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若い超新星残骸SN1006で「磁場増幅」の証拠を発見~宇宙線加速のジレンマ解消にむけ、新たな一歩~

著者: contributor
2024年7月26日 13:29

若い超新星残骸SN1006で「磁場増幅」の証拠を発見
~宇宙線加速のジレンマ解消にむけ、新たな一歩~

ポイント

  • 若い超新星残骸SN1006の電波とX線の観測データを詳細に解析
  • 電波スペクトルの折れ曲がりと衝撃波の厚みから、100倍以上の磁場増幅を発見
  • 超新星残骸での宇宙線加速を示唆する、新たな証拠を提示

早稲田大学大学院先進理工学研究科の田尾 萌梨(たおもえり、修士課程1年)と、同大学・理工学術院の片岡 淳(かたおかじゅん)教授らの研究グループは、甲南大学理工学部の田中 孝明(たなかたかあき)准教授と共同で、約1000年前に爆発した超新星残骸SN1006で生ずる衝撃波で、磁場が100倍以上も増幅される確実な証拠を突きとめました。

我々の宇宙には「宇宙線」と呼ばれる高エネルギーの粒子が満ちており、その起源は謎に包まれています。宇宙線のスペクトルは1015電子ボルト(1ペタ電子ボルト:1PeV)に特徴的な折れ曲がりを持ち、それ以下の宇宙線は超新星爆発で生成されるとする説が有力です。ところが、加速される宇宙線の最大エネルギーは磁場に比例し、弱い星間磁場(1~10マイクロガウス:10-6~10-5G)では1PeVまで粒子を加速するのは困難で、未解決の難問(ジレンマ)となってきました。今回、研究チームは超新星残骸SN1006の衝撃波で磁場が100倍以上も増幅されていることを発見し、PeVのエネルギーを持つ宇宙線でも加速できる示唆を得ました。

本研究成果は、2024年7月24日(水)午前10時(英国夏時間)に『Astrophysical Journal Letters』のオンライン版で公開されました。

【論文情報】
雑誌名:Astrophysical Journal Letters
論文名:Observational Evidence for Magnetic Field Amplification in SN 1006
DOI:10.3847/2041-8213/ad60c7

これまでの研究で分かっていたこと

図1:宇宙線スペクトルの概観と「knee」

我々の宇宙には「宇宙線」と呼ばれる高エネルギーの粒子が満ちており、観測史上、最も高いエネルギーでは1020eV(eVは電子ボルト。エネルギーの単位)を超える粒子の存在が知られています。スイス・ジュネーブにある、人類最高の加速器Cern-LHCですら加速できる粒子のエネルギーは1013eVであることから、宇宙にははるかに効率が良い、未知の「巨大加速器」が、そこかしこに眠っていることになります。

宇宙線のスペクトルを詳細に見ると、図1のように1015eV(1PeV)付近に特徴的な折れ曲がりがあります。この構造は人間の体にたとえ、「knee(ひざ)」と呼ばれています。これまでの研究から、knee以下の宇宙線は我々の銀河系の中で生成され、knee以上の粒子は銀河系の外から到来すると考えられています。とくに、knee以下の宇宙線は星が最期におこす大爆発(超新星爆発)で、効率よく加速されると考えられています。実際、銀河系内で超新星爆発は約30年に1度の頻度で起きており、その都度1044ジュール(J)ものエネルギーを解放します。このうち1%でも宇宙線加速に消費されれば、エネルギー収支としては十分に賄える計算となります。

ところが、個々の粒子をkneeまで加速することは、簡単ではありません。衝撃波加速の理論では、加速される粒子の最大エネルギーは

と表されます。ここで、磁場強度が星間空間と同程度であれば は B~ 1 – 10μGμGは 10-6G。磁場の大きさ)、 ηは1~10程度の定数です。若い超新星残骸では年齢が概ね1000年(Tage ~ 1000 yr)、衝撃波の速度は概ね数千キロ/秒(Vsh~ 1000 – 3000 km/s)のため、最大エネルギーEmax は1PeVに遠く及ばない計算となります。Kneeに到達するには、100倍から1000倍も強い磁場が必要なのです。

これまで多くの若い超新星残骸では電波からガンマ線にわたる観測が行われ、多波長スペクトルからそこでの磁場は星間磁場と同程度の  が示唆されます。一方で、若い超新星残骸 RXJ1713.7-3946(Tage ~ 1600 yr)とカシオペアA(Tage ~ 300 yr) では、X線で明るく示される「ホットスポット」が数年の間に点滅する様子が確認されました(※1)。ここで、X線(keV:キロ電子ボルト程度)は、衝撃波で加速された電子のシンクロトロン放射(※2)と考えられ、放射で冷える時間は

で与えられます。つまり、X線の点滅はミリガウス(1mG = 1000μG)の強い磁場を示唆しますが、スペクトルから求めた磁場(10μG)とは大きく矛盾します。また、ほかの超新星残骸では磁場増幅の兆候は見つかっていません。この混沌とした状況に、多くの研究者が頭を悩ませてきました。

今回の研究で明らかになったこと

図2:超新星残骸SN1006。青はチャンドラ衛星によるX線観測、赤は電波観測、黄色は可視光による観測の合成画像(©NASA)

本研究では、超新星残骸の「プロトタイプ」とも呼べるSN1006に着目し、多波長スペクトルと画像解析から磁場増幅と宇宙線加速の謎に挑みました。

SN1006は、その名の通り西暦1006年に出現した超新星で、距離は太陽系から約6000光年で「おおかみ座」の方向にあります。爆発時には-7.5等級まで明るくなったことが知られています。これは歴史上最も明るく、昼間でも見ることができた明るさで、藤原定家の「明月記」、中国の「宋史」にも記載があります。

約1000年経った現在におけるSN1006の姿を図2に示します。電波やX線では縁部(シェル)が明るい美しい球状の構造を持ち、まさに爆発による衝撃波が、星間空間を対称に広がっていく様子が見て取れます。1995年には日本の天文衛星「あすか」で初めて精密なX線分光観測が行われ、明るいシェルの部分は強いシンクトロン放射であることが確認されました。これは超新星爆発で、実際に衝撃波加速が起きている動かぬ証拠です(※3)。その後のチャンドラ衛星(米国)、ニュートン衛星(欧州)の詳細観測では、X線の衝撃波面が10秒角(地球までの距離6000光年から計算して、実際の厚みは~3光年)程度ときわめて薄いこと、また電波もX線も B~ 10μG の磁場中で生ずる、一連のシンクロトロン放射である、とする統一見解が得られました。しかしながら、この程度の磁場強度では、SN1006でPeVまでの宇宙線加速はできないはずです([式1]を参照)。

本研究は以下のアプローチで、この難問の解決に挑みました:

(A)Planck(プランク)衛星を加えた1-100GHz の広帯域電波スペクトル解析

(B)MeerKAT 望遠鏡とチャンドラ衛星による高解像度の電波/X線画像の直接比較

(C)多波長スペクトル解析による検証

図3:広帯域電波スペクトル。30GHz以上がPlanck衛星のデータ

(A)Planck衛星は、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)が打ち上げたマイクロ波背景放射を観測する衛星で、これまで観測できなかった数十~100GHz(GHzは109Hz)での電波観測を行うことが可能です。本研究では既存の電波望遠鏡の観測結果とあわせることで、初めて1-100GHzの広帯域電波スペクトルを導出しました。結果を図3に示します。これまで、電波のスペクトルは折れ曲がりなく一直線にX線まで伸びると信じられてきましたが、本研究で( Vbrk = 36 ± 6 GHz)に折れ曲がりがあることが分かりました(※4)。これは、電子が強い磁場中で急激にシンクロトロン放射によりエネルギーを失う結果と考えられます。折れ曲がりの周波数は磁場の強さと超新星残骸の年齢(Tage = 1000 yr)に依存するため、ここから電波放射に寄与する磁場の下限値 B > 2mG  が得られました。

(B)続いて、超高解像度の電波画像とX線画像を直接比較し、SN1006の衝撃波面の厚みを比較しました。MeerKAT望遠鏡は南アフリカに設置された口径13.5メートル、64台からなる電波望遠鏡群で、1.4GHzの観測帯で過去最高の解像度(8秒角)を誇ります。一方で、チャンドラ衛星はX線領域で過去最高の解像度(0.5秒角)を持ち、これらの画像を直接比較することで新たな示唆が得られると期待されます。ここで、電波とX線は、エネルギー(または波長)にして8桁(約1億倍)もの開きがあることに注意が必要です。衝撃波面の厚みは、衝撃波の速度 Vsh と電子の冷却時間  の積で与えられるため、もし電波とX線が同じ磁場強度を持つシンクロトロン放射であるならば、[式2]より電波の厚みはX線よりも10,000倍も「厚い」はずです。その場合、電波ではシェル構造が見えず、全体がほぼ一様な球のように光って見えると考えられます。ところが図4を見ると、電波でも明るいシェルが見られ、X線との厚みの違いは高々10倍程度であることが分かります。これは、電波に寄与する磁場がX線領域よりもずっと強く、非常に速く冷却しているからに他なりません。この事実からも、電波に寄与する磁場の下限値   が得られます。一方で、X線を出す電子はエネルギーが高いため、 B~ 10μGで観測されたシェルの厚みを説明することが可能です。

図4:(a)-(d) SN1006の北東シェル、南西シェルの電波、X線画像の比較 (e)-(f) それぞれ1-4の白線に沿って作成した電波(緑色)とX線(赤色)の断面図。電波のシェルはX線より太いが、高々10倍程度であることが分かる

(C)上記ではSN1006で電波を出す領域の磁場の強さが非常に強く、かつX線を出す領域の磁場とは全く異なる可能性を示しました。

図5:SN1006の電波からガンマ線にわたる多波長スペクトル。電波とX線はシンクロトロン放射と考えられるが、別の成分で滑らかにつながらないことが分かる

それでは最後に、電波からガンマ線をつなぐ多波長スペクトルからSN1006で何が起きているのか、謎解きをしてみたいと思います。図5は、今回新しく解析した広帯域の電波スペクトル(図中青色)を加えた多波長データとなります。ここではさらに、可視光・紫外線の過去の観測から見積もった強度(図中黒丸)を新たに加えています。ここで、電波からX線は高エネルギー電子のシンクロトロン放射と考えられますが、今回検出された折れ曲がりのある第1成分(図中緑:ホットスポット)、さらには可視・紫外線とX線で滑らかにつながる第2成分(図中ピンク:全体平均)が混在していることが分かります。第2成分については、高エネルギーのガンマ線放射(同じ電子からの放射だが、逆コンプトン放射(※5)という別な放射)との強度比から、磁場が約 10 – 20μG と正確に求められました。これは従来の観測から得られる示唆と矛盾せず、また他の超新星残骸で信じられている磁場の強さでもあります。一方で、第1成分の電波放射を作るには、約100倍以上磁場が強められることが必要です。つまり、電波とX線では放射に主に寄与する磁場の強さが全く異なる、すなわち放射領域が異なることが初めて示されました。

研究の波及効果-宇宙線加速の謎解明へ

超新星残骸における磁場増幅は、宇宙線加速の観点からも極めて重要な問題です。今回の発見で超新星残骸SN1006のシェルには、磁場が100倍以上に増幅された領域が混在し、それが電波スペクトルの「折れ曲がり」と同時に「細いシェル」を説明することが分かりました。一方で、磁場強度が違うにも関わらず、電波とX線で観測されるシェル構造が似通っているのは何故でしょうか?また、他の若い超新星残骸RXJ1713.7-3946やカシオペアAで観測されたホットスポットの点滅は、SN1006では見えないのでしょうか?ここではその原因を考察します。

まず、電波とX線の画像が似ていることは、磁場が100倍以上も増幅された領域がシェルに沿って、ほぼ一様に広がっていることを示唆します。これらは衝撃波面に沿ってパッチ(ホットスポット)のように点在している可能性もありますし、極めて薄いシート状に広がっているのかもしれません。シンクロトロン放射の強度は磁場の2乗に比例するため、大まかに磁場増幅された領域の体積を見積もることができます。SN1006の場合、シェル全体の10万分の1程度しかないはずです。このような小さな(あるいは薄い)領域は、チャンドラ衛星の解像度をもってしても画像で分解することができません。また、仮に分解できたとしても、 Vbrk = 36 ± 6 GHzで折れ曲がった第1成分が、果たしてX線まで伸びているかも定かではありません。もちろん、今後の観測で、RXJ1713.7-3946やカシオペアA で観測された時間変動が見られれば、より強い制限を与えられることになります。

最後に、図4で求めた電波とX線の画像から、さまざまな位置で電波とX線のシェルの厚みを比較したプロットを図6に示します。全てのシェル領域で、磁場の増幅が見られ、増幅率は100-300倍程度であることが分かります。超新星残骸のプロトタイプともいえるSN1006で磁場増幅の確かな証拠が得られたことで、宇宙線加速の長年の謎であった「超新星残骸ではPeVまで加速できない?」問題に、重要かつ新たな示唆が得られたことになります。

図6:電波とX線のシェルの幅(図4)から求めた、衝撃波面での磁場圧縮率。場所ごとに差はあるが、概ね 100~300倍に圧縮していることが分かる

今後の課題

本研究では、有名な超新星残骸SN1006に対し、Planck衛星の広帯域電波観測、またMeerKAT電波望遠鏡、チャンドラ衛星を総動員した最先端の観測を駆使し、超新星残骸の磁場増幅、さらには宇宙線加速の問題に迫りました。もちろん、SN1006以外にも若い超新星残骸はたくさんあります。たとえば1604年に爆発したケプラー(Kepler)、1572年に爆発したティコ(Tycho)はチャンドラによるX線観測で細いシェルが明確に見えており(図7)、MeerKATを用いた同様な電波画像との比較が待たれます。また、約3700年前に爆発したPuppis AはPlanck衛星による電波観測で折れ曲がりが見えており、これらとSN1006の比較も重要な課題です。今後、研究チームではより広範な種類と年齢の超新星残骸で、磁場増幅の検証を行っていく予定です。

図7:現在、解析を進めているSN1006以外の若い超新星残骸の例

研究者のコメント

宇宙を飛び交う高エネルギー粒子「宇宙線」は1912年に、オーストリアの研究者 ヘス(V.HESS)による気球実験で発見されました。大型の加速器が作れない当時、宇宙線を利用した研究は素粒子物理の花形で、多くの発見をもたらしました。そして100年以上を経た現在、いまだに人類は自然界を超える加速器の製作に成功しておらず、また宇宙のどこで・どのように宇宙線が生成されるのかは、物理学・天文学共通の最重要な研究テーマとして君臨しています。今回の研究は、超新星残骸SN1006に着目したものですが、研究チームが開発した「スペクトルと画像を多波長で横断するアプローチ」は、超新星残骸以外のさまざまな天体への応用が可能で、宇宙に隠れた加速器の真の姿を照らしてくれるに違いありません。今後の研究にご期待ください。

用語解説

※1 若い超新星残骸で見つかった、X線ホットスポットの強度変化:
・ “Extremely fast acceleration of cosmic rays in a supernova  remnant”, Uchiyama, Y., Aharonian, F. A., Tanaka, T., Takahashi, T., & Maeda, Y. (2007), Nature, 449, 576
・ “Fast Variability of Nonthermal X-Ray Emission in Cassiopeia A: Probing Electron Acceleration in Reverse-Shocked Ejecta”, Uchiyama, Y., & Aharonian, F. A. (2008), The Astrophysical Journal, 677, L105

※2 シンクロトロン放射
高エネルギーに加速された粒子が、磁場中で出す放射。粒子の質量の4乗に比例して放射しづらくなるため、実際に観測されているのは軽い電子によるシンクロトロン放射だけである。

※3 ASCA衛星による SN1006の観測
・“Evidence for shock acceleration of high-energy electrons in the supernova remnant SN1006”,  K. Koyama, R. Petre, E. V. Gotthelf, U. Hwang, M. Matsuura, M. Ozaki & S. S. Holt, (1995), Nature, 378, 255

※4 SN1006 の電波スペクトルに折れ曲がりがあることは、以下の論文が最初に発表
・”Planck intermediate results: XXXI. Microwave survey of Galactic supernova remnants”, Planck collaboration, (2016), A&A, 586, A134

※5 逆コンプトン放射
高エネルギーに加速された電子が、エネルギーの一部を低エネルギーの光子(SN1006場合は、宇宙マイクロ波背景放射)に与えることで生ずる、高エネルギーの放射。

論文情報

雑誌名:Astrophysical Journal Letters
論文名:Observational Evidence for Magnetic Field Amplification in SN 1006
執筆者名:Moeri Tao1、Jun Kataoka1 and Takaaki Tanaka2

1.早稲田大学理工学術院 先進理工学研究科 物理学及応用物理学専攻 田尾  萌梨、片岡  淳 (論文責任著者)
2.甲南大学理工学部 物理学科 田中  孝明

掲載日時(英国夏時間):2024年7月24日(水)午前10時
掲載日時(日本時間):2024年7月24日(水)午後6時
DOI:10.3847/2041-8213/ad60c7
掲載予定URL:https://doi.org/10.3847/2041-8213/ad60c7

研究助成

本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO「片岡ラインX線ガンマ線イメージングプロジェクト」(R3~8年度;グラント番号 JPMJER2102)および科学研究費補助金 基盤研究(B)「超新星残骸で加速される宇宙線総量の測定と粒子加速における注入問題の解決」(R2~5年度;グラント番号19H01936)の支援を得て実施したものです。

光でタンパク質の凝集を誘導するツールがアルツハイマー病患者等の脳に生じるタウ凝集生成メカニズムの新たな理解を導く

著者: contributor
2024年7月26日 13:28

光でタンパク質の凝集を誘導するツールがアルツハイマー病患者等の脳に生じるタウ凝集生成メカニズムの新たな理解を導く

ポイント

  • アルツハイマー病を含むタウオパチーと総称される神経変性疾患の患者脳では、タウと呼ばれるタンパク質が異常に集まり、大きな塊(アルツハイマー病では神経原線維変化※1)となって観察されます。その前段階には小さな塊(オリゴマー)がありますが、どのようにそれらが形成するかは十分に解明されていません。
  • 光感受性タンパク質CRY2oligを用いてタウタンパク質の小さな塊から大きな塊までの凝集過程を制御する実験系を構築しました。
  • この研究は、タウタンパク質の凝集メカニズムの一端を明らかにしており、タウオパチー病態理解のための基礎的知見が得られました。。

