていた電子波動関数を、個々のイオン化過程により生成した電子波動関数に分離することに成功しました。

(3)そのために新しく開発した手法

3-1. 二次元アト秒測定法

アト秒再衝突電子法と、アト秒レーザー光によるイオン化法とを組み合わせ、さらに「二次元アト秒測定法」を開発しました。装置系は早稲田大学51号館の新倉研究室で構築されたものです。まず高強度の赤外レーザー光(800nm, w)とその二倍波(400nm, 2w)をアルゴンガスに集光し、奇数次と偶数次とを持つ極端紫外領域のアト秒レーザー光(アト秒パルス列)を発生させます。発生したアト秒レーザー光と、赤外レーサー光とを組み合わせて試料となるネオンガスに再度集光し、イオン化により放出された光電子の運動量分布(どの角度に、どのエネルギーで電子が放出されるか)を測定しました。ここで、二つの制御可能な「アト秒時間差」があります。ひとつは(a)アト秒レーザー光の発生に使用する800nmと400nmの時間差(時間差A)、もうひとつは(b)アト秒レーザー光と赤外レーザー光の時間差(時間差B)です。これらの二つの時間差を独立に50アト秒以下の精度で安定に変えることができます(1000アト秒=1フェムト秒(fs))。

3-2. 奇数次および偶数次の高調波を持つアト秒レーザー光のスペクトル位相測定

本研究では、アト秒レーザー光の13次・14次・15次高調波と、赤外光による三つのイオン化過程の干渉を利用しました※2。アト秒レーザー光のスペクトル位相は、これらの高調波の次数ごとに、少しずつずれています。まず「800nmのみでアト秒レーザー光を発生したときに対応する、高調波の次数ごとの位相のずれ」を、再衝突電子を用いた方法の一つであるw-2w法(N. Dudovich et al., Nature. Phys. 2, 781 (2006))を組み合わせて測定しました。時間差Aの関数として、アト秒レーザー光のスペクトル強度を測定すると、スペクトルのピークがシフトします。このシフトからスペクトル位相が見積もられます。一方、今回の研究で用いた「800nmに400nmを加えた光でアト秒レーザー光を発生させた場合のスペクトル位相」は、さらにこれから少しずれたものになります。そこでその「位相ずれ」を次の方法で測定しました。

はじめに800nmと400nmの相対時間差Aを0に固定し、その状態でアト秒レーザー光を発生します。時間差Aを固定したまま、赤外光と重ね合わせ、アト秒レーザー光と赤外光との時間差Bを変えて、放出された光電子の運動量分布(角度分布)の変化を測定しました(右下図)。その結果、角度分布は時間差Bの1.33フェムト秒ごとに、互い違いになっていました(下図(a))。これはアト秒レーザー光と赤外光とによって生成した電子の干渉が変化したことによります。角度分布の時間差Bによる変化から、それぞれのイオン化過程ごとに、重なっている電子の波(f-波・p-波などの部分波)の位相を分離して求めました。

次に時間差Aを585アト秒だけずらして同様の測定を行うと、光電子の角度分布は逆になり(下図(b))、各部分波の位相はpだけずれることがわかりました。これは時間差Aを変えたことによる、アト秒レーザー光のスペクトル位相の変化によるものです。同様に、時間差Aをいくつか変えて、電子の各部分波の位相がどのように変化するのかを測定し、それからスペクトル位相の変化量を見積もりました。その結果、13次高調波と14次高調波は1.4ラジアン、14次高調波と15次高調波は1.6ラジアンだけスペクトル位相がずれていることが分かりました。これらの値を差し引き、三つのイオン化過程ごとにf-波、p-波などの部分波の原子位相を得ました。なお、位相を時間に変換すると、1.4ラジアンは約600アト秒に相当します。

3-3. イオン化過程ごとの電子波動関数イメージ

得られた各部分波の原子位相の値と振幅から、三つのイオン化過程で生成した電子波動関数を個別に再構成しました。過程1は13次高調波と赤外の吸収(H13+IR)、過程2は15次高調波と赤外光の放出(H15-IR)、過程3は14次高調波それぞれによってイオン化により放出された電子波動関数で、複素数のため、実部と虚部にわけて表示しています。ここで、過程1と過程2はともにアト秒レーザー光と赤外光との2光子過程ですが、イオン化の過程が異なるために、生成する電子波動関数の位相が異なっていることがわかりました。このように、(a)スペクトル位相と原子位相とをわけて、(b)f-波やp-波などの部分波の原子位相を求め、それらの値を用いて再構成することにより、(c)干渉の結果、重なっていた電子波動関数を個々のイオン化過程によって生成した波動関数に分離することができました。図の縦軸と横軸は原子単位(atomic unit)での運動量で、「運動量空間での」イオン化状態の電子波動関数イメージに相当します。

(4)研究の波及効果や社会的影響

本研究で測定した電子の部分波の「原子位相」は、光イオン化過程における「遷移双極子モーメント」という物理量の「位相」に相当します。遷移双極子モーメントは光と物質の相互作用にかかわる基本的な複素数の物質量で、物質の波動関数と関係があり、様々な量子化学的計算などで計算されます。しかし、多電子の相互作用が顕著な場合や、速い化学反応が生じる場合には、現在のコンピューターでも、特に位相の正確な計算が困難になります。そこで遷移双極子モーメントの位相と振幅を実験的に得ることができれば、多電子系やレーザー電場中での量子計算方法の発展や、改良につながることが期待されます。例えば分子からの発光や光に対する応答は、緑色蛍光タンパク質などの生物学分野でも重要な役割を果たしていますが、その発光効率の改善や、光遺伝学などにおける新規な制御過程の開発にもつながりうると期待されます。

また本研究では、「2波長を用いてアト秒レーザー光を発生させたときに、そのスペクトル位相がどうなるのか?」について気相で実測したものです。近年では、Vampa et al., Nature 522, 462 (2015)のように、この方法は固体物理で大きく展開されています。本研究で開発した「二次元アト秒測定法」や解析方法などは、アト秒領域での固体物理分野の研究や、光量子測定技術の発展につながるものとも期待されます。

(5)今後の課題

本研究では、特定の波長のみから生じる過程を取り扱いましたが、波長を変えて多くの原子や分子などに適用することや、固体からの光電子分光法や顕微分光法に適用することが今後の課題、方針になります。この場合は、角度分解でより広い範囲でエネルギーを選択できる専用の光電子分光器が必要になります。

(6)研究者からのコメント

光や、電子のような量子的な物質では、波としての性質が重要になります。特にその「位相」情報は、一般に古典的な検出器にあたると消えてしまうため、また複数の様々な位相成分が重なるために、その測定や解析には工夫が必要でした。このような「位相問題」は、光・量子的な測定にはつきものです。今回、アト秒レーザー光を用いて、「どのように個々の遷移過程により生成した電子の位相と振幅を測定するのか」を示しましたが、量子力学の本質である、電子の位相を測定するというアト秒科学の特質を表した研究だと思います。

(7)用語解説

※1 アト秒レーザー光・スペクトル位相
高強度の赤外のレーザー光を気相の原子などに集光すると、その赤外光の波長よりも短い波長の光(極端紫外~軟X線)が発生します。今回使用した、アト秒レーザーパルスがいくつか連続して発生する「アト秒パルス列」(高次高調波とも呼ばれます)では、そのスペクトルには、赤外レーザー光のエネルギー(800 nmの場合は1.55eV)の奇数次倍の高調波によるピークが現れます。例えば11次高調波(11X1.55 eV = 17.0 eV (~73 nm))、13次高調波(13 x  1.55eV = 20.15 eV (~ 61 nm))、15次高調波、と飛び飛びになります。次に800nmの光に400nmを混ぜてアト秒レーザー光を発生すると、奇数次だけではなく、14次高調波(14 x 1.55eV =2 1.7 eV(~57nm))など、偶数次の高調波も発生します。これらの異なる次数(エネルギー・波長)の高調波は、一般にその位相が同じではなく、アト秒単位でずれています。そのずれのことを「スペクトル位相」と言います。もともとの光のスペクトル位相がずれているので、それを用いてイオン化により生成された光電子の位相も、その「位相のずれ」が加味されたものになります。

※2 三つのイオン化過程
電子(波動関数)の位相を測定するには、電子同士の干渉を利用します。2001年に提案・実証された方法(P.M. Paul et al., Science 292, 1689 (2001))では、奇数次のみの高調波を持つアト秒レーザー光を用いて、二つの過程の干渉を作り出しますが、その場合は電子の角運動量成分ごとに位相をわけることが困難でした。そこで本研究では、奇数次と偶数次を持つアト秒レーザー光を使い、「三つのイオン化過程」を利用することで、それぞれの過程およびf-波、p-波などの角運動量成分ごとの電子波動関数(部分波)の位相と振幅を分離しました。この方法は、2017年に本研究者らが発表したものです(D. Villeneuve et al., Science 356, 1150 2017)。また、赤外レーザー光の強度とアト秒レーザー光の波長を調整し、特定の磁気量子数m=0のみを量子制御により選択しています(S. Patchkovskii et al.,J. Phys. B 53,134002 (2020))。過程1(13次高調波+赤外[H13+IR])ではf-波とp-波、過程2(13次高調波―赤外[H15-IR])では、過程1とは振幅と位相が異なるf-波とp-波、そして過程3(14次高調波)ではs-波とd-波が生じます。イオン化により放出された電子波動関数は、これらの部分波の重ね合わせになっています。14次高調波で、H13+IR, H15-IRとは異なる対称性を持つ電子の波を重ねあわせることにより、角運動量ごとの部分波の位相を求めることが可能になります。なお2017年の結果は、スペクトル位相と原子位相とが重なっていますので、今回はさらにそれを分離し、理論計算と比較しうる原子位相の値を求めたものです。

(8)論文情報

雑誌名:Physical Review A104, 053526 (2021).(アメリカ物理学会誌)
論文名:Complete characterization of attosecond photoelectron wave packets
執筆者名(所属機関名):D.M.Villeneuve (National Research Council of Canada & University of Ottawa), Peng Peng (National Research Council of Canada & University of Ottawa & ShanghaiTech University), Hiromichi Niikura (Waseda University)
*責任著者
掲載日時(オンライン):2021年11月23日(火)
掲載URL: https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevA.104.053526
DOI: 10.1103/PhysRevA.104.053526

(9)研究助成

研究費名:科学研究費補助金 基盤研究A 18H03903
研究課題名:アト秒位相分解波動関数イメージング法による新規な量子選択性の研究
研究代表者名(所属機関名):新倉弘倫(早稲田大学)

金属3Dプリンティングの熱変形を低減

著者: contributor
2021年11月9日 16:53

最適設計により金属3Dプリンティングの熱変形を低減させる手法を開発

発表のポイント

  • 金属3Dプリンティングは成形品が熱変形により大きく反るという問題点がある。
  • 造形対象の内部に中空構造を最適設計し、形成することによって、金属3Dプリンティングの熱変形を低減することに成功した。
  • 本手法は、熱変形の影響を大きく受ける大型構造物の成形に活用されることが期待される。

早稲田大学理工学術院の竹澤 晃弘(たけざわ あきひろ)准教授らの研究グループは、金属3Dプリンティングにおける熱変形を低減させる手法を開発しました。
近年、次世代の加工技術として金属3Dプリンティングが注目を集めており、試作のみならず量産最終製品にも使用されるようになっています。しかし、金属3Dプリンティングは成形品が熱変形により大きく反るという問題点があります。本研究では、造形対象の内部にラティス構造※1と呼ばれる中空構造を最適設計し、形成することによって、金属3Dプリンティングの熱変形を低減することに成功しました。
現在金属3Dプリンティングによって、ロケットノズルのような大型成型品の開発も試みられていますが、成形品が大型化されるほど、熱変形の問題も深刻になります。本研究の熱変形低減手法はこのような問題を解決し、より大型の構造物の成形において活用されることが期待されます。
本研究成果は、2021年11月6日(土)にエルゼビア社の『Additive Manufacturing』のオンライン版で公開されました。

論文名:Optimally Variable Density Lattice to Reduce Warping Thermal Distortion of Laser Powder Bed Fusion.

