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大動脈瘤診断マーカースペクトル同定

著者: contributor
2021年5月7日 13:10

ラマン分光法における大動脈瘤の診断マーカースペクトルを同定

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研究概要

大動脈瘤は、血管が瘤(こぶ)のように異常に拡張する疾患で、無症状に経過することが多く、瘤が成長して破裂すると死に至る、大変危険な疾患です。しかしながら、大動脈瘤の発症と瘤の成長を根本的に阻止する薬剤や大動脈瘤形成を予測できるバイオマーカーがなく、治療法としては、超音波検査やCT検査などで血管径をモニターし、瘤径が一定基準以上になると手術を行うしかないのが現状です。

血管壁を構成する成分として、コラーゲンなどの膠原線維や、エラスチンなどの弾性線維という細胞外マトリクスが知られており、その異常が大動脈瘤形成に関わることが報告されています。従って、細胞外マトリクスの変化を臨床的に観察することができれば、大動脈瘤形成の診断マーカーとなり得ると考えられます。

近年、非侵襲的に生体分子構造情報を取得する方法として、分光学的手法が注目されています。その一つであるラマン分光法は、物質に光を当てた際に生じる、入射光とは異なるエネルギーを持つ散乱光(ラマン散乱)から、分子の振動などの分子構造情報を得るもので、医学分野への応用が進んでいます。

本研究では、ラマン分光法と多変量解析を組み合わせたアプローチにより、マウスとヒトの大動脈瘤に特異的な、新規マーカースペクトル成分を同定するとともに、大動脈瘤の有無により、弾性線維および膠原線維の構造が異なっていることを解明しました。このような、分光学的手法により非侵襲的に病状を観察する方法は、さまざまな疾患への応用が期待されます。

研究代表者

研究の背景

大動脈瘤は、大動脈径が通常の1.5倍以上に拡張し、破裂により死に至る疾患で、患者数は年々増加傾向にあります。しかしながら、大動脈瘤破裂の予兆は少なく、根本的な治療薬もありません。そのため臨床においては、超音波検査やCT検査で大動脈径の拡張をモニターし、既定の瘤径以上になると外科的修復を行います。しかし、基礎疾患を抱えた患者や高齢者への適応は限定的であり、バイオマーカーなどを用いた病状の追跡方法や、病態に応じた治療法の開発が求められています。

大動脈には、心拍出に伴う血流によって生じるメカニカルストレスに耐えられる伸縮性と硬さが必要です。血管壁を構成する主要成分として、伸び縮みを司る弾性線維や、硬さの保持に資する膠原線維などの細胞外マトリクス注1が存在します。弾性線維形成に必要なタンパク質として、フィブリン4やフィブリン5が知られています。本研究グループは、これまでに、マウスの平滑筋細胞特異的フィブリン4の欠損が大動脈瘤をもたらすことや、フィブリン5欠損マウスでは大動脈瘤は形成されないものの、大動脈の蛇行と伸長を引き起こすことを見出しています。これらのマウスでは、大動脈瘤の有無に関わらず、弾性線維の異常が認められています。そこで、「瘤がある大動脈」と「ない大動脈」における血管壁の分子構造の詳細な違いを調べるために、近年、医学分野での活用が進んでいるラマン分光法注2を用いて、解析を行いました。

研究内容と成果

本研究では、マウスとヒトの大動脈瘤において、ラマン分光法と多変量解析を組み合わせることで、この疾患に特異的な弾性線維と膠原線維由来のラマンマーカースペクトル成分の同定を試みました(参考図)。具体的には、野生型マウス、大動脈瘤マウス(平滑筋細胞特異的フィブリン4欠損マウス)、大動脈瘤を伴わない大動脈蛇行マウス(フィブリン5欠損マウス)、およびヒトの大動脈凍結組織の切片をスライドガラス上に作成し、染色等を行うことなく、洗浄後ラマン顕微鏡でラマン分光測定を行います。そのデータを3種類の多変量データ解析注3手法(True Component Analysis; TCA、主成分分析、多変量スペクトル分解)を用いて解析しました。

