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プロジェクト研究所ちょっとお邪魔します! 医学を基礎とするまちづくり研究所

著者: contributor
2025年4月10日 17:12

ひとも、まちも元気にする医学✕都市計画学のチカラ

 

超高齢・縮退社会を迎えた日本に活力を取り戻すため、医学と都市計画学の出会いから生まれた新しい学術領域MBT(Medical Based Town)。奈良県立医科大学と双子の研究所をつくり、「ひとも元気に、まちも元気に。」を掲げて取り組む実践研究の成果がすでに見え始めています。所長を務める後藤春彦教授を訪ねました。

 

◆人生100年時代の「まちづくり」を考える新しい学問

後藤 春彦(所長/理工学術院教授)

──医学を基礎とするまちづくり(MBT: Medical Based Town)」の概念についてお聞かせください。どのようなことを目指しておられますか。

「人体の健康」と「都市の持続性」の追求、またそのために必要な医学と都市計画学の交流をテーマとする研究で、奈良県立医科大学の細井裕司教授(理事長兼学長)による提唱をきっかけに生まれました。出発点は「住居医学」という、病気の予防や健康維持に役立つ住まいのあり方に関する研究ですが、この概念をさらに発展させ、まちづくりへと拡大させたものがMBTです。

2012年に都市計画の専門家を求める奈良県立医科大からのオファーを受け、早稲田大学との共同研究が始まりました。同じ名称の研究所が両者に置かれ、互いに「ひとも元気に、まちも元気に。」をスローガンに掲げて活動しています。本学ではその後、2015年に重点領域研究の一つに位置づけられ、2020年から総合研究機構に現在のプロジェクト研究所として加わりました。

──医学と都市計画はまったく違う領域のようにも感じますが、両者の結びつきにはどんな背景があるのでしょうか。

実は100年以上も前からある考え方で、明治・大正期の政界で活躍した後藤新平などはその先人の一人です。関東大震災後の東京復興を指揮した人物ですが、医師でもあった後藤は「生物学の原則」に従ったまちづくりを進めたといいます。また同じ頃、パトリック・ゲデスというスコットランドの学者も、生物学を基礎とする都市理論を提唱しました。都市の近代化が進んで人口が増えるにつれ、医療や健康との結びつきが必然的に求められるようになったのです。

現代的な事情でいえば、日本の場合、少子高齢化の問題が大きく関係しています。2023年度の国民医療費は約47.3兆円。国民総生産(GDP)のおよそ8%を占め、明らかに日本経済を圧迫しています。医療費が最も多いのは60〜70代ですから、この世代の健康度を高めれば医療費は下がるはずですが、すでに病気になっている人の診療費を抑えるのは容易なことではありません。であれば、その予備軍である40〜50代をターゲットに未病対策を進めることで、10年後、20年後の医療費を押さえ込めるのではないか。つまり、健康をテーマに都市環境を整えることで、未病の人たちの発症を抑えて、社会を元気にする。それが、私たちの研究の起点となった問題意識です。

◆「お互い様の健康感」でコミュニティ全体を元気に

──人々の健康と都市環境はそれだけ密接な関係にあるということですね。

後藤春彦教授作成

そうですね。この図を見てください(下図参照)。「いくつもの健康(感)」を表したもので、横軸の上側を「個人(ひとり)の健康」、下側を「社会集団(みんな)の健康」に分け、縦軸の左側を「客観」、右側を「主観」としたマトリックスです。このうち左側の客観的健康に含まれる身体的健康や精神的健康、社会的健康、公衆衛生といったものは、主に医学が担う領域です。

これに対して、例えば「今日は体が重い/だるい」などと感じるのは、右側の個人の主観的健康感に当たります。それらを束ねて多くの人の主観を集めていくと、コミュニティ全体の健康感につながる。この状態は主観から客観への間に位置するため「間主観」ともいえます。コミュニティに属する人たちが互いに支え合うことで、孤独や無縁社会といった現代的な問題も克服できるという意味で、私はこれを「お互い様の健康感」と名づけました。これら主観に関する部分は医学の領域から離れるので、病院では診てもらえない。だから、私たちが取り組む意義があるわけです。

実は、主観的健康感が高い人は生命予後が長い、つまり病気や手術の後でより長く生きられることが、これまでの研究で明らかになっています。WHO(世界保健機関)も最近、主観的健康感の重要性を指摘するようになりました。では、どうすればその主観的健康感を高められるのか。個人の場合、それは家や建築などの住環境を整えることに関係し、社会集団ではまちづくりと密接に関わってくると、私たちは考えています。

──そうしたMBTの考え方や研究はどのような広がりを見せていますか。

『医学を基礎とするまちづくり』(水曜社)

細井先生と私が共著で『医学を基礎とするまちづくり』(水曜社)と題する書籍を出版したのが、2014年1月でした。その翌年、日本医学会総会でも発表し、多くの方に関心を持っていただけたように思います。私自身、以前は都市計画のような学問が人体に関する領域に踏み込むことはないと思っていましたが、なるほど主観的健康感という捉え方からであればアプローチできるかもしれないと気づき、この研究に着手しました。

今、健康とまちづくりに関連する研究活動を概観すると、奈良県立医科大と早稲田大学のほかにも、東京大学の高齢社会総合研究機構や、筑波大学発ベンチャー企業のつくばウエルネスリサーチなどが進めている取り組みに目が止まります。どちらも高齢者を対象に将来の社会保障制度に貢献することを視野に入れ、前者では在宅医療や高齢者住宅を含む地域社会のあり方を、後者では誰もが「健幸」になれるSmart Wellness Cityのかたちについて研究しています。

このように医学と都市の関係性に今、多くの研究者が目を向け始めていることは確かです。最近よくいわれる「ウェルビーイング」を追求する社会の潮流が、これに拍車を掛けているようです。

◆古い「町並み」を生かして取り組む「町なか」医療

──具体的な取り組みについてお聞かせください。どのような研究活動を進めていますか。

奈良県立医科大と一緒に取り組んでいる「今井町アネックス」プロジェクトがあります。今井町というのは奈良県橿原市にある江戸期に栄えた古い町で、当時の風情を今に伝える町家が至るところに残り、重要伝統的建造物群保存地区にも選定されています。その近隣にある医科大の附属病院、そして近く建設が予定される同大の新しいキャンパス、この3つをつなぐ地域を舞台として、「まちなか医療」と「まちなみ景観」の整備を一体に進めようというプロジェクトです。

江戸時代の面影を残す今井町の町並み

東西に約600m、南北に約310mにわたる保存地区には、全部で約760戸の家があり、そのうち500戸ほどが伝統的建造物となっています。ただ、人口が減るにつれて空き家が目立ちはじめているものの、保存地区ですから勝手に壊したり建て替えたりすることができません。この町並みを何とかして生かしながら、医療・健康のまちとして再生することはできないか。そんな思いから活動が始まりました。

そこで考えたのが、医科大の機能の一部を伝統的な町並みの中に取り込み、病院と自宅の間に医療を介在させる仕組みです。中世の町ですから、道幅が狭く、車は入ることができません。それがかえって車いすの練習や歩行訓練などのリハビリに適している。回復期にある患者さんをこうした環境で受け入れたら、病院の廊下でやるよりよほど人間的な支援ができるのではないかと提案しました。

また、絵画療法や園芸療法、音楽療法、運動療法といったものを町なかに持ち込んだり、ケア付きの共同住宅や患者さんの家族の宿泊所、退院してから自宅に戻るまでの滞在型リハビリ施設をつくったり。こうした場所に空き家を有効活用するわけです。実際、改修した長屋に早稲田の学生が泊まり込み、市民向けに健康測定やワークショップを行うことも続けてきました。医科大では外国人研究者のためのゲストハウスをつくり、そこで医師の方々が市民のための健康相談を開いています。ほかにも、放課後の児童クラブや女性専用のシェアハウスなど、アイディアは尽きません。