概要

早稲田大学理工学術院の坂内博子教授、学習院大学理学部生命科学科の添田義行助教、大学院生の小池力さん、高島明彦教授、椎葉一心助教、東京大学大学院理学系研究科の吉村英哲助教らからなる研究グループは、アルツハイマー病を含むタウオパチーと総称される神経変性疾患の患者脳に観察される特定の変異を持つタウタンパク質が、どのようにして異常な凝集体を形成するのか、その過程を明らかにしました。特に、光反応タンパク質CRY2oligを使用することで、タウタンパク質の動きを制御し、病気の進行メカニズムを解明する手がかりを得ることができました。

本研究成果は、タウタンパク質の凝集メカニズムの理解を促進し、アルツハイマー病等のタウオパチー病態理解のための基礎的知見の蓄積に貢献します。本研究成果は、2024年7月20日午前1時(日本時間)にCell Press(米国)の科学雑誌Structureに掲載されました。

研究の背景

タウタンパク質は、細胞の中に存在し、微小管という細胞の構造を安定させる細胞骨格に結合することが知られています。しかし、アルツハイマー病などの神経変性疾患では、タウタンパク質が異常リン酸化される等により、微小管から離れること、また水溶性の状態から不溶性の塊を作ってしまうことが知られています。この異常なタウタンパク質の密な塊(凝集体)が、病気の進行に関与していると考えられています。したがって、タウタンパク質が液体のような状態から固体の塊に変わる過程が病気の理解に重要でありますが、その研究は十分に行われておりません。この過程を理解するために、青色の光で反応するシロイヌナズナという植物由来のタンパク質の変異体CRY2olig使って、タウタンパク質の凝集を制御し、その過程を詳細に観察しました。

研究の内容

光照射によるタウタンパク質の変化

凝集しやすいP301L変異を持つタウタンパク質に光感受性タンパク質CRY2oligを融合させたタウタンパク質OptoTauを使用し、光照射に応答して変化するタウタンパク質の挙動をリアルタイムで操作しました。青色光の照射で、OptoTauは病気で観察されるようなリン酸化状態に変わり、また、細胞内でタウ同士が集まるクラスター形成が促進されました。このクラスターは細胞核の周りに集中しており、アグリソームという凝集タンパク質を処理するためのシステムに隔離されていることが観察されました。

アグリソームの破壊実験

微小管の形成を阻害する薬(ノコダゾール)を使用し、アグリソームを破壊しました。実験では、青色光の照射によってOptoTauが細胞全体に散在し、アグリソームではなく膜のない構造体が形成されました。これは、生命科学分野で注目されているトピックの1つである液-液相分離※2で形成されるドロップレットでありました。このような結果は、タウタンパク質は液滴のような構造から固体の塊に変わる過程が観察されたことを示しています。

N末端欠失OptoTauの効果

このOptoTauを真ん中付近で切断したN末端※3が欠失しているOptoTau-ΔNは、青色光の照射によってOptoTauより強力な凝集体を形成することが分かりました。また、これが正常なタウをタウ線維※4に変換させる種(シード)として機能することが示されました。この結果から、N末端の欠失がタウタンパク質の相互作用を強化し、液滴から安定した凝集体への変化を促進することがわかりました。さらにそのタウは、正常なタウを異常凝集タウに変換させる能力を持つこともわかりました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義

本研究は、特定の変異を持つタウタンパク質がどのようにして異常な凝集体を形成するのか、その過程を明らかにしました。特に、光反応タンパク質CRY2oligを使用することで、タウタンパク質の動きを制御し、病気の進行メカニズムを解明する手がかりを得ることができました。これにより、アルツハイマー病などの治療法開発の基礎的知見の蓄積に貢献できる可能性があります。

発表者

添田 義行 学習院大学理学部生命科学科 助教
吉村 英哲 東京大学大学院理学系研究科化学専攻 助教
坂内 博子 早稲田大学先進理工学部電気・情報生命工学科 教授
小池 力 学習院大学⼤学院⾃然科学研究科 博士課程3年生
椎葉 一心 学習院大学理学部生命科学科 助教
高島 明彦 学習院大学理学部生命科学科 教授

論文情報

論文名:Intracellular Tau Fragment Droplets Serve as Seeds for Tau Fibrils
雑誌:Structure
著者名:Yoshiyuki Soeda, Hideaki Yoshimura, Hiroko Bannai, Riki Koike, Isshin Shiiba, Akihiko Takashima
DOI:https://doi.org/10.1016/j.str.2024.06.018

研究助成

本研究は、文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「シンギュラリティ生物学」(領域番号8007) (課題番号18H05414および18H05410)、科学研究費助成事業(Grant Number 20K06896、23K05993、23H02102 、23K18116、22K15399、22H05574および24H01327)、武田科学振興財団、安倍能成記念教育基金学術研究助成金および日本医療研究開発機構(AMED)の課題番号JP15km0908001の支援により実施されました。また、本発表は学習院大学グランドデザイン 2039「国際学術誌論文掲載補助事業」より掲載費の助成を受けています。

用語解説

※1 神経原線維変化
神経原線維変化は、脳の神経細胞内でタウと呼ばれる微小管結合タンパク質が異常に凝集し、蓄積したものです。これは神経変性疾患の1つであるアルツハイマー病の病理学的特徴になっています。タウが異常蓄積する神経変性疾患はアルツハイマー病以外にもピック病や慢性外傷性脳症などがあり、それらの疾患はタウオパチーと総称されています。

※2 液-液相分離
液-液相分離(えき-えきそうぶんり)とは、2つ以上の液体が混ざり合わずに別々の層を形成する現象のことです。タンパク質でも起こり、形状は球状でタンパク質局所濃度を増加させると考えられています。液-液相分離して起こる球状の構造体はドロップレット、コンデンセート、コアソルベート等と呼ばれています。

※3  N末端
タンパク質の先頭は、アミノ基のもつN(窒素原子)に由来してN末端と呼ばれます。タウにおいては、図のN-terminalという部分が該当します。

 ※4 タウ線維
アルツハイマー病等の神経変性疾患において、タウタンパク質は多数集まることで凝集状態になっています。凝集状態は小さな塊から大きい塊に変化することで生じます。大きな塊には、タウが線維化したものが多数含まれます

<公務員・理系>【7/31】地方公務員セミナー ~東京都庁「技術職員」のしごと・働き方を知ろう!~

著者: contributor
2024年7月18日 14:06

 

都市づくり、環境、産業、文化、福祉など、一国に匹敵するほどのフィールドを持つ東京都。
当イベントは東京都庁職員の方にお越ししただき、東京都庁『技術職員』のしごとの魅力・働き方、キャリア、試験制度についてお伝えします。
今回は、都庁技術職の早大卒業生もご登壇いただきますので、しごと理解と合わせて、各自のキャリアへの視野を広げるきっかけとしてください。

タイトル

地方公務員セミナー
~東京都庁「技術職員」のしごと・働き方を知ろう!~

開催日時

2024年7月31日(水) 14:00~15:30(90分)
※90分のプログラムの後に、全体質疑応答・職種別個別対応(参加自由)の時間を取ります。

場所

キャリアセンター「セミナールーム」
(戸山キャンパス学生会館3階)

プログラム

1.東京都の技術職員のしごと・魅力
2.早大卒業生(東京都技術職員)による「私のキャリアストーリー」
<登壇者>(予定)
・土木職
・建築職
・電気職
3.東京都庁の人事制度、働き方
4.採用試験制度(秋試験)に関する新たな取り組みについて

対象

全学年(理系学生)
※東京都庁技術職員(土木・建築・機械・電気)を検討中の方
※公務員(東京都庁)のしごとや技術職のしごとについて興味がある方
※学部1,2年生大歓迎

主催・共催

東京都人事委員会事務局
早稲田大学キャリアセンター

予約方法

①My waseda のキャリアコンパスにログイン
※初めて利用する方はこちらを参照の上、利用手続きをお願いします

②「ガイダンスに参加する」をクリック

③「ガイダンス一覧」から「地方公務員セミナー ~東京都庁「技術職員」のしごと・働き方を知ろう!~」をクリック⇒「申し込む」をクリック

※キャリアコンパスからの申し込みが難しい場合は、問合せ先記載の連絡先よりご連絡ください。

 

【問い合わせ】
早稲田大学キャリアセンター公務員支援担当
Email: career-govt#list.waseda.jp  ※#を@に変更のうえご送付ください。

 

研究成果の実用化に向けて ~Waseda PoC Fund 2024年度は過去最多の応募数から7課題を選定~

著者: contributor
2024年7月3日 14:10

タイプS採択者(左から清野准教授、紫藤博士1年、合田教授、小野口次席研究員※矢内教授はオンライン参加)

タイプA採択者(左から堀尾修士1年、寺原次席研究員、バイラムオメル学部4年)

2024年度 新規研究課題7件を採択

早稲田大学アントレプレナーシップセンターでは、早稲田大学から生まれた研究成果の早期実用化をめざし、研究開発型スタートアップの創出を加速化するための様々な取り組みを行っています。

2020年から始まった『早稲田PoC Fund Program』は、早稲田大学の研究成果をもとにしたビジネスアイデアを、PoC(プルーフ・オブ・コンセプト)と呼ばれるビジネス仮説検証を行うことによってビジネスモデルを確立させ、スタートアップ創出を支援するプログラムです。今年度はついに5年目を迎え、4月に締め切った公募ではこれまでで最多の応募がありました。早稲田大学の研究成果を研究室に留まらせることなく、社会実装し世界にダイレクトに貢献することをめざす研究者が増えてきたと言えます。

この多数の応募のなかから、厳正な書類・面接審査を経て2024年度の研究課題7件を決定しました。採択された研究課題は、仮説検証を行うための研究開発費と、ビジネスの専門家による伴走支援、そして起業活動に役立つ様々なWSの受講機会など、手厚いサポートが提供され、事業化をめざしていきます。

  • 2024年度 採択課題
研究代表者 所属 研究課題名
(タイプS)
合田 亘人 教授  先進理工学部 生命医科学科 2型糖尿病の根治を目指した膵細胞増殖活性化剤の開発
矢内 利政 教授 スポーツ科学部 投手の寿命を延ばす肩肘運動解析ドックの開発
清野 淳司 准教授(任期付) 先進理工学研究科 化学・生命化学専攻 抗がん活性予測AIシステムの開発と検証
小野口 真広 次席研究員 理工学術院総合研究所 新規RNA-タンパク質複合体解析技術の開発と創薬スクリーニングへの応用
紫藤 寛生 博士1年 創造理工学研究科 総合機械工学専攻 鑑賞者が表現者になる新感覚インタラクティブ・ロボット・アートの事業化
(タイプA)    
寺原 拓哉 次席研究員 理工学術院総合研究所 コンピューターシミュレーションを用いた美しく、機能性の高い製品デザインの提案
堀尾 優子 修士2年 人間科学研究科 バイオレメディエーションによる放射性セシウム回収・減容化システムの開発

(事業期間:2024年度末まで)

 

「研究者から起業家への飛躍」に向けたキックオフミーティング

講師の髙山氏

意見交換の様子

それぞれのPoC活動の開始に先立ち、東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)より髙山幸次郎氏を講師に迎え、アカデミア発の起業において何に留意する必要があるか、事業化の「はじめの一歩」において特に重要となる論点は何かについて学びました。

各参加者の現在のビジネスアイデアにおいて想定されている「顧客」は何か、その「顧客」のどのような課題を解決しようとしているのか、なぜその課題が大きいのか等についてワークを通じて確認し、7月以降メンターとのやりとりを通じて本格化する活動の事前準備を行うことができました。ミーティング終了後にはアントレプレナーシップセンターの施設を見て回り、起業のイメージを深めた参加者もおられました。

3月に予定されているDemo Dayまでに、それぞれの研究がどのようなビジネスアイデアに変化しているのか、期待が高まります。

 

これまでに7件のスタートアップを創出

早稲田 PoC Fundは、これまでの4年間でタイプAを4件、タイプSを18件採択。 教員・研究員・大学院生を代表とする研究チームが、それぞれの研究課題にビジネスの創出プロフェッショナルの方々からの支援(ハンズオン的支援)を受けながら、試作品の研究開発や市場・インタビュー調査などを実施し、研究シーズを活用したビジネスアイデアのブラッシュアップに取組んできました。

その結果、これまでに7社が起業を果たし、うち、2社は早稲田大学のベンチャーキャピタルである、早稲田大学ベンチャーズから資金調達を行うなど、『早稲田PoC Fund Program』から着実な研究開発型スタートアップが生みだされています。

  • これまでに早稲田PoC Fund Programから生まれた企業
研究代表者 法人名
三宅丈雄 教授(情報生産システム研究科) ハインツテック株式会社
中尾洋一 教授(先進理工学部 化学・生命化学科 ) Ussio Lab.(株)
大橋啓之 客員上級研究員(ナノ・ライフ創新研究機構) 株式会社こころみ
青木隆朗 教授(理工学術院・応用物理学科) 株式会社Nanofiber Quantum Technologies
 陽 品駒 次席研究員(次世代ロボット研究機構) 株式会社HatsuMuv 
伊藤 悦朗 教授(教育・総合科学学術院) 株式会社 BioPhenoMA
原 太一 教授(人間科学学術院) Wellness AP Science 株式会社

早稲田大学は、これからも早稲田大学発の研究成果を安心・安全・便利な世界の実現に貢献するビジネスアイデアにし、新たなイノベーションの創出をめざしてしてまいります。『早稲田PoC Fund Program』の取り組みに、どうぞご期待ください。

 

研究室から生まれた成果が事業化されるまでのストーリーを語るMovie

大学の研究室から生まれた研究成果が、PoCファンドによる支援を経て、起業を果たした事業化までのストーリーを研究者が語る人気の動画コンテンツが好評公開中です。ぜひご覧ください。

The Challenges of Waseda’s startups #8 戸川望教授 株式会社Quanmatic

The Challenges of Waseda’s startups #9 伊藤悦郎教授 株式会社BioPhenoMA

 

早稲田PoCファンドプログラムとは?

2020年からアントレプレナーシップセンターが実施している、ギャップファンドプログラム。研究成果をもとにしたベンチャー企業を創出するために必要なビジネスアイデアの仮説検証(プルーフ・オブ・コンセプト)を行うための開発資金(ギャップファンド)の提供と専門家による伴走支援体制を構築。起業を通じた研究成果による社会貢献の実現を目的としています。提携ベンチャーキャピタルからの寄付を財源とするタイプAおよびB、JST  START 大学・エコシステム推進型 大学推進型を財源とするタイプSの3つのタイプがある。

 

本件に関するお問合せ

早稲田大学リサーチイノベーションセンター
アントレプレナーシップセンター 早稲田PoC Fund Program事務局 (担当:喜久里、酒匂、武藤)

ポリエステル衣類の放射線照射発光を発見、陽子線ビームの画像化にも成功

著者: contributor
2024年7月3日 11:25

ポリエステル衣類の放射線照射発光を発見、陽子線ビームの画像化にも成功
~放射線治療など様々な分野への応用に期待~

発表のポイント

  • ポリエステル製の生地や衣類が放射線照射で発光することを発見
  • 陽子線ビーム照射によるポリエステル衣類の発光画像化に成功
  • ポリエステル生地は柔らく、患者表面に密着して配置可能なため、放射線治療における表面発光計測など、さまざまな分野への応用が期待される

概要

早稲田大学理工学術院の山本 誠一(やまもと せいいち)上級研究員(研究院教授)および片岡 淳(かたおか じゅん)教授らのERATOプロジェクト研究チーム(プロジェクトリーダー:片岡 淳教授)は、神戸陽子線センターの山下 智弘(やました ともひろ)博士、東北大学未来科学技術共同研究センターの吉野 将生(よしの まさお)准教授、鎌田 圭(かまだ けい)准教授、東北大学金属材料研究所の吉川 彰(よしかわ あきら)教授、大阪大学大学院医学系研究科の西尾 禎治(にしお ていじ)教授と共同で、一般に市販されているポリエステル製の生地や衣類が放射線照射で発光することを発見しました。またポリエステル製の衣服が、放射線治療に使われる陽子線ビーム照射で発光している様子を短時間間隔の連続画像(リアルタイム画像)として可視化することにも成功しました。ポリエステル製の生地や衣類は柔らかく、自在に曲がるので、放射線治療のみならず、放射線計測に関連した様々な分野への応用が期待されます。

本研究成果は、2024 年6月12日にネイチャー・パブリッシング・グループのオンライン総合科学誌『Scientific Reports』に発表されました。

【論文情報】
雑誌名:Scientific Reports
論文名:Scintillation of polyester fabric and clothing via proton irradiation and its utilization in surface imaging of proton pencil beams
DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-024-62456-7

これまでの研究で分かっていたこと

放射線治療*1では正確な放射線照射が求められます。しかし、種々の要因により、正確な位置に放射線が照射されない可能性もあります。精度の高い治療を提供可能にするために、治療中に患者の位置と体表面における放射線ビーム位置を短時間間隔の連続画像(リアルタイム画像)として計測する方法が研究されています。

これまで、患者の表面に照射された放射線領域のリアルタイム画像確認のために、放射線治療用高エネルギーX線照射で発生するチェレンコフ光*2を画像化する方法が試みられてきました。しかし、陽子線治療ビームではチェレンコフ光がほとんど生成せず、リアルタイム画像化が困難でした。水や生体組織は、放射線に対して光を放出することが報告されていますが、放出される光はごくわずかであり、観察には暗箱と超高感度カメラが必要で、観察に長い時間がかかりました。放射線で良く光るシンチレータ*3を用いる方法も試みられていますが、一般にシンチレータは固いため、平らな部分に配置する必要がありました。

今回の新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

今回の研究では、患者体表面の複雑な形状に密着して配置可能なシンチレータ材料として、放射線照射で発光する生地と衣類を探索しました。シンチレータ材料を探索する中で、木綿などは放射線照射で発光しませんでしたが、ポリエステル製の生地や衣類は、放射線照射で良く発光することが分かりました。さらに画像化実験により、ポリエステル製の衣類が、陽子線ビーム照射で発光し、リアルタイムに画像化できることを確認しました。

そのために新しく開発した手法

今回、生地や衣類の放射線による発光を探索するために、放射線の一種であるアルファ線を種々の生地切片に照射することで、基礎的な性能を評価しました。この探索により、ポリエステル製の衣類は、他の衣類、例えば綿などとは異なり、アルファ線照射により、プラスチックシンチレータ(代表的なシンチレータの一つ)の10%から20%もの強度で発光することが明らかになりました。

