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異なる戦略で形成した大脳オルガノイド血管系の特徴を明らかに

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2023年11月14日 14:10

異なる戦略で形成した大脳オルガノイド血管系の特徴を明らかに

移植医療や再生医療、ヒトに対する薬剤スクリーニングなど幅広い分野における応用に期待

発表のポイント

ヒト特有の脳の発生過程や疾患の解明、また治療薬開発の鍵としても注目を集める大脳オルガノイドは、それ自身が血管系を有さないために、酸素・栄養の供給や、毒性代謝物の排出が自発的にできず、そのためサイズも制限されるなどの課題に直面し、発展的な利用の足枷となっていました。
既に大脳オルガノイドに機能的な血管構造を導入する戦略が複数提案されてきましたが、それらを統合的に比較した研究がこれまで存在しなかったため、それぞれの血管形成戦略の特徴や課題などを正確に把握できませんでした。
今回の研究において、公開データセットで入手可能なシングルセルRNAシークエンシングデータを用いた解析を行うことにより、異なる戦略のもとで大脳オルガノイドに導入した血管構造を構成する細胞の特徴を明らかにすることができました。将来的に、より実際のヒトの脳に近い血管化大脳オルガノイドを作製する際の指標として活用されることが期待できます。

図1 機能的な血管構造を導入した大脳オルガノイドと胎児脳のシングルセルRNAシークエンシングデータの統合解析

早稲田大学(以下、早大)総合研究機構の片岡孝介(かたおかこうすけ)主任研究員理工学術院の朝日透(あさひとおる)教授、大学院先進理工学研究科3年(一貫制博士課程3年)の佐藤由弥(さとうゆうや)らの研究グループ(以下、本研究グループ)は、公共データベース*1上のシングルセルRNAシークエンシングデータ*2を再解析し、ミニ人工脳である大脳オルガノイド*3において血管構造を導入するための複数の戦略(以下、血管化戦略)が、大脳オルガノイドを構成する神経系等に対して異なる影響を与えることを明らかにしました。さらに、血管構造を導入した大脳オルガノイド(以下、血管化大脳オルガノイド)における血管系と神経系の間の相互作用が、血管が正しく脳の血管として機能するために重要である可能性を示しました。

本研究成果は、ドイツ・イギリスに本拠を置く学術出版社であるSpringer Nature社発行による『BMC Biology』誌(論文名Integrative single-cell RNA-seq analysis of vascularized cerebral organoids)に2023年11月9日(木)午前1:00(グリニッジ標準時GMT)に掲載されました。

(1) これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

多能性幹細胞*4由来で人工培養された細胞集団であるヒト大脳オルガノイドは、ヒト大脳皮質の発生過程、組織、神経活動を模倣した、三次元のミニ人工脳です。大脳オルガノイドを用いた研究により、神経発生、進化、疾患の理解にかつてない機会がもたらされています。さらに、コロナウイルス感染症のパンデミックでは、ヒトオルガノイドモデルがその病態を理解する上で有望な結果を示し、治療薬開発の鍵としても注目されました。

このようにオルガノイドの応用範囲が急速に拡大しているにもかかわらず、大脳オルガノイドには未だにいくつかの課題があります。大きな課題のひとつに血管系が存在しないことが挙げられます。そのため、従来の大脳オルガノイドは、栄養、酸素、有害代謝産物の交換を培養液における受動的拡散のみに依存しています(図2)。血管系を持たない大脳オルガノイドはサイズも制限され、オルガノイドの中心部では細胞死が引き起こされてしまいます(図2)。

図2.血管を形成させていない従来の大脳オルガノイドの欠点

この課題を打破するために、大脳オルガノイドに機能的な血管構造を導入するための複数の戦略が提案されてきました。これらの研究では、血管構造の導入が大脳オルガノイドを構成する神経細胞などの細胞集団の機能、組成、細胞間相互作用等へ与える影響が独自に解析されてきました。しかし、これらの血管構造を導入するための異なる戦略が大脳オルガノイドに与える影響を実際の脳血管と統合的に比較した研究はなく、それぞれの血管化戦略の特徴や課題などが不明でした。そのため、それぞれの血管化大脳オルガノイドにおける血管構造が実際の脳の血管系をどれほど正確に模倣しているのかを確認することができず、より最適な実験プロトコルを見つけ出すことが難しいという問題がありました。

(2) 今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

本研究グループは、異なる戦略で作製された血管化大脳オルガノイドを横断的に評価することを目的に、公開データセットで入手可能な血管化大脳オルガノイドと実際のヒト胎児脳のシングルセルRNAシークエンシングデータを統合的に比較しました。その結果、次の3点が明らかになりました。

①いずれの戦略で血管化しても大脳オルガノイドの遺伝子発現プロファイルは、非血管化大脳オルガノイドのそれと比べて、実際のヒト胎児脳の遺伝子発現プロファイルに近づくこと(図3)。

図3.血管を形成させることで大脳オルガノイドを構成する細胞集団の遺伝子発現プロファイルが胎児脳に近づく

横軸に各大脳オルガノイドを構成する各細胞種、縦軸に各血管化手法、各マスに実際のヒト胎児脳との遺伝子発現プロファイルの相関値(類似性を示す)を示す。相関値が高いほど胎児脳と近い遺伝子発現パターンを持つことを示す。本結果から、ほとんどの細胞種において、血管化によってヒト胎児脳との相関値は増加していることが明らかになった。

