コンピューティング領域をリードする
世界最高峰の学会で、コンピューティング領域をリードする
理工学術院・鷲崎教授、IEEE Computer Society会長就任へ
理工学術院・鷲崎教授、IEEE Computer Society会長就任へ

図1 偏光分離機能を持つ可変焦点メタレンズの概念図
重ねた2枚の光学素子が、緑色と青色で示した直線偏光をそれぞれ異なる位置に集光させる様子。
またその焦点距離は、2枚の素子の変位が大きいときは長く(上図)、小さいときは短く(下図)なる。
メタアトム(注3)と呼ばれる光の波長より小さいサイズの構造体を配列して光を制御するメタサーフェスは、小型軽量な素子で様々な光学的機能を実現できることから、次世代の光学デバイスとして注目されています。これらは厚さ数百ミクロンの基板上に半導体の製造プロセスを用いて微細な柱状構造を配列したものであり、非常に薄型であるだけでなく大量生産も可能な特徴を持っています。また柱状構造の配置によってホログラフィや可変焦点レンズなど様々な機能を実現できるほか、メタアトムの形状によって偏光や波長に依存した設計も可能です。これらメタサーフェスの多機能性に着目し、今回私たちは、光通信技術へ応用可能な偏光の分離機能と可変焦点機能を併せ持つメタレンズを開発しました。
本研究は、国立大学法人 東京農工大学大学院 工学府 産業技術専攻の羽田充利氏(専門職学位課程1年)と同大学院工学府機械システム工学専攻の阿出川彪氏(2023年3月博士前期課程修了)、青木活真氏(博士前期課程2年)、早稲田大学理工学術院の池沢聡研究院講師、東京農工大学大学院工学研究院先端機械システム部門の岩見健太郎准教授により行われました。また、本研究の一部は日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(B)(一般)(21H01781)、基盤研究(C)(22K04894)の支援により行われました。また、本研究の試料作成には、文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ」事業(課題番号 JPMXP1223UT1008)の支援を受け、東京大学微細加工拠点の共用設備を利用させていただきました。解析の一部は、東京工業大学のスーパーコンピュータ TSUBAME 3.0 を利用して行われました。
今回、光通信波長帯である波長1550 nmで動作する偏光分離機能を持つ可変焦点メタレンズを開発しました。これは、図1のように直交する2つの直線偏光成分を分離して異なる位置に集光させつつ、その焦点距離を変化させることができます。設計ではまず初めに、可変焦点メタレンズであるAlvarezメタレンズ(注4)の位相分布(注5)を改変し、光軸外に集光する可変焦点メタレンズの位相分布を導出しました。メタアトムの断面構造を長方形として垂直・水平直交偏光に対する位相遅延量を独立して制御し、集光位置の異なる位相分布を割り当てることで所望の機能を実現しました。設計したメタレンズは、東京大学微細加工拠点の電子線描画装置、反応性イオンエッチング装置を用いて製作し(図2)、設計波長の光源にてその機能を確認しました(図3)。

図2 製作結果(a) メタレンズ写真 (b) 上から撮影した電子顕微鏡写真
(c) 斜め方向から撮影した電子顕微鏡写真 (d) (b)の拡大図長方形の断面構造を持つメタアトム

図3 実験結果(a)x偏光 (b) 45度偏光 (c) y偏光 を入射した時の焦点面の様子。x偏光を入射した時には、設計通り画像下側に集光し、y偏光を入射した時には画像上側に集光している。また、両方の偏光を含む45度偏光を入射した時には、偏光が分離されてそれぞれの焦点位置に集光している様子が分かる。 (d) 入射偏光によって2つの焦点輝度が変化する様子。偏光角度は0度がx偏光、90度がy偏光を表しており、(a)-(c)に示した焦点の明るさが入射光に含まれる各偏光の量に依存していることから偏光を正しく分離できていることが分かる。(e) Alvarezレンズの2つの素子の相対変位dによって焦点距離fが変化する様子。黒線で示した理論値に沿って焦点距離を制御できていることが分かる。
社会の情報化に伴い、高速かつ大容量で安全な光通信技術への需要が高まっています。自由空間光通信(注6)は高速で秘匿性も高く、光ファイバーの敷設が不要で設置コストも低いため次世代の光無線通信技術として期待されています。空間中を伝搬する信号光は大気の揺らぎなどの影響を受けるため、受信装置においてはこれを追尾して検出器に誘導する調芯が必要です。また伝送容量の増大のためには、異なる情報を持つ偏光を多重化して伝送し、受信部で分離する偏光多重技術が使われています。本研究で開発したメタレンズを自由空間光通信の受信器に用いることで、調芯と偏光分離の二つの機能を小型の素子で担うことが可能になります。さらにメタレンズは半導体の製造プロセスにより大量生産することが可能であり、次世代の光通信設備の簡素化やコスト削減に貢献できると期待できます。
光(電磁波)の波長に比べて小さいサイズの誘電体導波路構造を配列することで、自然界には存在しない屈折率や光機能を実現できる機能性表面。「メタ」は「高次な-」「超-」を意味する接頭語。
メタサーフェスの考え方に基づいて作られた、誘電体導波路を配列したレンズ。非常に薄型なことに加えて、偏光分離機能など従来のレンズでは実現できなかった機能を持つことができる。
メタサーフェスを構成する、光(電磁波)の波長に対して微小なサイズの構造体のこと。本研究では、アモルファスシリコンで製作した196~396 nmの幅を持つ矩形断面のメタアトムを500 nm周期で配列した。
2枚の光学素子からなる可変焦点レンズ。図1のように、重ねた2枚の光学素子を光軸と垂直な方向に駆動させ、その変位量によって焦点距離を制御する。光軸方向への移動を伴わないため薄型な特徴を持つ。
メタレンズ平面における、メタアトムが光波に与える位相遅延量の分布のこと。位相分布を適切に設計することで、メタレンズに所望の機能を与えることができる。
光ファイバーの代わりに空間中を伝わるレーザー光線を用いた光通信技術のこと。高速通信が可能で傍受の危険が少なく、ファイバーの敷設が不要なため導入コストが低いといったメリットがあり、次世代の光通信技術として期待が大きい。
一般社団法人日本分析機器工業会(JAIMA、所在地:〒101-0054 東京都千代田区神田錦町2-5-16、会長:足立 正之/株式会社堀場製作所 代表取締役社長)は、早稲田大学(〒169-8050 東京都新宿区戸塚町1-104)との包括協定書を2024年2月1日付けで締結いたしました。

