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不透明な物質を透明に超高速切り替えに成功、未来の光信号処理デバイスへ

著者: contributor
2025年2月26日 15:23

不透明な物質を透明に超高速切り替えに成功、未来の光信号処理デバイスへ

発表のポイント

  • 本来は不透明なゲルマニウム(Ge)薄膜にパルスレーザーを集光照射することで、超高速で光のスイッチと波長の選択ができることを実証。
  • フェムト秒時間スケールでの現象を解析できる計測装置を開発し、Geに高密度な光励起をすると、励起された電子は瞬時にGeの複数のバンドの谷(多谷間)に配分されて緩和することを明らかにしました。
  • 多谷間構造中で励起電子の緩和・配分を制御することで、多彩な波長に対応した超高速・多色光スイッチングデバイスの実現ができ、光通信や光コンピュータへの応用が期待されます。

概要

不透明な物質であっても、高強度レーザー光の励起※1により、まるで物質が存在しないかのように光を透過させることができます。レーザーのON/OFFを超高速で切り替えれば、その物質の透明・不透明も超高速に切り替えられるでしょうか?さらに、単色光だけではなく、多色光も同時に超高速で透明・不透明に切り替え可能でしょうか?

早稲田大学理工学術院の賈軍軍(じゃ じゅんじゅん)教授、中部大学の山田直臣(やまだ なおおみ)教授、産業技術総合研究所の八木貴志(やぎ たかし)研究グループ長らは、多谷間物質※2Geにパルスレーザーを照射することで、幅広い波長の光に対して透明・不透明を同時かつ超高速に切り替られることを実証しました。この成果は、光信号を物理的に切り替える技術の一つとして、将来のマルチバンド通信や量子コンピュータなど用の超高速光スイッチの開発への応用が期待できます。

本研究成果は、『Physical Review Applied』(論文名:Multivalley Optical Switching in Germanium)にて、2025年2月24日(現地時間)にオンラインで掲載されました。

図1 光スイッチングデバイスの動作概略図およびその原理

キーワード:

多谷間構造、谷間散乱、光スイッチングデバイス、過渡透過※3、Pauli Blocking Effect

これまでの研究で分かっていたこと

光学材料の屈折率や消衰係数など光学定数は、光の強度が低い場合には一定とみなせます。しかし、光の強度が強くなると、光学定数が光の強度に依存して変化する非線形性が現れます。この非線形光学現象を利用すると、レーザー波長の変換など、通常の光学系では実現できない多彩な光の操作が可能になります。しかし、従来の非線形光学材料は、高強度レーザーなどの照射によりある決められた波長において光学非線形性が発現するのが一般的でした。

一方、半導体材料では、バンドギャプ※4以上の高強度レーザーを用いると、多数の電子が価電子帯から伝導帯※5に高密度に励起され、これらは電子-フォノン散乱によって伝導帯の下部を一時的に占有することができます。この伝導帯の下部における電子の占有(Pauli Blocking効果※6)によって、一時的に光を透過できる状態が生じます。この現象は、直接半導体材料であるInN(窒化インジウム)ですでに観測されており、光の高速スイッチング技術として注目されています。しかし、InNの透明化が起こるのは、近赤外領域のバンドギャプ付近に限られていました。

新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、そのために新しく開発した手法

本研究では、近赤外から可視光領域にわたる幅広い波長帯域で高速に透明化する新たなアプローチを提案し、その実証に成功しました。固体物質の多谷間構造を利用し、パルスレーザーの高密度光励起を用いることで、近赤外から可視光にわたる多色光の透過・不透過が超高速で切り替わることを初めて観測しました。これは、これまで明らかにされていなかった新たな研究成果となります。

