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“発酵おから”の抗肥満効果

著者: contributor
2022年3月23日 13:42

“発酵おから”による脂質代謝改善と抗肥満効果

発表のポイント

  • 産業廃棄物でもある “おから” の有効利用のため、麹菌による発酵を試みた
  • 発酵おからは、未発酵おからに比べ、有用成分である栄養プロファイル含有量が増加
  • 高脂肪食に発酵おからを混合したことにより、マウスの脂質異常・肥満が大きく改善された

概要

早稲田大学理工学術院 先進理工学研究科 修士課程2年在籍の市川 なつみ(いちかわ なつみ)と、同学術院の柴田 重信(しばた しげのぶ)教授、およびシンガポールの南洋理工大学Ken Lee准教授を中心とする研究グループは、麹菌を用いておからを固体発酵させることが有用成分を変化させ、総フェノール量、タンパク質含有量、アミノ酸含有量といった栄養プロファイルが改善されることを発見しました。また、高脂肪食に発酵おからを混合することにより、マウスの脂質代謝が改善され、抗肥満や脂質異常の改善効果を示すことを明らかにいたしました。

本研究成果は、『Metabolites』に、”Solid-State Fermented Okara with Aspergillus spp. Improves Lipid Metabolism and High-Fat Diet Induced Obesity”として、2022年2月23日(水)付けでオンライン掲載されました。

大豆加工品の需要に伴い、おからは産業廃棄物として大量に出てくるため、その利活用が課題となっています。本研究グループは、麹菌のAspergillus oryzae(A. oryzae)とAspergillus sojae(A. sojae)を組み合わせ、固体発酵によっておからの機能性が向上することを発見し、発酵おからが抗肥満、脂質代謝異常の改善効果を示すことをマウスのモデルで見出すことに成功しました。今回開発した発酵おからは、肥満や脂質異常症を改善できる食材になることが期待できるとともに、環境と経済の両面で、食品廃棄物の問題解決、有用な機能性食品の改良、SDGs(持続可能な開発目標)への貢献も期待できます。

(1)これまでの研究で分かっていたこと

おからは食物繊維やタンパク質、ポリフェノール等を含み、栄養価が高いことが知られています。また、様々な食用微生物を用いた固体発酵※1により、おからの栄養成分が向上することも知られています。しかし、発酵おからは機能性食品としての利点があるにも関わらず、これまで肥満に対する効果について調査した研究は限られていました。さらに、おからの廃棄処理の多さから、その利活用が課題となっていることから、発酵おからの機能性を検証することで食品廃棄物の問題と肥満予防を同時に解決できるのではないかと考えました。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

本研究では、安全性が担保されている日本の伝統的な麹菌6種類ほどから、Aspergillus oryzaeA. oryzae)とAspergillus sojaeA. sojae※2などを組み合わせ、固体発酵によっておからの機能性向上を試みました。さらに、開発した発酵おからの摂取が食事誘発性肥満に及ぼす影響をマウスモデルで定量的に明らかにしました。固体発酵と成分分析を南洋理工大学が担当し、マウスによる検証を早稲田大学が担当するという共同研究の成果です。

① 麹菌を用いた固体発酵により肥満抑制に対するおからの栄養構成が向上

本研究では、6種類の中からA. oryzaeA. sojaeの混合麹菌を用いて4日間固体発酵させたところ、おからの栄養因子が大きく変化しました。総フェノール量、タンパク質量、総アミノ酸量(図1右)、糖類は増加し、食物繊維量が減少しました。

② 麹菌固体発酵おからはマウスの脂質代謝を改善し、脂肪の蓄積を抑制

固体発酵させることにより栄養構成が向上した発酵おからが、実際に肥満に対してどのような影響を与えるかを調べるために、高脂肪食に発酵おからを混ぜ、脂肪重量や血清パラメータなどを測定しました。マウスを(1)通常食、(2)高脂肪食+カロリーコントロール食*、(3)高脂肪食+未発酵おから、(4)高脂肪食+発酵おから の4群に分け、以下の餌を各群に与えて3週間飼育しました。その結果、発酵おからは未発酵おからと比較して、脂肪蓄積と体重増加を抑制することが分かりました(図2上)。また、発酵おからの添加により肝臓中、血清中のコレステロールが減少しました(図2下)。脂質の代謝や合成に関わる遺伝子発現が変化していたことから、発酵おからは脂質代謝を改善することによって脂肪蓄積や体重増加を抑制することが示唆されました。

