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金属ガラスの電子顕微鏡像に現れた”明るい点”の正体に迫る

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2026年5月28日 16:54

金属ガラスの電子顕微鏡像に現れた”明るい点”の正体に迫る
~高分解能像の解析から柱状原子配列の存在を示唆~

発表のポイント

  •  Zr-Pt金属ガラス※1に20面体原子クラスター※2とそれに類似する構造を持つ歪んだ20面体原子クラスターが支配的に存在し、それぞれ異なる空間分布の特徴があることを見出しました。
  •  20面体原子クラスターは互いに入り込むような形で中距離秩序構造※3を形成し、比較的短い柱状原子配列※4を作ることが知られています。本研究では、その中心軸に沿った原子列が高分解能透過型電子顕微鏡※5像(高分解能像)に輝点として現れることを明らかにしました。
  •  さらに、歪んだ20面体原子クラスターを含めた様々な種類の原子クラスターが一方向に結合し、想定されていた中距離秩序構造よりも大きな柱状原子配列を形成することを初めて示しました。この構造は高分解能像に特に強い輝点として現れることが明らかとなりました。
  •  これにより、従来解釈が複雑とされてきたガラスの高分解能像を、柱状原子配列をもとにすることで、より直感的に解釈できる可能性が示されました。今後、金属ガラスや他のガラス物質の構造を理解するための新たな理論の確立につながることが期待されます。

合金のガラス形成過程において、異なる構造的特徴を持つ原子クラスターの挙動、または原子クラスターの接続によって形成される中距離秩序構造は、金属ガラスの機械的強度などの性質の起源を探る上で重要なため、多くの研究者の注目を集めています。しかし、ガラス構造には結晶構造のような周期性がないことから、実験で撮影した高分解能透過型電子顕微鏡※5像(高分解能像)には明確な輝点の周期配列が現れないため、その解釈が困難であることが知られています。
早稲田大学の査思源(Zha Siyuan)助手と平田秋彦(ひらたあきひこ)教授の研究グループは、Zr-Pt合金のガラス構造に関して、分子動力学シミュレーションと透過型電子顕微鏡による観察を組み合わせ、20面体を含む種々の原子クラスターが一列に並ぶ柱状原子配列の特徴を調べ、それらの柱の中心軸が高分解能像中で中距離秩序構造に起因する明瞭な輝点として現れることを明らかにしました。
本研究は、金属ガラスの構造を理解するための新たな視点を提供するものであり、金属ガラスや他のガラス物質の構造を理解するための新たな理論の確立につながることが期待されます。
本成果は、2026年5月12日(火)に『Acta Materialia』で公開されました。

図1(左上)20面体原子クラスターおよび歪んだ20面体原子クラスターからなる中距離秩序構造。比較的短い柱状原子配列に対応する。(右上)実験で金属ガラスから得られた高分解能像。(左下)分子動力学シミュレーションで得られた金属ガラスモデルから計算した高分解能像。(右下)種々の原子クラスターからなる大きいサイズの柱状原子配列。左上や右下の柱状中距離秩序構造の中心軸に沿った原子の並びが、柱の軸方向から見た際の像中の輝点に対応する。右下の配列からは、左上のものと比べて、より輝度の高い輝点が期待される。

これまでの研究で分かっていたこと

1960年代、金属を液体から急冷することによって、金属ガラスが初めて作られました。金属ガラスはランダムな原子配列を示していますが、そのランダムな中に秩序が潜んでおり、金属ガラスの構造的特徴を解明するため、多くの研究がこれまで行われてきました。
原子クラスターは金属ガラスの基本構造単位として、それぞれ異なる構造的特徴を示しています。原子クラスター同士は、一部の原子を共有する形で互いに接続して、数ナノメートルの直径を持つ中距離秩序構造を形成していることが示唆されています。例えば、計算機シミュレーションによるモデル作成の手法を用いて、金属ガラスの中距離秩序構造の特徴がこれまで議論されてきました(S. Y. Wang et al., Phys. Rev. B 78, 184204 (2008))。
一方で、そのような金属ガラスの中距離秩序構造を実験的に解明するのは容易ではありません。その理由は、金属ガラスの構造には結晶構造のような周期性が無いことから、全体から得られる構造情報は平均化されたものになってしまうためです。そこで、局所的な領域を観察できる透過型電子顕微鏡観察を用いて、中距離秩序構造に対応する局所秩序領域の存在がこれまで示唆されています(Y. Hirotsu et al., Microsc. Res. Tech. 40, 284-312 (1998)、J. Saida et al., J. Appl. Phys. 90, 4717–4724 (2001))。しかし、ガラス構造から得られた高分解能像をどのように解釈するかに関しては、未だ不明な点が多く残されていました。