一般的に、光が固体物質中の電子を伝導帯に励起すると、電子は超高速で緩和し、その後電子-正孔の再結合などを経て元の状態に戻ります。Geや酸化物のような化学結合の強い物質では、励起後の緩和過程がピコ秒※7以下で起きるため、観測・制御・利用は非常に困難です。本研究では、フェムト秒※7時間スケールでの現象を解析できる計測装置を開発し、透過・不透過の超高速切り替え現象を実験的に解明しました。そのメカニズムは、励起された電子が谷間散乱を経て多谷間に配分され、各谷間に瞬時に滞在することでPauli Blockingが発生します(図1)。これは、電子が伝導帯の空状態を占有することで、光が吸収されず透過する現象です。Geにおいて、この現象により、530 nmと600 nmの可視光と~900 nmの近赤外光が、数百フェムト秒の時間スケールで同時に透過することが確認されました。これは、多波長に対応したスイッチング材料としての実現可能性を示しています。

研究の波及効果や社会的影響

本研究では、多谷間物質へのフェムト秒パルスレーザー照射により、励起電子の多谷間配分を高精度に制御することで、広帯域の波長に対応した超高速多色光スイッチングデバイスの実現可能性を示しました。

今回の成果は、単に超高速な物理現象の観測・解明にとどまらず、持続可能な高度情報化社会を実現するための基盤技術としても重要な役割を果たすと考えられます。例えば、光通信においてマルチバンド通信や光コンピュータのロジック素子への応用のように情報通信分野において波及効果をもたらすことが期待されています。特に、 多波長でスイッチングできることのメリットは、複数の光信号を時間差で重ねることで、より多くの光信号を伝送可能にする点です。今回の実証物質Geはシリコンフォトニクスとの高い整合性を有しているため、本原理に基づく多色光スイッチングは、シリコンフォトニクスの構成素子の一つとして、より高速なデータ通信やセキュリティの向上に貢献し、増加し続けるインターネットトラフィックの課題解決に寄与することが期待されます。

課題と今後の課題

今回の研究では、多谷間物質を最先端のパルスレーザー技術と融合させ、広帯域の波長に対応した光スイッチング材料の創出を目指して研究を進めました。この成果により、単一波長での光を伝搬する従来の通信方式よりも、広帯域・多波長での受送信が可能となり、光ファイバの伝送容量が大幅に拡大し、大容量・高速データ通信への貢献が期待されます。しかしながら実用化に向けては、既存の光通信波長帯にマッチングする材料の創出などの課題が残されています。今後は、これまでの研究成果を基盤とし、新しい材料設計技術を活用して広帯域対応の多谷間物質を創出し、超高速光スイッチングデバイスの実用を検討していきます。これにより、将来的には光通信や量子コンピュータのへの応用につながることが期待されます。

研究者のコメント

この研究では、多谷間構造を持つゲルマニウム薄膜において、励起された電子がバンド構造内の複数の谷に超高速で分布することを観測しました。この超高速な物理現象を活用することで、多色光の超高速光スイッチングデバイスの実現に向けた重要な成果が得られました。今後は、多谷間物質を用いて、伝導帯内で電子を超高速に注入する技術をさらに発展し、新たな物理現象の発見とともに、より多くの革新的なデバイス応用の実現が期待されています。

用語解説

※1 励起
原子や分子が外部からエネルギーを与えられ、エネルギーの低い安定した状態から、より高いエネルギー状態に移ることを指します。

※2 多谷間物質
固体物質の伝導帯の底を谷間と呼び、谷間を一つ以上持つ半導体を多谷間物質といいます。

※3 過渡透過
光が物質を通過する際に、時間とともに変化する透過特性を指します。

※4 バンドギャプ
固体物理において、光(または外部エネルギー源)が電子を価電子帯から伝導帯へ励起するために必要なエネルギー差を指します。

※5 伝導帯
固体物理学における半導体や絶縁体のバンド構造の一部で、電子が自由に移動できるエネルギー範囲のことを指します。光照射や熱などの外部エネルギーにより、電子が価電子帯から伝導帯に励起されることができます。