これらの結果をもとに、ポリエステル製のシャツなどをリアルタイム画像化実験の材料として選択し、陽子線照射中の発光画像を高速高感度カメラで計測しました(図1)。

図1 陽子線照射中のポリエステル製Tシャツ画像化実験の模式図

その結果、部屋の電気を消した環境において、陽子線照射で発生する発光を、0.1秒間隔のリアルタイム画像として得ることに成功しました。また得られた発光画像から、陽子線ビーム照射発光の積算画像も得られました(図2)。

図2 Tシャツを着せたマネキン(白黒画像)と陽子線ビーム照射発光の積算画像(カラー表示の部分)

研究の波及効果や社会的影響

本研究により、陽子線ビーム照射中に衣服表面のリアルタイム発光画像を得ることが可能になりました。ポリエステル生地や衣類は柔らかく自在に曲がり、また縫い合わせることで任意の形状にすることが可能です。放射線治療を受ける患者さんにフィットするポリエステル製のシャツを着てもらうことで放射線照射による患者表面の発光を画像化できる可能性があります。またポリエステル生地や衣類は、衣料用に大量生産されているので低コストです。

これまでシンチレータというと、固く曲がらないものがほとんどでした。しかしポリエステル製の生地や衣類は自在に変形することから、今回発見した放射線照射発光現象は、これまでと異なる用途の広がりが期待されます。

今後の課題

今回、ポリエステル製の衣類を用いて、陽子ビームを0.1秒間隔でリアルタイム画像として観察できるようになりました。明るい環境で、より短い時間で陽子ビームを画像化するには、放射線照射発光の多い材料開発が必要です。陽子線以外にも、治療用X線や電子線、さらには診断用X線装置やCT装置の放射線照射位置リアルタイム計測にも応用できる可能性があるので、今後、画像化実験を進めます。

研究者のコメント

市販の廉価なポリエステル製の生地や衣類が放射線照射で発光することを発見できたのは大変幸運でした。この研究成果は、これまでシンチレータは硬くて変形しないのが常識の中で、柔らかく変形可能、さらに種々の形状に比較的容易に加工することが可能なシンチレータを実現したという新しさがあると思います。今後、さらに高性能で変形可能な新しいシンチレータ開発とその応用研究を積極的に進めていきます。

用語解説

1 放射線治療
放射線を用いて患者のがんを治療する方法。放射線の種類としては、X線やガンマ線、粒子線などが使われる。

2 チェレンコフ光
荷電粒子が光よりも速い速度で物質を通過するときに発生する光。放射線治療におけるX線や電子線照射で発生するので、画像化して放射線治療に応用する研究がおこなわれている。

 シンチレータ
放射線があたることにより発光する物質。放射線の検出や画像化するときに用いられる。

論文情報

雑誌名 :Scientific Reports
論文名 :Scintillation of polyester fabric and clothing via proton irradiation and its utilization in surface imaging of proton pencil beams
執筆者名:Seiichi Yamamoto1)*, Tomohiro Yamashita2), Masao Yoshino3), Kei Kamada3), Akira Yoshikawa3), Teiji Nishio4), Jun Kataoka1)

1.早稲田大学 理工学術院 山本 誠一 (論文責任著者)、片岡 淳
2.神戸陽子線センター 山下 智弘
3.東北大学 未来科学技術共同研究センター 吉野 将生、鎌田 圭、吉川 彰
4.大阪大学 大学院医学系研究科 西尾 禎治

掲載日:2024 年6月12日
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-024-62456-7

研究助成

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造推進事業 ERATO「片岡ラインX線ガンマ線イメージング」(R3~8年度;グラント番号 JPMJER2102)、科学研究費補助金基盤研究(B)「チェレンコフ光閾値以下のエネルギーの放射線照射による水の発光現象の医療応用」(R4~8年度;グラント番号22H03019)、および科学研究費補助金基盤研究(A)「マイクロ共晶体構造を応用した量子線弁別型超高解像度イメージング装置の開発」(R1~5年度;グラント番号19H00672)の支援を得て実施したものです。

NEDO「エネルギー・環境分野における革新的技術の国際共同研究開発」に採択

著者: contributor
2024年7月2日 17:18

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募する2024年度「エネルギー・環境分野における革新的技術の国際共同研究開発」に、本学理工学術院 小柳津研一教授の提案が採択されました。21件の提案に対し、外部有識者による厳正なる採択審査及びNEDO内の審査を経て9件が採択されたなかの1件となります。

採択課題

  • 小柳津 研一(理工学術院 教授)
    非金属系蓄電物質を用いた系統用次世代レドックスフロー電池に関する国際共同研究開発
    (研究開発課題名:希少金属に依存しない系統用次世代レドックスフロー電池に関する国際共同研究開発)

 

「エネルギー・環境分野における革新的技術の国際共同研究開発」について

地球温暖化問題の解決のためには既存のエネルギー技術開発の延長のみでは不十分であり、世界共通の地球規模の課題である気候変動問題に対応しつつ、経済の成長を図っていくため(環境と成長の好循環)には、国内外の先進的技術などを活用しながら、エネルギー・環境分野におけるイノベーションの創出を図っていくことが重要です。
本事業は、国内外の先進的技術等を活用しながら、2040年以降の実用化につながる新たな革新的エネルギー・環境技術を産み出していくイノベーションの創出を図ることで、我が国が主導する形で世界共通の地球規模課題である気候変動問題に対応しつつ、同時に我が国の経済成長に貢献することを目指します。
NEDO webサイトより)

▶ 研究開発課題一覧(PDF

試行錯誤で学んだことで起きてしまう判断のバイアスは世界共通

著者: contributor
2024年7月2日 17:16

試行錯誤で学んだことで起きてしまう判断のバイアスは世界共通

発表のポイント

  • 人間は試行錯誤によって学習しますが、場合によっては最適でない判断をすることがあります。異なる社会経済的・文化的背景において、学習によって起きる判断のバイアスがどのように現れるかはわかっていませんでした。
  • 経済的判断の傾向に関する調査の結果、情報を把握した上で行う意識的な判断においてリスクを回避する傾向は国によって違いがありましたが、試行錯誤の学習によって生じたバイアスには社会経済的・文化的背景の影響が見られませんでした。
  • この研究結果は、多様な背景を持つ個人がどのように意思決定をしているのかについて明らかにしたもので、産業界や政策立案者にも貴重な洞察を提供すると思われます。

概要

パリ高等師範学校のHernán Anlló博士、Stefano Palminteri教授と早稲田大学理工学術院の渡邊克巳教授らの研究グループは、社会経済的・文化的背景が異なる11カ国の人々の経済的判断の傾向を調査し、明示的な情報にもとづいたリスク回避の傾向などは国によって違いがあっても、試行錯誤を通じた学習による行動のバイアスにはほとんど違いが見られないことを明らかにしました。

本研究成果は、英国科学誌『Nature Human Behaviour』に、2024年6月14日(現地時間)にオンラインで掲載されました(論文名:Comparing experience- and description-based economic preferences across 11 countries)。

これまでの研究で分かっていたこと

人間を含む動物は、試行錯誤によって学習します。これを強化学習※1といいます。強化学習は本来、報酬を多くし、罰を少なくするという単純な目的を持っています。しかし文脈によっては最適でない判断につながることが知られていました。強化学習は、医療、教育、経済、経営、政策などの分野に広範な影響を及ぼすにもかかわらず、異なる社会経済的・文化的背景などが、強化学習にどのように影響するかは分かっていませんでした。

今回の新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、そのために新しく開発した手法

この疑問を解決するために、強化学習における文脈効果を確実に捉える実験的アプローチを用いて、社会経済的・文化的に異なる11カ国の人々の経済的判断の傾向を調査しました。

(実際の報酬ではなく例えになりますが)、
A:75%で一万円(期待値※2=7500円)
B:25%で一万円(期待値=2500円)
C:75%で一千円(期待値=750円)
D:25%で一千円(期待値=250円)

をもらえる選択肢があったとします。このような選択肢の「〜%で〜円」の部分を明示的に示して判断させる「宝くじ課題」では、「AとB」のどちらか、「CとD」のどちらかを選ばせると、当然期待値の高いAとCを選びます。これを何度も繰り返した後に、今度は「AとD」「BとC」をペアにして選ばせても、AとCを選びます。ただし、このような意識的な判断の時に、報酬を得られないというリスクを回避する傾向(例えば「BとC」をペアとしたときに、期待値は低いが報酬を得られる確率は高いCを選択する傾向)は国によってかなり違っていました。

一方、「〜%で〜円」の部分を明示的に示さずに、試行錯誤によって学習させる「強化学習課題」も行いました。「AとB」「CとD」の組み合わせで学習し、期待値の高いAとCを選ぶようになった後に、「AとD」「BとC」をペアでどちらを選ぶかをみると、「AとD」ではAを選ぶのですが、「BとC」だと確率的には期待値の低いCを選ぶことのほうが多くなりました。さらには、このような最適でない行動をする程度は、今回調べた全ての国でほとんど違いが見られませんでした。

つまり、経済的判断において、情報を説明された上で行う意識的な判断は社会経済的・文化的背景によって違いが出てきますが、強化学習によって(おそらく無意識的に)形成される行動は、ほとんど影響を受けないことが示唆されます。

研究の波及効果や社会的影響

日本人はリスクをとらない傾向が強いと言われることがあります。例えば、1億円が当たる確率が1%の方が、5万円が当たる確率が50%の場合よりも、期待値という点では優れています。でも、報酬を得られないことを避ける傾向が高ければ、2番目の選択肢がより高い効用を持つように見えるかもしれません。

しかしながら、本研究はこのような明確に情報が与えられた時の判断と、個人が試行錯誤の結果学んだ行動にはズレがあるということを示しています。この結果は、個人の意思決定だけではなく、医療・教育・経済・経営・政策などより大きな枠組みを捉えるときも重要な知見となります。

今後の課題

本研究は、社会がグローバルな結びつきを強める中、人間の意思決定を支える共通の基盤としての強化学習を調べたものになります。この研究結果は、多様な背景を持つ個人がどのように複雑な意思決定をしているのかについて明らかにし、産業界や政策立案者にも貴重な洞察を提供するものだと考えています。今回は国というものを、文化的・経済的背景を表すものとして一時的に用いましたが、今後はさまざまな集団や個人差なども考慮して、人間の意思決定の普遍的な部分と多様性を解明していきたいと考えています。

研究者のコメント

私たちの判断や気持ち、行動が文化・環境に影響されるという説は、さまざまな場面で語られることがありますが、動物としての人間がもつ基礎的なプロセスと複雑に絡み合っていて、「どの側面でどの程度」という捉えをしなければ、実際に役には立ちません。「日本人だから」「遺伝が全てだ」「人はそれぞれ違う」「人はみんな同じ」など単純な言い切りをせずに、研究を通じて丁寧に紐解いていくことが必要だと思います。

用語解説

※1 強化学習
報酬に基づく試行錯誤を通じた学習。獲得した経験に基づいて行動することを可能にするメカニズムや行動のこと。

※2 期待値
1回の試行で確率的に得られる値の平均値。期待値がより高くなる選択をすることが、確率的に「良い」選択といえる。

論文情報

雑誌名:Nature Human Behaviour
論文名:Comparing experience- and description-based economic preferences across 11 countries
執筆者名(所属機関名):Hernán Anlló(パリ高等師範学校/早稲田大学) ―他24名― Katsumi Watanabe (早稲田大学)、Stefano Palminteri(パリ高等師範学校)
掲載日時(現地時間):2024年6月14日
掲載URLhttps://www.nature.com/articles/s41562-024-01894-9
DOI10.1038/s41562-024-01894-9

研究助成

研究費名:ムーンショット型研究開発事業
研究課題名:非接触表面情報からの身体運動を伴う場合の心身状態の推定
研究代表者(所属機関名):渡邊克巳(早稲田大学)

研究費名:科研費基盤(A)
研究課題名:クロスモーダル型人間拡張技術の知的基盤の構築
研究代表者名(所属機関名):渡邊克巳(早稲田大学)

貴金属原子を孤立させた金属ナノ多孔体

著者: contributor
2024年6月25日 13:32

貴金属原子を孤立させた金属ナノ多孔体

本研究のポイント

  • アモルファス(非晶質)注1)骨格の金属ナノ多孔体注2)上での置換メッキにより貴金属シングルアトム(単一原子)を析出
  • 高い表面積の支持体を利用することで、貴金属原子を12 wt%程度まで導入させることに成功
  • 高活性な水素発生電極触媒として機能し、高い安定性を保持

研究概要

名古屋大学大学院工学研究科の山内 悠輔 卓越教授、Yunqing Kang(カン ユンチン)外国人特別研究員(JSPS)、早稲田大学理工学術院の朝日 透 教授らの研究グループは、豪州クイーンズランド大学との共同研究で、アモルファス(非晶質)の金属骨格からなるナノ多孔体を支持体として用いて、貴金属原子を均一に孤立分散させる方法を提案しました。

特に、原子レベルで分散した白金族金属注3)の原子は独特の幾何学的構造を持ち、高い原子利用効率を実現できるため、次世代ナノ触媒注4)として非常に有望です。近年では、カーボン支持体注5)に単核の金属活性点が固定化されたシングルサイト触媒注6)が注目されていますが、多くの場合、これらの金属はイオン状態であり、カーボン支持体とは配位結合しています。そのため、構造的な安定性に欠けるなどの問題がありました。

本研究では、均一に白金原子を分散させる理想的な支持体として、均一なメソ細孔を持ち、骨格がアモルファス状態のニッケルで構成されたナノ多孔体を提案しました。高い表面積を有する支持体上での置換メッキ注7)により、白金原子が孤立形成し、最大で12 wt%までの均一に分散させることが可能になりました。Pt原子とNi原子は金属結合で結ばれており、優れた電気触媒による水素発生性能を示し、長時間にわたり安定した状態でした。また、本手法により他の金属原子や複数の種類の金属原子なども同時に孤立して形成させることもでき、シングルサイト触媒の新たな合成法として今後注目されると期待しています。

本研究成果は、2024年6月21日付オープンアクセス雑誌「Science Advances」にて掲載されました。

左から(早稲田大学)朝日透教授、(名古屋大学)Yunqing Kang外国人特別研究員、山内 悠輔卓越教授

研究背景と内容

原子レベルで分散された金属は、その高い金属利用効率と独自の幾何学的構造により、様々な触媒用途のための有望な材料として注目されています。特に、白金族金属は、単一原子(シングルアトム)を形成する場合,非常に高い触媒活性を示しますが、その一方で不安定になりやすいという課題があります。

この問題を解決するための効果的な手法の一つとして、特定の支持体上にシングルアトムを形成させ、それらの相互作用を強化することで触媒活性を調整する方法が挙げられます。そのため、優れた触媒活性を持ちながらも、高価な金属の利用効率を最大化できるため、原子レベルで分散された貴金属原子を高い担持量で導入する新規触媒の研究が盛んに行われています。

これまで、窒素含有カーボン複合材料、金属酸化物、金属硫化物などの様々な支持体がシングルアトムをうまく分散させる理想的な基質として広く研究されてきました。しかし、これらの支持体上では、多くの場合、シングルアトムの酸化状態(金属イオンの状態)を形成しています。別の手法として、単一原子合金を形成する方法があります。この合金中では、ゲスト金属原子が他の金属基質によって隔離され孤立状態になっているため、お互いの金属は金属結合でつながっています。これまでに、Pt/Ni(Ni基質へのPt孤立原子の導入)、Pt/Cu、Ir/Co、Pd/Cuなど報告されてきましたが、すべての基質はナノ構造を持たないものや結晶性ナノ粒子に限定されているため、多くのシングルアトムを導入できませんでした。

本研究では、アモルファス骨格を有するナノポーラスニッケル(Ni)を支持体として用いて、置換反応によって生成された原子レベルで均一に分散したPt原子を導入することに成功しました。高い表面積を有する支持体上での置換メッキにより、白金原子が形成し、最大で12 wt%までの白金原子を均一に分散させることが可能になりました(図1,図2)。Pt原子とNi原子は金属結合で結ばれており、長時間にわたり安定で、優れた電気触媒による水素発生性能を示します。

図1. (A) 低倍率の走査型電子顕微鏡(SEM;スケールバー:1 μm)、(B) 高倍率のSEM(スケールバー:500 nm)、(C) 生成物のイラスト図、(D) 透過型電子顕微鏡(TEM)画像(スケールバー:100 nm)、(E) HAADF-STEM像(スケールバー:50 nm)、(F) 元素マッピング(スケールバー:500 nm)、及び(G) ラインスキャン元素マッピングプロファイル。

図2.(A) 粉末X線回折(XRD)パターン、(B) 高解像度HAADF-STEM画像(スケールバー:5 nm)、及び(C) (B)の選択領域の拡大HAADF-STEM画像(スケールバー:1 nm)。赤い円で囲まれた明るい点は、原子レベルで分散された白金原子の位置を示している。

成果の意義

貴金属は、その高い触媒活性から広く利用されていますが、原子レベルで分散させたシングルアトム触媒は、貴金属の利用効率を最大限に引き出すために非常に有望であります。シングルアトム触媒は、原子一つ一つが活性点となるため、触媒表面全体で効率的に反応を進めることができます。さらに、本研究ではこれらを高い表面積を持つナノ多孔体に担持することで、高い導入量を実現しながら、安定した性能を維持することが可能になりました。

本研究成果により、水素生成反応やその他のエネルギー変換プロセスにおいて、高効率で耐久性のある触媒を提供することが期待されます。また、貴金属の効率的な利用を促進することで、経済的かつ環境に優しい触媒システムの開発にも貢献すると期待されます。

 

本研究は、2020年10月から始まったJST-ERATO『山内物質空間テクトニクスプロジェクト』の支援のもとで行われたものです。

用語説明

注1)アモルファス(非晶質):
原子が規則正しく並んでおらず、結晶構造を持たず、無秩序に配置されている状態を特徴とする。これにより、特定の物理的特性や化学的特性が生じ、さまざまな応用分野で重要な役割を果たしている。

注2)ナノ多孔体:
ナノメートル(1ナノメートル=10億分の1メートル)スケールの細孔(ポア)を持つ材料のことを指す。これらの細孔は、材料全体の特性に大きな影響を与え、特に表面積の増大や物質の吸着、触媒反応、分子の分離などの応用において重要。

