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屋外設置型IEEE802.15.3d テラヘルツ通信装置の開発に成功

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2024年3月5日 13:33

屋外設置型IEEE802.15.3d テラヘルツ通信装置の開発に成功

2024年2月5日の東京地方大雪時も連続動作

発表のポイント

実用環境では必須となる屋外設置可能な15.3d準拠のテラヘルツ通信装置を開発し、長期連続伝送実験を開始いたしました。
指向性の高いアンテナを簡単かつ安定的に動作させるためのアンテナ自動調整機能を開発しました。
悪天候に左右されにくい、信頼性の高い次世代移動通信システムBeyond5G /6Gシステムの基地局を接続するためのネットワーク構築に貢献することが期待されます。

早稲田大学(以下、早大)理工学術院の川西哲也(かわにしてつや)教授の研究グループは、岐阜大学工学部の久武信太郎(ひさたけしんたろう)教授らと共同で、屋外設置可能なテラヘルツ通信装置を開発し、早大西早稲田キャンパス(東京都新宿区)内で長期連続伝送実験を開始しました。これまでのテラヘルツ通信は実験室レベルでの実証がほとんどでしたが、本研究では、24時間屋外動作を可能としました。通信装置の姿勢制御機能を実装し、アンテナ自動調整を実現しました。現在、降雨・降雪時を含む天候変動時の伝送特性評価を実施中で、2024年2月5日の東京地方大雪時のテラヘルツ伝搬特性を計測し、今後のシステム設計に有用な情報の取得に成功しました。信号形式・周波数などはテラヘルツ通信規格IEEE802.15.3d※1に準拠しています。

1.研究の背景

次世代移動通信システムBeyond5G /6Gシステム※2の基地局を接続するためのネットワーク(バックホール・フロントホール※3)において、その一部を高速テラヘルツ通信が担うことが期待されています。これまでの研究報告のほとんどは実験室内での実証や測定器を使った通信の模擬によるものでした。テラヘルツ無線は雨や雪の影響を受けやすいという課題があり、その影響を評価する必要がありました。また、ミリ波帯・テラヘルツ帯ではその波長の短さからアンテナ方向の精密調整が必要という課題もありました。

2.今回の研究成果および新しく開発した装置について

屋外設置可能なIEEE802.15.3d準拠のテラヘルツ通信装置の開発に成功しました(図1、2参照)。テラヘルツ帯通信実験では測定器による伝送の模擬や単方向の画像伝送をデモンストレーションするものが大半ですが、今回開発した装置はイーサネットインターフェースを有しており、実データの双方向伝送を可能としています。

また、屋外において連続伝送実験を行うための筐体の開発、センサー装置の実装を行いました。ミリ波帯やテラヘルツ帯ではビーム幅の細い電波を用いますが、アンテナ方向の調整にコストがかかるという課題がありました。本研究では、精度の高い機構設計と精密電動雲台による制御により、自動アンテナ方向調整を実現しました。また、テラヘルツ帯では送信と受信のアンテナを共通にすることが困難であったために、それぞれ個別のアンテナを用いることが一般的でした。本研究では、300GHz帯回路を設計し、送受アンテナ共通化と機構設計の精密化により、装置の小型化、防水対応、アンテナ方向精度の向上を図りました。

早大西早稲田キャンパス内に一組のテラヘルツ通信装置を設置し、現在、長期連続伝送実験を実施中です。気象センサー、装置内温度センサー、振動センサーなどを備え、風雨・降雪・温度変化と伝送特性の相関を連続的に観測することが可能です。2024年2月5日(月)の東京地方降雪時においても連続データ取得をいたしました。図3に示すように大雪時に受信電力(RSSI※4)の大きな変動が確認されました。詳細については現在解析中ですがアンテナへの着雪と落雪が繰り返されたことによると推定しています。

3.今後の展開

今回開発した屋外で動作させることが可能な小型のテラヘルツ通信装置を活用し、実用化に向けて、伝送容量・伝送距離拡大や、他の無線器との干渉の影響の解析など様々な実験を実施します。さらに、複数のテラヘルツ通信装置を連携させ、悪天候時にもおいても安定的に動作するシステムの実現を目指します。

今回開発したテラヘルツ通信装置の技術的内容については、2024年3月5日(火)から8日(金)に広島大学で開催される電子情報通信学会総合大会にて発表予定です。本研究の成果をベースに、JST ASPIRE事業(JPMJAP2324)「マルチフィジックスICTデザイン」を進める予定です。電子工学・機械工学・材料工学などの学際領域の知見を結集し、マルチフィジックスICTという新しい概念の構築を目指すものです。今回開発した通信装置は、最新の電子デバイスを用いた送受信器、精度の高い微動機構によるアンテナ制御、気象状況の詳細測定などの技術をベースとしています。ASPIRE事業では、テラヘルツ波、光ファイバなどの様々な伝送媒体を用いたネットワークを電子工学、機械工学などを駆使してデザインすることを目標としています。当ASPIRE事業の概要については、上記の電子情報通信学会総合大会のスポンサードセッションとして3月6日(水)に開催されるキックオフミーティングにて発表予定です。

【研究プロジェクトについて】

本研究成果の一部は国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー))の革新的情報通信技術研究開発委託研究(JPJ012368C04301)「欧州との連携による300GHzテラヘルツネットワークの研究開発」によるものです。欧州委員会のHorizon2020、および国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー))の委託研究「大容量アプリケーション向けテラヘルツエンドトゥーエンド無線システムの開発(ThoR: TeraHertz end-to-end wireless systems supporting ultra high data Rate applications)」(研究期間:2018年7月1日から2022年6月30日まで)の研究成果も活用しています。

【各機関の主な役割】

早稲田大学:テラヘルツ伝送装置の開発
岐阜大学:アンテナ制御機構の開発

【用語解説】

※1 IEEE802.15.3d規格

ブルートゥースや無線 LAN で有名な IEEE802 規格の 1 つ。テラヘルツ帯における唯一の通信規格。

※2 Beyond5G/6G

最近サービスがはじまった移動通信システムは第5世代(5G)とよばれている。これに対して、次世代システムとしてBeyond5Gさらには 第6世代(6G)移動通信システムの開発が進められている。

※3 バックホール・フロントホール

携帯電話の基地局間を結ぶネットワーク。バックホールは無線通信で伝送するデジタルデータをやりとりするネットワークを指す。フロントホールは無線機本体とアンテナを分離して狭いビルの屋上など様々なところにアンテナを置くことを可能とするために期待されている技術で、無線機本体で作られた電波の波形をアンテナまで伝える役割を担う。役割としてテレビ本体とアンテナをつなぐケーブルと同じであるが、要求される性能が高いため現在では光ファイバが用いられることが多い。

※4 RSSI(Received Signal Strength Indicator)

無線通信装置において受信電力の目安をあたえる数値。測定器よりは精度がおちるが、無線装置の制御に広く用いられている。

日本発量子コンピューティングの最前線を産学官のキーマンが語るシンポジウムを開催 ‐早稲田大学量子研究総合拠点‟QuRIC”設立記念シンポジウム

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2024年3月5日 13:32

早稲田大学(東京都新宿区 総長:田中愛治)は、きたる2024年3月12日、量子技術社会実装拠点(略称QuRICキューリック 拠点長:戸川望理工学術院教授)設立記念シンポジウムを開催いたします。

本シンポジウムでは、日本発量子コンピューティングの最前線に立つ産学官のキーマンからの解説に加えて、早稲田大学QuRICがめざす量子技術の社会実装と、これを加速するベンチャー企業2社から現在進行形である量子技術の実用化についてご紹介します。当日は特別ゲストとして、理化学研究所 量子コンピュータ研究センター(RQC)センター長 中村泰信氏、産業技術総合研究所 量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター (G-QuAT) 副センター長 川畑史郎氏にご登壇いただき、量子技術研究・開発・生産の現在地点を解説していただきます。またパネル討論では、株式会社QunaSys 最高執行責任者(COO)の松岡智代氏をモデレータに迎え、本学の量子技術スタートアップ2社とともに「日本発量子技術と量子スタートアップを盛り上げるには何が必要か」をテーマに量子技術研究とビジネスの両面から討論いたします。

みなさまには、この機会にぜひともご来場くださいますよう、ご案内いたします。

 

■プログラム、申し込みは下記特設ページからhttps://www.quric-sympo2024.org/

 

令和5年度東京都「大学研究者による事業提案制度」に所千晴教授の提案が選定

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2024年2月15日 16:54

2023年11月に、東京都「大学研究者による事業提案制度」の事業化対象候補となっていた、理工学術院 所千晴教授の提案が、東京都の事業として正式に選定されました。東京に所在する大学として、都が推進する事業と連携し貢献できるのは、非常に光栄なことです。
このたび、東京都による感謝状贈呈式が開催されました。

  • 提案者
    所 千晴(理工学術院 教授)
  • 事業名
    小型リチウムイオン電池の安全・安心な処理フロー構築
  • 提案者コメント
    これまでの研究では、電子機器や自動車等を廃棄する際、資源性を有するリチウム等の物質をいかに効率良く分離して資源循環させるか、ということに主眼をおいてきました。他方、リチウムイオン電池発火やこれに起因した火災の件数は増え続けており、ニュースでもしばしば耳にするようになりました。ところが、周囲の都民の方々からは、電池の捨て方や正しい廃棄場所が良くわからない、という声も聞こえてきます。このような状況を知り、私たちがこれまで培ってきた廃棄物/資源分離の知見を活用できるのではないかと考え、提案に至りました。都民投票で票を入れてくださった皆さまの期待に応えられるように、尽力いたします。
  • 事業概要
    私たちの日常生活を豊かで便利にする電子機器に欠かせないリチウムイオン電池は、カーボンニュートラル実現のための再生可能エネルギー導入や電動化、デジタル化への要望に対応して需要が急速に拡大しています。それに伴って廃棄量も少しずつ増えていますが、その安全・安心な処理スキームはまだ確立されていません。都民がどこへ捨てたら良いかの情報提供が十分でないほか、家庭ごみに混入した場合には適切に除去しなければ火災など安全上の懸念があります。そこで本事業では、リチウムイオン電池等を都民が安心して捨てられる安全な回収システムの構築と、回収したリチウムイオン電池等を資源としてリサイクルする資源循環サプライチェーンの構築を提案します。

    図 小型リチウムイオン電池の安全・安心な処理フロー構築 概要(出典:所千晴教授)

令和5年度事業提案制度 感謝状贈呈式の様子


 

東京都事業提案制度とは

従来の発想に捉われない新たな視点や、東京に集積されている知を活用し、都政の喫緊の課題解決や東京の未来の創出に資する政策立案へと活用するため、都民、大学研究者、職員の方々から事業提案を募集し、都の施策へ反映させる制度です。
このうち、都内大学研究者からの研究成果、研究課題を踏まえた事業提案を募集するものが、「大学研究者による事業提案」です。令和5年度の募集では33件の提案に対し、有識者による審査、都民投票を経て、5件の選定となりました。

超薄型な可変焦点レンズに偏光分離機能を統合

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2024年2月13日 13:35

超薄型な可変焦点レンズに偏光分離機能を統合

―次世代の光通信技術へ応用可能なメタレンズ―

国立大学法人東京農工大学大学院の羽田充利氏(専門職学位課程1年)と阿出川彪氏(2023年3月博士前期課程修了)、青木活真氏(博士前期課程2年)、早稲田大学理工学術院の池沢聡研究院講師、東京農工大学大学院の岩見健太郎准教授は、メタサーフェス(注1)を利用して、光通信波長帯において偏光を分離しながら焦点距離を調整可能なメタレンズ(注2)を実現しました。この成果は、高速かつ大容量な次世代の光通信技術への応用が期待されます。
本研究成果は、Optica (旧米国光学会 OSA) 発行の Optics ExpressIF=3.833, 電子版 2024 28日付)に掲載されました。
論文タイトル:Polarization-Separating Alvarez Metalens
DOI: 10.1364/OE.516853
URL:
https://opg.optica.org/oe/fulltext.cfm?uri=oe-32-4-6672&id=546455

図1 偏光分離機能を持つ可変焦点メタレンズの概念図
重ねた2枚の光学素子が、緑色と青色で示した直線偏光をそれぞれ異なる位置に集光させる様子。
またその焦点距離は、2枚の素子の変位が大きいときは長く(上図)、小さいときは短く(下図)なる。

研究背景

メタアトム(注3)と呼ばれる光の波長より小さいサイズの構造体を配列して光を制御するメタサーフェスは、小型軽量な素子で様々な光学的機能を実現できることから、次世代の光学デバイスとして注目されています。これらは厚さ数百ミクロンの基板上に半導体の製造プロセスを用いて微細な柱状構造を配列したものであり、非常に薄型であるだけでなく大量生産も可能な特徴を持っています。また柱状構造の配置によってホログラフィや可変焦点レンズなど様々な機能を実現できるほか、メタアトムの形状によって偏光や波長に依存した設計も可能です。これらメタサーフェスの多機能性に着目し、今回私たちは、光通信技術へ応用可能な偏光の分離機能と可変焦点機能を併せ持つメタレンズを開発しました。

研究体制

本研究は、国立大学法人 東京農工大学大学院 工学府 産業技術専攻の羽田充利氏(専門職学位課程1年)と同大学院工学府機械システム工学専攻の阿出川彪氏(2023年3月博士前期課程修了)、青木活真氏(博士前期課程2年)、早稲田大学理工学術院の池沢聡研究院講師、東京農工大学大学院工学研究院先端機械システム部門の岩見健太郎准教授により行われました。また、本研究の一部は日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(B)(一般)(21H01781)、基盤研究(C)(22K04894)の支援により行われました。また、本研究の試料作成には、文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ」事業(課題番号 JPMXP1223UT1008)の支援を受け、東京大学微細加工拠点の共用設備を利用させていただきました。解析の一部は、東京工業大学のスーパーコンピュータ TSUBAME 3.0 を利用して行われました。

