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2024年6月18日 14:51

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土壌中のナノプラスチック濃度の測定技術を開発

著者: contributor
2024年6月14日 15:13

土壌中のナノプラスチック濃度の測定技術を開発
地圏環境中に拡散したプラスチック粒子量分布の把握に貢献

ポイント

  • 紫外可視分光光度計を用いて、土壌中のプラスチック濃度を簡便に測定する技術を開発
  • 従来法では検出が困難だった大きさ1 µm以下のナノプラスチックに対応
  • 地圏環境中のナノプラスチック量分布を基に、ヒトへのプラスチック暴露量の評価に貢献

土壌中にあるナノプラスチックのイメージ

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門 地圏環境リスク研究グループ 土田 恭平 研究員(現在 早稲田大学大学院創造理工学研究科地球・環境資源理工学専攻博士課程在籍)、井本 由香利 主任研究員、斎藤 健志 主任研究員、原 淳子 研究グループ長、早稲田大学創造理工学部環境資源工学科 川邉 能成 教授は、土壌中のナノプラスチックの濃度を測定する技術を開発しました。

近年、増え続けるプラスチックごみが社会問題となっています。とりわけ、大きさ1 µm以下のプラスチックはナノプラスチックと呼ばれ、人体への影響が懸念されています。ナノプラスチックは摂取や吸入などによって人体に取り込まれると考えられているため、ヒトへのリスク評価のためにも土壌を含む地圏環境にどれだけの濃度で分布しているかを知る必要があります。しかし、従来手法で検出できる土壌中プラスチックの最小サイズは約1 µmであるため、土壌中のナノプラスチック※1の分布状況は明らかになっていません。

今回開発した技術は、ナノプラスチックと土壌粒子の吸光度スペクトル※2の差を利用して、土壌有機物や土粒子とナノプラスチックを分離せずに、従来法では難しかった土壌試料中のナノプラスチック濃度を算定します。
なお、今回の成果の詳細は、2024年5月28日に「Ecotoxicology and Environmental Safety」に掲載されました。

開発の社会的背景

ごみの不法投棄や河川の氾濫、農耕地でのプラスチックの利用、建築土木利用された資材の劣化や摩耗などに起因して、マイクロプラスチック※3が環境中へ流出していることが報告されています。陸上に存在するマイクロプラスチック量は海洋の4~23倍と推定されており、土壌中に多量のマイクロプラスチックが存在している可能性があります。また、ナノプラスチックはマイクロプラスチックが粉砕されることで生成され、マイクロプラスチックと同様に土壌中に存在していると考えられます。

ナノプラスチックは赤血球を破壊し、細胞に侵入してミトコンドリアDNAに損傷を与えることが明らかになっています。ナノプラスチックはマイクロプラスチックよりも人体への影響が大きい可能性があるため、土壌を含む地圏環境中のナノプラスチックの存在量を明らかにすることで暴露※4・リスク評価を行う必要があります。土壌中の微小なプラスチックの濃度を測定する従来の手法では、土壌試料を適切に前処理した後に土粒子と比重分離を行い、フィルターでプラスチックを回収します。この方法では、フィルターや装置の性能から1 µm以上の大きさのプラスチック粒子しか検出できないため、土壌中のナノプラスチックの分布状況は明らかになっていません。よって、ヒトへのナノプラスチックの暴露量評価をより詳細に行うために、土壌中ナノプラスチックの濃度評価手法を確立する必要がありました。

研究の経緯

産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門 地圏環境リスク研究グループは、環境中のプラスチックのリスク評価を目指しており、プラスチックと化学物質との相互作用や、プラスチックの土壌中での移動性の解明、環境中のプラスチック分布状況の調査を行ってきました。今回はマイクロプラスチックより人体への影響が大きい可能性があるナノプラスチックの地圏環境中の分布を明らかにするために、土壌中のナノプラスチックの濃度測定技術を開発しました。

研究の内容

本研究では、粒度分布や有機物の含有量など特性の異なる6種類の土壌サンプルと203 nmのポリスチレンの微小な粒子を混合して6種類の土壌懸濁液(ポリスチレン濃度5 mg/L)を用意しました。土壌粒子とナノプラスチックの吸光度スペクトルは図1のように異なるため、1つの土壌懸濁液に対して2つの波長の吸光度を測定することで、懸濁液中の土壌とナノプラスチックのそれぞれの濃度を定量できます。今回の6種類の土壌懸濁液に対して200 nmから500 nmまでの範囲で20 nm間隔で異なる2つの波長の組み合わせを試しました。その結果、波長220~260 nmおよび波長280~340 nmの吸光度での組み合わせで、算出されるナノプラスチック濃度とサンプル濃度の5 mg/Lとの差が最小になりました。これら2つの範囲の波長の組み合わせがさまざまな性質の土壌懸濁液中のナノプラスチック濃度を算定するのに適していると考えられます。

