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2026年4月15日 15:14
自然界には存在しない構造を持つ2次元酸化鉄の作製に成功
2026年4月15日 15:08
自然界には存在しない構造を持つ2次元酸化鉄の作製に成功
~グラフェン/SiC界面が生み出す新物質~
発表のポイント
- 自然界には安定に存在しない構造を持つ2次元酸化鉄の作製に成功しました。
- 2次元物質のグラフェンと3次元物質のSiCの界面に鉄と酸素を導入する新たな手法により、この2次元酸化鉄作製を実現しました。
- スピントロニクスデバイスなどへの応用が期待され、さらに他の2次元遷移金属酸化物に展開することによって新たな量子物性の開拓につながる可能性があります。
早稲田大学の乗松航(のりまつ わたる)教授、物質・材料研究機構(NIMS)の榊原涼太郎(さかきばら りょうたろう)博士(研究当時名古屋大学所属)、日本原子力研究開発機構の寺澤知潮(てらさわ ともお)研究副主幹、東京大学の河内泰三(かわうち たいぞう)技術専門職員、福谷克之(ふくたに かつゆき)教授、名古屋大学の伊藤孝寛(いとう たかひろ)准教授の研究グループは、自然界には存在しない構造を持つ2次元酸化鉄の作製に成功しました。
酸化鉄※1は、様々な組成・構造を持つものが存在し、例えば、スピネル構造を持つマグネタイトFe3O4は紀元前から鉄につく磁石として知られており、コランダム型構造を持つヘマタイトFe2O3は主要な鉄鉱石でありヘモグロビンと同様の由来を持つ名前が示すように赤い顔料として用いられています。
当グループは、2次元物質※2であるグラフェンと、3次元物質である炭化ケイ素(SiC)基板の界面※3に、2次元的な構造を持つ酸化鉄を作製する方法を発見しました。さらに、形成された2次元酸化鉄を原子レベルで構造解析した結果から、この界面物質は自然界には存在しない構造を持つ酸化鉄であることを明らかにしました。本研究成果は、界面を利用することで従来の化学平衡では実現できなかった新しい構造を作り出す手法を示した点で重要です。
本成果は、2026年3月14日付けで、Wiley社が発行する学術誌『Small Methods』誌に掲載されました。
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これまでの研究で分かっていたこと
遷移金属酸化物は、絶縁体から金属、超伝導体まで多彩な電子物性を示す材料として知られています。その中で本研究では、地球上に最も豊富に存在する遷移金属元素である鉄(Fe)とその酸化物に注目しました。鉄は、3d軌道の電子によるスピン分極のために強磁性体(磁石)として知られています。同様に酸化鉄でも、スピネル構造を持つマグネタイトFe3O4は古くから磁石として用いられてきました。酸化鉄はマグネタイト以外にも、塩化ナトリウム型構造を持つウスタイトFeOやコランダム型構造を持つヘマタイトFe2O3など様々な構造を持ち、構造によって物性が大きく異なることが知られています。そのため、新しい構造を持った酸化鉄材料の探索は、基礎・応用の両側面で意義深いと言えます。
ここで、グラフェンや遷移金属ダイカルコゲナイドなどの2次元物質は、構造の2次元性に起因して、3次元物質にはない物性や機能について、非常に活発に研究されています。その中でも、2次元物質グラフェンと3次元物質である基板の界面は、特異な現象の生じる場として注目されています。例えば、グラフェン/SiCヘテロ構造を作製し、水素雰囲気ガス中で加熱すると、水素がグラフェンとSiCの界面に侵入するインターカレーション※4と呼ばれる現象が生じます。このインターカレーション現象を、水素以外の元素やその化合物へと拡張することで、グラフェンとSiCの界面において、例えば2次元の窒化ガリウム(GaN)や2次元の酸化インジウム(InO)といった2次元半導体を作製できることが報告されてきました。このような背景の中で、インターカレーションによる2次元の酸化鉄の作製にも大きな期待が寄せられてきました。しかしながら、鉄は炭素やケイ素との反応性が非常に高く、先行研究と同様のアプローチでは鉄の炭化物やケイ化物が優先的に形成されてしまうため、2次元酸化鉄の形成はこれまで実現されていませんでした。
新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと
2次元酸化鉄を作製する手法を確立できれば、これまでにない物性や機能を持った材料の実現が期待されます。そこで本研究では、グラフェン/SiC界面を、新たな2次元物質を形成するための結晶成長場とみなし、インターカレーション現象を利用することで2次元酸化鉄の作製を目指しました。実験と解析の結果、グラフェンの2次元性とSiCの結晶構造を反映して、自然界には存在しない構造を持つ2次元酸化鉄が形成することを見出しました。また、得られた2次元酸化鉄は室温では常磁性を示す一方で、低温(100 K)では反強磁性秩序を持つことが示唆されました。
様々な物質をグラフェン/SiC界面にインターカレーションする際、まずグラフェンとほとんど同じ構造を持つバッファー層と呼ばれる炭素原子層をSiC上に形成します。従来では、このバッファー層上に真空中で元素を堆積させ、そのまま加熱するというアプローチがとられてきました。これは、加熱中に酸素が存在すると、グラフェン/SiC界面に酸素が優先的にインターカレーションしたり、グラフェン中の炭素と反応してCO2として分解されるためグラフェンがなくなってしまうためです。しかしながら、この手法を鉄に適用した場合、鉄が炭素やケイ素と優先的に反応して、グラファイトやケイ化物が不均一に形成されてしまいます(図1)。
そのため、鉄やその化合物に関するインターカレーションの報告はこれまでほとんどありませんでした。それに対して本研究では、バッファー層上に真空中で鉄を蒸着したあと、試料をあえて一旦大気中に曝露したのち、再び真空中に導入して加熱処理を行うことで、酸化鉄のインターカレーションが起こり、グラフェンとSiCの界面に2次元酸化鉄が形成することを見出しました(図1)。
これらの、従来法と新手法で得られた試料断面の原子分解能電子顕微鏡像を図2に示します。従来法では、鉄がSiCと反応することにより多層グラフェンとケイ化鉄(Fe silicide)が不均一に形成されました。一方、新手法で作製した試料の高角環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF-STEM)像では、グラフェンとSiCの界面に、矢印で示すような一様な輝点の周期配列が見られました。HAADF-STEM像では、原子番号の大きい元素ほど明るく観察されます。この界面の輝点領域において電子エネルギー損失分光による元素分析を行った結果、そこには鉄と酸素が含まれていることから、グラフェンとSiCの界面に酸化鉄の2次元結晶が形成されたことがわかりました。
形成された2次元酸化鉄がどのような原子配列を持っているのかを明らかにするために、第一原理計算によって最適化されたいくつかの構造モデルに基づいてHAADF-STEMシミュレーション像を計算し、図3に示すように実験結果と対応させました。その結果、SiCの直上では、FeとOがSiCと同じ四面体構造を持っていること、グラフェンの直下では、塩化ナトリウム型の八面体構造を持っているものとして矛盾なく説明できることがわかりました。このような構造を持つ酸化鉄は、我々の知る限り報告されておらず、グラフェン/SiC界面に形成された2次元酸化鉄は、自然界には存在しない構造を持つことが明らかとなりました。2次元酸化鉄がこのような特異な構造をとる理由は、SiC直上では鉄と酸素がSiCと同じ四面体構造の配列を取る一方で、その上側では塩化ナトリウム型構造のウスタイト構造へと緩和することによると考えられます。
このような構造を持つ2次元酸化鉄についてメスバウアー分光測定※5を行った結果、室温では常磁性を示すのに対して、低温(100 K)では反強磁性秩序を持つことを示唆する結果が得られました。
研究の波及効果や社会的影響
本研究により、2次元物質であるグラフェンと3次元物質であるSiCとの界面において、自然界には存在しない構造を持つ2次元酸化鉄を作製できることが明らかになり、また、メスバウアー分光測定により、この2次元酸化鉄は冷却に伴って常磁性から反強磁性への磁気相転移を示すことが示唆されました。これらの結果は、スピントロニクスや低次元磁性などへの応用が期待されます。
酸化鉄を含む遷移金属酸化物には、高温超伝導を示す銅酸化物や、強相関電子系のマンガン酸化物などがあり、機能の宝庫と呼ばれています。本研究の方法論によって、これらの様々な遷移金属酸化物をグラフェン/SiC界面で2次元化できれば、より高温での超伝導や巨大磁気抵抗効果といった興味深い特性の発現が期待されるため、基礎研究と応用技術の両側面で様々な波及効果が期待できます。
課題、今後の展望
物質の性質や機能は、原則としてその原子配列、すなわち構造によって決まります。これまでに存在しない構造を持つ物質が得られれば、これまでにない物性や機能が現れることが容易に想像されます。よって、本研究で得られた特異な構造を持つ2次元酸化鉄特有の新規物性の実証と、その応用技術の開拓が今後の課題です。
研究者のコメント
世の中に存在する多くの物質の構造や物性は、これまでの人類のたゆまぬ研究によってほとんど理解されてきたと言っても過言ではありません。そんな現代において、異種物質同士の界面で生じる新物質や新機能の開拓は、今後ますます発展していくと考えています。2次元グラフェンと3次元SiCの界面で、これまで人類が見たことのない構造を持つ2次元酸化鉄が形成されたことはその成果の1つです。今後も、界面をキーワードにさらに多くの新物質・新機能の実現へとつなげていきます。
用語解説
※1 酸化鉄
鉄と酸素の化合物であり、組成・構造によって異なる物性を持つ。例えば、スピネル構造のマグネタイトFe3O4は磁石として、コランダム型構造を持つヘマタイトFe2O3は赤色顔料として用いられてきた。これまでに多様な酸化鉄の結晶構造が報告されており、構造によって物性も大きく異なることから、新しい構造を持った酸化鉄材料の探索は基礎・応用の両側面で意義深い。
※2 2次元物質
炭素原子1層のみで構成されるグラフェンや、ホウ素と窒素が同一平面内に配列した六方晶窒化ホウ素、遷移金属の原子層がカルコゲンの原子層に挟まれた構造を持つ遷移金属ダイカルコゲナイドなどに代表される物質群の総称。上下方向に共有結合をもたない2次元的な構造を持つことにより3次元の物質とは異なる物性や機能が見られ、近年大きな注目を集めている。
※3 界面
異なる物質同士が接している境界。一般に界面では、通常の物質とは異なる原子配列が現れることが多い。特に2次元物質と3次元物質の界面は、異種物質の導入や構造制御の可能な2次元空間とみなすことができ、新物質を作製する良質な結晶成長場となる。また界面では、互いに接する物質の対称性が自発的に破れることから、新規物性発現の場としても期待される。
※4 インターカレーション
SiC単結晶基板を加熱すると、表面に大面積の単一方位グラフェンが形成する。このグラフェン/SiC界面には様々な元素を挿入することができ、このような層状物質の界面への原子挿入は一般にインターカレーションと呼ばれる。グラフェンとSiCの界面において、水素、リチウム、銅、ゲルマニウムといった様々な元素のインターカレーションが報告されている。さらに単体だけではなく、窒化ガリウムなどの化合物のインターカレーションも報告されている。酸化物としては酸化インジウムのインターカレーションの報告はあるものの、酸化鉄のような遷移金属酸化物のインターカレーションの報告はこれまでなかった。
※5 メスバウアー分光測定
固体試料中の57Fe原子核が反跳なしにガンマ線を吸収する「メスバウアー効果」を利用し、原子核周辺の電子状態や磁気的状態を精密に測定する手法。
論文情報
雑誌名:Small Methods
論文名:2D Iron Oxide at the Graphene/SiC(0001) Interface
執筆者名(所属機関名):Ryotaro Sakakibara (NIMS), Tomo-o Terasawa (日本原子力研究開発機構)、Taizo Kawauchi (東京大学), Katsuyuki Fukutani (東京大学)、Takahiro Ito (名古屋大学)、Wataru Norimatsu (早稲田大学)
掲載日時:2026年3月14日
掲載URL:https://doi.org/10.1002/smtd.202501889
DOI:doi.org/10.1002/smtd.202501889
キーワード
2次元酸化鉄、界面、グラフェン、SiC
研究助成
研究費名:日本学術振興会 科学研究費助成事業 特別研究員奨励費
課題番号: 22KJ1535
研究課題名:インターカレーション法を利用したグラフェン/SiC界面での二次元超伝導体の作製
研究代表者名(所属機関名):榊原涼太郎(名古屋大学:助成当時)
研究費名:日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究
課題番号:25K17917
研究課題名:二次元半導体における原子欠陥の理解と制御
研究代表者名(所属機関名):榊原涼太郎(NIMS)
研究課題名:日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究
課題番号:21K14500
研究課題名:グラフェンにおける水素イオン透過の低速水素イオン照射を用いた機構解明
研究代表者名(所属機関名):寺澤知潮(日本原子力研究開発機構)
研究費名:早稲田大学 各務記念材料技術研究所 環境整合材料基盤技術共同研究拠点共同研究プロジェクト
研究課題名:低環境負荷ナノカーボン材料の作製と評価
研究代表者名(所属機関名):乗松航(名古屋大学:助成当時)
令和8年度科学技術分野の文部科学大臣表彰を6名の教員が受賞
2026年4月9日 09:56
🤖 AI Summary
早稲田大学の6名の教員が「令和8年度科学技術分野の文部科学大臣表彰」を受賞しました。この表彰は、科学技術に貢献した者に対し授与され、日本の科学技術水準向上に寄与することを目指しています。
受賞者の詳細は以下の通りです:
1. 井上 真 教授(人間科学学術院):熱帯林保全と社会的公正の実現を目指した環境ガバナンス研究
2. 小澤 彻 教授(理工学術院):非線型分散型方程式に対する修正エネルギー法の研究
3. 釜野 さおり 教授(社会科学総合学術院)と他の1名:性的指向と性自認のあり方に関する人口学的研究
4. 清水 洋 教授(商学学術院):ジェネラル・パーパス・テクノロジーのイノベーション研究
5. 嶋川 里澄 准教授(高等研究所):宇宙最盛期の原始銀河団で形成される赤色銀河の観測的研究
6. 森本 行人 准教授(リサーチ・イノベーション・センター)と他の2名:日本の人社系研究マネジメントを担う人材育成への貢献
この受賞は、大学が「世界の平和と人類の幸福に貢献する研究」を目指した独創的研究を推進していることを示しています。
受賞者の詳細は以下の通りです:
1. 井上 真 教授(人間科学学術院):熱帯林保全と社会的公正の実現を目指した環境ガバナンス研究
2. 小澤 彻 教授(理工学術院):非線型分散型方程式に対する修正エネルギー法の研究
3. 釜野 さおり 教授(社会科学総合学術院)と他の1名:性的指向と性自認のあり方に関する人口学的研究
4. 清水 洋 教授(商学学術院):ジェネラル・パーパス・テクノロジーのイノベーション研究
5. 嶋川 里澄 准教授(高等研究所):宇宙最盛期の原始銀河団で形成される赤色銀河の観測的研究
6. 森本 行人 准教授(リサーチ・イノベーション・センター)と他の2名:日本の人社系研究マネジメントを担う人材育成への貢献
この受賞は、大学が「世界の平和と人類の幸福に貢献する研究」を目指した独創的研究を推進していることを示しています。
このたび、早稲田大学の研究者6名が、科学技術分野で顕著な功績があったとして、「令和8年度科学技術分野の文部科学大臣表彰」を受賞しました。
科学技術分野の文部科学大臣表彰は、科学技術に携わる者の意欲向上を図り、日本の科学技術水準の向上に寄与することを目的としており、科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果を収めた者に対し授与されています。
今後も本学では、中長期計画「Waseda Vision150」における研究ビジョンである「世界の平和と人類の幸福に貢献する研究」の実現に向け、未来をイノベートする独創的研究の促進を図ってまいります。
科学技術賞(研究部門)
| 氏名 | 所属・役職 | 業績名 |
| 井上 真 | 人間科学学術院・教授 | 熱帯林保全と社会的公正の実現を目指した環境ガバナンス研究 |
| 小澤 徹 | 理工学術院・教授 | 非線型分散型方程式に対する修正エネルギー法の研究 |
| 釜野 さおり | 社会科学総合学術院・教授 | 性的指向と性自認のあり方に関する人口学的研究(※他1名との共同受賞) |
| 清水 洋 | 商学学術院・教授 | ジェネラル・パーパス・テクノロジーのイノベーション研究 |
若手科学者賞
| 嶋川 里澄 | 高等研究所・准教授 | 宇宙最盛期の原始銀河団で形成される赤色銀河の観測的研究 |
研究支援賞
| 森本 行人 | リサーチ・イノベーション・センター・准教授 | 日本の人社系研究マネジメントを担う人材育成への貢献(※他2名との共同受賞) |
「水・食・エネルギー・健康」の循環型社会モデルを久米島で実証開始
2026年4月9日 09:50
🤖 AI Summary
この記事はNTTと早稲田大学が沖縄県久米島町との包括連携協定を締結し、持続可能な未来社会実現のための新たな「BlueSphereモデル」を導入する取り組みについて詳しく説明しています。主な内容は以下の通りです:
