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ReDoS脆弱性の自動修正技術を実現

著者: contributor
2022年4月11日 12:07

プログラム中の文字列チェック機能の脆弱性を自動修正する技術を世界に先駆けて実現

~専門知識をもたない開発者でもReDoS脆弱性の修正が容易に~

日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:澤田 純、以下「NTT」)と学校法人早稲田大学(本部:東京都新宿区 理事長:田中愛治 以下、「早稲田大学」)は、文字列のチェック機能の処理時間を長期化させコンピュータの負荷を大幅に増大させる攻撃を引き起こす脆弱性に対する実用的な自動修正技術を世界に先駆けて実現いたしました。文字列のパターンマッチに用いられる正規表現※1とは、特定の文字の並び(文字列)をルールに基づき簡略化して表現する方法で、Webサービスなどにおいてユーザの入力値が期待したものであるかの検証など幅広い場面で利用されています。難解な正規表現の仕組みやルールを深く理解し、検証すべき文字列を厳密に定義できていないと脆弱性になってしまうため、近年グローバルで大きな脅威となっています。この技術によって、専門知識をもたない開発者でもこうした正規表現の脆弱性の修正が可能となり、安全なサービスの実現が期待できます。

1.背景

ソフトウェアの脆弱性を悪用するサイバー攻撃は後を絶たず、世界中で大きな被害が報告されています。脆弱性とは、プログラムの不具合や設計上のミスなどが原因となって発生するセキュリティ上の欠陥であり、なかでも正規表現を用いた文字列のパターンマッチを行う機能に対して、処理時間が長くなる入力を与えることで計算リソースを消費しサービス運用妨害を引き起こす脆弱性をReDoS脆弱性※2と言います。

正規表現は、ほとんどのプログラミング言語に組み込まれて利用されており、入力文字列が意図されたパターンと一致するか否か(例えば、メールアドレスや電話番号の形式チェック)を判断するエンジン等として、さまざまなソフトウェア/サービスで幅広く利用されています。このReDoS脆弱性が原因で商用のサービスが停止するようなインシデントは、この数年の間にたびたび発生しており、グローバルで大きな脅威として注目を集めています。

2.研究の成果

正規表現は形式言語理論に端を発していますが、パターンマッチの発展・応用に伴って利用可能な演算子が拡張され、実際のソフトウェアで利用される実世界の正規表現※3は従来の理論では扱うのが難しいことが知られています。これまで、実世界の正規表現のReDoS脆弱性を自動的に修正する技術は存在しませんでした。

本成果では、実世界の正規表現を対象にReDoS脆弱性および脆弱性のないことを保証する条件を厳密に定義してReDoS脆弱性の修正問題を形式化し、その修正問題を解くアルゴリズムを考案し、理論的な保証付きのReDoS脆弱性自動修正技術を世界に先駆けて実現しました。

NTTは、実世界の正規表現におけるReDoS脆弱性の定義や修正問題の定義、修正アルゴリズムを考案し、早稲田大学理工学術院の寺内多智弘教授はNTTが考案した手法の理論的な正確さの検証を行いました。

本成果は、セキュリティとプライバシー分野の最難関国際会議IEEE S&P 2022(43rd IEEE Symposium on Security and Privacy)※4に採録されました。S&Pは、1980年から続くセキュリティ・プライバシー分野のトップレベルの国際会議であり、採択率12%程度の狭き門であることが知られています。

3.技術のポイント

本技術のポイントは、①従来の理論では扱いづらかった実世界の正規表現を対象に「ReDoS脆弱性」「ReDoS脆弱性がないことを保証する条件」「ReDoS脆弱性の修正問題」の3点を論理モデルとして明確に定義したこと、②論理モデルに基づいて定義された脆弱性がないことを保証する性質と、プログラムが満たすべき入出力の例をもとに自動でプログラムを生成する「Programming by Examples (PBE)」メソッド※5を用い、修正対象となる正規表現および利用者が望む正規表現に対するポジティブな例(受理される文字列)とネガティブな例(拒否される文字列)を与えると、それらの例を正しく分類し、ReDoS脆弱性がないことを保証した正規表現を出力するアルゴリズムを考案したことです。

このアルゴリズムではReDoS脆弱性がないことを保証するために、正規表現の書き方から曖昧さを排除し、任意の文字列に対してパターンマッチの方法を一意に定める条件を定義し、それに合う修正正規表現を出力させることにより、出力結果に理論的にReDoS脆弱性がないことを保証しています。

このように、プログラムがある性質を満たすことを論理的に検証し、特定の不具合が存在しないことを保証する手法は「形式検証※6」と呼ばれ、従来の発見型のレビューやテストによる網羅性を持たない検証の問題点を解決でき、高品質なソフトウェアを効率的に生成できると期待されています。

4.今後の展開

本技術は、世界中で幅広く使われている正規表現の脆弱性を自動的に修正する技術であり、安全なソフトウェアの創出を可能にするものと期待されます。

発表について

本成果は、2022年5月22~26日に開催されるセキュリティとプライバシー分野の最難関国際会議IEEE S&P 2022(43rd IEEE Symposium on Security and Privacy)にて、下記のタイトル及び著者で発表されます。(所属組織名は投稿時のもの)

タイトル:Repairing DoS Vulnerability of Real-World Regexes
著者:Nariyoshi Chida (NTT Secure Platform Laboratories), Tachio Terauchi (Waseda University)

用語解説

※1 正規表現

コンピュータで特定の文字の並び(文字列)をルールに基づき簡略化して表現する方法の1つで、特定の文字列のパターンを検索・抽出・置換するときに用いられる。

※2 ReDoS脆弱性

ReDoSとはRegular Expression Denial of Serviceの略で、正規表現のパターンマッチにかかる処理時間を長期化させて計算リソースを消費し、サービス停止を引き起こすような正規表現の脆弱性のことを表す。

※3 実世界の正規表現

形式言語理論において正規言語を表すために導入された純粋正規表現とは異なる性質を持つ、実際のソフトウェアで利用されている拡張された正規表現のことを表す。具体的には、純粋正規表現にはない演算子(後方参照、先読み)を利用可能な正規表現を示している。

※4 S&P

IEEEが主催するセキュリティとプライバシー分野のトップ会議 IEEE Symposium on Security and Privacyであり、最先端のセキュリティ対策技術が発表される。

※5  Programming by Examples (PBE)メソッド

プログラミングの知識を持たないエンドユーザでもプログラムを生成できるようにする手法の1つで、プログラムが満たすべき入出力の例を与えると、それを実現するプログラムを自動で生成する技術。

※6 形式検証

プログラムの状態をモデル化し、ある性質を満たしていることを論理的に検証する高信頼なソフトウェアを設計・開発する手法。

Most Distant Galaxy Candidate Yet

著者: contributor
2022年4月11日 10:08

Figure 1 Three-color image of HD1, the most distant galaxy candidate to date, created using data from the VISTA telescope. The red object in the center of the zoom-in image is HD1. (Credit: Harikane et al.)

An international astronomer team has discovered the most distant galaxy candidate to date, named HD1, which is about 13.5 billion light-years away. This discovery implies that bright systems like HD1 existed as early as 300 million years after the Big Bang. This galaxy candidate is one of the targets of the James Webb Space Telescope launched late last year. If observations with the James Webb Space Telescope confirm its exact distance, HD1 will be the most distant galaxy ever recorded.

To understand how and when galaxies formed in the early Universe, astronomers look for distant galaxies. Because of the finite speed of light, it takes time for the light from distant objects to reach Earth. If an object is 1 billion light-years away, it means that the light left that object 1 billion years ago and had to travel for 1 billion years to reach us. Thus studying distant galaxies lets us look back in time.

The current record holder for the most distant galaxy is GN-z11, a galaxy 13.4 billion light-years away discovered by the Hubble Space Telescope. However, this distance is about the limit of Hubble’s detection capabilities.

HD1, a candidate object for the earliest/most-distant galaxy at 13.5 billion light-years away, was discovered from more than 1,200 hours of observation data taken by the Subaru Telescope, VISTA Telescope, UK Infrared Telescope, and Spitzer Space Telescope. “It was very hard work to find HD1 out of more than 700,000 objects,” says Yuichi Harikane, an assistant professor of ICRR, the University of Tokyo, who discovered HD1. “HD1’s red color matched the expected characteristics of a galaxy 13.5 billion light-years away surprisingly well, giving me a little bit of goosebumps when I found it.”

