ノーマルビュー
宇宙線の鉄/ニッケル成分の高精度観測
宇宙線の鉄・ニッケル成分の最高エネルギー領域に至るスペクトルを測定
発表のポイント
国際宇宙ステーション(ISS)搭載の宇宙線電子望遠鏡(CALET)が、世界で最も高いエネルギー領域での宇宙線の鉄とニッケル成分の高精度な観測に成功した
これまで測定された宇宙線スペクトルの形状はスペクトル全体の総合的理解が困難な状況であったが、CALETの測定結果は、首尾一貫した実験的描像を描くことを可能にした
CALETで得られた信頼性の高い宇宙線原子核スペクトルは、天文学の他分野でも使用される重要な基礎データとなり得る
早稲田大学理工学術院主任研究員(研究院准教授)赤池陽水(あかいけようすい)、シエナ大学研究員Caterina Checchia、Francesco Stolziと、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)及び国内他研究機関、イタリア、米国の共同研究グループは、早稲田大学理工学術院名誉教授 鳥居祥二(とりいしょうじ)が代表研究者を務める国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームに搭載された宇宙線電子望遠鏡(CALET: 高エネルギー電子・ガンマ線観測装置)を用いて、銀河宇宙線中の鉄とニッケルの世界最高エネルギー領域に至る高精度なスペクトルの観測を成功しました。
ISSで5年間以上の定常観測を継続しているカロリメータ型検出器CALETは、核子あたり10ギガ電子ボルトから2.0テラ電子ボルトの広いエネルギー領域で、宇宙線中の鉄成分のスペクトル*3、*4の高精度直接観測を行い、テラ電子ボルト領域に至るまでスペクトルの冪(べき)は-2.60で一定であることを測定しました。さらに、宇宙線中のニッケル成分についても、核子あたり8.8ギガ電子ボルトから240ギガ電子ボルトの領域で観測を行い、鉄成分と同様にスペクトルの冪(べき)は-2.51で一定であることがわかりました。今回の結果は、より軽い原子核のスペクトルに一般的に見られているスペクトルの硬化が存在しないことを示しており、今まさに活発に議論されている銀河宇宙線の加速*5・伝播機構のモデル検証のために重要な情報を提供するものです。これまでの観測結果との比較を含めて、研究コミュニティへ速報する意義があると判断され、鉄成分の結果は2021年6月14日に、ニッケル成分は2022年4月1日に、それぞれ国際学術雑誌『Physical Review Letters』誌に掲載されました。
宇宙線は約100年前に発見されて以来、素粒子や宇宙の謎を解明する重要な情報をもたらしてきました。しかし、高エネルギーの宇宙線がどこでどのように加速されるのかは、まだ未解明な部分が多く残されています。これまでの多岐にわたる観測から、我々が住む銀河系内を起源とする宇宙線(銀河宇宙線)は「超新星爆発に伴う衝撃波で加速され、銀河系内を星間磁場により拡散的に伝播して地球に飛来する」という“標準モデル”による理解が一般的です。
このモデルでは、地球で観測される宇宙線スペクトルの形状は単調な冪型(べきがた)のスペクトル(指数関数形状のスペクトル)が予測されます。しかし、近年の気球や人工衛星、ISSによる直接観測で、陽子やヘリウム、さらに炭素や酸素などの原子番号(電荷:Z)が6程度以下の軽い原子核では、単純な冪形状からのズレ「スペクトル硬化」が報告されています。これは“標準モデル”では理解できない結果であり、宇宙線の加速・伝播機構モデルについてパラダイムシフトの必要性を示唆しており、その解釈をめぐって現在活発な研究が繰り広げられています。その解明の重要な鍵となるのが、星の核融合反応による元素合成の最終段階で生成される鉄(Z=26)とニッケル(Z=28)です。これより重い原子核は、星が超新星爆発を起こす直前にはほとんど存在しないため、この鉄とニッケルが星の進化の最終段階や加速機構の直接的な情報をもたらす重要な宇宙線成分となっています。
鉄成分のエネルギー領域は、これまで磁気スペクトロメータ (PAMELA, AMS-02) とカロリメータ(ATIC, CREAM, NUCLEONなど)の2種類の検出器によって別々に観測されていましたが、全領域を単独の検出器で高精度に観測できたのは今回のCALETの観測が初めてです。また、ニッケル成分の観測はその存在量の少なさゆえに、高エネルギー領域での高精度な観測はこれまでほとんど行われていませんでしたが、今回観測に成功しました。
これらの観測結果から得られた重要な成果として、鉄とニッケルのエネルギースペクトルは誤差の範囲内で単一冪の形をしており、軽い原子核で観測されていたスペクトルの硬化について否定的な結果です。最終的な結論は、今後のさらに高統計かつ高エネルギー領域での観測の結果で確認する必要がありますが、今回のCALETの測定結果は、宇宙線の加速・伝播機構モデルにおける積年の懸案事項を解決し、首尾一貫した実験的描像を描くために重要な示唆を与えることが期待されます。さらに、信頼性の高い宇宙線原子核スペクトルは、天文学の他分野でも使用される重要な基礎データになりえます。
【論文情報】
・雑誌名:Physical Review Letters 126, 241101, 2021
・論文名:Measurement of the Iron Spectrum in Cosmic Rays from 10 GeV/n to 2.0 TeV/n with the Calorimetric Electron Telescope on the International Space Station
・著者名:O. Adriani et al. (CALET Collaboration), corresponding Authors: Yosui Akaike, Caterina Checchia and Frncesco Stolzi
・DOI: 10.1103/PhysRevLett.126.241101
・紙面掲載:Volume 126, Issue 24, 14 June 2021
・雑誌名:Physical Review Letters 128, 131103, 2022
・論文名:Direct Measurement of the Nickel Spectrum in Cosmic Rays in the Energy Range from 8.8 GeV/n to 240 GeV/n with CALET on the International Space Station
・著者名:O. Adriani et al. (CALET Collaboration), corresponding Authors: Yosui Akaike, Gabriele Bigongiari, Caterina Checchia and Frncesco Stolzi
・DOI: 10.1103/PhysRevLett.128.131103
・紙面掲載:Volume 128, Issue 13, 1 April 2022
ウェブ掲載:
宇宙航空研究開発機構 JAXA https://humans-in-space.jaxa.jp/kibouser/pickout/73228.html
早稲田大学 https://www.waseda.jp/top/news/79755
(1)これまでの研究で分かっていたこと
近年の目覚ましい発展により明らかになってきた、エックス線やガンマ線を含む宇宙における高エネルギー放射の最終的な理解には、その源となっている荷電宇宙線*2解が必須となります。これは、電波や赤外・可視光等の電磁波スペクトル*3に,黒体輻射(ふくしゃ)に代表される熱的放射を観測しています。これに対し、冪型スペクトルによって特徴づけられる非熱的放射の背景には必ず宇宙線の加速*5と伝播が隠されているためです。
地球に降り注ぐ宇宙線、そのなかでも特に銀河宇宙線を観測するには、大気の希薄な高い高度で直接捉える(直接観測)ことが不可欠です。そのため、国内外で飛翔体を用いた様々な装置が考案され観測が実施されてきました。この結果、「超新星残骸における衝撃波によって加速され、銀河磁場によって拡散的に伝播して銀河外へ漏れ出す」という”標準モデル“による理解が進んでいます。
さらに2000年代に入って以降、素粒子実験で開発された粒子検出技術を駆使した宇宙線の直接観測が本格化し、南極周回実験や宇宙空間における観測が実施されています。その結果、陽子、ヘリウムや炭素、酸素等の主要な原子核成分に対し、単純な冪形状からのずれ、「スペクトル硬化」が示唆されています。これは宇宙線の加速や伝播機構に新たな仮説を導入した理論モデルの必要性を示唆しており、数多くの理論モデルが提案され、活発な議論が繰り広げられています。宇宙線の主成分である陽子についは、CALETの観測でもスペクトルの硬化を既に報告していますが、ヘリウム、炭素、酸素などの原子番号(電荷:Z)が6程度の軽い元素と、鉄、ニッケルといった重い元素におけるスペクトルの高精度観測による、両者のスペクトル構造の違いに注目が集まっています。
(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと
