2025年度 社会文化領域コース進入説明会(1/9オンライン実施・要事前登録)のご案内
総合機械工学科向けの社会文化領域コース進入説明会を、2025年1月9日 (木)にオンラインで開催します。
関心のある学生は、以下のポスターおよび社会文化領域ウェブサイト上の情報をよく確認し、必要な手続きをとってください。
総合機械工学科向けの社会文化領域コース進入説明会を、2025年1月9日 (木)にオンラインで開催します。
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2024 年 12 月1 日(日)、 早稲田大学グローバル科学知融合知研究所・快適 ECLSS(エクルス) 研究開発拠点が、「これからの宇宙ビジネスとイノベーション:快適 エクルス研究開発拠点が目指す産学連携」 と題する公開イベント を開催します。 プロジェクトに興味のある方、研究テーマに関して情報交換したい方、産学連携の取り組みに興味のある方は、 是非ご参加ください。
◆日時:12月1日(日)18時00分~20時30分
◆会場: 渋谷スクランブルスクエア 15 階 SHIBUYA QWS クロスパーク
◆対象者: プロジェクトに興味のある方であれば誰でも参加できます(高校生、大学生、大学院生、教職員、
教諭、研究員、社会人 他)
◆参加費: 無料
早稲田大学理工学術院の朝日透(あさひとおる)教授、同大学総合研究機構の中川鉄馬(なかがわけんた)主任研究員(研究院講師)、同大学大学院先進理工学研究科修士2年の時田桂吾(ときたけいご)、東北大学金属材料研究所の藤田全基(ふじたまさき)教授らの共同研究グループは、世界で初めて銅酸化物高温超伝導体Bi2Sr2CaCu2O8+δ(Bi2212)の紫外・可視光領域における大きな光学的異方性の起源と結晶構造の関連性を明らかにしました。
本研究成果は、国際学術出版社であるNature Research社発行による『Scientific Reports』誌に2024年11月7日(木)(現地時間)に掲載されました。

図:本研究により明らかとなったBi2212の結晶構造と光学的異方性との関連性
【論文情報】
論文名:Wavelength dependence of linear birefringence and linear dichroism of Bi2-xPbxSr2CaCu2O8+δ single crystals
DOI:10.1038/s41598-024-78208-6
キーワード:
銅酸化物高温超伝導体、光学的異方性、不整合変調、一般化高精度万能旋光計(G-HAUP)、透過測定
銅酸化物高温超伝導体Bi2Sr2CaCu2O8+δ(Bi2212)※1は、その超伝導転移温度がバーディーン・クーパー・シュリーファー(BCS)理論※2で説明される限界を超えるほど高いため、広く研究が進められて来ました。超伝導の発現に重要なクーパー対の形成に関与するメカニズムは、BCS理論における電子-フォノン相互作用では説明できず、この分野における未解明の課題の一つとなっています。銅酸化物高温超伝導体の構成要素であるCuO2層は、高温超伝導体において最も重要な役割を果たすと広く認識されており、その物理的特性は、さまざまな角度から集中的に調査されています。当研究グループの過去の研究においても、一般化高精度万能旋光計(G-HAUP)※3を使用して、紫外・可視光領域におけるBi2212のc軸に沿った光学的異方性※4の波長依存性を測定したところ、a軸およびb軸の格子定数はほぼ同じであるにも関わらず、大きな光学的異方性のピークが観察されることが明らかになっていました。
Bi2212は、b軸方向に不整合変調※5を示すことが知られています。この変調の周期性は基本構造の周期性とは一致しません。本研究では大きな光学的異方性のピークの起源がこの不整合変調にある可能性があると考え、フローティングゾーン法※6という単結晶育成法を用いて、不整合変調を抑制したさまざまなPb含有量(x = 0、0.4、および0.6)のBi2-xPbxSr2CaCu2O8+δ単結晶を育成しました。育成したBi2-xPbxSr2CaCu2O8+δ単結晶の光学的異方性のパラメータである直線複屈折及び直線二色性の波長依存性をG-HAUPを用いて測定し、不整合変調と光学的異方性の関連性を検証しました。初めに、異なるPb含有量xを示すBi2-xPbxSr2CaCu2O8+δ単結晶(x = 0、0.4、および0.6)について、走査型透過電子顕微鏡で観察した結果、x = 0では変調周期が結晶のb軸方向の格子定数の4.8倍、x = 0.4では12.7倍、x = 0.6ではほぼ無限大となり、Pb含有量の増加とともに不整合変調が消失することが確認されました。この結果は過去文献と一致しており、電子回折測定においても、不整合変調に由来する衛星反射がPb含有量の増加とともに消失することが確認されました。また、紫外・可視光領域における透過吸収スペクトルは、全てのPb含有量の試料で類似したパターンを示し、この領域では、鉛の含有量によってエネルギーギャップに大きな変化がないことが明らかになりました。一方、光学的異方性のパラメータである直線複屈折および直線二色性の大きさは、Pb含有量によって変化することが確認され、不整合変調の抑制に伴い光学的異方性も抑制されることが明らかとなりました。
本研究の注目すべき点は、Bi2-xPbxSr2CaCu2O8+δ単結晶の劈開性を活かし、作製した超薄片単結晶試料に紫外・可視光を透過させることで、透過測定によってこの大きな光学的異方性の起源を解明したことです。紫外・可視光をプローブとして用いた透過測定のアプローチは我々の研究グループ独自のものであり、これにより銅酸化物高温超伝導体の光物性とエネルギーギャップを含む電子バンド構造、とくに「外殻電子の遷移」に関する知見を得ることができました。さらに、Bi2212結晶におけるBiのPb置換は、不整合変調の抑制と同時に、直線複屈折や直線二色性といった光学的異方性を大幅に低減させることが明らかとなりました。この光学的異方性の低減は、将来の実験において光学活性や円二色性の測定精度を向上させる上で重要な成果です。これにより、高温超伝導のメカニズム解明において重要な課題である擬ギャップ相※7および超伝導相における対称性の破れの有無を検討することが可能となり、さらなる高温超伝導体の開発につながることが期待されます。
「常温超伝導」の実現は長年の人類の夢であり、そのためには高温超伝導体における電子対形成や超伝導メカニズムの解明が必要です。常温超伝導が実現すれば、超低損失送電やリニア、医療用MRI、量子コンピュータなど、さまざまな分野で社会的・経済的な恩恵が期待されます。本研究により得られた知見を元に高温超伝導体のメカニズムに関する理解が深まることで、常温超伝導の実現に一歩近づき、これらの技術革新に大きく貢献する可能性があります。
※1 銅酸化物高温超伝導体
CuO2層を含む構造を持ち、従来の金属超伝導体よりも高温で電気抵抗がゼロになる特性を持つ材料。その超伝導メカニズムは従来のBCS理論では説明できず、世界中で精力的に研究が続けられている。
※2 バーディーン・クーパー・シュリーファー(BCS)理論
金属の超伝導メカニズムを説明するために考案された理論。通常、金属中では電子が自由に動き、電気抵抗が生じますが、超伝導状態では電子が特定の相互作用(フォノンを介した引力)で対(クーパー対)を形成し、抵抗ゼロで電流を流せるようになります。発明者のバーディーン・クーパー・シュリーファーは、この業績により1972年のノーベル物理学賞を受賞しました。
※3 一般化高精度万能旋光計(G-HAUP)
固体状態の光学的異方性とキラル光学的性質を測定可能な独自の分光装置。結晶や配向性薄膜といった固体状態では、固体状態特有の異方性により、そのキラル光学的性質の測定が、上述のような汎用的な分光装置ではできない。
※4 光学的異方性
材料の方向に対して異なる屈折率や吸収を示す現象。本研究では、2つの直交する直線偏光に対する屈折率・吸収の差である直線複屈折・直線二色性を測定した。
※5 不整合変調
結晶構造内で基本的な周期性に一致しない周期的な構造変化。材料の物理化学的性質や電子状態に影響を与え、超伝導体や強誘電体などで特に注目されている。
※6 フローティングゾーン法
固体原料の一部を局所的に溶融させ、結晶を成長させる単結晶育成技術。るつぼを使用しないため、不純物の混入が少なく、高品質な結晶を育成するのに適している。
※7 擬ギャップ相
銅酸化物高温超伝導体で観測される現象で、超伝導転移温度より高温でエネルギーギャップが部分的に開く。この相の起源の解明が、超伝導のメカニズム解明に重要な役割を果たすだろうと考えられている。
雑誌名:Scientific Reports
論文名:Wavelength dependence of linear birefringence and linear dichroism of Bi2-xPbxSr2CaCu2O8+δ single crystals
執筆者名(所属機関名):時田桂吾※(早稲田大学), 中川鉄馬※*(早稲田大学), チョウコン(早稲田大学), 岡野洸明(早稲田大学), 松本匡貴(上海交通大学), 中西卓也(早稲田大学), 藤田全基(東北大学), 朝日透*(早稲田大学) ※共同筆頭著者 *共同責任著者
掲載日時(現地時間):2024年11月7日(木)
掲載URL: https://doi.org/10.1038/s41598-024-78208-6
研究費名:みずほ学術振興財団 (旧河上記念財団) 第59回工学研究助成
研究課題名:銅酸化物高温超伝導体Bi2Sr2CaCu2O8+xにおける空間・時間反転対称性の破れの検証
研究代表者名(所属機関名):中川鉄馬(早稲田大学)
研究費名:東北大学金属材料研究所 2023年度・2024年度国際共同利用・共同研究拠点課題
研究課題名:銅酸化物高温超伝導体Bi2.2-xPbxSr1.8CaCu2O8+δの結晶成長と光学的性質測定
研究代表者名(所属機関名):中川鉄馬(早稲田大学)

2024年度の「教えて! わせだ論客」のテーマは「健康とは何か?」。複数の専門家の視点から、健康について考えます。今回のゲストは、ヘルスケアデバイスなどのセンサーやシステムの技術開発に取り組む梅津信二郎教授(理工学術院 創造理工学部総合機械工学科)です。
そんな梅津先生が、これまでタッグを組んできた共同研究者がいます。昆虫とコンピュータを融合した世界初の「サイボーグ昆虫」の開発者として知られる、南洋理工大学(シンガポール)の佐藤裕崇教授です。今回は佐藤先生にも同席いただき、ヘルスケア分野の技術開発と今後の展望について伺いました。
医療・ヘルスケア分野で、梅津先生はどのように機械工学を活用されているのでしょうか?注目の最新技術を教えてください!
疾患の早期発見や予防を目指して開発を進めているのが、高精度の超小型センサーによるバイタルデータの解析です。昨今は、これまで未活用だった汗や、いまだ十分に解明されていない脳波といったデータも注目を集めています。デバイスを超小型化する技術は、健康管理ができるウェアラブルデバイス、さらには災害現場での実用化が期待される「サイボーグ昆虫」にも活用されています。
INDEX
▼汗からの健康診断も可能に? 「マイクロセンサー」による高精度なバイタルデータ解析
▼人々の健康と命を守るマイクロマシン技術
▼専門領域の掛け合わせや研究者との出会いで広がる研究開発の可能性
梅津:私は医療・ヘルスケアの測定機器およびその解析システムの研究開発を行っています。より高精度かつ超小型化センサーの開発、そしてAI解析機能の向上という二つの面からのアプローチを同時に行い、双方に生かしていることが強みで、より高精度な判定を目指しています。解析の対象となるバイタルデータは、血管の硬さや詰まりを測定できる脈波や、心電図、脳波などさまざまです。

梅津信二郎教授(理工学術院)
例えば過去には、心原性脳梗塞(※1)の予兆とされている心房細動(不整脈の一種)などを早期発見するシステム開発に取り組みました。心房細動は定常的に起こるものではないため、定期検診でも見逃されやすく、発見が難しいのが現状です。そこで、私たちの研究チームは超小型センサーを用いてバイタルデータを取得し、その事前兆候を判定できるAIシステムを構築しました。この超小型センサーは、ウェアラブルデバイスとして手軽に身に着けられ、日常生活を送りながら測定ができます。さらに、脈波以外にも心電図など複数のバイタルデータを同時に測定することが可能で、このような統合的なデータ解析によって、より高精度な解析を実現しました。
(※1)心臓内でできた血栓が脳の血管を閉塞(へいそく)して起こる脳梗塞のことで、重篤性が高い疾患。

