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命をつなぐ配偶子エピゲノム:形成機構および世代継承性について (2025/7/29)

著者: staff
2025年7月2日 10:14

演題:命をつなぐ配偶子エピゲノム:形成機構および世代継承性について

日時:2025年7月29日(火) 16:30~18:10

会場:早稲田大学 西早稲田キャンパス 55号館S棟6階610号室

講師:前澤 創

対象:学部生、大学院生、教職員、学外者、一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 化学・生命化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

多孔性結晶中のNaイオンの高速拡散機構を新たに提唱

著者: contributor
2025年7月2日 09:21

多孔性結晶中のNaイオンの高速拡散機構を新たに提唱
-次世代ナトリウムイオン電池の新規正極の開発を加速-

ポイント

  • Naイオン電池の有望な電極材料である多孔性結晶プルシアンブルー(PB)中のLi+・Na+・K+の拡散機構を、スーパーコンピュータを利用した高精度計算により解明。
  • Na+が室温以下で十分高速に拡散すること、PB結晶の動的な歪みの小ささがその拡散機構に寄与することを示唆。
  • Naイオン電池の開発や、室温以下で安定動作する電池の設計指針構築に貢献。

概要

東京科学大学(Science Tokyo) 総合研究院 化学生命科学研究所の館山佳尚教授、早稲田大学 先進理工学研究科の伊藤暖大学院生(博士後期課程3年)らは、スーパーコンピュータ「富岳」(用語1)を用いた高精度計算により、Naイオン(Na+)電池(用語2)の有望な電極材料であるプルシアンブルー(PB、用語3)結晶におけるNa+の拡散機構とPB結晶の動的な無歪み性が室温以下の高速拡散に重要であることを提唱しました。これは「大きい孔が拡散に有利」という典型的な考え方を書き換え、また開発競争が加速するNaイオン電池の正極材料(用語4)設計指針を飛躍的に前進させる成果です。
近年、資源制約フリー(用語5)なNaイオン電池の研究が著しく加速しており、電池性能を決定づける正極材料の性能向上は重要な課題となっています。その解決法の一つとしてPB正極の利用が注目を集めていますが、PB正極の充放電速度向上の鍵となるNa+拡散の観測・制御は難しく、PB正極の材料設計の課題となっていました。
本研究では、スーパーコンピュータ「富岳」等を利活用することで、温度効果も含めた高精度な原子レベルの計算、第一原理分子動力学計算(FPMD、用語6)を世界に先駆けて実行しました。その結果、Li+、Na+、K+の拡散特性の比較を通して、Na+が室温以下でも高い拡散係数を維持すること、その要因としてPB結晶の動的な無ひずみ性が重要であることを示しました。得られた知見は、一般の多孔性結晶内のイオン拡散の基礎学理に新たな視点を与えるものであると同時に、室温以下で優位に駆動するNaイオン電池の材料開発にも大きく貢献するものと言えます。

本研究の成果は、米国化学会が出版する学術雑誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン版に6月30日付(米国東部時間)で掲載されました。

背景

持続可能な社会の実現に向けて、再充電可能な電池は極めて重要な役割を果たしています。リチウム(Li)イオン電池はその中心的な技術として発展してきたものの、地球上のLi資源分布の偏りが課題とされています。一方、資源が均等に分布しているナトリウム(Na)はLiと化学的性質が似ているため、近年では、Liの代替金属としてNaを用いたNaイオン(Na+)電池の開発競争が激化しています。特に、Naイオン電池の性能を左右する正極(図1a)の候補材料の決定が主な競争課題であり、層状酸化物を用いた研究が主流となっています。一方、層状酸化物タイプの材料は界面の劣化・酸素発生等による電池性能の著しい低下を引き起こす課題があります。それを回避する解決法の一つとして、プルシアンブルー(PB)正極の利用が注目を集めています。
立方体構造を有する金属有機構造体(MOF、用語7)の一種であるPB(図1b)は良好な正極性能(高速充放電特性、長寿命)を示すとともに、製造・材料コストが低いことがとりわけ魅力となっています。一方、PB電極性能の向上に向けて世界中で研究開発が進められているものの、明確な材料設計指針は確立されていません。これは、実験研究の詳細な合成・観測条件によって、正極性能の評価にばらつきがあり、直接比較を困難にさせているためです。故に、正極性能評価の汎用的な指針となる、欠陥や不純物のない理想的な結晶中のNa+拡散機構は未解明な点が多いのが現状です。
本研究では、PB結晶中のNa+拡散機構を解明するべく、スーパーコンピュータ「富岳」等を用い、原子レベルの第一原理分子動力学計算(FPMD)を実施することで、Na+拡散メカニズムの全貌を明らかにしました。さらに、Na+と化学的性質が似ておりイオンサイズが異なるLi+、カリウムイオン(K+)(図1c)を用いた計算も実施することで、PB結晶中のNa+拡散機構の比較検討を行いました。本研究では、立方体構造が3方向に二つずつ並ぶ結晶構造(合計八つのケージ)を想定し(図1b)、その内部で各イオン(A+ = Li+、Na+、K+)が四つ含まれる場合のA+拡散機構を解明しました。室温以上(高温から室温)と低温極限(絶対零度)における拡散機構の解明には、それぞれFPMD計算と第一原理遷移状態計算(用語8)を用いました。二つの手法を駆使し、広い温度範囲(高温から低温極限)で、A+イオンサイズの違いに着目したNa+拡散機構の比較検討を行いました。

図1. (a)イオン二次電池の模式図。負極から正極へと、リチウムイオンなどのプラスの電荷を帯びたイオン(濃いピンク色の丸)が移動することで、電流が流れる。 (b)正極材料の一種であるプルシアンブルー(PB)結晶。(c)PB結晶の孔の中で拡散するA+(= Li+、Na+、K+)イオンとそのサイズの比。

研究成果

高精度FPMD計算を行い、Na+は室温付近でも高い自己拡散係数(用語9)を維持し、拡散に必要な活性化障壁(用語10)も低いことが分かりました(図2a)。一方、Li+は高温でよく拡散するものの、高い活性化障壁を乗り越える必要があり(図2a)、K+は高温と室温においても拡散しませんでした。この結果は、室温付近においてPB正極が優れたNa+伝導体であることを示しています。

図2. (a)第一原理分子動力学計算を用いて算出したLi+、Na+の27〜427℃の温度範囲における自己拡散係数(D*)とアレニウス式(用語11)に基づくプロットから得られた活性化障壁(EaMD)。(b)第一原理遷移状態計算を用いて算出した低温極限(絶対零度)におけるA+イオン(Li+、Na+、K+)の活性化障壁の表。

PB結晶の低温領域における優れたNa+拡散機構を解明すべく、第一原理遷移状態計算を行いました。結果、PB結晶中でNa+は面心からずれた偏位面心(off-FC)位置を最安定位置にとり(図3a)、この間の活性化障壁は低い(129 meV、図2b)ため、容易にNa+が拡散することが示されました。さらに、Na+が拡散する際、結晶構造が動的にひずまずに保たれることが、低い活性化障壁と室温以下でも高い自己拡散係数を実現する鍵であることが明らかになりました。
Li+とK+は、低温極限(絶対零度)でも、Na+より高い活性化障壁を有することが分かりました。イオンサイズが小さいLi+は面心位置(図3b)を最安定位置としており、この位置の間の活性化障壁は比較的高い値を示しています(332 meV(図2b))。これは、大きなPB結晶のケージの面がLi+側に引き寄せられるように大きくひずむ(図3d)ことで、高い活性化障壁と室温以下の低い自己拡散係数が実現することを示しています。一方、イオンサイズが大きいK+(図1c)は、非常に大きな活性化障壁(978 meV(図2b))を必要とすることが分かりました。なお、欠陥を有するPB結晶では、高温でのみK+が有限の自己拡散係数を示すことが分かり、K+は欠陥を含むPB結晶中でのみ拡散することを示しています。

図3. 2 × 2 × 2のPBケージ構造において、(a)四つのNa+イオンが偏位面心位置と(b)四つのLi+イオンが面心位置のみを占有する場合の安定配置。(c-d)Na+、Li+の拡散に伴う動的なPB結晶のひずみ。 Na+、Li+が面心位置にいる際の結晶構造ひずみ(矢印はひずみ方向)を示している。