研究成果

今回、光通信波長帯である波長1550 nmで動作する偏光分離機能を持つ可変焦点メタレンズを開発しました。これは、図1のように直交する2つの直線偏光成分を分離して異なる位置に集光させつつ、その焦点距離を変化させることができます。設計ではまず初めに、可変焦点メタレンズであるAlvarezメタレンズ(注4)の位相分布(注5)を改変し、光軸外に集光する可変焦点メタレンズの位相分布を導出しました。メタアトムの断面構造を長方形として垂直・水平直交偏光に対する位相遅延量を独立して制御し、集光位置の異なる位相分布を割り当てることで所望の機能を実現しました。設計したメタレンズは、東京大学微細加工拠点の電子線描画装置、反応性イオンエッチング装置を用いて製作し(図2)、設計波長の光源にてその機能を確認しました(図3)。

図2 製作結果(a) メタレンズ写真 (b) 上から撮影した電子顕微鏡写真
(c) 斜め方向から撮影した電子顕微鏡写真 (d) (b)の拡大図長方形の断面構造を持つメタアトム

図3 実験結果(a)x偏光 (b) 45度偏光 (c) y偏光 を入射した時の焦点面の様子。x偏光を入射した時には、設計通り画像下側に集光し、y偏光を入射した時には画像上側に集光している。また、両方の偏光を含む45度偏光を入射した時には、偏光が分離されてそれぞれの焦点位置に集光している様子が分かる。 (d) 入射偏光によって2つの焦点輝度が変化する様子。偏光角度は0度がx偏光、90度がy偏光を表しており、(a)-(c)に示した焦点の明るさが入射光に含まれる各偏光の量に依存していることから偏光を正しく分離できていることが分かる。(e) Alvarezレンズの2つの素子の相対変位dによって焦点距離fが変化する様子。黒線で示した理論値に沿って焦点距離を制御できていることが分かる。

今後の展開

社会の情報化に伴い、高速かつ大容量で安全な光通信技術への需要が高まっています。自由空間光通信(注6)は高速で秘匿性も高く、光ファイバーの敷設が不要で設置コストも低いため次世代の光無線通信技術として期待されています。空間中を伝搬する信号光は大気の揺らぎなどの影響を受けるため、受信装置においてはこれを追尾して検出器に誘導する調芯が必要です。また伝送容量の増大のためには、異なる情報を持つ偏光を多重化して伝送し、受信部で分離する偏光多重技術が使われています。本研究で開発したメタレンズを自由空間光通信の受信器に用いることで、調芯と偏光分離の二つの機能を小型の素子で担うことが可能になります。さらにメタレンズは半導体の製造プロセスにより大量生産することが可能であり、次世代の光通信設備の簡素化やコスト削減に貢献できると期待できます。

注1 メタサーフェス

光(電磁波)の波長に比べて小さいサイズの誘電体導波路構造を配列することで、自然界には存在しない屈折率や光機能を実現できる機能性表面。「メタ」は「高次な-」「超-」を意味する接頭語。

注2 メタレンズ

メタサーフェスの考え方に基づいて作られた、誘電体導波路を配列したレンズ。非常に薄型なことに加えて、偏光分離機能など従来のレンズでは実現できなかった機能を持つことができる。

注3 メタアトム

メタサーフェスを構成する、光(電磁波)の波長に対して微小なサイズの構造体のこと。本研究では、アモルファスシリコンで製作した196~396 nmの幅を持つ矩形断面のメタアトムを500 nm周期で配列した。

注4 Alvarezメタレンズ

2枚の光学素子からなる可変焦点レンズ。図1のように、重ねた2枚の光学素子を光軸と垂直な方向に駆動させ、その変位量によって焦点距離を制御する。光軸方向への移動を伴わないため薄型な特徴を持つ。

注5 位相分布

メタレンズ平面における、メタアトムが光波に与える位相遅延量の分布のこと。位相分布を適切に設計することで、メタレンズに所望の機能を与えることができる。

注6 自由空間光通信

光ファイバーの代わりに空間中を伝わるレーザー光線を用いた光通信技術のこと。高速通信が可能で傍受の危険が少なく、ファイバーの敷設が不要なため導入コストが低いといったメリットがあり、次世代の光通信技術として期待が大きい。

一般社団法人日本分析機器工業会と早稲田大学との連携と協力に関する包括協定書を締結

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2024年2月8日 14:41

一般社団法人日本分析機器工業会と早稲田大学との連携と協力に関する包括協定書を締結

一般社団法人日本分析機器工業会(JAIMA、所在地:〒101-0054 東京都千代田区神田錦町2-5-16、会長:足立 正之/株式会社堀場製作所 代表取締役社長)は、早稲田大学(〒169-8050 東京都新宿区戸塚町1-104)との包括協定書を2024年2月1日付けで締結いたしました。

JAIMAは、2018年から早稲田大学大学院創造理工学研究科との協力のもと、早稲田大学で協力講座「素材機器分析評価」(創造理工学部との合併科目)を開講し、分析機器技術人材の育成に貢献しています。これまでに419人の学部生・大学院生が講座を受講し、分析機器の実学が学べる我が国唯一のJAIMA協力講座として受講者から大変好評を得ています。今回の包括協定書締結により、JAIMAと早稲田大学は、協力講座に加え、早稲田大学において推進する分析機器利用者向け技術研修プログラム(社会人となって通用する分析機器利用に関する知識及び技量を履修できる研修プログラム)を構築することを目指します。さらに、今後は人材育成・産学連携の推進などの幅広い相互協力を実施して参ります。

また、今回の包括協定書の締結を記念し、幕張メッセで開催される最先端科学・分析システム&ソリューション展「JASIS (Japan Analytical and Scientific Instruments Show) 2024」(2024年9月4日(水)~6日(金))にて記念講演を行う予定です。詳細につきましては、後日、JASISオフィシャルサイト(https://www.jasis.jp/)にてご案内させていただきます。

分析機器は、科学技術・産業技術の発展、安全安心をリードする我が国の社会的技術基盤です。JAIMAと早稲田大学は、この社会的技術基盤の将来の発展や社会課題解決を導く人材の育成に努めて参ります。

一人ひとりに適した食を提案・提供する「個別化・層別化栄養」の実現へ

著者: contributor
2024年2月8日 14:02

一人ひとりに適した食を提案・提供する「個別化・層別化栄養」の実現へ!

「Precision Nutritionの実践プラットフォームの構築と社会実装」が本格稼働(内閣府BRIDGE)

【全体概要】
早稲田大学は、医薬基盤・健康・栄養研究所(代表機関)と参画15機関(大学・民間企業等:九州大学、京都大学、コラゾン、島津製作所、食の安全分析センター、新南陽商工会議所、東京農業大学、Noster、樋口松之助商店、プレシジョンヘルスケア研究機構、ヘルスケアシステムズ、堀場製作所、森永乳業、山口こうじ店)と連携し、研究開発とSociety 5.0との橋渡しプログラム(BRIDGE)の中で「Precision Nutritionの実践プラットフォームの構築と社会実装」が始動しました。
本事業では、食の機能性における効果の違いを生み出すメカニズムにもとづき、一人ひとりに適した食を提案・提供する「個別化・層別化栄養」の社会実装を目指して進んでいます。

本事業における早稲田大学での研究開発責任者理工学術院 竹山春子教授です。

【本事業の背景】

これまでの栄養学は、栄養不足の解消を目指し、集団から得られたデータをもとに一般化された栄養摂取基準を作ってきました。一方で、時代の変化と共に、健康のための機能性が食に求められるようになってきたものの、同じ食品を摂取しても、その効果は人によって異なることが明らかになっています。このような背景から、近年は、食の効果の個人差を考慮する必要性が認識されています。そこで、遺伝子、生活習慣、腸内細菌、ライフステージ等に応じて、一人ひとりに適した食事の提案を行うことで健康社会の実現を目指す「Precision Nutrition(精密栄養学)」の重要性が提唱されています。

医薬基盤・健康・栄養研究所では、1万人(2024年1月現在)を超える日本人から㋐食事、運動、睡眠等の生活習慣や、㋑健康診断や疾患歴等健康状態に関する情報と共に、㋒便、血液、唾液等のサンプルを提供いただき、腸内細菌叢や代謝物、免疫パラメーター等を測定することで、健康維持や増進に関わる有用菌や有用代謝物の同定、それらを培養・生産する技術開発を行ってきました。これらの知見やノウハウを活かし、今まで「腸内細菌の迅速測定システム」、「有用代謝物の定量」、「AIを用いた食の効果の予測システム」等の技術開発を進めてきました。

これら厚生労働省や医薬基盤・健康・栄養研究所の施策により培ってきた技術を基盤に、本BRIDGEにおいては、技術の高度化や最適化を行う大学や社会実装を担当する民間企業と連携・事業展開することで、「Precision Nutrition(精密栄養学)」の観点から、個人の特性に応じた食の提案・提供を可能とする社会実装を進めています。

【各テーマの概要】

医薬基盤・健康・栄養研究所を代表機関とし、Precision Nutrition(精密栄養学)の社会実装に向けて、参画機関と共に以下の3テーマで研究・開発を実施しています。

テーマ(1):消費者とつなぐポータルサイト構築

消費者となる方の参加登録や自身のデータ確認等ができるオンラインシステムを構築しています。また、アプリやホームページ、サブスクリプション、店舗での実地販売等社会実装性のあるシステムを用い、消費者となる方へ健康効果が期待できる食材とその食材を摂取した際の効果に関する結果を提供できるシステムの開発・検証を行っています。

テーマ(2):食の効果を予測・診断するシステム開発

生体サンプルや食品等を対象に、食の効果を予測・診断するためのシステムを開発しています。また、食の効果の予測・診断のためのキットや受託サービス等の製品化等の実用化を進めています。

テーマ(3):代替食品・レシピの開発

食の効果を最大化するための食品やレシピの開発を行っています。特に、機能性が期待される有効成分を多く含有する食品やレシピ等を開発し、食の効果が得られにくい方へ提案・提供できるように、食品やサプリメント等としての製品化を進めています。

【期待される効果】

食の効果の個人差をもとに個別化・層別化し、人々がより効率的に食で健康効果を得る、「次世代の栄養摂取」ができる社会につながっていくと期待されます。

【参画機関】

医薬基盤・健康・栄養研究所について

2015年4月1日に医薬基盤研究所と国立健康・栄養研究所が統合し、設立されました。本研究所は、メディカルからヘルスサイエンスまでの幅広い研究を特⾧としており、我が国における科学技術の水準の向上を通じた国民経済の健全な発展その他の公益に資するため、研究開発の最大限の成果を確保することを目的とした国立研究開発法人として位置づけられています。

ウェブサイト:https://www.nibiohn.go.jp/

Society 5.0について

サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)。

狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱されました。

BRIDGEについて

内閣府総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の司令塔機能を生かし、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)や各省庁の研究開発等の施策で生み出された革新技術等の成果を社会課題解決や新事業創出、ひいては、我が国が目指す将来像(Society 5.0)に橋渡しするため、官民研究開発投資拡大が見込まれる領域における各省庁の施策の実施・加速等に取り組むプログラムです。

ウェブサイト:https://www8.cao.go.jp/cstp/bridge/index.html

129億光年かなたのクェーサーから強烈に噴き出す分子ガスの発見~宇宙初期の銀河成長を抑制するメカニズムの解明へ~

著者: contributor
2024年2月2日 12:48

129億光年かなたのクェーサーから強烈に噴き出す分子ガスの発見
~宇宙初期の銀河成長を抑制するメカニズムの解明へ~

ポイント

  • 129億光年かなたの銀河から、星の原料となる分子ガスの強烈な噴き出し(アウトフロー)を観測。
  • 遠方銀河の分子ガスのアウトフローで星形成が抑制されている強い証拠を、世界で初めて発見。
  • 今後より多くの銀河を観測することで、さらなる初期宇宙の銀河成長メカニズム解明に期待。

概要

北海道大学高等教育推進機構のDragan SALAK(サラク=ドラガン)助教、筑波大学数理物質系の橋本拓也助教、早稲田大学理工学術院井上昭雄教授を中心とする研究チームは、アルマ望遠鏡※1を使った観測により、129億光年かなたの銀河※2で明るく輝くクェーサーJ2054-0005からの強力な分子ガスのアウトフローを捉えることに成功し、それが初期宇宙の銀河の成長に大きな影響を与えていた強い証拠を世界で初めて発見しました。

現代の宇宙では、星形成が不活発な巨大銀河の存在が知られていますが、その原因として理論的に考えられているものの一つが、銀河からのガスの噴き出し(アウトフロー)です。しかし、これまで宇宙初期のクェーサーにおいて分子ガスのアウトフローが観測された例はわずか2天体しかなく、その2天体で観測されたアウトフローは星形成の進行を左右し銀河の成長に影響を及ぼすほど強いものではありませんでした。

研究チームは、クェーサーJ2054-0005からの分子ガスのアウトフローを、分子ガス中のヒドロキシルラジカル(OH)分子が作る「影絵」として検出することに成功しました。影絵の様子を詳しく調べたところ、星の材料となる分子ガスが銀河の外へ激しく噴き出していることが分かりました。その速度は毎秒1,500kmにも達し、流出している分子ガスは1年間あたり太陽質量の1,500倍に相当する莫大な量に上ります。この流出量は銀河の中で新たに作られる星の量と比べて大きいことも明らかになりました。研究チームは、この銀河から1000万年ほどで星の材料となる分子ガスが枯渇し、今後新たな星を作りにくくなると考えています。本研究成果は、分子ガスの噴き出し(アウトフロー)が銀河の星形成を抑制するという理論予想を裏付ける重要な成果です。

なお、本研究成果は、2024年2月1日(木)公開のアストロフィジカルジャーナル誌に掲載されました。

宇宙初期の銀河中心で明るく輝くクェーサーJ2054-0005から噴き出す分子ガスのアウトフローをアルマ望遠鏡で「影絵」として捉えた(想像図) Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

背景

現在の宇宙では、星を活発に作っている渦巻き銀河や、星形成を終えた楕円銀河の存在が知られています。しかし、銀河がいつどのようにして星を作りにくくなるのかは、現代の天文学の大きな謎となっています。実は、宇宙誕生後わずか15億年頃には、すでに星形成が不活発な巨大銀河が存在したことが知られていました。このような不活発な銀河は、過去に星形成が活発な時期を経て、何らかの原因によって星形成が抑制されたと考えられています。