(3)研究の波及効果や社会的影響

麹菌を用いた固体発酵おからは栄養成分が増加し、さらに脂質代謝を改善することが明らかとなりました。世界人口の3分の1近くが「体重過多」または「肥満」である現代において、肥満問題の解消は急務であり、本研究で開発した発酵おからもまた、機能性食品としての実用化が期待できます。さらに、おからの廃棄問題は日本のみならず、今回共同研究したシンガポールにおいても深刻な問題であり、機能性改善により食品産業でのおからの利用が進めば、環境と経済の両面で廃棄問題の解決、SDGs(持続可能な開発目標)にも貢献できる可能性があります。

(4)今後の課題

実際に固体発酵おからのどの栄養素が脂肪蓄積に大きく寄与したのかを解明することで、より高機能な発酵おからの開発につなげることができます。また、発酵おからの全成分を同定しておらず、固体発酵おからの安全性の検証、風味の検証あるいは詳細な作用機序解明など、実用化のためには多くの解決すべき課題があります。

(5)研究者からのコメント

本研究では、日本の伝統的な麹菌を用いた固体発酵により機能性の高いおからを開発することができました。近年、健康志向が高まっていることも受け、日本の文化でもある大豆製品、発酵食品のさらなる発展が期待されます。

(6)用語解説

※1 固体発酵
自由流動性の水分がない状態での微生物による発酵方法のひとつ。液体発酵に対し、固体を主な媒体として発酵が行われ、分離や培養制御など困難な点もあるが、酵素生産・発現など有利な点も多い

※2  Aspergillus oryzaeA. oryzae) とAspergillus sojaeA. sojae
清酒、醤油、味噌などの日本の伝統的な発酵食品の製造に用いられる微生物のなかでも、代表的な麹菌の一種。

(7)論文情報

雑誌名:Metabolites
論文名:Solid-State Fermented Okara with Aspergillus spp. Improves Lipid Metabolism and High-Fat Diet Induced Obesity執筆者名(所属機関名):Natsumi Ichikawa1,#, Li Shiuan Ng2, Saneyuki Makino1, Luo Lin Goh2, Yun Jia Lim2, Ferdinandus2,Hiroyuki Sasaki1, Shigenobu Shibata1,* ,Chi-Lik Ken Lee 2,*
# 筆頭著者、*責任著者
所属機関名:1.早稲田大学 理工学術院、2.Division of Chemistry and Biological Chemistry, School of Physical and Mathematical Sciences, Nanyang Technological University
掲載日時(オンライン):2022年2月23日(水)
URL:https://www.mdpi.com/2218-1989/12/3/198
DOI:https://doi.org/10.3390/metabo12030198

(8)研究助成

  • 研究費名:JST未来社会創造事業
    研究課題名:時間栄養学視点による個人健康管理システムの創出
    研究代表者名(所属機関名):柴田 重信(早稲田大学)
  • 研究費名:科学研究費 基盤研究A
    研究課題名:ライフステージ別の体内時計応用の健康科学研究
    研究代表者名(所属機関名):柴田 重信(早稲田大学)

低温で効率よくCO₂の再資源化に成功

著者: contributor
2022年3月23日 13:40

低温で効率よく二酸化炭素を再資源化することに成功

発表のポイント

  •  2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けて、二酸化炭素を容易に再資源化できる技術が期待されている。
  • 新規材料を用い、従来よりも大幅に低温な400~500度においても二酸化炭素の80%以上を反応させ、再資源化することに成功した。
  • 反応速度も工業的な要求を十分に満たせるほどの速さを実現した。

早稲田大学理工学術院の関根 泰(せきね やすし)教授らの研究グループは、コバルトとインジウムという元素を組み合わせた新規材料を用い、従来に比べて大幅に低温で効率よく二酸化炭素を再資源化することに成功しました。

2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けて、二酸化炭素を容易に再資源化できる技術が期待されています。しかし、二酸化炭素の再資源化には700度以上という高温な温度条件が必要であり、その条件を満たしていても、反応を効率良く進めることが難しい現状にありました。

