産学官で取り組む“石けん泡消火剤”の開発(2026/3/18)
演題:産学官で取り組む“石けん泡消火剤”の開発
日時:2026年3月18日(水) 13:10-14:50
会場:早稲田大学 西早稲田キャンパス 63号館 201室
講師:上江洲 一也 (北九州市立大学 国際環境工学部 生命工学科 教授)
対象:学部生、大学院生、教職員、一般
参加方法:入場無料 直接会場へお越しください
主催:先進理工学部 応用化学科
問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課
TEL:03-5286-3000
演題:産学官で取り組む“石けん泡消火剤”の開発
日時:2026年3月18日(水) 13:10-14:50
会場:早稲田大学 西早稲田キャンパス 63号館 201室
講師:上江洲 一也 (北九州市立大学 国際環境工学部 生命工学科 教授)
対象:学部生、大学院生、教職員、一般
参加方法:入場無料 直接会場へお越しください
主催:先進理工学部 応用化学科
問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課
TEL:03-5286-3000
学校法人早稲田大学(所在地:東京都新宿区、理事長:田中愛治)は、2026年2月6日にJAXA(宇宙航空研究開発機構)の「宇宙戦略基金:宇宙転用・新産業シーズ創出拠点「SX-CRANE」」に代表機関として採択されました。代表機関として採択された中では、私立大学で唯一の採択となります。
2030年以降、地球低軌道の宇宙空間において、民間活動の拡大が期待されており、そこには訓練された宇宙飛行士だけでなく、民間人も活動対象のスコープに入ることが予想されます。本課題の採択を受けて、学校法人早稲田大学は慶應義塾大学、学校法人東京理科大学、学校法人東京女子医科大学、公立大学法人名古屋市立大学、国立大学法人大阪大学、有人宇宙システム株式会社、パナソニック株式会社、株式会社ジャムコの各連携機関とともに、宇宙QOL向上を目指した有人宇宙滞在技術開発を推進します。また、地球での実験データ、宇宙拠点での実証データ、ヴァーチャル環境でのデータを一体的に統合した、統合データ解析プラットフォームを構築し、宇宙と地上双方に価値を還元する新たな研究拠点の実現を目指します。
また、本課題の研究代表者が、別に研究代表を務めている教育・人材育成プログラム(文部科学省「宇宙人材育成事業」令和7年度採択「ECLSS環境における人間の快適性を支える製品・サービスデザイン人材育成プログラム」)と連携し、非宇宙分野からの人材育成、裾野拡大、社会受容の向上を推進します。
■研究費の名称:JAXA 宇宙戦略基金 宇宙転用・新産業シーズ創出拠点「SX-CRANE」
■技術開発課題の名称:一般民間人の健康・快適宇宙生活を実現する宇宙QOL研究開発拠点
■代表機関名:学校法人早稲田大学
■研究代表者:早稲田大学 理工学術院 野中 朋美(のなか ともみ)
■連携機関(予定):慶應義塾大学、学校法人東京理科大学、学校法人東京女子医科大学、
公立大学法人名古屋市立大学、国立大学法人大阪大学、有人宇宙システム株式会社、
パナソニック株式会社、株式会社ジャムコ
■支援予定期間:2026年4月~2034年3月(最長8年)
※当初契約期間は、契約日から最初のステージゲート評価が終了する日の属する年度末日まで。
現在、宇宙における有人活動は宇宙飛行士が担っており、ECLSS(エクルス:環境制御・生命維持システム)は、高度に選抜され長期訓練を受けた宇宙飛行士が生命維持を可能とすることを前提に、設計・開発されてきました。
その一方、一般民間人の宇宙旅行や商業宇宙ステーション構想の実現など、今後の民間活動の拡大が予測される地球低軌道の宇宙空間においては、健康維持に加え、快適に過ごせる環境の確保が不可欠となります。十分な訓練を受けずに宇宙空間に渡航する一般民間人にとって、快適性・QOLの向上や健康維持を支える製品・サービスは不可欠であり、今後、そのために必要な技術開発と研究拠点が必要となります。
本研究開発は、「人がどう感じるのか」の視点から、認知・知覚・生理反応に基づく人間中心のアプローチを導入し、宇宙拠点での健康・快適・QOL体験を統合的に設計する世界初の挑戦となります。以下の9つのグループによる3つの研究グループ群で、具体的な本研究開発項目を推進します。
<システムデザイングループ群>
1.民間宇宙ビジネス・サービスデザインG:
宇宙旅行や居住における利用者の選好・評価・心理的要因を定量化し、指標・ガイドラインGが各グループと連携して開発する「宇宙QOL指標」と結びつけることで、新しいサービスやビジネスの設計とともに、行動経済学の知見を応用し、宇宙環境において望ましい行動変容を促すサービスデザインの構築を目指します。さらに、サービスレベルごとの費用対効果を検証し、社会実装可能なビジネスモデルの提示を目指します。
2.システムデザインG:
居住空間に提供するQOL基盤のデザイン、各グループが開発するQOLアイテムにおけるQOL基盤および外部システムとのインターフェース設計を担当します。また、単にものが動くだけでなく、地上や宇宙でどのような試験を実施して社会実装していくか、社会実装を実現する分野融合研究開発のマネジメントを担当します。
3.宇宙実証G:
各研究グループにより創出された技術アイテム群を統合し、実際の宇宙環境あるいは模擬環境において段階的に検証・実装を目指す際に、開発した技術を宇宙実証および実装計画立案につなぐ役割を担います。また、「きぼう」有償フライト枠組みを活用し、技術成果を軌道上実証・社会実装に結びつけることを目指します。
<健康・QOL・快適グループ群>
4.快適・スポーツG:
運動・身体活動を通じた健康維持・ストレス軽減技術の開発を目指します。健康・快適度を評価する指標として、宇宙滞在における清潔評価指標、QOL-Fitnessスコアの開発、また、開発した技術を実装した空気・空間清浄装置、宇宙トイレ・宇宙エアシャワー、宇宙eスポーツ・フィットネスサービスプログラム、宇宙ヨガ・リラクゼーションプログラムの開発を目指します。
5.人間工学・クロスモーダル・アートG:
人間の感覚機能や多感覚の統合(クロスモーダル)にかかる特性を活用し、XR(クロスリアリティ)技術を用いた宇宙酔いの訓練対策プログラムや、宇宙での狭隘な住空間におけるアートの視座を取り入れたリラクゼーションの試みなどを通して、快適な宇宙旅行のUX(ユーザーエクスペリエンス)のデザインを目指します。
6.健康・医学G:
民間人の宇宙滞在における健康維持を目的に、宇宙環境を模擬した細胞/組織培養実験から一般民間人を対象とした閉鎖環境下での研究まで、包括的に展開できる研究開発プラットフォームを構築しつつ、階層的に宇宙環境の影響を解明し、その改善策の創出を目指します。
<基盤技術グループ群>
7.統合実験プラットフォームG:
AI技術を駆使し、人の生理・心理状態を仮想的に再現する「生理・心理デジタルツイン」、民間宇宙ステーションや宇宙ホテルを模擬する「ヴァーチャルQOL空間」を統合した、次世代の「仮想実験環境」の開発を目指します。
8.解析・デバイスG:
外的環境(温度・湿度・O2/CO2・宇宙放射線など)と内的環境(体温・心拍・脳波・ホルモンなど生体データ)の両面を網羅的に計測・解析し、軽微な体調変化を早期検知して、健康リスクを未然に防ぐこと、また、微小重力や宇宙特有の制約条件に適応した計測技術・解析モデルの開発を目指します。
9.指標・ガイドラインG:
健康・快適性・QOLの評価指標と標準化ガイドラインを設計・検証・規格化を目指します。宇宙飛行士の健康・心理モニタリング、閉鎖環境知見、航空宇宙医学、国際機関文書を統合し、サービスレベル別に実装可能な枠組みの提示を目指します。
これらの研究開発内容は、「快適・スポーツ」、「人間工学・クロスモーダル・アート」、「健康・医学」を核とした人間中心の研究アプローチで行い、それらを統合・実証する「システムデザイン技術」、「サービス・システムデザイン」、「宇宙実証」等の基盤技術を柱として開発を進めることで、単なる要素技術の寄せ集めではなく、システムアーキテクチャ設計に基づく「しくみのデザイン」によって、宇宙拠点と地球における生理・認知・行動データを統合的に活用する新たな有人宇宙滞在技術の創出を目指すことができます。このことにより、「宇宙QOL基盤」と「宇宙QOLアイテム群」の開発につなげ、民間宇宙ステーションや宇宙ホテルの事業者が構築する居住モジュール内部の体験空間に導入される独立・分散型の要素技術を、宇宙QOL基盤上に製品・サービスのアイテム群として供給することを目指します。
また、地球での実験データ、宇宙拠点での実証データ、ヴァーチャル環境でのシミュレーションデータを一体的に統合し、AI解析によって知見を抽出する統合データ解析プラットフォームの構築も目指します。これにより、現実環境と仮想環境を横断した新しい研究基盤を確立し、人の生理・認知・行動反応を多角的に再現・評価することを目指します。
宇宙空間における民間活動の拡大に向けて、これまでの「生命維持」を前提とした技術から、「一般民間人が快適に過ごすための環境と体験」を設計する新たな段階へと移行しています。
早稲田大学は、システム工学および人間中心設計の知見を基盤として、人の認知・感覚・生理反応を統合的に捉え、宇宙における健康・快適・生活の質(QOL)を科学的に設計する研究に取り組んできました。本研究では、これまで宇宙飛行士を前提として構築されてきたECLSSを、「人がどう感じ、どのように快適に過ごすか」という人間中心の視点から、宇宙QOLを科学的に設計し、宇宙空間における快適性を拡張することを目指します。
日本は、環境制御技術、健康管理技術、精緻なセンシング・解析技術、そしてきめ細やかなサービス設計に代表される高度なサービス産業において、世界的に高い競争力を有しています。これらの非宇宙分野で培われた技術と知見を宇宙分野へ体系的に接続し、人間中心の宇宙生活設計という新たな研究領域を切り拓く挑戦です。そのため、医学、工学、人間工学、スポーツ科学、宇宙実証、システム工学、行動経済学・経営工学・サービス工学、産業技術を横断する、国内でも類を見ない大規模かつ統合的な研究体制のもとで本研究を推進します。大学、研究機関、企業がそれぞれの強みを結集した圧倒的な研究体制により、基礎研究から宇宙実証、社会実装までを一体的に推進できる点が大きな特徴です。
早稲田大学は、本研究開発拠点の代表機関として、日本の強みを結集した宇宙QOL・ECLSS研究の国際的な中核研究拠点を形成し、宇宙における人間中心の快適設計を世界に先駆けて実現を目指します。そして、宇宙で培われた技術と知見を地上社会へ還元することで、都市環境、建築、サービス産業など幅広い分野の革新にも貢献し、宇宙と地上の双方に新たな価値を創出してまいります。
※1 ECLSS(エクルス:Environmental Control and Life Support System/環境制御・生命維持システム)
宇宙船や宇宙ステーションなどの閉鎖環境において、人が安全に生活するために必要な酸素の供給、水の再生、二酸化炭素の除去、温度・湿度・気圧の調整などを行い、居住環境を維持する基盤システムです。
演題:Natural and engineered biosynthetic novelty from bacteria
日時:2026年3月19日(木) 13:00-14:40
会場:早稲田大学 120-5号館121会議室
講師:Jörn Piel(ETH Zurich教授)
対象:学部生、大学院生、教職員、一般
参加方法:希望者は[email protected]にメールで申込
主催:先進理工学部 生命医科学科
問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課
TEL:03-5286-3000
近年、非常に強く、しかもきわめて短い時間で光を出すレーザー技術が大きく進展しています。このレーザー技術を固体材料と融合することで、従来にはない機能を有する材料やデバイスの創出が期待されています。例えば、強いレーザー光を照射すると、通常は光を通さない物質が一時的に透明になることがあります。レーザー光を超高速でON/OFF制御すれば、物質の透明・不透明を超高速でスイッチングすることが可能となり、光スイッチや光信号制御などへの応用が期待されます。
早稲田大学理工学術院の賈軍軍(じゃ じゅんじゅん)教授の研究グループは昨年、フェムト秒レーザー照射によってマルチバレー半導体中の光励起電子分布を制御する新しい光変調機構を発見し、可視光から赤外線に至る広帯域で光スイッチングが可能であることを実証しました「Physical Review Applied, 23, 024060 (2025)」。本研究では、この概念をさらに発展させ、縮退半導体InNにおいて、フェムト秒レーザーにより電子の「温度」を瞬時に制御することで、広帯域な光スイッチングが可能になることを明らかにしました。
本成果は、超高速かつ広帯域な光制御を実現する新たな原理を示すものであり、次世代の超高速光変調器や光シャッターの高度化に貢献するとともに、低遅延・高効率が求められる光計算・光通信向けフォトニックデバイスへの応用が期待されています。
本研究成果は2026年1月20日に「Physical Review B」に公開されました。
半導体材料では、バンドギャプ以上の高強度レーザーを用いると、多数の電子が価電子帯から伝導帯に高密度に励起されることが知られています。これらの電子は電子-フォノン散乱によって速やかに伝導帯下部へ緩和し、伝導帯底における電子占有が増加します。この電子占有の増大、すなわちパウリ遮蔽(Pauli Blocking)効果により、バンド間吸収が一時的に抑制され、物質が透過的になる現象が観測されてきました。従来、この過渡的パウリ遮蔽効果は主として高強度光励起による伝導帯に大量電子の注入に起因すると理解されてきました「Physical Review Applied, 23, 024060 (2025)」。
本研究では、代表的な半導体材料であるInNを用いて、パルスレーザーの高密度光励起によって電子温度を制御することで、近赤外から可視光領域にわたる多色光の透過・不透過を超高速で切り替えられるかを検証しました。
InNにおいて、フェムト秒レーザー照射により伝導帯中の電子温度が瞬時に上昇し、それに伴って電子分布が熱的に広がることを明らかにしました。この電子分布の変化により、従来、光を吸収していた遷移が一時的に抑制されます。その結果、「電子温度の急激な上昇」のみを過渡的パウリ遮蔽効果の駆動原理として、物質の透明・不透明を超高速かつ広帯域に制御できることになります。さらに、InNにおける光スイッチングは可視光から近赤外域にわたる複数のスペクトル的スイッチング中心を有することが明らかとなりました。この成果は、単一材料において多色光を同時に制御可能であることを示し、電子温度制御に基づく新たな広帯域光変調原理を確立するものです。
本研究では、明らかになった過渡的パウリ遮蔽に基づく超高速・広帯域光スイッチング機構は、従来の電子デバイスの速度限界を超える新たな情報処理技術の基盤となります。特に、フェムト秒〜ピコ秒時間スケールで動作する全光型スイッチングは、将来の高速・低遅延情報通信に大きな波及効果をもたらします。とくに、可視光から近赤外にわたる広帯域動作は、波長分割多重(WDM)光通信や多波長を同時に扱うフォトニック回路への応用に適しており、データセンターや高性能計算(HPC)における通信の高速化・省電力化に貢献することが期待されます。
また、本研究は、既存の産業利用実績を有する材料を用いて新機能を引き出した点でも意義が大きく、基礎物理の深化と社会実装を橋渡しする研究として、今後のフォトニックデバイス産業や関連技術分野への長期的な社会的影響が期待されます。
本研究で確立した電子温度駆動型の過渡的パウリ遮蔽効果は、材料固有の電子構造に基づいて光スイッチング波長域を設計できる指針を与えるものであり、今後はワイドバンドギャップ半導体材料への展開が期待されます。さらに、サブピコ秒時間スケールで動作する全光型非線形応答は、光ニューラルネットワークに応用の展開に期待され、ひいてはフォトニック AI への展開としての応用が期待されます。
本研究は、現代の情報技術における根本的課題「いかにして、より高速かつ低エネルギーで信号を切り替えるか」に応えるものです。レーザー光によって材料の透明性を瞬時に制御できることを示した本成果は、超高速・広帯域・高効率な次世代フォトニックデバイスへの新たな道を切り拓くものです。
※1 縮退半導体
不純物ドーピングや欠陥などによってキャリア(電子または正孔)の濃度が非常に高くなり、フェルミ準位が伝導帯(n型)または価電子帯(p型)の内部にまで入り込んだ半導体のことを指す。
※2 過渡的パウリ遮蔽
半導体にフェムト秒などの超短パルスレーザーを照射した際に、電子の占有状態が一時的に変化し、光吸収が抑制される現象であります。この効果は、電子が同一の量子状態を同時に占有できないというパウリの排他原理に基づいています。
※3 ポンプ–プローブ時間分解透過率測定
超短パルスレーザーを用いて物質中の超高速現象を観測する実験手法であります。まず、強いレーザーパルス(ポンプ光)を試料に照射して電子状態を励起し、その後、時間遅延を制御した弱いレーザーパルス(プローブ光)を照射することで、励起後の光学特性の変化を時間分解して測定します。
※4 光励起キャリア
バンドギャップ以上の光子エネルギーをもつ光を半導体や絶縁体に照射すると、価電子帯から伝導帯への電子遷移が生じ、電子と正孔の対が生成される。これらの電子-正孔対を光励起キャリアと呼ぶ。
雑誌名:Physical Review B
論文名:Transient Pauli blocking in an InN film as a mechanism for broadband ultrafast optical switching
執筆者名(所属機関名):Junjun Jiaa※、Minseok Kimb、Yuzo Shigesatob、Ryotaro Nakazawac、Keisuke Fukutanic、Satoshi Kerac、Toshiki Makimotoa、Takashi Yagid
a:早稲田大学
b:青山学院大学
c:分子科学研究所
d:産業技術総合研究所
掲載日時:2026年1月20日
掲載URL:https://doi.org/10.1103/1cww-zn61
DOI:https://doi.org/10.1103/1cww-zn61
*:責任著者
研究費名:科学研究費 基盤研究(B)
課題番号:25K01862
研究課題名:光誘起イプシロンニアゼロ物性の解明による物質設計
研究代表者名(所属機関名):賈 軍軍(早稲田大学)
一般財団法人ファインセラミックスセンター(JFCC)の野村優貴博士、山本和生博士、平山司博士と早稲田大学の藤田真輝氏(研究当時:博士前期課程2年)、川合航右研究院講師(現在:東北大学)、大久保將史教授らの研究グループは共同で、全固体リチウム電池※1材料として注目される二次元材料MXene(マキシン)※2について、充放電動作中に生じる電池反応を電子顕微鏡を用いてその場観察※3することに成功しました。
MXeneは、原子数層の厚さの“シート状”の材料で、高い電気伝導性とイオンの出入りしやすさから、次世代電池への応用が期待されています。しかし、実際に電池として動作している際に、MXeneの中でリチウムイオンがどのように動き、どのような電気化学反応が起こっているのかは、これまで詳しく分かっていませんでした。本研究では、早稲田大学が開発したMXeneに、JFCCが開発したその場走査透過電子顕微鏡法(STEM)※4と電子エネルギー損失分光法(EELS)※5を組み合わせることで、全固体電池の充放電中に、MXene内部で起こるリチウムの出入りや電気化学反応をナノメートルスケールでその場観察することに成功しました。
その結果、MXene内では、①層間にリチウムイオンが出入りする反応、②表面で酸化リチウムが生成・分解する反応、③固体電解質※6が分解する反応、という3つの異なる反応が同時に進行していることが明らかになりました。さらに、MXeneのナノシート表面に存在する酸素などの末端基※7の違いによって、リチウムイオンの動きや反応の進み方が大きく変化することも示されました。本成果は、MXeneを用いた高容量・高耐久な全固体電池の設計指針を与えるものであり、次世代二次電池開発に向けた重要な知見となります。
本成果は2026年1月19日にWiley社発行の国際学術誌「Small」に掲載されました。
電気自動車や再生可能エネルギーの普及にともない、二次電池には「高容量」「長寿命」「高安全」の実現が求められています。特に、電解液を使わない全固体リチウム電池は、安全性の高い次世代電池として注目されています。MXeneは、金属炭化物や窒化物からなる二次元材料で、薄いナノシートが多層に積層した構造です。この独特な構造により、イオンが出入りしやすく、高い蓄電性能が期待されています。しかし、電池として動作している最中に、MXeneの内部でどのような反応が生じているかは、これまで直接観察することが困難でした。
一般財団法人ファインセラミックスセンター(JFCC)の野村優貴博士、山本和生博士、平山司博士と早稲田大学の藤田真輝氏(研究当時:博士前期課程2年)、川合航右研究院講師(現在:東北大学)、大久保將史教授らの研究グループは、MXene(Ti3C2Tx)を電極に用いた全固体リチウム電池を電子顕微鏡内で充放電しながらその場観察する独自の研究手法を開発しました。走査透過電子顕微鏡法(Scanning Transmission Electron Microscopy:STEM)と電子エネルギー損失分光法(Electron Energy-Loss Spectroscopy:EELS)を用いることで、リチウムの移動や酸素、チタンの電子状態の変化を同時に解析しました。これにより、「電池が実際に動いている状態」での反応を、動画として追跡することに成功しました。
研究により、MXene電極で起こる反応の全体像が明らかになりました。主な発見は以下の通りです。
MXeneでは、充放電にともなって、ナノシートのすき間にリチウムイオンが可逆的に挿入・脱離する様子が観察されました。この反応にともない、材料中のチタンの電子状態が可逆的に変化することが確認され、MXene層間へのリチウムイオンの挿入・脱離が電池反応に寄与していることが分かりました。
MXene表面では、リチウムと酸素が反応して酸化リチウムが生成・分解する様子も観察されました。この反応は完全に可逆的ではなく、電池の不可逆容量の要因であることが示されました。
MXene電極だけでなく、界面近傍の固体電解質も充放電中に還元分解していることが明らかになりました。この分解反応により、MXeneと固体電解質の境界部分にリチウム過剰な反応生成物が形成され、電池の不可逆容量の要因となっていることが分かりました。
MXeneのナノシート表面に存在する酸素などの末端基の種類によって、リチウムの動きや反応の進み方が変化することが明らかになりました。特に、酸素終端を多く持つMXeneでは、リチウムを貯蔵しやすくなる一方で、酸化リチウムの生成が進みやすいという利点と課題の両方が存在することが示されました。

