ノーマルビュー

大学院進学の決め手は? 院生3人に聞く院生活と学び

著者: contributor
2026年5月11日 13:38

左から、亀井さん、陳さん、並木さん

「大学院って、実際どんなことをするんだろう?」。授業や研究、日々の過ごし方まで、大学院のことは意外と知られていないかもしれません。「興味はあるけれど、自分が進学するイメージまでは描けていない」、そんな学部生も多いのではないでしょうか。今回は、分野も背景も異なる3人の大学院生にインタビュー。大学院に進学しようと思った理由や、院生として過ごす日常、研究との向き合い方など、普段は見えにくい“院生活の中身”を聞きました。加えて、大学院についてよくある疑問をまとめたQ&Aも掲載。大学院進学を検討する際に、ぜひ役立ててください!

▼大学院創造理工学研究科:並木 海大(創造理工学部出身)
主体的な学びによる「成長」と「楽しさ」を両立

▼大学院法学研究科:亀井 雄太(法学部出身)
修士号と大学院生活で培ったスキルは、実社会での武器

▼大学院社会科学研究科:陳 雨児(社会科学部出身)
生活そのものが研究につながり、学びを日常で実践できる環境

◎大学院に関するよくある質問

主体的な学びによる「成長」と「楽しさ」を両立

大学院創造理工学研究科経営システム工学専攻 修士課程 2年 並木 海大(なみき・みはる)

早稲田キャンパス 3号館にて

――いつ頃から、大学院進学を意識するようになりましたか?

学部に入学した頃は、就職するか大学院に進学するか決めていませんでしたが、学部3年生の頃、蓮池隆教授の研究室に入ったことをきっかけに、一気に大学院進学への意識が高まりました。身近な先輩たちが国際学会で発表する姿や、それを後押しする研究室の環境を目の当たりにし、「自分も憧れの先輩方のように、世界の舞台で発表したい」と思うようになったんです。また、専門家による査読(※1)を通過し、学術的価値が認められた論文を発表したいという気持ちも芽生え、より多くの経験を積める大学院への進学を志しました。

※1 学術論文や研究成果の内容を、その分野の専門家が第三者として評価する仕組み

2025年12月、オーストラリアのメルボルンで開催された国際学会で発表した様子

――大学院入学試験に向けて、どのような対策をしましたか?

学部時代からコツコツと勉強を続け、面接試験が中心の学内推薦入試に出願しました。面接に向けては、「大学院で何をしたいのか」「何に興味があるのか」を明確に伝えられるよう意識し、研究室の先生に相談しながら自分の考えを整理しましたね。

そもそも大学院は、研究室ごとに雰囲気や研究方針が大きく異なるため、どこで誰から学ぶかが重要です。そのため学部3年生の時、実際に研究室を訪問し、自分に合った環境かどうかをしっかり見極めながら決めました。

――今、取り組んでいる研究テーマを教えてください。

研究で普段使用している参考書

トラックや船のコンテナに対して、最適な荷物配置を算出するアルゴリズムを研究しています。積載効率を高めることで、「CO2排出の削減」や「物流の2024年問題」(※2)といった社会課題の解決につなげることが目的です。

もともと幼少期から海が好きで、大型船で荷物を運ぶ光景にロマンを感じていたんです。そうした興味に加え、高校や学部で培ったプログラミングや数理最適化のスキルを生かせる分野として、このテーマにたどり着きました。

※2 トラックドライバーの時間外労働に上限規制が適用されたことで、人手不足が深刻化し、輸送力の低下や配送遅延・物流コスト上昇が懸念されている問題

――学部生の頃と比べて、学び方はどう変わりましたか?

最も大きな変化は、自分の意思で能動的に学ぶようになったことです。学部時代は決められた授業をこなす受け身の学習が中心でしたが、大学院では興味のある授業を自ら選び、ゼミを主催・参加するなど、自ら主体的に時間割を組む生活へと変わりました。その結果、スケジュールを柔軟に調整でき、サークルやアルバイトも無理なく両立できています。また、学びの全てが自分の研究や関心につながるので、「もっと知りたい」と自然に思えるようになり、勉学・研究に対する負担感は大きく減りましたね。

静岡県伊東市の大室山にて。研究室の同期と伊豆川奈セミナーハウスに行き、研究だけではなく地元の鮮魚や自然を満喫したそう(右端が並木さん)

――修了後の将来の選択肢は、どのように考えていますか?

物流にも注力する総合デベロッパーに就職し、まちづくりの分野に進む予定です。所属する創造理工学研究科のモットーにもあるように、技術は社会実装してこそ真価を発揮します。これまで学んできた数理最適化や機械学習などの工学領域を、実際のまちや人々の暮らしに落とし込み、数十年、さらには100年先の社会において「この技術があったから生活が豊かになった」と実感してもらえるようなまちづくりに関わりたいと考えています。

 ――学部生にメッセージをお願いします。

「就職か、大学院進学か」で迷う気持ちはよく分かります。ただ、実際に進学してみて感じたのは、学部生の頃以上に日々充実しているということです。自分の裁量で時間を使えるからこそ、サークルや遊び、アルバイトも含めて、毎日を高い密度で過ごせますし、主体的に学ぶ2年間を通じて大きな成長も実感できます。楽しさと成長を両立できることこそが、大学院の大きな魅力だと感じています。

大学院創造理工学研究科
Webサイト:https://souzou.w.waseda.jp/

◆基幹理工学部・創造理工学部・先進理工学部の大学院進学について

基幹理工学部・創造理工学部・先進理工学部の約7割の学生が、大学院に進学しています。

◆大学院創造理工学研究科について

大学院創造理工学研究科は、建築学、総合機械工学、経営システム工学、経営デザイン、建設工学、地球・環境資源理工学の専攻に分かれています。専攻によって進路もそれぞれに特色があり、経営システム工学専攻・経営デザイン専攻修士課程修了者は、専門サービス業や電気機械器具製造業、情報サービス業などに進む学生が多いことが特徴です。詳しい学科・専攻別の進路は、こちらから確認してください。

▲トップに戻る

修士号と大学院生活で培ったスキルは、実社会での武器

大学院法学研究科 修士課程 2年 亀井 雄太(かめい・ゆうた)

早稲田キャンパス 2号館前にて

――いつ頃から大学院進学を意識しましたか? 