Li+、K+と比較することで、PB結晶は室温以下でより高速充電が可能なNaイオン電池の正極材料であることが示唆されました。この優位性の要因として、結晶構造が動的にひずまずに保たれることが高Na+拡散機構の実現において重要であることが考えられます。一般的に、電池の劣化は正極材料のひずみや膨張によって引き起こされます。したがって、本研究結果は、Naイオン電池の正極材料として、PB結晶が低温〜室温で高速充電が可能であるだけでなく、長寿命化が期待できることを示唆していると言えるでしょう。

社会的インパクト

中国の電気自動車用電池メーカーなどが2025年4月、低温(約–40℃)で高速充電可能なNaイオン電池 “Naxtra”を発表し、Naイオン電池の実用化に向けた世界的な動きが加速しています。正極材料としてのPBは、長寿命・高エネルギー密度かつ低コスト化を実現しており、欧米のスタートアップ企業を中心に研究開発競争が激化しています。一方、合成条件や組成の違いにより、PBの正極材料としての機能にはばらつきがあり、その材料開発指針は未だ確立していません。
本研究では、原子レベルの計算で最も高精度な手法であるFPMD計算を採用し、A+拡散機構について系統的な理論化学研究を世界で初めて行いました。Li+、K+との比較を通じて、PBが室温以下で駆動するNaイオン電池正極材料として有望であることを明らかにしました。本成果はNaイオン電池開発に対して大きく貢献すると同時に、PBと類似した多孔性を持つMOF材料のA+拡散機構に関する基礎化学を大きく前進させ、電池や触媒をはじめ孔内のイオン伝導を活用した、放射性イオン吸着剤や化学センサー等への材料開発への波及効果も期待されます。

今後の展開

本研究により、欠陥や不純物のない理想的なPB結晶構造がNaイオン電池の正極材料として高い可能性を持つことを理論的に示しました。しかし現実には、欠陥のないPB正極の合成は難しく、実用材料では意図していない結晶構造の欠陥や水和水(結晶内に含まれる金属イオンと相互作用している水分子)などの不純物が電池性能を抑制する要因となっています。また、PB結晶は高温で有毒ガスを発生する可能性があるため、これらの抑制するための仕組みを、材料科学の観点から取り組むことが重要です。今後は、欠陥や水和水も含んだ実際の材料条件に近づけた研究に展開することで、蓄電技術の実用研究との接続を図ります。

付記

本研究は、科学技術振興機構(JST)GteX(革新的GX技術創出事業)「資源制約フリーなナトリウムイオン電池の開発」(JPMJGX23S4)、先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)「分散型国際ネットワークが実現する基盤蓄電技術革新とネットゼロ社会」(JPMJAP2313)、および戦略的創造研究推進事業CREST「分子結晶全固体電池の創製」(JPMJCR22O4)、日本学術振興会 科学研究費助成事業(JP24KJ2098、JP24H02203)、文部科学省 スーパーコンピュータ「富岳」成果創出加速プログラム「物理-化学連携による持続的成長に向けた高機能・長寿命材料の探索・制御」(JPMXP1020230325)の支援を受けて行われました。本研究のシミュレーションは、東京工業大学(現 東京科学大学)のスーパーコンピュータ TSUBAME 4.0、物質・材料研究機構の材料数値シミュレータ、および理研のスーパーコンピュータ「富岳」を用いて実行しました。また文部科学省HPCIプログラム利用課題(課題番号:hp230153、hp230205、hp240224)の協力を受けました。

用語説明

(1) スーパーコンピュータ「富岳」:理化学研究所と富士通が共同開発した日本のスーパーコンピュータで、世界トップレベルの計算性能を誇る。材料開発や創薬、気候予測など、幅広い先端研究に活用されている。
(2) Naイオン(Na+)電池:リチウムの代わりにナトリウムイオンを使う電池で、リチウムよりも資源が豊富で安価なため、次世代の蓄電技術として期待されている。
(3) プルシアンブルー(PB):200年以上前から顔料などに使用されている鉄を含む青色の錯体化合物で、安価かつ合成が容易であり、近年はNaイオン電池の正極材料などの新たな用途が注目されている。高いエネルギー密度と優れた安定性を併せ持つことが特徴。
(4) 正極材料:電池の放電・充電時にイオンの出入りが起こる「正極側」の主要な構成物質であり、電池の性能(エネルギー密度、寿命、安全性など)を大きく左右する中核材料。
(5) 資源制約フリー:限られた希少資源に依存せず、地球上に広く存在する元素を活用することで、持続可能性と安定供給を実現するという考え方。
(6) 第一原理分子動力学計算(FPMD):経験パラメータを利用しない量子力学方程式に基づいて計算された力を用いて原子の時間発展を追跡する動力学シミュレーションで温度や動的挙動を考慮できる。実験に依らない高精度計算手法として近年広く利用されている。
(7) 金属有機構造体(MOF):金属イオンと有機配位子が結合して形成される多孔性材料。高い表面積と構造多様性を持ち、ガス吸着や触媒などに応用される。
(8) 第一原理遷移状態計算:経験パラメータを利用しない量子力学方程式に基づいて計算された力で、始状態と終状態の間で最もエネルギーを使わずに変化できる構造変化(反応経路)を求める計算手法。
(9) 自己拡散係数:粒子が外部の力を受けずに自身の熱運動によって移動する速さを示す係数。分子動力学計算などで評価され、リチウムイオン伝導性などの指標になる。
(10) 活性化障壁:化学反応や物質中のイオン移動が起こるために必要な最小限のエネルギー。値が低いほど反応や拡散が起こりやすく、電池性能にも大きく影響する。
(11) アレニウス式:拡散係数(D)の温度依存性(T)を表す近似式(D =D0exp(-Ea/RT))。Eaは活性化障壁、Rは気体定数。

論文情報

雑誌名:Journal of the American Chemical Society
論文名:Dissimilar Diffusion Mechanisms of Li+, Na+, and K+ Ions in Anhydrous Fe-Based Prussian Blue Cathode
執筆者名:Dan Ito, Seong-Hoon Jang, Hideo Ando, Toshiyuki Momma, Yoshitaka Tateyama
掲載予定日時(日本時間):2025年6月4日
DOI:10.1021/jacs.5c05274

研究者プロフィール

館山 佳尚(タテヤマ ヨシタカ) Yoshitaka TATEYAMA
東京科学大学 総合研究院 化学生命科学研究所 教授
研究分野:計算材料科学、物性理論、電気化学

伊藤 暖(イトウ ダン) Dan ITO
早稲田大学 先進理工学研究科 ナノ理工学専攻 博士後期課程3年
東京科学大学 物質理工学院 応用化学コース 特別研究学生
研究分野:計算材料科学、理論化学、固体イオニクス

ナノ多孔体の結晶性を制御する新たな合成方法を開発

著者: contributor
2025年7月2日 09:20

ナノ多孔体の結晶性を制御する新たな合成方法を開発
カーボンニュートラルの実現に資する触媒材料、エネルギー変換材料開発へ期待

ポイント

  • ナノスケールの細孔をもつ金属酸化物材料は、触媒や吸着・分離材、エネルギー材料など幅広い分野で応用・研究されており、なかでも、単一の大きな結晶に無数のナノ細孔が空いている”単結晶性ナノ多孔体”は単結晶とナノ多孔体の性質を兼ね備えるユニークな材料として注目されています。
  • 本研究では、合成の難しかった金属酸化物の”単結晶性ナノ多孔体”合成のブレークスルーとなりうる技術を開発しました。細孔を形成する鋳型としてナノ多孔体を用いて、金属塩化物を染みこませて蒸気としてナノ細孔中を拡散、気相輸送させて酸化することで鋳型内での結晶成長を実現しました。
  • 作製した酸化鉄ナノ多孔体は、一般的な微結晶からなるナノ多孔体に比べて触媒活性や熱安定性が向上していることを確認しました。