The team conducted follow-up observations using the Atacama Large Millimeter/submillimeter Array (ALMA) to confirm HD1’s distance. Akio Inoue, a professor at Waseda University, who led the ALMA observations, says, “We found a weak signal at the frequency where an oxygen emission line was expected. The significance of the signal is 99.99%. If this signal is real, this is evidence that HD1 exists 13.5 billion light-years away, but we cannot be sure without a significance of 99.9999% or more.”

HD1 is very bright, suggesting that bright objects already existed in the Universe only 300 million years after the Big Bang. HD1 is difficult to explain with current theoretical models of galaxy formation. Observational information on HD1 is limited and its physical properties remain a mystery. It is thought to be a very active star-forming galaxy, but it might be an active black hole. Either possibility makes it a very interesting object. In recognition of its astronomical importance, HD1 was selected as a target for the cycle 1 observations by the James Webb Space Telescope, launched last year. Yuichi Harikane, who is leading these observations, says, “If the spectroscopic observation confirms its exact distance, HD1 will be the most distant galaxy ever recorded, 100 million light-years further away than GN-z11. We are looking forward to seeing the Universe with the James Webb Space Telescope.”

This research will be published in the April 8, 2022 issue of The Astrophysical Journal as Yuichi Harikane, et al. “A Search for H-Dropout Lyman Break Galaxies at z~12-16”. This work was supported by the Japanese Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology (MEXT), the Japan Society for the Promotion of Science (17H06130, 19J01222, 20K22358, 21K13953), and the NAOJ ALMA Scientific Research Grant (2020-16B).

Figure 2 Earliest galaxy candidates and the history of the Universe.
(Credit: Harikane et al., NASA, ESA, and P. Oesch (Yale University))

Journal: The Astrophysical Journal
Title: “A Search for H-Dropout Lyman Break Galaxies at z~12-16”
Authors: Yuichi Harikane, Akio K. Inoue, Ken Mawatari, Takuya Hashimoto, Satoshi, Yamanaka, Yoshinobu Fudamoto, Hiroshi Matsuo, Yoichi Tamura, Pratika Dayal, L. Y. Aaron Yung, Anne Hutter, Fabio Pacucci, Yuma Sugahara, and Anton M. Koekemoer
DOI:10.3847/1538-4357/ac53a9
URL:https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ac53a9
https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2021arXiv211209141H/abstract

135億光年彼方の最遠方銀河候補発見

著者: contributor
2022年4月11日 10:06

135億光年かなたの最遠方銀河の候補を発見

図 1 研究チームが発見した、観測史上最遠方の銀河候補HD1の擬似カラー画像。拡大図の中心にある赤い天体が、今回発見された最遠方銀河候補HD1です。VISTA望遠鏡による3色の観測データを合成することで、画像に色をつけています。(クレジット: Harikane et al.)

1.発表者

播金 優一(東京大学宇宙線研究所 宇宙基礎物理学研究部門 助教)
井上 昭雄(早稲田大学 理工学術院先進理工学部 教授)

2.発表のポイント

  • 135億光年かなたの宇宙に明るく輝く銀河の候補を発見しました。現在見つかっている銀河の中で最遠方の候補です。
  • 発見された銀河は非常に明るく、これまでの銀河形成モデルでは予想されていなかったような天体です。
  • 銀河候補はジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の第1期観測ターゲットになっており、今後の観測でこの時代の宇宙について、大きく理解が進むことが期待されます。

3.発表概要

東京大学宇宙線研究所の播金優一助教、早稲田大学理工学術院先進理工学部の井上昭雄教授を中心とする国際研究チームは、135億光年かなたの宇宙に存在する明るい銀河の候補、HD1を発見しました。この発見はHD1のような明るい天体が、ビッグバン後わずか3億年の宇宙に既に存在していたことを示唆しています。この銀河候補は昨年末に打ち上げられたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の第1期観測のターゲットになっており、分光観測により正確な距離が確認されれば、これまでの記録を塗り替える最遠方の銀河になります (注)。

本成果を記した論文は、2022年4月8日に米国の天文学誌『アストロフィジカル・ジャーナル』(The Astrophysical Journal) の電子版に掲載されました。

論文名:A Search for H-Dropout Lyman Break Galaxies at z~12-16

4.発表内容

① 研究の背景・先行研究における問題点

最遠方銀河の観測は、単に人類の知の地平線を広げるだけでなく、天文学的には宇宙で最初に誕生した初代銀河の形成を知る上でも重要です。初期宇宙において銀河がいつどのように生まれたのかを理解するために、天文学者たちはより昔、つまりより遠方の銀河を探してきました。これまで見つかった銀河の中で最も遠方のものは、ハッブル宇宙望遠鏡が発見した134億光年かなたの銀河、GN-z11でした。しかしさらに遠方の135億光年かなたの銀河は、これまで候補すら見つかっていませんでした。これは135億光年かなたの銀河からの光の波長は宇宙の膨張のために1.7マイクロメートルよりも伸びてしまうため、ハッブル宇宙望遠鏡のカバーする1.7マイクロメートルまでの波長では観測が難しかったためです。

② 研究内容

そこで播金優一助教らは、ハッブル宇宙望遠鏡よりも長い波長をカバーしている地上望遠鏡の観測データを用いて、GN-z11よりも遠方の宇宙に存在する銀河を探査しました。研究チームをリードした播金優一助教はこう語ります。「135億光年かなたの銀河を探すには現状では長い波長をカバーしている地上望遠鏡の画像を使う必要があるのですが、このような試みはこれまで行われてきませんでした。これは地上望遠鏡はハッブル宇宙望遠鏡に比べて感度が悪く、普通は暗いと考えられている遠方銀河の探査には不向きだと思われていたためです。しかし我々は最近の複数の研究結果から明るい遠方銀河も実は存在するのではないか、と仮説を立て、地上望遠鏡の画像データを使って135億光年かなたの銀河を探し始めました。」

すばる望遠鏡、VISTA望遠鏡、UK赤外線望遠鏡、スピッツァー宇宙望遠鏡の合計1200時間以上の観測によって得られた70万個以上の天体データから、135億光年かなたの最遠方銀河の候補天体、HD1が発見されました。「70万個以上の天体からHD1を見つけるのはとても大変な作業でした。」実際にHD1を発見した播金優一助教は話します。「銀河の探索条件を変えながら何度も画像データを調べ上げて、数ヶ月かけてやっとHD1に出会うことができました。HD1の色は赤く、135億年前の銀河の予想される特徴と驚くほどよく一致しており、見つけた時には少し鳥肌が立ちました。銀河のスペクトルモデルを使った詳細な解析を経て、私たちはHD1は135億年前の銀河だという解釈が最も妥当だと結論づけました。しかし確証を得るためには、正確な距離を測ることのできる分光観測が必要です。」

そこで研究チームは酸素輝線を検出するために、ALMA望遠鏡を用いて分光観測を行いました。分光観測をリードした井上昭雄教授はこう語ります。「我々は酸素輝線が予想される周波数に弱いシグナルを見つけました。シグナルの有意度は99.99%です。もしこのシグナルが本物なら、HD1は135億光年かなたに存在していることの証拠になりますが、99.9999%の有意度がないと確証は持てません。一方でシグナルが弱いことは酸素が少ないこと、つまりHD1はできたての初代銀河のような性質を持つことを示しているのかもしれません。」

HD1は非常に明るく、これはHD1のような明るい天体がビッグバン後わずか3億年の宇宙に既に存在していたことを示唆しています。HD1の存在は、これまでの銀河形成の理論モデルでは予言されていませんでした。HD1に関する観測的な情報は限られており、物理的な性質は謎に包まれています。非常に活発な星形成をしている銀河だと考えられますが、一方で活動的なブラックホールだという説もあります。どちらの説でも非常に興味深い天体です。

③ 社会的意義・今後の予定

HD1はその天文学的な重要性が認められて、去年に打ち上げられたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の第1期観測のターゲットになっています。播金優一助教はこの宇宙望遠鏡による観測も主導しています。「HD1はジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の分光器の1つ、NIRSpecにより観測が行われる予定です。もし分光観測により正確な距離が確認されれば、GN-z11より1億光年遠い、これまでの記録を塗り替える最遠方の銀河になります。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡では他にもワクワクするような観測がたくさん予定されており、今から観測が非常に待ち遠しいです。」

※今回の研究は、科学研究補助金 (番号 17H06130, 19J01222, 20K22358, 21K13953) 、国立天文台ALMA共同科学研究事業2020-16Bによるサポートを受けています。