※6 Pauli Blocking効果
高密度な電子が伝導帯に占有された半導体において、新たな電子はそこに遷移できず、光の吸収がブロックされる現象を指します。

※7 ピコ秒、フェムト秒
 1ピコ秒は1秒の1兆分の1、すなわち 10−12 秒、1フェムト秒は1秒の1000兆分の1、すなわち 10−15 秒に相当します。

論文情報

雑誌名:Physical Review Applied
論文名:Multivalley optical switching in germanium
執筆者名(所属機関名):Junjun Jia* (Waseda University)、Hossam A. Almossalami (Zhejiang University)、Hui Ye* (Zhejiang University)、Naoomi Yamada (Chubu University)、Takashi Yagi  (National Chubu University)
掲載予定日時(現地時間):2025年2月24日
掲載URL:https://journals.aps.org/prapplied/abstract/10.1103/PhysRevApplied.23.024060
DOI:https://doi.org/10.1103/PhysRevApplied.23.024060

空間的オミクス解析で解き明かす婦人科癌の新たな世界(2025/3/13)

著者: staff
2025年2月21日 14:39

演題:空間的オミクス解析で解き明かす婦人科癌の新たな世界

日時: 2025年3月13日(木) 16:00-17:40

会場:早稲田大学 西早稲田キャンパス52号館201室

講師:田口 歩

対象:学部生、大学院生、教職員、学外者、一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 電気・情報生命工学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

規則性ナノ空間材料の魅力と展開(2025/3/6)

著者: staff
2025年2月21日 12:31

演題:規則性ナノ空間材料の魅力と展開

日時: 2025年3月6日(木) 15:30-17:10

会場:早稲田大学 西早稲田キャンパス63号館204,205室

講師:小倉 賢

対象:学部生、大学院生、教職員、学外者、一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 応用化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

大地震発生および気象状況悪化等に伴う本学の対応について / Class Cancellation Policy

*English follows Japanese.


早稲田大学学生諸君ならびに教職員各位

気象庁の発表において、以下「対象地域」で震度5弱以上の地震が観測された場合、地震観測時点より該当する各「対象キャンパス」の授業(オンライン授業、定期試験を含む。以下同じ。) を休講とします。この場合、MyWASEDAのお知らせやメール等による休講連絡は原則発信されず、自動的に休講となります。授業再開の連絡方法やその他の詳細は、本学ホームページを確認してください。
https://www.waseda.jp/top/about/work/organizations/academic-affairs-division/class-cancellation-earthquake

 


対象地域
対象キャンパス
東京都新宿区 または
埼玉県所沢市
早稲田キャンパス
戸山キャンパス
西早稲田キャンパス
所沢キャンパス
喜久井町キャンパス
芸術学校
先端生命医科学センター(TWIns
東伏見キャンパス
上石神井キャンパス(大学設置科目)
福岡県北九州市
北九州キャンパス
※早稲田大学本庄キャンパス・日本橋キャンパス・エクステンションセンター(早稲田校・中野校)・高等学院・高等学院中学部、本庄高等学院は除きます。
※北九州キャンパスに限り、津波警報が発表された場合も、警報発表時点より同様の扱いとなります。
 
このほか、気象状況・気象警報・交通機関の状況をもとに、全学休講措置を講じる場合には、授業・試験開始の2時間前までに、緊急用お知らせサイト(https://emergency-notice.waseda.jp/)、大学公式Facebook(https://www.facebook.com/WasedaU)、MyWASEDAお知らせ、メール、本学ホームページで周知・広報しますので、確認をしてください。
通常通り授業が行われる場合であっても、授業が行われるキャンパスまでの交通経路内において、気象状況等から通学することが危険又は困難である場合は、通学を見合わせる等、各自で判断してください。なお、各自の判断で通学を見合わせた場合は、後日所属学部(研究科)において手続きを行うことにより、遅刻、欠席の配慮を求めることができます。

以上 


To all students, faculty and staff,

If an earthquake with a seismic intensity of 5 Lower or above on the Japanese scale is recorded in the cities of Shinjuku (Tokyo), Tokorozawa (Saitama), or Kitakyushu (Fukuoka), classes at the respective campuses will be cancelled as follows. This policy also applies to online classes and examinations. In accordance with the guidelines, classes will be automatically cancelled, and no notice of class cancellation will be sent out via MyWASEDA email. Please check the following website for details on how to announce for the resumption of classes. (https://www.waseda.jp/top/en/about/work/organizations/academic-affairs-division/class-cancellation-earthquake

