ノーマルビュー

センサ位置決定 新アルゴリズム開発

著者: contributor
2022年12月14日 10:49

膨大な数の空間点データからなる現象を少数のセンサ情報から表現する

最適なセンサ位置を決定する新たなアルゴリズムを開発

広範な学術・産業応用や実用化前進に期待

発表のポイント

少数のセンサで複雑な現象を計測する技術が昨今注目を集めていますが、効率良く効果的に最適なセンサ位置を決定するための既存の計測手法は、コストや計測精度に難があり実用化に課題が多く存在していました。
一度に全センサ位置の最適な組み合わせを選択する新たなアルゴリズムを開発しました(図1)。この新たな計測手法を用いて、ノイズを多く含む実験データで精度検証を行い、その有効性を実証しました。
新たな計測手法の課題となる計算コストを低減するため、量子インスパイアード技術である富士通の「Fujitsu Quantum-inspired Computing Digital Annealer」(以下、「デジタルアニーラ」)を用いたことで、高速に解を得ることができました。

早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程の井上智輝(いのうえともき)と同大学理工学術院教授の松田佑(まつだゆう)、ならびに東北大学流体科学研究所教授の永井大樹(ながいひろき)と同大大学院工学研究科博士課程後期の伊神翼(いかみつばさ)、愛知工業大学工学部教授の江上泰広(えがみやすひろ)らの研究グループ(以下、本研究グループ)は、センサ位置最適化問題を解消するため、従来研究されてきた方法論とは全く異なるアプローチで、60万点強の空間点データからなる多自由度の現象を、数十から数百点でのデータ情報を基に表現するための位置選択アルゴリズムを開発しました。また、実際にノイズを多く含む実験データへの応用を行い、その有効性を実証しました。さらに、組合せ最適化問題を高速に解く量子インスパイアード技術*1である富士通の「デジタルアニーラ」*2を用いることで、高速に解を得ました。

本研究成果は、オランダのエルゼビア社が発行する『Mechanical Systems and Signal Processingに2022年12月8日(木)(現地時間)に掲載されました。

(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

少数のセンサで複雑な現象を計測する技術が注目を集めています。少数のセンサでの計測が実現できれば、低コストで現象を把握できます。またデータ取得・解析を高速に行うことができるため、これにより迅速な意思決定も可能になります。しかし少数のセンサで効果的な計測を行うためには、センサの位置を適切に決定する必要があります。このような問題はセンサ位置最適化問題*3と呼ばれています。

センサ位置最適化問題を解く方法として、凸緩和法*4や貪欲法*5が提案されています。しかし凸緩和法では計算コストが大きく、多くの空間点からなるデータの解析には不向きです。また凸緩和法は、ノイズを多く含む実際の実験データには有用でないことが指摘されていました。一方、貪欲法は計算コストが小さいものの局所解に陥ることが多いことが知られており、特にセンサ数が一定数を超えた場合、センサの位置をランダムに決定する乱択法よりも推定精度が低下してしまうという問題がありました。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

貪欲法においてはセンサ位置を1点ずつ順にその選定時に最適となるように決定していきます。このとき、互いに似通った情報をもつ点を選択するようになると、貪欲法はセンサ位置の推定精度が悪化する特徴を有することに本研究グループは着目しました。

そこで本研究では、互いに近傍となる位置を選ばないように、またセンサ位置を1点ずつ順に選ぶのではなく、一度に全センサ位置の最適な組み合わせを選択することで貪欲法の問題点を解決できると考えました。例えば図2のように、貪欲法では1点ずつ順に1から5までの5点を選ぶときに各時点で最適な位置を選択します。このとき以前に選択した位置を考え直すということを行いません。これに対して本研究で提案した手法では、1点ずつ順に選ぶよりも5つの点の組み合わせとしてより適切な組み合わせが得られるのではないかと考えました。

(3)そのために新しく開発した手法

センサ位置最適化問題は、現象を効率的に表現する少数のセンサを選択する問題です。これは特徴的な挙動を示す位置を選ぶことであると言えます。本研究グループは、特徴的な挙動を示す位置を選びつつ、一方で似たような特徴を示す位置を選ばないような、センサ位置の組み合わせを選択するアルゴリズムを考えました。