(1)これまでの研究で分かっていたこと

近年、次世代の加工技術として金属3Dプリンティングが注目を集めており、試作のみならず量産最終製品にも使用されるようになっています。しかし、金属3Dプリンティングには成形品が熱変形により大きく反るという問題点があります。最も普及している金属積層造形法であるレーザー式粉末床溶融法では、薄く敷き詰めた金属粉をレーザーで溶融凝固させるというプロセスを繰り返し、三次元構造を形成しますが、溶融凝固した箇所には大きな収縮ひずみが生じそれが反りの原因となります(図1参照)。

このような熱変形の対策としては、造形時に予備加熱をして溶融時と冷却時の温度差を小さくするというハードウェア的アプローチと、レーザーの走査パスを工夫するというプロセス的アプローチが知られています。しかし近年、その二つに加え、造形対象やサポートの形状を工夫することで熱変形が低減できることがわかってきました。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

今回の研究では、造形対象の内部にラティス構造と呼ばれる中空構造を最適設計し、形成することによって、金属3Dプリンタの熱変形を低減することに成功しました。図2は最適なラティス構造と、均一に分布したラティス構造とで反り量を比較した結果です。基本的には内部を疎にすれば変形は低減されるのですが、最適なラティス構造はそれを超えた低減効果を示しています。

図2 熱変形低減のための(a)最適ラティス構造と(b)造形した試験片と(c)反りの計測結果

(3)そのために新しく開発した手法

金属3Dプリンティングの熱変形を近似的に求める手法として、固有ひずみ法が提案されています。本来、固有ひずみ法は日本の造船分野で開発された、溶接変形を近似的に導出する手法ですが、近年金属3Dプリンティング用に盛んに改造が進められています。本研究では、ラティス構造の最適化に用いることを前提に、漸化式で表現した新たなシンプルな固有ひずみ法を開発しました。更に、良く知られているトポロジー最適化※2のアルゴリズムを活用し、熱変形の低減を目的としてラティスの粗密分布を最適に決定する手法を開発しました。

(4)研究の波及効果や社会的影響

金属3Dプリンティングの利点である複雑形状の造形が可能である点を生かし、従来は複数の部品に分かれていた製品を一体成型し、トータルの製造コストや信頼性、性能を向上させるという試みが成されています。極端な例では、ロケットノズルの一体成型等も試みられています。しかし、成形品が大型化されるほど熱変形は深刻になるため、熱変形の対策は不可欠です。本研究のような熱変形低減手法はこの問題を解決し、金属3Dプリンティングにおいて、より大型構造の成形を可能にするものです。将来的にはあらゆるものが金属3Dプリンタで作られるかもしれません。

(5)今後の課題

既存の代表的な熱変形低減手法としては、造形時に予備加熱をして溶融時と冷却時の温度差を小さくするというハードウェア的アプローチと、レーザーの走査パスを工夫するというプロセス的アプローチの二つがあります。本研究で開発した手法は、それらとは全く異なるメカニズムの手法です。すなわち、開発した手法を既存の二つの手法と併用すれば相乗効果で更に優れた熱変形低減効果が得られる期待があります。

(6)研究者のコメント

3Dプリンティングの性能向上においては、装置や材料自体の研究はもちろん大切ですが、どのようなものを作るかという設計に関する研究も極めて重要です。このような3Dプリンティングのための設計工学は近年Design for Additive Manufacturing(DfAM)と称され、海外では盛んに研究されています。本研究が日本発のDfAM技術として3Dプリンティング業界の発達に貢献できればと考えております。

(7)用語解説

※1 ラティス構造
3Dプリンタで作成する、内部に空孔を設けた構造のこと。空孔を任意に分布させることにより、様々な特性を実現できる。

※2 トポロジー最適化
数値計算により最適な形を自動で導出する構造最適化法の一種。

(8)論文情報

雑誌名:Additive Manufacturing(エルゼビア社)
論文名:Optimally Variable Density Lattice to Reduce Warping Thermal Distortion of Laser Powder Bed Fusion.
執筆者名(所属機関名):竹澤 晃弘(早稲田大学)、Qian Chen(ピッツバーグ大学、米国)、Albert C. To(ピッツバーグ大学、米国)
掲載日:2021年11月6日
掲載URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2214860421005741
DOI:https://doi.org/10.1016/j.addma.2021.102422

(9)研究助成(外部資金による助成を受けた研究実施の場合)

研究費名:A-Step シーズ育成タイプ
研究課題名:振動低減ラティス構造の生産性向上に関する研究
研究代表者名(所属機関名):宮内 勇馬(マツダ株式会社)

高温超伝導の隠れた起源を明らかに

著者: contributor
2021年11月9日 16:51

人工ニューラルネットワークで明らかになった高温超伝導の隠れた起源

NIMS、京都大学、早稲田大学、豊田理化学研究所からなる研究チームは、新たに光電子分光データから人工ニューラルネットワーク(ANN)を活用して『自己エネルギー』と呼ばれる物理量を取り出す手法を開発し、高温超伝導解明の鍵となる引力の痕跡を発見しました。

概要

  1. 国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)、京都大学、早稲田大学、豊田理化学研究所からなる研究チームは、新たに光電子分光データから人工ニューラルネットワーク(ANN)を活用して『自己エネルギー』と呼ばれる物理量を取り出す手法を開発し、高温超伝導解明の鍵となる引力の痕跡を発見しました。当該成果は今後、実験科学だけでは解決が困難な問題を解く革新的手法へと発展することが期待されます。
  2. 低温超伝導体では、電子の運動の履歴を示す自己エネルギーから、超伝導状態の形成に必要な電子のペア(クーパー対)を生み出す引力の存在が実験的に証明されました。しかしながら、銅酸化物高温超伝導体については、高い転移温度に見合う強い引力の痕跡が長年見つかっていませんでした。
  3. 今回、研究チームは、理論方程式(エリアシュベルグ方程式)を用いて実験データを再現し説明する従来の方法に代わって、あらゆる関数を表現できる ANN を用いた機械学習を考案し、銅酸化物高温超伝導体について、実験データを精密に再現する2 成分の自己エネルギーを決定することに成功しました。自己エネルギーには『正常成分』と『異常成分』の2成分があり、後者に引力の痕跡が含まれていることがわかっています。得られた自己エネルギーの解析から、2つの成分に現れる強い電子間の散乱(正常成分)と強い引力(異常成分)の影響が、実験データでは見かけ上相殺するために隠れてしまい、引力の痕跡が観測されなかったことがわかりました。また、異常成分のさらなる解析から、
    強い引力が低温超伝導のような原子振動では説明できないことがわかりました。今回得られた成果は、高温超伝導の起源を解明する重要な手掛かりになります。
  4. 今後は、今回開発された実験データ解析手法を様々な物質に適用し、より高い超伝導転移温度を示す物質の設計に活かしていくことを目指します。また、これまでANN が活用されてきた機械学習では、多数のデータによる学習から未知のデータ予測を行うことが主流でした。今回得られた成果を嚆矢として、少数データから隠れた物理量を抽出する機械学習観測手法の確立を目指していきます。
  5. 本研究は、NIMS エネルギー・環境材料研究拠点 界面計算科学グループの山地洋平主任研究員と京都大学大学院人間・環境学研究科 吉田鉄平 教授、早稲田大学理工学術院 藤森淳 客員教授、豊田理化学研究所/早稲田大学理工学術院 今田正俊 フェロー/研究院教授からなる研究チームによって行われました。また、本研究はJST さきがけ、JSPS 科学研究費助成事業、文部科学省「富岳」成果創出プログラムおよびポスト「京」重点課題の支援を受けています。
  6. 本研究成果は、米国物理学会Physical ReviewResearch 誌オンライン版に2021 年11 月8 日付で公開されました。

研究の背景

1986 年の発見以来、銅酸化物高温超伝導体(1)がなぜ液体窒素温度を超える高い超伝導転移温度(最大135K)を示すのかという謎が、固体中の多数の電子の振る舞いを観測する実験手法、その振る舞いを理解するための理論手法の発展を牽引し、物質科学の進歩に大きな影響を与えてきました。

そもそも超伝導が発現するためには、2個の電子になんらかの引力が働いてクーパー対と呼ばれる電子対を形成する必要があると考えられています。多くの金属では引力は弱く、熱ゆらぎによって容易にクーパー対が破壊されるため、低温でのみ超伝導が現れます。カマリン・オンネスが1911 年に観測した水銀の超伝導転移温度は、4.2K という液体ヘリウムによる冷却が必要となる低温でした。

引力が働くとその痕跡が観測量に現れることが期待されます。実際、従来型の低温超伝導体では、その痕跡がトンネル効果を用いた電子観測によって1960 年代に見つかり、BCS 機構(2)と呼ばれる低温超伝導発現のメカニズムの解明に大きく貢献しました。

高温超伝導では高い転移温度に見合う強い引力が働いていると考えられ、引力の強さに見合ったより強い痕跡が観測量に現れることが期待されます。しかし銅酸化物高温超伝導では、高い転移温度に見合う強い引力の痕跡が長年観測されず、強い引力を捉える研究手段の開発が望まれてきました。

研究内容と成果

今回、共同研究チームは、光電子分光(3)実験のデータから、人工ニューラルネットワーク(ANN)(4)を用いることで、『自己エネルギー(5)』と呼ばれる物理量の抽出を行いました。

自己エネルギーには、電子が他の電子や固体中のイオンから受ける相互作用(電子間散乱等)によって影響を受けた履歴を示す「正常成分」と、超伝導電子対を組んだり、電子対を解消したりしてきた履歴を記述する「異常成分」と呼ばれる2つの成分があります。異常成分を取り出すことができれば、超伝導を引き起こした引力の性質とメカニズムに迫ることができます。

一方、光電子分光実験を始めとするほとんどの実験では、特定の運動量とエネルギーを持つ電子がどれくらいの頻度で固体中に存在するかという1成分の情報のみが得られます。そこから2成分の自己エネルギーを取り出すには、少ない既知の情報から、より多くの情報を推定する劣決定問題(6)を解く必要があります。低温超伝導体の場合には、BCS 理論(2)、およびそれを発展させた南部理論ならびにミグダル-エリアシュベルグ理論(7)を用いることで、情報の不足を補うことができました。一方で、銅酸化物高温超伝導体については、そのような手法が通用せず、長年の難問となっていました。

困難を回避するために、直感的で理解しやすい「自己エネルギー・モデル」がしばしば導入されてきましたが、モデルの埒外の現象が起こっている可能性を排除できませんでした。

研究チームは、より普遍的に確立している複数の物理法則(8)を取り入れ、足りない情報を補いました。さらに未知の高温超伝導体の自己エネルギーをあらゆる関数を表現できるANN で記述して、機械学習を行うことでこれまでの困難を克服しました。複数の物理法則を満たすようにANN を制御しながら、高温超伝導体の実験データを再現するようにANN の学習を行い、最適な解を探索しました。人間が直感的に取り入れることが難しい条件下で解の探索を自動的に行えることが機械学習の強みです。さらに機械学習の妥当性の検証を行い、結果として、2成分の自己エネルギー(正常及び異常成分)を1つの分光データから同時に抽出することが可能になりました。ANN を用いることで、より精密に実験データを再現することが可能になっただけでなく、未知の現象に迫ることが可能になりました。

上記2成分を同時に抽出することで、今回新たに、これら正常成分(に含まれる強い電子間の散乱)と異常成分(に含まれる電子対を作る強い引力)による寄与が見かけ上互いに打ち消し合うために、高い超伝導転移温度を導く強い引力の痕跡が検知できないでいたことが明らかになりました。得られた異常成分の構造は超伝導解明の直接の手掛かりになります。

本研究はJST さきがけ(JPMJPR15NF)、日本学術振興会科学研究費助成事業基盤研究(S)「強相関物質設計と機能開拓―非平衡系・非周期系への挑戦―」、文部科学省「富岳」(9)成果創出加速プログラム「量子物質の創発と機能のための基礎科学 ―「富岳」と最先端実験の密連携による革新的強相関電子科学」(JPMXP1020200104)およびポスト「京」重点課題(7)「次世代の産業を支える新機能デバイス・高性能材料の創成」サブ課題C「超伝導・新機能デバイス材料」の一環として実施されたものです。また、本研究はスーパーコンピュータ「富岳」の計算資源による支援を受けています(課題番号:hp180170, hp190145、hp200132、hp210163)。