City
Campuses
Shinjuku-ku, Tokyo or
Tokorozawa-shi, Saitama
Waseda Campus
Toyama Campus
Nishiwaseda Campus
Tokorozawa Campus
Kikuicho Campus
Art and Architecture School
Center for Advanced Biomedical SciencesTWIns
Higashifushimi Campus
Kamishakujii Campus Only University classes
Kitakyushu-shi, Fukuoka
Kitakyushu Campus
*These guidelines do not apply to Honjo Campus, Nihonbashi Campus, Extension Center (Waseda Campus and Nakano Campus), Waseda University Junior and Senior High School, and Honjo High School.
*For the Kitakyushu Campus, classes will also be canceled if a “tsunami warning”(tsunami-keihou) is issued.

If the University decides to enact contingency measures involving the cancellation of classes, postponement of examinations, etc., the University will inform all students, faculty and staff of the decision no less than two hours prior to the start of each affected class period or examination. Only after the directive to cancel classes, postpone examinations, etc., has been made, will notifications be posted on the University’s website, as well as being disseminated via other communication channels, such as Waseda email, Waseda University Emergency Bulletin Website(https://emergency-notice.waseda.jp/)and Waseda University Official Facebook Page (https://www.facebook.com/WasedaU).
If classes are not canceled, but students face difficulties commuting to the university for any reason, they may request consideration by submitting a “Notice of Absence” to their school office/ graduate school office. 

“Octahedral metal clusters with graphenic nanomaterials as catalysts for sustainable development”(2025/3/4)

著者: staff
2025年2月7日 16:49

日時: 2025年3月4日(火) 16:00-17:40

会場:早稲田大学 各務記念材料技術研究所 42-1-101 (講演室)

講師:Marta Feliz Rodriguez

対象:応化学部生、応化院生、化学院生、ナノ理工院生

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 応用化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

“Nano-decoration” of field-effect capacitors – challenges, changes(2025/2/26)

著者: staff
2025年2月7日 16:34

日時: 2025年2月26日(水) 15:30-17:10

会場:早稲田大学 121号館4階407

講師:Schöning, Michael Josef

対象:学部生、大学院生、教職員、学外者、一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 応用化学専攻

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

 

Graphene Substrates in Lithium-Sulfur and Lithium-Oxygen batteries(2025/2/4)

著者: staff
2025年2月4日 17:49

日時: 2025年2月4日(火) 16:00-17:00

会場:早稲田大学 西早稲田キャンパス54号館101室

講師:Jusef Hassoun

対象:応用化学科大学院生および学部生

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 応用化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

Graphene Substrates in Lithium-Sulfur and Lithium-Oxygen batteries(2025/2/4)

著者: staff
2025年2月4日 17:07

日時: 2025年2月4日(火) 16:00-17:00

会場:早稲田大学 西早稲田キャンパス54号館101室

講師:Jusef Hassoun

対象:応用化学科大学院生および学部生

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 応用化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

Studies on the role of sulphur during FC-CVD synthesis of CNTs(2025/3/7)

著者: staff
2025年2月4日 16:59

日時: 2025年3月7日(金) 15:00-16:40

会場:早稲田大学 55号館S棟610室

講師:Esko I. Kauppinen

対象:学部生、大学院生、教職員、学外者、一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 応用化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

リンク先:https://noda.w.waseda.jp/seminar-j.html

LMCT Catalysis for Selective Functionalizations of Strong Bonds(2025/2/13)

著者: staff
2025年1月30日 18:05

日時: 2025年2月13日(木) 16:20-18:00

会場:早稲田大学121号館 コマツ100周年記念ホール

講師:Zhiwei Zuo

対象:学部生、大学院生、教職員、学外者、一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 応用化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

Opportunity for New Plastics Industry from CO2 Fixation into Polymers(2025/2/13)

