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脱細胞化技術を用いた膝前十字靭帯再建用の組織再生型靭帯 治験開始

著者: contributor
2024年11月12日 11:03

脱細胞化技術を用いた膝前十字靭帯再建用の組織再生型靭帯 治験開始
健康な組織を採取せずに組織再生が可能になり、再建手術の新たな治療方法に

概要

早稲田大学理工学術院の岩﨑 清隆(いわさき きよたか)教授、東京女子医科大学の岡崎 賢(おかざき けん)教授、伊藤 匡史(いとう まさふみ)講師、CoreTissue BioEngineering株式会社らの研究グループは、脱細胞化技術※1を用いた膝前十字靭帯再建用の組織再生型靭帯について、治験を開始します。

図:前十字靭帯の位置(左)と組織再生型靭帯のイメージ(右)

膝前十字靭帯再建術を受ける患者は、日本で年間約1万9千人、世界では年間80万人以上いると推定されています。膝前十字靭帯再建術においては、患者自身の健康なハムストリング腱(太ももの裏側にある腱)や膝蓋腱等を採取し、それを加工して靭帯を再建する、体に負荷のかかる治療が世界的な標準治療となっています。

本研究グループでは、生体組織を材料として、独自の脱細胞化処理と凍結乾燥・滅菌処理を用い、膝前十字靭帯再建後に患者自身の細胞が浸潤し、最終的に靭帯が再生する医療機器を開発しています。本開発品の中核となる技術は、「厚い生体組織からでも細胞成分を効率よく除去できる脱細胞化技術」と「組織の力学強度を維持する凍結乾燥・滅菌技術」であり、これらの技術により、課題であった「耐久性」と「生体親和性」が同時に図られ、化学合成品等では不可能であった靭帯再建用医療機器の実用化が可能となります。

このたび、独立行政法人医薬品医療機器総合機構に提出していた治験届が受理され、10月11日には東京女子医科大学の倫理委員会にて治験実施が了承されました。これを受け11月より治験の1例目を実施することとなりました。

現在の治療方法における課題

膝関節にある前十字靭帯は大腿骨と脛骨をつなぐ重要な組織であり、損傷が生じた場合再建手術を行います。再建手術を受ける患者は、日本で年間約1万9千件に上りますが、治療後の再度の損傷リスクも高いことが課題です。

膝前十字靭帯の再建手術では、グラフトと呼ばれる靭帯の代替組織を骨に開けられた穴に固定します。グラフトの材料は、主に患者のハムストリング腱や骨を一部つけた状態での膝蓋腱です。術後に再発しないためには、太い腱が必要で、世界的な水準は径8mm以上とされています。しかしハムストリング腱のサイズには個人差もあり、実際には8mmに満たないことが多く、加えて、ハムストリング腱の採取に伴って、神経麻痺や筋力低下が発生することもあります。膝蓋腱では、術後に膝前部の痛みが長引き、膝伸展機能が低下することもあります。また、複数の靭帯を損傷した場合には、採取する腱自体が不足してしまいます。

今回の研究で新しく開発した技術

本研究グループでは、こうした課題に対し、患者の組織ではなくウシ腱の組織構造を利用した再建組織を作り出す技術を開発しました。

哺乳類はコラーゲンなどの構造が共通であり、ウシの腱には太さがあるため、膝前十字靭帯再建用の組織として適しています。しかし、そのまま移植すると炎症などの免疫反応を起こしてしまうため、新たに脱細胞化技術を開発し、組織の中にある免疫源となる細胞成分だけを、組織を破壊することなく除去することに成功しました。また、細胞を取り除いて凍結乾燥した組織を滅菌後にも、独自技術により滅菌後に水分のある組織に戻すことに成功しました。

ヒツジに対して、脱細胞化した腱とヒツジ自身の腱を用いて膝前十字靭帯の再建手術を実施したところ、再建組織(靭帯)と骨がしっかりと固着するとともに、術後3カ月後と1年後を比較すると1年後にコラーゲンの密度が上昇していることも分かりました。つまり、再建組織にヒツジ自身の細胞が入り込み、自らの細胞が自己組織を再生しだして機能しているということであり、人工材料では実現できない優れた生体適合性が明らかとなりました。

研究の波及効果や社会的影響

前十字靭帯損傷を損傷して手術を必要とする患者は、全世界で年間約80万人いるとされています。また本技術は、肩や肘、足首の腱の損傷にも応用できることが期待され、スポーツ医療の世界で革新を起こせると考えています。

