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AIで創薬を効率化する技術を開発

著者: contributor
2026年1月20日 14:54

AIでRNAアプタマー創薬を効率化する技術「RaptScore」を開発
~任意のRNAアプタマーの結合活性を評価する技術で創薬を加速~

発表のポイント

  •  RNAアプタマー※1の結合活性(作用ターゲットへのくっつきやすさ)を、コンピューター上で大規模言語モデル(LLM)※2により高精度に評価する技術「RaptScore(ラプトスコア)」を開発しました。
  • 実験データに含まれない未知の配列や、長さの異なる配列の評価が困難であった従来手法の課題をLLMの活用により克服し、配列を短くしたRNAアプタマーの探索・設計も可能になりました。
  • 本手法により、RNAアプタマー医薬品の開発コスト削減や期間短縮、品質向上が期待されます。

次世代の医薬品として期待されるRNAアプタマーは、タンパク質などの標的に結合する能力を持ちますが、膨大な候補の中から有望なアプタマーを探し出し、さらに医薬品として製造コストも考慮した最適なRNAアプタマーの長さに短く加工する作業は、多大な労力とコストを要する実験に依存していました。
早稲田大学大学院先進理工学研究科博士後期課程の木村(山﨑)晃(きむら やまざき あきら)、浜田道昭(はまだ みちあき)教授および株式会社リボミック(所在:東京都港区、代表取締役社長:中村義一)らの研究グループは、文章生成などに使われる大規模言語モデル(LLM)の技術を応用し、少数の実験データから任意のRNAアプタマーの結合活性を評価できる技術RaptScoreを開発しました。
これにより、従来法では困難だった配列の短縮化や未知の候補配列の評価が容易になり、創薬研究の効率化が期待されます。
本研究成果は、国際学術誌「Nucleic Acids Research」に2026年1月14日に公開されました。
論文名:RaptScore: a large language model-based algorithm for versatile aptamer evaluation

これまでの研究で分かっていたこと

RNAアプタマーは、タンパク質などに結合する核酸分子で、医薬品やバイオセンサーとしての応用が進んでいます。通常、アプタマーは「SELEX法」※3と呼ばれる実験で、配列プールから標的物質に結合するものを選抜して取得します。しかし、SELEX法の実験を行っても、本当に医薬品として有望な配列を見つけ出すことには困難が伴います。
具体的には、実験データ中に何回出現したかの頻度などを指標として評価していましたが、これには「実験データに含まれていない新規配列は評価できない」「配列の長さを変えると評価できなくなる」という課題がありました。特に、医薬品化にあたっては製造コストを下げるために配列を短くする「短鎖化」※4が重要ですが、短くした配列が良いかどうかは、再度実験をして確かめる他なく、開発にあたってのボトルネックとなっていました。

新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、新しく開発した手法

本研究グループは、実験データに含まれていない配列や、長さが異なる配列も評価できる指標であるRaptScoreを開発しました。DNAの塩基配列を学習できる大規模言語モデルDNABERTをベースに、アプタマー選抜実験(SELEX法)のデータで調整したAIモデルを活用し、対象のアプタマー配列が「どれくらい自然か(結合能を示す可能性が高い配列パターン)」をスコア化する技術です。
本研究の主な成果は以下の通りです。

  • 高精度な活性予測を実現
    実験による結合活性測定(SPR法)の結果と、AIが算出したRaptScoreを比較したところ、高い相関が見られました。これにより、少数の実験データを元に任意の配列の結合力を推定できることが示されました。
  • 「短鎖化」への応用実証
    実験的な検証を介さずとも、RaptScoreが高い値を示すように配列を削ることで、結合活性を維持、あるいは向上させながら、配列長を短くできることを実証しました。元の配列から長さを最大3割ほど削りつつも結合力を維持することに成功しました。
  • 生成AIとの連携による効率化
    同研究チームが開発したRNAアプタマー生成AI「RaptGen」と組み合わせることで、AIが生成した候補配列の中から、実際に実験すべき有望な候補を高確率で選抜できることを確認しました。

