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「ペニシリン生産菌のラマン分光法による解析」に関する共同研究を開始

学校法人早稲田大学とMeiji Seika ファルマ株式会社

「ペニシリン生産菌のラマン分光法による解析」に関する共同研究を開始

学校法人早稲田大学(所在地:東京都新宿区、理事長:田中愛治、以下早稲田大学)とMeiji Seika ファルマ株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:小林大吉郎、以下Meiji Seika ファルマ)は、2023年9月、「ペニシリン生産菌のラマン分光法による解析に関する共同研究」(早稲田大学代表者:理工学術院教授 竹山春子、Meiji Seika ファルマ代表者:DX推進室長 佐々木隆之、以下本研究)を開始しましたので、お知らせします。

抗菌薬は、細菌感染症の治療や手術時の感染予防に使われ、供給が途絶すると国民の生存に直接的かつ重大な影響が生じます。中でも注射用抗菌薬に多く用いられるβラクタム系抗菌薬は、その原材料のほぼ100%を中国からの輸入に依存しています。そのため、βラクタム系抗菌薬4剤が経済安全保障推進法に基づき「特定重要物資」として指定され、産官学の連携のもと、国産化の取り組みが進められております。Meiji Seika ファルマはそのうちペニシリン系抗菌薬2剤の国産化に向け、原材料である6アミノペニシラン酸(6-APA)の生産体制構築を目指しています。6-APAは、微生物を用いた発酵生産により得られるペニシリンGを変換して得られるため、工業化にはペニシリンGの生産量を高める必要があります。Meiji Seika ファルマは1994年までペニシリンを生産しており今なお工業レベルの技術を保有しておりますが、本共同研究により更なる生産性向上を目指していきます。

本研究で用いるラマン分光法とは、ラマン散乱光を用いて物質の評価を行う分光法です。物質に光を照射すると、光が物質と相互作用することで入射光と異なる波長を持つラマン散乱光と呼ばれる光が出ます。この光は物質が持つ分子振動のエネルギーにより決まるため、物質固有のラマン散乱光が得られます。本研究では、ペニシリン生産菌を対象とし、ラマン分光法によりペニシリン類並びにその中間体の細胞内における局在状況を解析します。従前の発酵解析は培養液を全体で捉え、物理化学的手法や遺伝子分析などで解析しておりましたが、本共同研究の顕微ラマンの手法ではペニシリン生産菌の細胞一つ一つをミクロで捉え、発酵生産の経時変化や細胞内局在性、細胞外への移送機構について解析が可能となります。

本研究において、Meiji Seika ファルマは様々な条件で培養したペニシリン発酵液を提供し、早稲田大学は理工学術院(竹山春子教授)並びにナノ・ライフ創新研究機構(安藤正浩次席研究員)の保有するラマン分光法によるin situ生体分子解析技術を駆使し、対象物質の細胞内局在の可視化を行います。

早稲田大学とMeiji Seika ファルマは、本研究によりペニシリン発酵の生産性向上や品質安定化に貢献する要素を抽出し、製造管理法構築における科学的根拠とするとともに、目的物の生成プロセスの解明を目指します。

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おもしろ科学実験教室 in シンガポール を4年ぶりに開催しました

2023年8月25日(金)、26日(土)の2日間にわたり、シンガポールに所在する早稲田大学系属・早稲田渋谷シンガポール校を会場として「おもしろ科学実験教室 in シンガポール」を開催しました。今回、シンガポール日本人学校中学部の生徒やシンガポール教育省語学センター(MOELC:Ministry of Education Language Centre)に通う中高生、早稲田渋谷シンガポール校の生徒を対象に実施し、総計約110名の生徒が参加しました。本企画は2019年に一度開催した後、新型コロナウイルス感染症による影響で開催できておらず、実に4年ぶりの実施となりました。
今回の目的は科学に興味をもってもらうことのほか、シンガポール日本人学校中学部の生徒に対して早稲田渋谷シンガポール校を知ってもらうこと、MOELCの生徒に対して早稲田大学を知ってもらい将来的に日本へ来るきっかけを作ること、早稲田渋谷シンガポール校の生徒に対して高大連携の一環で本学理工学部をより理解してもらうこと、でした。

会場の早稲田渋谷シンガポール校

今回の実験教室のテーマはDNA鑑定

 

科学的なアプローチで、動物種を鑑定する

「DNA鑑定で食肉の種類を調べよう! -PCR解析を用いた食品検査-」と題して、生徒たちはPCR解析に挑戦しました。試料のレバー肉(ブタ・トリ・ウシの単体、あるいは混合のいずれか)をサンプルとして、DNA抽出、PCR法によるDNA断片の増幅、電気泳動による動物種の判別、という一連の操作で試料の鑑定を行いました。試料の見た目はほとんど同じにもかかわらず、各々のサンプルが異なる電気泳動の結果を示し、試料の正体を鑑定できることに驚いていた様子でした(中には、自分の予想が的中している生徒もいました。すごい!!!)。

実験開始前の食肉の動物種当てクイズ。見た目だけではなかなか正解できませんでした。 ということで、DNA鑑定の出番です!

各テーブルに実験スタッフが付き、いざ実験に挑戦!今回、理工センター技術部の職員のほかに早稲田渋谷シンガポール校の在校生もスタッフとして指導にあたり、実験指導を通じて一段と頼もしく成長していました。

電気泳動は細かい作業ですが、無事に実験結果を得られました!PCRで増幅したDNA断片がバンドとして目視できます。


得られた実験結果をもとに、自分が選んだ食肉の種類を判定できました。

今回のテーマは本学の大学1年生が授業で扱う内容をアレンジしたもので、難しい工程もありましたが、生徒たちは丁寧にこなしており、最後までほとんど失敗せずやり遂げることができていました。また、実験の合間に生徒同士の交流の時間を設けたところ、イベントが終わるころには生徒間で写真を撮り合うほど仲良くなっており、楽しそうに過ごしている姿が非常に印象的でした。イベント後のアンケートではほとんどの参加者から「とても満足」「満足」の回答を得ることができました。
シンガポール教育省語学センター 日本語学科 学科長のタン先生からは、「我が校の生徒たちがDNAや器具の使い方について難しい説明を聞きながら、実験を行うことができていて驚いた。今回のイベントは生の日本語に触れる貴重な学習体験になったと思う。また、早稲田渋谷シンガポール校の生徒と楽しそうに作業をしたり話したりしていて、非常によい交流ができた。」とのコメントをいただきました。

この実験教室は、理工センター技術部の職員や本学の機器・装置だけではなく、本学が持つ海外拠点ネットワーク(早稲田渋谷シンガポール校)の物的、人的リソースの活用、早稲田渋谷シンガポール校在校生の協力、さらにシンガポール日本人学校、シンガポール教育省語学センター、理工パートナーズ、日本ジェネティクス株式会社の支援により実現し、多くの生徒たちに科学への興味関心を深める機会を提供することができました。
参加者の中から未来の早稲田生が生まれ、将来的には世界で活躍する校友となり、社会発展に寄与してもらえれば幸いです。

次は早稲田で会いましょう!
See you again at WASEDA!

DNAをモチーフにしたキーホルダーを手に記念撮影(写真は8/26午後の部)。 キーホルダーは今回のお土産として大学で制作していました。

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7.5 TeVまでの宇宙線電子のエネルギースペクトル測定に成功:地球近傍の宇宙線加速源の可能性を示唆

国際宇宙ステーション・「きぼう」日本実験棟搭載の高エネルギー電子・ガンマ線観測装置(CALET)による測定

7.5 TeVまでの宇宙線電子のエネルギースペクトル測定に成功:地球近傍の宇宙線加速源の可能性を示唆

発表のポイント

地球に飛来する宇宙線は、その加速領域の特定が難しいため加速・伝播機構の理解があまり進まない状況が続いていました。また高エネルギーの電子は、荷電粒子から加速源を同定できるユニークな可能性が理論的に指摘されていましたが、これまで観測例はほとんどありませんでした。
本研究グループは今回、高エネルギーの電子観測を主目的とした検出器であるCALETを用いて、電子を高精度に選別すると同時に、国際宇宙ステーションにおける長期間観測により高統計のデータを蓄積することでこの問題を克服しました。
その結果、高エネルギー領域で地球近傍の電子加速源候補である超新星残骸の寄与を示唆するエネルギースペクトルが得られました。今後のさらなる観測により、宇宙線加速源が荷電粒子によって初めて直接的に同定できる可能性が高まっています。

早稲田大学理工学術院総合研究所主任研究員(研究院准教授)・赤池陽水(あかいけ ようすい)、同大学名誉教授・CALET代表研究者 鳥居祥二(とりいしょうじ)、同大学理工学術院教授・モッツ・ホルガーと、神奈川大学、立命館大学、東京大学宇宙線研究所、弘前大学、宇宙航空研究開発機構(JAXA)による共同研究グループ(以下、本研究グループ)は、国際宇宙ステーション(ISS)に搭載したCALET(ISS・「きぼう」日本実験棟搭載の高エネルギー電子・ガンマ線観測装置)を用いて銀河宇宙線中の電子のエネルギースペクトルを世界最高の7.5テラ電子ボルト(TeV)まで高精度に観測し、宇宙線の起源と伝播に迫る成果を発表しました。
本研究成果は、アメリカ物理学会発行の『Physical Review Letters』に、“Direct Measurement of the Spectral Structure of Cosmic-Ray Electrons + Positrons in the TeV region with CALET on the International Space Station”として、2023年11月9日(木)(現地時間)にオンラインで掲載されました。

CALETの概念図(左図)と主検出器のカロリメータ(右図) (出典 JAXA/早稲田大学)

 

(1)これまでの研究で分かっていたこと

我々が住む銀河系内を起源とする宇宙線(*1)(銀河宇宙線)は、超新星爆発に伴う衝撃波加速で加速され、星間空間の磁場中を拡散的に伝播して地球に飛来するという理論モデルが標準的な宇宙線の加速・伝播モデルとして考えられていますが、その詳細は未だ多くの謎が残っています。宇宙線の理解が難しい要因の一つは、宇宙線が伝播中に星間磁場で曲げられてしまうため、その加速領域の特定が難しいことにあります。しかし1 TeV(*2)を超える高エネルギーの電子は、荷電粒子から加速源を同定できるユニークな可能性が理論的に指摘されており、その詳細な観測が望まれています。高エネルギーの電子は、陽子や原子核と異なり質量が小さいために、星間空間を伝播中に自身のエネルギーの2乗に比例してエネルギーを失う特性があります。このため、地球近傍にある伝播時間の短い加速源からしか地球に到達できません。そして、この条件を満たす加速源の候補天体は数例しかないため、TeV領域の電子が観測されれば、それは地球近傍の候補天体からの寄与であると解釈できるのです。

この電子観測の重要性は古くから指摘されていましたが、これまで観測例はほとんどありません。それは、高エネルギーの電子はフラックス(到来頻度)が少ないため長期間の観測が必要とされることと、1000倍以上存在する陽子との選別が可能な検出器による測定が必要なためでした。CALETは、高エネルギーの電子観測を主目的とした検出器で、電子を高精度に選別すると同時に、ISSにおける長期間観測により高統計のデータを蓄積することで上記の問題を克服しています。さらに高いエネルギー分解能を有しており、これまでにない高精度なエネルギースペクトルを測定することが可能です。これまでに当該グループは、宇宙空間において初めてTeV領域電子の観測に成功し、2年間の観測量から4.8 TeVまでのエネルギースペクトルを測定するなどの成果を上げてきました。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

宇宙線電子望遠鏡「CALET: Calorimetric Electron Telescope」は、日本の宇宙線観測としては初めての本格的な宇宙実験で、高エネルギー電子の観測に最適化された検出器です。飛来した宇宙線が検出器中で吸収されて生じるシャワー現象の発達の様子を3次元的に可視化し、電子と陽子が作るそれぞれのシャワー形状の違いを画像から識別して、宇宙線の種類やエネルギーを測定します。

図1:上図は、CALETの側面から見た概念図と、1 TeVの電子によるシャワー粒子のシミュレーション例。
下図は、実際に観測された3.9 TeVの電子の観測例(X-Z面とY-Z面から表示)

 

図1の上図は、1 TeVのエネルギーを持つ電子のシミュレーション計算例です。同じく下図は、3.9 TeVの実際に観測された電子事象の候補です。上層から入射した粒子が検出器内でシャワーを起こし、ほぼ全てのエネルギーが検出器によって吸収されています。TeV領域の電子が作るシャワーを全吸収できる厚い物質量を有し、そのシャワー形状を捉え可視化することで精確な粒子識別を可能にする点がCALETの最大の特徴です。

図2: CALETによる7.5 TeVまでの電子のエネルギースペクトル。これまでの観測のうち、
宇宙空間での測定結果(Fermi-LAT, AMS-02, DAMPE)を比較のためにともに示した。

 

2015年10月13日から2022年12月31日までの7年以上のデータを用いて、CALETにより測定された電子(+陽電子)のエネルギースペクトルを図2に示しました(赤点)。これは2018年に発表した際の観測量の3.4倍に相当し、最大エネルギーも7.5 TeVへと拡大しています。

図3に示すように、電子のエネルギースペクトルは1 TeV付近で単純な冪型のスペクトルから6.5σ以上の優位度を持って折れ曲がっています。このフラックスの減少は、地球遠方を起源とする電子が伝播中にエネルギー損失の影響を受けるという理論モデルによる予測と合致します。

また図4にCALETの全電子のエネルギースペクトルと、AMS-02(*3)による陽電子のエネルギースペクトル、及び超新星残骸やパルサーなど個々の天体を起源とする宇宙線伝播のシミュレーション例を示します。特に、地球近傍の電子加速源候補である超新星残骸Vela(黄線)の寄与がTeV領域の測定結果を上手く再現しています。

図3:電子の観測結果と、フィッティング例。測定結果は1TeV以上の領域において
単一冪型(黒線)から外れてフラックスが減少している。

 

図4:CALETによる全電子のスペクトルとAMS-02による陽電子のスペクトル、及び
個々の近傍加速天体の寄与。特に超新星残骸Vela(黄線)がTeV領域の電子に大きな影響を与えている。