研究者のコメント

膝前十字靭帯損傷の治療では、患者さんご自身から腱を採取して再建に用いる治療しか選択肢がありません。再度の断裂のリスクを低減するためには、太い再建組織が必要とされていますが、十分な太さの腱が採取できないことも少なからずあり、ご自身の腱を採ることによる筋力低下や神経障害、痛みの継続や膝伸展機能が低下することもあります。再度断裂することも10%程度で起こります。また、再々断裂や事故等で前十字靭帯と後十字靭帯を同時に損傷・断裂した場合には、望ましい状態に治療できないことも多いです。

開発した組織再生型靭帯は、体内で患者さんご自身の細胞が入り、組織が作られてご自身の組織に置き換わり、文字通り“靭帯化”そして“人体化”するこれまでの医療機器にはない価値を届けるものです。ご自身の腱を採る必要が無くなり、採ることにより発生する障害が無くなります。再建治療を必要とするすべての患者さんに、ご自身の組織に置き換わる再生型靭帯を提供することが可能となります。肩や肘、足首の腱や靭帯の損傷にも応用できるように、開発した技術を用いてさらなる組織再生型治療機器の研究開発を続けています。アスリートを含むスポーツをする方々にとって、ご自身の組織を採ることによる負担がなく膝が安定して機能し、何度でも復帰できることは、かけがえのない価値につながるはずです。この技術によって、少しでも多くの方々の心配が無くなり、豊かな人生を送る手助けとなれば、これほど嬉しいことはありません。

東京女子医科大学、CoreTissue BioEngineering株式会社との共同記者会見で説明する岩﨑教授

用語解説

※1 脱細胞化技術

動物組織から免疫反応を引き起こす可能性のある細胞成分を除去し、体内に移植するとそれを足場として自己の組織を再生させる技術1),2)
1) 岩﨑清隆, 脱細胞化組織による生体内自己組織構築, バイオマテリアル, 42(4), 202
2) Itoh M, Imasu H, Takano K, Umezu M, Okazaki K, Iwasaki K, Time-series biological responses toward decellularized bovine tendon graft and autograft for 52 consecutive weeks after rat anterior cruciate ligament reconstruction, Scientific Reports 12:6451, doi:10.1038/s41598-022-10713-y, 2022

高性能高耐久性水電解セルを可能とするアニオン膜を開発

著者: contributor
2024年11月11日 14:58

高性能高耐久性水電解セルを可能とするアニオン膜を開発
~ポリフェニレン型高分子の置換基と組成の最適化で高導電率と安定性の両立が可能に~

山梨大学クリーンエネルギー研究センター・早稲田大学理工学術院の宮武 健治(みやたけ けんじ)教授らの研究グループは、電気エネルギーを用いて水素と酸素を得る水電解デバイスの性能を大幅に向上させる新たなアニオン膜※1、Quaternized Terphenylene Alkyl Fluorene(QTAF)の開発に成功しました。このQTAF膜はポリフェニレン型高分子※2の構造や置換基、共重合組成を新たに設計することにより実現され、常温から80℃の温度範囲で高い水酸化物イオン導電率(>100mS/cm)を示すとともに、膜厚50μm以下の薄膜にしても強靭な強度と気体バリア性を併せ持っています。その結果、高濃度のアルカリ水溶液(8M KOH水溶液)に長時間浸漬しても性能劣化や分解が起こりにくい特徴を有し、アルカリ水電解セル※3の電解質として求められる多くの性能を満たしています。

本研究で開発したQTAF膜を電解質として用い、遷移金属合金(NiCoO)からなる酸素発生電極触媒と組み合わせることで、高電流密度(2.0A/cm2)でも低いセル電圧(1.72V)で運転可能な高性能な水電解セルを開発することができました。1000時間作動しても性能がほとんど低下しない耐久性も確認されました。水素発生電極触媒の非貴金属化や更なる高電流密度化、電解条件の簡素化、スケールアップ、など解決すべき課題は残されていますが、低炭素社会に貢献するエネルギーデバイスの可能性を示すことができた成果であります。

発表のポイント

  • 側鎖にアンモニウム基を置換したポリフェニレン型高分子を用いて、水酸化物イオン導電率とアルカリ安定性に優れるアニオン膜を開発した。
  • 疎水性置換基とその組成の効果を最適化することにより、アニオン膜の導電率は170mS/cm(水中80℃)にまで達した。
  • 開発したアニオン膜と遷移金属系合金の酸素発生電極触媒を用いた水電解セルは、高性能(電流密度が2.0A/cm2でセル電圧が1.72V)と高耐久性(1000時間)を達成した。
  • 再エネ電力などを用いたグリーン水素製造デバイスとしての展開が期待できる。

