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金属3Dプリンティングの熱変形を低減

著者: contributor
2021年11月9日 16:53

最適設計により金属3Dプリンティングの熱変形を低減させる手法を開発

発表のポイント

  • 金属3Dプリンティングは成形品が熱変形により大きく反るという問題点がある。
  • 造形対象の内部に中空構造を最適設計し、形成することによって、金属3Dプリンティングの熱変形を低減することに成功した。
  • 本手法は、熱変形の影響を大きく受ける大型構造物の成形に活用されることが期待される。

早稲田大学理工学術院の竹澤 晃弘(たけざわ あきひろ)准教授らの研究グループは、金属3Dプリンティングにおける熱変形を低減させる手法を開発しました。
近年、次世代の加工技術として金属3Dプリンティングが注目を集めており、試作のみならず量産最終製品にも使用されるようになっています。しかし、金属3Dプリンティングは成形品が熱変形により大きく反るという問題点があります。本研究では、造形対象の内部にラティス構造※1と呼ばれる中空構造を最適設計し、形成することによって、金属3Dプリンティングの熱変形を低減することに成功しました。
現在金属3Dプリンティングによって、ロケットノズルのような大型成型品の開発も試みられていますが、成形品が大型化されるほど、熱変形の問題も深刻になります。本研究の熱変形低減手法はこのような問題を解決し、より大型の構造物の成形において活用されることが期待されます。
本研究成果は、2021年11月6日(土)にエルゼビア社の『Additive Manufacturing』のオンライン版で公開されました。

論文名:Optimally Variable Density Lattice to Reduce Warping Thermal Distortion of Laser Powder Bed Fusion.

(1)これまでの研究で分かっていたこと

近年、次世代の加工技術として金属3Dプリンティングが注目を集めており、試作のみならず量産最終製品にも使用されるようになっています。しかし、金属3Dプリンティングには成形品が熱変形により大きく反るという問題点があります。最も普及している金属積層造形法であるレーザー式粉末床溶融法では、薄く敷き詰めた金属粉をレーザーで溶融凝固させるというプロセスを繰り返し、三次元構造を形成しますが、溶融凝固した箇所には大きな収縮ひずみが生じそれが反りの原因となります(図1参照)。

このような熱変形の対策としては、造形時に予備加熱をして溶融時と冷却時の温度差を小さくするというハードウェア的アプローチと、レーザーの走査パスを工夫するというプロセス的アプローチが知られています。しかし近年、その二つに加え、造形対象やサポートの形状を工夫することで熱変形が低減できることがわかってきました。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

今回の研究では、造形対象の内部にラティス構造と呼ばれる中空構造を最適設計し、形成することによって、金属3Dプリンタの熱変形を低減することに成功しました。図2は最適なラティス構造と、均一に分布したラティス構造とで反り量を比較した結果です。基本的には内部を疎にすれば変形は低減されるのですが、最適なラティス構造はそれを超えた低減効果を示しています。

図2 熱変形低減のための(a)最適ラティス構造と(b)造形した試験片と(c)反りの計測結果

(3)そのために新しく開発した手法

金属3Dプリンティングの熱変形を近似的に求める手法として、固有ひずみ法が提案されています。本来、固有ひずみ法は日本の造船分野で開発された、溶接変形を近似的に導出する手法ですが、近年金属3Dプリンティング用に盛んに改造が進められています。本研究では、ラティス構造の最適化に用いることを前提に、漸化式で表現した新たなシンプルな固有ひずみ法を開発しました。更に、良く知られているトポロジー最適化※2のアルゴリズムを活用し、熱変形の低減を目的としてラティスの粗密分布を最適に決定する手法を開発しました。

(4)研究の波及効果や社会的影響

金属3Dプリンティングの利点である複雑形状の造形が可能である点を生かし、従来は複数の部品に分かれていた製品を一体成型し、トータルの製造コストや信頼性、性能を向上させるという試みが成されています。極端な例では、ロケットノズルの一体成型等も試みられています。しかし、成形品が大型化されるほど熱変形は深刻になるため、熱変形の対策は不可欠です。本研究のような熱変形低減手法はこの問題を解決し、金属3Dプリンティングにおいて、より大型構造の成形を可能にするものです。将来的にはあらゆるものが金属3Dプリンタで作られるかもしれません。