統合的なデータ解析のイメージ
梅津:汗を解析対象とするセンサーの開発に注力しています。これまで、汗はバイタルデータとして全く利用されてきませんでした。というのも、汗は皮膚の上にとどまったり流れ落ちたりする性質から、リアルタイムで解析対象として扱うことが困難だったのです。まだ学会発表前の研究のため詳しくはお伝えできませんが、微少量の汗を解析する新たな測定技術によって統合的なデータを取得し、さまざまな疾患との関連性を見いだせるのではと期待しています。
梅津: 私と佐藤先生は、ヘルスケア分野でも活用されているMEMS(マイクロマシン)(※2)の研究者でもあります。私たちは早稲田大学の理工学部出身で、博士課程の時に出会いました。私が当時注力していたMEMSの基礎研究に、佐藤先生が興味を持ってくださったのがきっかけです。その時佐藤先生は、MEMSでもよく用いられる無電解めっきの研究をしていらっしゃいました。この共通点が、光造形3Dプリンター装置とめっきを組み合わせる共同開発につながりました。
(※2)Micro Electro Mechanical Systemsの略称で、微小な電気機械システムの意味。

梅津先生と佐藤先生が共同開発した光造形3Dプリンターで作製した、複雑な形状の金属・樹脂の精密3次元構造体
佐藤:一般に3Dプリンターで扱う材料はプラスチックもしくは金属のどちらか一方のため、プラスチックで作製した構造に金属製の回路やアンテナを形成することは難しく、電子機能に限界がありました。梅津先生と共同開発した無電解めっきを使った3Dプリンターでは、プラスチックと金属の複合部品の作製が可能になり、この限界を克服しました。

佐藤裕崇教授(南洋理工大学)
梅津:健康状態を正しく解析する上で、計測機器のセンサーを最小化する技術は非常に重要です。例えば皮膚の上から脈波を計測する際、皮膚とデバイスの間にわずかなすき間やズレが生じるとエラーや不正確な数値が出てしまいます。従ってセンサー部分を小型にすればするほどフィット感が高まり、エラーなどを減らすことができるんです。現在、あらゆるバイタルデータの計測において、マイクロレベルで繊細な動きを捉えられるような技術開発が求められています。
佐藤:MEMSの技術は健康・医療領域はもちろん、私が注力している「サイボーグ昆虫」の研究開発でも大いに役立っています。サイボーグ昆虫とは、本物の昆虫の背中部分に電子基板を装着し、刺激信号によりその行動をリモート操作する技術です。人間や救助犬が入れないごく狭い場所に潜り込み、搭載された超小型の人体検知センサーでがれき内の人体の位置を特定します。移動そのものに電気エネルギーを消費しないので、電池のエネルギーのほとんどを無線通信やセンサーの駆動に充てられるメリットがあり、災害現場での小型探索機としての実用化を目指しています。本来なら健康で寿命を全うできたはずの人が、災害によって健康を損ねる、ないし命を落としてしまうリスクをなくします。

開発中のサイボーグ昆虫。南海トラフ地震や首都直下型地震の懸念が高まる今、一刻も早い実用化が求められる
梅津:汗と同じく、脳波にも注目しています。脳波はさまざまな研究者が研究対象にしている一方で、いまだに不明瞭なことが圧倒的に多い領域です。喜怒哀楽といった感情ごとの脳波さえ、本当に正しく判別できるかが問われているような段階なのです。もし今後測定技術の向上に成功すれば、現在の脳の状況が分かり、例えばいつどのような介入をすれば集中を持続できるのかといったことを明らかにできる可能性があります。
佐藤:サイボーグ昆虫の開発技術を人の健康に応用することもできます。サイボーグ昆虫の中心技術は、電気信号を発することができる小型の電子デバイスです。これを、脊髄損傷などによって手足が不随になってしまった患者のサポートに応用するというものです。手足が不随になっても、脳からは依然として神経信号が発信されています。この信号をブレインマシーンインターフェース(BMI)(※3)で読み取り、小型の電子デバイスで手足の筋肉を刺激することで、不随となった手足を動かすことも可能になります。
しかし、医学の専門家ではない私が、単独で技術を医療分野に応用するのは現実的ではありません。倫理的な観点からも、医療分野のエキスパートを巻き込んだ医工連携のさらなる加速が不可欠です。この領域でも医工連携を実現できれば、事故などに遭った方のクオリティーオブライフ(QOL)を向上できます。
(※3)脳と機械を接続する技術や機器のこと。脳派や神経信号を読み取ってコンピューターを操作することができる。

梅津:一言で言えば、「健康寿命の延伸」がテーマです。ただ長生きできればいいというわけではなく、高齢者が健康な状態をキープしながら、生き生きと暮らせる社会を目指したいですね。
また佐藤先生のサイボーグ昆虫も、災害時のような非常事態における健康寿命の延伸に欠かせない役割を果たすものです。今後も広い視野を持って、医療・健康領域のデバイス開発やAIの利活用を推進していくつもりです。
佐藤:サイボーグ昆虫を一刻も早く災害現場で実用化します。人の命を救うには、災害が起きてから対策を考えるのでは遅すぎます。また、自分一人の力で研究開発は成り立ちません。多くの支援者や公的機関、民間企業、財団法人に研究を手助けいただいていますので、その支援に報いるためにも実用化を早くに進めます。
梅津:早稲田大学には、いろいろな研究者と出会えるチャンスがあります。私自身、佐藤先生と出会えたのは在学時のこと。「この分野ならこの人に尋ねてみよう」「この人との共同研究で新しい発見があるかもしれない」と、ぜひ周りの研究者にも目を向けてみてください。自身の研究をさらに磨き、共同研究者になりえるような実績を積み上げておくことも重要です。早稲田ならではの環境を生かして、研究開発の可能性を広げてもらえたらうれしいです。
佐藤:私はこれまで電気化学、電子工学、機械工学と複数の分野を横断して研究に取り組んできました。これら一つ一つの分野では恩師や先輩方にかないません。一方で、これらを学んだからこそ、サイボーグ昆虫を生み出すことができました。ある一つの専門分野にとらわれず、さまざまなことを学び、経験して、それらを組み合わせて新しいフィールドを自分で作り、挑戦するという生き方も面白いですよ。多種多様な学部・学科と人がいる早稲田大学はそれができる素晴らしい場所です。

梅津先生の研究室がある喜久井町キャンパスにて
理工学術院教授。博士(工学)。専門は機械力学、メカトロニクス/ロボティクス、知能機械システム。独立行政法人理化学研究所基幹研究所基礎科学特別研究員、東海大学工学部機械工学科助教、講師を経て、2014年に早稲田大学創造理工学部総合機械工学科に着任、2019年より現職。
南洋理工大学(シンガポール)機械航空学科教授。博士(工学)。専門は金属めっき、電気化学、電子工学、機械工学、ナノ・マイクロシステム。ミシガン大学博士研究員、カリフォルニア大学バークレー校博士研究員を経て現職。
取材・文:市川 茜(2017年文化構想学部卒)
撮影:橋本 千尋
画像デザイン:内田 涼
カーボンニュートラル実現に向けた取り組みが世界的に盛んに行われています。本セミナーでは、カーボンニュートラルに関する我が国の政策をはじめ、セラミックス関連分野における最先端の材料・技術開発と今後の展望について講師の先生方をお招きして講演いただきます。
2024年12月13日(金)13:00〜16:50
早稲田大学西早稲田キャンパス 63号館2F 04〜05会議室
アクセス – 早稲田大学 理工学術院
| 時間 | 講座題目等 | 講師等 |
|---|---|---|
| 13:00-13:05 | 所長挨拶 | 早稲田大学理工学術院 教授 各務記念材料技術研究所 所長 菅原 義之 |
| 13:05-13:10 | 開会挨拶 | 早稲田大学理工学術院 教授 オープンセミナー実行委員会 委員長 下嶋 敦 |
| 13:10-13:50 | カーボンニュートラルに向けた化学と材料の今後 | 早稲田大学 理工学術院 教授 関根 泰 先生 |
| 13:50-14:30 | TOTOグループのカーボンニュートラルに向けた取り組み | TOTO株式会社 成田 純也 氏 |
| 14:30-14:45 | 休憩 | |
| 14:45-15:25 | 低炭素、脱炭素に向けたセメント系材料の研究開発の現状と展開 | 島根大学 総合理工学部 物質化学科 新 大軌 先生 |
| 15:25-16:05 | セラミックス常温衝撃固化現象の発見とエアロゾルデポジション(AD)法の将来展望 | 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 明渡 純 先生 |
| 16:05-16:45 | 自己治癒技術で拓くセラミックスのリマニュファクチャリング・リファービッシュ | 横浜国立大学 大学院工学研究院 中尾 航 先生 |
| 16:45-16:50 | 閉会挨拶 | 早稲田大学理工学術院 教授 オープンセミナー実行委員会 副委員長 鈴木 進補 |
本学学生、教職員、一般(学外の方のご参加も歓迎いたします。) / 参加費:無料
以下よりお申込みをお願いします。皆様のご参加をお待ちしております。
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2024年12月10日23:59
早稲田大学各務記念材料技術研究所 オープンセミナー係(担当: 小粥・若山・山本)
〒169-0051 東京都新宿区西早稲田2-8-26
TEL 03-3203-4782 FAX 03-5286-3771
E-mail: zaikenjimu@list.waseda.jp
早稲田大学理工学術院の岩﨑 清隆(いわさき きよたか)教授、東京女子医科大学の岡崎 賢(おかざき けん)教授、伊藤 匡史(いとう まさふみ)講師、CoreTissue BioEngineering株式会社らの研究グループは、脱細胞化技術※1を用いた膝前十字靭帯再建用の組織再生型靭帯について、治験を開始します。

図:前十字靭帯の位置(左)と組織再生型靭帯のイメージ(右)
膝前十字靭帯再建術を受ける患者は、日本で年間約1万9千人、世界では年間80万人以上いると推定されています。膝前十字靭帯再建術においては、患者自身の健康なハムストリング腱(太ももの裏側にある腱)や膝蓋腱等を採取し、それを加工して靭帯を再建する、体に負荷のかかる治療が世界的な標準治療となっています。
本研究グループでは、生体組織を材料として、独自の脱細胞化処理と凍結乾燥・滅菌処理を用い、膝前十字靭帯再建後に患者自身の細胞が浸潤し、最終的に靭帯が再生する医療機器を開発しています。本開発品の中核となる技術は、「厚い生体組織からでも細胞成分を効率よく除去できる脱細胞化技術」と「組織の力学強度を維持する凍結乾燥・滅菌技術」であり、これらの技術により、課題であった「耐久性」と「生体親和性」が同時に図られ、化学合成品等では不可能であった靭帯再建用医療機器の実用化が可能となります。
このたび、独立行政法人医薬品医療機器総合機構に提出していた治験届が受理され、10月11日には東京女子医科大学の倫理委員会にて治験実施が了承されました。これを受け11月より治験の1例目を実施することとなりました。
膝関節にある前十字靭帯は大腿骨と脛骨をつなぐ重要な組織であり、損傷が生じた場合再建手術を行います。再建手術を受ける患者は、日本で年間約1万9千件に上りますが、治療後の再度の損傷リスクも高いことが課題です。
膝前十字靭帯の再建手術では、グラフトと呼ばれる靭帯の代替組織を骨に開けられた穴に固定します。グラフトの材料は、主に患者のハムストリング腱や骨を一部つけた状態での膝蓋腱です。術後に再発しないためには、太い腱が必要で、世界的な水準は径8mm以上とされています。しかしハムストリング腱のサイズには個人差もあり、実際には8mmに満たないことが多く、加えて、ハムストリング腱の採取に伴って、神経麻痺や筋力低下が発生することもあります。膝蓋腱では、術後に膝前部の痛みが長引き、膝伸展機能が低下することもあります。また、複数の靭帯を損傷した場合には、採取する腱自体が不足してしまいます。
本研究グループでは、こうした課題に対し、患者の組織ではなくウシ腱の組織構造を利用した再建組織を作り出す技術を開発しました。
哺乳類はコラーゲンなどの構造が共通であり、ウシの腱には太さがあるため、膝前十字靭帯再建用の組織として適しています。しかし、そのまま移植すると炎症などの免疫反応を起こしてしまうため、新たに脱細胞化技術を開発し、組織の中にある免疫源となる細胞成分だけを、組織を破壊することなく除去することに成功しました。また、細胞を取り除いて凍結乾燥した組織を滅菌後にも、独自技術により滅菌後に水分のある組織に戻すことに成功しました。
ヒツジに対して、脱細胞化した腱とヒツジ自身の腱を用いて膝前十字靭帯の再建手術を実施したところ、再建組織(靭帯)と骨がしっかりと固着するとともに、術後3カ月後と1年後を比較すると1年後にコラーゲンの密度が上昇していることも分かりました。つまり、再建組織にヒツジ自身の細胞が入り込み、自らの細胞が自己組織を再生しだして機能しているということであり、人工材料では実現できない優れた生体適合性が明らかとなりました。
前十字靭帯損傷を損傷して手術を必要とする患者は、全世界で年間約80万人いるとされています。また本技術は、肩や肘、足首の腱の損傷にも応用できることが期待され、スポーツ医療の世界で革新を起こせると考えています。
膝前十字靭帯損傷の治療では、患者さんご自身から腱を採取して再建に用いる治療しか選択肢がありません。再度の断裂のリスクを低減するためには、太い再建組織が必要とされていますが、十分な太さの腱が採取できないことも少なからずあり、ご自身の腱を採ることによる筋力低下や神経障害、痛みの継続や膝伸展機能が低下することもあります。再度断裂することも10%程度で起こります。また、再々断裂や事故等で前十字靭帯と後十字靭帯を同時に損傷・断裂した場合には、望ましい状態に治療できないことも多いです。
開発した組織再生型靭帯は、体内で患者さんご自身の細胞が入り、組織が作られてご自身の組織に置き換わり、文字通り“靭帯化”そして“人体化”するこれまでの医療機器にはない価値を届けるものです。ご自身の腱を採る必要が無くなり、採ることにより発生する障害が無くなります。再建治療を必要とするすべての患者さんに、ご自身の組織に置き換わる再生型靭帯を提供することが可能となります。肩や肘、足首の腱や靭帯の損傷にも応用できるように、開発した技術を用いてさらなる組織再生型治療機器の研究開発を続けています。アスリートを含むスポーツをする方々にとって、ご自身の組織を採ることによる負担がなく膝が安定して機能し、何度でも復帰できることは、かけがえのない価値につながるはずです。この技術によって、少しでも多くの方々の心配が無くなり、豊かな人生を送る手助けとなれば、これほど嬉しいことはありません。