図1:本研究で開発したアニオン膜QTAFの構造と写真。ベンゼン環を主骨格とする構造に少量のフッ素系置換基を組み合わせた構造が、イオン導電率と安定性の両立を可能にする。

本研究成果は、2024年9月29日(日)にドイツ化学会が発行するハイインパクトな学術雑誌『Advanced Energy Materials』のオンライン版で公開されました。

【論文情報】

雑誌名:Advanced Energy Materials
論文名:Polyphenylene-Based Anion Exchange Membranes with Robust Hydrophobic Components Designed for High-Performance and Durable Anion Exchange Membrane Water Electrolyzers Using Non-PGM Anode Catalysts
DOI:10.1002/aenm.202404089

これまでの研究で分かっていたこと

アニオン導電性高分子電解質膜(通称、アニオン膜)を用いるアニオン膜型水電解は、アルカリ水溶液を用いるアルカリ水電解の利点(貴金属触媒が不要で大規模化が容易)とプロトン膜型水電解の利点(高電流密度が可能で変動に対する応答性が高い、高純度の水素が得られる)を併せ持ち、非貴金属系の電極触媒やセパレータを用いることにより、プロトン膜型水電解に比べて高効率化と低コスト化のいずれもが優位となる可能性を持っている。しかし、現在のところ耐久性に優れるアニオン膜およびそれと組み合わせて高性能を発揮できる非貴金属電極触媒が開発途上段階であり、技術成熟度レベル(TRL)は3~4程度にとどまっている。日本は2030年ころの水素コスト目標値として30円/Nm3を掲げておりますが、この目標を達成するための水電解技術としてアニオン膜型水電解のTRL向上が強く望まれています。

世界中で数多くのアニオン膜に関する研究がありますが、水酸化物イオン導電率と安定性はトレードオフ関係を示すことが知られており、共に改善するための分子設計指針は明確ではありませんでした。

今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

化学的に安定性が高いポリフェニレン型高分子を主骨格に選択し、高導電性を発現するための構造として側鎖アンモニウム基、機械強度と伸びを大きくする効果がある部分フッ素基を組み合わせる構造に着目しました。その結果、イオン交換容量(IEC)※4を3程度にまで大きくしても製膜性に優れるアニオン膜(QTAF膜)を作製することができました。得られたQTAF膜は従来までのトレードオフ関係を打破する優れた性能を示すことが明らかになりました。QTAF膜の各種物性を詳細に明らかにするとともに、水電解セルとしての性能実証にも繋げました。

今回、新しく開発した手法

ポリフェニレンの構成成分を疎水部と親水部とに分け、疎水部の構造にベンゼン環が3つ連結したターフェニル構造とし分子の剛直性を増加させました。また、真ん中のベンゼン環に2つのトリフルオロメチル基を置換することにより、重合反応性の向上(生成する高分子の分子量の増大)と有機溶媒性への溶解性も付与する設計にしました。これにより、分子量(重量平均分子量)が750,000を超える巨大分子を得ることができ、薄膜化しても優れた靭性と柔軟性を併せ持つとともに、水中での水酸化物イオン導電率として非常に高い値(173mS/cm)を達成できました。また、従来までの常識とは異なり、疎水部の構造が親水部(アンモニウム基)の化学安定性にも効果があることが新たに分かり、800時間を超える加速アルカリ耐久性試験にも耐えうることを実証しました。

本研究により開発したQTAF膜は遷移金属系の酸素発生電極触媒と組み合わせて水電解セルとして応用可能で、その性能は電流密度1.0A/cm2ではセル電圧1.62V、2.0A/cm2でもセル電圧1.72Vと優れています。長時間運転を模擬した耐久性試験でも、セル電圧の変化率はわずか1.1 µV/h(100~1000時間)でした。

図2:(a) 開発したQTAF膜の水酸化イオン導電率とIECの関係。QTAF膜を用いた水電解セルの(b)電解性能と(c)耐久性。

研究の波及効果や社会的影響

水電解は用いる電解質材料により幾つかの種類に分類され、アルカリ水電解やプロトン膜型水電解は開発が先行しており、すでに実用化も進められています。しかし変動が大きい再エネ由来の電源と組み合わせても優れた性能を示し、また貴金属触媒が不要なアニオン膜型水電解は、グリーン水素製造とそれを用いた低炭素社会実現のために欠かせない技術です。特に資源に乏しい日本では、貴金属を用いないエネルギーデバイスは死活的に重要です。本研究で開発したアニオン膜を用いれば、現状のプロトン膜型水電解と同等性能をより低価格で達成できる可能性があります。今後、触媒材料の高性能化・最適化や耐久性などを改善するとともに、セルの大型化、スタック化(セルを直列に繋ぐこと)を企業との共同研究で推進し、早期に実用化することを目指します。