(5)今後の課題

既存の代表的な熱変形低減手法としては、造形時に予備加熱をして溶融時と冷却時の温度差を小さくするというハードウェア的アプローチと、レーザーの走査パスを工夫するというプロセス的アプローチの二つがあります。本研究で開発した手法は、それらとは全く異なるメカニズムの手法です。すなわち、開発した手法を既存の二つの手法と併用すれば相乗効果で更に優れた熱変形低減効果が得られる期待があります。

(6)研究者のコメント

3Dプリンティングの性能向上においては、装置や材料自体の研究はもちろん大切ですが、どのようなものを作るかという設計に関する研究も極めて重要です。このような3Dプリンティングのための設計工学は近年Design for Additive Manufacturing(DfAM)と称され、海外では盛んに研究されています。本研究が日本発のDfAM技術として3Dプリンティング業界の発達に貢献できればと考えております。

(7)用語解説

※1 ラティス構造
3Dプリンタで作成する、内部に空孔を設けた構造のこと。空孔を任意に分布させることにより、様々な特性を実現できる。

※2 トポロジー最適化
数値計算により最適な形を自動で導出する構造最適化法の一種。

(8)論文情報

雑誌名:Additive Manufacturing(エルゼビア社)
論文名:Optimally Variable Density Lattice to Reduce Warping Thermal Distortion of Laser Powder Bed Fusion.
執筆者名(所属機関名):竹澤 晃弘(早稲田大学)、Qian Chen(ピッツバーグ大学、米国)、Albert C. To(ピッツバーグ大学、米国)
掲載日:2021年11月6日
掲載URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2214860421005741
DOI:https://doi.org/10.1016/j.addma.2021.102422

(9)研究助成(外部資金による助成を受けた研究実施の場合)

研究費名:A-Step シーズ育成タイプ
研究課題名:振動低減ラティス構造の生産性向上に関する研究
研究代表者名(所属機関名):宮内 勇馬(マツダ株式会社)

高温超伝導の隠れた起源を明らかに

著者: contributor
2021年11月9日 16:51

人工ニューラルネットワークで明らかになった高温超伝導の隠れた起源

NIMS、京都大学、早稲田大学、豊田理化学研究所からなる研究チームは、新たに光電子分光データから人工ニューラルネットワーク(ANN)を活用して『自己エネルギー』と呼ばれる物理量を取り出す手法を開発し、高温超伝導解明の鍵となる引力の痕跡を発見しました。

概要

  1. 国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)、京都大学、早稲田大学、豊田理化学研究所からなる研究チームは、新たに光電子分光データから人工ニューラルネットワーク(ANN)を活用して『自己エネルギー』と呼ばれる物理量を取り出す手法を開発し、高温超伝導解明の鍵となる引力の痕跡を発見しました。当該成果は今後、実験科学だけでは解決が困難な問題を解く革新的手法へと発展することが期待されます。
  2. 低温超伝導体では、電子の運動の履歴を示す自己エネルギーから、超伝導状態の形成に必要な電子のペア(クーパー対)を生み出す引力の存在が実験的に証明されました。しかしながら、銅酸化物高温超伝導体については、高い転移温度に見合う強い引力の痕跡が長年見つかっていませんでした。
  3. 今回、研究チームは、理論方程式(エリアシュベルグ方程式)を用いて実験データを再現し説明する従来の方法に代わって、あらゆる関数を表現できる ANN を用いた機械学習を考案し、銅酸化物高温超伝導体について、実験データを精密に再現する2 成分の自己エネルギーを決定することに成功しました。自己エネルギーには『正常成分』と『異常成分』の2成分があり、後者に引力の痕跡が含まれていることがわかっています。得られた自己エネルギーの解析から、2つの成分に現れる強い電子間の散乱(正常成分)と強い引力(異常成分)の影響が、実験データでは見かけ上相殺するために隠れてしまい、引力の痕跡が観測されなかったことがわかりました。また、異常成分のさらなる解析から、
    強い引力が低温超伝導のような原子振動では説明できないことがわかりました。今回得られた成果は、高温超伝導の起源を解明する重要な手掛かりになります。
  4. 今後は、今回開発された実験データ解析手法を様々な物質に適用し、より高い超伝導転移温度を示す物質の設計に活かしていくことを目指します。また、これまでANN が活用されてきた機械学習では、多数のデータによる学習から未知のデータ予測を行うことが主流でした。今回得られた成果を嚆矢として、少数データから隠れた物理量を抽出する機械学習観測手法の確立を目指していきます。
  5. 本研究は、NIMS エネルギー・環境材料研究拠点 界面計算科学グループの山地洋平主任研究員と京都大学大学院人間・環境学研究科 吉田鉄平 教授、早稲田大学理工学術院 藤森淳 客員教授、豊田理化学研究所/早稲田大学理工学術院 今田正俊 フェロー/研究院教授からなる研究チームによって行われました。また、本研究はJST さきがけ、JSPS 科学研究費助成事業、文部科学省「富岳」成果創出プログラムおよびポスト「京」重点課題の支援を受けています。
  6. 本研究成果は、米国物理学会Physical ReviewResearch 誌オンライン版に2021 年11 月8 日付で公開されました。