著者: staff
2025年1月30日 18:04

日時: 2025年2月13日(木) 15:00-16:40

会場:早稲田大学 西早稲田55号館S棟510室

講師:王 献紅

対象:学部生、大学院生、教職員、学外者、一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 応用化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

ナノメートルの物質で起こる光のねじれ現象を解明

著者: contributor
2025年1月29日 15:27

ナノメートルの物質で起こる光のねじれ現象を解明
自然界のねじれ現象の解明と制御に貢献

発表のポイント

  • ナノの世界が見える特殊な光学顕微鏡を使って、ナノ物質近傍にできる光のねじれを立体的に可視化しました。
  • ナノ物質の近くに光が集まること、このとき光のねじれが強くなること、また、光が集まりその強度が増すよりも、光ねじれの方が緩やかに起こることを発見しました。詳しい理論解析から、その物理起源を明らかにしました。
  • 金属ナノ物質でおこる電子の動きを制御することで、光のねじれを制御し、分子のねじれの高感度検出と自然界のねじれ現象の解明や制御につながることが期待されます。

概要

早稲田大学理工学術院の井村 考平(いむら こうへい)教授、同学術院の長谷川 誠樹(はせがわ せいじゅ)助教は、光のねじれとその立体特性を直接観測する手法を開発し、金ナノ物質近傍の光の強度とそのねじれを精密に計測し、金属ナノ物質で起こる電子の分布によって、光のねじれ具合が違うことを明らかにしました。さらに、光を集める強さとねじれの強さには違いがあること、「光の広がりと比べて、光のねじれがゆっくりとほどけること」をはじめて発見しました。これは、これまで解明されていなかった新たな光の特性になります。また、理論計算を行い実験結果がよく再現されること、その結果から今回の発見の起源を明らかにしました。この研究成果は、光のねじれを利用した分子の高感度検出をはじめ、光のねじれを活用した、自然界のねじれ現象の解明と制御につながることが期待されます。

本研究成果は、『Nano Letters』(論文名:Three-Dimensional Visualization of Chiral Nano-Optical Field around Gold Nanoplates via Scanning Near-Field Optical Microscopy)にて、2024年12月20日(現地時間)にオンラインで掲載されました。

図 ナノ物質近傍にできる光のねじれ

キーワード:

光のねじれ、金属ナノ物質、光アンテナ効果、分子の掌性(キラリティー)、ナノスケールの光学顕微鏡(近接場光学顕微鏡)

研究の背景

自然界には、アミノ酸や生体分子をはじめ、貝殻や渦巻きなど、さまざまな物体や現象において構造の対称性が右手と左手の鏡像関係となる掌性が存在します。これを英語ではキラリティー※1と呼びます。この掌性は、分子や構造体のねじれと関係があり、生体内において非常に重要な働きをすることが知られています。例えば、右回りのねじれは薬効を示すが、その逆はそうでない場合があることが知られています。したがって、分子のねじれを制御して合成すること、またそれを高感度に検出することが極めて重要です。

分子のねじれの方向により右回りの円偏光と左回りの円偏光に対する光の吸収の強さが違っていることから、分子のねじれの検出にこの円偏光に対する光吸収の違いが利用できます。しかし、その感度は非常に低いことが知られています。これを高感度にする方法として、ナノ物質の利用が提案されています。金属ナノ物質※2では、光を物質近傍に閉じ込める光アンテナ効果があり、分子を金属ナノ物質に近づけることで高感度化を実現できる可能性があります。分子のねじれを検出するためには、ナノ物質近傍で光がねじれる空間とそのメカニズムを解明する必要がありますが、通常の光学顕微鏡は、光の回折現象により空間分解能に制限があり、ナノ物質近傍の光のねじれを直接観測することはできませんでした。

これまでの研究で分かっていたこと

ナノサイズの金属ナノ物質に光を照射すると、物質内部の電子が集団で振動するようになります(これをプラズモン※2と呼びます)。これにより、光はナノ物質近傍に空間的、時間的に閉じ込められ、光の強度が局所的に強くなります。光の閉じ込め具合は、電子の運動の空間的な分布、またその時間特性と関係すると予想されます。しかし、ナノ物質内の電子の空間分布を直接観測することは容易ではありません。

