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【PEP卓越大学院プログラム】2025年1月実施8期生(2025年4月進入・編入)選抜試験(SE)情報を更新しました
2024年10月4日 17:13
卓越大学院プログラム
「パワー・エネルギー・プロフェッショナル(PEP)育成プログラム」
2025年1月実施の8期生(2025年4月進入・編入)選抜試験(SE)に関する情報を更新致しました。
詳細は、理工学術院HP大学院入試ページの中のPEP SE情報ページ(募集要項・出願書類)をご参照ください。
見えてきた医理工連携の成果と展開(第4回日本医科大学・早稲田大学合同シンポジウム開催報告)
2024年10月3日 14:38
2024年9月28日(土)、第4回「日本医科大学・早稲田大学合同シンポジウム~両校の実質的連携を目指した研究交流~」を早稲田大学121号館コマツホールにおいて開催しました。
日本医科大学と本学との連携は、2009年に締結した包括協定から始まり、実質的な研究連携への合意(2020年)を経て、本学附属校・系属校との高大接続連携に関する協定(2020年)へと発展してきました。2021年度からは、日本医科大学で選抜された3年生を、本学の理工系研究室に3週間迎え入れて交流を図る「研究配属」も実施しています。
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シンポジウム冒頭の開会挨拶で、日本医科大学学長の弦間昭彦氏は、実質的な共同研究がかなり進んできているところであり、今後は「Well-being」をキーワードとして、より一層の連携を進めていきたいと述べられました。続く早稲田大学総長の田中愛治からは、改めて2020年度以降の実質的研究連携や高大接続連携への謝辞が述べられるとともに、医療とロボット工学との連携を例に、両大学の強みを様々に組み合わせることで、社会の要請に応える成果を多く生み出すことができるとの期待が述べられました。
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左:日本医科大学学長の弦間昭彦氏、右:本学総長の田中愛治
開会挨拶に続く第一部では、日本医科大学2名、本学2名の研究者が両校の共同研究実績も含めた研究紹介を行いました。
- 村上 善則(日本医科大学 先端医学研究所 分子生物学部門 特命教授)
「多層的生体情報の統合による新規疾患予防法の開発」 - 酒井 哲也(早稲田大学理工学術院 教授)
「頭部MRI画像を用いた研究の進捗少々および関連しそうな画像処理分野の話題」 - 山本 林(日本医科大学 先端医学研究所 遺伝子制御学部門 教授)
「液滴オートファジーとエクソソーム分泌」 - 澤田 秀之(早稲田大学 理工学術院 先進理工学部 応用物理学科 教授)
「末梢神経障害診断法の開発ならびにヒトの手の解剖学的構造を再現したBionic Fingerの開発」
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研究紹介の様子(左から、村上特命教授、酒井教授、山本教授、澤田教授)
第二部では、日本医科大学生が早稲田大学における研究配属の成果発表を行い、優秀研究賞1件が選ばれました。
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成果発表・質疑応答の様子
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左から、日本医科大学学長の弦間昭彦氏、優秀研究賞を受賞した日本医科大学生、本学副総長の須賀晃一
閉会挨拶では、まず本学副総長の須賀晃一から、両大学の共同研究が様々に進んでいくことへの期待が語られました。さらに日本医科大学学生の研究配属についても触れ、早大創設者である大隈重信の言葉を交えながら、失敗から学ぶことが重要であるとの、学生への激励の言葉も送られました。次に、日本医科大学大学院医学研究科長の桑名正隆氏からは、すでに実質的連携が進んできているとの実感と、研究交流に限らず研究配属での学生指導や講義など、様々な機会を通して相乗的に連携を進め成果を生み出していくことへの意欲が述べられました。
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当日参加した両大学の教員・研究者の集合写真
今後も、日本医科大学と本学は、研究と教育との両輪で連携を推進し、社会に貢献してまいります。
光合成微生物の力でサステナブルな細胞培養を実現
2024年10月3日 14:28
光合成微生物の力でサステナブルな細胞培養を実現
-老廃物のアップサイクルで培養肉技術の課題解消への途を拓く-
発表のポイント
- 乳酸を吸収する光合成微生物シアノバクテリアを動物細胞と共培養※1することで、相互に栄養素と老廃物を交換する培養システムを構築し、動物細胞の長期培養を実現
- 成長因子※2を分泌する動物細胞とシアノバクテリアを共培養した時に得られる培養上清液※3は、動物細胞を単独で培養した時に得られる上清液よりも3倍以上骨格筋芽細胞の増殖を促進
- 本培養上清液を用いることで培養肉※4生産の課題となっている動物血清の使用を削減できることを確認。今後、培養肉生産だけでなく、精密発酵やバイオ医薬生産に応用することで、食料・医薬品の生産コストの削減および環境負荷低減に貢献の可能性
早稲田大学理工学術院の朝日透(あさひとおる)教授、同大大学院先進理工学研究科(一貫制博士課程)の秋尚雅(チュサンア)、および東京女子医科大学先端生命医科学研究所の清水達也(しみずたつや)教授、原口裕次(はらぐちゆうじ)特任准教授の研究グループは、神戸大学先端バイオ工学研究センターの蓮沼誠久(はすぬまともひさ)教授の研究グループと共同で、自浄作用および栄養循環を果たす食料生産システムを構築するため、光合成微生物を利用した新しい細胞培養システムを開発しました。
近年、持続可能な食肉生産技術として培養肉が注目されていますが、動物血清の使用や老廃物の蓄積および栄養枯渇により、多量の培養液使用とその廃液の発生が課題となっています。本研究では、動物細胞の代謝老廃物(乳酸・アンモニア)を栄養源(ピルビン酸・アミノ酸)に変換する光合成微生物のシアノバクテリアを成長因子分泌動物細胞と共培養することにより、動物血清を使用せず、さらに培養液の使用量を削減する低コストで低環境負荷の培養肉生産につながる細胞培養システムを実現しました。
本研究成果は、2024 年8月23日にネイチャー・パブリッシング・グループのオンライン総合科学誌『Scientific Reports』に発表されました。
論文名:A serum-free culture medium production system by co-culture combining growth factor-secreting cells and L-lactate-assimilating cyanobacteria for sustainable cultured meat production
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図1:低コストで低環境負荷の循環型細胞培養システム
キーワード
培養肉、光合成、共培養、シアノバクテリア、成長因子、細胞増殖、培養システム、乳酸
これまでの研究で分かっていたこと
培養肉は、2012年にオランダ・マーストリヒト大学のMark Post教授によって初めて提唱され、大豆ミートや昆虫タンパクと並ぶ代替タンパク質の一種として、世界中で研究・開発が進められています。現在では、174社以上の培養肉ベンチャーが立ち上がり、特にアメリカやシンガポールでは市場化が進んでいます。これに伴い、世界中の投資家や企業からの関心が高まり、培養肉分野には31億ドル規模の投資が行われ、今後さらなる拡大が期待されています。(参考文献1)
従来の培養肉生産において、動物筋肉細胞の増殖のために動物血清が不可欠でしたが、そのコストや動物倫理に対する懸念が問題視されていました。そのため、血清を使わず、動物筋肉細胞を増殖できる培養方法が求められています。血清には細胞の成長因子といったタンパク質が含まれ、これらは特定の動物細胞から分泌されていることがわかっています。先行研究(参考文献2)において、ラット肝臓細胞が分泌する成長因子を含む培養上清液が、血清を使わずに牛骨格筋芽細胞の増殖を促進することを発見しました。成長因子分泌細胞を長期間培養すれば多量の成長因子が得られる一方で、乳酸やアンモニアなどの老廃物が蓄積することで培養液の性能が低下する問題があります。そのため、成長因子分泌細胞の培養上清液の血清代替としての性能を高めるためには、老廃物の除去が不可欠となります。さらに長期間の培養は栄養素の枯渇をもたらします。先行研究(参考文献3)では、乳酸を取り込みピルビン酸に変換するリコンビナント※5シアノバクテリアを開発しました。