5.発表雑誌

雑誌名:The Astrophysical Journal (2022年4月8日掲載)
論文タイトル:A Search for H-Dropout Lyman Break Galaxies at z~12-16
著者: Yuichi Harikane, Akio K. Inoue, Ken Mawatari, Takuya Hashimoto, Satoshi, Yamanaka, Yoshinobu Fudamoto, Hiroshi Matsuo, Yoichi Tamura, Pratika Dayal, L. Y. Aaron Yung, Anne Hutter, Fabio Pacucci, Yuma Sugahara, and Anton M. Koekemoer
DOI番号:10.3847/1538-4357/ac53a9
URL:https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ac53a9
https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2021arXiv211209141H/abstract

注記

(注) 今回見つかった銀河候補HD1の推定赤方偏移はz=13.3でした。赤方偏移は宇宙論的距離を表す際に使われる指標です。Planck 観測機チームが2015年に公表した宇宙論パラメータ (Planck Collaboration 2016, “Planck 2015 results. XIII.Cosmological parameters”, “TT,TE,EE+lowP+lensing+ext” in Table 4; H0 =67.74 km/s/Mpc, Ωm=0.3089, ΩΛ=0.6911) を用いて赤方偏移から距離を計算すると134.8億光年となり、HD1は134.8億年前に存在していたことになります。一方で宇宙は膨張していますので、現在の宇宙では我々とこの銀河候補の距離は134.8億光年以上になります。参考としてGN-z11は赤方偏移がz=11.0で、133.8億光年かなたの宇宙に存在しています。また今回の研究ではHD1の他に、134.4億光年かなた (赤方偏移z=12.3)に存在する銀河の候補、HD2も見つかっており、こちらもジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測が行われる予定です。

図2 発見された最遠方銀河候補と宇宙の歴史。最遠方銀河候補HD1は推定赤方偏移z=13.3と、GN-z11(赤方偏移z=11.0)よりも約1億光年遠い宇宙に存在すると予想されています。(クレジット:Harikane et al., NASA, ESA, and P. Oesch (Yale University))

「細菌とファージの攻防」(2022/4/16)

著者: staff
2022年3月31日 15:37

演題:細菌とファージの攻防

 

日時:2022年4月16日(土) 9:30 – 11:00

 

会場:オンライン(Zoom)による開催

 

講師:大塚 裕一(埼玉大学  理学部  分子生物学科・准教授)

 

対象:学部生・大学院生、教職員、学外者、一般の方

 

参加方法:参加希望者は[email protected] (常田)まで連絡してください。

参加のためのZOOM情報をご連絡します。

 

主催:早稲田大学 先進理工学研究科 生命医科学専攻

 

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

 

TEL:03-5286-3000

2023年度「物理Q&A」/ Physics Q&A AY2023(23/4/3Updated)

著者: staff
2023年4月3日 09:00

1年生の物理に関してわからないことがあれば気軽に物理Q&Aをご利用ください。先輩が優しく教えてくれます。相談を希望の場合は以下の開室日時に55号館N棟3階305Aゼミ室までお越しください(予約不要)。
If you have any questions about physics courses in the 1st year, feel free to come to “Physics Q&A”. TA will answer to your questions! You may visit “Physics Q&A” at Room 305A on the 3rd floor of Bldg.55N during the opening hours without appointment

重要/Important note

開室時間外は対応はできません.また,試験問題の解答そのものを求めることは,不正行為とみなされる場合があります.We are able to respond your inquiries ONLY opening hours. Also, asking for the answers of the exam questions themselves may be considered cheating.

開室日時/Opening hours

月曜日 Monday 11:00-14:00 (LO 13:30)
水曜日 Wednesday 10:00-13:00 (LO 12:30)
木曜日 Thursday 10:00-13:00 (LO 12:30)
金曜日 Friday 10:00-13:00 (LO 12:30)

※授業期間中(春学期4月12日~7月24日,秋学期10月5日~1月27日(2024年))のみ開室。Open during spring semester (April 12-July 24) and fall semester (October 5-January 27, 2024).

ご卒業・修了おめでとうございます。2021年度学位授与式が行われました。

著者: staff
2022年3月28日 11:02

3月26日(土)、西早稲田キャンパスにおいて学科・専攻ごとの学位授与式が行われました。ご卒業・修了を迎えられた皆さん、おめでとうございます。今後のご活躍をお祈りしています!

 

 

 

 

 

“発酵おから”の抗肥満効果

著者: contributor
2022年3月23日 13:42

“発酵おから”による脂質代謝改善と抗肥満効果

発表のポイント

  • 産業廃棄物でもある “おから” の有効利用のため、麹菌による発酵を試みた
  • 発酵おからは、未発酵おからに比べ、有用成分である栄養プロファイル含有量が増加
  • 高脂肪食に発酵おからを混合したことにより、マウスの脂質異常・肥満が大きく改善された

概要

早稲田大学理工学術院 先進理工学研究科 修士課程2年在籍の市川 なつみ(いちかわ なつみ)と、同学術院の柴田 重信(しばた しげのぶ)教授、およびシンガポールの南洋理工大学Ken Lee准教授を中心とする研究グループは、麹菌を用いておからを固体発酵させることが有用成分を変化させ、総フェノール量、タンパク質含有量、アミノ酸含有量といった栄養プロファイルが改善されることを発見しました。また、高脂肪食に発酵おからを混合することにより、マウスの脂質代謝が改善され、抗肥満や脂質異常の改善効果を示すことを明らかにいたしました。

本研究成果は、『Metabolites』に、”Solid-State Fermented Okara with Aspergillus spp. Improves Lipid Metabolism and High-Fat Diet Induced Obesity”として、2022年2月23日(水)付けでオンライン掲載されました。

大豆加工品の需要に伴い、おからは産業廃棄物として大量に出てくるため、その利活用が課題となっています。本研究グループは、麹菌のAspergillus oryzae(A. oryzae)とAspergillus sojae(A. sojae)を組み合わせ、固体発酵によっておからの機能性が向上することを発見し、発酵おからが抗肥満、脂質代謝異常の改善効果を示すことをマウスのモデルで見出すことに成功しました。今回開発した発酵おからは、肥満や脂質異常症を改善できる食材になることが期待できるとともに、環境と経済の両面で、食品廃棄物の問題解決、有用な機能性食品の改良、SDGs(持続可能な開発目標)への貢献も期待できます。

(1)これまでの研究で分かっていたこと

おからは食物繊維やタンパク質、ポリフェノール等を含み、栄養価が高いことが知られています。また、様々な食用微生物を用いた固体発酵※1により、おからの栄養成分が向上することも知られています。しかし、発酵おからは機能性食品としての利点があるにも関わらず、これまで肥満に対する効果について調査した研究は限られていました。さらに、おからの廃棄処理の多さから、その利活用が課題となっていることから、発酵おからの機能性を検証することで食品廃棄物の問題と肥満予防を同時に解決できるのではないかと考えました。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

本研究では、安全性が担保されている日本の伝統的な麹菌6種類ほどから、Aspergillus oryzaeA. oryzae)とAspergillus sojaeA. sojae※2などを組み合わせ、固体発酵によっておからの機能性向上を試みました。さらに、開発した発酵おからの摂取が食事誘発性肥満に及ぼす影響をマウスモデルで定量的に明らかにしました。固体発酵と成分分析を南洋理工大学が担当し、マウスによる検証を早稲田大学が担当するという共同研究の成果です。

① 麹菌を用いた固体発酵により肥満抑制に対するおからの栄養構成が向上

本研究では、6種類の中からA. oryzaeA. sojaeの混合麹菌を用いて4日間固体発酵させたところ、おからの栄養因子が大きく変化しました。総フェノール量、タンパク質量、総アミノ酸量(図1右)、糖類は増加し、食物繊維量が減少しました。

② 麹菌固体発酵おからはマウスの脂質代謝を改善し、脂肪の蓄積を抑制

固体発酵させることにより栄養構成が向上した発酵おからが、実際に肥満に対してどのような影響を与えるかを調べるために、高脂肪食に発酵おからを混ぜ、脂肪重量や血清パラメータなどを測定しました。マウスを(1)通常食、(2)高脂肪食+カロリーコントロール食*、(3)高脂肪食+未発酵おから、(4)高脂肪食+発酵おから の4群に分け、以下の餌を各群に与えて3週間飼育しました。その結果、発酵おからは未発酵おからと比較して、脂肪蓄積と体重増加を抑制することが分かりました(図2上)。また、発酵おからの添加により肝臓中、血清中のコレステロールが減少しました(図2下)。脂質の代謝や合成に関わる遺伝子発現が変化していたことから、発酵おからは脂質代謝を改善することによって脂肪蓄積や体重増加を抑制することが示唆されました。

