ノーマルビュー

2025 年度「STI for SDGs」アワード 奨励賞を受賞

2025年11月11日 13:20

科学技術・イノベーション(Science, Technology and Innovation:STI)を用いて社会課題を解決する優れた取り組みに対して、さらなる発展や同様の社会課題を抱える国内外の地域への水平展開を促し、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)の達成に貢献することを目的として、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)により創設された「STI for SDGs」アワードについて、理工学術院中垣隆雄教授(プロジェクトマネージャー)、理工学術院秋山充良教授が参画する研究プロジェクトが奨励賞を受賞しました。

【受賞団体】早稲田大学、株式会社ササクラ、吉野石膏株式会社
【プロジェクト名】海水を用いた有価物併産カーボンリサイクル技術実証
【概要】海水を原料に、炭酸マグネシウムとして CO2を固定化するとともに、石膏や肥料などの有価物を生産する独自のカーボンリサイクル技術を開発。温暖化防止への取り組みとして、早期の本格的な社会実装が期待される。

今回受賞したプロジェクトは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の公募事業である「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO2有効利用拠点における技術開発/研究拠点におけるCO2有効利用技術開発・実証事業(実証研究エリア)」に採択された研究プロジェクトとなります。

なお、第7回目となる2025年度の「STI for SDGs」アワードでは、書類および面接審査を経て、文部科学大臣賞1件、科学技術振興機構理事長賞1件、優秀賞4件、奨励賞4件、次世代賞2件が受賞しました。

理工学術院 中垣隆雄教授

 

授賞式の様子

 

2025年度 W-SPRING・W-SPRING-AI博士フォーラムを開催

2025年10月22日 14:13

2025年9月19日(金)、早稲田大学国際会議場において「W-SPRING・W-SPRING-AI博士フォーラム」を開催しました。

本フォーラムは、博士後期課程への進学を後押しするとともに、研究力向上とキャリアパスの多様化を支援するために国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が展開する事業である「次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)」および「国家戦略分野の若手研究者及び博士後期課程学生の育成事業(BOOST)」の支援を受け、本学が運営している「早稲田オープン・イノベーション・エコシステム挑戦的研究プログラム(W-SPRING)」および「早稲田次世代AIイノベーション・エコシステム挑戦的研究プログラム(W-SPRING-AI)」について、成果報告、分野融合・学生同士のネットワーク構築および将来の共同研究実施のきっかけの場作りを目的として開催するものです。

昨年度に続き2回目の開催であり、12の研究科からW-SPRINGおよびW-SPRING-AIの支援学生約200名が一堂に会し、交流を深めました。

冒頭、本学常任理事・W-SPRING事業統括の本間敬之(理工学術院・教授)から、本フォーラム開催にご協力くださった産業界等の方々への御礼とともに、学生に対して「W-SPRINGやW-SPRING-AIではイノベーションを牽引する博士人材を育成することを目的としていますが、博士の研究はしっかり深掘りしながら、それが社会にとってどのような価値があるのか、どのように産業に貢献するか、という意識を持ってもらいたいと考えています。本日は幅広い分野の博士課程に在籍する仲間が多く参加しています。このような機会を活用し、異分野の学生との議論を通して、俯瞰的に物事を見る力をつけてもらいたいと思います。ぜひ、学生同士の交流を深めてネットワークを広げてください。」と、メッセージが送られました。

常任理事・W-SPRING事業統括 本間敬之(理工学術院・教授)

続く、来賓の文部科学省科学技術・学術政策局長の西條正明氏からは、「博士課程で日々研究に邁進される皆さんは、まさに知のフロンティアを切り開く先駆者です。博士人材の持つ深い専門知識と課題発見解決能力などの汎用的能力や新たな知を創造する力は、イノベーションの質とスピードを強化し、企業の競争力を格段に向上させるものと確信しております。社会の多様なフィールドで活躍できる博士人材が育ち活躍することで、博士人材の価値が一層高まり、優秀な学生が博士課程に進学するという好循環を生み出すことが可能になると考えております。私どもも、昨年『博士人材活躍プラン』をとりまとめ、今年は経済産業省と共同で設置した有識者会議で『博士人材の民間企業における活躍促進に向けたガイドブック』『企業で活躍する博士人材ロールモデル事例集』『博士人材ファクトブック』の3点をとりまとめ、博士人材の活躍・活用を企業に伝える取り組みを行っています」と、博士学生への期待と、博士人材を応援する活動の紹介をいただきました。

文部科学省科学技術・学術政策局長 西條正明氏

また、W-SPRING-AI事業統括の鷲崎弘宜(理工学術院・教授)からは、本フォーラムの趣旨説明として学生に向けて、「三つの狙い」が伝えられました。

  1. アカデミアだけでなく、様々な業種の企業からも多くの人においでいただいている。自分の研究が社会においてどのように貢献できるか、どう実装を進めるかを考える機会としてもらいたい。
  2. 新しいアイデアやイノベーションは異分野の交流・連携から生まれる。今日は約200人の博士人材が集まっており、その中で少なくとも一人は自分の研究とのつながりや発展を見出せる人がいるはずである。ぜひ、その一人を見つけてほしい。そうした異分野連携を奨励すべく、学生間の異分野連携相乗型共同研究を募集する予定である。
  3. ポスターセッションやグループワーク、交流会などで、積極的に交流を進め、ヒューマンスキルを磨いてもらいたい。