概要

早稲田大学理工学術院の松野 敬成(まつの たかみち)講師らは、酸化鉄ナノ多孔体※1 の結晶子サイズ※2を制御する新しい合成方法を開発しました。鋳型となる多孔体の内部で前駆体の塩化鉄を気相拡散※3させ、鋳型中で酸素と反応させることで結晶が成長し、”単結晶性ナノ多孔体※4”が得られることを見出しました。酸化鉄の一種であるα-Fe2O3について細孔構造・結晶子サイズを制御し、従来の微結晶からなるナノ多孔体よりもて触媒活性や熱安定性が高いことを確認しました。

本研究成果は、アメリカ化学会発行の学術誌「Chemistry of Materials」に2025年6月30日8:00 (EST)にオンライン公開されました。
論文名: Quasi-Single-Crystalline Inverse Opal α-Fe2O3 Prepared via Diffusion and Oxidation of FeCl3 Precursor in Nanospaces

キーワード
金属酸化物、ナノ多孔体、単結晶性ナノ多孔体、ナノ空間、鋳型、金属塩化物、気相輸送、酸化鉄

図 開発手法による単結晶性ナノ多孔体生成の様子

これまでの研究で分かっていたこと

金属酸化物ナノ多孔体は金属酸化物由来の機能と、ナノ細孔に由来する高比表面積・大細孔容積などの特徴を併せもっており、触媒や分離・吸着材、電極、エネルギー材料など多岐にわたって応用・研究されています。組成や細孔構造などの各種パラメーターの制御は物性・特性に相関するため、その制御は重要です。これまでに界面活性剤ミセル※5やシリカ、炭素などを鋳型として細孔構造を転写することで種々の金属酸化物ナノ多孔体が合成されてきました。その細孔壁は通常、数ナノメートル(nm)~十数nm程度の微結晶で構成されますが、数百nm~数マイクロメートル(μm、100万分の1メートル)の結晶にナノ細孔が空いた”単結晶性ナノ多孔体”では粒界の少ない単結晶の特徴を併せもち、太陽電池や触媒材料として優れた性能を示すことが知られています。しかし、このような”単結晶性ナノ多孔体”の合成は一般的に困難で、水熱反応※6や低融点の金属塩の熱分解などの方法によって限られた組成のみが報告されている状況でした。

新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、そのための手法

従来材料における制約は合成方法に起因するため、本研究では課題解決に向けて金属酸化物の組成・細孔構造・結晶子サイズの同時制御を実現する新しい方法を開発しました。今回は酸化鉄の一種であるα-Fe2O3に注目し、その細孔構造と結晶子サイズの同時制御を達成しました。地殻中に豊富に存在する鉄の酸化物は酸化還元触媒や電極材料などに広く用いられています。

α-Fe2O3ナノ多孔体の精密制御を実現するためには鋳型法※7が有効でした(図1)。球状シリカナノ粒子が集積した多孔体に前駆体水溶液を含浸・乾燥し、空気中で加熱することで酸化物を形成しました。その後、シリカを塩基性水溶液で溶解することで細孔構造の制御されたα-Fe2O3ナノ多孔体を得ました。

図1 α-Fe2O3ナノ多孔体の合成

前駆体に塩化鉄を用いたナノ多孔体は数百nm~数μm程度のサイズで、結晶方位が粒子全体で揃っていることが分かりました(図2)。一方で、これまで結晶子サイズの大きいナノ多孔体の合成に用いられてきた、融点の低い硝酸塩を用いた場合は数十nm程度の微結晶で細孔壁が構成されていました(図2)。硝酸塩は熱分解によって核形成・結晶成長が起きますが、塩化物は直接的な熱分解を起こさず酸素との反応により酸化物を形成するため、結晶性に大きな違いがみられたと考えられます。また、鋳型中で気相から塩化物が連続的に供給されることで結晶が成長したと考えられます。

図2 α-Fe2O3ナノ多孔体の透過型電子顕微鏡像とその制限視野電子回折(SAED)パターン※8
高速フーリエ変換(FFT)パターン※9。(左)塩化物前駆体から合成、(右)硝酸塩前駆体から合成。

単結晶性のナノ多孔体は微結晶からなる多孔体に比べて高い耐熱性を示しました。また光フェントン反応※10によるメチレンブルーの分解をモデル反応として触媒活性を比較したところ、比表面積が小さいにもかかわらず、単結晶性ナノ多孔体の方が2倍程度速く色素を分解することが分かりました。

これらの結果は単結晶性の細孔壁をもつナノ多孔体の有用性を示しています。

研究の波及効果や社会的影響

従来の方法では合成可能な”単結晶性ナノ多孔体”の組成に制限がありました。本研究では、前駆体となる塩化物を外部から供給するのではなく、元々鋳型の中に含浸しておき空気中で加熱・酸化するだけで鋳型内部での原料の拡散と連続供給による結晶成長が可能であることを見出しました。このような新しいナノ多孔体の精密合成は優れた特性をもつ金属酸化物ナノ多孔体の発掘に貢献し、ナノ多孔体が用いられる幅広い分野への波及効果が期待できます。

課題、今後の展望

今回の検討では鋳型中での塩化物の酸化によりα-Fe2O3の結晶子サイズの制御に成功し、一般的な微結晶からなるナノ多孔体との違いを明らかにしましたが、本手法が他の組成にどこまで適用できるかはまだ分かっていません。FeCl3以外の金属塩化物でも同様の反応過程を経て単結晶性の金属酸化物ナノ多孔体の合成が期待できるため、今後本手法で合成可能な組成を明らかにしていきます。同時に、鋳型内部における結晶成長メカニズムを明らかにし、無機合成化学の学理を深耕することも重要です。以上に加えて、応用評価を進め、カーボンニュートラルの実現に資する触媒材料、エネルギー変換材料への展開を目指します。

研究者からのコメント

ナノ多孔体を構成する組成・細孔構造・結晶性などのファクターと機能には密接な相関があり、設計の自由度が向上することで新しい応用展開や適用できる範囲の拡大が期待できます。所望のナノ多孔体を得るための合成化学は機能性材料を設計するうえで重要な基盤技術の1つであり、本手法によって新しい材料群の創出が期待されます。

用語解説

※1 ナノ多孔体
ナノメートル(10億分の1メートル)スケールの細孔をもつ物質。通常の緻密な物質とは異なり、高比表面積・大細孔容積を有するため、その特徴を活かして触媒や吸着・分離材、エネルギー材料など幅広い用途で利用される。

※2 結晶子サイズ
結晶性材料を構成するうちの、単一とみなせる結晶の大きさ。一般的なナノ多孔体の細孔壁はナノサイズの結晶の集合体であり、大きな結晶で構成されるナノ多孔体の合成は重要な課題の1つ。

※3 気相拡散
金属塩化物は比較的高い蒸気圧をもち、単独では熱分解による酸化物の形成が起こらないため、加熱することで気体として安定な状態で拡散する。本研究では鋳型に染みこませた金属塩化物が鋳型中を気体として拡散することで連続的に前駆体が供給され、金属酸化物の結晶が成長した。

※4 単結晶性ナノ多孔体
結晶性ナノ多孔体の中でも、単一の結晶中に多数のナノ細孔をもつナノ多孔体。通常の結晶性ナノ多孔体の細孔壁は微結晶から構成されるが、細孔壁が大きな結晶からなる場合は粒界が少ないため特徴的な物性を発現する。

※5 界面活性剤ミセル
両親媒性である界面活性剤分子が自発的に集合(自己組織化)することで形成されるナノ構造体。典型的には水中でミセル形成の臨界濃度以上になったとき、親水基を外側、疎水基を内側に向けて自己組織化し、球状・ロッド状・ラメラ・3次元構造など多様な集合構造をとる。

※6 水熱反応
水と前駆体を反応容器に密閉して加熱することで高温・高圧条件下で物質を合成する方法。

※7 鋳型法
有機分子や無機粒子などの鋳型と金属酸化物との複合体を作製し、鋳型のみを除去することで鋳型の形状を反映した金属酸化物ナノ多孔体を得る方法。無機粒子としてはシリカや炭素のナノ粒子、ナノ多孔体などが用いられる。