(3)研究の波及効果や社会的影響

麹菌を用いた固体発酵おからは栄養成分が増加し、さらに脂質代謝を改善することが明らかとなりました。世界人口の3分の1近くが「体重過多」または「肥満」である現代において、肥満問題の解消は急務であり、本研究で開発した発酵おからもまた、機能性食品としての実用化が期待できます。さらに、おからの廃棄問題は日本のみならず、今回共同研究したシンガポールにおいても深刻な問題であり、機能性改善により食品産業でのおからの利用が進めば、環境と経済の両面で廃棄問題の解決、SDGs(持続可能な開発目標)にも貢献できる可能性があります。

(4)今後の課題

実際に固体発酵おからのどの栄養素が脂肪蓄積に大きく寄与したのかを解明することで、より高機能な発酵おからの開発につなげることができます。また、発酵おからの全成分を同定しておらず、固体発酵おからの安全性の検証、風味の検証あるいは詳細な作用機序解明など、実用化のためには多くの解決すべき課題があります。

(5)研究者からのコメント

本研究では、日本の伝統的な麹菌を用いた固体発酵により機能性の高いおからを開発することができました。近年、健康志向が高まっていることも受け、日本の文化でもある大豆製品、発酵食品のさらなる発展が期待されます。

(6)用語解説

※1 固体発酵
自由流動性の水分がない状態での微生物による発酵方法のひとつ。液体発酵に対し、固体を主な媒体として発酵が行われ、分離や培養制御など困難な点もあるが、酵素生産・発現など有利な点も多い

※2  Aspergillus oryzaeA. oryzae) とAspergillus sojaeA. sojae
清酒、醤油、味噌などの日本の伝統的な発酵食品の製造に用いられる微生物のなかでも、代表的な麹菌の一種。

(7)論文情報

雑誌名:Metabolites
論文名:Solid-State Fermented Okara with Aspergillus spp. Improves Lipid Metabolism and High-Fat Diet Induced Obesity執筆者名(所属機関名):Natsumi Ichikawa1,#, Li Shiuan Ng2, Saneyuki Makino1, Luo Lin Goh2, Yun Jia Lim2, Ferdinandus2,Hiroyuki Sasaki1, Shigenobu Shibata1,* ,Chi-Lik Ken Lee 2,*
# 筆頭著者、*責任著者
所属機関名:1.早稲田大学 理工学術院、2.Division of Chemistry and Biological Chemistry, School of Physical and Mathematical Sciences, Nanyang Technological University
掲載日時(オンライン):2022年2月23日(水)
URL:https://www.mdpi.com/2218-1989/12/3/198
DOI:https://doi.org/10.3390/metabo12030198

(8)研究助成

  • 研究費名:JST未来社会創造事業
    研究課題名:時間栄養学視点による個人健康管理システムの創出
    研究代表者名(所属機関名):柴田 重信(早稲田大学)
  • 研究費名:科学研究費 基盤研究A
    研究課題名:ライフステージ別の体内時計応用の健康科学研究
    研究代表者名(所属機関名):柴田 重信(早稲田大学)

低温で効率よくCO₂の再資源化に成功

著者: contributor
2022年3月23日 13:40

低温で効率よく二酸化炭素を再資源化することに成功

発表のポイント

  •  2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けて、二酸化炭素を容易に再資源化できる技術が期待されている。
  • 新規材料を用い、従来よりも大幅に低温な400~500度においても二酸化炭素の80%以上を反応させ、再資源化することに成功した。
  • 反応速度も工業的な要求を十分に満たせるほどの速さを実現した。

早稲田大学理工学術院の関根 泰(せきね やすし)教授らの研究グループは、コバルトとインジウムという元素を組み合わせた新規材料を用い、従来に比べて大幅に低温で効率よく二酸化炭素を再資源化することに成功しました。

2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けて、二酸化炭素を容易に再資源化できる技術が期待されています。しかし、二酸化炭素の再資源化には700度以上という高温な温度条件が必要であり、その条件を満たしていても、反応を効率良く進めることが難しい現状にありました。

今回研究グループは、新規材料を用い、従来よりも大幅に低温な400~500度においても二酸化炭素の80%以上を反応させることに成功しました。また、その際の反応速度も工業的な要求を十分に満たせるほどの速さ(材料1kgあたり1日に17.7キログラムの二酸化炭素を転換可能)を実現しました。国内外で数多くの研究が行われている中で、本研究成果は二酸化炭素の再資源化の社会実装に向けて進むきっかけになりえます。

本研究成果は、2022年3月17日(木)にイギリス王立化学会の『Chemical Communications』のオンライン版で公開されました。

論文名:Efficient CO2 conversion to CO using chemical looping over Co-In oxide

(1)これまでの研究で分かっていたこと

2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けて、二酸化炭素の再資源化は一つの切り札とされています。二酸化炭素を集めること、ならびにそれを反応させて再資源化させることは、いずれも難しい技術です。特に、化学原料として重要な一酸化炭素を二酸化炭素から作るには、従来700度以上の過酷な条件が必要でした。さらにそのような条件であっても、反応を効率良く進めることは難しく、また高温故に材料選定などにもいろいろな制約が存在しました。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

本研究グループは、高温において二酸化炭素から一酸化炭素を作ることが難しいという問題は、従来の手法の延長では解決できないと考えました。そこで新しい手法を用い、独自に開発した材料によって、高性能化・低温化を実現させようと考えました。この結果、多様な材料を体系的に検討し、コバルトをインジウム酸化物に修飾した新規材料が、本手法のために優れた結果を見出すことを発見しました。この材料は、従来の700度以上必要な条件に比べて、大幅に低温な400~500度においても二酸化炭素の80%以上を反応させられるという画期的な性能を示し、その際の反応速度も工業的な要求を十分に満たせるほどの速さ(材料1kgあたり1日に17.7キログラムの二酸化炭素を転換可能)を実現しました。また、その際の反応メカニズムをSPring-8などの最先端の分光により明らかにしました。

ケミカルループによって二酸化炭素が再資源化されるイメージ

(3)そのために新しく開発した手法

本研究グループは、1.ケミカルルーピング※1という反応場を分ける手法を編み出し、2.そのための優れた材料を生み出し、3.なぜその材料が優れているかを最先端分光などで解析し、これらのPDCAサイクルによって高性能化を実現しました。

(4)研究の波及効果や社会的影響

カーボンニュートラル実現に向けて、化石資源利用からの脱却が期待され、二酸化炭素の再資源化による物質や燃料群の合成技術の開発は待ったなしの状況です。国内外で数多くの研究が行われている中で、このように飛躍的に高い性能・低い温度を実現した本技術は、今後、二酸化炭素の再資源化の社会実装に向けて進むきっかけになりえます。

本手法で従来の化学反応の熱力学平衡(実線)を大きく上回る低温・高性能を実現

(5)今後の課題

ケミカルルーピングという反応場を分ける手法は、まだ産業界ではそう馴染みのある手法ではないため、今後これを実際に運用していくにあたっての課題を見出して解決していく必要があると考えられます。具体的には、反応のサイクルを重ねることによる材料の粉化や劣化をどう抑制するか、などを、今回の共同研究先であるENEOS社と共に検討していきます。

(6)研究者のコメント

国内外で数多く研究されている二酸化炭素再資源化ですが、このような高性能・低温化を実現できたことは非常に喜ばしく、早期に社会実装に向けて共同研究先のENEOS社などの企業とタッグを組んで進めて行きたいと考えています。

(7)用語解説

※1 ケミカルルーピング
材料の酸化と還元を独立した条件で行い、これを繰り返すことで従来の反応に比べて低温化が可能で、生成ガスの分離が不要になる手法。

(8)論文情報

雑誌名:Chemical Communications (イギリス王立化学会)
論文名:Efficient CO2 conversion to CO using chemical looping over Co-In oxide
執筆者名(所属機関名):牧浦 淳一郎(早稲田大学)・柿原 聡太(早稲田大学)・比護 拓馬(早稲田大学)・伊藤 直樹(ENEOS)・平野 佑一朗(ENEOS)・関根 泰(早稲田大学)
掲載日(現地時間):2022年3月17日
掲載URL:dx.doi.org/10.1039/d2cc00208f
DOI:10.1039/d2cc00208f

【学部新入生】2022年度初修外国語ガイダンス&各種ガイダンス資料

著者: staff
2022年3月17日 09:45

初修外国語ガイダンス、各種ガイダンス・学生生活ガイダンスの資料や紹介動画を掲載しています。
リンク先を参照あるいはダウンロードしてご覧ください。

(2022/3/17公開)