W-SPRING-AI事業統括 鷲崎弘宜(理工学術院・教授)

趣旨説明ののち、30分ごと、4パートに分けてポスターセッションが行われました。全パートにおいて研究分野を限定せず混在させながら、ポスターには統一して自己紹介、研究概要、キャリアデザインを記載するフォーマットとすることで、異分野の学生が議論に入りやすい工夫を取り入れました。学生たちは、異分野のポスター発表にも積極的に参加して質問を重ね、議論を深めていました。

ポスターセッションの様子:時には複数の分野の学生がディスカッションする様子も見られた

ポスターセッションの様子:いずれのグループの学生も、指定されたセッション時間中、非常に真剣に研究成果やキャリアデザインについて議論した

午後の部は、まず2025年度より開始した異分野融合研究プロジェクトについて、今年度採択された2件のプロジェクトの発表がありました。

  1. The neural mechanisms underlying listening difficulties: A focus on speech perception and production.
  2. Visualizing the learning effects of “Failure”: An interdisciplinary approach to elucidating learning processes.

異分野融合研究プロジェクト発表の様子

次に基調講演として、W-SPRING-AI副事業統括の尾形哲也(理工学術院・教授)から“Embodied AI: Empowering robots with foundation models”というタイトルでロボット研究の最前線や社会実装に向けた活動の紹介がありました。

オンラインで講演したW-SPRING-AI副事業統括 尾形哲也(理工学術院・教授)

続いて行われたグループワークでは、「AIがどれほど進化してもなお、人間にしか解決できない課題とは何だろうか?」をテーマに、異分野のグループに割り振られた博士学生たちがディスカッションを重ね、その結果を2分間のプレゼンテーション資料としてまとめ、発表しました。各グループに、産業界やアカデミアで活躍するファシリテーターが1名ずつ参加し、議論を始めるきっかけやテーマに関する助言をもらいながらグループワークが進められました。プレゼンテーションでは、内容の充実度はもちろんのこと、短い時間で聴衆に印象を残すための資料や話し方の工夫が多く見られました。すべてのグループの発表後、ファシリテーターを代表して6名から、総評と企業紹介がありました。

グループワークの様子:自由にツールを用いながら議論を積み上げていく学生たち

グループワークの様子:グループワーク終盤では、プレゼンテーションでどう引き付けるか、にもこだわる様子がみられた

グループワークを終えたのち、発表の様子

懇親会・ネットワーキングでは、ファシリテーターから「いかに良い『問い』を見つけるかを博士研究においても意識してほしい」「今回のように、分野に横串を通してチームで議論を進められるのが早稲田の良いところである」「グループワークでは『AIにできないこと』が問いであったが、ビジネスの視点からは『AIに(だけ)できることが何か』を探すことも重要」といったコメントをいただきました。

様々な分野、学年の博士学生たちが、自身の持つ知見を用いて意見を交わし、多様な業界・業種のファシリテーターの助言を受け入れながらより良い結果を導き出そうとする様子が、今後の日本を牽引する博士人材として頼もしく感じられたイベントとなりました。

 

 

早稲田オープン・イノベーション・エコシステム挑戦的研究プログラム(W-SPRING)

将来の我が国の科学技術・イノベーションの基盤となり、社会課題の解決に取り組む博士学生を育成するとともに、博士の多様なキャリアパスを確立させることを目指して、2021年度から開始し、2024年度から2期目を迎えた博士学生支援プログラムです。経済的支援として、博士学生一人当たり最大で年間290万円を240人に、最長3年間支給するとともに、学位取得後を見据えたキャリア開発・育成コンテンツをカリキュラムに組み込むことで、博士人材が産業界で幅広く活躍するための素養を身に付け、社会実装を目的とした融合的研究に専念できるよう支援しています。

本プログラムの実施を通じて、社会の課題解決と産業界のニーズに応え得るべく、博士課程の教育改革をこれまで以上に押し進め、日本の産業競争力の強化と社会の持続可能な発展に寄与していきます。

(本プログラムは、文部科学省/JST「次世代研究者挑戦的研究プログラム<Support for Pioneering Research Initiated by the Next Generation(SPRING)>」に採択されています)

早稲田次世代AIイノベーション・エコシステム挑戦的研究プログラム(W-SPRING-AI)

博士学生が、領域横断に AI イノベーションを生み出し続け、世界的な AI 技術・応用の研究をリードし、同分野の研究を本格的に推進・先導するリーディングサイエンティストに成長することを目指して、2024年度から博士学生への支援を開始いたしました。経済的支援として、博士後期課程の学生一人当たり最大で年間390万円を最長3年間支給するとともに、学位取得後を見据えた育成コンテンツをカリキュラムに組み込むことで、次世代AI分野に関する高度な専門性と研究遂行能力を身に付けると同時に、自身の研究に専念できるよう支援します。

本プログラムの実施を通じて、次世代 AI 分野におけるイノベーション創出や日本の産業競争力強化に貢献していきます。

(本プログラムは、文部科学省/JST「国家戦略分野の若手研究者及び博士後期課程学生の育成事業 次世代AI人材育成プログラム(博士後期課程学生支援)」に採択されています)