学部3年生になった頃です。ゼミの先生から「将来、世界で活躍したいなら修士号は大きな強みになる」と助言を受け、国際的なキャリアを意識して進学を考えるようになりました。ちょうど就職活動が始まる時期でもあり迷いはありましたが、社会に出るタイミングは2年遅れてもその分得られる価値は大きいと考え、進学を決意したんです。

――大学院入学試験に向けて、どのような対策をしましたか?

研究計画書の提出だけではなく、筆記試験や面接もある一般入試で出願したので、それぞれ対策を行いました。研究計画書の作成にあたっては、研究対象を国際法からロシア法へと変えたので、求められる知識の違いを意識しました。指導を希望する先生と面談し、「ロシア法の研究では何をするのか」などを聞きながら問題意識を整理し、その研究が「どう社会につながるか」という視点を意識して研究計画書に盛り込んでいます。

筆記試験では、特にロシア語の語学力が重要だと助言を受け、語学科目を最優先に1日6時間以上の学習時間を確保しました。ロシア語の文献読解や、ロシア連邦憲法の和訳を自作するなどして、語学力を鍛えたんです。また、面接に向けては、研究計画書の内容を基に、その問題意識に至った背景や、具体的な研究手法を自分の言葉で論理的に説明できるよう整理しました。

早稲田キャンパス 2号館にある院生専用の専修室での勉強風景。専修室では、違う研究をする院生と交流でき、例えば「ロシア法って何?」と聞かれるなど知的交流やちょっとした雑談もできるのが良いところだそう

――今、取り組んでいる研究テーマを教えてください。

渋谷先生からいただいた学術雑誌。クラシックという共通の趣味から、ロシア・ウクライナの作曲家やピアニストの話でよく盛り上がるそう

渋谷謙次郎教授の研究室に所属し、基礎法学の視点から、「ロシア法」を研究しています。学部生の頃は外交官を目指し国際法を学んでいましたが、学びを深める中で、「将来、自分が活躍する道はここではないかもしれない」と感じるようになりました。そこで、すでに学んでいたロシア語と、もともと興味のあったロシア文化、そして、法律に対する考え方が西洋諸国と大きく異なることにも面白さを感じ、ロシア法を専門に選んだんです。

――大学院の魅力はどんなところにあると感じますか?

異なる分野を極める人たちと語り合える場があることです。同じ法の領域の中でも、法哲学や法社会学、日本国憲法の専門家などと議論することで、自分一人では気付けなかった視点を得られます。例えば、日本の人権保障とロシアの制度を比較する問いを投げ掛けられ、研究を深めるヒントを得られたこともありました。

院生になり渋谷先生と初めて訪れた「森の風」(早稲田キャンパス 26号館15階)でランチをした際の一枚

――修了後の将来の選択肢は、どのように考えていますか?

研究能力や専門知識を生かせるシンクタンク業界を視野に入れています。大学院では文章を組み立てる時間が増え、大量の文献を読み込みながら、自分なりに解釈し論理的に再構築する力が求められます。こうして培った思考力や文章構成力、資料読解力を強みに、将来的には海外でも活躍できる人材を目指したいです。

――学部生にメッセージをお願いします。

自分で論理を組み立て、研究の道筋を描く大学院は、決して容易な環境ではありません。ただ、その分だけ大きく成長できる場でもあります。また、取得した修士号は、就職する際に一つの大きな武器になるはずです。というのも、2026年2月に約1か月間かけて留学生活を過ごしたアメリカで、修士号を取得した学生が、「専門的な知見や手法を学び、同時にそれらを現実の事象に当てはめ、理論立てて一つの資料にまとめるというスキルを得た」と話していました。そこで改めて大学院で学ぶことの意義を実感し、大学院で得た知見や手法に関するノウハウを実社会でも役立てるビジョンがより具体的に見えたんです。大変そうだというイメージにおじけづかずに、自己成長の機会として前向きに捉えて、興味があればぜひ一歩を踏み出してみてください。

大学院法学研究科
Webサイト:https://www.waseda.jp/folaw/glaw/

◆法学研究科修士課程修了後の進路

教育機関、官公庁、研究機関、民間企業など、多岐にわたる分野で活躍しています。また、修士課程修了後に博士後期課程へ進学し、研究をさらに深める学生も多いです。

主な就職先:総務省、文部科学省、地方公務員(茨城県職員、香川県職員など)、東京大学、(株)NTTドコモ、(株)朝日新聞社、三菱商事(株)、アクセンチュア(株)、裁判所事務官など

早稲田大学法学研究科パンフレットより。2018~2025年度の進路実績は、5月下旬ごろ公開予定。※クリックして拡大

▲トップに戻る

生活そのものが研究につながり、学びを日常で実践できる環境

大学院社会科学研究科 修士課程 2年 陳 雨児(チン・ユア)

早稲田キャンパス 14号館前にて

――いつ頃から大学院進学を意識しましたか? 