まず、得られたラマン分光スペクトルから、細胞外マトリクスである弾性線維、膠原線維、アグリカンやバーシカンなどのプロテオグリカン注4および、細胞核、脂質、その他のマトリクス成分のスペクトルをそれぞれ抽出し、TCA解析によりラベルフリーイメージング注5を作製しました(参考図左下)。続いて、その中から弾性線維と膠原線維の主成分分析を行ったところ、血管壁におけるこれらのクラスター分布が、野生型と大動脈瘤マウスとで異なっていることを見出しました(参考図中下)。さらに、弾性線維と膠原線維由来の成分に対して、多変量スペクトル分解を行い、マウスにおける大動脈瘤部位に特異的なマーカースペクトル成分を同定しました(参考図右下)。ヒト大動脈瘤患者の大動脈切片に対して同様の解析を行ったところ、マウスと同じ結果が得られました。ことから、このスペクトル成分が、マウス大動脈瘤とヒト大動脈瘤にのみ存在する、新たな大動脈瘤の診断マーカーとなり得ることが分かりました。

今後の展開

本研究により同定された大動脈瘤特異的マーカースペクトル成分は、大動脈瘤の発症や経過の予測に有用だと考えられます。このような、ラマンスペクトルを、病状を解析するための診断スペクトルとして活用する手法は、従来の組織学では診断が難しい疾患への診断や、処置後の患部の治癒経過の評価、さらに将来的には、疾患予防へも応用可能になることが期待されます。

図 本研究に用いた実験手法と結果

マウスとヒトの、コントロール(野生型)と大動脈瘤組織において、染色等の前処理を行わずにラマン顕微鏡による測定を行いました。得られたデータの多変量データ解析から、血管壁におけるラマンイメージングの作製、細胞外マトリクス成分の大動脈瘤の有無によるクラスター分布の特定、大動脈瘤に特異的なマーカースペクトル成分の同定を行いました。

用語解説

注1) 細胞外マトリクス
  • 生体の臓器や組織は、細胞と非細胞物質で構成されており、非細胞性物質の主要な構成成分を細胞外マトリクスという。細胞を支える足場や組織の形成や分化、細胞接着を担っており、主に、線維状タンパク質とプロテオグリカンの高分子から成る。
注2) ラマン分光法
  • 物質に光を当てると散乱光が生じ、そのうち、入射光とは異なるエネルギーを持つものをラマン散乱という。このラマン散乱を利用し、分子構造の情報を得る手法をラマン分光法という。非侵襲的に物質の構造情報が得られるため、分子の指紋とも呼ばれる。
注3) 多変量データ解析
  • 複数の変数に関わる大量のデータに対して、変数間の相互関係を分析する統計的手法を、多変量データ解析という。変数を数学的に変換したり、行列因子分解したりすることで、結果が可視化される。
注4) プロテオグリカン
  • コアタンパク質に、原則としてウロン酸とアミノ糖の2糖の繰り返し構造からなる直鎖状糖鎖が結合したもの。
注5)ラベルフリーイメージング
  •  染色等の前処理を行わず、ありのままの細胞や組織を非標識で画像化する手法。

研究資金

本研究は、科研費、JST戦略的創造研究推進事業(さきがけ)、先進医薬研究振興財団、他の研究プロジェクトの一環として実施されました。

掲載論文

  • 【題名】Raman microspectroscopy and Raman imaging reveal biomarkers specific for thoracic aortic aneurysms (胸部大動脈瘤におけるラマン顕微鏡とイメージングによるバイオマーカーの同定)
  • 【著者名】Kaori Sugiyama, Julia Marzi, Julia Alber, Eva M. Brauchle, Masahiro Ando, Yoshito Yamashiro, Bhama Ramkhelawon, Katja Schenke-Layland*, Hiromi Yanagisawa*.
    †Co-first authors, *Co-corresponding authors 本研究は、筑波大学、早稲田大学、Eberhard Karls University Tübingen(ドイツ)、New York University Langone Health(アメリカ)との国際共同研究によって行われました。
  • 【掲載誌】 Cell Reports Medicine
  • 【掲載日】 2021年4月28日
  • 【DOI】10.2139/ssrn.3606775

