ノーマルビュー

「建築による社会変革ーつくりかたからつくりかえる」2025/4/25

著者: staff
2025年3月28日 15:46

演題:「建築による社会変革ーつくりかたからつくりかえる」

日時:2025年4月25日(金)18:00~21:00

会場:西早稲田キャンパス 63号館2階04・05会議室

講師:秋吉 浩気

対象:学部生、大学院生、教職員、学外者、一般の全て

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:創造理工学部建築学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

ご卒業・修了おめでとうございます。2024年度学位授与式が行われました。

著者: staff
2025年3月26日 20:09

3月26日(水)初夏のような陽気の中、各学部・研究科において、学科・専攻ごとの学位授与式が行われました。ご卒業・修了を迎えられた皆さん、おめでとうございます。今後のご活躍をお祈りしています!

 

 

 

 

 

赤松大臣政務官 本学研究開発を視察

著者: contributor
2025年3月26日 09:31

赤松健 文部科学大臣政務官が所千晴教授の研究開発現場を視察

関係者による集合写真(左から近藤圭一郎 理工学術院長補佐、若尾真治 理事、赤松健 文部科学大臣政務官、所千晴 創造理工学部長、戸川望 理工学術院長)

2025年3月19日(水)、赤松健 文部科学大臣政務官らが、本学理工学術院創造理工学部長の所千晴教授を訪問し、リチウムイオン電池のリサイクルに係る研究開発現場を視察されました。

会の冒頭では理事の若尾真治教授、 理工学術院長の戸川望教授より本学の研究推進に係る紹介があり、その後所教授より、小型リチウムイオン電池の安全・安心な処理を目指した令和5年度東京都「大学研究者による事業提案制度」に提案された内容のほか、これまでの国による委託事業等を通じた資源循環を実現するための分離技術等、リサイクルを含むサーキュラーエコノミーの実現に向けた幅広い取り組みに係る紹介がありました。

その後所教授の実験室において電気パルスによる分離実験の実際のデモの様子を視察され、赤松政務官との間で実験条件や材料に関する詳細な意見交換がなされました。

後半のディスカッションの場では、所教授より自身の研究の将来展望について、利用者に近い内側の資源循環ループの確立に向けたリソーシングの重要性が指摘され、そのためには選択性・局所性の高い分離技術の研究開発が必要不可欠である旨のお話がありました。赤松政務官からは、適宜鋭いご質問をいただき、また所教授の研究について深いご理解・ご関心をいただき、大変有意義な意見交換となりました。

所教授よりリチウムイオン電池の材料サンプルについて説明を受ける赤松政務官

電気パルス分離実験室の様子

意見交換の様子(赤松政務官)

意見交換の様子(所教授)

層厚を制御した人工強磁性細線の作製に成功

著者: contributor
2025年3月24日 16:03

層厚を制御した人工強磁性細線の作製に成功
―人工強磁性細線を利用した大容量メモリや磁気センサ開発へ道筋―

発表のポイント

  • 層厚を制御した多層構造をもつ人工強磁性細線を二浴電析法により作製に成功した。
  • 層厚は最小で約3.5 nmの人工強磁性細線を作製できた。
  • 人工強磁性細線を利用した大容量メモリや磁気センサ開発へ道筋を開いた。

概要

岐阜大学 大学院自然科学技術研究科の修士課程1年の川名梨央さん、修士課程修了生(令和5年度)大口奈都子さん、工学部 山田啓介准教授、吉田道之助教、杉浦隆教授、嶋睦宏教授、名古屋大学 大学院工学研究科 大島大輝助教、名古屋大学 未来材料・システム研究所 加藤剛志教授、早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構 齋藤美紀子招聘研究員、早稲田大学 先進理工学部 本間敬之教授、京都大学 化学研究所の小野輝男教授の研究グループは、層厚を制御した多層構造をもつ人工強磁性細線⁽¹⁾の作製を二浴電析(電気めっき)法⁽²⁾と細孔ナノテンプレートを用いて成功しました。層厚は数100 nmから最小で約3.5 nmの多層構造を有する人工強磁性細線が作製できました。さらに研究グループでは、1本の人工強磁性細線の磁気抵抗を測定し、人工強磁性細線の層厚が薄くなるほど、磁気抵抗比が増大することを確認しました。本研究の成果は、人工強磁性細線を利用する次世代磁気メモリや磁気センサの開発化へ道筋を開くものです。

本研究成果は、2025年3月20日(木)付でApplied Physics Expressに掲載されました。

研究の背景

次世代の情報記録デバイス実現を目指すスピントロニクス⁽³⁾では、次世代磁気メモリの候補として三次元磁壁移動型磁気メモリが提案され、研究開発が行われています(図1参照)。三次元磁壁移動型磁気メモリの構想では、細線1本で数ビットの記録容量をもつ人工強磁性細線が配置された構造となっており(図1(左図))、細線は記録層と磁壁層を交互に積層した多層構造になっています。中でも記録層はデータを保持する役割をもち、垂直方向の磁化の向きにより、データの0と1を区別します。一方、磁壁層は、記録層の磁化方向を緩やかに繋ぐ役割をもつ層として働く層で、磁壁層内の磁化は磁壁と呼ばれる磁化が緩やかに変化した領域となっています(図1(中図))。細線に電流を印加することで記録層のデータを動かし(図1(右図))、読み出し用の強磁性トンネル接合素子(Magnetic Tunneling Junction: MTJ)でデータを読み取ります。記録層と磁壁層として適している材料として、コバルト-プラチナ(Co-Pt)合金が計算による設計からわかっていましたが、メモリの開発に向け、メモリ素子となる人工強磁性細線の作製が一つの課題となっていました。

図1:三次元磁壁移動型磁気メモリの概略図 (左)三次元磁壁移動型磁気メモリの構造。(中央)人工強磁性細線の拡大図。(右)記録データ(0または1)の転送方法。細線に電流を印加することでデータを転送させます。

人工強磁性細線の作製として本研究グループでは、電析(電気めっき)法と細孔ナノテンプレートを用いた手法に注目しました。電析法を用いた多層構造細線では、以前にはパルス電析法⁽⁴⁾を用いた手法が多く報告されていました。しかしながら、細線の層厚を制御よく作製できた報告は少なく、多層構造細線の層厚の制御が課題となっていました。本研究グループでは、二浴電析法に注目し、層厚を制御した人工強磁性細線の作製を試みました。

研究成果

人工強磁性細線の作製は、材質がポリカーボネートの細孔ナノテンプレートを作用電極として加工し、コバルトとプラチナの濃度比が異なる電解質溶液を相互に電析する二浴電析法により作製しました(図2(a)参照)。電解質溶液は、組成比が異なる強磁性体であるコバルト-プラチナ(Co-Pt)合金を合成するために、濃度比が異なる2種類の電解質溶液を用いました。図2(b)に作製した人工強磁性細線の電子線回折による観察結果を示します。複数本の人工強磁性細線が像として写っており、Co₇₁Pt₂₉合金とCo₁₃Pt₈₇合金の層が綺麗に積層されていることがわかります。細線の直径は、約130 nm、Co₇₁Pt₂₉合金とCo₁₃Pt₈₇合金の1層の厚さの平均膜厚が11 nmでした。走査型電子顕微鏡による観察から細線の長さは最長で約19μ mmでした。試料作製の設計より、細線の積層数は最大で約1300層でした。