現在の宇宙線の直接観測は、主に磁気スペクトロメータとカロリメータの2種類の検出器による観測が主流です。
磁気スペクトロメータは磁場を持つ検出器で、通過する粒子の曲がり具合とその向きから粒子の運動量と電荷の正負を測定する検出器です。原理的に高精度な観測を達成することが可能ですが、観測エネルギーがテラ電子ボルト以下に制限されます。その代表的観測装置であるAMS-02はISSにおいて、2011年から現在まで観測を継続し、鉄までの重原子核成分について高精度な観測結果を報告しています。
カロリメータ型検出器は、高エネルギーの入射粒子が生成する粒子シャワーを、厚い物質量を持つ検出器で吸収することでエネルギー測定します。このため、高エネルギー領域での観測に適しており、その代表例としてCALETがあげられます。CALETは世界で初めての宇宙空間での観測のために開発された本格的なカロリメータ型検出器です。そして、広いエネルギー測定範囲と確実な装置較正により、磁気スペクトロメータと従来のカロリメータ型検出器によってカバーされていた領域を単独の検出器として初めて観測し、AMS-02では困難なテラ電子ボルトを上回る高いエネルギー領域まで原子核成分の観測を達成しています。
(3)そのために新しく開発した手法
CALETは2015年8月にISSに搭載され、同年10月より宇宙線観測を開始し、現在まで5年以上観測を順調に継続しています。原子核のエネルギースペクトルを測定するためには、高い電荷選別性能とエネルギー測定性能を持つ検出器で長期間観測し、データを蓄積する必要があります。CALETは日本の本格的な宇宙線観測装置で、特に高エネルギー電子の観測に最適化されていますが、図1に示すように原子番号(Z)が1から28の陽子からニッケルまで、エネルギーと種類を判別できる電荷測定性能と1ギガ電子ボルトから1ペタ電子ボルト*1の6桁に及ぶ広いエネルギー測定性能を持ち、陽子や原子核成分の観測にも優れた測定性能を発揮します。
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CALETは図2に示すように3種類の検出器を組み合わせて構成されている装置です。検出器上部に電荷測定器(Charge Detector: CHD)を配置し、入射粒子の電荷を測定します。中央の解像型カロリメータ(Imaging Calorimeter: IMC)は、粒子が入射した位置と飛来した方向を測定します。最下部の全吸収型カロリメータ(Total Absorption Calorimeter: TASC)は、地球大気より厚い物質量を持ち、高エネルギーの入射粒子が生成するシャワー粒子のエネルギーを測定します。この3つ検出器から得られる情報を統合することで、その宇宙線について知るべきことがほとんどわかります。特にTASCの厚さや使われている物質と信号の読み出し方法によって、どれだけ高いエネルギーの粒子まで観測することができるかが決まるのですが、CALETはとりわけここが従来の観測装置に比べて高い性能を持っています。
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図3はテラ電子ボルト領域のエネルギーを持つ鉄の原子核の観測例を示しています。上層から入射しCHDを通過した鉄がIMC内で核相互作用によって粒子シャワーを起こし、シャワーエネルギーがTASCによって測定されます。入射粒子のエネルギーがほぼ全て吸収される電子とは異なり、検出器からの漏れ出しは大きくなりますが、シャワーエネルギーの測定精度は高く、テラ電子ボルト領域まで含めて一様なエネルギー応答を有しています。これは磁気スペクトロメータでは得られない重要な特徴です。さらに、CHDとIMCを組み合わせること入射粒子の核種を正確に決定することができます。
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(4)今回の研究で得られた結果及び知見
2015年10月13日から5年間以上にわたる継続的な観測で得られたデータを用いて、CALETにより測定された鉄とニッケルのエネルギースペクトルを図4に、他の観測データと比較して示します(赤点)。
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黄色のバンドはCALETの観測に伴う現時点での統計誤差であり、緑色のバンドは系統誤差を含む全誤差です。図に示されているように、CALETの鉄のスペクトルの絶対値はAMS-02に比べて有意に低い観測結果でしたが、スペクトルの形状はAMS-02ともよく合致した結果となっています。一方CALETのニッケルの結果は、まだエネルギー領域が200GeV/nに限られるものの、鉄とのスペクトルの比はエネルギーによらず一定の値を示しており、両者がほぼ同じ加速・伝播機構で説明できることを示しています。
カロリメータによる原子核測定は独自の利点はあるものの難しさも大きく、系統誤差の見積もりも容易ではありません。CALETでは、加速器ビームによる性能検証実験やシミュレーション計算を駆使して詳細な系統誤差の評価を実施しています。さらに、鉄のスペクトルはAMS-02以外の多くの観測結果とは、誤差が大きいものの絶対値を含めて一致する傾向を示しています。AMS-02との絶対値の違いについては、まだ未知の系統的誤差に関する慎重な相互検証が必要です。
さらに、CALETは今後の観測データの蓄積により、原子核あたり100 テラ電子ボルト領域に至る陽子・原子核スペクトルを決定することで、電荷に比例する加速限界の発見を目指します。これは、超新星残骸における衝撃波加速のエネルギー上限に対する直接検証となります。一方、加速限界が見られず冪スペクトルが100テラ電子ボルト領域まで伸びている場合も、非常に重要な観測結果となります。衝撃波近傍における磁場増幅等により加速限界が実際に増大しているということを、荷電粒子の観測により直接示すことになるためです。
(5)研究の波及効果や社会的影響
CALETの観測には国内外から多くの関心が寄せられ、特に観測項目の一つである暗黒物質は宇宙における最大の謎の一つとして、新聞雑誌だけでなく国外向けのTV番組などでも放映されています。このことにより、CALETの科学成果だけでなくISSにおける「きぼう」の意義が再認識されるという成果も挙がっています。今回の成果もこれに続く波及効果を生むと期待されます。
(6)今後の課題
これまでに観測された荷電宇宙線のスペクトルは、硬化の現象が陽子、ヘリウムや炭素、酸素では既に確認されています。しかしスペクトル硬化の原因として提案されている理論モデルの正否の判定には、ここで報告した鉄やニッケルのようなさらに重い原子核におけるスペクトルのより精密な測定が非常に重要になります。さらに、ホウ素/炭素比のエネルギー依存性の観測も重要な役割を果たします。鉄やニッケルは星の元素合成過程の最終段階で生成され、超新星爆発に伴う衝撃波で加速され星間空間に放出される一次成分のみで構成されていますが、ホウ素は一次成分の宇宙線が銀河内を伝播中に星間物質と相互作用してできる二次的な成分です。このため、両者の測定が加速機構に加えて銀河内伝播の拡散過程を定量的に理解する上で重要になります。CALETはホウ素/炭素比テラ電子ボルト領域までの観測も実施しており、これまでの観測結果を総合することにより、スペクトル硬化の解明への貢献が可能になると考えられます。
(7)用語解説
*1 電子ボルト
エネルギーの単位です。1ボルトの電位差を抵抗なしに通過した際に電子が得るエネルギーが1電子ボルトです。ここではその109倍のギガ電子ボルト、1012倍のテラ電子ボルト、1015倍のペタ電子ボルトのエネルギー領域を扱っています。
*2 スペクトル硬化
冪の絶対値が小さくなる方向のスペクトル変化を表し、エネルギーに対する流束の減少割合が減っていくことを示します。逆に、エネルギーに対する流束の減少割合が増えていくことは、スペクトルの軟化と呼ばれています。
*3 宇宙線
宇宙空間は、何もないように見えますが、じつはとてもたくさんの粒子が飛んでいます。それらは陽子・原子核、電子などの粒子で、宇宙空間で手をかざしたら一秒間に100個以上が手にあたるほどたくさん飛んでいます。そのような粒子を宇宙線と言います。宇宙線は約100年前に発見されて以来、常に物理学の最先端テーマでした。宇宙線の研究から、陽電子や中間子の発見など、人類の知識を大きく広げる成果があがっています。宇宙線は、太陽や天の川銀河(地球がある銀河系)など宇宙の様々な場所から飛んできます。特に高いエネルギーをもったものは、私たちが暮らす太陽系の外からはるばるやってきています。そのうち特に銀河系内の超新星爆発などで加速された宇宙線は銀河宇宙線と呼ばれています。
*4 スペクトル
本稿ではすべてエネルギースペクトルの意味で用いています。横軸をエネルギー、縦軸を流束とした図をエネルギースペクトルと言います。全宇宙線スペクトルは冪形状となっていて、その冪の値は大体 -2.7程度ですので、高いエネルギ―になるにつれ急激に流束が減少します。
*5 宇宙線加速