今後の課題

本研究のQTAF膜には、性能向上のために部分的なフッ素構造(トリフルオロメチル基など)が含まれています。そのため、現在規制の準備が国際的に進められているパーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(いわゆるPFAS)の対象になる可能性があります。そのため、部分的なフッ素構造を含まない化合物で、本研究で達成できた高性能と高安定性を併せ持つアニオン膜の開発を進めています。また、今回の水電解セルでは水素発生電極触媒としては貴金属(多孔性のカーボン担体に担持したPtナノ粒子)を用いています。両極ともに貴金属を用いないアニオン膜型水電解セルの検討も行っています。

研究者のコメント

アニオン膜型水電解は高効率に低コストで高純度なグリーン水素を提供できる技術として期待されていますが、まだ構成材料の候補が定まっていない段階で世界中で開発競争が盛んに行われています。数年前からドイツのEnaptor社がアニオン膜型水電解水素製造装置の販売を始めていますが、まだ市場は大きくありません。

今後、我々のQTAF膜の改良を更に進めるとともに、酸素発生だけでなく水素発生電極触媒も低コストな非貴金属系化合物で置き換えることを計画しており、アニオン膜型水電解の利点をフルに発現できるデバイスとして仕上げていきたいと考えています。

用語解説

※1 アニオン膜
負電荷を持つイオン(アニオン)が伝導する膜材料の総称。高分子アニオン膜では、一般的に四級アンモニウムなどのカチオン基が高分子に固定されており、対イオンであるアニオンが移動することができる。本研究で開発したアニオン膜では、水酸化物イオンが伝導する。

※2 ポリフェニレン型高分子
ベンゼン環が連続して結合して高分子の主鎖構造を形成した化合物の総称。結合位置や置換基の有無などによって数多くの構造があり得る。本研究でアニオン膜の構造として用いた高分子主鎖にはフルオレン構造が含まれているが、これも広義のポリフェニレン型高分子に分類できる。

※3 水電解セル
水を電気分解して水素と酸素を作る装置。高濃度アルカリ水溶液、プロトン導電性高分子膜、固体酸化物など電解質材料によって分類される。

※4 イオン交換容量(IEC)
イオン交換樹脂の単位重量当たりの交換可能なイオン量のこと。本研究のアニオン膜の場合、膜1gあたりのアンモニウム基のモル数を表す。一般的にこの値が大きいとイオン導電率が高くなる。

論文情報

雑誌名:Advanced Energy Materials
論文名:Polyphenylene-Based Anion Exchange Membranes with Robust Hydrophobic Components Designed for High-Performance and Durable Anion Exchange Membrane Water Electrolyzers Using Non-PGM Anode Catalysts
執筆者名(所属機関名):Fanghua Liu、Kenji Miyatake (宮武 健治)**、Ahmed Mohamed Ahmed Mahmoud、Vikrant Yadav、Fang Xian、Lin Gio、Chun Yik Wong、Toshio Iwataki (岩瀧 敏男)、Yuto Shirase (白勢 裕登)、Katsuyoshi Kakinuma (柿沼 克良)、Makoto Uchida (内田 誠)
山梨大学 大学院
**早稲田大学 先進理工学部 応用化学科
掲載日時(ドイツ時間):2024年9月29日(日)
掲載日時(日本時間):2024年9月29日(日)
掲載URL:https://doi.org/10.1002/aenm.202404089
DOI:10.1002/aenm.202404089

研究助成

研究費名:JST 革新的GX技術創出事業
研究課題名:グリーン水素製造用革新的水電解システムの開発
研究分担者名(所属機関名):宮武 健治(山梨大学)

研究費名:文部科学省 データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト
研究課題名:再生可能エネルギー最大導入に向けた電気化学材料研究拠点(DX-GEM)
研究分担者名(所属機関名):宮武 健治(山梨大学)

研究費名:NEDO 燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業
研究課題名:アニオン膜型アルカリ水電解セルの要素研究と実用化技術の確立
研究代表者名(所属機関名):宮武 健治(山梨大学)

