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物質中の創発磁気モノポールが示す新規な集団振動現象を発見

著者: contributor
2024年6月3日 14:11

物質中の創発磁気モノポールが示す新規な集団振動現象を発見
約100年前に予言された幻の素粒子「磁気モノポール」の理解につながる一歩へ

発表のポイント

  • 近年の実験である種の磁性体において発見された磁気モノポールのように振る舞う特殊な3次元磁気構造「(アンチ)磁気ヘッジホッグ」が、光に応答して示す新規な集団振動現象を理論的に発見し、その性質を解明しました。
  • これまで、磁気ヘッジホッグ格子が光やマイクロ波によってどのように駆動され、物質中に創発電場・創発磁場(創発電磁場)を生み出すのかは未解明な問題でした。
  • 本成果により、約100年前に提唱された幻の素粒子「磁気モノポール」の理解に向けた物性物理学と素粒子物理学を横断する研究の進展に期待が高まるともに、技術応用としても、ナノサイズの発電素子や光やマイクロ波を電気信号や電圧に変換する素子への応用や、新しい光/マイクロ波素子機能の開拓などの研究・開発の促進につながることが望まれます。

図1.(a) L2モードにおけるディラック弦Bの振動の様子。(b) L3モードにおけるディラック弦Aの振動の様子。弦上端と下端のヘッジホッグとアンチヘッジホッグが同位相で振動し、弦は上下に並進振動を起こす。

早稲田大学大学院先進理工学研究科の衛藤倫太郎(えとうりんたろう、博士課程2年/日本学術振興会特別研究員DC1)と、同大理工学術院教授 望月維人(もちづきまさひと)の研究グループは、磁気ヘッジホッグ格子に光を照射したときに期待される集団運動の性質を、微視的な理論モデルを用いた数値シミュレーションにより調べました。その結果、磁気モーメントの特殊な空間配列パターンとして磁性体中に現れる創発的な磁気モノポール格子に光を照射すると、磁気モノポールとアンチ磁気モノポールが一斉に位相を揃えて振動する集団振動現象が起こることを理論的に発見しました。

本研究成果は、米国のアメリカ物理学会が発行する国際科学ジャーナル『Physical Review Letters』誌に、2024年5月31日(金)(現地時間)にオンラインで掲載されました(論文名:Theory of Collective Excitations in the Quadruple-Q Magnetic Hedgehog Lattices)。

これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

磁石では、磁力線の湧き出しであるN極と吸い込みであるS極は必ずペアになって存在し、N極あるいはS極のどちらか一方だけを取り出すことはできません。1931年にイギリスの理論物理学者ポール・ディラックは、量子力学と電磁気学の研究から、ある条件のもとではN極だけ、あるいはS極だけの素粒子が存在し得るという理論を提唱しました。ディラックが予言したこれらの素粒子は「磁気モノポール」と「アンチ磁気モノポール」(※1)と呼ばれ、多くの実験研究者によって探索が行われましたが、現在に至るまでまだ発見されていません。

一方、近年の実験である種の磁性体において「磁気ヘッジホッグ」と「アンチ磁気ヘッジホッグ」(※)と呼ばれる特殊な3次元磁気構造が実現していることが発見されました[2(a),(b)]。これらの磁気構造は、物質中を動き回る伝導電子が磁場として感じる仮想的な場「創発磁場」(※)の湧き出し(N極)と吸い込み(S極)として振る舞うため、仮想的な磁気モノポールとアンチ磁気モノポールと見なすことができます。さらに、これらの磁気ヘッジホッグとアンチ磁気ヘッジホッグは、しばしばそれらが周期的に並んだ磁気ヘッジホッグ格子(※)と呼ばれる構造を構成します。このような磁気ヘッジホッグ格子は、最近、マンガン化合物であるMnGeやMnSi1-xGex、鉄酸化物であるSrFeO3といった物質で相次いで発見されています。

磁気ヘッジホッグ格子に関するこれまでの研究では、平衡状態の性質の解明に主眼が置かれていました。一方、発電機の原理にもなっている「磁場が時間変化すれば電場が生じる」という電磁気学の基礎知識から、磁気モノポールやアンチ磁気モノポールの位置が時間的に変化すれば電場が生じることが分かります。つまり、磁性体中の磁気ヘッジホッグやアンチ磁気ヘッジホッグを光やマイクロ波の振動磁場で揺さぶることができれば、伝導電子に作用する有効的な電場「創発電場」(※)が発生するはずです。このような現象はナノサイズの発電素子や光やマイクロ波を電気信号や電圧に変換する素子への応用が期待できます。

さらに、磁気ヘッジホッグ格子の集団運動を明らかにすることで、光やマイクロ波による磁気ヘッジホッグの生成、消去、駆動といった制御・操作技術の開発や、磁気ヘッジホッグ格子を活用した新しい光/マイクロ波素子機能の開拓が期待できます。ある物質中で光やマイクロ波に応答して特定の周波数の振動現象が起こるということは、その周波数を持つ光やマイクロ波をその物質に照射すると、振動を引き起こすことでエネルギーを失い、結果的にその物質に吸収されてしまうことになります。一方で、例えば磁場をかけてこの振動現象を抑える、あるいはなくしてしまうことができれば、照射した光やマイクロ波は振動を引き起こすことなく(エネルギーを失うことなく)その物質を透過できることになります。つまり、磁場のオン・オフによって光やマイクロ波がその物質を透過する・しないを切り替えることが可能になるわけです。

このように様々なエレクトロニクス応用が期待されるため、磁気ヘッジホッグ格子が光やマイクロ波に応答してどのような振動現象や振動パターンを示すのかは基礎科学と技術応用の両方の観点から重要な問題です。しかし、これまでにそのような問題に取り組んだ研究は実験的にも理論的にもほとんどなく、未解明の謎として残っていました。

図2: (a),(b) 磁気ヘッジホッグとアンチ磁気ヘッジホッグの磁化配列(赤矢印と青矢印)と創発磁場の分布(緑矢印)。磁気ヘッジホッグでは磁場が中心から湧き出しており、アンチ磁気ヘッジホッグでは磁場が中心に吸い込まれている。(c) ヘッジホッグとアンチヘッジホッグを繋ぐ磁気渦糸(ディラック弦A)の構造。(d),(e) 磁気ヘッジホッグ格子におけるヘッジホッグとアンチヘッジホッグの空間配置。マゼンタの点とシアンの点がそれぞれヘッジホッグとアンチヘッジホッグを表している。また、それを繋ぐ線はディラック弦を表す。磁化の巻き方に応じて2種類のディラック弦(赤線:ディラック弦A, 青線:ディラック弦B)がある。ゼロ磁場および低磁場の磁気ヘッジホッグ格子ではディラック弦AとB両方が存在するが(d)、磁場を印加するとディラック弦Bが消滅し、ディラック弦Aのみが存在する磁気ヘッジホッグ格子が現れる(e)。

今回の新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、新しく開発した手法

そこで本研究では、磁気ヘッジホッグ格子に光を照射したときに期待される集団運動の性質を、微視的な理論モデルを用いた数値シミュレーションにより調べました。

ところで、磁気ヘッジホッグ格子では、磁気ヘッジホッグとアンチ磁気ヘッジホッグはディラック弦と呼ばれる渦糸状の磁化配列で繋がっています[2(c)]。この図にあるように、磁気ヘッジホッグの真下にある正方格子上の4つの磁気モーメントはらせんを描くように下に降りていきアンチ磁気ヘッジホッグへとつながっていきます。このような磁化配列の渦糸構造と表現しますが、らせんには右巻と左巻があるため、ディラック弦にも右巻と左巻の2種類があることになります。一つの物質中に必ずしも2種類のディラック弦が現れるとは限りませんが、本研究で取り扱ったMnSi1-xGexやSrFeO3などの物質で実現している磁気ヘッジホッグ格子[2(d), (e)]では、磁気渦糸の巻き方が異なる2種類のディラック弦(AとB)が存在するため、多彩な電磁応答が期待できます。

研究の結果、テラヘルツから数百ギガヘルツ(※)の周波数帯に3つの固有の周波数を持った特徴的な振動パターン(固有振動モード)が存在することを発見し、L1、L2、L3と名付けました[3]。さらに詳しく調べた結果、これらの振動パターンでは、ディラック弦の上端と下端についている磁気ヘッジホッグとアンチ磁気ヘッジホッグが同位相で振動しているため、ディラック弦が上下に振動する並進振動が実現していることが分かりました[1]。我々は、コイルに棒磁石を近づけたり遠ざけたりすると電圧が生じ電流が流れることを知っていますが、今回発見したディラック弦の並進振動は、この場合の棒磁石の運動と同じ動きになっています。つまり、光を照射された磁気ヘッジホッグ格子では、無数のナノサイズの棒磁石が数百ギガヘルツの高速でそのような振動運動を起こしていることになります。

さらに興味深いことに、3つの振動パターンのうち、L2モードはディラック弦Bの振動に、L3モードはディラック弦Aの振動に対応していることを発見しました。その結果、磁場をかけることで磁気ヘッジホッグとアンチ磁気ヘッジホッグの対消滅が起こり、ディラック弦が消える場合、ディラック弦Bが消える場合にはL2モードが消失し、ディラック弦Aが消える場合にはL3モードが消失します。このことは、これらの振動モードや、誘起される創発電場のオン・オフ、モードと同じ周波数を持つ光やマイクロ波が透過するか・しないかを外部磁場によって切り替えられることを意味しています。これは物性現象として興味深いだけでなく、エレクトロニクス応用の観点からも重要な発見です。

図3: (a) 外部磁場の大きさに関する相図。ゼロ磁場および低磁場ではディラック弦AとB両方が存在する磁気ヘッジホッグ格子が現れる。磁場を大きくしていくと、ディラック弦Bに属するヘッジホッグとアンチヘッジホッグの対消滅が起き、ディラック弦Aのみで構成される磁気ヘッジホッグ格子に相転移する[図2(d),(e)も参照]。(b) 理論計算で得られた光吸収スペクトル。ピークが固有の周波数を持つ特徴的な振動パターン(固有振動モード)に対応しており、3つのモード(L1, L2, L3)が見て取れる。振動数の数値は規格化された単位系で書かれているが、これらのモードはおよそ数百ギガヘルツの周波数帯に現れている。ディラック弦の振動に対応するL2, L3モードを見てみると、ディラック弦A,B両方が存在する低磁場側の磁気ヘッジホッグ相ではL2, L3両方のモードが現れる。一方、弦Bが消滅し、弦Aだけで構成される高磁場側の磁気ヘッジホッグ相では弦B由来のL2モードが消失し、弦A由来のL3モードだけが残っている。

そのために新しく開発した手法

本研究ではまず、磁気ヘッジホッグ格子が実現している金属磁性体を記述するために、磁性体を構成する原子上の磁気モーメントと、それらの間に働く相互作用を媒介する伝導電子を考慮した近藤格子モデル(※)と呼ばれる数理モデルを構築しました。そして、磁化の運動を記述する方程式を用いてこのモデルを解析することで、磁気ヘッジホッグ格子に光やマイクロ波を照射した時に期待される特異な集団運動や振動現象の様子や性質を調べました。数値シミュレーションでは、数多くの磁気モーメントと伝導電子を取り扱うために計算コストが膨大になりますが、チェビシェフ多項式展開法(※)という高度な数値解析の手法を適用することで、研究を遂行しました。

研究の波及効果や社会的影響

本研究では、偉大な物理学者であるポール・ディラックが100年近く前に予言した幻の素粒子「(アンチ)磁気モノポール」と同じように振る舞う磁気構造「(アンチ)磁気ヘッジホッグ」が光に応答して示す集団振動現象を理論的に発見し、その性質を解明しました。

この研究成果には基礎科学の観点から次のような波及効果が期待されます。まず、本物の磁気モノポールは未だに発見されていませんが、磁気ヘッジホッグのような磁性体中の類似対象の振る舞いを調べることで、磁気モノポールが実際に存在した場合に期待される様々な性質や現象、機能を研究する新しい分野を切り拓くことが可能になります。このような研究は物性物理学と素粒子物理学の融合による新しい分野横断型の研究になることが期待されます。

また、電磁気学では長い間「電気と磁気」の双対性(※)が議論されてきました。つまり、「電場と磁場」、「電気双極子と磁気双極子」、「電流とスピン流」のように電気と磁気には互いの対応物があるという仮説です。ところが、「電荷」に対する磁気の対応物であるはずの「磁荷(磁気モノポール)」だけが実験で見つかっていません。今回、磁気ヘッジホッグの新しい性質や現象が発見されたことで、電気と磁気の双対性が完全に成り立つ「物質中の新しい電磁気学」が開拓されることを期待しています。

一方、今回の成果には高い技術応用上の意義もあります。磁場の時間変化や磁気モノポールの運動から電場が生じるように、磁気ヘッジホッグの運動もまた、伝導電子に作用する創発電場を生み出します。光やマイクロ波で磁気ヘッジホッグを駆動することで物質中に生み出される創発電場・創発磁場を活用した新しいデバイス機能の研究・開発が促進されることを期待しています。

今後の課題

本研究は、磁気ヘッジホッグ格子が光やマイクロ波に応答して示す新しい集団振動現象を実験に先駆けて理論的に発見し、その性質を明らかにしました。今後、MnSi1-xGexやSrFeO3などの実際の物質において、これらの結果を実験的に検証することが取り組むべき課題です。また、磁気ヘッジホッグの振動現象により発生する創発電場の性質を明らかにし、それに由来する興味深い物性現象や、それを活用した新しい物質機能を開拓することも重要な課題です。

研究者のコメント

本研究成果は、物質中の創発磁気モノポールに由来する固有の現象とその背後にある微視的メカニズムを明らかにしたという点で意義深いものです。本研究を皮切りに、物質中の創発磁気モノポールの性質や、それに由来する物性現象および物質機能の研究が今後活発に行われることを期待しています。

用語解説

※1 磁気モノポール
磁石のN極とS極のどちらか一方の性質のみを持つ粒子のこと。

※2 磁気ヘッジホッグ、アンチ磁気ヘッジホッグ
ある種の磁性体中に現れる図のような磁気モーメントの3次元配列。これらの磁気構造は交換相互作用を通じて伝導電子に働く仮想的な磁場(創発磁場)を生み出す。局所的な創発磁場の空間分布は、磁気ヘッジホッグでは湧き出し、アンチ磁気ヘッジホッグでは吸い込みになっており、それぞれ磁気モノポールとアンチ磁気モノポールに対応する。

※3 創発電磁場(創発磁場、創発電場)
金属磁性体中を動き回る伝導電子のスピンは、原子上に局在する磁気モーメントと相互作用し、各原子上で磁気モーメントと平行になろうとする。これにより伝導電子の波動関数はある種の位相を獲得するが、量子力学の枠組みから、その位相の積分値に対応する実効的な電磁場が伝導電子に作用することが分かる。この実効的な電場・磁場のことを創発電場・創発磁場と呼ぶ。特に創発磁場は近接する磁気モーメントが張る立体角の和に比例する。立体角の和が+4p(-4p)である磁気ヘッジホッグ(アンチ磁気ヘッジホッグ)は一つの磁束量子とみなすことができる。

※4 磁気ヘッジホッグ格子
磁気ヘッジホッグとアンチ磁気ヘッジホッグが空間周期的に配列した磁化構造のこと。その磁化配列は数学的には複数の螺旋状の磁化配列の重ね合わせで表現することができる。MnSi1-xGexやSrFeO3で観測されている磁気ヘッジホッグ格子は4つの磁気螺旋の重ね合わせで表現されるので4重波数磁気ヘッジホッグ格子、MnGeで観測されている磁気ヘッジホッグ格子は3つの磁気螺旋の重ね合わせで表現されるので3重波数磁気ヘッジホッグ格子と呼ばれる。