注3)白金族金属(Platinum Group Metals, PGM):
周期表の第5族および第6族に属する6つの貴金属を指す。具体的には、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)。これらの金属は、化学的性質や物理的性質が類似しており、特に触媒としての優れた性能から広く利用されている。

注4)ナノ触媒:
ナノメートル(1ナノメートル=10億分の1メートル)サイズの粒子を持つ触媒のこと。その極小サイズによって特有の物理的、化学的特性を持ち、従来の触媒よりも高い触媒活性や選択性を示すことが多い。

注5)支持体:
触媒における支持体とは、触媒活性物質を保持し、その分散を助けるための材料のこと。

注6)シングルサイト触媒:
触媒活性の中心となる金属原子が単一の原子として存在する触媒のことを指す。

注7)置換メッキ(ちかんめっき):
ある金属基質上に別の金属を析出させる化学プロセスの一つ。このプロセスでは、基質となる金属が溶液中の別の金属イオンと化学的に反応し、基質の表面に新しい金属が析出することによって、メッキ(薄い金属層)が形成される。この反応は、基質金属の溶解と新しい金属の析出が同時に進行するため、置換メッキと呼ばれる。

(8)論文情報

雑誌名: Science Advances
論文タイトルMesoporous amorphous non-noble metals as versatile substrates for high loading and uniform dispersion of Pt-group single atoms
著者:Yunqing Kang(外国人特別研究員)(名古屋大学), Shuangjun Li, Ovidiu Cretu, Koji Kimoto, Yingji Zhao, Liyang Zhu, Xiaoqian Wei, Lei Fu, Dong Jiang, Chao Wan, Bo Jiang, Toru Asahi(早稲田大学), Dieqing Zhang, Hexing Li, Yusuke Yamauchi(名古屋大学)
URLhttps://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.ado2442
DOI:10.1126/sciadv.ado2442

土壌中のナノプラスチック濃度の測定技術を開発

著者: contributor
2024年6月14日 15:13

土壌中のナノプラスチック濃度の測定技術を開発
地圏環境中に拡散したプラスチック粒子量分布の把握に貢献

ポイント

  • 紫外可視分光光度計を用いて、土壌中のプラスチック濃度を簡便に測定する技術を開発
  • 従来法では検出が困難だった大きさ1 µm以下のナノプラスチックに対応
  • 地圏環境中のナノプラスチック量分布を基に、ヒトへのプラスチック暴露量の評価に貢献

土壌中にあるナノプラスチックのイメージ

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門 地圏環境リスク研究グループ 土田 恭平 研究員(現在 早稲田大学大学院創造理工学研究科地球・環境資源理工学専攻博士課程在籍)、井本 由香利 主任研究員、斎藤 健志 主任研究員、原 淳子 研究グループ長、早稲田大学創造理工学部環境資源工学科 川邉 能成 教授は、土壌中のナノプラスチックの濃度を測定する技術を開発しました。

近年、増え続けるプラスチックごみが社会問題となっています。とりわけ、大きさ1 µm以下のプラスチックはナノプラスチックと呼ばれ、人体への影響が懸念されています。ナノプラスチックは摂取や吸入などによって人体に取り込まれると考えられているため、ヒトへのリスク評価のためにも土壌を含む地圏環境にどれだけの濃度で分布しているかを知る必要があります。しかし、従来手法で検出できる土壌中プラスチックの最小サイズは約1 µmであるため、土壌中のナノプラスチック※1の分布状況は明らかになっていません。

今回開発した技術は、ナノプラスチックと土壌粒子の吸光度スペクトル※2の差を利用して、土壌有機物や土粒子とナノプラスチックを分離せずに、従来法では難しかった土壌試料中のナノプラスチック濃度を算定します。
なお、今回の成果の詳細は、2024年5月28日に「Ecotoxicology and Environmental Safety」に掲載されました。

開発の社会的背景

ごみの不法投棄や河川の氾濫、農耕地でのプラスチックの利用、建築土木利用された資材の劣化や摩耗などに起因して、マイクロプラスチック※3が環境中へ流出していることが報告されています。陸上に存在するマイクロプラスチック量は海洋の4~23倍と推定されており、土壌中に多量のマイクロプラスチックが存在している可能性があります。また、ナノプラスチックはマイクロプラスチックが粉砕されることで生成され、マイクロプラスチックと同様に土壌中に存在していると考えられます。

ナノプラスチックは赤血球を破壊し、細胞に侵入してミトコンドリアDNAに損傷を与えることが明らかになっています。ナノプラスチックはマイクロプラスチックよりも人体への影響が大きい可能性があるため、土壌を含む地圏環境中のナノプラスチックの存在量を明らかにすることで暴露※4・リスク評価を行う必要があります。土壌中の微小なプラスチックの濃度を測定する従来の手法では、土壌試料を適切に前処理した後に土粒子と比重分離を行い、フィルターでプラスチックを回収します。この方法では、フィルターや装置の性能から1 µm以上の大きさのプラスチック粒子しか検出できないため、土壌中のナノプラスチックの分布状況は明らかになっていません。よって、ヒトへのナノプラスチックの暴露量評価をより詳細に行うために、土壌中ナノプラスチックの濃度評価手法を確立する必要がありました。

研究の経緯

産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門 地圏環境リスク研究グループは、環境中のプラスチックのリスク評価を目指しており、プラスチックと化学物質との相互作用や、プラスチックの土壌中での移動性の解明、環境中のプラスチック分布状況の調査を行ってきました。今回はマイクロプラスチックより人体への影響が大きい可能性があるナノプラスチックの地圏環境中の分布を明らかにするために、土壌中のナノプラスチックの濃度測定技術を開発しました。

研究の内容

本研究では、粒度分布や有機物の含有量など特性の異なる6種類の土壌サンプルと203 nmのポリスチレンの微小な粒子を混合して6種類の土壌懸濁液(ポリスチレン濃度5 mg/L)を用意しました。土壌粒子とナノプラスチックの吸光度スペクトルは図1のように異なるため、1つの土壌懸濁液に対して2つの波長の吸光度を測定することで、懸濁液中の土壌とナノプラスチックのそれぞれの濃度を定量できます。今回の6種類の土壌懸濁液に対して200 nmから500 nmまでの範囲で20 nm間隔で異なる2つの波長の組み合わせを試しました。その結果、波長220~260 nmおよび波長280~340 nmの吸光度での組み合わせで、算出されるナノプラスチック濃度とサンプル濃度の5 mg/Lとの差が最小になりました。これら2つの範囲の波長の組み合わせがさまざまな性質の土壌懸濁液中のナノプラスチック濃度を算定するのに適していると考えられます。

また、ナノプラスチック含有量の異なる乾燥土壌サンプルを用意し、これらの試料から土壌懸濁液を作成しナノプラスチック濃度を測定することで(図2)、土壌懸濁液中のナノプラスチック濃度と乾燥土壌中のナノプラスチック濃度との検量線を作成しました。この検量線はナノプラスチックの土粒子への吸着を考慮したものであり、直線関係を示していました。以上から、ナノプラスチックの土粒子への吸着を考慮した検量線を作成することで、もとの土壌中のナノプラスチック濃度を正確に測定できることが分かりました。また、本技術の測定下限を明らかにするため、さまざまなナノプラスチック含有量の乾燥土壌サンプルを用意し本技術でナノプラスチック濃度を算出したところ、土壌中ナノプラスチック濃度が0.2 mg/g以上のとき、用意した6種類すべての土壌ナノプラスチック濃度を変動係数10%以内の誤差で測定できました。これにより紫外可視分光光度計※5を用いた乾燥土壌中ナノプラスチック濃度測定は、測定下限0.2 mg/gで有効であると示されました。

図1 ナノプラスチックと土壌の吸光度スペクトル ※原論文の図を引用・改変したものを使用しています。

図2 土壌中ナノプラスチック濃度測定の流れ ※原論文の図を引用・改変したものを使用しています。

今後の予定

今回開発した技術により、環境土壌におけるポリエチレンやポリエチレンテレフタラートなどのナノプラスチックを定量し、地圏環境におけるナノプラスチック分布とその移動について明らかにしたいと考えています。

論文情報

掲載誌:Ecotoxicology and Environmental Safety
論文タイトル:A novel and simple method for measuring nano/microplastic concentrations in soil using UV-Vis spectroscopy with optimal wavelength selection.
著者:Kyouhei Tsuchida, Yukari Imoto, Takeshi Saito, Junko Hara, Yoshishige Kawabe
DOIhttps://doi.org/10.1016/j.ecoenv.2024.116366

用語解説

※1 ナノプラスチック
大きさが1千分の1 mm(1 µm)以下のプラスチック。マイクロプラスチックより人体への影響が大きいと懸念されている。

※2 吸光度スペクトル
物質が各波長の光をどの程度吸収するかを表したグラフ。

※3 マイクロプラスチック
大きさが5 mm以下のプラスチック。環境中への流出が問題視されている。

※4 暴露
物質が体内に入ること。体内への侵入経路は呼吸や飲食などのほかに皮膚接触なども考えられる。

※5 紫外可視分光光度計
紫外から可視領域までの光を試料に照射することにより、各波長に対する試料の透過率を取得する装置である。特定の波長において対象物が光を吸収する値が異なる特性を利用して、幅広い分野で化学分析に利用されている。

物質中の創発磁気モノポールが示す新規な集団振動現象を発見

著者: contributor
2024年6月3日 14:11

物質中の創発磁気モノポールが示す新規な集団振動現象を発見
約100年前に予言された幻の素粒子「磁気モノポール」の理解につながる一歩へ

発表のポイント

  • 近年の実験である種の磁性体において発見された磁気モノポールのように振る舞う特殊な3次元磁気構造「(アンチ)磁気ヘッジホッグ」が、光に応答して示す新規な集団振動現象を理論的に発見し、その性質を解明しました。
  • これまで、磁気ヘッジホッグ格子が光やマイクロ波によってどのように駆動され、物質中に創発電場・創発磁場(創発電磁場)を生み出すのかは未解明な問題でした。
  • 本成果により、約100年前に提唱された幻の素粒子「磁気モノポール」の理解に向けた物性物理学と素粒子物理学を横断する研究の進展に期待が高まるともに、技術応用としても、ナノサイズの発電素子や光やマイクロ波を電気信号や電圧に変換する素子への応用や、新しい光/マイクロ波素子機能の開拓などの研究・開発の促進につながることが望まれます。

図1.(a) L2モードにおけるディラック弦Bの振動の様子。(b) L3モードにおけるディラック弦Aの振動の様子。弦上端と下端のヘッジホッグとアンチヘッジホッグが同位相で振動し、弦は上下に並進振動を起こす。

早稲田大学大学院先進理工学研究科の衛藤倫太郎(えとうりんたろう、博士課程2年/日本学術振興会特別研究員DC1)と、同大理工学術院教授 望月維人(もちづきまさひと)の研究グループは、磁気ヘッジホッグ格子に光を照射したときに期待される集団運動の性質を、微視的な理論モデルを用いた数値シミュレーションにより調べました。その結果、磁気モーメントの特殊な空間配列パターンとして磁性体中に現れる創発的な磁気モノポール格子に光を照射すると、磁気モノポールとアンチ磁気モノポールが一斉に位相を揃えて振動する集団振動現象が起こることを理論的に発見しました。

本研究成果は、米国のアメリカ物理学会が発行する国際科学ジャーナル『Physical Review Letters』誌に、2024年5月31日(金)(現地時間)にオンラインで掲載されました(論文名:Theory of Collective Excitations in the Quadruple-Q Magnetic Hedgehog Lattices)。

これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

磁石では、磁力線の湧き出しであるN極と吸い込みであるS極は必ずペアになって存在し、N極あるいはS極のどちらか一方だけを取り出すことはできません。1931年にイギリスの理論物理学者ポール・ディラックは、量子力学と電磁気学の研究から、ある条件のもとではN極だけ、あるいはS極だけの素粒子が存在し得るという理論を提唱しました。ディラックが予言したこれらの素粒子は「磁気モノポール」と「アンチ磁気モノポール」(※1)と呼ばれ、多くの実験研究者によって探索が行われましたが、現在に至るまでまだ発見されていません。

一方、近年の実験である種の磁性体において「磁気ヘッジホッグ」と「アンチ磁気ヘッジホッグ」(※)と呼ばれる特殊な3次元磁気構造が実現していることが発見されました[2(a),(b)]。これらの磁気構造は、物質中を動き回る伝導電子が磁場として感じる仮想的な場「創発磁場」(※)の湧き出し(N極)と吸い込み(S極)として振る舞うため、仮想的な磁気モノポールとアンチ磁気モノポールと見なすことができます。さらに、これらの磁気ヘッジホッグとアンチ磁気ヘッジホッグは、しばしばそれらが周期的に並んだ磁気ヘッジホッグ格子(※)と呼ばれる構造を構成します。このような磁気ヘッジホッグ格子は、最近、マンガン化合物であるMnGeやMnSi1-xGex、鉄酸化物であるSrFeO3といった物質で相次いで発見されています。

磁気ヘッジホッグ格子に関するこれまでの研究では、平衡状態の性質の解明に主眼が置かれていました。一方、発電機の原理にもなっている「磁場が時間変化すれば電場が生じる」という電磁気学の基礎知識から、磁気モノポールやアンチ磁気モノポールの位置が時間的に変化すれば電場が生じることが分かります。つまり、磁性体中の磁気ヘッジホッグやアンチ磁気ヘッジホッグを光やマイクロ波の振動磁場で揺さぶることができれば、伝導電子に作用する有効的な電場「創発電場」(※)が発生するはずです。このような現象はナノサイズの発電素子や光やマイクロ波を電気信号や電圧に変換する素子への応用が期待できます。

さらに、磁気ヘッジホッグ格子の集団運動を明らかにすることで、光やマイクロ波による磁気ヘッジホッグの生成、消去、駆動といった制御・操作技術の開発や、磁気ヘッジホッグ格子を活用した新しい光/マイクロ波素子機能の開拓が期待できます。ある物質中で光やマイクロ波に応答して特定の周波数の振動現象が起こるということは、その周波数を持つ光やマイクロ波をその物質に照射すると、振動を引き起こすことでエネルギーを失い、結果的にその物質に吸収されてしまうことになります。一方で、例えば磁場をかけてこの振動現象を抑える、あるいはなくしてしまうことができれば、照射した光やマイクロ波は振動を引き起こすことなく(エネルギーを失うことなく)その物質を透過できることになります。つまり、磁場のオン・オフによって光やマイクロ波がその物質を透過する・しないを切り替えることが可能になるわけです。

このように様々なエレクトロニクス応用が期待されるため、磁気ヘッジホッグ格子が光やマイクロ波に応答してどのような振動現象や振動パターンを示すのかは基礎科学と技術応用の両方の観点から重要な問題です。しかし、これまでにそのような問題に取り組んだ研究は実験的にも理論的にもほとんどなく、未解明の謎として残っていました。

図2: (a),(b) 磁気ヘッジホッグとアンチ磁気ヘッジホッグの磁化配列(赤矢印と青矢印)と創発磁場の分布(緑矢印)。磁気ヘッジホッグでは磁場が中心から湧き出しており、アンチ磁気ヘッジホッグでは磁場が中心に吸い込まれている。(c) ヘッジホッグとアンチヘッジホッグを繋ぐ磁気渦糸(ディラック弦A)の構造。(d),(e) 磁気ヘッジホッグ格子におけるヘッジホッグとアンチヘッジホッグの空間配置。マゼンタの点とシアンの点がそれぞれヘッジホッグとアンチヘッジホッグを表している。また、それを繋ぐ線はディラック弦を表す。磁化の巻き方に応じて2種類のディラック弦(赤線:ディラック弦A, 青線:ディラック弦B)がある。ゼロ磁場および低磁場の磁気ヘッジホッグ格子ではディラック弦AとB両方が存在するが(d)、磁場を印加するとディラック弦Bが消滅し、ディラック弦Aのみが存在する磁気ヘッジホッグ格子が現れる(e)。

今回の新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、新しく開発した手法

そこで本研究では、磁気ヘッジホッグ格子に光を照射したときに期待される集団運動の性質を、微視的な理論モデルを用いた数値シミュレーションにより調べました。

ところで、磁気ヘッジホッグ格子では、磁気ヘッジホッグとアンチ磁気ヘッジホッグはディラック弦と呼ばれる渦糸状の磁化配列で繋がっています[2(c)]。この図にあるように、磁気ヘッジホッグの真下にある正方格子上の4つの磁気モーメントはらせんを描くように下に降りていきアンチ磁気ヘッジホッグへとつながっていきます。このような磁化配列の渦糸構造と表現しますが、らせんには右巻と左巻があるため、ディラック弦にも右巻と左巻の2種類があることになります。一つの物質中に必ずしも2種類のディラック弦が現れるとは限りませんが、本研究で取り扱ったMnSi1-xGexやSrFeO3などの物質で実現している磁気ヘッジホッグ格子[2(d), (e)]では、磁気渦糸の巻き方が異なる2種類のディラック弦(AとB)が存在するため、多彩な電磁応答が期待できます。

研究の結果、テラヘルツから数百ギガヘルツ(※)の周波数帯に3つの固有の周波数を持った特徴的な振動パターン(固有振動モード)が存在することを発見し、L1、L2、L3と名付けました[3]。さらに詳しく調べた結果、これらの振動パターンでは、ディラック弦の上端と下端についている磁気ヘッジホッグとアンチ磁気ヘッジホッグが同位相で振動しているため、ディラック弦が上下に振動する並進振動が実現していることが分かりました[1]。我々は、コイルに棒磁石を近づけたり遠ざけたりすると電圧が生じ電流が流れることを知っていますが、今回発見したディラック弦の並進振動は、この場合の棒磁石の運動と同じ動きになっています。つまり、光を照射された磁気ヘッジホッグ格子では、無数のナノサイズの棒磁石が数百ギガヘルツの高速でそのような振動運動を起こしていることになります。

さらに興味深いことに、3つの振動パターンのうち、L2モードはディラック弦Bの振動に、L3モードはディラック弦Aの振動に対応していることを発見しました。その結果、磁場をかけることで磁気ヘッジホッグとアンチ磁気ヘッジホッグの対消滅が起こり、ディラック弦が消える場合、ディラック弦Bが消える場合にはL2モードが消失し、ディラック弦Aが消える場合にはL3モードが消失します。このことは、これらの振動モードや、誘起される創発電場のオン・オフ、モードと同じ周波数を持つ光やマイクロ波が透過するか・しないかを外部磁場によって切り替えられることを意味しています。これは物性現象として興味深いだけでなく、エレクトロニクス応用の観点からも重要な発見です。