インジェクション攻撃による被害を防ぐためのソフトウェア修正技術を 世界にさきがけて実現

著者: contributor
2024年11月11日 14:55

インジェクション攻撃による被害を防ぐためのソフトウェア修正技術を世界にさきがけて実現
専門知識を持たない開発者でもソフトウェア開発段階で文字列操作の誤りを容易に修正

発表のポイント

  • ソフトウェアの脆弱性を悪用した攻撃の中でも重大な脅威とされているインジェクション攻撃の主要な原因とされている文字列操作の誤りを修正する技術を開発しました。
  • この技術により、専門知識を持たないソフトウェア開発者でも正規表現に起因する文字列操作の誤りの修正が開発段階で可能となりました。
  • サービスの運用段階におけるソフトウェアの誤りの修正には多大なコストがかかりますが、この成果により、開発段階で誤りが修正できるため、コストの軽減と安全なサービスの実現が期待されます。

日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)と学校法人早稲田大学(本部:東京都新宿区 理事長:田中愛治 以下、「早稲田大学」)は、情報漏洩やサービス停止の原因となり得るインジェクション攻撃による被害を防ぐための、ソフトウェアを構成するプログラム中の文字列関数を用いた文字列操作の誤り(バグ)を修正する技術を世界で初めて実現しました。

ソフトウェアの脆弱性を悪用した最も大きな脅威の1つであるインジェクション攻撃は、プログラム中の文字列操作の誤りが主要な原因であることが知られています。本技術により、専門知識を持たないソフトウェア開発者でも容易に文字列操作の誤りを開発段階で修正することが可能となります。サービスの運用段階におけるソフトウェアの誤りの修正には多大なコストがかかりますが、開発段階で誤りが修正できるため、コストの軽減と安全なサービスの実現が期待できます。

本技術の詳細は、米国カリフォルニア州サクラメントにて開催されるソフトウェア工学分野の最難関国際会議IEEE/ACM ASE 2024(※1)にて2024年10月30日(米国時間)に発表します。

背景

ソフトウェアの脆弱性を悪用した攻撃は現代社会における重大な脅威です。最も大きな脅威の1つにインジェクション攻撃があります。インジェクション攻撃は、サーバなどへの攻撃手法のひとつで、サーバで利用しているデータベースなどに対して不正な入力情報を送信して、予期しない動作を引き起こします。この攻撃をもたらす欠陥はインジェクション脆弱性と呼ばれ、プログラム中の文字列操作の誤り(バグ)が主な原因であることが知られています。

ソフトウェアを構成するプログラム中で文字列操作を記述する際には文字列関数が利用されます。文字列関数は多くのプログラミング言語で提供されており、文字列の抽出・置換検索などの文字列操作を記述するために頻繁に利用されています。

しかし、文字列関数を利用して文字列操作を行う際には文字列関数が利用する正規表現(※2)やその他の入力情報、文字列関数自体の仕様に関する専門的な知識が要求され、適切に記述することは難しいことが知られています。

文字列操作を伴うプログラムはさまざまなソフトウェアで幅広く利用され、WebサイトのフォームにユーザがWebブラウザ経由で入力した情報をWebサイト側で加工処理するなど多くのサービスを実現しています。文字列操作に誤りがあるとサービスの誤動作を引き起こし、情報漏洩やサービス停止の原因となる場合があり、サービスの運用段階におけるソフトウェアの誤りの修正には多大なコストがかかります。また、この誤動作を意図的に起こそうとするサイバー攻撃も顕在化しており、安全なサービスの実現を脅かすリスク要因となっています。

研究の成果

これまでNTTと早稲田大学は共同で、プログラム中で文字列を扱う操作により発生し得る脆弱性や誤りを自動修正する技術の研究を行ってきましたが、その対象は正規表現に限定されていました(※3、※4)。

本成果では、プログラム中の文字列関数を使った文字列操作の誤りを、ソフトウェア開発者が与える入出力例を基に修正する技術を世界で初めて実現し、正規表現を含む文字列操作にまで修正対象を広げることを可能としました。

役割
NTT:問題の形式化と修正手法の考案。
早稲田大学理工学術院 寺内多智弘教授:NTTが考案した手法の理論的な正確さの検証。

本技術のポイント

本技術は、インジェクション攻撃の主要な原因であるプログラム中の文字列操作の誤りをソフトウェア開発者が与える入出力例を基に修正し、修正結果に誤りがないことを保証する技術です。