※8 制限視野電子回折(SAED)パターン
電子線の回折により原子スケールの周期性(結晶性)を確認することができる。今回のケースではスポットが観測されており、一つの多孔体粒子の中で結晶方位が揃っており単結晶的であると分かる。

※9 高速フーリエ変換(FFT)パターン
撮影画像をFFT変換した画像。今回のケースではナノスケールの周期性を反映しており、スポットが観測されたことから球状細孔の規則的な配列が確認された。

※10 光フェントン反応
過酸化水素と鉄イオンを含む水溶液にUV光を照射することでヒドロキシラジカルを発生させ、有機物を分解する反応。本研究では鉄イオンの代わりに酸化鉄ナノ多孔体を溶液中に分散させて、メチレンブルーの分解反応を行った。

論文情報

雑誌名:Chemistry of Materials
論文名:Quasi-Single-Crystalline Inverse Opal α-Fe2O3 Prepared via Diffusion and Oxidation of FeCl3 Precursor in Nanospaces
執筆者名(所属機関名):Daichi Oka, Kohei Takaoka, Atsushi Shimojima, Takamichi Matsuno* (Waseda University)
掲載日時(現地時間):2025年6月30日(月)8:00 (EST)
掲載日時(日本時間):2025年6月30日(月)21:00 (JST)
掲載URL:https://doi.org/10.1021/acs.chemmater.5c00155
DOI:10.1021/acs.chemmater.5c00155

研究助成

研究費名:JST創発的研究支援事業
研究課題名:微小な圧力を駆動力としたナノ多孔質圧電触媒の開拓(JPMJFR2224)
研究代表者名(所属機関名):松野敬成(早稲田大学)

Solid-state transport in conjugated and nonconjugated polymers: similarities, differences, and unknowns(2025/7/11)←諸事情により中止となりました。

著者: staff
2025年6月30日 11:34

演題:Solid-state transport in conjugated and nonconjugated polymers:

similarities, differences, and unknowns

日時:2025年7月11日(金) 10:00~11:40諸事情により中止となりました。

会場:早稲田大学 西早稲田キャンパス 55S-510室

講師:Bryan Boudouris

対象:学部生、大学院生、教職員、学外者、一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 応用化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

Polymer cathodes for aqueous zinc batteries(2025/7/10)

著者: staff
2025年6月27日 11:40

演題:Polymer cathodes for aqueous zinc batteries

日時:2025年7月10日(木) 18:30~20:10

会場:早稲田大学 西早稲田キャンパス 55N-1F 第一会議室

講師:Zhongfan Jia

対象:学部生、大学院生、教職員、学外者、一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 応用化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

Fatigue of composite materials: characterization and modelling(2025/7/9)

著者: staff
2025年6月25日 11:57

演題:Fatigue of composite materials: characterization and modelling

日時:2025年7月9日(水) 16:00~17:00

会場:早稲田大学 西早稲田キャンパス 55N号館 1階 第一会議室

講師:Lucio Maragoni

対象:学部生、大学院生、教職員、学外者、一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:基幹理工学部 機械科学・航空宇宙学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

すべては無に始まり有に還る(2025/7/22)

著者: staff
2025年6月24日 17:13

演題:すべては無に始まり有に還る

日時:2025年7月22日(火) 15:00~18:20

会場:早稲田大学 西早稲田キャンパス 56号館104教室

講師:竹原 義二 (建築家)

対象:学部生、大学院生、教職員、学外者、一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:創造理工学部 建築学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

小型フローリアクターが拓く、次世代の連続生産プロセス ~流れの可視化が実現する高効率化へのアプローチ~(2025/7/4)

著者: staff
2025年6月17日 16:39

演題:小型フローリアクターが拓く、次世代の連続生産プロセス

~流れの可視化が実現する高効率化へのアプローチ~

日時:2025年7月4日(金) 15:05~16:45

会場:早稲田大学 西早稲田キャンパス 52号館304室

講師:藤岡 沙都子

対象:学部生、大学院生、教職員、学外者、一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 応用化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

Robustness of Quantum Symmetries against Perturbations (2025/7/1)

著者: staff
2025年6月17日 16:27

演題:Robustness of Quantum Symmetries against Perturbations

日時:2025年7月1日(火) 16:30~18:10

会場:早稲田大学 西早稲田キャンパス 55号館N棟2階応物物理会議室

講師:Vito Giuseppe VIESTI

対象:学部生、大学院生、教職員、学外者、一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 物理学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

2025年6月6日 次世代交通システム研究所長 森本教授が日本都市計画学会2024年度学会賞(石川賞)を受賞しました

著者: contributor
2025年6月16日 16:58

日本都市計画学会は2025年6月6日に2024年度学会賞を公表しました。学会賞のうち、都市計画に関する独創的または啓発的な業績により、都市計画の進歩、発展に顕著な貢献をした個人または団体を表彰対象とした石川賞に、次世代交通システム研究所長の森本教授他が選定されました。受賞名等は以下のとおりです。

2024年度日本都市計画学会 石川賞
作品名 宇都宮LRT導入における構想期からの官学民連携
受賞者 栃木県 福田 富一県知事
宇都宮市 佐藤 栄一市長
宇都宮大学 古池 弘隆名誉教授
早稲田大学 森本 章倫教授
市民団体「雷都レールとちぎ」 奥備 一彦代表
受賞理由
本業績は、日本初の全線新設LRT である宇都宮LRT の2023 年8 月の開業と、そこに至るまでの30 年にわたる官学民連携のプロジェクトである。宇都宮 LRT が開業してからは、予想を上回る利用者数、自動車利用の削減、沿線人口の増加等によるコンパクトシティへの貢献等により全国紙等でも取り上げられる交通まちづくりの顕著な成功事例と言える。
特に評価される点は、第一に、全線新設LRT を実現させたことそのものである。TOD 先進国と言われながらもモータリゼーションの進む日本、特にそれが顕著な北関東において、新たな公共交通オプションを実体として示した。自動車に依存した地方都市においても、公共交通とまちづくりの連携した取り組みにより、都心のにぎわいを取り戻し、市民の生活が変えうることは、欧州の事例では知られていたが、それを日本でも実証した本業績の価値は顕著である。第二に、30 年にわたるプロセス
を官学民連携で成し遂げた点である。その経緯からは幾度かの困難に遭ったことが窺われるが、常に官学民がそれぞれの役割を担いつつ連携して、30 年かけて宇都宮 LRT の実現に至っている。その実現に特に貢献したキーパーソンとされる候補者 5 名のうち、首長 2 名は一貫して LRT 導入を支え、学識2 名は長期的に専門家として支援し、市民団体代表は地元の導入に向けてのムーブメントの醸成に寄与してきた。
気候変動が喫緊の課題になっている世界の状況や、人口減少・少子高齢化が進む我が国の状況において、また、人中心の都市空間を実現するためにも、公共交通の充実とそのための新たな方策は不可欠である。本業績は、他都市に先んじてその取り組みを進め、実現し、さらなる展開を目指している啓発的な業績と言える。したがって、本業績は日本の都市計画の発展に顕著な貢献をしていると考えられ、日本都市計画学会石川賞に相応しいと判断した。

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キラル物質が示す光による電流生成機能を予言

著者: contributor
2025年6月9日 16:42

キラル物質が示す光による電流生成機能を予言
新しい光エレクトロニクス機能の開拓へ道

ポイント

  • 振動する電磁場であるレーザー光で物質中の電子を強く揺すると、その物質の新たな性質や機能を引き出せることが近年のレーザー技術の発展により少しずつ分かってきました。
  • 本研究では、キラルな結晶構造を持つコバルトとケイ素の化合物にレーザー 光を照射すると、その化合物中に指向性のある電流が生成される現象を理論計算により発見しました。またこの時に、照射した光の整数倍の周波数を持つ光が発生することも発見しました。
  • キラルな物質が示すこれらの興味深い現象を活用することで、光 による電流生成や電流のオン・オフ、電流方向のスイッチング、光信号から電気信号への変換、光信号の周波数変換など 、様々な新しい光エレクトロニクス機能の実現が期待できます。