壊れかけた空き家を改修して外国人研究者のためのゲストハウスに

◆農村から大都市郊外まで全国展開を目指した活動へ

──たいへん実証的で、実践的な研究ですね。社会的意義が認められて公的助成プログラムにも採択されています。

今井町アネックスは「持続可能な多世代共創社会のデザイン」に貢献するとして、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)に選ばれました。また、今井町とは別の研究で、農林水産政策科学研究委託事業の助成を受けています。「農村健康観光」によって6次産業を創出する取り組みです。

6次産業というのは、1次・2次・3次の各産業を掛け合わせるもので、一般には農工商の連携が知られています。食料をつくり、食品に加工して、飲食店で販売するというように。ですが、それに留まらず、農工医の連携も考えられる。生薬を栽培し、漢方薬に加工して、医療に活かすのです。そこからさらに広げると、

後藤春彦教授作成

漢方医療から園芸療法に結びつけ、医療観光へと発展させられる可能性も見えてきます。もっと言えば、農家レストランから農家民泊、医療観光への展開もあるでしょう。

私たちはここに着目し、3次産業の最も高次な部分に医療観光を置き、その成果を地域の景観づくりに還元しながら1次産業にもプラスの効果を戻せるような、農村における「6✕n次産業化」を提案しています。

これに基づき、奈良県の農村を散策しながら薬草を摘み、農作業を体験してランチを楽しみ、薬草に関するワークショップにも参加する薬草ツアーを企画しました。すると、参加者は農作業などで肉体的には疲れても健康状態はむしろ上向き、精神的疲労度が下がることが、2種類の医学的調査によって確認できました。客観的健康と主観的健康の両方に効果が見られたのです。このツアーにはガイド役の学生を付けているのですが、農村の暮らしの知恵をあれこれ学びながら散策することで健康感もより高まる効果を期待してのことです。

また、別の調査では主観的健康感と住んでいる環境などとの関係性を調べてみました。中心市街地や住宅地、商業地区、高齢者タウンなどまったくプロフィールの異なる7つの地区を対象に、それぞれ十数人の中高齢者に参加してもらい、「認知環境」「物理的環境」「世代」「性別」によって主観的健康感がどう変わるかを見たものです。

結果は面白いことに、世代や性別を問わず、どんな場所に住んでいるかも関係なく、たった一つ「認知環境」だけに主観的健康感との相関関係が認められました。つまり、自分が暮らすまちのことを詳しく知っている人ほど、主観的健康感が高いということです。まちづくりと医療・健康が結びつくことを示す証左の一つといえますね。

──物理的環境が問われないのであれば、全国のいろいろな地域で健康づくりを進めることができそうです。

そうですね。細井先生もまさにそのことを指摘されていて、「全国に約80もの医科大学があるのだから、今井町と同じことを全国でできるはず」とおっしゃっています。主観的健康感が高くなれば、生命予後が長くなることがわかっているのですから、健康寿命を延ばすためには主観的健康感が大切であり、それには自分の住む地域にもっと関心を持ってもらえるよう工夫しなくてはなりません。

そうした考えから私たちは、早稲田大学建築・まちづくりリサーチファクトリーとの連携で、首都圏郊外の住宅地を再生するプロジェクトも同時に進めています。都市が大きく成長した時代はもう過ぎて、郊外には空き地や空き家が目立つようになりました。中山間地域で進む過疎化や地方都市のシャッター通り商店街も大きな問題ですが、実は縮退する大都市圏郊外の問題が手つかずのまま残されている。これを何とかするために、埼玉県越谷市などを実証フィールドとして、「Interknitted Town」と名づけた市街地再編集ビジョンに基づく活動に取り組んでいるところです。

──Interknitとは「編み合わせる」という意味ですね。

はい。いろいろな「穴」が空き始めた郊外のまちに、必要な機能を編み込んでいく。先進的なスマートシティの創造が織機の世界だとすれば、我々は手編みの世界。これからも地道で実効性のある実証研究を続けていくつもりです。

温度によるサリドマイド結晶の構造変化を明らかに

著者: contributor
2025年4月10日 17:11

温度によるサリドマイド結晶の構造変化を明らかに
分子環境と結晶熱膨張の関係の新たな知見で、キラル医薬品の結晶化や品質確保に期待

発表のポイント

  • 難治性疾患の治療薬としての薬効と薬害に繋がる催奇形性の性質をもつ、キラルな化合物サリドマイドについて、一方の鏡像異性体(R体またはS体)のみで構成される「エナンチオマー結晶」と等量のR体とS体から構成される「ラセミ結晶」の単結晶を育成し、世界で初めてサリドマイドの結晶構造の温度依存性を広い温度領域で測定し、エナンチオマー結晶とラセミ結晶の結晶構造の温度依存性に違いが見られることを明らかにしました。
  • 結晶構造が酷似しているエナンチオマー結晶とラセミ結晶において、その基本となる二量体の対称性の僅かな違いにより、両者の熱膨張挙動に違いが見られることが明らかとなりました。
  • この成果は、キラル医薬品の結晶化や品質確保に関する基礎的な知見となるとともに、分子結晶の構造と特性に関わる実験的および計算的アプローチにおいても有用な知見となります。

概要

早稲田大学理工学術院の朝日透(あさひとおる)教授、同大学総合研究機構の中川鉄馬(なかがわけんた)主任研究員中西卓也(なかにしたくや)上級研究員、同大学大学院先進理工学研究科一貫制博士課程2年の松本綾香(まつもとあやか)、東京科学大学理学院化学系の関根あき子(せきねあきこ)助教、名古屋工業大学生命・応用化学類の柴田哲男(しばたのりお)教授、東京大学大学院工学系研究科の佐藤宗太(さとうそうた)特任教授らの共同研究グループは、世界で初めてサリドマイドの結晶構造の温度依存性を広い温度領域で測定し、エナンチオマー結晶とラセミ結晶の結晶構造の温度依存性に違いが見られることを明らかにしました。本研究成果は、キラル医薬品の結晶化や品質確保に役立つ基礎的な知見となるとともに、分子結晶の構造と特性に関わる実験的および計算的アプローチにおいても有用な知見となると期待されます。

本研究成果はアメリカ化学会により発行される「Journal of the American Chemical Society」にて2025年3月27日(木)にオンライン公開されました。

キーワード:
サリドマイド、単結晶X線構造解析、キラル、エナンチオマー、ラセミ(体)、二量体、熱膨張係数

図:本研究成果の概要

これまでの研究で分かっていたこと

自然界に溢れる左右の非対称性はキラリティ※1と呼ばれ、鏡像と互いに重ね合わせられない性質があります。サリドマイドは、鏡像異性体※2の存在するキラルな薬剤の代表例として知られ、催眠・鎮静剤や制吐剤として開発されましたが、妊婦が服用した際に生まれる胎児の催奇形性※3の報告を受けて販売が一旦中止され、世界中で大きな問題となりました。その後の研究で、サリドマイドの鏡像異性体(R体とS体)のうち、一方(S体)にのみ催奇形性があると報告されています。現在では、がん(多発性骨髄腫)やハンセン病など複数の難病に対する薬効が明らかとなり、サリドマイドは再び注目を集めています。

サリドマイドの結晶には、R体またはS体のみで構成される「エナンチオマー結晶」と、等量のR体とS体から構成される「ラセミ結晶」があり、ラセミ結晶には二つの多形(α形とβ形)が存在します。サリドマイドのエナンチオマー結晶とα形ラセミ結晶では、どちらも二量体(二分子会合体)※4が構造の基本となり、結晶中の分子の配置や分子間の距離は酷似しています。エナンチオマー結晶中の二量体では「同じキラリティを持つ二分子が対称ではない配置」にあり、ラセミ結晶中の二量体では「反対のキラリティを持つ二分子が対称な配置」にありますが、両結晶で分子間および分子内の構造がこれほど類似している例は多くありません。しかしながら、これまで両結晶の物理化学的な性質な違い、とくに温度を変化させたときに分子構造や結晶構造の変化にどのような違いがあるのかなど明らかにされていませんでした。