②血管化大脳オルガノイドにおける血管構造を構成する細胞には機能的に重要とされる遺伝子の一部が発現していないこと、およびこの遺伝子発現の欠損の特徴は血管化戦略によって異なること(図4)。

図4.血管化大脳オルガノイドにおける血管系は戦略によって異なる遺伝子発現プロファイルを持つ

横軸に各大脳オルガノイド、縦軸に血管特異的に発現するマーカー遺伝子を示す。実際の胎児脳の血管系細胞は、マーカー遺伝子をすべて発現しているにも関わらず、各血管化オルガノイドや血管オルガノイドは不十分な発現プロファイルを持つことがわかる。また、戦略によっても異なる発現プロファイルを持つこともわかる。
注:血管オルガノイドは、iPS/ES細胞を血管組織に分化誘導したオルガノイドであり、血管化オルガノイド(血管を形成した大脳オルガノイド)とは異なる。

③血管構造を構成する細胞と神経系の間の相互作用が、血管が脳血管としての特徴を作り出すために重要であり、血液脳関門*5などの脳に特徴的な血管系の機能に関与する遺伝子の発現に重要であること。

本研究成果により、複数の血管化戦略が神経系および血管系の細胞の分化や遺伝子発現プロファイルに及ぼす影響についての知見が得られました。本研究で得られた知見は、将来的に血管化大脳オルガノイドを作製する際の指標となると考えられます。

(3)研究の波及効果や社会的影響

血管化大脳オルガノイドは、細胞死が起こりにくく実際のヒトの大脳皮質に近いと考えられるため、これからの大脳オルガノイド研究のスタンダードになると考えられています。本研究成果は、血管化オルガノイドのベンチマークとしての活用が期待されます。より実際の胎児脳に近い血管化大脳オルガノイドが完成することで十分にオルガノイドが成熟できるようになり、成人への移植医療や再生医療、ヒトに対する薬剤スクリーニングなど幅広い分野における応用といった社会的影響が期待できます。

(4)今後の課題

今回、公開データセットで入手可能なシングルセルRNAシークエンシングデータを用いた解析により、異なる戦略のもとで大脳オルガノイドに形成させた血管系の特徴が明らかになりました。今後は、解析によって明らかになった血管化手法の弱点を克服する方法を模索するとともに、脳を構成する細胞の機能等、シングルセルRNAシークエンシングデータ以外の情報にも着目した研究を進めることが期待されます。

(5)研究者のコメント

オルガノイド技術は、癌などの疾患や老化などのこれまで人類が対抗できなかった壁を乗り越える可能性をもつ技術です。しかし、血管化などの問題から、実際の脳を十分に再現することができていないという現状があります。本研究成果が、より実際の胎児脳に近い大脳オルガノイド血管化手法のヒントとなり、これまで治療が難しかった疾病を解決する一助となると信じています。

(6)用語解説

1.公共データベース

研究者たちが行う研究で得られた塩基配列等のデータを保存、共有するためのオンラインプラットフォーム。これにより、研究者は自分たちの研究に必要なデータを簡単に検索し、アクセスすることができ、また自分たちのデータを世界中の他の研究者と共有することができる。公共データベース上のデータは、他の研究者によって新しいコンテキストで再利用されたり、実験結果を検証し再現するために使用されたりする。

2.シングルセルRNAシークエンシング

個々の細胞ごとのmRNA塩基配列を読み取る技術。従来のRNAシークエンシング技術は多数の細胞をまとめて分析するため、細胞の個々の違いを見ることができなかった。一方、シングルセルRNAシークエンシングは、多様な細胞から構成される組織においても各細胞に特徴的な遺伝子発現情報を解析することができる。

3.オルガノイド

人や動物の臓器の機能や構造を模倣した、三次元で培養された細胞集団。これらの細胞は、本物の臓器と類似した機能を持つため、薬物スクリーニングや疾患モデル、臓器移植などへの応用が期待されている。

4.多能性幹細胞

体内のさまざまな種類の細胞に分化する能力を持つ特殊な細胞。

5.血液脳関門

脳の血管と神経細胞などの細胞の間で物質の移動を制限する機構。全身投与された薬剤が中枢神経系に到達することも制限するため、神経疾患に対する治療薬開発の最も大きな障壁の一つにもなっている。

(9)論文情報

雑誌名:BMC Biology
論文名:Integrative single-cell RNA-seq analysis of vascularized cerebral organoids
執筆者名(所属機関名):Yuya Sato, Toru Asahi, Kosuke Kataoka (Waseda University)
掲載日時(現地時間):2023年11月9日(木)午前1:00(グリニッジ標準時GMT)
DOI:https://doi.org/10.1186/s12915-023-01711-1

(10)研究助成(外部資金による助成を受けた研究実施の場合)

研究費名:科学研究費補助金 若手研究
研究課題名:カンナビノイド受容体CB1によるマイトファジー調節機構と加齢性記憶障害への関与
研究代表者名(所属機関名):片岡孝介(早稲田大学)

研究費名:科学研究費補助金 若手研究
研究課題名:内在性カンナビノイド系の変調がもたらす加齢性記憶障害の分子基盤の解明
研究代表者名(所属機関名):片岡孝介(早稲田大学)

 