研究の波及効果や社会的影響

本成果は、RNAアプタマー創薬に複数の側面から寄与しうるAI技術です。 第一に、製造コストの削減です。化学合成で製造される核酸医薬品は、配列が短くなるほど製造コストが下がり、品質管理も容易になります。RaptScoreを用いれば、コンピューター上で効率的な短鎖化が可能になります。 第二に、開発スピードの向上です。実験をする前にAIで有望な候補を絞り込めるため、実験回数を減らし、効率的に強力なアプタマーを発見できます。 これらにより、がんやウイルス感染症などに対する新しい治療薬や診断薬が、より早く、より安価に社会に届くことが期待されます。

課題、今後の展望

現在のRaptScoreの課題の一つは塩基配列の並びのみを学習しており、RNAが形作る3次元の立体構造の情報は直接的には考慮していないことです。今後は、立体構造の情報も統合することで、予測精度をさらに高めることを目指します。

研究者のコメント

本研究は、熟練研究者が培ってきたアプタマーに関する経験や洞察を補完し、アプタマーの目利きやデザインをデータとAIにより効率化・高度化することを目指すものです。これまで開発してきた生成AI・RaptGenなどとあわせて、次世代の新薬として期待されるアプタマー創薬をさらに加速させる技術となることを期待しています。

用語解説

※1 RNAアプタマー
ターゲット分子(タンパク質など)に強く結合する能力を持つ、短いRNA分子。抗体医薬品に代わる次世代の中分子医薬品として注目されています。

※2 大規模言語モデル(LLM)
大量のテキストデータを学習し、文章の生成や評価を行うAIモデル。本研究では、DNA/RNAの塩基配列(A, G, C, T/U)を言語と見立てて学習させたモデル(DNABERT)を応用しました。

※3 SELEX(セレックス)法
Systematic Evolution of Ligands by Exponential enrichmentの略。膨大な種類のRNAライブラリから、標的物質に結合するものだけを選び出し、増幅させる工程を繰り返すことで、結合力の強いアプタマーを取得する実験手法。

※4 短鎖化
アプタマー医薬品の実用化において、活性に不要な部分を削ぎ落とし、配列を短くする工程。製造コスト削減や副作用低減のために重要ですが、多くの実験的な試行錯誤が必要です。

キーワード

RNAアプタマー、創薬、大規模言語モデル、LLM、AI、RaptScore

論文情報

雑誌名:Nucleic Acids Research
論文名:RaptScore: a large language model-based algorithm for versatile aptamer evaluation執筆者名(所属機関名):木村(山﨑)晃 (早稲田大学), 安達健朗, 中村重孝, 中村義一 (株式会社リボミック), 浜田道昭*(早稲田大学)
*:責任著者
掲載日時:2026年1月14日
掲載URL:https://academic.oup.com/nar/article/54/2/gkaf1480/8425320?guestAccessKey=7b0bb9bc-05b7-44a1-bc03-b25c04e9280c&utm_source=authortollfreelink&utm_campaign=nar&utm_medium=email
DOI:https://doi.org/10.1093/nar/gkaf1480

研究助成

研究費名:JST戦略的創造研究推進事業 CREST「イノベーション創発に資する人工知能基盤技術の創出と統合化」
研究課題名:人工知能技術を用いた革新的アプタマー創薬システムの開発
研究代表者名(所属機関名):浜田道昭(早稲田大学)

研究費名:JST 戦略的創造研究推進事業CREST「イノベーション創発に資する人工知能基盤技術の創出と統合化」(栄藤稔総括)
研究課題名:AIアプタマー創薬プロジェクト
研究代表者名(所属機関名):浜田 道昭(早稲田大学)

研究費名: 科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A)(25H01310)
研究課題名:生物の免疫反応を手がかりとした撹乱RNAの網羅的探索と特徴付け
研究代表者名(所属機関名):川崎 純菜(千葉大学)