図3: (a) 外部磁場の大きさに関する相図。ゼロ磁場および低磁場ではディラック弦AとB両方が存在する磁気ヘッジホッグ格子が現れる。磁場を大きくしていくと、ディラック弦Bに属するヘッジホッグとアンチヘッジホッグの対消滅が起き、ディラック弦Aのみで構成される磁気ヘッジホッグ格子に相転移する[図2(d),(e)も参照]。(b) 理論計算で得られた光吸収スペクトル。ピークが固有の周波数を持つ特徴的な振動パターン(固有振動モード)に対応しており、3つのモード(L1, L2, L3)が見て取れる。振動数の数値は規格化された単位系で書かれているが、これらのモードはおよそ数百ギガヘルツの周波数帯に現れている。ディラック弦の振動に対応するL2, L3モードを見てみると、ディラック弦A,B両方が存在する低磁場側の磁気ヘッジホッグ相ではL2, L3両方のモードが現れる。一方、弦Bが消滅し、弦Aだけで構成される高磁場側の磁気ヘッジホッグ相では弦B由来のL2モードが消失し、弦A由来のL3モードだけが残っている。

そのために新しく開発した手法

本研究ではまず、磁気ヘッジホッグ格子が実現している金属磁性体を記述するために、磁性体を構成する原子上の磁気モーメントと、それらの間に働く相互作用を媒介する伝導電子を考慮した近藤格子モデル(※)と呼ばれる数理モデルを構築しました。そして、磁化の運動を記述する方程式を用いてこのモデルを解析することで、磁気ヘッジホッグ格子に光やマイクロ波を照射した時に期待される特異な集団運動や振動現象の様子や性質を調べました。数値シミュレーションでは、数多くの磁気モーメントと伝導電子を取り扱うために計算コストが膨大になりますが、チェビシェフ多項式展開法(※)という高度な数値解析の手法を適用することで、研究を遂行しました。

研究の波及効果や社会的影響

本研究では、偉大な物理学者であるポール・ディラックが100年近く前に予言した幻の素粒子「(アンチ)磁気モノポール」と同じように振る舞う磁気構造「(アンチ)磁気ヘッジホッグ」が光に応答して示す集団振動現象を理論的に発見し、その性質を解明しました。

この研究成果には基礎科学の観点から次のような波及効果が期待されます。まず、本物の磁気モノポールは未だに発見されていませんが、磁気ヘッジホッグのような磁性体中の類似対象の振る舞いを調べることで、磁気モノポールが実際に存在した場合に期待される様々な性質や現象、機能を研究する新しい分野を切り拓くことが可能になります。このような研究は物性物理学と素粒子物理学の融合による新しい分野横断型の研究になることが期待されます。

また、電磁気学では長い間「電気と磁気」の双対性(※)が議論されてきました。つまり、「電場と磁場」、「電気双極子と磁気双極子」、「電流とスピン流」のように電気と磁気には互いの対応物があるという仮説です。ところが、「電荷」に対する磁気の対応物であるはずの「磁荷(磁気モノポール)」だけが実験で見つかっていません。今回、磁気ヘッジホッグの新しい性質や現象が発見されたことで、電気と磁気の双対性が完全に成り立つ「物質中の新しい電磁気学」が開拓されることを期待しています。

一方、今回の成果には高い技術応用上の意義もあります。磁場の時間変化や磁気モノポールの運動から電場が生じるように、磁気ヘッジホッグの運動もまた、伝導電子に作用する創発電場を生み出します。光やマイクロ波で磁気ヘッジホッグを駆動することで物質中に生み出される創発電場・創発磁場を活用した新しいデバイス機能の研究・開発が促進されることを期待しています。

今後の課題

本研究は、磁気ヘッジホッグ格子が光やマイクロ波に応答して示す新しい集団振動現象を実験に先駆けて理論的に発見し、その性質を明らかにしました。今後、MnSi1-xGexやSrFeO3などの実際の物質において、これらの結果を実験的に検証することが取り組むべき課題です。また、磁気ヘッジホッグの振動現象により発生する創発電場の性質を明らかにし、それに由来する興味深い物性現象や、それを活用した新しい物質機能を開拓することも重要な課題です。

研究者のコメント

本研究成果は、物質中の創発磁気モノポールに由来する固有の現象とその背後にある微視的メカニズムを明らかにしたという点で意義深いものです。本研究を皮切りに、物質中の創発磁気モノポールの性質や、それに由来する物性現象および物質機能の研究が今後活発に行われることを期待しています。

用語解説

※1 磁気モノポール
磁石のN極とS極のどちらか一方の性質のみを持つ粒子のこと。

※2 磁気ヘッジホッグ、アンチ磁気ヘッジホッグ
ある種の磁性体中に現れる図のような磁気モーメントの3次元配列。これらの磁気構造は交換相互作用を通じて伝導電子に働く仮想的な磁場(創発磁場)を生み出す。局所的な創発磁場の空間分布は、磁気ヘッジホッグでは湧き出し、アンチ磁気ヘッジホッグでは吸い込みになっており、それぞれ磁気モノポールとアンチ磁気モノポールに対応する。

※3 創発電磁場(創発磁場、創発電場)
金属磁性体中を動き回る伝導電子のスピンは、原子上に局在する磁気モーメントと相互作用し、各原子上で磁気モーメントと平行になろうとする。これにより伝導電子の波動関数はある種の位相を獲得するが、量子力学の枠組みから、その位相の積分値に対応する実効的な電磁場が伝導電子に作用することが分かる。この実効的な電場・磁場のことを創発電場・創発磁場と呼ぶ。特に創発磁場は近接する磁気モーメントが張る立体角の和に比例する。立体角の和が+4p(-4p)である磁気ヘッジホッグ(アンチ磁気ヘッジホッグ)は一つの磁束量子とみなすことができる。

※4 磁気ヘッジホッグ格子
磁気ヘッジホッグとアンチ磁気ヘッジホッグが空間周期的に配列した磁化構造のこと。その磁化配列は数学的には複数の螺旋状の磁化配列の重ね合わせで表現することができる。MnSi1-xGexやSrFeO3で観測されている磁気ヘッジホッグ格子は4つの磁気螺旋の重ね合わせで表現されるので4重波数磁気ヘッジホッグ格子、MnGeで観測されている磁気ヘッジホッグ格子は3つの磁気螺旋の重ね合わせで表現されるので3重波数磁気ヘッジホッグ格子と呼ばれる。

※5 テラヘルツ・ギガヘルツ
周波数の単位。1テラヘルツは1秒間に1兆回の振動、1ギガヘルツは10億回の振動を表す。

※6 近藤格子モデル
各原子に局在した磁化と、原子間を動き回る伝導電子を持つ金属磁性体を記述する数理モデル。伝導電子は局在磁化と交換相互作用を通じて結合すると同時に、局在磁化間に働く長距離交換相互作用を媒介する。近藤格子モデルではモデルパラメータを適切に選ぶと、磁気ヘッジホッグ格子を含む多彩な長周期の磁気構造を再現することができる。

※7 チェビシェフ多項式展開法
近藤格子モデルのような量子力学モデルの数値シミュレーションを効率的に行うための手法の一つ。量子力学の数値シミュレーションでは、通常、ハミルトニアンと呼ばれる非常に大きな行列を対角化する必要がある。特に、物理量の時間発展をシミュレーションする場合には、そのような対角化を何度も行う必要があるが、行列の対角化には膨大な計算時間を要する。そこで、物理量の表式を無数の多項式の和で表現することでハミルトニアン行列を対角せずにその物理量を計算する「多項式展開法」という手法が開発された。中でも、多項式として特に代数学において「チェビシェフ多項式」と呼ばれる多項式を使うと、物理量の表式が少ない多項式の和で表現できるため、効率的にシミュレーションを行うことができる。このような手法のことをチェビシェフ多項式展開法と呼ぶ。

※8 双対性
電磁気学の基礎方程式である4つのマクスウェル方程式では、磁気モノポール(磁荷)の存在を仮定すると電場と磁場、電荷と磁荷を入れ替えても等価な式が得られる。このような「電気」と「磁気」の対応関係を双対性と呼ぶ。

論文情報

雑誌名:Physical Review Letters
論文名:Theory of Collective Excitations in the Quadruple-Q Magnetic Hedgehog Lattices
(和訳:4重波数磁気ヘッジホッグ格子における集団励起の理論)
執筆者名(所属機関名):衛藤倫太郎 (早稲田大学大学院先進理工学研究科物理学及応用物理学専攻・博士課程2年/日本学術振興会特別研究員DC1)、望月維人 (早稲田大学理工学術院先進理工学部応用物理学科・教授)
掲載予定日時(現地時間):2024年5月31日(金)
掲載URL:https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.132.226705
DOI:https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.132.226705

研究助成

研究費名:国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進授業CREST
研究課題名:Beyond Skyrmionを目指す新しいトポロジカル磁性科学の創出
研究代表者名(所属機関名):于秀珍(理化学研究所)

研究費名:日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A)
研究課題名:スキルミオニクス創成に向けた基盤技術と材料の開拓(課題番号:20H00337)
研究代表者名(所属機関名):望月維人(早稲田大学)

研究費名:日本学術振興会 学術変革領域研究(A)「「学習物理学」の創成-機械学習と物理学の融合新領域による基礎物理学の変革」(公募研究)
研究課題名:スピン模型のトポロジカル相転移を検出する汎用的な機械学習手法の開発(課題番号:23H04522)
研究代表者名(所属機関名):望月維人(早稲田大学)

研究費名:日本学術振興会 学術変革領域研究(A)「キメラ準粒子が切り拓く新物性科学」(計画研究)
研究課題名:キメラ準粒子の理論(課題番号:24H02231)
研究代表者名(所属機関名):村上修一(東京工業大学)

研究費名:早稲田大学特定課題研究助成
研究課題名:電気磁気結合を利用した効率的な光誘起磁性スイッチング機能の理論設計(課題番号:2024C-153)
研究代表者名(所属機関名):望月維人(早稲田大学)

研究費名:日本学術振興会 特別研究員奨励費
研究課題名:トポロジカル磁性における磁気励起と光誘起現象に関する理論研究(課題番号:23KJ2047)
研究代表者名(所属機関名):衛藤倫太郎(早稲田大学)

【キーワード】
磁気ヘッジホッグ、磁気モノポール、創発電磁場、励起振動

新規ナノ構造体を基盤とするナノ注射器が拓く細胞治療の未来 1,000万個の細胞に複数タンパク質を「高効率」「高生存率」導入

著者: contributor
2024年5月16日 15:22

新規ナノ構造体を基盤とするナノ注射器が拓く細胞治療の未来
1,000万個の細胞に複数タンパク質を「高効率」「高生存率」導入

タンパク質を用いたがん治療およびNMR解析への利用を実証

発表のポイント
  • 導電性高分子と金属から成る複合ナノチューブシートを改良し、複数のタンパク質を細胞内に高効率・高生存率で導入するための新規ナノ構造体(ナノ注射器)を開発。
  • 再生医療分野で取り扱うために必要な細胞数である1,000万個以上の細胞に対して、導入効率89.9%、細胞生存率97.1%でタンパク質導入に成功。
  • 乳酸オキシダーゼ酵素(LOx)およびユビキチン(UQ)などの任意タンパク質を導入可能。
  • タンパク質導入によるがん細胞の死滅およびNMR解析に成功。

早稲田大学大学院情報生産システム研究科の三宅丈雄(みやけたけお)教授らの研究グループと理化学研究所生命機能科学研究センターの美川務(みかわつとむ)専任研究員らの研究グループは、2021年に報告した導電性高分子で被覆された金属製ナノチューブシート※1をこれまで細胞内に届けることが困難であったタンパク質向けに改良し、タンパク質の細胞内への輸送速度や細胞内での機能維持の向上を実現しました。本研究では、この技術を用いて、乳酸オキシダーゼ酵素(LOx)を正常細胞とがん細胞に導入し、がん細胞のみが死滅することを確認しました(図1)。実験では、酵素が細胞内まで届けられた場合は24時間後にがん細胞が3%まで死滅するのに対し、酵素を細胞内に届けない条件では33%残ることが確認されました。一方、安定同位体標識タンパク質(ユビキチン)を細胞内機能解析手法であるin-cell NMR解析※2に必要な1,000万個(107個)以上の細胞に対して、高効率および高生存率で導入することに成功しました。

以上は、科学研究費補助金、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「電子・イオン制御型バイオイオントロニクス」(JPMJPR20B8)、旭硝子財団の助成による成果であり、2024年5月14日(現地時間)に科学誌『Analytical Chemistry』にオンライン版で公開されました。
論文名:A Hybrid Nanotube Stamp system in Intracellular Protein Delivery for Cancer Treatment and NMR Analytical Techniques

図1.ナノ注射器でのタンパク質導入および細胞応用

(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

体外で細胞に物質を導入し、細胞を加工する技術開発は、再生医療および細胞治療におけるコア技術です。これまでは、化学/生物的手法(ウィルスベクター)と物理的手法(エレクトロポレーション)が利用されていましたが、これら手法は、細胞が外界から物質を取り込む作用であるエンドサイトーシスにより細胞内への取り込みを行うため、時間がかかる、効率が悪い、導入する過程で細胞が死んでしまうなどの課題を有していました。

こうした課題を解決するため、中空管のマイクロ/ナノニードルを細胞に挿入することで、目的の物質を細胞内に導入するナノ注射器に関する取り組みが盛んですが、開発が進むナノ注射器は単針であり、かつ、マイクロサイズの細胞に単針を挿入するマニュピレータが必要であるため、主に1細胞ごとに導入する必要がありました。そこで本研究グループは、ナノチューブを配列した2次元薄膜(シート)を開発し、本ナノチューブを細胞に刺入することで短時間、かつ、高効率に物質を細胞に届けるナノ注射器の開発に成功しました。さらに本研究では、このナノ注射器を用いることで、これまで物質導入が困難であった機能性タンパク質を再生医療分野で取り扱うために必要な細胞数(107個以上)に高効率および高生存率で導入できることを確認しました。さらに、本技術をがん治療やNMR解析などの細胞応用に利用できることを実証しています。

(2)今回の研究で実現したこと

本研究グループでは、これまで金属製のナノチューブを開発し、そこへ導電性高分子を被覆することでナノスケールの構造体(ナノ構造体)および物質輸送を制御できるナノ加工技術(新しいナノ材料)の開発に取り組んできました。さらに、新規ナノ構造体を基盤とするナノ注射器を開発し、細胞内に低分子(蛍光物質:約1nmサイズ)・中分子(タンパク質:約数nm)・高分子(細胞小器官:500nm以上)を導入する取り組みを実施してきました。
今回、複数のタンパク質を細胞内に高効率・高生存率で導入するためのナノ構造体を開発し、様々な細胞(がん細胞(HeLa))、マウス由来上皮細胞(NIH3T3)、ヒト由来繊維芽細胞(HPS)、脂肪由来幹細胞(MSC)、角膜上皮細胞(HCE-T)など)で実現できることを確かめました(図2)。

図2.新規ナノ構造体を基盤とするナノ注射器の開発とタンパク質導入結果

(3)性能評価

本技術を用いた2つの事例①乳酸オキシダーゼ酵素(LOx)導入によるがん細胞の死滅、②安定同位体標識タンパク質導入によるNMR解析を紹介します。

まず、①LOx導入によるがん細胞の死滅に関しては、原理はとてもシンプルで、細胞内でLOxが乳酸濃度に応じて過酸化水素(H2O2、強力な酸化剤)を生成し、その結果として細胞をアポトーシス(細胞の自然死)に導きます。図3に示したようにがん細胞(HeLa)と正常細胞(MSC)内の乳酸濃度は10倍程度異なるため、がん細胞の中では酵素反応によって過酸化水素 がより多く生成されることになります。本実験では、HeLaとMSCへのLOxの導入効率は共に95%以上を示しました。LOxを導入したMSCと何も処理しなかったMSCを比較すると、ほぼ同じ生存率(100%以上)を示すのに対し、がん細胞ではLOx導入後、生存率が時間と共に下がることを確認しています。さらに、LOxの導入量に応じて、生存率が変化することを確かめており、このことは酵素反応の結果としてがん細胞が死滅したものであると考えています。

図3.ナノ注射器を用いたLOx酵素の細胞内導入およびがん細胞の死滅結果
(生細胞はカルセインAMで蛍光染色を行い、死細胞はPIにて蛍光染色を行った。)

また、②安定同位体標識タンパク質導入によるNMR解析においては、①同様の手法でユビキチンタンパク質をHeLa細胞に導入しNMR解析を行いました(図4)。NMR解析には、高濃度のタンパク質が導入された細胞が107個程度必要となるため、ナノ注射器システムでも十分な数の細胞を用意し、さらには、十分な量のタンパク質が細胞内に導入されたかどうかを確かめました。結果として、1.8×107個の細胞に5-10mMの安定同位体標識ユビキチンが入ったことをNMR解析から明らかにしました。

図4.ナノ注射器を用いた安定同位体標識ユビキチン(UQ)の細胞内導入およびNMR解析結果

(4)今後の展望

今後は、任意のタンパク質や低分子を同時に細胞内に導入することで、細胞機能改変(ダイレクトリプログラミング)あるいは細胞内機能解析(In-cell NMR)などの開発にも取り組みたいと考えています。また、動物性細胞以外の細胞(植物、酵母、乳酸菌など)への展開も見込んでいます。これらを1研究室で実現することは困難ですので、本プロジェクトにご興味のある企業や研究機関からのお問い合わせをお待ちします。

(5)用語解説等

※1 2021年に報告した導電性高分子で被覆された金属製ナノチューブシート:

https://www.waseda.jp/top/news/74747
細胞用電動ナノ注射器「電気浸透流ナノポンプ」を開発― 細胞治療に向けた新たな細胞内物質導入機器

※2 in-cell NMR解析:

核磁気共鳴分光測定法(NMR法)を用いて生きた細胞の中の生体分子を観測および解析する手法

(6)論文情報

雑誌名: Analytical Chemistry
論文名:A Hybrid Nanotube Stamp system in Intracellular Protein Delivery for Cancer Treatment and NMR Analytical Techniques
執筆者名:Bowen Zhang, Bingfu Liu, Zhouji Wu, Kazuhiro Oyama, Masaomi Ikari, Hiromasa Yagi, Naoya Tochio, Takanori Kigawa, Tsutomu Mikawa, and Takeo Miyake.
掲載日(現地時間):2024年5月14日
掲載URL:https://doi.org/10.1021/acs.analchem.3c05331
DOI:10.1021/acs.analchem.3c05331

(8)研究助成

科学研究費補助金
科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「電子・イオン制御型バイオイオントロニクス」(JPMJPR20B8)
旭硝子財団

不規則なガラス構造に隠された規則性

著者: contributor
2024年5月14日 11:14

不規則なガラス構造に隠された規則性

原子の柱が作り出す密度の”むら”の構造抽出に成功

発表のポイント

最先端の電子顕微鏡法の1つであるオングストロームビーム電子回折法※1を用いて、シリカ(SiO2)ガラス※2の非常に細かい構造を直接観察することに成功した。
ガラスに存在する原子のナノスケール柱状構造※3及びその配列に関係した複数の異なる周期性を発見した。
これらの柱状構造がほぼ周期的に配列することで「擬格子面※4」と呼ばれる面状の領域が形成され、これにより古くから議論されてきたガラスの「FSDP※5(First Sharp Diffraction Peak)」と呼ばれる特徴的な回折ピークの起源を解明した。
この柱状構造の配列は、ガラスにおける密度の”むら”(密度ゆらぎ)と密接に関係しており、例えば、ガラスを電池用材料、窓ガラス、光ファイバーとして利用する際のイオン伝導特性、強度、光学特性の改善に繋がる基礎として重要となる。

図1.オングストロームビーム電子回折実験を用いた観察による、シリカガラス中に存在するナノスケール柱状構造の局所的な擬周期配列の発見。

早稲田大学理工学術院教授 平田秋彦(ひらたあきひこ)、東北大学未踏スケールデータアナリティクスセンター教授 志賀元紀(しがもとき)、物質・材料研究機構マテリアル基盤研究センターグループリーダー 小原真司(こはらしんじ)らの研究グループ(以下、本研究グループ)は、オングストロームビーム電子回折法を用いることで、ナノスケール柱状構造がほぼ等間隔に並んで形成される局所秩序構造を、一見不規則な構造を持つとされる、もっとも一般的なガラス材料であるシリカ(SiO2)ガラスの中に見い出しました。この秩序構造は、複数の異なる周期からなる密度ゆらぎを含む複雑な構造であることがわかりました。このような柱状構造配列の発見は、ガラス構造の科学に新たな視点を与え、さらに、柱状構造配列が作る密度ゆらぎの理解は、ガラス材料の特性や性能を制御するために欠かせない知見となると考えられます。

本研究成果は、Springer Nature社発行の科学ジャーナル『NPG Asia Materials』誌に、2024年5月10日(金)(現地時間)にオンラインで掲載されました(論文名:Direct observation of the atomic density fluctuation originating from the first sharp diffraction peak in SiO2 glass)。

(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

我々の生活に欠かせないガラスは、その原子レベルでの構造に関して古くから議論がなされてきました。中でも代表的なガラスであるシリカ(SiO2)ガラスは、Siの周りに4つのOが共有結合しSiO4正四面体が頂点に位置するOが四面体の頂点を共有して連結することにより、リング構造を作り、そのリングサイズの分布に特徴を持つこともわかっています。このようなガラスにX線や中性子線などの波長の短い波を当てると、波が原子配列によって干渉されて特徴的なパターンが出ますが、特に原子間のスケールよりも大きい周期に対応する「FSDP(First Sharp Diffraction Peak)」と呼ばれる回折ピークの出現について、古くから多くの議論がなされてきました。これを理解するために、例えば、擬格子面の概念が提唱されておりましたが、その具体的な起源については不明な点が残されていました。

(2)今回の新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、新しく開発した手法

図2.a オングストロームビーム電子回折実験の模式図、b 電子回折で見られる異なる構造周期に対応する回折スポット、c 中性子およびX線回折で得られたFSDP(矢印はbの電子回折における回折スポットの位置)、d 得られた電子回折パターンの例(一番左は平均化した、いわゆるハローリングと呼ばれるもの)。

本研究では、ガラスにおける擬格子面の正体を明らかにするため、シリカガラスで見られるFSDPに着目し、この回折ピークをシリカガラスの局所領域(1nm以下の領域)から得る目的で、本研究グループが開発してきたオングストロームビーム電子回折法を用いました(図2)。特に今回、エネルギーフィルターを導入することで、局所領域からのFSDPを明瞭に撮影することに成功しました。また、シミュレーションによって構築された構造モデルからも、近年本研究グループが開発したオングストロームビーム電子回折の理論計算結果を用いて、この実験結果を再現する局所構造を抽出することが可能となりました。この構造モデルは、X線および中性子回折の結果を再現するように分子動力学法※6と逆モンテカルロ法※7を組み合わせて作成されたものです。

抽出した局所構造に高速フーリエ変換を適用することにより、構造中に存在する擬周期が原子の柱状構造の配列から生じることが明らかとなりました。この柱状構造はブリッジの役割を果たす原子によってお互い接続されることで、おおよそ等間隔に並んで擬格子面を構成していることが特徴であり、これによりFSDPが生じるものと推察されます。また、このような柱状構造が取り囲むように柱状の空隙も形成されており、明瞭な密度ゆらぎの存在が示唆されます。さらに、この密度ゆらぎを特徴づける複数の周期が混在し、複雑な階層的構造が形成されていることもわかりました(図3)。

図3.a 特徴的な電子回折パターンに対応する局所構造モデル、b 図aの領域Iと領域IIを側面から見たもの、c, d 同一構造内での異なる周期の存在(cはFSDPのピークトップ位置、dはその裾に対応する周期)、e bの領域Iの構造に柱状の空隙が存在することを示すために仮想的に棒を挿入したもの。

このような柱状構造は、局所構造についてある特別な方向から見た時に、その方向に沿って存在するものであり、構造モデルの中からこのような場所を見つけるためには、今回使用したオングストロームビーム電子回折計算は非常に強力な手法です。また、この局所構造中の柱状構造は、結晶において見られるものと類似していることもわかりました。しかし、ガラス中の柱状構造は、結晶には存在しないリング構造である5員環や7員環を多く含んでおります。これにより構造の乱れが導入され、結晶のように広範囲にわたって周期構造が続かない原因となっているものと考えられます。

(3)研究の波及効果や社会的影響

結晶材料では、その原子配列である結晶構造が決定され、転位などに代表される格子欠陥が明確に定義されていることから、これらを制御することで様々な用途に対応した材料開発が行われてきています。一方で、ガラス材料に関しては、原子配列の決定は周期性が無いことから難しく、欠陥構造の定義も未だ明確なものはありません。

本研究では、ガラス構造中の局所秩序をナノスケール柱状構造の局所的な配列として捉えられることを示しております。ナノスケール柱状構造の配列が様々な長さの密度揺らぎを作ることから、平均的な周期から大きく逸脱した領域はガラス構造のある種の欠陥として理解することができます。このような欠陥は、ガラス材料のイオン伝導性、機械的物性、光学特性、などに大きく影響することが予想されます。これらの特性は、ガラス材料を電池の負極材や固体電解質、窓ガラス、光ファイバーなどとして利用する上で重要なものであり、欠陥の理解は材料特性を向上させる上で役立つことが将来的に期待されます。

(4)課題、今後の展望

今後は、ガラスの種類や作製法によって、どのような密度ゆらぎ、特に欠陥と呼べるような構造が導入されるかを系統的に調べ、それにより、上述した電池用材料、窓ガラス、光ファイバーなどの応用において、それら欠陥構造がイオン伝導特性、強度、光学特性などの物性にどのような影響を及ぼすかを調べる予定です。また、それらを制御することにより、さらに性能の高いガラス材料の開発が進むことが期待されます。

(5)研究者のコメント

  • 今回見出したナノスケール柱状構造の配列は、我々独自の実験および解析手法を用いることで目に見える形として初めて抽出されたものであり、これまで広く議論されてきたリング構造としての見方と実験で観測される回折データを結び付けるという点で、ガラス構造の見方に新たな視点を加えるものだと考えています。(平田)
  • ビーム径の大きさのため平均化され埋もれていた構造秩序を、極限まで絞り込んだ電子ビームを用いて、初めて観測した成果です。新しい観測は理論を刺激し、その逆もあり、多様な研究者の連携がこの分野の推進に不可欠と考えています。(志賀)

(6)用語解説

※1 オングストロームビーム電子回折法

ガラス構造の局所領域から回折パターン(物質に波を当てたときに得られる干渉パターン)を取得するための透過電子顕微鏡を用いた実験方法。通常、マイクロビームあるいはナノビーム電子回折と呼ばれるが、ガラス構造の観察には特にオングストロームスケール(1nm以下)での観測が本質的に重要となるため、このように呼んでいる。ガラス構造の10nm以上の十分に広い領域から回折パターンを取得した場合は、ハローリングと呼ばれる複数の回折リングが見られるが、領域が1nm以下になると回折スポットを呈するようになり、これが局所構造を反映していると考えられる。

※2 シリカガラス

シリコンと酸素から成りSiO2の化学組成を持つガラス物質のこと。ガラスとは通常液体状態が冷却されて過冷却状態になり、さらなる冷却により粘性が極度に高まることで得られる固体状の物質を指す。過冷却液体からガラスへの転移をガラス転移といい、体積の温度に対する変化率(熱膨張係数)等が「ガラス転移が起こる温度(ガラス転移点)」を境に変化する。このガラス状態の原子配列に本研究では特に着目しており、それは結晶のような規則性を持たない不規則なものである。

※3 ナノスケール柱状構造

本研究において、シリカガラスの中に見いだされた原子が結合してできた2nm程度の長さを持つ直線状の構造。これは独立して存在するわけではなく、ブリッジ原子と呼ぶ原子によってお互いに接続されている。また、同じ領域に対して他の方向から見た場合に、その入射方向に沿って別の柱状構造が存在する可能性もあり、この特徴は結晶構造の場合と同様である。

※4 擬格子面

結晶学や固体物理学では、原子が規則正しく並んだ結晶構造において、周期性を反映する格子という概念を考え、それを基に原子を置いていくことで結晶が作られるとする。この格子中に作られる周期的に配列される面が格子面であり、結晶構造にX線、電子線、中性子線のような波長の短い波をあてた場合、格子面の間隔がある条件を満たすと波が強めあう性質があるため、この概念が重要となる。一方、ガラスなどの不規則な構造では、このような明瞭な格子面は存在しないが、局所的にある程度の規則性を示す部分があり、これを擬格子面とここでは呼んでいる。擬格子面の存在は、結晶のおける格子面と同様に波が強め合う原因となると考えられている。

※5 FSDP

First Sharp Diffraction Peakの略。シリカガラスのような化学結合によるネットワークから構成されるガラス構造に対し、X線、電子線、中性子線のような波長の短い波をあてることにより現れる回折ピーク(Diffraction Peak)のうち、もっとも小さい回折角で観測されるもの。低角側から数えて最初に出現するピークであり、ガラスのような非晶質物質にしてはシャープであるため、この名前がついている。このピークに対応する距離スケールは4Å前後であり、原子間距離のスケールより2倍程度大きいことが特徴である。つまり、原子の結合よりも大きいスケールの構造を反映したものであると考えられる。

※6 分子動力学法

物質中の原子や分子の時々刻々の動きをシミュレートする方法。原子あるいは分子の間に働く力を仮定し、運動方程式を差分法と呼ばれる数値計算により解く。

※7 逆モンテカルロ法

回折実験から得られた構造因子や2体分布関数にフィットするような原子配列モデルを求める方法。基本的には実験値と計算値の差が少なくなるよう、乱数を用いて原子を変位させる。 

(7)論文情報

雑誌名:NPG Asia Materials
論文名:Direct observation of the atomic density fluctuation originating from the first sharp diffraction peak in SiO2 glass
執筆者名(所属機関名):平田 秋彦(早稲田大学)、佐藤 柊哉(東京理科大学)、志賀 元紀(東北大学)、小野寺 陽平(物質・材料研究機構)、木本 浩司(物質・材料研究機構)、小原 真司(物質・材料研究機構)
掲載日(現地時間):2024年5月10日(金)
掲載URL:https://www.nature.com/articles/s41427-024-00544-w
DOI:https://doi.org/10.1038/s41427-024-00544-w

(8)研究助成

研究費名:科学研究費 挑戦的研究(萌芽) 課題番号:23K17837
研究課題名:ガラス構造における擬格子面と位相幾何的秩序
研究代表者名(所属機関名):平田 秋彦(早稲田大学)

研究費名:科学研究費 学術変革領域研究(A) 課題番号:20H05884
研究課題名:数理情報科学に基づく超秩序構造の網羅的解析
研究代表者名(所属機関名):志賀 元紀(東北大学)

研究費名:科学研究費 学術変革領域研究(A) 課題番号:20H05881
研究課題名:先端量子ビーム手法群によるナノ・メゾスケール元素選択構造計測
研究代表者名(所属機関名):小原 真司(物質・材料研究機構)

【キーワード】

ガラス、オングストロームビーム電子回折、ナノスケール柱状構造、FSDP(First Sharp Diffraction Peak)、擬格子面、密度ゆらぎ

電力系統の混雑緩和を実現するシステムのフィールド実証を開始

著者: contributor
2024年5月10日 14:05

電力系統の混雑緩和を実現するシステムのフィールド実証を開始

2050年カーボンニュートラルに向け、分散型エネルギーリソースの活用による配電用変電所の混雑緩和の実現性を検証

学校法人早稲田大学は、東京電力パワーグリッド株式会社、株式会社三菱総合研究所、関西電力送配電株式会社、京セラ株式会社、国立大学法人東京大学生産技術研究所(東京大学)、中部電力パワーグリッド株式会社、東京電力エナジーパートナー株式会社、東京電力ホールディングス株式会社および三菱重工業株式会社の10者からなるコンソーシアム(以下、「本コンソーシアム」)において、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)とともに「電力系統の混雑緩和※1のための分散型エネルギーリソース制御技術開発 (FLEX DERプロジェクト)」(以下、「本事業」)に取り組んでいます。

本年5月1日より、本事業において、蓄電池などの分散型エネルギーリソース(以下、「DER」)※2を活用した系統混雑緩和の実現性を確認するフィールド実証を開始したことをお知らせします。

フィールド実証では、実際の電力系統に実証用システムを構築し、配電用変電所の混雑緩和の実現性を確認するための技術的検証を行います。具体的には、再生可能エネルギー(以下、「再エネ」)の導入拡大によって大量に連系された太陽光発電の発電電力により、将来、配電用変電所の変圧器において混雑の発生が懸念される栃木県那須塩原市内の特定エリアにて実証用のDERフレキシビリティシステム※3の検証を行います。

この検証結果を既存設備に最大限活用し、再エネ導入量を拡大させるためのシステム開発に活かすことで、2050年カーボンニュートラル実現に貢献してまいります。

【注釈】

※1:再エネの大量導入時に、再エネにより発電された電力が電力系統へ大量に送り込まれることにより、電力系統の送配電線の電力潮流が増加し送配電可能電力量が減少することを電力系統の混雑という。一方、この混雑を解消する取り組み(負荷の消費電力を大きくし再エネの発電電力を吸収するなど)により送配電可能量が回復することを混雑緩和という。

※2:発電設備や蓄電設備、電気自動車、ヒートポンプなどの需要設備の総称。「Distributed Energy Resources」を略して「DER」とも呼ばれる。

※3:DERフレキシビリティとは発電電力や負荷の消費電力の大きさを柔軟に変化させることが可能な能力。本事業で、DERフレキシビリティシステムは、下図に示す三つのシステム/プラットフォームにより構成されるものと定義して開発を進めている。図中の「DSO」は「Distribution System Operator」の略で、一般送配電事業者である配電系統運用者を指す。

「電力系統の混雑緩和のための分散型エネルギーリソース制御技術開発 (FLEX DERプロジェクト)」の概要

1.背景

「第6次エネルギー基本計画」で示された「再生可能エネルギーの主力電源化」に向け、系統の増強と並行しながら既存系統を最大限に活用するために必要な技術開発が求められており、その一つとして分散型エネルギーリソース(以下、「DER」)の出力を制御し、電力系統の混雑緩和を行う技術があります。

本事業※1では、再生可能エネルギー(以下、「再エネ」)の発電電力に起因して混雑が生じる配電用変電所の変圧器を対象に、その供給エリアにおいて、アグリゲーター※2などと一般送配電事業者をつなぎ、DERの電力需要パターン制御(需要シフトなど)をすることで混雑緩和を実現するDERフレキシビリティシステムの構築に向けた技術開発を行っています。

2.フィールド実証の概要

(1) 概要

本事業では、DERフレキシビリティを活用した系統混雑緩和の実現性をフィールド実証により確認するため、検討事項を「一般送配電事業者における課題検討」(WG1)、「DERフレキシビリティ活用プラットフォームにおける課題検討」(WG2)、「アグリゲーターにおける課題検討」(WG3)、「フィールド実証」(WG4)の四つの項目に分類しております。

今回の栃木県那須塩原市におけるフィールド実証に向けては、一般送配電事業者がDERフレキシビリティを調達する際の募集要件やデータ連係手順案などを反映した業務フロー案を基に、各項目(WG)間で連携しながら検証項目の抽出やユースケースの設定、シナリオ案の作成について取り組むとともに、DERの導入(系統用蓄電池システムの設置など)や各種測定器の設置などフィールド実証の環境構築を並行して進めてきました。

このたび、フィールド実証の準備が整ったため、本年5月1日より、フィールド実証を開始しました。大量に連系された太陽光発電の発電電力により、配電用変電所の変圧器で混雑が発生することを想定し、複数のユースケースに沿って、実証用のDERフレキシビリティシステムの検証を行います。

フィールド実証のイメージ

(2) 実証期間

2024年度中に複数時期にて実証を行う予定であり、第1回目は2024年5月14日までの予定で5月1日に開始しています。

(3) 実証場所

太陽光発電を主とする再エネの導入拡大により、将来、混雑の発生が懸念される栃木県那須塩原市にある配電用変電所を抽出し、選定されたエリアにてフィールド実証を行います。

3.今後の予定

NEDOと本コンソーシアム※3は、本フィールド実証での検証結果を基に、DERフレキシビリティシステムの要求仕様をまとめ、標準的な業務フローや通信仕様を確立します。