その原因として理論的に考えられているものの一つが、銀河からのガスの噴き出し(アウトフロー)です。例えば現在の宇宙では、ガスが銀河円盤の上下に噴き出すアウトフロー現象が観測されています。分子ガスは星の材料であるため、とくに分子ガスのアウトフローは星形成の進み具合を調節する大切な働きをするのです。星形成の抑制メカニズムを明らかにするためには、遠方つまり初期の宇宙に遡って、星形成とアウトフローの関係を調べることが重要です。

多くの銀河はその中心に巨大質量ブラックホールを宿すことが知られています。とくに、銀河中心にある超巨大ブラックホールへと物質が降り積もることで明るく輝く天体は、クェーサーと呼ばれます。宇宙初期のクェーサーは星形成が活発であり、超巨大ブラックホールの影響も相まって、強烈な分子ガスのアウトフローを生み出している可能性があります。しかし、これまで宇宙初期のクェーサーにおいて分子ガスのアウトフローが観測された例は、わずか2天体しかありません。その2天体で観測されたアウトフローは、星形成の進行を左右し銀河の成長に影響を及ぼすほど強いものではありませんでした。

研究手法

研究チームは、129億光年かなたにあるクェーサーJ2054-0005を、アルマ望遠鏡を用いて観測しました。J2054-0005は宇宙年齢10億年未満の時代において最も明るく輝くクェーサーの一つです。このような明るい天体は観測しやすい利点があります。

分子ガスの動きは、分子の放つ電波信号の波長の変化(ドップラーシフト)として観測できます。一酸化炭素(CO)などが放つ「輝線」が、分子ガスの観測によく用いられます。しかし、銀河から噴き出すアウトフローを観測する場合、銀河本体の回転による放射信号のほうが大きく、アウトフローによる放射信号が弱くて検出できないことなど、複雑な要因が絡み合い、観測は難しくなります。これまでのCOなどの輝線の観測では、クェーサーJ2054-0005からのアウトフローは検出されていませんでした。

一方、クェーサーの発する連続波(様々な波長の混ざった光)のうち、観測者から見て手前側にあるガスが固有の波長の電波を吸収することによって生じる「吸収線」をいわば「影絵」のように観測すれば、輝線の観測の場合の複雑な要因がなく、ガスの動きを吸収線のドップラーシフトとして観測できます。ただし、当該の波長の強度が強い連続波光源がガスの背後にある必要があります。ヒドロキシルラジカル(OH)分子の119マイクロメートル(=0.119ミリメートル)の吸収線は、こうした観点から今回の観測に適しており、これを観測することでクェーサーJ2054-0005からのアウトフローを初めて検出し、速度も正確に求めることに成功しました。

本研究はアルマ望遠鏡だからこそ実現した成果です。遠方の天体が放つ光や電波は微弱で、観測するためには高い感度を持つ望遠鏡が必要になります。また、宇宙は膨張しているため、遠方の天体からの光や電波の波長は長く引き延ばされます。今回の研究では、当該の観測波長を高い感度で観測できる唯一の望遠鏡であるアルマ望遠鏡でOHを観測したことが成功への鍵となりました。

研究成果

研究チームは、クェーサーJ2054-0005からの強力な分子ガスのアウトフローを捉えることに成功し、それが初期宇宙の銀河の成長に大きな影響を与えていた強い証拠を世界で初めて発見しました。図1に示すとおり、分子ガス中のOHによって生じる吸収線を検出しています。遠方のクェーサーでこれほど高い有意度でOHの吸収線が検出された初めての例です。吸収線の波長から、アウトフローの速度は典型的に毎秒700 km、最大で毎秒1,500kmにも達することを明らかにしました。流出した分子ガスの量は、年間あたり太陽質量の1,500倍ほどに上り、この量はJ2054-0005が年間あたりに新しく作る星の質量の2倍に相当する莫大なものです。今後、およそ1000万年という短い期間で星の材料となる分子ガスが枯渇していくと予想されます。本研究成果は、分子ガスのアウトフローが銀河の星形成を抑制するという理論予想を裏付ける重要な成果です。

今後への期待

本研究成果は新しい謎にも繋がっています。J2054-0005では星形成を抑制するほどの強いアウトフローが認められた一方で、過去に調べられた2例のクェーサーのアウトフローは星形成に大きな影響を及ぼすほど強いものではありませんでした。この違いは何によって引き起こされているのでしょうか。今後、より多くのクェーサーに対してOHを観測することで、星形成を抑制するほど強いアウトフローが起きている銀河の割合を統計的に調査することが鍵となります。また、アルマ望遠鏡はアンテナ間を広く離して配置することによって高い空間分解能を実現できます。今後、アウトフローが銀河のどこでどのように発生しているかを解明できれば、銀河の進化と分子ガスのアウトフローの関係をさらに深く理解できると期待しています。

謝辞

本研究は、ALMA Japan Research Grant of NAOJ ALMA Project, NAOJ-ALMA-294、文部科学省卓越研究員事業(HJH02007)、日本学術振興会科学研究費補助金(JP22H01258、JP17H06130、JP20H01951、JP22H04939)、National Science Center (NCN) grant SONATA (UMO2020/39/D/ST9/00720)、国立天文台ALMA Scientific Research Grant No. 2018-09B、科学技術振興機構次世代研究者挑戦的研究プログラム JPMJSP2119の支援を受けて行われました。

論文情報

  • 論文名 Molecular outflow in the reionization-epoch quasar J2054-0005 revealed by OH 119 μm observations
  • 著者名 Dragan Salak1、Takuya Hashimoto2、Akio K. Inoue3、Tom J.L.C. Bakx4、Darko Donevski5,6、Yoichi Tamura7、Yuma Sugahara3、Nario Kuno2、Yusuke Miyamoto8、Seiji Fujimoto9、Suphakorn Suphapolthaworn1(1Institute for the Advancement of Higher Education,Hokkaido University、2Faculty of Pure and Applied Sciences, University of Tsukuba、3Faculty of Science and Engineering, Waseda University、4Department of Space, Earth & Environment, Chalmers University of Technology (Sweden)、5National Centre for Nuclear Research (Poland)、6SISSA, ISAS , IFPU (Italy)、7Graduate School of Science, Nagoya University、8Department of Electrical, Electronic and Computer Engineering,  Fukui University of Technology、9Department of Astronomy, University of Texas at Austin (USA))
  • 雑誌名 The Astrophysical Journal, accepted(天文学の専門誌)
  • DOI 10.3847/1538-4357/ad0df5
  • URL https://doi.org/10.3847/1538-4357/ad0df5
  • 公表日 2024年2月1日(木)(オンライン公開)

参考図

図1 分子ガス中のヒドロキシルラジカル(OH)によって生じる吸収線。ガスが放出される場合は観測者に向かって来るため短い波長に吸収線の中心が移動します(ドップラーシフト)。一方、ガスが落下する場合は観測者から遠ざかるため長い波長に移動します。今回は吸収線が短い波長に移動しているため放出、つまり、アウトフローと分かります。また、吸収線の幅が大きく広がっているので、アウトフロー中のOH分子は速いものから遅いものまで様々な速度を持ってアウトフローしていることが分かります。 Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), D. Salak et al.

用語解説

  1. アルマ望遠鏡 … アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSF及びその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)及び台湾国家科学及技術委員会(NSTC)、NINS及びその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宇宙科学研究院(KASI)によって分担されます。アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行及び管理を行うことを目的とします。
  2. 129億光年かなたの銀河 … 今回の天体の赤方偏移は、z = 6.04でした。これをもとに最新の宇宙論パラメータ(H0 = 67.7 km/s/Mpc, Ωm = 0.3111, ΩΛ =0.6889 )で距離を計算すると、129億光年になります。

ホログラフィによるフルカラー動画投影を実現 ―次世代ディスプレイの開発に向けて―

著者: contributor
2024年1月29日 16:20

ホログラフィによるフルカラー動画投影を実現 ―次世代ディスプレイの開発に向けて―

国立大学法人東京農工大学大学院の山口眞和氏(博士後期課程1年)と齋藤洋輝氏(2023年3月博士前期課程修了)、早稲田大学理工学術院の池沢聡研究院講師、東京農工大学大学院の岩見健太郎准教授は、メタサーフェス(注1)を利用して広視域角・高解像度・高効率のフルカラーホログラフィ(注2)動画を実現しました。この成果は、立体映像技術の発展および次世代ディスプレイの開発に貢献することが期待されます。

論文情報

本研究成果(論文およびホログラフィ動画)は、De Gruyter発行のNanophotonics(IF= 7.923)の掲載に先立ち、1月22日にオンラインで公開されました。
論文タイトル:Highly-efficient full-color holographic movie based on silicon nitride metasurface
DOI:https://doi.org/10.1515/nanoph-2023-0756

現状

光の波面を記録・再生する技術であるホログラフィは、裸眼で3次元映像を観察できるため、究極の立体ディスプレイとも呼ばれ注目されています。このホログラフィは各画素を通過した光の干渉(注3)を利用して像を投影するため、広い角度から観察可能な高精細画像を投影するためには、画素の間隔が1μm以下の、超高密度の表示用デバイスが必要となります。そこで、光の波長以下の単位構造であるメタアトム(注4)を非常に高密度(数百ナノメートル程度)に配列したメタサーフェスを用いて、高画質な動画の投影を目指す研究が多く行われています。本研究グループにおいても過去にモノクロ動画の投影に成功しています[1]。しかし、これらの先行研究にはカラー化ができていないという問題点や、効率が低い(損失が大きい)という問題点がありました。

研究体制

本研究は、国立大学法人東京農工大学大学院生物システム応用科学府生物機能システム科学専攻の山口眞和氏(博士後期課程1年)と同大学院工学府機械システム工学専攻の齋藤洋輝氏(2023年3月博士前期課程修了)、早稲田大学理工学術院の池沢聡研究院講師、東京農工大学大学院工学研究院先端機械システム部門の岩見健太郎准教授により行われました。また、本研究の一部は日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(B)(一般)(21H01781)、基盤研究(C)(22K04894)の支援により行われました。また、本研究の試料作成には、文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ」事業(課題番号 JPMXP1223UT1007)の支援を受け、東京大学微細加工拠点の共用設備を利用させていただきました。解析の一部は、東京工業大学のスーパーコンピュータ TSUBAME 3.0 を利用して行われました。

研究成果

今回、30フレームからなるフルカラー動画の投影を目指し、窒化シリコンのナノ柱をメタアトム(注4)として、ガラス基板上に数億本配置し、90フレーム(30フレーム×3色)からなるホログラム列を1枚の基板上に形成しました(図1)。各フレームは2322× 2322画素と先行研究や一般的なディスプレイ(フルHD)よりも高解像度であり、340 nmの画素間隔によりホログラム前面からの観察領域全体をカバーする180°の視域角を有しています。また、ナノ柱の製作を最適な加工条件の下で行うことで、光の利用効率を向上させています。投影したのは地球が回転する動画(2D)で、3色の投影像を重ね合わせることで投影動画のカラー化を実現しました。また、自動ステージを用いて基板を機械的に動かすことで、人間の目で十分に滑らかに見える再生速度である55.9 fps(frame per second)での投影に成功しました(図2)。

今後の展開

今回のホログラフィは1色の投影像につき1つのホログラムを用いて投影を行うため、フルカラー動画のフレーム数の3倍のホログラムを製作する必要がありました。本研究ではさらなる省スペース化や多機能化を目指して、今後は1つのホログラムでのフルカラー投影に挑戦します。さらに、空間光変調器のような変調機能を持つデバイスと組み合わせることができれば、高精細なフルカラー3次元像をフレーム数の制限を受けずに投影することが可能となり、ホログラフィを用いた立体映像技術の実用化に貢献できると期待しています。

用語説明

注1 メタサーフェス

光(電磁波)の波長に比べて小さいサイズの誘電体導波路構造を配列することで、自然界には存在しない屈折率や光機能を実現できる機能性表面。「メタ」は「高次な-」「超-」を意味する接頭語。

注2 ホログラフィ

光の波面を記録したり再生したりすることのできる技術。眼鏡などを必要とせず立体像を観測でき、究極の立体ディスプレイともいわれる。光波面が記録された媒体をホログラムと呼ぶ。

注3 干渉

複数の光の波が互いに影響しあい、新しい光が生成される現象。ホログラフィはこの干渉を意図的に引き起こすことで、立体像を観察できる光を生成する。

注4 メタアトム

メタサーフェスを構成する、光(電磁波)の波長に対して微小なサイズの構造体のこと。今回は窒化シリコン製の八角柱をメタアトムとして用いた。

[1] 高画質なホログラフィの動画化を実現:将来の全周立体映像技術に向けて(2020年7月28日東京農工大学プレスリリース)https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2020/20200728_01.html

 

図1 メタサーフェスを用いたホログラフィ動画再生の原理と製作したメタサーフェスの概要

 

図2 本研究で得られた明るく高精細な投影像の抜粋 ※

※論文のオンラインページで動画が公開されています。(Supplementary Material Video1, Video2)
https://doi.org/10.1515/nanoph-2023-0756

 

世界初!筋肉で動く二足歩行ロボット ~培養骨格筋組織による細やかな旋回動作の実現~

著者: contributor
2024年1月29日 16:19

世界初!筋肉で動く二足歩行ロボット
~培養骨格筋組織による細やかな旋回動作の実現~

 

近年、生体材料と人工物を組み合わせたバイオハイブリッドロボットが注目を集めています。これまで、これらのロボットでは前に進みながら旋回する大回りの旋回動作である、匍匐(ほふく)移動や魚類のようなヒレによる泳動しか行えていませんでした。

早稲田大学理工学術院の森本雄矢准教授と東京大学大学院情報理工学系研究科の竹内昌治教授らによる研究グループは、培養骨格筋組織の収縮運動によって「柔軟な足」で屈曲して動く二足歩行バイオハイブリッドロボットを世界で初めて製作しました。本研究で実現したロボットでは、一方を駆動足、もう一方を軸足に用いることで、ロボットボディの内側に旋回中心を設けることが可能になり、ヒトの二足歩行運動で観察される細やかな旋回運動を再現することに成功しました。

この研究の成果は、バイオハイブリッドロボットの開発に加え、ヒトの運動メカニズムの理解につながります。薬剤添加時の運動改善効果解析、疾患時の病態解析など様々な状態での運動モデルとして、薬学や医学分野での適用が考えられます。

図 筋収縮で動く二足歩行ロボット

この研究成果についての詳細はプレスリリース資料をご覧下さい。

論文情報
雑誌名:Matter
題 名:Biohybrid bipedal robot powered by skeletal muscle tissue
著者名:Ryuki Kinjo, Yuya Morimoto, Byeongwook Jo, Shoji Takeuchi*
*責任著者
DOI:10.1016/j.matt.2023.12.035
URL:https://doi.org/10.1016/j.matt.2023.12.035

Constructing a Deep Generative Approach for Functional RNA Design

著者: contributor
2024年1月25日 14:00

Constructing a Deep Generative Approach for Functional RNA Design

A collaborative research effort by Professor Hirohide Saito (Department of Life Science Frontiers, CiRA, Kyoto University) and Professor Michiaki Hamada of Waseda University has developed the world’s first deep generative model for RNA design.