今後の展開

今回開発した実験データの解析手法を様々な物質に適用し、より高い超伝導転移温度を示す物質を設計するための指針が得られるようになると考えられます。また、これまでANN が活用されてきた機械学習においては、多数のデータによって訓練を行い、未知のデータを予測することや、望んだ性質の物質候補の絞り込みが主流でした。今回得られた成果を嚆矢として、今後、少数データから隠れた物理量を抽出し、機構や新たな概念を発見するなど基礎科学の根本問題のための機械学習観測手法が発展していくと期待されます。

掲載論文

題目:Hidden self-energies as origin of cuprate superconductivity revealed by machine learning
著者:Youhei Yamaji, TeppeiYoshida, Atsushi Fujimori, and Masatoshi Imada
雑誌:Physical Review Research
掲載日時: 2021 年11 月8 日

用語解説

(1) 銅酸化物高温超伝導体:

1986 年のベドノルツとミューラーの発見に端を発し研究されてきた超伝導物質群。現在、大気圧下で最も高い温度で超伝導状態になることが知られています。高価で希少な液体ヘリウムではなく液体窒素による冷却で超伝導状態を得ることができるため、基礎研究と応用研究の両面から注目を集めてきました。銅と酸素原子を含む2次元層と様々な元素を組み合わせることで超伝導転移温度を始めとする性質が制御でき、電力損失の少ない導線として開発が進んでいます。

(2) BCS 機構およびBCS 理論:

1911 年にカマリン・オンネスが発見した水銀の超伝導に始まる、液体ヘリウムによる冷却が必要な低温超伝導体における超伝導の発現機構とそれを説明した理論。1957 年にバーディーン、クーパー、シュリーファーの3氏によって提唱され、結晶固体の量子化された振動によって電子が対を組み超伝導状態となることを示しました。

(3) 光電子分光:

物質に光を当てると電子が飛び出してくるアインシュタインの光電効果を利用して、固体中の電子を、運動量やエネルギーごとに分けて観測する実験手法。

(4) 人工ニューラルネットワーク:

元々は脳が学習を行う機能を研究するために提案された関数。高度な人工ニューラルネットワークはどんな複雑な関数をも表現できるため、現在では機械学習でよく用いられています。

(5) 自己エネルギー:

多数の量子力学的な粒子の運動を記述する際に用いられる関数。一つの粒子が、他の粒子から受けた相互作用の履歴を記録したもので、超伝導ではない状態でも存在する正常成分と、超伝導状態にだけ存在する異常成分があり、その総和が実験データに反映されます。

(6) 劣決定問題:

少ない情報から多くの情報を推定する問題。最もよく知られている劣決定問題の例は、未知の変数の数より、方程式の数が少ない連立方程式です。

(7) 南部理論、ミグダル-エリアシュベルク理論:

BCS 理論をより深め、超伝導を引き起こす引力や自己エネルギーを始め、低温超伝導における観測量の精密予測を可能とした理論。対象物質の情報を入力データとして、エリアシュベルグ方程式と呼ばれる理論方程式を解くことで、様々な超伝導物質の性質を予測できます。南部博士が提唱した自発的対称性の破れが素粒子の質量を作り出すという画期的なアイデアは、この理論の成立過程で育まれたと言われています。

(8) ここで用いられた普遍的な物理法則:

本研究では、因果律によって定まる自己エネルギーの構造と、引力の強さに上限があることなどを用いています。

(9) スーパーコンピュータ「富岳」:

スーパーコンピュータ「京」の後継機として理化学研究所に設置された計算機。令和2 年6 月から令和3 年6 月にかけてスパコンランキング4 部門で1 位を3 期連続で獲得するなど、世界トップの性能を持つ。令和3 年3 月9 日に本格運用開始。

第14回 三菱マテリアル・早大理工学術院 産学連携セミナー 「環境調和的なサステナブル社会を目指した材料技術」11/19 オンライン開催

著者: contributor
2021年11月3日 14:48

主催:三菱マテリアル-早大理工学術院産学連携協議会、早稲田大学理工学術院
共催:早稲田大学各務記念材料技術研究所

テーマ 「環境調和的なサステナブル社会を目指した材料技術」

2008年に三菱マテリアル株式会社と産学連携に係る包括協定を締結して以来、その活動の一環として、毎年ホットなテーマで連携セミナーを開催して参りました。14年目を迎えた本年度は、「環境調和的なサステナブル社会を目指した材料技術」をテーマとして以下の通り開催いたします。

1.日時

2021年11月19日 (金)  14:00~16:10

2.会場

オンライン開催(Zoomウェビナー)

3.プログラム

時間 講座題目等 講師等(敬称略)
14:00-14:05 開会挨拶 早稲田大学 理工学術院
連携協議会 早稲田側メンバー
教授 山﨑 淳司
14:05-14:45 「グリーンイノベーションとサステイナブル社会を実現しうる触媒材料と反応の現状と今後」 早稲田大学 理工学術院
先進理工学部 応用化学科
教授 関根 泰
14:45-15:25 「日本で実現されるカーボンニュートラル社会を推測する」 東京大学
名誉教授 安井 至
15:25-16:05 「微生物による貴金属回収・高機能化」 三菱マテリアル株式会社
中央研究所 鈴木 峻平
16:05-16:10 閉会挨拶 三菱マテリアル株式会社
中央研究所長 林部 豊

4.対象

本学学生・教職員、三菱マテリアル株式会社関係者、一般

5.定員

250名程度

6.参加費・申込手続き

参加費は無料です。
以下の申込みフォームよりお申込みください。

申込みフォーム

7.お問い合わせ

早稲田大学理工学術院 三菱マテリアル‐早大理工学術院産学連携協議会事務局
(材料技術研究所 担当: 三浦・榎本・菊池)

〒169-0051 東京都新宿区西早稲田2-8-26
TEL 03-3203-4782
E-mail: mmcjimu_at_list.waseda.jp  (※ _at_ は @ に置き換えてください。)

8.申込み締切

2021年11月19日(金)12:00

2021年度 材研オープンセミナー 「次世代スマートフォン向けの圧電材料および弾性波デバイスの進展」 12/8 オンライン開催

著者: contributor
2021年11月3日 13:57

2021年度 早稲田大学各務記念材料技術研究所 オープンセミナー

主催:早稲田大学 各務記念材料技術研究所
協賛学会:日本音響学会、日本材料学会、石油学会、日本分光学会、粉体粉末冶金協会、日本鋳造工学会、日本表面真空学会、腐食防食学会、日本鉄鋼協会、電気化学会、軽金属学会、日本セラミックス協会、表面技術協会、電力技術懇談会、早稲田電気工学会、早稲田物理会、早稲田材料工学会(順不同)

テーマ 「次世代スマートフォン向けの圧電材料および弾性波デバイスの進展」
近年、MEMS(微小電気機械システム)の中でも、超高周波域のRF-MEMSは、5Gスマートフォンに多数搭載されていることから、急速な市場拡大を見せています。RF-MEMSのほとんどは弾性波を用いた圧電材料により構成されており、新しい窒化物強誘電体材料や単結晶薄片化貼り付け技術、エピタキシャル薄膜など、最先端の材料技術が次々と事業化、スマートフォンに搭載されています。本セミナーでは、新進気鋭の若手研究者を中心にお招きし、次世代スマートフォン向けの圧電材料および弾性波デバイスについて、ご講演頂きます。

1.日時

2021年12月8日(水) 13:00~17:00

2.開催方法

オンライン開催(Zoom ウェビナー利用)

3.プログラム

※主催者側敬称略

時間 講座題目等 講師等
13:00-13:05 所長挨拶 勝藤 拓郎(早稲田大学理工学術院 教授・各務記念材料技術研究所 所長)
13:05-13:10 開会挨拶 柳谷 隆彦(早稲田大学理工学術院 准教授・オープンセミナー実行委員会 委員長)
13:10-13:50 「移動体通信を支えるSAWデバイスとその要素技術」 中川 亮 氏(村田製作所)
13:50-14:30 「バルク弾性波(BAW)フィルタ向けの窒化物圧電薄膜の開発」 高柳 真司 先生(同志社大学)
14:30-14:50 休憩
14:50-15:30 「次世代情報通信端末向け高周波数弾性表面波(SAW)フィルタの開発」 鈴木 雅視 先生(山梨大学)
15:30-16:10 「圧電MEMSのための高性能圧電薄膜の開発」 吉田 慎哉 先生(東北大学)
16:10-16:50 「マイクロデバイスとしての原子周波数標準
-光・圧電・集積回路-」
原 基揚 氏(情報通信研究機構)
16:50-17:00 閉会挨拶 川田 宏之(早稲田大学理工学術院 教授・オープンセミナー実行委員会 副委員長)

4.対象

本学学生、教職員、一般(学外の方のご参加も歓迎いたします。) / 参加費:無料

定員:250名(予定)

5.申込手続き

以下のフォームからお申込みください。申込期間は12月8日12:00までです。
(ただし、定員を超えた場合はその時点で受付終了とさせていただきます。)

お申し込みフォームはこちら

6.お問い合わせ

早稲田大学各務記念材料技術研究所 オープンセミナー係(担当: 後藤・菊池)

〒169-0051 東京都新宿区西早稲田2-8-26
TEL 03-3203-4782 FAX 03-5286-3771
E-mail: zaikenjimu_at_list.waseda.jp  (※ _at_ は @ に置き換えてください。)

ERATO採択 元素固有の色を可視化

著者: contributor
2021年10月5日 09:31

令和3年度 戦略的創造研究推進事業ERATOに採択

元素固有の色を可視化し、宇宙と医療をつなぐ新しい架け橋 「ラインX線ガンマ線イメージング」を提案

発表のポイント

  • 元素固有の色を可視化する革新手法「放射化イメージング法」を提案
  • 宇宙から人体まで、あらゆる物質の動態を同じ技術で可視化

(1) 宇宙観測では、小型衛星で未踏の先端科学を開拓
(2)医学では薬物動態を迅速に可視化する新しいツールを開拓

2021年10月1日、早稲田大学理工学術院の 片岡 淳(かたおかじゅん)教授を研究総括とし、大阪大学大学院医学系研究科の 加藤 弘樹(かとうひろき)准教授ならびに東京工業大学理学院の 谷津 陽一(やつよういち)准教授をグループリーダーとする提案が、科学技術振興機構(JST)による令和3年度戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(Exploratory Research for Advanced Technology、以下ERATO)(*1)研究領域「ラインX線ガンマ線イメージング」として採択されました。
研究総括は数キログラムから数トンクラスの様々な衛星開発に参加し、高エネルギー宇宙物理学を牽引してきました。人工衛星は重量、大きさ、電力が著しく制約された環境で、最高性能が求められます。同様に、医療では体に負担が少なく高精度な技術が求められ、両者の技術やアイデアを用いることで大きな相乗効果が期待されます。特に、がんの粒子線治療中に人体で起きる反応の多くは宇宙でも同様に起きており、基礎となる現象や物理にも多くの共通点があります。本提案では宇宙観測で培った高度な可視化技術を共通基盤とし、宇宙・医学・薬学分野への新たな展開を目指します。図1に研究領域の概観を示します。

図1: 本ERATOプロジェクトで進める研究の全体像

1.研究の背景

宇宙空間には、宇宙線とよばれる謎多き粒子が満ちています。特に、100MeV(メガ電子ボルト)以下の宇宙線は生命の源であるイオン分子の生成や加熱、星の進化に重要な鍵となると考えられますが、直接観測することができません。一方で、これら宇宙線が星間物質と起こす様々な反応により、元素特有のエネルギーをもつX線やガンマ線のスペクトル輝線(ラインX線ガンマ線 *2)が生じます。これらを可視化することで、宇宙における物質の分布や流れ、さらには星内部の元素合成や超新星爆発など、一見静かな宇宙の「激動の歴史」を探ることができます。しかしながら、とくにガンマ線は数MeVという高いエネルギーをもつため観測が難しく、1990年代に打ち上げられた米国のコンプトン宇宙ガンマ線衛星(CGRO衛星)を最後に、30年来にわたり観測が行われていません。
一方で、これらの宇宙で起きる反応を、身近な医療に応用することは可能です。たとえば宇宙線が星間物質と衝突するように、薬剤や被写体に陽子や中性子線をぶつけると薬剤特有のラインX線ガンマ線が生じます。これを用いて、体内の薬物動態や粒子線治療中に細胞周辺で起こる様々な反応を、同じように可視化できるはずです(図2)。つまり、宇宙で起きる反応と、医療の可視化に必要な反応は共通の物理に根ざしています。ここで鍵となるのが、ラインX線ガンマ線を用いた放射化イメージングですが、微量分析技術の前例はあるものの、直接的に「動態を見る」可視化技術は未だ確立されていませんでした。