本技術のポイントは、以下の通りです(図1)。

文字列関数に期待する入出力例を表記する方法を考案

従来的な入出力のみを提示する例を用いた場合と比べ、ソフトウェア開発者が文字列関数に期待する入出力例を入力と出力だけでなく入力のどの部分をどのように変換したいのかも含めて表記できるようになり、適切な修正結果の出力に寄与します。この表記は、プログラムが満たすべき入出力の例を基にプログラムを生成する「Programming by Examples (PBE)」メソッド(※5)を用いて与えます。

文字列関数の振る舞いを理論モデルとして厳密に定義

この定義を用いることで、修正対象の文字列関数に与える情報であるパラメータがすべての入出力例を満たすための条件を導き出すことが可能となります。本技術では、Webアプリケーションなどで広く利用されている ECMAScript 2023 (※6) に準拠した文字列関数の振る舞いを厳密に定義しました。これにより、修正結果がすべての入出力例を満たすことを保証できるようになります。

理論モデルに従い、例を全て満たす形に文字列関数のパラメータを修正する技術を考案

修正結果のパラメータとなり得る候補を、明らかに入出力例を満たさないものを除外しつつ網羅的に探索する手法を考案しました。この手法では、現実的な時間内に修正処理を終えることが可能となります。また修正結果が修正前のパラメータに対して最小限の変更による修正が可能となり、ソフトウェア開発者が目視で容易に修正結果を確認できるようになります。

本技術により、ソフトウェアの脆弱性を悪用した攻撃の中でも重大な脅威とされているインジェクション攻撃の主要な原因とされている文字列操作の誤りを開発段階で修正可能となるため、修正コストの軽減とソフトウェア開発の品質向上に貢献できるものと期待されます。

図1 文字列関数に対する処理の例

今後の展開

サービスの運用段階におけるソフトウェアの誤りの修正には多大なコストがかかりますが、本技術が利用されていくことで、ソフトウェアの開発段階で誤りが修正できるため、コストの軽減と安全なサービスの実現が期待できます。またAIを用いたプログラムの自動生成において、非熟練者がAIを用いて作成したプログラムに含まれる誤りにどう対処するのかという新しい問題も生まれています。文字列操作の誤りを修正する本技術は、AIによる自動化のメリットを損なうことなくプログラムの安全性向上に寄与できるものと期待されます。今後は、文字列操作に伴う脆弱性そのものを修正する技術の研究を進める予定です。

用語解説

※1.ASE
Automated Software Engineering はIEEE/ACMによって運営されるソフトウェア工学分野の最難関国際会議。本技術は、2024年10月27日~11月1日に開催されるIEEE/ACM ASE 2024(39th IEEE/ACM International Conference on Automated Software Engineering )にて、下記のタイトル及び著者で発表されます。

タイトル:Repairing Regex-Dependent String Functions
著者:Nariyoshi Chida (NTT Social Informatics Laboratories), Tachio Terauchi (Waseda University)
URL: https://doi.org/10.1145/3691620.3695005

※2. 正規表現
コンピュータで特定の文字の並び(文字列)をルールに基づき簡略化して表現する方法の1つで、特定の文字列のパターンを検索・抽出・置換するときに用いられる。

※3.プログラム中の文字列チェック機能の脆弱性を自動修正する技術を世界に先駆けて実現~専門知識をもたない開発者でもReDoS脆弱性の修正が容易に~
https://group.ntt/jp/newsrelease/2022/03/23/220323b.html

※4.プログラム中の文字列抽出機能を自動修正する技術を世界に先駆けて実現~専門知識をもたない開発者でも正規表現の修正が容易に~
https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/06/16/230616b.html

※5.ECMAScript 2023
ECMAScriptは、Webアプリケーションなどで広く利用されているプログラミング言語JavaScriptの標準規格。本技術は2023年に改定されたECMAScriptを対象に検証を実施。

※6 Programming by Examples (PBE)メソッド
プログラミングの知識を持たないエンドユーザでもプログラムを生成できるようにする手法の1つで、プログラムが満たすべき入出力の例を与えると、それを実現するプログラムを自動で生成する技術。

【参加者募集中】理工系研究者・大学院生対象:研究開発型スタートアップ対話イベント #3『研究には、お金が必要だ』

著者: contributor
2024年11月11日 14:51

#3 『研究には、お金が必要だ

研究資金を調達するには「資金計画」が必要

その計画をちょっと工夫すれば、「起業」できてしまう?!