新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、そのために新しく開発した手法

本研究では、サリドマイドのエナンチオマー結晶とラセミ結晶について、温度変化に伴うそれぞれの結晶構造の変化を比べることで、分子環境の僅かな違いが結晶の熱膨張といった挙動に及ぼす影響を調べることを目的としました。そのためには、良質な単結晶を用いた精密な構造解析をさまざまな温度で行う必要があります。高温での測定に耐えられる単結晶試料を、エナンチオマー結晶とラセミ結晶の双方で溶媒蒸発法※5によって育成することで、−173~150 °Cという非常に幅広い温度領域での同一の単結晶試料を用いたX線構造解析を行うことができました。これにより、温度の変化によって結晶格子の単位胞※6の大きさと形(格子定数※6)、結晶内の分子の配列や配向、分子の立体配座※7がどのように変化するのかを両結晶で比較することができました。

格子定数の温度依存性、また、熱膨張係数の温度依存性には、エナンチオマー結晶とラセミ結晶とで明らかな違いが認められました。さらに、エナンチオマー結晶を構成する「同じキラリティを持つ二分子が対称ではない配置にある二量体」とラセミ結晶を構成する「反対のキラリティを持つ二分子が対称な配置にある二量体」それぞれに着目すると、前者では対を成す二種類の単量体の構造の違いが温度上昇に伴いさらに大きくなるのに対し、後者では対を成すR体分子とS体分子は構造変化の温度依存性が等しい(対称性が維持される)ことがわかりました。サリドマイド結晶内では、この二量体が三次元的に規則正しく並んでいるため、分子構造の自由度は隣接する分子の影響を互いに受けます。自由度に関連する反応空間※8の体積が対を成す単量体間で異なるか等しいかによって分子構造の温度依存性の違いが説明できること、また、二量体の対称性の違いが結晶構造の温度依存性の違いに繋がることを示しました。

研究の波及効果や社会的影響

キラルな分子のエナンチオマー結晶とラセミ結晶とを比較して、結晶を構成する二量体の対称性の僅かな違いにより結晶構造の温度依存性の違いが引き起こされることを、単結晶X線構造解析によって実際に示した今回の成果は、物理化学・有機化学・固体化学といった化学の幅広い分野や結晶学において興味深く重要な例であり、将来的に分子結晶の構造と特性を議論する実験的および計算的アプローチにおいて有用な知見となることが期待されます。

また、キラルな化合物は薬理活性を示すことが多く、数多くのキラル医薬品が開発されています。かつてサリドマイドが世界規模での薬害を引き起こしたように、医薬品におけるキラリティの理解と制御は非常に重要であり、医薬品開発においては結晶形の違いから安定性や溶解性の違いが生じることから、その構造と物理化学的性質の理解と制御もまた重要です。キラル分子の結晶において分子環境の僅かな違いが結晶構造の温度依存性に影響することを示した今回の成果は、キラル医薬品の結晶化や品質確保にも有用な基礎的な知見となることが期待されます。

課題、今後の展望

本研究で扱ったサリドマイドの結晶は非常に興味深い研究対象である一方、いくつかの条件が揃った特別な例とも言えるため、今回得られた重要な知見をもとに分子構造や結晶構造が類似した化合物でも同様の解析を行うことで、さらに議論が深まるものと期待されます。例えば多発性骨髄腫の標準治療薬として現在広く使用されているポマリドミドやレナリドミドなどをはじめとするサリドマイド誘導体との比較は、他のキラル医薬品も含めたさまざまな分子結晶の構造と特性を議論する上で有意義なものと考えられ、モデルに基づいた予測や再現と組み合わせることで幅広い議論が可能になることが期待されます。

研究者のコメント

サリドマイドは社会的にも有名で重要な薬剤でありながら、基礎物性的な研究はまだ不足しています。本研究をさらに発展させて、物理化学的な観点から、これまで明らかとなっていなかった固体におけるサリドマイドの熱的性質や固相反応について明らかにしていきたいと考えています。

用語解説

※1 キラル(キラリティ)
右手と左手のように、鏡に映したときに元の構造と重ね合わせることができない構造を指す。このような構造を持つ分子や結晶は、キラル分子やキラル結晶と呼ばれ、左右の区別が存在する性質をキラリティという。

※2 鏡像異性体
右手と左手のように互いに鏡像関係にあり、原子の並びは同じでも三次元空間における配置が異なる立体異性体を指す。エナンチオマーとも呼ぶ。

※3 催奇形性
妊婦が薬物を服用した際に、胎児に形態的異常を生じさせる性質。

※4 二量体
2つの分子が化学結合によって1つの分子として振る舞う状態。

※5 溶媒蒸発法
結晶化したい溶質を含む溶液から溶媒をゆっくり蒸発させることで、溶質を結晶として析出させる結晶育成手法。

※6 単位胞・格子定数
結晶中において、分子が三次元的に規則正しく繰り返し並ぶ際の最小の繰り返し単位を単位胞といい、その各辺の長さと角度を示すパラメータを格子定数という。

※7 立体配座
分子内の単結合が回転することによって生じる原子の空間的な配置。

※8 反応空間
結晶中の反応基に隣接する原子から、その原子のファンデルワールス半径に1.2Åを加えた距離を半径とする球面で囲まれる空間を指し、分子やその分子中の部位がどれだけ自由に動けるかを示す。

論文情報

雑誌名:Journal of the American Chemical Society
論文名:How Temperature Change Affects the Lattice Parameters, Molecular Conformation, and Reaction Cavity in Enantiomeric and Racemic Crystals of Thalidomide
執筆者名(所属機関名):松本綾香(早稲田大学)、中川鉄馬*(早稲田大学)、中西卓也(早稲田大学)、関根あき子(東京科学大学)、古城綜佑(東京科学大学)、吉良美月(早稲田大学)、佐藤宗太(東京大学、分子科学研究所、早稲田大学)、柴田哲男(名古屋工業大学)、朝日透*(早稲田大学)
※共同筆頭著者 *共同責任著者
掲載日(現地時間):2025年3月27日(木)
掲載URL:https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/jacs.4c18394
DOI110.1021/jacs.4c18394

研究助成

研究費名:日本学術振興会 科研費 基盤研究 (C)
研究課題名:キラルドラッグサリドマイドの固体状態におけるキラリティ評価
研究代表者名(所属機関名):朝日透(早稲田大学)

「生闘学舎の設計・施行・保全をめぐって」 2025/5/11

著者: staff
2025年4月10日 11:34

演題:「生闘学舎の設計・施行・保全をめぐって」

日時:2025年5月11日(日)14:00~17:40

会場:早稲田大学西早稲田キャンパス55号館N棟1階第二会議室

講師:戸沢忠蔵・藤森照信・塚本由晴・日埜直彦

対象:学部生、大学院生、学外者

参加方法:入場無料、対面参加要予約 下記のリンク先より申し込み

主催:創造理工学部建築学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

関連リンク: http://www. arch.waseda.ac.jp/wa/7935

 

テラヘルツ帯に対応した無線通信システムを試作し、286.2GHz帯を用いた長距離・大容量OFDM無線伝送に成功

著者: contributor
2025年4月9日 11:25

テラヘルツ帯に対応した無線通信システムを試作し、
286.2GHz帯を用いた長距離・大容量OFDM無線伝送に成功

発表のポイント

  • テラヘルツ帯に対応した無線通信システムを試作し、300GHzの周波数帯を用いた大容量通信において、OFDMとしては世界トップクラスの距離70mのリアルタイム無線伝送を実現。
  • テラヘルツ帯を用いた高速通信の長距離化は、100Gbps以上の伝送速度をめざす次世代移動通信システムBeyond5G/6Gシステムにおいて、地上、海、空にある移動体をつなげる通信ネットワークでの活用が期待されている。
  • 本研究では、東京都新宿区の早稲田大学早稲田アリーナ内において72.4mの距離に対し、伝送速度8.19Gbpsのポイント・ツー・ポイント通信を確認。

早稲田大学理工学術院の川西哲也(かわにしてつや)教授の研究グループは、テラヘルツ帯※1に対応した無線通信システムを試作し、長距離・広帯域伝送の実験に成功しました。図1に示すように、早稲田大学 戸山キャンパス(東京都新宿区)の早稲田アリーナ内で72.4mの距離で、8.19Gbpsの伝送速度を実証しました。300GHz帯の周波数帯を用いた大容量通信において、Orthogonal Frequency Division Multiplexing (OFDM)※2としては世界トップクラスの70mの伝送距離を実証しました。今後はスタジアム等限定エリアの「中距離」の無線ネットワークのユースケースへの展開が期待されます。