また、ナノプラスチック含有量の異なる乾燥土壌サンプルを用意し、これらの試料から土壌懸濁液を作成しナノプラスチック濃度を測定することで(図2)、土壌懸濁液中のナノプラスチック濃度と乾燥土壌中のナノプラスチック濃度との検量線を作成しました。この検量線はナノプラスチックの土粒子への吸着を考慮したものであり、直線関係を示していました。以上から、ナノプラスチックの土粒子への吸着を考慮した検量線を作成することで、もとの土壌中のナノプラスチック濃度を正確に測定できることが分かりました。また、本技術の測定下限を明らかにするため、さまざまなナノプラスチック含有量の乾燥土壌サンプルを用意し本技術でナノプラスチック濃度を算出したところ、土壌中ナノプラスチック濃度が0.2 mg/g以上のとき、用意した6種類すべての土壌ナノプラスチック濃度を変動係数10%以内の誤差で測定できました。これにより紫外可視分光光度計※5を用いた乾燥土壌中ナノプラスチック濃度測定は、測定下限0.2 mg/gで有効であると示されました。

図1 ナノプラスチックと土壌の吸光度スペクトル ※原論文の図を引用・改変したものを使用しています。

図2 土壌中ナノプラスチック濃度測定の流れ ※原論文の図を引用・改変したものを使用しています。

今後の予定

今回開発した技術により、環境土壌におけるポリエチレンやポリエチレンテレフタラートなどのナノプラスチックを定量し、地圏環境におけるナノプラスチック分布とその移動について明らかにしたいと考えています。

論文情報

掲載誌:Ecotoxicology and Environmental Safety
論文タイトル:A novel and simple method for measuring nano/microplastic concentrations in soil using UV-Vis spectroscopy with optimal wavelength selection.
著者:Kyouhei Tsuchida, Yukari Imoto, Takeshi Saito, Junko Hara, Yoshishige Kawabe
DOIhttps://doi.org/10.1016/j.ecoenv.2024.116366

用語解説

※1 ナノプラスチック
大きさが1千分の1 mm(1 µm)以下のプラスチック。マイクロプラスチックより人体への影響が大きいと懸念されている。

※2 吸光度スペクトル
物質が各波長の光をどの程度吸収するかを表したグラフ。

※3 マイクロプラスチック
大きさが5 mm以下のプラスチック。環境中への流出が問題視されている。

※4 暴露
物質が体内に入ること。体内への侵入経路は呼吸や飲食などのほかに皮膚接触なども考えられる。

※5 紫外可視分光光度計
紫外から可視領域までの光を試料に照射することにより、各波長に対する試料の透過率を取得する装置である。特定の波長において対象物が光を吸収する値が異なる特性を利用して、幅広い分野で化学分析に利用されている。

「Thermoelectric Polymers: Design, Synthesis, and Applications」(2024/6/27)

著者: staff
2024年6月13日 16:17

演題:Thermoelectric Polymers: Design, Synthesis, and Applications

日時:2024年6月27日(木)16:00~17:40

会場:西早稲田キャンパス 55号館N棟 1F 第一会議室

講師:Cheng-Liang Liu(国立台湾大学 教授)

対象:学部生・大学院生、教職員、学外者、一般の方

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 応用化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

「Architecture without Architects: then and now」(2024/6/21)

著者: staff
2024年6月11日 12:30

演題:Architecture without Architects: then and now

日時:2024年6月21日(金) 18:30-19:30

会場:西早稲田キャンパス 63号館 03会議室

講師:LIN, JOHN(香港大学准教授)

対象:学部生・大学院生、教職員、学外者、一般の方

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:創造理工学部 建築学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

「Negotiated Nature」(2024/6/21)

著者: staff
2024年6月11日 09:40

演題:Negotiated Nature

日時:2024年6月21日(金) 19:30-20:30

会場:西早稲田キャンパス 63号館 03会議室

講師:Ratoi, Lidia(香港大学准教授)

対象:学部生・大学院生、教職員、学外者、一般の方

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:創造理工学部 建築学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

6/27 三木谷浩史氏 特別講演・座談会 「日本を 変えるイノベーション」

著者: staff
2024年6月6日 12:08

2024 6 27 日(木)17時30分より、楽天グループ株式会社代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏を迎え、大学生、大学院生、高校生を主対象として、特別講演会と座談会を早稲田大学大隈記念講堂大講堂にて開催いたします。奮ってご参加ください。

◆日時:6月27日(木)17時30分~19時30分
◆会場: 早稲田大学大隈記念講堂大講堂
◆対象者: 大学生、大学院生、高校生、早稲田大学教職員・研究員、共催・協賛の関係者
◆参加費: 無料
◆総合司会:朝日 透(早稲田大学理工学術院 教授)

・詳細はこちら
・参加申込はこちら

「Electrocatalytic approaches for resolving several energy and environmental issues」(2024/6/19)

著者: staff
2024年6月4日 12:31

演題:Electrocatalytic approaches for resolving several energy and environmental issues

日時:2024年6月19日 (水) 16:00-17:40

会場:西早稲田キャンパス 121号館4階407ゼミ室

講師:Mohammad Abul Hasnat(Professor,Shahjalal University of Science & Technology)

対象:学部生・大学院生、教職員、学外者、一般の方

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 応用化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

