透過型電子顕微鏡の一種。試料組成に関するコントラストを強く反映できることから、組成情報を得たい場合、透過型電子顕微鏡よりもSTEMが優れている。また走査型のため透過型電子顕微鏡よりも厚みのある試料の測定にも向いている。STEMはScanning Transmission Electron Microscopyの略。
※1 アト秒レーザー光・スペクトル位相 高強度の赤外のレーザー光を気相の原子などに集光すると、その赤外光の波長よりも短い波長の光(極端紫外~軟X線)が発生します。今回使用した、アト秒レーザーパルスがいくつか連続して発生する「アト秒パルス列」(高次高調波とも呼ばれます)では、そのスペクトルには、赤外レーザー光のエネルギー(800 nmの場合は1.55eV)の奇数次倍の高調波によるピークが現れます。例えば11次高調波(11X1.55 eV = 17.0 eV (~73 nm))、13次高調波(13 x 1.55eV = 20.15 eV (~ 61 nm))、15次高調波、と飛び飛びになります。次に800nmの光に400nmを混ぜてアト秒レーザー光を発生すると、奇数次だけではなく、14次高調波(14 x 1.55eV =2 1.7 eV(~57nm))など、偶数次の高調波も発生します。これらの異なる次数(エネルギー・波長)の高調波は、一般にその位相が同じではなく、アト秒単位でずれています。そのずれのことを「スペクトル位相」と言います。もともとの光のスペクトル位相がずれているので、それを用いてイオン化により生成された光電子の位相も、その「位相のずれ」が加味されたものになります。
※2 三つのイオン化過程 電子(波動関数)の位相を測定するには、電子同士の干渉を利用します。2001年に提案・実証された方法(P.M. Paul et al., Science 292, 1689 (2001))では、奇数次のみの高調波を持つアト秒レーザー光を用いて、二つの過程の干渉を作り出しますが、その場合は電子の角運動量成分ごとに位相をわけることが困難でした。そこで本研究では、奇数次と偶数次を持つアト秒レーザー光を使い、「三つのイオン化過程」を利用することで、それぞれの過程およびf-波、p-波などの角運動量成分ごとの電子波動関数(部分波)の位相と振幅を分離しました。この方法は、2017年に本研究者らが発表したものです(D. Villeneuve et al., Science 356, 1150 2017)。また、赤外レーザー光の強度とアト秒レーザー光の波長を調整し、特定の磁気量子数m=0のみを量子制御により選択しています(S. Patchkovskii et al.,J. Phys. B 53,134002 (2020))。過程1(13次高調波+赤外[H13+IR])ではf-波とp-波、過程2(13次高調波―赤外[H15-IR])では、過程1とは振幅と位相が異なるf-波とp-波、そして過程3(14次高調波)ではs-波とd-波が生じます。イオン化により放出された電子波動関数は、これらの部分波の重ね合わせになっています。14次高調波で、H13+IR, H15-IRとは異なる対称性を持つ電子の波を重ねあわせることにより、角運動量ごとの部分波の位相を求めることが可能になります。なお2017年の結果は、スペクトル位相と原子位相とが重なっていますので、今回はさらにそれを分離し、理論計算と比較しうる原子位相の値を求めたものです。