第9回WASEDA e-Teaching Award受賞者決定(2020年度)

著者: contributor
2021年4月6日 10:07

2021年3月19日、第9回WASEDA e-Teaching Award 受賞者決定

WASEDA e-Teaching Awardは、以下の3点を目的に、大学総合研究センターが実施しています。

  • ICTの中でも、特にLMSやネットワークを活用して教育効果の向上をはかる取り組みをe-Teachingと定義し、その実践的な取り組みで成果を上げるGood Practiceを共有する。
  • 教育効果を上げているe-Teaching の取り組みを表彰し顕在化させることで、相乗効果により、教員のモチベーションを高め、より質の高い教育の提供、学習効果の向上に寄与する。
  • エントリーされた教員やそのe-Teaching手法を、早稲田大学の優れた教育事例として公開することで、本学の教育内容の透明化を図り、社会からの理解と評価を求めることにも繋げる。

WASEDA e-Teaching Award

WASEDA e-Teaching Award受賞者・事例詳細
※WASEDA e-Teaching AwardはGood Practice賞受賞者の中から決定されます。

WASEDA e-Teaching Award 大賞

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早水 桃子
町田 学
中村 憲史
理工学術院 講師
早稲田大学非常勤講師
早稲田大学非常勤講師
学生が使い慣れた ICT ツールの利用で、フルオンデマンド授業でも学生と教員、学生同士の緊密なコミュニケーションを実現

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※資格・所属は受賞当時のもの

WASEDA e-Teaching Award

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遠矢 浩規 政治経済学術院 教授 教員の顔や肉声がなくても学生との意思疎通が濃密に。4つのポリシーと新しい授業スタイルで「配信が待ち遠しい」オンデマンド授業を実現

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梅森 直之
小山 淑子
政治経済学術院 教授
留学センター 准教授
オンライン授業は、対面の代替手段ではない。オンラインだからこそ実現した学生同士の「率直な意見交換」
村田 信之 グローバルエデュケーションセンター 客員准教授 1年生の心情を考慮し、学生スタッフと協力して4月から自主的に模擬授業を開始

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WASEDA e-Teaching Award Good Practice賞受賞者・事例詳細

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柳谷 あゆみ 早稲田大学非常勤講師 PowerPoint に肉声を重ねて動画を作成。一度 ZOOM で録画するとサイズを縮小できる

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石村 康生 理工学術院 教授 学生同士で行う課題の相互評価に、Moodleのワークショップがうまく機能した

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笠原 和起 早稲田大学非常勤講師 オンライン授業はアクティブラーニングと親和性が高いと実感した
木下 直子 日本語教育研究センター 准教授 自分のペースで学べる「オンデマンド授業」と週1回の「リアルタイム配信授業」のブレンデッド授業を展開

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杉中 拓央 早稲田大学非常勤講師 音声認識でZOOM に字幕を表示。保存したログを分析し、プレゼン指導に活用する
松岡 亮二 留学センター 准教授 反転授業やペアでの議論など、対面での手法をオンラインでも 継続。I C Tツールの活用でメリットを感じた手法も
中島 さやか 文学学術院 准教授 Moodleなどの活用で、目標言語であるスペイン語のインプットを増やすことができた
ドボルザーク グレッグ 国際学術院 教授 独自のコースガイドや講義ビデオなど、ICT ツールを駆使して学生の興味を引くさまざまなコンテンツを提供
スペロー サッチャー オースティン 国際学術院 講師 Moodle の各機能とスマホアプリ等を駆使した授業を展開、オンラインでも相互の学び合いを実現
石井 裕之
岩田 浩康
大谷 拓也
亀崎 允啓
菅野 重樹
高西 淳夫
長濱 峻介
三浦 智
理工学術院 准教授
理工学術院 教授
理工学術院 次席研究員
理工学術院 主任研究員
理工学術院 教授
理工学術院 教授
理工学術院 次席研究員
早稲田大学非常勤講師
「学 生 を 置 い て き ぼ り に し な い 」手 厚いサポートと、繰り返し学習用コンテンツの充実で理論の理解度も向上
大久保 洋子 早稲田大学非常勤講師 音声データを活用したオンデマンドでの文法学習とリアルタイム授業の組み合わせで学習効果をアップ
田中 祐輔 早稲田大学非常勤講師 オンデマンドとリアルタイムを組み合わせた双方向的ブレンド型講義により学生同士の能動的な学びを実現