図1 充放電中のリチウムイオン分布のその場観察。(a)環状暗視野走査透過電子顕微鏡(ADF-STEM)像。(b)充放電中のリチウムイオン分布の変化。図中の白矢印は、固体電解質の還元分解によって形成されたリチウム過剰層。黄矢印は、MXene表面に形成された酸化リチウム層。
本研究で得られた「MXene内部と表面で同時に起こる複数の反応」の理解は、MXeneを用いた電池材料設計において重要な指針となります。今後は、構造と表面官能基を制御することで、容量と耐久性を両立したMXene電極の開発が期待されます。
本成果は2026年1月19日にWiley社発行の国際学術誌「Small」に掲載されました。
タイトル:Real-Time Imaging of Intercalation–Conversion Li Storage in MXenes for Solid-State Batteries
著者:Yuki Nomura1,* Kosuke Kawai2, Masaki Fujita2, Kazuo Yamamoto1, Tsukasa Hirayama1, Masashi Okubo2,*
著者所属:1 Japan Fine Ceramics Center, 2 Waseda University, * 責任著者
掲載誌:Small
DOI:10.1002/smll.202513159
本研究の一部は、日本学術振興会「科研費」(23H00241, 24H02204, 24K17757, 25K00078)、NEDO「次世代全固体蓄電池材料の評価・基盤技術開発(SOLiD-Next)」(JPNP23005)、文部科学省「データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト」(JPMXP1121467561)、(公財)風戸研究奨励会、(公財)岩谷直治記念財団の研究助成の支援を受けて実施されたものです。一部の実験データ取得には、ファインセラミックスセンターが実施した安全保障技術研究推進制度「AI的画像解析によるオペランド電子顕微鏡計測技術に関する研究」(PJ004596)によって導入された設備を使用しました。
※1 全固体リチウム電池
液体の電解質ではなく、無機固体の電解質を用いるリチウム電池。電池全体が固体の材料で構成される。
※2 MXene(マキシン)
金属炭化物や窒化物からなる二次元材料。原子数層の薄さのナノシートが積層した構造であり、高い電気伝導性を示す。
※3 その場観察
測定対象が実動環境下でその機能を発現する過程をその場で観察する手法。
※4 走査透過電子顕微鏡法
細く絞った電子線で試料を走査し、散乱された電子を検出器で捉えることで、高い空間分解能で材料の構造を可視化する手法。
※5 電子エネルギー損失分光法
試料と相互作用してエネルギーを損失した電子を計測し、材料の組成・電子状態を解析する手法。透過電子顕微鏡を用いた分析手法の一つ。
※6 固体電解質
液体の代わりに固体中でイオンを伝導させる無機材料。
※7 末端基
MXeneのナノシートの表面に結合した酸素やフッ素、塩素などの官能基。
※8 不可逆容量
電池の初回充電などで一度失われ、その後の充放電では回復しない容量。電極や電解質の分解、副反応によってリチウムが消費されることで生じ、電池の実質的な容量低下の原因となる。
このたび、BINDS発現・機能解析インシリコ解析融合ユニットがどのような研究の支援と開発を行ってきたかをご紹介するシンポジウムを、オンラインで開催する運びとなりました。当該ユニットは、空間オミックスをはじめとする各種オミックス解析の装置を導入し、さまざまな研究者の研究支援を行ってまいりました。どのような成果が出ているかをご覧いただき、ぜひとも今後の皆様の研究にお役立ていただければ幸いです。
日時
2026年2月19日(木)15時〜16時50分
場所
オンライン(ZOOM)
以下のウェブサイトよりお申し込みください。登録時に参加URLが送信されます。
https://forms.office.com/r/wagWbiNfZW
内容・概要
【概要】
本シンポジウムでは、2024年夏から本格稼働した早稲田大学空間オミックス解析研究拠点CESOARが生み出している、新しい生命科学像の一端をご紹介いたします。CESOARでは、BINDSの枠組みのもと数多くの研究支援を実施しており、多くのデータ測定とデータ解析が進んでいます。その中で様々な結果が得られるとともに、様々なノウハウが蓄積され始めており、今後も研究を支援しながら、従来の生命科学研究では見えなかった地平線の向こう側に踏み込んでいきます。今回はCESOARを活用する方法ご案内するとともに、CESOARの支援により研究が進展した3つの案件をご紹介いたします。
【内容】
15:00 – 15:05 はじめに
由良 敬(早稲田大学理工学術院・教授)
15:05 – 15:20 CESOARにおける研究支援の紹介
松永 浩子(早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構・研究院准教授)、
竹山 春子(早稲田大学理工学術院・教授)
15:20 – 15:50 空間オミクス解析に基づく婦人科癌の分子病態解と次世代治療戦略
良元 大介(東京大学医学部産婦人科学教室・大学院生)
15:50 – 16:20 単一細胞RNAシークエンスによる内皮細胞の臓器特異的加齢性変化の解析と今後の展開
高野 晴子 (日本医科大学先端医学研究所病態解析学部門・教授)
16:20 – 16:40空間オミクスを用いた慢性腎臓病の病態解明 (ビデオ講演)
菊池 寛昭(東京科学大学病院 血液浄化療法部・助教)
16:40 – 16:50 閉会挨拶
由良 敬
主催団体名
BINDS発現・機能解析インシリコ解析融合ユニット
連絡先
生命科学・創薬研究支援基盤事業(BINDS)
BINDS司令塔・調整機能活動サポート班 E-mail:[email protected]
早稲田大学空間オミックス解析研究拠点(CESOAR) E-mail : [email protected]
山梨大学クリーンエネルギー研究センター/水素・燃料電池ナノ材料研究センター・早稲田大学理工学術院の宮武 健治(みやたけ けんじ)教授、信州大学社会実装研究クラスター 繊維科学研究所の金 翼水(きむ いくす)卓越教授、山梨大学クリーンエネルギー研究センターのLiu Fanghua(りゅう ふぁんふぁ)研究助教(元早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構次席研究員)の研究グループは、水素と酸素を用いて発電する固体高分子形燃料電池(PEFC)※1の性能と耐久性を大幅に向上させる新たなプロトン導電性電解質膜※2の開発に成功しました。この電解質膜は、親水部構造としてスルホン酸基を持つフェニレン基、疎水部構造としてベンゼン環が5つ連結したキンケフェニレン基と脂肪族基の3成分からなる高分子電解質と、補強材として多孔性のポリエチレン基材を組み合わせた複合膜で、高いプロトン導電率、大きな伸び率、優れたガスバリア性を併せ持ち、高温(120℃)での高性能な燃料電池発電と、過酷な加速劣化試験で100,000サイクル以上の耐久性を達成しました。
高分子電解質およびポリエチレン(PE)いずれにもフッ素が全く含まれないことから、人体や環境に対する悪影響が懸念されているPFAS※3にも該当することが無く、次世代の固体高分子形燃料電池用の電解質膜として大変有望な新材料です。低炭素社会の早期実現にも大きく貢献しうる技術として、早期実用化が期待されます。
本研究成果は、2026年2月3日にドイツ化学会が発行する学術雑誌『Advanced Materials』のオンライン版で公開されました。