そこで、本研究グループでは、成長因子を分泌する細胞と乳酸などの老廃物を取り込み、かつ老廃物を栄養素に変換するシアノバクテリアを共培養する新たな培養システムを考案しました。それにより、動物血清を用いることなく効率的な筋肉細胞の増殖が実現するのではないかと考えました。
今回新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、そのために新しく開発した手法
シアノバクテリアの一種であるシネココッカスは、光合成能力が高く、遺伝子組換え操作も容易で、さらに動物細胞に対して優れた生体適合性を持つことから、さまざまな分野で利用されています。本研究で使用したL-乳酸を取り込むシアノバクテリアも、シネココッカスのリコンビナント株であり、動物細胞の老廃物である乳酸とアンモニアを動物細胞の栄養素となるピルビン酸とアミノ酸に変換する能力は、先行研究(参考文献2)で確認されていました。しかし、動物細胞と共培養を行った時にも、この機能が発揮されるかは未知のままでした。
本研究で、このシアノバクテリアと成長因子を分泌するラット肝臓細胞を共培養すると、培養条件を最適化することで、シアノバクテリアが乳酸を3割以上、アンモニアを9割以上減少させることを確認しました。さらに、シアノバクテリアによって産生されたピルビン酸やアミノ酸は、動物細胞によって利用される量よりも多く、結果として培養上清液中に栄養源が多く残存していることが明らかになりました。この上清液を用い、血清を使わずに骨格筋芽細胞を増殖させたところ、その増殖率はラット肝臓細胞の単独培養上清液と比較して3倍以上であることを確認しました。すなわち、シアノバクテリアとの共培養を行うことで、成長因子分泌細胞の培養上清液の血清代替としての性能を高めることに成功しました。
研究の波及効果や社会的影響
この研究は、動物血清を使用せず、また培養液の使用量を低減可能な動物細胞培養法につながることから、培養肉生産のコスト削減と環境負荷の低減に寄与する可能性があります。動物細胞と光合成微生物を原料とし、動物を使用しない食肉生産技術として、将来的に食料問題や動物倫理、気候変動の課題解決に貢献することが期待されます。また、この細胞培養システムは、培養肉だけでなく、バイオ医薬品生産や再生医療など、さまざまな細胞培養分野にも適用可能な汎用性を持っています。
今後の課題
今後の課題としては、大量生産に向けて現在の平面培養システムを3次元培養システムにスケールアップし、それに応じた最適な培養条件を探索することが挙げられます。また、培養液の成分を網羅的に解析し、光合成微生物と動物細胞間の相互作用を解明することで、分子生物学的な知見を広げる研究にもつながります。
研究者のコメント
本研究の最終目標は、このシステムを活用した安全で安価な培養肉の生産です。今回得られた研究成果を基盤に、動物だけでなく魚類などさまざまな筋肉細胞から効率的に培養肉を作り出す技術の確立を目指しています。今後も、3次元培養システムの開発や最適な培養条件の探求を通じて、実用化に向けたステップを踏んでいく予定です。
用語解説・参考文献
※1 共培養
2種類以上の細胞を同じ培養液で一緒に培養することを指します。これにより、細胞間の相互作用が起こり、情報伝達物質や生理活性物質の分泌が向上する効果が期待されます。
※2 成長因子
細胞の増殖や分化を促進するタンパク質やペプチドのことです。成長因子は、細胞の情報伝達を刺激し、さまざまな生理的プロセスを制御します。
※3 培養上清液
細胞を培養した後の培養液を指します。この上清液には、細胞が分泌した成長因子やその他の分子(老廃物なども)が含まれ、細胞培養において正負両面(細胞の生存と増殖、細胞死・増殖停止の両側)にわたり重要な役割を果たします。
※4 培養肉
動物から採取した細胞を培養して、組織工学の技術を用いて作られる人工肉のことです。動物を直接屠殺することなく生産されるため、環境負荷や動物倫理に配慮した技術として注目されています。
※5 リコンビナント
遺伝子組換え技術を利用して作られた生物や物質を指します。特定の目的に応じて遺伝子操作を行い、新たな形質を持たせた微生物やタンパク質が「リコンビナント」として利用されます。
参考文献:
- Good Food Institute. (2024). 2023 State of the Industry Report: Cultivated meat and seafood. Good Food Institute. Retrieved 26, 2024, from: https://gfi.org/wp-content/uploads/2024/04/2023-State-of-the-Industry-Report-Cultivated-meat-and-seafood.pdf
- Yamanaka, K., Haraguchi, Y., Takahashi, H., Kawashima, I., & Shimizu, T. (2023). Development of serum-free and grain-derived-nutrient-free medium using microalga-derived nutrients and mammalian cell-secreted growth factors for sustainable cultured meat production. Scientific Reports, 13(1), 498.
- Haraguchi, Y., Kato, Y., Inabe, K., Kondo, A., Hasunuma, T., & Shimizu, T. (2023). Circular cell culture for sustainable food production using recombinant lactate-assimilating cyanobacteria that supplies pyruvate and amino acids. Archives of Microbiology, 205(7), 266.
論文情報
雑誌名:Scientific reports
論文名:A serum-free culture medium production system by co-culture combining growth factor-secreting cells and L-lactate-assimilating cyanobacteria for sustainable cultured meat production
執筆者名:秋尚雅(早稲田大学)、原口裕次 (東京女子医科大学)、朝日透(早稲田大学)、加藤裕一(神戸大学)、近藤昭彦(神戸大学)、蓮沼誠久(神戸大学)、清水達也*(東京女子医科大学)
掲載日時(日本時間):2024年8月23日
掲載URL:https://www.nature.com/articles/s41598-024-70377-8
DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-024-70377-8
研究助成
研究費名:内閣府ムーンショット型農林水産研究開発事業(管理法人:生物系特定産業技術研究支援センター)
研究課題名: 藻類と動物細胞を用いたサーキュラーセルカルチャーによるバイオエコノミカルな培養食料生産システム
研究代表者名(所属機関名):清水達也(東京女子医科大学)
ヒト常在菌の個別解析、新時代へ
2024年10月3日 13:58
ヒト常在菌の個別解析、新時代へ
3万個の細菌ゲノム解読、抗生物質耐性遺伝子を追跡
発表のポイント
- がん・炎症性腸疾患などの患者と健常者を含む日本人被検者51名から、世界最大規模3万個のヒト常在菌※1のシングルセルゲノム解析※2を実施。
- 7万個の口腔内細菌・腸内細菌の高精度ゲノム情報を含むデータセットbbsag20を公開。
- 従来の手法(メタゲノム解析※3)では見落とされていた300種以上の腸内細菌のゲノムを取得。
- 遺伝子の「運び屋」可動性遺伝因子※4を介した抗生物質耐性遺伝子※5の広がりを個々の細菌レベルで解明。
- 細菌の抗生物質耐性の広がり方をより深く理解する手がかりを提供し、将来的な医療や公衆衛生への応用に期待。
私たちの健康に重要な役割を果たすヒト常在菌。しかし、その全容解明には個々の細菌を詳しく調べる必要があり、これまでの技術では困難でした。早稲田大学理工学術院の細川正人(ほそかわまさひと)准教授と早稲田大学発スタートアップbitBiome社の研究グループは、革新的なシングルセルゲノム解析技術を用いて、この課題に挑戦し、世界最大規模の3万個の口腔内細菌および腸内細菌の個別ゲノム解析を行いました。構築したbbsag20データセットからは、従来法では見落とされていた数百種の細菌のゲノム・遺伝子が発見されました。また、抗生物質耐性遺伝子やその「運び屋」の存在が個々の細菌単位で明らかになり、細菌間での遺伝子のやり取りを詳細に調査することが可能になりました。この成果は、常在菌を対象とした個別化医療や新たな抗生物質耐性対策の開発に貢献する可能性があります。