高エネルギーの宇宙線がどこからきてどのように加速されたのか(=高いエネルギーを得たのか)についてのもっとも有力な説明は、「超新星爆発」です。超新星爆発とは、質量の大きな星がその一生の最後に起こす爆発で、そのとき甚大なエネルギーが放出されます。そのエネルギーによって加速されて地球まで飛んできた粒子が高エネルギーの宇宙線だと考えられていますが、加速されるメカニズムの詳細については、まだわからない点が多く残されています。
深層予測学習型ロボット制御技術開発
作業内容や環境が変化しても行動をリアルタイムに決定・実行可能な深層予測学習型のロボット制御技術を開発
本制御技術がロボット工学分野で最高峰を誇る国際学術誌Science Roboticsに掲載
早稲田大学理工学術院の尾形 哲也(おがた てつや)教授と日立製作所の研究グループは、ロボットの過去の学習内容と現実との差を認識し、次の行動をリアルタイムに決定・実行可能な、深層予測学習型のロボット制御技術を開発しました。本成果は国際学術誌「Science Robotics」に掲載*1されました。 本誌はScience誌の姉妹誌であり、2021年7月時点のインパクトファクタ(IF=23.748)はロボット工学分野で最高峰を誇ります*2。
本ロボット制御技術は、生体の脳の働きを解釈可能な自由エネルギー原理*3を参考に、過去の学習内容と現実の差が最小になるように次の動作を決定・実行可能な計算アルゴリズムを考案したもので、未学習の作業内容や環境に対してもロボットが次の作業を柔軟に実行することができます。さらに本技術では、複数の予測モデルのうち、ロボットが状況に応じて予測モデルをリアルタイムに切り替えることで、急な作業内容や環境の変化にも柔軟に対応可能です。
今後、状況が変わりやすくロボットの導入が困難であった作業現場に本技術の適用を図ることにより、ロボットの適用範囲を拡大し、社会の労働力不足の解決をめざします。
※現場の状況とモデルの予測誤差を最小化する深層予測学習のロボット制御技術を用いて、自律的にドアを開け通過する機能を実証(動画)
■開発した技術の詳細
1.脳機能を参考とする深層予測学習技術
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従来の機械学習では、ロボットが多様な作業に適用できるように、大規模なデータを用い最適な予測モデルを構築する方式が主に用いられてきました。しかし、実際にはロボットは想定外の事象に遭遇するため、事前に全ての状況に対応できる予測モデルを構築することは困難でした。そこで本研究では、予測モデルの不完全性を前提とし、現場の状況とモデルの予測誤差を最小化するアルゴリズム「深層予測学習」を考案しました。本技術は、生体が実世界と脳の予測誤差が最小となるように振る舞うことを説明する「自由エネルギー原理」を参考に開発したもので、ロボットは視覚運動情報に基づき近未来の状況を予測し、現実との誤差(ギャップ)を最小とするように次の動作を指令します。ロボットは学習時と現実の差を許容しながらリアルタイムに動作を調整し続けることで、未学習の状況下でも柔軟に作業可能です。
2.深層予測学習を用いた動作生成技術
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ロボットの機械学習は従来、所望の動作を獲得するまで膨大な数の試行錯誤をすることで、人が考え付かない効率的な動作を獲得できる反面、機械学習に手間と時間を要することが課題でした。本技術では図2に示すように、人が遠隔操作によりロボットに必要な動作を複数回教示し(Step1)、さらに計算機内で数時間学習するだけで(Step2)、所望の動作をプログラミングレスで獲得できる手法を開発しました。ロボットが作業を実行する際には(Step3)、学習内容である過去の経験を想起し現実と比較、実世界に即した必要な動作をリアルタイムに予測することで、未学習の環境や作業対象物に対応することが可能になりました。本技術の有効性を検証するために、
一例として、実ロボットを用いた「ドア開け通過動作」を選定しました。人が日常的に行っているドア開けという簡単な動作でも、そのため、外見からのドアの認識に加え、ドアの動かし方(引く、押す)、ドアの構造(右開き、左開き)、ドアノブの位置・形状に応じた動作を検討する必要があり、人の脳はこれら一連の動作を過去の経験から適切かつ瞬時に判断します。一方で、ロボットでドア開けをする場合には、すべての状況に対応するために膨大な動作学習やプログラムを記述する必要がありました。これに対し本技術は、多種多様な用途・条件下で適用が可能であり、所望の動作を複数回教示するだけで、未学習のドアの模様やドアノブの位置、形状に対しても、ロボットが適切にドア開け動作を実行できることを確認しました。
3.複数予測モデルのリアルタイム切替技術
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複数工程にまたがる作業をロボットが実行するためには、想定される一連動作の流れに加え、想定外の状況への対応を別にプログラムする必要があるため、多くの開発費やロボットの調整作業が必要でした。また、作業環境に想定外の外乱が生じた場合は、ロボットが状況の変化を認識し、作業を再計画するために多くの計算を要し、ロボットの機能停止や作業時間が増加する問題がありました。
本技術では、ロボットは「ドアを開ける」「通過する」といった個別動作ごとに予測モデルを記憶し、それらを組み合わせて一連の作業を実現します。各予測モデルはセンサからの情報を用いて、近未来の状況を示す予測画像を生成し、実際のロボットの視覚画像(実画像)と比較することで(Step1)、現実の状態にどの程度の正確性で作業可能かを示す指標(確信度)の時間変化をリアルタイムに計算します(Step2)。さらに、最も確信度が高い予測モデルをロボットが自律的に選択することで(Step3)、状況に適した行動を実行します。ロボットはこれらの計算をリアルタイムに行うため、動作を切り替えるタイミングや動作の流れを正確に設計することなく、1つの予測モデルでは対応しきれない複雑な作業に対応可能になりました。
*1 Horoshi Ito, Kenjiro Yamamoto, Hiroki Mori, Tetsuya Ogata, “Efficient multitask learning with an embodied predictive model for door opening and entry with whole-body control”, Science Robotics, 6 April 2022, Vol 7, Issue 65
*2日立調べ。
*3 自由エネルギー原理: 環境に対する予測可能性を上げるという原理によって、認識だけでなく行動も生成されるとする仮説に従った脳の理論
■役割分担
早稲田大学
- 認知科学等に基づいた深層予測学習モデルの提案
日立製作所
- 複数予測モデルによるリアルタイム切替技術の提案、実ロボットシステム開発と実験評価
■掲載論文
雑誌名:Science Robotics
論文名:Efficient multitask learning with an embodied predictive model for door opening and entry with whole-body control
執筆者名(所属機関名):Horoshi Ito(日立製作所、研究当時:早稲田大学大学院基幹理工学研究科博士後期課程), Kenjiro Yamamoto(日立製作所), Hiroki Mori(早稲田大学), Tetsuya Ogata(早稲田大学)
掲載日(現地時間):2022年4月6日(米国東部時間)
掲載URL:https://www.science.org/doi/10.1126/scirobotics.aax8177
DOI:10.1126/scirobotics.aax8177
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理工学術院
- [Document Screening Results Announcement] English-based Undergraduate Program AO Admission for entrance in September 2022
2022年度 社会文化領域コース 進入説明会(6/2オンライン実施・要事前登録)のご案内
社会文化領域コース進入説明会を、2022年6月2日 (木) にオンラインで開催します。
関心のある学生は、以下のポスターおよび社会文化領域のホームページ上の情報をよく確認し、必要な手続きをとってください。
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早稲田大学 緊急用お知らせサイト
- 【訓練】緊急時の大学からの連絡方法の確認について/ 【Training】 To reassure the contact method from the University
【訓練】緊急時の大学からの連絡方法の確認について/ 【Training】 To reassure the contact method from the University