図2:実験手法と作製した人工強磁性細線 (a)実験で用いた二浴電析法の概念図。(b)作製した複数本の人工強磁性細線の電子線回折による観察結果。細線の直径は約130 nm、Co₇₁Pt₂₉合金とCo₁₃Pt₈₇合金の1層の厚さの平均膜厚が11 nmです。Co₇₁Pt₂₉合金とCo₁₃Pt₈₇合金の層が綺麗に積層されていることがわかります。

図3には、電子線回折による層厚の異なる人工強磁性細線の観察結果を示します。図3(a)~(d)は、Co₇₁Pt₂₉合金とCo₁₃Pt₈₇合金の1層の厚さ平均膜厚が、それぞれ、(a)約 80, (b) 35, (c) 17, (d) 3.5 nmの試料を示しています。図3の観察結果より、層厚を人工的に制御できていることがわかります。さらに図3(d)に示すように、層厚は最小で約3.5 nmの人工強磁性細線が作製できました。

図3:電子線回折による層厚の異なる人工強磁性細線の観察結果 (a)~(d)は、Co₇₁Pt₂₉合金とCo₁₃Pt₈₇合金の1層の厚さの平均膜厚が、それぞれ(a)約 80, (b) 35, (c) 17, (d) 3.5 nmの人工強磁性細線です。人工強磁性細線の層厚を人工的に制御できていることがわかります。

図4には、1本の人工強磁性細線の磁気抵抗を測定した結果を示します。1本の細線に電極を微細加工とリフトオフ法により付けた試料の光学顕微鏡像を図4(a)に示します。電極を付けた1本の細線に電流と磁場を印加し、異方性磁気抵抗(Anisotropic Magnetoresistance: AMR) ⁽⁵⁾を測定しました。その結果、図4(b)に示すように、人工強磁性細線の層厚が薄くなるほど、磁気抵抗比が増大することを確認しました。その他の磁気抵抗測定においても細線内で磁壁移動を示唆できる測定結果が得られたことから、人工強磁性細線が図1に示す磁気メモリとして動作できることを確認できました。これらの結果より、人工強磁性細線を利用する次世代磁気メモリや磁気センサの開発へ繋がる結果を示すことができました。

図4:1本の人工強磁性細線の磁気抵抗測定 (a) 1本の人工強磁性細線に電極を付けた試料の光学顕微鏡による観察結果。(b)外部磁場印加は9.3 kOe、室温条件下で測定した各試料における磁気抵抗比の結果。平均膜厚が11 nmの人工強磁性細線は、単層Co₈₀Pt₂₀細線と比べると2.2倍大きな磁気抵抗比が得られました。

本研究の意義・今後の展望

本研究では、層厚を制御した多層構造をもつ人工強磁性細線の作製を二浴電析法と細孔ナノテンプレートを用いて成功しました。層厚は、最小で約3.5 nmの人工強磁性細線が作製できました。加えて、1本の細線に電極を付け、人工強磁性細線の層厚が薄くなるほど、磁気抵抗比が増大することを確認しました。これらの結果は、人工強磁性細線を利用する次世代磁気メモリや磁気センサの開発化へ繋がる結果です。今回の成果は、二浴電析法で層厚を制御して数ナノメートルオーダーの強磁性体の積層が可能である技術を示しただけでなく、省エネルギー・高密度・超小型化の次世代情報記録デバイスであるマルチビットに対応可能な磁気メモリの開発へ前進となる結果を示すことができました。

用語説明

(1)人工強磁性細線:組成の異なる強磁性金属同士の層厚がnmオーダーで多層構造になった細線のこと。1980年代頃から研究が始まった「人工格子」(各層の厚さを原子層単位で制御して積層した人工的多層膜のこと)になぞらえて「人工強磁性細線」と名付けた。

(2)二浴電析法:2種類の電解質溶液を利用して電析する手法。異なる電解質溶液で電析を行い、異なる物質を積層させることができる技術。一方で、積層させる電極などを異なる電解質溶液間で物理的に移動させる必要がある。

(3)スピントロニクス:電子の持つスピンの自由度を利用することで、従来のエレクトロニクスに無い新機能・高性能素子の実現を目指す研究開発分野。

(4)パルス電析法:時間とともに電流(または電圧)を変化させる電析法で、パルス波形を用いた手法。析出物の表面形態、結晶粒径、構造を制御できる手法である。直流電流(または直流電圧)に比べて拡散層の厚さを薄くでき、高いパルス電流密度で電析することができる。

(5)異方性磁気抵抗(Anisotropic Magnetoresistance: AMR):強磁性体の磁化の向きと電流方向のなす角度に依存して、電気抵抗が変化する現象。電流方向と磁化方向が平行の時が、電流方向と磁化方向が垂直の時と比べて電気抵抗が大きくなる。磁化方向は外部磁場によって方向を制御する。磁場(磁化)方向と電流方向が垂直の場合と平行の場合の磁気抵抗をそれぞれ測定し、その差から磁気抵抗比[%]を求める。磁気抵抗比が大きいほど磁気センサとしての感度が高いことを示している。

論文情報

雑誌名:Applied Physics Express
論文タイトル: Artificial control of layer thickness in Co-Pt alloy multilayer nanowires fabricated by dual-bath electrodeposition in nanoporous polycarbonate membranes
著者: Rio Kawana, Natsuko Oguchi, Daiki Oshima, Michiyuki Yoshida, Takashi Sugiura, Mikiko Saito, Takayuki Homma, Takeshi Kato, Teruo Ono, Mutsuhiro Shima, and Keisuke Yamada
DOI番号:10.35848/1882-0786/adbcf6

研究助成

川名 梨央(かわな りお):論文筆頭著者
岐阜大学 大学院自然科学技術研究科 修士課程1年

大口 奈都子(おおぐち なつこ)
岐阜大学 大学院自然科学技術研究科 修士課程修了(令和 5 年度)

大島 大輝(おおしま だいき)
名古屋大学 大学院工学研究科 助教

吉田 道之(よしだ みちゆき)
岐阜大学 工学部 助教

杉浦 隆(すぎうら たかし)
岐阜大学 工学部 教授

齋藤 美紀子(さいとう みきこ)
早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構 招聘研究員

本間 敬之(ほんま たかゆき)
早稲田大学 先進理工学部 教授

加藤 剛志(かとう たけし)
名古屋大学 未来材料・システム研究所 教授

小野 輝男(おの てるお)
京都大学 化学研究所 教授

嶋 睦宏(しま むつひろ)
岐阜大学 工学部 教授

山田 啓介(やまだ けいすけ):論文責任著者
岐阜大学 工学部 准教授

研究サポート

本研究は、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)「3次元磁気メモリの開発」(代表:小野輝男, 課題番号:JPMJCR21C1)の支援を受け実施された。本研究の一部は、日本学術振興会 科学研究費 基盤研究C(課題番号:24K08198)の支援を受け、また名古屋大学未来材料・システム研究所における共同利用・共同研究(課題番号:JPMXP1224NU0211)として実施された。

令和7年度環境研究総合推進費に早大から3件採択

著者: contributor
2025年3月24日 16:00

独立行政法人環境再生保全機構(ERCA)が公募する環境研究総合推進費の令和7年度新規課題に、本学から3件が採択されました。申請総数は477件で、このうち103件が採択された中の3件となります。

採択課題

気候変動領域

  • 革新型研究開発(若手枠A・B)
    磯谷 浩孝(理工学術院 環境総合研究センター 次席研究員)
    「アミン系固体吸収材を用いた二酸化炭素直接空気回収技術の開発加速のためのプロセスモデルの基盤構築」