(3)そのために新しく開発した手法

今回の成果は、7年以上にわたる長期間の観測で高統計のデータを蓄積したことに加え、電子選別手法の改良が大きな鍵を握りました。電子観測では、バックグラウンドとなる陽子との選別が重要で、CALETはシャワー形状の差異を利用して電子選別を行います。電子・陽子を特徴づけるシャワー形状のパラメータを抽出し、一桁当たり108例以上に及ぶシミュレーションデータを元に機械学習(Boosted decision trees: BDT)による選別を行います。今回、選別用のパラメータが測定データを精確に再現するようシミュレーションデータを調整することで新たなパラメータとして追加し、陽子との選別精度向上を計りました。これにより、電子の選別効率を保ちつつ陽子の混入を10%未満に抑えることに成功し、7.5 TeVに至るエネルギースペクトルの導出を達成しました。

(4)研究の波及効果や社会的影響

宇宙線はその発見から100年以上に渡り、宇宙物理学・素粒子物理学の発展に大きく貢献し続けています。CALETの観測は国内外で多くの興味が寄せられ、数ある測定項目の中でも近傍加速源探索は最大級の成果が期待されています。またCALETの科学成果だけでなく、ISSにおける「きぼう」の意義が再認識されるという成果も上がってきています。
超新星爆発に伴う衝撃波で宇宙線が加速されている事実は、X線やガンマ線による観測から既に明らかにされていますが、実際に加速源から地球に飛来する電子が同定できれば、荷電粒子自身による初めての宇宙線加速の直接的な証拠が得られます。今回、7.5 TeVまで測定エネルギーを進展させたことにより、期待されていた地球近傍加速源の存在を示唆する結果が得られ、今後の測定による加速源の同定と精密なスペクトル測定が一層注目を集めます。これが達成できれば、そのスペクトル形状等から定量的な理論モデルの精密化が進むため、宇宙線の起源や加速・伝播機構の解明に大きな進展が期待されます。

(5)今後の課題

今回の観測結果は、銀河宇宙線の標準的な加速・伝播モデルから期待されるフラックスの減少と、TeV領域における近傍加速源の存在を示唆することができました。今後さらに観測量を増やし地球に飛来するエネルギー上限近くまでエネルギースペクトルを高精度に測定します。そして到来方向の異方性を合わせて検出し、近傍加速源の同定を目指します。加速源が同定できれば、加速・伝播の理解に重要なパラメータを、そのスペクトル形状から定量的に調べることができ、宇宙線の加速・伝播機構の解明に大きな進展が期待されます。さらに、電子のスペクトル中には宇宙における最大の謎の一つとされる暗黒物質に由来する成分が含まれている可能性も指摘されています。高精度なCALETによる電子のスペクトル構造から、その詳細を検証することで暗黒物質の正体に迫ることも今後の課題です。

(6)研究者のコメント

CALETは2015年8月にISS・「きぼう」に設置されて以来、現在まで安定的に稼働し続け、宇宙の遥か遠くからの情報(宇宙線)を収集しています。今後も蓄積されるデータを丁寧に解析し、高エネルギー宇宙の描像を明らかにすることを目指します。

(7)用語解説

※1 宇宙線

宇宙空間は、何もないように見えますが、実はとてもたくさんの粒子が飛んでいます。それらは原子よりもさらに小さい陽子や電子などの粒子で、宇宙空間で手をかざしたら1秒間に100個以上が手に当たるほどたくさん飛んでいます。そのような粒子を宇宙線と言います。宇宙線は約100年前に発見されて以来、常に物理学の最先端のテーマでした。宇宙線の研究から、陽電子や中間子の発見など、人類の知識を大きく広げる成果が上がっています。宇宙線は太陽や天の川銀河など宇宙のさまざまな場所から飛んできます。特に高いエネルギーを持ったものは、太陽系の外から遥々やってきます。

※2 GeV, TeV

エネルギーの単位です。1ボルトの電位差を抵抗なしに通過した際に電子が得るエネルギーが1電子ボルト(eV)です。ここでは、その109倍のギガ電子ボルト(GeV)、1012倍のテラ電子ボルト(TeV)のエネルギー領域を扱っています。

※3 AMS-02

AMS-02 (Alpha Magnetic Spectrometer)は、2011年5月にISSに搭載された磁気分光器で、現在も宇宙線の観測を継続しています。磁石を利用し、検出器中の磁場中の曲がり具合から入射粒子の運動量を測定するCALETとは異なる測定原理の検出器です。約2 TeVまでの電子と陽電子の識別が可能で、より高エネルギー領域まで測定可能なCALETとは相補的な関係にあります。

(8)論文情報

雑誌名:Physical Review Letters
論文名:Direct Measurement of the Spectral Structure of Cosmic-Ray Electrons + Positrons in the TeV region with CALET on the International Space Station
執筆者名:Yosui Akaike (Waseda University), Shoji Torii (Waseda University), Holger Motz (Waseda University), Nicholas Cannady (NASA/GSFC/CRESST/UMBC) et al. (CALET Collaboration)
掲載日(現地時間):2023年11年9日(木)
DOI:https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.131.191001

(9)研究助成

研究費名 : 科学研究費補助金 基盤研究(S)
研究課題名:  CALET長期観測による銀河宇宙線の起源解明と暗黒物質探索
研究代表者名(所属機関名): 鳥居祥二(早稲田大学)

研究費名 : 科学研究費補助金 基盤研究(C)
研究課題名: 宇宙線原子核の直接観測による銀河宇宙線の加速・伝播機構の研究
研究代表者名(所属機関名): 赤池陽水(早稲田大学)

研究費名 : 科学研究費補助金 基盤研究(C)
研究課題名: Combined Spectrum and Anisotropy Study of Cosmic Rays from the Vela SNR with CALET
研究代表者名(所属機関名): Holger Motz (早稲田大学)

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悪性度の高い子宮頸癌の原因となるHPV18型の標的細胞とウイルス複製の特徴を解明

悪性度の高い子宮頸癌の原因となるHPV18型の標的細胞とウイルス複製の特徴を解明

発表のポイント

◆悪性度の高い子宮頸癌の原因となるHPV18型の初期プロモーター活性を発光強度で測定する新たなシステムを開発しました。

◆患者由来の正常な子宮頸部のオルガノイドに同システムを導入することに成功し、HPV18型のウイルス複製に関わる因子としてヒストンシャペロン蛋白であるNPM3を同定しました。

◆本研究で開発したシステムは他の型のHPV感染症の研究に応用できる可能性があるほか、NPM3の解析がHPV18型発癌の機序解明や予防法・治療法の開発につながっていくことが期待されます。

概要

東京大学医学部附属病院女性診療科・産科の田口歩届出研究員、東京大学大学院医学系研究科生殖・発達・加齢医学専攻の豊原佑典大学院生、曾根献文准教授、大須賀穣教授ならびに、早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構の松永浩子次席研究員早稲田大学大学院先進理工学研究科生命医科学専攻の竹山春子教授らの研究グループは、子宮頸癌(注1)の原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)(注2)の中でも悪性度の高い癌の原因とされるHPV18型の標的細胞に注目し、HPV18型の複製に関与する細胞内分子NPM3(注3)の同定に成功しました。

子宮頸癌は、HPVが子宮頸部のSCJ部位(図1)に感染すると細胞内でHPV初期プロモーターという遺伝子領域が活性化します。本研究グループは、HPV18型初期プロモーター下流に発光蛋白遺伝子を組み込んだベクターを作製し、患者由来のSCJオルガノイド(注4)に導入する世界初の実験を行いました。さらに、次世代シーケンサー(注5)を用い、シングルセル解析(注6)によって、初期プロモーターが活性化した個々の細胞の特徴を解析しました。これにより、SCJの中でもより未分化な細胞内でHPV18型初期プロモーターが活性化しやすいことや、ヒストンシャペロン蛋白(注7)であるNPM3がHPV18型ウイルスの複製に関わっていることを解明しました。

本研究成果は、日本癌学会誌「Cancer Science」の本掲載に先立ち、11月24日にオンライン版で掲載されました。

子宮は子宮体部と子宮頸部に大別され、出入り口にあたる子宮頸部は腟から連続する扁平上皮と子宮内膜から連続する腺上皮の移行部にあたり、SCJ(Squamocolumnar junction)と呼ばれます。

発表内容

(1)研究の背景

日本では子宮頸癌ワクチンの普及の遅れから若い世代の罹患者数が増加しており、ワクチンによる一次予防とともに、HPV感染後の子宮頸癌への進行予防法や治療法の開発が重要視されています。性交渉によりHPVがSCJに侵入し、細胞内でHPVの初期プロモーターが活性化することで感染が成立します。また、HPVには高リスク型と低リスク型があり、高リスク型の感染で子宮頸癌へ進展するリスクが高まります。高リスク型は約13種類知られており、特にHPV18型は、前がん病変で見つかりにくく、悪性度の高い腺癌や小細胞癌で見つかる頻度が高い管理が難しいHPVです。本研究では、HPV18型の感染標的細胞を同定し、感染成立や癌化の機構を解明するため、初期プロモーターの活性化に着目しました。患者さんから採取した検体の一部を特殊な環境下で三次元培養を行う手法で、人体臓器に模した小さな三次元培養(ヒト由来SCJオルガノイド)を作り出し、HPVプロモーターの活性を測定しました。

(2)研究の内容

婦人科癌手術を受けた患者さんから、正常と考えられる子宮頸部のSCJの一部を採取し、オルガノイド培養を行い(SCJオルガノイド)ました。まず、オルガノイドと正常子宮頸部SCJを対象に空間的位置情報を確認した上で、微小領域の遺伝子発現プロファイルを評価し、培養したSCJオルガノイドが子宮頸部SCJの性質を有することを確認しました。次に、HPV18型の初期プロモーターに注目し、初期プロモーターの活性を担う領域(LCR:Long control region)に発光蛋白遺伝子を繋いだベクターを作製しました。初期プロモーターが活性化すると発光するので、プロモーターの活性化を発光強度で測定できるシステムです(図2)。このベクターをSCJオルガノイドに導入しました。

導入後、細胞を1細胞ごとに分け、シングルセルソーティングで細胞の発光強度を測定し、発光細胞と非発光細胞を分取しました。ひとつひとつの細胞を個別に解析し、発光細胞と非発光細胞を比較することで、HPV18型初期プロモーターが活性化した細胞の特徴が示されました(図3)。その結果、169個の遺伝子においてHPV18型初期プロモーターが活性化した細胞で有意に発現上昇していることがわかりました(図4)。

この169個の遺伝子のうち、特に重要な遺伝子を探すため、HPV18型が複製するヒト上皮由来の細胞(NIKS細胞)で候補遺伝子の発現を低下させる実験を行ったところ、ヒストンシャペロン蛋白であるNPM3という遺伝子がHPV18型の複製に重要であることが示唆されました。NPM3は未分化幹細胞で多く発現することが報告されていますが、本研究でも、NPM3の遺伝子発現を低下させると細胞の分化能に関する遺伝子の発現が低下する傾向にありました。

以上のことから、HPV18型初期プロモーターが活性化しやすい細胞がSCJの未分化な細胞であること、そしてNPM3が未分化性の維持とHPV18型の複製に関与していることが示唆されました。従来、HPVがSCJの細胞の中でも特に未分化細胞に感染することで、癌化すると考えられてきましたが、本研究によって、ヒトの生体に近いオルガノイドでそれが裏付けられました。

(3)今後の展望

本研究では子宮頸部SCJオルガノイドでHPV18型初期プロモーター活性を測定する世界初の実験を行い、HPV感染細胞を同定しました。このシステムは今後、HPV感染症研究への幅広い応用が期待できます。また、NPM3がHPV18型の初期複製にどのように関わるかを明らかにすることで、HPV18型による発癌の機序解明、予防法・治療法の開発に繋がる知見が得られる可能性があります。

HPV18型のLCRが活性化すると、その下流のEGFP(蛍光)が発現し、発光するシステムを構築しました。

患者由来のSCJオルガノイドを作製し、HPV18型の初期プロモーターの遺伝子導入を行った後、1細胞ごとに分離し、発光細胞と非発光細胞へ振り分け、それぞれの細胞のシングルセル解析を行いました。

発光細胞と非発光細胞のシングルセル解析結果を比較すると、初期プロモーター活性のある発光細胞で169遺伝子の発現が有意に上昇していることがわかりました(図の遺伝子名は169遺伝子の一部、これらの中にNPM3も含む)。

発表者・研究者等情報

東京大学

医学部附属病院 女性診療科・産科 田口 歩 届出研究員(医師)
兼:大阪大学免疫学フロンティア研究センター 特任研究員
研究当時:東京大学医学部附属病院 女性診療科・産科 助教

大学院医学系研究科 生殖・発達・加齢医学専攻
 豊原 佑典 大学院生(医学博士課程)
 曾根 献文 准教授 兼:医学部附属病院 女性外科
 大須賀 穣 教授 兼:医学部附属病院 女性外科

早稲田大学

ナノ・ライフ創新研究機構 松永 浩子 次席研究員
大学院先進理工学研究科生命医科学専攻 竹山 春子 教授

論文情報

雑誌名:Cancer Science
題 名:Identification of target cells of human papillomavirus 18 using squamocolumnar junction organoids
著者名:Yusuke Toyohara, Ayumi Taguchi*, Yoshiyuki Ishii, Daisuke Yoshimoto, Miki Yamazaki, Hiroko Matsunaga, Kazuma Nakatani, Daisuke Hoshi, Saki Tsuchimochi, Misako Kusakabe, Satoshi Baba, Akira Kawata, Masako Ikemura, Michihiro Tanikawa, Kenbun Sone, Mayuyo Uchino-Mori, Tetsuo Ushiku, Haruko Takeyama, Katsutoshi Oda, Kei Kawana, Yoshitaka Hippo, Yutaka Osuga(*責任著者)
DOIhttps://doi.org/10.1111/cas.15988