東京女子医科大学、CoreTissue BioEngineering株式会社との共同記者会見で説明する岩﨑教授
※1 脱細胞化技術
動物組織から免疫反応を引き起こす可能性のある細胞成分を除去し、体内に移植するとそれを足場として自己の組織を再生させる技術1),2)。
1) 岩﨑清隆, 脱細胞化組織による生体内自己組織構築, バイオマテリアル, 42(4), 202
2) Itoh M, Imasu H, Takano K, Umezu M, Okazaki K, Iwasaki K, Time-series biological responses toward decellularized bovine tendon graft and autograft for 52 consecutive weeks after rat anterior cruciate ligament reconstruction, Scientific Reports 12:6451, doi:10.1038/s41598-022-10713-y, 2022
山梨大学クリーンエネルギー研究センター・早稲田大学理工学術院の宮武 健治(みやたけ けんじ)教授らの研究グループは、電気エネルギーを用いて水素と酸素を得る水電解デバイスの性能を大幅に向上させる新たなアニオン膜※1、Quaternized Terphenylene Alkyl Fluorene(QTAF)の開発に成功しました。このQTAF膜はポリフェニレン型高分子※2の構造や置換基、共重合組成を新たに設計することにより実現され、常温から80℃の温度範囲で高い水酸化物イオン導電率(>100mS/cm)を示すとともに、膜厚50μm以下の薄膜にしても強靭な強度と気体バリア性を併せ持っています。その結果、高濃度のアルカリ水溶液(8M KOH水溶液)に長時間浸漬しても性能劣化や分解が起こりにくい特徴を有し、アルカリ水電解セル※3の電解質として求められる多くの性能を満たしています。
本研究で開発したQTAF膜を電解質として用い、遷移金属合金(NiCoO)からなる酸素発生電極触媒と組み合わせることで、高電流密度(2.0A/cm2)でも低いセル電圧(1.72V)で運転可能な高性能な水電解セルを開発することができました。1000時間作動しても性能がほとんど低下しない耐久性も確認されました。水素発生電極触媒の非貴金属化や更なる高電流密度化、電解条件の簡素化、スケールアップ、など解決すべき課題は残されていますが、低炭素社会に貢献するエネルギーデバイスの可能性を示すことができた成果であります。

図1:本研究で開発したアニオン膜QTAFの構造と写真。ベンゼン環を主骨格とする構造に少量のフッ素系置換基を組み合わせた構造が、イオン導電率と安定性の両立を可能にする。
本研究成果は、2024年9月29日(日)にドイツ化学会が発行するハイインパクトな学術雑誌『Advanced Energy Materials』のオンライン版で公開されました。
【論文情報】
雑誌名:Advanced Energy Materials
論文名:Polyphenylene-Based Anion Exchange Membranes with Robust Hydrophobic Components Designed for High-Performance and Durable Anion Exchange Membrane Water Electrolyzers Using Non-PGM Anode Catalysts
DOI:10.1002/aenm.202404089
アニオン導電性高分子電解質膜(通称、アニオン膜)を用いるアニオン膜型水電解は、アルカリ水溶液を用いるアルカリ水電解の利点(貴金属触媒が不要で大規模化が容易)とプロトン膜型水電解の利点(高電流密度が可能で変動に対する応答性が高い、高純度の水素が得られる)を併せ持ち、非貴金属系の電極触媒やセパレータを用いることにより、プロトン膜型水電解に比べて高効率化と低コスト化のいずれもが優位となる可能性を持っている。しかし、現在のところ耐久性に優れるアニオン膜およびそれと組み合わせて高性能を発揮できる非貴金属電極触媒が開発途上段階であり、技術成熟度レベル(TRL)は3~4程度にとどまっている。日本は2030年ころの水素コスト目標値として30円/Nm3を掲げておりますが、この目標を達成するための水電解技術としてアニオン膜型水電解のTRL向上が強く望まれています。
世界中で数多くのアニオン膜に関する研究がありますが、水酸化物イオン導電率と安定性はトレードオフ関係を示すことが知られており、共に改善するための分子設計指針は明確ではありませんでした。
化学的に安定性が高いポリフェニレン型高分子を主骨格に選択し、高導電性を発現するための構造として側鎖アンモニウム基、機械強度と伸びを大きくする効果がある部分フッ素基を組み合わせる構造に着目しました。その結果、イオン交換容量(IEC)※4を3程度にまで大きくしても製膜性に優れるアニオン膜(QTAF膜)を作製することができました。得られたQTAF膜は従来までのトレードオフ関係を打破する優れた性能を示すことが明らかになりました。QTAF膜の各種物性を詳細に明らかにするとともに、水電解セルとしての性能実証にも繋げました。
ポリフェニレンの構成成分を疎水部と親水部とに分け、疎水部の構造にベンゼン環が3つ連結したターフェニル構造とし分子の剛直性を増加させました。また、真ん中のベンゼン環に2つのトリフルオロメチル基を置換することにより、重合反応性の向上(生成する高分子の分子量の増大)と有機溶媒性への溶解性も付与する設計にしました。これにより、分子量(重量平均分子量)が750,000を超える巨大分子を得ることができ、薄膜化しても優れた靭性と柔軟性を併せ持つとともに、水中での水酸化物イオン導電率として非常に高い値(173mS/cm)を達成できました。また、従来までの常識とは異なり、疎水部の構造が親水部(アンモニウム基)の化学安定性にも効果があることが新たに分かり、800時間を超える加速アルカリ耐久性試験にも耐えうることを実証しました。
本研究により開発したQTAF膜は遷移金属系の酸素発生電極触媒と組み合わせて水電解セルとして応用可能で、その性能は電流密度1.0A/cm2ではセル電圧1.62V、2.0A/cm2でもセル電圧1.72Vと優れています。長時間運転を模擬した耐久性試験でも、セル電圧の変化率はわずか1.1 µV/h(100~1000時間)でした。