資源循環領域

  • 環境問題対応型研究(一般課題、技術実証型)
    所 千晴(理工学術院 教授)
    「フィルム型ペロブスカイト太陽電池の前処理を主軸としたリサイクルプロセス提案および易解体設計へのフィードバック」
  • 次世代事業
    小野田 弘士(理工学術院 教授)
    「現場ニーズに立脚した分別・収集運搬・選別プロセスにおけるAI・ロボティクスソリューションの実用化開発」
環境研究総合推進費

環境研究総合推進費は、環境政策への貢献・反映を目的とした競争的研究資金制度です。「環境研究・環境技術開発の推進戦略」(令和元年5月環境大臣決定)に基づき、重点課題やその解決に資するテーマを提示した上で、広く産学民官の研究機関の研究者から提案を募り、応募された課題のうち、外部有識者等による事前評価を経て採択された課題について、研究開発を実施します。(ERCAプレスリリースより)

Potential-Dependent Structural Dynamics and Spin Transition of Electrocatalysts(2025/4/7)

著者: staff
2025年3月24日 12:10

演題:Potential-Dependent Structural Dynamics and Spin Transition of Electrocatalysts

日時: 2025年4月7日(月) 15:00-16:00

会場:早稲田大学 55号館S-607室

講師:Ching-Wei Tung (童敬維)

対象:学部生、大学院生、教職員、学外者、一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 応用化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

リンク先URL https://noda.w.waseda.jp/index-j.html

リンク先URL    https://nhanada.w.waseda.jp/

“Some new aspects and old questions on the role of primary processes in photopolymerization and 3D printing”(2025/4/4)

著者: staff
2025年3月24日 12:02

演題:”Some new aspects and old questions on the role of primary processes in photopolymerization and 3D printing”

日時: 2025年4月4日(金) 15:30-17:10

会場:早稲田大学 55号館S-510室

講師:Xavier Allonas

対象:学部生、大学院生、教職員、学外者、一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 応用化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

Fatigue of composites for wind turbine blades(2025/4/7)

著者: staff
2025年3月21日 10:53

演題:Fatigue of composites for wind turbine blades
日時: 2025年4月7日(月) 13:10-14:50
会場:早稲田大学 55号館N 1階 第一会議室
講師:Kristine Munk Jespersen
対象:学部生、大学院生、教職員、学外者、一般
参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。
主催:基幹理工学部 機械科学・航空宇宙学科
問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課
TEL:03-5286-3000

For those who are planning to apply for admission in September 2025 or April 2026 (FSE English-besed Graduate schools)

著者: staff
2025年3月19日 13:18

The application guidelines for English-based Graduate Program (Including Research Student Program) for entering in September 2025 and April 2026  are now available.

Please refer to the Application Guidelines and prepare your application documents.

[Application Deadlines]

For September 2025 Enrollment: Apply by March 26, 2025
For April 2026 Enrollment: Apply by October 23, 2025

テラヘルツ帯に対応した無線通信システムを試作し、95GHz帯を用いた長距離・大容量伝送に成功

著者: contributor
2025年3月14日 13:53

テラヘルツ帯に対応した無線通信システムを試作し、
95GHz帯を用いた長距離・大容量伝送に成功

学校法人早稲田大学(理事長:田中 愛治、以下「早稲田大学」)理工学術院の川西 哲也教授の研究グループと、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(理事長:山川 宏、以下「JAXA」)研究開発部門センサ研究グループらは、テラヘルツ帯※1に対応した無線通信システムを試作し、4.4kmの距離で、大容量伝送を可能とする伝送速度4Gbpsの通信を実現しました(図1)。95GHz帯を用いた大容量通信において世界有数の通信距離※2を実証しました。

図1通信実験風景 ©早稲田大学/JAXA

次世代移動通信システムBeyond5G/6G※3システムにおいては、非地上系ネットワーク(NTN)※4の大容量通信を行うフィーダーリンク※5の一部を、テラヘルツ帯を用いた高速通信が担うことが期待されています。これまで、上空との通信にはXバンド(8GHz帯)やKaバンド(26GHz~40GHz)が利用されてきましたが[1][2]、利用可能な周波数の帯域幅が限定されているため、伝送速度は数百Mbpsから数Gbpsが限界となっています。我々は、図2に示すような高度20km程度以下の高高度プラットフォームシステム(HAPS:High Altitude Platform Station)や航空機に対するフィーダーリンクにおいて、テラヘルツ波を含む高い周波数帯の利用による伝送速度の向上を検討しています。具体的には、92GHz~94GHz、95GHz~100GHz、および102GHz~104GHzの周波数帯に対して、広帯域の複数チャンネルを活用することで、20Gbps以上の大容量通信を実現できます。

図2 地上系ネットワークとフィーダーリンク ©早稲田大学/JAXA

本研究においては、92GHzから104GHzのテラヘルツ領域までに対応するアンテナ、送信機および受信機を試作しました。長距離通信を担う高利得アンテナサブシステムとしては、図3に示すように、上空の飛行体に搭載可能な小型軽量の0.3m径カセグレンアンテナ※6と、地上局用の1.2m径カセグレンアンテナを開発し、最大出力を1Wとして設計した送信機と組み合わせました。今回は、周波数帯を95.375GHz~96.625GHz(中心周波数96GHz)に限定し、送信機の空中線電力は15mW(特定実験試験局で許可される範囲内の等価等方放射電力(EIRP)※7に対応)に設定して伝送実験を実施しました。実験では、6階建ビルの屋上(東京都小金井市)からスカイタワー西東京(東京都西東京市)までの4.4kmの距離に対して、帯域幅1.25GHzを使用したシンボルレート1Gシンボル/秒の条件で、変調方式QPSK(伝送速度2Gbps) および16QAM(4Gbps)を用いた伝送を確認しました。

(a)送信アンテナ(0.3m径;飛行体搭載用)

(b)受信アンテナ(1.2m径)

図3 アンテナサブシステムの外観 ©早稲田大学/JAXA

今後は、空中線電力1Wの送信機の試作などにより、伝送距離20kmおよび伝送速度20Gbpsの通信機能を実現するとともに、HAPSや航空機向けのフィーダーリンクに必要な飛行体へのアンテナ追尾技術の試作と改良を行います。将来的には、通信の大容量化により、地上で使用されているネットワーク回線(LAN)レベルの高速通信を上空まで延伸させることが可能になり、大規模災害時の広域通信基地局、山間部や離島への高解像度の映像の伝送など、上空の通信網を使った多様なサービスの創出が期待されます。

【研究プロジェクトについて】

本研究成果の一部は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー) )の革新的情報通信技術研究開発委託研究(JPJ012368C00302およびJPJ012368C04901)、および科学技術振興機構の先端国際共同研究推進事業ASPIRE (JPMJAP2324)により実施したものです。 

【各機関の主な役割】

早稲田大学:テラヘルツ帯に対応した送受信機の開発

JAXA:テラヘルツ帯高利得アンテナサブシステムの開発

【用語解説】

※1 テラヘルツ帯
おおむね周波数100GHzから10THz(波長にして3mm-30μm)の電磁波領域を指す。下限については、2019年に米連邦通信委員会(Federal Communications Commission、FCC)が、新しい技術の開発やサービス展開に向けて、95GHzを超える周波数帯の利用に対する新ルールを発表していることから[3]、95GHz程度の周波数を含むことも多い。

※2 世界有数の通信距離
従来、94GHzを用いた距離2.5kmの通信[4]および120GHz帯を用いた距離5.8kmの通信[5]が報告されていました。今回の実験では、95GHz帯を利用した1Gbps以上の伝送容量の通信において、4kmを超える世界トップレベルの通信距離を実証しました。