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図:本研究で用いた新しいシングルセルゲノム解析手法
本研究成果は、2024年10月2日(水)(現地時間)にSpringer NatureグループのBioMed Central社が発刊するオープンアクセス科学誌「Microbiome」で公開されました。
論文名:A Single Amplified Genome Catalog Reveals the Dynamics of Mobilome and Resistome in the Human Microbiome
キーワード
ヒト常在菌、シングルセルゲノム解析、腸内細菌、口腔内細菌、抗生物質耐性、個別化医療、可動性遺伝因子、プラスミド、ファージ
これまでの研究で分かっていたこと
ヒト常在菌は人間の健康に重要な役割を果たしています。これまでの研究で、以下のことが分かっていました:
- 口腔内や腸内には多数の細菌が存在し、複雑な生態系を形成しています。
- ヒト常在菌の構成は個人によって異なり、健康状態や疾病と関連があります。
- メタゲノム解析は、常在菌の全体的な構成を調べることができます。
- 抗生物質の使用が常在菌叢に影響を与え、薬剤耐性菌の出現につながる可能性があります。
しかし、これまで常在菌研究に使われてきたメタゲノム解析では全ての細菌をひとまとまりにDNAを分析するため、個々の細菌が持つ遺伝子の構成などを詳細に調べることが困難でした。そのため、可動性遺伝因子を介した細菌間での遺伝子のやり取りや、それによる抗生物質耐性の細菌種を超えた広がり方など、重要な詳細が不明のままでした。
今回新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、そのために新しく開発した手法
本研究では、革新的なシングルセルゲノム解析技術を用いて、がん・炎症性腸疾患などの患者と健常者からなる日本人51名の被験者を対象に、ヒト常在菌の個別解析を大規模に行いました。主な成果は以下の通りです:
- 世界最大規模のシングルセルゲノムデータセットの構築
3万個の口腔内・腸内細菌の個別ゲノム解析を実施し、高品質なゲノム情報を整理して公開しました。 - 従来の手法と組み合わせて常在菌叢を解明
シングルセルゲノム解析では従来のメタゲノム解析では得られなかった種が多数獲得されました。両者の解析法を組み合わせることが常在菌叢の解明に効果的であることが分かりました。 - 抗生物質耐性遺伝子の伝播状況の解明
個々の細菌レベルで抗生物質耐性遺伝子の分布を解析しました。プラスミド※6やファージ※7といった可動性遺伝因子が伝播を担っている可能性を調査しました。
これらの成果を可能にしたのは、SAG-gel技術※8と呼ばれる新しいシングルセルゲノム解析手法です。SAG-gelは責任著者の細川が2018年に創業した早稲田大学発スタートアップであるbitBiome社にてbit-MAP®として商用化されており、現在、国内外の微生物研究者に広く利用されています。
この技術の特徴は以下の通りです:
- 個々の細菌をゲル中に封入し、個別にゲノムを増幅・解析します。
- 高い精度で多数の細菌ゲノムを同時に分析できます。
- 従来の手法では困難だった、希少な細菌種の検出も可能です。
同一の試料を解析した場合、シングルセルゲノム解析とメタゲノム解析では、異なる細菌種のゲノムが獲得されます。シングルセルゲノム解析では460種、メタゲノム解析では327種のゲノムが得られ、両解析で共通するのは140種に留まります。細胞から分析を始めるシングルセルゲノム解析と、壊れた細胞から抽出したDNAから分析を始めるメタゲノム解析では、得られるデータの性質が異なることが示されています。
メタゲノム解析では、プラスミド・ファージなどの可動性遺伝子を各細菌ゲノムと紐づけて分析することが難しく、殆どが見落とされてしまいます。そのため、これらの可動性遺伝子にコードされる抗生物質耐性遺伝子がどれだけ存在するか、どの細菌が保有しているのかを知ることができません。一方、シングルセルゲノム解析では、各種抗生物質耐性遺伝子がどのプラスミド・ファージにコードされ、どの細菌種に保持されているのか、保有状況とネットワーク関係を明らかにすることができます。
この研究により、シングルセルゲノム解析が口腔内・腸内細菌叢の遺伝的多様性を理解することに役立つことが示されました。特に、プラスミドやファージなどの可動性遺伝因子を介した抗生物質耐性遺伝子の広がり方について、個人単位・細菌単位で把握することができる点が画期的であり、常在菌間における遺伝子のやり取りの理解につながることが期待されます。
本研究で解析したゲノムデータセットbbsag20は、CC-BY 4.0で誰でもダウンロードおよび利用することが可能です。
https://doi.org/10.25452/figshare.plus.24473008.v2
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図1:SAG-gel/bit-MAP®技術の概要 (図中NGSはNext-generation sequencer(次世代シーケンサー))
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図2:メタゲノム解析とシングルセルゲノム解析の比較:細菌ゲノム
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図3:メタゲノム解析とシングルセルゲノム解析の比較:可動性遺伝因子・抗生物質耐性遺伝子
研究の波及効果や社会的影響
本研究の成果は、以下のような波及効果や社会的影響をもたらす可能性があります:
- 個別化医療の進展
個人のヒト常在菌叢を詳細に分析することで、特定の疾患と関連する細菌種の特定が容易になり、新たな治療ターゲットの発見に寄与します。
- 抗生物質耐性対策の向上
耐性遺伝子のプロファイルを詳細に把握し、より効果的な耐性菌対策の開発が可能になります。
新たな抗生物質の開発や、既存薬の適切な使用法の確立に貢献します。
- 環境マイクロバイオーム研究への応用
本技術は環境サンプルにも適用可能で、生態系の理解や環境保全に貢献します。土壌や水中の微生物群集の解析にも応用でき、農業や水質管理にも影響を与える可能性があります。
これらの効果により、医療費の削減や国民の健康増進、さらには環境保全など、幅広い社会的影響が期待されます。
今後の課題
今後の課題として、より多様なサンプルを用いたさらなるデータ収集が求められます。特に異なる地域や人種からのサンプルを追加することで、常在菌の世界的な多様性をより深く理解することが期待されます。また、長期的な観察を通じて、細菌叢の変化や疾患との関連を明らかにすることで、個別化医療の新たな道が開かれるでしょう。
具体的な展望:
- 疾患メカニズムの解明
様々な疾患と口腔内・腸内細菌の関係がより詳細に明らかになることが期待されます。
- 抗生物質耐性のサーベイランス
抗生物質耐性菌の特定や、抗生物質耐性遺伝子の運び手を特定し、耐性菌の発生や感染症の蔓延を予防することが期待されます。
- 環境マイクロバイオーム研究の発展
人間の健康と環境の関連性がより明確になることが期待されます。
これらの課題に取り組むことで、マイクロバイオーム研究はさらに発展し、人類の健康と環境の理解に大きく貢献することが期待されます。
研究者のコメント
今回の研究成果は、ヒト常在菌の世界に新たな光を当てるものです。3万個もの細菌ゲノムを個別に解読したことで、これまで見えなかった微生物の多様性と相互作用が明らかになりました。独自技術であるシングルセルゲノム解析を活用することで、これまで見落とされてきた数多くの重要な情報を手にすることができることが証明されました。この知見は、個別化医療や抗生物質耐性問題など、現代社会が直面する健康課題の解決に大きく貢献すると確信しています。今後も研究を重ね、シングルセルゲノム解析がより多くの研究に活用される未来を創り、様々な生命現象の理解と活用に貢献したいと思います。
用語解説・参考文献
※1 ヒト常在菌:
人体に常時生息している微生物の総称です。皮膚、口腔、腸管、膣などの様々な部位に存在し、それぞれの環境に適応した細菌群が形成されています。これらの細菌は単に存在するだけでなく、人体の健康維持に重要な役割を果たしています。例えば、病原菌の侵入を防いだり、栄養素の吸収を助けたり、免疫系の発達を促したりします。
※2 シングルセルゲノム解析:
個々の細胞から遺伝情報(ゲノム)を読み取る最先端の技術です。従来の手法では、多数の細菌が混ざった状態でしか分析できませんでしたが、この技術により個別の細菌の詳細な遺伝情報を得ることが可能になりました。これにより、稀少な細菌種の発見や、細菌間での遺伝子のやりとりの詳細な観察が実現し、マイクロバイオームの理解が大きく進展しています。