図2:(a) 開発したQTAF膜の水酸化イオン導電率とIECの関係。QTAF膜を用いた水電解セルの(b)電解性能と(c)耐久性。
水電解は用いる電解質材料により幾つかの種類に分類され、アルカリ水電解やプロトン膜型水電解は開発が先行しており、すでに実用化も進められています。しかし変動が大きい再エネ由来の電源と組み合わせても優れた性能を示し、また貴金属触媒が不要なアニオン膜型水電解は、グリーン水素製造とそれを用いた低炭素社会実現のために欠かせない技術です。特に資源に乏しい日本では、貴金属を用いないエネルギーデバイスは死活的に重要です。本研究で開発したアニオン膜を用いれば、現状のプロトン膜型水電解と同等性能をより低価格で達成できる可能性があります。今後、触媒材料の高性能化・最適化や耐久性などを改善するとともに、セルの大型化、スタック化(セルを直列に繋ぐこと)を企業との共同研究で推進し、早期に実用化することを目指します。
本研究のQTAF膜には、性能向上のために部分的なフッ素構造(トリフルオロメチル基など)が含まれています。そのため、現在規制の準備が国際的に進められているパーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(いわゆるPFAS)の対象になる可能性があります。そのため、部分的なフッ素構造を含まない化合物で、本研究で達成できた高性能と高安定性を併せ持つアニオン膜の開発を進めています。また、今回の水電解セルでは水素発生電極触媒としては貴金属(多孔性のカーボン担体に担持したPtナノ粒子)を用いています。両極ともに貴金属を用いないアニオン膜型水電解セルの検討も行っています。
アニオン膜型水電解は高効率に低コストで高純度なグリーン水素を提供できる技術として期待されていますが、まだ構成材料の候補が定まっていない段階で世界中で開発競争が盛んに行われています。数年前からドイツのEnaptor社がアニオン膜型水電解水素製造装置の販売を始めていますが、まだ市場は大きくありません。
今後、我々のQTAF膜の改良を更に進めるとともに、酸素発生だけでなく水素発生電極触媒も低コストな非貴金属系化合物で置き換えることを計画しており、アニオン膜型水電解の利点をフルに発現できるデバイスとして仕上げていきたいと考えています。
※1 アニオン膜
負電荷を持つイオン(アニオン)が伝導する膜材料の総称。高分子アニオン膜では、一般的に四級アンモニウムなどのカチオン基が高分子に固定されており、対イオンであるアニオンが移動することができる。本研究で開発したアニオン膜では、水酸化物イオンが伝導する。
※2 ポリフェニレン型高分子
ベンゼン環が連続して結合して高分子の主鎖構造を形成した化合物の総称。結合位置や置換基の有無などによって数多くの構造があり得る。本研究でアニオン膜の構造として用いた高分子主鎖にはフルオレン構造が含まれているが、これも広義のポリフェニレン型高分子に分類できる。
※3 水電解セル
水を電気分解して水素と酸素を作る装置。高濃度アルカリ水溶液、プロトン導電性高分子膜、固体酸化物など電解質材料によって分類される。
※4 イオン交換容量(IEC)
イオン交換樹脂の単位重量当たりの交換可能なイオン量のこと。本研究のアニオン膜の場合、膜1gあたりのアンモニウム基のモル数を表す。一般的にこの値が大きいとイオン導電率が高くなる。
雑誌名:Advanced Energy Materials
論文名:Polyphenylene-Based Anion Exchange Membranes with Robust Hydrophobic Components Designed for High-Performance and Durable Anion Exchange Membrane Water Electrolyzers Using Non-PGM Anode Catalysts
執筆者名(所属機関名):Fanghua Liu*、Kenji Miyatake (宮武 健治)*、**、Ahmed Mohamed Ahmed Mahmoud*、Vikrant Yadav*、Fang Xian*、Lin Gio*、Chun Yik Wong*、Toshio Iwataki (岩瀧 敏男)*、Yuto Shirase (白勢 裕登)*、Katsuyoshi Kakinuma (柿沼 克良)*、Makoto Uchida (内田 誠)*
*山梨大学 大学院
**早稲田大学 先進理工学部 応用化学科
掲載日時(ドイツ時間):2024年9月29日(日)
掲載日時(日本時間):2024年9月29日(日)
掲載URL:https://doi.org/10.1002/aenm.202404089
DOI:10.1002/aenm.202404089
研究費名:JST 革新的GX技術創出事業
研究課題名:グリーン水素製造用革新的水電解システムの開発
研究分担者名(所属機関名):宮武 健治(山梨大学)
研究費名:文部科学省 データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト
研究課題名:再生可能エネルギー最大導入に向けた電気化学材料研究拠点(DX-GEM)
研究分担者名(所属機関名):宮武 健治(山梨大学)
研究費名:NEDO 燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業
研究課題名:アニオン膜型アルカリ水電解セルの要素研究と実用化技術の確立
研究代表者名(所属機関名):宮武 健治(山梨大学)
日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)と学校法人早稲田大学(本部:東京都新宿区 理事長:田中愛治 以下、「早稲田大学」)は、情報漏洩やサービス停止の原因となり得るインジェクション攻撃による被害を防ぐための、ソフトウェアを構成するプログラム中の文字列関数を用いた文字列操作の誤り(バグ)を修正する技術を世界で初めて実現しました。
ソフトウェアの脆弱性を悪用した最も大きな脅威の1つであるインジェクション攻撃は、プログラム中の文字列操作の誤りが主要な原因であることが知られています。本技術により、専門知識を持たないソフトウェア開発者でも容易に文字列操作の誤りを開発段階で修正することが可能となります。サービスの運用段階におけるソフトウェアの誤りの修正には多大なコストがかかりますが、開発段階で誤りが修正できるため、コストの軽減と安全なサービスの実現が期待できます。
本技術の詳細は、米国カリフォルニア州サクラメントにて開催されるソフトウェア工学分野の最難関国際会議IEEE/ACM ASE 2024(※1)にて2024年10月30日(米国時間)に発表します。
ソフトウェアの脆弱性を悪用した攻撃は現代社会における重大な脅威です。最も大きな脅威の1つにインジェクション攻撃があります。インジェクション攻撃は、サーバなどへの攻撃手法のひとつで、サーバで利用しているデータベースなどに対して不正な入力情報を送信して、予期しない動作を引き起こします。この攻撃をもたらす欠陥はインジェクション脆弱性と呼ばれ、プログラム中の文字列操作の誤り(バグ)が主な原因であることが知られています。
ソフトウェアを構成するプログラム中で文字列操作を記述する際には文字列関数が利用されます。文字列関数は多くのプログラミング言語で提供されており、文字列の抽出・置換検索などの文字列操作を記述するために頻繁に利用されています。
しかし、文字列関数を利用して文字列操作を行う際には文字列関数が利用する正規表現(※2)やその他の入力情報、文字列関数自体の仕様に関する専門的な知識が要求され、適切に記述することは難しいことが知られています。
文字列操作を伴うプログラムはさまざまなソフトウェアで幅広く利用され、WebサイトのフォームにユーザがWebブラウザ経由で入力した情報をWebサイト側で加工処理するなど多くのサービスを実現しています。文字列操作に誤りがあるとサービスの誤動作を引き起こし、情報漏洩やサービス停止の原因となる場合があり、サービスの運用段階におけるソフトウェアの誤りの修正には多大なコストがかかります。また、この誤動作を意図的に起こそうとするサイバー攻撃も顕在化しており、安全なサービスの実現を脅かすリスク要因となっています。
これまでNTTと早稲田大学は共同で、プログラム中で文字列を扱う操作により発生し得る脆弱性や誤りを自動修正する技術の研究を行ってきましたが、その対象は正規表現に限定されていました(※3、※4)。
本成果では、プログラム中の文字列関数を使った文字列操作の誤りを、ソフトウェア開発者が与える入出力例を基に修正する技術を世界で初めて実現し、正規表現を含む文字列操作にまで修正対象を広げることを可能としました。
役割
NTT:問題の形式化と修正手法の考案。
早稲田大学理工学術院 寺内多智弘教授:NTTが考案した手法の理論的な正確さの検証。
本技術は、インジェクション攻撃の主要な原因であるプログラム中の文字列操作の誤りをソフトウェア開発者が与える入出力例を基に修正し、修正結果に誤りがないことを保証する技術です。
本技術のポイントは、以下の通りです(図1)。
① 文字列関数に期待する入出力例を表記する方法を考案
従来的な入出力のみを提示する例を用いた場合と比べ、ソフトウェア開発者が文字列関数に期待する入出力例を入力と出力だけでなく入力のどの部分をどのように変換したいのかも含めて表記できるようになり、適切な修正結果の出力に寄与します。この表記は、プログラムが満たすべき入出力の例を基にプログラムを生成する「Programming by Examples (PBE)」メソッド(※5)を用いて与えます。
② 文字列関数の振る舞いを理論モデルとして厳密に定義
この定義を用いることで、修正対象の文字列関数に与える情報であるパラメータがすべての入出力例を満たすための条件を導き出すことが可能となります。本技術では、Webアプリケーションなどで広く利用されている ECMAScript 2023 (※6) に準拠した文字列関数の振る舞いを厳密に定義しました。これにより、修正結果がすべての入出力例を満たすことを保証できるようになります。
③ 理論モデルに従い、例を全て満たす形に文字列関数のパラメータを修正する技術を考案
修正結果のパラメータとなり得る候補を、明らかに入出力例を満たさないものを除外しつつ網羅的に探索する手法を考案しました。この手法では、現実的な時間内に修正処理を終えることが可能となります。また修正結果が修正前のパラメータに対して最小限の変更による修正が可能となり、ソフトウェア開発者が目視で容易に修正結果を確認できるようになります。
本技術により、ソフトウェアの脆弱性を悪用した攻撃の中でも重大な脅威とされているインジェクション攻撃の主要な原因とされている文字列操作の誤りを開発段階で修正可能となるため、修正コストの軽減とソフトウェア開発の品質向上に貢献できるものと期待されます。

図1 文字列関数に対する処理の例
サービスの運用段階におけるソフトウェアの誤りの修正には多大なコストがかかりますが、本技術が利用されていくことで、ソフトウェアの開発段階で誤りが修正できるため、コストの軽減と安全なサービスの実現が期待できます。またAIを用いたプログラムの自動生成において、非熟練者がAIを用いて作成したプログラムに含まれる誤りにどう対処するのかという新しい問題も生まれています。文字列操作の誤りを修正する本技術は、AIによる自動化のメリットを損なうことなくプログラムの安全性向上に寄与できるものと期待されます。今後は、文字列操作に伴う脆弱性そのものを修正する技術の研究を進める予定です。
※1.ASE
Automated Software Engineering はIEEE/ACMによって運営されるソフトウェア工学分野の最難関国際会議。本技術は、2024年10月27日~11月1日に開催されるIEEE/ACM ASE 2024(39th IEEE/ACM International Conference on Automated Software Engineering )にて、下記のタイトル及び著者で発表されます。
タイトル:Repairing Regex-Dependent String Functions
著者:Nariyoshi Chida (NTT Social Informatics Laboratories), Tachio Terauchi (Waseda University)
URL: https://doi.org/10.1145/3691620.3695005
※2. 正規表現
コンピュータで特定の文字の並び(文字列)をルールに基づき簡略化して表現する方法の1つで、特定の文字列のパターンを検索・抽出・置換するときに用いられる。
※3.プログラム中の文字列チェック機能の脆弱性を自動修正する技術を世界に先駆けて実現~専門知識をもたない開発者でもReDoS脆弱性の修正が容易に~
https://group.ntt/jp/newsrelease/2022/03/23/220323b.html
※4.プログラム中の文字列抽出機能を自動修正する技術を世界に先駆けて実現~専門知識をもたない開発者でも正規表現の修正が容易に~
https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/06/16/230616b.html
※5.ECMAScript 2023
ECMAScriptは、Webアプリケーションなどで広く利用されているプログラミング言語JavaScriptの標準規格。本技術は2023年に改定されたECMAScriptを対象に検証を実施。
※6 Programming by Examples (PBE)メソッド
プログラミングの知識を持たないエンドユーザでもプログラムを生成できるようにする手法の1つで、プログラムが満たすべき入出力の例を与えると、それを実現するプログラムを自動で生成する技術。
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【講演者】
明石宗一郎 早稲田大学アントレプレナーシップセンター事業化アドバイザー
早稲田大学創造理工学部経営システム工学科を卒業後、外資コンサルティング、外資ソフトウェアなどの企業を経て、ベンチャーキャピタルにて大企業の新規事業や技術シーズをカーブアウトして成長させるビジネスクリエーションに従事。
日時:2024.11.18 (月) 18:00 ~ 20:00 ※軽食をご用意します
会場:西早稲田キャンパス 55号館S棟1階 竹内記念ラウンジ
対象:主に若手研究者および博士課程院生
定員:20名程度
主催:早稲田大学アントレプレナーシップセンター
申込:下記リンク先から要事前申し込み(※軽食手配のため、11月13日(水)までにお申し込みください。)
※研究開発型スタートアップ対話イベント Dialogue Meeting “White Space of Research” は、研究者の皆さんが研究成果の実用化・起業を身近に感じていただくことを目的として、アントレプレナーシップセンターが企画するダイアログ(対話)企画です。毎月1回開催を予定しています。今後の開催もお楽しみに。
「高専での専門知識を活かしつつ、さらに高いレベルで学びたい。」そう考えているあなたへ。先輩たちからのメッセージをお届けします。
高専から早稲田大学への編入制度がスタートしています。2024年4月には第一期生たちが入学し、早稲田での学生生活を謳歌しています。
最先端の研究に触れる機会、多様なバックグラウンドを持つ学生との交流、充実した学生生活など、早稲田大学はあなたに無限の可能性を提供します。
あなたも、早稲田で多様な仲間と出会い、未来を切り開く一歩を踏み出しませんか。
1. 首都圏の私立大学である早稲田大学を選んだ理由は何ですか?
幼少期から憧れだった早稲田大学で、高専で得た建築の知識からさらに深く学ぶと共に新たな知識を広く身につけ、実社会で多様に活躍できる人材になりたいと考え志望しました。空間設計やデザインを専門とする教授が多くいらっしゃる点や実務家の方々を非常勤講師として招いているという点がとても魅力的だと感じました。
2. 高専卒として、他の入学者と比べて自分(達)の強みを実感したこと、また高専のカリキュラムのなかで、大学での学びに生かされたと感じる学びやスキルがあれば、教えてください。
高専で一通り学んだことに関する授業が多く、復習に加え新たな学びを得ることができるため、持っている知識への理解がさらに深まっていくことが強みだと感じています。また、高専での構造計算や建築計画学に関する学びが構造体を描く構造製図や様々な公共施設を計画する設計製図に取り組む際にとても生かされています。
3. 将来の夢や希望する進路を教えてください。
まず近い将来で一級建築士資格を取得したいと考えています。そして建築に対するお客様の要望を叶え、喜びや幸せを感じられる住宅や各種施設の設計に携わることができる建築家になりたいと考えています。そのために、周りに多くの優秀な学生がいる今の環境で様々な知識を得ることで将来に生かしていきたいと感じています。
高専での5年間は大切な思い出であり、多くの学びを得ることが出来たかけがえのない時間だと感じています。残りの高専生活を楽しみ、多くの選択肢の中から悔いのない進路選択をしてください。
1. 首都圏の私立大学である早稲田大学を選んだ理由は何ですか?
私は高専でロボティクスや画像認識技術の研究を行い、大学では幅広い知識と実践的なスキルを深めたいと考えていました。早稲田大学は、最先端の研究環境と学際的なプログラムが充実しており、技術を社会に実装するための学びができる点が非常に魅力的です。また、首都圏に位置し、理工学部と文系学部のキャンパスが近いことから、多様な学問を横断的に学べるだけでなく、さまざまな学生との交流を通じて視野を広げることもできるため、進学を決めました。
2. 高専卒として、他の入学者と比べて自分(達)の強みを実感したこと、また高専のカリキュラムのなかで、大学での学びに生かされたと感じる学びやスキルがあれば、教えてください。
高専では、実践的な技術を早い段階で学ぶことができたため、問題解決力やプロジェクト推進力が身につきました。特に、卒業研究で培ったプログラミングスキルやハードウェアの知識は、大学での研究や授業に非常に役立っています。情報理工学科の春学期の「プログラミングA」の授業でも、自由創作の際にこれらのスキルが生かされました。また、チームでのプロジェクト経験を通じて、論理的に考え、協力しながら目標を達成する力も、他の学生との差別化要素と感じています。
3. 将来の夢や希望する進路を教えてください。
私の将来の夢は、ロボティクスや画像認識技術を活用した製品やサービスを開発し、社会に貢献することです。特に、技術を通じて人々の生活を便利にし、より良い未来を実現することに強い関心を持っています。そのために、学生時代に自分のアイデアを社会に向けて具現化することを経験していきたいです。学部卒業後にどのような選択を取るかはまだ明確ではありませんが、技術とビジネスの両面から社会にインパクトを与える存在になりたいと考えています。
4. 高専生へのメッセージをお願いします。
高専で磨いた力は、早稲田でも大きな武器になります。学びも遊びも全力で楽しんで、最高の大学生活を送りましょう!
2026年4月編入 入試制度説明会
2025年3月4日に編入学試験(指定校推薦型)制度に関するオンライン説明会(Zoom)を開催します。 詳細はこちらをご覧ください。
めざせ! 都の西北奨学金
「めざせ!都の西北(みやこのせいほく)奨学金」は、一都三県(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県)以外の国内高等学校出身者で、学業成績が優秀であるにもかかわらず家計の事情で早稲田大学への進学を断念せざるを得ない受験生を対象にした奨学金です。この奨学金は、入学前に奨学金を申請いただき、審査の結果採用候補者となった方に、入学後の奨学金を事前にお約束するものです。詳細はこちらをご覧ください。
早稲田大学と東京科学大学は、2027年の打ち上げを目指し、50キログラム級超小型衛星GRAPHIUM (日本語で「アゲハ蝶」)の開発で、Pale Blue と連携を開始しました。同衛星には小型・高感度のガンマ線観測装置 INSPIREが搭載され、全天のモニタ観測をするほか、サブミッションとして空力を用いた「エコな」フォーメーション・フライト技術を実証します。その補助としても、エコで地球にやさしい水推進機の使用を予定しています。