ReDoS脆弱性の自動修正技術を実現
プログラム中の文字列チェック機能の脆弱性を自動修正する技術を世界に先駆けて実現
~専門知識をもたない開発者でもReDoS脆弱性の修正が容易に~
日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:澤田 純、以下「NTT」)と学校法人早稲田大学(本部:東京都新宿区 理事長:田中愛治 以下、「早稲田大学」)は、文字列のチェック機能の処理時間を長期化させコンピュータの負荷を大幅に増大させる攻撃を引き起こす脆弱性に対する実用的な自動修正技術を世界に先駆けて実現いたしました。文字列のパターンマッチに用いられる正規表現※1とは、特定の文字の並び(文字列)をルールに基づき簡略化して表現する方法で、Webサービスなどにおいてユーザの入力値が期待したものであるかの検証など幅広い場面で利用されています。難解な正規表現の仕組みやルールを深く理解し、検証すべき文字列を厳密に定義できていないと脆弱性になってしまうため、近年グローバルで大きな脅威となっています。この技術によって、専門知識をもたない開発者でもこうした正規表現の脆弱性の修正が可能となり、安全なサービスの実現が期待できます。
1.背景
ソフトウェアの脆弱性を悪用するサイバー攻撃は後を絶たず、世界中で大きな被害が報告されています。脆弱性とは、プログラムの不具合や設計上のミスなどが原因となって発生するセキュリティ上の欠陥であり、なかでも正規表現を用いた文字列のパターンマッチを行う機能に対して、処理時間が長くなる入力を与えることで計算リソースを消費しサービス運用妨害を引き起こす脆弱性をReDoS脆弱性※2と言います。
正規表現は、ほとんどのプログラミング言語に組み込まれて利用されており、入力文字列が意図されたパターンと一致するか否か(例えば、メールアドレスや電話番号の形式チェック)を判断するエンジン等として、さまざまなソフトウェア/サービスで幅広く利用されています。このReDoS脆弱性が原因で商用のサービスが停止するようなインシデントは、この数年の間にたびたび発生しており、グローバルで大きな脅威として注目を集めています。
2.研究の成果
正規表現は形式言語理論に端を発していますが、パターンマッチの発展・応用に伴って利用可能な演算子が拡張され、実際のソフトウェアで利用される実世界の正規表現※3は従来の理論では扱うのが難しいことが知られています。これまで、実世界の正規表現のReDoS脆弱性を自動的に修正する技術は存在しませんでした。
本成果では、実世界の正規表現を対象にReDoS脆弱性および脆弱性のないことを保証する条件を厳密に定義してReDoS脆弱性の修正問題を形式化し、その修正問題を解くアルゴリズムを考案し、理論的な保証付きのReDoS脆弱性自動修正技術を世界に先駆けて実現しました。
NTTは、実世界の正規表現におけるReDoS脆弱性の定義や修正問題の定義、修正アルゴリズムを考案し、早稲田大学理工学術院の寺内多智弘教授はNTTが考案した手法の理論的な正確さの検証を行いました。
本成果は、セキュリティとプライバシー分野の最難関国際会議IEEE S&P 2022(43rd IEEE Symposium on Security and Privacy)※4に採録されました。S&Pは、1980年から続くセキュリティ・プライバシー分野のトップレベルの国際会議であり、採択率12%程度の狭き門であることが知られています。
3.技術のポイント
本技術のポイントは、①従来の理論では扱いづらかった実世界の正規表現を対象に「ReDoS脆弱性」「ReDoS脆弱性がないことを保証する条件」「ReDoS脆弱性の修正問題」の3点を論理モデルとして明確に定義したこと、②論理モデルに基づいて定義された脆弱性がないことを保証する性質と、プログラムが満たすべき入出力の例をもとに自動でプログラムを生成する「Programming by Examples (PBE)」メソッド※5を用い、修正対象となる正規表現および利用者が望む正規表現に対するポジティブな例(受理される文字列)とネガティブな例(拒否される文字列)を与えると、それらの例を正しく分類し、ReDoS脆弱性がないことを保証した正規表現を出力するアルゴリズムを考案したことです。
このアルゴリズムではReDoS脆弱性がないことを保証するために、正規表現の書き方から曖昧さを排除し、任意の文字列に対してパターンマッチの方法を一意に定める条件を定義し、それに合う修正正規表現を出力させることにより、出力結果に理論的にReDoS脆弱性がないことを保証しています。
このように、プログラムがある性質を満たすことを論理的に検証し、特定の不具合が存在しないことを保証する手法は「形式検証※6」と呼ばれ、従来の発見型のレビューやテストによる網羅性を持たない検証の問題点を解決でき、高品質なソフトウェアを効率的に生成できると期待されています。
4.今後の展開
本技術は、世界中で幅広く使われている正規表現の脆弱性を自動的に修正する技術であり、安全なソフトウェアの創出を可能にするものと期待されます。
発表について
本成果は、2022年5月22~26日に開催されるセキュリティとプライバシー分野の最難関国際会議IEEE S&P 2022(43rd IEEE Symposium on Security and Privacy)にて、下記のタイトル及び著者で発表されます。(所属組織名は投稿時のもの)
タイトル:Repairing DoS Vulnerability of Real-World Regexes
著者:Nariyoshi Chida (NTT Secure Platform Laboratories), Tachio Terauchi (Waseda University)
用語解説
※1 正規表現
コンピュータで特定の文字の並び(文字列)をルールに基づき簡略化して表現する方法の1つで、特定の文字列のパターンを検索・抽出・置換するときに用いられる。
※2 ReDoS脆弱性
ReDoSとはRegular Expression Denial of Serviceの略で、正規表現のパターンマッチにかかる処理時間を長期化させて計算リソースを消費し、サービス停止を引き起こすような正規表現の脆弱性のことを表す。
※3 実世界の正規表現
形式言語理論において正規言語を表すために導入された純粋正規表現とは異なる性質を持つ、実際のソフトウェアで利用されている拡張された正規表現のことを表す。具体的には、純粋正規表現にはない演算子(後方参照、先読み)を利用可能な正規表現を示している。
※4 S&P
IEEEが主催するセキュリティとプライバシー分野のトップ会議 IEEE Symposium on Security and Privacyであり、最先端のセキュリティ対策技術が発表される。
※5 Programming by Examples (PBE)メソッド
プログラミングの知識を持たないエンドユーザでもプログラムを生成できるようにする手法の1つで、プログラムが満たすべき入出力の例を与えると、それを実現するプログラムを自動で生成する技術。
※6 形式検証
プログラムの状態をモデル化し、ある性質を満たしていることを論理的に検証する高信頼なソフトウェアを設計・開発する手法。
Most Distant Galaxy Candidate Yet
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Figure 1 Three-color image of HD1, the most distant galaxy candidate to date, created using data from the VISTA telescope. The red object in the center of the zoom-in image is HD1. (Credit: Harikane et al.)
An international astronomer team has discovered the most distant galaxy candidate to date, named HD1, which is about 13.5 billion light-years away. This discovery implies that bright systems like HD1 existed as early as 300 million years after the Big Bang. This galaxy candidate is one of the targets of the James Webb Space Telescope launched late last year. If observations with the James Webb Space Telescope confirm its exact distance, HD1 will be the most distant galaxy ever recorded.