図1:本研究で開発したプロトン導電性高分子電解質(SP-PAC12-QP)の合成方法、およびそれと多孔性ポリエチレンを組み合わせた複合膜の写真。茶色透明で均一な薄膜構造が、高プロトン導電率と化学的・機械的安定性の両立を可能にする。
プロトン導電性高分子を電解質膜として用いるPEFCは、常温から80℃程度の温度で発電することができるので使いやすく、電気自動車や家庭用の電源として商品化されています。これまでのPEFCはフッ素原子と炭素原子を主成分とするフッ素系高分子電解質と、延伸したポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)からなる多孔材基材を組み合わせた複合膜が用いられていますが、合成方法が限られており高価であること、ガスバリア性(気体の通しにくさ)が不十分であること、フッ素原子を多く含むことからPFASの一種として人体や環境への長期的な影響が懸念されること、が課題とされています。
これまでにフッ素原子を含まない高分子電解質膜が数多く開発されてきましたが、フッ素系高分子電解質膜に比べてプロトン導電率や化学的安定性が劣っており、PEFC用に適した材料は見つかっておりませんでした。
プロトン導電性を発現するための構造(スルホン酸基を持つフェニレン基)、化学的安定性を発現するための構造(5つのベンゼン環が連結したキンケフェニレン基)、機械的安定性を発現するための脂肪族基に着目し、これら3つの成分を組み合わせた高分子電解質を設計しました。各成分の組成比と脂肪族基の長さを変えた一連の高分子電解質を合成し、それらが電解質物性に及ぼす効果を明らかにしました。これにより得られた最適構造をもつ高分子電解質を多孔性のポリエチレン基材と複合させることにより、従来までの非フッ素系高分子電解質膜や市販のフッ素系高分子電解質膜と比べても優れた性能を達成することができました。
三成分からなる高分子電解質の物性は、その組成に加えて脂肪族基の長さによっても大きく変化することを見出しました。今回検討したなかでは、炭素数が12のドデシル基が疎水部の中で67mol%含まれる時(スルホフェニレン基:ドデシル基:キンケフェニレン基=15.5:2:1)に高分子量体(重量平均分子量が141,500)として得られ、エタノールなどの低級アルコールにも可溶でした。この高分子電解質を膜厚が7μm、空隙率が44%のPE基材と組み合わせたところ、高分子電解質が均一に含浸した複合膜(SP-PAC12-QP-PE7)を得ることができました。この複合膜は80~120℃の温度範囲において優れたプロトン導電特性を示し、フッ素系電解質膜と同等の性能でありました。また、80℃、60%RH条件下における破断伸びは300%を超えており、薄膜でありながら伸縮性にも富んでいます。複合電解質膜の両面に電極触媒層を塗布して燃料電池特性を測定したところ、フッ素系電解質複合膜に比べて水素透過率は1/4程度でありガスバリア性に優れていました。また、プロトン導電率と同じ温度範囲で優れた発電特性が得られること、開回路条件(電流を流さない条件)で乾燥と湿潤を繰り返す加速劣化試験では100,000サイクルを超えることを実証しました。この耐久性はフッ素系電解質複合膜の1.3倍であり、フッ素を全く含まない材料では異例の安定性を確認出来ました。