環境省「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」に新規採択

2025年10月8日 17:34

再エネ導入を加速する次世代蓄電技術開発に着手

シリコン系負極を活用した高性能リチウムイオン電池で電力安定供給とカーボンニュートラルを推進

国立大学法人信州大学、TDK株式会社、国立大学法人鳥取大学、学校法人早稲田大学、ヴェルヌクリスタル株式会社の5者は、環境省が公募した「令和7年度 地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」において、研究開発課題「再エネの導入促進に資するSi系負極を用いた系統用電力貯蔵システムに関する技術開発」(以下、本事業)が採択されたことをお知らせします。
本事業は、2050年カーボンニュートラル社会の実現に不可欠な再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入拡大を加速させるため、電力貯蔵システムの高度化を目指すもので、既存のリチウムイオン二次電池(以下、LIB)に使用されている黒鉛負極をSi系負極に置き換えることで、高エネルギー密度と高出力/長寿命の次世代LIBを開発・実証し、早期の社会実装を図ります。
※本事業の早稲田大学代表研究者は理工学術院の門間聰之教授です。

本事業の目的と技術的優位性

再エの出力変動を補い、安定した電力供給を可能にするためには、高エネルギー密度と高出力を両立した電力貯蔵システムが喫緊に求められています。しかし、現在の技術では、この両立は困難でした。本事業で開発するSi系LIBは、従来の黒鉛の代わりにSi系負極を用いることで、エネルギー密度を飛躍的に向上させ、かつ高い出力と長寿命化を同時に実現します。この革新的な技術は、既存の製造プロセスを転用できるため、他の次世代電池技術に比べて早期の社会実装が期待されています。また、主要材料であるシリコンは国内での供給安定性が高く、経済的な優位性も備えています。

実施体制と今後の展望

本事業は、令和7年度10月から2年半にわたり、各機関の専門性を結集して研究開発と実証を進めます。信州大学が代表機関として全体を統括し、材料評価、セル試作、劣化機構解析を分担します。共同実施者である鳥取大学はSi系複合材料の開発と基本性能評価を、早稲田大学は高度な解析技術を用いて劣化機構を解明します。ヴェルヌクリスタル株式会社は要素技術を統合したシステム開発を、TDK株式会社は開発した電極合材で試作したセルでの信頼性評価と事業化に向けたロードマップの策定を担当します。
本技術の社会実装を加速させることで、我が国のエネルギー安定供給とカーボンニュートラル社会の実現に貢献してまいります。

実用性の高いカーボンリサイクル製品として、海水とCO2を原料とした全く新しいコンクリートを開発

2024年9月17日 15:26

実用性の高いカーボンリサイクル製品として、海水とCO2を原料とした全く新しいコンクリートを開発

発表のポイント

  • 海水中のマグネシウムを用いてCO2を炭酸塩として固定したカーボンリサイクル材料「WMaCS(ダブルマックス)®」を開発しました。
  • WMaCS応用製品として、「普通ポルトランドセメント」※1を用いた従来のコンクリートとは全く異なる新しい世界初のコンクリートの開発に成功しました。配合により、 凝結時間と施工性、あるいは圧縮強度は、普通ポルトランドセメントを用いたコンクリートと同等です。
  • 新開発のコンクリートなど、WMaCS製の建設材料は、1m3あたり約20~110kgのCO2を長期間固定化できます。

早稲田大学理工学術院の中垣隆雄(なかがきたかお)教授と秋山充良(あきやまみつよし)教授の研究グループ(以下、本研究グループとする)は、海水中のマグネシウムを用いてCO2を炭酸塩として固定したカーボンリサイクル材料「WMaCS(ダブルマックス)®」を開発しました(Waseda Magnesium-based Carbon Sequestration materialsの略、登録商標)。WMaCSを応用した建設材料は、1m3あたり約20-110kgのCO2を長期間固定化できます。WMaCSの応用製品として新たに開発したコンクリートは、石灰由来のクリンカ※2を一切含まない独自の製法のため、従来の普通ポルトランドセメントを用いたコンクリートと硬化メカニズムは全く異なりますが、配合により、普通コンクリートと同等の施工性(約1-2時間の凝結時間)、あるいは、建設材料として十分な圧縮強度(25-75MPa)を実現しました。

図:WMaCS製造プロセスフロー

本研究成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDOとする)から2022年度に受託した「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO2有効利用拠点における技術開発/研究拠点におけるCO2有効利用技術開発・実証事業」(実証研究エリア)におけるプロジェクト「海水を用いた有価物併産カーボンリサイクル技術実証と応用製品の研究開発(※)」(プロジェクトマネージャ:中垣隆雄教授、株式会社ササクラとの共同実施、以下、本プロジェクトとする)の研究活動によって得られたものです。

現在、本プロジェクトでは、広島県・大崎上島の実証研究エリアにおいて20トン/日の海水を用いたカーボンリサイクル技術のパイロットスケールの試験を開始しており、同エリアにて供給される石炭ガス化複合発電由来のCO2を用いて同様のコンクリートを製造する予定です。さらに、商用化を見据え、モルタルやボード材など様々な応用製品も開発中で、これらの製品の実用化を通して、カーボンリサイクル技術の早期社会実装を目指します。

※参考:「海水を用いた有価物併産カーボンリサイクル技術実証と応用製品の研究開発を目指す」(2022年11月16日プレスリリース、https://www.waseda.jp/top/news/85546