学部4年生の頃です。所属していたTAISI(社会科学部の英語学位プログラム)で多様な分野に触れる中、「社会問題には多角的な視点が必要だ」と実感しました。加えて、TAISIで実践的な学びは充実していた一方で、自分が関心を持つ環境問題について、より理論的かつ体系的に理解したいという思いが強まり、大学院進学を意識するようになったんです。

環境問題への関心は、幼少期の経験に根差しています。中国・北京の都市部で育ち、自然に触れる機会は多くありませんでしたが、園芸好きの祖父の影響で土に触れる中、「自然の寛容さ」を感じていました。成長するにつれて、大気汚染や気候変動を身近に実感し、「人間は自然の寛容さとどう向き合うべきか」を考えるようになり、環境政策や制度を深く学びたいと社会科学研究科への進学を決め、環境法を専門とする黒川哲志教授の指導を受けています。

――大学院に進むにあたって不安はありましたか?

言語の面での不安が一番大きかったです。学部の頃は全ての授業を英語で受けていたので、大学院では日本語で専門内容を理解・発信できるか不安を感じていました。でも実際に入学してみると、さまざまなバックグラウンドを持つ学生と助け合える環境で安心しました。授業ごとに使われる言語は違いますが、分からない言葉があっても、英語や日本語、中国語など、それぞれが得意な言語で教え合う環境があります。

ゼミで研究発表を行っている様子

――今、取り組んでいる研究テーマを教えてください。

食品ロスを減らしながら、社会の中で「食」を価値ある資源として循環させる仕組みを研究しています。特に、有機農業や都市におけるフードシステム、「ファーム・トゥ・テーブル(※3)」のような取り組みに注目し、それらが持続可能な食の在り方にどのように貢献できるのかを考えています。また、こうした実践が政策とどのように関わり合いながら、より循環型で持続可能な社会につながっていくのかという点にも関心を持っています。

※3 生産者と消費者が近い距離でつながり、環境に優しいサステナブルな食材を食卓に取り入れること

――大学院の魅力はどんなところにあると感じますか?

学びと日常が自然につながることです。学部時代は決められた時間割に沿って学ぶことが中心でしたが、大学院では自ら問いを立て、答えを探すことが求められます。そのため、授業外でも論文を読んだり考えを整理したりする時間が自然と増え、そうした日常の積み重ねがそのまま研究につながっていく感覚があります。

また、学んだことを生活の中で実践できることも魅力です。私の場合は、カリキュラム外でオーガニックファームに足を運び、土に触れながら食べ物が育つ過程を体感することで、研究テーマへの理解を深めていますね。

 

写真左:陳さんが通っている東京都板橋区にある都市農地「THE HASUNE FARM」で収穫した食材を使った料理
写真右:夏休み、北京に帰国した際に、有機農場で農作業ボランティアに参加したそう

――修了後の将来はどのように考えていますか?

人と人、人と自然との関係、そして社会全体の在り方が、よりやさしく心地良いものになることに関わりたいと考えています。子どもが安心して食事ができる環境や、自然の中でのびのびと過ごせる場など、日々の生活の中の当たり前を大切にできる社会づくりに貢献したいです。そのために現実の課題と向き合い、一人一人の暮らしに寄り添いながら改善していきたいと思っています。

――学部生にメッセージをお願いします。

進路の分岐点では、迷いや不安がつきものです。大学院進学を選んだ後も、「これで良かったのか?」と思うかもしれません。ただ、そうした心の揺れは自然なものですし、正解にこだわりすぎる必要はありません。今の自分の気持ちを信じて進路を選び、その先でまた考え直すこともできます。どの選択にもやり直しの余地があるので、過度に恐れず一歩踏み出してほしいと思います。

大学院社会科学研究科
Webサイト:https://www.waseda.jp/fsss/gsss/

◆大学院社会科学研究科の出身大学と進路先

大学院社会科学研究科の学びのキーワードは「学際」で、修士学生は50前後ある研究指導のいずれかに所属しています。学部を卒業したばかりの学生、実務経験の豊かな社会人、留学生など、多様なバックグラウンドを持つ学生が各国から集まり、社会的な課題に対しさまざまな視点から取り組んでいます。また、大学院社会科学研究科修士学生の出身大学は、約55%が外国の大学出身と国際色豊かな研究科です。修了後の進路は、小売業や出版業、情報サービス業などの民間企業から、国家・地方公務員など多様です。

▲トップに戻る

文:流石 香織
撮影:番正 しおり

大学院に関するよくある質問

Q. 大学院に進学した際の学費や奨学金が気になります。

A. 学費の情報は、入学センターWebサイトで一括して確認できます。

早稲田大学では、大学院生向けの多様な奨学金を用意しています。奨学課Webサイトでは、奨学金の一覧奨学金申込から採用までのスケジュールおよび奨学金制度の採用実績(受給状況など)についても掲載していますので、確認してみましょう。加えて、各研究科独自の奨学金制度も多く、入学前に申請できる奨学金制度を用意している場合もあります。さらに、全研究科の博士後期課程在学生を対象とした奨学金も充実しています。

Q. 修士課程を修了するのに2年かかるのが長く感じます。

A. 研究科によっては修士課程1年制を設けている場合があります。さらに、学部在籍中から先取り履修をすることで、2年分の学びを1年に凝縮して身に付ける「学部・修士5年一貫修了制度」を設けている研究科もあります。

Q. 就職状況が気になります。

A. 大学院生の就職活動では、学部生と比較して、さらに「課題解決力」を期待されるようになります。研究生活(自ら課題に対する研究計画を設定し、仮説を立て、検証・分析し、結果を論文にまとめたり、プレゼンしたりする)を通して「課題解決力」を身に付けることができれば、業種の選択の幅がぐっと広がります。