※3 メタゲノム解析:
環境中(例えば腸内)の全ての微生物のゲノムを一括して解析する手法です。サンプル中の全DNAを抽出し、それを一度に解読します。個々の細菌を区別することは難しいですが、その環境に存在する微生物の種類や、それらが持つ遺伝子の全体像を効率的に把握することができます。腸内細菌叢の全体的な構成を知るのに適していますが、稀少な種の検出や細菌間の相互作用の理解には限界があります。
※4 可動性遺伝因子:
細菌間で移動可能な遺伝物質のことです。主にプラスミドやファージなどがあります。これらは細菌の主要な遺伝情報(染色体DNA)とは別に存在し、細菌間で容易に移動することができます。抗生物質耐性遺伝子などの重要な遺伝情報を運ぶ「運び屋」の役割を果たすため、細菌の進化や薬剤耐性の拡散において重要な役割を果たしています。
※5抗生物質耐性遺伝子:
細菌が抗生物質の効果を無効化するために持つ遺伝子のことです。これらの遺伝子により、細菌は抗生物質の存在下でも生存・増殖が可能になります。抗生物質の過剰使用などにより、これらの遺伝子を持つ細菌(薬剤耐性菌)が増加し、深刻な医療問題となっています。本研究では、これらの遺伝子がどのように細菌間で広がっているかを、個々の細菌レベルで初めて詳細に解析することに成功しました。
※6 プラスミド:
細菌の染色体DNAとは別に存在する小さな環状のDNA分子です。プラスミドは自己複製能力を持ち、細菌間で容易に伝達されることがあります。多くの場合、抗生物質耐性遺伝子や毒素遺伝子など、細菌の生存に有利な遺伝子を運びます。本研究では、プラスミドを介した抗生物質耐性遺伝子の伝播を個々の細菌レベルで観察することに成功し、耐性遺伝子がどのように広がっているかをより詳細に理解することができました。
※7 ファージ:
細菌に感染するウイルスの一種で、バクテリオファージとも呼ばれます。ファージは細菌に感染する際に、時として細菌のDNAの一部を別の細菌に運ぶ「運び屋」となることがあります。このプロセスを介して、抗生物質耐性遺伝子などの重要な遺伝情報が細菌間で伝達されることがあります。本研究では、ファージを介した遺伝子伝達の実態を、個々の細菌レベルで観察することができました。
※8 SAG-gel・bit-MAP:
本研究で用いられた新しいシングルセルゲノム解析手法です。SAGはSingle Amplified Genome(単一増幅ゲノム)の略です。この技術では、個々の細菌をゲル中に封入し、その中で細菌のDNAを増幅・解析します。これにより、高い精度で多数の細菌を同時に分析することが可能になりました。従来の手法では困難だった希少な細菌種の検出や、個々の細菌が持つ遺伝子の詳細な分析が実現し、マイクロバイオーム研究に革新をもたらしています。
論文情報
雑誌名:Microbiome
論文名:A Single Amplified Genome Catalog Reveals the Dynamics of Mobilome and Resistome in the Human Microbiome
執筆者名:Tetsuro Kawano-Sugaya1† , Koji Arikawa1,2†, Tatsuya Saeki1, Taruho Endoh1, Kazuma Kamata1, Ayumi Matsuhashi1 and Masahito Hosokawa1,2,3,4,5*
- bitBiome株式会社
- 早稲田大学 先進理工学研究科
- 産総研・早大 生体システムビッグデータ解析オープンイノベーションラボラトリ
- 早稲田大学 ナノライフ創新研究機構
- 早稲田大学 先進生命動態研究所
掲載日時(現地時間):2024年10月2日
DOI:https://doi.org/10.1186/s40168-024-01903-z
研究助成
研究費名:(公財)東京都中小企業振興公社 新製品・新技術開発助成事業
研究課題名:AI時代に向けた疾患特有の微生物データベースの開発
研究代表者名(所属機関名)bitBiome株式会社
おもしろ科学実験教室 in シンガポールを開催しました
2024年9月30日 17:06
2024年8月30日(金)、31日(土)の2日間にわたり、シンガポールに所在する早稲田大学系属・早稲田渋谷シンガポール校を会場として「おもしろ科学実験教室 in シンガポール」を開催しました。今回はシンガポール日本人学校中学部の生徒、インターナショナルスクールの生徒、シンガポール教育省語学センター(MOELC:Ministry of Education Language Centre)で日本語を学んでいる中高生、および早稲田渋谷シンガポール校の生徒を対象として、総勢約80名の生徒が参加しました。本企画は2019年、2023年に続き、今年で3回目を迎えました(2020年~2022年は新型コロナウイルス感染症の影響で実施を見送り)。
本実験教室は、大学レベルの実験を自ら体験することを通じて科学への興味・関心を高める機会を提供するとともに、シンガポール在住の中高生に早稲田大学および早稲田渋谷シンガポール校を知っていただき、進学先候補として興味を持ってもらうこと、また早稲田渋谷シンガポール校の生徒には高大連携の一環として本学理工学部をより理解してもらうことを目的として実施しました。
会場となった早稲田渋谷シンガポール校
実験のテーマは「DNA鑑定で食肉の種類を調べよう! -PCR解析を用いた食品検査-」です。新型コロナウイルス感染症の流行で一躍有名になった「PCR法」を用いて、食肉種の鑑定に挑戦しました。
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試料はレバー肉を使用し、ブタ・トリ・ウシの肉のいずれか、あるいは混合物としました。見た目では肉の種類がわからなくても、DNAを抽出し、PCR法によって特定のDNA断片を増幅して解析すると、肉の正体を突き止めることができます!
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マイクロピペットという器具を上手に使いこなして試薬を混ぜながら、食肉からDNAを抽出したり、PCR用の溶液を調製しました。
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実験指導には、早稲田理工の技術職員のほかに早稲田渋谷シンガポール校の在校生も加わりました。彼らの的確な指導のもと、参加者は楽しく実験していました。
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スタッフに見守られ、細かい作業に少し緊張しながらも集中して取り組みました。
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実験結果はどうだったかな…?
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電気泳動という手法を用いると、PCRで増幅したDNA断片がこのようにバンドとして観察できます。バンドパターンから食肉種を判別することができました!
今回のテーマは本学の大学1年生の授業で扱う実験をアレンジしたもので、内容や工程には難しい部分もありましたが、皆真剣に取り組み、大きな失敗もなく成功裏に終えることができました。目を輝かせながら生き生きと実験していた姿や、結果が出た時の嬉しそうな笑顔が印象的でした。また、実験の合間には、学校の垣根を越えて生徒同士の交流も深めることができました。
シンガポール教育省語学センターの先生方は、「生徒たちは日本語の科学用語に触れることができ、ネイティブの高校生や大学スタッフと日本語の会話練習をすることもできて、充実した時間を過ごすことができました」とコメントされていました。
この実験教室は、本学理工センター技術部の職員や機器・装置だけではなく、本学が持つ海外拠点ネットワーク(早稲田渋谷シンガポール校)の物的・人的リソースの活用、早稲田渋谷シンガポール校在校生の協力、さらにシンガポール日本人学校、インターナショナルスクール、シンガポール教育省語学センター、理工パートナーズの支援により実現しており、多くの参加者に科学への興味関心を深める機会を提供することができました。
参加者の中から、将来、早稲田生が誕生し、やがては世界で活躍する校友(卒業生)となり、ともに科学技術や社会の発展に貢献していけることを、私たち職員一同願っています。
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記念品のオリジナルDNAキーホルダーを手に記念撮影(写真は8/31午前の部)。 |
記念品として配布した、スタッフ手作りのDNAキーホルダー。DNAの塩基が描かれたパズルになっており、本物のDNAと同様、AとT、GとCが組み合います。 |
次は早稲田で会いましょう!