資金計画の秘伝、教えます。

 

【講演者】
明石宗一郎 早稲田大学アントレプレナーシップセンター事業化アドバイザー

 

早稲田大学創造理工学部経営システム工学科を卒業後、外資コンサルティング、外資ソフトウェアなどの企業を経て、ベンチャーキャピタルにて大企業の新規事業や技術シーズをカーブアウトして成長させるビジネスクリエーションに従事。

開催概要・申込み

日時:2024.11.18 (月) 18:00 ~ 20:00 ※軽食をご用意します

会場:西早稲田キャンパス 55号館S棟1階 竹内記念ラウンジ

対象:主に若手研究者および博士課程院生

定員:20名程度

主催:早稲田大学アントレプレナーシップセンター

申込:下記リンク先から要事前申し込み(※軽食手配のため、11月13日(水)までにお申し込みください。)

“ White Space of Research”

研究の余白には何かある。
余白の中で、当たり前を疑えたなら、
そこに新しい価値を見い出せるかも知れない。
時間や雑務に追われ、充血した目で考え出した発想よりも、
非日常の出会いから生み出された発想にこそ
「面白い!」が隠れているような気がする。
 “White Space of Research”
出会いの数だけ、余白は広がる。

 

※研究開発型スタートアップ対話イベント Dialogue Meeting “White Space of Research” は、研究者の皆さんが研究成果の実用化・起業を身近に感じていただくことを目的として、アントレプレナーシップセンターが企画するダイアログ(対話)企画です。毎月1回開催を予定しています。今後の開催もお楽しみに。

電子線励起発光におけるキラル光学特性評価(2024/11/28)

著者: staff
2024年11月7日 12:40

演題:電子線励起発光におけるキラル光学特性評価

日時: 2024年11月28日(木) 16:30-18: 10

会場:早稲田大学 西早稲田キャンパス62号館大会議室A

講師:三宮 工

対象:学部生、大学院生、教職員

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 化学・生命化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

Finite Dimensional Projections of HJB Equations in the Wasserstein Space(2024/11/30)

著者: staff
2024年11月7日 11:25

演題:Finite Dimensional Projections of HJB Equations in the Wasserstein Space

日時: 2024年11月30日(土) 15:30-17:10

会場:早稲田大学西早稲田キャンパス55号館N棟1階第2会議室

講師:Andrzej Swiech

対象:大学院生・教職員・学外者・一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部応用物理学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

Unraveling some structural aspects of molybdenum nitrides (tentative)(2024/11/28)

著者: staff
2024年11月7日 11:03

演題:Unraveling some structural aspects of molybdenum nitrides (tentative)

日時: 2024年11月28日(木) 10:20-12: 00

会場:早稲田大学西早稲田キャンパス 62W号館 1F 大会議室A(東側)

講師:Dr Franck Tessier

対象:大学院生(応化、化学、ナノ理工)

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 応用化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

PET tracer development: From basic principles to real-life examples .(2024/11/14)

著者: staff
2024年11月6日 17:28

演題:PET tracer development: From basic principles to real-life examples .

日時: 2024年11月14日(木) 16:20-18: 00

会場:早稲田大学 121号館 3階 319会議室

講師:Anna Junker

対象:学部生、大学院生、教職員、学外者、一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 応用化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

Presentation title: Beat the Heat: Advancing Our Understanding of Heat Stress and Developing Effective Sustainable Interventions to Reduce Health Risks in a Warming World(2024/11/13)

著者: staff
2024年10月31日 15:34

演題:Presentation title: Beat the Heat: Advancing Our Understanding of Heat Stress and Developing Effective Sustainable Interventions to Reduce Health

日時:11月13日(水) 13:00-14: 40

会場:早稲田大学西早稲田キャンパス 61号館 314室

講師:Federico Tartarini

対象:主に大学院生、教職員

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:創造理工学部 建築学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

12/9-12 情報検索分野の国際会議ACM SIGIR-AP 2024

著者: staff
2024年10月28日 10:24

2024年12月9日(月)~12日(木)に西早稲田キャンパス63号館にて情報検索分野の国際会議ACM SIGIR-AP (アジアパシフィック) 2024を開催します。
基調講演には「ジェンダー格差」の著者牧野百恵先生(アジア経済研究所)と大規模言語モデルLLM-jpプロジェクト主宰の黒橋禎夫先生(国立情報学研究所)をお迎えしています。
参加登録締切は11/16(土)21時(レギュラー料金)、12/2(月)21時(レイト料金)です。ふるってご参加ください。