各研究科修了生の就職率・就職先はキャリアセンターWebサイト(2025年度の情報は5月下旬公開予定)や各研究科Webサイトで公開しています。

Q. 学部卒業後、一度就職してから大学院に入り直すことを検討しています。

A. 社会人経験を積んでから早稲田大学大学院で学び直す方も多く、中には社会人入試、AO入試などを実施している研究科もあります。また、働きながら学ぶ学生のために、夜間に授業を開講している研究科もあります。入学センターの専用Webサイトを活用し、自身のライフスタイルに合った研究科を探してみましょう。

大学院に関する詳細な情報は、各研究科のWebサイトなどで発信しています。また、入学センターWebサイトでは入試情報を始め、大学院の幅広い情報を提供しています。

▼他の研究科に在籍する大学院生について知りたい人は、下記関連記事のバックナンバーもチェックしてみましょう!

【次回Special Issue予告】5月18日(月)公開「タイムマネジメント術」

環境問題×教育に挑む! 科学的な視点を武器に学問と社会をつなぐ

著者: contributor
2026年4月28日 11:53

🤖 AI Summary

矢野創大さんが早稲田大学進学の際の理由は、自然に興味を持ちつつも、より幅広い学問を自由に学べる環境があることや多くのサークルが活発であることが主な要因でした。また、高校で地球科学の先生から影響を受けたことも大きかったようです。

矢野さんは大学入学後、早稲田大学環境ロドリゲスという公認サークルに加入し、環境イベントの開催など個人での活動にも力を入れています。具体的には小学校への出張授業や企業の社内勉強会での講師、市民向けイベントなどで環境教育を行っています。

矢野さんが環境問題に関心を持ったきっかけは、大学入学後、同じ学科の先輩たちが多く在籍していたこととサークル全体の雰囲気が自分に合っているように感じられたことからです。特に「教育」アプローチに魅力を感じています。なぜなら一人の人間の力では限界があると考える一方で、教育によって解決する人数を増やすことができるという点が強調されています。

矢野さんが大学で行っている研究はLCA(ライフサイクルアセスメント)です。これを利用することで環境負荷を定量的に数値化し、現状把握と目標設定を行うことができます。具体的な例としては、レジ袋1枚の環境負荷とコットン製トートバッグの比較を行っています。

矢野さんは学生という立場の強みとして、異なる社会的立場の方々との連携が容易であると捉えています。しかし一方で、「大学生なのにすごいね」という評価に困惑する部分もあることを明かしています。

矢野さんが今後特に力を入れたい活動はサイエンスコミュニケーションです。科学的な知見や課題を広く社会へ伝える仕事で、行政や市民、企業など様々な立場に対して横断的にその役割を果たすサイエンスコミュニケーターを目指しているということです。

矢野さんはさらに環境問題の研究が領域によっては閉鎖的であり、それぞれの立場の間に隔たりがあることを指摘しています。この中間地域で橋渡し的な存在となりたいと考えています。

「環境問題と人々との橋渡し的な存在になりたい」

創造理工学研究科 修士課程 1年 矢野 創大(やの・そうた)

西早稲田キャンパス55号館にて

早稲田大学環境ロドリゲス(公認サークル)での経験をきっかけに、環境イベントの開催など個人での活動にも力を入れる矢野創大さん。小学校への出張授業や、企業の社内勉強会での講師など、各世代に向けた環境教育活動を行っています。そんな矢野さんに、環境問題に関心を持ったきっかけや大学での研究内容、今後の展望などを聞きました。

――早稲田大学創造理工学部環境資源工学科に進学した理由を教えてください。

中学生の頃から、好きなことを自由に学べ、研究にも強い他、多くのサークルがあり活発なイメージのあった早稲田大学に進学したいと思っていました。その中でも環境資源工学科に進学したのは、高校の地球科学の先生の影響が大きいです。その先生はとても優しくて面白く、生徒とコミュニケーションを取りながら授業を行ってくれたので、小さい頃から好きだった自然により一層興味が湧きました。岩石や地層を見ると地球の歴史を学べるだけでなく、自分たちが何気なく生きている環境の原理が分かって、ワクワクしますよね。そんな地球科学の知見を学べるのが、まさにこの学科だと先生に薦めてもらったんです。

幼少期に、家族で牧場に遊びに行った時の一枚。自然への興味が湧くきっかけになったそう

――環境問題に関心を持ったきっかけは何でしたか?

入学後、環境ロドリゲスというサークルに加入したのがきっかけです。同じ学科の先輩たちが代々多く在籍していたこと、またサークル全体の雰囲気が自分に合っているように感じ、加入を決めました。サークルでは環境問題に対して、「里山」「海」「地域活性」「教育」「商品開発」「プラスチック」の六つの企画に分かれて多様なアプローチを取っているのですが、中でも「教育」に魅力を感じました。環境問題は解決しようと思っても一人の力ではどうしても限界がありますが、教育というアプローチを取れば、解決しようと思う人数そのものを増やすことができるので、一番効果的だと考えたからです。

加入当時はコロナ・パンデミックだったので、教育イベントのオンライン開催が中心でしたが、次第に対面での実施ができるようになり、福井県鯖江市で子ども向けの環境教育イベントを開催することもできました。子どもたちの感想を見るととてもうれしく、活動をして良かったと感じました。

 

写真左:環境ロドリゲスで受賞した「第11回 環境省グッドライフアワード」の授賞式。団体代表としてプレゼンテーションを行った
写真右:鯖江市で行ったイベントの様子

――矢野さん個人ではどんな活動をしていますか?