1. 背景
- 地球温暖化やエネルギー・食料問題などの地球規模課題が深刻化
- 単なる現状維持ではなく、抜本的な解決策を模索
2. 久米島町の地域特徴と課題
- 沖縄本島から西に約100km離れた離島
- 地域資源「海洋深層水」を活用した取り組みが進む
- 食、エネルギー、健康に関する具体的な課題
3. 取組の概要(BlueSphereモデル)
- 「水・食・エネルギーの循環により文化・健康が維持され、サステナブルな島嶼コミュニティを実現する」を目標
a. 食の自立:久米島古来の食材や再開発、高付加価値化
b. エネルギーの自立:再生可能エネルギー100%の実現
c. スポーツ健康:健康食の開発、自動的な健康管理システム導入
4. 主要な取り組み技術と方法
- IOWN構想におけるデジタルツイン技術の活用
- ディザスタリカバリ対策やサステナブルDCの推進
- OTEC(海洋温度差発電)など可再生エネルギーの導入
5. 今後の計画
- 現状調査とコミュニティ課題抽出
- 実環境下での検証
- 段階的に社会実装へ
この取り組みは、島嶼部における社会課題解決とカーボンニュートラル社会実現を目指しています。島嶼自治体が抱える構造的課題に対し、新たな未来社会のモデルとして「BlueSphereモデル」を導入し、段階的に実装していく予定です。
1. 背景
- 地球温暖化やエネルギー・食料問題などの地球規模課題が深刻化
- 単なる現状維持ではなく、抜本的な解決策を模索
2. 久米島町の地域特徴と課題
- 沖縄本島から西に約100km離れた離島
- 地域資源「海洋深層水」を活用した取り組みが進む
- 食、エネルギー、健康に関する具体的な課題
3. 取組の概要(BlueSphereモデル)
- 「水・食・エネルギーの循環により文化・健康が維持され、サステナブルな島嶼コミュニティを実現する」を目標
a. 食の自立:久米島古来の食材や再開発、高付加価値化
b. エネルギーの自立:再生可能エネルギー100%の実現
c. スポーツ健康:健康食の開発、自動的な健康管理システム導入
4. 主要な取り組み技術と方法
- IOWN構想におけるデジタルツイン技術の活用
- ディザスタリカバリ対策やサステナブルDCの推進
- OTEC(海洋温度差発電)など可再生エネルギーの導入
5. 今後の計画
- 現状調査とコミュニティ課題抽出
- 実環境下での検証
- 段階的に社会実装へ
この取り組みは、島嶼部における社会課題解決とカーボンニュートラル社会実現を目指しています。島嶼自治体が抱える構造的課題に対し、新たな未来社会のモデルとして「BlueSphereモデル」を導入し、段階的に実装していく予定です。
「水・食・エネルギー・健康」の循環型社会モデルを久米島で実証開始
~NTT、早稲田大学、久米島町が包括連携協定を締結~
発表のポイント
- NTTと早稲田大学はこれまで「「地球愛」の醸成とサステナブル社会の実現」という共同ビジョンを掲げ食・エネルギー・スポーツ/健康・量子分野で共同研究をすすめてきました。今回このビジョン実現に向け、島嶼地域の社会課題解決のため久米島町と包括連携協定を締結しました。
- 今回の包括連携協定により、久米島町の協力を得て考案した新社会モデル「BlueSphereモデル」を実証します。
- 将来的には、この久米島町での成果を、世界中の島嶼地域が抱える共通課題を解決するための先駆的モデルとして発信していくことをめざします。
NTT株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)、沖縄県久米島町(町長:桃原 秀雄)、学校法人早稲田大学(東京都新宿区、総長 田中 愛治、以下「早稲田大学」)は、島嶼部における社会課題解決およびカーボンニュートラル社会の実現をめざし、教育活動、研究活動などに関し、互いに支援・協力することに合意し、令和8年4月6日包括連携協定を締結しました。今回の包括連携協定により、島嶼での「水・食・エネルギー・健康」統合循環モデル「BlueSphereモデル※1」を実証し、食・エネルギーが自立し、健康長寿を実現するサステナブルな未来の島嶼社会を創造する取り組みを始動します。
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背景
近年、地球温暖化、エネルギー問題、食料問題といった地球規模の課題が深刻化し、持続可能な社会の実現が必要となっています。
このような喫緊の課題に対し、単なる現状維持や悪化防止に留まらず、抜本的な解決策を模索する動きが世界中で加速しています。その中でNTTと早稲田大学は2024年よりビジョン共有型共同研究を進めてまいりました。この度、沖縄県久米島町を舞台に、持続可能な未来社会を醸成する取り組みを始動します。
久米島町の課題と包括連携協定締結
沖縄本島から西へ約100kmに位置する久米島町は、豊かな自然と独自の文化を持つ離島です。久米島町は、地域資源である「海洋深層水」を核とした「久米島モデル」という地域循環共生圏を確立しています。海洋深層水は、海洋温度差発電(OTEC※2)や水産養殖、農業など多岐にわたる分野で複合的に利用されています。
こうした地域資源を生かした取り組みが進む一方で、久米島町は他の多くの島嶼地域と同様に下記社会課題に直面しています。
- 食(農水産)の課題
・島外依存が高く、台風等で入荷が滞ると品薄となる
・農水産業の担い手の高齢化・労働力不足、小規模分散圃場による生産性の制約、気候変動リスクがある
・同一作物育成による土壌の地力低下、多品目化・高付加価値化の遅れ - エネルギーの課題
・島嶼系統特有のディーゼル発電依存による燃料価格の変動リスクがある
・台風時の設備被害・長期停電のリスクがある - 健康・医療の課題
・医療従事者の不足による労働環境の悪化により、充実した医療サービスの実現が課題となっている
・高度医療・専門医が不足しているため沖縄本島への受診が必要となる
・住民の高齢化に伴い生活習慣病等の予防・早期発見が重要となっている
久米島町の人口は1990年10,303人をピークに2025年10月時点で6,972人と大きく減少しており、観光業も設備の老朽化、担い手不足、観光客の季節変動など課題があります。島嶼自治体は、人口減少・高齢化、気候変動の影響、物流コストの高さなど構造的課題が他地域より顕在化しやすい状態といえます。
私たちはこれらの課題に対して、これまで培われてきた「久米島モデル」を次世代に継承し、さらに発展させる新たな取り組みが求められていると考えます。
久米島町とNTT、早稲田大学は、島嶼部における社会課題解決の実現をめざし、食・エネルギー・健康といった研究分野および教育活動、研究活動などにおいて互いに支援・協力することに合意し、包括連携協定を締結しました。
この取り組みの前段として、まず久米島モデルの現状調査とコミュニティ課題抽出を行いました。そのうえで新たな社会モデルを策定しました。今後は実環境下での検証を進めながら、段階的に社会実装へとつなげていきます。
取組の概要
本共同研究で久米島に導入されるのが、新たな未来社会の「BlueSphereモデル」(図2)です。これは、「水・食・エネルギーの循環により文化・健康が維持され、サステナブルな島嶼コミュニティを実現する」ことを目標としています。
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図2 BlueSphereモデル 概念図
a.食の自立
食料自給率の向上をめざし、久米島町古来の食材や食料の再開発を進めます。災害時にも安定した食料供給が可能なシステムを構築し、さらには「食の循環」を観光資源として活用することで、新たな魅力を創出します。これまでNTT、早稲田大学では農業における新しい技術をプランニングするとともに、久米島町の農家の方々の協力を得て土壌調査を行い適応可能な作物の同定を行ってまいりました。プロアクティブに環境に適応する食料生産技術を確立するとともに、地域資源の利用効率を最大化し、生産性向上と高付加価値化に貢献します。
b.エネルギーの自立
再生可能エネルギー100%の実現をめざし、近隣地域との電力融通も視野に入れ災害時でも安定した電力供給を確保し、強靭なエネルギーインフラを構築します。これまでの共同研究ではEICの実現※3を目標に検討を行ってまいりました。今後、久米島町の施設などの実際の消費エネルギーからエネルギーマネジメントによる効果の実証を行い、エネルギー自立に必要な設備・技術を検証します。
c.スポーツ健康
地元食材を活用した健康食の開発。高齢者の自動的な健康管理システムの導入により医療従事者の不足や一次産業者の高齢化の課題、高齢化に伴う健康・医療・介護負担、および健康長寿の実現といった課題解決に寄与します。
具体例として、運動を通じて町の活性化を図り、健康と観光の両面で貢献します。2025年12月の久米島産業まつりでは、事前調査として住民の顔面の血流、水分量などの計測を実施(図3)しました。将来的には、顔のどの部位に、どの指標に紫外線が強く影響するか、といった情報をフィードバックし、顔や皮膚の保護に役立てることをめざします。
図3 久米島産業まつりでの実証実験
また「BlueSphereモデル」の実現を加速させるのが、NTTが実現を推進しているIOWN構想※4におけるデジタルツイン技術です。フィールド実証で取得されたエネルギー・食・環境分野の多様なデータを統合し、久米島町の状況を仮想空間上に再現する「地域環境デジタルツイン」を構築します。
さらに、コンテナ型データセンタ(以下。DC)など小型のDCを活用し、IOWN APN※5で接続した離島連携での分散型DCについて検討し、島嶼部等を活用したDCのディザスタリカバリ(DR)※6対策やサステナブルDCの実現に向けた取り組みを推進します。また、DCのエネルギーおよび冷却システムにOTEC、海洋深層水を活用するほか、食・エネルギーの自立での取り組みと連携し、新たな産業の創出やビジネスモデルの検証を進めます。
早稲田大学は、ナノ・エネルギー、量子/ICT、工学などの理工系分野のみならず、政治・経済、法学、経営学、文学、言語学など人文社会科学系分野においても高い研究力を誇り、文理融合による研究成果の社会実装が期待されています。NTTは、IOWN構想のもと光関連技術および情報処理技術を活用した次世代コミュニケーション基盤の研究開発を進めています。
NTTと早稲田大は、互いの強みを活かして、久米島町と連携し、島全体で食・エネルギーの自立をめざす研究を進めます。さらに、健康/医療を含む社会課題の解決に向け、経済・金融・マーケティングなどの知見を活かした文理融合による社会実装に取り組みます。
本取組で想定される効果
本取り組みで想定される効果は以下の通りです。
| 課題区分 | 目指す方向性 |
| 農水産業分野 | 未来予測によって変わりゆく将来の環境に適応し海洋深層水やバイオマスといった地域資源の利用効率を最大化することで、食料の生産性向上と高付加価値化を実現します。 |
| エネルギー・環境分野 | エネルギー自立したEICにより再エネ100%、無停電の実現。電力網の安定化と島全体の脱炭素化に貢献します。 |
| 医療健康分野 | 医療従事者の不足や一次産業者の高齢化の課題、高齢化に伴う健康・医療・介護負担の課題解決及び、健康長寿の実現に寄与します。 |
| 経済・雇用分野 | 新規事業の創出や、既存産業の高度化を支援し、若者も魅力を感じる多様な雇用機会を生み出します。 |
また、本取り組みは、単なる研究にとどまらず、地域の一次、二次、三次産業に加え、観光、教育、IT、ビッグデータを融合させた「七次産業化」を促進します。久米島町古来の大豆・米・茶などの食の地域ブランド化、新たなレストランビジネスの創出、そして地域のイノベーション人材育成などを通して地域社会の持続的な発展と人口減少による人手不足の解消に貢献します。
包括連携における各社の役割
| 連携機関名 | 役割 |
| NTT | 食、エネルギー、スポーツ、量子分野の研究開発。IOWN技術を基盤としたIT技術の提供。地域環境デジタルツインを用いた自然環境-地域社会の相互影響アセスメント技術、未来の環境適応に向けた農作物の育種技術の提供。 |
| 早稲田大学 | 食(ムーンショット型農林水産研究開発事業で得られた研究成果の適用含む)、エネルギー、スポーツ、量子分野の研究開発。金融、経済、マーケティングの知見提供。研究・教育とそれにかかる人材交流と育成。 |
| 久米島 | 実証フィールドの提供、関係機関の調整、地域住民との連携によるコミュニティ形成と実証事業への参加促進。実験フィールドの提供。電力、農林水産等のデータの提供。 |
今後の取組について
今後、久米島町での実証研究を通じて「BlueSphereモデル」の有効性を確立するとともに、島民との対話を重ねながら、地域に根差した社会システムを共創します。将来的には、この久米島町での成果を、世界中の島嶼地域が抱える共通課題の解決に向けた先駆的モデルとして発信していくことをめざします。
本研究は、早稲田大学、NTT、そして久米島町をはじめとする各種関係者との連携を深め、国家プロジェクトの活用も視野に入れながら、5年後の自走化をめざします。実証実験に留まらず、事業継続が可能な仕組みを構築し、地域に新たな雇用機会を創出することで、地域活性化に貢献してまいります。
用語解説
※1 本名称はサービス名ではなく社会モデルとしての構想名です
※2 海洋温度差発電:Ocean Thermal Energy Conversion, 通称OTEC。海洋温度差発電は、太陽からの熱エネルギーにより温められた表層海水と海洋を循環する冷たい深層海水との温度差をタービン発電機により電力に変換する、再生可能エネルギーによる発電のひとつです(http://otecokinawa.com/jp/OTEC/index.html)
※3 EIC:Energy Informatics Cell, エネルギーを作る(再エネ)・使う(負荷)貯める(蓄電池)を通信で制御しエネルギー自立したセル(村、地区)を実現すること
※4 IOWN:Innovative Optical and Wireless Network。IOWNの技術とユースケースの開発をグローバルに推進する団体であるIOWN Global Forumで推進中の次世代コミュニケーション基盤の構想。(https://iowngf.org/)
※5 APN:All-Photonics Networkとは、ネットワークから端末まで、すべてにフォトニクス(光)ベースの技術を導入し、これにより現在のエレクトロニクス(電子)ベースの技術では困難な、圧倒的な低消費電力、高品質・大容量、低遅延の伝送を実現します。詳しくは以下ホームページをご覧ください。
■オールフォトニクス・ネットワークとは
https://group.ntt/jp/group/iown/function/apn.html
※6 ディザスタリカバリ(DR):、地震や津波などの災害によってシステムの継続利用が不可能になった際の復旧および修復、あるいはそのためのシステム
【4/14開催】理工キャンパス留学説明会
2026年4月6日 11:14
🤖 AI Summary
早稲田大学の理工キャンパスで4月14日(火)に留学説明会を開催します。内容は以下の通りです:
- **時刻と場所:** 12:30~18:00、55N号館1階第二会議室
- **プログラムの紹介:**
- 短期留学プログラムについての説明(12:30~13:00)
- 参加経験者の学生が留学生の体験や魅力を紹介します。
- 気になった点は直接質問できる個別相談会(13:00~17:00):半年から1年間のプログラムも含む。
- 奨学金説明会(17:00~18:00)
参加者は授業の合間に気軽に参加でき、留学についてより詳しく知ることができます。多くの学生が留学機会を得られるよう、各種奨学金も紹介します。
このイベントにぜひご参加ください!
- **時刻と場所:** 12:30~18:00、55N号館1階第二会議室
- **プログラムの紹介:**
- 短期留学プログラムについての説明(12:30~13:00)
- 参加経験者の学生が留学生の体験や魅力を紹介します。
- 気になった点は直接質問できる個別相談会(13:00~17:00):半年から1年間のプログラムも含む。
- 奨学金説明会(17:00~18:00)
参加者は授業の合間に気軽に参加でき、留学についてより詳しく知ることができます。多くの学生が留学機会を得られるよう、各種奨学金も紹介します。
このイベントにぜひご参加ください!
理工キャンパスで留学説明会を開催します。
主に短期留学プログラムについてご紹介予定ですが、個別相談会では半年~1年の中長期留学についてもご質問いただけます。
留学についてまとめて情報収集できる機会です。授業の合間に是非ご参加ください。
日時:4/14(火)12:30~18:00
会場:55N号館 1階 第二会議室
タイムテーブル:
12:30~13:00 短期留学説明会
短期留学プログラムへの参加経験者の理工学生にも登壇してもらい、以下のような内容についてご説明します。
・学生による留学経験紹介
・短期留学プログラムの魅力について
・理工の皆さんへお勧めしたいプログラムのご紹介
13:00~17:00 個別相談会
短期留学に限らず、半年~1年間のプログラムについての質問も受け付けます。
一部時間帯には、短期留学プログラムの経験者学生も参加してくれますので、説明会で気になったポイントを直接質問してみることもできます。
17:00~18:00 奨学金説明会
留学センターではより多くの学生が留学の機会を得られるよう、様々な奨学金をご紹介しています。
短期、中長期プログラムそれぞれで申し込むことができる奨学金がありますので、説明会ではそれらの種類や特徴等をご説明します。
皆さんのご参加をお待ちしています!