図1:キロノバとレアメタル生成(想像図)
現在、地上には約300種類の元素が知られていますが、経済や産業、医療にとっても重要な金やプラチナ(レアメタル)が宇宙のどこでつくられるのか、いまだに謎に包まれています。最も有力な説は「キロノバ」と呼ばれる現象で、高密度な中性子星が合体するさいに、一気に金やプラチナが生成されるというものです(図1)。キロノバは強い重力波源としても知られますが、宇宙のどこで、いつ起きるか全く予想ができません。もし、全天のキロノバを監視しつつ、金やプラチナに特有なエネルギーをもつX線やガンマ線を捉えることができれば、そこが元素の生成現場と特定することができます。しかしながら、とくにガンマ線の観測は難しく、これまで打ち上げられた数少ない衛星はいずれも米国、欧州の4,000キログラム以上の大型衛星です。これらの衛星は観測視野も狭く、キロノバのような突発天体の観測には不向きでした。
超小型衛星GRAPHIUM(図2)は、「ひばり衛星」「うみつばめ衛星」に続き、東京科学大学と早稲田大学が合同で開発する超小型衛星プロジェクトです。主ミッションとして、キロノバなどの突発ガンマ線観測をかかげ、宇宙におけるレアメタルの生成現場を探査します。一度に全天の1/4をモニタする広視野かつ高感度のX線ガンマ線カメラ INSPIRE を搭載し、50キログラム級の衛星にもかかわらず従来の大型衛星に匹敵するガンマ線観測が可能です。これは、おもに通信や測位、産業で用いられてきた小型衛星に新しい息吹を与え、新しい科学の方向性を示すものです。さらに、GRAPHIUMの副ミッションとして、将来の宇宙工学を見すえた技術実証を予定しています。具体的には、マーカーとなる数キログラムの小物体を打ち出し、汎用的な光学カメラでこれを検知します。空力(大気抗力と揚力)を用いることで推進剤消費量を大幅に削減してフォーメーションを形成する「エコな」相対軌道制御の実証実験です(図3)。その補助としての推進機もエコで地球にやさしい水推進機の使用を予定しています。これまで用いられてきた推進剤は、有毒な化学物質の使用するものや高価で貯蔵が難しいなど、多くの課題がありました。GRAPHIUM ではPale Blue との産学連携により水推進機の実利用を拡大させます。

図2: 東京科学大学を中心とした超小型衛星プロジェクトの歴史と GRAPHIUM衛星

図3:空力を用いたフォーメーション・フライト(概念図)
GRAPHIUM衛星の開発は、JST戦略的創造研究推進事業ERATO「片岡ラインX線ガンマ線イメージング」プロジェクトの一環として実施しています。本研究プロジェクトでは、「元素固有の色」であるラインX線ガンマ線のイメージング技術と概念を通じ、宇宙から医療を貫く新しい学問の潮流を創成することを目的としています。特に、金やプラチナなどレアメタルの起源(宇宙科学)を探りつつ、医療応用の新しい可能性に着目し、これを根幹としながら関連分野や技術を網羅的に包括しつつ、研究を進めています(図4)。
金やプラチナは貴金属として経済や社会、産業にも深く根付き、パソコンやスマートフォンは「都市鉱山」と異名をとるほど、基板にレアメタルが多用されています。とくに、金は生体適合性が高く、もっとも安全な金属として多くの医療機器に用いられています。近年では、粒径が数十ナノメートル以下の粒である 「金ナノ粒子(AuNP)」 が抗がん剤など薬物を患部に運ぶ理想的なキャリアとして、さらには、光温熱治療でも大きな注目を集めています。一方で、常にネックとなるのが「体内の薬物動態を可視化する技術」です。一般的に、薬物がヒト体内の狙った箇所に、狙ったタイミングで届けられているかを確認する術はなく、治療効果の最適化や新しい薬剤の開発を困難にしています。もし、広い宇宙でキロノバを探す要領で、ヒト体内の金やレアプラチナを探すことができれば、これまで見えなかった薬物動態をも可視化できることになります。実際、我々の研究グループはキロノバで起こる金の元素合成にアイデアを得て、マウス体内でのAuNP分布を可視化することに成功しました。また、診断装置であるCT(コンピュータ断層撮影)に色付けをすることで、AuNPの分布のみを描出することに成功しています。これらは全て、小型衛星開発から得られた知見が活かされています。

図4:ERATOラインX線ガンマ線イメージングの概要
東京科学大学 総合研究院 量子航法センター 渡邉奎 特任助教 コメント
私たちは軌道上で衛星を変形させる可変形状機能を「ひばり」衛星で実証し、さらに空力を利用した軌道制御へ応用しようとしています。GRAPHIUMでは水推進と空力によりフォーメーション・フライトを低リソース・低コストに実証することを試みますが、これによって超小型衛星にとっての軌道制御のハードルが下がり、今後の超小型衛星ミッションがさらに多様化することを望んでいます。
東京科学大学 工学院 機械系 中条俊大 准教授 コメント
GRAPHIUMは、理学的にも工学的にも、超小型衛星としては非常に充実度が高いミッションを実施する計画です。その中のフォーメーション・フライト実験は、推進システムが必要なため以前は敷居が高いものでしたが、水推進機技術の発展により超小型衛星でもできるようになりました。空力と組み合わせた軌道制御は工学的には面白い実験ですので、実現が楽しみです。
早稲田大学 理工学術院 先進理工学研究科 片岡淳 教授 コメント
宇宙科学は衛星とともに大型化し進化してきましたが、同時に科学が本来もつべきフットワークの軽さや柔軟な探求心が、徐々に失われつつあります。ところが現在、世界中では年間300基を超える小型衛星が打ち上げられ、宇宙への敷居が急速に下がりつつあります。GRAPHIUMは、小型衛星を基軸として先端科学や宇宙工学に切り込むユニークなプロジェクトで、今後のモデルパターンとなると期待しています。
Pale Blue 共同創業者 兼 代表取締役 浅川純 コメント
先端科学や宇宙工学の新たな世界を切り開くGRAPHIUMは、「人類の可能性を拡げ続ける」という当社のミッションとの親和性も高く、この度ご一緒できることを大変嬉しく思います。小型衛星技術のさらなる発展と、宇宙ビジネスの活性化に貢献できるよう、大学や研究機関との連携を強化し、イノベーションを加速させていきます。
本研究は、 JST ERATO JPMJER2102の支援を受けたものです 。

RNAプロセシング異常による異常RNA生成と異常構造体形成
東京大学アイソトープ総合センターの秋光信佳教授、谷上賢瑞特任准教授、早稲田大学理工学術院の浜田道昭教授、曽超研究院講師、東京大学大学院新領域創成科学研究科の鈴木穣教授、関真秀特任准教授らによる研究グループは、RNAヘリカーゼMTR4(注1)がRNA結合タンパク質hnRNPK(注2)と協調し、転写反応中に起きるRNAプロセシング(注3)の制御異常で生じる異常RNA群(3XT,注4)を分解していることを明らかにしました。また、KCTD13 遺伝子座から発現するKCTD13 3XTの翻訳産物が、相分離(注5)制御を介して異常な構造体KeXT body(注6)を形成していることを見出しました(図1)。
本研究では、ナノポアシークエンサー(注7)を用いたdirect RNA sequencing技術(注8)を用いることで3XTの発見に繋がりました。異常RNAを分解することで、異常RNA翻訳産物の異常構造体形成を阻害するRNA品質管理機構が存在していることが明らかになり、この研究成果は様々な疾患の診断/治療法開発の重要な基盤となることが期待されます。

図1:KCTD13 3XT翻訳産物は、MTR4非存在下においてKeXT bodyを形成する
RNAプロセシングは、キャップ構造の付加、スプライシング、ポリA付加など複数のプロセスによって、転写されたRNAを成熟したmRNAに変換する過程です。これらの制御異常は、異常タンパク質の産生に繋がり、がんや神経疾患など、多くの疾患に関与することが知られています。一方、細胞にはRNAが転写されて成熟mRNAに変化するまでを管理する仕組み(Surveillance system)が存在しており、異常RNAを識別して、適切に分解・排除しています。核内RNA分解機構は、RNA分解を担当するRNAエキソソーム複合体(注9)とRNA識別を担うRNAヘリカーゼMTR4によって形成されており、主に転写直後の単独エキソン転写産物を分解することが知られていました。しかし、RNAプロセシングの制御異常によって生じた複数のエキソンを持つ異常RNAの分解機構は明らかになっていませんでした。
本研究グループはまず、RNAプロセシングの破綻によって生じる異常RNAの分解機構に着目し、従来のRNAシークエンスに加え、RNA全長構造を可視化するdirect RNAシークエンスとポリアデニル化部位を検出する3’末端シークエンス(注10)を実施しました。結果、ポリアデニル化の脱制御により転写が途中で終結し、最終エキソンが3’側のイントロンまで伸長した異常RNAである3XTをMTR4が分解していることを見出しました。
続いて本研究グループは、単独エキソンであるmono-exon 3XTと、スプライシング制御を受け複数のエキソンを持つmulti-exon 3XTに3XTを分類(図2)し、分解機構が明らかになっていないmulti-exon 3XTに着目して研究を進めました。multi-exon 3XTの伸長領域(3XR: 3’ eXtended Region, 図2)に対してモチーフ解析を行ったところ、hnRNPKが当該3XRsに結合している可能性を見出しました。そこでhnRNPKの発現を抑制すると、multi-exon 3XTsの発現が増加することを発見しました。本研究グループはさらに研究を進め、hnRNPKはmulti-exon 3XTの3XRに結合し、RNAエキソソーム-MTR4複合体を当該3XTにリクルートすることで、multi-exon 3XTを分解する仕組みを見出しました。
最後に、MTR4によって制御される3XTsから生成される異常な翻訳産物が異常構造体を形成するのかを調べました。まず構造体形成予測を行い、KCTD13遺伝子座から発現するKCTD13 3XT由来タンパク質が、相分離を起こす可能性を有するペプチド配列を有しており、構造体を形成する可能性を見出しました。そこで、KCTD13 3XTタンパク質に対する抗体を作成し、MTR4を発現抑制したヒト子宮頸がん細胞株HeLa細胞における局在を確認したところ、KCTD13 3XTタンパク質が相分離制御を介して異常な病的構造体KeXT bodyを形成することを見出しました。
これらの結果から、RNAプロセシング異常を有する異常RNAを分解することで、異常RNAから翻訳されたタンパク質による病的構造体の形成を阻害するRNA品質管理機構が存在していることが明らかとなりました。これはRNA品質管理機構の破綻による病的構造体形成が様々な疾患を引き起こす可能性を示唆しており、様々な疾患に対するRNA品質管理機構を標的にした治療法の発展に寄与することが期待されます。