図:WMaCSを用いたコンクリ―ト材の混錬

図:WMaCSを用いた様々なプレキャストコンクリート製品

図:材齢7日の円柱供試体の圧縮強度

研究の背景

CO2を分離回収し資源として有効活用するカーボンリサイクル技術は、日本政府によって2021年6月に策定された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」において、カーボンニュートラル社会を実現するためのキーテクノロジーとして位置付けられています。そのうち、現時点ではまだ高価なグリーン水素を用いず、再放出しない炭酸塩等へのCO2固定化は、先行して実現可能な技術として期待されています。CO2固定化材料には、CaO(酸化カルシウム)かMgO(酸化マグネシウム)が適しています。カルシウムもマグネシウムも海水中にイオンとして多く含まれており、本プロジェクトでは、カルシウムを石膏(CaSO4・2H2O)として、マグネシウムを塩化マグネシウム水和物(MgCl2・2H2O)としてそれぞれ回収し、後者を熱分解して得られるMgOを原料とした炭酸マグネシウムの応用製品の開発に取り組んできました.これらの一連の工程をグリーン電力等によって駆動し,コンクリート化することで1m3あたり約20~110kgのCO2を固定化できます。この炭酸マグネシウム材料は、前事業(※)の成果を基に得られたものであり、カーボンリサイクル材料「WMaCS(ダブルマックス)®(Waseda Magnesium-based Carbon Sequestration materialsの略)と名付けて商標(第6829796号)も登録しました。

従来のコンクリートに用いられる普通ポルトランドセメントは、天然にCO2が固定化されている石灰(CaCO3)を熱分解して得られたCaOが主成分のクリンカを使用しており、加熱用の燃料をカーボンニュートラル化しても、石灰由来の非エネルギー起源CO2の発生は避けられません。一方、普通ポルトランドにWMaCSを混ぜただけのコンクリートは施工性が悪化し、ひび割れ等が発生して強度も不足しておりました。

※参考:研究開発テーマ「海水および廃かん水を用いた有価物併産CO2固定化技術の研究開発」(2020年7月15日プレスリリース、https://www.waseda.jp/top/news/69663

今回の研究成果

本研究グループは、古くからある非水硬性のソレルセメントの技術にヒントを得て、材料と配合比を変えたコンクリートを作製し、性能評価を実施してきました。今回の研究成果は、混ぜ込むWMaCSの結晶を酸化マグネシウムの生成条件と炭酸塩化の条件によって制御し、ソレルセメントによって作製した粗骨材・細骨材および独自の配合比(特許出願済み)とすることで、コンクリートに求められる1-2時間程度の凝結時間による施工性の確保と25MPa以上の圧縮強度の両立に成功しました。現在、早稲田大学西早稲田キャンパス(東京都新宿区)にて露天の耐候試験を実施しており、種々の特殊添加剤が材料劣化の抑制に及ぼす影響などを検証中です。現在までに、製造から半年が経過した後でも、開発したコンクリートに特に目立った劣化は確認されておりません。

石灰を一切用いず、海水とCO2だけで作製できる世界初のコンクリートを実現したことで、コンクリートの抱える非エネルギー起源CO2も削減可能となります。

今後の展開このプロジェクトにより期待される波及効果

現在、本プロジェクトでは、(株)ササクラと広島県・大崎上島の実証研究エリアにおいて20トン/日の海水を用いたカーボンリサイクル技術のパイロットスケールの試験を開始しており、2024年度中に同エリアにて供給される石炭ガス化複合発電由来のCO2を用いて同様のコンクリートを作製する予定です。

WMaCSを用いたコンクリートは、消波ブロックやインターロッキングブロックなど、プレキャストコンクリート製品への展開を目指しています。一方、塩化物を大量に含み、従来のコンクリートのような強アルカリ性ではないため、普通鋼鉄筋を用いるのは困難です。そのため、水中への浸漬による溶脱イオンの測定や、ステンレス鋼鉄筋の腐食試験なども継続して実施中です。

さらに、商用化を見据え、モルタルやボード材など様々な応用製品も開発中で、これらの製品の実用化を通して、カーボンリサイクル技術の早期社会実装を目指します。

研究プロジェクトについて

事業名称:NEDO カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO2有効利用拠点における技術開発 /研究拠点におけるCO2有効利用技術開発・実証事業(実証研究エリア)
テーマ「海水を用いた有価物併産カーボンリサイクル技術実証と応用製品の研究開発」
実施期間:2022年度から2024年度までの3年間(予定)

(参考)カーボンリサイクル実証研究拠点 https://osakikamijima-carbon-recycling.nedo.go.jp/
同パンフレットの6ページに本プロジェクトも記載。https://osakikamijima-carbon-recycling.nedo.go.jp/wp-content/themes/html/docs/panflet.pdf

研究者情報

学校法人早稲田大学
理工学術院創造理工学部総合機械工学科 中垣隆雄 教授
理工学術院創造理工学部社会環境工学科 秋山充良 教授

用語解説

※1 普通ポルトランドセメント
普通ポルトランドセメントは、建築や土木工事で広く使われているセメントの名称です。石灰石や粘土を高温で焼いた後、粉砕して作られます。このセメントは水,砂,砂利などと混ぜることでコンクリートとなり、建物や橋などの構造物に広く使われています。