研究費名:科学研究費助成事業 基盤研究(S)(25H00427)
研究課題名:新規翻訳誘導技術を用いた環状RNAの分子設計と応用
研究代表者名(所属機関名):阿部 洋(名古屋大学)

研究費名:科学研究費助成事業 挑戦的研究(開拓)(24K21326)
研究課題名:RNAリインカネーション
研究代表者名(所属機関名):浜田 道昭(早稲田大学)

研究費名: 科学研究費助成事業 基盤研究(A)(23H00509)
研究課題名:RNAを中心とした分子ネットワークに基づく生物学的相分離の俯瞰的・体系的理解
研究代表者名(所属機関名):浜田 道昭(早稲田大学)

研究費名: 科学研究費助成事業 学術変革領域研究(学術研究支援基盤形成)(22H04925)
研究課題名:先進ゲノム研究解析推進プラットフォーム
研究代表者名(所属機関名):黒川 顕 国立遺伝学研究所)

研究費名: NEDO 量子・古典ハイブリッド技術のサイバー・フィジカル開発事業
研究課題名: 量子・A I次世代創薬
研究代表者名(所属機関名):浜田 道昭(早稲田大学)

光で操る「ナノ温度スイッチ」を実現

著者: contributor
2026年1月20日 14:17

光で操る「ナノ温度スイッチ」を実現
~光の右回り・左回りで熱分布を書き換える~

研究成果のポイント

  • 一般的に、金属の微細構造に光を照射すると、その表面は均等に熱くなる(等温)
  • 本研究では、「窒化チタン」のナノ構造に、右回りまたは左回りの円偏光を照射すると、ナノ構造表面に「全く異なる温度パターン」が現れることを実証した
  • ナノメートル領域の熱を、「光の色」や「偏光」で操る新しい手法として、化学反応の局所的な制御や、微小な液体の流れ・物質輸送を操る新しい技術へと応用することが期待される

ナノメートルサイズの金属構造が光によって加熱される現象は、化学反応の局所制御や医療応用、エネルギー変換など、幅広い分野で注目されています。これまで、金属のナノ構造は、光を当てると表面全体が等温になると考えられてきました。
しかし今回、兵庫県立大学大学院工学研究科の瀬戸浦健仁准教授、東北大学多元物質科学研究所の押切友也准教授、関西学院大学理学部の田村守専任講師、早稲田大学先進理工学研究科の森田賢さん(博士後期課程)および同大学理工学術院の井村考平教授、北海学園大学工学部の藤原英樹教授、国立研究開発法人物質・材料研究機構の石井智チームリーダー、北海道大学大学院総合化学院の藤井優祐さん(博士前期課程)および同大学電子科学研究所の松尾保孝教授、そして大阪公立大学大学院理学研究科/LAC-SYS研究所の飯田琢也教授/所長のグループが実施した共同研究では、「窒化チタン」という材料でナノ構造を作ることで、光の「右回り・左回り」という偏光回転の違いだけで、ナノ構造表面に全く異なる温度パターンが現れることを明らかにしました。
このような温度パターンの切り替えは、ナノスケールでの加熱位置や加熱強度を光だけで制御できることを意味します。これは、化学反応の局所的な制御や、微小な液体の流れ・物質輸送を操る新しい技術につながると期待されます。
本研究成果は、アメリカ化学会の学術誌「Nano Letters」に2025年12月22日付で掲載されました。