研究助成

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症研究基盤創生事業(多分野融合研究領域)「単一細胞解析技術の統合によるHPV18型幹細胞発癌機構の解明(課題番号:23wm0325057h0001)」(研究代表者 田口歩)、新興・再興感染症研究基盤創生事業(多分野融合研究領域)「新規培養技術を用いた、扁平腺接合部細胞における高悪性度HPV18型の潜伏持続感染および発癌機構の解明(課題番号:20wm0325014h0001)」(研究代表者 田口歩)、創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)「1細胞/微小組織マルチオミックスのオールインワン解析による生命科学研究の支援(課題番号:JP22ama121055)」、創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(BINDS)「創薬等支援のための1細胞・微小生体組織のトランスクリプトーム解析(課題番号:JP21am0101104)」、科研費「子宮頸癌の起源細胞の同定と、発癌・分化機構の解明(課題番号:22K16853)」(研究代表者 河田啓)の支援により実施されました。

用語解説

(注1)子宮頸癌

子宮頸部から発生する癌です。ヒトパピローマウイルスの感染が原因とされています。

(注2)ヒトパピローマウイルス(HPV:Human papillomavirus)

子宮頸癌をはじめ、頭頚部癌などさまざまな癌の原因となるウイルスです。子宮頸癌では性交渉を契機に感染が樹立するとされます。

(注3)NPM3(ヌクレオフォスミン〈NPM:Nucleophosmin〉)

ヒストンシャペロン蛋白のひとつ。未分化な細胞での発現が高いという報告があります。

(注4)オルガノイド

これまでの基礎研究はヒト由来の不死化された細胞株やマウスなどの代替生物を利用する方法が主流でしたが、近年、患者由来オルガノイド培養という新たな手法が開発されました。患者由来組織を用いた特殊な細胞培養方法で、従来法より人体に近い環境での細胞培養が可能です。

(注5)次世代シーケンサー

DNA/RNAの配列を読み取る技術です。

(注6)シングルセル解析

次世代シーケンサーの技術革新により、ひとつひとつの細胞ごとのDNA/RNA配列を読み取ることができる技術です。

(注7)ヒストンシャペロン蛋白

遺伝子であるDNAが格納されるヒストンと呼ばれる蛋白の解離会合に関連する補助的な蛋白。

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スキルミオンスピン波リザバーの高度な文字認識機能を実証

スキルミオンスピン波リザバーの高度な文字認識機能を実証

IoT時代を支える省エネ・安定・低コストな情報処理デバイスの実現に道

発表のポイント

現代エレクトロニクスの主要材料である半導体に比べ、磁性体は高い放射線耐性や熱擾乱耐性、繰り返し刺激に対する耐性を持つため、過酷な環境下で長期間、少ないエネルギー供給で、安定に動作することが要求されるIoT時代のユビキタス素子*1の材料に適しています。
磁性体を材料とするリザバーコンピューティング*2素子の一つである「スキルミオンスピン波リザバー」の情報処理性能を、実用的な情報処理タスクである「手書き文字認識タスク」において、数値シミュレーションにより検証しました。
その結果、スキルミオン結晶*3のスピン波が備えている「非線形変換性」と「短期記憶性」により、磁性体を利用したリザバーでも高い正答率で手書き数字を正しく認識できることを実証しました。
スキルミオン結晶をリザバー*4として活用することで、低コストで作れる安定性や省エネ性に優れたコンピューティング素子の実現が期待されます。

早稲田大学(以下、早大)理工学術院のリー・ムークン(Mu-Kun Lee)講師、および望月維人(もちづきまさひと)教授の研究グループ(以下、本研究グループ)は、磁性体中に発現するトポロジカル磁気渦の集合体「スキルミオン結晶」を伝わる磁気モーメントの波(スピン波)を新しい情報処理技術であるリザバーコンピューティングに活用することで、磁性体を材料とするリザバーでも人が手で書いた文字を高い精度で認識できることを数値シミュレーションにより実証しました。スキルミオン結晶は磁場を印加するだけで自発的に形成されるため、従来の磁性体を用いたリザバー素子と異なり、その作成において高度な微細加工や複雑な製造プロセスを必要としないという利点があります。来るべきIoT社会に向けて、低コストで作れる安定性や省エネ性に優れたコンピューティング素子を実現する道を切り拓きました。

本研究成果は、国際学術出版社であるNature Research社発行による『Scientific Reports』誌(論文名Handwritten digit recognition by spin waves in a Skyrmion reservoir)に2023年11月8日(木)(現地時間)に掲載されました。

(1) これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

現代の情報処理技術には「ノイマン型アーキテクチャ*5」が用いられています。このノイマン型の情報処理技術は、多くの問題において正しい解を与えますが、「計算時間の指数関数的な増大」や「デバイスの微細化限界」、「大きな消費電力」といった多くの致命的な問題を抱えています。これらの問題を解決すべく、「人間の脳」の機能を模倣した「非ノイマン型」の情報処理技術である「脳型コンピューティング」が世界中で精力的に研究されています。脳型コンピューティングは、(プログラミングではなく)「学習」により情報処理機能を獲得し、非決定論的で、消費電力を大幅に抑えることができるという特徴を持っています。

いくつかある脳型コンピューティング技術の中で大きな成功を収めているものの一つに、入力に対して非線形な応答を示す動的な媒質(リザバー)を利用する「リザバーコンピューティング」があります。この技術は、「音声認識」や「株価予想」などの時系列データ処理や、「画像認識」や「手書き文字認識」などのエラーへの寛容性を要するデータ処理に適しており、その根幹要素である「リザバー」として、これまでに光回路や生体、力学機械、半導体、磁性体など様々な材料や現象が研究・提案されてきました。

その中でも「磁性体」は、外界からのノイズ・擾乱に対する安定性と、小さな外場で駆動・制御できる省エネ性、外場に対する応答の高速性の観点から、他の材料に比べて大きな優位性を持っています。例えば「外界からのノイズ・擾乱に対する安定性」については、現代エレクトロニクスの主流材料である半導体が放射線やX線の被ばくに対して耐性がないことや、高温や低温で正しく動作しなくなること、繰り返し通電すると性能が劣化するなどの欠点があるのに対し、磁性体にはこのような欠点がありません。そのため、半導体素子が日常の比較的穏やかな環境下でしか使用できないのに対し、磁性体は放射線が飛び交う宇宙空間や原子炉周辺、野ざらし・雨ざらしの屋外、高温になるエンジンや炉の近くでも使用することができます。そのため、IoT時代を担うユビキタス素子の材料候補として注目されています。

このような背景から、スピントロニクス*6と呼ばれる研究分野において、磁性体を材料とするリザバーが精力的に研究されてきました。しかし、現在研究が進められている磁性体を利用したリザバーのほとんどは、微細加工によって作製された「スピントルク発振素子*7」を複数接続して使うものであり、その作成には高度な微細加工と複雑な製造プロセスを必要とします。

一方、「スキルミオン」は2009年に発見されたナノサイズの磁気渦であり、キラル磁性体*8に磁場を印加するだけで自己組織化により無数に生成されます。さらに、生成されたスキルミオンは周期的に配列して結晶化することが知られています(スキルミオン結晶)。著者のひとりである望月は、2012年に、スキルミオン結晶を構成する一つ一つのスキルミオンがマイクロ波に対してスピントルク発振素子と同様の応答や振舞いをすることを発見しました。また、スキルミオンは、位相幾何学的な特徴を持つために、熱揺らぎなどの外部擾乱に対して堅牢であるという性質や、通常の磁気構造よりも小さな電磁場に対して鋭敏で巨大な応答を示すという性質を持っています。

2022年に著者たちは、スキルミオン結晶がリザバー応用に適した性質を有していることを、数値シミュレーションにより実証しました(参照プレスリリース:スキルミオン結晶のリザバーコンピューティング機能を実証 https://www.waseda.jp/top/news/82391)。具体的には、リザバーの性能を決定づける3つの機能、「入力信号の特徴を反映した出力を返す性質(汎化性)」、「入力信号を非線形に変換して出力する性質(非線形変換性)」、「短期の履歴情報を記憶し、長期の履歴情報を忘却していく性質(短期記憶性)」を、「入力時間推定タスク」、「偶奇判定タスク」、「短期記憶タスク」という3つのタスクを課すことで評価しました。その結果、スキルミオン結晶が高いレベルでこれらの機能を備えていることが示されました。しかし、この研究では、スキルミオンがリザバーとしての基本的な性質を備えていることは示されたものの、より実用的かつ実際的な情報処理タスクにおいて、どの程度の性能を発揮できるかは未知数のままでした。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

スキルミオン結晶中を伝播する磁気モーメントの波を活用するリザバー(スキルミオンスピン波リザバー)の実用的・実際的な情報処理タスクにおける性能を評価・実証できれば、安定かつ省電力で、応答が高速であるというスキルミオンの特性を生かした、安価で高性能なリザバーコンピューティング素子の実現に道が拓けます。

そこで本研究では、「MNISTデータベース*9」と呼ばれる「0から9までの10種類の数字の手書き文字画像のデータベース」を使って、スキルミオン結晶中のスピン波が持つ「手書き文字認識機能」の性能評価を、数値シミュレーションを用いて行いました。

その結果、スキルミオンスピン波リザバーが磁性体を材料とするリザバーとしては最高レベルの正確さで手書き数字を正しく認識でき、その正答率(88.2%)は最も有名な動的リザバーモデルの一つである「エコーステイトネットワークモデル(Echo-state network model)*10」の正答率(79.3%)を凌駕することを実証しました。もちろん、半導体エレクトロニクスに立脚する現在の手書き文字認識技術は高度に発達しており、その正答率は99%を凌駕するものもあります。したがって、認識精度の点で、我々のスキルミオンスピン波リザバーはこれらの既存技術に及んでいません。しかし、半導体素子の利用が実質的に不可能な過酷な環境下でも使用できる磁性体リザバー素子の可能性を切り拓き、IoT社会の要請に応えるユビキタス素子の新しい候補を提案した点に、本研究成果の意義があります。加えて、この磁性体リザバーが高度な微細加工や複雑な製造プロセスなしで、(その結果として)低コストで製造できることも大きな魅力であると考えています。

また、手書き文字データを磁場パルス信号に変換してスキルミオンスピン波リザバーに入力した後に、様々なタイミングで読み出したデータを用いて性能を評価・比較することで、スキルミオン結晶中を伝播するスピン波が複雑に散乱・干渉することで実現する「非線形変換性」と、散逸・緩和による振動強度の減少や位相情報の損失によって実現する「短期記憶性」によって、この優れたリザバー機能が実現していることを明らかにしました。

(3)そのために新しく開発した手法

本研究で行った数値シミュレーションでは、MNISTデータベースにある膨大な数の手書き数字画像の画素配列を、それぞれの画素のグレースケールに比例した強さの磁場パルスとして、設置した入力ノートからスキルミオン結晶に順次入力します。そして、この連続的に印加された磁場パルスによって誘起された磁気モーメントの振動が、スキルミオン結晶中を散乱・反射・干渉を繰り返しながら伝播し、読み出しノードの位置まで達する時空間ダイナミクスの様子を、磁気モーメントの時間発展方程式であるLLG方程式を用いてシミュレーションしました。

さらに、読み出し部での磁気モーメントの振動強度信号を読み出し、それに線形変換を施すことで、0から9までの数字のどれかに対応する回答を出力させます。この出力と、入力した手書きの数字が一致することを正答と呼び、正答率を上げるように線形変換の行列を最適化しました。そして、この「学習」と呼ばれる最適化プロセスを経て得られた行列を用いて、性能評価用の手書き数字画像のセットにおいて、どの程度正しく手書き数字を認識できるか、その正答率を評価しました。

この一連の性能評価のプロセスを遂行するために、手書き文字画像を入力用の磁場パルス信号に変換するモジュールと、磁化の時空間ダイナミクスをシミュレーションするモジュール、線形変換行列の最適化を行うモジュールを組み合わせた、統合的なプログラムコードを開発しました。

(4)研究の波及効果や社会的影響

スキルミオン結晶を利用したリザバーは、安定性、省電力性、高速性といったスピントロニクス素子の長所を兼ね備えると同時に、従来のスピントロニクス素子のような高度な微細加工や複雑な製造プロセスを必要としないため、低コストで作成できるという利点があります。今回の研究で、手書き文字認識のような実用性の高い情報処理タスクにおいても、優れた性能が示されたことで、これらの利点を生かしたリザバーコンピューティング素子は、IoT社会を支えるユビキタス素子*10として活躍することが期待されます。

(5)今後の課題

今回の研究では、スキルミオン結晶中を伝播するスピン波を活用するリザバーが、手書き文字認識という実用的な情報処理タスクにおいて、高いレベルの性能を発揮することが実証できました。今後はさらに、音声認識や会話認識、時系列データ予測などの、より高度で複雑な情報処理タスクにおいて、スキルミオンリザバーの実用性を検証していく必要があります。また、リザバー部分だけでなく、入力部や読み出し部も含めたシステム全体として、コンピューティングデバイスの理論設計を行うことや、最適なデバイス構造や入力信号パラメータ、磁性体材料の探索も重要な課題になります。

(6)研究者のコメント

今回の研究で、キラル磁性体に磁場を印加するだけで生成できるスキルミオンを用いたリザバーが、手書き文字認識という実用的な情報処理タスクにおいて、高い性能を発揮できることが実証できました。今後の研究開発により、スキルミオンを利用した高性能なリザバーコンピューティング素子が実現し、社会実装されることを期待しています。

(7)用語解説

※1 ユビキタス素子

英語「ubiquitous」の意味の通り、我々の日常生活や身の回りで広く使われるデバイスのこと。

※2 リザバーコンピューティング

脳機能を模倣した情報処理方式の一つ。入力信号をリザバーと呼ばれる媒質に通して非線形変換を施すことで高い次元のデータ空間にマップした後、線形変換によって出力を得る。線形変換に用いる行列(重み行列)を学習により最適化することで、それぞれの問題やタスクに対応する情報処理機能を獲得。時系列パターンの認識や、エラーへの寛容さが要求される情報処理に適している。

※3 スキルミオン結晶

磁性体中の磁気モーメントが集団で形成する「スキルミオン」と呼ばれる磁気渦が、三角格子状や正方格子状など空間周期的に配列した磁気秩序状態。様々な物性現象や物質機能の宝庫になっていることが、近年の研究で明らかになってきている。