そこで、任意の2つの空間位置に対して、現象の特徴を良く表し、かつ互いに類似性が低い場合に大きな値をとる重みを考えました。このように考えると、各空間位置をノード*6とし各ノード間を結ぶエッジ*7を上記の重みとするグラフと捉えることができます(図3)。すると目的とするセンサ位置の組み合わせは、一定値以上の重みをもったエッジを残した無向グラフにおいて、最大クリーク問題*8の解を与える組み合わせと考えることができます。最大クリーク問題は、その補グラフ*9に対する最大独立集合問題*10と等価であることが知られており、この最大独立集合問題を解くことでセンサ位置の組み合わせを決定しました。

なお、最大クリーク問題も最大独立集合問題もNP困難*11であることが知られています。本問題を通常のコンピュータで計算するには、たくさんの候補点からセンサ位置の組み合わせを決定することになり、計算コストが大きく困難です。そのため、本研究では、量子コンピュータなどで注目度の高い組み合わせ最適化問題に特化した新しいコンピュータの1つである富士通「デジタルアニーラ」を用いることで高速に解を得ました。

本研究では、提案した手法によって得られた解の妥当性を評価するために、NOAA-STTデータ(National Oceanic and Atmospheric Administration(アメリカ海洋大気庁)の提供している海水面温度変化データ)を用いた精度検証を行いました。これにより従来法と遜色なく少数の点での温度データのみから元の海水面温度分布を再現できることを示しました(図4)。

また実際にノイズを多く含む実験データに提案手法を適用しました。実験データは流れに直角に置かれた角柱後方にできるカルマン渦*12を感圧塗料法*13によって計測したもので、60万点強の空間点からなるデータであり非常に大きなスケールの対象です。またこのデータには非常に大きなノイズが含まれています(図5の左図)。本論文では、このような複雑な現象について、数十から数百点でのデータ情報を基に表現するためのセンサ位置の最適な配置を決定しました(図5の中図のピンク色の点)。そして、選択されたセンサ位置の情報を基にノイズを低減したデータを再構成しました(図5の右図)。この再構成されたデータを、半導体圧力センサによって計測したデータと比較しました。ここで半導体圧力センサは、感圧塗料法とは異なり計測点を設置した場所での計測値しか得られませんが、非常に精度が高いことが知られています。提案手法によって再構成したデータは、この半導体圧力センサでの計測結果と0.3%以下のずれであり非常によく一致することを確認し、本研究の有効性を示しました。

(4)研究の波及効果や社会的影響

センサ位置最適化問題では凸緩和法の高速化と貪欲法の高精度化の研究が主に行われていますが、本研究グループはこれらとは本質的に異なる新しいアプローチを提案するとともにその有効性を示しました。今後、センサ位置最適化問題の学術・産業応用へ大きなインパクトを与えると期待されます。

あわせて、センサ位置最適化問題は、NOAA-STT(海水面温度変化)のセンシングや流体力学に留まらず広範な応用が期待されています。同様に、本研究で応用例として扱った感圧塗料法は航空機・鉄道・自動車の空力設計への応用を通じ、安全性の向上や空力抵抗の低減に大きく貢献することが期待されています。これまで、感圧塗料法では計測ノイズが障害となり鉄道・自動車分野への応用は難しいとされてきました。しかし、本アルゴリズムによって感圧塗料法はこれらの問題への応用へ向けて前進すると考えられます。

量子コンピュータ、デジタルアニーラなど新しいタイプのコンピュータが注目されています。ただし上記のような実応用を見据えた技術への応用例はまだ数が少なく、このたびの研究成果は、これらのコンピュータの新しい応用としてもインパクトが大きいと考えています。

(5)今後の課題

複雑な現象を対象としたときに、どの程度の現象再現能に対してどの程度のセンサ数が必要なのか明らかにしたいと考えています。これによって実際の機械や環境モニタリングへの応用を行う際に、必要なセンサ数を決定することが可能となります。また実応用では事前に得られる情報に制限があることが想定されるため、このような場合にも有効なセンサ位置最適化についても研究を重ねたいと考えています。

(6)研究者のコメント

本研究では、センサ位置最適化問題に対して新しいアプローチを提案いたしました。センサ位置最適化問題はこれまで凸緩和法や貪欲法などを用いた解法が提案されています。このたび開発した新たな手法はこれらの手法と同等以上の結果を得ることができます。特に、従来の手法に比べてもセンサが満たすべき条件を素直に立式した直感的に理解しやすい方法となっているところが特長です。仮に問題や条件がかわっても、新手法のコンセプトを用いることで、比較的容易に問題に合わせて定式化を行い、解を得ることができる点が特に優れていると考えています。