※5 テラヘルツ・ギガヘルツ
周波数の単位。1テラヘルツは1秒間に1兆回の振動、1ギガヘルツは10億回の振動を表す。

※6 近藤格子モデル
各原子に局在した磁化と、原子間を動き回る伝導電子を持つ金属磁性体を記述する数理モデル。伝導電子は局在磁化と交換相互作用を通じて結合すると同時に、局在磁化間に働く長距離交換相互作用を媒介する。近藤格子モデルではモデルパラメータを適切に選ぶと、磁気ヘッジホッグ格子を含む多彩な長周期の磁気構造を再現することができる。

※7 チェビシェフ多項式展開法
近藤格子モデルのような量子力学モデルの数値シミュレーションを効率的に行うための手法の一つ。量子力学の数値シミュレーションでは、通常、ハミルトニアンと呼ばれる非常に大きな行列を対角化する必要がある。特に、物理量の時間発展をシミュレーションする場合には、そのような対角化を何度も行う必要があるが、行列の対角化には膨大な計算時間を要する。そこで、物理量の表式を無数の多項式の和で表現することでハミルトニアン行列を対角せずにその物理量を計算する「多項式展開法」という手法が開発された。中でも、多項式として特に代数学において「チェビシェフ多項式」と呼ばれる多項式を使うと、物理量の表式が少ない多項式の和で表現できるため、効率的にシミュレーションを行うことができる。このような手法のことをチェビシェフ多項式展開法と呼ぶ。

※8 双対性
電磁気学の基礎方程式である4つのマクスウェル方程式では、磁気モノポール(磁荷)の存在を仮定すると電場と磁場、電荷と磁荷を入れ替えても等価な式が得られる。このような「電気」と「磁気」の対応関係を双対性と呼ぶ。

論文情報

雑誌名:Physical Review Letters
論文名:Theory of Collective Excitations in the Quadruple-Q Magnetic Hedgehog Lattices
(和訳:4重波数磁気ヘッジホッグ格子における集団励起の理論)
執筆者名(所属機関名):衛藤倫太郎 (早稲田大学大学院先進理工学研究科物理学及応用物理学専攻・博士課程2年/日本学術振興会特別研究員DC1)、望月維人 (早稲田大学理工学術院先進理工学部応用物理学科・教授)
掲載予定日時(現地時間):2024年5月31日(金)
掲載URL:https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.132.226705
DOI:https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.132.226705

研究助成

研究費名:国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進授業CREST
研究課題名:Beyond Skyrmionを目指す新しいトポロジカル磁性科学の創出
研究代表者名(所属機関名):于秀珍(理化学研究所)

研究費名:日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A)
研究課題名:スキルミオニクス創成に向けた基盤技術と材料の開拓(課題番号:20H00337)
研究代表者名(所属機関名):望月維人(早稲田大学)

研究費名:日本学術振興会 学術変革領域研究(A)「「学習物理学」の創成-機械学習と物理学の融合新領域による基礎物理学の変革」(公募研究)
研究課題名:スピン模型のトポロジカル相転移を検出する汎用的な機械学習手法の開発(課題番号:23H04522)
研究代表者名(所属機関名):望月維人(早稲田大学)

研究費名:日本学術振興会 学術変革領域研究(A)「キメラ準粒子が切り拓く新物性科学」(計画研究)
研究課題名:キメラ準粒子の理論(課題番号:24H02231)
研究代表者名(所属機関名):村上修一(東京工業大学)

研究費名:早稲田大学特定課題研究助成
研究課題名:電気磁気結合を利用した効率的な光誘起磁性スイッチング機能の理論設計(課題番号:2024C-153)
研究代表者名(所属機関名):望月維人(早稲田大学)

研究費名:日本学術振興会 特別研究員奨励費
研究課題名:トポロジカル磁性における磁気励起と光誘起現象に関する理論研究(課題番号:23KJ2047)
研究代表者名(所属機関名):衛藤倫太郎(早稲田大学)

【キーワード】
磁気ヘッジホッグ、磁気モノポール、創発電磁場、励起振動

新規ナノ構造体を基盤とするナノ注射器が拓く細胞治療の未来 1,000万個の細胞に複数タンパク質を「高効率」「高生存率」導入

著者: contributor
2024年5月16日 15:22

新規ナノ構造体を基盤とするナノ注射器が拓く細胞治療の未来
1,000万個の細胞に複数タンパク質を「高効率」「高生存率」導入

タンパク質を用いたがん治療およびNMR解析への利用を実証

発表のポイント
  • 導電性高分子と金属から成る複合ナノチューブシートを改良し、複数のタンパク質を細胞内に高効率・高生存率で導入するための新規ナノ構造体(ナノ注射器)を開発。
  • 再生医療分野で取り扱うために必要な細胞数である1,000万個以上の細胞に対して、導入効率89.9%、細胞生存率97.1%でタンパク質導入に成功。
  • 乳酸オキシダーゼ酵素(LOx)およびユビキチン(UQ)などの任意タンパク質を導入可能。
  • タンパク質導入によるがん細胞の死滅およびNMR解析に成功。

早稲田大学大学院情報生産システム研究科の三宅丈雄(みやけたけお)教授らの研究グループと理化学研究所生命機能科学研究センターの美川務(みかわつとむ)専任研究員らの研究グループは、2021年に報告した導電性高分子で被覆された金属製ナノチューブシート※1をこれまで細胞内に届けることが困難であったタンパク質向けに改良し、タンパク質の細胞内への輸送速度や細胞内での機能維持の向上を実現しました。本研究では、この技術を用いて、乳酸オキシダーゼ酵素(LOx)を正常細胞とがん細胞に導入し、がん細胞のみが死滅することを確認しました(図1)。実験では、酵素が細胞内まで届けられた場合は24時間後にがん細胞が3%まで死滅するのに対し、酵素を細胞内に届けない条件では33%残ることが確認されました。一方、安定同位体標識タンパク質(ユビキチン)を細胞内機能解析手法であるin-cell NMR解析※2に必要な1,000万個(107個)以上の細胞に対して、高効率および高生存率で導入することに成功しました。

以上は、科学研究費補助金、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「電子・イオン制御型バイオイオントロニクス」(JPMJPR20B8)、旭硝子財団の助成による成果であり、2024年5月14日(現地時間)に科学誌『Analytical Chemistry』にオンライン版で公開されました。
論文名:A Hybrid Nanotube Stamp system in Intracellular Protein Delivery for Cancer Treatment and NMR Analytical Techniques

図1.ナノ注射器でのタンパク質導入および細胞応用

(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

体外で細胞に物質を導入し、細胞を加工する技術開発は、再生医療および細胞治療におけるコア技術です。これまでは、化学/生物的手法(ウィルスベクター)と物理的手法(エレクトロポレーション)が利用されていましたが、これら手法は、細胞が外界から物質を取り込む作用であるエンドサイトーシスにより細胞内への取り込みを行うため、時間がかかる、効率が悪い、導入する過程で細胞が死んでしまうなどの課題を有していました。

こうした課題を解決するため、中空管のマイクロ/ナノニードルを細胞に挿入することで、目的の物質を細胞内に導入するナノ注射器に関する取り組みが盛んですが、開発が進むナノ注射器は単針であり、かつ、マイクロサイズの細胞に単針を挿入するマニュピレータが必要であるため、主に1細胞ごとに導入する必要がありました。そこで本研究グループは、ナノチューブを配列した2次元薄膜(シート)を開発し、本ナノチューブを細胞に刺入することで短時間、かつ、高効率に物質を細胞に届けるナノ注射器の開発に成功しました。さらに本研究では、このナノ注射器を用いることで、これまで物質導入が困難であった機能性タンパク質を再生医療分野で取り扱うために必要な細胞数(107個以上)に高効率および高生存率で導入できることを確認しました。さらに、本技術をがん治療やNMR解析などの細胞応用に利用できることを実証しています。

(2)今回の研究で実現したこと

本研究グループでは、これまで金属製のナノチューブを開発し、そこへ導電性高分子を被覆することでナノスケールの構造体(ナノ構造体)および物質輸送を制御できるナノ加工技術(新しいナノ材料)の開発に取り組んできました。さらに、新規ナノ構造体を基盤とするナノ注射器を開発し、細胞内に低分子(蛍光物質:約1nmサイズ)・中分子(タンパク質:約数nm)・高分子(細胞小器官:500nm以上)を導入する取り組みを実施してきました。
今回、複数のタンパク質を細胞内に高効率・高生存率で導入するためのナノ構造体を開発し、様々な細胞(がん細胞(HeLa))、マウス由来上皮細胞(NIH3T3)、ヒト由来繊維芽細胞(HPS)、脂肪由来幹細胞(MSC)、角膜上皮細胞(HCE-T)など)で実現できることを確かめました(図2)。

図2.新規ナノ構造体を基盤とするナノ注射器の開発とタンパク質導入結果

(3)性能評価

本技術を用いた2つの事例①乳酸オキシダーゼ酵素(LOx)導入によるがん細胞の死滅、②安定同位体標識タンパク質導入によるNMR解析を紹介します。

まず、①LOx導入によるがん細胞の死滅に関しては、原理はとてもシンプルで、細胞内でLOxが乳酸濃度に応じて過酸化水素(H2O2、強力な酸化剤)を生成し、その結果として細胞をアポトーシス(細胞の自然死)に導きます。図3に示したようにがん細胞(HeLa)と正常細胞(MSC)内の乳酸濃度は10倍程度異なるため、がん細胞の中では酵素反応によって過酸化水素 がより多く生成されることになります。本実験では、HeLaとMSCへのLOxの導入効率は共に95%以上を示しました。LOxを導入したMSCと何も処理しなかったMSCを比較すると、ほぼ同じ生存率(100%以上)を示すのに対し、がん細胞ではLOx導入後、生存率が時間と共に下がることを確認しています。さらに、LOxの導入量に応じて、生存率が変化することを確かめており、このことは酵素反応の結果としてがん細胞が死滅したものであると考えています。

図3.ナノ注射器を用いたLOx酵素の細胞内導入およびがん細胞の死滅結果
(生細胞はカルセインAMで蛍光染色を行い、死細胞はPIにて蛍光染色を行った。)

また、②安定同位体標識タンパク質導入によるNMR解析においては、①同様の手法でユビキチンタンパク質をHeLa細胞に導入しNMR解析を行いました(図4)。NMR解析には、高濃度のタンパク質が導入された細胞が107個程度必要となるため、ナノ注射器システムでも十分な数の細胞を用意し、さらには、十分な量のタンパク質が細胞内に導入されたかどうかを確かめました。結果として、1.8×107個の細胞に5-10mMの安定同位体標識ユビキチンが入ったことをNMR解析から明らかにしました。

図4.ナノ注射器を用いた安定同位体標識ユビキチン(UQ)の細胞内導入およびNMR解析結果

(4)今後の展望

今後は、任意のタンパク質や低分子を同時に細胞内に導入することで、細胞機能改変(ダイレクトリプログラミング)あるいは細胞内機能解析(In-cell NMR)などの開発にも取り組みたいと考えています。また、動物性細胞以外の細胞(植物、酵母、乳酸菌など)への展開も見込んでいます。これらを1研究室で実現することは困難ですので、本プロジェクトにご興味のある企業や研究機関からのお問い合わせをお待ちします。

(5)用語解説等

※1 2021年に報告した導電性高分子で被覆された金属製ナノチューブシート:

https://www.waseda.jp/top/news/74747
細胞用電動ナノ注射器「電気浸透流ナノポンプ」を開発― 細胞治療に向けた新たな細胞内物質導入機器

※2 in-cell NMR解析:

核磁気共鳴分光測定法(NMR法)を用いて生きた細胞の中の生体分子を観測および解析する手法

(6)論文情報

雑誌名: Analytical Chemistry
論文名:A Hybrid Nanotube Stamp system in Intracellular Protein Delivery for Cancer Treatment and NMR Analytical Techniques
執筆者名:Bowen Zhang, Bingfu Liu, Zhouji Wu, Kazuhiro Oyama, Masaomi Ikari, Hiromasa Yagi, Naoya Tochio, Takanori Kigawa, Tsutomu Mikawa, and Takeo Miyake.
掲載日(現地時間):2024年5月14日
掲載URL:https://doi.org/10.1021/acs.analchem.3c05331
DOI:10.1021/acs.analchem.3c05331

(8)研究助成

科学研究費補助金
科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「電子・イオン制御型バイオイオントロニクス」(JPMJPR20B8)
旭硝子財団

不規則なガラス構造に隠された規則性

著者: contributor
2024年5月14日 11:14

不規則なガラス構造に隠された規則性

原子の柱が作り出す密度の”むら”の構造抽出に成功

発表のポイント

最先端の電子顕微鏡法の1つであるオングストロームビーム電子回折法※1を用いて、シリカ(SiO2)ガラス※2の非常に細かい構造を直接観察することに成功した。
ガラスに存在する原子のナノスケール柱状構造※3及びその配列に関係した複数の異なる周期性を発見した。
これらの柱状構造がほぼ周期的に配列することで「擬格子面※4」と呼ばれる面状の領域が形成され、これにより古くから議論されてきたガラスの「FSDP※5(First Sharp Diffraction Peak)」と呼ばれる特徴的な回折ピークの起源を解明した。
この柱状構造の配列は、ガラスにおける密度の”むら”(密度ゆらぎ)と密接に関係しており、例えば、ガラスを電池用材料、窓ガラス、光ファイバーとして利用する際のイオン伝導特性、強度、光学特性の改善に繋がる基礎として重要となる。

図1.オングストロームビーム電子回折実験を用いた観察による、シリカガラス中に存在するナノスケール柱状構造の局所的な擬周期配列の発見。

早稲田大学理工学術院教授 平田秋彦(ひらたあきひこ)、東北大学未踏スケールデータアナリティクスセンター教授 志賀元紀(しがもとき)、物質・材料研究機構マテリアル基盤研究センターグループリーダー 小原真司(こはらしんじ)らの研究グループ(以下、本研究グループ)は、オングストロームビーム電子回折法を用いることで、ナノスケール柱状構造がほぼ等間隔に並んで形成される局所秩序構造を、一見不規則な構造を持つとされる、もっとも一般的なガラス材料であるシリカ(SiO2)ガラスの中に見い出しました。この秩序構造は、複数の異なる周期からなる密度ゆらぎを含む複雑な構造であることがわかりました。このような柱状構造配列の発見は、ガラス構造の科学に新たな視点を与え、さらに、柱状構造配列が作る密度ゆらぎの理解は、ガラス材料の特性や性能を制御するために欠かせない知見となると考えられます。

本研究成果は、Springer Nature社発行の科学ジャーナル『NPG Asia Materials』誌に、2024年5月10日(金)(現地時間)にオンラインで掲載されました(論文名:Direct observation of the atomic density fluctuation originating from the first sharp diffraction peak in SiO2 glass)。

(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

我々の生活に欠かせないガラスは、その原子レベルでの構造に関して古くから議論がなされてきました。中でも代表的なガラスであるシリカ(SiO2)ガラスは、Siの周りに4つのOが共有結合しSiO4正四面体が頂点に位置するOが四面体の頂点を共有して連結することにより、リング構造を作り、そのリングサイズの分布に特徴を持つこともわかっています。このようなガラスにX線や中性子線などの波長の短い波を当てると、波が原子配列によって干渉されて特徴的なパターンが出ますが、特に原子間のスケールよりも大きい周期に対応する「FSDP(First Sharp Diffraction Peak)」と呼ばれる回折ピークの出現について、古くから多くの議論がなされてきました。これを理解するために、例えば、擬格子面の概念が提唱されておりましたが、その具体的な起源については不明な点が残されていました。

(2)今回の新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、新しく開発した手法

図2.a オングストロームビーム電子回折実験の模式図、b 電子回折で見られる異なる構造周期に対応する回折スポット、c 中性子およびX線回折で得られたFSDP(矢印はbの電子回折における回折スポットの位置)、d 得られた電子回折パターンの例(一番左は平均化した、いわゆるハローリングと呼ばれるもの)。