JAIMAは、2018年から早稲田大学大学院創造理工学研究科との協力のもと、早稲田大学で協力講座「素材機器分析評価」(創造理工学部との合併科目)を開講し、分析機器技術人材の育成に貢献しています。これまでに419人の学部生・大学院生が講座を受講し、分析機器の実学が学べる我が国唯一のJAIMA協力講座として受講者から大変好評を得ています。今回の包括協定書締結により、JAIMAと早稲田大学は、協力講座に加え、早稲田大学において推進する分析機器利用者向け技術研修プログラム(社会人となって通用する分析機器利用に関する知識及び技量を履修できる研修プログラム)を構築することを目指します。さらに、今後は人材育成・産学連携の推進などの幅広い相互協力を実施して参ります。
また、今回の包括協定書の締結を記念し、幕張メッセで開催される最先端科学・分析システム&ソリューション展「JASIS (Japan Analytical and Scientific Instruments Show) 2024」(2024年9月4日(水)~6日(金))にて記念講演を行う予定です。詳細につきましては、後日、JASISオフィシャルサイト(https://www.jasis.jp/)にてご案内させていただきます。
分析機器は、科学技術・産業技術の発展、安全安心をリードする我が国の社会的技術基盤です。JAIMAと早稲田大学は、この社会的技術基盤の将来の発展や社会課題解決を導く人材の育成に努めて参ります。
本事業における早稲田大学での研究開発責任者は理工学術院 竹山春子教授です。

【本事業の背景】
これまでの栄養学は、栄養不足の解消を目指し、集団から得られたデータをもとに一般化された栄養摂取基準を作ってきました。一方で、時代の変化と共に、健康のための機能性が食に求められるようになってきたものの、同じ食品を摂取しても、その効果は人によって異なることが明らかになっています。このような背景から、近年は、食の効果の個人差を考慮する必要性が認識されています。そこで、遺伝子、生活習慣、腸内細菌、ライフステージ等に応じて、一人ひとりに適した食事の提案を行うことで健康社会の実現を目指す「Precision Nutrition(精密栄養学)」の重要性が提唱されています。
医薬基盤・健康・栄養研究所では、1万人(2024年1月現在)を超える日本人から㋐食事、運動、睡眠等の生活習慣や、㋑健康診断や疾患歴等健康状態に関する情報と共に、㋒便、血液、唾液等のサンプルを提供いただき、腸内細菌叢や代謝物、免疫パラメーター等を測定することで、健康維持や増進に関わる有用菌や有用代謝物の同定、それらを培養・生産する技術開発を行ってきました。これらの知見やノウハウを活かし、今まで「腸内細菌の迅速測定システム」、「有用代謝物の定量」、「AIを用いた食の効果の予測システム」等の技術開発を進めてきました。
これら厚生労働省や医薬基盤・健康・栄養研究所の施策により培ってきた技術を基盤に、本BRIDGEにおいては、技術の高度化や最適化を行う大学や社会実装を担当する民間企業と連携・事業展開することで、「Precision Nutrition(精密栄養学)」の観点から、個人の特性に応じた食の提案・提供を可能とする社会実装を進めています。
医薬基盤・健康・栄養研究所を代表機関とし、Precision Nutrition(精密栄養学)の社会実装に向けて、参画機関と共に以下の3テーマで研究・開発を実施しています。
消費者となる方の参加登録や自身のデータ確認等ができるオンラインシステムを構築しています。また、アプリやホームページ、サブスクリプション、店舗での実地販売等社会実装性のあるシステムを用い、消費者となる方へ健康効果が期待できる食材とその食材を摂取した際の効果に関する結果を提供できるシステムの開発・検証を行っています。
生体サンプルや食品等を対象に、食の効果を予測・診断するためのシステムを開発しています。また、食の効果の予測・診断のためのキットや受託サービス等の製品化等の実用化を進めています。
食の効果を最大化するための食品やレシピの開発を行っています。特に、機能性が期待される有効成分を多く含有する食品やレシピ等を開発し、食の効果が得られにくい方へ提案・提供できるように、食品やサプリメント等としての製品化を進めています。
食の効果の個人差をもとに個別化・層別化し、人々がより効率的に食で健康効果を得る、「次世代の栄養摂取」ができる社会につながっていくと期待されます。

【参画機関】
2015年4月1日に医薬基盤研究所と国立健康・栄養研究所が統合し、設立されました。本研究所は、メディカルからヘルスサイエンスまでの幅広い研究を特⾧としており、我が国における科学技術の水準の向上を通じた国民経済の健全な発展その他の公益に資するため、研究開発の最大限の成果を確保することを目的とした国立研究開発法人として位置づけられています。
ウェブサイト:https://www.nibiohn.go.jp/
サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)。
狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱されました。
内閣府総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の司令塔機能を生かし、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)や各省庁の研究開発等の施策で生み出された革新技術等の成果を社会課題解決や新事業創出、ひいては、我が国が目指す将来像(Society 5.0)に橋渡しするため、官民研究開発投資拡大が見込まれる領域における各省庁の施策の実施・加速等に取り組むプログラムです。
2月11日(日・祝)に理工学術院共催ワークショップ「ことばとコミュニケーションの未来を考える Part 1: A Iはことばの本質を変えるのか?」が開催されます。興味のある方は、ぜひご参加ください。
◆日時:2024年2月11日(日・祝) 13:00-17:00(30分程度の交流会を含む)
◆対象:大学生、社会人、起業家、誰でも。
◆定員:60名
◆参加費:無料
◆会場:渋谷スクランブルスクエア15階 SHIBUYA QWS クロスパーク
◆申込先:https://qws-academia-240211.peatix.com
詳しくはこちらをご覧ください。
北海道大学高等教育推進機構のDragan SALAK(サラク=ドラガン)助教、筑波大学数理物質系の橋本拓也助教、早稲田大学理工学術院の井上昭雄教授を中心とする研究チームは、アルマ望遠鏡※1を使った観測により、129億光年かなたの銀河※2で明るく輝くクェーサーJ2054-0005からの強力な分子ガスのアウトフローを捉えることに成功し、それが初期宇宙の銀河の成長に大きな影響を与えていた強い証拠を世界で初めて発見しました。
現代の宇宙では、星形成が不活発な巨大銀河の存在が知られていますが、その原因として理論的に考えられているものの一つが、銀河からのガスの噴き出し(アウトフロー)です。しかし、これまで宇宙初期のクェーサーにおいて分子ガスのアウトフローが観測された例はわずか2天体しかなく、その2天体で観測されたアウトフローは星形成の進行を左右し銀河の成長に影響を及ぼすほど強いものではありませんでした。
研究チームは、クェーサーJ2054-0005からの分子ガスのアウトフローを、分子ガス中のヒドロキシルラジカル(OH)分子が作る「影絵」として検出することに成功しました。影絵の様子を詳しく調べたところ、星の材料となる分子ガスが銀河の外へ激しく噴き出していることが分かりました。その速度は毎秒1,500kmにも達し、流出している分子ガスは1年間あたり太陽質量の1,500倍に相当する莫大な量に上ります。この流出量は銀河の中で新たに作られる星の量と比べて大きいことも明らかになりました。研究チームは、この銀河から1000万年ほどで星の材料となる分子ガスが枯渇し、今後新たな星を作りにくくなると考えています。本研究成果は、分子ガスの噴き出し(アウトフロー)が銀河の星形成を抑制するという理論予想を裏付ける重要な成果です。
なお、本研究成果は、2024年2月1日(木)公開のアストロフィジカルジャーナル誌に掲載されました。