※3 Beyond5G/6G
近年、普及が進む移動通信システムは第5世代(5G)とよばれている。これに対して、次世代システムとしてBeyond5Gさらには 第6世代(6G)移動通信システムの開発が進められている。

※4 非地上系ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)
地上、海、空にある移動体を多層的につなげる通信ネットワークシステム。

※5 フィーダーリンク
地上局をゲートウェイとして高度プラットフォームシステムなどの飛行体や衛星との間で通信を行う一対一の通信。

※6 カセグレンアンテナ
主、副の反射器を持つパラボラアンテナの一種。

※7 等価等方放射電力(EIRP:Equivalent Isotropic Radiation Power)
送信機が特定の方向に放射する電力を、等方性アンテナが全方向に放射する電力に置き換えた値。

【参考文献】

[1] 国立研究開発法人情報通信研究機構、プレスリリース、”世界初、高度約4km上空から38GHz帯電波での5G通信の実証実験に成功”、2024年5月、https://www.nict.go.jp/press/2024/05/28-1.html
[2] 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構、サテナビお知らせ、 “先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)のKaバンド直接伝送系により3.6Gbpsの高速データ伝送に成功”、2024年7月、https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/news/2024/07/23/9544/index.html
[3] FCC, FCC press release, “FCC Takes Steps to Open Spectrum Horizons for New Services and Technologies”, https://docs.fcc.gov/public/attachments/DOC-356588A1.pdf
[4] X. Li et. al., “Delivery of 54-Gb/s 8QAM W-Band Signal and 32-Gb/s 16QAM K -Band Signal Over 20-km SMF-28 and 2500-m Wireless Distance,” in Journal of Lightwave Technology, vol. 36, no. 1, pp. 50-56, 2018.
[5] A. Hirata et al., “5.8-km 10-Gbps data transmission over a 120-GHz-band wireless link,” 2010 IEEE International Conference on Wireless Information Technology and Systems, Honolulu, USA, 2010.

「放射化イメージング」でマウス体内の金ナノ粒子を可視化

著者: contributor
2025年3月14日 11:14

「放射化イメージング」でマウス体内の金ナノ粒子を可視化
がん治療薬の長期的な動態イメージングに向けて

発表のポイント

  • がん治療薬を腫瘍へ運ぶ金ナノ粒子のイメージング技術をマウス実験で実証
  • これまで困難だった核医学治療薬(アルファ線放出核種)の長期動態追跡を実現
  • 様々な治療薬の長期的な体内動態をイメージングする手法としての応用に期待

概要

早稲田大学大学院先進理工学研究科博士後期課程1年の越川 七星(こしかわ ななせ)と、同大学理工学術院の片岡 淳(かたおか じゅん)教授らの研究チームは、大阪大学放射線科学基盤機構の豊嶋 厚史(とよしま あつし)教授、角永 悠一郎(かどなが ゆういちろう)特任助教(常勤)、加藤 弘樹(かとう ひろき)特任教授(常勤)、京都大学複合原子力科学研究所の高宮 幸一(たかみや こういち)教授らと共同で、薬剤キャリアである金ナノ粒子を直接可視化する「放射化イメージング※1」を提案し、実際に金ナノ粒子をマウスに投与して体内分布を可視化しました。

また、腫瘍をピンポイントで攻撃するアルファ線※2治療薬アスタチンAt-211を、放射化金ナノ粒子に標識※3することにも成功しました。これにより、これまで困難であったAt-211の長期的な動態追跡を実現しました。今後は様々な治療薬で、動態可視化への応用が期待されます。本成果をまとめた論文は、論文誌『Applied Physics Letters』の”Featured article”に選ばれたほか、AIP(米国物理学協会)発行の論文全体から顕著な成果を特集するScilight (Science highlight) で紹介されます。

本研究成果は、2025年3月12日(水)午前10時(米国東部標準時)に『Applied Physics Letters』のオンライン版で公開されました。

【論文情報】
雑誌名:Applied Physics Letters
論文名:Activation imaging of gold nanoparticles for versatile drug visualization: an in vivo demonstration
DOI:10.1063/5.0251048

図:金ナノ粒子のイメージング

これまでの研究で分かっていたこと

がんは、長きにわたって日本人の死因第一位であり、効果的で負担の少ない治療法が求められています。がんの治療法には様々なものがありますが、放射性の治療薬を投与して腫瘍へダメージを与える核医学治療は、手術が要らず副作用の少ない方法として注目されています。

近年、核医学の分野では、アルファ線を放出する治療薬が盛んに研究されています。アルファ線は狭い範囲に大きなエネルギーを与える放射線で、腫瘍だけを効果的に攻撃することが期待されます。中でも質量数211のアスタチン(At-211)は、国内のサイクロトロンで比較的簡単に製造できることから有望視されています。また、At-211はアルファ線だけでなく、エネルギー79 keV(キロ電子ボルト)のX線※2を放出します。マウスの体を透過してきたX線を検出することで、At-211を体の外からイメージングできます。

効果的かつ副作用の少ない治療を実現するには、At-211をはじめとする治療薬を腫瘍へ届け、集積させる必要があります。治療薬を腫瘍へ運ぶ「薬剤キャリア」として特に注目を集めているのが、ナノサイズ(直径が10-9 m程度)の金の粒子(金ナノ粒子)です。実際に、図1 (a)のように金ナノ粒子にAt-211を標識して腫瘍に投与すると、図1 (b)のように金ナノ粒子が腫瘍に留まり、高い治療効果が得られることがわかっています[1]。次のステップとして、マウス実験により集積から排出まで、数日間にわたる長期の動態を調べることが不可欠です。これまで、At-211からのX線を使ってAt-211標識金ナノ粒子のイメージングが行われてきました。しかし、At-211の半減期は7.2時間と短く、投与から2日後にはX線の強度は約1/100になってしまうため、数日間にわたる動態を追うことはできませんでした。また、この方法では体内でAt-211と金ナノ粒子が分離してしまっているかどうか調べられないことも問題でした。

図1:(a) At-211標識金ナノ粒子。At-211はアルファ線とX線を放出する。(b) At-211標識金ナノ粒子を投与したラットのイメージング結果(投与4時間後。Kato et al. (2021)[1]より転載)。

今回の研究で新たに実現しようとしたこと

本研究では、金ナノ粒子の「放射化イメージング」により、At-211と金ナノ粒子の個別イメージング、そしてAt-211標識金ナノ粒子の長期的な動態追跡を目指しました。放射化とは、安定な原子を放射性同位体に変えることです。自然界に存在する金は質量数が197の安定な元素です。これに熱中性子(エネルギーの低い中性子)をぶつけると、金の原子核の一部が中性子を取り込んで質量数が198の金(Au-198)に変わります。Au-198は半減期が2.7日の放射性同位体で、エネルギー412 keVのガンマ線※2を放出します。金ナノ粒子に含まれる金の一部を放射性のAu-198に変え、ガンマ線を体外から検出することで、金ナノ粒子の体内分布を体外から可視化できます。

金ナノ粒子をイメージングする技術には、他にもトレーサー(放射性物質や造影剤)による標識やCTイメージング(コンピュータ断層撮影)があります。しかし、トレーサーが金ナノ粒子から外れてしまう可能性があること、CTでは金ナノ粒子が高濃度(mg/mL程度)でないとイメージングできないことが課題となっていました。放射化イメージングは金ナノ粒子を直接イメージングする手法であり、3桁も低い濃度(μg/mL程度)であってもイメージングができるという点で、これまでの制限を打破する方法となり得ます。At-211標識した放射化金ナノ粒子を図2 (a)に示します。79 keVのX線、412 keVのガンマ線を使ってAt-211と金ナノ粒子の分布を個別にイメージングし、At-211が金ナノ粒子から外れていないかを確認できると考えました。さらに、At-211は半減期7.2時間で急激に減衰しますが、半減期2.7日のAu-198は数日間ガンマ線を出し続けるので、At-211標識金ナノ粒子の集積と代謝を数日間にわたり追うことができます。