図1 今回試作した286.2GHz帯OFDM無線通信システム(早稲田大学 早稲田アリーナ)

研究の背景

次世代移動通信システムBeyond5G/6G※3システムにおいて、テラヘルツ帯伝送システムは高速通信が担うことが期待されています。これまでは、マイクロ波帯(3GHz~30GHz)やミリ波帯(60GHz)が利用されてきました。しかし、利用可能な周波数の帯域幅が限定されているため、伝送速度は数百Mbpsから数Gbpsが限界となっています。5年程度に実用化が想定されるD帯(110-170GHz)とならんで、より高い周波数帯の300GHz帯(252-296GHz)でも通信規格IEEE802.15.3d-2017 [1]の研究開発が近年活発に行われています。

今回の研究成果について

286.2GHzのテラヘルツ領域までに対応するアンテナ、送信機および受信機を試作しました。高利得アンテナには、図2に示すように、4系統のビームフォーミング対応で40dBicの高利得なレンズ付き右旋円偏波パッチアンテナ※4と、47dBiの高利得なレンズ付き直線偏波コニカルホーンアンテナを開発しました。送受信RFアンプおよびミキサーには、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)のプロジェクトにおける共同受託者である日本電信電話株式会社(NTT)先端集積デバイス研究所が開発したテラヘルツ帯RFデバイス [2]を使用しました。今回の伝送実験は、中心周波数を286.2GHzに設定し、位相制御された4系統のRF信号をアンテナ放射後に空間合成することで特定実験試験局に許可される範囲内の等価等方放射電力(EIRP)※5 44dBmの高出力化を実現しました。早稲田アリーナ内で72.4mの距離に対して、帯域幅2.0GHzを使用した条件で、変調方式QPSK(伝送速度3.28Gbps) 、16-QAM(伝送速度6.55Gbps)および32-QAM(8.19Gbps)を用いたOFDM伝送を確認しました。

従来、300GHz帯ではSingle Carrier(SC)を用いた距離645mの通信[3]およびOFDMを用いた距離10mの通信[4]が報告されていました。今回は300GHz帯の周波数を利用した1Gbps以上の伝送容量の通信において、OFDMとして距離70mを超える世界初の伝送実験となりました。OFDMはSCに比べて一般的にスペクトル効率が高く、マルチパスフェージング※6に強いとされており今後多くの用途での活用が期待されます。

図2 実証システムの概要(上:ブロック図、左:受信SNRの距離特性、右:72.4mの実験風景)

今後の展開

multiple-input multiple-output(MIMO)※7により高い伝送容量への拡大を目指すとともに、リンクの利便性を向上するために必要なビームステアリング技術の試作と改良を行います。

用語解説

※1 テラヘルツ帯
おおむね周波数100GHzから10THz(波長にして3mm-30μm)の電磁波領域を指す。テラヘルツ帯の中には、無線通信に利用できる周波数帯がいくつか存在する。そのうち、110 GHzから170 GHzはD帯、252GHzから296GHzは300GHz帯と呼ばれる場合がある。

※2 Orthogonal Frequency Division Multiplexing (OFDM)
マルチキャリア変調方式の一種であり、一つの広帯域を複数の狭帯域なサブキャリアに分割してデータを並列に送信する技術。各サブキャリアは数学的な直交性を保つことで、互いの干渉を最小限に抑えながら、効率的なデータ通信が可能になる。

※3 Beyond5G/6G
最近サービスがはじまった移動通信システムは第5世代(5G)とよばれている。これに対して、次世代システムとしてBeyond5Gさらには 第6世代(6G)移動通信システムの開発が進められている。

※4 パッチアンテナ
導電体の平板(パッチ)を誘電体基板上に配置し、接地面と組み合わせたマイクロストリップ構造のアンテナ。

※5 等価等方放射電力(EIRP)
送信機が特定の方向に放射する電力を、等方性アンテナが全方向に放射する電力に置き換えた値。

※6 マルチパスフェージング
無線通信において送信信号が複数の異なる経路を通って受信機に到達することで生じる、時間的・周波数的な信号強度の変動現象を指す。

※7 multiple-input multiple-output(MIMO)
複数のアンテナを配置し、空間多重化やダイバーシティ技術を活用して通信容量や信号品質を向上させる無線通信技術。

参考文献

[1] ”IEEE Standard for High Data Rate Wireless Multi-Media Networks Amendment 2: 100 Gb/s Wireless Switched Point-to-Point Physical Layer”、Sep, 2017,  https://standards.ieee.org/ieee/802.15.3d/6648.

[2] H. Hamada et. al., “300-GHz-band 120-Gb/s wireless front-end based on InP-HEMT PAs and mixes,” IEEE J. Solite-State Circuits, vol. 55, No. 9, pp. 2316-2335, Sep. 2020.

[3] A Renau et. al., “Full frequency duplex link over 645m in the 300 GHz band”, Journée du Club Optique Micro-ondes (JCOM 2023), June, 2023, https://hal.science/hal-04160795/document.

[4] Y. Morishita et. al., “300-GHz-band self-heterodyne wireless system for real-time video transmission toward 6G,” in Proc. 2020 IEEE International Symposium on Radio-Frequency Integration Technology (RFIT), pp. 151–153, Sep. 2020.

研究プロジェクトについて

本研究成果の一部は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の革新的情報通信技術研究開発委託研究(JPJ012368C00302 および JPJ012368C04901)および科学技術振興機構(JST)先端国際共同研究推進事業 ASPIRE (JPMJAP2324)により実施したものです。 

令和7年度科学技術分野の文部科学大臣表彰を6名の教員が受賞

著者: contributor
2025年4月9日 09:58

このたび、早稲田大学の研究者6名が、科学技術分野で顕著な功績があったとして、「令和7年度科学技術分野の文部科学大臣表彰」を受賞しました。
科学技術分野の文部科学大臣表彰は、科学技術に携わる者の意欲向上を図り、日本の科学技術水準の向上に寄与することを目的としており、科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果を収めた者に対し授与されています。

今後も本学では、中長期計画「Waseda Vision150」における研究ビジョンである「世界の平和と人類の幸福に貢献する研究」の実現に向け、未来をイノベートする独創的研究の促進を図ってまいります。

科学技術賞(研究部門)

氏名 所属・役職 業績名
浅川 達人 人間科学学術院・教授  標本調査と社会地区分析の結合によるフードデザート問題研究
齊藤 有希子 政治経済学術院・教授  地理空間上の企業間ネットワークとマクロ経済変動の研究
多湖 淳 政治経済学術院・教授  サーベイ実験の非欧米圏での実証と比較を通じた国際政治研究
辻川 信二 理工学術院・教授  宇宙の創世から現在の加速膨張に至る包括的な宇宙論の研究
森 達哉 理工学術院・教授  能動的セキュリティ対策技術に関する研究

 

科学技術賞(理解増進部門)

田中 香津生 理工学術院・主任研究員  中高生を対象とした素粒子探究活動の普及啓発

ケミカルループ法で化学原料製造と二酸化炭素再資源化を交互に実現

著者: contributor
2025年4月8日 13:12

ケミカルループ法で化学原料製造と二酸化炭素再資源化を交互に実現

発表のポイント

  • 従来の化学プラントは多くの場合、高温大型でしたが、ケミカルループ法※1によって低温・小型分散化が可能になります。
  • 高度な分析と計算化学により、化学品製造と二酸化炭素の再資源化が交互に同時に実現できる高効率材料を発見しました。
  • これらにより、従来のものより低温で小型分散型なプロセスにより化学原料製造と二酸化炭素再資源化が同時に実現可能になるとともに、その際に製造した化学原料であるエチレンと、二酸化炭素の再資源化は交互に分離して行われるため分離精製が簡略化できるようになります。