宇宙初期の銀河中心で明るく輝くクェーサーJ2054-0005から噴き出す分子ガスのアウトフローをアルマ望遠鏡で「影絵」として捉えた(想像図) Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)
現在の宇宙では、星を活発に作っている渦巻き銀河や、星形成を終えた楕円銀河の存在が知られています。しかし、銀河がいつどのようにして星を作りにくくなるのかは、現代の天文学の大きな謎となっています。実は、宇宙誕生後わずか15億年頃には、すでに星形成が不活発な巨大銀河が存在したことが知られていました。このような不活発な銀河は、過去に星形成が活発な時期を経て、何らかの原因によって星形成が抑制されたと考えられています。
その原因として理論的に考えられているものの一つが、銀河からのガスの噴き出し(アウトフロー)です。例えば現在の宇宙では、ガスが銀河円盤の上下に噴き出すアウトフロー現象が観測されています。分子ガスは星の材料であるため、とくに分子ガスのアウトフローは星形成の進み具合を調節する大切な働きをするのです。星形成の抑制メカニズムを明らかにするためには、遠方つまり初期の宇宙に遡って、星形成とアウトフローの関係を調べることが重要です。
多くの銀河はその中心に巨大質量ブラックホールを宿すことが知られています。とくに、銀河中心にある超巨大ブラックホールへと物質が降り積もることで明るく輝く天体は、クェーサーと呼ばれます。宇宙初期のクェーサーは星形成が活発であり、超巨大ブラックホールの影響も相まって、強烈な分子ガスのアウトフローを生み出している可能性があります。しかし、これまで宇宙初期のクェーサーにおいて分子ガスのアウトフローが観測された例は、わずか2天体しかありません。その2天体で観測されたアウトフローは、星形成の進行を左右し銀河の成長に影響を及ぼすほど強いものではありませんでした。
研究チームは、129億光年かなたにあるクェーサーJ2054-0005を、アルマ望遠鏡を用いて観測しました。J2054-0005は宇宙年齢10億年未満の時代において最も明るく輝くクェーサーの一つです。このような明るい天体は観測しやすい利点があります。
分子ガスの動きは、分子の放つ電波信号の波長の変化(ドップラーシフト)として観測できます。一酸化炭素(CO)などが放つ「輝線」が、分子ガスの観測によく用いられます。しかし、銀河から噴き出すアウトフローを観測する場合、銀河本体の回転による放射信号のほうが大きく、アウトフローによる放射信号が弱くて検出できないことなど、複雑な要因が絡み合い、観測は難しくなります。これまでのCOなどの輝線の観測では、クェーサーJ2054-0005からのアウトフローは検出されていませんでした。
一方、クェーサーの発する連続波(様々な波長の混ざった光)のうち、観測者から見て手前側にあるガスが固有の波長の電波を吸収することによって生じる「吸収線」をいわば「影絵」のように観測すれば、輝線の観測の場合の複雑な要因がなく、ガスの動きを吸収線のドップラーシフトとして観測できます。ただし、当該の波長の強度が強い連続波光源がガスの背後にある必要があります。ヒドロキシルラジカル(OH)分子の119マイクロメートル(=0.119ミリメートル)の吸収線は、こうした観点から今回の観測に適しており、これを観測することでクェーサーJ2054-0005からのアウトフローを初めて検出し、速度も正確に求めることに成功しました。
本研究はアルマ望遠鏡だからこそ実現した成果です。遠方の天体が放つ光や電波は微弱で、観測するためには高い感度を持つ望遠鏡が必要になります。また、宇宙は膨張しているため、遠方の天体からの光や電波の波長は長く引き延ばされます。今回の研究では、当該の観測波長を高い感度で観測できる唯一の望遠鏡であるアルマ望遠鏡でOHを観測したことが成功への鍵となりました。
研究チームは、クェーサーJ2054-0005からの強力な分子ガスのアウトフローを捉えることに成功し、それが初期宇宙の銀河の成長に大きな影響を与えていた強い証拠を世界で初めて発見しました。図1に示すとおり、分子ガス中のOHによって生じる吸収線を検出しています。遠方のクェーサーでこれほど高い有意度でOHの吸収線が検出された初めての例です。吸収線の波長から、アウトフローの速度は典型的に毎秒700 km、最大で毎秒1,500kmにも達することを明らかにしました。流出した分子ガスの量は、年間あたり太陽質量の1,500倍ほどに上り、この量はJ2054-0005が年間あたりに新しく作る星の質量の2倍に相当する莫大なものです。今後、およそ1000万年という短い期間で星の材料となる分子ガスが枯渇していくと予想されます。本研究成果は、分子ガスのアウトフローが銀河の星形成を抑制するという理論予想を裏付ける重要な成果です。
本研究成果は新しい謎にも繋がっています。J2054-0005では星形成を抑制するほどの強いアウトフローが認められた一方で、過去に調べられた2例のクェーサーのアウトフローは星形成に大きな影響を及ぼすほど強いものではありませんでした。この違いは何によって引き起こされているのでしょうか。今後、より多くのクェーサーに対してOHを観測することで、星形成を抑制するほど強いアウトフローが起きている銀河の割合を統計的に調査することが鍵となります。また、アルマ望遠鏡はアンテナ間を広く離して配置することによって高い空間分解能を実現できます。今後、アウトフローが銀河のどこでどのように発生しているかを解明できれば、銀河の進化と分子ガスのアウトフローの関係をさらに深く理解できると期待しています。
本研究は、ALMA Japan Research Grant of NAOJ ALMA Project, NAOJ-ALMA-294、文部科学省卓越研究員事業(HJH02007)、日本学術振興会科学研究費補助金(JP22H01258、JP17H06130、JP20H01951、JP22H04939)、National Science Center (NCN) grant SONATA (UMO2020/39/D/ST9/00720)、国立天文台ALMA Scientific Research Grant No. 2018-09B、科学技術振興機構次世代研究者挑戦的研究プログラム JPMJSP2119の支援を受けて行われました。