図2: 宇宙における放射化(左)と放射化分析(右)

2.今回のプロジェクトで実現しようとすること

本領域では元素固有のラインX線ガンマ線を可視化する独自の技術 ― ハイブリッド・コンプトンカメラ(*3)―を用いて「放射化イメージング法」を確立し、それを共通基盤として宇宙分野、医学・薬学分野に展開します。具体的には「放射化」で元素固有のX線ガンマ線を誘発し、宇宙から人体まで、あらゆる物質(たとえば宇宙空間を漂う物質、人体の薬剤等)の動態を統一的にイメージングし、それを通して宇宙分野、医学・薬学分野に、共通な物理で新しい枠組みを構築します。宇宙分野では、数十kgの小型衛星を基盤としたボトムアップ戦略で未踏の先端科学、たとえば宇宙や大気中での元素の流れや元素合成といった、核ガンマ線宇宙物理学の開拓に挑みます。医学・薬学分野では、放射性特性を有さない通常の薬剤を投与前もしくは投与後にごく微量放射化し、その動態をX線ガンマ線で可視化できる革新手法を実証します。さらに、宇宙分野で培われた「光子計数イメージング法」を高速化し、X線やガンマ線の診断技術に応用し、薬剤ごとの同定が可能なスペクトラル多色CTによる超低被ばくX線動態イメージング技術を開拓します。

3.このプロジェクトで期待される波及効果

近年、世界各国では小型衛星の開発が活発に行われ、数十兆円レベルの巨大ビジネスへと発展しています。一方で、その限られた重量やサイズは科学観測には不向きとされ、多くは通信用途や工学的な技術実証のみに用いられています。しかしながら、小型衛星は安価で打ち上げ機会も多く、コストパフォーマンスが圧倒的に良いのも事実です。搭載センサーの性能を究極まで高めれば、一点突破型の優れた科学観測ができるはずです。実際、海外ではわずか10 kgの衛星が、X線による宇宙観測で素晴らしい成果を上げつつあります。本研究では大学主導で数十kgの小型衛星を実際に開発し、前人未踏のMeVガンマ線宇宙観測へ向けた突破口を拓きます。上記の通り、MeVガンマ線は宇宙における物質動態、爆発現象を探る最適な波長帯ツールです。本プロジェクトを通じて小型衛星の全く新しい利用法、つまり「一点突破型」先端宇宙科学観測を提案します。
最後に、本プロジェクトは準安定状態の元素が出す「色」情報を独自装置で可視化し、元素の全く新しい可能性を切り拓く新しい試みです。本年度の文部科学省・戦略目標「元素戦略を基軸とした未踏の多元素・複合・準安定物質探査空間の開拓」達成に大きく資するものと期待されます。さらに、放射化という新しい概念は上記の戦略目標ですら触れられておらず、この枠組みをも大きく凌駕し、元素戦略の新しい可能性を追求する革新的テーマとなっています。本プロジェクトの推進には、理学・工学・薬学・医学・情報全ての研究者が一堂に集い、統合的に研究を進めることが必須で、分野横断型の新しいフレームワークを構築するものです。本プロジェクトにより、新しい薬物動態可視化システムの構築、さらにはナノ粒子を用いた新しい粒子線治療の開拓など、既存の治療や診断を塗り替える新たな医療価値を見出します。さらに、画像診断システムについては、研究機関の他に材料・計測メーカーの協力を得て、材料やセンサーの開発、システム評価を産学連携で進め、国内産業の活性化に貢献していきます。

4.各機関の役割

(1)早稲田大学(Head Quarter)
本研究提案全体を推進。多色スペクトラルCTグループを統括

(2)大阪大学
放射化イメージングや核医学治療、多核種粒子線治療の提案と実証
核医学治療・粒子線治療グループを統括

(3)東京工業大学
科学観測を目的とした小型衛星開発を推進。宇宙・大気科学グループを統括

(4) 金沢大学
スペクトラル多色CTシステムの開発と実証

(5)帝京大学
機械学習を用いた医療画像の鮮鋭化

(6)岡山大学
核医学・粒子線治療用薬剤および多色CT造影剤の開発

(7)量研機構
重粒子線を基盤とした新規放射線治療の提案と評価、細胞実験

(8)理化学研究所
中性子イメージング、大気(雷)ガンマ線イメージングの推進

5.研究総括(代表者)のコメント

現代物理学の宿命は「高エネルギー・フロンティア」の開拓であり、実践的で患者さんと向き合う医療とは全く関係がない ― 実は、私自身も10年前までは同じ考えを持っていました。しかしながら、日本人の半数が一生のうちに罹患するといわれる、がんの高度な粒子線治療を行うには体内で起こる電離や核反応など、高度な物理の理解が必要です。逆に、医療に必要な装置を作るのには臨床現場のニーズを正しく理解することが必要で、理学や工学の研究者が想像だけで装置を作っても意味がありません。さらに、新しい治療や診断には新規薬剤の開発がつきもので、薬学や生物の専門知識も必要となります。多くの学問では、本来一つの目標に向かっているにもかかわらず分野間の風通しが悪く、学問の進展を遅らせてしまう場面が多々あると危惧しています。そのような中、本ERATOプロジェクトはラインX線ガンマ線イメージングをキーワードに、同じ目標に向かって理・工・医・薬をつなぐ「糊」の役割を果たすことが期待されます。そして、本ERATOプロジェクトの圧倒的な強みは、それぞれの分野で世界トップを走る若手研究者を一堂に集め、情報や技術をよどみなく共有できる点です。そして、実際に研究を進めるうえでは博士課程の学生に限らず、修士・学部の学生も積極的に採用し、フレッシュなアイデアとパワーで新しい学問を拓くことが狙いです。ある分野では「できない」ことが、他の分野では「当たり前にできる」経験は、研究者なら誰でも経験することです。登山に様々なルートがあるように、研究の道筋も一つではありません。本ERATOプロジェクトを契機に、日本の学問全体が活発化し、分野連携の架け橋になることを強く願っています。

6.用語解説

*1  戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO: Exploratory Research for Advanced Technology)
科学技術振興機構による公募プロジェクトの一つで、1981年に発足した創造科学技術推進事業を前身とするプログラムです。規模の大きな研究費をもとに既存の研究分野を超えた分野融合や新しいアプローチによって挑戦的な基礎研究を推進することで、今後の科学技術イノベーションの創出を先導する新しい科学技術の潮流の形成を促進し、戦略目標の達成に資することを目的としています。

*2  ラインX線ガンマ線
元素に固有なエネルギーをもち、鋭いピークを有するX線またはガンマ線の総称です。励起した原子から発生するラインX線は特性X線、原子核から生ずるガンマ線は核ガンマ線と呼ばれます。本領域では、この鋭いピークに着目したイメージング法を開発し、宇宙分野、医学・薬学分野に展開します。一例として、金属ナノ粒子である金(AuNP)を放射化し、そこで生ずるガンマ線(412keV)をイメージングした結果を示します。

図3: AuNP薬剤の放射化イメージングの例

*3  ハイブリッド・コンプトンカメラ
コンプトンカメラは、X線・ガンマ線が粒子として振舞う性質(コンプトン散乱)を利用し、その運動学を解くことで到来方向をイメージングする装置です。詳しくは応用物理学会誌「応用物理」2019年11月号 「ガンマ線イメージングがつなぐ医療と宇宙~超小型コンプトンカメラの挑戦~」(片岡 淳) をご覧ください。ハイブリッド・コンプトンカメラはこれを発展したもので、数十keV(キロ電子ボルト)から数MeVまでのX線、ガンマ線を一台のカメラで同時に可視化することが可能です。詳細は以下のリリースをご覧ください。

X線ガンマ線の同時可視化を可能に

7. 研究助成

研究費名:戦略的創造研究推進事業(ERATO: Exploratory Research for Advanced Technology)
研究課題名:「ラインX線ガンマ線イメージング」 (R3年度~R8年度)
研究総括名(所属機関名):片岡淳(早稲田大学 理工学術院 先進理工学研究科 教授)
機構報 第1526号:戦略的創造研究推進事業における令和3年度新規研究総括および研究領域の決定について (jst.go.jp)

8.参画メンバー

・早稲田大学理工学術院 先進理工学研究科
片岡 淳 教授

・大阪大学大学院医学系研究科
加藤 弘樹 准教授、西尾 禎治 教授

・大阪大学放射線科学基盤機構
豊嶋 厚史 特任教授

・東京工業大学 理学院
谷津 陽一 准教授

・東京工業大学 工学院
松永 三郎 教授

・金沢大学理工学域 数物科学類
有元 誠 助教

・金沢大学 医薬保健研究域 保健学系
川嶋 広貴 助教、小林 聡 教授

・岡山大学大学院 医歯薬学総合科研究科 薬学系
上田 真史 教授

・量研機構 量子生命・医学部門 量子医科学研究所 重粒子線治療研究部
平山 亮一 主任研究員

・量研機構 量子生命・医学部門 量子医科学研究所 物理工学部
稲庭 拓 グループリーダー

・帝京大学大学院 医療技術学研究科
古徳 純一 教授

・理化学研究所 開拓研究本部
榎戸 輝揚 白眉研究リーダー

・理化学研究所 光量子工学研究センター
小林 知洋 専任研究員

Unveiling Galaxies at Cosmic Dawn That Were Hiding Behind the Dust

著者: contributor
2021年9月24日 14:44

Unveiling Galaxies at Cosmic Dawn That Were Hiding Behind the Dust

Scientists serendipitously discover two heavily dust-enshrouded galaxies that formed when the Universe was only 5% of its present age

While investigating the data of young, distant galaxies observed with the Atacama Large Millimeter/submillimeter Array, Dr. Yoshinobu Fudamoto from Waseda University and the National Astronomical Observatory of Japan noticed unexpected emissions coming from seemingly empty regions in space that, a global research team confirmed, came actually from two hitherto undiscovered galaxies heavily obscured by cosmic dust. This discovery suggests that numerous such galaxies might still be hidden in the early Universe, many more than researchers were expecting.

A schematic of the results of this research. ALMA revealed a hitherto undiscovered galaxy as it is buried deep in dust (artist’s impression in upper right) in a region where the Hubble Space Telescope could not see anything (left). Researchers serendipitously discovered the new hidden galaxy while observing an already well-known typical young galaxy (artist’s impression in lower right)
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), NASA/ESA Hubble Space Telescope

When astronomers peer deep into the night sky, they observe what the Universe looked like a long time ago. Because the speed of light is finite, studying the most distant observable galaxies allows us to glimpse billions of years into the past when the Universe was very young and galaxies had just started to form stars. Studying this “early Universe” is one of the last frontiers in astronomy and is essential for constructing accurate and consistent astrophysics models. A key goal of scientists is to identify all the galaxies in the first billion years of cosmic history and to measure the rate at which galaxies were growing by forming new stars.

Various efforts have been made over the past decades to observe distant galaxies, which are characterized by electromagnetic emissions that become strongly redshifted (shifted towards longer wavelengths) before reaching the Earth. So far, our knowledge of early galaxies has mostly relied on observations with the Hubble Space Telescope (HST) and large ground-based telescopes, which probe their ultra-violet (UV) emission. However, recently, astronomers have started to use the unique capability of the Atacama Large Millimeter/submillimeter Array (ALMA) telescope to study distant galaxies at submillimeter wavelengths. This could be particularly useful for studying dusty galaxies missed in the HST surveys due to the dust absorbing UV emission. Since ALMA observes in submillimeter wavelengths, it can detect these galaxies by observing the dust emissions instead.

In an ongoing large program called REBELS (Reionization-Era Bright Emission Line Survey), astronomers are using ALMA to observe the emissions of 40 target galaxies at cosmic dawn. Using this dataset, they have recently discovered that the regions around some of these galaxies contain more than meets the eye.

While analyzing the observed data for two REBELS galaxies, Dr. Yoshinobu Fudamoto of the Research Institute for Science and Engineering at Waseda University, Japan, and the National Astronomical Observatory of Japan (NAOJ), noticed strong emission by dust and singly ionized carbon in positions substantially offset from the initial targets. To his surprise, even highly sensitive equipment like the HST couldn’t detect any UV emission from these locations. To understand these mysterious signals, Fudamoto and his colleagues investigated matters further.