At-211と金ナノ粒子を独立にイメージングするには、数十 keVからMeV(メガ電子ボルト)付近まで、幅広いX線・ガンマ線を1台かつ同時に識別できる「広帯域のカメラ」が必要です。しかし、従来のSPECT(単一光子放射断層撮影)※4では約300 keV以下、PET(陽電子放出断層撮影)※5では511 keVのみと、イメージングできるX線・ガンマ線のエネルギーが限られていました。そこで、独自に開発した「ハイブリッド・コンプトンカメラ※6」をイメージング装置として用いました。ハイブリッド・コンプトンカメラは、低エネルギー(200 keV以下)用のピンホールモードと高エネルギー(200 keV以上)用のコンプトンモードの2種類の方法でイメージングができます。図2 (b)に示すように、装置は2枚の検出器(散乱体と吸収体)で構成され、散乱体には3×3 mm2の孔が空いています。低エネルギーのX線・ガンマ線は散乱体に当たると吸収され、孔を通ったものだけが吸収体に届くので、ピンホールカメラの原理でイメージングができます(図中①)。高エネルギーのガンマ線は散乱体でコンプトン散乱され、吸収体で吸収されます。散乱体・吸収体での検出エネルギーから散乱角を計算することでイメージングが可能です(図中②)。

図2:(a) At-211標識した放射化金ナノ粒子。(b) ハイブリッド・コンプトンカメラ。 低エネルギーのX線・ガンマ線は①のように、高エネルギーのガンマ線は②のように検出される。

新しく開発した手法と、それによる実証結果

本研究では、まずマウスに投与できる、極小サイズの金ナノ粒子を合成する手法を模索しました。試行を重ね、四塩化金酸(HAuCl4)を材料として粒径5 nm(ナノメートル)ほどの金ナノ粒子を安定的に合成することに成功しました。次に、京都大学研究用原子炉(KUR)[4]を用いて四塩化金酸を放射化し、同じ手順に沿って放射化金ナノ粒子を合成しました。続いて、At-211の標識で不可欠となる、メトキシポリエチレングリコール(mPEG)で放射化金ナノ粒子を表面修飾し、マウスの腫瘍に投与しました。ハイブリッド・コンプトンカメラで得られたガンマ線のエネルギースペクトルを図3 (a)に示します。412 keVにピークが見られ、放射化によるAu-198の生成が確認できました。投与9分後、4日後に、コンプトンモードでイメージングした結果を図3 (b)に示します。4日後も金ナノ粒子が腫瘍付近に留まっている様子をイメージングでき、これまで不可能であった長時間の動態追跡に有効な方法であることが示されました。

次に、放射化金ナノ粒子にAt-211を標識し、マウスの尾静脈から投与しました。投与9分後、2日後のガンマ線エネルギースペクトルとイメージング結果を図4に示します。投与9分後のエネルギースペクトルには、79 keV(At-211)と412 keV(Au-198)にピークが見られます。また、At-211と金ナノ粒子(Au-198)それぞれのイメージングに成功しました。79 keVのX線はピンホールモード、412 keVのガンマ線はコンプトンモードで解析することで、1回の測定でAt-211と金ナノ粒子の分布を個別に知ることができます。At-211と金ナノ粒子が概ね同じ位置に集積していることを確認できました。投与2日後のエネルギースペクトルでは、At-211の減衰によって79 keVのピークは非常に弱くなっている一方、Au-198由来の412 keVはピークの高さがあまり変わりません。イメージング結果では、At-211は減衰により分布を見ることができないのに対し、金ナノ粒子ははっきりとイメージングできています。このように、金ナノ粒子を放射化することで、At-211標識金ナノ粒子の長期的な動態追跡に成功しました。

図3:(a) 放射化金ナノ粒子のX線・ガンマ線エネルギースペクトル。(b) マウスに投与した放射化金ナノ粒子のイメージング結果(投与9分後、4日後)。

 

図4:(上)At-211標識した放射化金ナノ粒子のX線・ガンマ線エネルギースペクトルと、(下)At-211、放射化金ナノ粒子それぞれのイメージング結果(投与9分後、2日後)。投与2日後には減衰のためAt-211自体はイメージングできないが、キャリアである放射化金ナノ粒子がイメージングできる。

研究の波及効果や社会的影響

本研究では、At-211を放射化金ナノ粒子に標識することで、これまで困難であったAt-211と金ナノ粒子の同時イメージング、そしてAt-211標識金ナノ粒子の長期的な動態追跡に成功しました。同じように、抗がん剤など、これまで体外からイメージングできなかった様々な治療薬を放射化金ナノ粒子に標識することで、体内動態を調べられるようになる可能性があります。

また、金ナノ粒子のイメージングは、治療に最適な金ナノ粒子のサイズや形状を調べるためにも重要です。金ナノ粒子は、血管透過性・滞留性亢進効果(EPR効果)によって腫瘍へ集積するといわれています。EPR効果は2つの側面から成ります。1つ目は、正常な血管と異なり腫瘍付近の血管には隙間が空いているために、血中の金ナノ粒子が腫瘍付近でのみ漏れ出すことです。これによって金ナノ粒子が腫瘍へ運ばれると期待できます。2つ目は、腫瘍付近では異物を排出するリンパ系が未発達であり、金ナノ粒子が滞留しやすいことです。今回、腫瘍に直接投与した金ナノ粒子が4日後も腫瘍に留まっていたのは2つ目の要因によるものと考えています。しかし、これらの効果は金ナノ粒子のサイズ・形状など様々な条件に依存することがわかっています。さらに、金ナノ粒子が肝臓や脾臓(ひぞう)といった臓器に異物とみなされ、捕獲されることが問題視されており、この影響も金ナノ粒子のサイズや形状に依存します。そこで近年、多種多様な金ナノマテリアルが開発され、より腫瘍への集積量が大きく、健康な臓器への集積量が小さい条件を探す研究が活発に行われています。放射化イメージングは金を放射性同位体に変えるというシンプルな手法で、様々なサイズ・形状の金ナノ粒子を同様の方法でイメージングできると考えており、今後幅広い応用が期待できます。

今後の課題

本研究ではAt-211と放射化金ナノ粒子を広帯域X線・ガンマ線撮影装置であるハイブリッド・コンプトンカメラでイメージングしました。ハイブリッド・コンプトンカメラは広帯域であることや、X線やガンマ線の強度が弱くてもイメージングできることが強みですが、分解能には課題があります。マウスとの距離5 cmにおけるハイブリッド・コンプトンカメラの分解能は8 mm程度です。現状でも腫瘍や臓器への集積を大まかに見ることはできるものの、詳細なイメージングには2~3 mmの分解能が必要です。現在、より高分解能の装置を開発中で、より精度のよい放射化金ナノ粒子のイメージングに向けて研究を進めています。

用語解説

※1 放射化イメージング
一般に、原子には安定な同位体と、不安定な同位体があります。これらは原子核内部の陽子数(=原子番号)は同じで中性子数が異なるだけのため、化学的性質は変わりません。不安定な原子核は特定の半減期で崩壊し、安定な核種となります。その際に、余ったエネルギーをX線やガンマ線(以下※2を参照)として原子核の外に放出します。このガンマ線を可視化するのが、本研究の「放射化イメージング」です。