To understand how and when galaxies formed in the early Universe, astronomers look for distant galaxies. Because of the finite speed of light, it takes time for the light from distant objects to reach Earth. If an object is 1 billion light-years away, it means that the light left that object 1 billion years ago and had to travel for 1 billion years to reach us. Thus studying distant galaxies lets us look back in time.
The current record holder for the most distant galaxy is GN-z11, a galaxy 13.4 billion light-years away discovered by the Hubble Space Telescope. However, this distance is about the limit of Hubble’s detection capabilities.
HD1, a candidate object for the earliest/most-distant galaxy at 13.5 billion light-years away, was discovered from more than 1,200 hours of observation data taken by the Subaru Telescope, VISTA Telescope, UK Infrared Telescope, and Spitzer Space Telescope. “It was very hard work to find HD1 out of more than 700,000 objects,” says Yuichi Harikane, an assistant professor of ICRR, the University of Tokyo, who discovered HD1. “HD1’s red color matched the expected characteristics of a galaxy 13.5 billion light-years away surprisingly well, giving me a little bit of goosebumps when I found it.”
The team conducted follow-up observations using the Atacama Large Millimeter/submillimeter Array (ALMA) to confirm HD1’s distance. Akio Inoue, a professor at Waseda University, who led the ALMA observations, says, “We found a weak signal at the frequency where an oxygen emission line was expected. The significance of the signal is 99.99%. If this signal is real, this is evidence that HD1 exists 13.5 billion light-years away, but we cannot be sure without a significance of 99.9999% or more.”
HD1 is very bright, suggesting that bright objects already existed in the Universe only 300 million years after the Big Bang. HD1 is difficult to explain with current theoretical models of galaxy formation. Observational information on HD1 is limited and its physical properties remain a mystery. It is thought to be a very active star-forming galaxy, but it might be an active black hole. Either possibility makes it a very interesting object. In recognition of its astronomical importance, HD1 was selected as a target for the cycle 1 observations by the James Webb Space Telescope, launched last year. Yuichi Harikane, who is leading these observations, says, “If the spectroscopic observation confirms its exact distance, HD1 will be the most distant galaxy ever recorded, 100 million light-years further away than GN-z11. We are looking forward to seeing the Universe with the James Webb Space Telescope.”
This research will be published in the April 8, 2022 issue of The Astrophysical Journal as Yuichi Harikane, et al. “A Search for H-Dropout Lyman Break Galaxies at z~12-16”. This work was supported by the Japanese Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology (MEXT), the Japan Society for the Promotion of Science (17H06130, 19J01222, 20K22358, 21K13953), and the NAOJ ALMA Scientific Research Grant (2020-16B).
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Figure 2 Earliest galaxy candidates and the history of the Universe.
(Credit: Harikane et al., NASA, ESA, and P. Oesch (Yale University))
Journal: The Astrophysical Journal
Title: “A Search for H-Dropout Lyman Break Galaxies at z~12-16”
Authors: Yuichi Harikane, Akio K. Inoue, Ken Mawatari, Takuya Hashimoto, Satoshi, Yamanaka, Yoshinobu Fudamoto, Hiroshi Matsuo, Yoichi Tamura, Pratika Dayal, L. Y. Aaron Yung, Anne Hutter, Fabio Pacucci, Yuma Sugahara, and Anton M. Koekemoer
DOI:10.3847/1538-4357/ac53a9
URL:https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ac53a9
https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2021arXiv211209141H/abstract
135億光年彼方の最遠方銀河候補発見
135億光年かなたの最遠方銀河の候補を発見
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図 1 研究チームが発見した、観測史上最遠方の銀河候補HD1の擬似カラー画像。拡大図の中心にある赤い天体が、今回発見された最遠方銀河候補HD1です。VISTA望遠鏡による3色の観測データを合成することで、画像に色をつけています。(クレジット: Harikane et al.)