In their latest paper published in Nature, they presented a thorough analysis, revealing that these unexpected emissions came from two previously unknown galaxies located near the two original REBELS targets. These galaxies are not visible in the UV or visible wavelengths as they are almost completely obscured by cosmic dust.  One of them represents the most distant dust-obscured galaxy discovered so far.

Distant galaxies imaged with ALMA, the Hubble Space Telescope, and the European Southern Observatory’s VISTA telescope. Green and orange colors represent radiations from ionized carbon atoms and dust particles, respectively, observed with ALMA, and blue represents near-infrared radiation observed with VISTA and Hubble Space Telescopes.
REBELS-12 and REBELS-29 detected both near-infrared radiation and radiation from ionized carbon atoms and dust. On the other hand, REBELS-12-2 and REBELS-29-2 have not been detected in the near-infrared, which suggests that these galaxies are deeply buried in dust.
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), NASA/ESA Hubble Space Telescope, ESO, Fudamoto et al.

What is most surprising about this serendipitous finding is that the newly discovered galaxies, which formed more than 13 billion years ago, are not strange at all when compared with typical galaxies at the same epoch. “These new galaxies were missed not because they are extremely rare, but only because they are completely dust-obscured,” explains Fudamoto. However, it is uncommon to find such “dusty” galaxies in the early period of the Universe (less than 1 billion years after the Big Bang), suggesting that the current census of early galaxy formation is most likely incomplete, and would call for deeper, blind surveys. “It is possible that we have been missing up to one out of every five galaxies in the early Universe so far,” Fudamoto adds.

The researchers expect that the unprecedented capability of the James Webb Space Telescope (JWST) and its strong synergy with ALMA would lead to significant advances in this field in the coming years. “Completing our census of early galaxies with the currently missing dust-obscured galaxies, like the ones we found this time, will be one of the main objectives of JWST and ALMA surveys in the near future,” states Pascal Oesch from University of Geneva.

Overall, this study constitutes an important step in uncovering when the very first galaxies started to form in the early Universe, which in turn shall help us understand where we are standing today.

Reference

Authors: Y. Fudamoto1,2,3, P. A. Oesch1,4, S. Schouws5, M. Stefanon5, R. Smit6, R. J. Bouwens5, R. A. A. Bowler7, R. Endsley8, V. Gonzalez9,10, H. Inami11, I. Labbe12, D. Stark8, M. Aravena13, L. Barrufet1, E. da Cunha14,15, P. Dayal16, A. Ferrara17, L. Graziani18,20, 27, J. Hodge5, A. Hutter16, Y. Li21,22, I. De Looze23,24, T. Nanayakkara12, A. Pallottini17, D. Riechers25, R. Schneider18,19,26,27, G. Ucci16, P. van der Werf5, C. White8
Title of original paper: Normal, Dust-Obscured Galaxies in the Epoch of Reionization
Journal: Nature
DOI: 10.1038/s41586-021-03846-z
Affiliations:
1Department of Astronomy, University of Geneva
2Research Institute for Science and Engineering, Waseda University; 3National Astronomical Observatory of Japan
4Cosmic Dawn Center (DAWN), Niels Bohr Institute, University of Copenhagen
5Leiden Observatory, Leiden University
6Astrophysics Research Institute, Liverpool John Moores University
7Sub-department of Astrophysics, The Denys Wilkinson Building, University of Oxford
8Steward Observatory, University of Arizona
9Departmento de Astronomia, Universidad de Chile
10Centro de Astrofisica y Tecnologias Afines (CATA)
11Hiroshima Astrophysical Science Center, Hiroshima University
12Centre for Astrophysics & Supercomputing, Swinburne University of Technology
13Nucleo de Astronomia, Facultad de Ingenieria y Ciencias, Universidad Diego Portales
14International Centre for Radio Astronomy Research, University of Western Australia
15ARC Centre of Excellence for All Sky Astrophysics in 3 Dimensions (ASTRO 3D)
16Kapteyn Astronomical Institute, University of Groningen
17Scuola Normale Superiore
18Dipartimento di Fisica, Sapienza, Universita di Roma
19INAF/Osservatorio Astronomico di Roma
20INAF/Osservatorio Astrofisico di Arcetri
21Department of Astronomy & Astrophysics, The Pennsylvania State University
22Institute for Gravitation and the Cosmos, The Pennsylvania State University
23Sterrenkundig Observatorium, Ghent University
24Dept. of Physics & Astronomy, University College London
25Cornell University
26Sapienza School for Advanced Studies
27INFN, Roma, Italy

観測史上最古の「隠れ銀河」を発見

著者: contributor
2021年9月24日 14:42

観測史上最古の「隠れ銀河」を131億年前の宇宙で発見

概要

札本 佳伸(ふだもと よしのぶ)国立天文台アルマプロジェクト特任研究員・早稲田大学理工学術院総合研究所次席研究員と稲見 華恵(いなみ はなえ)広島大学宇宙科学センター助教らの国際研究チームが、アルマ望遠鏡の大規模探査による観測データの中から、約130億年前の宇宙で塵に深く埋もれた銀河を複数発見しました。そのうちの一つは、塵に埋もれた銀河として見つかったものの中で最古の銀河です。今回発見されたような銀河は、すばる望遠鏡などを用いた観測で発見することは難しく、初期の宇宙にどれほど存在するのかこれまで全くわかっていませんでした。今回の発見は、宇宙の歴史の初期においても数多くの銀河が塵に深く隠され、いまだ発見されないままになっていることを示します。同時に、このような銀河は宇宙の初期における銀河の形成と進化をより統一的に理解する上で重要な発見です。

この観測成果は、Fudamoto et al. “Normal, Dust-Obscured Galaxies in the Epoch of Reionization”として、英国の科学誌「ネイチャー」オンライン先行公開版に2021年9月22日16:00(イギリス時間)に掲載され、9月23日に本誌に掲載されます。

上図:今回の観測結果の模式図。ハッブル宇宙望遠鏡による近赤外線の観測画像(左)では、中心やや下に銀河が見えています。これは右下の想像図のような、これまで存在がよく知られていた若い銀河です。一方今回のアルマ望遠鏡による観測では、ハッブル宇宙望遠鏡では何も見えていない領域に、塵に深く埋もれた銀河(右上の想像図)を新たに発見しました。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), NASA/ESA Hubble Space Telescope

(1)これまでの研究で分かっていたこと

過去20年以上にわたり、世界中の研究者がすばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡など用いて遠方銀河の探査を行ってきました。光が有限の速さでやってくることから、遠方銀河を探査することで初期の宇宙にあった銀河の姿を直接捉えられます。そして、それらの大規模な探査の結果、ビッグバンから10億年以内の宇宙の初期に存在した銀河が数多く発見され、それらの時代において銀河がどのように形成・進化してきたのかについての研究が大きく進んできました。

このような宇宙の初期にある銀河の大規模な探査では、銀河に含まれる、太陽の数十倍程度の質量をもった大型の星から放射される明るい紫外光が観測されてきました。宇宙の膨張によって遠方天体からやってくる光の波長が伸びるため(赤方偏移)宇宙の初期にある銀河から放たれた紫外光は、地球で観測する際には可視光や近赤外線となります。

しかしながら、この紫外光には銀河に含まれる塵(ちり)によって大きく吸収・散乱されるという性質があります。この塵は銀河内部で星が世代交代することによって作り出されるため、銀河で過去にどのような星形成活動があったのかによってその量が変わってきます。内部で放たれた紫外光のほとんどが大量の塵に吸収・散乱されてしまうような、塵に埋もれた銀河の場合は、可視光や近赤外線を用いた観測では見つけることができません。初期の宇宙でこれまでに見つかっている塵に埋もれた銀河は、天の川銀河の1000倍以上といった激しいペースで星形成を行っている極めて稀な銀河に限られていました。そのため、130億年ほど前の宇宙に存在する若くて星形成活動が比較的低調な銀河の大多数は塵にはあまり隠されておらず、感度の良い可視光や近赤外線の観測を行うことで検出が可能だと考えられてきました。

(2)今回の研究で明らかになったこと

国立天文台アルマプロジェクト特任研究員として早稲田大学で研究活動を行う札本佳伸氏は、アルマ望遠鏡による大規模探査プロジェクト「REBELS」で観測された銀河を研究するうちに、偶然このような塵に埋もれた銀河を初期の宇宙で発見しました。REBELSの本来の目的は、130億年程度前の宇宙に存在したと考えられる近赤外線で非常に明るい40個の銀河を観測し、塵からの放射と炭素イオンの輝線の探査を行うことでした。広島大学宇宙科学センター助教の稲見華恵氏は、REBELSプロジェクトの共同代表研究者として本プロジェクトに参加しています。

札本氏がREBELS-12とREBELS-29という二つの銀河の観測データを調べていたところ、それぞれ本来の観測対象としていた銀河に加えて、そこから少し離れた場所からも塵からの放射と炭素イオンの輝線が非常に強く放たれていることを発見しました。そして驚くべきことに、これらの偶然見つかった新たな放射源の場所には、感度の良いハッブル宇宙望遠鏡を用いても何も見えませんでした。つまり、これらの放射は、ハッブル宇宙望遠鏡などが観測することのできる紫外光をほとんど放っていない、塵に埋もれた銀河からやってきたものであることを示しています。そのうちの一つ、REBELS-12の近傍に見つかった銀河は、塵に埋もれていた銀河の中では観測史上最古となる131億年前のものになります(注)。さらに驚いたことに、今回見つかった銀河は、これまで塵に埋もれた銀河に見られたような爆発的な星形成は行っておらず、130億年程度前の宇宙でこれまで多数見つかっていた銀河と同程度の星形成活動しかありませんでした。つまり、今回見つかった銀河は、塵に埋もれているということ以外はこれまで知られている典型的な銀河と変わりありません。これは、典型的な星形成活動をおこなう「普通」の銀河であっても宇宙のこれほど初期において塵に埋もれて見えなくなってしまう、ということを示し、多数の銀河が塵に埋もれて未だ発見されていないのではないか、と言うことを示唆しています。

注:アルマ望遠鏡の観測によると、REBELS-12の近傍に見つかった銀河の赤方偏移は7.35でした。これをもとに宇宙論パラメータ(H0=67.3km/s/Mpc, Ωm=0.315, Λ=0.685: Planck 2013 Results)で光が飛んできた時間を計算すると、131億年となります。詳しくは「遠い天体の距離について」もご覧ください。

(3)今後の展開・影響

これまでの観測からは全く見つけられなかったような種類の銀河が宇宙の初期に存在した、という発見は、いままで考えられてきた宇宙の初期における銀河の形成の理論に大きな影響を及ぼす発見です。このような銀河がどの程度存在し、どのように銀河全体の進化と形成に影響してきたのかをより統一的に理解するにはさらなる観測を待たなければなりません。アルマ望遠鏡による探査や、2021年内に打ち上げ予定のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による大規模な銀河の探査と、それらによる銀河の形成に関する統一的な理解の進歩が待たれます。

上図:アルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡、欧州南天天文台VISTA望遠鏡で撮影した遠方銀河。アルマ望遠鏡で観測した電離炭素原子からの放射を緑、塵からの放射をオレンジ、VISTA望遠鏡・ハッブル宇宙望遠鏡で観測した近赤外線を青で表現しています。REBELS-12、REBELS-29は近赤外線と電離炭素原子・塵からの放射がいずれも検出されていますが、REBELS-12-2とREBELS-29-2では近赤外線が検出されていません。これらは今回のアルマ望遠鏡による観測で初めて見つかった銀河で、塵に深く埋もれていると考えられます。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), NASA/ESA Hubble Space Telescope, ESO, Fudamoto et al.