物質中の創発磁気モノポールが示す新規な集団振動現象を発見

著者: contributor
2024年6月3日 14:11

物質中の創発磁気モノポールが示す新規な集団振動現象を発見
約100年前に予言された幻の素粒子「磁気モノポール」の理解につながる一歩へ

発表のポイント

  • 近年の実験である種の磁性体において発見された磁気モノポールのように振る舞う特殊な3次元磁気構造「(アンチ)磁気ヘッジホッグ」が、光に応答して示す新規な集団振動現象を理論的に発見し、その性質を解明しました。
  • これまで、磁気ヘッジホッグ格子が光やマイクロ波によってどのように駆動され、物質中に創発電場・創発磁場(創発電磁場)を生み出すのかは未解明な問題でした。
  • 本成果により、約100年前に提唱された幻の素粒子「磁気モノポール」の理解に向けた物性物理学と素粒子物理学を横断する研究の進展に期待が高まるともに、技術応用としても、ナノサイズの発電素子や光やマイクロ波を電気信号や電圧に変換する素子への応用や、新しい光/マイクロ波素子機能の開拓などの研究・開発の促進につながることが望まれます。

図1.(a) L2モードにおけるディラック弦Bの振動の様子。(b) L3モードにおけるディラック弦Aの振動の様子。弦上端と下端のヘッジホッグとアンチヘッジホッグが同位相で振動し、弦は上下に並進振動を起こす。

早稲田大学大学院先進理工学研究科の衛藤倫太郎(えとうりんたろう、博士課程2年/日本学術振興会特別研究員DC1)と、同大理工学術院教授 望月維人(もちづきまさひと)の研究グループは、磁気ヘッジホッグ格子に光を照射したときに期待される集団運動の性質を、微視的な理論モデルを用いた数値シミュレーションにより調べました。その結果、磁気モーメントの特殊な空間配列パターンとして磁性体中に現れる創発的な磁気モノポール格子に光を照射すると、磁気モノポールとアンチ磁気モノポールが一斉に位相を揃えて振動する集団振動現象が起こることを理論的に発見しました。

本研究成果は、米国のアメリカ物理学会が発行する国際科学ジャーナル『Physical Review Letters』誌に、2024年5月31日(金)(現地時間)にオンラインで掲載されました(論文名:Theory of Collective Excitations in the Quadruple-Q Magnetic Hedgehog Lattices)。

これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

磁石では、磁力線の湧き出しであるN極と吸い込みであるS極は必ずペアになって存在し、N極あるいはS極のどちらか一方だけを取り出すことはできません。1931年にイギリスの理論物理学者ポール・ディラックは、量子力学と電磁気学の研究から、ある条件のもとではN極だけ、あるいはS極だけの素粒子が存在し得るという理論を提唱しました。ディラックが予言したこれらの素粒子は「磁気モノポール」と「アンチ磁気モノポール」(※1)と呼ばれ、多くの実験研究者によって探索が行われましたが、現在に至るまでまだ発見されていません。

一方、近年の実験である種の磁性体において「磁気ヘッジホッグ」と「アンチ磁気ヘッジホッグ」(※)と呼ばれる特殊な3次元磁気構造が実現していることが発見されました[2(a),(b)]。これらの磁気構造は、物質中を動き回る伝導電子が磁場として感じる仮想的な場「創発磁場」(※)の湧き出し(N極)と吸い込み(S極)として振る舞うため、仮想的な磁気モノポールとアンチ磁気モノポールと見なすことができます。さらに、これらの磁気ヘッジホッグとアンチ磁気ヘッジホッグは、しばしばそれらが周期的に並んだ磁気ヘッジホッグ格子(※)と呼ばれる構造を構成します。このような磁気ヘッジホッグ格子は、最近、マンガン化合物であるMnGeやMnSi1-xGex、鉄酸化物であるSrFeO3といった物質で相次いで発見されています。

磁気ヘッジホッグ格子に関するこれまでの研究では、平衡状態の性質の解明に主眼が置かれていました。一方、発電機の原理にもなっている「磁場が時間変化すれば電場が生じる」という電磁気学の基礎知識から、磁気モノポールやアンチ磁気モノポールの位置が時間的に変化すれば電場が生じることが分かります。つまり、磁性体中の磁気ヘッジホッグやアンチ磁気ヘッジホッグを光やマイクロ波の振動磁場で揺さぶることができれば、伝導電子に作用する有効的な電場「創発電場」(※)が発生するはずです。このような現象はナノサイズの発電素子や光やマイクロ波を電気信号や電圧に変換する素子への応用が期待できます。

さらに、磁気ヘッジホッグ格子の集団運動を明らかにすることで、光やマイクロ波による磁気ヘッジホッグの生成、消去、駆動といった制御・操作技術の開発や、磁気ヘッジホッグ格子を活用した新しい光/マイクロ波素子機能の開拓が期待できます。ある物質中で光やマイクロ波に応答して特定の周波数の振動現象が起こるということは、その周波数を持つ光やマイクロ波をその物質に照射すると、振動を引き起こすことでエネルギーを失い、結果的にその物質に吸収されてしまうことになります。一方で、例えば磁場をかけてこの振動現象を抑える、あるいはなくしてしまうことができれば、照射した光やマイクロ波は振動を引き起こすことなく(エネルギーを失うことなく)その物質を透過できることになります。つまり、磁場のオン・オフによって光やマイクロ波がその物質を透過する・しないを切り替えることが可能になるわけです。