研究の背景

1986 年の発見以来、銅酸化物高温超伝導体(1)がなぜ液体窒素温度を超える高い超伝導転移温度(最大135K)を示すのかという謎が、固体中の多数の電子の振る舞いを観測する実験手法、その振る舞いを理解するための理論手法の発展を牽引し、物質科学の進歩に大きな影響を与えてきました。

そもそも超伝導が発現するためには、2個の電子になんらかの引力が働いてクーパー対と呼ばれる電子対を形成する必要があると考えられています。多くの金属では引力は弱く、熱ゆらぎによって容易にクーパー対が破壊されるため、低温でのみ超伝導が現れます。カマリン・オンネスが1911 年に観測した水銀の超伝導転移温度は、4.2K という液体ヘリウムによる冷却が必要となる低温でした。

引力が働くとその痕跡が観測量に現れることが期待されます。実際、従来型の低温超伝導体では、その痕跡がトンネル効果を用いた電子観測によって1960 年代に見つかり、BCS 機構(2)と呼ばれる低温超伝導発現のメカニズムの解明に大きく貢献しました。

高温超伝導では高い転移温度に見合う強い引力が働いていると考えられ、引力の強さに見合ったより強い痕跡が観測量に現れることが期待されます。しかし銅酸化物高温超伝導では、高い転移温度に見合う強い引力の痕跡が長年観測されず、強い引力を捉える研究手段の開発が望まれてきました。

研究内容と成果

今回、共同研究チームは、光電子分光(3)実験のデータから、人工ニューラルネットワーク(ANN)(4)を用いることで、『自己エネルギー(5)』と呼ばれる物理量の抽出を行いました。

自己エネルギーには、電子が他の電子や固体中のイオンから受ける相互作用(電子間散乱等)によって影響を受けた履歴を示す「正常成分」と、超伝導電子対を組んだり、電子対を解消したりしてきた履歴を記述する「異常成分」と呼ばれる2つの成分があります。異常成分を取り出すことができれば、超伝導を引き起こした引力の性質とメカニズムに迫ることができます。

一方、光電子分光実験を始めとするほとんどの実験では、特定の運動量とエネルギーを持つ電子がどれくらいの頻度で固体中に存在するかという1成分の情報のみが得られます。そこから2成分の自己エネルギーを取り出すには、少ない既知の情報から、より多くの情報を推定する劣決定問題(6)を解く必要があります。低温超伝導体の場合には、BCS 理論(2)、およびそれを発展させた南部理論ならびにミグダル-エリアシュベルグ理論(7)を用いることで、情報の不足を補うことができました。一方で、銅酸化物高温超伝導体については、そのような手法が通用せず、長年の難問となっていました。

困難を回避するために、直感的で理解しやすい「自己エネルギー・モデル」がしばしば導入されてきましたが、モデルの埒外の現象が起こっている可能性を排除できませんでした。

研究チームは、より普遍的に確立している複数の物理法則(8)を取り入れ、足りない情報を補いました。さらに未知の高温超伝導体の自己エネルギーをあらゆる関数を表現できるANN で記述して、機械学習を行うことでこれまでの困難を克服しました。複数の物理法則を満たすようにANN を制御しながら、高温超伝導体の実験データを再現するようにANN の学習を行い、最適な解を探索しました。人間が直感的に取り入れることが難しい条件下で解の探索を自動的に行えることが機械学習の強みです。さらに機械学習の妥当性の検証を行い、結果として、2成分の自己エネルギー(正常及び異常成分)を1つの分光データから同時に抽出することが可能になりました。ANN を用いることで、より精密に実験データを再現することが可能になっただけでなく、未知の現象に迫ることが可能になりました。

上記2成分を同時に抽出することで、今回新たに、これら正常成分(に含まれる強い電子間の散乱)と異常成分(に含まれる電子対を作る強い引力)による寄与が見かけ上互いに打ち消し合うために、高い超伝導転移温度を導く強い引力の痕跡が検知できないでいたことが明らかになりました。得られた異常成分の構造は超伝導解明の直接の手掛かりになります。