本研究では、ガラスにおける擬格子面の正体を明らかにするため、シリカガラスで見られるFSDPに着目し、この回折ピークをシリカガラスの局所領域(1nm以下の領域)から得る目的で、本研究グループが開発してきたオングストロームビーム電子回折法を用いました(図2)。特に今回、エネルギーフィルターを導入することで、局所領域からのFSDPを明瞭に撮影することに成功しました。また、シミュレーションによって構築された構造モデルからも、近年本研究グループが開発したオングストロームビーム電子回折の理論計算結果を用いて、この実験結果を再現する局所構造を抽出することが可能となりました。この構造モデルは、X線および中性子回折の結果を再現するように分子動力学法※6と逆モンテカルロ法※7を組み合わせて作成されたものです。

抽出した局所構造に高速フーリエ変換を適用することにより、構造中に存在する擬周期が原子の柱状構造の配列から生じることが明らかとなりました。この柱状構造はブリッジの役割を果たす原子によってお互い接続されることで、おおよそ等間隔に並んで擬格子面を構成していることが特徴であり、これによりFSDPが生じるものと推察されます。また、このような柱状構造が取り囲むように柱状の空隙も形成されており、明瞭な密度ゆらぎの存在が示唆されます。さらに、この密度ゆらぎを特徴づける複数の周期が混在し、複雑な階層的構造が形成されていることもわかりました(図3)。

図3.a 特徴的な電子回折パターンに対応する局所構造モデル、b 図aの領域Iと領域IIを側面から見たもの、c, d 同一構造内での異なる周期の存在(cはFSDPのピークトップ位置、dはその裾に対応する周期)、e bの領域Iの構造に柱状の空隙が存在することを示すために仮想的に棒を挿入したもの。

このような柱状構造は、局所構造についてある特別な方向から見た時に、その方向に沿って存在するものであり、構造モデルの中からこのような場所を見つけるためには、今回使用したオングストロームビーム電子回折計算は非常に強力な手法です。また、この局所構造中の柱状構造は、結晶において見られるものと類似していることもわかりました。しかし、ガラス中の柱状構造は、結晶には存在しないリング構造である5員環や7員環を多く含んでおります。これにより構造の乱れが導入され、結晶のように広範囲にわたって周期構造が続かない原因となっているものと考えられます。

(3)研究の波及効果や社会的影響

結晶材料では、その原子配列である結晶構造が決定され、転位などに代表される格子欠陥が明確に定義されていることから、これらを制御することで様々な用途に対応した材料開発が行われてきています。一方で、ガラス材料に関しては、原子配列の決定は周期性が無いことから難しく、欠陥構造の定義も未だ明確なものはありません。

本研究では、ガラス構造中の局所秩序をナノスケール柱状構造の局所的な配列として捉えられることを示しております。ナノスケール柱状構造の配列が様々な長さの密度揺らぎを作ることから、平均的な周期から大きく逸脱した領域はガラス構造のある種の欠陥として理解することができます。このような欠陥は、ガラス材料のイオン伝導性、機械的物性、光学特性、などに大きく影響することが予想されます。これらの特性は、ガラス材料を電池の負極材や固体電解質、窓ガラス、光ファイバーなどとして利用する上で重要なものであり、欠陥の理解は材料特性を向上させる上で役立つことが将来的に期待されます。

(4)課題、今後の展望

今後は、ガラスの種類や作製法によって、どのような密度ゆらぎ、特に欠陥と呼べるような構造が導入されるかを系統的に調べ、それにより、上述した電池用材料、窓ガラス、光ファイバーなどの応用において、それら欠陥構造がイオン伝導特性、強度、光学特性などの物性にどのような影響を及ぼすかを調べる予定です。また、それらを制御することにより、さらに性能の高いガラス材料の開発が進むことが期待されます。

(5)研究者のコメント

  • 今回見出したナノスケール柱状構造の配列は、我々独自の実験および解析手法を用いることで目に見える形として初めて抽出されたものであり、これまで広く議論されてきたリング構造としての見方と実験で観測される回折データを結び付けるという点で、ガラス構造の見方に新たな視点を加えるものだと考えています。(平田)
  • ビーム径の大きさのため平均化され埋もれていた構造秩序を、極限まで絞り込んだ電子ビームを用いて、初めて観測した成果です。新しい観測は理論を刺激し、その逆もあり、多様な研究者の連携がこの分野の推進に不可欠と考えています。(志賀)

(6)用語解説

※1 オングストロームビーム電子回折法

ガラス構造の局所領域から回折パターン(物質に波を当てたときに得られる干渉パターン)を取得するための透過電子顕微鏡を用いた実験方法。通常、マイクロビームあるいはナノビーム電子回折と呼ばれるが、ガラス構造の観察には特にオングストロームスケール(1nm以下)での観測が本質的に重要となるため、このように呼んでいる。ガラス構造の10nm以上の十分に広い領域から回折パターンを取得した場合は、ハローリングと呼ばれる複数の回折リングが見られるが、領域が1nm以下になると回折スポットを呈するようになり、これが局所構造を反映していると考えられる。

※2 シリカガラス

シリコンと酸素から成りSiO2の化学組成を持つガラス物質のこと。ガラスとは通常液体状態が冷却されて過冷却状態になり、さらなる冷却により粘性が極度に高まることで得られる固体状の物質を指す。過冷却液体からガラスへの転移をガラス転移といい、体積の温度に対する変化率(熱膨張係数)等が「ガラス転移が起こる温度(ガラス転移点)」を境に変化する。このガラス状態の原子配列に本研究では特に着目しており、それは結晶のような規則性を持たない不規則なものである。

※3 ナノスケール柱状構造

本研究において、シリカガラスの中に見いだされた原子が結合してできた2nm程度の長さを持つ直線状の構造。これは独立して存在するわけではなく、ブリッジ原子と呼ぶ原子によってお互いに接続されている。また、同じ領域に対して他の方向から見た場合に、その入射方向に沿って別の柱状構造が存在する可能性もあり、この特徴は結晶構造の場合と同様である。

※4 擬格子面

結晶学や固体物理学では、原子が規則正しく並んだ結晶構造において、周期性を反映する格子という概念を考え、それを基に原子を置いていくことで結晶が作られるとする。この格子中に作られる周期的に配列される面が格子面であり、結晶構造にX線、電子線、中性子線のような波長の短い波をあてた場合、格子面の間隔がある条件を満たすと波が強めあう性質があるため、この概念が重要となる。一方、ガラスなどの不規則な構造では、このような明瞭な格子面は存在しないが、局所的にある程度の規則性を示す部分があり、これを擬格子面とここでは呼んでいる。擬格子面の存在は、結晶のおける格子面と同様に波が強め合う原因となると考えられている。

※5 FSDP

First Sharp Diffraction Peakの略。シリカガラスのような化学結合によるネットワークから構成されるガラス構造に対し、X線、電子線、中性子線のような波長の短い波をあてることにより現れる回折ピーク(Diffraction Peak)のうち、もっとも小さい回折角で観測されるもの。低角側から数えて最初に出現するピークであり、ガラスのような非晶質物質にしてはシャープであるため、この名前がついている。このピークに対応する距離スケールは4Å前後であり、原子間距離のスケールより2倍程度大きいことが特徴である。つまり、原子の結合よりも大きいスケールの構造を反映したものであると考えられる。

※6 分子動力学法

物質中の原子や分子の時々刻々の動きをシミュレートする方法。原子あるいは分子の間に働く力を仮定し、運動方程式を差分法と呼ばれる数値計算により解く。

※7 逆モンテカルロ法

回折実験から得られた構造因子や2体分布関数にフィットするような原子配列モデルを求める方法。基本的には実験値と計算値の差が少なくなるよう、乱数を用いて原子を変位させる。 

(7)論文情報

雑誌名:NPG Asia Materials
論文名:Direct observation of the atomic density fluctuation originating from the first sharp diffraction peak in SiO2 glass
執筆者名(所属機関名):平田 秋彦(早稲田大学)、佐藤 柊哉(東京理科大学)、志賀 元紀(東北大学)、小野寺 陽平(物質・材料研究機構)、木本 浩司(物質・材料研究機構)、小原 真司(物質・材料研究機構)
掲載日(現地時間):2024年5月10日(金)
掲載URL:https://www.nature.com/articles/s41427-024-00544-w
DOI:https://doi.org/10.1038/s41427-024-00544-w

(8)研究助成

研究費名:科学研究費 挑戦的研究(萌芽) 課題番号:23K17837
研究課題名:ガラス構造における擬格子面と位相幾何的秩序
研究代表者名(所属機関名):平田 秋彦(早稲田大学)

研究費名:科学研究費 学術変革領域研究(A) 課題番号:20H05884
研究課題名:数理情報科学に基づく超秩序構造の網羅的解析
研究代表者名(所属機関名):志賀 元紀(東北大学)

研究費名:科学研究費 学術変革領域研究(A) 課題番号:20H05881
研究課題名:先端量子ビーム手法群によるナノ・メゾスケール元素選択構造計測
研究代表者名(所属機関名):小原 真司(物質・材料研究機構)

【キーワード】

ガラス、オングストロームビーム電子回折、ナノスケール柱状構造、FSDP(First Sharp Diffraction Peak)、擬格子面、密度ゆらぎ

電力系統の混雑緩和を実現するシステムのフィールド実証を開始

著者: contributor
2024年5月10日 14:05

電力系統の混雑緩和を実現するシステムのフィールド実証を開始

2050年カーボンニュートラルに向け、分散型エネルギーリソースの活用による配電用変電所の混雑緩和の実現性を検証

学校法人早稲田大学は、東京電力パワーグリッド株式会社、株式会社三菱総合研究所、関西電力送配電株式会社、京セラ株式会社、国立大学法人東京大学生産技術研究所(東京大学)、中部電力パワーグリッド株式会社、東京電力エナジーパートナー株式会社、東京電力ホールディングス株式会社および三菱重工業株式会社の10者からなるコンソーシアム(以下、「本コンソーシアム」)において、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)とともに「電力系統の混雑緩和※1のための分散型エネルギーリソース制御技術開発 (FLEX DERプロジェクト)」(以下、「本事業」)に取り組んでいます。

本年5月1日より、本事業において、蓄電池などの分散型エネルギーリソース(以下、「DER」)※2を活用した系統混雑緩和の実現性を確認するフィールド実証を開始したことをお知らせします。

フィールド実証では、実際の電力系統に実証用システムを構築し、配電用変電所の混雑緩和の実現性を確認するための技術的検証を行います。具体的には、再生可能エネルギー(以下、「再エネ」)の導入拡大によって大量に連系された太陽光発電の発電電力により、将来、配電用変電所の変圧器において混雑の発生が懸念される栃木県那須塩原市内の特定エリアにて実証用のDERフレキシビリティシステム※3の検証を行います。

この検証結果を既存設備に最大限活用し、再エネ導入量を拡大させるためのシステム開発に活かすことで、2050年カーボンニュートラル実現に貢献してまいります。

【注釈】

※1:再エネの大量導入時に、再エネにより発電された電力が電力系統へ大量に送り込まれることにより、電力系統の送配電線の電力潮流が増加し送配電可能電力量が減少することを電力系統の混雑という。一方、この混雑を解消する取り組み(負荷の消費電力を大きくし再エネの発電電力を吸収するなど)により送配電可能量が回復することを混雑緩和という。

※2:発電設備や蓄電設備、電気自動車、ヒートポンプなどの需要設備の総称。「Distributed Energy Resources」を略して「DER」とも呼ばれる。

※3:DERフレキシビリティとは発電電力や負荷の消費電力の大きさを柔軟に変化させることが可能な能力。本事業で、DERフレキシビリティシステムは、下図に示す三つのシステム/プラットフォームにより構成されるものと定義して開発を進めている。図中の「DSO」は「Distribution System Operator」の略で、一般送配電事業者である配電系統運用者を指す。

「電力系統の混雑緩和のための分散型エネルギーリソース制御技術開発 (FLEX DERプロジェクト)」の概要

1.背景

「第6次エネルギー基本計画」で示された「再生可能エネルギーの主力電源化」に向け、系統の増強と並行しながら既存系統を最大限に活用するために必要な技術開発が求められており、その一つとして分散型エネルギーリソース(以下、「DER」)の出力を制御し、電力系統の混雑緩和を行う技術があります。

本事業※1では、再生可能エネルギー(以下、「再エネ」)の発電電力に起因して混雑が生じる配電用変電所の変圧器を対象に、その供給エリアにおいて、アグリゲーター※2などと一般送配電事業者をつなぎ、DERの電力需要パターン制御(需要シフトなど)をすることで混雑緩和を実現するDERフレキシビリティシステムの構築に向けた技術開発を行っています。

2.フィールド実証の概要

(1) 概要

本事業では、DERフレキシビリティを活用した系統混雑緩和の実現性をフィールド実証により確認するため、検討事項を「一般送配電事業者における課題検討」(WG1)、「DERフレキシビリティ活用プラットフォームにおける課題検討」(WG2)、「アグリゲーターにおける課題検討」(WG3)、「フィールド実証」(WG4)の四つの項目に分類しております。

今回の栃木県那須塩原市におけるフィールド実証に向けては、一般送配電事業者がDERフレキシビリティを調達する際の募集要件やデータ連係手順案などを反映した業務フロー案を基に、各項目(WG)間で連携しながら検証項目の抽出やユースケースの設定、シナリオ案の作成について取り組むとともに、DERの導入(系統用蓄電池システムの設置など)や各種測定器の設置などフィールド実証の環境構築を並行して進めてきました。

このたび、フィールド実証の準備が整ったため、本年5月1日より、フィールド実証を開始しました。大量に連系された太陽光発電の発電電力により、配電用変電所の変圧器で混雑が発生することを想定し、複数のユースケースに沿って、実証用のDERフレキシビリティシステムの検証を行います。

フィールド実証のイメージ

(2) 実証期間

2024年度中に複数時期にて実証を行う予定であり、第1回目は2024年5月14日までの予定で5月1日に開始しています。

(3) 実証場所

太陽光発電を主とする再エネの導入拡大により、将来、混雑の発生が懸念される栃木県那須塩原市にある配電用変電所を抽出し、選定されたエリアにてフィールド実証を行います。

3.今後の予定

NEDOと本コンソーシアム※3は、本フィールド実証での検証結果を基に、DERフレキシビリティシステムの要求仕様をまとめ、標準的な業務フローや通信仕様を確立します。

これによりDERを最大限活用できる仕組みを実現し、国内における再エネのさらなる普及拡大に貢献します。

【注釈】

※1 事業名: 電力系統の混雑緩和のための分散型エネルギーリソース制御技術開発(FLEX DERプロジェクト)

事業期間: 2022年度~2024年度
事業概要: [https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100237.html]

※2 DERなどを統合制御し、エネルギーサービスを提供する事業者。

※3 東京電力パワーグリッド株式会社、学校法人早稲田大学、株式会社三菱総合研究所、関西電力送配電株式会社、京セラ  株式会社、国立大学法人東京大学、中部電力パワーグリッド株式会社、東京電力エナジーパートナー株式会社、東京電力ホールディングス株式会社、三菱重工業株式会社の10者を指します。図2の四つの項目(WG)に分類し、各WG間で連携して検討を実施しています。

本コンソーシアムにおける各者の役割

参考

系統用蓄電池システムの概要

フィールド実証用に設置した系統用蓄電池システムを東京電力パワーグリッド:箒根蓄電所として運用開始しております。

<設備情報>

設置場所:栃木県那須塩原市関谷地区
設備面積:528㎡
設備容量:リチウムイオン電池
・出力:1,999kW
・公称電力容量:6,310kWh

<設備外観>

<PCS盤>

<蓄電池コンテナ>

「透明度」「電気伝導度」「柔軟性」に優れる多点マイクロ電極搭載 コンタクトレンズを開発

著者: contributor
2024年5月8日 15:22

「透明度」「電気伝導度」「柔軟性」に優れる多点マイクロ電極搭載コンタクトレンズを開発

網膜の局所的応答測定に成功し緑内障や網膜色素変性症に伴う盲点評価へ期待 今後事業化に向けた臨床試験へ

発表のポイント

  • 市販のコンタクトレンズに搭載可能な、小さく透明で柔らかい複合マイクロメッシュ電極を実現
  • 本研究グループがこれまでに開発した導電性高分子を用いた電極技術により実際に市販のコンタクトレンズへの貼付、および局所的に絶縁することに成功
  • これにより、網膜の局所的な応答を計測する複数点同時網膜電位計測が可能
  • 本成果は、緑内障や網膜色素変性症に伴う盲点評価につながります