図2:(a) SP-PAC-QP複合膜の気体透過率(フッ素系複合電解質膜との比較)と(b)加速劣化耐久試験。
市販されているGore SelectやNafionなどのフッ素系高分子電解質は優れた耐久性を持ちますが、その優れた物性はフッ素原子が共有結合で炭素原子に結合した高分子構造に由来します。フッ素原子を含まない高分子電解質は構造の自由度が高く合成方法も多様であるため、非常に多くの材料が提案されていますが、フッ素系高分子電解質にはかなわないと考えられてきました。
本研究で開発したプロトン導電性高分子電解質である構造と組成を最適化したSP-PAC12-QP-4.5 に、PE多孔基材を複合させた電解質膜は、従来の非フッ素系高分子電解質膜が抱えていた欠点を克服し、しかもガスバリア性などの利点も併せ持っています。実用的な運転条件や、今後、商用自動車などのヘビーデューティービークル(タクシー、トラック、バスなど)への応用を想定した高温運転や過酷な劣化試験条件での運転でも優れた発電特性と耐久性を示し、新材料の可能性を実証することができました。
今回の成果は基礎研究であるため小さなセル(電極面積が4.41cm2)でありますが、今後、より大きなセルでの性能確認に加えて、複数のセルを積層したスタックでの検証を関連企業との共同研究で実施する予定であり、実用化に向けた検討を加速して進めます。
本研究で開発したSP-PAC12-QP-4.5の合成には、重合促進剤として0価のニッケル錯体(ビスシクロオクタジエニルニッケル)を用いています。この錯体は重合反応に対する活性が高く、高分子量体の高分子電解質を合成するのに適しているのですが、量産化されておらず試薬ベースでも高価です(1gあたり数千円程度)。この錯体を用いずに重合を促進することによって、低コスト化を進める検討を行っています。これら課題に加えて、量合成や連続製膜などへもチャレンジしていきます。
フッ素を含まないプロトン導電性高分子電解質膜のブレークスルー技術として、学術的な意義はもちろん、実用的な観点からも大きな成果であると考えております。3種類の構造を含む三元共重合体は様々な組み合わせが可能であるため、今回とは異なる成分を用いることにより、より多機能な高分子電解質が創出できる可能性があります。PEFCに限らず水素製造のための水電解セルや二次電池、センサーなど、様々な固体電気化学デバイスへの展開に繋げていきたいと思います。
※1 固体高分子形燃料電池(PEFC)
PEFCはPolymer Electrolyte Fuel Cellの略称であり、負極と正極で高分子電解質膜を挟み、負極に水素、正極に酸素を供給して電気を発生させる電池。1つのセルでセル電圧(開回路電圧)は1.0V程度であり、実用的には積層(スタック)させて高電圧を得る。
※2 プロトン導電性高分子電解質膜
酸性基を含む高分子から構成され、水素イオン(プロトン)が選択的に透過する薄膜。燃料電池や電解セル、センサーなどの電気化学デバイス用の固体電解質として用いられている。PEFC用の電解質膜は、負極で発生したプロトンを正極に運ぶ役割を担っており、プロトン導電率、ガスバリア性、機械強度、耐久性などの物性が必要とされる。
※3 PFAS
Per- and polyfluoroalkyl substancesの略称であり、アルキル基に複数のフッ素原子が結合した有機フッ素化合物の総称である。人体や環境への長期的な影響が懸念されるため、製造、使用、販売への規制が世界中で検討されている。
雑誌名:Advanced Materials
論文名:Universal Fluorine-free Proton Exchange Polymers for High-performance and Durable Fuel Cells Operable under Severe Conditions
執筆者名:Fanghua Liu1、Kenji Miyatake (宮武 健治)1,2、Ick Soo Kim3、Ahmed Mohamed Ahmed Mahmoud1、Vikrant Yadav1、Fang Xian1
1:山梨大学クリーンエネルギー研究センター/水素・燃料電池ナノ材料研究センター
2:早稲田大学理工学術院
3:信州大学社会実装研究クラスター 繊維科学研究所
掲載日時:2026年2月3日
掲載URL:https://doi.org/10.1002/adma.202520137
DOI:10.1002/adma.202520137
研究費名:文部科学省 科学研究費補助金
研究課題番号:23H02058
研究課題名:全固体空気二次電池の創製:原理実証と有機負極活物質の検討
研究分担者名(所属機関名):宮武 健治(山梨大学)
研究費名:文部科学省 データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト
研究課題番号:JPMXP1122712807
研究課題名:再生可能エネルギー最大導入に向けた電気化学材料研究拠点(DX-GEM)
研究分担者名(所属機関名):宮武 健治(山梨大学)
2026年度 基幹・創造・先進理工学研究科 修士一般・飛び級入試(7月12・13日実施)の筆記試験科目(専門科目)について
「出題の意図」および「解答例(解答のポイント)」を公表いたします。
基幹理工学研究科
・数学応用数理専攻
・機械科学・航空宇宙専攻
・電子物理システム学専攻
・表現工学専攻
・情報理工・情報通信専攻
・材料科学専攻
創造理工学研究科
・建築学専攻
・総合機械工学専攻
・経営システム工学専攻
・建設工学専攻
・地球・環境資源理工学専攻
・経営デザイン専攻
先進理工学研究科
・物理学及応用物理学専攻
・化学・生命化学専攻
・応用化学専攻
・生命医科学専攻
・電気・情報生命専攻
・生命理工学専攻
・共同原子力専攻
演題:Quantum Harmonic Oscillator on the Circle
日時:2026年3月11日(水) 15:30-17:10
会場:早稲田大学 西早稲田キャンパス55号館N棟2階 応物物理会議室
講師:Daniel BURGARTH(University of Erlangen-Nürnberg, Germany 教授)
対象:学部生、大学院生、教職員、一般
参加方法:希望者は直接会場へお越しください
主催:先進理工学部 応用物理学科
問合せ:早稲田大学 理工センター 総務課
TEL:03-5286-3000
2026年1月24日(土)、第5回「日本医科大学・早稲田大学合同シンポジウム~両校の実質的連携を目指した研究交流~」を日本医科大学済生学舎1号館講堂において開催しました。
日本医科大学と早稲田大学との連携は、2009年に締結した包括協定から始まり、実質的な研究連携への合意(2020年)を経て、本学附属校・系属校との高大接続連携に関する協定(2020年)へと発展してきました。2021年度からは、日本医科大学で選抜された3年生を、本学の理工研究室に迎え入れて交流を図る研究配属も実施しており、今年度は3研究室で7名を8週間受け入れました。

シンポジウム冒頭の開会挨拶で、日本医科大学学長の弦間昭彦氏は、本学との連携が、学生・研究者間で着実に進展していることを述べられました。また、日本医科大学には本学の附属校・系属校出身の学生も多数在籍しており、より若い世代の連携基盤が拡大してきているとの実感も得られている中で、今後は、大学院レベルでの関係を深化していきたいとの意欲が表明されました。続く、本学総長の田中愛治の挨拶では、2018年に総長に就任して以来の両校連携の歩みを振り返った上で、さらなる今後の展開についての期待が述べられました。その中で、本学の大学院生が日本医科大学で学ぶ機会の提供の提案、医療経済学や病院経営学といった分野での協力の可能性などについて触れ、医理工連携を通して世界人類に貢献する人材を育成する必要性について語りました。

左:日本医科大学学長の弦間昭彦氏、右:本学総長の田中愛治
開会挨拶に続く第一部の研究紹介では、日本医科大学2名、本学2名の研究者が研究紹介を行いました。両校の共同研究の成果や、今後本格的に進める予定の共同研究、シーズ成果などについての発表がなされた後、会場の参加者も含めた活発な質疑応答が展開されました。

研究紹介の様子(左から、関根准教授、大河内教授、村井大学院教授、芹田准教授)
第二部では、日本医科大学の学生が早稲田大学における研究配属の成果発表を行い、優秀研究賞1件が選ばれました。


成果発表・質疑応答の様子

左から、本学総長の田中愛治、優秀研究賞を受賞した日本医科大学生、日本医科大学学長の弦間昭彦氏
閉会挨拶では、まず本学副総長の須賀晃一から、今後一層開発が進むであろうVRやAIを用いた医療現場、あるいは医療教育の場において、日本医科大学と早稲田大学とが連携した真価が発揮できるのではないかとの期待が述べられました。また、研究配属の成果発表を行った日本医科大学の学生に向けて、自身の専門以外の研究に広く触れることは将来の成長の糧になるため、今回の経験を忘れずにさらに研鑽を積んでほしいとのエールを送りました。続く、日本医科大学大学院医学研究科長の清家正博氏からは、両校の連携研究の実績が出始めているという実感と、今後は成果の社会実装に向けてより一層の連携を進めていきたいとの意欲が語られました。