ALCA-Next「資源循環」領域に採択

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2023年11月14日 14:09

2023年度JST「戦略的創造研究推進事業 先端的カーボンニュートラル技術開発(ALCA-Next)」に採択

国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の2023年度戦略的創造研究推進事業 先端的カーボンニュートラル技術開発(ALCA-Next)において、書類及び面接選考を経て、理工学術院 関根泰教授の提案が採択されました。(応募総数:198件、採択総数:28件)

採択された技術領域「資源循環」では、資源の効率的な循環利用を低環境負荷で可能とし、温室効果ガス排出量の削減に大きく貢献する技術や材料、化学的プロセスの研究開発を推進することを目指しています。資源循環の観点から、提案の斬新性や実現可能性、温室効果ガス排出量をどの程度削減可能かという点が重視され、エネルギーフローやマテリアルフローの観点から、温室効果ガス削減について定量的な目標を設定の上、それを達成する具体的な技術が示された提案であるかが優先された結果の採択となりました。

採択課題(技術領域:資源循環)

関根 泰(理工学術院 教授)
「ケミカルループ法による革新的CO2転換材料の開発」

 

ALCA-Nextとは

世界各国においてカーボンニュートラルの実現に向けた動きが加速し、GX(グリーントランスフォーメーション)関連投資も急速に拡大しています。GXの実現のためには、2050年のカーボンニュートラルを実現するとともに、産業競争力の強化、経済成長・発展が必要不可欠です。今後の温室効果ガス(GHG)削減目標の達成や将来産業の創出に向けては既存技術の導入だけではなく新規技術の創出が必要であり、そうした技術を継続的に生み出すためには、産業界における実証や技術開発と並行してアカデミアにおける研究開発と人材育成への支援、企業とアカデミアの真の連携による社会実装が求められます。
これに応えるために開始されたALCA-Nextは、カーボンニュートラルへの貢献という出口を明確に見据えつつ、個々の研究者の自由な発想に基づき、科学技術パラダイムを大きく転換するゲームチェンジングテクノロジー創出を目指す事業です。(出典:JST ACLA-Nextウェブサイト)

【設定されている技術領域】
・蓄エネルギー
・エネルギー変換
・資源循環  ※今回本学が採択された領域
・グリーンバイオテクノロジー
・半導体
・グリーンコンピューティング・DX

動的条件下でのX線CT撮影技術を開発

著者: contributor
2023年11月14日 14:08

動的条件下でのX線CT撮影技術を開発

―ゴム材料に限らず生体撮影も可能、バイオ関連分野への応用にも期待―

【研究のポイント】

材料の内部構造を非破壊検査する方法として普及しているX線CT※1は、動的条件下での材料の観察には不向きであった。
ストロボ効果※2を利用した動的条件下でのX線CT撮影技術を開発し、複合化したゴム材料の動的粘弾性試験※3と動的X線CTによる計測を同時に行うことが可能になった。
心臓のような繰り返し変形するようなものであれば、生体の動的X線CT撮影も可能となる技術で、テラヘルツ波を用いたCT撮影など、材料に限らず医療・バイオ関連分野への応用も期待できる。

【研究概要】

早稲田大学理工学術院松原真己(まつばら まさみ)准教授を中心とする研究グループは、複合化したゴム材料の内部構造および動的挙動と減衰特性にどのような関係性があるのかを解明するために、ストロボ効果を利用した動的条件下でのX線CT撮影技術(以下、動的X線CT )を開発(図1)、動的X線CTと動的粘弾性試験を同時に実施する実験系を構築し、ゴム材料のミクロな内部構造とマクロな特性である減衰特性の関係を分析しました。

図1:動的X線CTの概略図

本研究成果は、オランダのエルゼビア社が発刊する国際学術誌『Mechanical Systems and Signal Processing』にて、2023年10月19日(木)に掲載されました。

(1)これまでの研究で分かっていたこと

ゴム材料に微粒子を複合化すると、減衰特性が更に向上します。これは微粒子界面における摩擦や、微粒子による変形阻害等が要因であると指摘されていますが、直接観察した事例はなく、そのメカニズムは未解明でした。近年、材料内部の構造を非破壊検査する方法としてX線CTが普及し、マイクロ・ナノオーダーの分解能での計測が可能となってきました。一方で、X線CTは対象物を回転させながら計測するため、動的条件下での観察には不向きです。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと

材料の減衰特性評価では引張状態で振動を加え(加振)、そのときに発生する荷重と変位を計測する動的粘弾性試験がよく利用されます。この動的粘弾性試験の動的条件下においてX線CT撮影による計測を同時に実施することができれば、複合化したゴム材料の内部構造および動的挙動と減衰特性の関係性が明確になると考えました。

そこで本研究では、動的粘弾性試験では材料が繰り返し変形することに着目し、加振周期、CT回転ステージの回転速度、CT画像用のカメラのシャッタータイミングを制御することでストロボ効果を利用した撮影手法を開発しました。そして、大型放射光施設SPring-8※4(BL20XU)に、今回開発した新たな小型動的粘弾性試験を導入し、動的粘弾性試験と動的X線CTによる同時計測を実現しました。今回の成果を得るためには、 SPring-8の極めて明るく安定した光源と高速度カメラを利用したCTが必須でした。

この撮影技法が有効であるか確かめるため、制振材としてよく利用されるスチレンブタジエンゴム(SBR)に、球状、板状の形状をもつ酸化亜鉛(ZnO)を複合化した試験片を用意し、動的X線CTを実施しました。ZnOは安価かつ形状の種類が多く、複合材(微粒子)としてよく利用されます。静的および動的条件下のCT画像を比較した結果、動的条件下の内部構造を可視化できたことから本研究で開発した動的X線CTが有効であることを確認しました。