※2 アルファ線、X線、ガンマ線
放射線には様々な種類があります。アルファ線はヘリウムの原子核で、プラスの電荷を2つ持ちます。質量がとても重く、体内で飛ぶ距離が数十マイクロメートルと短い(細胞のサイズと同程度)ことが特長です。そのため、うまく腫瘍に集積させると、腫瘍細胞のみを選択的に殺傷することができます。一方で、X線やガンマ線は電磁波の一種で、電荷を持ちません。どちらも不安定な同位体から出ますが、原子核から出るエネルギーの高い電磁波をガンマ線、また電子軌道から出る比較的エネルギーの低い電磁波をX線として区別します。

※3 標識
化合物中で、特定の原子に放射性核種を結合することをいいます。今回の研究では、金ナノ粒子が治療薬を運ぶキャリアであり、ここに治療薬本体であるアスタチン(At-211)を標識しています。

※4 SPECT(単一光子放射断層撮影)
核医学診断法の1つで、放射性医薬品を体内に投与して、その分布を断層画像として描出します。たとえばTc-99m(テクノチウム)を骨の代謝や反応が盛んなところに集まる性質を持つ物質と化合させ、がんが骨のどの部位にどの程度転移しているかを診断することができます。Tc-99mの可視化には 140 keVのガンマ線が用いられます。他の薬剤でも、SPECT で可視化できるガンマ線はおおむね 300 keV 以下に限られます。

※5 PET (陽電子放出断層撮影)
こちらも広く行われている核医学診断法で、陽電子を放出する放射性核種で標識された医薬品を体内に投与し、その放射線を検出することで、腫瘍の位置や活性度を画像化する核医学検査です。対消滅するガンマ線を対向する検出器で捉えるため、原理上 511 keV のガンマ線のみを対象としたイメージング法です。

※6 ハイブリッド・コンプトンカメラ
ハイブリッド・コンプトンカメラは、異なるイメージング技術である「コンプトンカメラ」と「ピンホールカメラ」を1台で実現する新しい技術です。ハイブリッド・コンプトンカメラは散乱体と吸収体の2枚の検出器からなり、それぞれの検出器はシンチレータ(放射線が当たると蛍光を示す物質)と蛍光を読み出すセンサーで構成されます。低いエネルギーのX線は、散乱体を透過することができず、ピンホールを通ってきたものだけが吸収体に届きます。すなわち「散乱体がヒットせず、吸収体のみヒットする」「吸収体のエネルギーが (たとえば)200keV以下」の条件を課せば、ピンホールカメラとして可視化できます。一方で、高いエネルギーのガンマ線は、散乱体を透過して吸収体に届くもの、散乱体でコンプトン散乱して吸収体に届くもの、様々な成分が混ざります。しかしながら、「散乱体と吸収体が同時にヒットする」条件を課せば、通常のコンプトンカメラと同様に可視化することができます。

参考情報

[1] Kato et al. 2021, “Intratumoral administration of astatine-211-labeled gold nanoparticle for alpha therapy”, Journal of Nanobiotechnology, 19, 223,
DOI: 10.1186/s12951-021-00963-9

[2] 放射化イメージングについては以下を参照

  • Koshikawa et al. 2022, “Proof of concept of activation imaging with hybrid Compton camera”, Applied Physics Letters, 121, 193701, DOI: 10.1063/5.0116570
  • Koshikawa et al. 2023, “Activation imaging: New concept of visualizing drug distribution with wide-band X-ray and gamma-ray imager”, Nuclear Instruments and Methods in Physics Research – section A, 1045, 167599, DOI: 10.1016/j.nima.2022.167599
  • 「様々な元素の分布を可視化する「放射化イメージング」に成功」https://www.waseda.jp/top/news/85249

[3] ハイブリッド・コンプトンカメラについては以下を参照

  • Omata et al. 2020, “Performance demonstration of a hybrid Compton camera with an active pinhole for wide-band X-ray and gamma-ray imaging”, Scientific Reports, 10, 14064
    DOI: 10.1038/s41598-020-71019-5
  • 「X線ガンマ線の同時可視化を可能に」https://www.waseda.jp/top/news/69935

[4] 京都大学複合原子力科学研究所の研究用原子炉KUR については以下を参照
https://www.rri.kyoto-u.ac.jp/facilities/kur

論文情報

雑誌名:Applied Physics Letters
論文名:Activation imaging of gold nanoparticles for versatile drug visualization: an in vivo demonstration
執筆者名:Nanase Koshikawa1、Yuka Kikuchi1、Kazuo S. Tanaka1、Katsuyuki Tokoi2、Akina Mitsukai2, Hiroki Aoto2, Yuichiro Kadonaga3, Atsushi Toyoshima3, Hiroki Kato3, Kazuhiro Ooe3, Koichi Takamiya4, Jun Kataoka1

1. 早稲田大学理工学術院 先進理工学研究科 物理学及応用物理学専攻
越川 七星(論文筆頭著者)、菊池 優花、田中 香津生、片岡 淳

2. 大阪大学大学院 理学研究科 化学専攻
床井 健運、水飼 秋菜、青戸 宏樹

3. 大阪大学 放射線科学基盤機構
角永 悠一郎、豊嶋 厚史、加藤 弘樹、大江 一弘

4. 京都大学 複合原子力科学研究所
高宮 幸一
掲載予定日時(米国東部標準時):2025年3月12日(水)午前10時
掲載予定日時(日本時間):2025年3月13日(木)午前0時
DOI:10.1063/5.0251048
掲載予定URL:https://doi.org/10.1063/5.0251048

研究助成

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 ERATO「片岡ラインX線ガンマ線イメージングプロジェクト」(2021~2026年度;グラント番号 JPMJER2102)の支援を得て実施したものです。ここに深く感謝申し上げます。

Redox Flow Batteries: Background and Current Trends(2025/4/2)

著者: staff
2025年3月13日 15:21

演題:Redox Flow Batteries: Background and Current Trends

日時: 2025年4月2日(水) 10:30-12:10

会場:早稲田大学 西早稲田キャンパス55号館S-510

講師:Rebeca Marcilla

対象:学部生、大学院生、教職員、学外者、一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 応用化学専攻

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

極めて安定な新規カンナビノイド生物学的等価体の不斉合成に成功

著者: contributor
2025年3月7日 18:49

極めて安定な新規カンナビノイド生物学的等価体の不斉合成に成功
カンナビノイドの医薬的応用へ期待

発表のポイント

  • 医療用途でのカンナビノイドの利用が注目を集めており、その生理活性を活かした薬理学的研究や、より効果的な生物学的等価体の開発が進められています。
  • 本研究では、これまでに例のない1,7-エンインを原料としたエナンチオ選択的[2+2+2]付加環化反応を開発し、適切な配位子の選択により、高いエナンチオ選択性とほぼ完全な位置選択性を達成。さらに、極めて安定な新規カンナビジオール生物学的等価体の候補化合物の合成に成功しました。
  • 特に、カンナビノイド受容体に対する新規な生物学的等価体の合成は、医薬品開発において重要な意味を持ち、本研究により、カンナビノイドの医薬的応用が期待されます。

概要

早稲田大学理工学術院の柴田 高範(しばたたかのり)教授らの研究グループは、ロジウム触媒を用いて、1,7-エンインと非対称アルキンの[2+2+2]付加環化反応を報告しました。適切な配位子の選択により、極めて高いエナンチオ選択性1とほぼ完全な位置選択性を達成し、さらに生成物の合成変換により新規な※2を有するカンナビノイド生物学的等価体※3の候補化合物の合成を行いました。