While antisense oligonucleotide and aptamer drugs have been on the market since the 2000s, it was not until the development of SARS-CoV2 mRNA vaccines employed to fight against the COVID-19 pandemic that RNA-based therapeutics attracted the attention of the general public.

In contrast, because of their immense potential—not only for medical applications but for basic biological research and biotechnology—RNA engineering has been on the scientific forefront for decades. As such, there is a tremendous interest in revolutionizing current approaches for designing RNA sequences. Remarkably, there is still no versatile computational platform for functional RNA design. Most existing approaches function by reconstructing specific secondary structures or are restricted to particular types of sequences, such as CRISPR gRNA, mRNA, or specific riboswitches. Since these traditional approaches typically depend on predicting and optimizing RNA secondary structures, their accuracy is inherently constrained by structural prediction and optimization algorithms. A novel approach was thus necessary to avoid these limitations and produce powerful and robust computational methods to construct RNA with desired functions.

The research team aimed to avoid these problems by focusing on RNA families, which are sequence groups with thousands of functional RNAs endowed with identical functions. Even with only a few hundred sequences, multiple sequence alignment can create a consensus secondary structure from which new sequences can be generated. As this computational platform theoretically works with any functional RNA families, the researchers named their deep generative model the RNA family sequence Generator, or RfamGen, which is the world’s first deep generative model for functional RNA design.

RfamGen combines two approaches: (1) covariance model and (2) variational autoencoder. The covariance model is a type of statistical framework for RNA alignment and consensus secondary structure that quantitatively evaluates variations of sequence and structure. Meanwhile, the variational autoencoder is a deep generative model with an internal representation called “latent space” to mitigate the complexity associated with exploring the exponentially vast sequence space for the optimization of RNA sequences. By leveraging these two concepts, the researchers generated a system that learns sequence and structural information to explore new RNA designs logically, a feat that has never been done previously.

The team first compared RfamGen, which considers both alignment and secondary structural information, with models accounting for either alignment or secondary structural information, or neither.

For the 18 RNA families tested (each with alignments comprised of at least 10,000 sequences), RfamGen showed a significantly improved ability to generate high-quality RNA sequences. Furthermore, the researchers also tested RfamGen’s capabilities when restricted to a limited number of input sequences from which to learn. Despite only being trained on 500 input sequences, RfamGen successfully generated RNA sequences with high scores, thus demonstrating its efficient generative capacity.

The researchers next trained RfamGen using 629 RNA families in total, each with at least 100 sequences from the Rfam database, and found RfamGen performs substantially better compared to other systems. The researchers, furthermore, evaluated how well generated RNA sequences function by randomly synthesizing several RNA sequences generated from training it with a diversity of self-cleavage ribozymes and from random sampling a covariance model. Notably, the sequences generated by RfamGen showed enzymatic activity, while the randomly sampled sequences did not, indicating RfamGen learned important features essential for functionality from the training data.

Lastly, the research team utilized the ligand-dependent self-cleavage activity of the glmS ribozyme as a comparative platform to benchmark generated sequences by RfamGen to natural glmS sequences. They first trained RfamGen using about 500 natural glmS ribozyme sequences and sampled the “latent space” to obtain 1,000 generated sequences. Using a massively parallel assay, they tested these 1,000 generated sequences, 761 natural sequences in the glmS ribozyme family (RF00234), and 100 sequences with kinetic measurements from a previous report. Not only did the team observe the generated sequences to possess a similar distribution of cleavage kinetics as natural sequences, but remarkably found that generated sequences showed higher cleavage rates compared to natural sequences, thus suggesting RfamGen successfully generates high-quality sequences with comparable or higher efficiency than some natural sequences.

The golden age of RNA-based bioengineering is on the horizon. By constructing this deep generative model for functional RNA design, the research team believes RfamGen will be a fundamental driving force to propel RNA biology into a new era and enable discoveries and applications based on RNA.

Paper Details

Journal:

Nature Methods

Title:

Deep generative design of RNA family sequences

Authors:

Shunsuke Sumi1,2,3, Michiaki Hamada3,4,5,*, Hirohide Saito1,*
* : Corresponding authors

Author Affiliations:

  1. Center for iPS Cell Research and Application (CiRA), Kyoto University
  2. Graduate School of Medicine, Kyoto University
  3. Graduate School of Advanced Science and Engineering, Waseda University
  4. Computational Bio Big-Data Open Innovation Laboratory (CBBD-OIL), National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
  5. Graduate School of Medicine, Nippon Medical School

doi:

https://doi.org/10.1038/s41952-023-02148-8

深層生成モデル“RfamGen”の開発

著者: contributor
2024年1月25日 13:58

機能性RNAの配列設計を支援する深層生成モデル“RfamGen”の開発

ポイント
特定の機能をもつRNA配列を学習し、同等の機能を発揮する新規の配列を生成する深層生成モデル注1)“RfamGen(アールファムジェン)注2)”を構築した。
変分オートエンコーダ(VAE)注3)にRNAの数理モデルである共分散モデル注4)を統合することで、新規RNA生成の性能を高め、少数データでも安定的な性能を実現した。
RfamGenは入力データの特徴を捉えながら情報を集約しており、RNA設計のカスタマイズに有用である。
RfamGenによる人工RNAは、学習RNA群と同等の構造と機能を保持し、天然RNAよりも高い機能活性をもつ可能性がある。
創薬や基礎研究におけるRNA設計のコスト削減と高速化につながることが期待される。

1.  要旨

角俊輔 氏(京都大学iPS細胞研究所(CiRA)未来生命科学開拓部門 大学院生、早稲田大学理工学術院 研究室受け入れ)、浜田道昭 教授(早稲田大学理工学術院)、齊藤博英 教授(CiRA同部門)は、目的の機能と構造をもつ人工RNA設計を支援する世界初の深層生成モデル“RfamGen”を開発しました。

RfamGenは、深層生成モデルで広く用いられている手法の一つである変分オートエンコーダ(VAE)と、RNA配列と二次構造注5)の情報から機能性RNAを分類することのできる共分散モデルを組み合わせたもので、特定の機能と構造の特徴をもつRNA群の特徴を学習し、人工配列を生成することができます。

研究グループは、RfamGenが学習したRNA群と相同な構造と機能をもつRNA配列が安定的に生成できることをコンピュータ上の解析と生化学実験の両方で確認しました。また、このRfamGenの性能は、深層生成モデルに共分散モデルを適用した結果であることがわかりました。さらに、RfamGenによる生成配列のRNAを大規模に合成し、網羅的にその活性を検証したところ、生成配列のRNAは天然のRNAよりも高い活性を示す傾向もみられました。

RfamGenによる学習結果を調べたところ、入力データのRNA群の二次構造や機能性のモチーフなどのバリエーションを、入力データの特徴の分布として効果的に集約していました。これにより、研究者が利用したいRNAの特徴をカスタマイズして、配列を生成することが容易になります。

RfamGenにより人工知能支援型のRNA設計が可能となることで、従来のRNA設計と比較し、開発コスト削減と高速化が実現し、核酸医薬や遺伝子治療などのRNA創薬の研究開発に貢献することが期待されます。

この研究成果は、2024年1月18日に英科学誌「Nature Methods」で公開されました。

2. 研究の背景

RNA分子は、遺伝子の転写調節や酵素活性など、その配列に応じてさまざまな機能を発揮し、基礎研究から医療まで幅広い場面で利用されています。しかし、利用目的に適した機能をもつRNAの塩基配列を設計することは高度な専門性と労力を要するため、RNA配列の特徴を適切に捉えて、機能性RNAを効率的よく設計できる、コンピュータを活用した手法の開発が期待されています。

これまでに機能性RNAの設計法として、RNA逆フォールディング注6)が主に研究されています。しかし、この手法には、手法の性質上、その正確性や汎用性にいくつか課題がありました。今回、研究グループは、RNAの配列と二次構造を数理的に記述できる共分散モデルとVAEを統合した機能性RNA生成のための世界初の深層生成モデルRfamGenを開発しました。

共分散モデルは、配列から特定の二次構造を検出し、幅広い種類のRNAをRNAファミリーとして分類でき、ゲノム配列から多くの機能性RNAを発見することに長年使われてきました。これまでに人工RNAの設計に共分散モデルが活用された例はありませんでしたが、研究グループはRNA分類に有用な共分散モデルを利用することで、従来の技術的課題を解決することができるのではないかと考えました。

3. 研究結果

1) RNAファミリー配列を設計する深層生成モデルRfamGen

RfamGenは、機能性RNAの生成性能を高めるため、VAEにRNAの分類に用いられる共分散モデルを統合しています(図1)。

共分散モデルは、RNAの配列と二次構造に基づき、複数のRNA配列どうしを互いに揃うように並べること(マルチプルアラインメント)ができます。RfamGenでは、はじめに目的の機能をもつ既存のRNA配列群を用意し、これを一つのRNAファミリーと見立てて、それぞれの配列に対して共分散モデルによるアラインメントを行います(図1左)。

RNA群のアライメント結果を、VAEの入力データとして使用します。VAEでは、入力したデータ群の特徴を学習し、入力データの特徴を確率分布として表現する「潜在空間」を構築します。RfamGenでは、RNAファミリーとみなしたRNA群の特徴を確率分布として表現する潜在空間が構築されます(図1中央)。

この潜在空間から出力されるデータは、入力に用いたRNA群の共分散モデルによる特徴を示すように生成されます。出力データを共分散モデルを介して配列に再構築することで、最終的に目的の機能を獲得した人工RNA配列を得ることができます(図1右)。

図1 RfamGenの概要

2) 共分散モデルは深層生成モデルの性能と安定性を高める

RfamGenは共分散モデルを利用することで、アライメントと二次構造を学習します。それぞれの要素が生成能力にどのように関わるかを検証するため、比較対象として次の3種のモデルを用意しました。

①   共分散モデルによる入力データに含まれるアラインメントの情報を利用する深層生成モデル(GCVAE)

②   共分散モデルによる入力データに含まれる二次構造の情報を利用する深層生成モデル

③   二次構造とアラインメントの情報をいずれも利用しない深層生成モデル

これら3種の深層生成モデルとRfamGenに、既知のRNAファミリー配列を学習させ、ランダムに1,000の配列を生成させました。そのうえで、学習に用いたRNAファミリーに共通の構造とどの程度、相同性をもつかをコンピュータ上で計算し比較しました。その結果、RfamGenが最も良いスコアを示すことがわかりました。

次に、学習に用いるRNA配列群のサンプル数の増減によりスコアがどのように変動するかについて研究グループは検証しました。まず、RfamGenに次いで良いスコアを出したアラインメント情報のみを利用する深層生成モデル(GCVAE)を比較対象としてRfamGenを検討した結果、多くの場合でRfamGenがGCVAEよりも高スコアを取ること、そして、サンプル数が少ない場合でもRfamGenの生成能力が安定して発揮されることが示唆されました(図2)。

これらの結果から、二次構造とアラインメント両方の学習が重要であり、共分散モデルを深層生成モデルと組み合わせることで、品質の高い人工RNA配列を安定的に生成できることが示唆されました。

図2 サンプル数による生成性能の変動
表の縦軸 Bit Score:RNAファミリー配列らしさ

3) RfamGenによる潜在空間の学習

次に、VAEの潜在空間が、学習したRNA配列の特徴を的確に反映したものとなっているかを調べました。その結果、潜在空間を二次元に可視化したところ、RNAの二次構造にみられる多型領域や、標的タンパク質に結合する配列 (モチーフ)など、入力データであるRNA配列の特徴の分布が、潜在空間に効果的に集約されていることがわかりました(図3)。このことから、RfamGenは、人工RNA設計支援ツールとして有用な、研究者が目的の機能と構造をもつ配列をより詳細にカスタマイズできる性能ももつことが示されました。

図3 潜在空間における配列情報の効果的な集約

4) RfamGenは高確率に活性配列を生成し、高活性を示す傾向がある

さらに、RfamGenを用いた人工RNAの性能を大規模な生化学実験によって評価しました。研究グループは、RNA分子のうち自己切断という酵素活性をもつ数百のRNA酵素(リボザイム)の配列情報を既存のデータベースから取得し、RfamGenの学習に使用しました。その結果、RfamGenから生成された配列が、実際に天然のRNAと相同な構造(図4左)と酵素活性をもつことがわかりました。この結果から、少数のデータで学習した場合も、RfamGenが期待した配列を生成できることを実験によって確認しました。

また、低分子に結合することで自己のRNA配列を切断する活性をもつRNA酵素であるglmSリボザイムを例に、RfamGenにより新規に1,000の配列を生成し、大規模に生成RNA配列の網羅的解析を行いました。その結果興味深いことに、RfamGenは酵素活性の高い配列を高確率に生成できることがわかりました(図4右)。