概要

インジウム酸化物という材料は、酸化と還元が起こりやすいという特徴を持つ固体酸化物材料で、薄膜系材料合成や液晶、半導体系材料の合成に重要な役割を果たすものです。
学校法人早稲田大学(理事長:田中 愛治、以下「早稲田大学」)大学院先進理工学研究科博士後期課程の渡辺 光亮(わたなべ こうすけ)氏ならびに同大学理工学術院関根 泰(せきね やすし)教授らの研究グループとJX金属株式会社の研究グループは、インジウム酸化物の表面を他の元素で修飾することで、容易に還元可能な表面を作りうること、その際に表面でたくさんの酸素を出し入れすることができることを見いだしました。
さらに、Ni-Cu合金※2の微粒子を表面に載せた材料は、873 Kという従来より大幅な低温にて、固体材料表面の格子酸素によるエタンの酸化的な脱水素によるエチレン(基幹化学原料※3)の製造(下記式1)と、その後に消費された表面酸素の復元のための二酸化炭素による再酸化、その際に同時に二酸化炭素が再資源化されること(下記式2)を発見しました。

式1:C2H6(エタン) + Vox(格子酸素) →C2H4(エチレン) + H2O + Olat(格子の欠陥)
式2:CO2 + Olat(格子欠陥) →CO + Vox(格子酸素)

このように、交互に2種類のガスを流すことで酸化と還元を繰り返す方法は、ケミカルループ法と呼ばれ、近年注目されています。※a今回の材料は大きな表面酸素容量(材料全体の重量に対して4wt%以上)を有し、インジウム種の酸化還元に関連してNi-Cu二元合金とNi-Cu-In三元合金※4間の動的な変化によって実現されました。入念な材料スクリーニング、特性評価、理論計算により、Ni-Cu合金がエチレンを生み出し、還元されたインジウム種の取り込みによって酸化還元を促進することが明らかになりました。

本研究成果は、2025年3月26日にアメリカ化学会発行の「ACS Catalysis」にオンライン版で公開されました。

図:一つの材料の上で、二酸化炭素の再資源化とエチレン製造が同時に達成される。

これまでの研究で分かっていたこと

これまでのエチレン製造は、エタンガスの高温での分解(エタンクラッキングと呼ばれる)が商業的に行われてきましたが、非常に温度が高く、炭素が大量に生成されるプロセスでした。※bまた、二酸化炭素の再資源化による一酸化炭素※5製造は、逆水性ガスシフトと呼ばれる水素による高温(800度以上)での還元であり、こちらも大量の水素を必要としつつ、高温耐性を有する高価な材料を必要としていました。
一方で固体酸化物材料は、水素や炭化水素などの還元性を有するガスに高温で接触させると、表面が還元されること、ならびに空気や酸素などの酸化剤を高温で接触させると表面が酸化されることは古くから知られてきました。これを活かして、上記の2つの反応である化学品合成と二酸化炭素再資源化を交互に行うことに世界で初めて成功しました。

今回の研究で実現したこと

本研究では、あらたな固体酸化物材料を開拓し、早稲田大学での実験研究と計算化学によってエタンガスの脱水素によるエチレン合成とその後に引き続いた二酸化炭素による表面再酸化と資源化を交互に繰り返すことができることを見いだしました。これによって、従来と比較して大幅に温度を下げることができ(=材料選定が楽になる)、外部からの水素を必要としなくなり(=コスト低減)、かつ生成物を自動的に分離することができることとなりました。

研究の波及効果や社会的影響

従来はエチレン製造、二酸化炭素の再資源化による一酸化炭素製造のいずれも800度を超える高い温度を必要とし、それぞれ独立に行われるので、エネルギーを大量に消費する反応でした。今回の発見により、これら2つの反応を、600度というステンレス系の安い材料を用いることができる低い温度でも、充分に高い転化率で進めることができるようになりました。この際に、従来課題となっていた炭素の生成は起こらず、外部水素も不要となり、生成物は交互に出てくるため分離も不要となりました。この技術は、化学品製造と二酸化炭素再資源化を同時に行いたい化学企業などによって実用化が大いに期待されるところです。

今後の課題

化学産業で交互に流すというプロセスは、これまであまりメジャーではありませんでした。今回の発見により、化学品合成と二酸化炭素の再資源化による一酸化炭素製造という2つの重要な反応を、同時かつ交互に進めることができるようになりました。さらにガス分離も不要なため、全体としての効率向上も期待できます。今後、プロセス全体としての効率を高める工夫を考えていくことが期待されます。

研究者のコメント

化学工業の世界はオンデマンド化、小型分散化が苦手と言われ、大型で高温のプロセスが多用されてきました。ケミカルループ法は大規模化には向かず、むしろ小規模分散型を得意とします。次世代の化学プロセスでこういった技術が利用されることを期待しています。

用語解説

※1 ケミカルループ法:
固体材料の気体による酸化と還元をそれぞれ独立した条件で行い、これを繰り返すことで従来の気体の固体触媒上での反応に比べて低温化が可能で、生成ガスの分離が不要になる手法。
※2  Ni-Cu合金:ニッケルと銅が互いに混じり合った合金。
※3 基幹化学原料:ポリバケツや医薬品など様々な化学物質の原料となる化合物。
※4 Ni-Cu-In三元合金:ニッケルと銅とインジウムが互いに混じり合った合金。
※5 一酸化炭素:
化学構造としてCOと書ける分子で、反応性が高いためあらゆる化学品(燃料・医薬品原料・化粧品・塗料など)の原料となり得る。

参考文献
※a Fast oxygen ion migration in Cu-In-oxide bulk and its utilization for effective CO2 conversion at lower temperature, Chemical Science, 12, 2108-2113, 2021. doi: 10.1039/d0sc05340f
※b Catalytic conversion of ethane to valuable products through non-oxidative dehydrogenation and dehydroaromatization, RSC Advances, 10, 21427-21453, 2020. doi: 10.1039/D0RA03365K

論文情報

雑誌名:ACS Catalysis
論文名:Oxidative Dehydrogenation of Ethane Combined with CO₂ Splitting via Chemical Looping on In₂O₃ Modified with Ni-Cu Alloy
執筆者名: 渡辺 光亮¹、比護 拓馬¹、七種 紘規¹、松本さくら¹、三瓶 大志¹、磯野 雄生²、下宿 彰²、古澤 秀樹²、関根 泰¹
1:早稲田大学
2:JX金属株式会社
掲載日:2025年3月26日
掲載URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acscatal.4c07737
DOI:https://doi.org/10.1021/acscatal.4c07737

研究助成

JST-ALCA-Next 番号 23836167
科研費 Grant Number JP24KJ2090
JST SPRING B2R101263202

土壌中でのナノプラスチックの土粒子への吸着性を評価

著者: contributor
2025年4月7日 16:58

土壌中でのナノプラスチックの土粒子への吸着性を評価
土壌中ナノプラスチックの移動挙動の解明に一歩前進

発表のポイント

  • ゼータ電位とpHの異なる土壌中でのポリスチレンナノプラスチックの吸着性を評価
  • 一定の条件下でナノプラスチックを吸着した土粒子が凝集し、粒子サイズが増大することを確認
  • 土壌中のナノプラスチックの移動挙動の解明が生態系への影響評価に貢献

土壌中ナノプラスチックの移動イメージ

概要

立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)ネイチャーポジティブ技術実装研究センター 土田恭平 研究員、原淳子 研究チーム長、地圏資源環境研究部門 井本由香利 主任研究員、斎藤健志 主任研究員、早稲田大学 創造理工学部 環境資源工学科 川邉能成 教授は土壌中ナノプラスチックの移動挙動の解明を目的として、ナノプラスチックの凝集性や土粒子への吸着性と、土壌種の特性やpHとの関係を明らかにしました。

ナノプラスチックは粒子サイズが1~1000 nmのプラスチックで、土壌中にも多数存在している可能性があり、ヒトの健康への影響も大きいことが懸念されています。しかし、土壌中のナノプラスチックが土壌間隙に蓄積したり土粒子に吸着したりするなどしてどの程度その場に滞留するか、逆に、どの程度移動するかは明らかにされていません。