概要

光照射により物質の性質や機能を自在に操ることは、物質科学におけるチャレンジングな課題ですが、レーザー技術の発展により、近年その研究は加速度的に進展しています。 今回、早稲田大学高等研究所大湊友也(おおみなとゆうや)講師と、同大学理工学術院望月維人(もちづきまさひと)教授は、キラルな結晶構造を持つ物質に光を照射すると、指向性のある電流が発生すると同時に、照射した光の整数倍の周波数を持つ光 が発生することを理論的に発見しました。この現象は、光による電流の生成やオン・オフ、電流方向のスイッチング、光信号から電気信号への変換、光信号の周波数変換など 、さまざまなエレクトロニクス技術への応用が期待できます。今回の発見は、キラルな物質が光エレクトロニクスデバイスの素材として高いポテンシャルを秘めていることを初めて明らかにした革新的な成果です。
本研究成果は、アメリカ物理学会発行のPhysical Review Research誌に2025年6月2日にオンラインで掲載されました。

図1 :左手と右手のように、鏡に写した像が元の像と重ならない構造を「キラルな構造」と呼ぶ。コバルトケイ素(CoSi)はキラルな結晶構造を持ち、[111]方向から結晶構造を観察すると、原子が螺旋状に配置されている。CoとSiで螺旋の巻き方が逆の構造になっている。キラルな結晶構造を持つ物質に光を照射して電子を励起すると、指向性のある電流が生成されるのと同時に、照射した光の整数倍の周波数を持つ光が発生する。光の強さと周波数を調整すると、電流のオン・オフや向きの切り替え、光信号から電気信号への変換、光信号の周波数変換など、さまざまな光エレクトロニクス機能を実現できる可能性がある。

キーワード:
レーザー光、円偏光、キラル結晶、コバルトケイ素(CoSi)、光電流生成、高次高調波発生、光エレクトロニクス機能

これまでの研究で分かっていたこと

光照射により物質中の電子を励起することで新しい物性現象や物質機能を引き出そうとする研究が、世界中の研究者を巻き込んで精力的に行われています。特に、近年のレーザー技術の発展は、そのような研究を大きく進展させました。
光を物性制御の手段として用いることの利点は、(1)高速の応答性、(2)摩耗フリーな非接触性、(3)共鳴励起 ※1を活用することによる省電力性、などが挙げられます。そのため、光による物性制御は、現象そのものに対する基礎科学的な興味に加え、技術応用上の観点からも多くの研究者の興味を集めています。
物質が示す最も有名な光誘起現象の一つに「光起電力効果」があります。これは、物質に光を照射することで電圧が生じ、電流が流れる現象です。例えば、シリコン半導体を使った太陽電池では、プラスの電気を帯びやすいp型半導体とマイナスの電気を帯びやすいn型半導体を張り合わせた接合デバイスに太陽光が照射されると電流が流れます。このような現象は、環境に優しく、安全でクリーンなエネルギー源として近年注目を集めています。
太陽電池で誘起される電流は、光の照射方向や偏光、強度に依らず、常に決まった方向に流れます。一方で、これらの光のパラメータを変えることで、電流のオン・オフや、電流の向きのスイッチングが実現できれば、双極性電源や、光-電気信号変換といったエレクトロニクス技術への応用の可能性が大きく広がります。しかし、そのような視点に立った研究はこれまでほとんどありませんでした。

今回の新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

そこで本研究では、照射する光の進行方向や偏光に依存した電流のオン・オフや、電流方向のスイッチングが実現できる可能性を理論的に探索することを目指しました。この目的を達成するために本研究では、結晶構造自体が方向性を持つ「キラル結晶物質」に着目しました。「キラル」という言葉は、左手と右手のように、鏡に映した像と元の像が互いに重ね合わせることのできない関係にある構造を表します。物質の中にはキラルな結晶構造をもつ「キラル結晶物質」があります。例えば、結晶を構成する原子が螺旋状に並んでいる物質は典型的なキラル結晶物質です。そのような物質中の原子の配列は必然的に空間的な「向き」を持つことになります。
このような「向き」を持つキラル結晶物質に光を照射することで、結晶の向きと光の向き(照射方向や偏光)の相対的な関係に依存した指向性を持つ応答が起こるのではないかと考えました。そこで、コバルト(Co)とケイ素(Si)という2種類の元素から構成され、B20型と呼ばれるキラルな結晶構造を持つCoSiという化合物に着目し、その光照射に対する応答を調べました。
具体的には、CoSiに円偏光レーザー光※2を照射したときに起こる現象を、時間周期的な外場である「光の振動電磁場」で駆動された系を記述するフロケ理論 ※3と呼ばれる理論手法を用いて、コンピュータによる数値計算を行うことで調べました。その結果、(1) 制御可能な光電流生成と、(2)照射した光の整数倍の周波数を持つ光が発生する現象(高次高調波発生※4)が起こることを理論的に発見しました。

まず(1)に関して、レーザー光の照射により発生する電流の大きさを3種類の周波数の光 について計算した結果を図2(左)のグラフに示します。横軸はレーザー光電場、縦軸は発生する電流の大きさです。今回の設定では、光の入射方向と同じ方向に電流が流れます。理論的な解析の結果、これはキラルな結晶構造に由来する特徴的な光応答の一つであり、左円偏光と右円偏光で電流の向きが反転することが分かりました。さらにグラフから、レーザー光の強度や周波数を変化させると、電流の向き(符号)が変化していることが読み取れます。これは、光の強度や周波数を変えることで、光により生成される電流の向きをスイッチングできることを意味しており、本研究で発見された重要な現象の一つです

図2:キラル結晶物質CoSiに光を照射することで生成される電流の計算結果。 入射方向と平行な電流が生成され、光の偏光や周波数、強度に依存して電流の流れる向き(符号)が変わる。

次に、照射したレーザー光の整数倍の周波数を持つ光が発生する現象に関する計算結果を示します(図3左図参照)。このような現象は高次高調波発生と呼ばれます。下図のグラフは、レーザー光の入射方向に対して、平行方向と垂直方向の高次高調波発生の強さを計算した結果です。照射したレーザー光の周波数に対して、どの整数倍の周波数を持つ光が発生するかを示しています。これらのグラフから、照射光の偶数倍の周波数を持つ光が照射光と垂直な方向に発生・伝播し、奇数倍の周波数を持つ光が平行な方向に発生・伝播していることが読み取れます。つまり、図3右図の概念図に示すように、整数倍の周波数の偶奇に応じた特定の方向に光が発生・伝播することが分かります。理論的な解析の結果、この現象もキラルな結晶構造に由来する光応答であることが分かりました。今回明らかにした重要な点は、放射される光に整数倍の周波数の偶奇に応じた指向性があることです。このことは、キラル結晶物質が光の周波数と進行方向を変換する素子として活用できることを示しています。 そのため、レーザー光の制御性向上という点で光エレクトロニクスの発展に貢献する画期的な現象です。

図3:レーザー光照射によって高次高調波発生 が起きる。整数の偶奇によって放射方向が異なる。

研究の波及効果や社会的影響

本研究は、キラルな物質で光を用いて電流を生成する原理および光の周波数と進行方向を変換する原理を理論的に発見したものであり、物質科学、光科学、エレクトロニクスの幅広い分野に影響を与えます。特に、CoSiという具体的な物質に対して新現象が現れる条件を理論的に提示したことにより、今回の理論予言検証を目指す実験研究や、他のキラル物質を対象とした光による電流生成現象の探索など、多くの関連研究 が発展していくと期待されます。例えば、CoSiと同様のキラルな結晶構造を持つMnSiやFeGe、あるいはキラルな分子結晶や金属有機構造体なども今後の研究対象として挙げられます。さらに、光によって電流を発生・制御する機能や、光の周波数変換を実現する性質は、光を用いた情報処理やエネルギー変換技術への応用展開を促進します。これにより、電子機器や通信技術の分野において、従来材料とは異なる動作原理に基づく新たな光機能デバイスの開発が期待されます。特に、キラルな構造に由来する指向性を活かすことで、光スイッチや光整流素子による低消費電力・高効率な次世代光エレクトロニクス技術の発展に貢献します。