また、内部構造と減衰特性の関係を分析するため、CT画像からμmオーダーの空間でひずみ(局所ひずみ)を算出した結果、複合化する微粒子形状の違いによって材料内部のひずみが均一ではなく不均一になることがわかりました。図2 は立体像内で確認できた局所ひずみの大きさをヒストグラムとして評価したものです。SBR単体および球状の場合は、ヒストグラムは鋭いピークをもっており、均一な変形が起こっていることを示します。一方、板状では広域的な分布となっておりひずみの大きさにばらつきがあり、不均一な変形が起こっています。このように、ミクロな動的挙動の特徴を捉えることが可能となりました。

図2:スチレンブタジエンゴム(SBR)に酸化亜鉛(ZnO)の球状(左図)と板状(右図)を配合した際の局所ひずみの大きさを表した分布図(ヒストグラム)。

(3)研究の波及効果や社会的影響

本研究では動的条件下でのX線CT撮影技術の開発に取り組みました。例えば、生体であっても心臓のような繰り返し変形するようなものであれば、動的X線CT撮影が可能となる技術です。テラヘルツ波を用いたCT撮影にも利用でき、材料に限らず医療・バイオ関連分野への応用も期待できます。

(4)今後の課題

動的条件下でのX線CT撮影は可能になりましたが、複合化したゴム材料の減衰特性と動的挙動の関係性についてはまだ明確になっていません。動的挙動からエネルギー散逸に関わる情報を抽出することが課題となっています。

(5)研究者のコメント

もともと高速回転タイヤの接地面ゴムの微小変形計測用に組んできた撮影技法をX線CTに実装しました。提案法をベースに材料や構造物の力学特性を決定付ける構造的な因子は何かを探究できればと考えています。

(6)用語解説

※1 X線CT:

X線を用いて物体の断面像や立体像を得る手法。CTはComputed Tomographyの略で、コンピューター断層撮影を意味しています。

※2 ストロボ効果:

ストロボはストロボスコープの略で、ある時間間隔で光を点滅させることを指します。この点灯タイミングで撮影すれば、対象物が高速回転体であれば、あたかも止まったような画像を得ることができます。通常、回転体の回転周期よりも十分に短いフレームレート(1秒間に撮影できる画像の枚数)のカメラで撮影しなければ、回転体の撮影はできませんが、ストロボの点灯タイミングと回転体の回転位相をコントロールすることで、回転周期よりも長いフレームレートのカメラでも撮影が可能となります。ここではその効果をストロボ効果と呼んでいます。

※3 動的粘弾性試験:

試験片に変位振動を与え、それによって発生する応力と歪みを測定することにより、貯蔵弾性率、複素弾性率、損失係数(減衰特性)といった力学的特性を測定する方法です。

※4 大型放射光施設SPring-8:

太陽の100億倍もの明るさに達する「放射光」という光を使って、X線回折、小角X線散乱、X線CT、光電子分光などの分析ができる研究施設設。材料開発にとどまらず、生体の分析、半導体や燃料電池の開発など産業分野でも活用されています。

SPring-8 |http://www.spring8.or.jp/ja/

(7)論文情報

雑誌名Mechanical Systems and Signal Processing

論文名In-situ measurement of dynamic micro X-ray CT and dynamic mechanical analysis for rubber materials

執筆者名(所属機関名):松原真己1、髙良領2、駒津泰一2、古田将吾2、小林正和2、虫明仁夢3、上杉健太郎4、河村庄造2、田尻大樹2

1早稲田大学、2豊橋技術科学大学、3 兵庫県立工業技術センター、4 公益財団法人高輝度光科学研究センター)

掲載日(現地時間):2023年10月19日(木)

掲載URL:https://doi.org/10.1016/j.ymssp.2023.110875

DOI10.1016/j.ymssp.2023.110875

(8)研究助成(外部資金による助成を受けた研究実施の場合)

研究費名:科研費基盤研究(C)

研究課題名:動的X線CTによる微粒子複合ゴムの振動減衰メカニズムの解明

研究代表者名(所属機関名):松原真己(豊橋技術科学大学)

準安定相型メソポーラス半導体 (CuTe2)の合成に成功

著者: contributor
2023年11月14日 14:06

準安定相型メソポーラス半導体 (CuTe2)の合成に成功

~光エレクトロニクス材料として優れたテルル化合物の応用に道を~

【本研究のポイント】

電気化学的ミセル注1)集積法により、常温下で準安定相型注2)メソポーラス注3)半導体注4) (CuTe2)薄膜の合成に成功した。
準安定相CuTe2薄膜の合成に重要な基板素材として、アルミニウム基板を用いることで、優れた結晶性と長期安定性を示した。
本研究成果は、加工が困難だったテルル化合物を光エレクトロニクス材料として活用する新たな手法を提案するものであり、光伝導素子、可調光センサー、検出器などの改良への貢献が期待される。

【研究概要】

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の山内 悠輔 卓越教授(JST-ERATO山内物質空間テクトニクスプロジェクト研究総括、クイーンズランド大学教授、及び早稲田大学客員上級研究員(研究院客員教授)兼任)、濱田 崇 特任准教授、早稲田大学の江口 美陽 准教授らは、クイーンズランド大学とニューサウスウェールズ大学との共同研究で、適切な基板選択と電気化学的ミセル集積法を用いて、常温下で準安定相型メソポーラス半導体(CuTe2)の薄膜の合成に成功しました。