このように様々なエレクトロニクス応用が期待されるため、磁気ヘッジホッグ格子が光やマイクロ波に応答してどのような振動現象や振動パターンを示すのかは基礎科学と技術応用の両方の観点から重要な問題です。しかし、これまでにそのような問題に取り組んだ研究は実験的にも理論的にもほとんどなく、未解明の謎として残っていました。

図2: (a),(b) 磁気ヘッジホッグとアンチ磁気ヘッジホッグの磁化配列(赤矢印と青矢印)と創発磁場の分布(緑矢印)。磁気ヘッジホッグでは磁場が中心から湧き出しており、アンチ磁気ヘッジホッグでは磁場が中心に吸い込まれている。(c) ヘッジホッグとアンチヘッジホッグを繋ぐ磁気渦糸(ディラック弦A)の構造。(d),(e) 磁気ヘッジホッグ格子におけるヘッジホッグとアンチヘッジホッグの空間配置。マゼンタの点とシアンの点がそれぞれヘッジホッグとアンチヘッジホッグを表している。また、それを繋ぐ線はディラック弦を表す。磁化の巻き方に応じて2種類のディラック弦(赤線:ディラック弦A, 青線:ディラック弦B)がある。ゼロ磁場および低磁場の磁気ヘッジホッグ格子ではディラック弦AとB両方が存在するが(d)、磁場を印加するとディラック弦Bが消滅し、ディラック弦Aのみが存在する磁気ヘッジホッグ格子が現れる(e)。

今回の新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、新しく開発した手法

そこで本研究では、磁気ヘッジホッグ格子に光を照射したときに期待される集団運動の性質を、微視的な理論モデルを用いた数値シミュレーションにより調べました。

ところで、磁気ヘッジホッグ格子では、磁気ヘッジホッグとアンチ磁気ヘッジホッグはディラック弦と呼ばれる渦糸状の磁化配列で繋がっています[2(c)]。この図にあるように、磁気ヘッジホッグの真下にある正方格子上の4つの磁気モーメントはらせんを描くように下に降りていきアンチ磁気ヘッジホッグへとつながっていきます。このような磁化配列の渦糸構造と表現しますが、らせんには右巻と左巻があるため、ディラック弦にも右巻と左巻の2種類があることになります。一つの物質中に必ずしも2種類のディラック弦が現れるとは限りませんが、本研究で取り扱ったMnSi1-xGexやSrFeO3などの物質で実現している磁気ヘッジホッグ格子[2(d), (e)]では、磁気渦糸の巻き方が異なる2種類のディラック弦(AとB)が存在するため、多彩な電磁応答が期待できます。

研究の結果、テラヘルツから数百ギガヘルツ(※)の周波数帯に3つの固有の周波数を持った特徴的な振動パターン(固有振動モード)が存在することを発見し、L1、L2、L3と名付けました[3]。さらに詳しく調べた結果、これらの振動パターンでは、ディラック弦の上端と下端についている磁気ヘッジホッグとアンチ磁気ヘッジホッグが同位相で振動しているため、ディラック弦が上下に振動する並進振動が実現していることが分かりました[1]。我々は、コイルに棒磁石を近づけたり遠ざけたりすると電圧が生じ電流が流れることを知っていますが、今回発見したディラック弦の並進振動は、この場合の棒磁石の運動と同じ動きになっています。つまり、光を照射された磁気ヘッジホッグ格子では、無数のナノサイズの棒磁石が数百ギガヘルツの高速でそのような振動運動を起こしていることになります。

さらに興味深いことに、3つの振動パターンのうち、L2モードはディラック弦Bの振動に、L3モードはディラック弦Aの振動に対応していることを発見しました。その結果、磁場をかけることで磁気ヘッジホッグとアンチ磁気ヘッジホッグの対消滅が起こり、ディラック弦が消える場合、ディラック弦Bが消える場合にはL2モードが消失し、ディラック弦Aが消える場合にはL3モードが消失します。このことは、これらの振動モードや、誘起される創発電場のオン・オフ、モードと同じ周波数を持つ光やマイクロ波が透過するか・しないかを外部磁場によって切り替えられることを意味しています。これは物性現象として興味深いだけでなく、エレクトロニクス応用の観点からも重要な発見です。

図3: (a) 外部磁場の大きさに関する相図。ゼロ磁場および低磁場ではディラック弦AとB両方が存在する磁気ヘッジホッグ格子が現れる。磁場を大きくしていくと、ディラック弦Bに属するヘッジホッグとアンチヘッジホッグの対消滅が起き、ディラック弦Aのみで構成される磁気ヘッジホッグ格子に相転移する[図2(d),(e)も参照]。(b) 理論計算で得られた光吸収スペクトル。ピークが固有の周波数を持つ特徴的な振動パターン(固有振動モード)に対応しており、3つのモード(L1, L2, L3)が見て取れる。振動数の数値は規格化された単位系で書かれているが、これらのモードはおよそ数百ギガヘルツの周波数帯に現れている。ディラック弦の振動に対応するL2, L3モードを見てみると、ディラック弦A,B両方が存在する低磁場側の磁気ヘッジホッグ相ではL2, L3両方のモードが現れる。一方、弦Bが消滅し、弦Aだけで構成される高磁場側の磁気ヘッジホッグ相では弦B由来のL2モードが消失し、弦A由来のL3モードだけが残っている。