課題、今後の展望

今回の研究で理論的に発見した「円偏光レーザー光を照射した際のキラル結晶における電流スイッチングと偶奇に応じた高次高調波発生の指向性」の観測を目指して、実証実験を行うことがこれから取り組むべき課題です。実証実験が行われる段階に入れば、実験データを参考にして理論の精密化を行い、それによってより正確に実験データを解釈できる、というサイクルで理論と実験が両輪となって研究が進展していくと考えられます。

研究者のコメント

今回の研究では、キラル結晶へのレーザー光照射によって、新しい光エレクトロニクス機能としての応用可能性を秘めた現象を発見しました。これは光を使って電子を自在に操るという大きな目標に向けて、円偏光レーザー光とキラルな構造の組み合わせが有効であることを示しています。今後も、「光」と「キラル」をキーワードとする研究者間の交流を促進する新現象を発見して、次世代の光技術開発に貢献したいです。

用語解説

※1 共鳴励起
外場の周波数(例えば光による振動電場)を、電子のエネルギー準位差で決まる固有の周波数に一致させて、効率的に電子を励起することです。

※2 円偏光レーザー光
円偏光を持ったレーザー光のことです。ここで「円偏光」とは、光の電場ベクトルが一定の振幅で左回り(左円偏光)または右回り(右円偏光)に回転しながら進行する特殊な偏光状態のことです。一方、レーザー光とは、単一波長で位相の揃った光(コヒーレント光)であり高い指向性を持ちます。

※3 フロケ理論
常微分方程式の周期解を扱うための数学の理論で、時間周期的な外場によって駆動された電子の運動を時間に依らない電子の運動に置き換えて解析することができます。

※4 高次高調波発生
もとの光の整数倍の周波数をもつ光を作り出す現象で、アト秒光パルス(2023年ノーベル物理学賞)でも重要な役割を果たしています。

論文情報

雑誌名:Physical Review Research
論文名:Theory of photocurrent and high-harmonic generation with chiral fermions
執筆者名(所属機関名):大湊友也*(早稲田大学高等研究所・講師)、望月維人(早稲田大学理工学術院先進理工学部応用物理学科・教授) *筆頭著者
掲載日時:2025年6月2日(月)
掲載URL:https://journals.aps.org/prresearch/abstract/10.1103/PhysRevResearch.7.023218
DOI: https://doi.org/10.1103/PhysRevResearch.7.023218

研究助成

研究費名:科研費 基盤研究(A)
研究課題名:スキルミオニクス創成に向けた基盤技術と材料の開拓
課題番号:JP20H00337
研究代表者名(所属機関名):望月維人(早稲田大学)

研究費名:学術変革領域研究(A) 『キメラ準粒子が切り拓く新物性科学』
研究課題名:キメラ準粒子の理論
課題番号:JP24H02231
研究代表者名(所属機関名):村上修一(東京大学)

研究費名:科研費 基盤研究(A)
研究課題名:スキルミオンが持つ新しい物質機能・物性現象の開拓とスキルミオニクスの創出
課題番号:JP25H00611
研究代表者名(所属機関名):望月維人(早稲田大学)

研究費名:科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業 CREST
領域名:トポロジカル材料科学に基づく革新的機能を有する材料・デバイスの創出
研究課題名:Beyond Skyrmionを目指す新しいトポロジカル磁性科学の創出
課題番号:JPMJCR20T1
研究代表者名(所属機関名):于秀珍(国立研究開発法人理化学研究所)

南海トラフ地震による災害廃棄物量は7~28万トン、 処理には1.6年以上必要

著者: contributor
2025年6月9日 16:41

南海トラフ地震による災害廃棄物量は7~28万トン、
処理には1.6年以上必要

南海トラフ地震影響域の早期復興とレジリエンス強化を目指して

ポイント

  • 地震や津波による災害廃棄物の量と処理時間を、その処理・輸送に関わる複数のインフラシステムの被災状況を踏まえて、リスクアプローチに基づき推定する数理モデルを開発しました。
  • 南海トラフ地震・津波の発生を想定した三重県南部のシミュレーションでは、災害廃棄物量は約7万トンから28万トンと推定され、その処理に少なくとも1.6年を要することが分かりました。
  • 本研究により、将来の巨大災害に対する迅速な復旧活動や災害廃棄物処理のためには、複数のインフラシステム管理主体が連携して対策を講じる重要性が明らかになりました。

概要

災害廃棄物は、被災地の復旧や産業に深刻な影響を及ぼし、その処理速度は震災からの復興に要する時間、すなわちレジリエンス※1に直結します。南海トラフ地震では全国で約4.2億トン、東日本大震災の約21倍の災害廃棄物が発生すると推計されており、事前の合理的なマネジメント手法の確立が急務です。
早稲田大学理工学術院秋山充良(あきやまみつよし)教授、青木康貴(あおきこうき)博士、Bandung Institute of TechnologyのAbdul Kadir Alhamid博士、Lehigh University ATLSS CenterのDan M. Frangopol教授、および東北大学災害科学国際研究所の越村俊一(こしむらしゅんいち)教授の研究グループは共同で、地震と津波のマルチハザード※2により発生する災害廃棄物の量と処理時間を算定する数理手法を開発しました。本手法は、災害廃棄物対策の立案や沿岸地域のレジリエンス強化に貢献すると期待されます。

本研究成果はエルゼビア社が発行する国際学術誌「Reliability Engineering & System Safety」に2025年5月14日(水) (現地時間)にオンライン公開されました。
論文名:Resilience-based estimation of the disaster waste disposal time considering interdependencies between waste disposal and road network systems under seismic and tsunami hazards in coastal communities

キーワード:
レジリエンス、リスク、災害廃棄物、南海トラフ、地震、津波、マルチハザード、インフラシステム、橋梁・道路ネットワーク

図 本研究による災害廃棄物の量と処理時間を算定する数理手法の概要

これまでの研究で分かっていたこと

2011年の東日本大震災では、地震と津波によって約2,300万トンの災害廃棄物が発生し、その処理が復旧・復興の大きな障害となりました。このような経験から、災害廃棄物の迅速な処理が地域の早期復興、すなわちレジリエンス強化に不可欠であると認識されてきました。しかし、これまでの研究では、地震と津波のマルチハザードにより発生する災害廃棄物に焦点を充てたものは限られていました。さらに、廃棄物の処理・輸送に関わる複数のインフラシステム(例:廃棄物処理施設、橋梁・道路ネットワーク)の被災状況や相互依存性※3を考慮した研究は見られませんでした。そのため、南海トラフ地震の影響下にある沿岸地域およびインフラシステムの中で、災害廃棄物の処理に要する時間を精緻に評価するための定量的手法は、これまで確立されていませんでした。

新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、そのために新しく開発した手法

本研究では、地震および津波により被災した沿岸域における災害廃棄物の量とその処理に要する時間を、廃棄物の処理と輸送を担うインフラシステムの被災状況と、それらが復旧していく過程を考慮して推定する新たな数理手法を開発しました。提案手法では、廃棄物処理システムと道路ネットワークの性能の時空間的変化を定式化し、質量保存則および最小費用流原理※4に基づく動的解析により、両システムの相互依存性を考慮した災害廃棄物処理の動態評価を可能にしました。
さらに、地震・津波ハザードの強度、構造物の安全性と復旧に要する時間、災害廃棄物量、および仮設処理施設の性能の推定に関する不確かさやモデル誤差を全確率の定理※5に基づいて統合することで、確率論的に処理時間を推定します。これにより、南海トラフ地震・津波に起因する多様な被害シナリオを考慮しつつ、想定外の事象の発生を抑制した信頼性の高い予測が可能となります。
ケーススタディとして、南海トラフ地震・津波の発生を想定し、三重県の約6分の1の面積を占める東紀州地域に位置する仮想の廃棄物処理システムおよび橋梁・道路ネットワークを対象に提案手法を適用しました。その結果、対象地域で発生する災害廃棄物量は、30および70パーセンタイル※6において、それぞれ約7万トンと28万トンと推定され、その処理には少なくとも1.6年を要することが明らかになりました。