本研究はJST さきがけ(JPMJPR15NF)、日本学術振興会科学研究費助成事業基盤研究(S)「強相関物質設計と機能開拓―非平衡系・非周期系への挑戦―」、文部科学省「富岳」(9)成果創出加速プログラム「量子物質の創発と機能のための基礎科学 ―「富岳」と最先端実験の密連携による革新的強相関電子科学」(JPMXP1020200104)およびポスト「京」重点課題(7)「次世代の産業を支える新機能デバイス・高性能材料の創成」サブ課題C「超伝導・新機能デバイス材料」の一環として実施されたものです。また、本研究はスーパーコンピュータ「富岳」の計算資源による支援を受けています(課題番号:hp180170, hp190145、hp200132、hp210163)。

今後の展開

今回開発した実験データの解析手法を様々な物質に適用し、より高い超伝導転移温度を示す物質を設計するための指針が得られるようになると考えられます。また、これまでANN が活用されてきた機械学習においては、多数のデータによって訓練を行い、未知のデータを予測することや、望んだ性質の物質候補の絞り込みが主流でした。今回得られた成果を嚆矢として、今後、少数データから隠れた物理量を抽出し、機構や新たな概念を発見するなど基礎科学の根本問題のための機械学習観測手法が発展していくと期待されます。

掲載論文

題目:Hidden self-energies as origin of cuprate superconductivity revealed by machine learning
著者:Youhei Yamaji, TeppeiYoshida, Atsushi Fujimori, and Masatoshi Imada
雑誌:Physical Review Research
掲載日時: 2021 年11 月8 日

用語解説

(1) 銅酸化物高温超伝導体:

1986 年のベドノルツとミューラーの発見に端を発し研究されてきた超伝導物質群。現在、大気圧下で最も高い温度で超伝導状態になることが知られています。高価で希少な液体ヘリウムではなく液体窒素による冷却で超伝導状態を得ることができるため、基礎研究と応用研究の両面から注目を集めてきました。銅と酸素原子を含む2次元層と様々な元素を組み合わせることで超伝導転移温度を始めとする性質が制御でき、電力損失の少ない導線として開発が進んでいます。

(2) BCS 機構およびBCS 理論:

1911 年にカマリン・オンネスが発見した水銀の超伝導に始まる、液体ヘリウムによる冷却が必要な低温超伝導体における超伝導の発現機構とそれを説明した理論。1957 年にバーディーン、クーパー、シュリーファーの3氏によって提唱され、結晶固体の量子化された振動によって電子が対を組み超伝導状態となることを示しました。

(3) 光電子分光:

物質に光を当てると電子が飛び出してくるアインシュタインの光電効果を利用して、固体中の電子を、運動量やエネルギーごとに分けて観測する実験手法。

(4) 人工ニューラルネットワーク:

元々は脳が学習を行う機能を研究するために提案された関数。高度な人工ニューラルネットワークはどんな複雑な関数をも表現できるため、現在では機械学習でよく用いられています。

(5) 自己エネルギー:

多数の量子力学的な粒子の運動を記述する際に用いられる関数。一つの粒子が、他の粒子から受けた相互作用の履歴を記録したもので、超伝導ではない状態でも存在する正常成分と、超伝導状態にだけ存在する異常成分があり、その総和が実験データに反映されます。

(6) 劣決定問題:

少ない情報から多くの情報を推定する問題。最もよく知られている劣決定問題の例は、未知の変数の数より、方程式の数が少ない連立方程式です。

(7) 南部理論、ミグダル-エリアシュベルク理論:

BCS 理論をより深め、超伝導を引き起こす引力や自己エネルギーを始め、低温超伝導における観測量の精密予測を可能とした理論。対象物質の情報を入力データとして、エリアシュベルグ方程式と呼ばれる理論方程式を解くことで、様々な超伝導物質の性質を予測できます。南部博士が提唱した自発的対称性の破れが素粒子の質量を作り出すという画期的なアイデアは、この理論の成立過程で育まれたと言われています。

(8) ここで用いられた普遍的な物理法則:

本研究では、因果律によって定まる自己エネルギーの構造と、引力の強さに上限があることなどを用いています。

(9) スーパーコンピュータ「富岳」:

スーパーコンピュータ「京」の後継機として理化学研究所に設置された計算機。令和2 年6 月から令和3 年6 月にかけてスパコンランキング4 部門で1 位を3 期連続で獲得するなど、世界トップの性能を持つ。令和3 年3 月9 日に本格運用開始。

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