See you again at WASEDA!
「The balance property in insurance pricing」(2024/10/10)
2024年9月27日 17:17
演題:The balance property in insurance pricing
日時:2024年10月10日(木) 17:00-18: 40
会場:西早稲田キャンパス 63号館2階05会議室
講師:Mario Wüthrich
対象:確率・統計・保険関連研究者、および一般の方
参加方法:事前予約制(こちらのリンクよりお申し込みください。早稲田統計科学セミナー(2024/10/10) (google.com))
主催:基幹理工学部 応用数理学科
問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課
TEL:03-5286-3000
ビール大麦試験圃場へのバイオ炭施用による効果を検証する新たな共同研究を開始
2024年9月20日 09:13
学校法人早稲田大学・キリンホールディングス株式会社・栃木県農業総合研究センター
ビール大麦試験圃場へのバイオ炭施用による効果を検証する新たな共同研究を開始
~バイオ炭活用による農業分野での脱炭素実現の可能性を探求~
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学校法人早稲田大学(理事長 田中 愛治、以下「早稲田大学」、研究代表者 理工学術院 教授 竹山 春子)は、キリンホールディングス株式会社(社長COO 南方 健志、研究代表者飲料未来研究所 所長 森木 博之)、栃木県農業総合研究センター(所長 柴田 和幸)と共同し、栃木県農業総合研究センターの大麦試験圃場において、バイオ炭※1施用によるビール大麦の生育状況、土壌改良の効果、土壌の微生物への影響等を測定する研究を2024年10月より新たに開始します。当研究を行うことで、環境再生型農業※2の可能性を探索しつつ、ビール大麦の土壌における生物多様性評価の一層の高度化、気候変動の緩和とともに、脱炭素社会の実現を目指します。
今回の共同研究では、栃木県農業総合研究センターがビール大麦の生育・収量への影響及び土壌の物理性・化学性の改善効果を解析します。 早稲田大学が土壌微生物の菌叢解析を行い、バイオ炭による土壌の微生物への影響と土壌改良の効果を測定します。キリンホールディングス株式会社は、祖業のビール事業を通じた強みである発酵・バイオテクノロジーの先進技術を生かし、試験計画の立案、解析データからのメカニズムの考察、および当研究全体の取りまとめを行います。 共同の取り組みでは、農地にバイオ炭を施用することによる効果を検証することに加えて、J-クレジット※3への申請を前提にした炭素貯留量の算定も予定しています。基礎研究の位置づけで取り組みつつ、畑へのバイオ炭施用の効果を測定することで技術的知見を蓄積し、将来的にはビール大麦栽培農家におけるバイオ炭施用の普及、そして、GHG※4排出量削減に貢献することも期待しています。
※1 農業の持つ物質循環機能を生かし、生産性との調和などに留意しつつ、土づくり等を通じて化学肥料、農薬の使用等による環境負荷の軽減に寄与
※2 燃焼しない水準に管理された酸素濃度の下、350℃超の温度で未利用バイオマスを加熱して作られ、土壌への炭素貯留効果とともに土壌の透水性を改善する効果が認められている土壌改良資材
※3 J-クレジット制度とは温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして国が認証する制度
※4 温室効果ガス
早稲田大学 竹山らは、独自に開発してきた、ラマン分光解析技術、微小組織打ち抜き技術、シングルセルゲノム解析技術を組み合わせることによって、従来にない解像度での土壌微生物解析技術を開発してきました。
2020年度からは、内閣府ムーンショット型農林水産研究開発事業(管理法人:生物系特定産業技術研究支援センター(生研支援センター))の研究開発プロジェクト「土壌微生物叢アトラスに基づいた環境制御による循環型協生農業プラットフォーム構築」(プロジェクトマネージャー 竹山春子)において、未来型食材の中心となるダイズを対象とし、土壌微生物の機能を最大限に発揮させた土壌を構築すること、さらには土壌の健康を新たなインデックス指標で評価することを目指し、最先端の技術を用いて植物と微生物の相互関係を解析し、有用微生物の取得やそれらのデータベース(土壌微生物叢アトラス)、土壌の生物的・化学的・物理的因子の網羅的情報のアーカイブ化を実施してきました。また、得られた多階層的ビッグデータを基にしたモデル化・シミュレーションを行い、「環境制御による循環型協生農業プラットフォーム」の構築を進めてきました。今回の共同研究は、こうした技術をビール大麦に応用展開して、循環型協生農業・脱炭素社会・気候変動緩和の実現を目指すものです。
Links
>竹山春子教授(理工学術院)
>大学院先進理工学研究科 竹山研究室
>ムーンショット型農林水産研究開発事業
>土壌微生物叢アトラスに基づいた環境制御による循環型協生農業プラットフォーム構築
実用性の高いカーボンリサイクル製品として、海水とCO2を原料とした全く新しいコンクリートを開発
2024年9月17日 15:26
実用性の高いカーボンリサイクル製品として、海水とCO2を原料とした全く新しいコンクリートを開発
発表のポイント
- 海水中のマグネシウムを用いてCO2を炭酸塩として固定したカーボンリサイクル材料「WMaCS(ダブルマックス)®」を開発しました。
- WMaCS応用製品として、「普通ポルトランドセメント」※1を用いた従来のコンクリートとは全く異なる新しい世界初のコンクリートの開発に成功しました。配合により、 凝結時間と施工性、あるいは圧縮強度は、普通ポルトランドセメントを用いたコンクリートと同等です。
- 新開発のコンクリートなど、WMaCS製の建設材料は、1m3あたり約20~110kgのCO2を長期間固定化できます。
早稲田大学理工学術院の中垣隆雄(なかがきたかお)教授と秋山充良(あきやまみつよし)教授の研究グループ(以下、本研究グループとする)は、海水中のマグネシウムを用いてCO2を炭酸塩として固定したカーボンリサイクル材料「WMaCS(ダブルマックス)®」を開発しました(Waseda Magnesium-based Carbon Sequestration materialsの略、登録商標)。WMaCSを応用した建設材料は、1m3あたり約20-110kgのCO2を長期間固定化できます。WMaCSの応用製品として新たに開発したコンクリートは、石灰由来のクリンカ※2を一切含まない独自の製法のため、従来の普通ポルトランドセメントを用いたコンクリートと硬化メカニズムは全く異なりますが、配合により、普通コンクリートと同等の施工性(約1-2時間の凝結時間)、あるいは、建設材料として十分な圧縮強度(25-75MPa)を実現しました。
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図:WMaCS製造プロセスフロー
本研究成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDOとする)から2022年度に受託した「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO2有効利用拠点における技術開発/研究拠点におけるCO2有効利用技術開発・実証事業」(実証研究エリア)におけるプロジェクト「海水を用いた有価物併産カーボンリサイクル技術実証と応用製品の研究開発(※)」(プロジェクトマネージャ:中垣隆雄教授、株式会社ササクラとの共同実施、以下、本プロジェクトとする)の研究活動によって得られたものです。
現在、本プロジェクトでは、広島県・大崎上島の実証研究エリアにおいて20トン/日の海水を用いたカーボンリサイクル技術のパイロットスケールの試験を開始しており、同エリアにて供給される石炭ガス化複合発電由来のCO2を用いて同様のコンクリートを製造する予定です。さらに、商用化を見据え、モルタルやボード材など様々な応用製品も開発中で、これらの製品の実用化を通して、カーボンリサイクル技術の早期社会実装を目指します。
※参考:「海水を用いた有価物併産カーボンリサイクル技術実証と応用製品の研究開発を目指す」(2022年11月16日プレスリリース、https://www.waseda.jp/top/news/85546)
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図:WMaCSを用いたコンクリ―ト材の混錬
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図:WMaCSを用いた様々なプレキャストコンクリート製品
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図:材齢7日の円柱供試体の圧縮強度
研究の背景