早稲田大学大学院情報生産システム研究科の三宅丈雄(みやけたけお)教授、・アザハリ・サマン助教の研究グループと山口大学大学院医学系研究科眼科学講座の木村和博(きむらかずひろ)教授・芦森温茂(あしもりあつしげ)助教らの研究グループは、市販のコンタクトレンズに搭載可能な、小さく透明で柔らかい多点マイクロ電極を開発し、これまで技術的な課題のあった網膜の局所的な応答を測定することが可能となることを確かめました。これは、半導体微細加工技術によって、実用にも耐えうる82%以上の光透過性を持ち、かつ、微小な電位を計測可能な複合マイクロメッシュ電極(導電性高分子と金の複合化)です。さらに、市販のコンタクトレンズに本マイクロ電極を貼り付け、網膜電図(ERG)計測に用いる以外のリード線を絶縁化することにも成功しました。開発した電極は、角膜上皮細胞を用いて95%以上の生存率を実現できること、また、家兎試験によって市販のERG電極と同等の性能を有することを確認しました。さらに、アレイ化された7マイクロ電極でERGを多点計測できることを確かめました。これら成果は、緑内障や網膜色素変性症に伴う盲点評価などにつながります。

以上は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)、キヤノン財団の助成による成果であり、2024年5月7日にWileyの科学誌「Advanced Materials Technologies」にオンライン版で公開されました。

図1. 透明で柔らかいマイクロ電極による多電極網膜電位計測システム

(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

網膜電図(ERG,Electroretinogram)※1は、光刺激に応答する網膜(視神経細胞が刺激される)から発生する電位を角膜上のセンサ電極で測定します。一般的には、網膜変性疾患の検査で利用されることが多く、基礎研究から臨床的な応用まで幅広く利用されています。

ERG測定には、電気化学計測(ポテンショスタットなど)と同様、検出電極(間電極)、参照電極(不間電極)、接地電極からなる3電極システムが必要です。検出電極は角膜または結膜に、参照電極は測定器のグランドに相当し、接地電極は耳たぶなどに接触させます(図2参照)。歴史的には、角膜上で計測するタイプと結膜周辺(リングやフックタイプのワイヤー電極)で検出する2種類のタイプが存在しますが、現在では角膜上で測るタイプが主流となっており、実用性や安全性の観点でレンズ形状に加工された硬質なプラスチック上に金属が配線された製品が市販されています。これら一般的な1電極によるERG計測は、学術的には全視野網膜電図(FF-ERG, full field electroretinogram)と言い、網膜の局所的な応答を取得することができないなどの課題を有していました。局所的な応答(=空間的な差異を調べる)を測定する方法として、多局所網膜電図(MF-ERG, multifocal electroretinogram)や多電極網膜電図(ME-ERG, multi-electrode electroretinogram)があります。MF-ERGは、光を網膜の特定の位置に照射し、その際のERGを単一電極で計測する手法となるため、高解像度でスキャン可能な光刺激装置が必要となります。一方、ME-ERGは、FF-ERGと同等の光照射システムが利用できますが、電極を多点配置して測定することが必要となるため、電極およびレンズ全体の透明性および加工技術などの高度化に課題を有していました。


図2.本研究で実現された主な成果

(2)今回の研究で実現したこと

このような背景の中、本研究グループは、半導体微細加工技術と電気メッキ技術を組み合わせることで透明度、電気伝導度、柔軟性に優れるメッシュ電極を作製し、ERG計測可能な多電極化、市販のコンタクトレンズ上への接合および局所的絶縁化に成功しました(図2)。また、安全性に関しては、角膜上皮細胞による細胞生死判定および家兎を用いた多電極ERG計測および評価にも成功しました。

(3)そのために新しく開発した手法とその性能

透明で柔らかい金属電極を作製するために、形状(Serpentine, square, zigzag, hexagon:図2左参照)、幅(5, 7, 9μm)およびユニット幅(200, 500, 1000 μm)を変えたマイクロメッシュ電極を作製し、透過性および10%歪を加えた際の抵抗値変化を評価しました(図3)。ここで用いた金属は、電気メッキで作製された金となります。透明性に関しては、すべてのマイクロメッシュ電極において、80%以上の透過性を示しましたが、10%歪においては、Serpentineとhexagonのみ歪に耐えうることを確認しました。ソフトコンタクトレンズを用いた場合、眼圧などの変化によってレンズに~3%程度の歪が生じるため、検出電極の伸縮性が求められます。また、開発したメッシュ電極は市販のコンタクトレンズ上に貼り付け、レンズ表面に作製し、角膜とコンタクトする必要があるため、本研究グループがこれまでに用いてきた導電性高分子を用いた電極技術を用いました(Advanced Materials Technologies, 4, 1800671, 2019.)。従って、金マイクロメッシュ上にPEDOT導電性高分子が被覆された構造となります。複合化されたマイクロメッシュ電極においても、80%以上の透過性を有することは確認済みです。

図3. 複合マイクロメッシュ電極性能評価
(ここでは、電極は1本のみ。上図:電圧印加後のメッシュ電極および配線電極のインピーダンス結果、中図:電圧印加による絶縁化概要図、下図:各電極部位における出力電圧測定)

次に、このマイクロメッシュ電極から計測に繋げるリード電極の絶縁をどうするかという課題が、最終的なターゲットである多点電極によるERG計測で必須となることがわかりました。そこで、本研究グループは、メッシュ電極の導電性高分子のみの導電性を維持する方法として(すなわち、リード線に被覆された導電性高分子を絶縁化する方法)、電極全体の両端に直流電流を印加することで、リード線に流れる電流(図3におけるI1)と金マイクロメッシュ上に新たに流れる電流値(図3におけるI2)を電極構造で制御できることに気づき、COMSOL※2を用いた計算機シミュレーションと実験的に確かめました。シミュレーションの結果より電流密度として約70倍以上の電流値の差があることを確かめ、実験的にリード線上の導電性高分子のみが過酸化されること、また、フーリエ変換赤外線分光法による分子振動解析で導電性高分子の構造変化を確かめました。さらに、通電試験を実施したところ、マイクロメッシュ電極を介してのみ電圧が計測されることを確かめました。

開発した複合化マイクロメッシュ電極の生物学的安全性と動物試験によるERG計測電極としての性能を評価しました(図4)。ヒト由来の角膜上皮細胞(HCEC)を用いて、各マイクロメッシュ電極(Au, Au/PEDOT, Zn)上での細胞生存率を求め、その結果AuとAu/PEDOT電極上では90%以上の高い生存率を保つのに対し、Zn電極上では金属イオンのリークにより生存率が50%以下まで低下することが明らかになりました。従って、電気メッキで作製したAu/PEDOT複合電極は、十分な安全性を有していると言えます。さらに、本複合マイクロメッシュ電極をアレイ化(7電極)した多電極レンズを試作し、家兎の眼に装着させて各電極からERGが計測できることを確認しました。本研究で開発したメッシュ電極から取得した網膜電位信号は、市販のERG電極と同等の性能を有していることを確認しています。

図4. 安全性および多点電極ERG計測評価
(上図:各電極における細胞生存率評価と蛍光顕微鏡評価、下図:家兎を用いたME-ERG計測結果)

(4)今後の展望

今後は、事業化に向け、本計測レンズを用いて臨床試験に取り組みます。また、本プロジェクトにご興味のある企業からのお問い合わせをお待ちします。

(5)用語解説

※1 網膜電図
可視光を照射した際に,網膜から発生する電位の変化を記録します。これによって、網膜が正常に働いているかどうかを診断することができます。

※2 COMSOL
有限要素法を基盤とするシミュレーションソフトウェア。基本的工学分野から様々な応用分野における計算機シミュレーションを実現することができます。

(6)論文情報

雑誌名:Advanced Materials Technologies
論文名:Multi-electrode Electroretinography with Transparent Microelectrodes Printed on a Soft and Wet Contact Lens
執筆者名:Lunjie Hu, Saman Azhari, Qianyu Li, Hanzhe Zhang, Atsushige Ashimori, Kazuhiro Kimura, and Takeo Miyake
掲載日(現地時間):2024年5月7日
URL:https://doi.org/10.1002/admt.202400075
DOI:10.1002/admt.202400075

(7)研究助成

日本医療研究開発機構医療機器等研究成果展開事業(開発実践タイプ),JP23hma322020
キヤノン財団研究助成

令和6年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 受賞コメント

著者: contributor
2024年4月23日 14:43

このたび、早稲田大学の研究者4名が、科学技術分野で顕著な功績があったとして、「令和6年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰」を受賞しました。
日本の科学技術の発展等に寄与する可能性の高い独創的な研究又は開発を行った研究者を表彰する「研究部門」に、理工学術院の片岡淳教授、熊谷隆教授、嶋本薫教授および文学学術院の竹村和久教授が選ばれました。なお、当該部門の応募件数は226件で、受賞件数は51件(59名)でした。

早稲田大学令和6年度科学技術分野の文部科学大臣表彰受賞者

左から、竹村教授、嶋本教授、片岡教授、熊谷教授

以下に、各受賞者のコメントを掲載いたします。

科学技術賞 研究部門

受賞業績:元素の色を可視化する革新的薬物動態イメージング研究
理工学術院 片岡 淳 教授

受賞コメント
この度は、文部科学大臣表彰・科学技術賞(研究部門)を戴きまして誠に光栄に存じます。学生時代より宇宙のロマンに惹かれ、目に見えない光であるX線やガンマ線を駆使した巨大ブラックホールの研究や、衛星搭載カメラの開発に従事してきました。2012年には宇宙分野で科学技術賞(若手科学賞)を戴きましたが、今回のテーマは、より身近な医療への新たな展開となります。たとえば宇宙の元素合成を応用すれば、これまで可視化が難しかった様々な薬剤、たとえば抗がん剤の体内動態を可視化することができます。さらに、「宇宙を観る眼で人体を診る」新しい手法を開発しました。理工医薬を横断する壮大なテーマで毎日が勉強の日々ですが、良い共同研究者と学生さんに恵まれ、楽しく研究を進めています。これまでご支援を賜わりました多くの皆様に心より感謝申し上げると同時に、今後も変わらぬご指導、ご鞭撻の程、何卒よろしくお願い申し上げます。

受賞業績:複雑な系の上の異常拡散現象の研究
理工学術院 熊谷 隆 教授

受賞コメント
この度、科学技術賞(研究部門)をいただき、大変光栄に存じます。共同研究者の皆様はじめ多くの方々のお力添えの賜物であり、心から感謝しております。また、2年前に本学に赴任しまして以降、早稲田大学には快適な教育・研究環境を提供していただき、同僚の皆様にはいつも温かく接していただいております。この場を借りて深く御礼申し上げます。
私の研究テーマは、複雑な形状を持つ図形上の拡散現象の解析です。形状が複雑なため、通常の拡散とは異なる異常拡散現象が生じますが、確率論や解析学を用いて異常拡散の程度を定量的に評価し、図形のどのような性質が異常拡散を引き起こすのかを研究しております。このテーマは様々な応用分野に関連しており、諸分野の研究者の皆様との交流を通じてさらなる研究の発展に繋げたいと考えております。皆様のご研究で関連がありそうな問題がございましたら、是非お声がけください。どうぞよろしくお願いいたします。

受賞業績:航空宇宙通信の多角的な研究
理工学術院 嶋本 薫 教授

受賞コメント
この度は、文部科学大臣表彰・科学技術賞(研究部門)を受賞させて頂きまして、誠に光栄に存じます。中学生時代BCL(海外短波放送受信)が一大ブームを起こしており、私も短波ラジオを片手に海外の珍放送局の探索などを行っていました。日々刻刻と変化する電波伝搬状況に一喜一憂するうちに10W程度の出力で地球を1周以上も伝搬することに興味を覚え独学で無線通の勉強し始めましたが、当時使っていた関連書籍の著者が皆同じ大学の出身者だったので中学の時点で志望校を決定していました。修士時代から世界初の衛星データ通信ネットワーク構築の研究に従事し、その後大学で教員になってからは低軌道衛星、成層圏飛翔体、航空機間通信など先駆けて研究発表を行い、今では宇宙エレベータ通信まで手掛けています。また同時に6Gに向けた地上系モバイル通信や光と無線を組み合わせたバイタルセンシングなど幅広い分野も手掛けていますが、一方で原点である短波帯の電波伝搬の研究も継続しています。今でも短波帯の信号を受信するたびに当時を思い出し初心に帰る気がします。

受賞業績:行動意思決定論の再構築とそれに基づく社会実践研究
文学学術院 竹村 和久 教授

受賞コメント
この度は、文部科学大臣表彰・科学技術賞(研究部門)をいただき、光栄に存じます。今回の受賞は、共同研究者の皆様、早稲田大学の教職員・学生をはじめとして多くの方々のご支援の賜物であり、謹んでお礼申し上げます。
行動意思決定論は、心理学、経営学、行動経済学、感性工学、行動計量学、神経科学、精神医学などのさまざまな分野と密接な関係を持っています。簡単に言うと、「人々がどのような意思決定をしているか」、「どのようにしたらより良い意思決定ができるか」、「どうしたら最悪の意思決定を回避できるか」ということを課題としています。これからも研究に微力を尽くしたいと存じますので、ご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。
尚、これまで学部や大学院で、心理学、経済学、情報工学、経営工学、統計学、精神医学などを勉強させていただきましたが、その中でご指導いただいた諸先生、ご助言をいただいた諸先輩、友人の皆様に、改めて感謝申し上げます。

屈折率1.8超、分解可能な透明プラスチックを開発

著者: contributor
2024年4月22日 17:01

硫黄と水素結合を組み合わせ、発光デバイスの効率向上につながる新材料を実現

屈折率1.8超、分解可能な透明プラスチックを開発

発表のポイント

「分極性水素結合」という新たな構造に着目し、8以上の超高屈折率と可視光透明性を同時に満たすプラスチックを開発した。
今回開発したプラスチックは、優れた光学特性と柔軟性、リサイクル性を併せ持ち、従来よりも低負荷で発光電気化学セル (LEC) を作動させることにも成功した。
有機ELディスプレイの輝度や光学素子の画素向上が期待できるほか、光学プラスチックに環境適合性を付与する第1歩に繋がる。

図1.本研究の概要。「分極性」を有する水素結合に由来して、光学デバイスの発光効率向上、超高屈折率、分解性などの機能を付与できることを見出した (”Ar” はaromatic ring (芳香環) を示す略称)。

早稲田大学 理工学術院の小柳津研一(おやいづけんいち)教授、および渡辺清瑚(わたなべせいご)次席研究員、ミュンヘン工科大学 StraubingキャンパスのRubén D. Costa 教授、およびLuca M. Cavinato 博士課程学生らの研究グループ(以下、本研究グループ)は、硫黄を含む水素結合を組み込んだ独自の高分子を設計し、従来達成が難しいとされていた1.8以上の超高屈折率と透明性を両立し、使用後には分解できる新しいプラスチックを開発しました。

従来の超高屈折率高分子は多くが着色を呈するため、有機発光ダイオード (OLED) などの可視光用途への応用が難しい課題がありました。今回開発した材料はポリマー鎖同士が「分極性水素結合」により密に絡み合うことで、着色なく屈折率を向上できるほか、柔軟性と分解性も併せ持つため、従来よりも低負荷で作動する、リサイクル可能な発光素子の実現に繋がります。本研究の概念は、有機ELディスプレイの輝度向上や、より高画素なマイクロレンズを実現できる透明材料の開発に繋がるほか、環境適合性の高い光学プラスチックの設計指針を提示する重要な知見を与えるものと考えられます。