そのために新しく開発した手法

本研究ではまず、磁気ヘッジホッグ格子が実現している金属磁性体を記述するために、磁性体を構成する原子上の磁気モーメントと、それらの間に働く相互作用を媒介する伝導電子を考慮した近藤格子モデル(※)と呼ばれる数理モデルを構築しました。そして、磁化の運動を記述する方程式を用いてこのモデルを解析することで、磁気ヘッジホッグ格子に光やマイクロ波を照射した時に期待される特異な集団運動や振動現象の様子や性質を調べました。数値シミュレーションでは、数多くの磁気モーメントと伝導電子を取り扱うために計算コストが膨大になりますが、チェビシェフ多項式展開法(※)という高度な数値解析の手法を適用することで、研究を遂行しました。

研究の波及効果や社会的影響

本研究では、偉大な物理学者であるポール・ディラックが100年近く前に予言した幻の素粒子「(アンチ)磁気モノポール」と同じように振る舞う磁気構造「(アンチ)磁気ヘッジホッグ」が光に応答して示す集団振動現象を理論的に発見し、その性質を解明しました。

この研究成果には基礎科学の観点から次のような波及効果が期待されます。まず、本物の磁気モノポールは未だに発見されていませんが、磁気ヘッジホッグのような磁性体中の類似対象の振る舞いを調べることで、磁気モノポールが実際に存在した場合に期待される様々な性質や現象、機能を研究する新しい分野を切り拓くことが可能になります。このような研究は物性物理学と素粒子物理学の融合による新しい分野横断型の研究になることが期待されます。

また、電磁気学では長い間「電気と磁気」の双対性(※)が議論されてきました。つまり、「電場と磁場」、「電気双極子と磁気双極子」、「電流とスピン流」のように電気と磁気には互いの対応物があるという仮説です。ところが、「電荷」に対する磁気の対応物であるはずの「磁荷(磁気モノポール)」だけが実験で見つかっていません。今回、磁気ヘッジホッグの新しい性質や現象が発見されたことで、電気と磁気の双対性が完全に成り立つ「物質中の新しい電磁気学」が開拓されることを期待しています。

一方、今回の成果には高い技術応用上の意義もあります。磁場の時間変化や磁気モノポールの運動から電場が生じるように、磁気ヘッジホッグの運動もまた、伝導電子に作用する創発電場を生み出します。光やマイクロ波で磁気ヘッジホッグを駆動することで物質中に生み出される創発電場・創発磁場を活用した新しいデバイス機能の研究・開発が促進されることを期待しています。

今後の課題

本研究は、磁気ヘッジホッグ格子が光やマイクロ波に応答して示す新しい集団振動現象を実験に先駆けて理論的に発見し、その性質を明らかにしました。今後、MnSi1-xGexやSrFeO3などの実際の物質において、これらの結果を実験的に検証することが取り組むべき課題です。また、磁気ヘッジホッグの振動現象により発生する創発電場の性質を明らかにし、それに由来する興味深い物性現象や、それを活用した新しい物質機能を開拓することも重要な課題です。

研究者のコメント

本研究成果は、物質中の創発磁気モノポールに由来する固有の現象とその背後にある微視的メカニズムを明らかにしたという点で意義深いものです。本研究を皮切りに、物質中の創発磁気モノポールの性質や、それに由来する物性現象および物質機能の研究が今後活発に行われることを期待しています。

用語解説

※1 磁気モノポール
磁石のN極とS極のどちらか一方の性質のみを持つ粒子のこと。

※2 磁気ヘッジホッグ、アンチ磁気ヘッジホッグ
ある種の磁性体中に現れる図のような磁気モーメントの3次元配列。これらの磁気構造は交換相互作用を通じて伝導電子に働く仮想的な磁場(創発磁場)を生み出す。局所的な創発磁場の空間分布は、磁気ヘッジホッグでは湧き出し、アンチ磁気ヘッジホッグでは吸い込みになっており、それぞれ磁気モノポールとアンチ磁気モノポールに対応する。

※3 創発電磁場(創発磁場、創発電場)
金属磁性体中を動き回る伝導電子のスピンは、原子上に局在する磁気モーメントと相互作用し、各原子上で磁気モーメントと平行になろうとする。これにより伝導電子の波動関数はある種の位相を獲得するが、量子力学の枠組みから、その位相の積分値に対応する実効的な電磁場が伝導電子に作用することが分かる。この実効的な電場・磁場のことを創発電場・創発磁場と呼ぶ。特に創発磁場は近接する磁気モーメントが張る立体角の和に比例する。立体角の和が+4p(-4p)である磁気ヘッジホッグ(アンチ磁気ヘッジホッグ)は一つの磁束量子とみなすことができる。

※4 磁気ヘッジホッグ格子
磁気ヘッジホッグとアンチ磁気ヘッジホッグが空間周期的に配列した磁化構造のこと。その磁化配列は数学的には複数の螺旋状の磁化配列の重ね合わせで表現することができる。MnSi1-xGexやSrFeO3で観測されている磁気ヘッジホッグ格子は4つの磁気螺旋の重ね合わせで表現されるので4重波数磁気ヘッジホッグ格子、MnGeで観測されている磁気ヘッジホッグ格子は3つの磁気螺旋の重ね合わせで表現されるので3重波数磁気ヘッジホッグ格子と呼ばれる。