(7)用語解説

※1 量子インスパイアード技術

量子現象に着想を得たコンピューティング技術で、現在の汎用コンピュータでは解くことが難しい「組合せ最適化問題」を高速で解く技術

※2 Fujitsu Quantum-inspired Computing Digital Annealer(デジタルアニーラ)

現在の汎用コンピュータでは解くことが困難な組合せ最適化問題を高速に解く富士通独自の量子インスパイアード技術。https://www.fujitsu.com/jp/digitalannealer/index.html

※3 センサ位置最適化問題

少数の位置でのデータから効率的に現象の表現を実現するための位置を決定する問題。

※4 凸緩和法

非凸の目的関数を凸関数で近似表現し計算する方法。

※5 貪欲法

一つ一つ順にその時に最適になるように解を決定する方法。

※6 ノード

グラフの頂点。本稿ではセンサ位置の候補点。

※7 エッジ

ノード間を結ぶ辺。

※8 最大クリーク問題

全てのノードの組にエッジが存在するグラフの部分をクリークと呼び、最大の大きさのクリークを見つける問題を最大クリーク問題という。本研究では全てのセンサ位置候補同士が、現象の特徴を良く表し、かつ互いに類似性が低い場合に大きな値をとる重みでつながれている必要があるためにクリークを考える。最大クリークを見つけることで、現象を表現するセンサ位置をもれなく選定することができる。

※9 補グラフ

エッジの有無を入れ替えたグラフ。すなわち元のグラフにおいて存在するエッジを削除し、エッジがないノード間にエッジを設けたグラフ。

※10 最大独立集合問題

どのノードもクリークに含まれないような集合のうち最大のものを見つける問題。エッジの有無を入れ替えたグラフ(補グラフ)に対する最大独立集合問題を考えることは、もとのグラフの最大クリーク問題を考えることと同じになる。

※11 NP困難

NPはNondeterministic Polynomialの頭文字。問題の大きさに対して、その多項式で表される時間で解くことができる問題をクラスNPと呼ぶ。これらの問題よりも多くの時間を要する問題をNP困難と呼び、問題が大きくなるほど膨大な計算時間を要する。近年、NP困難を解くためのツールとして量子コンピュータをはじめ新しいコンピュータが提案されている。

※12 カルマン渦

流れの中に角柱や円柱を置いたときに、これらの物体の後方で見られる特徴的な渦。角柱、円柱の両端から交互に渦が出ているように見える。

※13 感圧塗料法(Pressure-sensitive paint; PSP)

感圧塗料(PSP)は、一般に酸素消光作用を有するりん光分子とこれを模型表面に保持固定するためのバインダから構成される。PSP計測法では、このりん光分子の放つ発光の強度が圧力に応じて変化することから、PSPの発光強度分布を計測することで圧力分布を計測する。

(8)論文情報

雑誌名:Mechanical Systems and Signal Processing
論文名:Data-Driven Optimal Sensor Placement for High-Dimensional System Using Annealing Machine
執筆者名(所属機関名):井上智輝(早稲田大学大学院生)、伊神翼(東北大学大学院生)、江上泰広(愛知工業大学教授)、永井大樹(東北大学教授)長沼靖雄(富士通株式会社)、木村浩一(富士通株式会社)、松田佑*(早稲田大学教授)
掲載日時(現地時間): 2022年12月8日(木)
掲載URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0888327022010251
DOIhttps://doi.org/10.1016/j.ymssp.2022.109957

(9)研究助成(外部資金による助成を受けた研究実施の場合)

研究費名:科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)
「計測技術と高度情報処理の融合によるインテリジェント計測・解析手法の開発と応用」(研究統括:雨宮 慶幸)

研究課題名:圧縮センシングを活用した高精度空力診断システムの構築 JPMJPR187A
研究代表者名(所属機関名):松田佑(早稲田大学)
研究費名:東北大学流体科学研究所一般公募共同研究:J22I020
研究課題名:構造化照明を用いた高精度PSP計測手法の開発
研究代表者名(所属機関名):松田佑(早稲田大学)、永井大樹(東北大学)