図2:3XT及び3XRの定義
東京大学
アイソトープ総合センター
秋光 信佳 教授
谷上 賢瑞 特任准教授
Han Han 研究当時:博士課程
大学院新領域創成科学研究科
鈴木 穣 教授
関 真秀 特任准教授
早稲田大学
理工学術院
浜田 道昭 教授
曽 超 次席研究員 (研究院講師)
雑誌名:Nature Communications
題 名:The MTR4/hnRNPK complex surveils aberrant polyadenylated RNAs with multiple exons
著者名:Kenzui Taniue*, Anzu Sugawara, Chao Zeng, Han Han, Xinyue Gao, Yuki Shimoura, Atsuko Nakanishi Ozeki, Rena Onoguchi-Mizutani, Masahide Seki, Yutaka Suzuki, Michiaki Hamada, Nobuyoshi Akimitsu*
DOI: 10.1038/s41467-024-51981-8
URL: https://www.nature.com/articles/s41467-024-51981-8
(注1) MTR4
RNAヘリカーゼMTR4(MTREX)は、核内に局在し、RNAエキソソームのアクセサリータンパク質として機能する。RNA結合タンパク質と結合して様々な複合体を形成し、それぞれ特定の標的RNA群を識別する。また、MTR4はスプライシング機構にも関与することが知られており、多機能タンパク質として様々な局面で機能することが知られている。
(注2) hnRNPK
hnRNPKは、核に局在するDNA/RNA結合タンパク質であり、様々な生物学的プロセスを制御する。hRNPKの発現異常は、癌などの疾患の発症に関与する。hnRNPKは、RNAや一本鎖DNAを認識する3つのKHドメイン、核局在化シグナル、核シャトリングドメインを有しており、転写、mRNAスプライシング、RNAの輸送、翻訳などに関与することが知られているが、hnRNPKが核内RNA分解に関与していることは報告されていない。
(注3) RNAプロセシング
RNAプロセシングとは、細胞内で合成されたRNA分子が機能的な成熟RNAに変換される過程のこと。RNA ポリメラーゼ Ⅱによる転写反応で前駆体 mRNA(pre-mRNA)が合成されると、5’末端キャッピング,スプライシング,3’末端プロセシングなど様々なプロセシング反応により成熟 mRNA となる。また、選択的RNAスプライシングや選択的ポリA付加によって、遺伝子特異的かつ細胞型特異的にRNAアイソフォームを生成される。選択的RNAスプライシングや選択的ポリA付加は、タンパク質多様性の獲得に寄与し、多様な生理的条件下で細胞プロセスを制御する上で重要な役割を果たしている。
(注4) 3XT (3’ eXtended Transcript)
ポリアデニル化の脱制御により転写が途中で終結し、最終エキソンが3’側のイントロンまで伸長した異常RNAのこと。3XTは本研究グループが発見し、第1エキソンが伸長した3XTをmono-exon 3XT、2つ目以降のエキソンが伸長した3XTをmulti-exon 3XTと命名した。従来のエキソンからイントロンまで伸長した領域を3XR (3’ eXtended Region)と命名した。図2参照。
(注5) 相分離
相分離は、生物学において重要なプロセスであり、特定の条件下で細胞内の分子が自発的に分離し、異なる相(phase)を形成する現象を指す。このプロセスによって細胞内の特定の区域に分子が集中し、高次構造体やゲルのような凝集体を形成することで、効率的な生化学反応や転写や翻訳などの調節機構を効果的に実行することが可能となる。近年、相分離が多くの生物学的過程において重要な役割を果たしていることが示されており、相分離の異常によってがんや神経変性疾患の発症に繋がる可能性が示唆されている。
(注6) KeXT body (KCTD13 3eXtended Transcript-derived protein body)
KCTD13遺伝子座から発現するKCTD13 3XTの翻訳産物が形成する異常構造体のこと。KeXT bodyは主に細胞質で構成されるが、その構成因子や機能についてはまだ不明である。
(注7) ナノポアシークエンサー
細胞膜に存在するタンパク質を用いたナノスケールの孔(ナノポア)を使って、DNAやRNAの塩基配列を直接読み取る技術を用いたシークエンサーのこと。ナノポアシークエンサーは、他のシーケンシング技術と比べて非常に長いリード(数万塩基に及ぶことも可能)を読み取ることができ、複雑なゲノム領域や構造変異、RNAの全長構造の解析などの解析が可能になる。また、DNAだけでなく、RNAも直接シークエンスできるため、転写後修飾の研究にも利用されている。
(注8) direct RNA sequencing技術
ナノポアシークエンシング技術によるRNA分子を直接シークエンスする技術のこと。RNA分子がナノポアを通過する際に、各塩基(A、U、C、G)の違いによって生じる電流の変化をリアルタイムで検出し、電流の変化パターンを解析することで、RNAの塩基配列が決定する。cDNA合成やPCR増幅などのステップを経ずに、RNAを直接シークエンスすることで、PCRバイアスや逆転写エラーを回避することが出来る。
(注9) RNAエキソソーム複合体
RNAエキソソーム複合体は、真核細胞の核内でRNAの分解やプロセシングに重要な役割を果たすタンパク質複合体のこと。RNAエキソソームは、9つのタンパク質(EXOSC1 – EXOSC9)から構成されるRNA分解活性を持たないエキソソームバレルとRNA分解活性を有するDIS3やEXOSC10から成る。多くのRNA分子を対象とし、主に不必要なRNAや異常なRNAの分解を行う。RNAエキソソーム複合体の制御異常は、がんや神経変性疾患の様々な疾患と関連することが知られている。
(注10) 3’末端シークエンス
3’末端シークエンスは、RNA分子の3’末端に付随するポリ(A)テールを利用して、遺伝子の転写物の末端部分を標識し、3’末端部分をシークエンスする技術。主に、遺伝子発現解析や3’UTRアイソフォームの存在量を測定するために用いられる。通常の全長RNA-seqと比較して、解析に必要なリード数が少なくて済むため、低コストでの発現解析が可能である。また、RNA量が少なくても高感度かつ高精度に発現解析を行うことができるので、遺伝子発現解析、ポリAテール解析、RNA安定性解析に加え、シングルセル解析などにも応用されている。
本研究は、科研費「自然免疫応答を制御する長鎖非コードRNAに関する研究(課題番号:17KK0163)」、「リピート要素のde novo発見に基づく長鎖ノンコーディングRNAの機能の解明(課題番号:20H00624)」、「核内RNAボディによるクロマチン制御と熱ストレス応答(課題番号:21H00243)」、「ヒト細胞における新しい物理化学的ストレス感知・応答機構の解明と癌治療への応用(課題番号:21H04792)」、「lncRNA-RBP複合体によるユビキチン-プロテアソーム制御機構(課題番号:21H02758)」、「RNA品質管理機構によるイントロン-エクソン化RNA生成と癌維持機構への関与(課題番号:21K19402)」、「膵癌オルガノイドを用いた構造異常RNAの探索と機能解析(課題番号:22KK0285)」、「先進ゲノム解析研究推進プラットフォーム(課題番号:22H04925)」、「Identification of repetitive elements involving genome regulation(課題番号:22K15093)」、「RNAを中心とした分子ネットワークに基づく生物学的相分離の俯瞰的・体系的理解(課題番号:23H00509)」、「生殖ライフスパンにおける RNAキネティクス計測(課題番号:23H04955)」、AMED「機能解析に基づく RNA 標的創薬のための統合 DB と AI システムの構築(課題番号:JP21ae0121049)」、上原記念生命科学財団、武田科学振興財団、小林財団、MSD生命科学財団、内藤記念科学振興財団、小野医学研究財団、ノバルティス科学振興財団の支援により実施されました。
卓越大学院プログラム『パワー・エネルギー・プロフェッショナル(PEP)育成プログラム』は、
電力・エネルギー新産業創出に寄与する人材を輩出することを目的とした修士・博士後期5年一貫の博士人材育成プログラムです。
この度、本プログラムの2025年(8期生)進入/編入募集説明会を以下のように開催致します。
当日は、プログラム説明後に現役PEP生2名(電力系・エネルギーマテリアル系代表)も参加して、
皆さんの質問にお答えします。
お気軽にお申込みください!
<日時>
2024年11月28日(木)12:30~13:10
形式:Zoomオンラインミーティング(途中入退室可)
※申請フォームから参加登録いただいた方にURL等詳細を、前日までにメールでお送り致します
<申請フォーム>
PEPプログラムに少しでも関心のある方はお気軽に、以下URLよりお申込みください。
https://x.gd/5DO7k8
申込締切:11月27日(水)10:00まで
<ポスター>
https://waseda.box.com/s/u4o7jjpdcq7clh24ssy2zn56s6hpjkx4
<概要>
対象:現在、電力系・エネルギーマテリアル系を専攻分野としている
(あるいは現在それらの分野・専攻に関心がある)以下の学生、社会人
・学部3年生、4年生
・修士課程・一貫制博士課程1年生、2年生
・2025年4月に以下の参画専攻博士後期課程入学予定者
<参画専攻>
・基幹理工学研究科(機械科学・航空宇宙専攻、電子物理システム学専攻)
・創造理工学研究科(地球・環境資源理工学専攻)
・先進理工学研究科(応用化学専攻、電気・情報生命専攻、ナノ理工学専攻、先進理工学専攻)
・環境・エネルギー研究科(環境・エネルギー専攻)
<内容>
・PEP卓越大学院プログラム概要説明(研究指導・支援体制、カリキュラム、進路、経済的支援etc)
・2025年4月(8期生)進入/編入募集日程
・現役PEP生(2名)の体験談
・質疑応答
<ご参考>
PEP卓越大学院プログラムHP https://dpt-pep.w.waseda.jp/
パンフレット https://dpt-pep.w.waseda.jp/pamphlet/
募集要項出願書類 https://www.waseda.jp/fsci/admissions_gs/guidelines/pep/
<お問合せ>
PEP卓越大学院プログラム事務局(51号館1F理工統合事務所内)
Email:[email protected] TEL:03-5286-3238
卓越大学院プログラム
「パワー・エネルギー・プロフェッショナル(PEP)育成プログラム」
2025年1月実施の8期生(2025年4月進入・編入)選抜試験(SE)に関する情報を更新致しました。
詳細は、理工学術院HP大学院入試ページの中のPEP SE情報ページ(募集要項・出願書類)をご参照ください。
2024年9月28日(土)、第4回「日本医科大学・早稲田大学合同シンポジウム~両校の実質的連携を目指した研究交流~」を早稲田大学121号館コマツホールにおいて開催しました。
日本医科大学と本学との連携は、2009年に締結した包括協定から始まり、実質的な研究連携への合意(2020年)を経て、本学附属校・系属校との高大接続連携に関する協定(2020年)へと発展してきました。2021年度からは、日本医科大学で選抜された3年生を、本学の理工系研究室に3週間迎え入れて交流を図る「研究配属」も実施しています。

シンポジウム冒頭の開会挨拶で、日本医科大学学長の弦間昭彦氏は、実質的な共同研究がかなり進んできているところであり、今後は「Well-being」をキーワードとして、より一層の連携を進めていきたいと述べられました。続く早稲田大学総長の田中愛治からは、改めて2020年度以降の実質的研究連携や高大接続連携への謝辞が述べられるとともに、医療とロボット工学との連携を例に、両大学の強みを様々に組み合わせることで、社会の要請に応える成果を多く生み出すことができるとの期待が述べられました。

左:日本医科大学学長の弦間昭彦氏、右:本学総長の田中愛治
開会挨拶に続く第一部では、日本医科大学2名、本学2名の研究者が両校の共同研究実績も含めた研究紹介を行いました。

研究紹介の様子(左から、村上特命教授、酒井教授、山本教授、澤田教授)
第二部では、日本医科大学生が早稲田大学における研究配属の成果発表を行い、優秀研究賞1件が選ばれました。

成果発表・質疑応答の様子

左から、日本医科大学学長の弦間昭彦氏、優秀研究賞を受賞した日本医科大学生、本学副総長の須賀晃一
閉会挨拶では、まず本学副総長の須賀晃一から、両大学の共同研究が様々に進んでいくことへの期待が語られました。さらに日本医科大学学生の研究配属についても触れ、早大創設者である大隈重信の言葉を交えながら、失敗から学ぶことが重要であるとの、学生への激励の言葉も送られました。次に、日本医科大学大学院医学研究科長の桑名正隆氏からは、すでに実質的連携が進んできているとの実感と、研究交流に限らず研究配属での学生指導や講義など、様々な機会を通して相乗的に連携を進め成果を生み出していくことへの意欲が述べられました。