※4 リザバー

リザバーコンピューティング(※2を参照)の根幹をなす構成要素で、入力信号を読み出し信号に変換する役割を果たす動的媒質。様々な材料や現象を利用して実現できるため、これまでに光回路や生体、力学機械、半導体、磁性体などを利用した多彩なリザバーが研究・提案されている。入力データを非線形に変換することで高い次元の情報空間にマップしたり、時系列データの過去の入力履歴を一定期間記憶することで情報の時空間相関を取り込んだりする役割を果たす。リザバーコンピューティングでは、リザバーで変換された信号を読み出し、これに重み行列を掛けて線形変換を行うことで情報処理を実行する。この時、リザバーによる信号変換はブラックボックスとして扱えるため、最適化が必要な行列は線形変換の重み行列に限定される。そのため少ない計算コースで情報処理ができるという利点がある。

※5 ノイマン型アーキテクチャ

ジョン・フォン・ノイマン(John von Neumann)が提唱したコンピュータの基本構成。記憶部に計算手続きのプログラムが格納され、逐次処理方式で処理が実行される。現在のコンピュータのほとんどがこの方式を採用している。

※6 スピントロニクス

物質中の電子は、電気的な性質を担う「電荷」の自由度に加え、磁気的な性質を担う「スピン」の自由度を持っている。この電子のスピン自由度を積極的に活用し、エレクトロニクス技術への応用を目指す研究分野をスピントロニクスと呼ぶ。

※7 スピントルク発振素子

微細加工によって形成した強磁性体を積層させたスピントロニクス素子。直流電流を流すことで、強磁性体中の磁気モーメントが一定の周波数で歳差運動する。その結果、素子の両端にマイクロ波帯の交流電圧が生じる。スピントルク発振素子を複数接続させると、素子間の相互作用により発振の同期が起こるが、この現象を脳模倣型コンピューティングに応用する研究が進められている。

※8 キラル磁性体

鏡に映した像が元の像と重ならない構造をキラルな構造と呼び、構成原子の空間配列(結晶構造)がキラルである磁性体をキラル磁性体と呼ぶ。キラル磁性体では、隣り合う原子の磁気モーメントを互いに傾けようとするジャロシンスキー・守谷相互作用が働くために、しばしばスキルミオンのような磁気渦構造が発現する。

※9 MNISTデータベース

様々な画像処理アーキテクチャの学習・評価に使用される手書き数字画像の大規模なデータベース。米国商務省配下の研究所であるアメリカ国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology)で構築された。60,000枚の訓練用画像と10,000枚の評価用画像で構成されている。

※10 エコーステイトネットワークモデル(Echo-state network model)

リザバーコンピューティングの代表的なモデルの1つ。リザバーに入力した時系列信号の履歴が適度な時間、反響(エコー)として残り、十分時間がたつと消えていく状態(エコーステート)を活用する。リザバーから読み出した、過去の入力履歴を一定程度反映した変換された信号を、重み行列により線形変換することで実行する情報処理のモデル。

 (8)論文情報

雑誌名:Scientific Reports
論文名:Handwritten digit recognition by spin waves in a Skyrmion reservoir
(スキルミオンリザバーにおけるスピン波伝搬を利用した手書き数字認識)
執筆者名(所属機関名): リー・ムークン望月維人(いずれも、早稲田大学)
掲載予定日時(現地時間):2023年11月8日
掲載URL:https://doi.org/10.1038/s41598-023-46677-w
DOI:10.1038/s41598-023-46677-w

(9)研究助成(外部資金による助成を受けた研究実施の場合)

研究費名:国立研究開発法人化学技術振興機構 戦略的創造研究推進授業CREST
研究課題名:Beyond Skyrmionを目指す新しいトポロジカル磁性科学の創出
研究代表者名(所属機関名):于秀珍(理化学研究所)
研究費名:日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A)

研究課題名:スキルミオニクス創成に向けた基盤技術と材料の開拓 (課題番号:20H00337)
研究代表者名(所属機関名):望月維人(早稲田大学)
研究費名:日本学術振興会 科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A) 公募研究 (課題番号:23H04522)
研究課題名:スピン模型のトポロジカル相転移を検出する汎用的な機械学習手法の開発
研究代表者名(所属機関名):望月維人(早稲田大学)

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不規則なガラス構造に潜む規則性を発見

不規則なガラス構造に潜む規則性を発見

ガラスの物性評価や効率的な新規ガラス開発の指針に

【発表のポイント】

ガラス (注1) 構造から抽出したリング形状を定量化することで、 無秩序に見えるガラス構造に内在する規則性を数値評価する技術を開発しました。

リング形状と その周辺における原子の存在確率を定量化することによって、ガラス中における結晶(注2) に類似する構造の抽出に成功しました。

新開発の材料構造の定量評価技術は、ガラス材料の物性発現の解明、さらに、データ駆動型の高性能材料探索への寄与が期待されます。

【概要】

ガラスは、窓ガラスやディスプレイのように現在の日常生活に欠かせない基盤材料です。一方で、 その原子配置が一見無秩序で複雑なために、 構造の理解や制御が難しく 、 合理的な機能材料設計には多くの課題が残されています。これらの課題を解決するためにガラス構造の定量的な評価技術が必要とされ、これまで国内外で幾何学などに基づく解析法の開発が取り組まれてきました。

東北大学未踏スケールデータアナリティクスセンター(同大学院情報科学研究科兼任) の志賀元紀教授と 早稲田大学理工学術院の平田秋彦教授ら の研究グループは、シリコンと酸素だけからなるシリカガラス(石英ガラス) のネットワークに内在するリング構造に着目して、 真円度および粗さという新たな指標を開発し、 リング構造の3 次元的な定量化に成功しました。 従来、 リングの構成原子数のみが解析に用いられてきましたが、 本指標を用いることで、 ガラスを構成するリングには、数種のシリカ結晶と同様なものと 、 ガラス独特の形状のリングが共存することを初めて明らかにしました。さらに、リング周辺における原子分布を定量化することによって、ガラスの局所構造は結晶と同様に異方性を持ち、強い秩序が存在することを明らかにしました。

本研究成果は、 Communications Materials 2023 11 3 日にオープンアクセス公開されました。

【詳細な説明】

研究の背景

ガラスは、窓ガラスやディスプレイのように日常的に欠かせない物に含まれており、 その機能をさらに強化することは大事な課題です。ガラスの原子配置は、結晶材料のような規則正しいものでなく一見すると無秩序ですが、隣接する原子間の化学結合長を超えた距離スケールでの規則性が放射光施設(注3 ) などでの計測によって確認されています。 一方、 ガラスにおける特性の理論的な理解を困難にしている原因はこの複雑な構造であるため、ガラスにおける構造の規則性を定量的に評価し、 構造と機能との関係を理解することは、機能性ガラスの合理的な開発のために大事な課題となっています。 近年、 結晶材料等においてデータ駆動科学(注4) は急速に普及しつつあります。これに基づく高効率的な材料設計を、ガラス材料に対して実施するためには、ガラス中におけるリングの構成原子数のみが解析の指標として用いられてきた従来のアプローチでは限界がありました。

今回の取り組み

東北大学未踏スケールデータアナリティクスセンター(同大学院情報科学研究科兼任) の志賀元紀教授、早稲田大学理工学術院の平田秋彦教授、物質・材料研究機構マテリアル基盤研究センターの小野寺陽平主任研究員、産業技術総合研究所材料・化学領域の正井博和研究グループ付ら の研究グループは、材料中の化学結合ネットワークに内在するリング構造の規則性の3次元的な定量評価を行いました。これまでの研究では、ガラス中に存在するリングを構成する原子数のみを指標として解析が行われてきましたが、3次元的な形状の異なるリングを区別することは不可能でした。今回の研究では、 真円度粗さ という指標(図 1) を新たに定義することによって「リング形状」 の定量評価法を実現しました。

この技術を、窓ガラスなどに用いられるシリカ(SiO2)のガラス、 および、SiO2 組成を有する複数の結晶の構造解析に応用し、 ガラスおよび結晶に含まれるリングの代表的な特徴(形状および対称性)を網羅的に解析しました。 シリカ には他の化学組成の材料では見られないほど多様な結晶構造が存在しますが、今回の解析によって、 ガラス中には数種のシリカ結晶に類似した構造が存在する一方、ガラス特有の形状を有するリング構造も数多く存在していることを新たに明らかにしました。この新たな知見はリング形状の定量評価技術によって初めて得られたものであり 、 ガラス化および結晶化のような状態転移を理解するために重要な結果といえます。

本研究では、さらに、リング形状だけでなく 「リングの向き」を自動決定する計算法を開発し、その手法に基づき「リング周辺の原子の存在確率」 を計算する技術を開発しました(図 2)。この技術を用いたガラスの構造解析によって、ガラス構造の規則を理解する上で大事な 2 つの知見を得られました。

番目の知見は、 ガラス構造においても 、 結晶構造と同様な異方性が存在することです。 マクロ レベルのスケールでは、 ガラスは等方的と考えられていますが、 異方性を持つ局所構造の秩序を、リング構造の方位を揃えて原子分布を可視化することで、その特徴を初めて定量的に明らかにしました。

2番目の知見は、 ガラスに含まれる規則正しいリングの周辺には、 結晶に似た規則正しい構造秩序が形成されていること です。 ガラスにおいては、前述のように、化学結合長を超えた距離スケールでの構造の規則性が放射光施設などにおける計測によって確認されています。例えば、ガラスの回折実験で観測される特徴的な鋭いピーク(First Sharp Diffraction PeakFSDP(注5 ) は、ガラスにおいて、化学結合長を超えたスケールでの構造秩序(中距離構造秩序) が存在する証拠となります。 今回得られた知見は、これまでも議論されてきたこの構造秩序と密接に関係しており 、 すなわち、 中距離構造秩序あるいは FSDP の形成に寄与する構造ユニットを初めて同定した成果となります。

今後の展開

本研究で開発したリング形状の定量評価技術は、無秩序な構造に含む規則正しい構造ユニットの抽出を 可能にするだけでなく、ガラスにおける不規則なリング構造を定量的に議論することを可能にするものです。これによって、様々な条件で合成されたガラス構造の違い、そして、構造の違いが引き起こす物性の変化を捉えることができるようになります。さらには、様々な実験条件下で合成された材料の構造データ および物性データを蓄積・活用することによって、 機械学習(人工知能) に基づく 未合成材料の物性予測が実現できるようになると考えられます。 この未合成材料の物性予測技術は、 データ駆動型の高機能性材料の自動探索につながり、材料開発を加速的に推進すると期待されます。 本研究で開発された材料におけるガラス構造の定量評価法は、 将来的なガラスの物性予測及び新規材料探索だけでなく、材料科学の深化に寄与できるものと 考えられます。

【謝辞】

本 研 究 は 、 JSPS 科 研 費 JP20H05878JP20H05884JP23K17837JP20H05881JP20H05882JP20H04241JP19K05648 および JST さきがけJPMJPR16N6 の支援を受けたものです。

【用語説明】

1. ガラス:

不規則な原子配置から構成される 非晶質(アモルファス) の固体。 ガラスの構造は、 各原子の化学結合の数(配位数) や角度に分布があるが、完全に無秩序ではない。

2. 結晶:

規則正しい原子配置から 構成される固体。

3.  放射光施設:

放射光とは電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって曲げられた時に発生する強力な電磁波(光)のことである。放射光施設は高輝度 X 線などの放射光を用いて幅広い研究を行うための大型施設であり、 SPring-8(兵庫県佐用町) やナノテラス(仙台市) がこれにあたる。

4.  データ駆動科学:

既知データに基づいて新仮説の構築や未知事象の予測を行い、新しい事象や法則を発見する科学のアプローチ。

5.  First Sharp Diffraction PeakFSDP) :

ガラスの X 線回折実験や中性子回折実験によって観測される特徴的な鋭いピーク。ピーク位置から、化学結合長さを超える距離スケールでの構造秩序の証拠として知られる。

【論文情報】

タ イ ト ル:Ring-originated anisotropy of local structural ordering in amorphous and crystalline silicon dioxide
著者:Motoki Shiga*, Akihiko Hirata, Yohei Onodera, and Hirokazu Masai
*
責任著者: 東北大学未踏スケールデータアナリティクスセンター 教授 志賀元紀(しがもとき)
掲載誌:
Communications Materials
DOI:
https://doi.org/10.1038/s43246-023-00416-w
URL: https://www.nature.com/articles/s43246-023-00416-w

 

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異なる戦略で形成した大脳オルガノイド血管系の特徴を明らかに

異なる戦略で形成した大脳オルガノイド血管系の特徴を明らかに

移植医療や再生医療、ヒトに対する薬剤スクリーニングなど幅広い分野における応用に期待

発表のポイント

ヒト特有の脳の発生過程や疾患の解明、また治療薬開発の鍵としても注目を集める大脳オルガノイドは、それ自身が血管系を有さないために、酸素・栄養の供給や、毒性代謝物の排出が自発的にできず、そのためサイズも制限されるなどの課題に直面し、発展的な利用の足枷となっていました。
既に大脳オルガノイドに機能的な血管構造を導入する戦略が複数提案されてきましたが、それらを統合的に比較した研究がこれまで存在しなかったため、それぞれの血管形成戦略の特徴や課題などを正確に把握できませんでした。
今回の研究において、公開データセットで入手可能なシングルセルRNAシークエンシングデータを用いた解析を行うことにより、異なる戦略のもとで大脳オルガノイドに導入した血管構造を構成する細胞の特徴を明らかにすることができました。将来的に、より実際のヒトの脳に近い血管化大脳オルガノイドを作製する際の指標として活用されることが期待できます。

図1 機能的な血管構造を導入した大脳オルガノイドと胎児脳のシングルセルRNAシークエンシングデータの統合解析

早稲田大学(以下、早大)総合研究機構の片岡孝介(かたおかこうすけ)主任研究員理工学術院の朝日透(あさひとおる)教授、大学院先進理工学研究科3年(一貫制博士課程3年)の佐藤由弥(さとうゆうや)らの研究グループ(以下、本研究グループ)は、公共データベース*1上のシングルセルRNAシークエンシングデータ*2を再解析し、ミニ人工脳である大脳オルガノイド*3において血管構造を導入するための複数の戦略(以下、血管化戦略)が、大脳オルガノイドを構成する神経系等に対して異なる影響を与えることを明らかにしました。さらに、血管構造を導入した大脳オルガノイド(以下、血管化大脳オルガノイド)における血管系と神経系の間の相互作用が、血管が正しく脳の血管として機能するために重要である可能性を示しました。