従来のCuTe2薄膜は、光伝導素子、可調光センサーおよび検出器などの光エレクトロニクス材料への応用が期待されていますが、熱的安定性が課題であり、常温下でも安定なCuTe2薄膜が望まれていました。

本研究グループは、常温下でも安定な準安定相型メソポーラスCuTe2薄膜の合成には、基板素材の選択が重要であることを明らかにし、アルミニウム基板上で合成したメソポーラス型CuTe2薄膜は、優れた結晶性と長期安定性を示すことを見出しました。この技術により1.67 eVのバンドギャップを有する準安定相型のメソポーラスCuTe2薄膜の合成が実現できることから、種々の照明条件下で優れた光応答を示すことになり、光伝導素子、可調光センサー、および検出器などへの応用が期待でき、光エレクトロニクス分野のさらなる発展が期待できます。

本研究成果は、2023年10月18日付アメリカ化学会誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載されました。

【研究背景と内容】

新規材料の探索は、学術的にも産業的にも重要であり、デバイスなどの高性能化、低消費電力、小型化、環境問題を含む新たな機能の創出につながります。材料の探索研究では、基底状態の構造を調べるなど、これまでに多くの効果的な材料が見つかっており、広く利用されています。最近では、高エネルギー状態である不安定な相(速度論的な構造)を持つ準安定相材料に注目が集まっています。この分野では、金属ハライドペロブスカイトや金属相(1T相)の二次元物質である遷移金属ダイカルコゲナイド(Transition Metal Dichalcogenide, TMDs)注5)など、優れた材料が報告されています。特に、準安定相な金属で狭いバンドギャップ相を持つ第VI族であるモリブデンやタングステンのTMDsは、水素発生電気触媒や高容積キャパシタンスなど優れた性能を示します。このグループに属するいくつかの広いバンドギャップを持つ材料は、量子スピンホール相などの絶縁特性を示すこともあります。金属ハライドペロブスカイトの場合、多様なポリモルフ構造を持つ新しい構造変換性半導体としても分類されています。これらの材料は、高い拡散定数や対称性を持つため、固体電池のアクティブ電極材料として理想的です。鉛ハライドペロブスカイトは、高性能な光伝導体と光電子デバイスの開発にも使用されています。

従来の準安定相材料の製造技術には、イオン注入、直接合成、複数の前駆体法、化学的合成、物理的または化学的堆積、圧縮、急速冷却、ソフトケミカル、コンビナトリアル合成や機械的摩耗などがあります。また、メカノケミカル手法を用いて機械的エネルギー(例:ボールミリング)によって化学反応を誘発する手法も準安定相結晶の合成に使用されています。この手法は比較的環境に優しく、有害な有機溶媒を必要としない利点が挙げられます。

特に、硫化物やセレン化物の銅ベースのTMDシステムは、電気的および磁気的特性に優れ、広く研究されています。また、テルライド材料注6)は高い光変換効率と優れた熱電特性を持つため、多くの研究が行われています。例えば、Cu2Teや CuTeなどの銅とテルルの組成が異なる材料は、熱電材料への応用においても大きな関心を集めています。銅-テルル化合物注7)は安定相と準安定相など様々な組成を持つため、その結晶構造は複雑であり、銅-テルル構造は既知の銅ハライド中で最も複雑です。これらの材料の合成では、高温や高圧など過激な条件が必要で、実用化には課題が残っています。加えて、テルルは希少な材料であるため、テルルの特徴的な特性を活用しながら、コスト削減も求められています。

この研究では、ポリマーミセルを用いるソフトテンプレート法と電気化学的手法によりCuTe2の結晶構造を制御しつつ、高品質で安定したCuTe2を低温と常圧下で合成する効果的な方法を開発しました(図1)。さらに、異なる温度でのCuTe2の化学組成の安定性を調べるため、金属電極の析出方法の検討、”その場”観察によって構造と化学的変化を評価した。また、合成したCuTe2半導体の光電子特性の調査を行いました。

本手法では、適切な基板選択とソフトテンプレート法を用いて、準安定相CuTe2半導体を合成しました(図1)。この手法では、ブロック共重合体注8)が自己組織化することでポリマーミセルを形成し、メソポーラス半導体を合成するための基礎となります。安定なミセルの利用、及び合成条件(例:温度)を変えることで、結晶性の制御を可能にし、電極の選択が、メソポーラス準安定相型CuTe2膜の成長を容易にすることを明らかにしました。特に、金属電極が、酸化または還元電位、pHレベル、および電解質組成などの電気化学反応条件に大きな影響を与えることが明らかになりました。

一般的に、還元電位が高い(金などの)金属電極は、析出物に含まれる不純物の量を減少させる傾向があり、還元電位が低い(アルミニウムなど)金属電極は不純物の量を増加させる傾向があります。各金属電極の化学反応性は、材料の構造、光学、および電気的特性を時間とともに変化させることが可能です。実際、種々の電極上でメソポーラス型テルル銅半導体の合成に成功しました。アルミニウム電極上で合成した準安定相型メソポーラスCuTe2半導体はポリマーミセルのサイズに相当する16.8 nmのメソ孔を有することを電子顕微鏡から確認しました(図2)。一方で、金電極上で合成した準安定相型メソポーラスCuTe2半導体は16.6 nmのメソ孔注9)を有していました。