私たちの研究グループは、ナノスケールの光学顕微鏡の高度化をすすめて、ナノ物質の電子の空間分布と光特性の関係を研究してきました。これまでに、電子の分布により、光の閉じ込め効果が違うことは明らかになっていました。しかし、光のねじれに関する詳細な知見はありませんでした。近年になり、金属ナノ物質近傍で光のねじれが大きくなることが報告され、それを制御し、分子のねじれ選択的な結晶化など、さまざまな応用につなげる研究が精力的に行われています。また、光のねじれの観察についても国内のいくつかの研究グループを中心に報告されるようになってきています。

図1.ナノスケールの光学顕微鏡で観察した金ナノプレートの電子の分布と光のねじれ図

今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、そのために開発した手法

本研究では、電子の分布と光のねじれに関係があること、光の集まり方とねじれ方には違いがあることを初めて明らかにしました(図1)。特に、光のねじれ方・ほどけ方に関する発見は、これまで解明されてこなかった成果となります。

ナノスケールの光の空間分布を観測する手法は、ここ20年で大きく進展しています。しかし、ナノ物質近傍の光のねじれは、これを観察するのが容易ではありませんでした。一方、ナノ物質の化学合成やナノ加工技術の進展により、ナノ物質を用いた光ねじれに関する研究が近年急速に進展しています。私たちは、光のねじれを理解することが、その制御と応用において本質的に重要であると考えました。

そこで本研究では、私たちがこれまで開発してきたナノスケールの光学顕微鏡※3に光のねじれ測定を可能とする光学系を組み合わせて、装置をあらたに開発しました。さらに、光の広がりとねじれの度合いを評価するために、立体的な観測手法を組み合わせることを考案しました。これらにより、今回の重要な発見へとつなげることができました。

開発した装置の模式図を図2に示します。この装置では、微小な開口に発生する小さな光の粒(ナノスケールの光)を局所的に試料に照射して、試料から透過してくる光のねじれを装置下部の光学部品(ねじれ検出光学系)で選別し、検出します。また、光を照射する微小開口部分と試料表面との距離をナノメートルの精度で制御することで立体的な観測を実現しています。

図2.光のねじれの観測を可能とするナノスケールの光学顕微鏡

研究の波及効果や社会的影響

私たち自身をはじめ自然界には、さまざまなところに分子のねじれが関係する現象があります。しかし、その起源は必ずしも十分に解明されたとは言えない状況です。分子のねじれを高感度に検出し、それを制御することは、生命の起源をはじめ、病理診断の効率化や医薬品の開発において、今後さらに重要性を増すと考えられます。また、光のねじれを利用することで、高度な光通信が実現することも提案されており、今回の成果は、自然現象の解明や健康社会の実現に貢献するだけでなく、高度な持続可能な社会を実現する上でも基盤となる知見であると考えられます。

課題と今後の課題

今回の研究では、光のねじれと金属の電子の分布にどのような関係があるのか、その立体的な特性を解明することを目的に研究を進めました。これらにより、光のねじれの本質に迫る成果につながりました。しかし、現状では、これを自在に制御するには至っていません。これまでに、金属ナノ物質に関する基礎的知見を明らかにしてきました。今後は、これらを基盤として、光のねじれを制御し、さらに分子のねじれの選択的な高感度検出や結晶化などの応用につなげることを検討しています。これらにより、将来、病理診断の効率化や創薬、さらには自然界に存在するねじれの起源の解明につながることが期待されます。

研究者のコメント

これまでナノ物質を対象に研究を展開してきました。ナノ物質は、分子やバルク(固体)とは大きく異なる光特性を示します。その起源は、物質のサイズと光の波長のサイズが同程度になることにより、物質と光が互いに相互作用することに起因します。金属ナノ物質でおこる光のねじれの増大もよく似た起源ですが、その本質に迫ることができたことで、今後の光のねじれの先端的応用につながると期待されます。今回の成果を得る上で、精密な計測と高度な解析が必要となりました。これは、私たちのこれまでの取り組みが実を結んだ成果です。本研究で報告した物質や光の本質に迫る成果は、化学をはじめ物質科学、また生命科学分野に波及効果をもたらすことを期待しています。