小学校への出張授業や、企業の社内勉強会での講師、市民に向けたイベントなど、各世代に向けて環境教育活動を行っています。

サークル活動の中で知り合った方に、活動の場を紹介してもらうことが多いのですが、対象者に合わせて自分で企画を考えています。例えば、小学校への出張授業では、マイクロプラスチックという細かいプラスチック粒子が身の回りに潜んでいて、食物連鎖の結果、それを私たちも摂取してしまう、専門用語で言う『生物濃縮』という現象を伝えました。

子どもには理解が難しい内容で、言葉ではなかなか伝わらないので、遊びながら学んでもらうことを意識しました。子どもたちを小魚役、中魚役、大魚役で振り分けて、小魚役が集めた餌を中魚役がじゃんけんで奪い、さらに大魚役がそれを奪った結果、誰に餌が集中するかを競うゲームを通して、その現象を体感してもらったんです。実はプラスチックでも同じことが起こっている可能性がある、と伝えた時の子どもたちの驚いた顔は、とても印象的でしたね。先生たちからの反響も良く、手ごたえを感じました。

企業の社内勉強会では、環境教育から始まり、情報リテラシー教育も担当しました。「マイクロプラスチックは危険だから、今すぐプラスチック製品の使用をやめるべきだ」というような主張を耳にすることがありますが、実際はもっと多元的でさまざまな意見があると思います。また、科学的な視点を持って捉えると、その実現可能性や必要性、気候変動をはじめとする他の環境影響とのバランスが見えてきます。そこで環境問題を必要以上に怖がるのではなく、科学的に正しい情報を入手した上で判断すべきだということを訴えました。

 

写真左:2025年7月、東京都東村山市役所にて開催されたイベントで、講師兼ファシリテーターを務めた
写真右:『地球を笑顔にする広場2025秋』(TBSテレビ)のイベントに講師として登壇した。矢野さんは右から2番目

――大学ではどのような研究をしていますか?

伊坪徳宏研究室(理工学術院)に所属して、LCA(ライフサイクルアセスメント)に関する研究を行っています。LCAとは、製品やサービスにおける、原材料の調達から製造、輸送、使用、廃棄・リサイクルに至るまでの一連のプロセスで発生した環境負荷を、定量的に数値で評価する手法のことです。

例えば、レジ袋1枚のライフサイクル全体から発生する環境負荷の大きさと、エコバッグ(コットン製トートバッグを想定)一つのそれとでは、気候変動への影響という観点から考えると、後者は前者の50倍から150倍だといわれています。そして、エコバッグが本当の意味で「エコ」であるためには、最低でも50回から150回使用しないといけないという解釈ができます。このようにLCAを用いると、環境問題を感覚としてではなく数値として捉えられるので、現状をしっかりと把握した上で、解決に向けた目標設定をすることができます。

LCAを学ぶ前の環境教育活動では、環境問題とその対策をセットで知識として伝えることが多かったのですが、学んでからは、エコバッグのような落とし穴があることに気が付き、環境問題と向き合う姿勢自体を考えてもらえるような発信を行っています。

 

写真左:明星学園小学校への出張授業では、レジ袋とエコバックの環境負荷の差について考える授業を行った
写真右:2025年9月に行われた、伊坪研究室のゼミ合宿での研究発表の様子

――学生という立場ならではの強みはありますか?

活動を通して、さまざまな社会的立場の方と柔軟に連携できるところが、学生ならではの強みだと感じています。一企業に属してしまうと、物理的にも社会人としての立場的にも一定の制約が生じることもありますが、あくまでも一人の学生であることで、多くの場で幅広い活動ができています。

一方で、「大学生なのにすごいね」という言葉を掛けられることもあり、複雑な気持ちになります。色眼鏡を外して対等な立場で評価してもらうためには、今後さらに学びを深め、より一層活動の質を向上させる必要があると痛感させられます。

――今後、特に力を入れていきたい活動は何ですか?

サイエンスコミュニケーションです。サイエンスコミュニケーションとは、科学の研究成果や面白さ、課題などを人々に分かりやすく伝える活動のことです。そしてそれを行政、市民、企業などのさまざまな立場に対して横断的に行う、サイエンスコミュニケーターを目指しています。

現状、環境問題の研究は領域によってはやや閉鎖的で、それぞれの立場の間で分断があるように感じます。例えば、研究は研究で盛り上がっていても、それがなかなか政策に反映されなかったり、市民にとっては理解が難しかったりといった問題があります。

その中で必要となるのが、環境問題とさまざまな立場との中間に立つ橋渡し的な存在です。例えばさかなクンは、魚の専門性の高さと説明の分かりやすさ、面白さを全て両立していますが、魚について学問と社会とのつながりをうまく作っている存在です。そんなさかなクンの環境問題特化型と捉えると分かりやすいかもしれません。私は環境問題においてそのポジションを確立し、学問と社会が足並みをそろえて進んでいける未来を築きたいですね。

第922回

取材・文・撮影:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ
文化構想学部 2026年3月卒業 浮谷 雛梨

矢野さんが撮影した風景写真

【プロフィール】
東京都出身。早稲田実業学校高等部卒業。趣味はカメラで、写真を撮りに遠くまで旅に出ることもあるそう。最近は、あまり目を向けられていなかった地元の風景を被写体にしているのだとか。2025年9月からnoteを開始。言語化することで自分の思考を整理したり、より伝わりやすい表現を模索したりしたいと意気込んでいる。
Instagram:ynst_pl5
公式Webサイト:https://lit.link/edulite

理系女子のリアル 動画を公開しました

著者: staff
2026年1月28日 15:04

早稲田大学×理系女子のリアル

「理系って、忙しいって聞くし難しそうだけど、私にもできる?」 「女子が少ないイメージ…、学生生活は楽しめるのかな?」
その問いのヒントは、きっとここにあります。
理系の扉を開き、自分の可能性を広げた 2人の女子学生のリアルな声をお届けします。

早稲田理工の魅力とは?