13の研究分野が世界100位以内に
2026年4月1日 14:42
🤖 AI Summary
早稲田大学の研究分野別QS世界大学ランキング2026版で、13分野が世界100位以内にランクインしました。これは本学の国際的な研究力を示す重要な成果です。
具体的には:
- 5つの研究領域(人文科学と社会科学が世界100位以内)
- 55の研究分野中で、2分野(美術史と現代語学)は世界50位以内
- さらに13分野(政治・国際関係学など)は世界100位以内
評価基準には5項目(学術者評価、雇用者評価、論文被引用数、H-index、国際研究ネットワーク)が含まれます。
QS社は英国の教育機関で、毎年多くの大学ランキングを発表しています。この結果は大学の研究力と国際性を推し量る重要な指標となっています。
具体的には:
- 5つの研究領域(人文科学と社会科学が世界100位以内)
- 55の研究分野中で、2分野(美術史と現代語学)は世界50位以内
- さらに13分野(政治・国際関係学など)は世界100位以内
評価基準には5項目(学術者評価、雇用者評価、論文被引用数、H-index、国際研究ネットワーク)が含まれます。
QS社は英国の教育機関で、毎年多くの大学ランキングを発表しています。この結果は大学の研究力と国際性を推し量る重要な指標となっています。
世界50位以内に2研究分野、100位以内に13研究分野がランクイン
研究分野別QS世界大学ランキング
2026年3月25日、QS社から研究分野別の世界大学ランキング2026版(QS World University Rankings by Subject 2026)が発表されました。本ランキングは、5つの研究エリア(Subject Area)と55の研究分野(Subject)で順位が発表されます。2026版は、世界の6,273機関(大学)が調査対象となり、1,908機関に順位が付与されました。
5つの研究エリア(Subject Area)のうち、2つが世界100位以内に入りました
- Arts & Humanities(人文科学) 世界61位(国内3位)
- Social Sciences & Management(社会科学) 世界78位(国内3位)
55の研究分野(Subject)のうち、2分野が世界50位以内、13分野が世界100位以内に入りました
50位以内
- History of Art(美術史) 世界26-50位(国内2位)
- Modern Languages(現代語学) 世界36位(国内3位)
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51-100位
- Politics & International Studies(政治・国際関係学) 世界57位(国内2位)
- Law(法学) 世界72位(国内3位)
- Economics & Econometrics(経済学) 世界84位(国内2位)
- Accounting & Finance(会計・金融学) 世界90位(国内2位)
- Linguistics(言語学) 世界92位(国内4位)
- Sociology(社会学) 世界92位(国内3位)
- Archaeology(考古学) 世界51-100位(国内2位)
- Engineering – Mineral & Mining(鉱物・鉱業学) 世界51-100位(国内1位)
- Petroleum Engineering(石油工学) 世界51-100位(国内2位)
- Sports-related Subjects(スポーツ関連学) 世界51-100位(国内1位)
- Classics & Ancient History(古典・古典学) 世界51-150位(国内7位)
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本ランキングは、①学術者評価②雇用者評価③論文一本当たりの被引用数④H-index⑤国際研究ネットワークの5つの項目によって評価(研究分野により項目ごとの評価比重は異なる)されています。詳細については、QS Subject Rankings2026に公開されています。
※QS社:英国の教育関連事業者。毎年世界中の大学を評価し、様々な種類の大学ランキングを発表しています。
テキストから正確な建築デザインを自動で生成するAIシステムを開発
2026年4月1日 14:41
テキストから正確な建築デザインを自動で生成するAIシステムを開発
―多段階拡散モデルによる新しい建築設計手法―
発表のポイント
- テキスト入力だけで、階数や窓配置などの構造を正確に反映した建築デザイン画像を生成できるように、多段階生成および検索拡張生成(RAG)を組み合わせたAI技術を開発。
- 建築構造制御・建築要素合成・建築画像生成を順に行う3段階の生成フレームワークにより、既存モデルを大幅に上回る精度を実現。
- 大規模な3Dモデリング作業を必要とせず、設計初期段階で迅速に建築イメージを可視化でき、建築設計プロセスの効率化に貢献。
北陸先端科学技術大学院大学 創造社会デザイン研究領域の謝浩然准教授(早稲田大学 理工学術院総合研究所 主任研究員)らの研究グループと、天津大学建築学院の張燁准教授らの研究グループは、テキストによる記述から正確な建築の外観(ファサード)画像を自動生成する新しい生成AIシステムを開発しました。
従来の生成AIでは、「5階建て」などの数値情報を正確に反映することが難しく、階数の誤りや窓配置のずれといった構造的な不正確さが大きな課題となっていました。今回提案したシステムは、建築データセットから検索して得られる情報を生成プロセスに組み込む仕組みを採用することで、既存モデルを大幅に上回る精度を実現しました。このシステムにより、設計初期段階において建物イメージを迅速かつ正確に可視化でき、建築設計プロセスの効率化への貢献が期待されます。
なお、本研究成果は、建築デザイン分野の国際学術誌「Frontiers of Architectural Research」(Elsevier発行)に掲載され、2026年3月26日にオンライン版で公開されました。
(1)研究の背景
建築家はプロジェクトを進める中で、ラフなコンセプトをビジュアル表現として素早く具体化し、クライアントや設計チームと共有する必要があります。しかし、高品質な建築ビジュアライゼーションには高度な専門知識と高価なソフトウェアが不可欠であり、特に設計初期段階における迅速な反復作業の妨げとなっていました。近年、テキストから画像を生成する生成AIモデルが建築分野においても注目されており、テキストによる説明を入力するだけで高品質なデザイン画像を生成できる可能性が広がっています。しかし、これらのモデルはテキスト入力の内容を正確に反映した画像を生成できないケースが多く、例えば「5階建ての建物を生成せよ」という直接的な指示に対しても、異なる階数の建物が生成されてしまうことがあります。この原因は、学習データセットにおける建物構造の詳細なアノテーションの不足にあると考えられます。さらに、建築設計が本来、全体構成の決定から要素配置に至るまで複数の段階的プロセスを含むにもかかわらず、従来の手法ではこれらを単一のモデルで一括して扱っている点も重要な要因であると考えられます。そのため、AIが階数や窓・ファサード要素の正確な配置といった数値的・空間的な要件を理解することが難しく、建築設計の実務への適用を大きく制限しています。そこで、本研究はデザイナー(建築家)による設計ワークフローを考慮して多段階生成のフレームワークを提案しました。
(2)研究の内容
本研究では、これらの課題に対し、建築設計プロセスに対応した3段階生成フレームワークを提案しました。提案システムは、各生成段階において外部の建築データベースを動的に参照する仕組み「検索拡張生成(RAG)」を組み込むことで、AIが既存の建築例を手がかりとして画像を生成できる仕組みを実現しています。本フレームワークでは、テキストによる建物の説明を以下の3段階を通じて段階的にリアルな建築画像へと変換します(図1)。
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図1.検索拡張生成(RAG)を用いた生成AIによる建築設計システム
まず第1段階では、テキストプロンプトをもとに、建物の全体形状と正確な階数を反映した構造スケッチを生成します。次に第2段階では、実際の建築部品データセットを参照しながら、窓やドアといった詳細な建築要素を追加してスケッチを精緻化します。最後に第3段階では、精緻化されたスケッチと元のテキスト記述を組み合わせることで、設計者の意図を忠実に反映した高品質な建築レンダリング画像を生成します。
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提案の多段階生成フレームワークは、建築家が全体的な形状から窓・ドア・ファサード要素へと順に設計を深めていく実際の設計ワークフローを模倣したものであり、AIによる建築設計の自動化に向けた基盤となりうるものであると考えられます。
(3)研究の成果
本研究は、大学キャンパスの建物のデザインを対象に提案フレームワークの有効性を検証しました。キャンパス建築は階数の制御や窓・入口の配置が特に重要であり、提案手法の評価対象として適切です。検証実験のために、3種類の専用データセットを新たに構築しました。具体的には、建物ボックスデータセット(2,200枚)、多様な窓・ドアの配置を示す建築要素データセット(4,000枚)、および詳細スケッチ・テキストプロンプト・最終レンダリング画像を対応付けたペアデータセット(1,600組)です。
客観評価の実験では、提案フレームワークは建築構造の制御精度(階数)において70.5%を達成し、同一評価指標において、PixArt-α(34.1%)、HunyuanDiT(31.8%)、Stable Diffusion 1.5(29.7%)といった最先端生成AIモデルを大幅に上回りました。また、構造的正確さ・視覚的リアリティ・生成画像とテキストプロンプトの整合性を測定する複数の品質指標(PSNR、SSIM、LPIPS、FID、CLIP)においても、比較対象とした前述の生成AIモデルを上回る結果を示しました。さらに、建築・デザイン専攻の大学院生56名を対象とした主観評価においても、画像品質・プロンプト整合性・建築詳細の正確さのいずれの項目においても5段階評価で平均4点以上の高評価を得ました。加えて、提案フレームワークを実際のキャンパス建築設計プロジェクトに適用し、その実用的な有効性を確認しました(図2)。
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図2. 提案システムによるよりリアルなキャンパス建築デザインの生成例。左列は天津大学が提供した実際の敷地計画図および竣工建物の写真(許可を得て転載)。中列は検索拡張アプローチを使用しない標準的なAIモデルが生成したファサードデザイン、右列は本フレームワークが生成したデザインを示します。両者を比較すると、本フレームワークが実際のキャンパス環境のスタイルと制約条件をより適切に反映した建物デザインを生成でき、建築家が実際に建てようとするものにより近い結果を出力できることが明らかです。
(4)研究の意義と今後の展望
本研究は、建築設計の初期段階におけるワークフローを効率化する可能性を持ちます。設計者は打ち合わせ中にクライアントのフィードバックをリアルタイムに反映しながらスキームを素早く修正でき、設計の反復サイクルを大幅に短縮することが期待されます。また、計画担当者やデベロッパーは、詳細なモデリング作業を開始する前に、与えられた制約条件のもとで複数の設計代替案を迅速に可視化・比較検討することが可能となります。これにより、早期段階における意思決定の質と効率が向上すると考えられます。
今後の展望としては、現在はキャンパス建物のファサードと窓・ドアの制御に限定されている提案フレームワークを、住宅や商業施設など他の建物タイプへと拡張することが挙げられます。さらに、バルコニーや屋根形状といった追加的な建築要素への対応、およびBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ツールとの連携による下流の設計ワークフローへの統合も重要な課題です。生成AIの継続的な進化とともに、本研究のような取り組みが建築ビジュアライゼーションをより迅速かつ広くアクセス可能で信頼性の高いものへと変革していく上で、重要な基盤となることが期待されます。
(5)研究支援
本研究は、以下の研究資金の支援を受けて実施されました。
科学技術振興機構(JST)国家戦略分野の若手研究者及び博士後期課程学生の育成事業(BOOST) 次世代AI人材育成プログラム(若手研究者支援)(課題番号:JPMJBY24D6)
中国国家自然科学基金(課題番号:52508023)
(6)論文情報
掲載誌:Frontiers of Architectural Research
論文題目:Controllable Generation of Building Representations: Aligning Campus Building Design Intent with Multi-Stage Retrieval-Augmented Diffusion Models
著者:Zhengyang Wang, Yuxiao Ren, Hao Jin, Jieli Feng, Xusheng Du, Ye Zhang*, Haoran Xie*
DOI:10.1016/j.foar.2026.01.018
掲載日:2026年3月26日にオンライン版に掲載
生成AIで都市の未来を高精度に予測
2026年3月24日 15:10
🤖 AI Summary
この記事は早稲田大学とその研究者の共同研究による新しいAI技術についてのプレスリリースです。主なポイントを整理すると以下のようになります:
1. **研究の背景**:
- 世界的な都市化が進んでおり、都市空間の設計はエネルギー消費や温室効果ガス排出などの多くの重要な問題に影響を与えている。
- 現存する生成AIモデルには複数の要因を考慮しながら都市構造を予測することが難しいという課題があった。
2. **研究内容**:
- 新しいAIフレームワーク「MMCN(Memory-aware Multi-Conditional generation Network)」を開発した。
- これは過去の都市レイアウトだけでなく、建物密度マップや道路構造マップなどの複数の要因を統合的に学習することで、将来の都市レイアウトを予測できるものである。
- 特に、隣接する領域間での自然なつながりを確保するための仕組みを導入している。
3. **研究の成果**:
- 提案手法は既存の生成AIモデルと比較して、将来レイアウト予測の精度と空間的連続性の両面で向上した。
- データセットを用いた検証結果では、新しい手法が隣接する領域間での自然な分断を大幅に抑制することも確認された。
4. **研究の意義と今後の展望**:
- 提案手法は再開発計画や土地利用政策などの視覚的な比較検討において有力な技術基盤になる可能性がある。
- 今後は他の国の都市への適用を通じて汎用性を検証し、さらに予測の安定性と一般化性能を向上させるためにデータの拡充が必要。
5. **研究支援**:
- 科学技術振興機構(JST)などの研究資金により実施された。
6. **出版情報**:
- 提案手法は国際学術誌「Sustainable Cities and Society」に掲載され、2026年3月3日にオンライン版で公開された。
この研究成果は都市計画分野において重要な進歩であり、将来的には実務的な意思決定支援にも大きく貢献すると期待されています。
1. **研究の背景**:
- 世界的な都市化が進んでおり、都市空間の設計はエネルギー消費や温室効果ガス排出などの多くの重要な問題に影響を与えている。
- 現存する生成AIモデルには複数の要因を考慮しながら都市構造を予測することが難しいという課題があった。
2. **研究内容**:
- 新しいAIフレームワーク「MMCN(Memory-aware Multi-Conditional generation Network)」を開発した。
- これは過去の都市レイアウトだけでなく、建物密度マップや道路構造マップなどの複数の要因を統合的に学習することで、将来の都市レイアウトを予測できるものである。
- 特に、隣接する領域間での自然なつながりを確保するための仕組みを導入している。
3. **研究の成果**:
- 提案手法は既存の生成AIモデルと比較して、将来レイアウト予測の精度と空間的連続性の両面で向上した。
- データセットを用いた検証結果では、新しい手法が隣接する領域間での自然な分断を大幅に抑制することも確認された。
4. **研究の意義と今後の展望**:
- 提案手法は再開発計画や土地利用政策などの視覚的な比較検討において有力な技術基盤になる可能性がある。
- 今後は他の国の都市への適用を通じて汎用性を検証し、さらに予測の安定性と一般化性能を向上させるためにデータの拡充が必要。
5. **研究支援**:
- 科学技術振興機構(JST)などの研究資金により実施された。
6. **出版情報**:
- 提案手法は国際学術誌「Sustainable Cities and Society」に掲載され、2026年3月3日にオンライン版で公開された。
この研究成果は都市計画分野において重要な進歩であり、将来的には実務的な意思決定支援にも大きく貢献すると期待されています。
生成AIで都市の未来を高精度に予測
―持続可能な都市計画を支える新たな都市予測技術を開発―
発表のポイント
- 生成AIを活用し、将来の都市構造を高精度に予測する新手法を開発。
- 建物密度・高さ・交通ネットワークなど複数の都市データを統合し、未来の都市レイアウトを生成。
- 都市の成長や変化を長期的に可視化でき、持続可能な都市計画や再開発の検討に活用可能。
北陸先端科学技術大学院大学 創造社会デザイン研究領域の謝浩然准教授(早稲田大学 理工学術院総合研究所 主任研究員)とDu, Xusheng大学院生(博士後期課程、JAIST SPRING研究員)と、天津大学建築学院のZhen Xu教授らの研究グループは、生成AIを活用し、都市の将来構造を高精度に予測する新技術を開発しました。
本研究では、建物密度や高さ分布、交通ネットワーク、過去の都市変化パターンなど複数の都市の特徴データを統合的に分析し、長期的な都市構造の進化を一貫して可視化しました。本研究成果は、持続可能な都市計画や再開発戦略の高度化に貢献する基盤技術として期待されます。
なお、本研究成果は、都市計画分野の国際学術誌「Sustainable Cities and Society」(Elsevier発行)に掲載され、2026年3月3日にオンライン版で公開されました。
(1)研究の背景
世界的な都市化の進展により、都市は急速な成長と環境負荷の増大という二重の課題に直面しています。2050年までに世界人口の約7割が都市部に居住すると予測されており、都市構造の設計は、エネルギー消費や温室効果ガス排出、交通効率、生活の質などに大きな影響を及ぼします。そのため、現在の開発計画が将来の都市空間にどのような変化をもたらすのかを見通し、長期的視点に立った都市計画が求められています。しかし、都市の発展は、建物密度や高さ分布、交通ネットワーク、過去の発展経路など、複数の要因が相互に影響しながら進行する複雑な意思決定プロセスです。既存の生成AIモデルは、画像生成や、条件を一つだけ指定した変換には高い性能を示すものの、都市のように多様な要因が絡み合う空間構造を統合的に扱うことが難しく、また大規模都市を分割して処理する際には、隣接領域との不自然な不連続が生じやすいという課題がありました。さらに、時間の経過に伴う都市進化のパターンを一貫して捉える仕組みも十分ではなく、持続可能な都市計画を支える長期予測ツールとしては十分とは言えませんでした。
(2)研究の内容
本研究では、これらの課題を解決するため、画像生成AIを基盤とした都市進化予測フレームワーク「MMCN(Memory-aware Multi-Conditional generation Network)」を提案しました(図1)。本手法は、過去の都市レイアウトに加え、建物密度マップ、建物高さマップ、道路構造マップといった複数の都市要因を同時に入力し、統合的に学習することで、将来の都市レイアウトを予測するものです。
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図1.生成AIによる都市将来予測の仕組み(MMCN)
特に本研究では、都市をパッチ単位で処理する際に問題となる境界の不連続性を解消するため、隣接パッチの情報を参照する仕組みを導入しました。これにより、道路や建物配置が領域をまたいで自然につながるよう制御できます。また、過去の都市レイアウトを明示的な条件として組み込み、都市の歴史的変化パターンを学習することで、単なる静的な生成ではなく、時間的連続性を持つ予測を可能にしました。さらに検証のため、中国・深圳市を対象に2005年から2024年までの複数時点にわたる都市データを整理し、建物レイアウト、密度、高さ、道路構造などを含む、複数種類・複数時点の都市情報をまとめたデータセットを構築しました。提案フレームワークの異なる都市環境における都市間汎化能力をさらに評価するため、中国の他の2つの主要都市である上海と天津のデータを用いた都市間汎化実験も実施し、多様な空間条件下においても一貫性のある安定した都市レイアウト予測に成功しました。
(3)研究の成果
都市データ(深圳市)を用いた検証の結果、提案手法は既存の生成AIモデルと比較して、将来レイアウト予測の精度と空間的一貫性の両面で向上しました。都市レイアウトの画像や構造の類似度を示す指標SSIM(Structural Similarity Index Measure)では0.885を達成し、従来手法を上回る結果を示しました。また、都市を複数の領域に分割して予測する際に課題となる、隣り合う領域同士の境界の自然さを評価する指標Boundary IoU(Boundary Intersection over Union)でも0.642を記録しました。これにより、隣接するエリア間で生じがちな不自然な分断が大幅に抑制されていることが確認されました。
図2に示す予測例では、既存手法では道路が途中で途切れたり、建物配置が不自然にずれる様子が見られるのに対し、提案手法では道路ネットワークや建物構造がより自然に連続していることが分かります。さらに、複数のパッチを接続した都市全体の再構成結果においても、都市構造が一貫した形で保たれていることが確認されました。
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図2.将来都市レイアウト予測におけるパッチ再構成結果の比較
また、複数期間にわたる予測結果の比較(図3)から、提案手法は単なる現在構造の再現ではなく、時間経過に伴う都市の拡張や密度変化といった進化傾向を反映したレイアウトを生成できることが示されました。これにより、長期的な都市発展シナリオの検討に活用できる可能性が示唆されました。
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図3. 複数期間にわたる都市レイアウト予測結果
(4)研究の意義と今後の展望
本研究は、複数要因の相互作用を踏まえて都市の将来像を予測する生成AIフレームワークを提示し、空間的連続性と時間的一貫性の双方を考慮した都市進化予測を実現しました。将来の都市構造を視覚的に比較検討できることは、再開発計画や土地利用政策の検討、持続可能な都市成長シナリオの評価における有力な技術基盤としての活用が期待されます。
今後は、他の国の都市への適用を通じて汎用性の検証を進めるとともに、より多様な都市形態を含むデータの拡充により、予測の安定性と一般化性能の向上を図ることが課題となります。また、実務における意思決定支援を見据え、都市計画のシナリオ分析に応用可能な形へと発展させていくことが期待されます。
(5)研究支援
本研究は、以下の研究資金の支援を受けて実施されました。
科学技術振興機構(JST)国家戦略分野の若手研究者及び博士後期課程学生の育成事業(BOOST) 次世代AI人材育成プログラム(若手研究者支援)(課題番号:JPMJBY24D6)
科学技術振興機構(JST)次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)(課題番号:JPMJSP2102)
中国国家重点研究開発計画(課題番号:2024YFC3808104-01)
中国国家自然科学基金(課題番号:52508023)
(6)論文情報
掲載誌:Sustainable Cities and Society
論文題目:AI-driven urban evolution forecasting: A unified memory-aware multi-conditional generation framework for sustainable development planning
著者:Xusheng Du, Chengyuan Li, Qingpeng Li, Yuxin Lu, Yimeng Xu, Ye Zhang, Zhen Xu, Haoran Xie* *責任著者
掲載日:2026年3月3日にオンライン版に掲載
DOI:10.1016/j.scs.2026.107272
全学副専攻『アントレプレナーシップ』2026年度スタート!