研究者からのコメント

札本氏は「宇宙の初期において、塵に埋もれて発見されていないような隠れた普通の銀河が存在するという予想外の、そして偶然の発見に驚きました。今回見つかった銀河は、宇宙の非常に狭い領域から見つかったものであるため、氷山のほんの一角に過ぎないと考えています。このような隠れた銀河がどれだけ宇宙の初期に存在するのかの研究はこれからの大きな課題となるでしょう。」とコメントしています。

また、稲見氏は「今回の発見では、ひとつ謎を解決しようとしたところで新たな謎が見つかった、という研究の醍醐味を改めて感じました。塵を大量に生産するにはある程度歳をとった星が必要なのに、ビッグバン直後という宇宙の極初期で、何がきっかけでどのようにして短時間で塵が生み出されたのか、これから解き明かしていきます。私たちが知り得ていないことが、この広大な宇宙にはまだまだあることを教えてくれる成果です。」とコメントしています。

論文情報

雑誌名:Nature
論文名:Normal, Dust-Obscured Galaxies in the Epoch of Reionization
執筆者:Y. Fudamoto1,2,3, P. A. Oesch1,4, S. Schouws5, M. Stefanon5, R. Smit6, R. J. Bouwens5, R. A. A. Bowler7, R. Endsley8, V. Gonzalez9,10, H. Inami11, I. Labbe12, D. Stark8, M. Aravena13, L. Barrufet1, E. da Cunha14,15, P. Dayal16, A. Ferrara17, L. Graziani18,20, 27, J. Hodge5, A. Hutter16, Y. Li21,22, I. De Looze23,24, T. Nanayakkara12, A. Pallottini17, D. Riechers25, R. Schneider18,19,26,27, G. Ucci16, P. van der Werf5, C. White8
所属機関名:1Department of Astronomy, University of Geneva,2Research Institute for Science and Engineering, Waseda University, 3National Astronomical Observatory of Japan, 4Cosmic Dawn Center (DAWN), Niels Bohr Institute, University of Copenhagen, 5Leiden Observatory, Leiden University, 6Astrophysics Research Institute, Liverpool John Moores University, 7Sub-department of Astrophysics, The Denys Wilkinson Building, University of Oxford, 8Steward Observatory, University of Arizona, 9Departmento de Astronomia, Universidad de Chile, 10Centro de Astrofisica y Tecnologias Afines (CATA), 11Hiroshima Astrophysical Science Center, Hiroshima University , 12Centre for Astrophysics & Supercomputing, Swinburne University of Technology, 13Nucleo de Astronomia, Facultad de Ingenieria y Ciencias, Universidad Diego Portales, 14International Centre for Radio Astronomy Research, University of Western Australia, 15ARC Centre of Excellence for All Sky Astrophysics in 3 Dimensions (ASTRO 3D) , 16Kapteyn Astronomical Institute, University of Groningen, 17Scuola Normale Superiore, 18Dipartimento di Fisica, Sapienza, Universita di Roma, 19INAF/Osservatorio Astronomico di Roma, 20INAF/Osservatorio Astrofisico di Arcetri, 21Department of Astronomy & Astrophysics, The Pennsylvania State University, 22Institute for Gravitation and the Cosmos, The Pennsylvania State University, 23Sterrenkundig Observatorium, Ghent University, 24Dept. of Physics & Astronomy, University College London, 25Cornell University, 26Sapienza School for Advanced Studies, 27INFN, Roma, Italy
掲載日:オンライン先行版 2021年9月22日(水)16:00(イギリス時間)
本誌 2021年9月23日(木)(イギリス時間)
DOI:10.1038/s41586-021-03846-z

研究助成

国立天文台 ALMA Scientific Research Grant 2020-16B
日本学術振興会科学研究費補助金 ( JP19K23462 、 JP21H01129)
the Swiss National Science Foundation through the SNSF Professorship grant 190079
TOP grant TOP1.16.057
the Nederlandse Onderzoekschool voor Astronomie
STFC Ernest Rutherford Fellowship (ST/S004831/1 , ST/T003596/1)
European Research Council’s starting grant ERC StG-717001
the NWO’s VIDI grant 016.vidi.189.162
the European Commission’s and University of Groningen’s CO-FUND Rosalind Franklin program
the Amaldi Research Center funded by the MIUR program “Dipartimento di Eccellenza” CUP:B81I18001170001
the National Science Foundation MRI-1626251
FONDECYT grant 1211951
“CONICYT+PCI+INSTITUTO MAX PLANCK DE ASTRONOMIA MPG190030″
“CONICYT+PCI+REDES 190194” 、ARC Centre of Excellence for All Sky Astrophysics in 3 Dimensions (ASTRO 3D) CE170100013 (EdC); Australian Research Council Laureate Fellowship FL180100060
the ERC Advanced Grant INTERSTELLAR H2020/740120
the Carl Friedrich von Siemens-Forschungspreis der Alexander von Humboldt-Stiftung Research Award
the VIDI research program 639.042.611
JWST/NIRCam contract to the University of Arizona, NAS5-02015
ERC starting grant 851622
the National Science Foundation under grant numbers AST-1614213, AST-1910107
the Alexander von Humboldt Foundation through a Humboldt Research Fellowship for Experienced Researchers

Nissan and Waseda University in Japan testing jointly developed recycling process for electrified vehicle motors

著者: contributor
2021年9月3日 16:47

Nissan and Waseda University in Japan testing jointly developed recycling process for electrified vehicle motors

New process efficiently recovers high-purity rare-earth compounds from motor magnets, practical application targeted for mid-2020s toward carbon neutral goal

YOKOHAMA, Japan – Nissan Motor Co., Ltd. and Waseda University today announced the start of testing in Japan of a jointly developed recycling process that efficiently recovers high-purity rare-earth compounds from electrified vehicle motor magnets. The testing is aimed at enabling practical application of the new process by the mid-2020s.

The automotive industry is promoting vehicle electrification to tackle climate change and to realize a carbon-neutral society. Most motors in electrified vehicles use neodymium magnets, which contain scarce rare-earth metals such as neodymium and dysprosium. Reducing the use of scarce rare earths is important not only because of the environmental impact of mining and refining, but also because the shifting balance of supply and demand leads to price fluctuations for both manufacturers and consumers.

=>Press Release

To use limited and valuable resources more effectively, since 2010 Nissan has been working from the design stage to reduce the amount1 of heavy rare-earth elements (REEs) in motor magnets. In addition, Nissan is recycling REEs by removing magnets from motors that do not meet production standards and returning them to suppliers. Currently, multiple steps are involved, including manual disassembly and removal. Therefore, developing a simpler and more economical process is important to achieve increased recycling in the future.

Since 2017, Nissan has been collaborating with Waseda University, which has a strong track record of researching non-ferrous metal recycling and smelting. In March 2020 the collaboration successfully developed a pyrometallurgy process that does not require motor disassembly.

Process overview:

provided by Nissan Motor Corporation

  1. A carburizing material and pig iron are added to the motor, which is then heated to at least 1,400 C and begins to melt.
  2. Iron oxide is added to oxidize the REEs in the molten mixture.
  3. A small amount of borate-based flux, which is capable of dissolving rare-earth oxides even at low temperatures and highly efficiently recovering REEs, is added to the molten mixture.
  4. The molten mixture separates into two liquid layers, with the molten oxide layer (slag) that contains the REEs floating to the top, and the higher density iron-carbon (Fe-C) alloy layer sinking to the bottom.
  5. The REEs are then recovered from the slag.

Testing has shown that this process can recover 98% of the motors’ REEs. This method also reduces the recovery process and work time by approximately 50% compared to the current method because there is no need to demagnetize the magnets, nor remove and disassemble them.

Going forward, Waseda and Nissan will continue their large-scale facility testing with the aim of developing practical application, and Nissan will collect motors from electrified vehicles that are being recycled and continue to develop its recycling system.

Nissan will continue to contribute to the building of a cleaner, safer and more inclusive society as part of its efforts to develop a sustainable society. Through its Nissan Green Program 2022, Nissan is addressing four priority issues: climate change, resource dependency, air quality and water scarcity. Nissan will continue to aim for carbon neutrality and zero new material resource use, and will simultaneously promote the use of electrified vehicles and the recycling and reduced use of REEs.

1 The Nissan Note e-POWER produced in FY2020 uses magnets with 85% fewer heavy REEs than the Nissan LEAF produced in FY2010.

レアアース リサイクル技術を共同開発

著者: contributor
2021年9月3日 16:41

日産と早稲田大学、電動車用のモーター磁石からレアアース化合物を高純度で効率良く回収するリサイクル技術を共同開発

カーボンニュートラル社会の実現に向けて2020年代中頃の実用化を目指した実証実験を開始

早稲田大学(所在:東京都新宿区、総長:田中愛治)と日産自動車株式会社(本社:神奈川県横浜市西区、社長:内田 誠)は、電動車用のモーター磁石からレアアース化合物を高純度で効率良く回収するリサイクル技術を共同開発し、2020年代中頃の実用化を目指した実証実験を開始したと発表しました。

⇒プレスリリース(日産自動車株式会社)

現在、自動車業界では、グローバルな気候変動に対応し、カーボンニュートラル社会を実現するため、車両の電動化が積極的に推進されています。これら電動車のモーターの多くに使用されるネオジム磁石には、ネオジム、ジスプロシウムなどのレアアースと呼ばれる希少元素が使用されています。 レアアースは資源の偏在や需給バランスによる価格変動が懸念される上、採掘・製錬時に生態系への負荷も伴うことから、その使用量削減が課題となっています。

日産は限りある貴重な資源を有効に使用するため、2010年以降、設計段階でモーター用磁石のヘビーレアアース(重希土類)の使用量削減に取り組んでいます。また、レアアースの再生利用にも取り組み、出荷基準を満たさず、クルマに搭載しなかったモーターから磁石を取り出して分解し、磁石サプライヤーに還元してきました。

しかし、現在、モーターの磁石からレアアースを取り出す工程では、手作業による磁石の分解、取り出しが必要であるため、今後さらなるリサイクルを推進するには、プロセスの簡便化とリサイクルコストの低減が課題となっていました。

そこで2017年より、日産は非鉄金属のリサイクルと製錬に関する研究で高い実績のある早稲田大学創造理工学部の山口勉功研究室*2と共同で、同校の大型炉設備*3を使用し、電動車用のモーターの磁石からレアアース化合物を回収する研究を開始しました。そして、2019年度には、高温で融体を取り扱う「乾式製錬法」により、モーターを解体することなく、高純度なレアアース化合物を効率よく回収する技術を確立しました。

両者が開発したリサイクル技術のプロセスは、以下の通りです。

作成:日産自動車株式会社

  1. 加熱溶融を促進する銑鉄(せんてつ)、鉄の融点を下げる加炭材を加え、1,400℃以上に加熱した炉でモーターを溶融
  2. 酸化鉄の添加により溶融液中のレアアースを酸化
  3. レアアース酸化物を溶かすため、ホウ酸塩系のフラックス*4を少量添加
  4. 「レアアースを含んだ酸化物層」と、より密度が大きい「レアアースを含まない鉄-炭素合金層」を分離
  5. 上層に分離された酸化物層から、レアアース化合物を回収

本リサイクル技術では、レアアース酸化物を少量、低温で溶融することができ、高い割合で回収できる安価なホウ酸塩系のフラックスを採用しています。実験では、この方法によりモーターに使用されたレアアースの98%を回収できることが確認されています。また、磁力を取り除く作業や、磁石を分解して取り出す作業が不要となるため、プロセスを簡略化することができ、従来の方法と比べ作業時間を約50%削減することができます。

今後は、実用化を目指した実験を続けると同時に、使用済み電動車に搭載されたモーターを回収し、リサイクルするスキームの構築を進めていきます。

日産は、ニッサン・グリーンプログラム2022において、「気候変動」「資源依存」「大気品質」「水資源」の4つの重点課題に取り組んでいます。今後もカーボンニュートラルや新規採掘資源依存ゼロを目指し、電動車両の普及と同時に、レアアースの使用量削減とリサイクルを推進していきます。そして、持続可能な社会の発展を目指す一員として、「よりクリーンな社会」、「より安全な社会」、「よりインクルーシブな社会」の実現を目指していきます。

*1 2020年度に生産されたノートは、2010年度生産されたリーフと比較して85%のヘビーレアアースの削減を実現。

*山口勉功教授 (やまぐちかつのり) (創造理工学部 環境資源工学科)は、高温プロセスを用いた新しい金属製錬、金属スクラップの精製、廃棄物処理など社会と産業に直結した研究を行っている。レアメタルとベースメタルがその対象となる。山口研究室では、今回の実証結果を踏まえ、今後は日産自動車と継続して連携・研究を行い、EVやHEVなどの電動車モーターからのレアアースをリサイクルするプロセスを広く普及できるよう研究・開発を進めていく予定。