※2 クリンカ
クリンカは、セメントの製造過程で生まれる中間製品です。石灰石や粘土を高温で焼き上げてできる硬い塊で、これを粉砕して普通ポルトランドセメントが作られます。クリンカの製造には熱エネルギーを必要とし、多くは化石燃料を使っています。例え化石燃料から脱却しても、石灰石(CaCO3)の熱分解由来のCO2発生は回避できません。

ロボットアーム運動生成 旧来比4倍を超える高速計算手法を開発

2023年10月16日 11:25

ロボットアーム運動生成 旧来比4倍を超える高速計算手法を開発

量子インスパイアード技術「デジタルアニーラ」を活用した世界初の取り組み

発表のポイント

ロボットの運動時のエネルギー消費の低減に向けて、効率的な運動軌道を導いたり、その軌道を実現する各時間の加減速への考慮を行ったりするための最適化計算は、これまで運動そのものに比べて膨大な時間を要し、ロボット開発やその進歩にとって大きな障壁となっていました。
組合せ最適化問題を高速に解くことに特化した「デジタルアニーラ」の技術を用いて、ロボットアーム先端の軌道求める最適制御問題として定式化しました。
今回開発した計算手法によって、エネルギー消費の観点で最適な運動生成を達成する高速計算を実現すると同時に約10%のエネルギー消費の低減をもたらすことができました。

早稲田大学(以下、早大)理工学術院総合研究所の大谷拓也(おおたにたくや)次席研究員ならびに同大理工学術院の高西淳夫(たかにしあつお)教授らの研究グループは、富士通株式会社(以下、富士通)との産学連携により、次世代コンピューティングの一つであるアニーリング方式に属する、富士通の量子インスパイアード技術*1「デジタルアニーラ*」を用いて、ロボットの構造に応じたエネルギー消費の少ない運動を高速で計算する手法を提案しました。量子インスパイアード技術をロボットアームの運動生成に活用する取り組みとしては世界初となります。

本研究成果は世界最大の学術研究団体であり、全世界に40万人を超える会員を有する米国電子電気学会(IEEE)発行の『IEEE access』に2023年9月28日(木)(現地時間)に掲載されました。

【論文情報】
雑誌名:IEEE access
論文名:Energy Efficient Path and Trajectory Optimization of Manipulators with Task Deadline Constraints
DOI10.1109/ACCESS.2023.3320143

(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

近年、様々な場面でロボットの実用化が進み始めている一方で、エネルギー不足の問題は、ロボット分野のみならず、世界的な問題として深刻化しています。ロボットのエネルギー効率が低いと、エネルギーが無駄に消費されてしまいます。人間は、身体に多くの関節を持ち、手の位置が同じでも様々なポーズで実現することができ、楽な姿勢をすればエネルギー消費は減ります。人間と同じく、ロボットがどのように動くかによってエネルギー消費は変わります。

そのため、ロボットが腕を動かして作業をする際の手の位置が同じであっても、どのように動くかをロボット自身が自動でエネルギー消費の少ない運動を求める計算ができれば、ロボットの運動時のエネルギー消費を低減できます。しかし、腕や足は複数の関節から成ることでその計算が複雑となるため、運動に対して膨大な時間が必要でした。また、ロボットの動く軌道と、その軌道を実現する際の各時間の加減速を同時に考慮することは困難でした。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

ロボットのエネルギー消費を低減する方法として、ロボットができる運動範囲の中からエネルギー消費の少ないポーズを考慮できれば、作業時間の一部はエネルギー消費の少ないポーズを経由して動くことができます。また、ロボット内にバネがある場合にはバネがロボットの腕の重さを支えてくれるポーズをとるなど、ロボットの取れる範囲で最適な動作を計画することができると考えました。さらに、ロボットに指示する作業完了時間に余裕がある場合は、作業時間すべてを使ってゆっくり動くよりも、エネルギー消費の少ない楽な姿勢で待機しておき残りの時間で動く運動も、エネルギー消費を低減することには有効です。

そこで本研究では、次世代コンピューティングの一つであるアニーリング方式に属する富士通株式会社の量子インスパイアード技術「デジタルアニーラ」を用いて、ロボットの構造に応じたエネルギー消費の少ない運動を高速で計算する手法(次項「(4)そのために新しく開発した手法」参照)を提案しました。本手法では、従来の運動生成手法よりもはるかに高速に、ロボットの可動範囲全体を考慮した低エネルギー消費の運動を生成できることがわかりました。一例として、従来はロボットの運動を数式として表現して連続的に計算する手法である内点法*3を用いて440秒かかっていた3秒間のロボット運動生成を、「デジタルアニーラ」による計算100秒で完了できました。旧来比で4倍以上の圧倒的な高速性を示すことができました。また、ロボットアームを前に伸ばす動作や、腕を上げる動作をシミュレーションし、ロボットの各部の重さや長さ、ばねの有無などを考慮してエネルギー消費を計算することで、腕を伸ばす際に短い状態で待機してから伸ばす動作や、腕を上げる際に真上にゆっくり上げてから少し前に出すような動作が生成されました(図2)。さらに、ロボット内にバネがある場合には、ばねが支えられる範囲で腕の重さを支えてもらえる位置に腕を移動した後、目標に到達する運動が生成されました。これらによって、一般的な比較対象として用意した、運動の開始地点から終了地点までの等速直線軌道を通った場合に対して、関節に必要な力の合計が約10%減少でき、エネルギー消費が少なくなりました。