図4 RfamGen生成配列の構造と機能の評価
左:二次構造が相同な生成配列と天然配列
右:酵素活性の性能分布の比較(オレンジ:生成配列群、灰色:天然配列群)

4. まとめと展望

本研究では、RNA分類に利用される共分散モデルと深層生成モデルを統合し、人工RNA配列設計支援に用いることのできるRfamGenを構築しました。さらに、コンピュータ上と実験による性能評価によって、少数の入力データで学習した場合でも十分な性能が期待できることや、研究者が生成配列を詳細にカスタマイズ可能であること、入力データよりも高性能な人工RNA配列も生成しうることなど、RfamGenの有用性を示しました。今後、RfamGenを活用して、人工RNA設計を低コスト化、高速化し、生物学や医学など幅広い領域でRNAが活用されることに貢献することが期待されます。

5. 論文名と著者

論文名

“Deep generative design of RNA family sequences”
DOI: 10.1038/s41952-023-02148-8

ジャーナル名

Nature Methods

著者

Shunsuke Sumi1,2,3, Michiaki Hamada3,4,5,*, Hirohide Saito1,*
* : 責任著者

著者の所属機関
  1. 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)
  2. 京都大学大学院 医学研究科
  3. 早稲田大学理工学術院
  4. 産業技術総合研究所 生体システムビッグデータ解析オープンイノベーションラボラトリ(AIST CBBD-OIL)
  5. 日本医科大学大学院医学研究科

6. 本研究への支援

本研究は、以下の支援を受けて実施されました。

  • 科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST「イノベーション創発に資する人工知能基盤技術の創出と統合化」研究領域(研究総括:栄藤稔)「AIアプタマー創薬プロジェクト」(研究代表者:浜田道昭、主たる共同研究者:齊藤博英、グラント番号:JPMJCR21F1)
  • 科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST「細胞操作」研究領域(研究総括:宮脇 敦史)「機能性RNA・RNP進化プラットフォームの構築と細胞制御技術の開発」(研究代表者:齊藤博英、主たる共同研究者:足立俊吾、浜田道昭、グラント番号:JPMJCR23B3)
  • 日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金 特別推進研究

7. 用語説明

注1)  深層生成モデル

コンピュータ上の多層化したニューラルネットワークにより情報の処理を行い、学習したデータの特徴をもったデータを新たに生成するモデルのこと。

注2)  RfamGen

開発した深層生成モデルの名称。RNAファミリー(RNA family)配列の生成モデル(generator)であることから“RfamGen”と名付けた。

注3)  変分オートエンコーダ(VAE)

深層生成モデルの手法の一つ。入力データを元にその特徴を確率分布として潜在空間にとらえ、入力データと似たデータを新たに生成(出力)することができる。VAEはVariational Autoencoderの略。

注4)  共分散モデル

RNA配列の相同性を評価するアライメントに用いるモデル。ゲノム中の機能性RNAの探索に長年用いられている。共分散モデルにより、RNA配列は数千のRNAファミリーに分類されている。

注5)  二次構造

1本鎖RNAの配列に応じて局所的に形成される塩基対構造。

注6) RNA逆フォールディング

RNAの構造から配列を計算する方法。配列から構造を計算するフォールディングの逆の流れのため、逆フォールディングと呼ばれる。

「ペニシリン生産菌のラマン分光法による解析」に関する共同研究を開始

著者: contributor
2023年12月7日 17:24

学校法人早稲田大学とMeiji Seika ファルマ株式会社

「ペニシリン生産菌のラマン分光法による解析」に関する共同研究を開始

学校法人早稲田大学(所在地:東京都新宿区、理事長:田中愛治、以下早稲田大学)とMeiji Seika ファルマ株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:小林大吉郎、以下Meiji Seika ファルマ)は、2023年9月、「ペニシリン生産菌のラマン分光法による解析に関する共同研究」(早稲田大学代表者:理工学術院教授 竹山春子、Meiji Seika ファルマ代表者:DX推進室長 佐々木隆之、以下本研究)を開始しましたので、お知らせします。

抗菌薬は、細菌感染症の治療や手術時の感染予防に使われ、供給が途絶すると国民の生存に直接的かつ重大な影響が生じます。中でも注射用抗菌薬に多く用いられるβラクタム系抗菌薬は、その原材料のほぼ100%を中国からの輸入に依存しています。そのため、βラクタム系抗菌薬4剤が経済安全保障推進法に基づき「特定重要物資」として指定され、産官学の連携のもと、国産化の取り組みが進められております。Meiji Seika ファルマはそのうちペニシリン系抗菌薬2剤の国産化に向け、原材料である6アミノペニシラン酸(6-APA)の生産体制構築を目指しています。6-APAは、微生物を用いた発酵生産により得られるペニシリンGを変換して得られるため、工業化にはペニシリンGの生産量を高める必要があります。Meiji Seika ファルマは1994年までペニシリンを生産しており今なお工業レベルの技術を保有しておりますが、本共同研究により更なる生産性向上を目指していきます。

本研究で用いるラマン分光法とは、ラマン散乱光を用いて物質の評価を行う分光法です。物質に光を照射すると、光が物質と相互作用することで入射光と異なる波長を持つラマン散乱光と呼ばれる光が出ます。この光は物質が持つ分子振動のエネルギーにより決まるため、物質固有のラマン散乱光が得られます。本研究では、ペニシリン生産菌を対象とし、ラマン分光法によりペニシリン類並びにその中間体の細胞内における局在状況を解析します。従前の発酵解析は培養液を全体で捉え、物理化学的手法や遺伝子分析などで解析しておりましたが、本共同研究の顕微ラマンの手法ではペニシリン生産菌の細胞一つ一つをミクロで捉え、発酵生産の経時変化や細胞内局在性、細胞外への移送機構について解析が可能となります。

本研究において、Meiji Seika ファルマは様々な条件で培養したペニシリン発酵液を提供し、早稲田大学は理工学術院(竹山春子教授)並びにナノ・ライフ創新研究機構(安藤正浩次席研究員)の保有するラマン分光法によるin situ生体分子解析技術を駆使し、対象物質の細胞内局在の可視化を行います。

早稲田大学とMeiji Seika ファルマは、本研究によりペニシリン発酵の生産性向上や品質安定化に貢献する要素を抽出し、製造管理法構築における科学的根拠とするとともに、目的物の生成プロセスの解明を目指します。

7.5 TeVまでの宇宙線電子のエネルギースペクトル測定に成功:地球近傍の宇宙線加速源の可能性を示唆

著者: contributor
2023年12月5日 14:30

国際宇宙ステーション・「きぼう」日本実験棟搭載の高エネルギー電子・ガンマ線観測装置(CALET)による測定

7.5 TeVまでの宇宙線電子のエネルギースペクトル測定に成功:地球近傍の宇宙線加速源の可能性を示唆

発表のポイント

地球に飛来する宇宙線は、その加速領域の特定が難しいため加速・伝播機構の理解があまり進まない状況が続いていました。また高エネルギーの電子は、荷電粒子から加速源を同定できるユニークな可能性が理論的に指摘されていましたが、これまで観測例はほとんどありませんでした。
本研究グループは今回、高エネルギーの電子観測を主目的とした検出器であるCALETを用いて、電子を高精度に選別すると同時に、国際宇宙ステーションにおける長期間観測により高統計のデータを蓄積することでこの問題を克服しました。
その結果、高エネルギー領域で地球近傍の電子加速源候補である超新星残骸の寄与を示唆するエネルギースペクトルが得られました。今後のさらなる観測により、宇宙線加速源が荷電粒子によって初めて直接的に同定できる可能性が高まっています。

早稲田大学理工学術院総合研究所主任研究員(研究院准教授)・赤池陽水(あかいけ ようすい)、同大学名誉教授・CALET代表研究者 鳥居祥二(とりいしょうじ)、同大学理工学術院教授・モッツ・ホルガーと、神奈川大学、立命館大学、東京大学宇宙線研究所、弘前大学、宇宙航空研究開発機構(JAXA)による共同研究グループ(以下、本研究グループ)は、国際宇宙ステーション(ISS)に搭載したCALET(ISS・「きぼう」日本実験棟搭載の高エネルギー電子・ガンマ線観測装置)を用いて銀河宇宙線中の電子のエネルギースペクトルを世界最高の7.5テラ電子ボルト(TeV)まで高精度に観測し、宇宙線の起源と伝播に迫る成果を発表しました。
本研究成果は、アメリカ物理学会発行の『Physical Review Letters』に、“Direct Measurement of the Spectral Structure of Cosmic-Ray Electrons + Positrons in the TeV region with CALET on the International Space Station”として、2023年11月9日(木)(現地時間)にオンラインで掲載されました。

CALETの概念図(左図)と主検出器のカロリメータ(右図) (出典 JAXA/早稲田大学)

 

(1)これまでの研究で分かっていたこと

我々が住む銀河系内を起源とする宇宙線(*1)(銀河宇宙線)は、超新星爆発に伴う衝撃波加速で加速され、星間空間の磁場中を拡散的に伝播して地球に飛来するという理論モデルが標準的な宇宙線の加速・伝播モデルとして考えられていますが、その詳細は未だ多くの謎が残っています。宇宙線の理解が難しい要因の一つは、宇宙線が伝播中に星間磁場で曲げられてしまうため、その加速領域の特定が難しいことにあります。しかし1 TeV(*2)を超える高エネルギーの電子は、荷電粒子から加速源を同定できるユニークな可能性が理論的に指摘されており、その詳細な観測が望まれています。高エネルギーの電子は、陽子や原子核と異なり質量が小さいために、星間空間を伝播中に自身のエネルギーの2乗に比例してエネルギーを失う特性があります。このため、地球近傍にある伝播時間の短い加速源からしか地球に到達できません。そして、この条件を満たす加速源の候補天体は数例しかないため、TeV領域の電子が観測されれば、それは地球近傍の候補天体からの寄与であると解釈できるのです。

この電子観測の重要性は古くから指摘されていましたが、これまで観測例はほとんどありません。それは、高エネルギーの電子はフラックス(到来頻度)が少ないため長期間の観測が必要とされることと、1000倍以上存在する陽子との選別が可能な検出器による測定が必要なためでした。CALETは、高エネルギーの電子観測を主目的とした検出器で、電子を高精度に選別すると同時に、ISSにおける長期間観測により高統計のデータを蓄積することで上記の問題を克服しています。さらに高いエネルギー分解能を有しており、これまでにない高精度なエネルギースペクトルを測定することが可能です。これまでに当該グループは、宇宙空間において初めてTeV領域電子の観測に成功し、2年間の観測量から4.8 TeVまでのエネルギースペクトルを測定するなどの成果を上げてきました。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

宇宙線電子望遠鏡「CALET: Calorimetric Electron Telescope」は、日本の宇宙線観測としては初めての本格的な宇宙実験で、高エネルギー電子の観測に最適化された検出器です。飛来した宇宙線が検出器中で吸収されて生じるシャワー現象の発達の様子を3次元的に可視化し、電子と陽子が作るそれぞれのシャワー形状の違いを画像から識別して、宇宙線の種類やエネルギーを測定します。

図1:上図は、CALETの側面から見た概念図と、1 TeVの電子によるシャワー粒子のシミュレーション例。
下図は、実際に観測された3.9 TeVの電子の観測例(X-Z面とY-Z面から表示)

 

図1の上図は、1 TeVのエネルギーを持つ電子のシミュレーション計算例です。同じく下図は、3.9 TeVの実際に観測された電子事象の候補です。上層から入射した粒子が検出器内でシャワーを起こし、ほぼ全てのエネルギーが検出器によって吸収されています。TeV領域の電子が作るシャワーを全吸収できる厚い物質量を有し、そのシャワー形状を捉え可視化することで精確な粒子識別を可能にする点がCALETの最大の特徴です。

図2: CALETによる7.5 TeVまでの電子のエネルギースペクトル。これまでの観測のうち、
宇宙空間での測定結果(Fermi-LAT, AMS-02, DAMPE)を比較のためにともに示した。

 

2015年10月13日から2022年12月31日までの7年以上のデータを用いて、CALETにより測定された電子(+陽電子)のエネルギースペクトルを図2に示しました(赤点)。これは2018年に発表した際の観測量の3.4倍に相当し、最大エネルギーも7.5 TeVへと拡大しています。

図3に示すように、電子のエネルギースペクトルは1 TeV付近で単純な冪型のスペクトルから6.5σ以上の優位度を持って折れ曲がっています。このフラックスの減少は、地球遠方を起源とする電子が伝播中にエネルギー損失の影響を受けるという理論モデルによる予測と合致します。

また図4にCALETの全電子のエネルギースペクトルと、AMS-02(*3)による陽電子のエネルギースペクトル、及び超新星残骸やパルサーなど個々の天体を起源とする宇宙線伝播のシミュレーション例を示します。特に、地球近傍の電子加速源候補である超新星残骸Vela(黄線)の寄与がTeV領域の測定結果を上手く再現しています。

図3:電子の観測結果と、フィッティング例。測定結果は1TeV以上の領域において
単一冪型(黒線)から外れてフラックスが減少している。

 

図4:CALETによる全電子のスペクトルとAMS-02による陽電子のスペクトル、及び
個々の近傍加速天体の寄与。特に超新星残骸Vela(黄線)がTeV領域の電子に大きな影響を与えている。

(3)そのために新しく開発した手法

今回の成果は、7年以上にわたる長期間の観測で高統計のデータを蓄積したことに加え、電子選別手法の改良が大きな鍵を握りました。電子観測では、バックグラウンドとなる陽子との選別が重要で、CALETはシャワー形状の差異を利用して電子選別を行います。電子・陽子を特徴づけるシャワー形状のパラメータを抽出し、一桁当たり108例以上に及ぶシミュレーションデータを元に機械学習(Boosted decision trees: BDT)による選別を行います。今回、選別用のパラメータが測定データを精確に再現するようシミュレーションデータを調整することで新たなパラメータとして追加し、陽子との選別精度向上を計りました。これにより、電子の選別効率を保ちつつ陽子の混入を10%未満に抑えることに成功し、7.5 TeVに至るエネルギースペクトルの導出を達成しました。