※5 テラヘルツ・ギガヘルツ
周波数の単位。1テラヘルツは1秒間に1兆回の振動、1ギガヘルツは10億回の振動を表す。

※6 近藤格子モデル
各原子に局在した磁化と、原子間を動き回る伝導電子を持つ金属磁性体を記述する数理モデル。伝導電子は局在磁化と交換相互作用を通じて結合すると同時に、局在磁化間に働く長距離交換相互作用を媒介する。近藤格子モデルではモデルパラメータを適切に選ぶと、磁気ヘッジホッグ格子を含む多彩な長周期の磁気構造を再現することができる。

※7 チェビシェフ多項式展開法
近藤格子モデルのような量子力学モデルの数値シミュレーションを効率的に行うための手法の一つ。量子力学の数値シミュレーションでは、通常、ハミルトニアンと呼ばれる非常に大きな行列を対角化する必要がある。特に、物理量の時間発展をシミュレーションする場合には、そのような対角化を何度も行う必要があるが、行列の対角化には膨大な計算時間を要する。そこで、物理量の表式を無数の多項式の和で表現することでハミルトニアン行列を対角せずにその物理量を計算する「多項式展開法」という手法が開発された。中でも、多項式として特に代数学において「チェビシェフ多項式」と呼ばれる多項式を使うと、物理量の表式が少ない多項式の和で表現できるため、効率的にシミュレーションを行うことができる。このような手法のことをチェビシェフ多項式展開法と呼ぶ。

※8 双対性
電磁気学の基礎方程式である4つのマクスウェル方程式では、磁気モノポール(磁荷)の存在を仮定すると電場と磁場、電荷と磁荷を入れ替えても等価な式が得られる。このような「電気」と「磁気」の対応関係を双対性と呼ぶ。

論文情報

雑誌名:Physical Review Letters
論文名:Theory of Collective Excitations in the Quadruple-Q Magnetic Hedgehog Lattices
(和訳:4重波数磁気ヘッジホッグ格子における集団励起の理論)
執筆者名(所属機関名):衛藤倫太郎 (早稲田大学大学院先進理工学研究科物理学及応用物理学専攻・博士課程2年/日本学術振興会特別研究員DC1)、望月維人 (早稲田大学理工学術院先進理工学部応用物理学科・教授)
掲載予定日時(現地時間):2024年5月31日(金)
掲載URL:https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.132.226705
DOI:https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.132.226705

研究助成

研究費名:国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進授業CREST
研究課題名:Beyond Skyrmionを目指す新しいトポロジカル磁性科学の創出
研究代表者名(所属機関名):于秀珍(理化学研究所)

研究費名:日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A)
研究課題名:スキルミオニクス創成に向けた基盤技術と材料の開拓(課題番号:20H00337)
研究代表者名(所属機関名):望月維人(早稲田大学)

研究費名:日本学術振興会 学術変革領域研究(A)「「学習物理学」の創成-機械学習と物理学の融合新領域による基礎物理学の変革」(公募研究)
研究課題名:スピン模型のトポロジカル相転移を検出する汎用的な機械学習手法の開発(課題番号:23H04522)
研究代表者名(所属機関名):望月維人(早稲田大学)

研究費名:日本学術振興会 学術変革領域研究(A)「キメラ準粒子が切り拓く新物性科学」(計画研究)
研究課題名:キメラ準粒子の理論(課題番号:24H02231)
研究代表者名(所属機関名):村上修一(東京工業大学)

研究費名:早稲田大学特定課題研究助成
研究課題名:電気磁気結合を利用した効率的な光誘起磁性スイッチング機能の理論設計(課題番号:2024C-153)
研究代表者名(所属機関名):望月維人(早稲田大学)

研究費名:日本学術振興会 特別研究員奨励費
研究課題名:トポロジカル磁性における磁気励起と光誘起現象に関する理論研究(課題番号:23KJ2047)
研究代表者名(所属機関名):衛藤倫太郎(早稲田大学)

【キーワード】
磁気ヘッジホッグ、磁気モノポール、創発電磁場、励起振動

8/3(土)8/4(日)オープンキャンパスを開催します

著者: staff
2024年5月27日 14:35

WASEDA University OPEN CAMPUS 2024

8月3日(土)、4日(日)の二日間にかけて、オープンキャンパスを開催いたします。

早稲田大学の歴史・学び・国際交流・キャンパスライフ・入試情報など、入学後の学生生活がリアルにイメージできる企画が盛りだくさんです!
西早稲田キャンパスのプログラムの詳細は、7月上旬にWebサイトにタイムテーブルを掲載いたしますので、ぜひ楽しみにお待ちください。

来場に際して、事前予約は不要です。入退場も自由となっております。
ただし、キャンパスツアー、実験体験など、一部事前に予約が必要なプログラムがございます
予約が必要なプログラムの予約受付開始は7月5日(月)を予定しています。
予約方法については詳細が決定次第ご案内します。

「Flow Synthesis and the AI/ML Strategies」(2024/6/12)