*3 早稲田大学各務記念材料技術研究所:https://www.waseda.jp/fsci/zaiken/

*4 フラックス=融解温度を下げる働きをもつ物質。

燃料電池ごみ収集車の普及を目指して

著者: contributor
2021年8月19日 16:08

【大学研究者による事業提案制度採択事業】
燃料電池ごみ収集車の試験運用を港区で開始

東京都、港区及び学校法人早稲田大学(研究代表者:理工学術院教授・紙屋雄史、共同提案者:客員主任研究員(研究院客員准教授)・井原雄人)は、水素社会の実現を目指すとともに、温室効果ガス削減に寄与するため、都市の特性に適した燃料電池ごみ収集車(水素燃料)の開発・試験運用に向けて取り組んできました。

このたび、令和3年8月16日から港区内において燃料電池ごみ収集車の試験運用を開始しますのでお知らせします。

(1)目的

本事業は、CO2削減、静音性の向上、ごみ収集時の作業環境改善等に貢献する燃料電池ごみ収集車の開発・試験運用に向けた取組を行い、将来的な普及を目指すものです。
本試験運用では、燃料電池ごみ収集車が港区内のごみ収集ルートにおいて、実際に走行・ごみ収集を行い、エネルギー消費量の評価や収集職員へのヒアリング等を実施することで、導入効果の検証等を行います。

試験運用車両:車両には、水素のイメージを想起させる曲線をベースに東京都、港区、学校法人早稲田大学のロゴマーク、水素キャラクターのスイソン等のラッピングを施しました。

(2)今回試験運用する車両について【1台】

1.車両サイズ 全長:7,085㎜、全幅:2,190㎜、全高:2,560㎜
2.航続距離 70~80 km
3.ごみ積載量 1,750 kg
4.ごみ積載容積 7.8 ㎥
5.水素搭載重量 4.2 kg
6.水素充填時間 3~5分

※2~6は開発時の想定値

(3)試験運用実施期間等

令和3年8月16日から令和4年2月末まで

港区内の実際のごみ収集ルートで使用します。
月曜日・木曜日: ① 六本木2・5丁目  ② 高輪1・3丁目  ③ 高輪2丁目
火曜日・金曜日: ① 芝浦2丁目、海岸2丁目  ② 芝大門1・2丁目、芝2丁目 ③ 浜松町1丁目、芝1・4丁目 ④ 三田2丁目
水曜日・土曜日: ① 南麻布3・4丁目  ②三田2・3丁目  ③ 三田1丁目 ④ 芝3丁目、三田3・4丁目

(4)今後の予定

  • 本事業のPR動画を作成し、HP・SNS等で発信
  • 本事業を活用した環境学習の実施
燃料電池ごみ収集車運用事業について(令和元年度から令和3年度まで)

本事業は、東京都の「大学研究者による事業提案制度」に基づき、学校法人早稲田大学から燃料電池ごみ収集車の開発・運用に関する事業提案を受け、令和元年度から、東京都及び早稲田大学で事業を開始しました。令和2年度には、東京都・早稲田大学及び港区との間で協定を締結し、三者が連携して事業を行っています。
走行距離が長く、動力としても多くのエネルギーを必要とする業務用車両における水素利用は、運輸部門の脱炭素化や水素利用の拡大のために非常に重要となります。また、燃料電池自動車は、走行時にCO2を一切排出せず、走行及び作業時も静かなことから、ごみ収集時の作業環境や生活環境の向上にも貢献します。低速かつ頻繁な発停車を繰り返すごみ収集ルートにおいては、特に導入効果が期待できます。
本事業では、燃料電池ごみ収集車が将来的に普及することを目指し、都内における運用形態に適した燃料電池ごみ収集車の開発及び試験運用を実施します。

※大学研究者による事業提案制度:都内大学研究者から、研究成果・研究課題等を踏まえた事業提案を募集し、研究者・大学と連携・協働して事業を創出する制度。

World’s First Transparent Fiber–Millimeter-wave–Fiber System in 100-GHz Band, Using Low-Loss Optical Modulator and Direct Photonic Down-Conversion

著者: contributor
2021年8月17日 14:03

World’s First Transparent Fiber–Millimeter-wave–Fiber System in 100-GHz Band

Using Low-Loss Optical Modulator and Direct Photonic Down-Conversion

Highlights

  • A 100-GHz band fiber–millimeter-wave–fiber transparent system was constructed based on direct millimeter-wave-to-optical conversion using a low-loss optical modulator with direct photonic down-conversion.
  • 70-Gbit/s high-capacity transmission over the transparent fiber–millimeter-wave–fiber system at 101 GHz was demonstrated using 64-QAM OFDM.
  • This demonstration opens the door for transparent fiber–millimeter-wave systems in the field of high-capacity, low-latency, and low-power consumption communications in the 5G and beyond era.

Abstract

The National Institute of Information and Communications Technology (NICT, President: TOKUDA Hideyuki, Ph.D.), Sumitomo Osaka Cement Co., Ltd. (President: MOROHASHI Hirotsune), and Waseda University (President: TANAKA Aiji) jointly developed the first transparent fiber–millimeter-wave–fiber system in the 100-GHz band using a low-loss broadband optical modulator with direct photonic down-conversion. The developed broadband modulator and photonic down-conversion technology were utilized to successfully demonstrate a high-speed transmission of more than 70 Gbit/s over a wired and wireless converged system consisting of two optical fiber links and a 20 m radio link at 101 GHz.

The utilization of a low-loss broadband optical modulator for the direct conversion of a millimeter-wave signal to an optical signal*1 significantly simplified the millimeter-wave radio receiver because it included only a radio front end and an optical modulator. In addition, by adopting direct photonic down-conversion technology*2 for simultaneous detection and down-conversion of the signal to the microwave band, the fiber-radio receiver and the subsequent digital signal processing could be considerably simplified, thus rendering the proposed system a promising solution for high-capacity, low-latency, and low-power consumption fiber–wireless transmission in 5G and beyond networks.

The results of this demonstration were published as a post-deadline paper presentation at the 2021 International Conference on Optical Fiber Communications (OFC 2021).

Background

Fiber–wireless systems in high-frequency bands are a promising technology for inter-building connections, disaster recovery, and mobile transport networks, especially in 5G and beyond era. To date, most systems rely on the use of electronics-based receivers for radio-to-optical conversion, which generally feature less bandwidth and complicated antenna sites. Achieving fully transparent radio–optical conversion using photonic solutions is promising for increasing the transmission capacity and simplifying the antenna sites. However, the frequency of radio links in the previous systems that utilized the photonic conversion method was limited to below 90 GHz owing to the limited bandwidth of optical modulators. Recently, a plasmonic modulator was employed to realize a transparent bridge system in high-frequency bands. Generally, plasmonic modulators exhibit high insertion loss, which requires the use of optical amplifiers. However, this increases the optical noise, system cost, and the antenna site complexity.

On the other hand, most of the previous systems utilized coherent detection by using free-running lasers for signal detection at the fiber-radio receiver, which significantly increased the system complexity, frequency offset, and phase noise of the detected signal, thus requiring complicated digital signal processing algorithms for signal recovery. Therefore, employing a direct photonic down-conversion technology to simultaneously detect and down-convert the signal to the microwave band using a coherent two-tone optical signal generation*3 is promising for simplifying the system and reducing the cost and power consumption.

Achievements

In this work, we demonstrated the first transparent fiber–millimeter-wave–fiber system in the 100-GHz band (see Fig. 1) using two key element technologies: (i) a low-loss broadband optical modulator, and (ii) direct photonic down-conversion. For direct conversion of a millimeter-wave signal to an optical signal, we fabricated and employed a broadband modulator*4 for operation up to 110 GHz. This was achieved by performing Ti diffusion on the x-cut thin-film lithium niobate in the low dielectric constant layer. In addition, we employed a photonic down-conversion method based on a coherent two-tone optical signal generation technology to simultaneously detect and down-convert the signal to the microwave band. This significantly simplified the system and reduced the frequency offset and phase noise, as compared to systems utilizing coherent detection. Using the technologies developed in this study, we successfully transmitted 64-quadrature amplitude modulation (QAM) orthogonal frequency division multiplexing (OFDM) signal*5 with a line rate of 71.4 Gbit/s over a system consisting of two fiber links and a 20 m radio link at 101 GHz.

The system consists of the following key element technologies:

  • A broadband optical modulator with a low half-wave voltage and low loss in the high-frequency band for direct conversion of millimeter-wave signals to optical signals.
  • Direct photonic detection and down-conversion of signals to the microwave band utilizing coherent two-tone optical signal generation based on optical modulation technology.
  • High-spectral efficiency 64-QAM OFDM signal transmission.

The optical carrier for data modulation at the antenna site was remotely generated and distributed from the fiber-radio receiver, which significantly simplified the antenna site and eased its operation and management. In addition, owing to the use of direct photonic down-conversion and detection technology at the fiber-radio receiver, the frequency offset and phase noise of the detected signal could be largely suppressed. This considerably reduced the receiver complexity and the subsequent digital signal processing. The proposed system is promising for high-speed, low-latency, and low-power-consumption communication links in 5G and beyond networks.

Future Prospects

In the future, we will further study the millimeter-wave-to-optical conversion device and fiber wireless technology that were developed in this study to further increase the radio frequency and transmission capacity. In addition, we will promote international standardization activities and social implementation activities related to fiber wireless communication systems.

The paper containing the results of this demonstration was published at the 2021 International Conference on Optical Fiber Communication (OFC 2021, June 6 (Sun.) to June 11 (Fri.)), one of the largest international conferences in the field of optical fiber communications. It was highly evaluated and was presented in the Post Deadline session, which is known to release the latest important research achievements, on June 11 (Fri) 2021 local time.

References

International Conference: Optical Fiber Communications (OFC 2021) June 2021,
paper F3C.4 (Post Deadline Paper)

Title: Transparent Fiber–Radio–Fiber Bridge at 101 GHz using Optical Modulator and Direct Photonic Down-Conversion

Authors: Pham Tien Dat, Yuya Yamaguchi, Keizo Inagaki, Masayuki Motoya, Satoshi Oikawa, Junichiro Ichikawa, Atsushi Kanno, Naokatsu Yamamoto, Tetsuya Kawanishi

Glossary

*1 Direct millimeter-wave to optical conversion

It is a technology that converts a wireless signal in the millimeter-wave band to an optical signal without down-conversion of frequency. On the contrary, in the electronics-based conversion method, the millimeter-wave signal needs to be down-converted to a lower frequency signal in the microwave band before its conversion into an optical signal. The direct conversion of a millimeter-wave signal to an optical signal can be realized using a broadband optical modulator or plasmonic modulator. This significantly simplifies the antenna site.

*2 Direct photonic down-conversion

It is a technology used for detecting and down-converting a millimeter-wave signal to a microwave band signal using optical signals from the same light source. In this technology, a two-tone optical signal consisting of the two optical sidebands with a frequency separation that is approximately equal to the frequency of the millimeter-wave signal is generated from a single light source. One of the sidebands is modulated by the millimeter-wave signal, and an optical double-sideband carrier-suppressed signal is generated. One of the modulated sidebands is selected using optical filtering. Finally, the modulated and unmodulated sidebands are combined and input to a low-speed photodetector to be converted to an electrical signal in the microwave band.

*3 Coherent two-tone optical signal generation

This technology generates two coherent optical signals from the same light source using optical modulation technology. In particular, an optical signal consisting of odd or even order harmonic sidebands is generated by applying a clock signal to an optical modulator and controlling the bias voltage.

*4 Broadband optical modulator using thin-film lithium niobate

A broadband Mach–Zehnder modulator (MZM) can be fabricated using a thin substrate. In this work, we fabricated a broadband MZM, in which Mach–Zehnder interferometer waveguides were fabricated by Ti diffusion on the x-cut thin-film lithium niobate in the low dielectric constant layer. This was done to achieve ripple-free operation and maximized electro-optic responsivity up to 110 GHz. By thinning the substrate, as shown in Figs. 3(a) and (b), the frequency ripple due to mode coupling between the coplanar guided mode and substrate mode can be suppressed. The electrodes were also optimized to reduce electrical propagation loss to attain high sensitivity. The optical insertion loss, including fiber pigtails, is approximately 4.6 dB at 1550 nm. The half-wave voltage at 100 GHz is approximately 6.7 V, demonstrating a sufficiently low value for high-sensitivity conversion of a millimeter-wave signal to an optical signal at the antenna site.

*5 OFDM 64-QAM signal

OFDM is a digital multi-carrier modulation scheme that uses multiple subcarriers within the same single channel. Instead of transmitting a high-rate data stream using a single subcarrier, OFDM uses a large number of closely spaced orthogonal subcarriers that are transmitted in parallel. In this work, subcarriers are modulated with 64 QAM symbols, each of which consists of six input data bits.