理工学術院初修ガイダンス

 

グローバルエデュケーションセンター(GEC)

留学センター

異文化コミュニケーションセンター

学生生活課

キャリアセンター

※理工系就職に関する情報は「就職・インターンシップ」をご参照ください。

こうはいナビ

Support Anywhere

脱炭素化 触媒技術の開発事業に採択

著者: contributor
2022年3月15日 13:12

令和4年度地域資源循環を通じた脱炭素化に向けた革新的触媒技術の開発・実証事業」に採択

2022年3月14日(月)に、環境省が公募した「令和4年度地域資源循環を通じた脱炭素化に向けた革新的触媒技術の開発・実証事業」に、本学が参画する提案事業が採択されました。

提案事業名称:

革新的多元素ナノ合金触媒・反応場活用による省エネ地域資源循環を実現する技術開発

「地域資源循環を通じた脱炭素化に向けた革新的触媒技術の開発・実証事業」とは

2050年カーボンニュートラル、2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度比46%減、更に50%減の高みに向けて、挑戦を続けていくという目標を達成するためには、水素などの脱炭素燃料の活用により脱炭素化を加速させるとともに、プラスチック資源などの活用を始めとした循環経済への移行が求められます。

脱炭素技術や資源循環技術の化学反応を促進させるために用いられる触媒には貴金属やレアメタル等が多用されていますが、需要に追従するように価格高騰が起きやすく、脱炭素化を促進する上で触媒材料の資源制約がボトルネックとなる可能性があります。上記の課題解決のためには、資源制約を生じさせることなく、廃プラスチックや地域の未利用資源等を原料にして、反応の高度化により資源循環を実現する触媒が必要です。

本事業では、地域資源循環を可能とする、革新的で比較的安価な触媒等に係る技術を開発・実証し、社会実装を促進することで、大幅な二酸化炭素の削減や化石燃料に依存しない循環経済の実現に寄与することを目的としています。

引用:環境省WEBサイトより

提案事業の概要

2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、大幅な二酸化炭素の排出削減や化石燃料・資源に依存しないサーキュラーエコノミーを実現することが期待されています。本事業では、京都大学がシーズを有する革新的多元素ナノ合金触媒と、早稲田大学がシーズを有する非在来型触媒反応の融合による画期的な次世代プロセスを開発し、バイオマス地域資源循環システムの開発、そこからの水素などの製造とその実証を、大学と企業の連合体にて進めてまいります。

事業者

国立大学法人京都大学★、学校法人早稲田大学、株式会社クボタ、住友化学株式会社、株式会社フルヤ金属(★代表事業者)

共同実施者

国立大学法人九州大学、学校法人明治大学、国立大学法人名古屋工業大学、国立大学法人信州大学、独立行政法人国立高等専門学校機構明石工業高等専門学校、公益財団法人高輝度光科学研究センター、国立大学法人大阪大学、学校法人慶應義塾大学、国立研究開発法人理化学研究所、自然科学研究機構分子科学研究所、国立大学法人高知大学、国立大学法人静岡大学、株式会社東芝

早大における事業代表者

理工学術院 関根泰教授

関根教授からのコメント

欲しいときに欲しいだけ化学反応を駆動させる、という理念のもとで、オンデマンド駆動化学を提案してまいりました。本事業ではこれに次世代多元素ナノ合金触媒を融合させて、これまでに無い新しい世界を創出し、計算化学・データ駆動化学・高精度分析とリンクし学理確立を進め、世の役に立つプロセスを仕上げていきたいと思います。

内容に関するお問い合せ先

早稲田大学研究推進ワンストップ窓口
https://waseda-research-portal.jp/inquiry/

 

春ウコンに含まれる活性成分を同定

著者: contributor
2022年3月14日 12:56

認知症やパーキンソン病などの神経変性疾患の予防に向けて期待高まる

春ウコンに含まれる3つの生物活性成分を同定

coronarin Dが神経幹細胞からアストロサイトへの分化誘導を強く促進

発表のポイント

秋ウコンと比べて研究が遅れている春ウコンについて、in vitro神経分化誘導システムを用いてクルクミン以外の活性成分の探索を行った

神経幹細胞からアストロサイトへの分化誘導を強く促進する春ウコンの活性成分として、coronarin Dを見出すことが出来た

認知症やパーキンソン病をはじめとした神経変性疾患に対する予防サプリメントへのcoronarin Dの機能応用が期待できる

早稲田大学理工学術院の大塚悟史(おおつかさとし)招聘研究員(研究当時)、および中尾洋一(なかおよういち)教授らの研究グループは、春ウコンCurcuma aromaticaに含まれる生物活性成分として①coronarin C、②coronarin D、③(E)-labda-8(17),12-diene-15,16-dialの3種類を同定しました。そのうち、coronarin Dには神経幹細胞※1からアストロサイト※2への分化誘導を強く促進する活性があることを見出しました。

本研究成果は、米国化学会誌『Journal of Agricultural and Food Chemistry』に2022年3月4日(金)付けでオンライン掲載されました。

【論文情報】

雑誌名:Journal of Agricultural and Food Chemistry
論文名:Coronarin D, a Metabolite from the Wild Turmeric, Curcuma aromatica, Promotes the Differentiation of Neural Stem Cells into Astrocytes

 これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

春ウコン(Curcuma aromatica)は、2000年以上前からアジアを中心に漢方や生薬として広く親しまれてきた食材であり、抗炎症作用や、抗酸化作用、神経保護作用など様々な生物活性を有することが報告されています。これらの多様な春ウコンの効能が経験的に蓄積されてきた結果、現代でも漢方や生薬として利用されていると考えられます。

これまで春ウコンの有効成分について機能解析が進められてきましたが、その多くはウコン由来の主要な有効成分として有名なクルクミンが中心であり、その他の有効成分の探索および機能解析は限られていました。例えば、クルクミンには神経幹細胞の増殖やニューロン※3への分化を促進する作用が知られていますが、それ以外の春ウコン成分の神経幹細胞の増殖、分化調節活性については深く研究されていませんでした。

一方、成人脳内の一部の領域に存在する神経幹細胞は、必要に応じてニューロンやグリア細胞※4などの神経系細胞に分化することで中枢神経系機能のバランスを保っています。近年、グリア細胞の一種であるアストロサイトがアルツハイマー病の原因タンパク質の一つアミロイドβ※5の分解に関わっていることが報告されています。また、アストロサイトの機能異常やアストロサイト数の減少がアルツハイマー病やうつ症状などの神経変性疾患の発症に関与することも明らかになりつつあります。このような背景から、機能異常に陥ったアストロサイトの機能回復を標的とした神経変性疾患治療薬の開発が進められています。しかし、現時点では“正常なアストロサイトそのものの数を増加させる”といった予防医学的観点に立った医薬品の開発研究例は限られています。

今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

そこで本研究グループは、未だ研究の余地が残されている

アストロサイトへの分化誘導を促すことで正常なアストロサイト数を増やす”

という予防医学的な目標を設定しました。そのうえで、未知の生物活性成分が豊富に含まれていると考えられる春ウコンから、アストロサイトへの分化誘導促進活性成分を探索しました。

具体的には、独自に開発したマウスES細胞※6由来神経幹細胞のin vitro神経分化誘導システム※7によるアッセイ系※8を用いて、神経幹細胞からアストロサイトへの分化誘導を促進する活性成分の探索を行いました。アストロサイトへの分化誘導促進活性を指標として、春ウコン抽出物から各種クロマトグラフィーによって活性成分の精製を行いました。これによりラブダン骨格※9を有する3種類の化合物を活性本体として得ることができました。これらの活性化合物についてMSおよびNMRなどの各種スペクトル解析を行った結果、それぞれ① coronarin Cおよび ② coronarin D、③ (E)-labda-8(17),12-diene-15,16-dialと同定することができました(図1)。

 

各化合物の活性を比較した結果、3つの化合物の中ではcoronarin Dが一番強くアストロサイトへの分化誘導を促進し、コントロール条件に比べてアストロサイト分化率が約3倍(3.19±0.366)に増加しました(図2下)。これに対し、coronarin Cおよび(E)-labda-8(17),12-diene-15,16-dialは、類似の構造部分を共有するにもかかわらず、coronarin Dと比較して弱い効果(それぞれコントロール比1.30±0.121、1.45±0.265)しか示さないことが分かりました(図2下)。以上のような構造―活性相関解析の結果、アストロサイトへの分化促進活性には二環性部分(図1青枠部分)に加えて、15-ヒドロキシ-Δ12-γ-ラクトン構造に含まれる二重結合の位置が重要であることが示唆されました(図1赤丸部分)。