著者: staff
2024年5月24日 11:19

演題:Flow Synthesis and the AI/ML Strategies

日時:2024年6月12日(水) 15:00~16:40

会場:西早稲田キャンパス 55号館N棟 1F 第二会議室

講師:Rigoberto C. Advincula(テネシー大学教授)

対象:学部生・大学院生、教職員、学外者、一般の方

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 応用化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

「Saynatsalo town hall by Alver Aalto」(2024/6/3)

著者: staff
2024年5月17日 14:57

演題:Saynatsalo town hall by Alver Aalto

日時:2024年6月3日(月) 18:30~20:10

会場:西早稲田キャンパス 55号館S棟1階 イノベーションラボ

講師:Jonas Malmberg(アルヴァ・アアルト財団シニアアーキテクト)

対象:学部生・大学院生、教職員、学外者、一般の方

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:創造理工学部 建築学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

「Engaging esters, aldehydes, and alcohols in cross-coupling」(2024/8/21)

著者: staff
2024年5月16日 16:16

演題:Engaging esters, aldehydes, and alcohols in cross-coupling

日時:2024年8月21日(水)16:20~18:00

会場:西早稲田キャンパス 63号館05会議室

講師:Stephen G. Newman(オタワ大学・准教授)

対象:学部生・大学院生、教職員、学外者、一般の方

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 応用化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

「Insights into the Microenvironment of Catalysis: Water Oxidation and Selective C–H bond Functionalization」(2024/7/24)

著者: staff
2024年5月16日 15:32

演題:Insights into the Microenvironment of Catalysis: Water Oxidation and Selective C–H bond Functionalization

日時:2024年7月24日(水)16:00-17:40

会場:西早稲田キャンパス 53号館201号室

講師:Djamaladdin G.Musaev(Emory University Director of the Emerson Center, Adjunct Prof. of Chemistry)

対象:学部生・大学院生、教職員、学外者、一般の方

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学研究科 化学・生命化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

新規ナノ構造体を基盤とするナノ注射器が拓く細胞治療の未来 1,000万個の細胞に複数タンパク質を「高効率」「高生存率」導入

著者: contributor
2024年5月16日 15:22

新規ナノ構造体を基盤とするナノ注射器が拓く細胞治療の未来
1,000万個の細胞に複数タンパク質を「高効率」「高生存率」導入

タンパク質を用いたがん治療およびNMR解析への利用を実証

発表のポイント
  • 導電性高分子と金属から成る複合ナノチューブシートを改良し、複数のタンパク質を細胞内に高効率・高生存率で導入するための新規ナノ構造体(ナノ注射器)を開発。
  • 再生医療分野で取り扱うために必要な細胞数である1,000万個以上の細胞に対して、導入効率89.9%、細胞生存率97.1%でタンパク質導入に成功。
  • 乳酸オキシダーゼ酵素(LOx)およびユビキチン(UQ)などの任意タンパク質を導入可能。
  • タンパク質導入によるがん細胞の死滅およびNMR解析に成功。

早稲田大学大学院情報生産システム研究科の三宅丈雄(みやけたけお)教授らの研究グループと理化学研究所生命機能科学研究センターの美川務(みかわつとむ)専任研究員らの研究グループは、2021年に報告した導電性高分子で被覆された金属製ナノチューブシート※1をこれまで細胞内に届けることが困難であったタンパク質向けに改良し、タンパク質の細胞内への輸送速度や細胞内での機能維持の向上を実現しました。本研究では、この技術を用いて、乳酸オキシダーゼ酵素(LOx)を正常細胞とがん細胞に導入し、がん細胞のみが死滅することを確認しました(図1)。実験では、酵素が細胞内まで届けられた場合は24時間後にがん細胞が3%まで死滅するのに対し、酵素を細胞内に届けない条件では33%残ることが確認されました。一方、安定同位体標識タンパク質(ユビキチン)を細胞内機能解析手法であるin-cell NMR解析※2に必要な1,000万個(107個)以上の細胞に対して、高効率および高生存率で導入することに成功しました。

以上は、科学研究費補助金、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「電子・イオン制御型バイオイオントロニクス」(JPMJPR20B8)、旭硝子財団の助成による成果であり、2024年5月14日(現地時間)に科学誌『Analytical Chemistry』にオンライン版で公開されました。
論文名:A Hybrid Nanotube Stamp system in Intracellular Protein Delivery for Cancer Treatment and NMR Analytical Techniques

図1.ナノ注射器でのタンパク質導入および細胞応用

(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

体外で細胞に物質を導入し、細胞を加工する技術開発は、再生医療および細胞治療におけるコア技術です。これまでは、化学/生物的手法(ウィルスベクター)と物理的手法(エレクトロポレーション)が利用されていましたが、これら手法は、細胞が外界から物質を取り込む作用であるエンドサイトーシスにより細胞内への取り込みを行うため、時間がかかる、効率が悪い、導入する過程で細胞が死んでしまうなどの課題を有していました。