本研究において、絶対値が大きな負のゼータ電位をもつポリスチレンからなるナノプラスチックの場合、正のゼータ電位を有する土粒子には吸着しやすいことを実験的に確認し、酸性条件下ではさらにその吸着性が高くなることを明らかにしました。また、土粒子にナノプラスチックが吸着することで、土粒子自体が凝集して粒子サイズが大きくなることを確認しました。この結果から、正のゼータ電位を有する土壌に存在するナノプラスチックは、特に酸性条件下において、その場に滞留しやすく移動しにくいと推察されます。本成果により、土壌中ナノプラスチックの移動挙動が解明でき、ナノプラスチックの生態系への影響評価に貢献することが期待されます。

なお、この技術の詳細は、2025年4月4日に「Science of The Total Environment」に掲載されます。

下線部は【用語解説】参照

研究の社会的背景

ごみの不法投棄や河川の氾濫、農耕地でのプラスチックの利用、建築や土木工事に利用された資材の劣化や摩耗などに起因して、マイクロプラスチックが環境中へ流出していることが報告されています。陸上に存在するマイクロプラスチック量は海洋の423倍と推定されており、土壌中に多量のマイクロプラスチックが存在している可能性があります。また、ナノプラスチックはマイクロプラスチックが粉砕されることで生成され、マイクロプラスチックと同様に環境中に多く存在していると考えられます。

ナノプラスチックはマイクロプラスチックよりも動物や植物など生態系への影響が大きい可能性が報告されています。また、ナノプラスチックはその小ささから比表面積が大きく重金属類や残留性有機汚染物質を吸着しやすいため、汚染物質を吸着・脱着しながら土壌中を移動することで、汚染物質輸送を媒介する可能性があります。プラスチック生成時に使用された添加剤などの有毒成分がナノプラスチックから土壌へ浸出することで新たな汚染が生じる可能性もあり、ナノプラスチックによる生物多様性の損失が懸念されています。

研究の経緯

産総研と早稲田大学は、地圏環境中プラスチックの生態系への影響評価を目指しており、プラスチックと化学物質との相互作用や環境中のプラスチック分布状況の調査や新規測定手法の開発を行ってきました。ナノプラスチックはその小ささから生態系への影響を評価することが難しく、移動挙動についてはほとんど明らかにされていません。土壌中のナノプラスチックは凝集性が高いと粒径が大きくなるため移動しにくくなり、土粒子に吸着することでも移動しにくくなると考えられます。また、ナノプラスチックが吸着した土粒子が凝集することで土粒子は土壌間隙に滞留しやすくなり、ナノプラスチックはさらに移動しにくくなる可能性があります。そこで今回は、土壌中のナノプラスチックの移動挙動の解明を目的として、ナノプラスチックを含んだ土壌のpHの違いによるナノプラスチックの凝集性と、その土粒子への吸着性、また、ナノプラスチックが吸着した土粒子の凝集性の評価を行いました。

研究の内容

本研究では、梱包材などで広く一般的に使用されているポリスチレンのナノプラスチック試料を使用し、黒ぼく土と砂質土の2種類の土壌中での土粒子への吸着性の評価を行いました。ポリスチレンのナノプラスチックは、pH4, pH7, pH10において-31.8 mV, -52.1 mV, -60.0 mVと絶対値が大きな負のゼータ電位をもつため、土壌のpHに関わらずナノプラスチック同士が反発し凝集性は低くなります。一方で、黒ぼく土と砂質土のゼータ電位は、pH7においてそれぞれ19.9 mVと-23.6 mVでした。これらの土壌とナノプラスチック懸濁液を混合、振とうしたところ、黒ぼく土の方が砂質土よりナノプラスチックの吸着性が高いことが示されました。また、その時のプラスチック懸濁液のpHをpH4, pH7, pH10と変化させたところ、黒ぼく土においてはpHの値が低いほどよりナノプラスチックの吸着性が高くなり、砂質土におけるナノプラスチック懸濁液のpHはナノプラスチックの吸着性に影響しないことが示されました(図1)。

これらの結果は、ナノプラスチックと黒ぼく土のゼータ電位がそれぞれ負と正であったことから、粒子同士が引きつけあったためと考えられます。また、黒ぼく土の方が砂質土より比表面積が大きかったことも黒ぼく土の吸着性が大きかった要因であると考えられます。さらに、黒ぼく土のpH4, pH7, pH10におけるゼータ電位は36.6 mV, 19.9 mV, 4.02 mVとpHが低くなるほど増加する傾向があったこととも整合します。一方、砂質土においては、pH4, pH7, pH10におけるゼータ電位は-18.0 mV, -23.6 mV, -42.3 mVとpHが低くなるに従い絶対値は小さくなるものの一貫して負であったことから、pHによらず負のゼータ電位をもつナノプラスチックと反発しあったものと考えられます。

次に、両土壌種の土粒子の粒子サイズがナノプラスチックと混合することで、また、pH4, pH7, pH10とナノプラスチック懸濁液のpHを変えたことでどのように変化するかを調べました(図2)。黒ぼく土の場合は、ナノプラスチックが吸着したことにより粒子サイズが増大し、pHが低い方がより増大したことがわかりました。一方で、砂質土においてはナノプラスチックと混合したことで、また、ナノプラスチック懸濁液のpHを変えたことで粒子サイズに変化はありませんでした。この時、黒ぼく土へナノプラスチックが吸着したことで、黒ぼく土のゼータ電位はpH7で19.9 mVから-9.85 mVへ変化していました。ゼータ電位の絶対値が小さくなったことで、粒子同士が反発する力が弱くなり土粒子の凝集性が増加したと考えられます。土粒子の凝集性が高くなると、土粒子に吸着したナノプラスチックは土壌間隙に詰まりやすくなり、その場に滞留しやすく移動しにくいと推察されます。

以上から、正のゼータ電位を有する土壌に存在するポリスチレンからなるナノプラスチックは、特に酸性条件下においてその場に滞留しやすく移動しにくいこと、逆に、負のゼータ電位を有する土壌においては移動しやすいことが推察されます。

図1 ナノプラスチック(NPs)の土壌への吸着挙動
※原論文の図を引用・改変したものを使用しています。

図2 ナノプラスチックの吸着による土粒子サイズ分布
※原論文の図を引用・改変したものを使用しています。

今後の予定

今後は、ナノプラスチックの土壌間隙への蓄積や土粒子への吸着現象を考慮した、カラム通水試験やシミュレーションモデルの開発を行うことで、より詳細な土壌中のナノプラスチックの移動挙動を明らかにし、ナノプラスチックの生態系への影響評価に貢献します

用語解説

ナノプラスチック
大きさが1~1000 nmのプラスチックのこと。大きさが5 mm未満のマイクロプラスチックより人体への影響が大きい可能性がある。

ゼータ電位
粒子表面の帯電状態を表すパラメータで、分散/凝集性を評価する指標になる。

黒ぼく土
日本でみられる土壌のひとつで、火山灰由来の土壌である。リン酸吸収係数が高く、畑などに広く利用されている。土地利用の状況によってpHは異なる場合がある。

論文情報

掲載誌:Science of The Total Environment
論文タイトル:Effect of solution pH on nanoplastic adsorption onto soil particle surface and the aggregation of soil particles
著者:Kyouhei Tsuchida, Yukari Imoto, Takeshi Saito, Junko Hara, Yoshishige Kawabe
DOI10.1016/j.scitotenv.2025.178712

【Convergence/divergence phenomena in the vanishing discount limit of HJ equations】2025/4/12

著者: staff
2025年4月1日 10:49

演題:【Convergence/divergence phenomena in the vanishing discount limit of HJ equations】

日時:2025年4月12日(土)14:00~17:30 (14:15~15:15講演・16:45~17:30討論)

会場:西早稲田キャンパス 55 号館 N 棟 1 階 第 2 会議室

講師:Andrea Davini

対象:学部生、大学院生、教職員、学外者

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学研究科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

関連リンク:  https://www.ozawa.phys.waseda.ac.jp/sams/index.html

「建築による社会変革ーつくりかたからつくりかえる」2025/4/25

著者: staff
2025年3月28日 15:46

演題:「建築による社会変革ーつくりかたからつくりかえる」

日時:2025年4月25日(金)18:00~21:00

会場:西早稲田キャンパス 63号館2階04・05会議室

講師:秋吉 浩気

対象:学部生、大学院生、教職員、学外者、一般の全て

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:創造理工学部建築学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

ご卒業・修了おめでとうございます。2024年度学位授与式が行われました。

著者: staff
2025年3月26日 20:09

3月26日(水)初夏のような陽気の中、各学部・研究科において、学科・専攻ごとの学位授与式が行われました。ご卒業・修了を迎えられた皆さん、おめでとうございます。今後のご活躍をお祈りしています!