図1 分子ガス中のヒドロキシルラジカル(OH)によって生じる吸収線。ガスが放出される場合は観測者に向かって来るため短い波長に吸収線の中心が移動します(ドップラーシフト)。一方、ガスが落下する場合は観測者から遠ざかるため長い波長に移動します。今回は吸収線が短い波長に移動しているため放出、つまり、アウトフローと分かります。また、吸収線の幅が大きく広がっているので、アウトフロー中のOH分子は速いものから遅いものまで様々な速度を持ってアウトフローしていることが分かります。 Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), D. Salak et al.
2月13日(火)にムーンショット早稲田デー(Moonshot Waseda-Day)が開催されます。ムーンショットプロジェクトに参加している研究者や学生が集いますので、プロジェクトに興味のある方、研究テーマに関して情報交換したい方、産学連携の取り組みに興味のある方は、ぜひご参加ください。
◆日時:2024年2月13日(火)13時-20時
◆会場:渋谷スクランブルスクエア15階 SHIBUYA QWS スクランブルホール
◆参加費:無料
◆参加申込先:https://qws-academia-special-240213.peatix.com
◆対象者:プロジェクトに興味のある方であれば誰でも参加できます
(高校生、大学生、大学院生、教職員、教諭、研究員、社会人 他)
◆プログラム|総合司会 朝日 透 (早稲田大学先進理工学部 生命医科学科 教授)
詳しくはこちらをご覧ください。
国立大学法人東京農工大学大学院の山口眞和氏(博士後期課程1年)と齋藤洋輝氏(2023年3月博士前期課程修了)、早稲田大学理工学術院の池沢聡研究院講師、東京農工大学大学院の岩見健太郎准教授は、メタサーフェス(注1)を利用して広視域角・高解像度・高効率のフルカラーホログラフィ(注2)動画を実現しました。この成果は、立体映像技術の発展および次世代ディスプレイの開発に貢献することが期待されます。
本研究成果(論文およびホログラフィ動画)は、De Gruyter発行のNanophotonics(IF= 7.923)の掲載に先立ち、1月22日にオンラインで公開されました。
論文タイトル:Highly-efficient full-color holographic movie based on silicon nitride metasurface
DOI:https://doi.org/10.1515/nanoph-2023-0756
光の波面を記録・再生する技術であるホログラフィは、裸眼で3次元映像を観察できるため、究極の立体ディスプレイとも呼ばれ注目されています。このホログラフィは各画素を通過した光の干渉(注3)を利用して像を投影するため、広い角度から観察可能な高精細画像を投影するためには、画素の間隔が1μm以下の、超高密度の表示用デバイスが必要となります。そこで、光の波長以下の単位構造であるメタアトム(注4)を非常に高密度(数百ナノメートル程度)に配列したメタサーフェスを用いて、高画質な動画の投影を目指す研究が多く行われています。本研究グループにおいても過去にモノクロ動画の投影に成功しています[1]。しかし、これらの先行研究にはカラー化ができていないという問題点や、効率が低い(損失が大きい)という問題点がありました。
本研究は、国立大学法人東京農工大学大学院生物システム応用科学府生物機能システム科学専攻の山口眞和氏(博士後期課程1年)と同大学院工学府機械システム工学専攻の齋藤洋輝氏(2023年3月博士前期課程修了)、早稲田大学理工学術院の池沢聡研究院講師、東京農工大学大学院工学研究院先端機械システム部門の岩見健太郎准教授により行われました。また、本研究の一部は日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(B)(一般)(21H01781)、基盤研究(C)(22K04894)の支援により行われました。また、本研究の試料作成には、文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ」事業(課題番号 JPMXP1223UT1007)の支援を受け、東京大学微細加工拠点の共用設備を利用させていただきました。解析の一部は、東京工業大学のスーパーコンピュータ TSUBAME 3.0 を利用して行われました。
今回、30フレームからなるフルカラー動画の投影を目指し、窒化シリコンのナノ柱をメタアトム(注4)として、ガラス基板上に数億本配置し、90フレーム(30フレーム×3色)からなるホログラム列を1枚の基板上に形成しました(図1)。各フレームは2322× 2322画素と先行研究や一般的なディスプレイ(フルHD)よりも高解像度であり、340 nmの画素間隔によりホログラム前面からの観察領域全体をカバーする180°の視域角を有しています。また、ナノ柱の製作を最適な加工条件の下で行うことで、光の利用効率を向上させています。投影したのは地球が回転する動画(2D)で、3色の投影像を重ね合わせることで投影動画のカラー化を実現しました。また、自動ステージを用いて基板を機械的に動かすことで、人間の目で十分に滑らかに見える再生速度である55.9 fps(frame per second)での投影に成功しました(図2)。
今回のホログラフィは1色の投影像につき1つのホログラムを用いて投影を行うため、フルカラー動画のフレーム数の3倍のホログラムを製作する必要がありました。本研究ではさらなる省スペース化や多機能化を目指して、今後は1つのホログラムでのフルカラー投影に挑戦します。さらに、空間光変調器のような変調機能を持つデバイスと組み合わせることができれば、高精細なフルカラー3次元像をフレーム数の制限を受けずに投影することが可能となり、ホログラフィを用いた立体映像技術の実用化に貢献できると期待しています。
光(電磁波)の波長に比べて小さいサイズの誘電体導波路構造を配列することで、自然界には存在しない屈折率や光機能を実現できる機能性表面。「メタ」は「高次な-」「超-」を意味する接頭語。
光の波面を記録したり再生したりすることのできる技術。眼鏡などを必要とせず立体像を観測でき、究極の立体ディスプレイともいわれる。光波面が記録された媒体をホログラムと呼ぶ。
複数の光の波が互いに影響しあい、新しい光が生成される現象。ホログラフィはこの干渉を意図的に引き起こすことで、立体像を観察できる光を生成する。
メタサーフェスを構成する、光(電磁波)の波長に対して微小なサイズの構造体のこと。今回は窒化シリコン製の八角柱をメタアトムとして用いた。
[1] 高画質なホログラフィの動画化を実現:将来の全周立体映像技術に向けて(2020年7月28日東京農工大学プレスリリース)https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2020/20200728_01.html
図1 メタサーフェスを用いたホログラフィ動画再生の原理と製作したメタサーフェスの概要
図2 本研究で得られた明るく高精細な投影像の抜粋 ※
※論文のオンラインページで動画が公開されています。(Supplementary Material Video1, Video2)
https://doi.org/10.1515/nanoph-2023-0756
近年、生体材料と人工物を組み合わせたバイオハイブリッドロボットが注目を集めています。これまで、これらのロボットでは前に進みながら旋回する大回りの旋回動作である、匍匐(ほふく)移動や魚類のようなヒレによる泳動しか行えていませんでした。
早稲田大学理工学術院の森本雄矢准教授と東京大学大学院情報理工学系研究科の竹内昌治教授らによる研究グループは、培養骨格筋組織の収縮運動によって「柔軟な足」で屈曲して動く二足歩行バイオハイブリッドロボットを世界で初めて製作しました。本研究で実現したロボットでは、一方を駆動足、もう一方を軸足に用いることで、ロボットボディの内側に旋回中心を設けることが可能になり、ヒトの二足歩行運動で観察される細やかな旋回運動を再現することに成功しました。
この研究の成果は、バイオハイブリッドロボットの開発に加え、ヒトの運動メカニズムの理解につながります。薬剤添加時の運動改善効果解析、疾患時の病態解析など様々な状態での運動モデルとして、薬学や医学分野での適用が考えられます。