この動画では先進理工学部 電気・情報生命工学科、創造理工学研究科 総合機械工学専攻の2名の女子学生にインタビューを行いました。
研究や学業について語ったほか、研究室やキャンパスの雰囲気も動画で体験できます。
2人はなぜ早稲田理工で学んでいるのか?早稲田理工でだからこそ叶う、研究環境について語ります。

学生生活を楽しむための工夫

授業や研究以外ではどんな活動をしているの?友達作りはどうしているの?など気になる学生生活に関することも紹介しています。
早稲田大学には充実した学内の施設や、学生が主体となって取り組める活動がたくさん用意されています。

====================================================
【Full Ver. 8分10秒】

【Short Ver. 】
学業と研究について(学部生の場合)(1分09秒)
学業と研究について(大学院生の場合)(1分04秒)
女子視点の理工の魅力は?(1分27秒)
早稲田ならではの課外活動とは?(1分11秒)
卒業後の進路・将来の夢(1分25秒)
入学を悩む方へのメッセージ(0分39秒)

性別に関係なく、好奇心のままに自分のやりたいことを追求する。
様々な学生の挑戦を応援する早稲田理工で、あなたの可能性を広げてみませんか?

理工学術院の公式YouTubeでは、今後も早稲田理工での研究活動や学生の活躍を発信していきます!

国際エンジニアリングアワードで国内最優秀賞! 全方位移動ロボットを提案

著者: contributor
2025年11月11日 09:51

「諦めずに取り組むことで、多角的なスキルを身に付けることができた」

大学院先進理工学研究科 修士課程 2年 天野 創太(あまの・そうた)

西早稲田キャンパス 55号館にて。「Sphebot」と共に

幼少期から機械に関心を持ち、現在は先進理工学研究科の澤田秀之研究室 でロボット開発に取り組む天野創太さん。災害現場や起伏のある地形での探索を想定した、全方位移動可能な球体ロボット「Sphebot(スフィボット)」を発表し、2025年9月に、世界28カ国から2,100件を超える応募が寄せられ、国際的に権威のあるJames Dyson Award(以下JDA)2025で国内最優秀賞を受賞しました。学部生の頃から本格的にロボット開発に携わってきた天野さんに、ロボットに興味を持ったきっかけや製作の裏側、今後の展望などを聞きました。

――ロボットに興味を持ったきっかけは何ですか?

高校生の頃ボート部に所属していた際には、使用するマイクシステムの修理もしていたそう

小学生のときに、ドイツの「フィッシャーテクニック」というおもちゃを買ってもらったのがきっかけです。レゴブロックのように組み立てて遊ぶものなのですが、センサーやモーター、マイコンなどが付いていて、機械や構造の仕組みを学べるものになっていました。それで遊んでいる中で、ロボットに興味が湧いていったように感じます。また、中学生になると、勉強の合間の自由時間にパソコンで遊ぶようになり、当時Googleが無償で提供していた「SketchUp」というCAD(※1)ソフトウェアで設計するのが一番の気晴らしでした。

(※1)設計や製図を行うためのソフトウェア。

――今回、JDAに「Sphebot」を応募しようと思ったのはなぜですか?

学内で開催されていたJDAの説明会に参加したことがきっかけです。話を聞いてみると面白そうで、コンペティションで求められる内容が、自分が製作しているロボットと相性が良さそうだとも感じたんです。JDAではデザインが特に重視されるため、プロトタイプの中から募集内容に適したものを選び、デザインをブラッシュアップしました。プレゼン動画では、動作イメージの表現にもこだわりました。

「Sphebot」は、学部4年生の頃から製作していたもので、もともと研究室で開発が進められていたロボットを継承し、一人でプロジェクトを進めてきました。脚によって本体を持ち上げられる変形式の球体にすることで、脚型ロボットのように段差を越える柔軟性に加え、車輪のようなスムーズな移動性も得られ、新たな形状のロボットを世に送り出せるのではないかと考えました。

「Sphebot」の動作イメージ。JDAでのプレゼン動画から

――JDA2025で国内最優秀賞を受賞した感想や、アワードを通して苦労したことについて教えてください。

他の応募作品を見ても世界中から素晴らしいアイデアが集まっていたので、まさか選ばれるとは思っていませんでした。そのため、結果を聞いた時は本当にびっくりしましたし、素晴らしい作品の中から最優秀賞に選んでいただけたのは、非常に光栄です。

実物の「Sphebot」と

苦労をしたのは、時間のやりくりですね。このプロジェクトは一人で進めていたので、何をやるにも全て自分で動かなければなりませんでした。特にプレゼン資料のCG制作は大変で、高性能なPCを使っても動作が重く、うまく表現できないこともしばしば。また、実機はシミュレーションでうまくいっても実際には動かないこともよくあるので、そのエラーを一つ一つ取り除いていく作業も大変でした。ただ、諦めずに取り組むことで、今回のJDA2025に限らずこの3年間の研究を通して、多角的なスキルを身に付けることができたと感じています。

――そもそもロボット開発はどのように進めているのですか?