CO2を分離回収し資源として有効活用するカーボンリサイクル技術は、日本政府によって2021年6月に策定された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」において、カーボンニュートラル社会を実現するためのキーテクノロジーとして位置付けられています。そのうち、現時点ではまだ高価なグリーン水素を用いず、再放出しない炭酸塩等へのCO2固定化は、先行して実現可能な技術として期待されています。CO2固定化材料には、CaO(酸化カルシウム)かMgO(酸化マグネシウム)が適しています。カルシウムもマグネシウムも海水中にイオンとして多く含まれており、本プロジェクトでは、カルシウムを石膏(CaSO4・2H2O)として、マグネシウムを塩化マグネシウム水和物(MgCl2・2H2O)としてそれぞれ回収し、後者を熱分解して得られるMgOを原料とした炭酸マグネシウムの応用製品の開発に取り組んできました.これらの一連の工程をグリーン電力等によって駆動し,コンクリート化することで1m3あたり約20~110kgのCO2を固定化できます。この炭酸マグネシウム材料は、前事業(※)の成果を基に得られたものであり、カーボンリサイクル材料「WMaCS(ダブルマックス)®(Waseda Magnesium-based Carbon Sequestration materialsの略)と名付けて商標(第6829796号)も登録しました。
従来のコンクリートに用いられる普通ポルトランドセメントは、天然にCO2が固定化されている石灰(CaCO3)を熱分解して得られたCaOが主成分のクリンカを使用しており、加熱用の燃料をカーボンニュートラル化しても、石灰由来の非エネルギー起源CO2の発生は避けられません。一方、普通ポルトランドにWMaCSを混ぜただけのコンクリートは施工性が悪化し、ひび割れ等が発生して強度も不足しておりました。
※参考:研究開発テーマ「海水および廃かん水を用いた有価物併産CO2固定化技術の研究開発」(2020年7月15日プレスリリース、https://www.waseda.jp/top/news/69663)
今回の研究成果
本研究グループは、古くからある非水硬性のソレルセメントの技術にヒントを得て、材料と配合比を変えたコンクリートを作製し、性能評価を実施してきました。今回の研究成果は、混ぜ込むWMaCSの結晶を酸化マグネシウムの生成条件と炭酸塩化の条件によって制御し、ソレルセメントによって作製した粗骨材・細骨材および独自の配合比(特許出願済み)とすることで、コンクリートに求められる1-2時間程度の凝結時間による施工性の確保と25MPa以上の圧縮強度の両立に成功しました。現在、早稲田大学西早稲田キャンパス(東京都新宿区)にて露天の耐候試験を実施しており、種々の特殊添加剤が材料劣化の抑制に及ぼす影響などを検証中です。現在までに、製造から半年が経過した後でも、開発したコンクリートに特に目立った劣化は確認されておりません。
石灰を一切用いず、海水とCO2だけで作製できる世界初のコンクリートを実現したことで、コンクリートの抱える非エネルギー起源CO2も削減可能となります。
今後の展開このプロジェクトにより期待される波及効果
現在、本プロジェクトでは、(株)ササクラと広島県・大崎上島の実証研究エリアにおいて20トン/日の海水を用いたカーボンリサイクル技術のパイロットスケールの試験を開始しており、2024年度中に同エリアにて供給される石炭ガス化複合発電由来のCO2を用いて同様のコンクリートを作製する予定です。
WMaCSを用いたコンクリートは、消波ブロックやインターロッキングブロックなど、プレキャストコンクリート製品への展開を目指しています。一方、塩化物を大量に含み、従来のコンクリートのような強アルカリ性ではないため、普通鋼鉄筋を用いるのは困難です。そのため、水中への浸漬による溶脱イオンの測定や、ステンレス鋼鉄筋の腐食試験なども継続して実施中です。
さらに、商用化を見据え、モルタルやボード材など様々な応用製品も開発中で、これらの製品の実用化を通して、カーボンリサイクル技術の早期社会実装を目指します。
研究プロジェクトについて
事業名称:NEDO カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO2有効利用拠点における技術開発 /研究拠点におけるCO2有効利用技術開発・実証事業(実証研究エリア)
テーマ:「海水を用いた有価物併産カーボンリサイクル技術実証と応用製品の研究開発」
実施期間:2022年度から2024年度までの3年間(予定)
(参考)カーボンリサイクル実証研究拠点 https://osakikamijima-carbon-recycling.nedo.go.jp/
同パンフレットの6ページに本プロジェクトも記載。https://osakikamijima-carbon-recycling.nedo.go.jp/wp-content/themes/html/docs/panflet.pdf
研究者情報
学校法人早稲田大学
理工学術院創造理工学部総合機械工学科 中垣隆雄 教授
理工学術院創造理工学部社会環境工学科 秋山充良 教授
用語解説
※1 普通ポルトランドセメント
普通ポルトランドセメントは、建築や土木工事で広く使われているセメントの名称です。石灰石や粘土を高温で焼いた後、粉砕して作られます。このセメントは水,砂,砂利などと混ぜることでコンクリートとなり、建物や橋などの構造物に広く使われています。
※2 クリンカ
クリンカは、セメントの製造過程で生まれる中間製品です。石灰石や粘土を高温で焼き上げてできる硬い塊で、これを粉砕して普通ポルトランドセメントが作られます。クリンカの製造には熱エネルギーを必要とし、多くは化石燃料を使っています。例え化石燃料から脱却しても、石灰石(CaCO3)の熱分解由来のCO2発生は回避できません。
「化合物を起点としたユニークながん治療標的の同定と治療薬の創製」(2024/9/27)
2024年9月11日 16:26
演題:化合物を起点としたユニークながん治療標的の同定と治療薬の創製
日時:2024年9月27日(金)16:30-18:10
会場:西早稲田キャンパス 55号館N棟1階 第二会議室
講師:旦 慎吾(公益財団法人がん研究会がん化学療法センター分子薬理部・部長)
対象:学部生・大学院生、教職員、学外者、一般の方
参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。
主催:先進理工学研究科 化学・生命化学科
問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課
TEL:03-5286-3000
関連リンク:https://www.jfcr.or.jp/chemotherapy/department/molecular_pharmacology/index.html
「未踏炭素機能科学をめざして」(2024/9/25)
2024年9月11日 15:08
演題:未踏炭素機能科学をめざして
日時:2024年9月25日(水)16:20~18:00
会場:早稲田大学 121号館 コマツ100周年記念ホール
講師:伊丹 健一郎(理化学研究所・主任研究員)
対象:学部生・大学院生、教職員、学外者、一般の方
参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。
主催:先進理工学部 応用化学科
問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課
TEL:03-5286-3000
「合成終盤での酸化反応を駆使した複雑なアルカロイドの全合成」(2024/9/27)
2024年9月11日 15:00
演題:合成終盤での酸化反応を駆使した複雑なアルカロイドの全合成
日時:2024年9月27日(金) 17:00-18: 40
会場:西早稲田キャンパス 63号館2階04、05会議室
講師:徳山 英利(東北大学大学院薬学研究科教授)
対象:学部生・大学院生、教職員、学外者、一般の方
参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。
主催:先進理工学研究科 化学・生命化学科
問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課
TEL:03-5286-3000
「Projective models of Fano and HK manifolds」(2024/9/24・25)
2024年9月11日 11:26
演題:Projective models of Fano and HK manifolds
日時:2024年9月24日(火) 14 :50-16: 30・25日(水)13 :30-15: 10
会場:西早稲田キャンパス 51号館18階12セミナー室
講師:Fatighenti, Enrico(教授)
対象:学部生・大学院生、教職員、学外者、一般の方
参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。
主催:基幹理工学部 数学科
問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課
TEL:03-5286-3000
関連リンク: https://nagai-y.w.waseda.jp/openlecture/
「Birational geometry of symplectic varieties」(2024/9/24・25)
2024年9月11日 10:46
演題:Birational geometry of symplectic varieties
日時:2024年9月24日(火)・25日(水)10 :00-11: 40
会場:西早稲田キャンパス 51号館18階12セミナー室