 

 

 

 

 

赤松大臣政務官 本学研究開発を視察

著者: contributor
2025年3月26日 09:31

赤松健 文部科学大臣政務官が所千晴教授の研究開発現場を視察

関係者による集合写真(左から近藤圭一郎 理工学術院長補佐、若尾真治 理事、赤松健 文部科学大臣政務官、所千晴 創造理工学部長、戸川望 理工学術院長)

2025年3月19日(水)、赤松健 文部科学大臣政務官らが、本学理工学術院創造理工学部長の所千晴教授を訪問し、リチウムイオン電池のリサイクルに係る研究開発現場を視察されました。

会の冒頭では理事の若尾真治教授、 理工学術院長の戸川望教授より本学の研究推進に係る紹介があり、その後所教授より、小型リチウムイオン電池の安全・安心な処理を目指した令和5年度東京都「大学研究者による事業提案制度」に提案された内容のほか、これまでの国による委託事業等を通じた資源循環を実現するための分離技術等、リサイクルを含むサーキュラーエコノミーの実現に向けた幅広い取り組みに係る紹介がありました。

その後所教授の実験室において電気パルスによる分離実験の実際のデモの様子を視察され、赤松政務官との間で実験条件や材料に関する詳細な意見交換がなされました。

後半のディスカッションの場では、所教授より自身の研究の将来展望について、利用者に近い内側の資源循環ループの確立に向けたリソーシングの重要性が指摘され、そのためには選択性・局所性の高い分離技術の研究開発が必要不可欠である旨のお話がありました。赤松政務官からは、適宜鋭いご質問をいただき、また所教授の研究について深いご理解・ご関心をいただき、大変有意義な意見交換となりました。

所教授よりリチウムイオン電池の材料サンプルについて説明を受ける赤松政務官

電気パルス分離実験室の様子

意見交換の様子(赤松政務官)

意見交換の様子(所教授)

層厚を制御した人工強磁性細線の作製に成功

著者: contributor
2025年3月24日 16:03

層厚を制御した人工強磁性細線の作製に成功
―人工強磁性細線を利用した大容量メモリや磁気センサ開発へ道筋―

発表のポイント

  • 層厚を制御した多層構造をもつ人工強磁性細線を二浴電析法により作製に成功した。
  • 層厚は最小で約3.5 nmの人工強磁性細線を作製できた。
  • 人工強磁性細線を利用した大容量メモリや磁気センサ開発へ道筋を開いた。

概要

岐阜大学 大学院自然科学技術研究科の修士課程1年の川名梨央さん、修士課程修了生(令和5年度)大口奈都子さん、工学部 山田啓介准教授、吉田道之助教、杉浦隆教授、嶋睦宏教授、名古屋大学 大学院工学研究科 大島大輝助教、名古屋大学 未来材料・システム研究所 加藤剛志教授、早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構 齋藤美紀子招聘研究員、早稲田大学 先進理工学部 本間敬之教授、京都大学 化学研究所の小野輝男教授の研究グループは、層厚を制御した多層構造をもつ人工強磁性細線⁽¹⁾の作製を二浴電析(電気めっき)法⁽²⁾と細孔ナノテンプレートを用いて成功しました。層厚は数100 nmから最小で約3.5 nmの多層構造を有する人工強磁性細線が作製できました。さらに研究グループでは、1本の人工強磁性細線の磁気抵抗を測定し、人工強磁性細線の層厚が薄くなるほど、磁気抵抗比が増大することを確認しました。本研究の成果は、人工強磁性細線を利用する次世代磁気メモリや磁気センサの開発化へ道筋を開くものです。

本研究成果は、2025年3月20日(木)付でApplied Physics Expressに掲載されました。

研究の背景

次世代の情報記録デバイス実現を目指すスピントロニクス⁽³⁾では、次世代磁気メモリの候補として三次元磁壁移動型磁気メモリが提案され、研究開発が行われています(図1参照)。三次元磁壁移動型磁気メモリの構想では、細線1本で数ビットの記録容量をもつ人工強磁性細線が配置された構造となっており(図1(左図))、細線は記録層と磁壁層を交互に積層した多層構造になっています。中でも記録層はデータを保持する役割をもち、垂直方向の磁化の向きにより、データの0と1を区別します。一方、磁壁層は、記録層の磁化方向を緩やかに繋ぐ役割をもつ層として働く層で、磁壁層内の磁化は磁壁と呼ばれる磁化が緩やかに変化した領域となっています(図1(中図))。細線に電流を印加することで記録層のデータを動かし(図1(右図))、読み出し用の強磁性トンネル接合素子(Magnetic Tunneling Junction: MTJ)でデータを読み取ります。記録層と磁壁層として適している材料として、コバルト-プラチナ(Co-Pt)合金が計算による設計からわかっていましたが、メモリの開発に向け、メモリ素子となる人工強磁性細線の作製が一つの課題となっていました。

図1:三次元磁壁移動型磁気メモリの概略図 (左)三次元磁壁移動型磁気メモリの構造。(中央)人工強磁性細線の拡大図。(右)記録データ(0または1)の転送方法。細線に電流を印加することでデータを転送させます。

人工強磁性細線の作製として本研究グループでは、電析(電気めっき)法と細孔ナノテンプレートを用いた手法に注目しました。電析法を用いた多層構造細線では、以前にはパルス電析法⁽⁴⁾を用いた手法が多く報告されていました。しかしながら、細線の層厚を制御よく作製できた報告は少なく、多層構造細線の層厚の制御が課題となっていました。本研究グループでは、二浴電析法に注目し、層厚を制御した人工強磁性細線の作製を試みました。

研究成果

人工強磁性細線の作製は、材質がポリカーボネートの細孔ナノテンプレートを作用電極として加工し、コバルトとプラチナの濃度比が異なる電解質溶液を相互に電析する二浴電析法により作製しました(図2(a)参照)。電解質溶液は、組成比が異なる強磁性体であるコバルト-プラチナ(Co-Pt)合金を合成するために、濃度比が異なる2種類の電解質溶液を用いました。図2(b)に作製した人工強磁性細線の電子線回折による観察結果を示します。複数本の人工強磁性細線が像として写っており、Co₇₁Pt₂₉合金とCo₁₃Pt₈₇合金の層が綺麗に積層されていることがわかります。細線の直径は、約130 nm、Co₇₁Pt₂₉合金とCo₁₃Pt₈₇合金の1層の厚さの平均膜厚が11 nmでした。走査型電子顕微鏡による観察から細線の長さは最長で約19μ mmでした。試料作製の設計より、細線の積層数は最大で約1300層でした。

図2:実験手法と作製した人工強磁性細線 (a)実験で用いた二浴電析法の概念図。(b)作製した複数本の人工強磁性細線の電子線回折による観察結果。細線の直径は約130 nm、Co₇₁Pt₂₉合金とCo₁₃Pt₈₇合金の1層の厚さの平均膜厚が11 nmです。Co₇₁Pt₂₉合金とCo₁₃Pt₈₇合金の層が綺麗に積層されていることがわかります。

図3には、電子線回折による層厚の異なる人工強磁性細線の観察結果を示します。図3(a)~(d)は、Co₇₁Pt₂₉合金とCo₁₃Pt₈₇合金の1層の厚さ平均膜厚が、それぞれ、(a)約 80, (b) 35, (c) 17, (d) 3.5 nmの試料を示しています。図3の観察結果より、層厚を人工的に制御できていることがわかります。さらに図3(d)に示すように、層厚は最小で約3.5 nmの人工強磁性細線が作製できました。