(4)研究の波及効果や社会的影響

宇宙線はその発見から100年以上に渡り、宇宙物理学・素粒子物理学の発展に大きく貢献し続けています。CALETの観測は国内外で多くの興味が寄せられ、数ある測定項目の中でも近傍加速源探索は最大級の成果が期待されています。またCALETの科学成果だけでなく、ISSにおける「きぼう」の意義が再認識されるという成果も上がってきています。
超新星爆発に伴う衝撃波で宇宙線が加速されている事実は、X線やガンマ線による観測から既に明らかにされていますが、実際に加速源から地球に飛来する電子が同定できれば、荷電粒子自身による初めての宇宙線加速の直接的な証拠が得られます。今回、7.5 TeVまで測定エネルギーを進展させたことにより、期待されていた地球近傍加速源の存在を示唆する結果が得られ、今後の測定による加速源の同定と精密なスペクトル測定が一層注目を集めます。これが達成できれば、そのスペクトル形状等から定量的な理論モデルの精密化が進むため、宇宙線の起源や加速・伝播機構の解明に大きな進展が期待されます。

(5)今後の課題

今回の観測結果は、銀河宇宙線の標準的な加速・伝播モデルから期待されるフラックスの減少と、TeV領域における近傍加速源の存在を示唆することができました。今後さらに観測量を増やし地球に飛来するエネルギー上限近くまでエネルギースペクトルを高精度に測定します。そして到来方向の異方性を合わせて検出し、近傍加速源の同定を目指します。加速源が同定できれば、加速・伝播の理解に重要なパラメータを、そのスペクトル形状から定量的に調べることができ、宇宙線の加速・伝播機構の解明に大きな進展が期待されます。さらに、電子のスペクトル中には宇宙における最大の謎の一つとされる暗黒物質に由来する成分が含まれている可能性も指摘されています。高精度なCALETによる電子のスペクトル構造から、その詳細を検証することで暗黒物質の正体に迫ることも今後の課題です。

(6)研究者のコメント

CALETは2015年8月にISS・「きぼう」に設置されて以来、現在まで安定的に稼働し続け、宇宙の遥か遠くからの情報(宇宙線)を収集しています。今後も蓄積されるデータを丁寧に解析し、高エネルギー宇宙の描像を明らかにすることを目指します。

(7)用語解説

※1 宇宙線

宇宙空間は、何もないように見えますが、実はとてもたくさんの粒子が飛んでいます。それらは原子よりもさらに小さい陽子や電子などの粒子で、宇宙空間で手をかざしたら1秒間に100個以上が手に当たるほどたくさん飛んでいます。そのような粒子を宇宙線と言います。宇宙線は約100年前に発見されて以来、常に物理学の最先端のテーマでした。宇宙線の研究から、陽電子や中間子の発見など、人類の知識を大きく広げる成果が上がっています。宇宙線は太陽や天の川銀河など宇宙のさまざまな場所から飛んできます。特に高いエネルギーを持ったものは、太陽系の外から遥々やってきます。

※2 GeV, TeV

エネルギーの単位です。1ボルトの電位差を抵抗なしに通過した際に電子が得るエネルギーが1電子ボルト(eV)です。ここでは、その109倍のギガ電子ボルト(GeV)、1012倍のテラ電子ボルト(TeV)のエネルギー領域を扱っています。

※3 AMS-02

AMS-02 (Alpha Magnetic Spectrometer)は、2011年5月にISSに搭載された磁気分光器で、現在も宇宙線の観測を継続しています。磁石を利用し、検出器中の磁場中の曲がり具合から入射粒子の運動量を測定するCALETとは異なる測定原理の検出器です。約2 TeVまでの電子と陽電子の識別が可能で、より高エネルギー領域まで測定可能なCALETとは相補的な関係にあります。

(8)論文情報

雑誌名:Physical Review Letters
論文名:Direct Measurement of the Spectral Structure of Cosmic-Ray Electrons + Positrons in the TeV region with CALET on the International Space Station
執筆者名:Yosui Akaike (Waseda University), Shoji Torii (Waseda University), Holger Motz (Waseda University), Nicholas Cannady (NASA/GSFC/CRESST/UMBC) et al. (CALET Collaboration)
掲載日(現地時間):2023年11年9日(木)
DOI:https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.131.191001

(9)研究助成

研究費名 : 科学研究費補助金 基盤研究(S)
研究課題名:  CALET長期観測による銀河宇宙線の起源解明と暗黒物質探索
研究代表者名(所属機関名): 鳥居祥二(早稲田大学)

研究費名 : 科学研究費補助金 基盤研究(C)
研究課題名: 宇宙線原子核の直接観測による銀河宇宙線の加速・伝播機構の研究
研究代表者名(所属機関名): 赤池陽水(早稲田大学)

研究費名 : 科学研究費補助金 基盤研究(C)
研究課題名: Combined Spectrum and Anisotropy Study of Cosmic Rays from the Vela SNR with CALET
研究代表者名(所属機関名): Holger Motz (早稲田大学)

悪性度の高い子宮頸癌の原因となるHPV18型の標的細胞とウイルス複製の特徴を解明

著者: contributor
2023年12月1日 12:42

悪性度の高い子宮頸癌の原因となるHPV18型の標的細胞とウイルス複製の特徴を解明

発表のポイント

◆悪性度の高い子宮頸癌の原因となるHPV18型の初期プロモーター活性を発光強度で測定する新たなシステムを開発しました。

◆患者由来の正常な子宮頸部のオルガノイドに同システムを導入することに成功し、HPV18型のウイルス複製に関わる因子としてヒストンシャペロン蛋白であるNPM3を同定しました。

◆本研究で開発したシステムは他の型のHPV感染症の研究に応用できる可能性があるほか、NPM3の解析がHPV18型発癌の機序解明や予防法・治療法の開発につながっていくことが期待されます。

概要

東京大学医学部附属病院女性診療科・産科の田口歩届出研究員、東京大学大学院医学系研究科生殖・発達・加齢医学専攻の豊原佑典大学院生、曾根献文准教授、大須賀穣教授ならびに、早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構の松永浩子次席研究員早稲田大学大学院先進理工学研究科生命医科学専攻の竹山春子教授らの研究グループは、子宮頸癌(注1)の原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)(注2)の中でも悪性度の高い癌の原因とされるHPV18型の標的細胞に注目し、HPV18型の複製に関与する細胞内分子NPM3(注3)の同定に成功しました。

子宮頸癌は、HPVが子宮頸部のSCJ部位(図1)に感染すると細胞内でHPV初期プロモーターという遺伝子領域が活性化します。本研究グループは、HPV18型初期プロモーター下流に発光蛋白遺伝子を組み込んだベクターを作製し、患者由来のSCJオルガノイド(注4)に導入する世界初の実験を行いました。さらに、次世代シーケンサー(注5)を用い、シングルセル解析(注6)によって、初期プロモーターが活性化した個々の細胞の特徴を解析しました。これにより、SCJの中でもより未分化な細胞内でHPV18型初期プロモーターが活性化しやすいことや、ヒストンシャペロン蛋白(注7)であるNPM3がHPV18型ウイルスの複製に関わっていることを解明しました。

本研究成果は、日本癌学会誌「Cancer Science」の本掲載に先立ち、11月24日にオンライン版で掲載されました。

子宮は子宮体部と子宮頸部に大別され、出入り口にあたる子宮頸部は腟から連続する扁平上皮と子宮内膜から連続する腺上皮の移行部にあたり、SCJ(Squamocolumnar junction)と呼ばれます。

発表内容

(1)研究の背景

日本では子宮頸癌ワクチンの普及の遅れから若い世代の罹患者数が増加しており、ワクチンによる一次予防とともに、HPV感染後の子宮頸癌への進行予防法や治療法の開発が重要視されています。性交渉によりHPVがSCJに侵入し、細胞内でHPVの初期プロモーターが活性化することで感染が成立します。また、HPVには高リスク型と低リスク型があり、高リスク型の感染で子宮頸癌へ進展するリスクが高まります。高リスク型は約13種類知られており、特にHPV18型は、前がん病変で見つかりにくく、悪性度の高い腺癌や小細胞癌で見つかる頻度が高い管理が難しいHPVです。本研究では、HPV18型の感染標的細胞を同定し、感染成立や癌化の機構を解明するため、初期プロモーターの活性化に着目しました。患者さんから採取した検体の一部を特殊な環境下で三次元培養を行う手法で、人体臓器に模した小さな三次元培養(ヒト由来SCJオルガノイド)を作り出し、HPVプロモーターの活性を測定しました。

(2)研究の内容

婦人科癌手術を受けた患者さんから、正常と考えられる子宮頸部のSCJの一部を採取し、オルガノイド培養を行い(SCJオルガノイド)ました。まず、オルガノイドと正常子宮頸部SCJを対象に空間的位置情報を確認した上で、微小領域の遺伝子発現プロファイルを評価し、培養したSCJオルガノイドが子宮頸部SCJの性質を有することを確認しました。次に、HPV18型の初期プロモーターに注目し、初期プロモーターの活性を担う領域(LCR:Long control region)に発光蛋白遺伝子を繋いだベクターを作製しました。初期プロモーターが活性化すると発光するので、プロモーターの活性化を発光強度で測定できるシステムです(図2)。このベクターをSCJオルガノイドに導入しました。

導入後、細胞を1細胞ごとに分け、シングルセルソーティングで細胞の発光強度を測定し、発光細胞と非発光細胞を分取しました。ひとつひとつの細胞を個別に解析し、発光細胞と非発光細胞を比較することで、HPV18型初期プロモーターが活性化した細胞の特徴が示されました(図3)。その結果、169個の遺伝子においてHPV18型初期プロモーターが活性化した細胞で有意に発現上昇していることがわかりました(図4)。

この169個の遺伝子のうち、特に重要な遺伝子を探すため、HPV18型が複製するヒト上皮由来の細胞(NIKS細胞)で候補遺伝子の発現を低下させる実験を行ったところ、ヒストンシャペロン蛋白であるNPM3という遺伝子がHPV18型の複製に重要であることが示唆されました。NPM3は未分化幹細胞で多く発現することが報告されていますが、本研究でも、NPM3の遺伝子発現を低下させると細胞の分化能に関する遺伝子の発現が低下する傾向にありました。

以上のことから、HPV18型初期プロモーターが活性化しやすい細胞がSCJの未分化な細胞であること、そしてNPM3が未分化性の維持とHPV18型の複製に関与していることが示唆されました。従来、HPVがSCJの細胞の中でも特に未分化細胞に感染することで、癌化すると考えられてきましたが、本研究によって、ヒトの生体に近いオルガノイドでそれが裏付けられました。

(3)今後の展望

本研究では子宮頸部SCJオルガノイドでHPV18型初期プロモーター活性を測定する世界初の実験を行い、HPV感染細胞を同定しました。このシステムは今後、HPV感染症研究への幅広い応用が期待できます。また、NPM3がHPV18型の初期複製にどのように関わるかを明らかにすることで、HPV18型による発癌の機序解明、予防法・治療法の開発に繋がる知見が得られる可能性があります。

HPV18型のLCRが活性化すると、その下流のEGFP(蛍光)が発現し、発光するシステムを構築しました。

患者由来のSCJオルガノイドを作製し、HPV18型の初期プロモーターの遺伝子導入を行った後、1細胞ごとに分離し、発光細胞と非発光細胞へ振り分け、それぞれの細胞のシングルセル解析を行いました。

発光細胞と非発光細胞のシングルセル解析結果を比較すると、初期プロモーター活性のある発光細胞で169遺伝子の発現が有意に上昇していることがわかりました(図の遺伝子名は169遺伝子の一部、これらの中にNPM3も含む)。

発表者・研究者等情報

東京大学

医学部附属病院 女性診療科・産科 田口 歩 届出研究員(医師)
兼:大阪大学免疫学フロンティア研究センター 特任研究員
研究当時:東京大学医学部附属病院 女性診療科・産科 助教

大学院医学系研究科 生殖・発達・加齢医学専攻
 豊原 佑典 大学院生(医学博士課程)
 曾根 献文 准教授 兼:医学部附属病院 女性外科
 大須賀 穣 教授 兼:医学部附属病院 女性外科

早稲田大学

ナノ・ライフ創新研究機構 松永 浩子 次席研究員
大学院先進理工学研究科生命医科学専攻 竹山 春子 教授

論文情報

雑誌名:Cancer Science
題 名:Identification of target cells of human papillomavirus 18 using squamocolumnar junction organoids
著者名:Yusuke Toyohara, Ayumi Taguchi*, Yoshiyuki Ishii, Daisuke Yoshimoto, Miki Yamazaki, Hiroko Matsunaga, Kazuma Nakatani, Daisuke Hoshi, Saki Tsuchimochi, Misako Kusakabe, Satoshi Baba, Akira Kawata, Masako Ikemura, Michihiro Tanikawa, Kenbun Sone, Mayuyo Uchino-Mori, Tetsuo Ushiku, Haruko Takeyama, Katsutoshi Oda, Kei Kawana, Yoshitaka Hippo, Yutaka Osuga(*責任著者)
DOIhttps://doi.org/10.1111/cas.15988

研究助成

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症研究基盤創生事業(多分野融合研究領域)「単一細胞解析技術の統合によるHPV18型幹細胞発癌機構の解明(課題番号:23wm0325057h0001)」(研究代表者 田口歩)、新興・再興感染症研究基盤創生事業(多分野融合研究領域)「新規培養技術を用いた、扁平腺接合部細胞における高悪性度HPV18型の潜伏持続感染および発癌機構の解明(課題番号:20wm0325014h0001)」(研究代表者 田口歩)、創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)「1細胞/微小組織マルチオミックスのオールインワン解析による生命科学研究の支援(課題番号:JP22ama121055)」、創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(BINDS)「創薬等支援のための1細胞・微小生体組織のトランスクリプトーム解析(課題番号:JP21am0101104)」、科研費「子宮頸癌の起源細胞の同定と、発癌・分化機構の解明(課題番号:22K16853)」(研究代表者 河田啓)の支援により実施されました。

用語解説

(注1)子宮頸癌

子宮頸部から発生する癌です。ヒトパピローマウイルスの感染が原因とされています。

(注2)ヒトパピローマウイルス(HPV:Human papillomavirus)