(3)そのために新しく開発した手法

本研究が解くロボットの運動生成問題は、ロボットの運動時のエネルギー消費を最小化する離散化された一連のロボットアームの手の位置を求める最適制御問題として定式化します。本研究で提案する運動計画法は、主に以下の①~⑤からなる5つのステップから構成されます。

  1. ロボットの手の可動範囲を離散化する。
  2. 離散化された手の位置とそれらの組合せにおける各関節角度、角速度、角加速度を計算する。
  3. 実行する作業に応じて目的関数と制約条件を設定する。
  4. コスト最小化問題を二次制約なし二値最適化(QUBO)に変換する。
  5. イジングマシンによる最適化計算を行う。

空間内でのロボットの幅広い動作を単純化するために、ロボットの手の位置を離散化します。従来は、ロボットの運動方程式を構築し連続最適化問題として解く手法が提案されていましたが、ロボットのダイナミクスが複雑であると運動方程式も複雑になり数学的に解くことが難しいことが大きな課題でした。そこで、ロボットの手の位置の時間変化が軌道であるとして連続的な軌道を各瞬間の手の位置の組み合わせと考え、各瞬間にどの手の位置にあるかを組合せ最適化計算によって求めます。ロボットが消費するエネルギーはある時刻に手先位置がどのように変化したかによって計算できるため、離散化した手の位置の中から、手の位置同士の組合せごとに必要なエネルギーを計算し、ロボットのエネルギー消費ライブラリ*4を作成します。このデータから、各時刻の手先位置変化に必要なエネルギーの運動開始から終了までの合計が最小となる手の位置の一連の組み合せを求めます。

本研究では、量子現象に着想を得たデジタル回路設計により複雑な組合せ最適化問題を高速に解くことに特化した技術である、富士通の「デジタルアニーラ」を用いました。これにより、シミュレーテッド・アニーリング*5などの従来の手法よりも高速に組合せ最適化問題を解くことができます。

(4)研究の波及効果や社会的影響

本研究は、ロボットアームを持つ形状のようなロボットであれば汎用的に使用できる技術となっており、論文の中でも複数のロボットアームに対して、それぞれに異なる運動を生成しています。これらによってエネルギー消費を低減できれば、これからロボットが普及していく際にも、ロボットのエネルギー問題を解決することに貢献できると考えます。また、ロボットのエネルギー消費が小さくなれば同じバッテリであっても稼働時間が長くなり、さらには、屋外環境や宇宙など、エネルギー量が限られる空間でのロボットの活躍にも貢献できると期待しています。

(5)今後の課題

現状の課題として、より関節数の多いロボットの運動生成を行うには長い時間を要してしまいます。最適化を行う範囲を段階的に設定して最適化するなどによって、さらに大規模な運動生成を高速に計算する手法が求められます。今後は、ロボットでの様々な運動生成の実証を進めるとともに、ロボットの大きさや重さだけでなく、各部の構造の違いとしてギヤの違いなどをさらに考慮していくことを目指します。

(6)研究者のコメント

最先端の量子インスパイアード技術を用いることで多くのロボットのエネルギー消費低減に貢献できる技術を開発できました。複雑なロボットの運動は既存の計算手法では解くことが難しく、量子コンピューティング技術を用いることでロボット技術もさらに発展すると思うので、これからも研究を進めます。

(7)用語解説

1 量子インスパイアード技術

量子現象に着想を得たコンピューティング技術で、現在の汎用コンピュータでは解くことが難しい「組合せ最適化問題」を高速で解く技術

2 「デジタルアニーラ」

現在の汎用コンピュータでは解くことが困難な組合せ最適化問題を高速に解く富士通独自の量子インスパイアード技術。Fujitsu Computing as a Service Digital Annealer として提供。

3 内点法

連続最適化問題のアルゴリズムであり、特に大規模な問題を高速に解くことができる。

4 エネルギー消費ライブラリ

本研究で用いる、ロボットがあるポーズからあるポーズに短時間で運動するとどの程度のエネルギーを消費するかを、ロボットが実行可能なポーズすべてについて計算しまとめたもの。

5 シミュレーテッド・アニーリング

「焼きなまし法」とも呼ばれ、大域的最適化問題へのアプローチ方法の一つ。金属を熱してから冷ます焼きなましの工程をコンピュータ計算に応用しており、最適化問題を解くために古くから使われている。

 (8)論文情報

雑誌名:IEEE access
論文名:Energy Efficient Path and Trajectory Optimization of Manipulators with Task Deadline Constraints
執筆者名(所属機関名):Takuya Otani (Waseda University)、 Makoto Nakamura (Fujitsu Ltd.)、Koichi Kimura (Fujitsu Ltd.)and 、Atsuo Takanishi (Waseda University)
掲載日:2023年9月28日
掲載URL:https://ieeexplore.ieee.org/document/10266335
DOI:10.1109/ACCESS.2023.3320143

 

 

 

世界初 テラヘルツ波信号を分配・送信

2023年5月16日 11:05

世界初、大容量テラヘルツ波信号を光ファイバ無線技術で異なるアクセスポイントに分配・送信する技術を実現

Beyond 5G時代の無線システム社会実装に向けて 途切れることのない通信や省エネルギー化に期待~

【ポイント】

大容量テラヘルツ波信号を異なるアクセスポイントへ透過的に分配・送信することに世界で初めて成功
新規開発のテラヘルツ波-光変換デバイスと光ファイバ無線技術で、毎秒32ギガビットの大容量光アクセス通信を実証
 光・電波融合技術が可能にするテラヘルツ波Beyond 5Gネットワークへの重要な一歩