詳細はこちら
参加登録はこちらから

p-Brownian motion and the p-Laplacian(2024/11/11)

著者: staff
2024年10月25日 17:23

演題:p-Brownian motion and the p-Laplacian

日時: 2024年11月11日(月) 15:30-17: 40

会場:早稲田大学 西早稲田キャンパス 62号館 1階大会議室

講師:Michael Röchner

対象:大学院生、教職員、学外者

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:理工学術院基幹理工学研究科 数学応用数理専攻

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

関連リンク先:URL:https://sites.google.com/view/tokyo-probability-seminar23/2024年度

射影空間の直積のブローアップとして得られる対数的ファノ多様体について(2024/11/8)

著者: staff
2024年10月25日 16:59

演題:射影空間の直積のブローアップとして得られる対数的ファノ多様体について

日時: 2024年11月8日(金) 16:30-18: 10

会場:早稲田大学西早稲田キャンパス 51号館 18-08

講師:月岡 透

対象:一般

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:基幹理工学部 数学応用数理専攻

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

A Conversation on Affordable Housing in NYC & Tokyo(2024/11/07)

著者: staff
2024年10月25日 16:50

演題:A Conversation on Affordable Housing in NYC & Tokyo

日時: 2024年11月7日(木) 18:30-20: 10

会場:早稲田大学西早稲田キャンパス 55号館 1階イノベーションラボ

講師:Len Garcia-Duran

対象:学部生・大学院生・学外者

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:創造理工学部建築学科建築学専攻

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

Personalized Environmental Control System – PECS (2024/11/06)

著者: staff
2024年10月25日 16:36

演題:Personalized Environmental Control System – PECS

日時: 2024年11月6日(水) 17:00-18: 40

会場:西早稲田キャンパス 54号館 303教室

講師:Ongun Berk Kazanci

対象:主に大学院生、教職員

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:創造理工学部 建築学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

Biomedical Polymer Materials: Its Future and Perspectives(2024/10/26)

著者: staff
2024年10月14日 16:37

日時:2024年10月26日(土) 15:00-16: 40

会場:西早稲田キャンパス 55号館N棟第一会議室

講師:陳 学思(中国科学院長春応用化学研究所・院士・教授)

対象:学部生・大学院生、教職員、学外者、一般の方

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 応用化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

Tumor-targeted Drug Delivery Based on Vascular-disrupting Agents(2024/10/26)

著者: staff
2024年10月14日 16:21

日時:2024年10月26日(土) 16:40-17: 50

会場:西早稲田キャンパス 55号館N棟第一会議室

講師:Zhaohui Tang(中国科学院長春応用化学研究所・教授)

対象:学部生・大学院生、教職員、学外者、一般の方

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学部 応用化学科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

Exploration of Polysilsesquioxane Functions: Applications as Heat Insulating and Anti-Fogging Materials(2024/10/18)

著者: staff
2024年10月8日 12:21

演題:Exploration of Polysilsesquioxane Functions: Applications as Heat Insulating and Anti-Fogging Materials

日時:2024年10月18日(金)15:30~17:30

会場:西早稲田キャンパス 62号館 1-07A大会議室A

講師:大下 浄治(教授)

対象:大学院生(応化、化学、生命化学、ナノ理工)

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学研究科

問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課

TEL:03-5286-3000

 

Material chemistry based on soft matters: from emulsions to silicones(2024/10/18)

著者: staff
2024年10月8日 12:16

演題:Material chemistry based on soft matters: from emulsions to silicones

日時:2024年10月18日(金)15:30~17:30

会場:西早稲田キャンパス 62号館 1-07A大会議室A

講師:國武 雅司

対象:大学院生(応化、化学、ナノ理工)

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学研究科

問合せ:早稲田大学 理工センター総務課

TEL:03-5286-3000

 

Applications of Halogen-Atom Transfer (XAT) for the Generation of Carbon Radicals in Synthetic Photochemistry and Photocatalysis(2024/10/18)

著者: staff
2024年10月7日 16:30

演題:Applications of Halogen-Atom Transfer (XAT) for the Generation of Carbon Radicals in Synthetic Photochemistry and Photocatalysis

日時:2024年10月18日(金)16:20~18:00

会場:早稲田キャンパス 121号館 コマツ100周年記念ホール

講師:Daniele Leonori

対象:学部生、大学院生、教職員、学外者

参加方法:入場無料、直接会場へお越しください。

主催:先進理工学研究科

問合せ:早稲田大学 理工センター総務課

TEL:03-5286-3000

 

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