左:本学副総長の須賀晃一、右:日本医科大学大学院医学研究科長の清家正博氏
今後も、日本医科大学と本学は、研究と教育との両輪で連携を推進し、社会に貢献してまいります。
一般財団法人新エネルギー財団(会長:寺坂 信昭)では、国内の企業・自治体・教育機関等に対して優れた新エネルギー等に係る機器の開発、設備等の導入、普及啓発、分散型エネルギーの活用及び地域に根ざした導入の取組みを「新エネ大賞」として表彰しています。新型水車(以下、「本商品」という)を共同開発した東北小水力発電株式会社、秋田県、学校法人早稲田大学(実施責任者:宮川 和芳教授)の共同チームは、令和7年度の新エネ大賞の最高賞にあたる経済産業大臣賞(商品・サービス部門)を受賞しました。
秋田県産業労働部、東北小水力発電株式会社、学校法人早稲田大学
広範囲な流量・落差で運転可能な新型水車の開発
本商品は、従来型フランシス水車の改良により、従来型水車の利点を活かしつつ、運転可能領域の拡大と高効率化による発電電力量の増大を図ることで、水力発電システムの低コスト化を実現する、経済性に優れた新型水車です。従来の水車設計の常識を覆す国内発の革新的技術で、小流量域における安定発電を実現した点を高く評価されました。
・水力発電の新規開発地点が奥地化・小規模化する中、水力発電の導入拡大を目的として、産学官の連携により、広範囲な流量・落差で運転可能な新型水車を開発しました。
・この水車の最大の特徴は、従来型フランシス水車のメリットは残しつつ、低水量域において振動・損傷の発生原因となっていた水車の出口部分(ドラフトチューブ)をなくし、新たに開発したボリュートと最適設計した水車羽根車(ランナ)により、超低水量域での運転を可能としたものです。
・また、新型水車は、発電所の現地状況に合わせた柔軟な配置が可能であり、新規開発地点のみならず、老朽発電所のリプレースなどにも適しています。
・運転可能範囲の拡大による発電電力量の増大、柔軟配置によるイニシャルコストの低減といった優位性を活かしつつ、更にシステムの標準化や量産化などを通じて、国内外における水力発電の導入拡大に寄与してまいります。

2026年1月28日(水)に東京ビックサイトで表彰式が行われました。宮川教授の益々の活躍が期待されます。

受賞盾を持つ秋田県、東北小水力発電株式会社、学校法人早稲田大学の共同チーム代表者。右端が理工学術院・宮川教授
一般財団法人電力中央研究所(本社:東京都千代田区、理事長:平岩芳朗)、東芝エネルギーシステムズ株式会社(本社:神奈川県川崎市、代表取締役社長:島田太郎)、学校法人早稲田大学(東京都新宿区、理事長:田中愛治)、国立大学法人信州大学(長野県松本市、学長:中村宗一郎)は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、「NEDO」)が公募した、国内初となる一般水力発電の調整力強化に向けた「電源の統合コスト低減に向けた電力システムの柔軟性確保・最適化のための技術開発事業(日本版コネクト&マネージ2.0)※1/研究開発項目3-2 水力発電の柔軟性向上のための技術開発」(以下、「本事業」)に応募し、採択されたため、このほど技術開発に着手しました。本事業は2028年度末まで行います。
太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギー(以下、「再エネ」)の導入拡大に伴い、電力の需給バランスを維持するための「調整力」として重要な役割を担ってきた火力発電の割合は、相対的に低くなっています。こうした状況において、火力発電と同じく同期発電機※2である水力発電にはよりいっそうの期待が寄せられています。電力の需要と供給のバランスを維持するために、火力発電の出力や環境価値の高い再エネの出力を増減させるなどの調整力が必要となりますが、一般水力発電※3が新たに調整力を発揮することにより、燃料費や再エネの出力制御量、CO2排出量といった社会コストの大幅な低減が見込まれます。
電力中央研究所では、2024年6月から2025年5月にかけて、NEDOの「電源の統合コスト低減に向けた電力システムの柔軟性確保・最適化のための技術開発事業(日本版コネクト&マネージ2.0)/研究開発項目3 バイオマス発電・水力発電・地熱発電の柔軟性向上のための技術検討」を受託し、水力発電の柔軟性向上に関する調査を実施しました。この調査の結果、一般水力発電で新たな調整力を強化するには、溢水(いっすい)※4と発電に用いられない無効放流量の増加に伴う発電量減少に起因する収益減と、振動などの水車各部への負担増加による劣化の問題を、技術開発により解決する必要があることを明らかにしました。
本事業では、これまでの調査結果を踏まえて、水力発電の柔軟性を向上させるための課題を整理し、中小型水車の標準設計に向けた設計・解析支援技術や、大型水車の極低負荷運転時の水車評価手法と最適運用・制御システムの開発などの下記事項に取り組みます。
※ 早稲田大学の研究代表者は理工学術院・宮川和芳教授です。