国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長: 徳田 英幸)、住友大阪セメント株式会社(住友大阪セメント、代表取締役 取締役社長: 諸橋 央典)、国立大学法人名古屋工業大学(名古屋工業大、学長: 木下 隆利)及び学校法人早稲田大学(早稲田大、理事長: 田中 愛治)は共同で、テラヘルツ波となる285ギガヘルツの周波数帯で毎秒32ギガビットの大容量テラヘルツ波無線信号を異なるアクセスポイントへ透過的に分配・送信*1するシステムの実証に世界で初めて成功しました。

これを可能にしたのは、新規開発のテラヘルツ波-光変換デバイスと光ファイバ無線技術*2です。今回開発したシステムは、テラヘルツ波帯の電波のデメリットとされる「遠くに届きにくい、広い範囲をカバーしにくい」といった課題を克服することができ、無線信号のカバー範囲を拡大し、Beyond 5Gネットワークにおけるテラヘルツ波通信の展開に道を開くことができます。

本実験結果の論文は、光ファイバ通信国際会議(OFC 2023)にて非常に高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文(Postdeadline Paper)として採択され、現地時間2023年3月9日(木)に発表しました。

※本研究成果における早稲田大学代表研究者は、理工学術院、川西哲也教授です。

【背景】

テラヘルツ波通信は、Beyond 5Gネットワークのアクセスポイントで超高速データレートを得るための有力な候補です。しかし、テラヘルツ波の信号は、第5世代移動通信システム(5G)で使用されているマイクロ波帯やミリ波帯の信号に比べ、伝搬損失*3が非常に大きいため、長距離の送信や屋外から屋内など、障害物のある環境での通信が困難となります。また、テラヘルツ波帯の電波はカバー範囲が狭いため、ユーザーの移動がある場合、途切れなく通信を実現することが困難です。このような課題を克服するためには、テラヘルツ波信号を透過的に分配・送信することが重要ですが、これまでこれらを効率よく実現する技術はありませんでした。

【今回の成果】

今回、NICT、住友大阪セメント、名古屋工業大及び早稲田大は共同で、テラヘルツ波信号を光信号に変換し、様々なアクセスポイントに透過的に分配・送信する技術を確立することに世界で初めて成功しました。

要素技術の一つ目は、共同開発した、テラヘルツ波を光信号に変換するテラヘルツ波-光変換デバイスで、強誘電体電気光学結晶(ニオブ酸リチウム)を利用した高速光変調器*4です(図1参照)。結晶の厚さを従来比5分の1以下である100マイクロメートル以下とすることで、285ギガヘルツのテラヘルツ波にも対応可能な高速性を実現しました。

二つ目は光ファイバ無線技術で、テラヘルツ波信号の行き先を変更できる機能を付加した点です。テラヘルツ波信号を搬送するために、波長可変レーザにより生成した異なる波長のレーザ光を用い、波長を切り替えることで、テラヘルツ波信号をスムーズに切替え可能にしました。これにより、特定の波長が割り当てられた異なるアクセスポイントすなわちユーザーの位置に応じて配信することが可能になります。

これらの開発技術を組み合わせることで、4QAM変調*5で毎秒32ギガビットの大容量テラヘルツ波信号を直接光信号に変換し、異なるアクセスポイントに分配・送信する伝送システムの構築・実証に成功しました。また、テラヘルツ波の信号を10マイクロ秒以下という極めて短い時間で切り替えることができる可能性を示しました。

本成果を応用することにより、テラヘルツ波信号をあるアクセスポイントから他のアクセスポイントへ透過的に伝送することが可能となります。また、アクセスポイント間のテラヘルツ波信号の経路制御や切替えを行うことで、途切れることのない通信や省エネルギー化が期待されます。

【今後の展望】

今後は、今回確立したテラヘルツ波-光変換デバイスと光ファイバ無線技術を活用し、Beyond 5G時代の無線システムに向けた更なる高周波化、高速化及び低消費電力化を目指した技術検討を進めていきます。また、技術検討と並行し、国際標準化活動並びに社会展開活動を推進していきます。

なお、本実験結果の論文は、光ファイバ通信分野における世界最大の国際会議の一つである光ファイバ通信国際会議(OFC 2023、3月5日(日)~3月9日(木))で非常に高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文(Postdeadline Paper)として採択され、現地時間3月9日(木)に発表しました。

<役割分担>

NICT: 光・無線直接伝送技術の設計・技術開発・実証実験・標準化活動
住友大阪セメント: 無線信号を光信号へ変換するデバイス、高速光変調器の設計・技術開発・標準化活動
名古屋工業大学: 光局発信号発生器、光ファイバ無線技術の研究開発
早稲田大学: 光ファイバ無線技術の研究開発