本研究成果は、2024年4月12日 (金曜日) 8時(現地時間)にWiley-VCH刊行の『Advanced Functional Materials』誌にオンライン掲載されました(論文名:Polarizable H-bond Concept in Aromatic Poly(thiourea)s: Unprecedented High Refractive Index, Transmittance and Degradability at Force to Enhance Lighting Efficiency)。

(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

高屈折率ポリマー (以下、HRIP) *1 は発光デバイス (有機発光ダイオード (OLED) など) の輝度や効率の向上に欠かせない材料で、デバイスのコーティング剤として使うことでより多くの光を取り出せるようになります。近年、HRIPの屈折率を向上させる研究の進歩は顕著で、例えば硫黄の含有率を高める手法が基本的な方法論として確立されています。一方で、HRIPの開発において屈折率と可視光透明性はトレードオフの関係にあるため、1.8以上の超高屈折率と、発光素子に適用できる十分な透明性を併せ持つHRIPの実現は困難でした。

(2)今回の新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、新しく開発した手法

(新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと)

本研究グループは、HRIPがフィルムなどの固体状態で生じる高分子鎖の隙間 (空気など) が屈折率低下の要因であると捉え、分子間の相互作用力の一つである水素結合*2を組み込むことで隙間を減らし、屈折率が向上すると着想しました。その結果、透明性を保てる範囲で硫黄含量をできるだけ大きくしつつ、この隙間の割合を減らした分子設計を施すことで、HRIPの屈折率と透明性を同時に向上させることに成功しました。

(そのために新しく開発した手法)

研究グループは以前、硫黄を含むポリマーの1つであるポリ(フェニレンスルフィド) *3の側鎖に、水素結合性のヒドロキシ基 *4を導入することで、屈折率が劇的に向上することを見出しました (Macromolecules 2022: https://doi.org/10.1021/acs.macromol.1c02412など)。今回の研究は、本概念を拡張し、HRIPの構造としてポリ(チオウレア*5)に初めて着目したものです (図2)。

図2:本研究の概念図。(a) ポリ(チオウレア)の分子設計。今回新たに着目したのは「分極性水素結合」をもつチオウレアで、芳香族スペーサーと合わせると屈折率が両者の相乗的な効果により向上する。(b) チオウレアが形成する「無秩序で密な」多点水素結合の模式図。可視光透明性を維持しながら屈折率を向上させる鍵構造となる。(c) 新たに提案した発光電気化学セルの素子構成。(CCライセンスに基づき、論文中の模式図を一部改変及び翻訳)

チオウレアに含まれる硫黄原子は分極*6しやすいため、密で無秩序な「分極性水素結合」を形成できる特殊な性質を示し、可視光域 (400-800 nm) で超高屈折率 (1.8) と十分な透過率 (92%以上) を両立しました。溶液プロセス*7により均一で透明な薄膜も作製でき、ポリ(チオウレア)をコーティングした発光電気化学セル (LEC)*8の外部量子効率*9は最高12% (相対比) 向上しました。またポリ(チオウレア)に対し、原料のジアミン化合物を添加して50℃で加熱するのみで、急速に分子量*10が低減し原料に近いレベルまで分解できることを明らかにしました。この性質は材料の循環性や再利用性の向上に寄与し、寿命を高めることにも繋がります。

図3:ポリ(チオウレア)の特徴的性質。(a) 丈夫、超高屈折率、透明なポリ(チオウレア)フィルム。(b) ポリ(チオウレア)をコーティングしたLEC素子が作動する様子。(c) ポリ(チオウレア)の分解過程におけるサイズ排除クロマトグラム。保持時間が長いほど分子量が低く、原料に近いことを意味する。(CCライセンスに基づき、論文中の模式図を一部改変及び翻訳)

(3)研究の波及効果や社会的影響

本研究で開発したポリ(チオウレア)は、従来の光学材料が抱えていたトレードオフを解消できるとともに、穏和な条件での分解性を付与した初めての例であり、従来よりも低負荷で作動しリサイクル可能な有機ELの実現が期待できます。種々の基板に対して簡便に製膜できる点も魅力的で、「一塗りするだけで」発光効率を上げることができる画期的な材料です。

(4)課題、今後の展望

本研究でポリ(チオウレア)が超高屈折率と透明性を両立することは実証されたものの、その限界値は未解明である上、さらに厳密かつ迅速に分解可能な構造を探索する必要があります。今後、ポリ(チオウレア)の化学構造や硫黄含量などを精密に制御することで、「使用時はさらに優れた屈折率と安定性を両立し、使用後のリサイクル効率の高いHRIP」の実現に繋げたいと考えています。

(5)研究者のコメント

HRIPの屈折率を高める研究は顕著に発展していますが、実際のデバイスで要求される透明性、製膜性、耐久性を網羅的に両立できる設計や、環境問題を志向した機能付与に関する研究はまだ十分行われているとはいえません。本研究では、これらの課題を一挙に解決しうる第一歩を実証できたことから、今後更なる化学構造の拡張と材料開拓によって、従来ない画期的機能を示す透明材料が生まれることが強く期待できます。

本論文は早稲田大学とミュンヘン工科大学との共同研究によるものです。ミュンヘン工科大学側の共著者の一人であるRubén Costa教授は、早稲田大学スーパーグローバル大学 (SGU) 創成支援事業によるエネルギー・ナノマテリアル拠点のジョイントアポイントメント教員として早稲田大学に滞在したことがあり、本成果はSGUプログラムによる研究の国際化の成果の一つと位置付けられます。第一著者である渡辺清瑚氏はこの3月に早稲田大学で博士学位を取得し、4月から早稲田大学の講師として研究を継続しています。現在は更なる展開を期待してCosta教授の研究室との共同研究を展開中です。

(6)用語解説

※1 高屈折率ポリマー (HRIP)

定義により異なるが、一般的に7以上の屈折率を示す透明な高分子 (ポリマー) の一群。高屈折率であればあるほど、光を大きな角度で曲げることができる。

※2 水素結合

電気陰性度の低い水素原子と、電気陰性度の高いヘテロ原子 (酸素・窒素・硫黄など) が有する孤立電子対の間で働く静電的な相互作用。

※3 ポリ(フェニレンスルフィド)

ベンゼン環と硫黄の繰り返し構造を有する、スーパーエンジニアリングプラスチック (スーパーエンプラ) の一つ。耐熱性や耐薬品性に優れるなどの特徴を有する。

※4 ヒドロキシ基

酸素原子と水素原子が共有結合でつながった構造を有する官能基。水素結合を形成する代表的な化学構造である。

※5 チオウレア

窒素原子、硫黄原子を多量に含む、水素結合性を示す化学構造の一種。従来は有機合成反応の触媒や、エネルギー貯蔵高分子の部分構造として用いられてきた。

※6 分極

光 (主に紫外〜可視光) が照射された際に電子の偏りが生じる性質。ベンゼン環、硫黄などが分極性の高い官能基の例として挙げられる。

※7 溶液プロセス

ポリマーを溶媒に溶かし、製膜する手法のこと。例えば、溶液を基板に滴下して風乾するドロップキャスト法や、遠心力を利用して製膜するスピンコート法が挙げられる。発光素子の作製工程に用いられる場合が多い。

※8 発光電気化学セル (LEC)

発光素子の一種で、発光する化合物と電解質を混合した発光層を有する点が特徴。一般的な発光素子として知られる有機発光ダイオード (OLED) と比較し、単純な素子構成、要求される印加電圧が低い、より簡便に作成できるなどの利点を有する。

※9 外部量子効率

発光素子に注入されたキャリア (電荷) のうち、光子 (フォトン) として取り出された数の割合。高いほど損失なく光が取り出されていることを意味する。

※10 分子量

化合物の質量。ポリマーの場合、鎖の長さに対応する。分解反応が進行する場合、時間の経過とともに分子量は低く遷移する。

(7)論文情報

雑誌名:Advanced Functional Materials
論文名:Polarizable H-bond Concept in Aromatic Poly(thiourea)s: Unprecedented High Refractive Index, Transmittance and Degradability at Force to Enhance Lighting Efficiency
執筆者名(所属機関名):Seigo Watanabe1, Luca M. Cavinato2, Vladimir Calvi3, Richard van Rijn3, Rubén D. Costa2, Kenichi Oyaizu1
 1早稲田大学、2ミュンヘン工科大学、3 Applied Nanolayers
掲載日時(現地時間):2024年4月12日(金)8時
掲載日時(日本時間):2024年4月12日(金)15時
掲載URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/adfm.202404433
DOI:10.1002/adfm.202404433

(8)研究助成

研究費名:有機エネルギーマテリアル化学の確立と展開
研究課題名:文部科学省 科研費 基盤研究(A) (21H04695)
研究代表者名(所属機関名):小柳津研一(早稲田大学)

研究費名:ソフト分極構造の多重集積による光・電場機能高分子の革新
研究課題名:文部科学省 科研費 挑戦的研究 (開拓) (22K18335)
研究代表者名(所属機関名):小柳津研一(早稲田大学)

研究費名:分子間相互作用の制御に基づく含硫黄超高屈折率ポリマーの創出
研究課題名:文部科学省 科研費 特別研究員奨励費 (22KJ2927)
研究代表者名(所属機関名):渡辺清瑚(早稲田大学)

上記のほかに、早稲田大学理工総研アーリーバード、みずほ学術振興財団 工学研究助成、EU DET-OPEN (MSCA-ITN STiBNite No. 956923) の支援により実施されました。

【キーワード】

透明プラスチック、発光デバイス、屈折率、硫黄、水素結合、分解性

「革新的情報通信技術(Beyond 5G(6G))」のNICT事業に採択

著者: contributor
2024年4月15日 15:02

「革新的情報通信技術(Beyond 5G(6G))」のNICT事業に採択

〜ホログラフィックコンタクトレンズディスプレイを実現する革新的基盤技術の開発〜

学校法人早稲田大学(研究分担者 三宅 丈雄 教授)、国立大学法人東京農工大学(代表研究者 大学院工学研究院 高木 康博 教授)、国立大学法人徳島大学(研究分担者 山本 健詞 教授、水科 晴樹 客員准教授)、シチズンファインデバイス株式会社(注1、以下 シチズンファインデバイス)、株式会社シード(注2、以下 シード)は、革新的情報通信技術(Beyond 5G(6G))基金事業 要素技術・シーズ創出型プログラムに関する国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー))の公募事業に採択されました。今後、「ホログラフィックコンタクトレンズディスプレイを実現する革新的基盤技術の開発」をテーマとして研究開発に取り組んでいきます。

サイバー空間を現実空間と一体化させるSociety5.0のバックボーンとなるBeyond5G (6G)の能力を最大限に活用し、人々の豊かな生活を実現するためには、生活の中に溶け込むAR技術の実現が必要になります。本研究開発では、次世代のAR(Augmented Reality:拡張現実)技術実現のために、目に直接装着できるコンタクトレンズディスプレイの実現を目標とします。

これまで、コンタクトレンズディスプレイには「コンタクトレンズ内の表示デバイスに目がピント合わせできない」という根本的な問題がありました。本研究開発では、その解決に「ホログラフィー技術を用いて自然な目のピント合わせを可能にする」という独自の原理を用います。また、将来の幅広い普及を可能にするために、ソフトコンタクトレンズと同程度の薄さ、高い酸素透過率と含水性の両立を目指します。そのためには、従来とはレベルが異なる革新的な小型化・薄型化・ウェットデバイス技術の開発が必要となります。本研究開発は、ホログラフィックコンタクトレンズディスプレイを実現するために最も基盤となるコア技術の研究開発に取り組みます。

ホログラフィックコンタクトレンズディスプレイが実現すれば、サイバー空間と目が直接接続されることになり、必要な情報をいつでもどこでも即座に入手可能になるため、Beyond5Gが提供する「拡張性」が最大限活用されるようになります。

図1 Beyond5GのARディスプレイ


図2 コンタクトレンズディスプレイで実現される社会

図3 本研究開発で開発するホログラフィックコンタクトレンズディスプレイのコア技術

東京農工大学、徳島大学、早稲田大学、シチズンファインデバイス、シードは、2024年度から2026年度までの間に本研究開発に共同で取り組みます。本研究開発で開発するコア技術と各機関の担当を以下に示します。

  1. 像形成技術:超薄型ホログラム光学系(東京農工大学)、ホログラム計算(徳島大学)
  2. 空間光変調器:超小型・超薄型空間光変調器(シチズンファインデバイス)
  3. 電子デバイス技術:薄型アンテナ、共振結合回路、小型回転角センサ(早稲田大学)
  4. コンタクトレンズ内蔵技術:構造開発、防水技術、溶出検査、組み立て技術(シード)
  5. 視機能への影響評価:焦点合わせ、外界との融合、眼球運動との整合性(徳島大学)

令和6年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 4名の教員が受賞

著者: contributor
2024年4月9日 15:41

このたび、早稲田大学の研究者4名が、科学技術分野で顕著な功績があったとして、「令和6年度科学技術分野の文部科学大臣表彰」を受賞しました。
科学技術分野の文部科学大臣表彰は、科学技術に携わる者の意欲向上を図り、日本の科学技術水準の向上に寄与することを目的としており、科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果を収めた者に対し授与されています。

今後も本学では、中長期計画「Waseda Vision150」における研究ビジョンである「世界の平和と人類の幸福に貢献する研究」の実現に向け、未来をイノベートする独創的研究の促進を図ってまいります。

科学技術賞(研究部門)

氏名 所属・役職 業績名
片岡 淳 理工学術院・教授  元素の色を可視化する革新的薬物動態イメージング研究
熊谷 隆 理工学術院・教授  複雑な系の上の異常拡散現象の研究
嶋本 薫 理工学術院・教授  航空宇宙通信の多角的な研究
竹村 和久 文学学術院・教授  行動意思決定論の再構築とそれに基づく社会実践研究

Innovators: Research Recap 2024, Waseda University

著者: contributor
2024年4月8日 11:42

We’re proud to bring you Waseda Universty’s Research Recap 2024. The video highlights just a few of the many innovators who conducted influential research at our university over the past year. Watch for a peek at their diverse research covering everything from self-healing interconnects and airborne microplastics to conversational AI media systems and hydrogen storage materials.

If you wish to find out more about the extensive activities at our University, click on one of the links that follow in the description. Thanks to all the students and professors who put their research on display for this video.