2026年3月24日 11:06
🤖 AI Summary
早稲田大学は2026年度から新しい学際的副専攻「アントレプレナーシップ」を開始します。このプログラムでは、自らの専門性を活かし社会課題を発見し、持続可能な解決策に向けた新たな価値創造に取り組む能力(アントレプレナーシップ)を養います。具体的には、ビジネスや起業に関する知識とデータスキルを学び、実現可能性の高い事業計画を立案する能力を育てます。また、多様な専門性を持つ仲間と一緒にアイデアを具現化し、チームでのプロジェクト推進能力も強化します。
副専攻修了者は、起業家や投資家の交流を通じて自己のキャリア選択肢として起業を捉えるマインドを育みます。副専攻で得たスキルはアントレプレナーシップセンターが提供する課外プログラムで実践することができます。
全学副専攻制度とは、特定のテーマに焦点を当てて学ぶための柔軟な学習システムです。修了希望者は必要な単位を取得し、申請することで修了証明書が発行されます。
このプログラムは、社会課題解決に興味のある学生や将来起業家を目指す学生にとって魅力的であり、アントレプレナーシップ教育の充実により多くの優れた起業家が輩出されることが期待されています。
副専攻修了者は、起業家や投資家の交流を通じて自己のキャリア選択肢として起業を捉えるマインドを育みます。副専攻で得たスキルはアントレプレナーシップセンターが提供する課外プログラムで実践することができます。
全学副専攻制度とは、特定のテーマに焦点を当てて学ぶための柔軟な学習システムです。修了希望者は必要な単位を取得し、申請することで修了証明書が発行されます。
このプログラムは、社会課題解決に興味のある学生や将来起業家を目指す学生にとって魅力的であり、アントレプレナーシップ教育の充実により多くの優れた起業家が輩出されることが期待されています。
社会課題が複雑化する時代に求められるのは、自ら問いを立て、新たな価値を創造する力です。
早稲田大学では2026年度から、新しい学際的副専攻『アントレプレナーシップ』がスタートします。
この副専攻では、自らの専門性を活かして社会課題を発⾒し、その持続可能な解決に向けた新たな価値創造に挑む⼒「アントレプレナーシップ」を身につけます。「アントレプレナーシップ」とは、起業をめざす人に限らず、企業・行政・NPOなどあらゆるフィールドで活かすことができるものです。
具体的には、ビジネスや起業に関する体系的知識と、統計・プログラミング等のデータスキルを学び、実現可能性の⾼い事業計画を論理的に構想する⼒を養います。また、多様な専門性を持つ仲間と協働し、チームでアイディアを具現化するプロジェクト推進能⼒も体得します。さらに、起業家や投資家との交流を通じて社会課題とその解決を「自分ごと」として捉え、起業が将来のキャリアの選択肢になるようなマインドを醸成します。
副専攻で身につけたスキルや力は、アントレプレナーシップセンターが提供するさまざまな課外プログラムで、実践・力試しをしてみることができます。
・学ぶ
・実践する
・失敗する
・改良する
このサイクルを繰り返すことで、アントレプレナーシップが単なる「知識」から「力」へと変わっていきます。課外プログラムの公募は、アントレプレナーシップセンターのWebサイト上で随時更新していきますので、公式Xをフォローして見逃さないようにしましょう。
全学副専攻制度とは
学部の専攻分野を問わず、特定のテーマを追究できる制度です。専攻分野を補強、応用する分野を学ぶ、第二の強みをつくるべく新たな分野に挑戦する…など、活用方法はさまざまです。在学中に修了必要単位数を修得し申請すると修了が認定され、卒業時に修了証明書が発行されます。それぞれの「学びへの動機」や「キャリアプラン」に基づいて、興味・関心のあるテーマの副専攻を見つけて、チャレンジしてください。 詳細はグローバル・エデュケーション・センターのWebサイトからご確認ください。
こんな学生におすすめ
- 自分の専門を、社会にどう活かせるか考えたい
- 社会課題の解決に関心がある
- 将来、起業や新規事業にも挑戦してみたい
- 学部を越えた仲間と何かを生み出してみたい
ひとつでも当てはまるなら、
副専攻「アントレプレナーシップ」は、きっとあなたの学びの可能性を大きく広げることでしょう。
コーディネーター教員からのメッセージ
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河村耕平 アントレプレナーシップ副専攻 コーディネーター代表(政治経済学部・教授 アントレプレナーシップセンター副所長)
早稲田大学では、他大学に先駆けて学部学生への充実したアントレプレナーシップ教育を展開しており、これまで多くの優れた起業家を輩出してきました。1998年に始まった「早稲田大学ビジネスプランコンテスト」も、今年度で29回目を数えます。
このたび新設された「アントレプレナーシップ全学副専攻」は、商学部、GEC、政治経済学部、理工3学部、そしてアントレプレナーシップセンターをはじめとした学内の各所に設置されている多様なオープン科目や課外プログラムを体系化したものです。起業やスタートアップに関心のある学生のみなさんが、どの学部に所属していても、実践的な学びを得られるカリキュラムとなっています。
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光電流を従来の340倍に増幅する超小型光回路モニタを開発
2026年3月19日 12:16
🤖 AI Summary
早速、この研究成果の重要な点を要約します:
1. **背景**:
- 生成AIの普及に伴い、AIデータセンターとLiDARなどの分野で光通信や高精度な光制御技術が求められています。
- 精密制御が必要な場面では、回路内部の光強度や共振状態を監視する必要があります。
2. **成果**:
- シリコンフォトニクス向けの超小型(4.7マイクロメートル)、低損失(0.03デシベル)、高感度(約340倍)、低消費電力のインライン光モニタを開発。
- マルチモード干渉を利用して、光を減衰させずに検出できるようにした。
3. **波及効果**:
- AIデータセンター向けの大規模光通信チップの高度化に貢献。
- LiDARなどのセンシング分野での精度向上と小型化に寄与。
- 既存のシリコンフォトニクス製造プロセスとの高い互換性があるため、量産性和コスト面でも優位性がある。
4. **展望**:
- 大規模光集積回路の制御技術確立を目指す。
- LiDARやTHz波コヒーレント通信などの応用を推進する。
5. **研究者のコメント**:
- 光集積回路の大規模化と多機能化が進む中で、この技術は基盤となるモニタリング技術として重要な役割を果たす。
この研究成果は、光通信やセンシング分野における高精度制御と安定性を向上させる重要な技術革新であり、今後のデータセンター技術やIoT、自動運転などに大きな影響を与える可能性があります。
1. **背景**:
- 生成AIの普及に伴い、AIデータセンターとLiDARなどの分野で光通信や高精度な光制御技術が求められています。
- 精密制御が必要な場面では、回路内部の光強度や共振状態を監視する必要があります。
2. **成果**:
- シリコンフォトニクス向けの超小型(4.7マイクロメートル)、低損失(0.03デシベル)、高感度(約340倍)、低消費電力のインライン光モニタを開発。
- マルチモード干渉を利用して、光を減衰させずに検出できるようにした。
3. **波及効果**:
- AIデータセンター向けの大規模光通信チップの高度化に貢献。
- LiDARなどのセンシング分野での精度向上と小型化に寄与。
- 既存のシリコンフォトニクス製造プロセスとの高い互換性があるため、量産性和コスト面でも優位性がある。
4. **展望**:
- 大規模光集積回路の制御技術確立を目指す。
- LiDARやTHz波コヒーレント通信などの応用を推進する。
5. **研究者のコメント**:
- 光集積回路の大規模化と多機能化が進む中で、この技術は基盤となるモニタリング技術として重要な役割を果たす。
この研究成果は、光通信やセンシング分野における高精度制御と安定性を向上させる重要な技術革新であり、今後のデータセンター技術やIoT、自動運転などに大きな影響を与える可能性があります。
光電流を従来の340倍に増幅する超小型光回路モニタを開発
~ AIデータセンターやLiDAR向け光回路を高精度化~
発表のポイント
- シリコンフォトニクス光集積回路向けにマルチモード干渉構造を活用して、高感度化と低損失化を実現し、従来のシリコンPIN型検出器と比べて約340倍の検出感度を実証しました。
- 光をほとんど減衰させない低損失動作と、数マイクロメートルの超小型化を両立しました。
- 特殊な材料や複雑な構造を用いない、シリコンのみの非常にシンプルな構造で増幅器を用いずに動作する低消費電力設計を実現しました。
- AIデータセンターやLiDAR用光集積回路の安定動作や省電力化などの高精度化と大規模化に貢献する研究成果です。
早稲田大学理工学術院の北 智洋(きた ともひろ)教授の研究グループは、シリコンフォトニクス※1光集積回路向けの超小型光回路モニタを開発しました。生成AIの普及に伴い、AIデータセンターでは大規模な光通信回路の安定動作と省電力化が求められています。また、LiDAR(ライダー)※2などの光センシング分野でも、光集積回路内部の光強度や共振状態を高精度に監視する技術が重要です。本研究では、マルチモード干渉※3を利用した独自構造により、光をほとんど減衰させない低損失動作と高感度化を両立し、従来のシリコンPIN型検出器※4と比べて、光を電流として取り出す能力を約340倍に高めることを実証しました。特殊材料を用いないシリコンのみのシンプルな構造で、電流増幅器を用いず低消費電力で動作します。本技術は、大規模光集積回路の高精度制御に貢献します。
本研究成果は2026年3月4日(水)に「IEEE Journal of Lightwave Technology」にて公開されました。
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図:マルチモード干渉を利用した光回路モニタ
(1)研究の背景
近年、生成AIの急速な普及により、AIデータセンターでは膨大なデータ処理が行われています。大量の情報を高速かつ低消費電力で伝送するため、電気配線に代わり光通信が広く導入されています。また、自動運転や3次元計測に用いられるLiDARにおいても、小型で高精度な光制御技術が重要となっています。こうした通信とセンシングの両分野を支える基盤技術が、シリコンフォトニクスによる光集積回路です。
光集積回路では、リング共振器や干渉回路などの微小な構造によって光を制御します。これらの回路は温度変化や製造によるばらつきの影響を受けやすく、そのままでは通信性能の低下や動作の不安定化が起きる可能性があります。そのため、光の強度や共振状態を精密に監視しながら制御する必要があります。回路の大規模化が進むほど、こうした監視技術の重要性は一層高まります。
従来も回路内の光強度を測定するために光検出器※5が用いられてきました。しかし、大きな光電流が得られる一般的なゲルマニウム-PIN型検出器は光を吸収して電流を得るため、回路内の光を減衰させます。検出器数が増えると、その損失は無視できなくなります。さらに、検出感度を確保するために増幅回路を必要とする場合が多く、消費電力や実装面積の増加も課題でした。
そのため、光をほとんど弱めず、小型で高感度、かつ低消費電力で動作する新しい回路内光モニタ技術が求められていました。
(2)研究の成果
本研究では、シリコンフォトニクス光集積回路の内部に直接組み込める、新しいインライン光モニタを実現しました。目的は、光をほとんど減衰させずに高感度で検出できる小型デバイスの開発です。
研究グループは、シリコン導波路内で生じるマルチモード干渉に着目しました。通信に用いられる赤外光に対して、シリコンはバンド間吸収がほとんどなく、導波路は低損失です。一方で、導波路表面の界面準位ではわずかな光吸収が生じます。吸収を強めれば感度は上がりますが、同時に損失も増えるというトレードオフが存在します。
本研究では、干渉により導波路中央に光電場が集中する位置に電極を配置しました(図1)。これにより、光の伝搬をほとんど乱さずに電極間距離を短縮しました。フォトコンダクティブゲイン※6はキャリア寿命と走行時間の比で決まり、電極間距離が短いほど増加します。本構造ではこの原理を利用し、低損失性を維持したまま光電流を大きく増幅しました。
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図1:マルチモード干渉を利用したインライン型光検出器
開発したインライン光モニタの長さは4.7マイクロメートルで、挿入損失は約0.03デシベルに低減しました(図2)。これは通常のシリコン導波路に電極構造を取り付けた構造と比較して1/75の低損失化を達成しています。さらに光通信やセンシングに用いられる広い波長範囲で低損失動作を確認しました。同時に、フォトコンダクティブゲインにより光電流を増幅し、従来のシリコン-PIN型検出器と比べて最大で約340倍の検出感度を達成しました(図3)。光吸収を増やすのではなく、生成された電荷を増幅することで高感度化を実現しました。
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図2:マルチモード干渉の利用による低損失化
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図3:フォトコンダクティブゲインによる高感度化
さらに、本モニタをリング共振器に組み込み、光電流スペクトルを測定しました(図4)。共振ピークに対応した明確な光電流の変化を観測し、回路内部の光強度や共振状態を高精度に把握できることを示しました。多数配置しても回路性能への影響は極めて小さいことを確認しました。
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図4:インライン光検出器を装荷したリング共振器と共振状態の検出
本成果により、超小型(4.7 マイクロメートル)、低損失(0.03 デシベル)、高感度(340倍)、低消費電力を同時に満たす光回路モニタを実証しました。
(3)研究の波及効果や社会的影響
本成果は、AIデータセンターにおける大規模光通信チップの高度化に貢献します。生成AIの拡大により、データセンターでは膨大な情報を高速かつ低消費電力で伝送する必要があります。光集積回路の大規模化が進む中、回路内部を高精度に監視する技術は不可欠です。本モニタは低損失で多数配置が可能なため、次世代のデータセンター間光通信やCo-Packaged Optics(CPO)※7技術の発展に寄与します。
また、本技術はLiDAR用光集積回路にも応用可能です。リング共振器や光フェーズドアレイなどの精密制御が求められるセンシング分野では、回路内部の光強度や共振状態を高精度に把握することが重要です。本モニタは回路性能をほとんど損なうことなく組み込めるため、センシング精度の向上と小型化に貢献します。さらに、特殊材料を用いないシリコンのみの構造であるため、既存のシリコンフォトニクス製造プロセスとの高い互換性を持ちます。量産性とコスト面でも優位性があります。
本成果は、通信とセンシングを横断するシリコンフォトニクス基盤技術の高度化に寄与するものです。
(4)今後の展望
今後は、本モニタを多数集積した大規模シリコンフォトニクス光集積回路の制御技術を確立します。特に、データセンター間光通信(DCI)向けの多波長光トランシーバへの応用を進めます。回路内部の光強度や共振状態をリアルタイムに監視し、自律的に最適化する技術の実現を目指します。
また、LiDAR用光集積回路への展開も進めます。リング共振器や光フェーズドアレイと組み合わせることで、より高精度で安定した光ビーム制御を実現します。
さらに、本モニタをテラヘルツ(THz)波コヒーレント通信に用いる光変調器へ組み込み、超高速光源および変調器の高精度制御に応用します。THz波通信では光源の安定性と変調精度が重要であり、本技術はその基盤となる光回路内モニタリング技術として発展が期待されます。
(5)研究者のコメント
光集積回路の大規模化、多機能化が進む中で、回路内部を高精度に監視できる技術は不可欠です。本研究では、低損失性と高感度という本来トレードオフの関係にある性能を同時に実現しました。シリコンのみのシンプルな構造であることも大きな強みです。通信やLiDAR、さらにはTHz波コヒーレント通信へと展開し、次世代の光・電波融合技術の基盤を築いていきたいと考えています。
(6)用語解説
※1 シリコンフォトニクス:
シリコンを用いて光の通り道や光の制御機能を半導体チップ上に集積する技術。光通信や光集積回路の小型化・高機能化に利用されている。
※2 LiDAR(ライダー):
レーザー光を用いて対象物までの距離や形状を計測する技術。近年は、周波数を連続的に変化させたレーザー光を用いて距離と速度を高精度に測定するFMCW方式のLiDARの研究開発が進んでいる。
※3 マルチモード干渉:
幅の広い導波路内で複数の光の進み方が重なり合うことで、光の強さの分布が変化する現象。この性質を利用して光を分けたり集めたりすることができる。
※4 PIN型検出器:
p型半導体、i層(電荷がほとんど存在しない層)、n型半導体の三層構造からなる光検出器。光を吸収して電流を生成する仕組みで、光通信や光計測などで広く利用されている。
※5 光検出器:
光を電気信号に変換する素子。光の強さを電流として読み取ることができ、光通信や光計測などに広く用いられている。
※6 フォトコンダクティブゲイン:
光によって発生した電荷が回路内で繰り返し電流として流れることで、光による電流信号が大きく増幅される現象。これにより小さな光でも高感度で検出できる。
※7 Co-Packaged Optics(CPO)
光通信モジュールと電子回路(スイッチICなど)を同一パッケージ内に集積する技術。電気配線の長さを短くすることで消費電力を低減し、データセンター向け高速通信の実現に向けて注目されている
(7)論文情報
雑誌名:IEEE Journal of Lightwave Technology
論文名:Compact and Ultra-Low-Loss Inline Optical Power Monitor Based on Multimode Interference for Silicon Photonic Integrated Circuits
執筆者名(所属機関名):Tomohiro Kita*(早稲田大学), Kiyoharu Tsujishita(早稲田大学) *責任著者
掲載日時:2026年3月4日(水)
DOI:10.1109/JLT.2026.3670843
掲載URL:https://ieeexplore.ieee.org/document/11421590
(8)研究助成
本研究は、科学技術振興機構(JST) 研究成果最適展開支援プログラム A-STEP産学共同(育成型)「シリコンフォトニクスハイブリッドレーザを用いた超高解像度LiDAR基盤技術の開発」(課題番号:JPMJTR23RG)の一環として行われ、一部は日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業「三次元ヘテロジニアス集積技術を用いた1チップLiDARの開発」(課題番号:23K26166)、総務省(MIC)戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE) 「小型・低消費電力・低雑音THzトランシーバを実現する光電子融合ヘテロジニアス集積技術の研究開発」(課題番号:JP235003005)、村田学術振興・研究財団研究助成「1チップ超広帯域コヒーレント光源の研究開発」、テレコム先端技術研究支援センター研究費「自己注入同期現象を用いた超狭線幅集積型波長可変レーザの研究」の支援を受けて行われました。
ナノチューブ膜スタンプで細胞内液・ミトコンドリアを直接移送
2026年3月18日 14:37
ナノチューブ膜スタンプで細胞内液・ミトコンドリアを直接移送
~細胞機能を最大25%向上させる新しい「細胞手術」技術を開発~
発表のポイント
- 細胞内液やミトコンドリアを別の細胞へ直接移送できるスタンプシステムを開発しました。
- 細胞生存率約95%、物質移送効率約90%という高い性能を実現しました。