図 筋収縮で動く二足歩行ロボット
この研究成果についての詳細はプレスリリース資料をご覧下さい。
論文情報
雑誌名:Matter
題 名:Biohybrid bipedal robot powered by skeletal muscle tissue
著者名:Ryuki Kinjo, Yuya Morimoto, Byeongwook Jo, Shoji Takeuchi*
*責任著者
DOI:10.1016/j.matt.2023.12.035
URL:https://doi.org/10.1016/j.matt.2023.12.035
角俊輔 氏(京都大学iPS細胞研究所(CiRA)未来生命科学開拓部門 大学院生、早稲田大学理工学術院 研究室受け入れ)、浜田道昭 教授(早稲田大学理工学術院)、齊藤博英 教授(CiRA同部門)は、目的の機能と構造をもつ人工RNA設計を支援する世界初の深層生成モデル“RfamGen”を開発しました。
RfamGenは、深層生成モデルで広く用いられている手法の一つである変分オートエンコーダ(VAE)と、RNA配列と二次構造注5)の情報から機能性RNAを分類することのできる共分散モデルを組み合わせたもので、特定の機能と構造の特徴をもつRNA群の特徴を学習し、人工配列を生成することができます。
研究グループは、RfamGenが学習したRNA群と相同な構造と機能をもつRNA配列が安定的に生成できることをコンピュータ上の解析と生化学実験の両方で確認しました。また、このRfamGenの性能は、深層生成モデルに共分散モデルを適用した結果であることがわかりました。さらに、RfamGenによる生成配列のRNAを大規模に合成し、網羅的にその活性を検証したところ、生成配列のRNAは天然のRNAよりも高い活性を示す傾向もみられました。
RfamGenによる学習結果を調べたところ、入力データのRNA群の二次構造や機能性のモチーフなどのバリエーションを、入力データの特徴の分布として効果的に集約していました。これにより、研究者が利用したいRNAの特徴をカスタマイズして、配列を生成することが容易になります。
RfamGenにより人工知能支援型のRNA設計が可能となることで、従来のRNA設計と比較し、開発コスト削減と高速化が実現し、核酸医薬や遺伝子治療などのRNA創薬の研究開発に貢献することが期待されます。
この研究成果は、2024年1月18日に英科学誌「Nature Methods」で公開されました。
RNA分子は、遺伝子の転写調節や酵素活性など、その配列に応じてさまざまな機能を発揮し、基礎研究から医療まで幅広い場面で利用されています。しかし、利用目的に適した機能をもつRNAの塩基配列を設計することは高度な専門性と労力を要するため、RNA配列の特徴を適切に捉えて、機能性RNAを効率的よく設計できる、コンピュータを活用した手法の開発が期待されています。
これまでに機能性RNAの設計法として、RNA逆フォールディング注6)が主に研究されています。しかし、この手法には、手法の性質上、その正確性や汎用性にいくつか課題がありました。今回、研究グループは、RNAの配列と二次構造を数理的に記述できる共分散モデルとVAEを統合した機能性RNA生成のための世界初の深層生成モデルRfamGenを開発しました。
共分散モデルは、配列から特定の二次構造を検出し、幅広い種類のRNAをRNAファミリーとして分類でき、ゲノム配列から多くの機能性RNAを発見することに長年使われてきました。これまでに人工RNAの設計に共分散モデルが活用された例はありませんでしたが、研究グループはRNA分類に有用な共分散モデルを利用することで、従来の技術的課題を解決することができるのではないかと考えました。
RfamGenは、機能性RNAの生成性能を高めるため、VAEにRNAの分類に用いられる共分散モデルを統合しています(図1)。
共分散モデルは、RNAの配列と二次構造に基づき、複数のRNA配列どうしを互いに揃うように並べること(マルチプルアラインメント)ができます。RfamGenでは、はじめに目的の機能をもつ既存のRNA配列群を用意し、これを一つのRNAファミリーと見立てて、それぞれの配列に対して共分散モデルによるアラインメントを行います(図1左)。
RNA群のアライメント結果を、VAEの入力データとして使用します。VAEでは、入力したデータ群の特徴を学習し、入力データの特徴を確率分布として表現する「潜在空間」を構築します。RfamGenでは、RNAファミリーとみなしたRNA群の特徴を確率分布として表現する潜在空間が構築されます(図1中央)。
この潜在空間から出力されるデータは、入力に用いたRNA群の共分散モデルによる特徴を示すように生成されます。出力データを共分散モデルを介して配列に再構築することで、最終的に目的の機能を獲得した人工RNA配列を得ることができます(図1右)。

図1 RfamGenの概要
RfamGenは共分散モデルを利用することで、アライメントと二次構造を学習します。それぞれの要素が生成能力にどのように関わるかを検証するため、比較対象として次の3種のモデルを用意しました。
① 共分散モデルによる入力データに含まれるアラインメントの情報を利用する深層生成モデル(GCVAE)
② 共分散モデルによる入力データに含まれる二次構造の情報を利用する深層生成モデル
③ 二次構造とアラインメントの情報をいずれも利用しない深層生成モデル
これら3種の深層生成モデルとRfamGenに、既知のRNAファミリー配列を学習させ、ランダムに1,000の配列を生成させました。そのうえで、学習に用いたRNAファミリーに共通の構造とどの程度、相同性をもつかをコンピュータ上で計算し比較しました。その結果、RfamGenが最も良いスコアを示すことがわかりました。
次に、学習に用いるRNA配列群のサンプル数の増減によりスコアがどのように変動するかについて研究グループは検証しました。まず、RfamGenに次いで良いスコアを出したアラインメント情報のみを利用する深層生成モデル(GCVAE)を比較対象としてRfamGenを検討した結果、多くの場合でRfamGenがGCVAEよりも高スコアを取ること、そして、サンプル数が少ない場合でもRfamGenの生成能力が安定して発揮されることが示唆されました(図2)。
これらの結果から、二次構造とアラインメント両方の学習が重要であり、共分散モデルを深層生成モデルと組み合わせることで、品質の高い人工RNA配列を安定的に生成できることが示唆されました。

図2 サンプル数による生成性能の変動
表の縦軸 Bit Score:RNAファミリー配列らしさ
次に、VAEの潜在空間が、学習したRNA配列の特徴を的確に反映したものとなっているかを調べました。その結果、潜在空間を二次元に可視化したところ、RNAの二次構造にみられる多型領域や、標的タンパク質に結合する配列 (モチーフ)など、入力データであるRNA配列の特徴の分布が、潜在空間に効果的に集約されていることがわかりました(図3)。このことから、RfamGenは、人工RNA設計支援ツールとして有用な、研究者が目的の機能と構造をもつ配列をより詳細にカスタマイズできる性能ももつことが示されました。