当日参加した両大学の教員・研究者の集合写真
今後も、日本医科大学と本学は、研究と教育との両輪で連携を推進し、社会に貢献してまいります。
早稲田大学理工学術院の朝日透(あさひとおる)教授、同大大学院先進理工学研究科(一貫制博士課程)の秋尚雅(チュサンア)、および東京女子医科大学先端生命医科学研究所の清水達也(しみずたつや)教授、原口裕次(はらぐちゆうじ)特任准教授の研究グループは、神戸大学先端バイオ工学研究センターの蓮沼誠久(はすぬまともひさ)教授の研究グループと共同で、自浄作用および栄養循環を果たす食料生産システムを構築するため、光合成微生物を利用した新しい細胞培養システムを開発しました。
近年、持続可能な食肉生産技術として培養肉が注目されていますが、動物血清の使用や老廃物の蓄積および栄養枯渇により、多量の培養液使用とその廃液の発生が課題となっています。本研究では、動物細胞の代謝老廃物(乳酸・アンモニア)を栄養源(ピルビン酸・アミノ酸)に変換する光合成微生物のシアノバクテリアを成長因子分泌動物細胞と共培養することにより、動物血清を使用せず、さらに培養液の使用量を削減する低コストで低環境負荷の培養肉生産につながる細胞培養システムを実現しました。
本研究成果は、2024 年8月23日にネイチャー・パブリッシング・グループのオンライン総合科学誌『Scientific Reports』に発表されました。
論文名:A serum-free culture medium production system by co-culture combining growth factor-secreting cells and L-lactate-assimilating cyanobacteria for sustainable cultured meat production

図1:低コストで低環境負荷の循環型細胞培養システム
培養肉、光合成、共培養、シアノバクテリア、成長因子、細胞増殖、培養システム、乳酸
培養肉は、2012年にオランダ・マーストリヒト大学のMark Post教授によって初めて提唱され、大豆ミートや昆虫タンパクと並ぶ代替タンパク質の一種として、世界中で研究・開発が進められています。現在では、174社以上の培養肉ベンチャーが立ち上がり、特にアメリカやシンガポールでは市場化が進んでいます。これに伴い、世界中の投資家や企業からの関心が高まり、培養肉分野には31億ドル規模の投資が行われ、今後さらなる拡大が期待されています。(参考文献1)
従来の培養肉生産において、動物筋肉細胞の増殖のために動物血清が不可欠でしたが、そのコストや動物倫理に対する懸念が問題視されていました。そのため、血清を使わず、動物筋肉細胞を増殖できる培養方法が求められています。血清には細胞の成長因子といったタンパク質が含まれ、これらは特定の動物細胞から分泌されていることがわかっています。先行研究(参考文献2)において、ラット肝臓細胞が分泌する成長因子を含む培養上清液が、血清を使わずに牛骨格筋芽細胞の増殖を促進することを発見しました。成長因子分泌細胞を長期間培養すれば多量の成長因子が得られる一方で、乳酸やアンモニアなどの老廃物が蓄積することで培養液の性能が低下する問題があります。そのため、成長因子分泌細胞の培養上清液の血清代替としての性能を高めるためには、老廃物の除去が不可欠となります。さらに長期間の培養は栄養素の枯渇をもたらします。先行研究(参考文献3)では、乳酸を取り込みピルビン酸に変換するリコンビナント※5シアノバクテリアを開発しました。
そこで、本研究グループでは、成長因子を分泌する細胞と乳酸などの老廃物を取り込み、かつ老廃物を栄養素に変換するシアノバクテリアを共培養する新たな培養システムを考案しました。それにより、動物血清を用いることなく効率的な筋肉細胞の増殖が実現するのではないかと考えました。
シアノバクテリアの一種であるシネココッカスは、光合成能力が高く、遺伝子組換え操作も容易で、さらに動物細胞に対して優れた生体適合性を持つことから、さまざまな分野で利用されています。本研究で使用したL-乳酸を取り込むシアノバクテリアも、シネココッカスのリコンビナント株であり、動物細胞の老廃物である乳酸とアンモニアを動物細胞の栄養素となるピルビン酸とアミノ酸に変換する能力は、先行研究(参考文献2)で確認されていました。しかし、動物細胞と共培養を行った時にも、この機能が発揮されるかは未知のままでした。
本研究で、このシアノバクテリアと成長因子を分泌するラット肝臓細胞を共培養すると、培養条件を最適化することで、シアノバクテリアが乳酸を3割以上、アンモニアを9割以上減少させることを確認しました。さらに、シアノバクテリアによって産生されたピルビン酸やアミノ酸は、動物細胞によって利用される量よりも多く、結果として培養上清液中に栄養源が多く残存していることが明らかになりました。この上清液を用い、血清を使わずに骨格筋芽細胞を増殖させたところ、その増殖率はラット肝臓細胞の単独培養上清液と比較して3倍以上であることを確認しました。すなわち、シアノバクテリアとの共培養を行うことで、成長因子分泌細胞の培養上清液の血清代替としての性能を高めることに成功しました。
この研究は、動物血清を使用せず、また培養液の使用量を低減可能な動物細胞培養法につながることから、培養肉生産のコスト削減と環境負荷の低減に寄与する可能性があります。動物細胞と光合成微生物を原料とし、動物を使用しない食肉生産技術として、将来的に食料問題や動物倫理、気候変動の課題解決に貢献することが期待されます。また、この細胞培養システムは、培養肉だけでなく、バイオ医薬品生産や再生医療など、さまざまな細胞培養分野にも適用可能な汎用性を持っています。
今後の課題としては、大量生産に向けて現在の平面培養システムを3次元培養システムにスケールアップし、それに応じた最適な培養条件を探索することが挙げられます。また、培養液の成分を網羅的に解析し、光合成微生物と動物細胞間の相互作用を解明することで、分子生物学的な知見を広げる研究にもつながります。
本研究の最終目標は、このシステムを活用した安全で安価な培養肉の生産です。今回得られた研究成果を基盤に、動物だけでなく魚類などさまざまな筋肉細胞から効率的に培養肉を作り出す技術の確立を目指しています。今後も、3次元培養システムの開発や最適な培養条件の探求を通じて、実用化に向けたステップを踏んでいく予定です。
※1 共培養
2種類以上の細胞を同じ培養液で一緒に培養することを指します。これにより、細胞間の相互作用が起こり、情報伝達物質や生理活性物質の分泌が向上する効果が期待されます。
※2 成長因子
細胞の増殖や分化を促進するタンパク質やペプチドのことです。成長因子は、細胞の情報伝達を刺激し、さまざまな生理的プロセスを制御します。
※3 培養上清液
細胞を培養した後の培養液を指します。この上清液には、細胞が分泌した成長因子やその他の分子(老廃物なども)が含まれ、細胞培養において正負両面(細胞の生存と増殖、細胞死・増殖停止の両側)にわたり重要な役割を果たします。
※4 培養肉
動物から採取した細胞を培養して、組織工学の技術を用いて作られる人工肉のことです。動物を直接屠殺することなく生産されるため、環境負荷や動物倫理に配慮した技術として注目されています。
※5 リコンビナント
遺伝子組換え技術を利用して作られた生物や物質を指します。特定の目的に応じて遺伝子操作を行い、新たな形質を持たせた微生物やタンパク質が「リコンビナント」として利用されます。
参考文献:
雑誌名:Scientific reports
論文名:A serum-free culture medium production system by co-culture combining growth factor-secreting cells and L-lactate-assimilating cyanobacteria for sustainable cultured meat production
執筆者名:秋尚雅(早稲田大学)、原口裕次 (東京女子医科大学)、朝日透(早稲田大学)、加藤裕一(神戸大学)、近藤昭彦(神戸大学)、蓮沼誠久(神戸大学)、清水達也*(東京女子医科大学)
掲載日時(日本時間):2024年8月23日
掲載URL:https://www.nature.com/articles/s41598-024-70377-8
DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-024-70377-8
研究費名:内閣府ムーンショット型農林水産研究開発事業(管理法人:生物系特定産業技術研究支援センター)
研究課題名: 藻類と動物細胞を用いたサーキュラーセルカルチャーによるバイオエコノミカルな培養食料生産システム
研究代表者名(所属機関名):清水達也(東京女子医科大学)
私たちの健康に重要な役割を果たすヒト常在菌。しかし、その全容解明には個々の細菌を詳しく調べる必要があり、これまでの技術では困難でした。早稲田大学理工学術院の細川正人(ほそかわまさひと)准教授と早稲田大学発スタートアップbitBiome社の研究グループは、革新的なシングルセルゲノム解析技術を用いて、この課題に挑戦し、世界最大規模の3万個の口腔内細菌および腸内細菌の個別ゲノム解析を行いました。構築したbbsag20データセットからは、従来法では見落とされていた数百種の細菌のゲノム・遺伝子が発見されました。また、抗生物質耐性遺伝子やその「運び屋」の存在が個々の細菌単位で明らかになり、細菌間での遺伝子のやり取りを詳細に調査することが可能になりました。この成果は、常在菌を対象とした個別化医療や新たな抗生物質耐性対策の開発に貢献する可能性があります。

図:本研究で用いた新しいシングルセルゲノム解析手法
本研究成果は、2024年10月2日(水)(現地時間)にSpringer NatureグループのBioMed Central社が発刊するオープンアクセス科学誌「Microbiome」で公開されました。
論文名:A Single Amplified Genome Catalog Reveals the Dynamics of Mobilome and Resistome in the Human Microbiome
ヒト常在菌、シングルセルゲノム解析、腸内細菌、口腔内細菌、抗生物質耐性、個別化医療、可動性遺伝因子、プラスミド、ファージ
ヒト常在菌は人間の健康に重要な役割を果たしています。これまでの研究で、以下のことが分かっていました:
しかし、これまで常在菌研究に使われてきたメタゲノム解析では全ての細菌をひとまとまりにDNAを分析するため、個々の細菌が持つ遺伝子の構成などを詳細に調べることが困難でした。そのため、可動性遺伝因子を介した細菌間での遺伝子のやり取りや、それによる抗生物質耐性の細菌種を超えた広がり方など、重要な詳細が不明のままでした。
本研究では、革新的なシングルセルゲノム解析技術を用いて、がん・炎症性腸疾患などの患者と健常者からなる日本人51名の被験者を対象に、ヒト常在菌の個別解析を大規模に行いました。主な成果は以下の通りです:
これらの成果を可能にしたのは、SAG-gel技術※8と呼ばれる新しいシングルセルゲノム解析手法です。SAG-gelは責任著者の細川が2018年に創業した早稲田大学発スタートアップであるbitBiome社にてbit-MAP®として商用化されており、現在、国内外の微生物研究者に広く利用されています。
この技術の特徴は以下の通りです:
同一の試料を解析した場合、シングルセルゲノム解析とメタゲノム解析では、異なる細菌種のゲノムが獲得されます。シングルセルゲノム解析では460種、メタゲノム解析では327種のゲノムが得られ、両解析で共通するのは140種に留まります。細胞から分析を始めるシングルセルゲノム解析と、壊れた細胞から抽出したDNAから分析を始めるメタゲノム解析では、得られるデータの性質が異なることが示されています。
メタゲノム解析では、プラスミド・ファージなどの可動性遺伝子を各細菌ゲノムと紐づけて分析することが難しく、殆どが見落とされてしまいます。そのため、これらの可動性遺伝子にコードされる抗生物質耐性遺伝子がどれだけ存在するか、どの細菌が保有しているのかを知ることができません。一方、シングルセルゲノム解析では、各種抗生物質耐性遺伝子がどのプラスミド・ファージにコードされ、どの細菌種に保持されているのか、保有状況とネットワーク関係を明らかにすることができます。
この研究により、シングルセルゲノム解析が口腔内・腸内細菌叢の遺伝的多様性を理解することに役立つことが示されました。特に、プラスミドやファージなどの可動性遺伝因子を介した抗生物質耐性遺伝子の広がり方について、個人単位・細菌単位で把握することができる点が画期的であり、常在菌間における遺伝子のやり取りの理解につながることが期待されます。
本研究で解析したゲノムデータセットbbsag20は、CC-BY 4.0で誰でもダウンロードおよび利用することが可能です。
https://doi.org/10.25452/figshare.plus.24473008.v2

図1:SAG-gel/bit-MAP®技術の概要 (図中NGSはNext-generation sequencer(次世代シーケンサー))