- ミトコンドリア移送により、細胞内ATP産生量が最大25%向上することを実証しました。
早稲田大学大学院情報生産システム研究科の三宅 丈雄(みやけ たけお)教授らの研究グループは、ナノチューブ膜を用いたナノ注射器(ナノチューブ膜スタンプ)に圧力制御機構を搭載させることで、細胞内液やミトコンドリアなどの細胞内成分を別の細胞へ高効率かつ高生存率を保ったまま直接移送することに成功しました。
本技術により、従来は困難であった細胞内部成分の抽出・保存・再導入を一体的に制御できるようになり、移送されたミトコンドリアが受容細胞内で機能し、アデノシン三リン酸(ATP)産生を有意に向上させることを世界で初めて定量的に示しました。本成果は、細胞治療、再生医療、細胞機能解析などの分野において、新たな「細胞手術」技術としての応用が期待されます。
以上は、科学研究費補助金、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「電子・イオン制御型バイオイオントロニクス」(JPMJPR20B8)による成果であり、2026年3月17日(火)に科学誌「Small Science」にオンライン版で公開されました。
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図:圧力制御可能なナノ注射器による細胞内液・ミトコンドリア移送技術
(1)研究の背景
細胞間でタンパク質やRNA、さらにはミトコンドリアなどの細胞内成分が移動する現象は、細胞機能の制御や疾患進展に深く関与していることが知られています。実際、自然界においてはトンネリングナノチューブ(TNT)と呼ばれる細胞間チャネルを介して、ミトコンドリアを含む細胞内成分が細胞間で輸送される現象が報告されており、エネルギー代謝の補償や細胞生存、疾患進行との関連が注目されています。しかしながら、このようなTNTを介した細胞間輸送は、発生頻度が低く、特定の細胞種や病理条件に強く依存することが知られています。また、輸送される分子種やオルガネラ※1、輸送量、方向性を人為的に制御することは未だ実現されておらず、自然界の機能を直接的に医療応用する段階には至っていません。
一方、人工的な細胞操作技術としては、ウイルスベクター、電気穿孔法(エレクトロポレーション)、脂質ナノキャリア(リポフェクション)など、主として「細胞内への導入」に特化した手法が広く用いられてきましたが、これらはいずれも生細胞から細胞内成分を抽出し、別の生細胞へ移送するという双方向操作には対応できません。マイクロインジェクションや原理間力顕微鏡(AFM)などのナノピペットを用いた単一細胞レベルでの吸引・注入操作も報告されているものの、極めて低スループット※2であり、細胞損傷や操作再現性の点から、多数の細胞を対象とした細胞間移送技術としての汎用化には大きな課題が残されています。特に、ミトコンドリアのような機能性オルガネラを細胞機能を維持したまま、意図した細胞間で、かつ多数の細胞へ移送する技術は現在まで確立されておらず、細胞治療や細胞機能再設計を実現する上での技術的ボトルネックとなっています(表1)。
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表1:従来技術と本研究技術の比較
(2)研究の成果
本研究では、自然界における偶発的な細胞間輸送(TNT)や、導入のみに特化した既存技術の限界を踏まえ、生細胞から細胞内成分を穏やかに抽出し、別の生細胞へ高効率に導入することを同一プラットフォームで実現するナノ注射器システムを開発しました。本技術は、ナノチューブ内部の圧力を精密に制御することで、抽出・保持・導入という一連の操作を連続的かつ再現性高く行える点に特徴があります。
【要素技術:圧力制御による抽出・保持・導入の一体化】
本研究で用いたナノチューブ注射器は、金ナノチューブ膜とガラス管から構成され、ナノチューブを細胞膜に挿入した状態でガラス管内部の圧力を制御することで、細胞内成分の出入りを制御します。ガラス管内の圧力(Pstamp)が細胞内圧(Pcell)より低い場合には、細胞内液が受動的にナノチューブ内へ流入し、細胞内成分の抽出が行われます。一方で、ガラス管内に緩衝液を加えることで内部圧力を調整すると、過剰な抽出を抑制し、細胞機能を維持したまま穏やかな物質交換が可能となります。本研究では、ナノチューブ内径が大きく、かつ、ナノチューブ密度が多いほど、抽出量は大きくなり、一方、ガラス管に加える緩衝液の量を増やすほど、抽出量は少なくなることがわかりました。特に約200μLの緩衝液をガラス管に入れると、抽出はほぼ抑制されることがわかりました。
一方、抽出された細胞内成分は、ガラス管内を密閉することでナノチューブ内部に一時的に保持されます。その後、導入工程ではガラス管内に緩衝液を追加して正の圧力を与えることで、保持された細胞内成分を標的細胞内へと能動的に押し出すことができます。図1下図に示したのは、チューブ内部に異なる体積のカルセイン液※3を注入した際、どれだけのカルセインが膜を通過したかを示しています。そこでは、ガラス管を細胞が接着している高さまで水に沈めており、その際、200μLと300μLの間でカルセイン通過量に変化があることがわかります。これは、200μL以下では、カルセイン溶液の量が十分でないため、水圧の影響でカルセインの膜通過が減少するのに対し、300μL以上では、水の流れを発生させることができるため、カルセインが十分に通過したと考えています。この圧力制御に基づく操作により、従来は別個の操作として扱われてきた「抽出」と「導入」を一体化し、生細胞を維持したまま双方向の細胞間移送を実現しました(図1下図)。
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図1:細胞内液抽出および導入結果
【HeLa および NIH-3T3 細胞を用いた同種・異種間移送】
本技術の汎用性を検証するため、HeLa 細胞※4および NIH-3T3 ※5を用い、同種間(HeLa→HeLa、NIH-3T3→NIH-3T3)および異種間(HeLa→NIH-3T3、NIH-3T3→HeLa)での細胞内成分移送を行いました。その結果、いずれの組み合わせにおいても高い移送効率(約90%以上)と高い細胞生存率(約95%以上)が維持されることを確認しました。
特に異種間移送では、外来由来の細胞内成分に起因すると考えられる一時的な増殖抑制が観察されたものの、培養を継続することで細胞は回復し、最終的には正常な増殖挙動を示しました。これは、本技術が細胞機能を致命的に損なうことなく、細胞間で細胞内成分を移送できることを示しています。
【ミトコンドリア移送による細胞機能の向上(図2)】
さらに本研究では、ナノチューブ径の違いがミトコンドリア移送および細胞機能に与える影響を検証しました。ナノチューブ径が0.6μm(内径は約310nm)の場合、ミトコンドリアのサイズに対してチューブ径が小さいため、ミトコンドリアの抽出および移送はほとんど起こらず、標的細胞におけるATP産生量の有意な変化は認められませんでした。
一方、ナノチューブ径を1.5μm(内径は約1260nm)とした場合には、ミトコンドリアを効率的に抽出・移送することが可能となり、標的細胞内にミトコンドリアが実際に取り込まれていることが確認されました。その結果、ミトコンドリアを移送した細胞では、移送後24時間以内にATP産生量が有意に増加し、細胞機能が明確に向上しました。
この結果は、単なる細胞内液の移送では細胞機能の改善は起こらず、機能性オルガネラであるミトコンドリアそのものを移送できた場合にのみ、細胞機能の向上が実現されることを示しています。
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図2:ミトコンドリア移送による機能活性
(3)研究の波及効果や社会的影響
本研究成果は、細胞内成分移送を偶発的現象や特殊操作としてではなく、再現性・定量性を備えた操作技術として確立した点に社会的意義があります。抽出・保持・導入を同一プラットフォームで制御できる本技術は、さらなる自動化・制御機構を搭載することで、細胞操作の信頼性や評価基準の共有を可能とし、細胞を扱う研究・開発分野における操作技術の標準化と品質向上に資する基盤的成果ではないかと考えています。
(4)今後の展望
本研究で開発したナノ注射器は、生細胞から細胞内成分を抽出し、別の生細胞へ高効率に移送できることを実証した基盤技術です。今後は本技術の適用範囲を拡張し、さまざまな細胞種に対する再現性や安定性の検証を進めていく予定です。特に移植可能な細胞を用いた再生医療研究に取り組みたいと考えています。
一方、基礎研究として動物性細胞以外の細胞(植物、酵母、乳酸菌など)にも展開していきたいと考えています。これらを一研究室で実現することは困難ですので、本プロジェクトにご興味のある企業や研究機関との連携を模索していきたいと考えています。
(5)用語解説
※1 オルガネラ:
細胞内部に存在し、特定の機能を担う構造体の総称である。代表的なオルガネラには、エネルギー産生を担うミトコンドリア、タンパク質合成に関与する小胞体、物質の修飾・輸送を行うゴルジ体などがあり、細胞の機能や状態を支える重要な役割を果たしている。
※2 低スループット:
一定時間内に処理・解析できる試料数や対象数が少ないことを指す。細胞操作技術においては、1回の操作で扱える細胞数が限られている、あるいは操作に時間や熟練を要するため、多数の細胞を効率的に処理できない状態を意味する。
※3 カルセイン液:
蛍光色素であるカルセインを溶解した水溶液であり、物質の移動や透過性を可視化・定量評価するための試薬として広く用いられている。カルセインは水溶性が高く、細胞毒性が低いため、膜透過や流体移動の評価に適しており、本研究ではナノチューブ膜を介した物質通過量や圧力制御による移送挙動を評価する指標として用いられた。
※4 HeLa細胞:
世界で最も広く利用されているヒト由来の培養細胞株である。高い増殖能と安定した性質を有し、細胞生物学、がん研究、薬剤評価、細胞操作技術の検証など、基礎から応用まで幅広い研究分野で標準的なモデル細胞として用いられている。
※5 NIH-3T3細胞:
マウス胚由来の線維芽細胞から樹立された培養細胞株で、増殖性が安定しており、細胞増殖、分化、シグナル伝達、細胞操作技術の評価などに広く用いられている標準的なモデル細胞である。
(6)論文情報
雑誌名:Small Science
論文名:A Nanotube Injector for Cytoplasmic Transfer and Enhanced Mitochondrial Function
執筆者名:Bingfu Liu, Zhuhang Dai, Bowen Zhang, Kazuhiro Oyama, Chenxi Li, Yukun Chen,
Mingyin Cui, Takeo Miyake *責任著者
掲載日:2026年3月17日(火)
DOI:10.1002/smsc.202500598
掲載URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/smsc.202500598
(7)研究助成
科学技術振興機構(JST)
戦略的創造研究推進事業 さきがけ「電子・イオン制御型バイオイオントロニクス」(JPMJPR20B8)
知が育まれる新たな学びの拠点へ 理工キャンパス・新52号館ラーニングコモンズ
2026年3月17日 14:27
🤖 AI Summary
早稲田大学は、150周年と理工学部設置125周年を記念して西早稲田(理工)キャンパスの再整備工事を実施しています。この度、第一期として新52号館が竣工し、4階には学生や大学院生、教職員が使用する多様な学びをサポートするラーニングコモンズが設けられました。
旧52号館の伝統的な魅力を保持しながら、グループワークや自習、会議など様々な学習スタイルに対応できる開放的な空間となっています。また、フロア全体で交流と協働を促す設計も採用されています。この新しいラーニングコモンズは、理工系教育研究の新たな拠点として期待されます。
関連情報については、以下をご覧ください。
- 西早稲田(理工)キャンパス再整備工事について: [リンク](https://www.waseda.jp/top/news/93550)
- 150周年と理工学部設置125周年に関する寄付: [リンク](https://www.waseda.jp/150th/riko125th/donation/)
旧52号館の伝統的な魅力を保持しながら、グループワークや自習、会議など様々な学習スタイルに対応できる開放的な空間となっています。また、フロア全体で交流と協働を促す設計も採用されています。この新しいラーニングコモンズは、理工系教育研究の新たな拠点として期待されます。
関連情報については、以下をご覧ください。
- 西早稲田(理工)キャンパス再整備工事について: [リンク](https://www.waseda.jp/top/news/93550)
- 150周年と理工学部設置125周年に関する寄付: [リンク](https://www.waseda.jp/150th/riko125th/donation/)
早稲田大学では大学創立150周年ならびに理工創設125周年に向けて、西早稲田(理工)キャンパスの再整備工事を行っております。
この度、再整備工事の第一期として新52号館を竣工。4階のラーニングコモンズは、学生・大学院生・教職員の多様な学びを支える新しい共創空間です。
歴史ある旧52号館の魅力を継承しながら、グループワークや自習、打ち合わせなど幅広い学修スタイルに対応する開放的な環境を整備。加えてフロア全体で交流や協働を促す設計となっています。
理工系教育研究の新たな拠点として期待されるラーニングコモンズの様子を、ぜひ動画でご覧ください。
【西早稲田(理工)キャンパス再整備工事について】
https://www.waseda.jp/top/news/93550
https://www.waseda.jp/150th/riko125th/donation/
新たな表現方法で感謝を伝える~バーチャル銘板プロジェクト~
2026年3月17日 14:20
🤖 AI Summary
早稲田大学では、「バーチャル銘板プロジェクト」を開始し、寄付者の皆様への感謝を新たな表現方法で伝えています。このプロジェクトは基幹理工学部の河合研究室が中心となって進められており、バーチャル銘板の制作に取り組んでいます。
バーチャル銘板はデジタル技術を利用して寄付者の名前や感謝の意を表す方法で、物理的な銘板とは異なる形での感謝表示を目指しています。今後の計画としては、このプロジェクトを通じて寄付者との関係性を強化し、大学の支援に感謝する文化を広めることです。
詳細については河合研究室の訪問や、関連記事をご覧ください。
バーチャル銘板はデジタル技術を利用して寄付者の名前や感謝の意を表す方法で、物理的な銘板とは異なる形での感謝表示を目指しています。今後の計画としては、このプロジェクトを通じて寄付者との関係性を強化し、大学の支援に感謝する文化を広めることです。
詳細については河合研究室の訪問や、関連記事をご覧ください。
早稲田大学では寄付者の皆様への新たな形で感謝を伝えるため、「バーチャル銘板プロジェクト」を始動させました。
今回はプロジェクトの根幹となるバーチャル銘板を制作している基幹理工学部表現工学科の河合研究室を訪問し、プロジェクトの概要、そして今後の計画について伺いました。
本プロジェクトの今後についてもご注目ください。
一般民間人の健康・快適宇宙空間を実現する宇宙QOL向上を目指した研究を開始
2026年3月4日 12:28
一般民間人の健康・快適宇宙空間を実現する宇宙QOL向上を目指した研究を開始
~JAXA・宇宙戦略基金「SX-CRANE」に私大で唯一の代表機関として採択決定~
概要発表のポイント
- JAXAの「宇宙戦略基金:宇宙転用・新産業シーズ創出拠点「SX-CRANE」」の採択を受け、国内の産官学9機関で、2030年以降に民間活動の拡大が期待される地球低軌道の宇宙空間を対象に、宇宙QOL向上を目指した有人宇宙滞在技術開発を推進します。
- 地上とは異なるECLSS※1(環境制御・生命維持システム)に支えられる宇宙空間において、十分な訓練を経ずに滞在する一般民間人がどう感じるのかの視点から、認知・感覚・生理反応に基づく人間中心のアプローチによりQOL向上を目指します。また、同空間における健康・快適性を維持する技術と環境条件に制約されない快適性を統合し、宇宙滞在における新しい宇宙QOL像の提示を目指します。
- 地球での実験データ、宇宙拠点での実証データ、ヴァーチャル環境でのデータを一体的に統合した統合データ解析プラットフォームを構築し、人の生理・認知・行動反応を多角的に再現・評価できる、新しい研究基盤の確立を目指します。
学校法人早稲田大学(所在地:東京都新宿区、理事長:田中愛治)は、2026年2月6日にJAXA(宇宙航空研究開発機構)の「宇宙戦略基金:宇宙転用・新産業シーズ創出拠点「SX-CRANE」」に代表機関として採択されました。代表機関として採択された中では、私立大学で唯一の採択となります。
2030年以降、地球低軌道の宇宙空間において、民間活動の拡大が期待されており、そこには訓練された宇宙飛行士だけでなく、民間人も活動対象のスコープに入ることが予想されます。本課題の採択を受けて、学校法人早稲田大学は慶應義塾大学、学校法人東京理科大学、学校法人東京女子医科大学、公立大学法人名古屋市立大学、国立大学法人大阪大学、有人宇宙システム株式会社、パナソニック株式会社、株式会社ジャムコの各連携機関とともに、宇宙QOL向上を目指した有人宇宙滞在技術開発を推進します。また、地球での実験データ、宇宙拠点での実証データ、ヴァーチャル環境でのデータを一体的に統合した、統合データ解析プラットフォームを構築し、宇宙と地上双方に価値を還元する新たな研究拠点の実現を目指します。
また、本課題の研究代表者が、別に研究代表を務めている教育・人材育成プログラム(文部科学省「宇宙人材育成事業」令和7年度採択「ECLSS環境における人間の快適性を支える製品・サービスデザイン人材育成プログラム」)と連携し、非宇宙分野からの人材育成、裾野拡大、社会受容の向上を推進します。
採択事業について
■研究費の名称:JAXA 宇宙戦略基金 宇宙転用・新産業シーズ創出拠点「SX-CRANE」
■技術開発課題の名称:一般民間人の健康・快適宇宙生活を実現する宇宙QOL研究開発拠点
■代表機関名:学校法人早稲田大学
■研究代表者:早稲田大学 理工学術院 野中 朋美(のなか ともみ)
■連携機関(予定):慶應義塾大学、学校法人東京理科大学、学校法人東京女子医科大学、
公立大学法人名古屋市立大学、国立大学法人大阪大学、有人宇宙システム株式会社、
パナソニック株式会社、株式会社ジャムコ
■支援予定期間:2026年4月~2034年3月(最長8年)
※当初契約期間は、契約日から最初のステージゲート評価が終了する日の属する年度末日まで。
背景と課題
現在、宇宙における有人活動は宇宙飛行士が担っており、ECLSS(エクルス:環境制御・生命維持システム)は、高度に選抜され長期訓練を受けた宇宙飛行士が生命維持を可能とすることを前提に、設計・開発されてきました。
その一方、一般民間人の宇宙旅行や商業宇宙ステーション構想の実現など、今後の民間活動の拡大が予測される地球低軌道の宇宙空間においては、健康維持に加え、快適に過ごせる環境の確保が不可欠となります。十分な訓練を受けずに宇宙空間に渡航する一般民間人にとって、快適性・QOLの向上や健康維持を支える製品・サービスは不可欠であり、今後、そのために必要な技術開発と研究拠点が必要となります。
本研究開発内容と実施体制について
本研究開発は、「人がどう感じるのか」の視点から、認知・知覚・生理反応に基づく人間中心のアプローチを導入し、宇宙拠点での健康・快適・QOL体験を統合的に設計する世界初の挑戦となります。以下の9つのグループによる3つの研究グループ群で、具体的な本研究開発項目を推進します。
<システムデザイングループ群>
1.民間宇宙ビジネス・サービスデザインG:
宇宙旅行や居住における利用者の選好・評価・心理的要因を定量化し、指標・ガイドラインGが各グループと連携して開発する「宇宙QOL指標」と結びつけることで、新しいサービスやビジネスの設計とともに、行動経済学の知見を応用し、宇宙環境において望ましい行動変容を促すサービスデザインの構築を目指します。さらに、サービスレベルごとの費用対効果を検証し、社会実装可能なビジネスモデルの提示を目指します。