1.発表者
播金 優一(東京大学宇宙線研究所 宇宙基礎物理学研究部門 助教)
井上 昭雄(早稲田大学 理工学術院先進理工学部 教授)
2.発表のポイント
- 135億光年かなたの宇宙に明るく輝く銀河の候補を発見しました。現在見つかっている銀河の中で最遠方の候補です。
- 発見された銀河は非常に明るく、これまでの銀河形成モデルでは予想されていなかったような天体です。
- 銀河候補はジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の第1期観測ターゲットになっており、今後の観測でこの時代の宇宙について、大きく理解が進むことが期待されます。
3.発表概要
東京大学宇宙線研究所の播金優一助教、早稲田大学理工学術院先進理工学部の井上昭雄教授を中心とする国際研究チームは、135億光年かなたの宇宙に存在する明るい銀河の候補、HD1を発見しました。この発見はHD1のような明るい天体が、ビッグバン後わずか3億年の宇宙に既に存在していたことを示唆しています。この銀河候補は昨年末に打ち上げられたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の第1期観測のターゲットになっており、分光観測により正確な距離が確認されれば、これまでの記録を塗り替える最遠方の銀河になります (注)。
本成果を記した論文は、2022年4月8日に米国の天文学誌『アストロフィジカル・ジャーナル』(The Astrophysical Journal) の電子版に掲載されました。
論文名:A Search for H-Dropout Lyman Break Galaxies at z~12-16
4.発表内容
① 研究の背景・先行研究における問題点
最遠方銀河の観測は、単に人類の知の地平線を広げるだけでなく、天文学的には宇宙で最初に誕生した初代銀河の形成を知る上でも重要です。初期宇宙において銀河がいつどのように生まれたのかを理解するために、天文学者たちはより昔、つまりより遠方の銀河を探してきました。これまで見つかった銀河の中で最も遠方のものは、ハッブル宇宙望遠鏡が発見した134億光年かなたの銀河、GN-z11でした。しかしさらに遠方の135億光年かなたの銀河は、これまで候補すら見つかっていませんでした。これは135億光年かなたの銀河からの光の波長は宇宙の膨張のために1.7マイクロメートルよりも伸びてしまうため、ハッブル宇宙望遠鏡のカバーする1.7マイクロメートルまでの波長では観測が難しかったためです。
② 研究内容
そこで播金優一助教らは、ハッブル宇宙望遠鏡よりも長い波長をカバーしている地上望遠鏡の観測データを用いて、GN-z11よりも遠方の宇宙に存在する銀河を探査しました。研究チームをリードした播金優一助教はこう語ります。「135億光年かなたの銀河を探すには現状では長い波長をカバーしている地上望遠鏡の画像を使う必要があるのですが、このような試みはこれまで行われてきませんでした。これは地上望遠鏡はハッブル宇宙望遠鏡に比べて感度が悪く、普通は暗いと考えられている遠方銀河の探査には不向きだと思われていたためです。しかし我々は最近の複数の研究結果から明るい遠方銀河も実は存在するのではないか、と仮説を立て、地上望遠鏡の画像データを使って135億光年かなたの銀河を探し始めました。」
すばる望遠鏡、VISTA望遠鏡、UK赤外線望遠鏡、スピッツァー宇宙望遠鏡の合計1200時間以上の観測によって得られた70万個以上の天体データから、135億光年かなたの最遠方銀河の候補天体、HD1が発見されました。「70万個以上の天体からHD1を見つけるのはとても大変な作業でした。」実際にHD1を発見した播金優一助教は話します。「銀河の探索条件を変えながら何度も画像データを調べ上げて、数ヶ月かけてやっとHD1に出会うことができました。HD1の色は赤く、135億年前の銀河の予想される特徴と驚くほどよく一致しており、見つけた時には少し鳥肌が立ちました。銀河のスペクトルモデルを使った詳細な解析を経て、私たちはHD1は135億年前の銀河だという解釈が最も妥当だと結論づけました。しかし確証を得るためには、正確な距離を測ることのできる分光観測が必要です。」
そこで研究チームは酸素輝線を検出するために、ALMA望遠鏡を用いて分光観測を行いました。分光観測をリードした井上昭雄教授はこう語ります。「我々は酸素輝線が予想される周波数に弱いシグナルを見つけました。シグナルの有意度は99.99%です。もしこのシグナルが本物なら、HD1は135億光年かなたに存在していることの証拠になりますが、99.9999%の有意度がないと確証は持てません。一方でシグナルが弱いことは酸素が少ないこと、つまりHD1はできたての初代銀河のような性質を持つことを示しているのかもしれません。」
HD1は非常に明るく、これはHD1のような明るい天体がビッグバン後わずか3億年の宇宙に既に存在していたことを示唆しています。HD1の存在は、これまでの銀河形成の理論モデルでは予言されていませんでした。HD1に関する観測的な情報は限られており、物理的な性質は謎に包まれています。非常に活発な星形成をしている銀河だと考えられますが、一方で活動的なブラックホールだという説もあります。どちらの説でも非常に興味深い天体です。
③ 社会的意義・今後の予定
HD1はその天文学的な重要性が認められて、去年に打ち上げられたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の第1期観測のターゲットになっています。播金優一助教はこの宇宙望遠鏡による観測も主導しています。「HD1はジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の分光器の1つ、NIRSpecにより観測が行われる予定です。もし分光観測により正確な距離が確認されれば、GN-z11より1億光年遠い、これまでの記録を塗り替える最遠方の銀河になります。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡では他にもワクワクするような観測がたくさん予定されており、今から観測が非常に待ち遠しいです。」
※今回の研究は、科学研究補助金 (番号 17H06130, 19J01222, 20K22358, 21K13953) 、国立天文台ALMA共同科学研究事業2020-16Bによるサポートを受けています。
5.発表雑誌
雑誌名:The Astrophysical Journal (2022年4月8日掲載)
論文タイトル:A Search for H-Dropout Lyman Break Galaxies at z~12-16
著者: Yuichi Harikane, Akio K. Inoue, Ken Mawatari, Takuya Hashimoto, Satoshi, Yamanaka, Yoshinobu Fudamoto, Hiroshi Matsuo, Yoichi Tamura, Pratika Dayal, L. Y. Aaron Yung, Anne Hutter, Fabio Pacucci, Yuma Sugahara, and Anton M. Koekemoer
DOI番号:10.3847/1538-4357/ac53a9
URL:https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ac53a9
https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2021arXiv211209141H/abstract
注記
(注) 今回見つかった銀河候補HD1の推定赤方偏移はz=13.3でした。赤方偏移は宇宙論的距離を表す際に使われる指標です。Planck 観測機チームが2015年に公表した宇宙論パラメータ (Planck Collaboration 2016, “Planck 2015 results. XIII.Cosmological parameters”, “TT,TE,EE+lowP+lensing+ext” in Table 4; H0 =67.74 km/s/Mpc, Ωm=0.3089, ΩΛ=0.6911) を用いて赤方偏移から距離を計算すると134.8億光年となり、HD1は134.8億年前に存在していたことになります。一方で宇宙は膨張していますので、現在の宇宙では我々とこの銀河候補の距離は134.8億光年以上になります。参考としてGN-z11は赤方偏移がz=11.0で、133.8億光年かなたの宇宙に存在しています。また今回の研究ではHD1の他に、134.4億光年かなた (赤方偏移z=12.3)に存在する銀河の候補、HD2も見つかっており、こちらもジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測が行われる予定です。
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図2 発見された最遠方銀河候補と宇宙の歴史。最遠方銀河候補HD1は推定赤方偏移z=13.3と、GN-z11(赤方偏移z=11.0)よりも約1億光年遠い宇宙に存在すると予想されています。(クレジット:Harikane et al., NASA, ESA, and P. Oesch (Yale University))
2022年5月7日(土) 大学院基幹・創造・先進理工学研究科および大学院情報生産システム研究科個別相談会・専攻別企画について
「細菌とファージの攻防」(2022/4/16)
演題:細菌とファージの攻防
日時:2022年4月16日(土) 9:30 – 11:00
会場:オンライン(Zoom)による開催
講師:大塚 裕一(埼玉大学 理学部 分子生物学科・准教授)
対象:学部生・大学院生、教職員、学外者、一般の方
参加方法:参加希望者は[email protected] (常田)まで連絡してください。
参加のためのZOOM情報をご連絡します。
主催:早稲田大学 先進理工学研究科 生命医科学専攻
問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課
TEL:03-5286-3000
2023年度「物理Q&A」/ Physics Q&A AY2023(23/4/3Updated)
1年生の物理に関してわからないことがあれば気軽に物理Q&Aをご利用ください。先輩が優しく教えてくれます。相談を希望の場合は以下の開室日時に55号館N棟3階305Aゼミ室までお越しください(予約不要)。
If you have any questions about physics courses in the 1st year, feel free to come to “Physics Q&A”. TA will answer to your questions! You may visit “Physics Q&A” at Room 305A on the 3rd floor of Bldg.55N during the opening hours without appointment
重要/Important note
開室時間外は対応はできません.また,試験問題の解答そのものを求めることは,不正行為とみなされる場合があります.We are able to respond your inquiries ONLY opening hours. Also, asking for the answers of the exam questions themselves may be considered cheating.