さらに、災害廃棄物処理に関わるパラメータ(既設処理施設の安全性、仮設処理施設の設置に要する時間および処理能力、道路網の交通容量)に対する感度解析※7を行い、図-1に示す結果を得ました。図-1は、道路ネットワーク上の橋梁の耐震性が高いおよび低い場合に、対象パラメータに乗ずる係数と、地震発生から500日後までに災害廃棄物の処理が完了する確率の関係を示しています。図-1より、同じ災害廃棄物対策を施した場合でもその効果は、橋梁の耐震性が高く震災後も車両が道路ネットワークを通行しやすいほど、高いことが分かります。この結果は、災害廃棄物処理のマネジメント手法を確立するためには、廃棄物処理システムおよび橋梁・道路ネットワークの管理者が連携して、震災前に対策を講じる必要性を示しています。

図-1 災害廃棄物処理に関わるパラメータの感度解析結果 (対象パラメータに乗ずる係数と災害廃棄物処理の完了確率の関係)

研究の波及効果や社会的影響

災害廃棄物は、その処理に膨大な時間、資本、労働力、および土地を要し、復興活動の大きな妨げとなります。本研究成果は、迅速な復興に貢献する災害廃棄物対策に資する情報を提供できます。
本研究では、構造物の損傷が災害廃棄物の発生、輸送、および処理に及ぼす影響に加えて、その推定の妥当性を定量化して災害廃棄物の処理期間を推定しました。これは、最悪な被害想定のみを対象とした多くの既往の検討や研究と比較して、より実践的かつ合理的な災害廃棄物マネジメントに貢献する可能性があります。

課題、今後の展望

本研究で得られた成果は、現時点で入手可能なデータおよび知見を活用し、また、多くの仮定の下で対象地域を数理モデル化したものです。本研究のさらなる高度化には、地震断層のモデルの設定や、災害廃棄物処理に関係するパラメータの定量化・精緻化などに関する継続した検討が不可欠です。
地震動・津波(マルチハザード)の影響を受ける広範な橋梁・道路ネットワークとその周辺にある一般家屋等の全ての構造物を含めた都市空間、および震災からの復興に伴う被害状況の時間変化をモデル化した本手法は、他の災害への応用も期待できます。例えば、地域のハザードの状況などを勘案しながら、優先的に取り組む対策(耐震補強か浸水対策か)の意思決定を助けるツールとなり得ます。

研究者のコメント

南海トラフ地震による地震動や津波は極めて強大であり、耐震補強の進捗が十分でない現状を鑑みると、多くの構造物が損壊することは避けらないといえます。そのため、構造物が破壊され、災害廃棄物が発生することを前提とした事前対策の必要性に着目して、本研究に取り組みました。本論文は早稲田大学、東北大学、Lehigh大学の国際共同研究の成果であり、災害廃棄物マネジメントに対する世界初の重要な貢献です。今後は計算機上の仮想空間に留まらず、実社会での応用に向けて研究を深化させていきます。

用語解説

※1 レジリエンス
地域やインフラシステムが有する、社会的混乱を最小限に留めながら復旧活動を実施し、災害の影響を緩和する能力を表す概念。
※2 マルチハザード
地震、津波、豪雨など、構造物やインフラシステムに影響を及ぼす多様な自然災害の総称。従来の耐震設計または浸水対策といった個別の対応を拡張し、複数の災害を総合的に考慮した構造設計を促す。
※3 相互依存性
複数のシステムや構成要素が互いに影響を及ぼし合う関係性。本研究では、例えば道路網が寸断されると災害廃棄物の輸送が困難となり、結果として廃棄物処理が遅れるように、廃棄物処理システムと道路ネットワークの性能が互いに影響を及ぼしながら、廃棄物処理の進捗を規定する。
※4 最小費用流原理
ネットワーク上で物資を運ぶ際に、輸送コストが最小となる効率的な流れを求めるための原則。
※5 全確率の定理
直接的に推定し難いある事象の発生確率を、それが生じる原因となる複数の排反事象の発生確率などを用いて算定するための規則。本研究では、災害廃棄物の処理時間に関わる確率が、構造物の損壊や廃棄物の量などの発生確率から求められる。
※6 パーセンタイル
データを小さい順に並べたときに、特定の値がデータ全体の中でどの位置にあるかを百分率で表したもの。リスクアプローチに特有の算定指標であり、例えば30パーセンタイルは、データを昇順に並べた際に、全体の30%の位置にある値を指す。
※7 感度解析
システムや数理モデルの出力に対して、各入力パラメータの変動がどの程度影響を与えるかを評価する手法。本研究では、災害廃棄物の処理時間に対して影響度の高い要因・対策を特定するために用いた。

論文情報

雑誌名:Reliability Engineering & System Safety
論文名:Resilience-based estimation of the disaster waste disposal time considering interdependencies between waste disposal and road network systems under seismic and tsunami hazards in coastal communities
執筆者名(所属機関名):青木康貴(早稲田大学)、秋山充良*(早稲田大学)、Abdul Kadir Alhamid(Bandung Institute of Technology)、Dan M. Frangopol(Lehigh University)、越村俊一(東北大学) *:責任著者
掲載日時(現地時間):2025年5月14日
掲載URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0951832025004430
DOI:https://doi.org/10.1016/j.ress.2025.111242

研究助成

研究費名:科学研究費助成事業(科研費)・基盤研究(A)
課題名:地球温暖化による荷重・作用の激甚化と橋梁・道路ネットワークのレジリエンス評価(23H00217)
代表者名(所属機関名):秋山充良(早稲田大学)

研究費名:科学研究費助成事業(科研費)・国際共同研究加速基金(海外連携研究)
課題名:ドローン撮影画像を用いた劣化橋梁の健全性診断のための機械学習モデルの構築(24KK0090)
研究代表者名(所属機関名):秋山充良(早稲田大学)

2025年度「NEDO先導研究プログラム」に早大から2件採択

著者: contributor
2025年6月4日 16:42

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募する2025年度「NEDO先導研究プログラム/新技術先導研究プログラム[エネルギー・環境新技術先導研究プログラム][新産業・革新技術創出に向けた先導研究プログラム]」に、本学から申請した2件が採択されました。応募件数は84件、採択研究開発テーマは20件でした。

採択課題

エネルギー・環境新技術先導研究プログラム

由良 敬(理工学術院・教授)

【研究開発課題】合成生物学的手法を活用した資源自律経済の実現に資する研究開発

【テーマ名】AI酵素工学で実現するウレタン資源自律経済に向けた研究開発

【実施体制】早稲田大学、大阪工業大学、東京大学、理化学研究所、日産自動車株式会社、三菱ケミカル株式会社

新産業・革新技術創出に向けた先導研究プログラム

安藤 正浩(ナノ・ライフ創新研究機構・主任研究員(研究院准教授))

【研究開発課題】DBTL サイクルの高速化に資する非破壊計測基盤技術の開発

【テーマ名】ラマン振動分光による革新的代謝解析とDBTL高速化基盤の創出

【実施体制】早稲田大学、株式会社堀場製作所、株式会社島津製作所、ノボザイムズ ジャパン株式会社

 

NEDO先導研究プログラム/新技術先導研究プログラム

脱炭素社会の実現や新産業の創出に向けて、2040年以降(先導研究開始から15年以上先)の実用化・社会実装を見据えた革新的な技術シーズを発掘・育成し、国家プロジェクトを含む産学連携体制による共同研究等につなげていくことを目的として、先導研究を実施するものです。

金属錯体で創る光合成反応触媒 (2025/6/18)

著者: staff
2025年6月4日 16:16

演題:金属錯体で創る光合成反応触媒

日時:2025年6月18日(水) 16:00~17:40

会場:早稲田大学 西早稲田キャンパス 55N号館 1階第一会議室 53号館201教室 ※会場が変更になりました

講師:正岡 重行

対象:学部生、大学院生、教職員、一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 化学・生命化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

遷移金属錯体を分子性触媒とする炭酸ガス還元反応の機構的研究(2025/6/11)