基本的には、CADで設計し、試作をするという流れを繰り返します。シミュレーションが必要なときには、3DCGのソフトウェアを仲介して、ゲーム開発用のプラットフォームの空間内に読み込み、物理シミュレーションを行います。これらの方法により、「実際に動作するか」「どういう見た目になるのか」を見ながら実機を完成に近付けていきます。研究室や自宅にある3Dプリンターで試作を繰り返しながら、動作を検証し、最終的に現在の「Sphebot」の設計に至るまでには2~3年を費やしました。

ロボットに関するアイデアは、日常の中でよく浮かびます。特に車を運転しているとき、「こう動いたら面白いかも」「この配置ならうまくいきそう」と思い付くことが多いです。今回の「Sphebot」の動作機構も、そんな日常のひらめきから生まれました。

 

写真左:「Sphebot」の部品を製作している時の様子
写真右:部品の試作に使用している自宅の3Dプリンター

――大学ではどのようなことを学んでいますか?

大学でバレーボールをしている時の一枚。南東北総体のTシャツを着ている中央左が天野さん

私は先進理工学部の応用物理学科出身で、基礎物理から量子力学や相対性理論まで幅広く学びました。澤田研究室は計測情報工学という応用的な分野に軸を置いていて、制御理論や形状記憶合金、最近はディープラーニング(※2)の研究にも力を入れています。研究室では各々がプロジェクトを立ててひたすら研究に励んでおり、見つけてきた論文を紹介し合って常に知識をアップデートしたり、新しい技術や発見について助手や博士課程の学生と議論したりしています。研究で忙しい日々ではありますが、学部生の頃から続けているバレーボールは良い気分転換になっています。

(※2)人工知能技術の一種で、データから特徴を自動的に学習する技術。

――最後に、今後の展望について教えてください。

JDA2025では完成したイメージを発表したのですが、球体が転がるときのランダムな動きをうまく制御できるよう、今後も機械学習を含め検討を続けていきたいです。最終的には、周囲の環境を自ら認識し、地図を生成しながらどんな地形でも思い通りの動きができる、アニメやSF映画に出てくるようなロボットキャラクターのような動作の実現をイメージしています。ただ、時間的な制約もあるため、中長期的な目標については新しく入ってくる研究室の後輩にも託しながら、見守っていければと思います。

自分の展望は、あと半年ほどで研究室を離れてしまうので、これまで培ってきたスキルや経験を生かして、自身の可能性をさらに広げることです。就職後も、面白いアイデアが浮かべば、どんどんロボットを作っていきたいですね。

第912回

取材・文・撮影:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ
人間科学部 3年 西村 凜花

【プロフィール】

愛車のMAZDA CX-5と一緒に

愛知県出身。愛知県立旭丘高等学校卒業。高校時代はボート部に所属し、インターハイにも出場した。現在は週に1~2回バレーボールで体を動かすのが趣味。車の運転も好きで、日本全国を走り回り、毎年地球一周分くらい運転しているそう。

早大ものづくりプログラムで大賞受賞! “みまもる”ロボットをゼロから設計

著者: contributor
2025年6月3日 14:07

「自走する作り手でありたい」「ものプロへの参加は大きな成功体験」

創造理工学部 4年 玉山 康次郎(たまやま・こうじろう)
創造理工学部 4年 片桐 萌音(かたぎり・もね)

西早稲田キャンパス61号館WASEDAものづくり工房にて。左から片桐さん、玉山さん

新しいことに挑戦し失敗からも学ぶ意欲、計画を立て着実に遂行する能力、困難に立ち向かう力を有する学生の育成を目的として、2012年から2018年まで毎年開催されていた「WASEDAものづくりプログラム 」(以下、ものプロ)。2024年6月に6年ぶりに復活し、ファイナリストに13チームが選ばれ、アイデアをカタチにするための独創的な「ものづくり」に挑みました。その中から最優秀ものづくり大賞に選ばれたのは、玉山康次郎さん、片桐萌音さん、林浩次郎さん(創造理工学部 4年)が製作した、ヒトを“みまもる”フクロウ型アニマトロニクス(※1)「Patr-Owl(パトロール)」。今回は、チームを代表して玉山さんと片桐さんに、大賞受賞までの過程や今後の展望について聞きました。

(※1)動物やキャラクターなどをあたかも生きているかのように表現したロボット。

――どのような経緯でものプロに出場したのでしょうか?

玉山:私たちは大学1年生の頃から早稲田大学ROBOSTEP (公認サークル)に所属し、ロボコンに参加するなど、ものづくりに取り組んできました。3年生になり、他に「作り手」として成長できる機会を探していた時に、ものづくり工房に貼ってあったチラシを見つけ、参加を決めたんです。その際に、片桐さんに声を掛けました。

――Patr-Owlを作ろうと思ったきっかけは何ですか?