これによりDERを最大限活用できる仕組みを実現し、国内における再エネのさらなる普及拡大に貢献します。

【注釈】

※1 事業名: 電力系統の混雑緩和のための分散型エネルギーリソース制御技術開発(FLEX DERプロジェクト)

事業期間: 2022年度~2024年度
事業概要: [https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100237.html]

※2 DERなどを統合制御し、エネルギーサービスを提供する事業者。

※3 東京電力パワーグリッド株式会社、学校法人早稲田大学、株式会社三菱総合研究所、関西電力送配電株式会社、京セラ  株式会社、国立大学法人東京大学、中部電力パワーグリッド株式会社、東京電力エナジーパートナー株式会社、東京電力ホールディングス株式会社、三菱重工業株式会社の10者を指します。図2の四つの項目(WG)に分類し、各WG間で連携して検討を実施しています。

本コンソーシアムにおける各者の役割

参考

系統用蓄電池システムの概要

フィールド実証用に設置した系統用蓄電池システムを東京電力パワーグリッド:箒根蓄電所として運用開始しております。

<設備情報>

設置場所:栃木県那須塩原市関谷地区
設備面積:528㎡
設備容量:リチウムイオン電池
・出力:1,999kW
・公称電力容量:6,310kWh

<設備外観>

<PCS盤>

<蓄電池コンテナ>

「透明度」「電気伝導度」「柔軟性」に優れる多点マイクロ電極搭載 コンタクトレンズを開発

著者: contributor
2024年5月8日 15:22

「透明度」「電気伝導度」「柔軟性」に優れる多点マイクロ電極搭載コンタクトレンズを開発

網膜の局所的応答測定に成功し緑内障や網膜色素変性症に伴う盲点評価へ期待 今後事業化に向けた臨床試験へ

発表のポイント

  • 市販のコンタクトレンズに搭載可能な、小さく透明で柔らかい複合マイクロメッシュ電極を実現
  • 本研究グループがこれまでに開発した導電性高分子を用いた電極技術により実際に市販のコンタクトレンズへの貼付、および局所的に絶縁することに成功
  • これにより、網膜の局所的な応答を計測する複数点同時網膜電位計測が可能
  • 本成果は、緑内障や網膜色素変性症に伴う盲点評価につながります

早稲田大学大学院情報生産システム研究科の三宅丈雄(みやけたけお)教授、・アザハリ・サマン助教の研究グループと山口大学大学院医学系研究科眼科学講座の木村和博(きむらかずひろ)教授・芦森温茂(あしもりあつしげ)助教らの研究グループは、市販のコンタクトレンズに搭載可能な、小さく透明で柔らかい多点マイクロ電極を開発し、これまで技術的な課題のあった網膜の局所的な応答を測定することが可能となることを確かめました。これは、半導体微細加工技術によって、実用にも耐えうる82%以上の光透過性を持ち、かつ、微小な電位を計測可能な複合マイクロメッシュ電極(導電性高分子と金の複合化)です。さらに、市販のコンタクトレンズに本マイクロ電極を貼り付け、網膜電図(ERG)計測に用いる以外のリード線を絶縁化することにも成功しました。開発した電極は、角膜上皮細胞を用いて95%以上の生存率を実現できること、また、家兎試験によって市販のERG電極と同等の性能を有することを確認しました。さらに、アレイ化された7マイクロ電極でERGを多点計測できることを確かめました。これら成果は、緑内障や網膜色素変性症に伴う盲点評価などにつながります。

以上は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)、キヤノン財団の助成による成果であり、2024年5月7日にWileyの科学誌「Advanced Materials Technologies」にオンライン版で公開されました。

図1. 透明で柔らかいマイクロ電極による多電極網膜電位計測システム

(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

網膜電図(ERG,Electroretinogram)※1は、光刺激に応答する網膜(視神経細胞が刺激される)から発生する電位を角膜上のセンサ電極で測定します。一般的には、網膜変性疾患の検査で利用されることが多く、基礎研究から臨床的な応用まで幅広く利用されています。

ERG測定には、電気化学計測(ポテンショスタットなど)と同様、検出電極(間電極)、参照電極(不間電極)、接地電極からなる3電極システムが必要です。検出電極は角膜または結膜に、参照電極は測定器のグランドに相当し、接地電極は耳たぶなどに接触させます(図2参照)。歴史的には、角膜上で計測するタイプと結膜周辺(リングやフックタイプのワイヤー電極)で検出する2種類のタイプが存在しますが、現在では角膜上で測るタイプが主流となっており、実用性や安全性の観点でレンズ形状に加工された硬質なプラスチック上に金属が配線された製品が市販されています。これら一般的な1電極によるERG計測は、学術的には全視野網膜電図(FF-ERG, full field electroretinogram)と言い、網膜の局所的な応答を取得することができないなどの課題を有していました。局所的な応答(=空間的な差異を調べる)を測定する方法として、多局所網膜電図(MF-ERG, multifocal electroretinogram)や多電極網膜電図(ME-ERG, multi-electrode electroretinogram)があります。MF-ERGは、光を網膜の特定の位置に照射し、その際のERGを単一電極で計測する手法となるため、高解像度でスキャン可能な光刺激装置が必要となります。一方、ME-ERGは、FF-ERGと同等の光照射システムが利用できますが、電極を多点配置して測定することが必要となるため、電極およびレンズ全体の透明性および加工技術などの高度化に課題を有していました。


図2.本研究で実現された主な成果

(2)今回の研究で実現したこと

このような背景の中、本研究グループは、半導体微細加工技術と電気メッキ技術を組み合わせることで透明度、電気伝導度、柔軟性に優れるメッシュ電極を作製し、ERG計測可能な多電極化、市販のコンタクトレンズ上への接合および局所的絶縁化に成功しました(図2)。また、安全性に関しては、角膜上皮細胞による細胞生死判定および家兎を用いた多電極ERG計測および評価にも成功しました。

(3)そのために新しく開発した手法とその性能

透明で柔らかい金属電極を作製するために、形状(Serpentine, square, zigzag, hexagon:図2左参照)、幅(5, 7, 9μm)およびユニット幅(200, 500, 1000 μm)を変えたマイクロメッシュ電極を作製し、透過性および10%歪を加えた際の抵抗値変化を評価しました(図3)。ここで用いた金属は、電気メッキで作製された金となります。透明性に関しては、すべてのマイクロメッシュ電極において、80%以上の透過性を示しましたが、10%歪においては、Serpentineとhexagonのみ歪に耐えうることを確認しました。ソフトコンタクトレンズを用いた場合、眼圧などの変化によってレンズに~3%程度の歪が生じるため、検出電極の伸縮性が求められます。また、開発したメッシュ電極は市販のコンタクトレンズ上に貼り付け、レンズ表面に作製し、角膜とコンタクトする必要があるため、本研究グループがこれまでに用いてきた導電性高分子を用いた電極技術を用いました(Advanced Materials Technologies, 4, 1800671, 2019.)。従って、金マイクロメッシュ上にPEDOT導電性高分子が被覆された構造となります。複合化されたマイクロメッシュ電極においても、80%以上の透過性を有することは確認済みです。

図3. 複合マイクロメッシュ電極性能評価
(ここでは、電極は1本のみ。上図:電圧印加後のメッシュ電極および配線電極のインピーダンス結果、中図:電圧印加による絶縁化概要図、下図:各電極部位における出力電圧測定)

次に、このマイクロメッシュ電極から計測に繋げるリード電極の絶縁をどうするかという課題が、最終的なターゲットである多点電極によるERG計測で必須となることがわかりました。そこで、本研究グループは、メッシュ電極の導電性高分子のみの導電性を維持する方法として(すなわち、リード線に被覆された導電性高分子を絶縁化する方法)、電極全体の両端に直流電流を印加することで、リード線に流れる電流(図3におけるI1)と金マイクロメッシュ上に新たに流れる電流値(図3におけるI2)を電極構造で制御できることに気づき、COMSOL※2を用いた計算機シミュレーションと実験的に確かめました。シミュレーションの結果より電流密度として約70倍以上の電流値の差があることを確かめ、実験的にリード線上の導電性高分子のみが過酸化されること、また、フーリエ変換赤外線分光法による分子振動解析で導電性高分子の構造変化を確かめました。さらに、通電試験を実施したところ、マイクロメッシュ電極を介してのみ電圧が計測されることを確かめました。

開発した複合化マイクロメッシュ電極の生物学的安全性と動物試験によるERG計測電極としての性能を評価しました(図4)。ヒト由来の角膜上皮細胞(HCEC)を用いて、各マイクロメッシュ電極(Au, Au/PEDOT, Zn)上での細胞生存率を求め、その結果AuとAu/PEDOT電極上では90%以上の高い生存率を保つのに対し、Zn電極上では金属イオンのリークにより生存率が50%以下まで低下することが明らかになりました。従って、電気メッキで作製したAu/PEDOT複合電極は、十分な安全性を有していると言えます。さらに、本複合マイクロメッシュ電極をアレイ化(7電極)した多電極レンズを試作し、家兎の眼に装着させて各電極からERGが計測できることを確認しました。本研究で開発したメッシュ電極から取得した網膜電位信号は、市販のERG電極と同等の性能を有していることを確認しています。

図4. 安全性および多点電極ERG計測評価
(上図:各電極における細胞生存率評価と蛍光顕微鏡評価、下図:家兎を用いたME-ERG計測結果)

(4)今後の展望

今後は、事業化に向け、本計測レンズを用いて臨床試験に取り組みます。また、本プロジェクトにご興味のある企業からのお問い合わせをお待ちします。

(5)用語解説

※1 網膜電図
可視光を照射した際に,網膜から発生する電位の変化を記録します。これによって、網膜が正常に働いているかどうかを診断することができます。

※2 COMSOL
有限要素法を基盤とするシミュレーションソフトウェア。基本的工学分野から様々な応用分野における計算機シミュレーションを実現することができます。

(6)論文情報

雑誌名:Advanced Materials Technologies
論文名:Multi-electrode Electroretinography with Transparent Microelectrodes Printed on a Soft and Wet Contact Lens
執筆者名:Lunjie Hu, Saman Azhari, Qianyu Li, Hanzhe Zhang, Atsushige Ashimori, Kazuhiro Kimura, and Takeo Miyake
掲載日(現地時間):2024年5月7日
URL:https://doi.org/10.1002/admt.202400075
DOI:10.1002/admt.202400075

(7)研究助成

日本医療研究開発機構医療機器等研究成果展開事業(開発実践タイプ),JP23hma322020
キヤノン財団研究助成

令和6年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 受賞コメント

著者: contributor
2024年4月23日 14:43

このたび、早稲田大学の研究者4名が、科学技術分野で顕著な功績があったとして、「令和6年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰」を受賞しました。
日本の科学技術の発展等に寄与する可能性の高い独創的な研究又は開発を行った研究者を表彰する「研究部門」に、理工学術院の片岡淳教授、熊谷隆教授、嶋本薫教授および文学学術院の竹村和久教授が選ばれました。なお、当該部門の応募件数は226件で、受賞件数は51件(59名)でした。

早稲田大学令和6年度科学技術分野の文部科学大臣表彰受賞者

左から、竹村教授、嶋本教授、片岡教授、熊谷教授

以下に、各受賞者のコメントを掲載いたします。

科学技術賞 研究部門

受賞業績:元素の色を可視化する革新的薬物動態イメージング研究
理工学術院 片岡 淳 教授

受賞コメント
この度は、文部科学大臣表彰・科学技術賞(研究部門)を戴きまして誠に光栄に存じます。学生時代より宇宙のロマンに惹かれ、目に見えない光であるX線やガンマ線を駆使した巨大ブラックホールの研究や、衛星搭載カメラの開発に従事してきました。2012年には宇宙分野で科学技術賞(若手科学賞)を戴きましたが、今回のテーマは、より身近な医療への新たな展開となります。たとえば宇宙の元素合成を応用すれば、これまで可視化が難しかった様々な薬剤、たとえば抗がん剤の体内動態を可視化することができます。さらに、「宇宙を観る眼で人体を診る」新しい手法を開発しました。理工医薬を横断する壮大なテーマで毎日が勉強の日々ですが、良い共同研究者と学生さんに恵まれ、楽しく研究を進めています。これまでご支援を賜わりました多くの皆様に心より感謝申し上げると同時に、今後も変わらぬご指導、ご鞭撻の程、何卒よろしくお願い申し上げます。

受賞業績:複雑な系の上の異常拡散現象の研究
理工学術院 熊谷 隆 教授

受賞コメント
この度、科学技術賞(研究部門)をいただき、大変光栄に存じます。共同研究者の皆様はじめ多くの方々のお力添えの賜物であり、心から感謝しております。また、2年前に本学に赴任しまして以降、早稲田大学には快適な教育・研究環境を提供していただき、同僚の皆様にはいつも温かく接していただいております。この場を借りて深く御礼申し上げます。
私の研究テーマは、複雑な形状を持つ図形上の拡散現象の解析です。形状が複雑なため、通常の拡散とは異なる異常拡散現象が生じますが、確率論や解析学を用いて異常拡散の程度を定量的に評価し、図形のどのような性質が異常拡散を引き起こすのかを研究しております。このテーマは様々な応用分野に関連しており、諸分野の研究者の皆様との交流を通じてさらなる研究の発展に繋げたいと考えております。皆様のご研究で関連がありそうな問題がございましたら、是非お声がけください。どうぞよろしくお願いいたします。

受賞業績:航空宇宙通信の多角的な研究
理工学術院 嶋本 薫 教授

受賞コメント
この度は、文部科学大臣表彰・科学技術賞(研究部門)を受賞させて頂きまして、誠に光栄に存じます。中学生時代BCL(海外短波放送受信)が一大ブームを起こしており、私も短波ラジオを片手に海外の珍放送局の探索などを行っていました。日々刻刻と変化する電波伝搬状況に一喜一憂するうちに10W程度の出力で地球を1周以上も伝搬することに興味を覚え独学で無線通の勉強し始めましたが、当時使っていた関連書籍の著者が皆同じ大学の出身者だったので中学の時点で志望校を決定していました。修士時代から世界初の衛星データ通信ネットワーク構築の研究に従事し、その後大学で教員になってからは低軌道衛星、成層圏飛翔体、航空機間通信など先駆けて研究発表を行い、今では宇宙エレベータ通信まで手掛けています。また同時に6Gに向けた地上系モバイル通信や光と無線を組み合わせたバイタルセンシングなど幅広い分野も手掛けていますが、一方で原点である短波帯の電波伝搬の研究も継続しています。今でも短波帯の信号を受信するたびに当時を思い出し初心に帰る気がします。

受賞業績:行動意思決定論の再構築とそれに基づく社会実践研究
文学学術院 竹村 和久 教授

受賞コメント
この度は、文部科学大臣表彰・科学技術賞(研究部門)をいただき、光栄に存じます。今回の受賞は、共同研究者の皆様、早稲田大学の教職員・学生をはじめとして多くの方々のご支援の賜物であり、謹んでお礼申し上げます。
行動意思決定論は、心理学、経営学、行動経済学、感性工学、行動計量学、神経科学、精神医学などのさまざまな分野と密接な関係を持っています。簡単に言うと、「人々がどのような意思決定をしているか」、「どのようにしたらより良い意思決定ができるか」、「どうしたら最悪の意思決定を回避できるか」ということを課題としています。これからも研究に微力を尽くしたいと存じますので、ご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。
尚、これまで学部や大学院で、心理学、経済学、情報工学、経営工学、統計学、精神医学などを勉強させていただきましたが、その中でご指導いただいた諸先生、ご助言をいただいた諸先輩、友人の皆様に、改めて感謝申し上げます。

屈折率1.8超、分解可能な透明プラスチックを開発

著者: contributor
2024年4月22日 17:01

硫黄と水素結合を組み合わせ、発光デバイスの効率向上につながる新材料を実現

屈折率1.8超、分解可能な透明プラスチックを開発

発表のポイント

「分極性水素結合」という新たな構造に着目し、8以上の超高屈折率と可視光透明性を同時に満たすプラスチックを開発した。
今回開発したプラスチックは、優れた光学特性と柔軟性、リサイクル性を併せ持ち、従来よりも低負荷で発光電気化学セル (LEC) を作動させることにも成功した。
有機ELディスプレイの輝度や光学素子の画素向上が期待できるほか、光学プラスチックに環境適合性を付与する第1歩に繋がる。

図1.本研究の概要。「分極性」を有する水素結合に由来して、光学デバイスの発光効率向上、超高屈折率、分解性などの機能を付与できることを見出した (”Ar” はaromatic ring (芳香環) を示す略称)。

早稲田大学 理工学術院の小柳津研一(おやいづけんいち)教授、および渡辺清瑚(わたなべせいご)次席研究員、ミュンヘン工科大学 StraubingキャンパスのRubén D. Costa 教授、およびLuca M. Cavinato 博士課程学生らの研究グループ(以下、本研究グループ)は、硫黄を含む水素結合を組み込んだ独自の高分子を設計し、従来達成が難しいとされていた1.8以上の超高屈折率と透明性を両立し、使用後には分解できる新しいプラスチックを開発しました。

従来の超高屈折率高分子は多くが着色を呈するため、有機発光ダイオード (OLED) などの可視光用途への応用が難しい課題がありました。今回開発した材料はポリマー鎖同士が「分極性水素結合」により密に絡み合うことで、着色なく屈折率を向上できるほか、柔軟性と分解性も併せ持つため、従来よりも低負荷で作動する、リサイクル可能な発光素子の実現に繋がります。本研究の概念は、有機ELディスプレイの輝度向上や、より高画素なマイクロレンズを実現できる透明材料の開発に繋がるほか、環境適合性の高い光学プラスチックの設計指針を提示する重要な知見を与えるものと考えられます。

本研究成果は、2024年4月12日 (金曜日) 8時(現地時間)にWiley-VCH刊行の『Advanced Functional Materials』誌にオンライン掲載されました(論文名:Polarizable H-bond Concept in Aromatic Poly(thiourea)s: Unprecedented High Refractive Index, Transmittance and Degradability at Force to Enhance Lighting Efficiency)。