図3 潜在空間における配列情報の効果的な集約
さらに、RfamGenを用いた人工RNAの性能を大規模な生化学実験によって評価しました。研究グループは、RNA分子のうち自己切断という酵素活性をもつ数百のRNA酵素(リボザイム)の配列情報を既存のデータベースから取得し、RfamGenの学習に使用しました。その結果、RfamGenから生成された配列が、実際に天然のRNAと相同な構造(図4左)と酵素活性をもつことがわかりました。この結果から、少数のデータで学習した場合も、RfamGenが期待した配列を生成できることを実験によって確認しました。
また、低分子に結合することで自己のRNA配列を切断する活性をもつRNA酵素であるglmSリボザイムを例に、RfamGenにより新規に1,000の配列を生成し、大規模に生成RNA配列の網羅的解析を行いました。その結果興味深いことに、RfamGenは酵素活性の高い配列を高確率に生成できることがわかりました(図4右)。

図4 RfamGen生成配列の構造と機能の評価
左:二次構造が相同な生成配列と天然配列
右:酵素活性の性能分布の比較(オレンジ:生成配列群、灰色:天然配列群)
本研究では、RNA分類に利用される共分散モデルと深層生成モデルを統合し、人工RNA配列設計支援に用いることのできるRfamGenを構築しました。さらに、コンピュータ上と実験による性能評価によって、少数の入力データで学習した場合でも十分な性能が期待できることや、研究者が生成配列を詳細にカスタマイズ可能であること、入力データよりも高性能な人工RNA配列も生成しうることなど、RfamGenの有用性を示しました。今後、RfamGenを活用して、人工RNA設計を低コスト化、高速化し、生物学や医学など幅広い領域でRNAが活用されることに貢献することが期待されます。
“Deep generative design of RNA family sequences”
DOI: 10.1038/s41952-023-02148-8
Nature Methods
Shunsuke Sumi1,2,3, Michiaki Hamada3,4,5,*, Hirohide Saito1,*
* : 責任著者
本研究は、以下の支援を受けて実施されました。
コンピュータ上の多層化したニューラルネットワークにより情報の処理を行い、学習したデータの特徴をもったデータを新たに生成するモデルのこと。
開発した深層生成モデルの名称。RNAファミリー(RNA family)配列の生成モデル(generator)であることから“RfamGen”と名付けた。
深層生成モデルの手法の一つ。入力データを元にその特徴を確率分布として潜在空間にとらえ、入力データと似たデータを新たに生成(出力)することができる。VAEはVariational Autoencoderの略。
RNA配列の相同性を評価するアライメントに用いるモデル。ゲノム中の機能性RNAの探索に長年用いられている。共分散モデルにより、RNA配列は数千のRNAファミリーに分類されている。
1本鎖RNAの配列に応じて局所的に形成される塩基対構造。
RNAの構造から配列を計算する方法。配列から構造を計算するフォールディングの逆の流れのため、逆フォールディングと呼ばれる。
2024年1月12日に、盛山正仁文部科学大臣と田中愛治総長をはじめとする本学関係者との間で、博士人材の活躍促進に向けた取組について意見交換が行われました。理工の博士後期課程に在籍する学生5名も参加し、それぞれ自身の研究・起業状況や今後の展望、各プログラム・支援体制の魅力について発表を行いました。
詳細はこちらをご覧ください。
総合機械工学科向けの社会文化領域コース進入説明会を、2024年1月11日 (木) にオンラインで開催します。関心のある学生は、以下のポスターおよび社会文化領域ウェブサイト上の情報をよく確認し、必要な手続きをとってください。
学校法人早稲田大学(所在地:東京都新宿区、理事長:田中愛治、以下早稲田大学)とMeiji Seika ファルマ株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:小林大吉郎、以下Meiji Seika ファルマ)は、2023年9月、「ペニシリン生産菌のラマン分光法による解析に関する共同研究」(早稲田大学代表者:理工学術院教授 竹山春子、Meiji Seika ファルマ代表者:DX推進室長 佐々木隆之、以下本研究)を開始しましたので、お知らせします。

抗菌薬は、細菌感染症の治療や手術時の感染予防に使われ、供給が途絶すると国民の生存に直接的かつ重大な影響が生じます。中でも注射用抗菌薬に多く用いられるβラクタム系抗菌薬は、その原材料のほぼ100%を中国からの輸入に依存しています。そのため、βラクタム系抗菌薬4剤が経済安全保障推進法に基づき「特定重要物資」として指定され、産官学の連携のもと、国産化の取り組みが進められております。Meiji Seika ファルマはそのうちペニシリン系抗菌薬2剤の国産化に向け、原材料である6アミノペニシラン酸(6-APA)の生産体制構築を目指しています。6-APAは、微生物を用いた発酵生産により得られるペニシリンGを変換して得られるため、工業化にはペニシリンGの生産量を高める必要があります。Meiji Seika ファルマは1994年までペニシリンを生産しており今なお工業レベルの技術を保有しておりますが、本共同研究により更なる生産性向上を目指していきます。
本研究で用いるラマン分光法とは、ラマン散乱光を用いて物質の評価を行う分光法です。物質に光を照射すると、光が物質と相互作用することで入射光と異なる波長を持つラマン散乱光と呼ばれる光が出ます。この光は物質が持つ分子振動のエネルギーにより決まるため、物質固有のラマン散乱光が得られます。本研究では、ペニシリン生産菌を対象とし、ラマン分光法によりペニシリン類並びにその中間体の細胞内における局在状況を解析します。従前の発酵解析は培養液を全体で捉え、物理化学的手法や遺伝子分析などで解析しておりましたが、本共同研究の顕微ラマンの手法ではペニシリン生産菌の細胞一つ一つをミクロで捉え、発酵生産の経時変化や細胞内局在性、細胞外への移送機構について解析が可能となります。
本研究において、Meiji Seika ファルマは様々な条件で培養したペニシリン発酵液を提供し、早稲田大学は理工学術院(竹山春子教授)並びにナノ・ライフ創新研究機構(安藤正浩次席研究員)の保有するラマン分光法によるin situ生体分子解析技術を駆使し、対象物質の細胞内局在の可視化を行います。
早稲田大学とMeiji Seika ファルマは、本研究によりペニシリン発酵の生産性向上や品質安定化に貢献する要素を抽出し、製造管理法構築における科学的根拠とするとともに、目的物の生成プロセスの解明を目指します。
2023年8月25日(金)、26日(土)の2日間にわたり、シンガポールに所在する早稲田大学系属・早稲田渋谷シンガポール校を会場として「おもしろ科学実験教室 in シンガポール」を開催しました。今回、シンガポール日本人学校中学部の生徒やシンガポール教育省語学センター(MOELC:Ministry of Education Language Centre)に通う中高生、早稲田渋谷シンガポール校の生徒を対象に実施し、総計約110名の生徒が参加しました。本企画は2019年に一度開催した後、新型コロナウイルス感染症による影響で開催できておらず、実に4年ぶりの実施となりました。
今回の目的は科学に興味をもってもらうことのほか、シンガポール日本人学校中学部の生徒に対して早稲田渋谷シンガポール校を知ってもらうこと、MOELCの生徒に対して早稲田大学を知ってもらい将来的に日本へ来るきっかけを作ること、早稲田渋谷シンガポール校の生徒に対して高大連携の一環で本学理工学部をより理解してもらうこと、でした。
![]() 会場の早稲田渋谷シンガポール校 |
![]() 今回の実験教室のテーマはDNA鑑定 |
「DNA鑑定で食肉の種類を調べよう! -PCR解析を用いた食品検査-」と題して、生徒たちはPCR解析に挑戦しました。試料のレバー肉(ブタ・トリ・ウシの単体、あるいは混合のいずれか)をサンプルとして、DNA抽出、PCR法によるDNA断片の増幅、電気泳動による動物種の判別、という一連の操作で試料の鑑定を行いました。試料の見た目はほとんど同じにもかかわらず、各々のサンプルが異なる電気泳動の結果を示し、試料の正体を鑑定できることに驚いていた様子でした(中には、自分の予想が的中している生徒もいました。すごい!!!)。