新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

これまで、結晶構造のような周期性を持たないガラス構造に対する高分解能像は、非常に複雑なことからその解釈が困難でした。今回、早稲田大学の査思源(Zha Siyuan)助手と平田秋彦(ひらたあきひこ)教授の研究グループは、実験で得られたガラス物質の高分解能像を観察する中で、著しく明るい輝点コントラストが至る所に含まれていることに気づきました。この輝点コントラストの起源を調べるため、代表的な金属ガラスの1つであるZr系合金を選び、高分解能像観察と計算機シミュレーションを組み合わせることで研究を進めました。
今回、研究対象としたZr80Pt20合金は、高いガラス形成能※6を持つことが知られており、金属ガラスに関する多くの研究で扱われています。まず、分子動力学シミュレーションによって構造モデルを作成し、ボロノイ多面体解析※7から、20面体原子クラスターと歪んだ20面体原子クラスターが支配的であることが分かりました。さらに、この二種類の原子クラスターの分布特徴を調べたところ、20面体原子クラスターは互いに入り込み、相互貫入型の中距離秩序構造をより多く形成し、密集する傾向があります。一方、歪んだ20面体原子クラスター同士は多面体の面または辺を共有する形でより長い距離で接続する傾向があり、広がりを持つ構造を形成していました。
さらに、本合金に対する高分解能像観察も行い、上述したような著しく明るい輝点コントラストが像中に見られることが分かりました。この輝点に対応する構造を見出すため、分子動力学シミュレーションによって作成した構造モデルを用い、高分解能像を計算することにより、実験結果との比較を行いました。計算像は、実験像に見られる輝点の位置や強度を一対一に再現するものではありませんが、電子線入射方向に沿って原子クラスターが柱状に連結した領域では、その中心軸に沿った原子の並びが局所的に高い輝度を与えることが分かりました。このことから、実験像に現れる明るい輝点の有力な起源として、20面体原子クラスターのみで構成されたものだけでなく、種々の原子クラスターが電子線入射方向に沿って接続することで形成された柱状原子配列の存在を示しました。
今回の研究によって、これまで不明な点が多かったガラス構造の高分解能像に新たな解釈を与えたため、今後、ガラス構造の研究自体に新たな視点をもたらすことが期待されます。

研究の波及効果や社会的影響

  • 金属ガラス構造中に支配的に存在する二種類の原子クラスターが全く異なる分布特徴を示すことが見出され、金属ガラスの構造に対する理解が深まりました。このような構造不均一性は、金属ガラスのダイナミクスや物性に影響を与えると予想され、新たな発展が期待されます。
  • 実験結果と計算結果の比較により、これまで不明な点が多かったガラス構造の高分解能像の解釈に新たな視点を与えました。これにより、これまでに気づかれていなかった大きいサイズの柱状原子配列が初めて見出され、金属ガラスの基礎研究に新たな視点を提供しました。今後、柱状原子配列の構造的特徴や3次元的配列などについて詳しく調べることで、新たな発見が期待されます。

課題、今後の展望

今回の研究で、Zr-Pt合金における20面体を含む様々な原子クラスターが連なった柱状原子配列が見出され、その柱の中心軸に沿った原子列が高分解能像の輝点の起源になっていることを示しました。しかし、柱状原子配列については、その構造的特徴の定量解析や構造中の多面体分布状況を、より詳細に調べる必要があります。さらに、柱状原子配列の形成が機械的性質などの物性に与える影響や、それがガラス物質全般について一般的なものであるか、という課題について、他のガラス物質を用いて検証する必要があります。