(1)水車の導入および運用に関わる解決すべき課題の整理
中小型水車は、電力系統に接続される水車の台数と発電出力を柔軟に調節し、調整力の強化に寄与することが求められます。そのため、従来に比べて起動停止や出力調整の頻度が増加し、過渡応答※6による機器損傷や溢水リスクの上昇などが懸念されます。一方、大規模の水力発電所に適用される大型水車では、電力システムの柔軟性向上への対応のため、極低負荷を含む幅広い条件での運転が求められるようになります。設計流量から離れた低負荷領域などの非設計流量で運転する場合、キャビテーション※7や旋回流※8などの不安定現象が発生する場合があり、このような条件で頻繁に運転することでランナ※9の壊食や流体振動などによる損傷リスクを増加させます。
これらの現象は様々な物理現象が相互に関与しているため、キャビテーションや旋回流のメカニズムや特性を詳細に調査し、体系化します。そして無負荷から最大出力までの全範囲において、安全な運転が確保できない範囲や条件を新たな知見を用いて精緻に見極め、これらを最小化するとともに回避する運用を行うことで水力発電の柔軟性向上に貢献します。
(2)中小型水車の標準設計に向けた設計・解析支援技術の開発
水車は落差や流量などの地点特性に応じた発電所固有の設計が必要となります。
また、中小型水車の設計においては、1次元解析による基本設計から3次元解析まで用いられますが、技術的・費用的なハードルが高く、これらの課題が新規導入に向けたチェインのボトルネックとなっています。
また今後は柔軟性の高い水車が求められることから、技術的なハードルはさらに高くなります。
そこで本事業では、中小型の水車開発の技術支援として、水車設計の標準化、設計開発に必要なツールの開発、模型試験プラットフォームの構築を行います。
水車設計の標準化では、フランシス・軸流・クロスフロー水車を対象とし、水車形状について、発電の柔軟性を高められるよう、無負荷から最大出力までの幅広い運転範囲において高効率で、かつキャビテーションや不安定現象への対策を講じた上で、水車比速度※10を基準に最適設計します。
設計開発ツールは、本事業を通して開発した、設計・解析のための技術およびソフトウェアを整備します。
模型試験プラットフォームは、標準設計水車の性能を実証するための試験設備として開発し、将来にわたり我が国の水車開発の基盤設備となるよう整備します。
これらの標準設計された水車形状や性能データ、設計開発解析ツールなどの成果物は国内の水車メーカーや発電事業者向けに公開します。これにより水車設計の難易度やコストを大幅に低減させ、中小型水車のチェイン改善に貢献します。
(3)大型水車の極低負荷運転の拡大に向けた評価手法と最適運用・制御システムの開発
大型水車において、水車の稼働状況が不安定になり、機器の損耗も激しくなることから、従来ある一定以下の極低負荷での運転は行っていませんでした。本開発では、より柔軟性を高めるため、大型水車で一般的なフランシス水車を対象とし、極低負荷での運転時の事象を分析する高度な流体解析シミュレーションや模型試験を行います。さらに、実際の水力発電所における水車の運転状態を計測し、キャビテーションや旋回流などの不安定現象を明らかにします。これらの結果と(1)で体系化する評価指標を用いて、安全で安定的に運転できる出力領域を判断する簡易評価手法を開発します。この上で、この評価手法を活用し、キャビテーションや旋回流により不安定となる出力領域を縮小する水車を開発します。
また、今後太陽光発電や風力発電などの増加により高速・高頻度な出力調整が求められ、機器の損耗が進行することが想定されます。そのため、デジタル技術を活用し、水流が不安定となる出力領域での運転状態を把握・監視した上で、損耗が激しくなる領域を特定します。その上で、蓄電池の充放電による補助的な出力調整と組み合わせ、特に摩耗が激しくなる領域での運転を回避することで極低負荷領域での運転を可能とする運用・制御技術(SPPS)を開発します。さらに、この運用・制御システムを用いた水力発電所における実証試験を行い、柔軟性向上に関わる検証を行います。
(4)中小型水車と大型水車に共通する課題の解決
中小型水車は主に起動停止による台数制御での柔軟性向上を目指しますが、水系全体の運用や電力系統の中での発電所の立地を考えると、起動停止による台数制御だけでは出力調整が困難になる場合も想定されるため、大型水車と同様に、極低負荷運転を可能とする対応が必要である場合も考えられます。
一方、大型水車においても、電力系統からの要求で高頻度の起動停止や高速な負荷調整などの柔軟な出力制御を行うためには、水路や管路などの特性を考慮して過渡応答に対応しなければならない場合もあります。
このように、中小型水車・大型水車それぞれで実施する取り組みが,他方にも効果を及ぼすことが考えられるため、受託機関は協力して中小型、大型水車双方に有効な技術体系を構築し、解決に取り組みます。
※1「2025年度「電源の統合コスト低減に向けた電力システムの柔軟性確保・最適化のための技術開発事業(日本版コネクト&マネージ2.0)/研究開発項目3-2 水力発電の柔軟性向上のための技術開発」に係る公募について」
https://www.nedo.go.jp/koubo/FF2_100440.html
※2 火力発電機などの発電機は、電気を発生させるために回転子を回転させて発電する。この回転速度が電力系統の周波数と同期している発電機のこと。こうした発電機は、自らの回転子を一定回転に維持しようとする力を持ち、電気的な瞬時の変化に耐えることができ、電力系統の周波数や電圧安定性の維持などの役割を担っている。
※3 水力発電は、河川の流れやダムを利用して水のエネルギーを水車により機械エネルギーに変換し、さらに発電機により電気エネルギーに変化する発電システムである。その水のエネルギーを得る方式は、運用上、「流れ込み式」、「調整池式・貯水池式」、「揚水式」に分けられる。このうち揚水式を除くものを一般水力発電と言う。
※4 水力発電所で発電に使いきれなかった水が水槽や調整池から流出する状態。放水口や下流河川の水位上昇をもたらす。
※5 フランシス水車:水の圧力と速度をランナ(羽根車)に作用させる構造の水車。広い範囲(10~300メートル程度)の落差で使用できる。
軸流水車:水が羽根車の中を常に回転軸に平行に流れるようにできている水車。落差が小さく流量が多い地点に適している。
クロスフロー水車:フランシス水車と同じで、水の圧力と速度を利用する。クロスフローとは水がランナを交差し流れることを意味している。
※6 入力が変化した際に、出力が新しい定常状態に落ち着くまでの一時的な動きや変動のこと。
※7 水圧が低下した部分では低温でも水が沸騰し発生する水蒸気の微小な気泡。圧力が増加してキャビテーションが消滅する際には局所的・非常に短い時間に高温高圧となり、金属表面を削る現象はキャビテーション壊食と呼ばれる。
※8 水車を通過した水がランナ下流の吸出し管内を回転しながら流れる状態。圧力脈動や振動・騒音、エネルギー損失の増加をもたらす。
※9 水車の中で水圧と速度を利用して回転する羽根車。
※10 単位有効落差で単位出力を発生させるために必要な1分間当たりの回転速度。
近年、キラルな光である円偏光(Circularly Polarized Light:CPL)は、⾼輝度液晶ディスプレイの光源や、次世代の光情報通信、量⼦・スピンエレクトロニクスなどへの応⽤が期待されており、円偏光発光材料として機能する有機分⼦の開発が強く求められています。なかでも、芳⾹環がらせん状に連結したヘリセン分⼦※1は、円偏光発光材料として注⽬されてきました。
しかし、ヘリセンの従来の合成法では市販試薬から多⼯程を必要とする場合が多く、合成の煩雑さや低収率が、⾼次ヘリセン研究の⼤きな障壁となっていました。また、ヘリセンは⽐較的⼤きな円偏光発光異⽅性因⼦※2(glum値)を⽰す⼀⽅で、蛍光量⼦収率(ΦF)※3が低いことが多く、発光材料としての実⽤化を妨げる要因でした。
阿南⼯業⾼等専⾨学校の⼤⾕卓(おおたにたかし)准教授、上⽥康平(うえだこうへい)准教授、早稲⽥⼤学理⼯学術院の呉 ⾬宸(ごうしん)助⼿、柴⽥⾼範(しばたたかのり)教授らの研究グループは、容易に⼊⼿可能な原料から2⼯程で分⼦の⻑さが異なる⼀連のらせん状低分⼦有機化合物であるヘリセンを系統的に合成する⼿法を開発しました(図1(a))。本研究では、7環から15環までのヘリセン分⼦の合成に成功し、分⼦の⻑さに応じて円偏光発光特性が⼤きく変化することを明らかにしました(図2)。すなわち、分子の長さが11環付近までは吸収・発光スペクトルが顕著に赤色移動し、円偏光発光の偏り(glum値)も急激に増大します。一方で、それ以上分子が長くなると、これらの変化の仕方が大きく変わることが分かりました。このことから、分子の長さに応じた光学特性の変化に「臨界長」と呼ばれる転換点が存在することを見いだしました。これは、分⼦が⼗分に⻑くなることで、分⼦内部の電⼦状態が三次元的に再編成されることを⽰しています。本成果は、分⼦の⻑さを設計変数として円偏光発光特性を制御できるという、新しい分⼦設計指針を提⽰するものです。
将来的には、⾼輝度液晶ディスプレイ⽤偏光光源、三次元ディスプレイ、光情報通信、セキュリティ材料など、⾼度な光情報処理技術を⽀える機能性有機材料への展開が期待されます。
本成果は、Wiley-VCH 社が発⾏する国際的化学学術誌Angewandte Chemie International Editionに掲載され、特に重要性と独創性の⾼い論⽂として“Hot Paper”に選出されました。
キラルな光である円偏光(Circularly Polarized Light:CPL)は、⾼輝度液晶ディスプレイの光源や、次世代の光情報通信、量⼦・スピン光学技術などへの応⽤が期待されており、円偏光発光材料の開発が強く求められています。なかでも、芳⾹環がらせん状に連結したヘリセン分⼦は、不⻫※4中⼼を持たずに強いキラル光学応答を⽰すことから(図1(b))、円偏光発光材料として注⽬されてきました。
しかし、ヘリセンは環数が増えるにつれて合成が急激に困難になることが知られており、特に10環式以上の⾼次ヘリセンでは、合成⼯程数の増加、低収率、溶解性の低下などが⼤きな課題でした。そのため、これまで報告されてきた⾼次ヘリセンの多くは、個別に設計された合成法によるものであり、分⼦の⻑さだけを系統的に変えた⽐較研究はほとんど⾏われていませんでした。
また、ヘリセンは⽐較的⼤きな円偏光発光異⽅性因⼦(g値)を⽰す⼀⽅で、蛍光量⼦収率が低いことが多く、発光材料としての性能には限界があるという課題もありました。特に⾼次ヘリセンでは、分⼦サイズが大きくなるとともに⾮放射失活の増⼤し、発光効率が低下する傾向が指摘されていました。
本研究グループは、10環式以上の⾼次ヘリセンを効率よく合成でき、かつ分⼦⻑と光学特性の関係を体系的に検証できる合成基盤の確⽴を⽬指しました。そのために、含窒素芳⾹環を組み込んだ新しいヘリセン⾻格に着⽬し、簡潔で拡張性の⾼い合成戦略の開発に取り組みました。
本研究では、容易に⼊⼿可能な原料を基盤として、共通の前駆体からわずか2⼯程でヘリセン⾻格を構築する合成戦略を採⽤しました。この⼿法により、7環から15環まで、分⼦の⻑さのみが異なる⼀連のテトラアザヘリセンを系統的に合成しました。得られた化合物について、紫外可視吸収、蛍光、円⼆⾊性(CD)、円偏光発光(CPL)測定を⾏うとともに、理論計算(TD-DFT)による解析を組み合わせ、分⼦⻑と光学・キラル光学特性の相関を詳細に検討しました。さらに、1H-NMRスペクトル解析により、分⼦内部の構造変化についても検証しました。
その結果、7環から15環までのテトラアザヘリセンが、有機溶媒に対する良好な溶解性と⾼い熱安定性を有していることが明らかになりました。特に15環体は、これまでに光学分割されたヘリセンとして世界最⻑クラスに相当します。
光学特性の解析から、分⼦の⻑さが11環付近を境に、吸収・発光スペクトルはほぼ変化がなくなる⼀⽅で、円偏光発光特性が急激に増大する「臨界⻑」が存在することを⾒いだしました。最⻑の15環体では、⾼い蛍光量⼦収率と⼤きな円偏光発光異⽅性因⼦が同時に実現され、円偏光発光性能(CPL brightness)は既存のヘリセン系化合物を⼤きく上回る値を達成しました。
さらに理論計算の結果から、この特性向上は、分子が十分に長くなるにつれて、電子遷移に関与する遷移双極子モーメント(μe)と磁気遷移双極子モーメント(μm)の相対的な配向関係が次第に整い、円偏光発光に有利な条件へと最適化されていくことに起因することが分かりました(図3)。