メソポーラスCuTe2半導体の光応答性を調べるために、光センサーを作製しました。この光センサー作製では、センシング要素となるCuTe2を幅1μmのアルミ電極間に析出させました(図3)。このセンサーに、赤色発光ダイオード(LED)、緑色LED、およびエアマス1.5注10)の疑似太陽光を照射して、アルミニウム電極上で合成した準安定相型メソポーラスCuTe2薄膜の電気伝導性を測定しました。−10から+10 Vの電圧範囲で応答を示し、疑似太陽光、緑色LED(16.8 mW/cm2)および赤色LED(10.6 mW/cm2)下で、顕著な応答を示しました。アルミ電極で作製した組成の異なる準安定相型メソポーラス薄膜(CuTe)センサーの応答を類似の照明条件(強度および波長)で比較したところ、電流密度が高くなり、メソポーラスCuTe2薄膜の光応答性がメソポーラスCuTe薄膜を上回る結果となりました。この強い光吸収特性は、メソポーラスCuTe2薄膜のバンドギャップ(1.67 eV)が後者のメソポーラスCuTe薄膜(2.35 eV)よりも低いためと考えられます。

【成果の意義】

本研究では、適切な基板の選択、及び温度制御結晶化技術により、アルミ電極上に16.8nmのメソポーラス構造を持つ準安定相型CuTe2薄膜を電気化学析出法で合成することに成功しました。このメソポーラスCuTe2薄膜は、赤外線吸収材料(バンドギャップ、Eg = 1.67 eV)として機能しました。本研究で提案する手法は、前駆体のイオン濃度(CuイオンとTeイオン)を変化させることによって、銅−テルルの二元系のエネルギーバンドギャップ幅を制御できることを示しており、新たな工学アプローチを提案することになります(メソポーラスCuTe薄膜のバンドギャップ、Eg = 2.32 eV)。”その場”観察法により、電極材料の選択が化学組成と銅-テルル半導体の構造の安定性に大きな影響を与えることを明らかにしました。従来の特殊な容器を必要とする高温、高圧下での合成手法と比較して、低コストでの製造プロセスが可能になり、エネルギーペイバックタイム注11)の短縮も期待できます。以上から、高い光電変換効率と優れた熱電特性を示すテルルをベースとする材料を、汎用的に利用できる可能性があることを実証しました。

本成果は、光伝導素子、可調光センサー、および検出器などへの応用が期待でき、光エレクトロニクス分野のさらなる発展が期待できます。

本研究は、2020年度から始まった「JST-ERATO山内物質空間テクトニクスプロジェクト」の支援のもとで行われました。

【用語説明】

注1)ミセル:

水になじむ親水部と水になじまない疎水部を持つ両親媒性分子が集まってできたコロイドのこと。

注2)準安定相型:

安定相よりもギブスの自由エネルギーが大きい状態のこと。

注3)メソポーラス:

メソ細孔を有する多孔体のこと。

注4)半導体:

電気伝導性が導体と絶縁体との中間の物質のこと。

注5)遷移金属ダイカルコゲナイド(Transition Metal Dichalcogenide, TMDs):

構成式がMX2で、遷移金属原子(M)と硫黄、セレン、テルルなどのカルコゲン原子(X)で構成される物質群のこと。

注6)テルライド材料:

テルルを含む材料で、テルル化カドミウムやテルル化ビスマスなどがある。

注7)銅-テルル化合物:

銅とテルルから構成され、組成と結晶構造で性質が変化する。

注8)ブロック共重合体:

二種類の異なるポリマーが連結した高分子化合物のことで、ブロック共重合体はナノ構造を発現する自己組織化材料としても知られている。

注9)メソ孔:

直径2 nm以下の細孔をマイクロ細孔、直径2–50 nmの細孔をメソ細孔、直径50 nm以上の細孔をマクロ細孔と定義されている。

注10)エアマス1.5G:

エアマスとは太陽光のスペクトルを表し、大気通過量のこと。エアマス1.5はその通過量が1.5倍での到達光を表している。

注11)エネルギーペイバックタイム:

電力や熱などのエネルギーを生産するエネルギー設備の性能評価のこと。

【論文情報】

雑誌名:Journal of the American Chemical Society
論文タイトル:Mesoporous Metastable CuTe2 Semiconductor
著者:Aditya Ashok, Arya Vasanth, Tomota Nagaura, Caitlin Setter, Jack Kay Clegg, Alexander Fink, Mostafa Kamal Masud, Md Shahriar Hossain, Takashi Hamada, Miharu Eguchi, Hoang-Phuong Phan, and Yusuke Yamauchi
DOI: 10.1021/jacs.3c05846
URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.3c05846

131.4億光年 最遠方の原始銀河団

著者: contributor
2023年11月14日 14:04

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡とアルマ望遠鏡の最強タッグで、最遠方の原始銀河団を捉えることに成功

発表概要

日本の橋本拓也助教(筑波大学)とスペインのJavier Álvarez-Márquez研究員(スペイン宇宙生物学センター)を中心とし、早稲田大学理工学術院の菅原悠馬次席研究員井上昭雄教授も参加する国際研究チームは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡とアルマ望遠鏡を使った観測により、最も遠い131.4億光年かなたにある原始銀河団の中でも、とくに銀河が密集している大都市圏に相当する「コア領域」を捉えることに成功しました。多くの銀河が狭い領域に集まることで、銀河の成長が急速に進んでいることが明らかになりました。さらに研究チームはシミュレーションを活用して大都市圏の姿の将来予想をしたところ、数千万年以内には大都市圏が1つのより大きな銀河になることを明らかにしました。銀河の生まれと育ちに関わる重要な手がかりとなることが期待されます。