<採択論文>

国際会議: 第46回光ファイバ通信国際会議(OFC 2023) 最優秀ホットトピック論文(Postdeadline Paper)
論文名: Transparent Relay and Switching of THz-wave Signals in 285-GHz Band Using Photonic Technology
著者名: Pham Tien Dat, Yuya Yamaguchi, Keizo Inagaki, Shingo Takano, Shotaro Hirata, Junichiro Ichikawa, Ryo Shimizu, Isao Morohashi, Yuki Yoshida, Atsushi Kanno, Naokatsu Yamamoto, Tetsuya Kawanishi, Kouichi Akahane

<用語解説>

*1 透過的に分配・送信

テラヘルツ波が遮られる壁などの遮蔽物があった場合、その場所でテラヘルツ波を光信号に変換し、光ファイバで伝送した後に再度テラヘルツ波に変換することで、テラヘルツ波が遮蔽物を透過したと考えてシステムを構築することができる。このためには、光信号とテラヘルツ信号を何度も行き来できる多段のRoF*2システムを簡便な構成で構築することが必要である。

*2 光ファイバ無線(RoF: Radio over Fiber

無線信号で光信号を変調することで、無線信号を直接光ファイバで伝送する技術。携帯電話や地上デジタル放送の電波不感地帯対策で既に利用されている。
NICTでは、本技術と高速受光デバイスを利用し、空港滑走路上の異物を検知するレーダーシステムや高速鉄道へミリ波信号を送り届けるシステムの実現を報告してきた。

過去のNICTの報道発表

・2021年7月15日 ミリ波無線受信機を簡素化する光・無線直接伝送技術の実証成功
https://www.nict.go.jp/press/2021/07/15-1.html

・2018年4月26日 時速500kmでも接続が切れないネットワークの実現に目途
https://www.nict.go.jp/press/2018/04/26-2.html

*3 伝搬損失

電波が大気中を進む際、空気や空気中の水分などにより、吸収されたり、散乱されたりする。これにより、電波の強度は徐々に弱くなる。これを伝搬損失と呼ぶ。

*4 光変調器

入力した電気信号を光信号に重畳するデバイス。基幹光ファイバ通信等で利用されている。デジタルデータ信号だけでなく、無線信号等を光信号へ変換する際にも用いられている。
今回は、強誘電体電気光学材料(ニオブ酸リチウム)を薄くし、電極構造を最適化することで、285ギガヘルツの光・無線変換が可能な高速性を実現した。

*5 直交振幅変調(QAM: Quadrature Amplitude Modulation

光の位相と振幅を併用し複数のビットを表現する方式(多値変調)の一種。On-Off Keying(OOK)と呼ばれるOnとOffの2つの状態(1ビット)で情報(21=2通り)を示す方式に対して、4QAMは、1シンボルが取り得る位相空間上の点が4個で、1シンボルで2ビットの情報(22=4通り)が伝送でき、同じ時間でOOK方式の2倍の情報が伝送できる。

 


補足資料

1. 今回開発したシステムの基本構成

図4は、今回開発した伝送システムの概略図を表しています。

下記の手順により、285ギガヘルツ・毎秒32ギガビットのテラヘルツ波無線信号伝送を実現しました。

(1)光ファイバ無線信号送信機

275.2ギガヘルツの周波数間隔を持つ2波長を用い、一方の波長は9.8ギガヘルツの信号で変調し、もう一方は無変調とした。変調された信号と変調されていない信号を再結合し、周波数間隔285ギガヘルツ(=275.2+9.8ギガヘルツ)のRoF信号を生成した(図4 (1)の右上の図参照)。

(2)テラヘルツ波無線送信機

光ファイバを伝送後、テラヘルツ波変換部にて、高速光検出器をベースとした光電変換器により、RoF信号から285ギガヘルツのテラヘルツ波信号へ変換し、パワーアンプで増幅した。

(3)中継ノード

受信した信号は、RFプローブを用いて、新たに開発した高速光変調器に接続し、光信号に変換した。テラヘルツ波信号の変調と切替えには、制御回路を備えた波長可変レーザを使用した。変調された信号は増幅され、波長ルータに接続され、異なるアクセスポイントに転送された。

(4)アクセスポイント

受信した光信号は、別の高速フォトダイオードに入力され、再び285ギガヘルツのテラヘルツ波信号に変換された。この信号を増幅し、48 dBiのレンズアンテナで自由空間へ送信した。

(5)テラヘルツ波信号受信機

約5 m伝送した後、別のレンズアンテナで受信し、増幅した後、サブハーモニックミキサで10.2ギガヘルツに下方周波数変換した。最後に、信号を増幅してリアルタイムオシロスコープに送り、オフラインで復調した。

2. 実験結果

図5の実験結果のグラフは、異なる波長で送られてきた信号の誤り率を示しています。ビットレートが上がると誤り率が上がりますが、毎秒32ギガビットまではデータ伝送可能であることが示されました。誤り訂正前のエラーベクトル振幅値(EVM: Error Vector Magnitude、伝送誤りに相当)で、4QAMにおいては、オーバーヘッド20%で帯域幅32ギガビットに相当します。

(b)は、受信時の4QAM信号で、4つのシンボルがはっきり見えるほど信号品質が良い(エラー訂正が少なくて済む)ことになります。

(c)は、テラヘルツ信号の切替えを行っているところを可視化した図で、横軸が時間、縦軸が信号強度になります。途中くぼんでいる部分が切替えを行っているところ(データが止まっているところ)ですが、テラヘルツ波信号の切替えを10マイクロ秒以下で行える可能性を示しました。

❌