こうした課題を解決するため、中空管のマイクロ/ナノニードルを細胞に挿入することで、目的の物質を細胞内に導入するナノ注射器に関する取り組みが盛んですが、開発が進むナノ注射器は単針であり、かつ、マイクロサイズの細胞に単針を挿入するマニュピレータが必要であるため、主に1細胞ごとに導入する必要がありました。そこで本研究グループは、ナノチューブを配列した2次元薄膜(シート)を開発し、本ナノチューブを細胞に刺入することで短時間、かつ、高効率に物質を細胞に届けるナノ注射器の開発に成功しました。さらに本研究では、このナノ注射器を用いることで、これまで物質導入が困難であった機能性タンパク質を再生医療分野で取り扱うために必要な細胞数(107個以上)に高効率および高生存率で導入できることを確認しました。さらに、本技術をがん治療やNMR解析などの細胞応用に利用できることを実証しています。

(2)今回の研究で実現したこと

本研究グループでは、これまで金属製のナノチューブを開発し、そこへ導電性高分子を被覆することでナノスケールの構造体(ナノ構造体)および物質輸送を制御できるナノ加工技術(新しいナノ材料)の開発に取り組んできました。さらに、新規ナノ構造体を基盤とするナノ注射器を開発し、細胞内に低分子(蛍光物質:約1nmサイズ)・中分子(タンパク質:約数nm)・高分子(細胞小器官:500nm以上)を導入する取り組みを実施してきました。
今回、複数のタンパク質を細胞内に高効率・高生存率で導入するためのナノ構造体を開発し、様々な細胞(がん細胞(HeLa))、マウス由来上皮細胞(NIH3T3)、ヒト由来繊維芽細胞(HPS)、脂肪由来幹細胞(MSC)、角膜上皮細胞(HCE-T)など)で実現できることを確かめました(図2)。

図2.新規ナノ構造体を基盤とするナノ注射器の開発とタンパク質導入結果

(3)性能評価

本技術を用いた2つの事例①乳酸オキシダーゼ酵素(LOx)導入によるがん細胞の死滅、②安定同位体標識タンパク質導入によるNMR解析を紹介します。

まず、①LOx導入によるがん細胞の死滅に関しては、原理はとてもシンプルで、細胞内でLOxが乳酸濃度に応じて過酸化水素(H2O2、強力な酸化剤)を生成し、その結果として細胞をアポトーシス(細胞の自然死)に導きます。図3に示したようにがん細胞(HeLa)と正常細胞(MSC)内の乳酸濃度は10倍程度異なるため、がん細胞の中では酵素反応によって過酸化水素 がより多く生成されることになります。本実験では、HeLaとMSCへのLOxの導入効率は共に95%以上を示しました。LOxを導入したMSCと何も処理しなかったMSCを比較すると、ほぼ同じ生存率(100%以上)を示すのに対し、がん細胞ではLOx導入後、生存率が時間と共に下がることを確認しています。さらに、LOxの導入量に応じて、生存率が変化することを確かめており、このことは酵素反応の結果としてがん細胞が死滅したものであると考えています。

図3.ナノ注射器を用いたLOx酵素の細胞内導入およびがん細胞の死滅結果
(生細胞はカルセインAMで蛍光染色を行い、死細胞はPIにて蛍光染色を行った。)

また、②安定同位体標識タンパク質導入によるNMR解析においては、①同様の手法でユビキチンタンパク質をHeLa細胞に導入しNMR解析を行いました(図4)。NMR解析には、高濃度のタンパク質が導入された細胞が107個程度必要となるため、ナノ注射器システムでも十分な数の細胞を用意し、さらには、十分な量のタンパク質が細胞内に導入されたかどうかを確かめました。結果として、1.8×107個の細胞に5-10mMの安定同位体標識ユビキチンが入ったことをNMR解析から明らかにしました。

図4.ナノ注射器を用いた安定同位体標識ユビキチン(UQ)の細胞内導入およびNMR解析結果

(4)今後の展望

今後は、任意のタンパク質や低分子を同時に細胞内に導入することで、細胞機能改変(ダイレクトリプログラミング)あるいは細胞内機能解析(In-cell NMR)などの開発にも取り組みたいと考えています。また、動物性細胞以外の細胞(植物、酵母、乳酸菌など)への展開も見込んでいます。これらを1研究室で実現することは困難ですので、本プロジェクトにご興味のある企業や研究機関からのお問い合わせをお待ちします。

(5)用語解説等

※1 2021年に報告した導電性高分子で被覆された金属製ナノチューブシート:

https://www.waseda.jp/top/news/74747
細胞用電動ナノ注射器「電気浸透流ナノポンプ」を開発― 細胞治療に向けた新たな細胞内物質導入機器

※2 in-cell NMR解析:

核磁気共鳴分光測定法(NMR法)を用いて生きた細胞の中の生体分子を観測および解析する手法

(6)論文情報

雑誌名: Analytical Chemistry
論文名:A Hybrid Nanotube Stamp system in Intracellular Protein Delivery for Cancer Treatment and NMR Analytical Techniques
執筆者名:Bowen Zhang, Bingfu Liu, Zhouji Wu, Kazuhiro Oyama, Masaomi Ikari, Hiromasa Yagi, Naoya Tochio, Takanori Kigawa, Tsutomu Mikawa, and Takeo Miyake.
掲載日(現地時間):2024年5月14日
掲載URL:https://doi.org/10.1021/acs.analchem.3c05331
DOI:10.1021/acs.analchem.3c05331

(8)研究助成

科学研究費補助金
科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「電子・イオン制御型バイオイオントロニクス」(JPMJPR20B8)
旭硝子財団

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