図1 (左)ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡とアルマ望遠鏡で調べた原始銀河団A2744ODz7p9の中でも銀河の密集した「大都市圏」の想像図。(右)「大都市圏」の未来予想図(数千万年後の姿)。Credit: 国立天文台

研究の背景

星の集団である銀河の中で、個々の星がどのようにして生まれ、死に、その残骸からまた新しい星が生まれていくのか、そしてその集団としての銀河がどうやって成長していくのかを知ることは、宇宙における私たちのルーツを知ることでもあり、天文学の重要なテーマです。100個以上もの銀河がお互いの重力で集まった集団は銀河団と呼ばれ、これは宇宙における最も大きな構造の一つです。地球に比較的近い銀河の観測から、銀河同士が密集した環境のほうが、個々の星の生死のサイクルが急速に進むことが知られており、これは「環境効果」と呼ばれています。しかし、宇宙の歴史において、この環境効果はいつごろから存在したのかは、よく分かっていませんでした。これを知るためには、宇宙が誕生して間もないころの銀河団の祖先を観測する必要があります。銀河団の祖先は原始銀河団と呼ばれ、10個程度の、およそ100億光年以上かなたの銀河の集団です。幸い、天文学では、遠くの宇宙を観測することで、昔の宇宙の姿を観測することができます。例えば、130億光年かなたの銀河からの光や電波は130億年の時間をかけて地球に届くので、今、私たちが観測するのは、130億年前のその銀河の姿なのです。ただし、130億光年もの距離を旅して届く光や電波はその間に弱まってしまうので、観測する望遠鏡には高い感度と空間分解能が求められます。

研究内容と成果

日本の橋本拓也助教(筑波大学)とスペインのJavier Álvarez-Márquez 研究員(スペイン宇宙生物学センター)を中心とする国際研究チームは、高い感度と空間分解能を持つジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST、可視光・赤外線を観測)とアルマ望遠鏡(電波を観測)を用いて、原始銀河団A2744z7p9ODの「コア領域」を調べました。原始銀河団A2744z7p9ODは、欧米の研究グループによるJWSTを用いた観測により、最も遠い131.4億光年[1]かなたの原始銀河団であることが発表されていました[2]。「しかし、この原始銀河団の中で最も銀河候補が多い『大都市圏』に当たる『コア領域』を隈なく観測することはできておらず、銀河の環境効果が始まっているかどうかは不明でした。そこで私たちは、コア領域に注目した研究をすることにしたのです。」と研究をリードした橋本拓也助教(筑波大学)は語ります。

研究チームはまず、この原始銀河団のコア領域のJWSTによる観測に挑みました。可視光から近赤外線までの波長をスペクトル観測する装置NIRSpecの面分光モードを用いることで、視野内のすべての場所のスペクトルを同時に取得することができます。得られた面分光の解析手法を改良しながら、高い空間分解能でコア領域を調べました。その結果、天の川銀河の半径のさらに半分相当の36,000光年を一辺とする四角形領域の中で、電離した酸素イオンの光 ([OIII] 5008Å)を4つの銀河から検出することに成功しました(図2左)。この光の赤方偏移(宇宙膨張により光源の銀河が遠ざかっていることによる波長の伸び)から、4つの銀河の地球からの距離は131.4億光年と同定されました。JWSTデータの解析をリードした菅原悠馬研究員(早稲田大学/国立天文台)は「共同研究者とともに苦心して解析したデータから、酸素イオンの光がほとんど同じ距離で4箇所も検出されたときは驚きました。コア領域の“銀河候補”は、確かに原始銀河団のメンバーだったのです。」と語ります。

さらに、研究チームは、この領域についてすでに取得されていた、アルマ望遠鏡による塵の出す電波の観測データに注目しました。解析の結果、4つの銀河のうち3つから、塵の出す電波を検出しました (図2右)。これは、これほど過去の時代にある原始銀河団として、塵が検出された初めての例です。銀河の中の塵は、銀河を構成している重い星々がその進化段階の終末期に引き起こす超新星爆発により供給され、それが新しい星の材料になると考えられています。このため、銀河に多量の塵があることは、銀河内の第1世代の星の多くがすでに一生を終えており、銀河の成長が進んでいることを示しています。研究チームの立ち上げ時から本研究に携わったLuis Colina教授(スペイン宇宙生物学センター)は、「同じ原始銀河団のうち、コア領域以外の密集していない銀河では、塵は検出されませんでした。これは、多くの銀河が狭い領域に集まることで銀河の成長が急速に進んでいることを示しており、138億年前の宇宙誕生からわずか7億年余りの時代に環境効果が存在していたと考えられます。」と研究の意義を語ります。

図2. 背景のカラー画像はJWSTに搭載されたカメラで取得された、原始銀河団A2744ODz7p9のコア領域の光の強度(青→緑→黄→赤の順に強くなる)のマップ。光が強い箇所に銀河の候補が存在することを示す。四角形領域の一片は、天の川銀河の半径のさらに半分程度の大きさに相当する。(左) 等高線はJWSTに搭載された装置NIRSpecで取得した電離酸素の放つ光の分布を表す。4つの銀河が、131.4億光年かなたに同定された。(右)等高線はアルマ望遠鏡で取得した塵の放つ電波の分布を表す。4つの銀河のうちの3つから塵の放射が認められる。図中左下の白丸は、アルマ望遠鏡データのビームサイズを表す。
Credit: JWST (NASA, ESA, CSA), ALMA (ESO/NOAJ/NRAO), T. Hashimoto et al.