本研究成果は、ドイツ・イギリスに本拠を置く学術出版社であるSpringer Nature社発行による『BMC Biology』誌(論文名Integrative single-cell RNA-seq analysis of vascularized cerebral organoids)に2023年11月9日(木)午前1:00(グリニッジ標準時GMT)に掲載されました。

(1) これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

多能性幹細胞*4由来で人工培養された細胞集団であるヒト大脳オルガノイドは、ヒト大脳皮質の発生過程、組織、神経活動を模倣した、三次元のミニ人工脳です。大脳オルガノイドを用いた研究により、神経発生、進化、疾患の理解にかつてない機会がもたらされています。さらに、コロナウイルス感染症のパンデミックでは、ヒトオルガノイドモデルがその病態を理解する上で有望な結果を示し、治療薬開発の鍵としても注目されました。

このようにオルガノイドの応用範囲が急速に拡大しているにもかかわらず、大脳オルガノイドには未だにいくつかの課題があります。大きな課題のひとつに血管系が存在しないことが挙げられます。そのため、従来の大脳オルガノイドは、栄養、酸素、有害代謝産物の交換を培養液における受動的拡散のみに依存しています(図2)。血管系を持たない大脳オルガノイドはサイズも制限され、オルガノイドの中心部では細胞死が引き起こされてしまいます(図2)。

図2.血管を形成させていない従来の大脳オルガノイドの欠点

この課題を打破するために、大脳オルガノイドに機能的な血管構造を導入するための複数の戦略が提案されてきました。これらの研究では、血管構造の導入が大脳オルガノイドを構成する神経細胞などの細胞集団の機能、組成、細胞間相互作用等へ与える影響が独自に解析されてきました。しかし、これらの血管構造を導入するための異なる戦略が大脳オルガノイドに与える影響を実際の脳血管と統合的に比較した研究はなく、それぞれの血管化戦略の特徴や課題などが不明でした。そのため、それぞれの血管化大脳オルガノイドにおける血管構造が実際の脳の血管系をどれほど正確に模倣しているのかを確認することができず、より最適な実験プロトコルを見つけ出すことが難しいという問題がありました。

(2) 今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

本研究グループは、異なる戦略で作製された血管化大脳オルガノイドを横断的に評価することを目的に、公開データセットで入手可能な血管化大脳オルガノイドと実際のヒト胎児脳のシングルセルRNAシークエンシングデータを統合的に比較しました。その結果、次の3点が明らかになりました。

①いずれの戦略で血管化しても大脳オルガノイドの遺伝子発現プロファイルは、非血管化大脳オルガノイドのそれと比べて、実際のヒト胎児脳の遺伝子発現プロファイルに近づくこと(図3)。

図3.血管を形成させることで大脳オルガノイドを構成する細胞集団の遺伝子発現プロファイルが胎児脳に近づく

横軸に各大脳オルガノイドを構成する各細胞種、縦軸に各血管化手法、各マスに実際のヒト胎児脳との遺伝子発現プロファイルの相関値(類似性を示す)を示す。相関値が高いほど胎児脳と近い遺伝子発現パターンを持つことを示す。本結果から、ほとんどの細胞種において、血管化によってヒト胎児脳との相関値は増加していることが明らかになった。

②血管化大脳オルガノイドにおける血管構造を構成する細胞には機能的に重要とされる遺伝子の一部が発現していないこと、およびこの遺伝子発現の欠損の特徴は血管化戦略によって異なること(図4)。

図4.血管化大脳オルガノイドにおける血管系は戦略によって異なる遺伝子発現プロファイルを持つ

横軸に各大脳オルガノイド、縦軸に血管特異的に発現するマーカー遺伝子を示す。実際の胎児脳の血管系細胞は、マーカー遺伝子をすべて発現しているにも関わらず、各血管化オルガノイドや血管オルガノイドは不十分な発現プロファイルを持つことがわかる。また、戦略によっても異なる発現プロファイルを持つこともわかる。
注:血管オルガノイドは、iPS/ES細胞を血管組織に分化誘導したオルガノイドであり、血管化オルガノイド(血管を形成した大脳オルガノイド)とは異なる。

③血管構造を構成する細胞と神経系の間の相互作用が、血管が脳血管としての特徴を作り出すために重要であり、血液脳関門*5などの脳に特徴的な血管系の機能に関与する遺伝子の発現に重要であること。

本研究成果により、複数の血管化戦略が神経系および血管系の細胞の分化や遺伝子発現プロファイルに及ぼす影響についての知見が得られました。本研究で得られた知見は、将来的に血管化大脳オルガノイドを作製する際の指標となると考えられます。

(3)研究の波及効果や社会的影響

血管化大脳オルガノイドは、細胞死が起こりにくく実際のヒトの大脳皮質に近いと考えられるため、これからの大脳オルガノイド研究のスタンダードになると考えられています。本研究成果は、血管化オルガノイドのベンチマークとしての活用が期待されます。より実際の胎児脳に近い血管化大脳オルガノイドが完成することで十分にオルガノイドが成熟できるようになり、成人への移植医療や再生医療、ヒトに対する薬剤スクリーニングなど幅広い分野における応用といった社会的影響が期待できます。

(4)今後の課題

今回、公開データセットで入手可能なシングルセルRNAシークエンシングデータを用いた解析により、異なる戦略のもとで大脳オルガノイドに形成させた血管系の特徴が明らかになりました。今後は、解析によって明らかになった血管化手法の弱点を克服する方法を模索するとともに、脳を構成する細胞の機能等、シングルセルRNAシークエンシングデータ以外の情報にも着目した研究を進めることが期待されます。

(5)研究者のコメント

オルガノイド技術は、癌などの疾患や老化などのこれまで人類が対抗できなかった壁を乗り越える可能性をもつ技術です。しかし、血管化などの問題から、実際の脳を十分に再現することができていないという現状があります。本研究成果が、より実際の胎児脳に近い大脳オルガノイド血管化手法のヒントとなり、これまで治療が難しかった疾病を解決する一助となると信じています。

(6)用語解説

1.公共データベース

研究者たちが行う研究で得られた塩基配列等のデータを保存、共有するためのオンラインプラットフォーム。これにより、研究者は自分たちの研究に必要なデータを簡単に検索し、アクセスすることができ、また自分たちのデータを世界中の他の研究者と共有することができる。公共データベース上のデータは、他の研究者によって新しいコンテキストで再利用されたり、実験結果を検証し再現するために使用されたりする。

2.シングルセルRNAシークエンシング

個々の細胞ごとのmRNA塩基配列を読み取る技術。従来のRNAシークエンシング技術は多数の細胞をまとめて分析するため、細胞の個々の違いを見ることができなかった。一方、シングルセルRNAシークエンシングは、多様な細胞から構成される組織においても各細胞に特徴的な遺伝子発現情報を解析することができる。

3.オルガノイド

人や動物の臓器の機能や構造を模倣した、三次元で培養された細胞集団。これらの細胞は、本物の臓器と類似した機能を持つため、薬物スクリーニングや疾患モデル、臓器移植などへの応用が期待されている。

4.多能性幹細胞

体内のさまざまな種類の細胞に分化する能力を持つ特殊な細胞。

5.血液脳関門

脳の血管と神経細胞などの細胞の間で物質の移動を制限する機構。全身投与された薬剤が中枢神経系に到達することも制限するため、神経疾患に対する治療薬開発の最も大きな障壁の一つにもなっている。

(9)論文情報

雑誌名:BMC Biology
論文名:Integrative single-cell RNA-seq analysis of vascularized cerebral organoids
執筆者名(所属機関名):Yuya Sato, Toru Asahi, Kosuke Kataoka (Waseda University)
掲載日時(現地時間):2023年11月9日(木)午前1:00(グリニッジ標準時GMT)
DOI:https://doi.org/10.1186/s12915-023-01711-1

(10)研究助成(外部資金による助成を受けた研究実施の場合)

研究費名:科学研究費補助金 若手研究
研究課題名:カンナビノイド受容体CB1によるマイトファジー調節機構と加齢性記憶障害への関与
研究代表者名(所属機関名):片岡孝介(早稲田大学)

研究費名:科学研究費補助金 若手研究
研究課題名:内在性カンナビノイド系の変調がもたらす加齢性記憶障害の分子基盤の解明
研究代表者名(所属機関名):片岡孝介(早稲田大学)

 

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ALCA-Next「資源循環」領域に採択

2023年度JST「戦略的創造研究推進事業 先端的カーボンニュートラル技術開発(ALCA-Next)」に採択

国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の2023年度戦略的創造研究推進事業 先端的カーボンニュートラル技術開発(ALCA-Next)において、書類及び面接選考を経て、理工学術院 関根泰教授の提案が採択されました。(応募総数:198件、採択総数:28件)

採択された技術領域「資源循環」では、資源の効率的な循環利用を低環境負荷で可能とし、温室効果ガス排出量の削減に大きく貢献する技術や材料、化学的プロセスの研究開発を推進することを目指しています。資源循環の観点から、提案の斬新性や実現可能性、温室効果ガス排出量をどの程度削減可能かという点が重視され、エネルギーフローやマテリアルフローの観点から、温室効果ガス削減について定量的な目標を設定の上、それを達成する具体的な技術が示された提案であるかが優先された結果の採択となりました。

採択課題(技術領域:資源循環)

関根 泰(理工学術院 教授)
「ケミカルループ法による革新的CO2転換材料の開発」

 

ALCA-Nextとは

世界各国においてカーボンニュートラルの実現に向けた動きが加速し、GX(グリーントランスフォーメーション)関連投資も急速に拡大しています。GXの実現のためには、2050年のカーボンニュートラルを実現するとともに、産業競争力の強化、経済成長・発展が必要不可欠です。今後の温室効果ガス(GHG)削減目標の達成や将来産業の創出に向けては既存技術の導入だけではなく新規技術の創出が必要であり、そうした技術を継続的に生み出すためには、産業界における実証や技術開発と並行してアカデミアにおける研究開発と人材育成への支援、企業とアカデミアの真の連携による社会実装が求められます。
これに応えるために開始されたALCA-Nextは、カーボンニュートラルへの貢献という出口を明確に見据えつつ、個々の研究者の自由な発想に基づき、科学技術パラダイムを大きく転換するゲームチェンジングテクノロジー創出を目指す事業です。(出典:JST ACLA-Nextウェブサイト)

【設定されている技術領域】
・蓄エネルギー
・エネルギー変換
・資源循環  ※今回本学が採択された領域
・グリーンバイオテクノロジー
・半導体
・グリーンコンピューティング・DX

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動的条件下でのX線CT撮影技術を開発

動的条件下でのX線CT撮影技術を開発

―ゴム材料に限らず生体撮影も可能、バイオ関連分野への応用にも期待―

【研究のポイント】

材料の内部構造を非破壊検査する方法として普及しているX線CT※1は、動的条件下での材料の観察には不向きであった。
ストロボ効果※2を利用した動的条件下でのX線CT撮影技術を開発し、複合化したゴム材料の動的粘弾性試験※3と動的X線CTによる計測を同時に行うことが可能になった。
心臓のような繰り返し変形するようなものであれば、生体の動的X線CT撮影も可能となる技術で、テラヘルツ波を用いたCT撮影など、材料に限らず医療・バイオ関連分野への応用も期待できる。

【研究概要】

早稲田大学理工学術院松原真己(まつばら まさみ)准教授を中心とする研究グループは、複合化したゴム材料の内部構造および動的挙動と減衰特性にどのような関係性があるのかを解明するために、ストロボ効果を利用した動的条件下でのX線CT撮影技術(以下、動的X線CT )を開発(図1)、動的X線CTと動的粘弾性試験を同時に実施する実験系を構築し、ゴム材料のミクロな内部構造とマクロな特性である減衰特性の関係を分析しました。

図1:動的X線CTの概略図

本研究成果は、オランダのエルゼビア社が発刊する国際学術誌『Mechanical Systems and Signal Processing』にて、2023年10月19日(木)に掲載されました。

(1)これまでの研究で分かっていたこと

ゴム材料に微粒子を複合化すると、減衰特性が更に向上します。これは微粒子界面における摩擦や、微粒子による変形阻害等が要因であると指摘されていますが、直接観察した事例はなく、そのメカニズムは未解明でした。近年、材料内部の構造を非破壊検査する方法としてX線CTが普及し、マイクロ・ナノオーダーの分解能での計測が可能となってきました。一方で、X線CTは対象物を回転させながら計測するため、動的条件下での観察には不向きです。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと

材料の減衰特性評価では引張状態で振動を加え(加振)、そのときに発生する荷重と変位を計測する動的粘弾性試験がよく利用されます。この動的粘弾性試験の動的条件下においてX線CT撮影による計測を同時に実施することができれば、複合化したゴム材料の内部構造および動的挙動と減衰特性の関係性が明確になると考えました。

そこで本研究では、動的粘弾性試験では材料が繰り返し変形することに着目し、加振周期、CT回転ステージの回転速度、CT画像用のカメラのシャッタータイミングを制御することでストロボ効果を利用した撮影手法を開発しました。そして、大型放射光施設SPring-8※4(BL20XU)に、今回開発した新たな小型動的粘弾性試験を導入し、動的粘弾性試験と動的X線CTによる同時計測を実現しました。今回の成果を得るためには、 SPring-8の極めて明るく安定した光源と高速度カメラを利用したCTが必須でした。

この撮影技法が有効であるか確かめるため、制振材としてよく利用されるスチレンブタジエンゴム(SBR)に、球状、板状の形状をもつ酸化亜鉛(ZnO)を複合化した試験片を用意し、動的X線CTを実施しました。ZnOは安価かつ形状の種類が多く、複合材(微粒子)としてよく利用されます。静的および動的条件下のCT画像を比較した結果、動的条件下の内部構造を可視化できたことから本研究で開発した動的X線CTが有効であることを確認しました。