研究者のコメント

  • 今回の研究で、高分解能像に多く含まれている輝点コントラストに着目し、実験結果と計算結果の比較により、その起源と考えられる柱状原子配列が見出されました。なかでも、20面体だけでなく複数種の原子クラスターからなるサイズの大きい柱状原子配列に関してはこれまでに注目されておりませんでしたが、今後、金属ガラスの基礎研究における一つの視点として、発展が期待されます。(査思源)
  • ガラス物質から得られる高分解能像は複雑であり、その解釈は簡単ではありませんでした。我々は、これまで局所電子回折や計算機シミュレーションを用いて、アモルファス構造に潜む秩序の解明に取り組んできました。今回、改めて高分解能像中の特に明るい輝点に着目することで、これまで見出されていなかった特徴を持つ柱状原子配列を見出しました。他のガラス物質においても、同様のコントラストが見られることが多いことから、ガラス物質に普遍的な特徴であることが期待されます。(平田秋彦)

用語解説

※1 金属ガラス
規則正しい原子配列を持つ金属結晶とは異なり、原子が不規則に配列している固体金属材料です。

※2 原子クラスター
数個から十数個の原子からなる局所構造で、通常0.5nm以下の半径のものを示します。金属ガラスの基本構造単位として扱われることが多いです。

※3 中距離秩序構造
原子クラスターの接続によって形成される構造で、1~2ナノメートルのスケールを持つものです。

※4 柱状原子配列
中距離秩序構造のうち、特に原子クラスターが直線状に連なって接続しているものを指します。コラム状原子配列とも呼ばれます。

※5 透過型電子顕微鏡
加速された電子を薄膜試料に照射し、透過した電子を用いて回折や像を得る顕微鏡です。これにより、原子スケールの観察が可能となります。

※6 ガラス形成能
合金系を液体から冷却したときに、ガラス状態になる能力を指します。ガラス形成能が高いほど、ガラス状になりやすいです。

※7 ボロノイ多面体解析
原子クラスターの構造的特徴を幾何学的観点で分類するための数理的手法です。

キーワード

金属ガラス、原子クラスター、中距離秩序構造、透過型電子顕微鏡、分子動力学シミュレーション

論文情報

雑誌名:Acta Materialia
論文名:Columnar atomic arrangements in Zr-Pt metallic glasses and their appearance in high-resolution electron microscopy
執筆者名(所属機関名):査思源(早稲田大学、筆頭)平田秋彦(早稲田大学)*
掲載日時(現地時間):2026年5月12日
掲載日時(日本時間):2026年5月12日
掲載URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1359645426004465
DOI:https://doi.org/ 10.1016/j.actamat.2026.122344
*:責任著者

研究助成

研究費名:科学研究費 挑戦的研究(萌芽) 課題番号:23K17837
研究課題名:ガラス構造における擬格子面と位相幾何的秩序
研究代表者名(所属機関名):平田 秋彦(早稲田大学)

ムーンショット型研究開発制度のプロジェクトマネージャーに尾形哲也教授が決定

著者: contributor
2026年5月28日 16:53

🤖 AI Summary

早稲田大学の尾形哲也教授が「ムーンショット型研究開発制度」における目標3プロジェクトマネージャーに選ばれました。この制度は、2050年までにAIとロボットが共進化し、人間と共存するスマートロボットを実現するための研究開発プロジェクトです。

「ムーンショット型研究開発制度」は、日本の破壊的イノベーションの創出を目指す新しい制度で、内閣府が統括しています。この制度は総合科学技術・イノベーション会議で決定された10の目標に基づいており、各目標に対する全体責任者であるプログラムディレクターの下でプロジェクトマネージャーが活動します。

尾形教授の具体的な研究開発プロジェクトは「一人に一台一生寄り添うスマートロボットAIREC」です。このプロジェクトは、2050年までに人間と共生するロボットを実現することを目指しています。

このたび、内閣府が統括する「ムーンショット型研究開発制度」における目標3に、本学から尾形哲也教授がプロジェクトマネージャーとして決定されました。

 

プロジェクトマネージャー

尾形哲也(理工学術院・教授)

 