開室日時/Opening hours
| 月曜日 Monday | 11:00-14:00 (LO 13:30) |
|---|---|
| 水曜日 Wednesday | 10:00-13:00 (LO 12:30) |
| 木曜日 Thursday | 10:00-13:00 (LO 12:30) |
| 金曜日 Friday | 10:00-13:00 (LO 12:30) |
※授業期間中(春学期4月12日~7月24日,秋学期10月5日~1月27日(2024年))のみ開室。Open during spring semester (April 12-July 24) and fall semester (October 5-January 27, 2024).
ご卒業・修了おめでとうございます。2021年度学位授与式が行われました。
“発酵おから”の抗肥満効果
“発酵おから”による脂質代謝改善と抗肥満効果
発表のポイント
- 産業廃棄物でもある “おから” の有効利用のため、麹菌による発酵を試みた
- 発酵おからは、未発酵おからに比べ、有用成分である栄養プロファイル含有量が増加
- 高脂肪食に発酵おからを混合したことにより、マウスの脂質異常・肥満が大きく改善された
概要
早稲田大学理工学術院 先進理工学研究科 修士課程2年在籍の市川 なつみ(いちかわ なつみ)と、同学術院の柴田 重信(しばた しげのぶ)教授、およびシンガポールの南洋理工大学Ken Lee准教授を中心とする研究グループは、麹菌を用いておからを固体発酵させることが有用成分を変化させ、総フェノール量、タンパク質含有量、アミノ酸含有量といった栄養プロファイルが改善されることを発見しました。また、高脂肪食に発酵おからを混合することにより、マウスの脂質代謝が改善され、抗肥満や脂質異常の改善効果を示すことを明らかにいたしました。
本研究成果は、『Metabolites』に、”Solid-State Fermented Okara with Aspergillus spp. Improves Lipid Metabolism and High-Fat Diet Induced Obesity”として、2022年2月23日(水)付けでオンライン掲載されました。
大豆加工品の需要に伴い、おからは産業廃棄物として大量に出てくるため、その利活用が課題となっています。本研究グループは、麹菌のAspergillus oryzae(A. oryzae)とAspergillus sojae(A. sojae)を組み合わせ、固体発酵によっておからの機能性が向上することを発見し、発酵おからが抗肥満、脂質代謝異常の改善効果を示すことをマウスのモデルで見出すことに成功しました。今回開発した発酵おからは、肥満や脂質異常症を改善できる食材になることが期待できるとともに、環境と経済の両面で、食品廃棄物の問題解決、有用な機能性食品の改良、SDGs(持続可能な開発目標)への貢献も期待できます。
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(1)これまでの研究で分かっていたこと
おからは食物繊維やタンパク質、ポリフェノール等を含み、栄養価が高いことが知られています。また、様々な食用微生物を用いた固体発酵※1により、おからの栄養成分が向上することも知られています。しかし、発酵おからは機能性食品としての利点があるにも関わらず、これまで肥満に対する効果について調査した研究は限られていました。さらに、おからの廃棄処理の多さから、その利活用が課題となっていることから、発酵おからの機能性を検証することで食品廃棄物の問題と肥満予防を同時に解決できるのではないかと考えました。
(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと
本研究では、安全性が担保されている日本の伝統的な麹菌6種類ほどから、Aspergillus oryzae(A. oryzae)とAspergillus sojae(A. sojae)※2などを組み合わせ、固体発酵によっておからの機能性向上を試みました。さらに、開発した発酵おからの摂取が食事誘発性肥満に及ぼす影響をマウスモデルで定量的に明らかにしました。固体発酵と成分分析を南洋理工大学が担当し、マウスによる検証を早稲田大学が担当するという共同研究の成果です。
① 麹菌を用いた固体発酵により肥満抑制に対するおからの栄養構成が向上
本研究では、6種類の中からA. oryzaeとA. sojaeの混合麹菌を用いて4日間固体発酵させたところ、おからの栄養因子が大きく変化しました。総フェノール量、タンパク質量、総アミノ酸量(図1右)、糖類は増加し、食物繊維量が減少しました。
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② 麹菌固体発酵おからはマウスの脂質代謝を改善し、脂肪の蓄積を抑制
固体発酵させることにより栄養構成が向上した発酵おからが、実際に肥満に対してどのような影響を与えるかを調べるために、高脂肪食に発酵おからを混ぜ、脂肪重量や血清パラメータなどを測定しました。マウスを(1)通常食、(2)高脂肪食+カロリーコントロール食*、(3)高脂肪食+未発酵おから、(4)高脂肪食+発酵おから の4群に分け、以下の餌を各群に与えて3週間飼育しました。その結果、発酵おからは未発酵おからと比較して、脂肪蓄積と体重増加を抑制することが分かりました(図2上)。また、発酵おからの添加により肝臓中、血清中のコレステロールが減少しました(図2下)。脂質の代謝や合成に関わる遺伝子発現が変化していたことから、発酵おからは脂質代謝を改善することによって脂肪蓄積や体重増加を抑制することが示唆されました。
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(3)研究の波及効果や社会的影響
麹菌を用いた固体発酵おからは栄養成分が増加し、さらに脂質代謝を改善することが明らかとなりました。世界人口の3分の1近くが「体重過多」または「肥満」である現代において、肥満問題の解消は急務であり、本研究で開発した発酵おからもまた、機能性食品としての実用化が期待できます。さらに、おからの廃棄問題は日本のみならず、今回共同研究したシンガポールにおいても深刻な問題であり、機能性改善により食品産業でのおからの利用が進めば、環境と経済の両面で廃棄問題の解決、SDGs(持続可能な開発目標)にも貢献できる可能性があります。
(4)今後の課題
実際に固体発酵おからのどの栄養素が脂肪蓄積に大きく寄与したのかを解明することで、より高機能な発酵おからの開発につなげることができます。また、発酵おからの全成分を同定しておらず、固体発酵おからの安全性の検証、風味の検証あるいは詳細な作用機序解明など、実用化のためには多くの解決すべき課題があります。
(5)研究者からのコメント
本研究では、日本の伝統的な麹菌を用いた固体発酵により機能性の高いおからを開発することができました。近年、健康志向が高まっていることも受け、日本の文化でもある大豆製品、発酵食品のさらなる発展が期待されます。
(6)用語解説
※1 固体発酵
自由流動性の水分がない状態での微生物による発酵方法のひとつ。液体発酵に対し、固体を主な媒体として発酵が行われ、分離や培養制御など困難な点もあるが、酵素生産・発現など有利な点も多い
※2 Aspergillus oryzae(A. oryzae) とAspergillus sojae(A. sojae)
清酒、醤油、味噌などの日本の伝統的な発酵食品の製造に用いられる微生物のなかでも、代表的な麹菌の一種。
(7)論文情報
雑誌名:Metabolites