Appendix

1. Configuration of the proposed system

Fig. 4 shows a schematic diagram of the proposed system, which includes six main parts: a fiber-radio transmitter, a millimeter-wave radio transmitter, a millimeter-wave radio receiver, a fiber-radio receiver, millimeter-wave-to-optical conversion, and signal down-conversion and detection.

(1) Fiber-radio transmitter

This block generates and modulates signals. A two-tone optical signal with a frequency separation of 91 GHz was generated using optical modulation technology. The two optical sidebands were separated, and one of them was modulated by a 10 GHz radio signal. The bias voltage to the modulator was controlled to generate only the upper modulation sideband. The modulated and unmodulated sidebands were combined to form a 101-GHz radio-over-fiber (RoF) signal.

(2) Millimeter-wave radio transmitter

After transmitting over a 20-km single-mode fiber, the RoF signal was up-converted to a 101-GHz millimeter-wave radio signal using a high-speed photodetector. The generated radio signal was emitted into free space using a millimeter-wave antenna.

(3) Millimeter-wave radio receiver

The millimeter-wave signal was received by another millimeter-wave antenna, amplified, and converted to an optical signal using the developed high-speed optical modulator.

(4) Fiber-radio receiver

Another two-tone optical signal with a frequency separation of 84 GHz between the two sidebands was generated. One of the sidebands was transmitted to a millimeter-wave radio receiver for data modulation.

(5) Millimeter-wave-to-optical conversion

The optical carrier signal generated at (4) was modulated by the 101 GHz millimeter-wave signal obtained from (3), and the bias voltage to the modulator was controlled to generate a double-sideband suppressed carrier signal. The modulated signal was transmitted to the fiber-radio receiver using a 10-km single-mode fiber link.

(6) Signal down-conversion and detection

One of the modulated sidebands from (5) was selected using optical filtering and combined with the unmodulated sideband of the generated two-tone optical signal from (4) to form an RoF signal with a center frequency of 17 GHz (= 101–84GHz). The signal was converted to a microwave band signal using a low-speed photodetector.

2. Experimental results

In the demonstration, an OFDM signal at 10 GHz was generated and transmitted over the system. The performance measured in terms of the error vector magnitude (EVM) for the 64-QAM OFDM signal is plotted in Fig. 5(a) for different signal bandwidths. Considering a forward error correction overhead of 20 %, which requires an EVM value of 11.2 %, a satisfactory transmission performance was experimentally confirmed for the OFDM signal with a bandwidth of 14 GHz or smaller. This confirmed that a line rate of 71.4 Gbit/s could be attained when transmitting a 14-GHz bandwidth signal that consisted of 4096 subcarriers, of which, 15 % were inactive at the band edges. The superior performance of the system using a 20 m radio link could be attributed to the better power adjustment of the fiber-radio transmitter. An example of the received signal constellation is shown in Fig. 5 (b).

物理の難問 量子スピン液体 を解明

著者: contributor
2021年8月17日 13:16

機械学習手法により物理の難問「量子スピン液体」を解明

スーパーコンピュータ「富岳」も用いた最先端の計算により実現

理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター計算物質科学研究チームの野村悠祐研究員と豊田理化学研究所/早稲田大学理工学術院総合研究所今田正俊フェロー/上級研究員・研究院教授の共同研究チームは、機械学習を用いた世界で類を見ない高精度手法により、幾何学的フラストレーションのある量子スピン系の解析を行いました。そして、スピンの向きが絶対零度でも整列せずに、量子力学的に揺らぐ「量子スピン液体」相を発見・確証し、存在領域を特定しました。

本研究成果は、量子スピン液体中でスピンが分裂して生じる「スピノン」の性質を解き明かし、これを量子計算への応用につなげるとともに、現実物質で量子スピン液体を実現するための有用な指針を与えるものと期待できます。

人工ニューラルネットワークの一つである制限ボルツマンマシンの構造の概念図

今回、共同研究チームは、機械学習分野で用いられる人工ニューラルネットワークの一種である制限ボルツマンマシンと物理分野で用いられる強力な関数を組み合わせて、スピン間の高度な量子もつれを学習させる手法を構築しました。スーパーコンピュータ「富岳」などでこの手法を用いた大規模計算を行い、2次元正方格子上のフラストレーションのある量子スピン模型を世界最高レベルの精度で解析した結果、フラストレーションが強くなる領域において、量子スピン液体相の存在の確証を得ました。さらに、実現した量子スピン液体相の励起構造も調べ、通常のスピンの励起が分裂し、分裂した粒子が独立した粒子のように振る舞う分数化という現象を捉えました。

本研究は、オンライン科学雑誌『PhysicalReviewX』(8月12日付)に掲載されました。

詳細はプレスリリースをご覧ください。

論文情報

<タイトル>Dirac-type nodal spin liquid revealed by refined quantum many-body solver using neural-network wave function, correlation ratio, and level spectroscopy

<著者名>Yusuke Nomura and Masatoshi Imada

<雑誌>Physical Review X

<DOI>10.1103/PhysRevX.11.031034

研究支援

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業基盤研究(S)「強相関物質設計と機能開拓―非平衡系・非周期系への挑戦―(研究代表者:今田正俊)」、同若手研究(B)「強相関物質における格子自由度の役割解明とフォノンがもたらす機能物性の探索(研究代表者:野村悠祐)」、同基盤研究(B)「高次元データの次元圧縮によって実現する磁性と超伝導の第一原理計算(研究代表者:大槻純也)」、文部科学省「富岳」成果創出加速プログラム「量子物質の創発と機能のための基礎科学―「富岳」と最先端実験の密連携による革新的強相関電子科学(研究代表者:今田正俊)(課題番号:hp200132, hp210163)」、ポスト「京」重点課題(7)「次世代の産業を支える新機能デバイス・高性能材料の創成」サブ課題C「超伝導・新機能デバイス材料(研究代表者:今田正俊)(課題番号:hp170263, hp180170, hp190145)」による支援を受けて行われました。

また、本研究には東京大学物性研究所のスーパーコンピュータおよび理研のスーパーコンピュータ「京」、「富岳」が使用されました。

新しいレイアウト自動生成技術を提案

著者: contributor
2021年8月6日 12:45

最適化による制約を満たしたレイアウトの生成手法を提案

マルチメディア分野のトップカンファレンス「ACM Multimedia」にて共著論文採択 

株式会社サイバーエージェント(本社:東京都渋谷区、代表取締役:藤田晋、東証一部上場:証券コード4751)は、早稲田大学(東京都新宿区、総長:田中愛治)の菊池康太郎(博士後期課程在籍)氏、コンテンツ作成のためのコンピュータグラフィックス研究で多数の実績を持つエドガー・シモセラ准教授、ならびに人工知能技術の研究開発組織「AI Lab」に所属する研究員の大谷まゆ・山口光太による共著論文が、マルチメディア分野の国際会議「ACM Multimedia 2021」※1 に採択されたことをお知らせいたします。

「ACM Multimedia」は世界中の研究者により開催されている学術会議で、マルチメディア分野で権威あるトップカンファレンスの一つです。このたび採択された研究は、2021年10月に開催される「ACM Multimedia 2021」で発表されます。

研究背景

「AI Lab」ではマーケティング全般に関わる幅広いAI技術を研究・開発しており、大学・学術機関との産学連携を強化しながら様々な技術課題に取組んでいます。

近年、深層学習を活用してグラフィックデザインを自動生成する技術が注目を集めており、様々な領域での応用が期待されています。なかでも「レイアウト自動生成技術」は、クリエティブ制作における工数削減の点で重要です。

一般的にレイアウト作成では、要素同士の重なりの禁止や要素配置の左揃えなど、様々なデザイン上の制約が課せられることがあります。これまでの研究では、このような制約に基づいたレイアウト生成を学習するために、制約を事前に決めて生成モデルを学習する手法が用いられていました。しかし、従来の手法では新しい種類の制約が生じた場合に生成モデルを学習し直す必要があるため、制約に柔軟に対応することが難しいという課題がありました。

このような背景のもと、本研究では、ユーザーから生じる様々なデザイン要求に対応するため、モデルが学習した尤もらしいレイアウトの中から、さらに新しい制約を満たすものを効率的に探索する方法を提案しました。

研究論文の概要

このたび採択された論文「Constrained Graphic Layout Generation via Latent Optimization」※2 では、グラフィックデザインを支援するための新たなレイアウト自動生成手法を提案しています。本提案手法では、最初に自動生成したレイアウトを、制約を満たすように更新することで、望んだレイアウトを生成することを実現しました。これにより、デザインに関する新たな制約が発生した際にも、生成モデルを一から学習し直す必要なく、効率的に自動生成を行うことが可能となります。

本研究では、最初に制約を仮定せずにレイアウトを自動生成するモデルを学習します。ここでレイアウトがサンプリングされる空間は「レイアウトの潜在空間」と呼ばれ、この空間中の1点はそれぞれ特定のレイアウトに対応づけられます。そしてある点を起点に、指定された制約を満たす領域に近い潜在空間上を探索していくことで、ユーザの指定した制約に沿うようなレイアウトに自動的に到達します。

レイアウトに対する制約の例としては、「重なりのないレイアウト」「画像やテキストの並び順」「大小関係を指定したレイアウト」などがあり、提案したモデルではそれらの制約に沿ったレイアウトを提示します。このアプローチにより、単一の生成モデルでさまざまな制約付きレイアウト生成に対応することが可能となります。

▼レイアウトの制約を満たす領域に近い潜在空間上を探索していく手法のイメージ

今後について

本研究成果を活用することで、「並びのきれいなデザイン」などを意図したレイアウトの自動生成が可能になるだけでなく、デザインの制約に広告効果の指標を取り入れることで、より「効果の高いデザイン」の自動生成への応用が期待できます。「AI Lab」ではこの技術を活用し、より効率的で高品質な広告作成を目指し、研究・開発に努めてまいります。

※1  ACM Multimedia

※2  Constrained Graphic Layout Generation via Latent Optimization

論文詳細

早稲田大学 PoC Fund Program 2021年度 研究課題 5件の採択を決定

著者: contributor
2021年8月2日 12:24

早稲田大学アントレプレナーシップセンターでは本学の研究成果・技術シーズをもとにしたベンチャー企業の設立・事業化による社会実装をめざして、2020年よりPoC(概念実証)プログラム「早稲田大学 PoC Fund Program」を開始し、研究者の技術シーズをもとにした大学発ベンチャーの創出を支援しています。

本プログラムは早稲田大学提携ベンチャーキャピタルであるウエルインベストメント株式会社Beyond Next Ventures株式会社などの支援を得ながら、大学発ベンチャーの創出を目的とする支援プログラムと(タイプA 最大200万円の助成、タイプB 最大1000万円の助成)、2020年9月に本学が採択された科学技術振興機構(以下、JST)研究成果展開事業 社会還元加速プログラム(以下、SCORE)大学推進型を財源としたプログラム(タイプS 500万円(増額可)の二本立てのプログラムとなっています。

2021年度 研究課題5件の採択がついに決定

2年めとなる2021年度の学内公募は5月に締切られ、厳正な審査(1次:書面審査、2次:面接審査)を経て、研究課題5件(いずれもタイプS)の採択を決定いたしました。

採択された5件の研究課題は、ビジネスモデルの仮説立案検証や市場調査等のための研究開発費が支給されるほか、本プログラムが指定するアクセラレーターによる定期的な助言・支援(ハンズオン的支援)、各種トレーニングプログラム等の受講やピッチコンテストなどを通じて、ビジネスモデルのさらなる実現化・高度化を目指してまいります。

2020年度採択の研究課題からは既に起業が実現

2020年度タイプS研究課題の研究代表者(Demo Day終了後)

2020年度採択の研究課題5件は2021年3月の成果発表会Demo Dayをもって本プログラムによる研究活動を終えました。その成果として、三宅丈雄教授(情報生産システム研究科)による起業※が実現しています。 (※「ハインツテック株式会社」2021年7月起業)

アントレプレナーシップセンターは、早稲田大学 PoC Fund Program を通じて、研究成果をもとにしたベンチャー起業創出を加速させ、早稲田オープンイノベーション・エコシステムの実現をさらに推進していきます。

関連リンク

JST  研究成果展開事業 大学発新産業創出プログラム<社会還元加速プログラム(SCORE)大学推進型

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