講師:Mongardi, Giovanni(教授)
対象:学部生・大学院生、教職員、学外者、一般の方
参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。
主催:基幹理工学部 数学科
問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課
TEL:03-5286-3000
関連リンク: https://nagai-y.w.waseda.jp/openlecture/
レーストラックアンチスキルミオンの動作実証に成功-次世代の情報デバイス開拓に期待-
2024年9月9日 15:38
レーストラックアンチスキルミオンの動作実証に成功
─ 次世代の情報デバイス開拓に期待 ─
概要
早稲田大学理工学術院の望月維人教授、理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター電子状態マイクロスコピー研究チームのグァン・ヤオ特別研究員、于秀珍チームリーダー、強相関理論研究グループの永長直人グループディレクター(最先端研究プラットフォーム連携(TRIP)事業本部基礎量子科学研究プログラムプログラムディレクター)、創発機能磁性材料研究ユニットの軽部皓介ユニットリーダー、強相関物質研究グループの田口康二郎グループディレクター、強相関物性研究グループの十倉好紀グループディレクター(東京大学卓越教授/東京大学国際高等研究所東京カレッジ)らの共同研究グループは、細線内に制限されたナノメートルスケールのアンチスキルミオン[1]を電流で駆動した際のダイナミクスの直接観察に成功し、アンチスキルミオンのレーストラック[2]輸送機能を見いだしました。
本研究成果により、トポロジカル構造を用いた、動作速度が大きくてかつ電力消費が少ないデバイスの実現が現実味を帯び、次世代の情報デバイスのさらなる開拓に期待が高まります。
今回、共同研究グループの成果により、ナノスケールの細線内に閉じ込められたアンチスキルミオンを電流で精密に制御できることが実証され、この結果から、スキルミオン[3]の反粒子であるアンチスキルミオンも次世代の高速かつ低消費電力の情報キャリアとして有望であることが明らかになりました。
本研究は、科学雑誌『Nature Communications』オンライン版(9月4日付)に掲載されました。
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電流駆動アンチスキルミオンの概略図(a)とシミュレーションで得られたパルス運動結果(b)
背景
アンチスキルミオンは、磁気スキルミオンの反粒子で、室温においても安定なトポロジカルスピンテクスチャ(位相幾何的磁気変調構造)として、磁性体(Fe0.63Ni0.3Pd0.07)3P(Fe:鉄、Ni:ニッケル、Pd:パラジウム、P:リン、以下「FNPP」という)において発見されました注1)。スキルミオンは、渦状のトポロジカル構造であり、電流をスキルミオンに流すと、伝導電子はスキルミオンの創発磁場を受け、トポロジカルホール効果[4]を示します。その反作用として、スキルミオンは電流により偏向され、ホール運動をします。電流を流していない状態では、スキルミオンは試料中の欠陥などによってピン止めされ、安定に存在していますが、電流を流すと動き出します。具体的には、電流が閾値(しきいち)である臨界電流密度JCを超えると、スキルミオンは動き始め、さらに電流が大きくなると、電流の流れる方向と一定の角度(ホール角)を成しながら動く「フローモーション(流動)」(ホール運動)へ変化することがローレンツ電子顕微鏡(Lorentz TEM)[5]観察により明らかになっています注2)。また、スキルミオンのトポロジカルな性質により、運動するスキルミオンは欠陥を容易に回避できるため、スキルミオンを駆動する臨界電流密度は、磁壁[6]を駆動する臨界電流密度の10分の1の約1011アンペア毎平方メートル(A/m2)程度で済むという利点があり注3)、低消費電力な情報キャリアとして期待されています。
アンチスキルミオンは反渦構造をとっており、スキルミオンと同様にトポロジカルな性質を持つため、低電流で駆動できることが期待されていましたが、実証実験はまだ行われていませんでした。
注1)2021年1月26日プレスリリース「室温でアンチスキルミオンを示す新物質の発見」
https://www.riken.jp/press/2021/20210126_1/
注2)2021年11月24日プレスリリース「室温で単一スキルミオンの電流駆動に成功」
https://www.riken.jp/press/2021/20211124_1/
注3)2012年8月8日プレスリリース「電子スピンの渦『スキルミオン』を微小電流で駆動」
https://www.riken.jp/press/2012/20120808_2/
研究手法と成果
共同研究グループはまず、FNPPプレート(図1a、b)の長辺に平行なナノスケールのストライプ磁区[7]を生成し、その磁区内に約200ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)のアンチスキルミオンを閉じ込めました(図1c)。その後、ナノ秒パルス電流をストライプ磁区に平行に流しました。ローレンツ電子顕微鏡で観察した結果(図1c)、このアンチスキルミオンが電流方向に平行に移動することが確認されました。つまり、アンチスキルミオンがナノストライプ磁区に閉じ込められた場合、ホール運動が完全に抑制され、電流によるトポロジカル構造体のレーストラック輸送機能が実証されました。また、この観察結果は、シミュレーション結果(図1d)とよく一致し、計算により実験結果を再現できることが確認されました。
次に、FNPPプレートの短辺に平行するナノスケールのストライプ磁区を生成し、その磁区内に約600nmの長方形状のアンチスキルミオンを閉じ込めました(図1e)。その後、最初の実験と同様のナノ秒パルス電流をストライプ磁区に直交して流しました。ローレンツ電子顕微鏡で観察した結果(図1e)、このアンチスキルミオンは電流方向に垂直で、ストライプ磁区に平行して移動することが確認されました。つまり、アンチスキルミオンの移動方向は電流の方向によらず、ナノストライプの向きに制限されることが実証されました。この観察結果は、シミュレーション結果(図1f)とも一致しました。
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図1 アンチスキルミオンの駆動ダイナミクスの直接観察
(a、b)アンチスキルミオンをストライプ磁区(細線)内に閉じ込め、その磁区に平行・直行してナノ秒(ns)パルス電流を流した実験のセットアップ(模式図)。
(c、d、e、f)ストライプ磁区(細線)に横電流を流した場合のアンチスキルミオンの平行移動(c、d)および縦移動(e、f)。(c、e)は実験結果、(d、f)はシミュレーション結果。ただし電流は、実験で流した方向と理論計算した方向が逆になっている。
系統的に電流駆動によるアンチスキルミオンの運動を調べた結果、ナノストライプ磁区に流れる電流の方向がアンチスキルミオンの運動速度に大きく影響することが分かりました。具体的には、電流をストライプ磁区に平行に流す場合と比較して、垂直に流した場合、アンチスキルミオンの運動速度が最大で6倍に増加することが明らかになりました(図2)。
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図2 アンチスキルミオンの運動速度と電流密度
ストライプ(Str)磁区(細線)に平行(a)と垂直(b)に電流を流した場合のアンチスキルミオンの運動速度(v ̅)の電流密度(j)依存性。運動速度は、平行と比べ垂直の場合には6倍も速い。
今後の期待
本研究では、室温条件下でナノ細線中に閉じ込められたアンチスキルミオンの電流駆動ダイナミクスを直接観察し、その運動特性を初めて明らかにしました。特に、細線に流れる電流の方向がアンチスキルミオンの運動速度に与える影響を考察した結果、ナノ細線に垂直に電流を流すことで、運動速度が最大で6倍にも増加することを実証しました。スキルミオンだけでなく、その反粒子であるアンチスキルミオンの制御・利用が可能になることは、トポロジカル構造を活用した新たな高速電子デバイスの開発に向けた大きな一歩であり、スピントロニクス[8]分野における次世代技術の基盤を築く成果として非常に重要です。
論文情報
タイトル:Confined antiskyrmion motion driven by electric current excitations
著者名:Yao Guang, Xichao Zhang, Yizhou Liu, Licong Peng, Fehmi Sami Yasin, Kosuke Karube, Daisuke Nakamura, Naoto Nagaosa, Yasujiro Taguchi, Masahito Mochizuki, Yoshinori Tokura, Xiuzhen Yu
雑誌:Nature Communications
DOI:10.1038/s41467-024-52072-4
補足説明
[1] アンチスキルミオン