また、内部構造と減衰特性の関係を分析するため、CT画像からμmオーダーの空間でひずみ(局所ひずみ)を算出した結果、複合化する微粒子形状の違いによって材料内部のひずみが均一ではなく不均一になることがわかりました。図2 は立体像内で確認できた局所ひずみの大きさをヒストグラムとして評価したものです。SBR単体および球状の場合は、ヒストグラムは鋭いピークをもっており、均一な変形が起こっていることを示します。一方、板状では広域的な分布となっておりひずみの大きさにばらつきがあり、不均一な変形が起こっています。このように、ミクロな動的挙動の特徴を捉えることが可能となりました。

図2:スチレンブタジエンゴム(SBR)に酸化亜鉛(ZnO)の球状(左図)と板状(右図)を配合した際の局所ひずみの大きさを表した分布図(ヒストグラム)。

(3)研究の波及効果や社会的影響

本研究では動的条件下でのX線CT撮影技術の開発に取り組みました。例えば、生体であっても心臓のような繰り返し変形するようなものであれば、動的X線CT撮影が可能となる技術です。テラヘルツ波を用いたCT撮影にも利用でき、材料に限らず医療・バイオ関連分野への応用も期待できます。

(4)今後の課題

動的条件下でのX線CT撮影は可能になりましたが、複合化したゴム材料の減衰特性と動的挙動の関係性についてはまだ明確になっていません。動的挙動からエネルギー散逸に関わる情報を抽出することが課題となっています。

(5)研究者のコメント

もともと高速回転タイヤの接地面ゴムの微小変形計測用に組んできた撮影技法をX線CTに実装しました。提案法をベースに材料や構造物の力学特性を決定付ける構造的な因子は何かを探究できればと考えています。

(6)用語解説

※1 X線CT:

X線を用いて物体の断面像や立体像を得る手法。CTはComputed Tomographyの略で、コンピューター断層撮影を意味しています。

※2 ストロボ効果:

ストロボはストロボスコープの略で、ある時間間隔で光を点滅させることを指します。この点灯タイミングで撮影すれば、対象物が高速回転体であれば、あたかも止まったような画像を得ることができます。通常、回転体の回転周期よりも十分に短いフレームレート(1秒間に撮影できる画像の枚数)のカメラで撮影しなければ、回転体の撮影はできませんが、ストロボの点灯タイミングと回転体の回転位相をコントロールすることで、回転周期よりも長いフレームレートのカメラでも撮影が可能となります。ここではその効果をストロボ効果と呼んでいます。

※3 動的粘弾性試験:

試験片に変位振動を与え、それによって発生する応力と歪みを測定することにより、貯蔵弾性率、複素弾性率、損失係数(減衰特性)といった力学的特性を測定する方法です。

※4 大型放射光施設SPring-8:

太陽の100億倍もの明るさに達する「放射光」という光を使って、X線回折、小角X線散乱、X線CT、光電子分光などの分析ができる研究施設設。材料開発にとどまらず、生体の分析、半導体や燃料電池の開発など産業分野でも活用されています。

SPring-8 |http://www.spring8.or.jp/ja/

(7)論文情報

雑誌名Mechanical Systems and Signal Processing

論文名In-situ measurement of dynamic micro X-ray CT and dynamic mechanical analysis for rubber materials

執筆者名(所属機関名):松原真己1、髙良領2、駒津泰一2、古田将吾2、小林正和2、虫明仁夢3、上杉健太郎4、河村庄造2、田尻大樹2

1早稲田大学、2豊橋技術科学大学、3 兵庫県立工業技術センター、4 公益財団法人高輝度光科学研究センター)

掲載日(現地時間):2023年10月19日(木)

掲載URL:https://doi.org/10.1016/j.ymssp.2023.110875

DOI10.1016/j.ymssp.2023.110875

(8)研究助成(外部資金による助成を受けた研究実施の場合)

研究費名:科研費基盤研究(C)

研究課題名:動的X線CTによる微粒子複合ゴムの振動減衰メカニズムの解明

研究代表者名(所属機関名):松原真己(豊橋技術科学大学)

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準安定相型メソポーラス半導体 (CuTe2)の合成に成功

準安定相型メソポーラス半導体 (CuTe2)の合成に成功

~光エレクトロニクス材料として優れたテルル化合物の応用に道を~

【本研究のポイント】

電気化学的ミセル注1)集積法により、常温下で準安定相型注2)メソポーラス注3)半導体注4) (CuTe2)薄膜の合成に成功した。
準安定相CuTe2薄膜の合成に重要な基板素材として、アルミニウム基板を用いることで、優れた結晶性と長期安定性を示した。
本研究成果は、加工が困難だったテルル化合物を光エレクトロニクス材料として活用する新たな手法を提案するものであり、光伝導素子、可調光センサー、検出器などの改良への貢献が期待される。

【研究概要】

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の山内 悠輔 卓越教授(JST-ERATO山内物質空間テクトニクスプロジェクト研究総括、クイーンズランド大学教授、及び早稲田大学客員上級研究員(研究院客員教授)兼任)、濱田 崇 特任准教授、早稲田大学の江口 美陽 准教授らは、クイーンズランド大学とニューサウスウェールズ大学との共同研究で、適切な基板選択と電気化学的ミセル集積法を用いて、常温下で準安定相型メソポーラス半導体(CuTe2)の薄膜の合成に成功しました。

従来のCuTe2薄膜は、光伝導素子、可調光センサーおよび検出器などの光エレクトロニクス材料への応用が期待されていますが、熱的安定性が課題であり、常温下でも安定なCuTe2薄膜が望まれていました。

本研究グループは、常温下でも安定な準安定相型メソポーラスCuTe2薄膜の合成には、基板素材の選択が重要であることを明らかにし、アルミニウム基板上で合成したメソポーラス型CuTe2薄膜は、優れた結晶性と長期安定性を示すことを見出しました。この技術により1.67 eVのバンドギャップを有する準安定相型のメソポーラスCuTe2薄膜の合成が実現できることから、種々の照明条件下で優れた光応答を示すことになり、光伝導素子、可調光センサー、および検出器などへの応用が期待でき、光エレクトロニクス分野のさらなる発展が期待できます。

本研究成果は、2023年10月18日付アメリカ化学会誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載されました。

【研究背景と内容】

新規材料の探索は、学術的にも産業的にも重要であり、デバイスなどの高性能化、低消費電力、小型化、環境問題を含む新たな機能の創出につながります。材料の探索研究では、基底状態の構造を調べるなど、これまでに多くの効果的な材料が見つかっており、広く利用されています。最近では、高エネルギー状態である不安定な相(速度論的な構造)を持つ準安定相材料に注目が集まっています。この分野では、金属ハライドペロブスカイトや金属相(1T相)の二次元物質である遷移金属ダイカルコゲナイド(Transition Metal Dichalcogenide, TMDs)注5)など、優れた材料が報告されています。特に、準安定相な金属で狭いバンドギャップ相を持つ第VI族であるモリブデンやタングステンのTMDsは、水素発生電気触媒や高容積キャパシタンスなど優れた性能を示します。このグループに属するいくつかの広いバンドギャップを持つ材料は、量子スピンホール相などの絶縁特性を示すこともあります。金属ハライドペロブスカイトの場合、多様なポリモルフ構造を持つ新しい構造変換性半導体としても分類されています。これらの材料は、高い拡散定数や対称性を持つため、固体電池のアクティブ電極材料として理想的です。鉛ハライドペロブスカイトは、高性能な光伝導体と光電子デバイスの開発にも使用されています。

従来の準安定相材料の製造技術には、イオン注入、直接合成、複数の前駆体法、化学的合成、物理的または化学的堆積、圧縮、急速冷却、ソフトケミカル、コンビナトリアル合成や機械的摩耗などがあります。また、メカノケミカル手法を用いて機械的エネルギー(例:ボールミリング)によって化学反応を誘発する手法も準安定相結晶の合成に使用されています。この手法は比較的環境に優しく、有害な有機溶媒を必要としない利点が挙げられます。

特に、硫化物やセレン化物の銅ベースのTMDシステムは、電気的および磁気的特性に優れ、広く研究されています。また、テルライド材料注6)は高い光変換効率と優れた熱電特性を持つため、多くの研究が行われています。例えば、Cu2Teや CuTeなどの銅とテルルの組成が異なる材料は、熱電材料への応用においても大きな関心を集めています。銅-テルル化合物注7)は安定相と準安定相など様々な組成を持つため、その結晶構造は複雑であり、銅-テルル構造は既知の銅ハライド中で最も複雑です。これらの材料の合成では、高温や高圧など過激な条件が必要で、実用化には課題が残っています。加えて、テルルは希少な材料であるため、テルルの特徴的な特性を活用しながら、コスト削減も求められています。

この研究では、ポリマーミセルを用いるソフトテンプレート法と電気化学的手法によりCuTe2の結晶構造を制御しつつ、高品質で安定したCuTe2を低温と常圧下で合成する効果的な方法を開発しました(図1)。さらに、異なる温度でのCuTe2の化学組成の安定性を調べるため、金属電極の析出方法の検討、”その場”観察によって構造と化学的変化を評価した。また、合成したCuTe2半導体の光電子特性の調査を行いました。

本手法では、適切な基板選択とソフトテンプレート法を用いて、準安定相CuTe2半導体を合成しました(図1)。この手法では、ブロック共重合体注8)が自己組織化することでポリマーミセルを形成し、メソポーラス半導体を合成するための基礎となります。安定なミセルの利用、及び合成条件(例:温度)を変えることで、結晶性の制御を可能にし、電極の選択が、メソポーラス準安定相型CuTe2膜の成長を容易にすることを明らかにしました。特に、金属電極が、酸化または還元電位、pHレベル、および電解質組成などの電気化学反応条件に大きな影響を与えることが明らかになりました。

一般的に、還元電位が高い(金などの)金属電極は、析出物に含まれる不純物の量を減少させる傾向があり、還元電位が低い(アルミニウムなど)金属電極は不純物の量を増加させる傾向があります。各金属電極の化学反応性は、材料の構造、光学、および電気的特性を時間とともに変化させることが可能です。実際、種々の電極上でメソポーラス型テルル銅半導体の合成に成功しました。アルミニウム電極上で合成した準安定相型メソポーラスCuTe2半導体はポリマーミセルのサイズに相当する16.8 nmのメソ孔を有することを電子顕微鏡から確認しました(図2)。一方で、金電極上で合成した準安定相型メソポーラスCuTe2半導体は16.6 nmのメソ孔注9)を有していました。

メソポーラスCuTe2半導体の光応答性を調べるために、光センサーを作製しました。この光センサー作製では、センシング要素となるCuTe2を幅1μmのアルミ電極間に析出させました(図3)。このセンサーに、赤色発光ダイオード(LED)、緑色LED、およびエアマス1.5注10)の疑似太陽光を照射して、アルミニウム電極上で合成した準安定相型メソポーラスCuTe2薄膜の電気伝導性を測定しました。−10から+10 Vの電圧範囲で応答を示し、疑似太陽光、緑色LED(16.8 mW/cm2)および赤色LED(10.6 mW/cm2)下で、顕著な応答を示しました。アルミ電極で作製した組成の異なる準安定相型メソポーラス薄膜(CuTe)センサーの応答を類似の照明条件(強度および波長)で比較したところ、電流密度が高くなり、メソポーラスCuTe2薄膜の光応答性がメソポーラスCuTe薄膜を上回る結果となりました。この強い光吸収特性は、メソポーラスCuTe2薄膜のバンドギャップ(1.67 eV)が後者のメソポーラスCuTe薄膜(2.35 eV)よりも低いためと考えられます。

【成果の意義】

本研究では、適切な基板の選択、及び温度制御結晶化技術により、アルミ電極上に16.8nmのメソポーラス構造を持つ準安定相型CuTe2薄膜を電気化学析出法で合成することに成功しました。このメソポーラスCuTe2薄膜は、赤外線吸収材料(バンドギャップ、Eg = 1.67 eV)として機能しました。本研究で提案する手法は、前駆体のイオン濃度(CuイオンとTeイオン)を変化させることによって、銅−テルルの二元系のエネルギーバンドギャップ幅を制御できることを示しており、新たな工学アプローチを提案することになります(メソポーラスCuTe薄膜のバンドギャップ、Eg = 2.32 eV)。”その場”観察法により、電極材料の選択が化学組成と銅-テルル半導体の構造の安定性に大きな影響を与えることを明らかにしました。従来の特殊な容器を必要とする高温、高圧下での合成手法と比較して、低コストでの製造プロセスが可能になり、エネルギーペイバックタイム注11)の短縮も期待できます。以上から、高い光電変換効率と優れた熱電特性を示すテルルをベースとする材料を、汎用的に利用できる可能性があることを実証しました。

本成果は、光伝導素子、可調光センサー、および検出器などへの応用が期待でき、光エレクトロニクス分野のさらなる発展が期待できます。

本研究は、2020年度から始まった「JST-ERATO山内物質空間テクトニクスプロジェクト」の支援のもとで行われました。

【用語説明】

注1)ミセル:

水になじむ親水部と水になじまない疎水部を持つ両親媒性分子が集まってできたコロイドのこと。

注2)準安定相型:

安定相よりもギブスの自由エネルギーが大きい状態のこと。

注3)メソポーラス:

メソ細孔を有する多孔体のこと。

注4)半導体:

電気伝導性が導体と絶縁体との中間の物質のこと。

注5)遷移金属ダイカルコゲナイド(Transition Metal Dichalcogenide, TMDs):

構成式がMX2で、遷移金属原子(M)と硫黄、セレン、テルルなどのカルコゲン原子(X)で構成される物質群のこと。

注6)テルライド材料:

テルルを含む材料で、テルル化カドミウムやテルル化ビスマスなどがある。

注7)銅-テルル化合物:

銅とテルルから構成され、組成と結晶構造で性質が変化する。

注8)ブロック共重合体:

二種類の異なるポリマーが連結した高分子化合物のことで、ブロック共重合体はナノ構造を発現する自己組織化材料としても知られている。

注9)メソ孔:

直径2 nm以下の細孔をマイクロ細孔、直径2–50 nmの細孔をメソ細孔、直径50 nm以上の細孔をマクロ細孔と定義されている。

注10)エアマス1.5G:

エアマスとは太陽光のスペクトルを表し、大気通過量のこと。エアマス1.5はその通過量が1.5倍での到達光を表している。

注11)エネルギーペイバックタイム:

電力や熱などのエネルギーを生産するエネルギー設備の性能評価のこと。

【論文情報】

雑誌名:Journal of the American Chemical Society
論文タイトル:Mesoporous Metastable CuTe2 Semiconductor
著者:Aditya Ashok, Arya Vasanth, Tomota Nagaura, Caitlin Setter, Jack Kay Clegg, Alexander Fink, Mostafa Kamal Masud, Md Shahriar Hossain, Takashi Hamada, Miharu Eguchi, Hoang-Phuong Phan, and Yusuke Yamauchi
DOI: 10.1021/jacs.3c05846
URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.3c05846

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131.4億光年 最遠方の原始銀河団

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡とアルマ望遠鏡の最強タッグで、最遠方の原始銀河団を捉えることに成功

発表概要

日本の橋本拓也助教(筑波大学)とスペインのJavier Álvarez-Márquez研究員(スペイン宇宙生物学センター)を中心とし、早稲田大学理工学術院の菅原悠馬次席研究員井上昭雄教授も参加する国際研究チームは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡とアルマ望遠鏡を使った観測により、最も遠い131.4億光年かなたにある原始銀河団の中でも、とくに銀河が密集している大都市圏に相当する「コア領域」を捉えることに成功しました。多くの銀河が狭い領域に集まることで、銀河の成長が急速に進んでいることが明らかになりました。さらに研究チームはシミュレーションを活用して大都市圏の姿の将来予想をしたところ、数千万年以内には大都市圏が1つのより大きな銀河になることを明らかにしました。銀河の生まれと育ちに関わる重要な手がかりとなることが期待されます。

図1 (左)ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡とアルマ望遠鏡で調べた原始銀河団A2744ODz7p9の中でも銀河の密集した「大都市圏」の想像図。(右)「大都市圏」の未来予想図(数千万年後の姿)。Credit: 国立天文台

研究の背景

星の集団である銀河の中で、個々の星がどのようにして生まれ、死に、その残骸からまた新しい星が生まれていくのか、そしてその集団としての銀河がどうやって成長していくのかを知ることは、宇宙における私たちのルーツを知ることでもあり、天文学の重要なテーマです。100個以上もの銀河がお互いの重力で集まった集団は銀河団と呼ばれ、これは宇宙における最も大きな構造の一つです。地球に比較的近い銀河の観測から、銀河同士が密集した環境のほうが、個々の星の生死のサイクルが急速に進むことが知られており、これは「環境効果」と呼ばれています。しかし、宇宙の歴史において、この環境効果はいつごろから存在したのかは、よく分かっていませんでした。これを知るためには、宇宙が誕生して間もないころの銀河団の祖先を観測する必要があります。銀河団の祖先は原始銀河団と呼ばれ、10個程度の、およそ100億光年以上かなたの銀河の集団です。幸い、天文学では、遠くの宇宙を観測することで、昔の宇宙の姿を観測することができます。例えば、130億光年かなたの銀河からの光や電波は130億年の時間をかけて地球に届くので、今、私たちが観測するのは、130億年前のその銀河の姿なのです。ただし、130億光年もの距離を旅して届く光や電波はその間に弱まってしまうので、観測する望遠鏡には高い感度と空間分解能が求められます。

研究内容と成果

日本の橋本拓也助教(筑波大学)とスペインのJavier Álvarez-Márquez 研究員(スペイン宇宙生物学センター)を中心とする国際研究チームは、高い感度と空間分解能を持つジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST、可視光・赤外線を観測)とアルマ望遠鏡(電波を観測)を用いて、原始銀河団A2744z7p9ODの「コア領域」を調べました。原始銀河団A2744z7p9ODは、欧米の研究グループによるJWSTを用いた観測により、最も遠い131.4億光年[1]かなたの原始銀河団であることが発表されていました[2]。「しかし、この原始銀河団の中で最も銀河候補が多い『大都市圏』に当たる『コア領域』を隈なく観測することはできておらず、銀河の環境効果が始まっているかどうかは不明でした。そこで私たちは、コア領域に注目した研究をすることにしたのです。」と研究をリードした橋本拓也助教(筑波大学)は語ります。

研究チームはまず、この原始銀河団のコア領域のJWSTによる観測に挑みました。可視光から近赤外線までの波長をスペクトル観測する装置NIRSpecの面分光モードを用いることで、視野内のすべての場所のスペクトルを同時に取得することができます。得られた面分光の解析手法を改良しながら、高い空間分解能でコア領域を調べました。その結果、天の川銀河の半径のさらに半分相当の36,000光年を一辺とする四角形領域の中で、電離した酸素イオンの光 ([OIII] 5008Å)を4つの銀河から検出することに成功しました(図2左)。この光の赤方偏移(宇宙膨張により光源の銀河が遠ざかっていることによる波長の伸び)から、4つの銀河の地球からの距離は131.4億光年と同定されました。JWSTデータの解析をリードした菅原悠馬研究員(早稲田大学/国立天文台)は「共同研究者とともに苦心して解析したデータから、酸素イオンの光がほとんど同じ距離で4箇所も検出されたときは驚きました。コア領域の“銀河候補”は、確かに原始銀河団のメンバーだったのです。」と語ります。

さらに、研究チームは、この領域についてすでに取得されていた、アルマ望遠鏡による塵の出す電波の観測データに注目しました。解析の結果、4つの銀河のうち3つから、塵の出す電波を検出しました (図2右)。これは、これほど過去の時代にある原始銀河団として、塵が検出された初めての例です。銀河の中の塵は、銀河を構成している重い星々がその進化段階の終末期に引き起こす超新星爆発により供給され、それが新しい星の材料になると考えられています。このため、銀河に多量の塵があることは、銀河内の第1世代の星の多くがすでに一生を終えており、銀河の成長が進んでいることを示しています。研究チームの立ち上げ時から本研究に携わったLuis Colina教授(スペイン宇宙生物学センター)は、「同じ原始銀河団のうち、コア領域以外の密集していない銀河では、塵は検出されませんでした。これは、多くの銀河が狭い領域に集まることで銀河の成長が急速に進んでいることを示しており、138億年前の宇宙誕生からわずか7億年余りの時代に環境効果が存在していたと考えられます。」と研究の意義を語ります。

図2. 背景のカラー画像はJWSTに搭載されたカメラで取得された、原始銀河団A2744ODz7p9のコア領域の光の強度(青→緑→黄→赤の順に強くなる)のマップ。光が強い箇所に銀河の候補が存在することを示す。四角形領域の一片は、天の川銀河の半径のさらに半分程度の大きさに相当する。(左) 等高線はJWSTに搭載された装置NIRSpecで取得した電離酸素の放つ光の分布を表す。4つの銀河が、131.4億光年かなたに同定された。(右)等高線はアルマ望遠鏡で取得した塵の放つ電波の分布を表す。4つの銀河のうちの3つから塵の放射が認められる。図中左下の白丸は、アルマ望遠鏡データのビームサイズを表す。
Credit: JWST (NASA, ESA, CSA), ALMA (ESO/NOAJ/NRAO), T. Hashimoto et al.

さらに、研究チームは、このコア領域に密集した4つ銀河が、どのように形成され、進化するのかを理論的に検証するため、銀河形成シミュレーションを行いました。その結果、観測された天体と同じく宇宙が誕生してから6.8億年のころに、図3(a)のようなガスの粒子が密集した領域が存在し、図3(b)のように拡大をすると狭い領域に密集した4つの銀河が形成されることが示されました。この4つの銀河の進化を追うために、シミュレーションでは、銀河を構成する星やガスの運動、化学反応、星の形成や爆発現象といった物理過程を計算しました。すると、数千万年という、宇宙の進化のタイムスケールとしては短い時間で合体し、より大きな銀河に進化することが示されました。「今回の観測銀河の再現は、我々のシミュレーションが高い空間分解能と多数の銀河サンプルを有するからこそ可能でした。今後はコア領域の形成メカニズムやその力学的性質を詳細に探っていきたいです。」とシミュレーションデータの解析を行なった仲里佑利奈大学院生(東京大学)は語っています。

図3. 銀河形成シミュレーションによる本天体の成⻑の予想。(a)宇宙年齢 6.89 億年における原始銀河団 A2744z7p9OD に似た領域のガスの密度の様子。(b)は(a)のコア領域の拡大図で、JWST で観測された領域相当の領域。図の濃淡は、酸素イオンの光の分布を示す。(b)から(d)は、シミュレーション天体の進化の様子。4つの銀河が次第に合体を繰り返して、より大きな天体へと進化する様子を表す。Credit: T. Hashimoto et al.

Javier Álvarez-Márquez 研究員 (スペイン宇宙生物学センター)は、「今後、原始銀河団A2744z7p9ODについて、アルマ望遠鏡でさらに高感度の観測を実施し、これまでの感度では見えなかった銀河が存在するかどうかを調べます。また、今回その威力が実証されたJWSTとアルマ望遠鏡のタッグによる観測をより多くの原始銀河団に適用し、銀河の成長メカニズムを明らかにしていくことで、宇宙における我々のルーツに迫ります。」と展望を語っています。

論文情報

この観測成果は、T. Hashimoto et al. “Reionization and the ISM/Stellar Origins with JWST and ALMA (RIOJA): The core of the highest redshift galaxy overdensity confirmed by NIRSpec/JWST’’として天文学専門誌 The Astrophysical Journal Letters に2023年8月30日付で受理され、今後掲載予定です。

研究成果は日本天文学会2023年秋季年会で9月20日に発表いたしました。

今回の研究を行なった研究チームのメンバーは、以下の通りです。

橋本 拓也(筑波大学)、Javier Álvarez-Márquez(スぺイン宇宙生物学センター)、札本 佳伸(千葉大学)、Luis Colina(スペイン宇宙生物学センター)、井上 昭雄(早稲田大学)、仲里 佑利奈(東京大学)、Daniel Ceverino (マドリード自治大学)、吉田 直紀(東京大学、Kavli IPMU)、Luca Costantin(スペイン宇宙生物学センター)、菅原 悠馬(早稲田大学、国立天文台)、Alejandro Crespo Gómez (スペイン宇宙生物学センター)、Carmen Blanco-Prieto (スペイン宇宙生物学センター)、馬渡 健(筑波大学)、Santiago Arribas (スペイン宇宙生物学センター)、Rui Marques-Chaves (ジュネーヴ大学)、Miguel Pereira-Santaella(スペイン基礎物理学研究所)、Tom J.L.C. Bakx(チャルマース工科大学)、萩本 将都(名古屋大学)、橋ヶ谷 武志 (京都大学)、松尾 宏 (国立天文台、総合研究大学院大学)、田村 陽一(名古屋大学)、碓氷 光崇(筑波大学)、任 毅 (早稲田大学)

助成金情報

この研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(課題番号 20K14516、22H01257、22H04939、23H00131)、日本学術振興会卓越研究員事業(HJH02007)、ALMA 共同科学研究事業(2020-16B)、the Spanish Ministry of Science and Innovation/State Agency of Research (PIB2021-127718NB-100)、Program “Garantía Juveníl” from the “Comunidad de Madrid” 2021 (CM21 CAB M2 01)、Co- munidad de Madrid under Atracción de Talento (2018-T2/TIC-11612)、the Ramón y Cajal program of the Spanish Ministerio de Ciencia e Innovación (RYC2021-033094-I )の補助を受けて行われました。

 

アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾国家科学及技術委員会(NSTC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宇宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。

注釈

[1] 今回の天体の赤方偏移は、z = 7.88でした。これをもとに最新の宇宙論パラメータ(H0 = 67.7 km/s/Mpc, Ωm = 0.3111, ΩΛ =0.6899 )で距離を計算すると、131.4億光年になります。

[2] A2744z7p9ODは、欧米の研究グループを率いる森下貴弘研究員(カリフォルニア工科大学)らによって最初に距離が決定されました。

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【11月30日(木)12:30~13:10開催】PEP卓越大学院プログラム7期生(2024年4月進入・編入)募集説明会のお知らせ

文部科学省卓越大学院プログラム『パワー・エネルギー・プロフェッショナル(PEP)育成プログラム』は、
電力・エネルギー新産業創出に寄与する人材を輩出することを目的とした修士・博士後期5年一貫の博士人材育成プログラムです。
<ご参考>
PEP卓越大学院プログラムHP https://www.waseda.jp/pep/
パンフレット https://www.waseda.jp/pep/pamphlet/
募集要項出願書類 https://www.waseda.jp/fsci/admissions_gs/guidelines/pep/

この度、本プログラムの7期生(2024年4月進入・編入)募集説明会を以下のように開催致します。
当日は、プログラム説明後に現役PEP生も参加して、皆さんの質問にお答え致します。
奮ってお申込みください。
<概要>
対象:現在、電力系・エネルギーマテリアル系を専攻分野としている(あるいは現在それらの分野に関心がある)以下の学生、社会人
・学部3年生、4年生
・修士課程/一貫制博士1年生、2年生
・2024年4月に以下の参画専攻博士後期課程入学予定者
[参画専攻]
・基幹理工学研究科(機械科学・航空宇宙専攻、電子物理システム専攻)
・創造理工学研究科(地球・環境資源理工学専攻)
・先進理工学研究科(応用化学専攻、電気・情報生命専攻、ナノ理工学専攻、先進理工学専攻)
・環境・エネルギー研究科(環境・エネルギー専攻)

日時:2023年11月30日(木)12:30~13:10(途中入退室可)
形式:Zoomオンラインミーティング(申請フォームから参加登録いただいた方にURL詳細等、11/29(水)を目途にメールでお送り致します。)
内容:・PEP卓越大学院プログラム概要説明(研究指導・支援体制、カリキュラム、進路、経済的支援等)
・2024年4月(7期生)進入/編入募集日程
・質疑応答(プログラムコーディネーター林 泰弘教授、PEP事務局が質問にお答え致します。)
・現役PEP生の体験談と質疑応答