図2:メタゲノム解析とシングルセルゲノム解析の比較:細菌ゲノム

図3:メタゲノム解析とシングルセルゲノム解析の比較:可動性遺伝因子・抗生物質耐性遺伝子
本研究の成果は、以下のような波及効果や社会的影響をもたらす可能性があります:
これらの効果により、医療費の削減や国民の健康増進、さらには環境保全など、幅広い社会的影響が期待されます。
今後の課題として、より多様なサンプルを用いたさらなるデータ収集が求められます。特に異なる地域や人種からのサンプルを追加することで、常在菌の世界的な多様性をより深く理解することが期待されます。また、長期的な観察を通じて、細菌叢の変化や疾患との関連を明らかにすることで、個別化医療の新たな道が開かれるでしょう。
具体的な展望:
これらの課題に取り組むことで、マイクロバイオーム研究はさらに発展し、人類の健康と環境の理解に大きく貢献することが期待されます。
今回の研究成果は、ヒト常在菌の世界に新たな光を当てるものです。3万個もの細菌ゲノムを個別に解読したことで、これまで見えなかった微生物の多様性と相互作用が明らかになりました。独自技術であるシングルセルゲノム解析を活用することで、これまで見落とされてきた数多くの重要な情報を手にすることができることが証明されました。この知見は、個別化医療や抗生物質耐性問題など、現代社会が直面する健康課題の解決に大きく貢献すると確信しています。今後も研究を重ね、シングルセルゲノム解析がより多くの研究に活用される未来を創り、様々な生命現象の理解と活用に貢献したいと思います。
※1 ヒト常在菌:
人体に常時生息している微生物の総称です。皮膚、口腔、腸管、膣などの様々な部位に存在し、それぞれの環境に適応した細菌群が形成されています。これらの細菌は単に存在するだけでなく、人体の健康維持に重要な役割を果たしています。例えば、病原菌の侵入を防いだり、栄養素の吸収を助けたり、免疫系の発達を促したりします。
※2 シングルセルゲノム解析:
個々の細胞から遺伝情報(ゲノム)を読み取る最先端の技術です。従来の手法では、多数の細菌が混ざった状態でしか分析できませんでしたが、この技術により個別の細菌の詳細な遺伝情報を得ることが可能になりました。これにより、稀少な細菌種の発見や、細菌間での遺伝子のやりとりの詳細な観察が実現し、マイクロバイオームの理解が大きく進展しています。
※3 メタゲノム解析:
環境中(例えば腸内)の全ての微生物のゲノムを一括して解析する手法です。サンプル中の全DNAを抽出し、それを一度に解読します。個々の細菌を区別することは難しいですが、その環境に存在する微生物の種類や、それらが持つ遺伝子の全体像を効率的に把握することができます。腸内細菌叢の全体的な構成を知るのに適していますが、稀少な種の検出や細菌間の相互作用の理解には限界があります。
※4 可動性遺伝因子:
細菌間で移動可能な遺伝物質のことです。主にプラスミドやファージなどがあります。これらは細菌の主要な遺伝情報(染色体DNA)とは別に存在し、細菌間で容易に移動することができます。抗生物質耐性遺伝子などの重要な遺伝情報を運ぶ「運び屋」の役割を果たすため、細菌の進化や薬剤耐性の拡散において重要な役割を果たしています。
※5抗生物質耐性遺伝子:
細菌が抗生物質の効果を無効化するために持つ遺伝子のことです。これらの遺伝子により、細菌は抗生物質の存在下でも生存・増殖が可能になります。抗生物質の過剰使用などにより、これらの遺伝子を持つ細菌(薬剤耐性菌)が増加し、深刻な医療問題となっています。本研究では、これらの遺伝子がどのように細菌間で広がっているかを、個々の細菌レベルで初めて詳細に解析することに成功しました。
※6 プラスミド:
細菌の染色体DNAとは別に存在する小さな環状のDNA分子です。プラスミドは自己複製能力を持ち、細菌間で容易に伝達されることがあります。多くの場合、抗生物質耐性遺伝子や毒素遺伝子など、細菌の生存に有利な遺伝子を運びます。本研究では、プラスミドを介した抗生物質耐性遺伝子の伝播を個々の細菌レベルで観察することに成功し、耐性遺伝子がどのように広がっているかをより詳細に理解することができました。
※7 ファージ:
細菌に感染するウイルスの一種で、バクテリオファージとも呼ばれます。ファージは細菌に感染する際に、時として細菌のDNAの一部を別の細菌に運ぶ「運び屋」となることがあります。このプロセスを介して、抗生物質耐性遺伝子などの重要な遺伝情報が細菌間で伝達されることがあります。本研究では、ファージを介した遺伝子伝達の実態を、個々の細菌レベルで観察することができました。
※8 SAG-gel・bit-MAP:
本研究で用いられた新しいシングルセルゲノム解析手法です。SAGはSingle Amplified Genome(単一増幅ゲノム)の略です。この技術では、個々の細菌をゲル中に封入し、その中で細菌のDNAを増幅・解析します。これにより、高い精度で多数の細菌を同時に分析することが可能になりました。従来の手法では困難だった希少な細菌種の検出や、個々の細菌が持つ遺伝子の詳細な分析が実現し、マイクロバイオーム研究に革新をもたらしています。
雑誌名:Microbiome
論文名:A Single Amplified Genome Catalog Reveals the Dynamics of Mobilome and Resistome in the Human Microbiome
執筆者名:Tetsuro Kawano-Sugaya1† , Koji Arikawa1,2†, Tatsuya Saeki1, Taruho Endoh1, Kazuma Kamata1, Ayumi Matsuhashi1 and Masahito Hosokawa1,2,3,4,5*
掲載日時(現地時間):2024年10月2日
DOI:https://doi.org/10.1186/s40168-024-01903-z
研究費名:(公財)東京都中小企業振興公社 新製品・新技術開発助成事業
研究課題名:AI時代に向けた疾患特有の微生物データベースの開発
研究代表者名(所属機関名)bitBiome株式会社
2024年8月30日(金)、31日(土)の2日間にわたり、シンガポールに所在する早稲田大学系属・早稲田渋谷シンガポール校を会場として「おもしろ科学実験教室 in シンガポール」を開催しました。今回はシンガポール日本人学校中学部の生徒、インターナショナルスクールの生徒、シンガポール教育省語学センター(MOELC:Ministry of Education Language Centre)で日本語を学んでいる中高生、および早稲田渋谷シンガポール校の生徒を対象として、総勢約80名の生徒が参加しました。本企画は2019年、2023年に続き、今年で3回目を迎えました(2020年~2022年は新型コロナウイルス感染症の影響で実施を見送り)。
本実験教室は、大学レベルの実験を自ら体験することを通じて科学への興味・関心を高める機会を提供するとともに、シンガポール在住の中高生に早稲田大学および早稲田渋谷シンガポール校を知っていただき、進学先候補として興味を持ってもらうこと、また早稲田渋谷シンガポール校の生徒には高大連携の一環として本学理工学部をより理解してもらうことを目的として実施しました。

会場となった早稲田渋谷シンガポール校
実験のテーマは「DNA鑑定で食肉の種類を調べよう! -PCR解析を用いた食品検査-」です。新型コロナウイルス感染症の流行で一躍有名になった「PCR法」を用いて、食肉種の鑑定に挑戦しました。

試料はレバー肉を使用し、ブタ・トリ・ウシの肉のいずれか、あるいは混合物としました。見た目では肉の種類がわからなくても、DNAを抽出し、PCR法によって特定のDNA断片を増幅して解析すると、肉の正体を突き止めることができます!

マイクロピペットという器具を上手に使いこなして試薬を混ぜながら、食肉からDNAを抽出したり、PCR用の溶液を調製しました。

実験指導には、早稲田理工の技術職員のほかに早稲田渋谷シンガポール校の在校生も加わりました。彼らの的確な指導のもと、参加者は楽しく実験していました。

スタッフに見守られ、細かい作業に少し緊張しながらも集中して取り組みました。

実験結果はどうだったかな…?

電気泳動という手法を用いると、PCRで増幅したDNA断片がこのようにバンドとして観察できます。バンドパターンから食肉種を判別することができました!
今回のテーマは本学の大学1年生の授業で扱う実験をアレンジしたもので、内容や工程には難しい部分もありましたが、皆真剣に取り組み、大きな失敗もなく成功裏に終えることができました。目を輝かせながら生き生きと実験していた姿や、結果が出た時の嬉しそうな笑顔が印象的でした。また、実験の合間には、学校の垣根を越えて生徒同士の交流も深めることができました。
シンガポール教育省語学センターの先生方は、「生徒たちは日本語の科学用語に触れることができ、ネイティブの高校生や大学スタッフと日本語の会話練習をすることもできて、充実した時間を過ごすことができました」とコメントされていました。
この実験教室は、本学理工センター技術部の職員や機器・装置だけではなく、本学が持つ海外拠点ネットワーク(早稲田渋谷シンガポール校)の物的・人的リソースの活用、早稲田渋谷シンガポール校在校生の協力、さらにシンガポール日本人学校、インターナショナルスクール、シンガポール教育省語学センター、理工パートナーズの支援により実現しており、多くの参加者に科学への興味関心を深める機会を提供することができました。
参加者の中から、将来、早稲田生が誕生し、やがては世界で活躍する校友(卒業生)となり、ともに科学技術や社会の発展に貢献していけることを、私たち職員一同願っています。
![]() 記念品のオリジナルDNAキーホルダーを手に記念撮影(写真は8/31午前の部)。 |
![]() 記念品として配布した、スタッフ手作りのDNAキーホルダー。DNAの塩基が描かれたパズルになっており、本物のDNAと同様、AとT、GとCが組み合います。 |
次は早稲田で会いましょう!
See you again at WASEDA!

学校法人早稲田大学(理事長 田中 愛治、以下「早稲田大学」、研究代表者 理工学術院 教授 竹山 春子)は、キリンホールディングス株式会社(社長COO 南方 健志、研究代表者飲料未来研究所 所長 森木 博之)、栃木県農業総合研究センター(所長 柴田 和幸)と共同し、栃木県農業総合研究センターの大麦試験圃場において、バイオ炭※1施用によるビール大麦の生育状況、土壌改良の効果、土壌の微生物への影響等を測定する研究を2024年10月より新たに開始します。当研究を行うことで、環境再生型農業※2の可能性を探索しつつ、ビール大麦の土壌における生物多様性評価の一層の高度化、気候変動の緩和とともに、脱炭素社会の実現を目指します。
今回の共同研究では、栃木県農業総合研究センターがビール大麦の生育・収量への影響及び土壌の物理性・化学性の改善効果を解析します。 早稲田大学が土壌微生物の菌叢解析を行い、バイオ炭による土壌の微生物への影響と土壌改良の効果を測定します。キリンホールディングス株式会社は、祖業のビール事業を通じた強みである発酵・バイオテクノロジーの先進技術を生かし、試験計画の立案、解析データからのメカニズムの考察、および当研究全体の取りまとめを行います。 共同の取り組みでは、農地にバイオ炭を施用することによる効果を検証することに加えて、J-クレジット※3への申請を前提にした炭素貯留量の算定も予定しています。基礎研究の位置づけで取り組みつつ、畑へのバイオ炭施用の効果を測定することで技術的知見を蓄積し、将来的にはビール大麦栽培農家におけるバイオ炭施用の普及、そして、GHG※4排出量削減に貢献することも期待しています。
※1 農業の持つ物質循環機能を生かし、生産性との調和などに留意しつつ、土づくり等を通じて化学肥料、農薬の使用等による環境負荷の軽減に寄与
※2 燃焼しない水準に管理された酸素濃度の下、350℃超の温度で未利用バイオマスを加熱して作られ、土壌への炭素貯留効果とともに土壌の透水性を改善する効果が認められている土壌改良資材
※3 J-クレジット制度とは温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして国が認証する制度
※4 温室効果ガス
早稲田大学 竹山らは、独自に開発してきた、ラマン分光解析技術、微小組織打ち抜き技術、シングルセルゲノム解析技術を組み合わせることによって、従来にない解像度での土壌微生物解析技術を開発してきました。
2020年度からは、内閣府ムーンショット型農林水産研究開発事業(管理法人:生物系特定産業技術研究支援センター(生研支援センター))の研究開発プロジェクト「土壌微生物叢アトラスに基づいた環境制御による循環型協生農業プラットフォーム構築」(プロジェクトマネージャー 竹山春子)において、未来型食材の中心となるダイズを対象とし、土壌微生物の機能を最大限に発揮させた土壌を構築すること、さらには土壌の健康を新たなインデックス指標で評価することを目指し、最先端の技術を用いて植物と微生物の相互関係を解析し、有用微生物の取得やそれらのデータベース(土壌微生物叢アトラス)、土壌の生物的・化学的・物理的因子の網羅的情報のアーカイブ化を実施してきました。また、得られた多階層的ビッグデータを基にしたモデル化・シミュレーションを行い、「環境制御による循環型協生農業プラットフォーム」の構築を進めてきました。今回の共同研究は、こうした技術をビール大麦に応用展開して、循環型協生農業・脱炭素社会・気候変動緩和の実現を目指すものです。
>竹山春子教授(理工学術院)
>大学院先進理工学研究科 竹山研究室
>ムーンショット型農林水産研究開発事業
>土壌微生物叢アトラスに基づいた環境制御による循環型協生農業プラットフォーム構築