子宮頸癌をはじめ、頭頚部癌などさまざまな癌の原因となるウイルスです。子宮頸癌では性交渉を契機に感染が樹立するとされます。

(注3)NPM3(ヌクレオフォスミン〈NPM:Nucleophosmin〉)

ヒストンシャペロン蛋白のひとつ。未分化な細胞での発現が高いという報告があります。

(注4)オルガノイド

これまでの基礎研究はヒト由来の不死化された細胞株やマウスなどの代替生物を利用する方法が主流でしたが、近年、患者由来オルガノイド培養という新たな手法が開発されました。患者由来組織を用いた特殊な細胞培養方法で、従来法より人体に近い環境での細胞培養が可能です。

(注5)次世代シーケンサー

DNA/RNAの配列を読み取る技術です。

(注6)シングルセル解析

次世代シーケンサーの技術革新により、ひとつひとつの細胞ごとのDNA/RNA配列を読み取ることができる技術です。

(注7)ヒストンシャペロン蛋白

遺伝子であるDNAが格納されるヒストンと呼ばれる蛋白の解離会合に関連する補助的な蛋白。

スキルミオンスピン波リザバーの高度な文字認識機能を実証

著者: contributor
2023年12月1日 12:41

スキルミオンスピン波リザバーの高度な文字認識機能を実証

IoT時代を支える省エネ・安定・低コストな情報処理デバイスの実現に道

発表のポイント

現代エレクトロニクスの主要材料である半導体に比べ、磁性体は高い放射線耐性や熱擾乱耐性、繰り返し刺激に対する耐性を持つため、過酷な環境下で長期間、少ないエネルギー供給で、安定に動作することが要求されるIoT時代のユビキタス素子*1の材料に適しています。
磁性体を材料とするリザバーコンピューティング*2素子の一つである「スキルミオンスピン波リザバー」の情報処理性能を、実用的な情報処理タスクである「手書き文字認識タスク」において、数値シミュレーションにより検証しました。
その結果、スキルミオン結晶*3のスピン波が備えている「非線形変換性」と「短期記憶性」により、磁性体を利用したリザバーでも高い正答率で手書き数字を正しく認識できることを実証しました。
スキルミオン結晶をリザバー*4として活用することで、低コストで作れる安定性や省エネ性に優れたコンピューティング素子の実現が期待されます。

早稲田大学(以下、早大)理工学術院のリー・ムークン(Mu-Kun Lee)講師、および望月維人(もちづきまさひと)教授の研究グループ(以下、本研究グループ)は、磁性体中に発現するトポロジカル磁気渦の集合体「スキルミオン結晶」を伝わる磁気モーメントの波(スピン波)を新しい情報処理技術であるリザバーコンピューティングに活用することで、磁性体を材料とするリザバーでも人が手で書いた文字を高い精度で認識できることを数値シミュレーションにより実証しました。スキルミオン結晶は磁場を印加するだけで自発的に形成されるため、従来の磁性体を用いたリザバー素子と異なり、その作成において高度な微細加工や複雑な製造プロセスを必要としないという利点があります。来るべきIoT社会に向けて、低コストで作れる安定性や省エネ性に優れたコンピューティング素子を実現する道を切り拓きました。

本研究成果は、国際学術出版社であるNature Research社発行による『Scientific Reports』誌(論文名Handwritten digit recognition by spin waves in a Skyrmion reservoir)に2023年11月8日(木)(現地時間)に掲載されました。

(1) これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

現代の情報処理技術には「ノイマン型アーキテクチャ*5」が用いられています。このノイマン型の情報処理技術は、多くの問題において正しい解を与えますが、「計算時間の指数関数的な増大」や「デバイスの微細化限界」、「大きな消費電力」といった多くの致命的な問題を抱えています。これらの問題を解決すべく、「人間の脳」の機能を模倣した「非ノイマン型」の情報処理技術である「脳型コンピューティング」が世界中で精力的に研究されています。脳型コンピューティングは、(プログラミングではなく)「学習」により情報処理機能を獲得し、非決定論的で、消費電力を大幅に抑えることができるという特徴を持っています。

いくつかある脳型コンピューティング技術の中で大きな成功を収めているものの一つに、入力に対して非線形な応答を示す動的な媒質(リザバー)を利用する「リザバーコンピューティング」があります。この技術は、「音声認識」や「株価予想」などの時系列データ処理や、「画像認識」や「手書き文字認識」などのエラーへの寛容性を要するデータ処理に適しており、その根幹要素である「リザバー」として、これまでに光回路や生体、力学機械、半導体、磁性体など様々な材料や現象が研究・提案されてきました。

その中でも「磁性体」は、外界からのノイズ・擾乱に対する安定性と、小さな外場で駆動・制御できる省エネ性、外場に対する応答の高速性の観点から、他の材料に比べて大きな優位性を持っています。例えば「外界からのノイズ・擾乱に対する安定性」については、現代エレクトロニクスの主流材料である半導体が放射線やX線の被ばくに対して耐性がないことや、高温や低温で正しく動作しなくなること、繰り返し通電すると性能が劣化するなどの欠点があるのに対し、磁性体にはこのような欠点がありません。そのため、半導体素子が日常の比較的穏やかな環境下でしか使用できないのに対し、磁性体は放射線が飛び交う宇宙空間や原子炉周辺、野ざらし・雨ざらしの屋外、高温になるエンジンや炉の近くでも使用することができます。そのため、IoT時代を担うユビキタス素子の材料候補として注目されています。

このような背景から、スピントロニクス*6と呼ばれる研究分野において、磁性体を材料とするリザバーが精力的に研究されてきました。しかし、現在研究が進められている磁性体を利用したリザバーのほとんどは、微細加工によって作製された「スピントルク発振素子*7」を複数接続して使うものであり、その作成には高度な微細加工と複雑な製造プロセスを必要とします。

一方、「スキルミオン」は2009年に発見されたナノサイズの磁気渦であり、キラル磁性体*8に磁場を印加するだけで自己組織化により無数に生成されます。さらに、生成されたスキルミオンは周期的に配列して結晶化することが知られています(スキルミオン結晶)。著者のひとりである望月は、2012年に、スキルミオン結晶を構成する一つ一つのスキルミオンがマイクロ波に対してスピントルク発振素子と同様の応答や振舞いをすることを発見しました。また、スキルミオンは、位相幾何学的な特徴を持つために、熱揺らぎなどの外部擾乱に対して堅牢であるという性質や、通常の磁気構造よりも小さな電磁場に対して鋭敏で巨大な応答を示すという性質を持っています。

2022年に著者たちは、スキルミオン結晶がリザバー応用に適した性質を有していることを、数値シミュレーションにより実証しました(参照プレスリリース:スキルミオン結晶のリザバーコンピューティング機能を実証 https://www.waseda.jp/top/news/82391)。具体的には、リザバーの性能を決定づける3つの機能、「入力信号の特徴を反映した出力を返す性質(汎化性)」、「入力信号を非線形に変換して出力する性質(非線形変換性)」、「短期の履歴情報を記憶し、長期の履歴情報を忘却していく性質(短期記憶性)」を、「入力時間推定タスク」、「偶奇判定タスク」、「短期記憶タスク」という3つのタスクを課すことで評価しました。その結果、スキルミオン結晶が高いレベルでこれらの機能を備えていることが示されました。しかし、この研究では、スキルミオンがリザバーとしての基本的な性質を備えていることは示されたものの、より実用的かつ実際的な情報処理タスクにおいて、どの程度の性能を発揮できるかは未知数のままでした。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

スキルミオン結晶中を伝播する磁気モーメントの波を活用するリザバー(スキルミオンスピン波リザバー)の実用的・実際的な情報処理タスクにおける性能を評価・実証できれば、安定かつ省電力で、応答が高速であるというスキルミオンの特性を生かした、安価で高性能なリザバーコンピューティング素子の実現に道が拓けます。

そこで本研究では、「MNISTデータベース*9」と呼ばれる「0から9までの10種類の数字の手書き文字画像のデータベース」を使って、スキルミオン結晶中のスピン波が持つ「手書き文字認識機能」の性能評価を、数値シミュレーションを用いて行いました。

その結果、スキルミオンスピン波リザバーが磁性体を材料とするリザバーとしては最高レベルの正確さで手書き数字を正しく認識でき、その正答率(88.2%)は最も有名な動的リザバーモデルの一つである「エコーステイトネットワークモデル(Echo-state network model)*10」の正答率(79.3%)を凌駕することを実証しました。もちろん、半導体エレクトロニクスに立脚する現在の手書き文字認識技術は高度に発達しており、その正答率は99%を凌駕するものもあります。したがって、認識精度の点で、我々のスキルミオンスピン波リザバーはこれらの既存技術に及んでいません。しかし、半導体素子の利用が実質的に不可能な過酷な環境下でも使用できる磁性体リザバー素子の可能性を切り拓き、IoT社会の要請に応えるユビキタス素子の新しい候補を提案した点に、本研究成果の意義があります。加えて、この磁性体リザバーが高度な微細加工や複雑な製造プロセスなしで、(その結果として)低コストで製造できることも大きな魅力であると考えています。

また、手書き文字データを磁場パルス信号に変換してスキルミオンスピン波リザバーに入力した後に、様々なタイミングで読み出したデータを用いて性能を評価・比較することで、スキルミオン結晶中を伝播するスピン波が複雑に散乱・干渉することで実現する「非線形変換性」と、散逸・緩和による振動強度の減少や位相情報の損失によって実現する「短期記憶性」によって、この優れたリザバー機能が実現していることを明らかにしました。

(3)そのために新しく開発した手法

本研究で行った数値シミュレーションでは、MNISTデータベースにある膨大な数の手書き数字画像の画素配列を、それぞれの画素のグレースケールに比例した強さの磁場パルスとして、設置した入力ノートからスキルミオン結晶に順次入力します。そして、この連続的に印加された磁場パルスによって誘起された磁気モーメントの振動が、スキルミオン結晶中を散乱・反射・干渉を繰り返しながら伝播し、読み出しノードの位置まで達する時空間ダイナミクスの様子を、磁気モーメントの時間発展方程式であるLLG方程式を用いてシミュレーションしました。

さらに、読み出し部での磁気モーメントの振動強度信号を読み出し、それに線形変換を施すことで、0から9までの数字のどれかに対応する回答を出力させます。この出力と、入力した手書きの数字が一致することを正答と呼び、正答率を上げるように線形変換の行列を最適化しました。そして、この「学習」と呼ばれる最適化プロセスを経て得られた行列を用いて、性能評価用の手書き数字画像のセットにおいて、どの程度正しく手書き数字を認識できるか、その正答率を評価しました。

この一連の性能評価のプロセスを遂行するために、手書き文字画像を入力用の磁場パルス信号に変換するモジュールと、磁化の時空間ダイナミクスをシミュレーションするモジュール、線形変換行列の最適化を行うモジュールを組み合わせた、統合的なプログラムコードを開発しました。

(4)研究の波及効果や社会的影響

スキルミオン結晶を利用したリザバーは、安定性、省電力性、高速性といったスピントロニクス素子の長所を兼ね備えると同時に、従来のスピントロニクス素子のような高度な微細加工や複雑な製造プロセスを必要としないため、低コストで作成できるという利点があります。今回の研究で、手書き文字認識のような実用性の高い情報処理タスクにおいても、優れた性能が示されたことで、これらの利点を生かしたリザバーコンピューティング素子は、IoT社会を支えるユビキタス素子*10として活躍することが期待されます。

(5)今後の課題

今回の研究では、スキルミオン結晶中を伝播するスピン波を活用するリザバーが、手書き文字認識という実用的な情報処理タスクにおいて、高いレベルの性能を発揮することが実証できました。今後はさらに、音声認識や会話認識、時系列データ予測などの、より高度で複雑な情報処理タスクにおいて、スキルミオンリザバーの実用性を検証していく必要があります。また、リザバー部分だけでなく、入力部や読み出し部も含めたシステム全体として、コンピューティングデバイスの理論設計を行うことや、最適なデバイス構造や入力信号パラメータ、磁性体材料の探索も重要な課題になります。

(6)研究者のコメント

今回の研究で、キラル磁性体に磁場を印加するだけで生成できるスキルミオンを用いたリザバーが、手書き文字認識という実用的な情報処理タスクにおいて、高い性能を発揮できることが実証できました。今後の研究開発により、スキルミオンを利用した高性能なリザバーコンピューティング素子が実現し、社会実装されることを期待しています。

(7)用語解説

※1 ユビキタス素子

英語「ubiquitous」の意味の通り、我々の日常生活や身の回りで広く使われるデバイスのこと。

※2 リザバーコンピューティング

脳機能を模倣した情報処理方式の一つ。入力信号をリザバーと呼ばれる媒質に通して非線形変換を施すことで高い次元のデータ空間にマップした後、線形変換によって出力を得る。線形変換に用いる行列(重み行列)を学習により最適化することで、それぞれの問題やタスクに対応する情報処理機能を獲得。時系列パターンの認識や、エラーへの寛容さが要求される情報処理に適している。

※3 スキルミオン結晶

磁性体中の磁気モーメントが集団で形成する「スキルミオン」と呼ばれる磁気渦が、三角格子状や正方格子状など空間周期的に配列した磁気秩序状態。様々な物性現象や物質機能の宝庫になっていることが、近年の研究で明らかになってきている。

※4 リザバー

リザバーコンピューティング(※2を参照)の根幹をなす構成要素で、入力信号を読み出し信号に変換する役割を果たす動的媒質。様々な材料や現象を利用して実現できるため、これまでに光回路や生体、力学機械、半導体、磁性体などを利用した多彩なリザバーが研究・提案されている。入力データを非線形に変換することで高い次元の情報空間にマップしたり、時系列データの過去の入力履歴を一定期間記憶することで情報の時空間相関を取り込んだりする役割を果たす。リザバーコンピューティングでは、リザバーで変換された信号を読み出し、これに重み行列を掛けて線形変換を行うことで情報処理を実行する。この時、リザバーによる信号変換はブラックボックスとして扱えるため、最適化が必要な行列は線形変換の重み行列に限定される。そのため少ない計算コースで情報処理ができるという利点がある。