スキルミオン([3]参照)とは符号が逆のトポロジカル数「+1」を持つ反渦状の磁気構造体。トポロジカル数は、トポロジカル構造の安定性を表す指標で、ここでは渦の巻き数で定義される。アンチスキルミオンの中心を通る直線上のスピン配列は、面内に45°回転するごとにらせん型(スピンの回転面が伝搬方向と垂直である配列)とサイクロイド型(スピンの回転面が伝搬方向と平行である配列)交互に入れ替わり、90°回転するごとにスピンの回転方向が反転する。
[2] レーストラック
磁区の変化で情報を記録する媒体で、データが「トラック」(細い磁性材料のワイヤー)に沿って移動する様子がレースに例えられている。
[3] スキルミオン
固体中の電子スピンが形成する渦状の磁気構造体であり、トポロジカル数「-1」を持つ。スキルミオンの中心を通る直線上のスピン配列はどこを切っても同じらせん状である。内周スピン配列と外周スピン配列は反平行であり、その間のスピン配列は少しずつ方向を変えながら、渦状に配列している。
[4] トポロジカルホール効果
スキルミオンは電子に対し巨大な仮想磁場の源として働き、電子の運動を横方向に曲げることによりホール電圧が発生するが、これをトポロジカルホール効果と呼ぶ。
[5] ローレンツ電子顕微鏡(Lorentz TEM)
電子線が磁性体を通過する際にローレンツ力によって電子軌道の方向が変化する、その方向変化を可視化することにより、試料内部の磁気構造を観察する顕微鏡。
[6] 磁壁
磁性材料(磁石や強磁性体)の内部において、隣接する磁区(ドメイン)間で磁化の向きが異なる境界領域。
[7] ストライプ磁区
磁性材料内で磁化の方向が周期的に反転している磁区構造を示す。このような磁区は、細長い(ストライプ状の)構造を持ち、交互に反転する磁区が平行に並び、一定の周期性を持つ。
[8] スピントロニクス
電子の自転(スピン)現象を利用した電子工学。次世代の省電力・不揮発性の電子素子の動作原理を提供すると期待されている。
共同研究グループ
理化学研究所 創発物性科学研究センター
電子状態マイクロスコピー研究チーム
特別研究員 グァン・ヤオ (Guang Yao)
基礎科学特別研究員(研究当時) ポン・リソン (Peng Licong)
基礎科学特別研究員(研究当時) ヤシン・フェミー (Yasin Fehmi)
チームリーダー 于 秀珍 (ウ・シュウシン)
強相関理論研究グループ
基礎科学特別研究員(研究当時) リュウ・イーヂョウ(Yizhou Liu)
(現 客員研究員)
グループディレクター 永長直人 (ナガオサ・ナオト)
(最先端研究プラットフォーム連携(TRIP)事業本部基礎量子科学研究プログラム プログラムディレクター)
創発機能磁性材料研究ユニット
ユニットリーダー 軽部皓介 (カルベ・コウスケ)
強相関物質研究グループ
上級研究員 中村大輔 (ナカムラ・ダイスケ)
グループディレクター 田口康二郎 (タグチ・ヤスジロウ)
強相関物性研究グループ
グループディレクター 十倉好紀 (トクラ・ヨシノリ)
(東京大学卓越教授/東京大学国際高等研究所東京カレッジ)
早稲田大学 理工学術院
研究院講師 ツァン・シーチャオ(Zhang Xichao)
教授 望月維人 (モチヅキ・マサヒト)
研究支援
本研究は、理研 TRIP イニシアティブにより実施し、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業基盤研究(A)「電子顕微鏡によるトポロジカルスピン構造とそのダイナミクスの実空間観察(研究代表者:于秀珍、19H00660)」「スキルミオニクス創成に向けた基盤技術と材料の開拓(研究代表者:望月維人、20H00337)」、同学術変革領域研究(A)「スピン模型のトポロジカル相転移を検出する汎用的な機械学習手法の開発(研究代表者:望月維人、23H04522)」、同基盤研究(S)「磁性伝導体における新しい創発電磁誘導(研究代表者:十倉好紀、23H05431)」、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST「Beyond Skyrmionを目指す新しいトポロジカル磁性科学の創出(研究代表者:于秀珍、JPMJCR20T1)」、早稲田大学特定課題研究助成費(2024C-153)による助成を受けて行われました。
「海洋生態系の保全に向けて~野外調査・飼育実験・分子生態学的アプローチによる海洋生物の多様性 と生態を探る~」(2024/9/18)
2024年9月5日 09:27
演題:海洋生態系の保全に向けて~野外調査・飼育実験・分子生態学的アプローチによる海洋生物の多様性と生態を探る~
日時:2024年9月18日(水) 14:00 – 15:40
会場:早稲田大学 120-5号館121会議室
講師:安田 仁奈(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)
対象:学部生・大学院生、教職員、学外者、一般の方
参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。
主催:早稲田大学 先進理工学部 生命医科学科
問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課
TEL:03-5286-3000
「Ectogenic Desires – from cultures to labour」(2024/9/23)
2024年9月4日 16:29
演題:Ectogenic Desires – from cultures to labour
日時:2024年9月23日(月)16:30-18:30
会場:早稲田大学 先端生命医科学研究施設(TWIns)3Fセミナールーム3
講師:Ionat Zurr 西オーストラリア大学デザイン学部・准教授(アーティスト)
対象:学部生・大学院生、教職員、学外者、一般の方
参加方法:入場無料 直接会場へお越しください。
主催:先進理工学部 電気・情報生命工学科
問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課
TEL:03-5286-3000
関連リンク: https://www.facebook.com/events/921951276626517
注意:祝日につき、施設のゲートが閉まっています。施設右側の入り口の近くに張り紙をしておきますので、その指示に従ってください
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理工学術院
- 「Facile Access to Chiral Phosphorus Compounds via Transition Metal-catalyzed Asymmetric Hydrophosphination」(2024/9/23)
「Facile Access to Chiral Phosphorus Compounds via Transition Metal-catalyzed Asymmetric Hydrophosphination」(2024/9/23)
2024年9月4日 14:32
演題:Facile Access to Chiral Phosphorus Compounds via Transition Metal-catalyzed Asymmetric
Hydrophosphinationphination
日時:2024年9月23日(月)16:20~18:00
会場:早稲田大学 121号館 コマツ100周年記念ホール
講師:汪君(香港浸会大学・教授)
対象:学部生・大学院生、教職員、学外者、一般の方
参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。
主催:先進理工学部 応用化学科
問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課
TEL:03-5286-3000
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理工学術院
- 「Root structure and photosynthate allocation determine interactively spatial patterns in the maize rhizosphere microbiota」(2024/9/16)
「Root structure and photosynthate allocation determine interactively spatial patterns in the maize rhizosphere microbiota」(2024/9/16)
2024年9月4日 11:25
演題:Root structure and photosynthate allocation determine interactively
spatial patterns in the maize rhizosphere microbiota
日時:2024年9月16日(月) 15:30 – 17:10
会場:西早稲田キャンパス 50号館3階セミナールーム
講師:Claudia Knief(ボン大学教授)
対象:学部生・大学院生、教職員、学外者、一般の方
参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。
主催:早稲田大学 先進理工学部 生命医科学科
問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課
TEL:03-5286-3000