用語解説

※1 分子の掌性(キラリティー)
乳酸など分子には、構成元素、また構造が同じで、対称性のみが異なる分子が存在する。これらは、鏡像関係にあり、ほとんどの化学的な特性は同じで、光に対する特性のみが違う。これらをL体、D体で区別する場合がある。生体内のアミノ酸は、すべてL体である。

※2 金属ナノ物質
数nmから数mmサイズの金属粒子(構造体)。コロイドと呼ばれることもある物質。金属ナノ物質では、光により物質内部の自由電子の集団的な振動(プラズモンと呼ばれる)が誘起される。特定の波長(色)の光により、この集団電子運動が誘起されることから、特異な光学特性を示す。中世ヨーロッパの教会にあるステンドグラスや江戸切子の赤色は、金ナノ粒子による光吸収と散乱に起因する。

※3 ナノスケールの光学顕微鏡(近接場光学顕微鏡)
生体組織など微小な試料を観測する場合には、カラー撮影が可能な光学顕微鏡が利用される。光学顕微鏡は、光をレンズで集光し、これを試料に照射して観察する。空間分解能(どれくらい小さなものを観察できるか)は、光の回折現象(光の集光限界)により制限され、可視域(波長380-780 nm)では光の波長の半分程度(波長600 nmの場合、約300 nm)。これよりも小さなものを観察するためには、光の回折現象に依存しないナノスケールの顕微鏡が必要となる。これを達成する顕微鏡の一つが、近接場光学顕微鏡。この顕微鏡では、波長サイズ以下の微小な開口に発生する小さな光の粒(近接場光)を試料に照射して、試料の観察を行う。空間分解能は、開口径程度となる。本研究では、空間分解能は100 nm程度である。

論文情報

雑誌名:Nano Letters
論文名:Three-Dimensional Visualization of Chiral Nano-Optical Field around Gold Nanoplates via Scanning Near-Field Optical Microscopy
執筆者名:長谷川誠樹※(早稲田大学),井村考平*(早稲田大学) ※筆頭著者、*責任著者
掲載日時(現地時間):2024年12月20日
掲載URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.nanolett.4c05151
DOI:https://doi.org/10.1021/acs.nanolett.4c05151

研究助成

本研究は、科学研究費補助金 学術変革領域研究A「光の螺旋性が拓くキラル物質科学の変革(尾松孝茂領域代表)」公募研究「超螺旋光によるナノキラル光場の創成とその可視化」(課題番号:23H01927、研究代表者:井村考平)、基盤研究B「光場制御と強結合によるナノ光増強場の高度化と機能開拓」(課題番号:23H04604、研究代表者:井村考平)の支援により実施されました。

化学に基づく生体中分子機能の理解とデザイン(2025/2/17)

著者: staff
2025年1月17日 17:41

日時: 2025年2月17日(月) 16:30-18:10

会場:早稲田大学 120-5号館121会議室

講師:山東 信介

対象:学部生、大学院生、教職員、学外者、一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 生命医科学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

白色レーザーを用いた非線形ラマン分光学的イメージング(2025/2/27)

著者: staff
2025年1月17日 17:37

日時: 2025年2月27日(木) 16:30-18:10

会場:早稲田大学 120-5号館121会議室

講師:加納 英明

対象:学部生、大学院生、教職員、学外者、一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 生命医科学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

「フィクションと現実の建築のあれこれ」(2025/2/6)

著者: staff
2025年1月17日 16:23

日時: 2025年2月6日(金) 13:00-16:20

会場:早稲田大学 西早稲田キャンパス 57号館201室

講師:大童 澄瞳

対象:学部生、大学院生、教職員、一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:創造理工学部 建築学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

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