※5 ノイマン型アーキテクチャ

ジョン・フォン・ノイマン(John von Neumann)が提唱したコンピュータの基本構成。記憶部に計算手続きのプログラムが格納され、逐次処理方式で処理が実行される。現在のコンピュータのほとんどがこの方式を採用している。

※6 スピントロニクス

物質中の電子は、電気的な性質を担う「電荷」の自由度に加え、磁気的な性質を担う「スピン」の自由度を持っている。この電子のスピン自由度を積極的に活用し、エレクトロニクス技術への応用を目指す研究分野をスピントロニクスと呼ぶ。

※7 スピントルク発振素子

微細加工によって形成した強磁性体を積層させたスピントロニクス素子。直流電流を流すことで、強磁性体中の磁気モーメントが一定の周波数で歳差運動する。その結果、素子の両端にマイクロ波帯の交流電圧が生じる。スピントルク発振素子を複数接続させると、素子間の相互作用により発振の同期が起こるが、この現象を脳模倣型コンピューティングに応用する研究が進められている。

※8 キラル磁性体

鏡に映した像が元の像と重ならない構造をキラルな構造と呼び、構成原子の空間配列(結晶構造)がキラルである磁性体をキラル磁性体と呼ぶ。キラル磁性体では、隣り合う原子の磁気モーメントを互いに傾けようとするジャロシンスキー・守谷相互作用が働くために、しばしばスキルミオンのような磁気渦構造が発現する。

※9 MNISTデータベース

様々な画像処理アーキテクチャの学習・評価に使用される手書き数字画像の大規模なデータベース。米国商務省配下の研究所であるアメリカ国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology)で構築された。60,000枚の訓練用画像と10,000枚の評価用画像で構成されている。

※10 エコーステイトネットワークモデル(Echo-state network model)

リザバーコンピューティングの代表的なモデルの1つ。リザバーに入力した時系列信号の履歴が適度な時間、反響(エコー)として残り、十分時間がたつと消えていく状態(エコーステート)を活用する。リザバーから読み出した、過去の入力履歴を一定程度反映した変換された信号を、重み行列により線形変換することで実行する情報処理のモデル。

 (8)論文情報

雑誌名:Scientific Reports
論文名:Handwritten digit recognition by spin waves in a Skyrmion reservoir
(スキルミオンリザバーにおけるスピン波伝搬を利用した手書き数字認識)
執筆者名(所属機関名): リー・ムークン望月維人(いずれも、早稲田大学)
掲載予定日時(現地時間):2023年11月8日
掲載URL:https://doi.org/10.1038/s41598-023-46677-w
DOI:10.1038/s41598-023-46677-w

(9)研究助成(外部資金による助成を受けた研究実施の場合)

研究費名:国立研究開発法人化学技術振興機構 戦略的創造研究推進授業CREST
研究課題名:Beyond Skyrmionを目指す新しいトポロジカル磁性科学の創出
研究代表者名(所属機関名):于秀珍(理化学研究所)
研究費名:日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A)

研究課題名:スキルミオニクス創成に向けた基盤技術と材料の開拓 (課題番号:20H00337)
研究代表者名(所属機関名):望月維人(早稲田大学)
研究費名:日本学術振興会 科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A) 公募研究 (課題番号:23H04522)
研究課題名:スピン模型のトポロジカル相転移を検出する汎用的な機械学習手法の開発
研究代表者名(所属機関名):望月維人(早稲田大学)

不規則なガラス構造に潜む規則性を発見

著者: contributor
2023年11月25日 16:38

不規則なガラス構造に潜む規則性を発見

ガラスの物性評価や効率的な新規ガラス開発の指針に

【発表のポイント】

ガラス (注1) 構造から抽出したリング形状を定量化することで、 無秩序に見えるガラス構造に内在する規則性を数値評価する技術を開発しました。

リング形状と その周辺における原子の存在確率を定量化することによって、ガラス中における結晶(注2) に類似する構造の抽出に成功しました。

新開発の材料構造の定量評価技術は、ガラス材料の物性発現の解明、さらに、データ駆動型の高性能材料探索への寄与が期待されます。

【概要】

ガラスは、窓ガラスやディスプレイのように現在の日常生活に欠かせない基盤材料です。一方で、 その原子配置が一見無秩序で複雑なために、 構造の理解や制御が難しく 、 合理的な機能材料設計には多くの課題が残されています。これらの課題を解決するためにガラス構造の定量的な評価技術が必要とされ、これまで国内外で幾何学などに基づく解析法の開発が取り組まれてきました。

東北大学未踏スケールデータアナリティクスセンター(同大学院情報科学研究科兼任) の志賀元紀教授と 早稲田大学理工学術院の平田秋彦教授ら の研究グループは、シリコンと酸素だけからなるシリカガラス(石英ガラス) のネットワークに内在するリング構造に着目して、 真円度および粗さという新たな指標を開発し、 リング構造の3 次元的な定量化に成功しました。 従来、 リングの構成原子数のみが解析に用いられてきましたが、 本指標を用いることで、 ガラスを構成するリングには、数種のシリカ結晶と同様なものと 、 ガラス独特の形状のリングが共存することを初めて明らかにしました。さらに、リング周辺における原子分布を定量化することによって、ガラスの局所構造は結晶と同様に異方性を持ち、強い秩序が存在することを明らかにしました。

本研究成果は、 Communications Materials 2023 11 3 日にオープンアクセス公開されました。

【詳細な説明】

研究の背景

ガラスは、窓ガラスやディスプレイのように日常的に欠かせない物に含まれており、 その機能をさらに強化することは大事な課題です。ガラスの原子配置は、結晶材料のような規則正しいものでなく一見すると無秩序ですが、隣接する原子間の化学結合長を超えた距離スケールでの規則性が放射光施設(注3 ) などでの計測によって確認されています。 一方、 ガラスにおける特性の理論的な理解を困難にしている原因はこの複雑な構造であるため、ガラスにおける構造の規則性を定量的に評価し、 構造と機能との関係を理解することは、機能性ガラスの合理的な開発のために大事な課題となっています。 近年、 結晶材料等においてデータ駆動科学(注4) は急速に普及しつつあります。これに基づく高効率的な材料設計を、ガラス材料に対して実施するためには、ガラス中におけるリングの構成原子数のみが解析の指標として用いられてきた従来のアプローチでは限界がありました。

今回の取り組み

東北大学未踏スケールデータアナリティクスセンター(同大学院情報科学研究科兼任) の志賀元紀教授、早稲田大学理工学術院の平田秋彦教授、物質・材料研究機構マテリアル基盤研究センターの小野寺陽平主任研究員、産業技術総合研究所材料・化学領域の正井博和研究グループ付ら の研究グループは、材料中の化学結合ネットワークに内在するリング構造の規則性の3次元的な定量評価を行いました。これまでの研究では、ガラス中に存在するリングを構成する原子数のみを指標として解析が行われてきましたが、3次元的な形状の異なるリングを区別することは不可能でした。今回の研究では、 真円度粗さ という指標(図 1) を新たに定義することによって「リング形状」 の定量評価法を実現しました。

この技術を、窓ガラスなどに用いられるシリカ(SiO2)のガラス、 および、SiO2 組成を有する複数の結晶の構造解析に応用し、 ガラスおよび結晶に含まれるリングの代表的な特徴(形状および対称性)を網羅的に解析しました。 シリカ には他の化学組成の材料では見られないほど多様な結晶構造が存在しますが、今回の解析によって、 ガラス中には数種のシリカ結晶に類似した構造が存在する一方、ガラス特有の形状を有するリング構造も数多く存在していることを新たに明らかにしました。この新たな知見はリング形状の定量評価技術によって初めて得られたものであり 、 ガラス化および結晶化のような状態転移を理解するために重要な結果といえます。

本研究では、さらに、リング形状だけでなく 「リングの向き」を自動決定する計算法を開発し、その手法に基づき「リング周辺の原子の存在確率」 を計算する技術を開発しました(図 2)。この技術を用いたガラスの構造解析によって、ガラス構造の規則を理解する上で大事な 2 つの知見を得られました。

番目の知見は、 ガラス構造においても 、 結晶構造と同様な異方性が存在することです。 マクロ レベルのスケールでは、 ガラスは等方的と考えられていますが、 異方性を持つ局所構造の秩序を、リング構造の方位を揃えて原子分布を可視化することで、その特徴を初めて定量的に明らかにしました。

2番目の知見は、 ガラスに含まれる規則正しいリングの周辺には、 結晶に似た規則正しい構造秩序が形成されていること です。 ガラスにおいては、前述のように、化学結合長を超えた距離スケールでの構造の規則性が放射光施設などにおける計測によって確認されています。例えば、ガラスの回折実験で観測される特徴的な鋭いピーク(First Sharp Diffraction PeakFSDP(注5 ) は、ガラスにおいて、化学結合長を超えたスケールでの構造秩序(中距離構造秩序) が存在する証拠となります。 今回得られた知見は、これまでも議論されてきたこの構造秩序と密接に関係しており 、 すなわち、 中距離構造秩序あるいは FSDP の形成に寄与する構造ユニットを初めて同定した成果となります。

今後の展開

本研究で開発したリング形状の定量評価技術は、無秩序な構造に含む規則正しい構造ユニットの抽出を 可能にするだけでなく、ガラスにおける不規則なリング構造を定量的に議論することを可能にするものです。これによって、様々な条件で合成されたガラス構造の違い、そして、構造の違いが引き起こす物性の変化を捉えることができるようになります。さらには、様々な実験条件下で合成された材料の構造データ および物性データを蓄積・活用することによって、 機械学習(人工知能) に基づく 未合成材料の物性予測が実現できるようになると考えられます。 この未合成材料の物性予測技術は、 データ駆動型の高機能性材料の自動探索につながり、材料開発を加速的に推進すると期待されます。 本研究で開発された材料におけるガラス構造の定量評価法は、 将来的なガラスの物性予測及び新規材料探索だけでなく、材料科学の深化に寄与できるものと 考えられます。

【謝辞】

本 研 究 は 、 JSPS 科 研 費 JP20H05878JP20H05884JP23K17837JP20H05881JP20H05882JP20H04241JP19K05648 および JST さきがけJPMJPR16N6 の支援を受けたものです。

【用語説明】

1. ガラス:

不規則な原子配置から構成される 非晶質(アモルファス) の固体。 ガラスの構造は、 各原子の化学結合の数(配位数) や角度に分布があるが、完全に無秩序ではない。

2. 結晶:

規則正しい原子配置から 構成される固体。

3.  放射光施設:

放射光とは電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって曲げられた時に発生する強力な電磁波(光)のことである。放射光施設は高輝度 X 線などの放射光を用いて幅広い研究を行うための大型施設であり、 SPring-8(兵庫県佐用町) やナノテラス(仙台市) がこれにあたる。

4.  データ駆動科学:

既知データに基づいて新仮説の構築や未知事象の予測を行い、新しい事象や法則を発見する科学のアプローチ。

5.  First Sharp Diffraction PeakFSDP) :

ガラスの X 線回折実験や中性子回折実験によって観測される特徴的な鋭いピーク。ピーク位置から、化学結合長さを超える距離スケールでの構造秩序の証拠として知られる。

【論文情報】

タ イ ト ル:Ring-originated anisotropy of local structural ordering in amorphous and crystalline silicon dioxide
著者:Motoki Shiga*, Akihiko Hirata, Yohei Onodera, and Hirokazu Masai
*
責任著者: 東北大学未踏スケールデータアナリティクスセンター 教授 志賀元紀(しがもとき)
掲載誌:
Communications Materials
DOI:
https://doi.org/10.1038/s43246-023-00416-w
URL: https://www.nature.com/articles/s43246-023-00416-w

 

Discovery of Structural Regularity Hidden in Silica Glass

著者: contributor
2023年11月25日 16:35

Discovery of Structural Regularity Hidden in Silica Glass

Glass – whether used to insulate our homes or as the screens in our computers and smartphones – is a fundamental material. Yet, despite its long usage throughout human history, the disordered structure of its atomic configuration still baffles scientists, making understanding and controlling its structural nature challenging. It also makes it difficult to design efficient functional materials made from glass.

To uncover more about the structural regularity hidden in glassy materials, a research group has focused on ring shapes in the chemically bonded networks of glass. The group, which included Professor Motoki Shiga from Tohoku University’s Unprecedented-scale Data Analytics Center, and Professor Akihiko Hirata from Waseda University created new ways in which to quantify the rings’ three-dimensional structure and structural symmetries: “roundness” and “roughness.”

Using these indicators enabled the group to determine the exact number of representative ring shapes in crystalline and glassy silica (SiO2), finding a mixture of rings unique to glass and ones that resembled the rings in the crystals.

Additionally, the researchers developed a technique to measure the spatial atomic densities around rings by determining the direction of each ring.

They revealed that there is anisotropy around the ring, i.e., that the regulation of the atomic configuration is not uniform in all directions, and that the structural ordering related to the ring-originated anisotropy is consistent with experimental evidence, like the diffraction data of SiO2. It was also revealed that there were specific areas where the atomic arrangement followed some degree of order or regularity, even though it appeared to be a discorded and chaotic arrangement of atoms in glassy silica.

“The structural unit and structural order beyond the chemical bond had long been assumed through experimental observations but its identification has eluded scientists until now,” says Shiga. “Furthermore, our successful analysis contributes to understanding phase-transitions, such as vitrification and crystallization of materials, and provides the mathematical descriptions necessary for controlling material structures and material properties.”

Looking ahead, Shiga and his colleagues will use these techniques to come up with procedures for exploring glass materials, procedures that are based on data-driven approaches like machine learning and AI.

Their findings were published open access in the journal Communication Materials on November 3, 2023.

<Publication Details>

Title: Ring-originated anisotropy of local structural ordering in amorphous and crystalline silicon dioxide
Authors: Motoki Shiga, Akihiko Hirata, Yohei Onodera, and Hirokazu Masai
Journal: Communications Materials
DOI: 10.1038/s43246-023-00416-w

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