本研究は、分子の「長さ」という非常に単純な要素が、光に対する挙動を大きく左右することを明確に示しました。これにより、これまで経験や試行錯誤に頼ることの多かった光機能性分子の設計が、確度の高い予見性をもって進められる研究へと変わる可能性を示しています。
さらに、本研究で用いた合成戦略は、容易に入手可能な原料を基盤としている点に特徴があります。このことは、特殊な試薬や複雑な前処理を必要とせずに同様の分子群を構築できることを意味しており、研究の再現性や拡張性を高めるとともに、他の研究分野への展開も容易にします。その結果、本成果は有機合成という基礎研究にとどまらず、幅広い研究者が利用可能な基盤技術としての波及効果を持つと考えられます。
このような知見と合成基盤は、光の性質を精密に制御する必要のあるディスプレイや光通信などの分野において、材料開発の効率化や高性能化につながる成果と位置づけられます。また、「構造を少し変えるだけで性質が大きく変わる」という考え方は、化学分野にとどまらず、ものづくり全般に共通する設計思想としても意義を持ちます。したがって本研究が示したアプローチは、将来的に新しい光技術や情報処理技術を支える材料開発の考え方に影響を与える可能性があり、基礎研究が社会へとつながることが期待されます。
本研究で確⽴した合成⼿法は、さらに環数の多い⾼次ヘリセンや、他のヘテロ原⼦を含むらせん状分⼦にも適⽤可能です。今後、分⼦設計の⾃由度をさらに拡張することで、円偏光発光特性に優れた新規有機材料の創製が期待されます。将来的には、⾼輝度液晶ディスプレイ⽤偏光光源、三次元ディスプレイ、光情報通信、セキュリティ材料など、⾼度な光情報処理技術を⽀える機能性有機材料への応⽤が⾒込まれます。
本研究チームでは、10環を超える高次ヘリセンが合成上の大きな壁となってきたことを踏まえ、まずは確実に合成できる基盤を築くことから研究をスタートしました。今回、その合成基盤を確立したことで、分子の長さと光学特性の関係を体系的に調べることが可能となり、新たな知見を得ることができました。本成果は、今後の分子設計や材料開発につながる第一歩であり、広い視野を持って研究を発展させていきたいと考えています。
※1 ヘリセン分子
複数の芳香環(ベンゼン環など)が、らせん状に連結した構造をもつ有機分子の総称。分子自体がねじれた形をしているため、鏡像関係にある2種類(右巻き・左巻き)が存在し、不斉(キラリティ)を示す。キラル光学特性、特に円偏光発光材料として注目されている。
※2 円偏光発光異方性因子(g値)
分子が発する光のうち、右回りと左回りの円偏光成分の偏りの大きさを表す指標。値が大きいほど、円偏光としての「偏り」が大きいことを意味する。円偏光発光材料の性能を評価する際に広く用いられる数値である。
※3 蛍光量子収率
分子が光を吸収した後、どれだけ効率よく光として放出するかを示す指標。吸収された光の数に対する、放出された蛍光の割合で表され、値が1に近いほど「よく光る」ことを意味する。
※4 不斉
物体や分子が鏡に映した像と重ね合わせることができない性質のこと。右手と左手の関係が代表例であり、この性質を持つものを「キラル」と呼ぶ。不斉な分子は、光や生体分子との相互作用において特有の性質を示す。
ヘリセン分子、円偏光発光(CPL)、キラル分子、分子設計、光機能性材料
雑誌名:Angewandte Chemie International Edition
論文名:Tetraaza[7]–[15]helicenes Synthesized by Two-Step Strategy: Length-Controlled Chiral π-Systems Exhibiting Amplified Circularly Polarized Luminescence
執筆者名:Takashi Otani1,Yuchen Wu2, Kohei Ueda1, Yuki Ikeda1, Yuna Tada1, Natsuna Kinoshita1, and Takanori Shibata2*
1:阿南⼯業⾼等専⾨学校
2:早稲田大学理工学術院
掲載日時:2026年1月9日
掲載URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41509001/
DOI:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41509001/
*:責任著者
研究費名:科学研究費 基盤研究(C) 課題番号:22K05087
研究課題名:強い円偏光を発する⾼次ヘリセンの短⼯程合成法の開発
研究代表者名(所属機関名):⼤⾕ 卓(阿南⼯業⾼等専⾨学校)
研究費名:早稲田大学特定課題研究
研究課題名::”Synthesis of High-order Polyazahelicenes via Hypervalent Iodine Reagents-Intermediated Consecutive N–H/C–H Coupling”
研究代表者名(所属機関名):呉 ⾬宸(早稲田大学)
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熱的な絶縁材料は、温度を安定に保つために重要な役割を果たし、産業設備や電子デバイスなど幅広い分野で利用されています。従来、結晶周期性を持たないガラス材料は、低い熱伝導率を示す断熱材料として知られていますが、長期使用や高温環境では構造安定性に課題がありました。一方、結晶材料は一般的に構造的に安定であるが、ガラス並みに熱を通しにくくすることは困難でした。結晶構造がありながら、超低熱伝導特性を同時に実現できれば、熱遮断結晶層として熱輸送を選択的に制御する新たな材料プラットフォームを提供できます。
早稲田大学理工学術院の賈軍軍(じゃ じゅんじゅん)教授、早稲田大学理工学術院の柳谷隆彦(やなぎたに たかひこ)教授らの研究グループは、広く産業利用されている材料であるアルミニウム窒化物(AlN)をイッテルビウム窒化物 (YbN) と合金化することにより、AlNの結晶構造を保持したまま、その熱伝導率をガラス状態に迫るレベルまで劇的に低減できることを新たに見出しました。このような超低熱伝導特性は、長期にわたり安定した温度環境が求められる多くの産業用途において極めて有用であり、電子デバイスや化学反応炉における断熱材料などへの応用が期待されます。
本研究成果は2026年1月1日に「Acta Materialia」に公開されました。
AlN をベースとする三元系窒化物合金は、高周波(RF)デバイス、パワーエレクトロニクス、ならびに耐摩耗性保護ハードコーティングといった先端技術分野において中核的な材料であり、その性能および信頼性は熱伝導率の大きさやその制御のあり方に強く依存しています。一般に高出力デバイスでは、稼働時の温度上昇を抑制するため、高い熱伝導率を有する散熱材料が求められます。一方で、温度を保持するなど特定の機能を活用する応用においては、熱輸送を抑制する断熱材が必要となります。
しかし、AlN 系合金におけるフォノン輸送機構に関する基礎的理解はいまだ十分とは言えません。これまでの多くの理論研究は半経験的モデルを持っており、高度に不規則化した窒化物合金中における複雑なフォノンダイナミクスを十分に捉えることができていませんでした。その結果、材料設計における予測精度が制限され、物性の協調最適化を伴う効果的な熱マネジメントを実現できていませんでした。
本研究では、機械学習ポテンシャルを用いた平衡分子動力学シミュレーションと、熱輸送モード分解を行うための準調和グリーン–久保(Green–Kubo)法を組み合わせた最先端の理論手法を用い、従来の古典的モデルでは説明できなかった物理機構を解明しました。
その結果、AlN に YbN を合金化した (Yb,Al)N 薄膜では、従来とは異なる“異常な”熱輸送の仕組みが働いていることがわかりました。具体的には、5 THz 以下の低周波数領域において、熱を運ぶ原子振動の伝わり方が通常の合金材料とは異なる挙動を示します。一般に、合金化を行うと、熱の伝わりは弱くなると考えられていますが、(Yb,Al)N では Yb 濃度が増加するほど、熱を運ぶ振動の速さが逆に高まるという、従来の常識に反する振る舞いが観測されました。この反常な振る舞いにより、5 THz 以下の低周波数領域では熱拡散率がほぼ一定に保たれ、古典的な点欠陥散乱モデルを超える、より複雑な格子再構成が存在することが示唆されます。
また、実験の結果、YbN との合金化により、AlN 結晶の熱伝導率は単結晶 AlN の 320 W/(m·K) から 0.98 W/(m·K) 以下へと大幅に低減することが明らかになりました。この値は、結晶性 AlN 系材料として過去最低レベルであり、ガラス材料に近い断熱性能を結晶構造のまま実現した点が大きな特徴です。一方、広く実用化されている (Sc,Al)N 合金では、最も低い場合でも熱伝導率は 3.03 W/(m·K) にとどまります。この大きな差について、YbとAlイオン半径の大きな不整合(ionic mismatch)が熱を遮る性能を最大化する重要な設計要因であると示唆しました。これらの知見は、イオンサイズや質量など化学的な不規則性を有する窒化物合金における熱輸送に対して、新たなパラダイムを確立するものであります。
本研究では、AlNに低コストなYbNを合金化することで、結晶構造を維持したまま、ガラスのような超低熱伝導率を実現することに成功しました。この成果は、セラミックス合金材料中の化学的不規則性を精密に設計することで、結晶性セラミックス合金において、従来は困難であった超低熱伝導特性を達成できる可能性を示しています。この新たな化学設計手法は、次世代圧電デバイスにおける高度な熱マネジメントのための重要な材料設計指針を与えることが期待されます。さらに、これらの結晶性窒化物セラミックス合金薄膜は、マグネトロンスパッタリングなどの既存成膜手法により、容易かつスケーラブルに作製可能です。そのため、この新たな化学設計手法および関連製造プロセスは、高エネルギー効率を実現する産業システムの基盤技術として、電子デバイスやエネルギーシステム分野において、広範で深い社会的波及効果をもたらすことが期待されます。
本研究では、広く産業利用されている材料であるアルミニウム窒化物(AlN)を YbN と合金化することで、AlNの結晶構造を保持したまま、その熱伝導率をガラス状態に迫るレベルまで劇的に低減できることが成功しました。一方、本研究は主に基礎的な物性解明に焦点を当てたものであり、実用化に向けてはいくつかの課題が残されています。例えば、Ybを含む材料系におけるコストや資源制約、ならびに既存デバイスプロセスとの整合性について、今後さらに検討が必要です。今後、今回得られた知見を基に、AlN に限らず他の窒化物材料や関連セラミックス材料への展開も視野に入れつつ、合金組成やプロセス条件の最適化を進めることで、人工的なフォノンガラス材料群の創出及び断熱結晶材料設計・開発に関する新たな指針を確立し、将来的な社会実装への展開を目指します。
熱を通しにくい材料は、エネルギーの無駄を減らすためにとても重要です。今回、材料の結晶構造を保ったまま、ガラスのように熱を通しにくい材料を実現できました。身近な電子機器から将来の省エネルギー技術まで、幅広い分野で役立つ材料につながると考えています。
※1 窒化物合金
窒素を共通アニオンとし、複数の金属元素が同一結晶格子の陽イオンサイトを占有する固溶体材料であり、結晶構造を維持したまま多様な物性制御を可能とする材料群である。
※2 フォノンエンジニアリング
物質の結晶構造、化学的不規則性、欠陥、界面設計などを通じてフォノンの分散、散乱、輸送機構を制御し、所望の熱物性を実現する手法である。
雑誌名:Acta Materialia
論文名:Tailoring thermal transport in (Sc,Yb)AlN thin films to the glassy limit
執筆者名(所属機関名):Ziyan Qiana、Guangwu Zhanga、Zhanyu Laib、Ayaka Hanaib、Yixin Xua、Guang Wanga、Yang Lua、Jiaqi Gua、Yanguang Zhoua、Takahiko Yanagitanib、Junjun Jiab,c
a:香港科技大学
b:早稲田大学 理工学術院 先進理工学研究科
c:早稲田大学 理工学術院 国際理工センター
掲載日時:2026年1月1日
掲載URL:https://doi.org/10.1016/j.actamat.2025.121767
DOI:https://doi.org/10.1016/j.actamat.2025.121767
研究費名:科学研究費 基盤研究(B)
課題番号:25K01296
研究課題名:高次モードScAlNエピブラッグ反射器を用いたマイクロセンサ
研究代表者名(所属機関名):柳谷 隆彦(早稲田大学)
血管が狭くなる病気の治療では、体内で広がる「血管ステント※1」が使われていますが、従来は高温での加熱や複雑な操作が必要で、患者や医師の負担が課題でした。
早稲田大学理工学術院の梅津 信二郎(うめず しんじろう)教授、東京大学医学部附属病院の廣瀬 佳代(ひろせ かよ)医師らの研究グループは体温と同じ37℃で自動的に広がる血管ステントを新たに開発しました。4Dプリント※2技術を用いることで、体内に入ると自然に元の形に戻り、外部から加熱する装置を必要としません。血管の形に合わせた設計も可能で、低侵襲で安全性の高い治療につながります。動物実験でも体内での機能と安全性を確認しており、次世代の個別化医療への応用が期待されます。
本研究成果は、2026年1月15日(木)に『Advanced Functional Materials』に掲載されました。
血管が狭くなる病気の治療では、世界中で血管ステントが広く使われてきました。金属製や高分子製のステントは、血管を内側から広げ、血流を回復させる役割を果たします。従来のステントは、バルーンで広げたり、高温で形を戻したりする必要があり、患者への負担が課題でした。また、高温を使う方法では、周囲の組織を傷つけるおそれがあり、医師の操作も複雑になります。
近年、形を記憶する材料や3D・4Dプリント技術が登場し、体内で形が変わる医療機器の研究が進んできました。しかし、体温と同じ温度で安全に作動し、実際に体内で使えることを示した例は限られていました。
血管が狭くなる病気の治療では、血管内にステントを入れて血流を回復させますが、従来はバルーンで広げたり、高温で形を戻したりする操作が必要でした。このため、患者や医師にとって身体的・技術的な負担が課題となっていました。
本研究では、体温と同じ37℃で自動的に広がる血管ステントの実現を目指しました。研究グループは、体内環境そのものを利用して作動する仕組みに着目し、4Dプリント技術を用いて、時間とともに形が変化する血管ステントを開発しました。