アストロサイトへの分化誘導過程で活性化されるシグナル経路のひとつにJAK/STAT※10シグナル経路があります。転写因子のSTAT3※11は活性型のJAK によりリン酸化を受けて活性化される(pSTAT3)と、核内移行してGFAPなどアストロサイトで多く発現している遺伝子の転写を促進する結果、アストロサイトへの分化を誘導することが知られています。そこで、coronarin Dが本シグナル経路を活性化させるか確認するために、フローサイトメトリーを用いてpSTAT3陽性細胞率を分析しました。その結果、coronarin Dはコントロールに比べてpSTAT3陽性細胞率を大幅に増加させました。このことから、JAK/STATシグナル経路を介してアストロサイトへの分化誘導を促進している可能性が示唆されました(図3)。

研究の波及効果や社会的影響

高齢化が進むわが国においては、認知症やパーキンソン病をはじめとした神経変性疾患患者数の増加と、それに伴う医療費負担の増大が問題になっており、その対策は急務と言えます。加齢に伴って生じる神経変性疾患への対策には、治療薬・予防薬の開発が重要なのはもちろんですが、日々摂取する食品もしくはサプリメントを通して予防ができれば、その波及効果は大きいと考えられます。

今回、神経幹細胞からアストロサイトへの分化誘導を強く促進する春ウコンの活性成分として、coronarin Dを見出すことができました。春ウコンは生薬や漢方もしくは食品としても広く使用されてきた歴史があります。アストロサイトへの分化誘導促進成分として今回我々が見出した春ウコン由来のcoronarin Dを食事やサプリメントを通して継続的に摂取することで、加齢による神経変性疾患に対する予防効果が期待できます。また、coronarin Dは元来食品成分であるために、安全性が確認されている天然成分として医薬品開発への応用も期待されます。

今後の課題

今回の成果では、coronarin DがJAK/STATシグナル経路を介してアストロサイト分化を促進している可能性が示唆されたため、今後はこのシグナル経路に関与する遺伝子群や種々の生体分子に注目してcoronarin Dの精密な作用機序解析を行う必要があります。また、今回はマウスES細胞由来の神経幹細胞を用いて活性を評価しましたが、今後はヒトiPS細胞由来の神経幹細胞を用いてヒト細胞における活性の確認や、動物モデルを用いたin vivo活性の評価を行った上で、臨床応用に向けた知見を積み重ねる必要があります。

研究者のコメント

神経幹細胞のアストロサイトへの分化を調節する食品についての研究は限られています。今回、本研究グループが見出した春ウコン由来のcoronarin Dの作用機序解明が進めば、神経変性疾患に苦しむ患者を救う医薬品開発や、加齢に伴う神経変性疾患の予防を通して、健康寿命の延長に貢献できると信じています。

用語解説

※1 神経幹細胞

神経活動を担うニューロンや、その機能を支持するアストロサイトなどのグリア細胞に分化する能力を持つ幹細胞。成人脳内の海馬や側脳室などに分布して必要に応じてニューロンやグリア細胞に分化することで、生涯を通じて神経系細胞を供給し続けることが知られている。

※2 アストロサイト

グリア細胞のひとつで星状膠細胞とも呼ばれている。神経ネットワークの構造の維持のほか、各種神経伝達物質のやり取りにも関与し、脳の機能維持や可塑性に調節している。

※3 ニューロン

神経細胞。樹状突起で他の神経細胞から受け取った刺激を、軸索を通じて別の細胞に伝達することで神経伝達機能を担う。

※4 グリア細胞

神経系を構成する細胞のうち、ニューロン以外の細胞の総称。アストロサイトやオリゴデンドロサイト、ミクログリアなどのグリア細胞がニューロンと協調して神経活動を支えている。

※5 アミロイドβ

アルツハイマー病の原因タンパク質のひとつである40個程度のアミノ酸からなるペプチド。これが異常凝集したものが老人斑として脳内に蓄積することがアルツハイマー病の病理学的特徴の一つとして知られている。

※6 マウスES細胞

マウス胚性(embryonic stem)幹細胞。受精後3、4日目の胚盤胞から取り出して作製される多能性幹細胞の一つで、自己複製能とあらゆる組織の細胞への分化能を持つ細胞のことである。

※7  in vitro神経分化誘導システム

生体内で起こる神経幹細胞からニューロンやアストロサイトなどの神経系細胞への分化誘導過程を培養器内で再現したもの。今回はマウスES細胞由来の神経幹細胞を用いており、培養条件を変えることで細胞増殖と分化誘導の割合を調節することが可能になる。

※8 アッセイ系

被験物質の存在、量、または機能活性を定性的もしくは定量的に評価、測定するための試験。本研究では、各化合物の神経幹細胞からアストロサイトへの分化誘導効率を評価した。

※9 ラブダン骨格

天然の二環性ジテルペンであるラブダンを基本構造とし、ラブダンまたはラブダンジテルペンと総称される幅広い天然化合物を構成する基本骨格。ラブダン骨格を有する化合物には抗菌作用や抗炎症作用など様々な生理活性があることが確認されている。

※10 JAK/STAT

細胞間の情報伝達を行うシグナル経路のひとつ。サイトカインなどの分子が細胞表面の受容体に結合することで活性化したJAK(リン酸化酵素のひとつ)が転写因子STAT3をリン酸化することでシグナルが伝達される。

※11 STAT3

細胞の増殖や分化、細胞死を調節する転写因子。非活性化状態では細胞質に存在するが、JAK によりリン酸化を受けて活性化される(pSTAT3)と、核内移行して標的遺伝子の転写を促進する。活性型であるpSTAT3によってアストロサイトへの分化が誘導されることが知られている。

論文情報

雑誌名:Journal of Agricultural and Food Chemistry
論文名:Coronarin D, a Metabolite from the Wild Turmeric, Curcuma aromatica, Promotes the Differentiation of Neural Stem Cells into Astrocytes
執筆者名(所属機関名):大塚悟史1、2、川村緑1、藤野修太郎1、中村文彬1、新井大祐1、伏谷伸宏2、3中尾洋一1、2*(1:早稲田大学先進理工学部 化学・生命化学科、2:早稲田大学理工学術院総合研究所、3:一般財団法人 函館国際水産・海洋都市推進機構、*責任著者)
オンライン掲載日:2022年3月4日(金)
掲載URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jafc.2c00020
DOI10.1021/acs.jafc.2c00020

研究助成

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費 21H02073、18H02100(中尾洋一)、26221204(吉田稔、国立研究開発法人 理化学研究所)、20KK0130(中山二郎、九州大学 農学研究院)、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター「革新的技術創造促進事業」(異分野融合共同研究)(14538918、中尾洋一)の助成を受けて行われたものです。

「高分子から原子の世界へ ー原子を混ぜてみようー」(2022/3/28)

著者: staff
2022年3月9日 10:19

演題:高分子から原子の世界へ ー原子を混ぜてみようー

 

日時:2022年3月28日(月) 10:00 – 11:30

 

会場:西早稲田キャンパス 55N号館 1階 第二会議室

 

講師:山元 公寿(東京工業大学 教授)

 

対象:学部生・大学院生、教職員、学外者、一般の方

 

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

 

主催:早稲田大学 先進理工学研究科 応用化学専攻

 

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

 

TEL:03-5286-3000

「100年企業におけるデジタルトランスフォーメーションの挑戦」(2022/3/19)

著者: staff
2022年3月3日 15:12

演題:100年企業におけるデジタルトランスフォーメーションの挑戦

 

日時:2022年3月19日(土)13:15-14:45

 

会場:ZOOMによるオンライン講演会

 

講師:黒川 博史(ライオン株式会社DX推進部長)

 

対象:学部生・大学院生、教職員、学外者、一般の方

 

参加方法:参加ご希望の方はメールにて前々日までに [email protected] まで連絡してください。

参加のためのZoom 情報をご連絡します。なお、メールのタイトルは「3/19イベント申し込み」としてください。

 

主催:先進理工部 化学・生命化学科

 

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

 

TEL:03-5286-3000

“つよく”・“しなやか”な新しい結合

著者: contributor
2022年3月2日 16:52

ファンデルワールス力による“つよく”・“しなやか”な新しい結合

-強磁性トンネル接合素子の構成材料としてグラフェン二次元物質/規則合金の異種結晶界面に期待-

発表のポイント

  • ファンデルワールス力により、異種結晶界面が“つよく”・“しなやか”に結合することを発見
  • グラフェンとL10規則合金の界面に垂直磁気異方性が誘起されることを発見
  • 六方晶グラフェンと正方晶L10規則合金の異種結晶界面の原子位置を理論と実験の両方により正確に決定
  • X nm世代のMRAMに向けたグラフェン/L10規則合金記録層に期待