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※資格・所属は受賞当時のもの

本学の表彰制度についてはこちらのページで紹介しています。

2020年度卒業式を執り行いました

著者: contributor
2021年3月29日 14:06

2021年3月25日、26日に、戸山キャンパスの早稲田アリーナにて、2020年度学部卒業式、芸術学校卒業式および大学院学位授与式を執り行いました。

今回は、学生およびご家族の方々の健康と安全に配慮し、新型コロナウイルス感染症拡大を防止する観点から、式典への参加対象を卒業生、修了生のみに限定し、参加人数が分散するよう式典の回数・時間を調整のうえでの実施となりました。式典の模様は、来場いただくことができなかった方に向け、インターネットでライブ配信されました。
※式典当日のアーカイブ映像に関しては、本ページの末尾をご覧ください。

2020年度は、学部卒業者8,332名、芸術学校卒業者40名、修士課程修了者2,054名、専門職学位課程修了者492名、博士学位受領者210名、合計11,128名が新たな門出を迎えました。

式典では、総代、副総代および博士学位受領者の紹介に続き、田中愛治総長より卒業生へ式辞が送られました。

総長は、式辞で「卒業生の皆さんは早稲田でたくましい知性を養い、しなやかな感性を育んだと思います。皆さんは早稲田で身につけた自分の頭で考える力に自身を持って、社会に出て活躍してください。あるいは、さらなる上のレベルの学問を追究していってください。」と述べ、「皆さんはぜひとも、早稲田で学んだことに自身を持ち、ご自身がやりがいがあると思うことに勢力を傾けて人生を切り開いていってください。」と激励しました。

総長式辞の全文

その後、萬代晃・校友会代表幹事より新しく校友となる卒業生に対して激励と歓迎の挨拶がありました。

また、学術・スポーツで特に優れた成果をあげた学生または団体に対して授与される小野梓記念賞の紹介が行われ、今年度の小野梓記念賞は、学術賞9件、スポーツ賞26件でした。

2020年度小野梓記念賞受賞者一覧
https://www.waseda.jp/inst/student/assets/uploads/2021/03/2020onoazusa.pdf

卒業式アルバム

Waseda Live

※各回のアーカイブ動画は、4月初旬ごろに公開いたします。しばらくお待ちください。
※式典当日のライブ配信映像(全体)は、各回のアーカイブ動画掲載まで、以下のURLよりご覧いただけます。

2021325日(木)ライブ配信映像 https://youtu.be/Ny1FLSlXzOk
2021326日(金)ライブ配信映像 https://youtu.be/W16dqpqHPbw

2021325日(木) 第1回式典

対象:政治経済学部・法学部・政治学研究科・経済学研究科・法学研究科・法務研究科

※URL:後日公開

2021325日(木) 第2回式典

対象:政治経済学部・法学部・政治学研究科・経済学研究科・法学研究科・法務研究科

※URL:後日公開

2021325日(木) 第3回式典

対象:文化構想学部・文学部・文学研究科

※URL:後日公開

2021326日(金) 第4回式典

対象:教育学部・人間科学部(通信教育課程を含む)・スポーツ科学部・教育学研究科・人間科学研究科・スポーツ科学研究科

※URL:後日公開

2021326日(金) 第5回式典

対象:国際教養学部・基幹理工学研究科・創造理工学研究科・先進理工学研究科・国際情報通信研究科・情報生産システム研究科・環境・エネルギー研究科・アジア太平洋研究科・日本語教育研究科・国際コミュニケーション研究科

※URL:後日公開

2021326日(金) 第6回式典

対象:基幹理工学部・創造理工学部・先進理工学部・芸術学校

※URL:後日公開

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