初期宇宙の赤い「渦巻銀河」を発見

著者: contributor
2022年12月14日 10:48

初期宇宙に存在した赤い渦巻銀河を発見

発表のポイント

  • 地球が属する天の川銀河と同様の渦巻構造をもつ「渦巻銀河」は、いつ・どのように生まれ、形作られたのかなどについて、望遠鏡の感度や空間分解能の限界から、分かっていなかった。
  • 米国NASAが2022年から運用開始したジェームズウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)のデータをもとに分析した結果、80億年から100億年前の宇宙に、これまで見られなかった赤い渦巻銀河を初めて発見した。
  • 本パイロット調査をもとに、さらに詳細に渦巻銀河形成についての分析を進めることで、いまだ謎多き銀河の成り立ちに関し、新たな知見を加えることが期待できる。

概要

早稲田大学理工学術院総合研究所 次席研究員・国立天文台アルマプロジェクト特任研究員の札本 佳伸(ふだもと よしのぶ)と同大理工学術院 教授の井上 昭雄(いのうえ あきお)および同大理工学術院総合研究所 次席研究員・国立天文台アルマプロジェクト 特任研究員の菅原 悠馬(すがはら ゆうま)の研究グループは、これまで確認されていなかった特異な「赤い渦巻銀河」を発見し、さらにそれが80億年から100億年前という初期の宇宙に存在することを明らかにしました。本成果は、2022年から米国NASAで運用が開始されたジェームズウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)のデータを元にした成果としては、国内の研究機関から初めて出版された論文となります。
本研究成果は、『The Astrophysical Journal Letters』(論文名:Red Spiral Galaxies at Cosmic Noon Unveiled in the First JWST Image)にて、2022年10月21日(金)に掲載されました。

図1:渦巻銀河の例M74(出典 NASA)。渦巻構造中に見える赤い領域は活発な星形成活動を行っている領域。我々の住む地球が属する天の川銀河も、このような構造を持っていると考えられており、近傍の宇宙には比較的数多く存在する銀河である。

(1)これまでの研究で分かっていたこと

エドウィン・ハッブルによる銀河の分類法「ハッブル分類」にも見られるように、現在の宇宙には、楕円銀河や渦巻銀河など、見た目から分かりやすい形を持った銀河が多く存在します。なかでも渦巻銀河は、銀河中心に「バルジ」と呼ばれる楕円体の構造を持ち、特徴的な渦巻状の腕「渦状腕(かじょうわん)」を持つ、美しい円盤銀河です(図1)。現在の宇宙にある渦巻銀河は多くが比較的活発な星形成活動を行っており、我々の住む天の川銀河もそのひとつです。

これまでの研究では、このような渦巻構造を持つ銀河がいつ・どのように生まれ、どれほど過去の宇宙に存在するのか、分かっていませんでした。特に、80億年以上前の初期宇宙では、米国NASAのハッブル宇宙望遠鏡などによる観測の結果から、不規則な形態を持つ銀河が多いことが知られ、渦巻銀河はほとんど発見されていませんでした。このことから、渦状腕など銀河の形が整うためには銀河が生まれてから長い時間が必要で、もっと時代が下った、現在に近い時代の宇宙にしか存在しないのではないかと考えられてきました。

また近年、日本のすばる望遠鏡によって行われた大規模な探査によって、現在の宇宙にある渦巻銀河の98%は比較的活発な星形成活動を行っており、星形成活動が止まってしまった「年老いた」渦巻銀河※1は2%程度しか存在しないことが明らかになりました(嶋川 他、2022)。年老いた渦巻銀河の数が少ないということが、現在の宇宙だけの特徴なのか、それとも過去の時代の宇宙にある銀河を見れば現在とは異なる様子が見られるのかという疑問に対しては、望遠鏡の感度や空間分解能の制限から答えを得られていませんでした。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

本研究チームは、2022年から運用を開始した米国NASAの宇宙望遠鏡ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が世界に向けて初公開したデータ、特に、これまでの観測では捉えられていなかった特異な銀河「赤い渦巻銀河」に注目しました。これらの「赤い渦巻銀河」はハッブル宇宙望遠鏡やスピッツァー宇宙望遠鏡による観測でも検出はされていたものの、空間分解能や感度の制限からその詳細な形態や性質については知られていませんでした。今回、スピッツァー宇宙望遠鏡より10倍の空間分解能、50倍の高感度をもつJWSTの革命的な性能によってその詳細な形態が初めて明らかになりました(図2)。