玉山:私は以前から遊園地でよく目にするアニマトロニクスの和やかな感じが大好きでした。やる気が出ず、だらだらしてしまっていたときに、自分の家に和やかに見守ってくれるようなロボットがいたらやる気が出るのになあ、と思ったのがきっかけです。

片桐:誰かに見守られることでやる気が出るという現象には、観察者効果(※2)が関わっています。普段は娯楽・展示用に使われるアニマトロニクスと観察者効果を結び付けることができれば、「監視」ではなく恐怖感を与えない「みまもり」になるのではないかと考えたんです。みまもりということで、目が特徴的な動物であるフクロウ型のロボットPatr-Owlを作ることに決めました。

(※2)他者から監視されていると感じることで、その人の行動や言動が変化する現象。

ものプロ最終成果報告で発表したポスター(※クリックして拡大)

――Patr-Owlの仕組みや制作過程を教えてください。

片桐:Patr-Owlの帽子に内蔵されているカメラが人の顔を認識して、その方向に目や体を向けて「みまもる」という仕組みになっています。フクロウは首の関節が多く、その滑らかな動きをできるだけ再現するために、6関節あるアームの構造を考えました。

Patr-Owlが人のいる方向に体を向ける様子

人の顔がある方向に目を向ける様子

玉山:製作にあたっては、片桐さんが中身の機構を作る機械設計と外装やデザイン回り、私はPatr-Owlの動きを制御するプログラムや基板の設計を担当しました。本番までの準備時間が足りなかったため、3月頃からは同じサークルに所属する林さんにも急きょ助っ人として参加してもらい、主にカメラで人の顔を画像認識する部分を担当してもらいました。

全てゼロから製作した回路、基板、中身のアーム機構、外装。プレゼン資料から(※クリックして拡大)

――ものプロを通して、苦労したことや成長できたことはありますか?

片桐さんが外装を作っている様子。西早稲田キャンパス63号館にて

玉山:2024年9月から2025年3月までの期間で、機械設計から回路設計、制御、外装製作まで全てゼロから行うという作業量に加え、初めて挑戦する技術も多かったため、もともと2人でやりきるにはハードルが高かったと思います。加えて、2024年はお互いのスケジュールがなかなか合わないことも多く、授業期間が終わった1月末からは追い込み期間として毎日西早稲田キャンパス内のラウンジや研究室にこもって作業し、基板へのはんだ付けはWASEDAものづくり工房で行いました。

片桐:帰宅後も外装を作っていたので、最終発表の2日前くらいからは全く寝ていませんでした。Patr-Owlが満足に動いたのも発表の前日で…。本当に間に合って良かったですし、やり切った結果が大賞受賞だったので、かなりうれしかったです!

ロボット制作をギリギリまでこだわった上でやりきり、大賞をいただくという体験ができたのは、自分の成長につながったと感じています。これまで出場したロボコンではやりきれなかったと思うことや結果に悔しい思いをしたこともあったので、今回のものプロへの参加は大きな成功体験になりました。

玉山私は突き詰めるタイプで、何事も「根本を理解する」ことにこだわりがあります。この考えは、早く作れることの方が評価されがちなロボット競技において、「いらないこだわり」と周りから言われてしまうこともあり、ロボット製作への向き合い方について迷うこともありました。そんな中、短い期間で自分の方法をやり通し、チームとして納得のいくロボットで大賞をもらうことができ、とても満足しています。

取材中の様子。西早稲田キャンパス61号館302教室にて

――大学ではどのようなことを学んでいますか?

玉山所属している石井裕之教授の研究室ではロボットと生物について学んでいて、生物の仕組みをロボットに応用する研究を行っています。私は総合機械工学科に所属していますが、実際にモノを製作する授業が多い学科です。他の大学だと、1・2年生では大学数学や物理化学など理系の一般教養のみを学ぶことが大半だと思いますが、早稲田では1年生から機械工学の講義や多くの実習に取り組める専門科目があり、本当に強みだと感じます。

片桐:私は岩﨑清隆教授の研究室に所属しています。医療分野に機械工学を応用する、という異分野融合系の研究室で、東京女子医大との共同施設「早稲田大学先端生命医科学センター(TWIns)」で研究を行っています。現在は人間の循環器(主に心臓や血管)をチューブやポンプなどで模擬した流体シミュレーターを作製し、動物実験での再現が難しい心不全などの病態を模擬してさまざまな現象を評価する研究に取り組んでいます。

――最後に、今後の展望について教えてください。

玉山:学外の人にもPatr-Owlを知ってもらいたいので、秋に東京ビッグサイトで開催されるMaker Faire Tokyo 2025 に参加したいと考えています。それまでに、首をかしげる、羽を広げるといった実現しきれなかったフクロウの動きを実装したいです。

個人の展望としては、ひたすら自分のやりたいことに貪欲に取り組み、新しいものを生み出す「自走する作り手」でありたいと思っています。

片桐:学部の3年間はロボコンやものプロに参加するなどロボット製作に集中していましたが、これからは研究分野である医工学の分野を全力で学び、研究に取り組んでいこうと思います。しばらくはロボットの設計とは違ったことをすることになりますが、必ずつながってくると思うので、将来的にはそれまでの知識や経験を融合させて、新しい価値を創生していけたらいいなと思っています。

大賞受賞後、表彰状を手にチームで記念撮影。左から玉山さん、片桐さん、林さん

第900回

取材・文・撮影:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ
人間科学部 3年 西村 凜花

【プロフィール】
玉山康次郎:埼玉県出身。埼玉県立浦和高等学校卒業。漫画のせりふを覚えるのが好きで、漫画からロボット作りの着想を得ることも多い。お勧めの漫画は『進撃の巨人』諫山創(講談社)、『バガボンド』井上雄彦(講談社)、『Dr.STONE』稲垣理一郎(集英社)。

片桐萌音:東京都出身。東京都立日比谷高等学校卒業。創作全般が好きで、ミニ推理小説を書くことも。最近はミュージック・プログラミング(GEC設置科目)を受講したのがきっかけで、作曲にもチャレンジ中。

❌