Associate Professor: TAKAHASHI, Ryo (Faculty of Political Science and Economics)

Research Theme: Economic development and environmental conservation in developing countries
Recent Research: https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76941
Researcher Details: https://w-rdb.waseda.jp/html/100001339_en.html
2022 WASEDA research acceleration program for early-stage principal investigators

Professor: TAKEZAWA, Akihiro (Faculty of Science and Engineering)

Research Theme: Development of additive manufactured functional structure
Recent Research: https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76856
Researcher Details: https://w-rdb.waseda.jp/html/100002014_en.html
The recipients of the 2022 Waseda Research Award

Professor: IWASE, Eiji (Faculty of Science and Engineering)

Research Theme: Micro-electro-mechanical systems
Recent Research: https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76980
Researcher Details: https://w-rdb.waseda.jp/html/100001156_en.html
The recipients of the 2016 Waseda Research Award
2023 Next-generation Core researcher

Associate Professor: ISHII, Ayumi (Faculty of Science and Engineering)

Research Theme: Inorganic materials chemistry
Recent Research: https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76941
Researcher Details: https://w-rdb.waseda.jp/html/100003644_en.html

Professor: YOO, Byung Kwang (Faculty of Human Sciences)

Research Theme: Public health, Infectious diseases, Health education
Recent Research: https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76882
Researcher Details: https://w-rdb.waseda.jp/html/100003620_en.html

Professor: OKOCHI, Hiroshi (Faculty of Science and Engineering)

Research Theme: Environmental Chemistry
Recent Research: https://www.waseda.jp/top/en/news/78501
Researcher Details:  https://w-rdb.waseda.jp/html/100000728_en.html

Assistant Professor: HANADA, Nobuko (Faculty of Science and Engineering)

Research Theme: Energy material science, chemical reaction and energy process engineering
Recent Research: https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76960
Researcher Details: https://w-rdb.waseda.jp/html/100001495_en.html

Associate Research Professor: MATSUYAMA, Yoichi (Green Computing Systems Research Organization)

Research Theme: Conversational AI media systems
Recent Research: https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76861
Researcher Details: https://www.yoichimatsuyama.com/about/

Associate Professor: HOSOKAWA, Yuri (Faculty of Sport Sciences)

Research Theme: Safety and performance optimization
Recent Research: https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76832
Researcher Details: https://w-rdb.waseda.jp/html/100001822_en.html

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最新の注目研究者をピックアップ2024

著者: contributor
2024年4月8日 11:18

Innovators: Resarch Recap 2024, Waseda University

早稲田大学の最新の注目研究者をピックアップした動画:Innovators: Research Recap 2024, Waseda University を公開しました。是非ご覧ください。

本動画に登場する研究者


高橋遼 准教授 (政治経済学術院)

研究分野) Economic development and environmental conservation in developing countries
Recent Research) https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76941
Researcher Details) https://w-rdb.waseda.jp/html/100001339_en.html
2022年度早稲田大学PI飛躍プログラム支援対象者

竹澤晃弘 教授 (理工学術院)

研究分野) Development of additive manufactured functional structure
Recent Research) https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76856
Researcher Details) https://w-rdb.waseda.jp/html/100002014_en.html
2022年度 早稲田大学リサーチアワード受賞者

岩瀬英治 教授(理工学術院)

研究分野) Micro-electro-mechanical systems
Recent Research) https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76980
Researcher Details) https://w-rdb.waseda.jp/html/100001156_en.html
2016年度早稲田大学リサーチアワード(国際研究発信力)受賞者
次代の中核研究者2023

石井あゆみ 准教授(理工学術院)

研究分野) Inorganic materials chemistry
Recent Research) https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76941
Researcher Details) https://w-rdb.waseda.jp/html/100003644_en.html

ユウ ヘイキョウ 教授 (人間科学学術院)

研究分野) Public health, Infectious diseases, Health education
Recent Research) https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76882
Researcher Details) https://w-rdb.waseda.jp/html/100003620_en.html

大河内博 教授 (理工学術院)

研究分野) Environmental Chemistry
Recent Research) https://www.waseda.jp/top/en/news/78501
Researcher Details)  https://w-rdb.waseda.jp/html/100000728_en.html

花田信子 准教授 (理工学術院)

研究分野) Energy material science, chemical reaction and energy process engineering
Recent Research) https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76960
Researcher Details) https://w-rdb.waseda.jp/html/100001495_en.html

松山洋一 客員主任研究員 (グリーン・コンピューティング・システム研究機構)

研究分野) Conversational AI media systems
Recent Research) https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76861
Researcher Details) https://www.yoichimatsuyama.com/about/

細川由梨 准教授 (スポーツ科学学術院 )

研究分野)Safety and performance optimization
Recent Research) https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76832
Researcher Details) https://w-rdb.waseda.jp/html/100001822_en.html

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制約をもつ組合せ最適化問題を量子計算機で高精度に解くための手法を開発

著者: contributor
2024年3月14日 18:07

制約をもつ組合せ最適化問題を量子計算機で高精度に解くための手法を開発
〜量子ソフトウェアの要素技術への応用に期待〜

発表のポイント

現実世界の組合せ最適化問題は一般的に多くの制約(守らなければならないルール)を含むため、制約を効率的に取り扱う量子アルゴリズムの開発は重要である。
本研究では、組合せ最適化問題がもつ制約を取り扱うための制約適合処理手法を構築し、変分法を用いた量子アルゴリズムと組み合わせることで、量子計算機の精度を改善する手法を開発した。
本手法を取り込んだ量子計算機ソフトウェアの開発により、高精度に現実世界の組合せ最適化問題を解くことが期待できる。

量子アニーリング計算機※1やゲート型量子計算機※2といった量子計算機を現実世界の組合せ最適化問題※3に活用するためには、組合せ最適化問題がもつ制約を効率的に取り扱うことが重要となります。これを受け、早稲田大学理工学術院講師の白井達彦(しらい たつひこ)氏、同大学理工学術院教授の戸川望(とがわ のぞむ)氏らの研究グループは、制約をもつ組合せ最適化問題を量子計算機で精度高く解くための新しい手法(図1)を開発しました。さらに、本研究グループは、この手法を量子アニーリング計算機およびゲート型量子計算機に適用し、実量子計算機でその有効性を確認しました。

図1. 提案手法の概要(グラフ分割問題※4(2頂点)を例に)
量子計算機から出力される解を、制約を満たす解に変換する制約適合処理手法を組み込んだ量子アルゴリズム

本研究成果は、米国のIEEE Computer Societyが発行する『IEEE Transactions on Quantum Engineering』online版にEarly Access Articlesとして2024年3月13日(水)(現地時間)に掲載されました。

論文名:Post-processing variationally scheduled quantum algorithm for constrained combinatorial optimization problems

(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

現実世界のあらゆるところに存在する組合せ最適化問題は大規模になるほど、従来型のコンピュータで最適解を得ることが困難になるため、様々な解法が研究されています。中でも近年、量子アニーリング計算機やゲート型量子計算機といった量子力学の原理に従って動作する新しいタイプの計算機が注目されています。量子計算機は国内外で研究開発され、一般のユーザーもクラウド上で使用できる段階になっています。

しかし、量子計算機を活用するにはまだ課題が多くあります。とくに、現在の量子計算機はノイズの影響があるため、エラーなく実行できる時間が制限されます。そのため、短時間で計算することができる量子アルゴリズムの開発が重要となります。ノイズがある量子計算機が短時間の計算処理によって組合せ最適化問題を解法する手法として、これまで変分法※5を用いた量子アルゴリズムが開発されてきました。しかし、後述する制約をもつ組合せ最適化問題では、十分な精度を達成することは難しいという問題がありました。

(2)今回の新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

今回の研究では、制約を満たさない解に対し、制約を満たす解に変換する制約適合処理手法を構築し、変分法と組み合わせることで、制約をもつ組合せ最適化問題を解くための量子アルゴリズムを構築しようと試みました。

たとえば、図1では、2個の頂点をもつグラフを1個の頂点をもつ2個のグラフに分割する問題を考えます。各頂点について1個の量子ビットを対応させます。すると2個の量子ビットが必要となります。2個の量子ビットのうち、一方は赤丸(0)、もう一方は青丸(1)とする必要があります。これが制約です。ところが量子計算機は一般に制約を満たさない解を出力します。たとえば2個の量子ビットの両方が赤丸(0)あるいは両方が青丸(1)となるような解です。このような制約を満たさない解は大きなエネルギー値をもつため、変分法を用いた量子アルゴリズムの精度を悪化させる要因となります。そこで制約適合処理手法を用いることによって、制約を満たさない解を、制約を満たす解に変換することを考えました。すると、制約を満たす解空間において変分パラメタの最適化を行うため、精度高く組合せ最適化問題の最適解を探索することができます。また、本手法は、量子アニーリング計算機、ゲート型量子計算機といった量子計算機のタイプによらず導入することができます。どちらのタイプの実量子計算機においても、本手法が有効であることを明らかにしました。

(3)そのために新しく開発した手法

本手法を用いて制約をもつ組合せ最適化問題を解くことを考えます。この際、制約を満たさないすべての解を、制約を満たす解に変換することのできる制約適合処理手法を構築することがポイントとなります。

今回の研究では、できる限り汎用的な制約適合処理手法を構築することを目指しました。そこで、すべての局所最適解※6が制約を満たす解となるための条件を理論的に証明しました。この条件が満たされるとき、局所最適解を求めるための手法、たとえば貪欲法※7によって制約適合処理手法を構築することができます。この条件は、独立な線形制約※8をもつ組合せ最適化問題に対して成り立ち、現実世界に現れる多くの組合せ最適化問題に対して適用することができます。さらに典型的な組合せ最適化問題に対して、具体的に本手法が適用可能であることを示しました。
さらに量子計算機で解くことが困難とされる組合せ最適化問題のグラフ分割問題に対して、制約適合処理手法を組み込んだ場合(提案手法)と組み込まなかった場合とを比較した結果、量子アニーリング計算機では平均して残留エネルギー※9を85%削減、ゲート型量子計算機では平均して残留エネルギーを87%削減し、得られる解の精度が改善することが分かりました(図2)。

図2. 手法の比較
(左)量子アニーリング計算機を用いて実験を行なった結果を示しています。縦軸横軸は、グラフ分割問題(32頂点および64頂点)を解いたときの残留エネルギーの平均値を表しています(0が最も精度が高い)。縦軸に提案手法、横軸に従来手法を示しました。データが対角線の下側にあることは、提案手法において従来手法より性能が改善していることを示しています。(右)ゲート型量子計算機を用いて実験を行った結果を示しています。グラフ分割問題(4頂点)を解いたときの残留エネルギーの平均値を表しています(カッコ内は平均値の標準偏差を表しています)。

(4)研究の波及効果や社会的影響

本手法を使うことによって、エラーなく実行可能な時間が制限されている量子計算機においても、より精度高く制約をもつ組合せ最適化問題を解くことができます。本手法は量子計算機に簡単に導入することができることから、現在のまたは近未来的に実現する量子計算機の性能を最大限引き出すための量子ソフトウェア開発の要素技術として利用されることが期待されます。たとえば、今回の手法により交通流の最適化が実現すると、渋滞の解消や二酸化炭素排出量の削減など社会的問題へ大きく貢献する可能性があります。

(5)今後の発展

本手法では、制約をもつ組合せ最適化問題を量子計算機で効率的に解く手法を開発しました。今後、一層広範囲な組合せ最適化問題への適用を進めながら、実世界に見られる様々な具体的な問題に対して、本手法の有効性を検証していきます。

(6)研究者のコメント

本研究では量子計算機を精度高く利用するための手法を開発しました。本研究で開発した手法を使うことで、量子計算機の性能が最大限発揮され、今後新たに量子計算機を活用できる事例が増えることを期待します。

(7)用語解説

※1 量子アニーリング計算機
組合せ最適化問題を高速に解決すると期待される計算機。量子効果により量子重ね合わせ状態を実現させ、それを初期状態として用意し、徐々に量子効果を弱める。同時に組合せ最適化問題を表現するイジングモデルの効果を強めることにより、イジングモデルの安定状態を実現させるという機構で動作する。

※2 ゲート型量子計算機
現在の計算機を構成するビットを量子ビットで置き換えた計算機であり、量子ゲートと呼ばれる演算を量子ビットに作用させることで動作する。

※3 組合せ最適化問題
膨大な選択肢の中から、与えられた制約を満たしつつ、関数の最小値(または最大値)をとる選択肢を求める問題の総称。

※4 グラフ分割問題
与えられたグラフの頂点集合を2個の部分集合に分割する問題。それぞれの部分集合に含まれる頂点の個数を等しくするという制約の下、異なる部分集合の間をつなぐ辺の数を最小にする組合せ最適化問題。

※5 変分法
目的関数が最小値(または最大値)となる関数を求める手法。図1では、目的関数がイジングモデルのエネルギー期待値に対応し、変分パラメタの値を更新することでエネルギー期待値の最小値を探索する。イジングモデルのエネルギー期待値の最小値が組合せ最適化問題の最適解の目的関数の値に対応する。

※6 局所最適解
組合せ最適化問題の解のうち、その周囲の解と比較して、局所的に目的関数の値が小さい(または大きい)解。局所最適解は解空間の中にいくつも存在し、その中で目的関数の値を最小(または最大)とする解が真の最適解となる。

※7 貪欲法
組合せ最適化問題に対して、繰り返し、現在得られている解をその周囲の解の中から目的関数の値が最も小さい(または最も大きい)解に更新することで、局所最適解を求める方法。

※8 線形制約
変数が満たす必要のある線形等式や線形不等式のこと。たとえば、図1で一方の量子ビットの値が0、もう一方の量子ビットの値が1という制約は、q_1+q_2=1という線形等式で与えられる(q_i (i∈{1,2})は0もしくは1の値をとる)。

※9 残留エネルギー
組合せ最適化問題を解いた際に得られた解の精度を評価する指標の一つ。得られた解の目的関数の値と真の最適解の目的関数の値の差で与えられ、値が小さいほど解の精度が良いことを表す。

(8)論文情報

雑誌名:IEEE Transactions on Quantum Engineering
論文名:Post-processing variationally scheduled quantum algorithm for constrained combinatorial optimization problems
執筆者名:Tatsuhiko Shirai(早稲田大学), Nozomu Togawa(早稲田大学)
掲載日:2024年3月13日(水)
掲載URL:https://doi.org/10.1109/TQE.2024.3376721
DOI:10.1109/TQE.2024.3376721

(9)研究助成

研究費名・研究課題名:科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST「地理空間情報を自在に操るイジング計算機の新展開」(JPMJCR19K4)
研究代表者名:戸川望(早稲田大学・教授)
早稲田大学における研究代表者名:理工学術院 教授 戸川望

研究費名・研究課題名:日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業 基盤研究(C)「量子古典ハイブリッド計算技術による物質シミュレーション高速化手法の研究」(21K03391)
研究代表者名:田中宗(慶應義塾大学・准教授)
早稲田大学における研究代表者名:理工学術院 講師 白井達彦

眼前の友人の存在は心拍数の減少を引き起こす

著者: contributor
2024年3月8日 16:45

眼前の友人の存在は心拍数の減少を引き起こす

親しい間柄の他者の存在は私たちの副交感神経活動を活性化させ、心拍数を下げる

発表のポイント

他者の存在は、私たちの主観的な気持ちを変化させると同時に、心拍数などの生理的な反応を変化させることが知られています。
本研究によって、親しい友人が目の前(パーソナルスペース内)にいるとき、副交感神経活動が活性化し心拍数が減少することが明らかとなりました。
本研究の成果は、円滑なコミュニケーション確立のための介入法や臨床的な示唆という観点から、発達科学や社会科学、精神病理学等の関連領域への貢献が期待されます。

親しい人が近くにいるとき、私たちの身体にはどのような反応が起こるのでしょうか?早稲田大学理工学術院総合研究所 向井香瑛(むかいかえ)次席研究員同大理工学術院 渡邊克巳(わたなべかつみ)教授らの研究グループは、親しい間柄にある他者の存在が、私たちの生理的反応にどのような影響を与えるかを調べました。友人ペアをさまざまな位置で配置したときの心電図データを記録したところ、正面に友人が存在するとき、副交感神経※1の活動が活性化することで、心拍数が減少することが明らかになりました。また右手側に友人が存在するとき、副交感神経活動の活性化はみられませんでしたが、正面にいる時と同様に心拍数が減少することも分かりました。

本研究成果は、Springer Nature社発行の『Scientific Reports』に2024年2月21日(水)(現地時間)にオンラインで掲載されました(論文名:Electrocardiographic activity depends on the relative position between intimate persons )。

(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

私たちは他者とコミュニケーションを取るとき、快適だと感じる空間を維持することが知られています。この空間はパーソナルスペースと呼ばれ、私たちの身体を取り囲むように広がっています。他者がパーソナルスペース内に侵入すると、不快な感情が沸き起こり、他者から逃げようとする反応が観察されることもあります。この空間の大きさは、他者との社会的な関係性(パートナー、友人、知らない人など)やコミュニケーションの目的などから影響を受けることも明らかになっています。パーソナルスペースに関連する研究の多くは、「快適さ」という主観的な気持ちを指標として用いてきました。しかし近年の研究では、他者が身体の周辺にいるとき、気持ちだけでなく客観的な指標である心拍数や皮膚電気活動※2などの生理的な反応も変化することが報告されています。例えば、知らない人がパーソナルスペース内に侵入すると、心拍数の上昇や皮膚電気活動の活性化など、交感神経活動にかかわる生理的な反応の変化がみられることが示されています。