図3:電子線回折による層厚の異なる人工強磁性細線の観察結果 (a)~(d)は、Co₇₁Pt₂₉合金とCo₁₃Pt₈₇合金の1層の厚さの平均膜厚が、それぞれ(a)約 80, (b) 35, (c) 17, (d) 3.5 nmの人工強磁性細線です。人工強磁性細線の層厚を人工的に制御できていることがわかります。

図4には、1本の人工強磁性細線の磁気抵抗を測定した結果を示します。1本の細線に電極を微細加工とリフトオフ法により付けた試料の光学顕微鏡像を図4(a)に示します。電極を付けた1本の細線に電流と磁場を印加し、異方性磁気抵抗(Anisotropic Magnetoresistance: AMR) ⁽⁵⁾を測定しました。その結果、図4(b)に示すように、人工強磁性細線の層厚が薄くなるほど、磁気抵抗比が増大することを確認しました。その他の磁気抵抗測定においても細線内で磁壁移動を示唆できる測定結果が得られたことから、人工強磁性細線が図1に示す磁気メモリとして動作できることを確認できました。これらの結果より、人工強磁性細線を利用する次世代磁気メモリや磁気センサの開発へ繋がる結果を示すことができました。

図4:1本の人工強磁性細線の磁気抵抗測定 (a) 1本の人工強磁性細線に電極を付けた試料の光学顕微鏡による観察結果。(b)外部磁場印加は9.3 kOe、室温条件下で測定した各試料における磁気抵抗比の結果。平均膜厚が11 nmの人工強磁性細線は、単層Co₈₀Pt₂₀細線と比べると2.2倍大きな磁気抵抗比が得られました。

本研究の意義・今後の展望

本研究では、層厚を制御した多層構造をもつ人工強磁性細線の作製を二浴電析法と細孔ナノテンプレートを用いて成功しました。層厚は、最小で約3.5 nmの人工強磁性細線が作製できました。加えて、1本の細線に電極を付け、人工強磁性細線の層厚が薄くなるほど、磁気抵抗比が増大することを確認しました。これらの結果は、人工強磁性細線を利用する次世代磁気メモリや磁気センサの開発化へ繋がる結果です。今回の成果は、二浴電析法で層厚を制御して数ナノメートルオーダーの強磁性体の積層が可能である技術を示しただけでなく、省エネルギー・高密度・超小型化の次世代情報記録デバイスであるマルチビットに対応可能な磁気メモリの開発へ前進となる結果を示すことができました。

用語説明

(1)人工強磁性細線:組成の異なる強磁性金属同士の層厚がnmオーダーで多層構造になった細線のこと。1980年代頃から研究が始まった「人工格子」(各層の厚さを原子層単位で制御して積層した人工的多層膜のこと)になぞらえて「人工強磁性細線」と名付けた。

(2)二浴電析法:2種類の電解質溶液を利用して電析する手法。異なる電解質溶液で電析を行い、異なる物質を積層させることができる技術。一方で、積層させる電極などを異なる電解質溶液間で物理的に移動させる必要がある。

(3)スピントロニクス:電子の持つスピンの自由度を利用することで、従来のエレクトロニクスに無い新機能・高性能素子の実現を目指す研究開発分野。

(4)パルス電析法:時間とともに電流(または電圧)を変化させる電析法で、パルス波形を用いた手法。析出物の表面形態、結晶粒径、構造を制御できる手法である。直流電流(または直流電圧)に比べて拡散層の厚さを薄くでき、高いパルス電流密度で電析することができる。

(5)異方性磁気抵抗(Anisotropic Magnetoresistance: AMR):強磁性体の磁化の向きと電流方向のなす角度に依存して、電気抵抗が変化する現象。電流方向と磁化方向が平行の時が、電流方向と磁化方向が垂直の時と比べて電気抵抗が大きくなる。磁化方向は外部磁場によって方向を制御する。磁場(磁化)方向と電流方向が垂直の場合と平行の場合の磁気抵抗をそれぞれ測定し、その差から磁気抵抗比[%]を求める。磁気抵抗比が大きいほど磁気センサとしての感度が高いことを示している。

論文情報

雑誌名:Applied Physics Express
論文タイトル: Artificial control of layer thickness in Co-Pt alloy multilayer nanowires fabricated by dual-bath electrodeposition in nanoporous polycarbonate membranes
著者: Rio Kawana, Natsuko Oguchi, Daiki Oshima, Michiyuki Yoshida, Takashi Sugiura, Mikiko Saito, Takayuki Homma, Takeshi Kato, Teruo Ono, Mutsuhiro Shima, and Keisuke Yamada
DOI番号:10.35848/1882-0786/adbcf6

研究助成

川名 梨央(かわな りお):論文筆頭著者
岐阜大学 大学院自然科学技術研究科 修士課程1年

大口 奈都子(おおぐち なつこ)
岐阜大学 大学院自然科学技術研究科 修士課程修了(令和 5 年度)

大島 大輝(おおしま だいき)
名古屋大学 大学院工学研究科 助教

吉田 道之(よしだ みちゆき)
岐阜大学 工学部 助教

杉浦 隆(すぎうら たかし)
岐阜大学 工学部 教授

齋藤 美紀子(さいとう みきこ)
早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構 招聘研究員

本間 敬之(ほんま たかゆき)
早稲田大学 先進理工学部 教授

加藤 剛志(かとう たけし)
名古屋大学 未来材料・システム研究所 教授

小野 輝男(おの てるお)
京都大学 化学研究所 教授

嶋 睦宏(しま むつひろ)
岐阜大学 工学部 教授

山田 啓介(やまだ けいすけ):論文責任著者
岐阜大学 工学部 准教授

研究サポート

本研究は、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)「3次元磁気メモリの開発」(代表:小野輝男, 課題番号:JPMJCR21C1)の支援を受け実施された。本研究の一部は、日本学術振興会 科学研究費 基盤研究C(課題番号:24K08198)の支援を受け、また名古屋大学未来材料・システム研究所における共同利用・共同研究(課題番号:JPMXP1224NU0211)として実施された。

令和7年度環境研究総合推進費に早大から3件採択

著者: contributor
2025年3月24日 16:00

独立行政法人環境再生保全機構(ERCA)が公募する環境研究総合推進費の令和7年度新規課題に、本学から3件が採択されました。申請総数は477件で、このうち103件が採択された中の3件となります。

採択課題

気候変動領域

  • 革新型研究開発(若手枠A・B)
    磯谷 浩孝(理工学術院 環境総合研究センター 次席研究員)
    「アミン系固体吸収材を用いた二酸化炭素直接空気回収技術の開発加速のためのプロセスモデルの基盤構築」

資源循環領域

  • 環境問題対応型研究(一般課題、技術実証型)
    所 千晴(理工学術院 教授)
    「フィルム型ペロブスカイト太陽電池の前処理を主軸としたリサイクルプロセス提案および易解体設計へのフィードバック」
  • 次世代事業
    小野田 弘士(理工学術院 教授)
    「現場ニーズに立脚した分別・収集運搬・選別プロセスにおけるAI・ロボティクスソリューションの実用化開発」
環境研究総合推進費

環境研究総合推進費は、環境政策への貢献・反映を目的とした競争的研究資金制度です。「環境研究・環境技術開発の推進戦略」(令和元年5月環境大臣決定)に基づき、重点課題やその解決に資するテーマを提示した上で、広く産学民官の研究機関の研究者から提案を募り、応募された課題のうち、外部有識者等による事前評価を経て採択された課題について、研究開発を実施します。(ERCAプレスリリースより)

Potential-Dependent Structural Dynamics and Spin Transition of Electrocatalysts(2025/4/7)

著者: staff
2025年3月24日 12:10

演題:Potential-Dependent Structural Dynamics and Spin Transition of Electrocatalysts

日時: 2025年4月7日(月) 15:00-16:00

会場:早稲田大学 55号館S-607室

講師:Ching-Wei Tung (童敬維)

対象:学部生、大学院生、教職員、学外者、一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 応用化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

リンク先URL https://noda.w.waseda.jp/index-j.html

リンク先URL    https://nhanada.w.waseda.jp/

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