概要

情報機器でのエネルギー消費増大問題を解決するために、計算機用の高性能な不揮発性磁気メモリ(MRAM)*1の開発が求められています。東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター、東北大学電気通信研究所、早稲田大学(理工学術院 平田秋彦教授)、高エネルギー加速器研究機構、神戸大学、東京工業大学、パリ南大学、フランス国立研究センターの国内6機関・国外2機関と協力して、それぞれが得意とする専門分野を学際的に協働することにより、六方晶系の二次元物質*2(グラフェン)と正方晶系のL10規則合金(L10-FePd)の異種結晶界面をファンデルワールス力*3により”しなやか”に結合させ、かつ界面電子密度の増加により”つよい”混成軌道を誘起し、界面垂直磁気異方性を出現させることに成功しました。六方晶のグラフェンと正方晶のL10-FePdは結晶系が異なる異種結晶界面のため、どのような界面の原子位置関係になるか想像ができません。そこで、直接観察実験と理論計算を比較することにより、グラフェン/L10-FePdの原子位置を正確に決定することに成功しました。本研究により、界面磁気異方性とL10-FePdのもつ高い結晶磁気異方性の両方を利用する道筋が示され、X nm世代*4のMRAM用の微小な強磁性トンネル接合(MTJ)素子*5への利用が期待されます。

本研究成果は、米国化学学会発行の科学誌 ACS Nanoの2022 年 2月28日(米国東部標準時EST)にOnline掲載されました。

論文名:Unveiling a Chemisorbed Crystallographically Heterogeneous Graphene/L10-FePd Interface with a Robust and Perpendicular Orbital Moment

背景

年々増大する情報機器でのエネルギー問題を解決するためには、計算機に用いられている揮発性メモリを不揮発性磁気メモリ(MRAM)に代替していくことが重要となります。現在のMRAMに用いられている強磁性トンネル接合(MTJ)素子は、CoFeB/MgOの界面垂直磁気異方を利用しており、四重界面とすることにより1 X nm世代に適合したMRAMの研究開発に成功しています。X nm世代のMRAM用のMTJ素子の実現を目指して、形状磁気異方性の利用、多重界面などが検討されています。そのような状況のなか、X nm世代に向けた新たな材料の選択肢として高結晶磁気異方性を有するL10規則合金も注目されています。しかし、FePt, FePd, CoPt, MnGaなどのL10規則合金とMgOトンネル障壁には約10%もの大きな格子ミスフィット率があるため、界面構造が乱れて高品質なMTJ素子を作製することができません。この問題を解決する方法として、本研究グループは二次元物質の間に生じるファンデルワールス力に着目しました。二次元物質はファンデルワールス力により金属と緩やかに結合するため、格子ミスフィットの影響を回避して、平滑な界面を形成する可能性が期待できます。また、二次元物質であるグラフェン、h-BNなどはスピン依存トンネル伝導により1000%近いトンネル磁気抵抗(TMR)変化率*6が理論的に予測されています。また、MgOトンネル障壁に比べて接合抵抗を低く抑えることができることも報告されています。これらの二次元物質の特徴はX nm世代のMTJ素子に求められる要求の多くを満たしています。そこで本研究グループは、代表的な二次元物質であるグラフェンをトンネル障壁材料とし、L10-FePd規則合金を記録層とする新しいMTJ素子の研究に着手しました。量産化プロセスを念頭にL10-FePd規則合金層を物理蒸着法であるスパッタ法により、グラフェンを化学蒸着法により製膜し、一貫した真空プロセスを選択しました。以上の背景を踏まえ、グラフェン/L10-FePdのMRAMへの有用性を明らかにするために、本研究では、以下の3つの項目について調べました。

(1)ファンデルワールス力で結合したグラフェンと規則合金界面は平滑であるか
(2)界面垂直磁気異方性は誘起されるか
(3)結晶系の異なる界面(異種結晶界面)の原子位置はどのようになっているのか
また、その原子位置関係はエネルギー的に安定しているのか

全てを理解するためには界面に特化した専門的な評価が必要になるため、本研究グループの研究者各々の得意とする専門性を集約して、課題に取り組みました。

研究内容

L10-FePdエピタキシャル膜をマグネトロンスパッタ法によりSrTiO3単結晶基板上に製膜し、その後、化学気相体積(CVD)法によりグラフェンを成長させることにより、グラフェン/L10-FePdを作製しました。グラフェンはハニカム構造の六方晶、L10-FePdは正方晶の結晶系であり、グラフェン/L10-FePdは異なる種類の結晶系により界面が形成されています(ここでは、異種結晶界面と呼びます)。この異種結晶界面の界面構造を調べるために、原子間力顕微鏡、X線反射率、走査型透過電子顕微鏡を用いました。界面磁性を調べるために深さ分解X-ray Magnetic Circular Dichroism(XMCD)*7を用いました。さらに、異種結晶界面の原子位置は第一原理計算をもとに走査型透過電子顕微鏡像のシミュレーションを行い、実験で得られた像と比較することにより決定しました。

1)ファンデルワールス力で結合したグラフェンと規則合金界面は平滑であるか

原子間力顕微鏡観察によりL10-FePd表面は平坦となっていることが確認され、その後に製膜されたグラフェンとL10-FePdとの界面はX線反射率により平坦な界面であることが明らかとなりました。また、走査型透過電子顕微鏡による直接観察法によりL10-FePdとグラフェンの界面が平坦になっていることが確認されました。以上の結果から、異種結晶界面のように大きな格子ミスフィットが存在しているにもかかわらずファンデルワールス力による結合は界面構造を乱さないことがわかりました。

図1 (a)グラフェン/FePdの3種類の走査型透過電子顕微鏡像(BF、ABFおよびHAADF-STEM像)を撮影し、軽元素であるカーボンと重元素であるFeとPdを同時に観察した。(b)第一原理計算から最もエネルギー的に安定な原子位置を基にしてSTEM像のシミュレーションを行った。(c) 第一原理計算から算出されたFePdとグラフェンのカーボンとの原子位置関係の概念図。

2)界面垂直磁気異方性は誘起されるか

図2(a)に示すように、偏光した軟X線を用いて深さ分解XMCDにより表面からおよそ2.5 nmまでの深さを分割して、磁気特性の深さ方向の変化を調べました。磁場は垂直方向および面内方向から30°傾けることにより垂直方向への磁気異方性について評価しました。深さ分解XMCDは高エネルギー加速器研究機構 Photon Factory BL-16のビームラインを利用しました。図2(b)に深さ方向に分解されたXMCDスペクトルを示します。図2(c)に界面付近、図2(d)に内部層の偏光X線による吸収(XAS)スペクトルおよびその差分であるXMCDスペクトルを示します。界面と内部層の垂直入射(θi = 90º)XMCDスペクトル[図2(c)および2(d)]、および30°に傾けたXMCDスペクトル[論文を参照のこと]をそれぞれSUMルールにより解析すると、界面付近の軌道磁気モーメントが垂直方向に異方性を有していました。この結果から、界面垂直磁気異方性が異方的な軌道磁気モーメントにより誘起されていることがわかりました。従って、異種結晶界面には界面垂直磁気異方性が存在していることが明らかとなりました。以上のことから、グラフェン/FePdはFePdの高い垂直結晶磁気異方性に加えて、界面垂直磁気異方性も付与されており、記録情報の高い安定性が期待できることがわかりました。

図2 (a)偏光した軟X線を用いた深さ分解XMCDの測定セットアップの模式図, (b)界面から2.5 nm厚さまでのXMCDスペクトル, (c)界面, (d) 内部層の右回りと左回りの円偏光によるXASスペクトルと、その差分であるXMCDスペクトル