著者: staff
2025年6月4日 16:01

演題:遷移金属錯体を分子性触媒とする炭酸ガス還元反応の機構的研究

日時:2025年6月11日(水) 16:00~17:40

会場:早稲田大学 西早稲田キャンパス 55N号館 1階 第一会議室

講師:酒井 健

対象:学部生、大学院生、教職員、一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 化学・生命化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

早大ものづくりプログラムで大賞受賞! “みまもる”ロボットをゼロから設計

著者: contributor
2025年6月3日 14:07

「自走する作り手でありたい」「ものプロへの参加は大きな成功体験」

創造理工学部 4年 玉山 康次郎(たまやま・こうじろう)
創造理工学部 4年 片桐 萌音(かたぎり・もね)

西早稲田キャンパス61号館WASEDAものづくり工房にて。左から片桐さん、玉山さん

新しいことに挑戦し失敗からも学ぶ意欲、計画を立て着実に遂行する能力、困難に立ち向かう力を有する学生の育成を目的として、2012年から2018年まで毎年開催されていた「WASEDAものづくりプログラム 」(以下、ものプロ)。2024年6月に6年ぶりに復活し、ファイナリストに13チームが選ばれ、アイデアをカタチにするための独創的な「ものづくり」に挑みました。その中から最優秀ものづくり大賞に選ばれたのは、玉山康次郎さん、片桐萌音さん、林浩次郎さん(創造理工学部 4年)が製作した、ヒトを“みまもる”フクロウ型アニマトロニクス(※1)「Patr-Owl(パトロール)」。今回は、チームを代表して玉山さんと片桐さんに、大賞受賞までの過程や今後の展望について聞きました。

(※1)動物やキャラクターなどをあたかも生きているかのように表現したロボット。

――どのような経緯でものプロに出場したのでしょうか?

玉山:私たちは大学1年生の頃から早稲田大学ROBOSTEP (公認サークル)に所属し、ロボコンに参加するなど、ものづくりに取り組んできました。3年生になり、他に「作り手」として成長できる機会を探していた時に、ものづくり工房に貼ってあったチラシを見つけ、参加を決めたんです。その際に、片桐さんに声を掛けました。

――Patr-Owlを作ろうと思ったきっかけは何ですか?

玉山:私は以前から遊園地でよく目にするアニマトロニクスの和やかな感じが大好きでした。やる気が出ず、だらだらしてしまっていたときに、自分の家に和やかに見守ってくれるようなロボットがいたらやる気が出るのになあ、と思ったのがきっかけです。

片桐:誰かに見守られることでやる気が出るという現象には、観察者効果(※2)が関わっています。普段は娯楽・展示用に使われるアニマトロニクスと観察者効果を結び付けることができれば、「監視」ではなく恐怖感を与えない「みまもり」になるのではないかと考えたんです。みまもりということで、目が特徴的な動物であるフクロウ型のロボットPatr-Owlを作ることに決めました。

(※2)他者から監視されていると感じることで、その人の行動や言動が変化する現象。

ものプロ最終成果報告で発表したポスター(※クリックして拡大)

――Patr-Owlの仕組みや制作過程を教えてください。

片桐:Patr-Owlの帽子に内蔵されているカメラが人の顔を認識して、その方向に目や体を向けて「みまもる」という仕組みになっています。フクロウは首の関節が多く、その滑らかな動きをできるだけ再現するために、6関節あるアームの構造を考えました。

Patr-Owlが人のいる方向に体を向ける様子

人の顔がある方向に目を向ける様子

玉山:製作にあたっては、片桐さんが中身の機構を作る機械設計と外装やデザイン回り、私はPatr-Owlの動きを制御するプログラムや基板の設計を担当しました。本番までの準備時間が足りなかったため、3月頃からは同じサークルに所属する林さんにも急きょ助っ人として参加してもらい、主にカメラで人の顔を画像認識する部分を担当してもらいました。

全てゼロから製作した回路、基板、中身のアーム機構、外装。プレゼン資料から(※クリックして拡大)

――ものプロを通して、苦労したことや成長できたことはありますか?

片桐さんが外装を作っている様子。西早稲田キャンパス63号館にて

玉山:2024年9月から2025年3月までの期間で、機械設計から回路設計、制御、外装製作まで全てゼロから行うという作業量に加え、初めて挑戦する技術も多かったため、もともと2人でやりきるにはハードルが高かったと思います。加えて、2024年はお互いのスケジュールがなかなか合わないことも多く、授業期間が終わった1月末からは追い込み期間として毎日西早稲田キャンパス内のラウンジや研究室にこもって作業し、基板へのはんだ付けはWASEDAものづくり工房で行いました。

片桐:帰宅後も外装を作っていたので、最終発表の2日前くらいからは全く寝ていませんでした。Patr-Owlが満足に動いたのも発表の前日で…。本当に間に合って良かったですし、やり切った結果が大賞受賞だったので、かなりうれしかったです!

ロボット制作をギリギリまでこだわった上でやりきり、大賞をいただくという体験ができたのは、自分の成長につながったと感じています。これまで出場したロボコンではやりきれなかったと思うことや結果に悔しい思いをしたこともあったので、今回のものプロへの参加は大きな成功体験になりました。

玉山私は突き詰めるタイプで、何事も「根本を理解する」ことにこだわりがあります。この考えは、早く作れることの方が評価されがちなロボット競技において、「いらないこだわり」と周りから言われてしまうこともあり、ロボット製作への向き合い方について迷うこともありました。そんな中、短い期間で自分の方法をやり通し、チームとして納得のいくロボットで大賞をもらうことができ、とても満足しています。

取材中の様子。西早稲田キャンパス61号館302教室にて

――大学ではどのようなことを学んでいますか?

玉山所属している石井裕之教授の研究室ではロボットと生物について学んでいて、生物の仕組みをロボットに応用する研究を行っています。私は総合機械工学科に所属していますが、実際にモノを製作する授業が多い学科です。他の大学だと、1・2年生では大学数学や物理化学など理系の一般教養のみを学ぶことが大半だと思いますが、早稲田では1年生から機械工学の講義や多くの実習に取り組める専門科目があり、本当に強みだと感じます。

片桐:私は岩﨑清隆教授の研究室に所属しています。医療分野に機械工学を応用する、という異分野融合系の研究室で、東京女子医大との共同施設「早稲田大学先端生命医科学センター(TWIns)」で研究を行っています。現在は人間の循環器(主に心臓や血管)をチューブやポンプなどで模擬した流体シミュレーターを作製し、動物実験での再現が難しい心不全などの病態を模擬してさまざまな現象を評価する研究に取り組んでいます。

――最後に、今後の展望について教えてください。

玉山:学外の人にもPatr-Owlを知ってもらいたいので、秋に東京ビッグサイトで開催されるMaker Faire Tokyo 2025 に参加したいと考えています。それまでに、首をかしげる、羽を広げるといった実現しきれなかったフクロウの動きを実装したいです。

個人の展望としては、ひたすら自分のやりたいことに貪欲に取り組み、新しいものを生み出す「自走する作り手」でありたいと思っています。

片桐:学部の3年間はロボコンやものプロに参加するなどロボット製作に集中していましたが、これからは研究分野である医工学の分野を全力で学び、研究に取り組んでいこうと思います。しばらくはロボットの設計とは違ったことをすることになりますが、必ずつながってくると思うので、将来的にはそれまでの知識や経験を融合させて、新しい価値を創生していけたらいいなと思っています。

大賞受賞後、表彰状を手にチームで記念撮影。左から玉山さん、片桐さん、林さん

第900回

取材・文・撮影:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ
人間科学部 3年 西村 凜花

【プロフィール】
玉山康次郎:埼玉県出身。埼玉県立浦和高等学校卒業。漫画のせりふを覚えるのが好きで、漫画からロボット作りの着想を得ることも多い。お勧めの漫画は『進撃の巨人』諫山創(講談社)、『バガボンド』井上雄彦(講談社)、『Dr.STONE』稲垣理一郎(集英社)。

片桐萌音:東京都出身。東京都立日比谷高等学校卒業。創作全般が好きで、ミニ推理小説を書くことも。最近はミュージック・プログラミング(GEC設置科目)を受講したのがきっかけで、作曲にもチャレンジ中。

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