今回研究グループは、新規材料を用い、従来よりも大幅に低温な400~500度においても二酸化炭素の80%以上を反応させることに成功しました。また、その際の反応速度も工業的な要求を十分に満たせるほどの速さ(材料1kgあたり1日に17.7キログラムの二酸化炭素を転換可能)を実現しました。国内外で数多くの研究が行われている中で、本研究成果は二酸化炭素の再資源化の社会実装に向けて進むきっかけになりえます。

本研究成果は、2022年3月17日(木)にイギリス王立化学会の『Chemical Communications』のオンライン版で公開されました。

論文名:Efficient CO2 conversion to CO using chemical looping over Co-In oxide

(1)これまでの研究で分かっていたこと

2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けて、二酸化炭素の再資源化は一つの切り札とされています。二酸化炭素を集めること、ならびにそれを反応させて再資源化させることは、いずれも難しい技術です。特に、化学原料として重要な一酸化炭素を二酸化炭素から作るには、従来700度以上の過酷な条件が必要でした。さらにそのような条件であっても、反応を効率良く進めることは難しく、また高温故に材料選定などにもいろいろな制約が存在しました。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

本研究グループは、高温において二酸化炭素から一酸化炭素を作ることが難しいという問題は、従来の手法の延長では解決できないと考えました。そこで新しい手法を用い、独自に開発した材料によって、高性能化・低温化を実現させようと考えました。この結果、多様な材料を体系的に検討し、コバルトをインジウム酸化物に修飾した新規材料が、本手法のために優れた結果を見出すことを発見しました。この材料は、従来の700度以上必要な条件に比べて、大幅に低温な400~500度においても二酸化炭素の80%以上を反応させられるという画期的な性能を示し、その際の反応速度も工業的な要求を十分に満たせるほどの速さ(材料1kgあたり1日に17.7キログラムの二酸化炭素を転換可能)を実現しました。また、その際の反応メカニズムをSPring-8などの最先端の分光により明らかにしました。

ケミカルループによって二酸化炭素が再資源化されるイメージ

(3)そのために新しく開発した手法

本研究グループは、1.ケミカルルーピング※1という反応場を分ける手法を編み出し、2.そのための優れた材料を生み出し、3.なぜその材料が優れているかを最先端分光などで解析し、これらのPDCAサイクルによって高性能化を実現しました。

(4)研究の波及効果や社会的影響

カーボンニュートラル実現に向けて、化石資源利用からの脱却が期待され、二酸化炭素の再資源化による物質や燃料群の合成技術の開発は待ったなしの状況です。国内外で数多くの研究が行われている中で、このように飛躍的に高い性能・低い温度を実現した本技術は、今後、二酸化炭素の再資源化の社会実装に向けて進むきっかけになりえます。

本手法で従来の化学反応の熱力学平衡(実線)を大きく上回る低温・高性能を実現

(5)今後の課題

ケミカルルーピングという反応場を分ける手法は、まだ産業界ではそう馴染みのある手法ではないため、今後これを実際に運用していくにあたっての課題を見出して解決していく必要があると考えられます。具体的には、反応のサイクルを重ねることによる材料の粉化や劣化をどう抑制するか、などを、今回の共同研究先であるENEOS社と共に検討していきます。

(6)研究者のコメント

国内外で数多く研究されている二酸化炭素再資源化ですが、このような高性能・低温化を実現できたことは非常に喜ばしく、早期に社会実装に向けて共同研究先のENEOS社などの企業とタッグを組んで進めて行きたいと考えています。

(7)用語解説

※1 ケミカルルーピング
材料の酸化と還元を独立した条件で行い、これを繰り返すことで従来の反応に比べて低温化が可能で、生成ガスの分離が不要になる手法。

(8)論文情報

雑誌名:Chemical Communications (イギリス王立化学会)
論文名:Efficient CO2 conversion to CO using chemical looping over Co-In oxide
執筆者名(所属機関名):牧浦 淳一郎(早稲田大学)・柿原 聡太(早稲田大学)・比護 拓馬(早稲田大学)・伊藤 直樹(ENEOS)・平野 佑一朗(ENEOS)・関根 泰(早稲田大学)
掲載日(現地時間):2022年3月17日
掲載URL:dx.doi.org/10.1039/d2cc00208f
DOI:10.1039/d2cc00208f

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