(2)今回の新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、新しく開発した手法

これまでの研究から、知らない人の存在によって交感神経活動にかかわる生理的な反応の変化がみられることが示されていますが、知り合いの場合でも、同じような生理的な反応の変化がみられるのでしょうか?この問いを明らかにするために、本研究は、親しい友人がパーソナルスペース内にいるときに私たちの身体にどのような生理的反応が生じるのかを実験的に検証しました。親しい間柄にある友人同士16組に実験に参加してもらい、さまざまな位置関係で立っているときの心電図データを記録しました(図2)。

その結果、親しい友人が目の前にいるとき、他の位置関係のときよりも、心拍数が減ることが明らかになりました(図3a)。また、心電図データから自律神経の活動を調べたところ、副交感神経活動の活性化がみられることが分かりました(図3b)。心拍数の減少は、副交感神経活動の活性化によって引き起こされることが知られています。このことから、私たちは、親しい友人の存在が副交感神経活動を活性化させ、その結果、心拍数が減少したと解釈しました。

さらに興味深いことに、副交感神経活動の変化はみられなかったものの、友人が右手側にいるとき(友人の右顔を見ているとき・友人に自分の右顔を見られているとき)も心拍数の減少がみられました。その一方で友人が左手側にいるとき(友人の左顔を見ているとき・友人に自分の左顔を見られているとき)や背後にいるとき(友人の背中をみているとき・友人に自分の背中をみられているとき)は心拍数の変化は観察されませんでした。右手側と左手側で異なる生理反応が生じた背景のひとつには、利き手側と非利き手側のパーソナルスペースの大きさの違いが考えられます。先行研究では、利き手側のパーソナルスペースの方が小さいことが報告されており、この非対称性が生理的反応の違いを生み出した可能性があると考えています。しかし、本研究では左右のパーソナルスペースの形状の違いは検証できていません。今後この可能性を追究していきたいと考えています。

(3)研究の波及効果や社会的影響

私たちは、さまざまな間柄の人に囲まれながら社会生活を送っています。通学・通勤中は見知らぬ人と電車、バスで近くに座り、学校・職場では気心の知れた友人や同僚、少し緊張する先生や上司が近くにいて、家ではホッと安心できる家族との時間を過ごしています。日々接する他者の存在は、さまざまな形で自己に影響を与えます。本研究は、親しい友人が目の前にいると、副交感神経活動に関連する心拍数の変化が引き起こされる可能性を示しました。

本研究の成果は、円滑なコミュニケーション確立のための介入法の提案や臨床的な示唆という観点から、発達科学や社会心理学、精神病理学など対人コミュニケーションと関わる諸研究領域にも重要な知見となることが期待されます。例えば、大人よりも社会的なつながりが少ない子どもでは、他者の存在による影響は大人と異なる可能性があります。発達的な変化を調べることで、発達段階に応じて異なるコミュニケーション法を提案することができるかもしれません。また、対人不安など社会的な困難を抱える人がより生きやすくなるような社会づくりにも貢献できると考えています。

(4)課題、今後の展望

親しい友人が存在するときの生理的反応の変化を調べたい、という目的は達成した一方で、私たちの研究にはまだ検証すべき点が残っています。私たちが他者とコミュニケーションをとるとき、快適だと感じる空間の大きさや形状は、人によって異なることが明らかになっています。つまり、同じ距離に他者がいたとしても、生起する感情や誘発される生理的反応は人によって異なる可能性があるということです。本研究では、全ての友人ペアで同一の距離を用いたため、このような個々人の違いは考慮できていません。今後の研究では、個人差にも目を向け、より一般的な場面にも言及することができるよう、様々な対人コミュニケーション場面での生理的反応の変化を引き続き調べていきたいと考えています。

(5)研究者のコメント

向井:目覚ましいデジタル技術の普及により、私たちは遠隔地にいる他者とも簡単に連絡やコミュケーションを取ることができる時代になりました。本研究は、あえてそのような時代に“オフラインでのやりとりが私たちの身体にどのような変化を生み出すのか?”という問いをリサーチクエスチョンに据え、取り組んできた研究です。今後も引き続き、人同士のオフラインのコミュニケーション場面に着目し、二者や集団内でのやりとりが私たち自身にどのような変化を生じさせているのかを調べていきたいと思います。

(6)用語解説

※1 副交感神経活動

主に休息時やリラックス時にはたらく自律神経活動のこと。心拍数や血圧の減少などが副交感神経の活性化と関連している。一方で、活動時や緊張している時にはたらく自律神経活動は交感神経活動と呼ばれる。副交感神経活動と交感神経活動は互いに相反する役割を担うとされる。

※2 皮膚電気活動

汗腺活動によって生じる皮膚の電気現象のこと。人の心理的な状態を評価するための指標として使われる。

(7)論文情報

雑誌名:Scientific Reports
論文名:Electrocardiographic activity depends on the relative position between intimate persons
執筆者名:*Kae Mukai (Waseda University), Tomoko Isomura (Nagoya University), Ryoji Onagawa (Waseda University), Katsumi Watanabe (Waseda University)
掲載日時:2024年2月21日(水)
掲載URL:https://www.nature.com/articles/s41598-024-54439-5
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-024-54439-5

(8)研究助成

研究費名:ムーンショット型研究開発事業・JPMJMS2012
研究課題名:非接触表面情報からの身体運動を伴う場合の心身状態の推定
研究代表者(所属機関名):渡邊克巳(早稲田大学)

研究費名:科学研究費助成事業(若手研究)・19K20651
研究課題名:他者による自己の身体感覚の変容
研究代表者(所属機関名):磯村朋子(名古屋大学)

研究費名:科学研究費助成事業(研究活動スタート支援)・20K22293
研究課題名:対人協調ダイナミクスに潜む心理的要因:身体的相互作用課題を用いた検証
研究代表者名(所属機関名):向井香瑛(早稲田大学)

研究費名:科学研究費助成事業(特別研究員奨励費)・21J01257
研究課題名:対人魅力が対人運動協調の「相性」に及ぼす影響とその神経基盤の解明
研究代表者名(所属機関名):向井香瑛(早稲田大学)

研究費名:科学研究費助成事業(基盤研究(A))・22H00090
研究課題名:クロスモーダル型人間拡張技術の知的基盤の構築
研究代表者(所属機関名):渡邊克巳(早稲田大学)

研究費名:科学研究費助成事業(基盤研究(B))・22H03494
研究課題名:心拍リズムに基づく情報サンプリング機構の発達に関する生理心理学的研究
研究代表者名(所属機関名):磯村朋子(名古屋大学)

【キーワード】

パーソナルスペース、友人、生理的反応、心拍数、副交感神経活動

屋外設置型IEEE802.15.3d テラヘルツ通信装置の開発に成功

著者: contributor
2024年3月5日 13:33

屋外設置型IEEE802.15.3d テラヘルツ通信装置の開発に成功

2024年2月5日の東京地方大雪時も連続動作

発表のポイント

実用環境では必須となる屋外設置可能な15.3d準拠のテラヘルツ通信装置を開発し、長期連続伝送実験を開始いたしました。
指向性の高いアンテナを簡単かつ安定的に動作させるためのアンテナ自動調整機能を開発しました。
悪天候に左右されにくい、信頼性の高い次世代移動通信システムBeyond5G /6Gシステムの基地局を接続するためのネットワーク構築に貢献することが期待されます。

早稲田大学(以下、早大)理工学術院の川西哲也(かわにしてつや)教授の研究グループは、岐阜大学工学部の久武信太郎(ひさたけしんたろう)教授らと共同で、屋外設置可能なテラヘルツ通信装置を開発し、早大西早稲田キャンパス(東京都新宿区)内で長期連続伝送実験を開始しました。これまでのテラヘルツ通信は実験室レベルでの実証がほとんどでしたが、本研究では、24時間屋外動作を可能としました。通信装置の姿勢制御機能を実装し、アンテナ自動調整を実現しました。現在、降雨・降雪時を含む天候変動時の伝送特性評価を実施中で、2024年2月5日の東京地方大雪時のテラヘルツ伝搬特性を計測し、今後のシステム設計に有用な情報の取得に成功しました。信号形式・周波数などはテラヘルツ通信規格IEEE802.15.3d※1に準拠しています。

1.研究の背景

次世代移動通信システムBeyond5G /6Gシステム※2の基地局を接続するためのネットワーク(バックホール・フロントホール※3)において、その一部を高速テラヘルツ通信が担うことが期待されています。これまでの研究報告のほとんどは実験室内での実証や測定器を使った通信の模擬によるものでした。テラヘルツ無線は雨や雪の影響を受けやすいという課題があり、その影響を評価する必要がありました。また、ミリ波帯・テラヘルツ帯ではその波長の短さからアンテナ方向の精密調整が必要という課題もありました。

2.今回の研究成果および新しく開発した装置について

屋外設置可能なIEEE802.15.3d準拠のテラヘルツ通信装置の開発に成功しました(図1、2参照)。テラヘルツ帯通信実験では測定器による伝送の模擬や単方向の画像伝送をデモンストレーションするものが大半ですが、今回開発した装置はイーサネットインターフェースを有しており、実データの双方向伝送を可能としています。

また、屋外において連続伝送実験を行うための筐体の開発、センサー装置の実装を行いました。ミリ波帯やテラヘルツ帯ではビーム幅の細い電波を用いますが、アンテナ方向の調整にコストがかかるという課題がありました。本研究では、精度の高い機構設計と精密電動雲台による制御により、自動アンテナ方向調整を実現しました。また、テラヘルツ帯では送信と受信のアンテナを共通にすることが困難であったために、それぞれ個別のアンテナを用いることが一般的でした。本研究では、300GHz帯回路を設計し、送受アンテナ共通化と機構設計の精密化により、装置の小型化、防水対応、アンテナ方向精度の向上を図りました。

早大西早稲田キャンパス内に一組のテラヘルツ通信装置を設置し、現在、長期連続伝送実験を実施中です。気象センサー、装置内温度センサー、振動センサーなどを備え、風雨・降雪・温度変化と伝送特性の相関を連続的に観測することが可能です。2024年2月5日(月)の東京地方降雪時においても連続データ取得をいたしました。図3に示すように大雪時に受信電力(RSSI※4)の大きな変動が確認されました。詳細については現在解析中ですがアンテナへの着雪と落雪が繰り返されたことによると推定しています。

3.今後の展開

今回開発した屋外で動作させることが可能な小型のテラヘルツ通信装置を活用し、実用化に向けて、伝送容量・伝送距離拡大や、他の無線器との干渉の影響の解析など様々な実験を実施します。さらに、複数のテラヘルツ通信装置を連携させ、悪天候時にもおいても安定的に動作するシステムの実現を目指します。

今回開発したテラヘルツ通信装置の技術的内容については、2024年3月5日(火)から8日(金)に広島大学で開催される電子情報通信学会総合大会にて発表予定です。本研究の成果をベースに、JST ASPIRE事業(JPMJAP2324)「マルチフィジックスICTデザイン」を進める予定です。電子工学・機械工学・材料工学などの学際領域の知見を結集し、マルチフィジックスICTという新しい概念の構築を目指すものです。今回開発した通信装置は、最新の電子デバイスを用いた送受信器、精度の高い微動機構によるアンテナ制御、気象状況の詳細測定などの技術をベースとしています。ASPIRE事業では、テラヘルツ波、光ファイバなどの様々な伝送媒体を用いたネットワークを電子工学、機械工学などを駆使してデザインすることを目標としています。当ASPIRE事業の概要については、上記の電子情報通信学会総合大会のスポンサードセッションとして3月6日(水)に開催されるキックオフミーティングにて発表予定です。

【研究プロジェクトについて】

本研究成果の一部は国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー))の革新的情報通信技術研究開発委託研究(JPJ012368C04301)「欧州との連携による300GHzテラヘルツネットワークの研究開発」によるものです。欧州委員会のHorizon2020、および国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー))の委託研究「大容量アプリケーション向けテラヘルツエンドトゥーエンド無線システムの開発(ThoR: TeraHertz end-to-end wireless systems supporting ultra high data Rate applications)」(研究期間:2018年7月1日から2022年6月30日まで)の研究成果も活用しています。

【各機関の主な役割】

早稲田大学:テラヘルツ伝送装置の開発
岐阜大学:アンテナ制御機構の開発

【用語解説】

※1 IEEE802.15.3d規格

ブルートゥースや無線 LAN で有名な IEEE802 規格の 1 つ。テラヘルツ帯における唯一の通信規格。

※2 Beyond5G/6G

最近サービスがはじまった移動通信システムは第5世代(5G)とよばれている。これに対して、次世代システムとしてBeyond5Gさらには 第6世代(6G)移動通信システムの開発が進められている。

※3 バックホール・フロントホール

携帯電話の基地局間を結ぶネットワーク。バックホールは無線通信で伝送するデジタルデータをやりとりするネットワークを指す。フロントホールは無線機本体とアンテナを分離して狭いビルの屋上など様々なところにアンテナを置くことを可能とするために期待されている技術で、無線機本体で作られた電波の波形をアンテナまで伝える役割を担う。役割としてテレビ本体とアンテナをつなぐケーブルと同じであるが、要求される性能が高いため現在では光ファイバが用いられることが多い。

※4 RSSI(Received Signal Strength Indicator)

無線通信装置において受信電力の目安をあたえる数値。測定器よりは精度がおちるが、無線装置の制御に広く用いられている。

日本発量子コンピューティングの最前線を産学官のキーマンが語るシンポジウムを開催 ‐早稲田大学量子研究総合拠点‟QuRIC”設立記念シンポジウム

著者: contributor
2024年3月5日 13:32

早稲田大学(東京都新宿区 総長:田中愛治)は、きたる2024年3月12日、量子技術社会実装拠点(略称QuRICキューリック 拠点長:戸川望理工学術院教授)設立記念シンポジウムを開催いたします。

本シンポジウムでは、日本発量子コンピューティングの最前線に立つ産学官のキーマンからの解説に加えて、早稲田大学QuRICがめざす量子技術の社会実装と、これを加速するベンチャー企業2社から現在進行形である量子技術の実用化についてご紹介します。当日は特別ゲストとして、理化学研究所 量子コンピュータ研究センター(RQC)センター長 中村泰信氏、産業技術総合研究所 量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター (G-QuAT) 副センター長 川畑史郎氏にご登壇いただき、量子技術研究・開発・生産の現在地点を解説していただきます。またパネル討論では、株式会社QunaSys 最高執行責任者(COO)の松岡智代氏をモデレータに迎え、本学の量子技術スタートアップ2社とともに「日本発量子技術と量子スタートアップを盛り上げるには何が必要か」をテーマに量子技術研究とビジネスの両面から討論いたします。

みなさまには、この機会にぜひともご来場くださいますよう、ご案内いたします。

 

■プログラム、申し込みは下記特設ページからhttps://www.quric-sympo2024.org/

 

令和5年度東京都「大学研究者による事業提案制度」に所千晴教授の提案が選定

著者: contributor
2024年2月15日 16:54

2023年11月に、東京都「大学研究者による事業提案制度」の事業化対象候補となっていた、理工学術院 所千晴教授の提案が、東京都の事業として正式に選定されました。東京に所在する大学として、都が推進する事業と連携し貢献できるのは、非常に光栄なことです。
このたび、東京都による感謝状贈呈式が開催されました。