実験開始前の食肉の動物種当てクイズ。見た目だけではなかなか正解できませんでした。 ということで、DNA鑑定の出番です!
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各テーブルに実験スタッフが付き、いざ実験に挑戦!今回、理工センター技術部の職員のほかに早稲田渋谷シンガポール校の在校生もスタッフとして指導にあたり、実験指導を通じて一段と頼もしく成長していました。
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電気泳動は細かい作業ですが、無事に実験結果を得られました!PCRで増幅したDNA断片がバンドとして目視できます。

得られた実験結果をもとに、自分が選んだ食肉の種類を判定できました。
今回のテーマは本学の大学1年生が授業で扱う内容をアレンジしたもので、難しい工程もありましたが、生徒たちは丁寧にこなしており、最後までほとんど失敗せずやり遂げることができていました。また、実験の合間に生徒同士の交流の時間を設けたところ、イベントが終わるころには生徒間で写真を撮り合うほど仲良くなっており、楽しそうに過ごしている姿が非常に印象的でした。イベント後のアンケートではほとんどの参加者から「とても満足」「満足」の回答を得ることができました。
シンガポール教育省語学センター 日本語学科 学科長のタン先生からは、「我が校の生徒たちがDNAや器具の使い方について難しい説明を聞きながら、実験を行うことができていて驚いた。今回のイベントは生の日本語に触れる貴重な学習体験になったと思う。また、早稲田渋谷シンガポール校の生徒と楽しそうに作業をしたり話したりしていて、非常によい交流ができた。」とのコメントをいただきました。
この実験教室は、理工センター技術部の職員や本学の機器・装置だけではなく、本学が持つ海外拠点ネットワーク(早稲田渋谷シンガポール校)の物的、人的リソースの活用、早稲田渋谷シンガポール校在校生の協力、さらにシンガポール日本人学校、シンガポール教育省語学センター、理工パートナーズ、日本ジェネティクス株式会社の支援により実現し、多くの生徒たちに科学への興味関心を深める機会を提供することができました。
参加者の中から未来の早稲田生が生まれ、将来的には世界で活躍する校友となり、社会発展に寄与してもらえれば幸いです。
次は早稲田で会いましょう!
See you again at WASEDA!

DNAをモチーフにしたキーホルダーを手に記念撮影(写真は8/26午後の部)。 キーホルダーは今回のお土産として大学で制作していました。
国際宇宙ステーション・「きぼう」日本実験棟搭載の高エネルギー電子・ガンマ線観測装置(CALET)による測定
早稲田大学理工学術院総合研究所主任研究員(研究院准教授)・赤池陽水(あかいけ ようすい)、同大学名誉教授・CALET代表研究者 鳥居祥二(とりいしょうじ)、同大学理工学術院教授・モッツ・ホルガーと、神奈川大学、立命館大学、東京大学宇宙線研究所、弘前大学、宇宙航空研究開発機構(JAXA)による共同研究グループ(以下、本研究グループ)は、国際宇宙ステーション(ISS)に搭載したCALET(ISS・「きぼう」日本実験棟搭載の高エネルギー電子・ガンマ線観測装置)を用いて銀河宇宙線中の電子のエネルギースペクトルを世界最高の7.5テラ電子ボルト(TeV)まで高精度に観測し、宇宙線の起源と伝播に迫る成果を発表しました。
本研究成果は、アメリカ物理学会発行の『Physical Review Letters』に、“Direct Measurement of the Spectral Structure of Cosmic-Ray Electrons + Positrons in the TeV region with CALET on the International Space Station”として、2023年11月9日(木)(現地時間)にオンラインで掲載されました。

我々が住む銀河系内を起源とする宇宙線(*1)(銀河宇宙線)は、超新星爆発に伴う衝撃波加速で加速され、星間空間の磁場中を拡散的に伝播して地球に飛来するという理論モデルが標準的な宇宙線の加速・伝播モデルとして考えられていますが、その詳細は未だ多くの謎が残っています。宇宙線の理解が難しい要因の一つは、宇宙線が伝播中に星間磁場で曲げられてしまうため、その加速領域の特定が難しいことにあります。しかし1 TeV(*2)を超える高エネルギーの電子は、荷電粒子から加速源を同定できるユニークな可能性が理論的に指摘されており、その詳細な観測が望まれています。高エネルギーの電子は、陽子や原子核と異なり質量が小さいために、星間空間を伝播中に自身のエネルギーの2乗に比例してエネルギーを失う特性があります。このため、地球近傍にある伝播時間の短い加速源からしか地球に到達できません。そして、この条件を満たす加速源の候補天体は数例しかないため、TeV領域の電子が観測されれば、それは地球近傍の候補天体からの寄与であると解釈できるのです。
この電子観測の重要性は古くから指摘されていましたが、これまで観測例はほとんどありません。それは、高エネルギーの電子はフラックス(到来頻度)が少ないため長期間の観測が必要とされることと、1000倍以上存在する陽子との選別が可能な検出器による測定が必要なためでした。CALETは、高エネルギーの電子観測を主目的とした検出器で、電子を高精度に選別すると同時に、ISSにおける長期間観測により高統計のデータを蓄積することで上記の問題を克服しています。さらに高いエネルギー分解能を有しており、これまでにない高精度なエネルギースペクトルを測定することが可能です。これまでに当該グループは、宇宙空間において初めてTeV領域電子の観測に成功し、2年間の観測量から4.8 TeVまでのエネルギースペクトルを測定するなどの成果を上げてきました。
宇宙線電子望遠鏡「CALET: Calorimetric Electron Telescope」は、日本の宇宙線観測としては初めての本格的な宇宙実験で、高エネルギー電子の観測に最適化された検出器です。飛来した宇宙線が検出器中で吸収されて生じるシャワー現象の発達の様子を3次元的に可視化し、電子と陽子が作るそれぞれのシャワー形状の違いを画像から識別して、宇宙線の種類やエネルギーを測定します。