2.システムデザインG:
居住空間に提供するQOL基盤のデザイン、各グループが開発するQOLアイテムにおけるQOL基盤および外部システムとのインターフェース設計を担当します。また、単にものが動くだけでなく、地上や宇宙でどのような試験を実施して社会実装していくか、社会実装を実現する分野融合研究開発のマネジメントを担当します。
3.宇宙実証G:
各研究グループにより創出された技術アイテム群を統合し、実際の宇宙環境あるいは模擬環境において段階的に検証・実装を目指す際に、開発した技術を宇宙実証および実装計画立案につなぐ役割を担います。また、「きぼう」有償フライト枠組みを活用し、技術成果を軌道上実証・社会実装に結びつけることを目指します。
<健康・QOL・快適グループ群>
4.快適・スポーツG:
運動・身体活動を通じた健康維持・ストレス軽減技術の開発を目指します。健康・快適度を評価する指標として、宇宙滞在における清潔評価指標、QOL-Fitnessスコアの開発、また、開発した技術を実装した空気・空間清浄装置、宇宙トイレ・宇宙エアシャワー、宇宙eスポーツ・フィットネスサービスプログラム、宇宙ヨガ・リラクゼーションプログラムの開発を目指します。
5.人間工学・クロスモーダル・アートG:
人間の感覚機能や多感覚の統合(クロスモーダル)にかかる特性を活用し、XR(クロスリアリティ)技術を用いた宇宙酔いの訓練対策プログラムや、宇宙での狭隘な住空間におけるアートの視座を取り入れたリラクゼーションの試みなどを通して、快適な宇宙旅行のUX(ユーザーエクスペリエンス)のデザインを目指します。
6.健康・医学G:
民間人の宇宙滞在における健康維持を目的に、宇宙環境を模擬した細胞/組織培養実験から一般民間人を対象とした閉鎖環境下での研究まで、包括的に展開できる研究開発プラットフォームを構築しつつ、階層的に宇宙環境の影響を解明し、その改善策の創出を目指します。
<基盤技術グループ群>
7.統合実験プラットフォームG:
AI技術を駆使し、人の生理・心理状態を仮想的に再現する「生理・心理デジタルツイン」、民間宇宙ステーションや宇宙ホテルを模擬する「ヴァーチャルQOL空間」を統合した、次世代の「仮想実験環境」の開発を目指します。
8.解析・デバイスG:
外的環境(温度・湿度・O2/CO2・宇宙放射線など)と内的環境(体温・心拍・脳波・ホルモンなど生体データ)の両面を網羅的に計測・解析し、軽微な体調変化を早期検知して、健康リスクを未然に防ぐこと、また、微小重力や宇宙特有の制約条件に適応した計測技術・解析モデルの開発を目指します。
9.指標・ガイドラインG:
健康・快適性・QOLの評価指標と標準化ガイドラインを設計・検証・規格化を目指します。宇宙飛行士の健康・心理モニタリング、閉鎖環境知見、航空宇宙医学、国際機関文書を統合し、サービスレベル別に実装可能な枠組みの提示を目指します。
これらの研究開発内容は、「快適・スポーツ」、「人間工学・クロスモーダル・アート」、「健康・医学」を核とした人間中心の研究アプローチで行い、それらを統合・実証する「システムデザイン技術」、「サービス・システムデザイン」、「宇宙実証」等の基盤技術を柱として開発を進めることで、単なる要素技術の寄せ集めではなく、システムアーキテクチャ設計に基づく「しくみのデザイン」によって、宇宙拠点と地球における生理・認知・行動データを統合的に活用する新たな有人宇宙滞在技術の創出を目指すことができます。このことにより、「宇宙QOL基盤」と「宇宙QOLアイテム群」の開発につなげ、民間宇宙ステーションや宇宙ホテルの事業者が構築する居住モジュール内部の体験空間に導入される独立・分散型の要素技術を、宇宙QOL基盤上に製品・サービスのアイテム群として供給することを目指します。
また、地球での実験データ、宇宙拠点での実証データ、ヴァーチャル環境でのシミュレーションデータを一体的に統合し、AI解析によって知見を抽出する統合データ解析プラットフォームの構築も目指します。これにより、現実環境と仮想環境を横断した新しい研究基盤を確立し、人の生理・認知・行動反応を多角的に再現・評価することを目指します。
研究者のコメント
宇宙空間における民間活動の拡大に向けて、これまでの「生命維持」を前提とした技術から、「一般民間人が快適に過ごすための環境と体験」を設計する新たな段階へと移行しています。
早稲田大学は、システム工学および人間中心設計の知見を基盤として、人の認知・感覚・生理反応を統合的に捉え、宇宙における健康・快適・生活の質(QOL)を科学的に設計する研究に取り組んできました。本研究では、これまで宇宙飛行士を前提として構築されてきたECLSSを、「人がどう感じ、どのように快適に過ごすか」という人間中心の視点から、宇宙QOLを科学的に設計し、宇宙空間における快適性を拡張することを目指します。
日本は、環境制御技術、健康管理技術、精緻なセンシング・解析技術、そしてきめ細やかなサービス設計に代表される高度なサービス産業において、世界的に高い競争力を有しています。これらの非宇宙分野で培われた技術と知見を宇宙分野へ体系的に接続し、人間中心の宇宙生活設計という新たな研究領域を切り拓く挑戦です。そのため、医学、工学、人間工学、スポーツ科学、宇宙実証、システム工学、行動経済学・経営工学・サービス工学、産業技術を横断する、国内でも類を見ない大規模かつ統合的な研究体制のもとで本研究を推進します。大学、研究機関、企業がそれぞれの強みを結集した圧倒的な研究体制により、基礎研究から宇宙実証、社会実装までを一体的に推進できる点が大きな特徴です。
早稲田大学は、本研究開発拠点の代表機関として、日本の強みを結集した宇宙QOL・ECLSS研究の国際的な中核研究拠点を形成し、宇宙における人間中心の快適設計を世界に先駆けて実現を目指します。そして、宇宙で培われた技術と知見を地上社会へ還元することで、都市環境、建築、サービス産業など幅広い分野の革新にも貢献し、宇宙と地上の双方に新たな価値を創出してまいります。
用語解説
※1 ECLSS(エクルス:Environmental Control and Life Support System/環境制御・生命維持システム)
宇宙船や宇宙ステーションなどの閉鎖環境において、人が安全に生活するために必要な酸素の供給、水の再生、二酸化炭素の除去、温度・湿度・気圧の調整などを行い、居住環境を維持する基盤システムです。
過渡的パウリ遮蔽効果による広帯域・超高速光スイッチング
2026年2月27日 15:29
過渡的パウリ遮蔽効果による広帯域・超高速光スイッチング
~電子温度制御により新たな光変調機構を発見~
発表のポイント
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- 縮退半導体※1 窒化インジウム(InN)薄膜を対象に、多色プローブ光を用いたポンプ–プローブ時間分解透過率測定※3を行い、可視光から近赤外領域にわたる広帯域の超高速光スイッチングを実証しました。
- この実証において、高強度光励起によって生じる「過渡的パウリ遮蔽※2」が現れ、InN材料が瞬時に光学的透明状態へと変化することを明らかにしました。
- 従来は大量の光励起キャリア※4注入が必要と考えられていた過渡的パウリ遮蔽が、本研究により、電子温度上昇に伴う電子分布の再構成のみで発現することが明らかになりました。
- これらの成果は、次世代の超高速光変調器、光シャッターの高度化に加え、光計算・光通信向けフォトニックデバイスの実現につながることが期待されます。
近年、非常に強く、しかもきわめて短い時間で光を出すレーザー技術が大きく進展しています。このレーザー技術を固体材料と融合することで、従来にはない機能を有する材料やデバイスの創出が期待されています。例えば、強いレーザー光を照射すると、通常は光を通さない物質が一時的に透明になることがあります。レーザー光を超高速でON/OFF制御すれば、物質の透明・不透明を超高速でスイッチングすることが可能となり、光スイッチや光信号制御などへの応用が期待されます。
早稲田大学理工学術院の賈軍軍(じゃ じゅんじゅん)教授の研究グループは昨年、フェムト秒レーザー照射によってマルチバレー半導体中の光励起電子分布を制御する新しい光変調機構を発見し、可視光から赤外線に至る広帯域で光スイッチングが可能であることを実証しました「Physical Review Applied, 23, 024060 (2025)」。本研究では、この概念をさらに発展させ、縮退半導体InNにおいて、フェムト秒レーザーにより電子の「温度」を瞬時に制御することで、広帯域な光スイッチングが可能になることを明らかにしました。
本成果は、超高速かつ広帯域な光制御を実現する新たな原理を示すものであり、次世代の超高速光変調器や光シャッターの高度化に貢献するとともに、低遅延・高効率が求められる光計算・光通信向けフォトニックデバイスへの応用が期待されています。
本研究成果は2026年1月20日に「Physical Review B」に公開されました。
これまでの研究で分かっていたこと
半導体材料では、バンドギャプ以上の高強度レーザーを用いると、多数の電子が価電子帯から伝導帯に高密度に励起されることが知られています。これらの電子は電子-フォノン散乱によって速やかに伝導帯下部へ緩和し、伝導帯底における電子占有が増加します。この電子占有の増大、すなわちパウリ遮蔽(Pauli Blocking)効果により、バンド間吸収が一時的に抑制され、物質が透過的になる現象が観測されてきました。従来、この過渡的パウリ遮蔽効果は主として高強度光励起による伝導帯に大量電子の注入に起因すると理解されてきました「Physical Review Applied, 23, 024060 (2025)」。
新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと
本研究では、代表的な半導体材料であるInNを用いて、パルスレーザーの高密度光励起によって電子温度を制御することで、近赤外から可視光領域にわたる多色光の透過・不透過を超高速で切り替えられるかを検証しました。
InNにおいて、フェムト秒レーザー照射により伝導帯中の電子温度が瞬時に上昇し、それに伴って電子分布が熱的に広がることを明らかにしました。この電子分布の変化により、従来、光を吸収していた遷移が一時的に抑制されます。その結果、「電子温度の急激な上昇」のみを過渡的パウリ遮蔽効果の駆動原理として、物質の透明・不透明を超高速かつ広帯域に制御できることになります。さらに、InNにおける光スイッチングは可視光から近赤外域にわたる複数のスペクトル的スイッチング中心を有することが明らかとなりました。この成果は、単一材料において多色光を同時に制御可能であることを示し、電子温度制御に基づく新たな広帯域光変調原理を確立するものです。
研究の波及効果や社会的影響
本研究では、明らかになった過渡的パウリ遮蔽に基づく超高速・広帯域光スイッチング機構は、従来の電子デバイスの速度限界を超える新たな情報処理技術の基盤となります。特に、フェムト秒〜ピコ秒時間スケールで動作する全光型スイッチングは、将来の高速・低遅延情報通信に大きな波及効果をもたらします。とくに、可視光から近赤外にわたる広帯域動作は、波長分割多重(WDM)光通信や多波長を同時に扱うフォトニック回路への応用に適しており、データセンターや高性能計算(HPC)における通信の高速化・省電力化に貢献することが期待されます。
また、本研究は、既存の産業利用実績を有する材料を用いて新機能を引き出した点でも意義が大きく、基礎物理の深化と社会実装を橋渡しする研究として、今後のフォトニックデバイス産業や関連技術分野への長期的な社会的影響が期待されます。
課題、今後の展望
本研究で確立した電子温度駆動型の過渡的パウリ遮蔽効果は、材料固有の電子構造に基づいて光スイッチング波長域を設計できる指針を与えるものであり、今後はワイドバンドギャップ半導体材料への展開が期待されます。さらに、サブピコ秒時間スケールで動作する全光型非線形応答は、光ニューラルネットワークに応用の展開に期待され、ひいてはフォトニック AI への展開としての応用が期待されます。
研究者のコメント
本研究は、現代の情報技術における根本的課題「いかにして、より高速かつ低エネルギーで信号を切り替えるか」に応えるものです。レーザー光によって材料の透明性を瞬時に制御できることを示した本成果は、超高速・広帯域・高効率な次世代フォトニックデバイスへの新たな道を切り拓くものです。
用語解説
※1 縮退半導体
不純物ドーピングや欠陥などによってキャリア(電子または正孔)の濃度が非常に高くなり、フェルミ準位が伝導帯(n型)または価電子帯(p型)の内部にまで入り込んだ半導体のことを指す。
※2 過渡的パウリ遮蔽
半導体にフェムト秒などの超短パルスレーザーを照射した際に、電子の占有状態が一時的に変化し、光吸収が抑制される現象であります。この効果は、電子が同一の量子状態を同時に占有できないというパウリの排他原理に基づいています。
※3 ポンプ–プローブ時間分解透過率測定
超短パルスレーザーを用いて物質中の超高速現象を観測する実験手法であります。まず、強いレーザーパルス(ポンプ光)を試料に照射して電子状態を励起し、その後、時間遅延を制御した弱いレーザーパルス(プローブ光)を照射することで、励起後の光学特性の変化を時間分解して測定します。
※4 光励起キャリア
バンドギャップ以上の光子エネルギーをもつ光を半導体や絶縁体に照射すると、価電子帯から伝導帯への電子遷移が生じ、電子と正孔の対が生成される。これらの電子-正孔対を光励起キャリアと呼ぶ。
論文情報
雑誌名:Physical Review B
論文名:Transient Pauli blocking in an InN film as a mechanism for broadband ultrafast optical switching
執筆者名(所属機関名):Junjun Jiaa※、Minseok Kimb、Yuzo Shigesatob、Ryotaro Nakazawac、Keisuke Fukutanic、Satoshi Kerac、Toshiki Makimotoa、Takashi Yagid
a:早稲田大学
b:青山学院大学
c:分子科学研究所
d:産業技術総合研究所
掲載日時:2026年1月20日
掲載URL:https://doi.org/10.1103/1cww-zn61
DOI:https://doi.org/10.1103/1cww-zn61
*:責任著者
研究助成
研究費名:科学研究費 基盤研究(B)
課題番号:25K01862
研究課題名:光誘起イプシロンニアゼロ物性の解明による物質設計
研究代表者名(所属機関名):賈 軍軍(早稲田大学)
二次元材料MXeneの電池反応を“その場”で可視化
2026年2月27日 15:28
二次元材料MXeneの電池反応を“その場”で可視化
概要
一般財団法人ファインセラミックスセンター(JFCC)の野村優貴博士、山本和生博士、平山司博士と早稲田大学の藤田真輝氏(研究当時:博士前期課程2年)、川合航右研究院講師(現在:東北大学)、大久保將史教授らの研究グループは共同で、全固体リチウム電池※1材料として注目される二次元材料MXene(マキシン)※2について、充放電動作中に生じる電池反応を電子顕微鏡を用いてその場観察※3することに成功しました。
MXeneは、原子数層の厚さの“シート状”の材料で、高い電気伝導性とイオンの出入りしやすさから、次世代電池への応用が期待されています。しかし、実際に電池として動作している際に、MXeneの中でリチウムイオンがどのように動き、どのような電気化学反応が起こっているのかは、これまで詳しく分かっていませんでした。本研究では、早稲田大学が開発したMXeneに、JFCCが開発したその場走査透過電子顕微鏡法(STEM)※4と電子エネルギー損失分光法(EELS)※5を組み合わせることで、全固体電池の充放電中に、MXene内部で起こるリチウムの出入りや電気化学反応をナノメートルスケールでその場観察することに成功しました。
その結果、MXene内では、①層間にリチウムイオンが出入りする反応、②表面で酸化リチウムが生成・分解する反応、③固体電解質※6が分解する反応、という3つの異なる反応が同時に進行していることが明らかになりました。さらに、MXeneのナノシート表面に存在する酸素などの末端基※7の違いによって、リチウムイオンの動きや反応の進み方が大きく変化することも示されました。本成果は、MXeneを用いた高容量・高耐久な全固体電池の設計指針を与えるものであり、次世代二次電池開発に向けた重要な知見となります。
本成果は2026年1月19日にWiley社発行の国際学術誌「Small」に掲載されました。
現状と課題
電気自動車や再生可能エネルギーの普及にともない、二次電池には「高容量」「長寿命」「高安全」の実現が求められています。特に、電解液を使わない全固体リチウム電池は、安全性の高い次世代電池として注目されています。MXeneは、金属炭化物や窒化物からなる二次元材料で、薄いナノシートが多層に積層した構造です。この独特な構造により、イオンが出入りしやすく、高い蓄電性能が期待されています。しかし、電池として動作している最中に、MXeneの内部でどのような反応が生じているかは、これまで直接観察することが困難でした。
研究手法
一般財団法人ファインセラミックスセンター(JFCC)の野村優貴博士、山本和生博士、平山司博士と早稲田大学の藤田真輝氏(研究当時:博士前期課程2年)、川合航右研究院講師(現在:東北大学)、大久保將史教授らの研究グループは、MXene(Ti3C2Tx)を電極に用いた全固体リチウム電池を電子顕微鏡内で充放電しながらその場観察する独自の研究手法を開発しました。走査透過電子顕微鏡法(Scanning Transmission Electron Microscopy:STEM)と電子エネルギー損失分光法(Electron Energy-Loss Spectroscopy:EELS)を用いることで、リチウムの移動や酸素、チタンの電子状態の変化を同時に解析しました。これにより、「電池が実際に動いている状態」での反応を、動画として追跡することに成功しました。
研究成果
研究により、MXene電極で起こる反応の全体像が明らかになりました。主な発見は以下の通りです。
1. MXeneのナノシート層間にリチウムイオンが出入りする様子を直接観察(図1)
MXeneでは、充放電にともなって、ナノシートのすき間にリチウムイオンが可逆的に挿入・脱離する様子が観察されました。この反応にともない、材料中のチタンの電子状態が可逆的に変化することが確認され、MXene層間へのリチウムイオンの挿入・脱離が電池反応に寄与していることが分かりました。
2. 表面で起こる酸化物生成が不可逆容量※8の要因
MXene表面では、リチウムと酸素が反応して酸化リチウムが生成・分解する様子も観察されました。この反応は完全に可逆的ではなく、電池の不可逆容量の要因であることが示されました。
3. 固体電解質が電極表面で分解する様子を直接観察
MXene電極だけでなく、界面近傍の固体電解質も充放電中に還元分解していることが明らかになりました。この分解反応により、MXeneと固体電解質の境界部分にリチウム過剰な反応生成物が形成され、電池の不可逆容量の要因となっていることが分かりました。
4. ナノシート表面の末端基が電池性能を左右
MXeneのナノシート表面に存在する酸素などの末端基の種類によって、リチウムの動きや反応の進み方が変化することが明らかになりました。特に、酸素終端を多く持つMXeneでは、リチウムを貯蔵しやすくなる一方で、酸化リチウムの生成が進みやすいという利点と課題の両方が存在することが示されました。
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図1 充放電中のリチウムイオン分布のその場観察。(a)環状暗視野走査透過電子顕微鏡(ADF-STEM)像。(b)充放電中のリチウムイオン分布の変化。図中の白矢印は、固体電解質の還元分解によって形成されたリチウム過剰層。黄矢印は、MXene表面に形成された酸化リチウム層。
今後の展開
本研究で得られた「MXene内部と表面で同時に起こる複数の反応」の理解は、MXeneを用いた電池材料設計において重要な指針となります。今後は、構造と表面官能基を制御することで、容量と耐久性を両立したMXene電極の開発が期待されます。