本研究成果は、2025年2月5日にアメリカ化学会により発行される「Journal of the American Chemical Society」にオンライン版で公開されました。

図1 原料の1,7-エンインから、不斉触媒を使い分けることで、2つの位置異性体を高不斉収率で合成

図2 中心不斉を有する生成物を軸不斉を有するカンナビジオール(CBD) 生物学的等価体の候補化合物へ合成変換

これまでの研究で分かっていたこと

カンナビノイド4は近年、医療用途における利用が注目を集めており、その生理活性を活かした薬理学的研究や、より効果的な生物学的等価体の開発が進められています。特に、全身に存在するカンナビノイド受容体と結合することで様々な薬理学的作用を及ぼすことが知られているカンナビジオールやΔ⁹-THC4の構造を模倣する分子設計が求められています。このような背景より有機合成の観点において、ベンゾ[c]クロメノール骨格5の合成が重要です。

一方、従来より遷移金属触媒を用いた[2+2+2]付加環化反応6が広く研究されており、ロジウム、イリジウム、ニッケル、ルテニウムなどが活性な遷移金属触媒として報告されました。特に、キラルなロジウム触媒を用いるエナンチオ選択的な反応の報告例は多いですが、そのほとんどは原料として反応性が高い1,6-エンインを用いる反応で、六員環の構築が可能な1,7-エンインを原料とする高エナンチオ選択的[2+2+2]付加環化反応の報告例はこれまでありませんでした。

今回新たに実現したこと

本研究では、これまで未開拓であった1,7-エンインを原料としたエナンチオ選択的[2+2+2]付加環化反応の開発を目指しました。その結果、カチオン性ロジウム触媒と適切な配位子を組み合わせることで、カンナビノイド類に含まれるベンゾ[c]クロメノール骨格の高選択的合成を実現しました。

また、計算化学的解析により、エナンチオ選択性の起源を解明し、使用する配位子の違いが反応の位置選択性に与える影響を明らかにしました。さらに本手法を応用し、中心キラリティを軸性キラリティへ変換することにより、新規な軸不斉を有するカンナビノイド生物学的等価体の候補化合物の合成を達成しました。本化合物は、構造的にカンナビジオールに類似しつつも、高い安定性を持つことが示され、カンナビノイド受容体に対する親和性の向上が期待されます。

そのために新しく開発した手法

本研究では、カチオン性ロジウム触媒を用いた1,7-エンインと非対称アルキンの[2+2+2]付加環化反応の最適化を行いました。特に、エナンチオ選択性および位置選択性を制御するために、配位子の選択が重要でした。計算化学的手法を用いた解析では、最適配位子である(S)-DTBM-BINAPの場合、強いC=O···H-C(sp2)相互作用を形成することが選択性を高める要因であることが示唆されました。もう一方の位置異性体を与える最適配位子である(R,R)-BenzP*では、空間的な嵩高さによる選択性を示し、それぞれ異なる選択性の制御機構が存在することが示唆されました。

研究の波及効果や社会的影響

本研究で開発された合成手法は、ベンゾ[c]クロメノール骨格を提供する簡便、かつ信頼性の高い方法であり、様々な官能基の導入、炭素鎖伸長が可能です。特に、カンナビジオール受容体に対する新規な生物学的等価体の合成は、医薬品開発において重要な意味を持つことが期待されます。本研究で得られた化合物は、カンナビノイド類の医薬的応用を拡大する可能性があります。

今後の課題

得られたカンナビノール類縁体の生理活性評価を進め、実際の医薬品開発への応用可能性を明らかにすることが重要です。さらに、本手法を他の多環式化合物の合成に応用することで、新規な生物活性物質の創出につながる可能性があります。今後は、触媒系のさらなる改良や、反応メカニズムのより詳細な理解を進めることで、さらに効率的な合成手法の開発を目指します。

用語解説

※1 エナンチオ選択性
右手と左手のように互いに鏡像の関係にある分子を鏡像異性体(エナンチオマー)と呼び、エナンチオ選択性とは、2つの鏡像異性体のうち、一方の鏡像異性体を優先的に合成すること。

※2 軸不斉
鏡像の関係にあることを「不斉」と言います。分子に生じる不斉において、ある軸周りの非対称により生じる不斉が軸不斉です。その代表例が、図2に示したような2つのベンゼン環の間の単結合が立体障害により自由回転できないことに起因する不斉であり、医薬品や機能性材料の分野で重要な構造です。

※3 生物学的等価体
医薬関連化合物において生物学的に同じ役割を果たす他の部分構造を生物学的等価体(bioisostere)と呼びます。薬物の主要な生物活性に影響を与えることなく、医薬に含まれる官能基を他のものに置換することで、活性を改善させる目的に有効となるアプローチです。

※4 カンナビノイド、カンナビジオール、Δ⁹-THC
カンナビノイドは、104種類ある薬用作物「大麻草」に含まれる生理活性物質の総称です。近年、先進国を中心として、医療利用が進んでいます。カンナビジオールやΔ⁹-THCはカンナビノイドの一種。

※5 ベンゾ[c]クロメノール骨格
酸素を含んだ六員環であるピラン環に2つのベンゼン環が縮環した三環式骨格をもつ芳香族アルコールであり、カンナビノイド類を含め、多くの天然物に共通する骨格です。

※6 付加環化反応
π電子系を持つ二つの分子が付加反応を起こして、環状化合物を生成する反応であり、原料と生成物で、原子損失がない原子効率100%の理想的な反応です。Diels-Alder反応を代表例として、有機反応の中でも重要な炭素−炭素結合形成法としての基幹反応です。

論文情報

雑誌名:Journal of the American Chemical Society
論文名:Ligand-Governed Regio- and Enantioselective [2 + 2 + 2] Cycloaddition of 1,7-Enynes: Assembly of the Benzo[c]chromen-1-ol Backbone and Access to Enantioenriched Cannabinol Bioisostere
執筆者名(所属機関名):いずれも所属は早稲田大学
King Hung Nigel Tang博士(先進理工学研究科博士課程。博士学位取得後、現在は理工学術院総合研究所招聘研究員)、Taichi Kishi(先進理工学研究科修士課程。修士学位取得後、現在は民間企業研究員)、Natsuhiko Sugimura博士(物性計測センターラボ職員)、Yuto Horio(先進理工学研究科修士課程2年)Takanori Shibata(理工学術院教授)
掲載日時(現地時間):2025年2月5日
DOI:https://doi.org/10.1021/jacs.4c18319

研究助成

研究費名:Special Research Projects and the Japan Science and Technology Agency (JST) Support for Pioneering Research Initiated by the Next Generation (W-SPRING), JPMJSP2128
研究課題名:New Environment‐Friendly Strategy for the Synthesis of Valuable Organic Materials via C–H Activation
研究代表者名(所属機関名):King Hung Nigel Tang (早稲田大学 大学院先進理工学研究科 博士課程、現在 理工学術院総合研究所 招聘研究員)

研究費名:大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 Research Center for Computational Science, Project 24-IMS-C390
研究課題名:触媒的[2+2+2]付加環化反応における位置選択性の反応機構解析
研究代表者名(所属機関名):柴田 高範 (早稲田大学理工学術院)

「私の宋明思想史研究」2025/3/25

著者: staff
2025年3月7日 18:03

演題:「私の宋明思想史研究」

日時:2025年3月25日(火) 15:00-17:00

会場:早稲田大学 西早稲田キャンパス53号館1階101教室

講師:三浦 秀一

対象:学部生、大学院生、教職員、学外者、一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:創造理工学部・社会文化領域