(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

高屈折率ポリマー (以下、HRIP) *1 は発光デバイス (有機発光ダイオード (OLED) など) の輝度や効率の向上に欠かせない材料で、デバイスのコーティング剤として使うことでより多くの光を取り出せるようになります。近年、HRIPの屈折率を向上させる研究の進歩は顕著で、例えば硫黄の含有率を高める手法が基本的な方法論として確立されています。一方で、HRIPの開発において屈折率と可視光透明性はトレードオフの関係にあるため、1.8以上の超高屈折率と、発光素子に適用できる十分な透明性を併せ持つHRIPの実現は困難でした。

(2)今回の新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、新しく開発した手法

(新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと)

本研究グループは、HRIPがフィルムなどの固体状態で生じる高分子鎖の隙間 (空気など) が屈折率低下の要因であると捉え、分子間の相互作用力の一つである水素結合*2を組み込むことで隙間を減らし、屈折率が向上すると着想しました。その結果、透明性を保てる範囲で硫黄含量をできるだけ大きくしつつ、この隙間の割合を減らした分子設計を施すことで、HRIPの屈折率と透明性を同時に向上させることに成功しました。

(そのために新しく開発した手法)

研究グループは以前、硫黄を含むポリマーの1つであるポリ(フェニレンスルフィド) *3の側鎖に、水素結合性のヒドロキシ基 *4を導入することで、屈折率が劇的に向上することを見出しました (Macromolecules 2022: https://doi.org/10.1021/acs.macromol.1c02412など)。今回の研究は、本概念を拡張し、HRIPの構造としてポリ(チオウレア*5)に初めて着目したものです (図2)。

図2:本研究の概念図。(a) ポリ(チオウレア)の分子設計。今回新たに着目したのは「分極性水素結合」をもつチオウレアで、芳香族スペーサーと合わせると屈折率が両者の相乗的な効果により向上する。(b) チオウレアが形成する「無秩序で密な」多点水素結合の模式図。可視光透明性を維持しながら屈折率を向上させる鍵構造となる。(c) 新たに提案した発光電気化学セルの素子構成。(CCライセンスに基づき、論文中の模式図を一部改変及び翻訳)

チオウレアに含まれる硫黄原子は分極*6しやすいため、密で無秩序な「分極性水素結合」を形成できる特殊な性質を示し、可視光域 (400-800 nm) で超高屈折率 (1.8) と十分な透過率 (92%以上) を両立しました。溶液プロセス*7により均一で透明な薄膜も作製でき、ポリ(チオウレア)をコーティングした発光電気化学セル (LEC)*8の外部量子効率*9は最高12% (相対比) 向上しました。またポリ(チオウレア)に対し、原料のジアミン化合物を添加して50℃で加熱するのみで、急速に分子量*10が低減し原料に近いレベルまで分解できることを明らかにしました。この性質は材料の循環性や再利用性の向上に寄与し、寿命を高めることにも繋がります。

図3:ポリ(チオウレア)の特徴的性質。(a) 丈夫、超高屈折率、透明なポリ(チオウレア)フィルム。(b) ポリ(チオウレア)をコーティングしたLEC素子が作動する様子。(c) ポリ(チオウレア)の分解過程におけるサイズ排除クロマトグラム。保持時間が長いほど分子量が低く、原料に近いことを意味する。(CCライセンスに基づき、論文中の模式図を一部改変及び翻訳)

(3)研究の波及効果や社会的影響

本研究で開発したポリ(チオウレア)は、従来の光学材料が抱えていたトレードオフを解消できるとともに、穏和な条件での分解性を付与した初めての例であり、従来よりも低負荷で作動しリサイクル可能な有機ELの実現が期待できます。種々の基板に対して簡便に製膜できる点も魅力的で、「一塗りするだけで」発光効率を上げることができる画期的な材料です。

(4)課題、今後の展望

本研究でポリ(チオウレア)が超高屈折率と透明性を両立することは実証されたものの、その限界値は未解明である上、さらに厳密かつ迅速に分解可能な構造を探索する必要があります。今後、ポリ(チオウレア)の化学構造や硫黄含量などを精密に制御することで、「使用時はさらに優れた屈折率と安定性を両立し、使用後のリサイクル効率の高いHRIP」の実現に繋げたいと考えています。

(5)研究者のコメント

HRIPの屈折率を高める研究は顕著に発展していますが、実際のデバイスで要求される透明性、製膜性、耐久性を網羅的に両立できる設計や、環境問題を志向した機能付与に関する研究はまだ十分行われているとはいえません。本研究では、これらの課題を一挙に解決しうる第一歩を実証できたことから、今後更なる化学構造の拡張と材料開拓によって、従来ない画期的機能を示す透明材料が生まれることが強く期待できます。

本論文は早稲田大学とミュンヘン工科大学との共同研究によるものです。ミュンヘン工科大学側の共著者の一人であるRubén Costa教授は、早稲田大学スーパーグローバル大学 (SGU) 創成支援事業によるエネルギー・ナノマテリアル拠点のジョイントアポイントメント教員として早稲田大学に滞在したことがあり、本成果はSGUプログラムによる研究の国際化の成果の一つと位置付けられます。第一著者である渡辺清瑚氏はこの3月に早稲田大学で博士学位を取得し、4月から早稲田大学の講師として研究を継続しています。現在は更なる展開を期待してCosta教授の研究室との共同研究を展開中です。

(6)用語解説

※1 高屈折率ポリマー (HRIP)

定義により異なるが、一般的に7以上の屈折率を示す透明な高分子 (ポリマー) の一群。高屈折率であればあるほど、光を大きな角度で曲げることができる。

※2 水素結合

電気陰性度の低い水素原子と、電気陰性度の高いヘテロ原子 (酸素・窒素・硫黄など) が有する孤立電子対の間で働く静電的な相互作用。

※3 ポリ(フェニレンスルフィド)

ベンゼン環と硫黄の繰り返し構造を有する、スーパーエンジニアリングプラスチック (スーパーエンプラ) の一つ。耐熱性や耐薬品性に優れるなどの特徴を有する。

※4 ヒドロキシ基

酸素原子と水素原子が共有結合でつながった構造を有する官能基。水素結合を形成する代表的な化学構造である。

※5 チオウレア

窒素原子、硫黄原子を多量に含む、水素結合性を示す化学構造の一種。従来は有機合成反応の触媒や、エネルギー貯蔵高分子の部分構造として用いられてきた。

※6 分極

光 (主に紫外〜可視光) が照射された際に電子の偏りが生じる性質。ベンゼン環、硫黄などが分極性の高い官能基の例として挙げられる。

※7 溶液プロセス

ポリマーを溶媒に溶かし、製膜する手法のこと。例えば、溶液を基板に滴下して風乾するドロップキャスト法や、遠心力を利用して製膜するスピンコート法が挙げられる。発光素子の作製工程に用いられる場合が多い。

※8 発光電気化学セル (LEC)

発光素子の一種で、発光する化合物と電解質を混合した発光層を有する点が特徴。一般的な発光素子として知られる有機発光ダイオード (OLED) と比較し、単純な素子構成、要求される印加電圧が低い、より簡便に作成できるなどの利点を有する。

※9 外部量子効率

発光素子に注入されたキャリア (電荷) のうち、光子 (フォトン) として取り出された数の割合。高いほど損失なく光が取り出されていることを意味する。

※10 分子量

化合物の質量。ポリマーの場合、鎖の長さに対応する。分解反応が進行する場合、時間の経過とともに分子量は低く遷移する。

(7)論文情報

雑誌名:Advanced Functional Materials
論文名:Polarizable H-bond Concept in Aromatic Poly(thiourea)s: Unprecedented High Refractive Index, Transmittance and Degradability at Force to Enhance Lighting Efficiency
執筆者名(所属機関名):Seigo Watanabe1, Luca M. Cavinato2, Vladimir Calvi3, Richard van Rijn3, Rubén D. Costa2, Kenichi Oyaizu1
 1早稲田大学、2ミュンヘン工科大学、3 Applied Nanolayers
掲載日時(現地時間):2024年4月12日(金)8時
掲載日時(日本時間):2024年4月12日(金)15時
掲載URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/adfm.202404433
DOI:10.1002/adfm.202404433

(8)研究助成

研究費名:有機エネルギーマテリアル化学の確立と展開
研究課題名:文部科学省 科研費 基盤研究(A) (21H04695)
研究代表者名(所属機関名):小柳津研一(早稲田大学)

研究費名:ソフト分極構造の多重集積による光・電場機能高分子の革新
研究課題名:文部科学省 科研費 挑戦的研究 (開拓) (22K18335)
研究代表者名(所属機関名):小柳津研一(早稲田大学)

研究費名:分子間相互作用の制御に基づく含硫黄超高屈折率ポリマーの創出
研究課題名:文部科学省 科研費 特別研究員奨励費 (22KJ2927)
研究代表者名(所属機関名):渡辺清瑚(早稲田大学)

上記のほかに、早稲田大学理工総研アーリーバード、みずほ学術振興財団 工学研究助成、EU DET-OPEN (MSCA-ITN STiBNite No. 956923) の支援により実施されました。

【キーワード】

透明プラスチック、発光デバイス、屈折率、硫黄、水素結合、分解性

「革新的情報通信技術(Beyond 5G(6G))」のNICT事業に採択

著者: contributor
2024年4月15日 15:02

「革新的情報通信技術(Beyond 5G(6G))」のNICT事業に採択

〜ホログラフィックコンタクトレンズディスプレイを実現する革新的基盤技術の開発〜

学校法人早稲田大学(研究分担者 三宅 丈雄 教授)、国立大学法人東京農工大学(代表研究者 大学院工学研究院 高木 康博 教授)、国立大学法人徳島大学(研究分担者 山本 健詞 教授、水科 晴樹 客員准教授)、シチズンファインデバイス株式会社(注1、以下 シチズンファインデバイス)、株式会社シード(注2、以下 シード)は、革新的情報通信技術(Beyond 5G(6G))基金事業 要素技術・シーズ創出型プログラムに関する国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー))の公募事業に採択されました。今後、「ホログラフィックコンタクトレンズディスプレイを実現する革新的基盤技術の開発」をテーマとして研究開発に取り組んでいきます。

サイバー空間を現実空間と一体化させるSociety5.0のバックボーンとなるBeyond5G (6G)の能力を最大限に活用し、人々の豊かな生活を実現するためには、生活の中に溶け込むAR技術の実現が必要になります。本研究開発では、次世代のAR(Augmented Reality:拡張現実)技術実現のために、目に直接装着できるコンタクトレンズディスプレイの実現を目標とします。

これまで、コンタクトレンズディスプレイには「コンタクトレンズ内の表示デバイスに目がピント合わせできない」という根本的な問題がありました。本研究開発では、その解決に「ホログラフィー技術を用いて自然な目のピント合わせを可能にする」という独自の原理を用います。また、将来の幅広い普及を可能にするために、ソフトコンタクトレンズと同程度の薄さ、高い酸素透過率と含水性の両立を目指します。そのためには、従来とはレベルが異なる革新的な小型化・薄型化・ウェットデバイス技術の開発が必要となります。本研究開発は、ホログラフィックコンタクトレンズディスプレイを実現するために最も基盤となるコア技術の研究開発に取り組みます。

ホログラフィックコンタクトレンズディスプレイが実現すれば、サイバー空間と目が直接接続されることになり、必要な情報をいつでもどこでも即座に入手可能になるため、Beyond5Gが提供する「拡張性」が最大限活用されるようになります。

図1 Beyond5GのARディスプレイ


図2 コンタクトレンズディスプレイで実現される社会

図3 本研究開発で開発するホログラフィックコンタクトレンズディスプレイのコア技術

東京農工大学、徳島大学、早稲田大学、シチズンファインデバイス、シードは、2024年度から2026年度までの間に本研究開発に共同で取り組みます。本研究開発で開発するコア技術と各機関の担当を以下に示します。

  1. 像形成技術:超薄型ホログラム光学系(東京農工大学)、ホログラム計算(徳島大学)
  2. 空間光変調器:超小型・超薄型空間光変調器(シチズンファインデバイス)
  3. 電子デバイス技術:薄型アンテナ、共振結合回路、小型回転角センサ(早稲田大学)
  4. コンタクトレンズ内蔵技術:構造開発、防水技術、溶出検査、組み立て技術(シード)
  5. 視機能への影響評価:焦点合わせ、外界との融合、眼球運動との整合性(徳島大学)

令和6年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 4名の教員が受賞

著者: contributor
2024年4月9日 15:41

このたび、早稲田大学の研究者4名が、科学技術分野で顕著な功績があったとして、「令和6年度科学技術分野の文部科学大臣表彰」を受賞しました。
科学技術分野の文部科学大臣表彰は、科学技術に携わる者の意欲向上を図り、日本の科学技術水準の向上に寄与することを目的としており、科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果を収めた者に対し授与されています。

今後も本学では、中長期計画「Waseda Vision150」における研究ビジョンである「世界の平和と人類の幸福に貢献する研究」の実現に向け、未来をイノベートする独創的研究の促進を図ってまいります。

科学技術賞(研究部門)

氏名 所属・役職 業績名
片岡 淳 理工学術院・教授  元素の色を可視化する革新的薬物動態イメージング研究
熊谷 隆 理工学術院・教授  複雑な系の上の異常拡散現象の研究
嶋本 薫 理工学術院・教授  航空宇宙通信の多角的な研究
竹村 和久 文学学術院・教授  行動意思決定論の再構築とそれに基づく社会実践研究

Innovators: Research Recap 2024, Waseda University

著者: contributor
2024年4月8日 11:42

We’re proud to bring you Waseda Universty’s Research Recap 2024. The video highlights just a few of the many innovators who conducted influential research at our university over the past year. Watch for a peek at their diverse research covering everything from self-healing interconnects and airborne microplastics to conversational AI media systems and hydrogen storage materials.

If you wish to find out more about the extensive activities at our University, click on one of the links that follow in the description. Thanks to all the students and professors who put their research on display for this video.


Associate Professor: TAKAHASHI, Ryo (Faculty of Political Science and Economics)

Research Theme: Economic development and environmental conservation in developing countries
Recent Research: https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76941
Researcher Details: https://w-rdb.waseda.jp/html/100001339_en.html
2022 WASEDA research acceleration program for early-stage principal investigators

Professor: TAKEZAWA, Akihiro (Faculty of Science and Engineering)

Research Theme: Development of additive manufactured functional structure
Recent Research: https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76856
Researcher Details: https://w-rdb.waseda.jp/html/100002014_en.html
The recipients of the 2022 Waseda Research Award

Professor: IWASE, Eiji (Faculty of Science and Engineering)

Research Theme: Micro-electro-mechanical systems
Recent Research: https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76980
Researcher Details: https://w-rdb.waseda.jp/html/100001156_en.html
The recipients of the 2016 Waseda Research Award
2023 Next-generation Core researcher

Associate Professor: ISHII, Ayumi (Faculty of Science and Engineering)

Research Theme: Inorganic materials chemistry
Recent Research: https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76941
Researcher Details: https://w-rdb.waseda.jp/html/100003644_en.html

Professor: YOO, Byung Kwang (Faculty of Human Sciences)

Research Theme: Public health, Infectious diseases, Health education
Recent Research: https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76882
Researcher Details: https://w-rdb.waseda.jp/html/100003620_en.html

Professor: OKOCHI, Hiroshi (Faculty of Science and Engineering)

Research Theme: Environmental Chemistry
Recent Research: https://www.waseda.jp/top/en/news/78501
Researcher Details:  https://w-rdb.waseda.jp/html/100000728_en.html

Assistant Professor: HANADA, Nobuko (Faculty of Science and Engineering)

Research Theme: Energy material science, chemical reaction and energy process engineering
Recent Research: https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76960
Researcher Details: https://w-rdb.waseda.jp/html/100001495_en.html

Associate Research Professor: MATSUYAMA, Yoichi (Green Computing Systems Research Organization)

Research Theme: Conversational AI media systems
Recent Research: https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76861
Researcher Details: https://www.yoichimatsuyama.com/about/

Associate Professor: HOSOKAWA, Yuri (Faculty of Sport Sciences)

Research Theme: Safety and performance optimization
Recent Research: https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76832
Researcher Details: https://w-rdb.waseda.jp/html/100001822_en.html

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最新の注目研究者をピックアップ2024

著者: contributor
2024年4月8日 11:18

Innovators: Resarch Recap 2024, Waseda University

早稲田大学の最新の注目研究者をピックアップした動画:Innovators: Research Recap 2024, Waseda University を公開しました。是非ご覧ください。

本動画に登場する研究者


高橋遼 准教授 (政治経済学術院)

研究分野) Economic development and environmental conservation in developing countries
Recent Research) https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76941
Researcher Details) https://w-rdb.waseda.jp/html/100001339_en.html
2022年度早稲田大学PI飛躍プログラム支援対象者

竹澤晃弘 教授 (理工学術院)

研究分野) Development of additive manufactured functional structure
Recent Research) https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76856
Researcher Details) https://w-rdb.waseda.jp/html/100002014_en.html
2022年度 早稲田大学リサーチアワード受賞者

岩瀬英治 教授(理工学術院)

研究分野) Micro-electro-mechanical systems
Recent Research) https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76980
Researcher Details) https://w-rdb.waseda.jp/html/100001156_en.html
2016年度早稲田大学リサーチアワード(国際研究発信力)受賞者
次代の中核研究者2023

石井あゆみ 准教授(理工学術院)

研究分野) Inorganic materials chemistry
Recent Research) https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76941
Researcher Details) https://w-rdb.waseda.jp/html/100003644_en.html

ユウ ヘイキョウ 教授 (人間科学学術院)

研究分野) Public health, Infectious diseases, Health education
Recent Research) https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76882
Researcher Details) https://w-rdb.waseda.jp/html/100003620_en.html

大河内博 教授 (理工学術院)

研究分野) Environmental Chemistry
Recent Research) https://www.waseda.jp/top/en/news/78501
Researcher Details)  https://w-rdb.waseda.jp/html/100000728_en.html

花田信子 准教授 (理工学術院)

研究分野) Energy material science, chemical reaction and energy process engineering
Recent Research) https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76960
Researcher Details) https://w-rdb.waseda.jp/html/100001495_en.html

松山洋一 客員主任研究員 (グリーン・コンピューティング・システム研究機構)

研究分野) Conversational AI media systems
Recent Research) https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76861
Researcher Details) https://www.yoichimatsuyama.com/about/

細川由梨 准教授 (スポーツ科学学術院 )

研究分野)Safety and performance optimization
Recent Research) https://www.waseda.jp/inst/research/news-en/76832
Researcher Details) https://w-rdb.waseda.jp/html/100001822_en.html

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