論文情報
本成果は2026年1月19日にWiley社発行の国際学術誌「Small」に掲載されました。
タイトル:Real-Time Imaging of Intercalation–Conversion Li Storage in MXenes for Solid-State Batteries
著者:Yuki Nomura1,* Kosuke Kawai2, Masaki Fujita2, Kazuo Yamamoto1, Tsukasa Hirayama1, Masashi Okubo2,*
著者所属:1 Japan Fine Ceramics Center, 2 Waseda University, * 責任著者
掲載誌:Small
DOI:10.1002/smll.202513159
研究助成
本研究の一部は、日本学術振興会「科研費」(23H00241, 24H02204, 24K17757, 25K00078)、NEDO「次世代全固体蓄電池材料の評価・基盤技術開発(SOLiD-Next)」(JPNP23005)、文部科学省「データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト」(JPMXP1121467561)、(公財)風戸研究奨励会、(公財)岩谷直治記念財団の研究助成の支援を受けて実施されたものです。一部の実験データ取得には、ファインセラミックスセンターが実施した安全保障技術研究推進制度「AI的画像解析によるオペランド電子顕微鏡計測技術に関する研究」(PJ004596)によって導入された設備を使用しました。
用語解説
※1 全固体リチウム電池
液体の電解質ではなく、無機固体の電解質を用いるリチウム電池。電池全体が固体の材料で構成される。
※2 MXene(マキシン)
金属炭化物や窒化物からなる二次元材料。原子数層の薄さのナノシートが積層した構造であり、高い電気伝導性を示す。
※3 その場観察
測定対象が実動環境下でその機能を発現する過程をその場で観察する手法。
※4 走査透過電子顕微鏡法
細く絞った電子線で試料を走査し、散乱された電子を検出器で捉えることで、高い空間分解能で材料の構造を可視化する手法。
※5 電子エネルギー損失分光法
試料と相互作用してエネルギーを損失した電子を計測し、材料の組成・電子状態を解析する手法。透過電子顕微鏡を用いた分析手法の一つ。
※6 固体電解質
液体の代わりに固体中でイオンを伝導させる無機材料。
※7 末端基
MXeneのナノシートの表面に結合した酸素やフッ素、塩素などの官能基。
※8 不可逆容量
電池の初回充電などで一度失われ、その後の充放電では回復しない容量。電極や電解質の分解、副反応によってリチウムが消費されることで生じ、電池の実質的な容量低下の原因となる。
高性能高耐久性燃料電池を可能とする電解質膜を開発
2026年2月12日 09:28
高性能高耐久性燃料電池を可能とする電解質膜を開発
~フッ素を全く含まない高分子複合膜でPFAS規制にも対応~
発表のポイント
- スルホン酸基、フェニレン基、脂肪族基の組み合わせと組成を最適化したフッ素を全く含まない高分子電解質の開発に成功した。
- 高分子電解質と多孔性ポリエチレン基材を組み合わせて作製した複合電解質膜は、80~120℃の温度範囲で3~0.7S/cmという高プロトン導電率を達成した。
- 開発した複合電解質膜を用いた燃料電池は、120℃、30%相対湿度の条件において、市販のフッ素系電解質膜を凌駕する性能(>150mW/cm2)と耐久性(>100,000サイクル)を達成した。
- 電気自動車(特に、トラックなどのヘビーデューティービークル)や家庭用の燃料電池用電解質膜としての応用が期待できる。
山梨大学クリーンエネルギー研究センター/水素・燃料電池ナノ材料研究センター・早稲田大学理工学術院の宮武 健治(みやたけ けんじ)教授、信州大学社会実装研究クラスター 繊維科学研究所の金 翼水(きむ いくす)卓越教授、山梨大学クリーンエネルギー研究センターのLiu Fanghua(りゅう ふぁんふぁ)研究助教(元早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構次席研究員)の研究グループは、水素と酸素を用いて発電する固体高分子形燃料電池(PEFC)※1の性能と耐久性を大幅に向上させる新たなプロトン導電性電解質膜※2の開発に成功しました。この電解質膜は、親水部構造としてスルホン酸基を持つフェニレン基、疎水部構造としてベンゼン環が5つ連結したキンケフェニレン基と脂肪族基の3成分からなる高分子電解質と、補強材として多孔性のポリエチレン基材を組み合わせた複合膜で、高いプロトン導電率、大きな伸び率、優れたガスバリア性を併せ持ち、高温(120℃)での高性能な燃料電池発電と、過酷な加速劣化試験で100,000サイクル以上の耐久性を達成しました。
高分子電解質およびポリエチレン(PE)いずれにもフッ素が全く含まれないことから、人体や環境に対する悪影響が懸念されているPFAS※3にも該当することが無く、次世代の固体高分子形燃料電池用の電解質膜として大変有望な新材料です。低炭素社会の早期実現にも大きく貢献しうる技術として、早期実用化が期待されます。
本研究成果は、2026年2月3日にドイツ化学会が発行する学術雑誌『Advanced Materials』のオンライン版で公開されました。
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図1:本研究で開発したプロトン導電性高分子電解質(SP-PAC12-QP)の合成方法、およびそれと多孔性ポリエチレンを組み合わせた複合膜の写真。茶色透明で均一な薄膜構造が、高プロトン導電率と化学的・機械的安定性の両立を可能にする。
これまでの研究で分かっていたこと
プロトン導電性高分子を電解質膜として用いるPEFCは、常温から80℃程度の温度で発電することができるので使いやすく、電気自動車や家庭用の電源として商品化されています。これまでのPEFCはフッ素原子と炭素原子を主成分とするフッ素系高分子電解質と、延伸したポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)からなる多孔材基材を組み合わせた複合膜が用いられていますが、合成方法が限られており高価であること、ガスバリア性(気体の通しにくさ)が不十分であること、フッ素原子を多く含むことからPFASの一種として人体や環境への長期的な影響が懸念されること、が課題とされています。
これまでにフッ素原子を含まない高分子電解質膜が数多く開発されてきましたが、フッ素系高分子電解質膜に比べてプロトン導電率や化学的安定性が劣っており、PEFC用に適した材料は見つかっておりませんでした。
新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと
プロトン導電性を発現するための構造(スルホン酸基を持つフェニレン基)、化学的安定性を発現するための構造(5つのベンゼン環が連結したキンケフェニレン基)、機械的安定性を発現するための脂肪族基に着目し、これら3つの成分を組み合わせた高分子電解質を設計しました。各成分の組成比と脂肪族基の長さを変えた一連の高分子電解質を合成し、それらが電解質物性に及ぼす効果を明らかにしました。これにより得られた最適構造をもつ高分子電解質を多孔性のポリエチレン基材と複合させることにより、従来までの非フッ素系高分子電解質膜や市販のフッ素系高分子電解質膜と比べても優れた性能を達成することができました。
今回、新しく開発した手法
三成分からなる高分子電解質の物性は、その組成に加えて脂肪族基の長さによっても大きく変化することを見出しました。今回検討したなかでは、炭素数が12のドデシル基が疎水部の中で67mol%含まれる時(スルホフェニレン基:ドデシル基:キンケフェニレン基=15.5:2:1)に高分子量体(重量平均分子量が141,500)として得られ、エタノールなどの低級アルコールにも可溶でした。この高分子電解質を膜厚が7μm、空隙率が44%のPE基材と組み合わせたところ、高分子電解質が均一に含浸した複合膜(SP-PAC12-QP-PE7)を得ることができました。この複合膜は80~120℃の温度範囲において優れたプロトン導電特性を示し、フッ素系電解質膜と同等の性能でありました。また、80℃、60%RH条件下における破断伸びは300%を超えており、薄膜でありながら伸縮性にも富んでいます。複合電解質膜の両面に電極触媒層を塗布して燃料電池特性を測定したところ、フッ素系電解質複合膜に比べて水素透過率は1/4程度でありガスバリア性に優れていました。また、プロトン導電率と同じ温度範囲で優れた発電特性が得られること、開回路条件(電流を流さない条件)で乾燥と湿潤を繰り返す加速劣化試験では100,000サイクルを超えることを実証しました。この耐久性はフッ素系電解質複合膜の1.3倍であり、フッ素を全く含まない材料では異例の安定性を確認出来ました。
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図2:(a) SP-PAC-QP複合膜の気体透過率(フッ素系複合電解質膜との比較)と(b)加速劣化耐久試験。
研究の波及効果や社会的影響
市販されているGore SelectやNafionなどのフッ素系高分子電解質は優れた耐久性を持ちますが、その優れた物性はフッ素原子が共有結合で炭素原子に結合した高分子構造に由来します。フッ素原子を含まない高分子電解質は構造の自由度が高く合成方法も多様であるため、非常に多くの材料が提案されていますが、フッ素系高分子電解質にはかなわないと考えられてきました。
本研究で開発したプロトン導電性高分子電解質である構造と組成を最適化したSP-PAC12-QP-4.5 に、PE多孔基材を複合させた電解質膜は、従来の非フッ素系高分子電解質膜が抱えていた欠点を克服し、しかもガスバリア性などの利点も併せ持っています。実用的な運転条件や、今後、商用自動車などのヘビーデューティービークル(タクシー、トラック、バスなど)への応用を想定した高温運転や過酷な劣化試験条件での運転でも優れた発電特性と耐久性を示し、新材料の可能性を実証することができました。
今回の成果は基礎研究であるため小さなセル(電極面積が4.41cm2)でありますが、今後、より大きなセルでの性能確認に加えて、複数のセルを積層したスタックでの検証を関連企業との共同研究で実施する予定であり、実用化に向けた検討を加速して進めます。
今後の課題
本研究で開発したSP-PAC12-QP-4.5の合成には、重合促進剤として0価のニッケル錯体(ビスシクロオクタジエニルニッケル)を用いています。この錯体は重合反応に対する活性が高く、高分子量体の高分子電解質を合成するのに適しているのですが、量産化されておらず試薬ベースでも高価です(1gあたり数千円程度)。この錯体を用いずに重合を促進することによって、低コスト化を進める検討を行っています。これら課題に加えて、量合成や連続製膜などへもチャレンジしていきます。
研究者のコメント
フッ素を含まないプロトン導電性高分子電解質膜のブレークスルー技術として、学術的な意義はもちろん、実用的な観点からも大きな成果であると考えております。3種類の構造を含む三元共重合体は様々な組み合わせが可能であるため、今回とは異なる成分を用いることにより、より多機能な高分子電解質が創出できる可能性があります。PEFCに限らず水素製造のための水電解セルや二次電池、センサーなど、様々な固体電気化学デバイスへの展開に繋げていきたいと思います。
用語解説
※1 固体高分子形燃料電池(PEFC)
PEFCはPolymer Electrolyte Fuel Cellの略称であり、負極と正極で高分子電解質膜を挟み、負極に水素、正極に酸素を供給して電気を発生させる電池。1つのセルでセル電圧(開回路電圧)は1.0V程度であり、実用的には積層(スタック)させて高電圧を得る。
※2 プロトン導電性高分子電解質膜
酸性基を含む高分子から構成され、水素イオン(プロトン)が選択的に透過する薄膜。燃料電池や電解セル、センサーなどの電気化学デバイス用の固体電解質として用いられている。PEFC用の電解質膜は、負極で発生したプロトンを正極に運ぶ役割を担っており、プロトン導電率、ガスバリア性、機械強度、耐久性などの物性が必要とされる。
※3 PFAS
Per- and polyfluoroalkyl substancesの略称であり、アルキル基に複数のフッ素原子が結合した有機フッ素化合物の総称である。人体や環境への長期的な影響が懸念されるため、製造、使用、販売への規制が世界中で検討されている。
論文情報
雑誌名:Advanced Materials
論文名:Universal Fluorine-free Proton Exchange Polymers for High-performance and Durable Fuel Cells Operable under Severe Conditions
執筆者名:Fanghua Liu1、Kenji Miyatake (宮武 健治)1,2、Ick Soo Kim3、Ahmed Mohamed Ahmed Mahmoud1、Vikrant Yadav1、Fang Xian1
1:山梨大学クリーンエネルギー研究センター/水素・燃料電池ナノ材料研究センター
2:早稲田大学理工学術院
3:信州大学社会実装研究クラスター 繊維科学研究所
掲載日時:2026年2月3日
掲載URL:https://doi.org/10.1002/adma.202520137
DOI:10.1002/adma.202520137
研究助成
研究費名:文部科学省 科学研究費補助金
研究課題番号:23H02058
研究課題名:全固体空気二次電池の創製:原理実証と有機負極活物質の検討
研究分担者名(所属機関名):宮武 健治(山梨大学)
研究費名:文部科学省 データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト
研究課題番号:JPMXP1122712807
研究課題名:再生可能エネルギー最大導入に向けた電気化学材料研究拠点(DX-GEM)
研究分担者名(所属機関名):宮武 健治(山梨大学)
医理工連携交流の成果の社会実装にむけて(第5回日本医科大学・早稲田大学合同シンポジウム開催報告)
2026年2月4日 09:05
2026年1月24日(土)、第5回「日本医科大学・早稲田大学合同シンポジウム~両校の実質的連携を目指した研究交流~」を日本医科大学済生学舎1号館講堂において開催しました。
日本医科大学と早稲田大学との連携は、2009年に締結した包括協定から始まり、実質的な研究連携への合意(2020年)を経て、本学附属校・系属校との高大接続連携に関する協定(2020年)へと発展してきました。2021年度からは、日本医科大学で選抜された3年生を、本学の理工研究室に迎え入れて交流を図る研究配属も実施しており、今年度は3研究室で7名を8週間受け入れました。
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シンポジウム冒頭の開会挨拶で、日本医科大学学長の弦間昭彦氏は、本学との連携が、学生・研究者間で着実に進展していることを述べられました。また、日本医科大学には本学の附属校・系属校出身の学生も多数在籍しており、より若い世代の連携基盤が拡大してきているとの実感も得られている中で、今後は、大学院レベルでの関係を深化していきたいとの意欲が表明されました。続く、本学総長の田中愛治の挨拶では、2018年に総長に就任して以来の両校連携の歩みを振り返った上で、さらなる今後の展開についての期待が述べられました。その中で、本学の大学院生が日本医科大学で学ぶ機会の提供の提案、医療経済学や病院経営学といった分野での協力の可能性などについて触れ、医理工連携を通して世界人類に貢献する人材を育成する必要性について語りました。
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左:日本医科大学学長の弦間昭彦氏、右:本学総長の田中愛治
開会挨拶に続く第一部の研究紹介では、日本医科大学2名、本学2名の研究者が研究紹介を行いました。両校の共同研究の成果や、今後本格的に進める予定の共同研究、シーズ成果などについての発表がなされた後、会場の参加者も含めた活発な質疑応答が展開されました。
- 関根 鉄朗(日本医科大学臨床放射線医学 准教授)
「Real world dataにおける脳容量解析-日常診療で用いられるCTおよび2D-MRI画像からの簡便な定量解析手法の開発-」 - 大河内 博(早稲田大学理工学術院 教授)
「マイクロプラスチック大気汚染の実態:健康と気候への新たなリスク」 - 村井 保夫(日本医科大学脳神経外科学分野 大学院教授)
「本邦における生体内マイクロプラスチック研究の現状と意義」 - 芹田 和則(早稲田大学理工学術院 准教授)
「テラヘルツ点光源を用いた医用イメージング技術とその応用展開」
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研究紹介の様子(左から、関根准教授、大河内教授、村井大学院教授、芹田准教授)
第二部では、日本医科大学の学生が早稲田大学における研究配属の成果発表を行い、優秀研究賞1件が選ばれました。
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成果発表・質疑応答の様子
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左から、本学総長の田中愛治、優秀研究賞を受賞した日本医科大学生、日本医科大学学長の弦間昭彦氏
閉会挨拶では、まず本学副総長の須賀晃一から、今後一層開発が進むであろうVRやAIを用いた医療現場、あるいは医療教育の場において、日本医科大学と早稲田大学とが連携した真価が発揮できるのではないかとの期待が述べられました。また、研究配属の成果発表を行った日本医科大学の学生に向けて、自身の専門以外の研究に広く触れることは将来の成長の糧になるため、今回の経験を忘れずにさらに研鑽を積んでほしいとのエールを送りました。続く、日本医科大学大学院医学研究科長の清家正博氏からは、両校の連携研究の実績が出始めているという実感と、今後は成果の社会実装に向けてより一層の連携を進めていきたいとの意欲が語られました。
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左:本学副総長の須賀晃一、右:日本医科大学大学院医学研究科長の清家正博氏
今後も、日本医科大学と本学は、研究と教育との両輪で連携を推進し、社会に貢献してまいります。
国内初となる一般水力発電の調整力強化に向けた技術開発に関するNEDO公募事業の採択および技術開発着手について
2026年2月2日 10:26
国内初となる一般水力発電の調整力強化に向けた技術開発に関する
NEDO公募事業の採択および技術開発着手について
~再生可能エネルギーの拡大に伴う火力発電などにおける燃料費・CO₂排出量の大幅な低減を目指す~
一般財団法人電力中央研究所(本社:東京都千代田区、理事長:平岩芳朗)、東芝エネルギーシステムズ株式会社(本社:神奈川県川崎市、代表取締役社長:島田太郎)、学校法人早稲田大学(東京都新宿区、理事長:田中愛治)、国立大学法人信州大学(長野県松本市、学長:中村宗一郎)は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、「NEDO」)が公募した、国内初となる一般水力発電の調整力強化に向けた「電源の統合コスト低減に向けた電力システムの柔軟性確保・最適化のための技術開発事業(日本版コネクト&マネージ2.0)※1/研究開発項目3-2 水力発電の柔軟性向上のための技術開発」(以下、「本事業」)に応募し、採択されたため、このほど技術開発に着手しました。本事業は2028年度末まで行います。
太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギー(以下、「再エネ」)の導入拡大に伴い、電力の需給バランスを維持するための「調整力」として重要な役割を担ってきた火力発電の割合は、相対的に低くなっています。こうした状況において、火力発電と同じく同期発電機※2である水力発電にはよりいっそうの期待が寄せられています。電力の需要と供給のバランスを維持するために、火力発電の出力や環境価値の高い再エネの出力を増減させるなどの調整力が必要となりますが、一般水力発電※3が新たに調整力を発揮することにより、燃料費や再エネの出力制御量、CO2排出量といった社会コストの大幅な低減が見込まれます。