図2:本研究で詳細を調査した「赤い渦巻銀河」の代表例RS13とRS14の画像。上段が従来のスピッツァー望遠鏡による観測データ(約4ミクロンの赤外線単波長データを使用)。下段が、今回JWSTによって同じ銀河に対して得られたデータ(約1ミクロンから4ミクロンの赤外線波長データを用いて作られた擬似カラー画像)。JWSTの極めて優れた分解能と感度によってRS13、RS14ともに渦巻構造を持っていることが初めて明らかになり、さらに「赤い渦巻銀河」というこれまで知られていなかった銀河種族の存在が明らかになった。

我々は、この赤い渦巻銀河がどのような性質を持つのかを調べるパイロット調査として、最も赤い色を持つ2つの銀河(RS13、RS14:図2)について、JWSTから得られた測光データや分光データを元に分析を行いました。その結果、これらの赤い渦巻銀河が、80億年から100億年程度過去の、初期宇宙に存在する銀河であることが分かりました。さらに、RS14は星形成を行っていない、年老いた銀河であることも明らかになりました。年老いた渦巻銀河は現在の宇宙では極めて珍しいものの、今回のJWSTの初期観測データというほんの小さな領域の観測から発見されました。このことから、年老いた銀河は遠方宇宙ではこれまで考えられてきたよりも多く存在する可能性が示唆されます。一方で、初期宇宙に存在する赤い渦巻銀河や年老いた渦巻銀河はどのようにして形成されてきたのか、といった疑問が新たに生じる結果となりました。

(3)研究の波及効果や社会的影響

JWSTが初めて公開した画像の中に見られた特徴的な銀河「赤い渦巻銀河」についてパイロット調査を行うことで、初期宇宙においても渦巻銀河は多数存在し、またその中には年老いた渦巻銀河といった、近傍宇宙では極めて珍しい銀河も存在することを初めて示しました。これらの発見から、渦巻銀河形成の歴史や、ひいては宇宙の歴史全体の中で銀河の形態がどのように変化してきたのかについての研究に、新たな視点を与えることができたのではないかと考えています。

(4)今後の課題

本研究では、JWSTの画像に多数見られた赤い渦巻銀河のうち、最も赤い色を持った2つの銀河に対してパイロット調査を行いました。今後、さらに多数の赤い渦巻銀河について調査を行い、過去の宇宙に存在する渦巻銀河や年老いた渦巻銀河に対する研究を進めていくことで、いまだ謎多き銀河の成り立ちに関し、新たな知見を加えることができるものと考えています。

(5)研究者からのコメント

今回、従来の宇宙望遠鏡よりも10倍の空間分解能、50倍の感度を持つJWSTの驚異的な性能によって初めて得られた画像を目の当たりにして、これまでの我々が触れることができなかった宇宙の姿が明らかになってきました。本研究テーマである赤い渦巻銀河もその一つであり、今後も多様な発見が行われるものと考えています。JWSTによる新たな観測データは、我々の宇宙に対するこれまでの知識を大きく変えるものとして、これからも注目していく必要があると考えています。

(6)用語解説

※1 年老いた銀河
パッシブな銀河、とも呼ばれる。星形成活動がほとんどなく、その内部に存在する星は形成されてから比較的長い時間が経っているため年老いている。星形成活動に必要なガスが存在しない、赤い色を持つなどの特徴を持つ。

(7)論文情報

雑誌名:The Astrophysical Journal Letters
論文名:Red Spiral Galaxies at Cosmic Noon Unveiled in the First JWST Image
執筆者名(所属機関名):札本 佳伸(早稲田大学理工学術院総合研究所 次席研究員・国立天文台アルマプロジェクト 特任研究員)、井上 昭雄(早稲田大学理工学術院 教授)、菅原 悠馬(早稲田大学理工学術院総合研究所 次席研究員・国立天文台アルマプロジェクト 特任研究員)
掲載日時:2022年10月21日(金)
掲載URL:https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ac982b
DOI:10.3847/2041-8213/ac982b

(8)研究助成

研究費名:国立天文台ALMA共同科学研究事業 No.2020-16B
研究課題名:ALMA HzFINEST:高赤方偏移遠赤外線星雲輝線研究
研究代表者名(所属機関名):井上 昭雄(早稲田大学)

❌