論文名:Solid-State Fermented Okara with Aspergillus spp. Improves Lipid Metabolism and High-Fat Diet Induced Obesity執筆者名(所属機関名):Natsumi Ichikawa1,#, Li Shiuan Ng2, Saneyuki Makino1, Luo Lin Goh2, Yun Jia Lim2, Ferdinandus2,Hiroyuki Sasaki1, Shigenobu Shibata1,* ,Chi-Lik Ken Lee 2,*
# 筆頭著者、*責任著者
所属機関名:1.早稲田大学 理工学術院、2.Division of Chemistry and Biological Chemistry, School of Physical and Mathematical Sciences, Nanyang Technological University
掲載日時(オンライン):2022年2月23日(水)
URL:https://www.mdpi.com/2218-1989/12/3/198
DOI:https://doi.org/10.3390/metabo12030198
(8)研究助成
- 研究費名:JST未来社会創造事業
研究課題名:時間栄養学視点による個人健康管理システムの創出
研究代表者名(所属機関名):柴田 重信(早稲田大学) - 研究費名:科学研究費 基盤研究A
研究課題名:ライフステージ別の体内時計応用の健康科学研究
研究代表者名(所属機関名):柴田 重信(早稲田大学)
低温で効率よくCO₂の再資源化に成功
低温で効率よく二酸化炭素を再資源化することに成功
発表のポイント
- 2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けて、二酸化炭素を容易に再資源化できる技術が期待されている。
- 新規材料を用い、従来よりも大幅に低温な400~500度においても二酸化炭素の80%以上を反応させ、再資源化することに成功した。
- 反応速度も工業的な要求を十分に満たせるほどの速さを実現した。
早稲田大学理工学術院の関根 泰(せきね やすし)教授らの研究グループは、コバルトとインジウムという元素を組み合わせた新規材料を用い、従来に比べて大幅に低温で効率よく二酸化炭素を再資源化することに成功しました。
2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けて、二酸化炭素を容易に再資源化できる技術が期待されています。しかし、二酸化炭素の再資源化には700度以上という高温な温度条件が必要であり、その条件を満たしていても、反応を効率良く進めることが難しい現状にありました。
今回研究グループは、新規材料を用い、従来よりも大幅に低温な400~500度においても二酸化炭素の80%以上を反応させることに成功しました。また、その際の反応速度も工業的な要求を十分に満たせるほどの速さ(材料1kgあたり1日に17.7キログラムの二酸化炭素を転換可能)を実現しました。国内外で数多くの研究が行われている中で、本研究成果は二酸化炭素の再資源化の社会実装に向けて進むきっかけになりえます。
本研究成果は、2022年3月17日(木)にイギリス王立化学会の『Chemical Communications』のオンライン版で公開されました。
論文名:Efficient CO2 conversion to CO using chemical looping over Co-In oxide
(1)これまでの研究で分かっていたこと
2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けて、二酸化炭素の再資源化は一つの切り札とされています。二酸化炭素を集めること、ならびにそれを反応させて再資源化させることは、いずれも難しい技術です。特に、化学原料として重要な一酸化炭素を二酸化炭素から作るには、従来700度以上の過酷な条件が必要でした。さらにそのような条件であっても、反応を効率良く進めることは難しく、また高温故に材料選定などにもいろいろな制約が存在しました。
(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと
本研究グループは、高温において二酸化炭素から一酸化炭素を作ることが難しいという問題は、従来の手法の延長では解決できないと考えました。そこで新しい手法を用い、独自に開発した材料によって、高性能化・低温化を実現させようと考えました。この結果、多様な材料を体系的に検討し、コバルトをインジウム酸化物に修飾した新規材料が、本手法のために優れた結果を見出すことを発見しました。この材料は、従来の700度以上必要な条件に比べて、大幅に低温な400~500度においても二酸化炭素の80%以上を反応させられるという画期的な性能を示し、その際の反応速度も工業的な要求を十分に満たせるほどの速さ(材料1kgあたり1日に17.7キログラムの二酸化炭素を転換可能)を実現しました。また、その際の反応メカニズムをSPring-8などの最先端の分光により明らかにしました。
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ケミカルループによって二酸化炭素が再資源化されるイメージ
(3)そのために新しく開発した手法
本研究グループは、1.ケミカルルーピング※1という反応場を分ける手法を編み出し、2.そのための優れた材料を生み出し、3.なぜその材料が優れているかを最先端分光などで解析し、これらのPDCAサイクルによって高性能化を実現しました。
(4)研究の波及効果や社会的影響
カーボンニュートラル実現に向けて、化石資源利用からの脱却が期待され、二酸化炭素の再資源化による物質や燃料群の合成技術の開発は待ったなしの状況です。国内外で数多くの研究が行われている中で、このように飛躍的に高い性能・低い温度を実現した本技術は、今後、二酸化炭素の再資源化の社会実装に向けて進むきっかけになりえます。
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本手法で従来の化学反応の熱力学平衡(実線)を大きく上回る低温・高性能を実現
(5)今後の課題
ケミカルルーピングという反応場を分ける手法は、まだ産業界ではそう馴染みのある手法ではないため、今後これを実際に運用していくにあたっての課題を見出して解決していく必要があると考えられます。具体的には、反応のサイクルを重ねることによる材料の粉化や劣化をどう抑制するか、などを、今回の共同研究先であるENEOS社と共に検討していきます。
(6)研究者のコメント
国内外で数多く研究されている二酸化炭素再資源化ですが、このような高性能・低温化を実現できたことは非常に喜ばしく、早期に社会実装に向けて共同研究先のENEOS社などの企業とタッグを組んで進めて行きたいと考えています。
(7)用語解説
※1 ケミカルルーピング
材料の酸化と還元を独立した条件で行い、これを繰り返すことで従来の反応に比べて低温化が可能で、生成ガスの分離が不要になる手法。
(8)論文情報
雑誌名:Chemical Communications (イギリス王立化学会)
論文名:Efficient CO2 conversion to CO using chemical looping over Co-In oxide
執筆者名(所属機関名):牧浦 淳一郎(早稲田大学)・柿原 聡太(早稲田大学)・比護 拓馬(早稲田大学)・伊藤 直樹(ENEOS)・平野 佑一朗(ENEOS)・関根 泰(早稲田大学)
掲載日(現地時間):2022年3月17日
掲載URL:dx.doi.org/10.1039/d2cc00208f
DOI:10.1039/d2cc00208f
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