電力中央研究所では、2024年6月から2025年5月にかけて、NEDOの「電源の統合コスト低減に向けた電力システムの柔軟性確保・最適化のための技術開発事業(日本版コネクト&マネージ2.0)/研究開発項目3 バイオマス発電・水力発電・地熱発電の柔軟性向上のための技術検討」を受託し、水力発電の柔軟性向上に関する調査を実施しました。この調査の結果、一般水力発電で新たな調整力を強化するには、溢水(いっすい)※4と発電に用いられない無効放流量の増加に伴う発電量減少に起因する収益減と、振動などの水車各部への負担増加による劣化の問題を、技術開発により解決する必要があることを明らかにしました。
本事業では、これまでの調査結果を踏まえて、水力発電の柔軟性を向上させるための課題を整理し、中小型水車の標準設計に向けた設計・解析支援技術や、大型水車の極低負荷運転時の水車評価手法と最適運用・制御システムの開発などの下記事項に取り組みます。
※ 早稲田大学の研究代表者は理工学術院・宮川和芳教授です。
各機関の役割
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開発の概要
(1)水車の導入および運用に関わる解決すべき課題の整理
中小型水車は、電力系統に接続される水車の台数と発電出力を柔軟に調節し、調整力の強化に寄与することが求められます。そのため、従来に比べて起動停止や出力調整の頻度が増加し、過渡応答※6による機器損傷や溢水リスクの上昇などが懸念されます。一方、大規模の水力発電所に適用される大型水車では、電力システムの柔軟性向上への対応のため、極低負荷を含む幅広い条件での運転が求められるようになります。設計流量から離れた低負荷領域などの非設計流量で運転する場合、キャビテーション※7や旋回流※8などの不安定現象が発生する場合があり、このような条件で頻繁に運転することでランナ※9の壊食や流体振動などによる損傷リスクを増加させます。
これらの現象は様々な物理現象が相互に関与しているため、キャビテーションや旋回流のメカニズムや特性を詳細に調査し、体系化します。そして無負荷から最大出力までの全範囲において、安全な運転が確保できない範囲や条件を新たな知見を用いて精緻に見極め、これらを最小化するとともに回避する運用を行うことで水力発電の柔軟性向上に貢献します。
(2)中小型水車の標準設計に向けた設計・解析支援技術の開発
水車は落差や流量などの地点特性に応じた発電所固有の設計が必要となります。
また、中小型水車の設計においては、1次元解析による基本設計から3次元解析まで用いられますが、技術的・費用的なハードルが高く、これらの課題が新規導入に向けたチェインのボトルネックとなっています。
また今後は柔軟性の高い水車が求められることから、技術的なハードルはさらに高くなります。
そこで本事業では、中小型の水車開発の技術支援として、水車設計の標準化、設計開発に必要なツールの開発、模型試験プラットフォームの構築を行います。
水車設計の標準化では、フランシス・軸流・クロスフロー水車を対象とし、水車形状について、発電の柔軟性を高められるよう、無負荷から最大出力までの幅広い運転範囲において高効率で、かつキャビテーションや不安定現象への対策を講じた上で、水車比速度※10を基準に最適設計します。
設計開発ツールは、本事業を通して開発した、設計・解析のための技術およびソフトウェアを整備します。
模型試験プラットフォームは、標準設計水車の性能を実証するための試験設備として開発し、将来にわたり我が国の水車開発の基盤設備となるよう整備します。
これらの標準設計された水車形状や性能データ、設計開発解析ツールなどの成果物は国内の水車メーカーや発電事業者向けに公開します。これにより水車設計の難易度やコストを大幅に低減させ、中小型水車のチェイン改善に貢献します。
(3)大型水車の極低負荷運転の拡大に向けた評価手法と最適運用・制御システムの開発
大型水車において、水車の稼働状況が不安定になり、機器の損耗も激しくなることから、従来ある一定以下の極低負荷での運転は行っていませんでした。本開発では、より柔軟性を高めるため、大型水車で一般的なフランシス水車を対象とし、極低負荷での運転時の事象を分析する高度な流体解析シミュレーションや模型試験を行います。さらに、実際の水力発電所における水車の運転状態を計測し、キャビテーションや旋回流などの不安定現象を明らかにします。これらの結果と(1)で体系化する評価指標を用いて、安全で安定的に運転できる出力領域を判断する簡易評価手法を開発します。この上で、この評価手法を活用し、キャビテーションや旋回流により不安定となる出力領域を縮小する水車を開発します。
また、今後太陽光発電や風力発電などの増加により高速・高頻度な出力調整が求められ、機器の損耗が進行することが想定されます。そのため、デジタル技術を活用し、水流が不安定となる出力領域での運転状態を把握・監視した上で、損耗が激しくなる領域を特定します。その上で、蓄電池の充放電による補助的な出力調整と組み合わせ、特に摩耗が激しくなる領域での運転を回避することで極低負荷領域での運転を可能とする運用・制御技術(SPPS)を開発します。さらに、この運用・制御システムを用いた水力発電所における実証試験を行い、柔軟性向上に関わる検証を行います。
(4)中小型水車と大型水車に共通する課題の解決
中小型水車は主に起動停止による台数制御での柔軟性向上を目指しますが、水系全体の運用や電力系統の中での発電所の立地を考えると、起動停止による台数制御だけでは出力調整が困難になる場合も想定されるため、大型水車と同様に、極低負荷運転を可能とする対応が必要である場合も考えられます。
一方、大型水車においても、電力系統からの要求で高頻度の起動停止や高速な負荷調整などの柔軟な出力制御を行うためには、水路や管路などの特性を考慮して過渡応答に対応しなければならない場合もあります。
このように、中小型水車・大型水車それぞれで実施する取り組みが,他方にも効果を及ぼすことが考えられるため、受託機関は協力して中小型、大型水車双方に有効な技術体系を構築し、解決に取り組みます。
※1「2025年度「電源の統合コスト低減に向けた電力システムの柔軟性確保・最適化のための技術開発事業(日本版コネクト&マネージ2.0)/研究開発項目3-2 水力発電の柔軟性向上のための技術開発」に係る公募について」
https://www.nedo.go.jp/koubo/FF2_100440.html
※2 火力発電機などの発電機は、電気を発生させるために回転子を回転させて発電する。この回転速度が電力系統の周波数と同期している発電機のこと。こうした発電機は、自らの回転子を一定回転に維持しようとする力を持ち、電気的な瞬時の変化に耐えることができ、電力系統の周波数や電圧安定性の維持などの役割を担っている。
※3 水力発電は、河川の流れやダムを利用して水のエネルギーを水車により機械エネルギーに変換し、さらに発電機により電気エネルギーに変化する発電システムである。その水のエネルギーを得る方式は、運用上、「流れ込み式」、「調整池式・貯水池式」、「揚水式」に分けられる。このうち揚水式を除くものを一般水力発電と言う。
※4 水力発電所で発電に使いきれなかった水が水槽や調整池から流出する状態。放水口や下流河川の水位上昇をもたらす。
※5 フランシス水車:水の圧力と速度をランナ(羽根車)に作用させる構造の水車。広い範囲(10~300メートル程度)の落差で使用できる。
軸流水車:水が羽根車の中を常に回転軸に平行に流れるようにできている水車。落差が小さく流量が多い地点に適している。
クロスフロー水車:フランシス水車と同じで、水の圧力と速度を利用する。クロスフローとは水がランナを交差し流れることを意味している。
※6 入力が変化した際に、出力が新しい定常状態に落ち着くまでの一時的な動きや変動のこと。
※7 水圧が低下した部分では低温でも水が沸騰し発生する水蒸気の微小な気泡。圧力が増加してキャビテーションが消滅する際には局所的・非常に短い時間に高温高圧となり、金属表面を削る現象はキャビテーション壊食と呼ばれる。
※8 水車を通過した水がランナ下流の吸出し管内を回転しながら流れる状態。圧力脈動や振動・騒音、エネルギー損失の増加をもたらす。
※9 水車の中で水圧と速度を利用して回転する羽根車。
※10 単位有効落差で単位出力を発生させるために必要な1分間当たりの回転速度。
分子の「長さ」で光の性質を自在に制御
2026年1月30日 12:30
分子の「長さ」で光の性質を自在に制御
~世界最長クラスのキラル発光ヘリセン分子の系統的合成に成功~
発表のポイント
- キラルならせん状分⼦である「ヘリセン」を、分⼦の⻑さを揃えて系統的に合成する新⼿法を確⽴しました。
- 窒素原⼦を含むヘリセン(7〜15環)を2⼯程で合成し、それらの有機溶媒への良好な溶解性と⾼い熱安定性を明らかにしました。特に15環体は、これまでに光学分割されたヘリセンとして世界最⻑クラスに相当します。
- 分⼦が⼀定の⻑さを超えると、円偏光発光の増大の仕方が大きく変わる「臨界⻑」と呼ばれる転換点が存在することを発⾒しました。
- 次世代の円偏光発光(CPL)材料設計における新たな指針となり、⾼度な光情報処理技術を⽀える円偏光発光材料への展開が期待されます。
近年、キラルな光である円偏光(Circularly Polarized Light:CPL)は、⾼輝度液晶ディスプレイの光源や、次世代の光情報通信、量⼦・スピンエレクトロニクスなどへの応⽤が期待されており、円偏光発光材料として機能する有機分⼦の開発が強く求められています。なかでも、芳⾹環がらせん状に連結したヘリセン分⼦※1は、円偏光発光材料として注⽬されてきました。
しかし、ヘリセンの従来の合成法では市販試薬から多⼯程を必要とする場合が多く、合成の煩雑さや低収率が、⾼次ヘリセン研究の⼤きな障壁となっていました。また、ヘリセンは⽐較的⼤きな円偏光発光異⽅性因⼦※2(glum値)を⽰す⼀⽅で、蛍光量⼦収率(ΦF)※3が低いことが多く、発光材料としての実⽤化を妨げる要因でした。
阿南⼯業⾼等専⾨学校の⼤⾕卓(おおたにたかし)准教授、上⽥康平(うえだこうへい)准教授、早稲⽥⼤学理⼯学術院の呉 ⾬宸(ごうしん)助⼿、柴⽥⾼範(しばたたかのり)教授らの研究グループは、容易に⼊⼿可能な原料から2⼯程で分⼦の⻑さが異なる⼀連のらせん状低分⼦有機化合物であるヘリセンを系統的に合成する⼿法を開発しました(図1(a))。本研究では、7環から15環までのヘリセン分⼦の合成に成功し、分⼦の⻑さに応じて円偏光発光特性が⼤きく変化することを明らかにしました(図2)。すなわち、分子の長さが11環付近までは吸収・発光スペクトルが顕著に赤色移動し、円偏光発光の偏り(glum値)も急激に増大します。一方で、それ以上分子が長くなると、これらの変化の仕方が大きく変わることが分かりました。このことから、分子の長さに応じた光学特性の変化に「臨界長」と呼ばれる転換点が存在することを見いだしました。これは、分⼦が⼗分に⻑くなることで、分⼦内部の電⼦状態が三次元的に再編成されることを⽰しています。本成果は、分⼦の⻑さを設計変数として円偏光発光特性を制御できるという、新しい分⼦設計指針を提⽰するものです。
将来的には、⾼輝度液晶ディスプレイ⽤偏光光源、三次元ディスプレイ、光情報通信、セキュリティ材料など、⾼度な光情報処理技術を⽀える機能性有機材料への展開が期待されます。
本成果は、Wiley-VCH 社が発⾏する国際的化学学術誌Angewandte Chemie International Editionに掲載され、特に重要性と独創性の⾼い論⽂として“Hot Paper”に選出されました。
これまでの研究で分かっていたこと
キラルな光である円偏光(Circularly Polarized Light:CPL)は、⾼輝度液晶ディスプレイの光源や、次世代の光情報通信、量⼦・スピン光学技術などへの応⽤が期待されており、円偏光発光材料の開発が強く求められています。なかでも、芳⾹環がらせん状に連結したヘリセン分⼦は、不⻫※4中⼼を持たずに強いキラル光学応答を⽰すことから(図1(b))、円偏光発光材料として注⽬されてきました。
しかし、ヘリセンは環数が増えるにつれて合成が急激に困難になることが知られており、特に10環式以上の⾼次ヘリセンでは、合成⼯程数の増加、低収率、溶解性の低下などが⼤きな課題でした。そのため、これまで報告されてきた⾼次ヘリセンの多くは、個別に設計された合成法によるものであり、分⼦の⻑さだけを系統的に変えた⽐較研究はほとんど⾏われていませんでした。
また、ヘリセンは⽐較的⼤きな円偏光発光異⽅性因⼦(g値)を⽰す⼀⽅で、蛍光量⼦収率が低いことが多く、発光材料としての性能には限界があるという課題もありました。特に⾼次ヘリセンでは、分⼦サイズが大きくなるとともに⾮放射失活の増⼤し、発光効率が低下する傾向が指摘されていました。
新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと
本研究グループは、10環式以上の⾼次ヘリセンを効率よく合成でき、かつ分⼦⻑と光学特性の関係を体系的に検証できる合成基盤の確⽴を⽬指しました。そのために、含窒素芳⾹環を組み込んだ新しいヘリセン⾻格に着⽬し、簡潔で拡張性の⾼い合成戦略の開発に取り組みました。
本研究では、容易に⼊⼿可能な原料を基盤として、共通の前駆体からわずか2⼯程でヘリセン⾻格を構築する合成戦略を採⽤しました。この⼿法により、7環から15環まで、分⼦の⻑さのみが異なる⼀連のテトラアザヘリセンを系統的に合成しました。得られた化合物について、紫外可視吸収、蛍光、円⼆⾊性(CD)、円偏光発光(CPL)測定を⾏うとともに、理論計算(TD-DFT)による解析を組み合わせ、分⼦⻑と光学・キラル光学特性の相関を詳細に検討しました。さらに、1H-NMRスペクトル解析により、分⼦内部の構造変化についても検証しました。
その結果、7環から15環までのテトラアザヘリセンが、有機溶媒に対する良好な溶解性と⾼い熱安定性を有していることが明らかになりました。特に15環体は、これまでに光学分割されたヘリセンとして世界最⻑クラスに相当します。
光学特性の解析から、分⼦の⻑さが11環付近を境に、吸収・発光スペクトルはほぼ変化がなくなる⼀⽅で、円偏光発光特性が急激に増大する「臨界⻑」が存在することを⾒いだしました。最⻑の15環体では、⾼い蛍光量⼦収率と⼤きな円偏光発光異⽅性因⼦が同時に実現され、円偏光発光性能(CPL brightness)は既存のヘリセン系化合物を⼤きく上回る値を達成しました。
さらに理論計算の結果から、この特性向上は、分子が十分に長くなるにつれて、電子遷移に関与する遷移双極子モーメント(μe)と磁気遷移双極子モーメント(μm)の相対的な配向関係が次第に整い、円偏光発光に有利な条件へと最適化されていくことに起因することが分かりました(図3)。

- 図3.理論計算により得られた分子長に伴う遷移双極子モーメントの配向変化 分子が長くなるにつれて、電気遷移双極子モーメント(μₑ)と磁気遷移双極子モーメント(μₘ)の相対配向が整い、円偏光発光に有利な条件が形成されることを示している。
研究の波及効果や社会的影響
本研究は、分子の「長さ」という非常に単純な要素が、光に対する挙動を大きく左右することを明確に示しました。これにより、これまで経験や試行錯誤に頼ることの多かった光機能性分子の設計が、確度の高い予見性をもって進められる研究へと変わる可能性を示しています。
さらに、本研究で用いた合成戦略は、容易に入手可能な原料を基盤としている点に特徴があります。このことは、特殊な試薬や複雑な前処理を必要とせずに同様の分子群を構築できることを意味しており、研究の再現性や拡張性を高めるとともに、他の研究分野への展開も容易にします。その結果、本成果は有機合成という基礎研究にとどまらず、幅広い研究者が利用可能な基盤技術としての波及効果を持つと考えられます。
このような知見と合成基盤は、光の性質を精密に制御する必要のあるディスプレイや光通信などの分野において、材料開発の効率化や高性能化につながる成果と位置づけられます。また、「構造を少し変えるだけで性質が大きく変わる」という考え方は、化学分野にとどまらず、ものづくり全般に共通する設計思想としても意義を持ちます。したがって本研究が示したアプローチは、将来的に新しい光技術や情報処理技術を支える材料開発の考え方に影響を与える可能性があり、基礎研究が社会へとつながることが期待されます。
課題、今後の展望
本研究で確⽴した合成⼿法は、さらに環数の多い⾼次ヘリセンや、他のヘテロ原⼦を含むらせん状分⼦にも適⽤可能です。今後、分⼦設計の⾃由度をさらに拡張することで、円偏光発光特性に優れた新規有機材料の創製が期待されます。将来的には、⾼輝度液晶ディスプレイ⽤偏光光源、三次元ディスプレイ、光情報通信、セキュリティ材料など、⾼度な光情報処理技術を⽀える機能性有機材料への応⽤が⾒込まれます。
研究者のコメント
本研究チームでは、10環を超える高次ヘリセンが合成上の大きな壁となってきたことを踏まえ、まずは確実に合成できる基盤を築くことから研究をスタートしました。今回、その合成基盤を確立したことで、分子の長さと光学特性の関係を体系的に調べることが可能となり、新たな知見を得ることができました。本成果は、今後の分子設計や材料開発につながる第一歩であり、広い視野を持って研究を発展させていきたいと考えています。
用語解説
※1 ヘリセン分子
複数の芳香環(ベンゼン環など)が、らせん状に連結した構造をもつ有機分子の総称。分子自体がねじれた形をしているため、鏡像関係にある2種類(右巻き・左巻き)が存在し、不斉(キラリティ)を示す。キラル光学特性、特に円偏光発光材料として注目されている。
※2 円偏光発光異方性因子(g値)
分子が発する光のうち、右回りと左回りの円偏光成分の偏りの大きさを表す指標。値が大きいほど、円偏光としての「偏り」が大きいことを意味する。円偏光発光材料の性能を評価する際に広く用いられる数値である。
※3 蛍光量子収率
分子が光を吸収した後、どれだけ効率よく光として放出するかを示す指標。吸収された光の数に対する、放出された蛍光の割合で表され、値が1に近いほど「よく光る」ことを意味する。
※4 不斉
物体や分子が鏡に映した像と重ね合わせることができない性質のこと。右手と左手の関係が代表例であり、この性質を持つものを「キラル」と呼ぶ。不斉な分子は、光や生体分子との相互作用において特有の性質を示す。
キーワード
ヘリセン分子、円偏光発光(CPL)、キラル分子、分子設計、光機能性材料
論文情報
雑誌名:Angewandte Chemie International Edition
論文名:Tetraaza[7]–[15]helicenes Synthesized by Two-Step Strategy: Length-Controlled Chiral π-Systems Exhibiting Amplified Circularly Polarized Luminescence
執筆者名:Takashi Otani1,Yuchen Wu2, Kohei Ueda1, Yuki Ikeda1, Yuna Tada1, Natsuna Kinoshita1, and Takanori Shibata2*
1:阿南⼯業⾼等専⾨学校
2:早稲田大学理工学術院
掲載日時:2026年1月9日
掲載URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41509001/
DOI:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41509001/
*:責任著者
研究助成
研究費名:科学研究費 基盤研究(C) 課題番号:22K05087
研究課題名:強い円偏光を発する⾼次ヘリセンの短⼯程合成法の開発
研究代表者名(所属機関名):⼤⾕ 卓(阿南⼯業⾼等専⾨学校)
研究費名:早稲田大学特定課題研究
研究課題名::”Synthesis of High-order Polyazahelicenes via Hypervalent Iodine Reagents-Intermediated Consecutive N–H/C–H Coupling”
研究代表者名(所属機関名):呉 ⾬宸(早稲田大学)