研究の背景

金属をナノメートルサイズの微粒子にして光を照射すると、ナノ粒子が光を強く吸収して発熱する「プラズモン加熱」という現象が起こります。多くの金属の中でも、金のナノ粒子は、光から熱への高いエネルギー変換効率を示すことが知られています。図1に、プラスチックボトルに入った金ナノ粒子のコロイド水溶液を示します。金の色は、本来は文字通り「黄金色」ですが、ナノ粒子になると、電子が集団でいっせいに振動する「局在プラズモン」が強く光を吸収するため、図のように鮮やかな赤色を呈します(この溶液中には、数百億個のナノ粒子が分散しています)。これまで金ナノ粒子のプラズモン加熱は、がん細胞の光温熱治療や熱化学反応の局所パターニング、そして局所的な液体の流れ制御への応用が進められてきました。
プラズモン加熱の研究において、ひとつの常識となっていたのが、「光で加熱されているナノ粒子の表面は、完全に等温になる」というものでした。そもそも金は、多くの金属の中でも特に熱の伝導性が良いので、非常に小さなナノ粒子の表面では「温度差が生じるはずがない」とされてきました。

図1. 金ナノ粒子のコロイド水溶液

 

研究成果の内容

本研究グループでは、「ナノ粒子の表面の狙った箇所だけを、光によって選択的に加熱する」ことができれば、新たなブレイクスルーになると考えてきました。

図2. 著者らが作製した窒化チタンの薄膜

 

これを実現する鍵として見出したのが、「窒化チタン」という材料です。この材料は、図2に示すように、金と良く似た黄金色の金属光沢を示すため、ナノ粒子にすればプラズモン加熱に利用可能です。そして最も重要な点は、この窒化チタンの熱の伝導性が、金の1/10以下であることです。熱の伝導性が低い材料でできたナノ構造に光を照射すると、「局在プラズモン」という電子の波の振動パターンが、ナノ構造の表面温度分布にくっきりと転写されるはずであると予測しました。
このアイデアを実証するために、図3の左側に示すように、窒化チタンを材料とする全長 800 nmのS字ナノ構造を、数値シミュレーションによって設計しました(人間の髪の毛の直径が80 μmなので、S字ナノ構造の全長はその1/100です)。このS字ナノ構造にレーザー照射する際に、光の波長や強度は固定したままで、円偏光の回転方向だけを「右回り・左回り」で変えると、図3中央のカラーマップで示されているように、ナノ構造の表面に、「全く異なる温度パターン」が現れることが、シミュレーションで示唆されました。
このシミュレーションを検証するために、半導体の微細加工に用いられる電子線リソグラフィなどの技術によってS字ナノ構造を実際に作製し、レーザー照射による実証実験を行いました。実験では、熱反応によって生成物が形成する「酸化亜鉛の水熱合成」を、このS字ナノ構造へのレーザー照射によって誘起したところ、図3の右側の電子顕微鏡画像に示す通り、シミュレーションと一致する結果が得られました。つまり、窒化チタンという材料を用いることで、光によって「ナノ構造の狙った場所だけを加熱する」ことが可能であることが実証されました。

図3. 窒化チタンのS字ナノ構造への円偏光照射によるナノ構造表面の 温度パターンのスイッチング

 

今後の期待

これまでのプラズモン加熱の常識を打ち破って、「光の色や偏光を変えるだけ」で、ナノメートルという微小領域の温度パターンを自在に造形できることが示されました。この成果は、化学反応の局所的な制御や、微小な液体の流れ・物質輸送を操る新しい技術につながると期待されます。

論文情報

タイトル:Chiral Plasmonic Surface Temperature Switching by Several Tens of Kelvins in Titanium Nitride Nanostructures
著者:Kenji Setoura, Tomoya Oshikiri, Mamoru Tamura, Ken Morita, Hideki Fujiwara, Satoshi Ishii, Yusuke Fujii, Yasutaka Matsuo, Takuya Iida, and Kohei Imura
掲載誌:Nano Letters
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.nanolett.5c05212 (2025年12月22日公開)

謝辞

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費(JP23K04561, JP25H01633, JP22H05131, JP23H01916, JP25K22238, JP25H00828, JP24K08282, JP25H01627, JP23K26518, JP24K21723, JP25H00421, JP23H01927, JP25H01637)、マテリアル先端リサーチインフラ事業(JPMXP1224HK0169)および国立研究開発法人科学技術振興機構(JST, JPMJFR2139, JPMJMI21G1)の支援を受けて実施しました。

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