図1:血管ステントの作動イメージの概要図
図1(e)に、本研究で開発した血管ステントの作動イメージを示します。カテーテル内では細く折りたたまれた状態で血管内に挿入され、体内に到達すると、体温(37℃)によって自然に元の形に戻り、血管を内側から支えます。この仕組みにより、外部から加熱する装置を用いる必要がなくなります。
本研究の重要な点は、作動温度が体温付近になるよう精密に調整した材料設計です。材料の組成を工夫することで、高温を使わず、安全な温度条件下で確実に形が回復することを可能にしました。図1(f)は、37℃の環境下で、時間の経過とともにステントが元の形に戻っていく様子を示したものです。短時間で確実に展開することが分かります。
さらに、4Dプリント技術を用いることで、血管の太さや形状に応じた設計が可能となりました。複雑な血管にもなじみやすく、過度な圧迫や位置ずれを抑えることが期待されます。実験では、体温条件下での確実な自動展開を確認しました。また、動物を用いた試験においても、体内で安定して機能し、安全性に問題がないことを示しました。
これらの結果から、本研究で開発した血管ステントは、低侵襲で安全性の高い新しい血管治療につながる可能性を示しています。
本研究で開発した体温作動※3型の血管ステントは、治療手技の簡略化につながる可能性があります。外部から加熱する装置を必要としないため、医師の操作負担を軽減し、治療時間の短縮や医療現場の安全性向上に寄与すると考えられます。
患者にとっては、低侵襲医療※4の考え方に沿った治療が期待されます。過度な拡張操作を避けられることで、術後の痛みや合併症のリスクを抑えることにつながる可能性があります。
また、4Dプリント技術を用いることで、血管の太さや形状に合わせた設計が可能となり、個別化医療の実現に向けた基盤技術となります。これは、高齢化が進む社会において、多様な患者に対応できる医療技術として重要な意味を持ちます。
学術的には、体温という穏やかな条件で作動する材料設計と4Dプリント技術の組み合わせは、血管ステントにとどまらず、他の医療用デバイスへの応用も期待されます。体内環境を利用して機能する医療機器の研究を進めるうえで、新たな方向性を示す成果といえます。
本研究では、体温で自動的に広がる血管ステントの基盤技術を示しましたが、臨床応用に向けてはさらなる検討が必要です。現段階では、動物を用いた試験による安全性評価にとどまっており、長期間体内に留置した場合の挙動や、実際の血管環境における影響については、今後詳細な検証が求められます。
また、血管の部位や病状によって求められるステントの特性は異なるため、さまざまな条件に対応できる設計の最適化が課題となります。耐久性や分解の進み方などについても、用途に応じた調整が必要です。
今後は、より実際の治療環境に近い条件での評価を進めるとともに、医療現場のニーズを取り入れた改良を重ねていく予定です。これにより、安全性と有効性の両立を目指します。
将来的には、本研究で確立した体温作動型の設計思想と4Dプリント技術が、血管ステントに限らず、他の医療用デバイスにも応用されることが期待されます。体内環境を活用して機能する医療機器の開発が進むことで、より患者に優しい治療の選択肢が広がる可能性があります。
血管治療を、より安全で患者さんに優しいものにしたいという思いから研究を進めてきました。体温だけで自然に広がるステントは、治療の負担を減らし、医療現場の選択肢を広げる可能性があります。今後も実用化を見据え、現場に役立つ医療技術の開発を進めていきたいと考えています。
※1 血管ステント:
血管が狭くなった部分に入れ、内側から広げて血流を保つための医療用器具。心臓や脳などの血管治療で広く使われている。
※2 4Dプリント:
3Dプリントに「時間による形の変化」という要素を加えた技術。環境の変化に応じて、作製した物体が自ら形を変えることができる。
※3 体温作動(37℃):
人の体温と同じ温度条件で作動すること。本研究では、外部から加熱することなく、体内環境だけでステントが広がる仕組みを指す。
※4 低侵襲医療:
手術や治療による体への負担をできるだけ小さくする医療の考え方。痛みや回復期間の軽減が期待される。
雑誌名:Advanced Functional Materials
論文名:Adaptive 4D-Printed Vascular Stents with Low-Temperature-Activated and Intelligent Deployment
執筆者名(所属機関名):Yannan Li(早稲田大学)、Yifan Pan(早稲田大学)、Chikahiro Imashiro(東京大学)、Chaolun Xu(早稲田大学)、Jianxian He(早稲田大学)、Jingao Xu(早稲田大学)、Kewei Song(早稲田大学)、Ze Zhang(早稲田大学)、Chen Gao(東南大学)、Junbo Jiang(華南理工大学・広州第一人民医院)、Runhuai Yang(安徽医科大学)、Kayo Hirose(東京大学医学部附属病院)*、Shinjiro Umezu(早稲田大学)* *責任著者
掲載日時:2026年1月15日(木)
DOI:https://doi.org/10.1002/adfm.202521468
掲載URL:https://advanced.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/adfm.202521468
研究費名:科学研究費助成事業 挑戦的研究(萌芽)(JP24K21600)
研究課題名:リアルタイム汗測定を行うための生物模倣したマイクロ流路の開発
研究代表者名(所属機関名):梅津 信二郎(早稲田大学)
研究費名:科学研究費助成事業 基盤研究(B)(JP23K26069)
研究課題名:汗生理学構築のためのリアルタイムモニタリングシステム
研究代表者名(所属機関名):廣瀬 佳代(東京大学)
研究費名:科学研究費助成事業 基盤研究(B)(JP23K26077)
研究課題名:成熟化した人工心筋細胞組織を対象としたスマート薬効評価システム
研究代表者名(所属機関名):梅津 信二郎(早稲田大学)
約 120 億年前の初期宇宙で、想像を超える速さで成長する超巨大ブラックホール(クエーサー)が見つかりました。早稲田大学や東北大学の研究者を中心とする研究チームは、すばる望遠鏡による観測から、非常に多くのガスを飲み込みながら成長しているにもかかわらず、X線でも電波でも明るく輝く特異なクエーサーを発見しました。これまで同時には起こらないと考えられてきた現象が重なって確認されたことで、超巨大ブラックホールの成長のしくみに新たな視点をもたらす成果です。
多くの銀河の中心には、太陽の数百万倍から数百億倍もの質量を持つ超巨大ブラックホールが存在します。ブラックホールは周囲の物質を引き寄せて成長し、その過程で強い光を放ちます(図1)。ブラックホールの周りには、ガスが円盤状に回り込む構造(降着円盤)や、より内側の高温ガス領域、さらに一部の物質が高速で噴き出す「ジェット」が形成されます。そのため、可視光や紫外線、X線、電波など、さまざまな種類の光で観測されます。特に明るいものは「クエーサー」と呼ばれますが、こうした天体がどのように成長し、その母銀河の成長とどのように関連しているのかは、いまだ大きな謎です。
この謎を解く重要な手がかりの1つが「超エディントン降着」と呼ばれる状態です。ブラックホールが物質を取り込む速さ(質量降着率)には理論的な上限がありますが、いくつかの天体ではこの上限を超えた「超エディントン降着」が観測されています。これは、ブラックホールが短時間で急激に大きくなる可能性を示すもので、初期宇宙にすでに巨大なブラックホールが存在していた理由を説明する有力な手段とされています。
早稲田大学の 先進理工学研究科 修士課程の小渕紗希子(所属研究室:理工学術院 教授 井上昭雄研究室)、東北大学の市川幸平准教授を中心とする研究チームは、すばる望遠鏡の多天体近赤外撮像分光装置 MOIRCS(モアックス)を用いた分光観測により、初期宇宙にあるクエーサー周辺のガスの運動を調べ、超巨大ブラックホールの質量を高い精度で測定しました。その結果、「超エディントン降着」段階にあるクエーサーを約 120 億年前の宇宙で発見しました。X線での明るさから見積もると、このクエーサーの質量降着率は理論的な上限値の約 13 倍になります。この換算が正しければ、これまでに観測された同程度の質量を持つ超巨大ブラックホールの中では最も急速に成長している天体が発見されたことになります(図2)。

図2:今回発見された天体(eFEDS J084222.9+001000;赤い星)と過去の観測天体(紫や緑の印)のブラックホール質量(横軸)とクエーサーの光度(ブラックホールの成長率;縦軸)。実線はブラックホールの成長率(質量降着率)の理論的な限界(エディントン限界)を表し、点線はその限界値の 10 倍でガスが降着した場合を表しています。すばる望遠鏡の観測でブラックホールの質量が求められたことによって、本天体がエディントン限界を超えた「超エディントン降着」を示すことが明らかになりました。(クレジット:国立天文台)
特筆すべきは、このクエーサーがX線でも電波でも明るく輝いていることです。これまで、「超エディントン降着」の段階では、高温ガス領域が効率的に冷やされためX線が弱くなり、電波で観測されるジェットも目立たなくなると考えられていました。しかし本研究によって、超エディントン降着にありながら、X線と電波の双方で明るいクエーサーが初めて発見されました。従来は想定されていなかった特異なメカニズムが、このクエーサーに隠されている可能性があります。
研究チームは、極めて明るいX線が観測された理由として、超巨大ブラックホールの成長の勢いが変化している可能性を提唱しています。星やガスの塊との衝突などによって一時的に大量のガスが流入すると、ブラックホールは急激に成長して「超エディントン降着」に入り、その後、元の状態へ戻っていきます。その過程で超エディントン降着と明るいX線放射が同時に現れる可能性が考えられます。今回の天体でも同様の現象が起きているならば、初期宇宙で超巨大ブラックホールの成長が変動を伴いながら進行する過程を初めて捉えたことになります。
また、電波の明るさは、このクエーサーが、母銀河での星生成を抑制しうるほどの極めて激しいジェットを放出していることを示しています。「超エディントン降着」とジェット放射の関係は未解明ですが、今回の発見は、初期宇宙において母銀河と中心の超巨大ブラックホールがどのように影響し合いながら成長するのかを理解する上で、重要な手がかりになるでしょう。
論文の主著者の小渕さんは、「今回の発見は、これまで困難とされていた初期宇宙における超巨大ブラックホールの形成過程を解明することに繋がるかもしれません。今後、このクエーサーにおけるX線や電波の放射機構を探るとともに、まだ見つかっていない類似天体が存在しているのかどうかについても明らかにしていきたいです」と展望を語っています。
本研究成果は、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に 2026年1月21日付で掲載されました(Obuchi et al. “Discovery of an X-ray Luminous Radio-Loud Quasar at z = 3.4: A Possible Transitional Super-Eddington Phase“)。
すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。
本研究成果は、科学研究費補助金(課題番号:25K01043、23K13154、22H00157)、JST 創発的研究支援事業(JPMJFR2466)、稲盛財団研究助成によるサポートを受けています。
雑誌名:THE ASTROPHYSICAL JOURNAL
論文名:Discovery of an X-Ray Luminous Radio-loud Quasar at z = 3.4: A Possible Transitional Super-Eddington Phase
掲載日時:2026年1月21日
DOI:https://doi.org/10.3847/1538-4357/ae1d6d