3)結晶系の異なる界面(異種結晶界面)の原子位置はどのようになっているのか
また、その原子位置関係はエネルギー的に安定しているのか

グラフェンは六方晶系、L10-FePdは正方晶系であるためグラフェン/L10-FePdは異種結晶界面です。異種結晶界面による大きな格子ミスフィットのある界面原子位置を調べるためには、まずはじめに、第一原理計算を用いてファンデルワールス力による界面が最もエネルギー的に安定になる方位を調べる必要があります。図1(c)に示すように、グラフェンのアームチェアがFePdの面内格子の辺と平行になる原子位置関係が最もエネルギー的に安定であることがわかりました。また、そのときのグラフェンのハニカム構造は維持されていますが、僅かではあるものの正方晶のFePdの原子位置の影響を受けて歪んでいることがわかりました。実際に作製したグラフェン/L10-FePdの相対的な配置がどうなっているかを調べるために、第一原理計算から得られた原子位置をもとにSTEM像のシミュレーションを行いました。図1(b)に計算したSTEMシミュレーション像を示します。グラフェンの面内方向に沿ったコントラストの明暗についてラインプロファイルを調べたところ、STEM実験像と計算したSTEMシミュレーション像が良い一致を示していることがわかりました。このことは、第一原理計算により予測した界面の原子位置関係が実際の界面において実現していることを意味します。つまり、L10-FePd上のグラフェンはファンデルワールス力のエネルギーが最も安定化する原子位置関係になることが明らかとなりました。グラフェンは僅かに歪みながらもファンデルワールス力により”しなやか”に結合していることがわかりました。

グラフェンとL10-FePdの層間距離を調べたところ、第一原理計算およびSTEM像観察の両方でおよそ0.2 nmとなっていることがわかりました。また、STEM実験像ではグラフェンの第一層と第二層の層間距離は0.38 nmであり、グラファイトの層間距離とほぼ一致していました。グラフェンとL10-FePdの層間距離が短くなっていることはファンデルワールス力のなかでも”つよい”結合となるChemisorptionタイプであることがわかりました。X線反射率においても界面での電子密度が高くなっていることが判明しており、界面垂直磁気異方性の起源は層間距離の短縮により電子密度の増大および混成軌道が強化されたためと考えられます。以上のような微視的な構造解析を多岐の方法により解析し、界面磁性を説明する試みは少なく、学術的な価値の高い成果となります。

最後に、MRAMへの応用の可能性を検討するために、マイクロマグネティクスシミュレーションを行いました。String法によるマイクロマグネティクスシミュレーションによりグラフェン/L10-FePdの記録情報の熱安定性を調べたところX nm世代においても10年間、記録情報を保持できるほどの十分な垂直磁気異方性であることがわかりました。これは、グラフェン/L10-FePdの界面磁気異方性とL10-FePdの高い結晶磁気異方性の相乗効果による成果です。グラフェン/FePdの異種結晶界面を利用した微小ドットはX nm世代をターゲットとしたMTJ素子の記録層の1つの候補として有望であることが示唆されました。

将来の展望

本研究により、二次元物質である六方晶系グラフェンと正方晶系規則合金を組み合わせたハイブリッドMTJ素子がX nm世代において有望であることがわかりました。本研究は二層構造ですが、参照層を加えたMTJ素子としたときの特性を調べていく必要があります。現在、日仏共同研究を主軸に国内とも綿密に連携を取りながら、MTJ素子の研究を遂行しています。また、グラフェンのファンデルワールス力の”しなやか”でありながら”つよい”結合は広く二次元物質に展開することができるため、h-BN、WS2などの二次元物質の多彩な物性と正方晶晶系の高機能金属、高機能酸化物などとの異種結晶界面をファンデルワールス力により繋ぐことにより、新しい電子デバイスへの発展が期待されます。

研究経緯

本研究は、東北大学、早稲田大学、神戸大学、東京工業大学、高エネルギー加速器研究機構、パリ南大学、フランス国立科学研究センターとの共同研究の成果です。また、本研究は日本学術振興会研究拠点形成事業(Core-to-Core Program, 課題番号JPJSCCA20160005)の支援を受け、日英仏の3国間の共同研究のもと二次元材料のトンネル障壁への応用について検討してきました。また、本研究は指定国立大学東北大学のクロスアポイントメント制度による東北大学とパリ南大学(Pierre Seneor教授)、フランス国立科学研究センター(Bruno Dlubak研究員)の共同研究成果でもあります。東北大学スピントロニクス学術連携研究教育センターおよび東北大学先端スピントロニクス研究開発センターの支援を受けています。このような支援により、試料作製は東北大学とパリ南大学、フランス国立科学研究センターの協働により遂行しました。また、界面磁性を高エネルギー加速器研究機構のS型課題(課題番号 2019S2-003)によりフォトンファクトリー、BL-16ビームラインを用いて評価しました。界面構造をナノテクプラットフォームの支援(課題番号A-20-TU-0063)により走査型透過電子顕微鏡を用いて東北大学内において評価しました。界面の平均的な構造を共同利用研究(課題番号73)によりX線反射率法を用いて東京工業大学で測定・評価し、その解析をブルカージャパンの支援により行われました。界面の理論計算は早稲田大学、神戸大学、東北大学電気通信研究所の協働により行われました。このように、本研究は多数の機関の共同研究の結果を集約した成果です。

論文題目

題目: Unveiling a Chemisorbed Crystallographically Heterogeneous Graphene/L10-FePd Interface with a Robust and Perpendicular Orbital Moment
著者: Hiroshi Naganuma(責任著者), Masahiko Nishijima, Hayato Adachi, Mitsuharu Uemoto, Hikari Shinya, Shintaro Yasui, Hitoshi Morioka, Akihiko Hirata(平田秋彦、早稲田大学理工学術院教授), Florian Godel, Marie-Blandine Martin, Bruno Dlubak, Pierre Seneor, Kenta Amemiya
掲載誌: ACS Nano
DOI: 10.1021/acsnano.1c09843

用語説明

*1  不揮発性磁気メモリ(MRAM)

データの保存に不揮発性である磁化状態を利用しており、DRAMおよびSRAMなどの揮発性メモリの代替により消費電力を低減することができることから次世代メモリとして注目されています。揮発性メモリはメモリセル(データ読み/書きの最小単位)に電荷を蓄積することでデータを記録しており、MRAMとは記録原理が異なります。MRAMはメモリセルに、2つの磁性体層の間に絶縁体層を挟み込んだ*4で説明する強磁性磁気トンネル接合(MTJ)という構造をもつ素子を用います。磁性体の磁化方向(N極とS極)が2層ともそろっている状態が「0」、不ぞろいな状態が「1」をあらわします。

*2  二次元材料(物質)

二次元の面内方向の結合は強く、面直方向にはファンデルワールス力による弱い結合により貼り合わされている物質のことです。二次元材料としてはグラファイトの1層だけ剥がしたグラフェンに関わる研究が多く行われてきていますが、近年、h-BN, WS2など多くの二次元物質の研究が展開されています。

*3  ファンデルワールス力

原子間に働く分子間力であり、原子位置関係、結晶対称性などにより物理吸着と化学吸着の2種類が二次元物質と金属材料の間では生じるとされています。物理吸着のときの原子間力は化学吸着のときの原子間力に比べて弱く、原子間距離が長くなることが報告されています。

*4  強磁性トンネル接合(MTJ)素子

強磁性/極薄絶縁層/強磁性の3層が基本構造で、1つの強磁性層を記録層、もう1つの強磁性層を固定層として磁化状態を記録する不揮発性磁気メモリへ応用されています。(磁化方向の書き換えは*3を、読み出しは*6を参照のこと)

*5  1X nm世代、X nm世代

強磁性トンネル接合(MTJ)素子の接合直径のことです。この接合直径を小さくすることで不揮発性磁気メモリ(MRAM)の集積度を高めることができます。現在は1X nm世代の研究開発が盛んに行われており、X nm世代の基礎研究が次々に報告されています。X nm世代では形状磁気異方性の利用、界面数を増やすなどが提案されています。

*6  トンネル磁気抵抗(TMR)変化率

強磁性トンネル接合(MTJ)素子の2つの強磁性層の磁化が平行のときスピン偏極電子の透過率は高く、反平行のとき透過率は低くなる効果です。磁化の相対角度に応じてMTJ素子の抵抗が変化することから、不揮発性磁気メモリ(MRAM)の読み出しの原理となっています。一般に、磁化の平行・反平行時の電気抵抗を用いてTMR変化率を算出し、TMR変化率が高いとデジタル信号における”0”と”1”の判別が明瞭となる、また磁化反転効率が高くなることからMRAMにおいて重要なパラメーターとなっています。

*7  深さ分解X線磁気円二色性(XMCD)

X線磁気円二色性(X-ray Magnetic Circular Dichroism XMCD)とはX線の吸収分光であり、磁性体の試料に円偏光させたX線を照射したときに、吸収スペクトルが試料の磁化方向と円偏光の磁化方向に依存して異なる現象のことです。そのXMCDを応用した軟X線領域の深さ分解XMCD法は、磁性薄膜の磁気状態の深さ方向の分布をナノメートルを超える分解能にて元素選択的に観察することができます。

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