図1の上図は、1 TeVのエネルギーを持つ電子のシミュレーション計算例です。同じく下図は、3.9 TeVの実際に観測された電子事象の候補です。上層から入射した粒子が検出器内でシャワーを起こし、ほぼ全てのエネルギーが検出器によって吸収されています。TeV領域の電子が作るシャワーを全吸収できる厚い物質量を有し、そのシャワー形状を捉え可視化することで精確な粒子識別を可能にする点がCALETの最大の特徴です。

2015年10月13日から2022年12月31日までの7年以上のデータを用いて、CALETにより測定された電子(+陽電子)のエネルギースペクトルを図2に示しました(赤点)。これは2018年に発表した際の観測量の3.4倍に相当し、最大エネルギーも7.5 TeVへと拡大しています。
図3に示すように、電子のエネルギースペクトルは1 TeV付近で単純な冪型のスペクトルから6.5σ以上の優位度を持って折れ曲がっています。このフラックスの減少は、地球遠方を起源とする電子が伝播中にエネルギー損失の影響を受けるという理論モデルによる予測と合致します。
また図4にCALETの全電子のエネルギースペクトルと、AMS-02(*3)による陽電子のエネルギースペクトル、及び超新星残骸やパルサーなど個々の天体を起源とする宇宙線伝播のシミュレーション例を示します。特に、地球近傍の電子加速源候補である超新星残骸Vela(黄線)の寄与がTeV領域の測定結果を上手く再現しています。


今回の成果は、7年以上にわたる長期間の観測で高統計のデータを蓄積したことに加え、電子選別手法の改良が大きな鍵を握りました。電子観測では、バックグラウンドとなる陽子との選別が重要で、CALETはシャワー形状の差異を利用して電子選別を行います。電子・陽子を特徴づけるシャワー形状のパラメータを抽出し、一桁当たり108例以上に及ぶシミュレーションデータを元に機械学習(Boosted decision trees: BDT)による選別を行います。今回、選別用のパラメータが測定データを精確に再現するようシミュレーションデータを調整することで新たなパラメータとして追加し、陽子との選別精度向上を計りました。これにより、電子の選別効率を保ちつつ陽子の混入を10%未満に抑えることに成功し、7.5 TeVに至るエネルギースペクトルの導出を達成しました。
宇宙線はその発見から100年以上に渡り、宇宙物理学・素粒子物理学の発展に大きく貢献し続けています。CALETの観測は国内外で多くの興味が寄せられ、数ある測定項目の中でも近傍加速源探索は最大級の成果が期待されています。またCALETの科学成果だけでなく、ISSにおける「きぼう」の意義が再認識されるという成果も上がってきています。
超新星爆発に伴う衝撃波で宇宙線が加速されている事実は、X線やガンマ線による観測から既に明らかにされていますが、実際に加速源から地球に飛来する電子が同定できれば、荷電粒子自身による初めての宇宙線加速の直接的な証拠が得られます。今回、7.5 TeVまで測定エネルギーを進展させたことにより、期待されていた地球近傍加速源の存在を示唆する結果が得られ、今後の測定による加速源の同定と精密なスペクトル測定が一層注目を集めます。これが達成できれば、そのスペクトル形状等から定量的な理論モデルの精密化が進むため、宇宙線の起源や加速・伝播機構の解明に大きな進展が期待されます。
今回の観測結果は、銀河宇宙線の標準的な加速・伝播モデルから期待されるフラックスの減少と、TeV領域における近傍加速源の存在を示唆することができました。今後さらに観測量を増やし地球に飛来するエネルギー上限近くまでエネルギースペクトルを高精度に測定します。そして到来方向の異方性を合わせて検出し、近傍加速源の同定を目指します。加速源が同定できれば、加速・伝播の理解に重要なパラメータを、そのスペクトル形状から定量的に調べることができ、宇宙線の加速・伝播機構の解明に大きな進展が期待されます。さらに、電子のスペクトル中には宇宙における最大の謎の一つとされる暗黒物質に由来する成分が含まれている可能性も指摘されています。高精度なCALETによる電子のスペクトル構造から、その詳細を検証することで暗黒物質の正体に迫ることも今後の課題です。
CALETは2015年8月にISS・「きぼう」に設置されて以来、現在まで安定的に稼働し続け、宇宙の遥か遠くからの情報(宇宙線)を収集しています。今後も蓄積されるデータを丁寧に解析し、高エネルギー宇宙の描像を明らかにすることを目指します。
宇宙空間は、何もないように見えますが、実はとてもたくさんの粒子が飛んでいます。それらは原子よりもさらに小さい陽子や電子などの粒子で、宇宙空間で手をかざしたら1秒間に100個以上が手に当たるほどたくさん飛んでいます。そのような粒子を宇宙線と言います。宇宙線は約100年前に発見されて以来、常に物理学の最先端のテーマでした。宇宙線の研究から、陽電子や中間子の発見など、人類の知識を大きく広げる成果が上がっています。宇宙線は太陽や天の川銀河など宇宙のさまざまな場所から飛んできます。特に高いエネルギーを持ったものは、太陽系の外から遥々やってきます。
エネルギーの単位です。1ボルトの電位差を抵抗なしに通過した際に電子が得るエネルギーが1電子ボルト(eV)です。ここでは、その109倍のギガ電子ボルト(GeV)、1012倍のテラ電子ボルト(TeV)のエネルギー領域を扱っています。
AMS-02 (Alpha Magnetic Spectrometer)は、2011年5月にISSに搭載された磁気分光器で、現在も宇宙線の観測を継続しています。磁石を利用し、検出器中の磁場中の曲がり具合から入射粒子の運動量を測定するCALETとは異なる測定原理の検出器です。約2 TeVまでの電子と陽電子の識別が可能で、より高エネルギー領域まで測定可能なCALETとは相補的な関係にあります。
雑誌名:Physical Review Letters
論文名:Direct Measurement of the Spectral Structure of Cosmic-Ray Electrons + Positrons in the TeV region with CALET on the International Space Station
執筆者名:Yosui Akaike (Waseda University), Shoji Torii (Waseda University), Holger Motz (Waseda University), Nicholas Cannady (NASA/GSFC/CRESST/UMBC) et al. (CALET Collaboration)
掲載日(現地時間):2023年11年9日(木)
DOI:https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.131.191001
研究費名 : 科学研究費補助金 基盤研究(S)
研究課題名: CALET長期観測による銀河宇宙線の起源解明と暗黒物質探索
研究代表者名(所属機関名): 鳥居祥二(早稲田大学)
研究費名 : 科学研究費補助金 基盤研究(C)
研究課題名: 宇宙線原子核の直接観測による銀河宇宙線の加速・伝播機構の研究
研究代表者名(所属機関名): 赤池陽水(早稲田大学)
研究費名 : 科学研究費補助金 基盤研究(C)
研究課題名: Combined Spectrum and Anisotropy Study of Cosmic Rays from the Vela SNR with CALET
研究代表者名(所属機関名): Holger Motz (早稲田大学)