研究開発プロジェクト

「一人に一台一生寄り添うスマートロボットAIREC 」

 

ムーンショット型研究開発制度

日本発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来技術の延長にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発(ムーンショット)を推進する新たな制度で、内閣官房、内閣府、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省等が連携し、研究開発を推進します。総合科学技術・イノベーション会議で決定された10のムーンショット目標について、各目標における研究開発全体責任者であるプログラムディレクターの下、プロジェクトマネージャーは、ムーンショット目標達成および研究開発構想実現に至るシナリオの策定、研究開発プロジェクトの設計、研究開発体制の構築、研究開発プロジェクトの実施管理などを行います。

ムーンショット目標

1. 2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現

2.2050年までに、超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現

3.2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現

4.2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現

5.2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出

6.2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現

7.2040年までに、主要な疾患を予防・克服し100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現

8.2050年までに、激甚化しつつある台風や豪雨を制御し極端風水害の脅威から解放された安全安心な社会を実現

9.2050年までに、こころの安らぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会を実現

10.2050年までに、フュージョンエネルギーの多面的な活用により、地球環境と調和し、資源制約から解き放たれた活力ある社会を実現

独創性を発揮する、気鋭の研究者たち(理工学術院 和佐泰明准教授)

著者: contributor
2026年5月28日 15:02

🤖 AI Summary

早稲田大学は、「PI飛躍プログラム」を通じて独創的な研究者を支援しています。2026年度には13名の中から和佐泰明准教授を含む3名が選ばれました。

和佐准教授の専門は制御工学で、彼は社会システム全体を「Cyber-Physical Human Systems(CPHS)」と捉え、その制御設計を探求しています。具体的には、自動車や電力市場など多様な領域での制御技術を研究し、複数の対象から構造的な課題を見出し解決策を設計します。

早稲田大学のPI飛躍プログラムは2022年に新設され、独創的で学内原則的に博士学位取得後15年以内の若手研究者を支援しています。採択された研究者は研究促進費や国内外の研究ネットワーク構築などの支援を受けられます。

和佐准教授が今後どのような成果を生み出すか注目されるところです。このプログラムは、多様な分野からの支援により若手研究者の成長を促しています。

理工学術院 森 達哉 教授が令和8年度「情報通信功績賞」を受賞

著者: contributor
2026年5月28日 14:53

🤖 AI Summary

理工学術院の森達哉教授が令和8年度「情報通信功績賞」を受賞しました。この賞は、総務省及び情報通信月間推進協議会により、電波利用又は情報通信の発展に貢献した個人及び団体に対して授与されます。

【主な内容】
- 受賞者:森達哉 教授(理工学術院・教授)
- 受賞理由:AI、IoT、Webなどに関するサイバーセキュリティの研究に長年従事し、先進的な研究成果と高度人材の育成を通じて我が国のサイバーセキュリティ分野の発展に寄与。また、政府におけるAIセキュリティ政策の推進にも尽力しました。

- 令和8年度情報通信功績賞は計5件の受賞があり、そのうち個人4件、団体1件です。

この表彰は森教授の長期的な研究と貢献を称えるもので、彼の業績は日本のサイバーセキュリティ分野の発展に大いに貢献していると評価されています。

総務省及び情報通信月間推進協議会は、令和8年度の「電波の日」(6月1日(月))及び「情報通信月間」(同年5月15日(金)から6月15日(月)まで)にあたり、電波利用又は情報通信の発展に貢献した個人及び団体を表彰しています。この度、理工学術院の森達哉教授が令和8年度の情報通信月間推進協議会会長表彰「情報通信功績賞」を受賞しました。

【受賞者】森 達哉 (理工学術院・教授)

【受賞理由】AI、IoT、Web等に関するサイバーセキュリティの研究に長年従事し、先進的な研究成果の創出と高度人材の育成を通じて我が国のサイバーセキュリティ分野の発展に寄与するとともに、政府におけるAIセキュリティ政策の推進にも尽力し、我が国の安全・安心なサイバー空間の実現に多大な貢献をした(総務省ホームページより抜粋)。

なお、令和8年度の「情報通信功績賞」は、個人4件、団体1件の計5件が受賞しました。

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