<申請フォーム>
PEPプログラムに少しでも関心のある方はお気軽に、以下URLよりお申込みください。
https://x.gd/RVsGl

申込締切:11月30日(木)10:00まで

<お問合せ>
PEP卓越大学院プログラム事務局(51号館1F理工統合事務所内)
TEL:03-5286-3238 Email:[email protected]

 

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ロボットアーム運動生成 旧来比4倍を超える高速計算手法を開発

ロボットアーム運動生成 旧来比4倍を超える高速計算手法を開発

量子インスパイアード技術「デジタルアニーラ」を活用した世界初の取り組み

発表のポイント

ロボットの運動時のエネルギー消費の低減に向けて、効率的な運動軌道を導いたり、その軌道を実現する各時間の加減速への考慮を行ったりするための最適化計算は、これまで運動そのものに比べて膨大な時間を要し、ロボット開発やその進歩にとって大きな障壁となっていました。
組合せ最適化問題を高速に解くことに特化した「デジタルアニーラ」の技術を用いて、ロボットアーム先端の軌道求める最適制御問題として定式化しました。
今回開発した計算手法によって、エネルギー消費の観点で最適な運動生成を達成する高速計算を実現すると同時に約10%のエネルギー消費の低減をもたらすことができました。

早稲田大学(以下、早大)理工学術院総合研究所の大谷拓也(おおたにたくや)次席研究員ならびに同大理工学術院の高西淳夫(たかにしあつお)教授らの研究グループは、富士通株式会社(以下、富士通)との産学連携により、次世代コンピューティングの一つであるアニーリング方式に属する、富士通の量子インスパイアード技術*1「デジタルアニーラ*」を用いて、ロボットの構造に応じたエネルギー消費の少ない運動を高速で計算する手法を提案しました。量子インスパイアード技術をロボットアームの運動生成に活用する取り組みとしては世界初となります。

本研究成果は世界最大の学術研究団体であり、全世界に40万人を超える会員を有する米国電子電気学会(IEEE)発行の『IEEE access』に2023年9月28日(木)(現地時間)に掲載されました。

【論文情報】
雑誌名:IEEE access
論文名:Energy Efficient Path and Trajectory Optimization of Manipulators with Task Deadline Constraints
DOI10.1109/ACCESS.2023.3320143

(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

近年、様々な場面でロボットの実用化が進み始めている一方で、エネルギー不足の問題は、ロボット分野のみならず、世界的な問題として深刻化しています。ロボットのエネルギー効率が低いと、エネルギーが無駄に消費されてしまいます。人間は、身体に多くの関節を持ち、手の位置が同じでも様々なポーズで実現することができ、楽な姿勢をすればエネルギー消費は減ります。人間と同じく、ロボットがどのように動くかによってエネルギー消費は変わります。

そのため、ロボットが腕を動かして作業をする際の手の位置が同じであっても、どのように動くかをロボット自身が自動でエネルギー消費の少ない運動を求める計算ができれば、ロボットの運動時のエネルギー消費を低減できます。しかし、腕や足は複数の関節から成ることでその計算が複雑となるため、運動に対して膨大な時間が必要でした。また、ロボットの動く軌道と、その軌道を実現する際の各時間の加減速を同時に考慮することは困難でした。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

ロボットのエネルギー消費を低減する方法として、ロボットができる運動範囲の中からエネルギー消費の少ないポーズを考慮できれば、作業時間の一部はエネルギー消費の少ないポーズを経由して動くことができます。また、ロボット内にバネがある場合にはバネがロボットの腕の重さを支えてくれるポーズをとるなど、ロボットの取れる範囲で最適な動作を計画することができると考えました。さらに、ロボットに指示する作業完了時間に余裕がある場合は、作業時間すべてを使ってゆっくり動くよりも、エネルギー消費の少ない楽な姿勢で待機しておき残りの時間で動く運動も、エネルギー消費を低減することには有効です。

そこで本研究では、次世代コンピューティングの一つであるアニーリング方式に属する富士通株式会社の量子インスパイアード技術「デジタルアニーラ」を用いて、ロボットの構造に応じたエネルギー消費の少ない運動を高速で計算する手法(次項「(4)そのために新しく開発した手法」参照)を提案しました。本手法では、従来の運動生成手法よりもはるかに高速に、ロボットの可動範囲全体を考慮した低エネルギー消費の運動を生成できることがわかりました。一例として、従来はロボットの運動を数式として表現して連続的に計算する手法である内点法*3を用いて440秒かかっていた3秒間のロボット運動生成を、「デジタルアニーラ」による計算100秒で完了できました。旧来比で4倍以上の圧倒的な高速性を示すことができました。また、ロボットアームを前に伸ばす動作や、腕を上げる動作をシミュレーションし、ロボットの各部の重さや長さ、ばねの有無などを考慮してエネルギー消費を計算することで、腕を伸ばす際に短い状態で待機してから伸ばす動作や、腕を上げる際に真上にゆっくり上げてから少し前に出すような動作が生成されました(図2)。さらに、ロボット内にバネがある場合には、ばねが支えられる範囲で腕の重さを支えてもらえる位置に腕を移動した後、目標に到達する運動が生成されました。これらによって、一般的な比較対象として用意した、運動の開始地点から終了地点までの等速直線軌道を通った場合に対して、関節に必要な力の合計が約10%減少でき、エネルギー消費が少なくなりました。

(3)そのために新しく開発した手法

本研究が解くロボットの運動生成問題は、ロボットの運動時のエネルギー消費を最小化する離散化された一連のロボットアームの手の位置を求める最適制御問題として定式化します。本研究で提案する運動計画法は、主に以下の①~⑤からなる5つのステップから構成されます。

  1. ロボットの手の可動範囲を離散化する。
  2. 離散化された手の位置とそれらの組合せにおける各関節角度、角速度、角加速度を計算する。
  3. 実行する作業に応じて目的関数と制約条件を設定する。
  4. コスト最小化問題を二次制約なし二値最適化(QUBO)に変換する。
  5. イジングマシンによる最適化計算を行う。

空間内でのロボットの幅広い動作を単純化するために、ロボットの手の位置を離散化します。従来は、ロボットの運動方程式を構築し連続最適化問題として解く手法が提案されていましたが、ロボットのダイナミクスが複雑であると運動方程式も複雑になり数学的に解くことが難しいことが大きな課題でした。そこで、ロボットの手の位置の時間変化が軌道であるとして連続的な軌道を各瞬間の手の位置の組み合わせと考え、各瞬間にどの手の位置にあるかを組合せ最適化計算によって求めます。ロボットが消費するエネルギーはある時刻に手先位置がどのように変化したかによって計算できるため、離散化した手の位置の中から、手の位置同士の組合せごとに必要なエネルギーを計算し、ロボットのエネルギー消費ライブラリ*4を作成します。このデータから、各時刻の手先位置変化に必要なエネルギーの運動開始から終了までの合計が最小となる手の位置の一連の組み合せを求めます。

本研究では、量子現象に着想を得たデジタル回路設計により複雑な組合せ最適化問題を高速に解くことに特化した技術である、富士通の「デジタルアニーラ」を用いました。これにより、シミュレーテッド・アニーリング*5などの従来の手法よりも高速に組合せ最適化問題を解くことができます。

(4)研究の波及効果や社会的影響

本研究は、ロボットアームを持つ形状のようなロボットであれば汎用的に使用できる技術となっており、論文の中でも複数のロボットアームに対して、それぞれに異なる運動を生成しています。これらによってエネルギー消費を低減できれば、これからロボットが普及していく際にも、ロボットのエネルギー問題を解決することに貢献できると考えます。また、ロボットのエネルギー消費が小さくなれば同じバッテリであっても稼働時間が長くなり、さらには、屋外環境や宇宙など、エネルギー量が限られる空間でのロボットの活躍にも貢献できると期待しています。

(5)今後の課題

現状の課題として、より関節数の多いロボットの運動生成を行うには長い時間を要してしまいます。最適化を行う範囲を段階的に設定して最適化するなどによって、さらに大規模な運動生成を高速に計算する手法が求められます。今後は、ロボットでの様々な運動生成の実証を進めるとともに、ロボットの大きさや重さだけでなく、各部の構造の違いとしてギヤの違いなどをさらに考慮していくことを目指します。

(6)研究者のコメント

最先端の量子インスパイアード技術を用いることで多くのロボットのエネルギー消費低減に貢献できる技術を開発できました。複雑なロボットの運動は既存の計算手法では解くことが難しく、量子コンピューティング技術を用いることでロボット技術もさらに発展すると思うので、これからも研究を進めます。

(7)用語解説

1 量子インスパイアード技術

量子現象に着想を得たコンピューティング技術で、現在の汎用コンピュータでは解くことが難しい「組合せ最適化問題」を高速で解く技術

2 「デジタルアニーラ」

現在の汎用コンピュータでは解くことが困難な組合せ最適化問題を高速に解く富士通独自の量子インスパイアード技術。Fujitsu Computing as a Service Digital Annealer として提供。

3 内点法

連続最適化問題のアルゴリズムであり、特に大規模な問題を高速に解くことができる。

4 エネルギー消費ライブラリ

本研究で用いる、ロボットがあるポーズからあるポーズに短時間で運動するとどの程度のエネルギーを消費するかを、ロボットが実行可能なポーズすべてについて計算しまとめたもの。

5 シミュレーテッド・アニーリング

「焼きなまし法」とも呼ばれ、大域的最適化問題へのアプローチ方法の一つ。金属を熱してから冷ます焼きなましの工程をコンピュータ計算に応用しており、最適化問題を解くために古くから使われている。

 (8)論文情報

雑誌名:IEEE access
論文名:Energy Efficient Path and Trajectory Optimization of Manipulators with Task Deadline Constraints
執筆者名(所属機関名):Takuya Otani (Waseda University)、 Makoto Nakamura (Fujitsu Ltd.)、Koichi Kimura (Fujitsu Ltd.)and 、Atsuo Takanishi (Waseda University)
掲載日:2023年9月28日
掲載URL:https://ieeexplore.ieee.org/document/10266335
DOI:10.1109/ACCESS.2023.3320143

 

 

 

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進む、医理工研究交流(第3回日本医科大学・早稲田大学合同シンポジウム開催報告)

2023年9月30日(土)、第3回「日本医科大学・早稲田大学合同シンポジウム~両校の実質的連携を目指した研究交流~」を日本医科大学橘桜ホールにおいて開催しました。

日本医科大学と本学との連携は、2009年に締結した包括協定から始まり、実質的な研究連携への合意(2020年)を経て、本学附属校・系属校との高大接続連携に関する協定(2020年)へと発展してきました。2021年度からは、日本医科大学で選抜された3年生を、本学の理工系研究室に3週間迎え入れて交流を図る「研究配属」も実施しています。

シンポジウム冒頭の開会挨拶で、日本医科大学学長の弦間昭彦氏から、合同シンポジウム等を通した両大学の対話により、公的資金の獲得や論文という形で具体的な成果が現れつつあること、また、今後の一層の発展へ向けた期待が述べられました。続いて、早稲田大学副総長の須賀晃一から、研究面のみならず、高大接続連携や日医大3年生の3週間の研究配属など、教育面での連携についても着実に歩を進めており、研究と教育の両輪でさらに連携を進めることで、社会に貢献していきたいとの意気込みが語られました。

左:日本医科大学学長の弦間昭彦氏、右:本学副総長の須賀晃一

開会挨拶に続く第一部の研究紹介では、日本医科大学2名、本学2名の研究者が研究紹介を行いました。

  • 澤田 秀之(早稲田大学理工学術院 教授)
    「温度と微小振動刺激を利用した化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛の診断法の開発」
  • 山口 博樹(日本医科大学血液内科学 教授)
    「医工連携による造血幹細胞移植診療における新規バイオマーカーの探索」
  • 酒井 哲也(早稲田大学理工学術院 教授)
    「人を救うコンピュータサイエンスに関するいくつかの話題」
  • 福原 茂朋(日本医科大学分子細胞構造学 教授)
    「血管透過性の制御機構と疾患・加齢によるその破綻メカニズム」

研究紹介の様子(左から、澤田教授、山口教授、酒井教授、福原教授)

第二部では、日本医科大学生が早稲田大学における研究配属の成果発表を行い、優秀研究賞1件が選ばれました。

 

 

成果発表・質疑応答の様子

左から、本学副総長の須賀晃一、優秀研究賞を受賞した日本医科大学生、日本医科大学学長の弦間昭彦氏

閉会挨拶では、まず本学常任理事の本間敬之から、日本医科大学が持つニーズと、本学がもつ手法や材料とをマッチングさせることで今回講演があったような素晴らしい成果が得られるので、今後もそのような機会を広げていきたいとの抱負が語られました。また、日本医科大学大学院医学研究科長の桑名正隆氏から、早大附属校・系属校生の日本医科大学への推薦、日本医科大学生の研究配属、研究者間の共同研究等を通じて世代を超えた幅広い交流ができており、これらが今後のさらなる両校の発展につながるものと期待しているとのお言葉がありました。

左:本学常任理事の本間敬之、右:日本医科大学大学院医学研究科長の桑名正隆氏

今後も、日本医科大学と本学は、研究と教育との両輪で医理工連携を推進し、社会に貢献してまいります。

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ノーベル物理学賞「アト秒関連技術」に関する新倉教授のコメントがメディアで紹介されました

2023年度のノーベル物理学賞は「アト秒関連技術」でした。
アト秒科学の黎明期から研究を行っている先進理工学部応用物理学科・新倉弘倫教授のコメントがNHKや新聞などのメディアで紹介されました。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231003/k10014213781000.html
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC0277D0S3A001C2000000/
https://mainichi.jp/articles/20231003/k00/00m/040/280000c

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【PEP卓越大学院プログラム】2024年1月実施_7期生(2024年4月進入・編入)選抜試験(SE)情報更新しました_2023.09.27

文部科学省卓越大学院プログラム
「パワー・エネルギー・プロフェッショナル育成プログラム」
2024年1月実施の7期生(2024年進入・編入)選抜試験(SE)に関する情報更新致しました。

理工HP大学院入試ページの中のPEPSE情報ページ(募集要項・出願書類)
https://www.waseda.jp/fsci/admissions_gs/guidelines/pep/

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