  • 提案者
    所 千晴(理工学術院 教授)
  • 事業名
    小型リチウムイオン電池の安全・安心な処理フロー構築
  • 提案者コメント
    これまでの研究では、電子機器や自動車等を廃棄する際、資源性を有するリチウム等の物質をいかに効率良く分離して資源循環させるか、ということに主眼をおいてきました。他方、リチウムイオン電池発火やこれに起因した火災の件数は増え続けており、ニュースでもしばしば耳にするようになりました。ところが、周囲の都民の方々からは、電池の捨て方や正しい廃棄場所が良くわからない、という声も聞こえてきます。このような状況を知り、私たちがこれまで培ってきた廃棄物/資源分離の知見を活用できるのではないかと考え、提案に至りました。都民投票で票を入れてくださった皆さまの期待に応えられるように、尽力いたします。
  • 事業概要
    私たちの日常生活を豊かで便利にする電子機器に欠かせないリチウムイオン電池は、カーボンニュートラル実現のための再生可能エネルギー導入や電動化、デジタル化への要望に対応して需要が急速に拡大しています。それに伴って廃棄量も少しずつ増えていますが、その安全・安心な処理スキームはまだ確立されていません。都民がどこへ捨てたら良いかの情報提供が十分でないほか、家庭ごみに混入した場合には適切に除去しなければ火災など安全上の懸念があります。そこで本事業では、リチウムイオン電池等を都民が安心して捨てられる安全な回収システムの構築と、回収したリチウムイオン電池等を資源としてリサイクルする資源循環サプライチェーンの構築を提案します。

    図 小型リチウムイオン電池の安全・安心な処理フロー構築 概要(出典:所千晴教授)

令和5年度事業提案制度 感謝状贈呈式の様子


 

東京都事業提案制度とは

従来の発想に捉われない新たな視点や、東京に集積されている知を活用し、都政の喫緊の課題解決や東京の未来の創出に資する政策立案へと活用するため、都民、大学研究者、職員の方々から事業提案を募集し、都の施策へ反映させる制度です。
このうち、都内大学研究者からの研究成果、研究課題を踏まえた事業提案を募集するものが、「大学研究者による事業提案」です。令和5年度の募集では33件の提案に対し、有識者による審査、都民投票を経て、5件の選定となりました。

超薄型な可変焦点レンズに偏光分離機能を統合

著者: contributor
2024年2月13日 13:35

超薄型な可変焦点レンズに偏光分離機能を統合

―次世代の光通信技術へ応用可能なメタレンズ―

国立大学法人東京農工大学大学院の羽田充利氏(専門職学位課程1年)と阿出川彪氏(2023年3月博士前期課程修了)、青木活真氏(博士前期課程2年)、早稲田大学理工学術院の池沢聡研究院講師、東京農工大学大学院の岩見健太郎准教授は、メタサーフェス(注1)を利用して、光通信波長帯において偏光を分離しながら焦点距離を調整可能なメタレンズ(注2)を実現しました。この成果は、高速かつ大容量な次世代の光通信技術への応用が期待されます。
本研究成果は、Optica (旧米国光学会 OSA) 発行の Optics ExpressIF=3.833, 電子版 2024 28日付)に掲載されました。
論文タイトル:Polarization-Separating Alvarez Metalens
DOI: 10.1364/OE.516853
URL:
https://opg.optica.org/oe/fulltext.cfm?uri=oe-32-4-6672&id=546455

図1 偏光分離機能を持つ可変焦点メタレンズの概念図
重ねた2枚の光学素子が、緑色と青色で示した直線偏光をそれぞれ異なる位置に集光させる様子。
またその焦点距離は、2枚の素子の変位が大きいときは長く(上図)、小さいときは短く(下図)なる。

研究背景

メタアトム(注3)と呼ばれる光の波長より小さいサイズの構造体を配列して光を制御するメタサーフェスは、小型軽量な素子で様々な光学的機能を実現できることから、次世代の光学デバイスとして注目されています。これらは厚さ数百ミクロンの基板上に半導体の製造プロセスを用いて微細な柱状構造を配列したものであり、非常に薄型であるだけでなく大量生産も可能な特徴を持っています。また柱状構造の配置によってホログラフィや可変焦点レンズなど様々な機能を実現できるほか、メタアトムの形状によって偏光や波長に依存した設計も可能です。これらメタサーフェスの多機能性に着目し、今回私たちは、光通信技術へ応用可能な偏光の分離機能と可変焦点機能を併せ持つメタレンズを開発しました。

研究体制

本研究は、国立大学法人 東京農工大学大学院 工学府 産業技術専攻の羽田充利氏(専門職学位課程1年)と同大学院工学府機械システム工学専攻の阿出川彪氏(2023年3月博士前期課程修了)、青木活真氏(博士前期課程2年)、早稲田大学理工学術院の池沢聡研究院講師、東京農工大学大学院工学研究院先端機械システム部門の岩見健太郎准教授により行われました。また、本研究の一部は日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(B)(一般)(21H01781)、基盤研究(C)(22K04894)の支援により行われました。また、本研究の試料作成には、文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ」事業(課題番号 JPMXP1223UT1008)の支援を受け、東京大学微細加工拠点の共用設備を利用させていただきました。解析の一部は、東京工業大学のスーパーコンピュータ TSUBAME 3.0 を利用して行われました。

研究成果

今回、光通信波長帯である波長1550 nmで動作する偏光分離機能を持つ可変焦点メタレンズを開発しました。これは、図1のように直交する2つの直線偏光成分を分離して異なる位置に集光させつつ、その焦点距離を変化させることができます。設計ではまず初めに、可変焦点メタレンズであるAlvarezメタレンズ(注4)の位相分布(注5)を改変し、光軸外に集光する可変焦点メタレンズの位相分布を導出しました。メタアトムの断面構造を長方形として垂直・水平直交偏光に対する位相遅延量を独立して制御し、集光位置の異なる位相分布を割り当てることで所望の機能を実現しました。設計したメタレンズは、東京大学微細加工拠点の電子線描画装置、反応性イオンエッチング装置を用いて製作し(図2)、設計波長の光源にてその機能を確認しました(図3)。

図2 製作結果(a) メタレンズ写真 (b) 上から撮影した電子顕微鏡写真
(c) 斜め方向から撮影した電子顕微鏡写真 (d) (b)の拡大図長方形の断面構造を持つメタアトム

図3 実験結果(a)x偏光 (b) 45度偏光 (c) y偏光 を入射した時の焦点面の様子。x偏光を入射した時には、設計通り画像下側に集光し、y偏光を入射した時には画像上側に集光している。また、両方の偏光を含む45度偏光を入射した時には、偏光が分離されてそれぞれの焦点位置に集光している様子が分かる。 (d) 入射偏光によって2つの焦点輝度が変化する様子。偏光角度は0度がx偏光、90度がy偏光を表しており、(a)-(c)に示した焦点の明るさが入射光に含まれる各偏光の量に依存していることから偏光を正しく分離できていることが分かる。(e) Alvarezレンズの2つの素子の相対変位dによって焦点距離fが変化する様子。黒線で示した理論値に沿って焦点距離を制御できていることが分かる。

今後の展開

社会の情報化に伴い、高速かつ大容量で安全な光通信技術への需要が高まっています。自由空間光通信(注6)は高速で秘匿性も高く、光ファイバーの敷設が不要で設置コストも低いため次世代の光無線通信技術として期待されています。空間中を伝搬する信号光は大気の揺らぎなどの影響を受けるため、受信装置においてはこれを追尾して検出器に誘導する調芯が必要です。また伝送容量の増大のためには、異なる情報を持つ偏光を多重化して伝送し、受信部で分離する偏光多重技術が使われています。本研究で開発したメタレンズを自由空間光通信の受信器に用いることで、調芯と偏光分離の二つの機能を小型の素子で担うことが可能になります。さらにメタレンズは半導体の製造プロセスにより大量生産することが可能であり、次世代の光通信設備の簡素化やコスト削減に貢献できると期待できます。

注1 メタサーフェス

光(電磁波)の波長に比べて小さいサイズの誘電体導波路構造を配列することで、自然界には存在しない屈折率や光機能を実現できる機能性表面。「メタ」は「高次な-」「超-」を意味する接頭語。

注2 メタレンズ

メタサーフェスの考え方に基づいて作られた、誘電体導波路を配列したレンズ。非常に薄型なことに加えて、偏光分離機能など従来のレンズでは実現できなかった機能を持つことができる。

注3 メタアトム

メタサーフェスを構成する、光(電磁波)の波長に対して微小なサイズの構造体のこと。本研究では、アモルファスシリコンで製作した196~396 nmの幅を持つ矩形断面のメタアトムを500 nm周期で配列した。

注4 Alvarezメタレンズ

2枚の光学素子からなる可変焦点レンズ。図1のように、重ねた2枚の光学素子を光軸と垂直な方向に駆動させ、その変位量によって焦点距離を制御する。光軸方向への移動を伴わないため薄型な特徴を持つ。

注5 位相分布

メタレンズ平面における、メタアトムが光波に与える位相遅延量の分布のこと。位相分布を適切に設計することで、メタレンズに所望の機能を与えることができる。

注6 自由空間光通信

光ファイバーの代わりに空間中を伝わるレーザー光線を用いた光通信技術のこと。高速通信が可能で傍受の危険が少なく、ファイバーの敷設が不要なため導入コストが低いといったメリットがあり、次世代の光通信技術として期待が大きい。

一般社団法人日本分析機器工業会と早稲田大学との連携と協力に関する包括協定書を締結

著者: contributor
2024年2月8日 14:41

一般社団法人日本分析機器工業会と早稲田大学との連携と協力に関する包括協定書を締結

一般社団法人日本分析機器工業会(JAIMA、所在地:〒101-0054 東京都千代田区神田錦町2-5-16、会長:足立 正之/株式会社堀場製作所 代表取締役社長)は、早稲田大学(〒169-8050 東京都新宿区戸塚町1-104)との包括協定書を2024年2月1日付けで締結いたしました。

JAIMAは、2018年から早稲田大学大学院創造理工学研究科との協力のもと、早稲田大学で協力講座「素材機器分析評価」(創造理工学部との合併科目)を開講し、分析機器技術人材の育成に貢献しています。これまでに419人の学部生・大学院生が講座を受講し、分析機器の実学が学べる我が国唯一のJAIMA協力講座として受講者から大変好評を得ています。今回の包括協定書締結により、JAIMAと早稲田大学は、協力講座に加え、早稲田大学において推進する分析機器利用者向け技術研修プログラム(社会人となって通用する分析機器利用に関する知識及び技量を履修できる研修プログラム)を構築することを目指します。さらに、今後は人材育成・産学連携の推進などの幅広い相互協力を実施して参ります。

また、今回の包括協定書の締結を記念し、幕張メッセで開催される最先端科学・分析システム&ソリューション展「JASIS (Japan Analytical and Scientific Instruments Show) 2024」(2024年9月4日(水)~6日(金))にて記念講演を行う予定です。詳細につきましては、後日、JASISオフィシャルサイト(https://www.jasis.jp/)にてご案内させていただきます。

分析機器は、科学技術・産業技術の発展、安全安心をリードする我が国の社会的技術基盤です。JAIMAと早稲田大学は、この社会的技術基盤の将来の発展や社会課題解決を導く人材の育成に努めて参ります。

一人ひとりに適した食を提案・提供する「個別化・層別化栄養」の実現へ

著者: contributor
2024年2月8日 14:02

一人ひとりに適した食を提案・提供する「個別化・層別化栄養」の実現へ!

「Precision Nutritionの実践プラットフォームの構築と社会実装」が本格稼働(内閣府BRIDGE)

【全体概要】
早稲田大学は、医薬基盤・健康・栄養研究所(代表機関)と参画15機関(大学・民間企業等:九州大学、京都大学、コラゾン、島津製作所、食の安全分析センター、新南陽商工会議所、東京農業大学、Noster、樋口松之助商店、プレシジョンヘルスケア研究機構、ヘルスケアシステムズ、堀場製作所、森永乳業、山口こうじ店)と連携し、研究開発とSociety 5.0との橋渡しプログラム(BRIDGE)の中で「Precision Nutritionの実践プラットフォームの構築と社会実装」が始動しました。
本事業では、食の機能性における効果の違いを生み出すメカニズムにもとづき、一人ひとりに適した食を提案・提供する「個別化・層別化栄養」の社会実装を目指して進んでいます。

本事業における早稲田大学での研究開発責任者理工学術院 竹山春子教授です。

【本事業の背景】

これまでの栄養学は、栄養不足の解消を目指し、集団から得られたデータをもとに一般化された栄養摂取基準を作ってきました。一方で、時代の変化と共に、健康のための機能性が食に求められるようになってきたものの、同じ食品を摂取しても、その効果は人によって異なることが明らかになっています。このような背景から、近年は、食の効果の個人差を考慮する必要性が認識されています。そこで、遺伝子、生活習慣、腸内細菌、ライフステージ等に応じて、一人ひとりに適した食事の提案を行うことで健康社会の実現を目指す「Precision Nutrition(精密栄養学)」の重要性が提唱されています。

医薬基盤・健康・栄養研究所では、1万人(2024年1月現在)を超える日本人から㋐食事、運動、睡眠等の生活習慣や、㋑健康診断や疾患歴等健康状態に関する情報と共に、㋒便、血液、唾液等のサンプルを提供いただき、腸内細菌叢や代謝物、免疫パラメーター等を測定することで、健康維持や増進に関わる有用菌や有用代謝物の同定、それらを培養・生産する技術開発を行ってきました。これらの知見やノウハウを活かし、今まで「腸内細菌の迅速測定システム」、「有用代謝物の定量」、「AIを用いた食の効果の予測システム」等の技術開発を進めてきました。

これら厚生労働省や医薬基盤・健康・栄養研究所の施策により培ってきた技術を基盤に、本BRIDGEにおいては、技術の高度化や最適化を行う大学や社会実装を担当する民間企業と連携・事業展開することで、「Precision Nutrition(精密栄養学)」の観点から、個人の特性に応じた食の提案・提供を可能とする社会実装を進めています。

【各テーマの概要】

医薬基盤・健康・栄養研究所を代表機関とし、Precision Nutrition(精密栄養学)の社会実装に向けて、参画機関と共に以下の3テーマで研究・開発を実施しています。

テーマ(1):消費者とつなぐポータルサイト構築

消費者となる方の参加登録や自身のデータ確認等ができるオンラインシステムを構築しています。また、アプリやホームページ、サブスクリプション、店舗での実地販売等社会実装性のあるシステムを用い、消費者となる方へ健康効果が期待できる食材とその食材を摂取した際の効果に関する結果を提供できるシステムの開発・検証を行っています。

テーマ(2):食の効果を予測・診断するシステム開発

生体サンプルや食品等を対象に、食の効果を予測・診断するためのシステムを開発しています。また、食の効果の予測・診断のためのキットや受託サービス等の製品化等の実用化を進めています。

テーマ(3):代替食品・レシピの開発

食の効果を最大化するための食品やレシピの開発を行っています。特に、機能性が期待される有効成分を多く含有する食品やレシピ等を開発し、食の効果が得られにくい方へ提案・提供できるように、食品やサプリメント等としての製品化を進めています。

【期待される効果】

食の効果の個人差をもとに個別化・層別化し、人々がより効率的に食で健康効果を得る、「次世代の栄養摂取」ができる社会につながっていくと期待されます。

【参画機関】

医薬基盤・健康・栄養研究所について

2015年4月1日に医薬基盤研究所と国立健康・栄養研究所が統合し、設立されました。本研究所は、メディカルからヘルスサイエンスまでの幅広い研究を特⾧としており、我が国における科学技術の水準の向上を通じた国民経済の健全な発展その他の公益に資するため、研究開発の最大限の成果を確保することを目的とした国立研究開発法人として位置づけられています。

ウェブサイト:https://www.nibiohn.go.jp/

Society 5.0について

サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)。

狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱されました。

BRIDGEについて

内閣府総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の司令塔機能を生かし、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)や各省庁の研究開発等の施策で生み出された革新技術等の成果を社会課題解決や新事業創出、ひいては、我が国が目指す将来像(Society 5.0)に橋渡しするため、官民研究開発投資拡大が見込まれる領域における各省庁の施策の実施・加速等に取り組むプログラムです。

ウェブサイト:https://www8.cao.go.jp/cstp/bridge/index.html

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