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

傷を自力で治す硬い多層シリコーン系薄膜を開発

著者: contributor
2025年3月5日 09:41

傷を自力で治す硬い多層シリコーン系薄膜を開発

発表のポイント

  • 損傷を自己修復可能な材料の開発は長寿命やメンテナンスフリーの観点から高いニーズがあります。
  • シロキサン(Si−O−Si)結合からなるシリコーン系材料は、日用品から医療、航空・宇宙分野に至るまで広く利用されています。従来のシリコーン系自己修復材料は、柔軟なゴム状材料に限定されており、また低分子量のシロキサン分子の生成により徐々に分解するため、長期的な安定性に課題がありました。
  • 本研究では、自己組織化プロセスを利用して架橋構造のシロキサン成分と直鎖構造のシロキサン成分をナノレベルで積層することで、亀裂の修復能力と高い硬度、長期的安定性を兼ね揃えた新材料の開発に成功しました。
  • 本材料は作製が簡便で、透明な薄膜として得られるため、保護コーティングなど様々な応用が期待できます。

概要

早稲田大学理工学術院の宮本佳明(みやもと よしあき)助手松野敬成(まつの たかみち)講師下嶋敦(しもじま あつし)教授らによる研究グループは、微細なひび割れの修復能力を有するシリコーン系薄膜を開発しました。シロキサン(Si–O–Si)結合からなるシリコーン材料は高い耐熱性、耐候性、透明性、絶縁性などの優れた特性から、幅広い分野で利用されています。ブロックコポリマーの自己組織化を利用してナノレベルの多層構造を構築することにより、従来のシリコーン系自己修復性材料の課題であった低分子量成分の生成・揮発による分解が抑制されると同時に、膜の硬度が大幅に向上しました。

本研究成果は英国王立化学会が発行するChemical Communications誌に2025年1月6日(月) (現地時間)に掲載されました。
論文名:Multilayered organosiloxane films with self-healing ability converted from block copolymer nanocomposites

図 本研究で開発した自己修復能を持つシリコーン系薄膜

キーワード:

シロキサン、自己修復、薄膜

これまでの研究で分かっていたこと

主骨格がシロキサン (Si–O–Si) 結合から成るシリコーン系材料は、透明性、絶縁性、高い化学的・熱的安定性を有し、幅広い分野で利用されています。損傷や機能劣化を温和な条件下で修復する能力を付与することは、材料の長寿命化、耐久性、安全性の向上の面で重要です。高分子材料においては、結合の組み換え反応を利用することで、外力により生じた傷を分子レベルで修復することが可能となります。シリコーン系材料の中でも最も一般的なポリジメチルシロキサン((Si(CH3)2O)n, PDMS) 系材料では、シラノレート(Si–O)基の導入によって、Si–O–Si結合の組み換えが促進され、切断しても再接合が可能となることが知られています。しかし、この修復機構では自己修復性と材料の硬さがトレードオフの関係にあり、従来の自己修復性PDMS系材料は、柔らかいゴム状のものに限定されていました。また、結合の組み換えに伴って低分子量環状シロキサンの生成と揮発が徐々に進行するため、材料の長期安定性を損なうだけでなく、揮発成分が周囲の電子部品に付着し、接触不良などの深刻な問題を引き起こす懸念もあります。

今回新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、新しく開発した手法

本研究グループは、3次元網目構造の有機シロキサン層と直鎖構造のPDMS層からなる多層構造体の新たな構築プロセスを提案しました。

まず初めに、ポリエチレンオキシド((C2H4O)n, PEO)とポリジメチルシロキサン(PDMS)からなるブロックコポリマー※1を用い、自己組織化プロセス※2によって有機シロキサン層とブロックコポリマー層からなる多層ナノコンポジット※3薄膜を作製しました。その後、PEOブロックを空気中での加熱により除去し、ブロックコポリマー層をPDMS層に転換しました(図1)。その後、得られた多層シリコーン薄膜中にシラノレート基を導入することで、薄膜上に生じた亀裂が80 °C、相対湿度40%の条件で修復することが確認されました(図2)。

図1. ブロックコポリマーナノコンポジットから多層ブロックコポリマーへの転換

図2. 亀裂の修復挙動の観察

従来の自己修復性PDMSエラストマーでは、60~200 °Cで低分子量の環状シロキサンが揮発することが確認されました。一方で、今回作製した材料ではこれらの揮発が全く確認されませんでした。このことから有機シロキサン層によって環状シロキサンの拡散が制限されたことが示唆されます。さらに、今回作製した材料は従来のPDMSエラストマーと比較して、約30倍の硬度を示すことが確認されました。

研究の波及効果や社会的影響

今回開発した材料は、高い硬度、亀裂の修復能力、透明性などの特徴から、保護コーティングとして有望です。環状シロキサンの揮発性が低いため、長期的安定性が高く、汚染リスクに敏感な電子部品へも適応可能と考えられます。

今後の課題

現状の修復プロセスは加熱や水蒸気を必要とするため、用途が制限される可能性があります。より穏やかな条件下で亀裂の修復を達成するために、さらなる材料設計が必要と考えています。

研究者のコメント

自己修復材料は市場規模の拡大が目覚ましい分野です。今回開発した自己修復性シリコーン系薄膜は従来の課題であった低分子量の環状シロキサンの揮発を抑制するとともに、比較的高い硬度を示します。無機のシロキサン骨格に由来する優れた耐熱性や耐候性と相まって、本材料は様々な分野における利用が期待できます。

用語解説

※1 ブロックコポリマー
2種類以上のポリマーを連結したポリマーのこと。特に親水的なポリマーと疎水的なポリマーを連結することにより界面活性剤として用いることが可能で、洗剤などに広く利用されている。

※2 自己組織化プロセス
外部からの誘導なしに、構成要素が自発的に秩序ある構造に配列するプロセスのこと。界面活性剤の自己組織化を利用することにより、層状やシリンダー状などの規則構造を数~数十ナノメートルスケールで有する構造体の作製が可能となる。

※3 ナノコンポジット
少なくとも1つの相がナノメートルのサイズである2つ以上の相によって形成される固体材料。ナノシートやナノ粒子、ナノファイバーなどを材料に導入することは工業的に良く行われている。

論文情報

雑誌名:Chemical Communications
論文名:Multilayered organosiloxane films with self-healing ability converted from block copolymer nanocomposites
執筆者名(所属機関名):Yoshiaki Miyamoto,a Takamichi Matsuno,a,b,c Atsushi Shimojima a,b,c*
a 早稲田大学先進理工学部応用化学科
b 早稲田大学理工学術院総合研究所
c 早稲田大学各務記念材料技術研究所
掲載日時(現地時間):2025年1月6日
掲載URL:https://pubs.rsc.org/en/Content/ArticleLanding/2025/CC/D4CC05804F
DOI:https://doi.org/10.1039/d4cc05804f

研究助成

本研究は文部科学省先端研究基盤共用促進事業(コアファシリティ構築支援プログラム)JPMXS0440500024で共用された機器(C1025, C1028, C1049, C1051, G1026, G1028, G1033, G1036, G1064)を利用した成果です。

From Sun to Heat Energy Harvesting with Fluorescent Proteins(2025/3/17)

著者: staff
2025年3月4日 12:53

日時: 2025年3月17日(月) 10:00-11:40

会場:早稲田大学 西早稲田キャンパス55号館S-510室

講師:Rubén D. Costa

対象:学部生、大学院生、教職員、学外者、一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部・応用化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

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