さらに、研究チームは、このコア領域に密集した4つ銀河が、どのように形成され、進化するのかを理論的に検証するため、銀河形成シミュレーションを行いました。その結果、観測された天体と同じく宇宙が誕生してから6.8億年のころに、図3(a)のようなガスの粒子が密集した領域が存在し、図3(b)のように拡大をすると狭い領域に密集した4つの銀河が形成されることが示されました。この4つの銀河の進化を追うために、シミュレーションでは、銀河を構成する星やガスの運動、化学反応、星の形成や爆発現象といった物理過程を計算しました。すると、数千万年という、宇宙の進化のタイムスケールとしては短い時間で合体し、より大きな銀河に進化することが示されました。「今回の観測銀河の再現は、我々のシミュレーションが高い空間分解能と多数の銀河サンプルを有するからこそ可能でした。今後はコア領域の形成メカニズムやその力学的性質を詳細に探っていきたいです。」とシミュレーションデータの解析を行なった仲里佑利奈大学院生(東京大学)は語っています。

図3. 銀河形成シミュレーションによる本天体の成⻑の予想。(a)宇宙年齢 6.89 億年における原始銀河団 A2744z7p9OD に似た領域のガスの密度の様子。(b)は(a)のコア領域の拡大図で、JWST で観測された領域相当の領域。図の濃淡は、酸素イオンの光の分布を示す。(b)から(d)は、シミュレーション天体の進化の様子。4つの銀河が次第に合体を繰り返して、より大きな天体へと進化する様子を表す。Credit: T. Hashimoto et al.

Javier Álvarez-Márquez 研究員 (スペイン宇宙生物学センター)は、「今後、原始銀河団A2744z7p9ODについて、アルマ望遠鏡でさらに高感度の観測を実施し、これまでの感度では見えなかった銀河が存在するかどうかを調べます。また、今回その威力が実証されたJWSTとアルマ望遠鏡のタッグによる観測をより多くの原始銀河団に適用し、銀河の成長メカニズムを明らかにしていくことで、宇宙における我々のルーツに迫ります。」と展望を語っています。

論文情報

この観測成果は、T. Hashimoto et al. “Reionization and the ISM/Stellar Origins with JWST and ALMA (RIOJA): The core of the highest redshift galaxy overdensity confirmed by NIRSpec/JWST’’として天文学専門誌 The Astrophysical Journal Letters に2023年8月30日付で受理され、今後掲載予定です。

研究成果は日本天文学会2023年秋季年会で9月20日に発表いたしました。

今回の研究を行なった研究チームのメンバーは、以下の通りです。

橋本 拓也(筑波大学)、Javier Álvarez-Márquez(スぺイン宇宙生物学センター)、札本 佳伸(千葉大学)、Luis Colina(スペイン宇宙生物学センター)、井上 昭雄(早稲田大学)、仲里 佑利奈(東京大学)、Daniel Ceverino (マドリード自治大学)、吉田 直紀(東京大学、Kavli IPMU)、Luca Costantin(スペイン宇宙生物学センター)、菅原 悠馬(早稲田大学、国立天文台)、Alejandro Crespo Gómez (スペイン宇宙生物学センター)、Carmen Blanco-Prieto (スペイン宇宙生物学センター)、馬渡 健(筑波大学)、Santiago Arribas (スペイン宇宙生物学センター)、Rui Marques-Chaves (ジュネーヴ大学)、Miguel Pereira-Santaella(スペイン基礎物理学研究所)、Tom J.L.C. Bakx(チャルマース工科大学)、萩本 将都(名古屋大学)、橋ヶ谷 武志 (京都大学)、松尾 宏 (国立天文台、総合研究大学院大学)、田村 陽一(名古屋大学)、碓氷 光崇(筑波大学)、任 毅 (早稲田大学)

助成金情報

この研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(課題番号 20K14516、22H01257、22H04939、23H00131)、日本学術振興会卓越研究員事業(HJH02007)、ALMA 共同科学研究事業(2020-16B)、the Spanish Ministry of Science and Innovation/State Agency of Research (PIB2021-127718NB-100)、Program “Garantía Juveníl” from the “Comunidad de Madrid” 2021 (CM21 CAB M2 01)、Co- munidad de Madrid under Atracción de Talento (2018-T2/TIC-11612)、the Ramón y Cajal program of the Spanish Ministerio de Ciencia e Innovación (RYC2021-033094-I )の補助を受けて行われました。

 

アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾国家科学及技術委員会(NSTC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宇宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。

注釈

[1] 今回の天体の赤方偏移は、z = 7.88でした。これをもとに最新の宇宙論パラメータ(H0 = 67.7 km/s/Mpc, Ωm = 0.3111, ΩΛ =0.6899 )で距離を計算すると、131.4億光年になります。

[2] A2744z7p9ODは、欧米の研究グループを率いる森下貴弘研究員(カリフォルニア工科大学)らによって最初に距離が決定されました。

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